平成26年(け)第1号決定申立人 a1申立人 a2申立人a1に対する特別公務員暴行陵虐致死被告事件及び申立人a2に対する同幇助被告事件について,平成20年10月20日名古屋高等裁判所が言い渡したいずれも有罪の確定判決に対する再審請求事件について,平成26年3月27日名古屋高等裁判所(刑事第1部)がした各請求棄却決定に対し,申立人らからそれぞれ異議の申立てがあったので,当裁判所は,次のとおり決定する。 主文 本件各異議の申立てをいずれも棄却する。 理由 本件各異議申立ての趣意は,弁護人北口雅章,同新井宏明,同岩井羊一,同麻祐一,同寺田正主,同齊藤洋大共同作成の平成26年3月28日付け異議申立書,同月31日付け異議申立補充書,同年7月23日付け異議申立補充書(3),弁護人北口雅章作成の同年5月8日付け異議申立補充書(2)に記載されているとおりであるから,これらを引用する。 第1 原決定に至る経過等 1 申立人a1は,特別公務員暴行陵虐致死の公訴事実により,申立人a2は,同幇助の公訴事実により,それぞれ公訴を提起され,平成17年11月4日,名古屋地方裁判所で,申立人a1を懲役3年(執行猶予4年)に,申立人a2を懲役1年2月(執行猶予3年)に処するとの有罪判決の言渡しを受けた。しかし,検察官及び申立人ら双方の控訴申立てを受けた名古屋高等裁判所は,平成20年10月20日,検察官の暴行目的に関する事実誤認の論旨をいれて上記判決を破棄した上,申立人a1を懲役3年(執行猶予5年)に,申立人a2を懲役1年6月(執行猶予3年)に処するとの有罪判決を改めて言い渡した。 0日,検察官の暴行目的に関する事実誤認の論旨をいれて上記判決を破棄した上,申立人a1を懲役3年(執行猶予5年)に,申立人a2を懲役1年6月(執行猶予3年)に処するとの有罪判決を改めて言い渡した。 そして,平成23年6月28日,申立人らの上告が棄却されて,申立人a1について同年7月5日,申立人a2について同月6日に,名古屋高等裁判所の上記判決が確定した(以下,この判決を「確定判決」という。また,以上について「確定審」といい,その第1審,控訴審,上告審について単に「第1審」,「控訴審」,「上告審」という。)。 2 確定判決が認定した罪となるべき事実の要旨は,以下のとおりである。 すなわち,申立人a1は,名古屋刑務所に副看守長として勤務し,申立人a2は,同刑務所に看守部長として勤務し,いずれも被収容者の戒護,規律維持及び警備等の職務を担当していたものであるが,①申立人a1は,平成13年12月14日午後2時20分頃,同刑務所保護房第2室(以下「本件保護房」という。)において,同室を監視可能にし,かつ清掃するため,同室に収容されていた受刑者b(当時43歳)を別の保護房に移動させようとして,消防用ホースで放水してbの抵抗を排し,本件保護房の壁面・床面等を清掃するに際し,他の刑務官に制圧されて下半身のズボン,パンツ等を引き下ろされ,臀部を露出させてうつ伏せになっているbの臀部中央部を目掛け,その必要がないのにその臀部付近を洗浄するとともにbを懲らしめる目的で,同刑務所第2工場前消火栓から消防用ホースで引き込んだ消防用水の井戸水を,消防用筒先から噴出させて直接当てる暴行(以下「本件放水」という。)を加え,噴出した高圧の水がbの肛門から直腸内に浸入したことにより,bに肛門挫裂創・直腸裂開の傷害を負わせ んだ消防用水の井戸水を,消防用筒先から噴出させて直接当てる暴行(以下「本件放水」という。)を加え,噴出した高圧の水がbの肛門から直腸内に浸入したことにより,bに肛門挫裂創・直腸裂開の傷害を負わせ,よって同月15日午前3時1分頃,bを直腸裂開に基づく細菌性ショックにより死亡させ(これが特別公務員暴行陵虐致死罪に当たる。),②申立人a2は,申立人a1の上記犯行に先立ち,本件保護房を監視可能にし,併せてその壁面・床面等を清掃するため,本件保護房内に立ち入った際,申立人a1が,上記目的で上記消防用設備を用いてbの身体に放水を直接当てる可能性があることを認識しながら,bをうつ伏せに制圧した上,そのズボン,パンツ等を引き下ろして臀部を露出させるなどし,申立人a1の上記犯行を容易 にしてこれを幇助した(これが特別公務員暴行陵虐致死幇助罪に当たる。),というのである。 3 申立人らは,第1審以来確定審を通じて,それぞれ,bの傷害は,本件放水によって引き起こされたものではなく,本件保護房に給水のため差し入れられていたプラスチック製ポットの破片を,本件放水の前日頃,bが自ら肛門に突き刺したことにより生じたものであり,本件放水とbの死亡との間の因果関係(以下「本件因果関係」ともいう。)はない,本件放水は,bの身体を洗浄する目的で行われた正当な職務行為であるなどと主張して,各公訴事実を争った。 しかし,確定判決は,本件放水は,本件保護房に収容中,監視孔や監視カメラにちり紙や残飯等を張り付けるなどして房内を監視不能にしたbを転房させるに際し,申立人a2とc1副看守長が房内に入ってbをうつ伏せに制圧し,そのズボンとパンツ等を引き下ろして臀部を露出させたところ,申立人a1が,本件保護房出入口付近のbまで約1ないし たbを転房させるに際し,申立人a2とc1副看守長が房内に入ってbをうつ伏せに制圧し,そのズボンとパンツ等を引き下ろして臀部を露出させたところ,申立人a1が,本件保護房出入口付近のbまで約1ないし1.3mの位置(筒先からで約1. 5m)から,消防用ホースの筒先をやや下に向けてbの臀部中心部に向けて,同所に約0.6kg/㎠(≒60kPa(キロパスカル))の水圧の直線状の放水を当てた,という態様のものであったと認定した。その上で,主にd1大学大学院のe1教授の物理学的所見(e1鑑定)に依拠して,このような本件放水は,物理的にみて,肛門を開かせ,短時間のうちに直腸裂開を引き起こすのに十分な量の水を直腸内部に流入させて直腸を裂開させるとともに,肛門挫裂創をも生じさせるに足りるものであり,d2大学のe2名誉教授(e2鑑定)及びd3大学大学院医学系研究科救急医学d3大学医学部附属病院高度救急救命センターのe3教授(e3鑑定)の各医学的所見に照らしても,本件放水が成傷器になり得ると判断した。そして,本件当時,申立人らの主張するプラスチック製ポットが本件保護房に差し入れられていた可能性は認め難いし,仮にその可能性があったとしても,bがこれを粉砕したプラスチック片で自傷行為に及んだ可能性はないとして,申立人らの上記主張を排斥した。なお,その結果と して,bの傷害が,上記プラスチック片とみて矛盾しないある程度鋭利な成傷器によるものであるなどという,d4大学大学院医学研究科のe4教授(現d5大学大学院教授)及びd6大学大学院医学系研究科のe5教授(現fがんセンター総長)の各所見は,前提を欠いて信用性がないことに帰するとも判断している。 4 申立人らは,平成24年3月2日,確定判決に対する各再審請求を行った(本件 院医学系研究科のe5教授(現fがんセンター総長)の各所見は,前提を欠いて信用性がないことに帰するとも判断している。 4 申立人らは,平成24年3月2日,確定判決に対する各再審請求を行った(本件各再審請求)。申立人らは,①bの負傷の原因は,プラスチック片による自傷行為であって,本件放水ではない可能性がある,②確定判決の認定した約0. 6kg/㎠の水圧の放水によっては,物理的に人体に損傷は生じ得ないし,本件放水とbの死亡との時間的間隔に照らしても,本件放水をbの死亡の原因と見るのは医学上の経験則に合致しないから,本件放水によりbが受傷したとみること自体に無理があるなどと主張して(以下,上記①の主張を「主張Ⅰ」と,②の主張を「主張Ⅱ」という。),本件には刑訴法435条6号の再審事由があり,本件再審請求に当たって申立人らが提出した別紙証拠一覧表の番号1から21までの各証拠(ただし,撤回した番号20の証拠を除く。)が,同号所定の新規明白な証拠に当たると主張した(これらの証拠について,以下「番号1の証拠」などのようにいい,これらを総称して「本件各証拠」ともいう。)。 (なお,申立人らの主張及び提出した証拠を見ても,申立人らの本件放水が刑法195条2項にいう「暴行」には該当しないということを明示するものはない(もし,無罪を主張するのであれば,再審請求書においてこの点を明確に主張すべきである。)から,刑訴法435条6号に該当する事由があるというのは,刑法196条の特別公務員暴行陵虐致死罪(あるいはその幇助罪)は成立せず,それよりも軽い刑法195条の特別公務員暴行陵虐罪(あるいはその幇助罪)が成立するにとどまるという明らかな証拠をあらたに発見したというものと解される。)これに対し,原決定は,要するに,本件各証拠のうち,主張Ⅰに係るものは, 員暴行陵虐罪(あるいはその幇助罪)が成立するにとどまるという明らかな証拠をあらたに発見したというものと解される。)これに対し,原決定は,要するに,本件各証拠のうち,主張Ⅰに係るものは, 信用性が乏しいか,bが自傷行為をした可能性をうかがわせるまでの証明力を持たないものであり,主張Ⅱに係るものは,本件放水以外に受傷原因が想定できないなどの確定審の証拠により認められる事実関係を無視するなど,説得力が乏しく,その余の証拠も含めて,確定審の証拠と総合的に考慮しても,前記2の確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせるものではないとして,結局,本件各証拠は,刑訴法435条6号所定の,申立人らに対して無罪を言い渡し,又は確定判決が認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠に当たらない(番号2,9,13の各証拠は,上告審に提出された書面の添付資料と同一のものであるから,同号所定の新規性を備えているとも認め難い)と判断している。 第2 論旨論旨は,要するに,原決定は,本件各証拠に関する明白性の判断を誤っているから,これを取り消して,再審を開始する決定を求める,との趣旨をいうものと理解される。 なお,申立人らは,原審で再審事由を示す証拠としてではなく,本件各再審請求に理由があることを裏付ける資料として提出した平成25年12月26日付け証拠調べ請求書記載の番号22ないし27の証拠6点について,当審で再審事由を示す証拠として取り調べるよう求めている。しかし,再審請求審の決定の当否を事後的に審査する異議審の性格に鑑みると,これらの証拠は,平成26年3月31日付け,同年5月8日付け及び同年7月23日付け各証拠取調べ請求書記載の番号22ないし30の各証拠と併せて,異議申立ての趣旨を補足する資料と 異議審の性格に鑑みると,これらの証拠は,平成26年3月31日付け,同年5月8日付け及び同年7月23日付け各証拠取調べ請求書記載の番号22ないし30の各証拠と併せて,異議申立ての趣旨を補足する資料として取り扱うのが相当である。 第3 論旨に対する検討そこで,論旨について検討する。 1 申立人らの本件再審請求の主張は,確定審以来申立人らが争っていたのと同一の争点(本件因果関係の有無)についての同種の主張である。 そこで,確定審の本件因果関係についての判断構造をみておく。 本件の確定判決は本件の控訴審判決であるが,本件因果関係については,第1審の判断を是認しているから,第1審において示された判断過程を踏襲したものと判断できる。第1審では,主として,本件放水までの保護房内の状況(性質上凶器となるものは通常排除されていることも含む。なお,第1審では,存在の可能性までは否定されていなかったプラスチック片につき,控訴審では,保護房内には存在しなかったと認定している。)及びそこでのbの挙動,本件放水時の状況(放水前には肛門周辺には便も,傷口も出血も確認されなかったのに,放水して10秒から20秒してbの肛門付近から出血が認められた状況等。),その後のbの症状と死亡に至るまでの手当ての経過に関して具体的な事実を認定した上で,「bの負った肛門挫裂創,直腸裂開の原因は,特段の事情がない限り,消防用ホースによる放水を肛門部付近に当てたことによるものと推認される」(第1審判決18頁)としている。ここで重視されているのは,具体的な事実経過である。 この点は本件再審請求を検討するに当たっても尊重されるべきである。すなわち,推認を根拠付ける事実に関する主張なのか,推認を妨げるべき事情に関する主張な れているのは,具体的な事実経過である。 この点は本件再審請求を検討するに当たっても尊重されるべきである。すなわち,推認を根拠付ける事実に関する主張なのか,推認を妨げるべき事情に関する主張なのかによって,扱いは分かれることになる。具体的には,前記第1・4①の主張Ⅰは,bの保護房内の挙動や房内に性質上凶器となるべきものが存在したかといった点に関わるから,推認の根拠となっている事実に変更を加える可能性があるのに対し,同②の主張Ⅱは,具体的な事実経過ではなく,bの成傷原因たり得るかという問題を,科学的に考察しようとするもので,前記の推認を妨げる事情となり得るかの問題であり,推認を妨げるには「特段の」事情があると認められる必要がある。 主張Ⅰと主張Ⅱは,本来は別個独立の事柄ではあるが,本件の検討に際しては,上記のような関係にあることを留意する必要がある。 以下において,記録を調査して,申立人らの主張についての原決定の判断の 当否を検討するが,結論的には,原決定の判断に誤りはなく,本件異議申立てには理由がないことは明らかであるといわなければならない。 2 原決定のいう第一証拠群について原決定は,本件各証拠のうち,前記第1・4①の主張Ⅰに係るものを「第一証拠群」と名付け,番号9ないし11,15の各証拠がこれに当たるものとして,刑訴法435条6号所定の証拠に当たるかを検討している(原決定理由第2・1の項)。もとより,そのような検討方法は合理的であるから,当裁判所としても,これに従った形で検討を進める。 証拠を概観すると,番号9の証拠は名古屋刑務所備付けの申し送り簿で,平成13年11月24日の記帳欄に,「b(略)あと本人言わく,プラスチックのポットを折ってすてていると言ってました を進める。 証拠を概観すると,番号9の証拠は名古屋刑務所備付けの申し送り簿で,平成13年11月24日の記帳欄に,「b(略)あと本人言わく,プラスチックのポットを折ってすてていると言ってました。」との記載があるもの,番号10の証拠は,c2刑務官が,平成20年12月28日,本件放水時の状況を述べた場面を録音録画したDVD-R1枚,番号11の証拠は,c2がその際に作成した見取図1枚,番号15の証拠は,本件保護房に差し入れられていた可能性があるものと同種のプラスチック製ポットを破砕してできたというプラスチック片である。このように概観しただけでも,実質証拠として,確定判決の事実認定を揺るがすだけの証明力を持つ可能性があるのは,やはり番号10,11のc2刑務官の供述関係であり,その余は,その補強の意味があると解される。 (1) 番号10,11の各証拠についてア第一証拠群のうち番号10の証拠は,本件放水当時,名古屋刑務所に配属されていたc2刑務官が,平成20年12月28日,衆議院法務委員会委員のg議員(当時)からの質問に答えて,本件放水時の状況を述べた場面を録音録画したDVD-R1枚であり,番号11の証拠は,c2がその際に作成した見取図1枚である(以下,これらの各証拠によってc2が述べる内容を「c2新供述」という。)。c2新供述は,要するに,c2が, 本件放水時,本件保護房に入っていたところ,放水前に脱がされて傍らの床に置いてあったbのズボン等が,流れてきた水に濡れて,そこからヤクルト1本分くらいの量の赤い血のようなものがにじみ出ていることに気付いたなどというものである。 所論は,c2新供述は,bが本件放水開始前に既に出血しており,その受傷原因が本件放水ではないことを示し,確定判決のb 量の赤い血のようなものがにじみ出ていることに気付いたなどというものである。 所論は,c2新供述は,bが本件放水開始前に既に出血しており,その受傷原因が本件放水ではないことを示し,確定判決のbの受傷時期・受傷機序に関する認定に合理的疑いを生じさせるという。 イしかし,原決定は,c2新供述は信用できないから,これと確定審の証拠を総合考慮しても,確定判決の事実認定に合理的疑いは生じないと判断している(原決定理由第2・1(1)イ,ウの各項)。 原決定が説示するように,本件確定審では,本件放水当時名古屋刑務所に配属されていた刑務官ら多数の者の供述が証拠とされ,多大な時間をかけてその供述が吟味されたといってよく,そのような審理を遂げた中で,c2新供述は,そもそもc2が本件保護房内にいて本件放水の状況を目撃していたという点自体からして,確定審で取り調べられたc1副看守長や申立人a2ら他の刑務官らの供述に反している上,c2自身の検察官調書(申立人a1関係の第1審証拠等関係カード検察官請求証拠番号甲41,申立人a2関係の同証拠番号甲37。以下,申立人a1関係のみのものにAの,申立人a2関係のみのものにBの各符号を付し,「第1審A甲41」などのようにいう。)における供述内容からも変遷しており,この変遷についての合理的な説明はない(所論は争うが,理由がない。)。 また,相当量の血のようなものがbのズボン等に付着していたという点も,他の刑務官らの中で,bのズボン等を脱がせた際,血のようなものの付着に気付いたという者はいない上,本件放水開始後,肛門部付近からの出血に気付いて放水を中止し,bを救護するに至ったという経過や,その後,bの受傷原因を明らかにするため,そのズボン等が証拠として保全さ れたとはう からの出血に気付いて放水を中止し,bを救護するに至ったという経過や,その後,bの受傷原因を明らかにするため,そのズボン等が証拠として保全さ れたとはうかがえないこと等を考慮すると,到底信用し難い。c2新供述は,確定審において丹念な証拠調べによって動かし難い事実とされた点に正面から反し,その反する内容の真実性を担保する事情は全く見出せないといってよい。c2新供述は,不自然,不合理というほかはなく,これを信用できないとした原判断は正当である。 ウ所論は,そのほかにも種々の指摘をしてこの原判断を争うが,いずれも理由がない。 (ア) 例えば,所論は,c2新供述と他の関係証拠との整合性に関する上記評価を争い,刑務官らは,専らbの股間に着目して下着に着目しなかったり,あるいは,付着した糞便と血液とを区別できなかったりして,出血に気付かなかったとしても不自然ではないという。しかし,c1の第1審公判証言や申立人a2の捜査段階の供述調書の内容に照らすと,bの股間や下着が糞便等で汚れていたという所論の前提自体が誤りであり,仮に相応の汚れがあったとしたところで,相当量の出血があったのであれば,複数の刑務官らの誰もがこれに気付かなかったなどとはおよそ考えられない。 また,所論は,c3看守長の第1審公判証言を援用して,血痕の付いたbの下着は保管されていたのに,その後何者かによって廃棄されたのだともいう。確かに,c3は,所論のいうような証言をしているが,この証言が信用できないことは,原決定の引用する確定判決及び第1審判決が説示するとおりであるから,この所論も採用できない。 (イ) 所論は,c2新供述は,bの下着に血痕が付着していたという番号12の証拠や,本件保護房に成傷器となり得るプラスチック片が存在 審判決が説示するとおりであるから,この所論も採用できない。 (イ) 所論は,c2新供述は,bの下着に血痕が付着していたという番号12の証拠や,本件保護房に成傷器となり得るプラスチック片が存在した可能性を示す番号9の証拠,更にはbの負った傷害の態様や受傷時期からして本件放水がその原因とは考えられないことなどの裏付けを伴っており,信用性が高いともいうようである(原決定に理由不備 の違法があるともいうが,要するに,c2新供述の証拠価値に関する原判断の誤りを論難するものと理解される。)。しかし,c2新供述が信用できないことが明らかである以上,これと他の証拠をいくら総合しても,c2新供述が,確定判決の事実認定を揺るがすほどの証明力を取得することはあり得ない(所論がc2新供述を裏付けるものとして指摘している本件再審請求に係る証拠は,後に検討する。)。所論は失当である。 (2) 番号9,15の各証拠についてア第一証拠群のうち番号9の証拠は,名古屋刑務所備付けの申し送り簿で,平成13年11月24日の記帳欄に,「b(略)あと本人言わく,プラスチックのポットを折ってすてていると言ってました。」との記載があり,番号15の証拠は,本件保護房に差し入れられていた可能性があるものと同種のプラスチック製ポットを破砕してできたというプラスチック片である。所論は,番号9の証拠は,本件保護房に差し入れられたプラスチック製ポットをbが破砕していたことを示し,番号15の証拠がbの受傷部位と整合することと考え合わせると,bの受傷原因がプラスチック片による自傷行為である可能性を強く示唆するというのである。 イしかし,原決定は,番号9,15の各証拠は,本件保護房に差し入れられたプラスチック製ポットをbが破砕し,その破 受傷原因がプラスチック片による自傷行為である可能性を強く示唆するというのである。 イしかし,原決定は,番号9,15の各証拠は,本件保護房に差し入れられたプラスチック製ポットをbが破砕し,その破片であるプラスチック片が本件保護房内に存在した可能性をうかがわせるとしても,①bが本件放水前に既に受傷していたと見るべき痕跡がないこと,②bの過去の行動状況にも特異な自慰行為等に及ぶ傾向を示すものがなかったことなどを踏まえると,bがそのプラスチック片を自ら肛門に差し入れるなどの行為を行い,それによって受傷した可能性をうかがわせるものとまではいえないから,番号9,15の各証拠と確定審の証拠を総合考慮しても,確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じないと判断している(原決 定理由第2・1(2)の項)。 関係記録によると,番号9の証拠は,申立人らの第1審弁護人が,第1審で証拠調べ請求をしたが(第1審弁34),第1審検察官からその入手経緯等の釈明を求められると,「都合により」として請求を撤回したもの,番号15の証拠も,申立人a1の第1審弁護人が,第1審で実施されたe2名誉教授の証人尋問でその写真を示し,これが証人尋問調書に添付されたものである。したがって,これらの証拠は,厳密にいえば,刑訴法435条6号所定の新規性の要件にも疑問のあり得るところであるが,この点をひとまずおいて検討の対象としても,関係証拠に照らし,原決定の上記①,②の指摘に誤りはなく,これらの各証拠の証拠価値に関する上記原判断にも誤りはない。 ウ所論は,種々の指摘をしてこの原判断を争うが(原決定は確定審の証拠との総合評価を懈怠しており,理由不備の違法があるなどともいうが,要するに,番号9,15の各証拠の証拠価値に関する原判断の誤 。 ウ所論は,種々の指摘をしてこの原判断を争うが(原決定は確定審の証拠との総合評価を懈怠しており,理由不備の違法があるなどともいうが,要するに,番号9,15の各証拠の証拠価値に関する原判断の誤りを論難するものと理解される。),いずれも理由があるとは考えられない。以下,簡潔に説明する。 (ア) 所論は,原決定の前記①の指摘について,bの受傷の部位・形態が番号15のプラスチック片の形状と整合すること,解剖時に認められたbの腹水の量や浮腫の所見に加え,本件放水時のbの様子(極度の衰弱状態にあったと考えられる。)に照らし,bは本件放水前に既に受傷していたと合理的に考えられるから,前記①の指摘は誤っているという。確かに,確定審で示されたe5教授やbを解剖したe4教授の各所見には,この所論に沿う内容が含まれており,bが,本件放水やその際の制圧に対し特段抵抗していないことも,当時その体調に問題があったことをうかがわせるものとみることはできる。しかし,bが本件放水前に既にプラスチック片等により受傷していたのであれば, 激しい痛みを伴い,相当量の出血もしていたことが明らかであるところ,関係証拠に照らしても,bがそのような痛み等を訴えていたとはうかがえないし,前記(1)のとおり,本件放水前にそのような出血の痕跡があったともうかがえない。したがって,bが本件放水前に既に受傷していたと見ることには,関係証拠に照らして明らかに無理があるといわざるを得ない。したがって,前記①の指摘に誤りはない。 (イ) 所論は,bは,プラスチック製ポットを割ったり,保護房内の監視孔や監視カメラを汚物等でふさいだりする特異な行動をとっていたことなどに照らし,淫靡な自慰的行為をしていた可能性が推認されるから,原決定の前記②の は,プラスチック製ポットを割ったり,保護房内の監視孔や監視カメラを汚物等でふさいだりする特異な行動をとっていたことなどに照らし,淫靡な自慰的行為をしていた可能性が推認されるから,原決定の前記②の指摘は誤っているという。しかし,bが所論のいう特異な行動をとっていたからといって,淫靡な自慰的行為をしていたと推認されるというものではないし,既に説示したとおり,原決定の前記①の指摘に誤りがない以上,この所論によって前記原判断が左右されることはない。 3 原決定のいう第二証拠群について原決定は,本件各証拠のうち,前記第1・4②の主張Ⅱに係るものを「第二証拠群」と名付けた上,これを更に,物理学等の観点に照らし,確定判決が認定した水圧(約60kPa)の本件放水によって,bの傷害は生じ得ないことを示す「第二証拠群A」と,医学の観点に照らし,確定判決が認定した因果関係が経験則に合致しないことを示す「第二証拠群B」とに分けて,番号1ないし8及び16ないし19の各証拠が第二証拠群Aに,番号21の証拠が第二証拠群Bに,それぞれ当たるものとして,刑訴法435条6号所定の証拠に当たるかを検討している(原決定理由第2・2の項)。 (1) 第二証拠群の各証拠の内容は,おおむね原決定が説示するとおりであるところ(原決定理由第2・2(1)(2)の各項),これを概観しておくと以下のとおりである。 ア第二証拠群Aのうち番号3ないし6の各証拠は,法務省矯正局ないし同局長が,本件放水に用いられた消防用ホースが通常の水道に接続されていたなどの趣旨を明らかにしたものである。そして,番号1,2の各証拠は,名古屋市上下水道局長や給水装置納品業者担当者が,水圧50ないし70kPa 程度の通常の水道の利用によって人が負傷した事 されていたなどの趣旨を明らかにしたものである。そして,番号1,2の各証拠は,名古屋市上下水道局長や給水装置納品業者担当者が,水圧50ないし70kPa 程度の通常の水道の利用によって人が負傷した事例は把握していないなどの趣旨を,それぞれ回答したものである。 イ番号7,16の各証拠は,いずれもd1大学大学院のe6教授の意見書である。その内容は,流体力学の観点から,①60kPa 程度の水圧の水を多量に当てても,意識的に開かない限り肛門は閉じたままであるから,水は肛門内に浸入しない(番号7),②肛門が開いて水が浸入するとしても,その量はe1鑑定がいうほど多くなく,直腸が水で満たされることはないから,肛門管内でラプラスの式は成立しない(番号7,16)などというものである。 ウ番号8,19の各証拠は,いずれもd7大学のe7教授の意見書である(なお,番号18の証拠も同教授の意見書であるが,原決定が説示するとおり(原決定理由第2・2(1)イの項),原審で取り調べていないe1教授の本件各再審請求後に作成された意見書に対する反論であるから,検討の必要はない。)。その内容は,物理学の観点から,①水の破壊力を考える場合に基準となるのは水圧であって,水量は全く関係がないから,肛門に当てる水の量を増やしても,水圧が変わらなければ肛門に損傷が生じることはない(番号8),②確定判決が本件放水による水の浸入を防げない根拠とする,おおむね10ないし30kPa という肛門括約筋の最大随意収縮圧は,肛門が外部からの水流に対し閉じた状態で耐えられる限界値とは無関係である(番号8),③高圧の圧縮空気により大腸穿孔を生じる場合の空気圧と比較すると,その4分の1にも満たない圧力の本件放水によって直腸穿孔が生じることはない(番号19)などというものである。 番号8),③高圧の圧縮空気により大腸穿孔を生じる場合の空気圧と比較すると,その4分の1にも満たない圧力の本件放水によって直腸穿孔が生じることはない(番号19)などというものである。 エ番号17の証拠は,d8大学理工学部交通機械工学科のe8教授の意見書である。その内容は,計算力学(流体力学を含む。)の観点から,60kPa 程度の低い水圧の水で肛門管が破壊されることはないし,風船状に膨らむ閉鎖的な空間ではない直腸や肛門でラプラスの式は成立しないなどというものである。 オ第二証拠群Bに当たる番号21の証拠は,e5教授(現d6大学名誉教授,fがんセンター名誉総長,h学会名誉会員,i学会名誉理事長,j学会前会長)の意見書である。その内容は,医学文献に現れた下部消化管穿孔により糞便性汎発性腹膜炎を合併して死亡した全ての事例で,患者は穿孔時から24時間以上生存しているから,本件放水の約13時間後に死亡したbの直腸裂開の原因を本件放水に求めることはできないなどというものである。 (2) これらの証拠のうち,実質証拠として,確定判決の事実認定を揺るがすだけの証明力を持つ可能性があるのは,各専門の研究者の意見書である。前述したように,これらの証拠が基礎付けようとする主張は,本件因果関係の推認を妨げるべきものであると考えられるから,これらの証拠によって推認を妨げるべき「特段の事情」があるといえるかが問題となる。 (3) 原決定は,結論として,これらの第二証拠群の各証拠と確定審の証拠を総合考慮しても,確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じないとの趣旨の判断を示している(原決定理由第2・1(3)の項)。 ア原決定は,その理由として,まず,確定審の証拠に照らすと,bの傷害を生じさせた出来事として考えら の事実認定に合理的な疑いは生じないとの趣旨の判断を示している(原決定理由第2・1(3)の項)。 ア原決定は,その理由として,まず,確定審の証拠に照らすと,bの傷害を生じさせた出来事として考えられるのは本件放水以外になく,本件放水が受傷原因と想定することができると判断している(原決定理由第2・2(3)アの項)。この判断は,確定審の本件因果関係の推認の判断と同趣旨の判断であるといえる。原決定がその理由として説示しているのは,当審が既に説示したのと同旨の内容を含むものであるが,あえて再論すれば, 要するに,bには,直腸裂開を生じさせるような病変はなかったし,直腸裂開は相当量の出血を伴うものと考えられるから,本件放水前にこれが生じていたともうかがえず(前記2(2)イ,ウ(ア)参照),本件放水の開始直後,bの肛門部付近からの出血に刑務官らが気付いたこと(前記2(1)イ参照)などに照らしても,bの受傷原因は本件放水と認められる,といった事柄である。 この判断は,関係証拠に照らしても,その説示する理由も含め,誤りがあるとは認められない。 イまた,原決定は,確定審の証拠のうち,豚の肛門辺りに放水したところ,直腸裂開が生じるなどしたという原判示の実験(以下「豚実験」という。)の模様を記録したビデオテープ(第1審甲71)によって,bの傷害が本件放水によって生じ得ることが実証されているなどとも説示している(原決定理由第2・2(3)イの項)。これは,本件因果関係の推認の裏付けともいえる点であるが,主張Ⅱとの関係では,本件放水によって直腸裂開が起こり得ないとする意見書に対する現実の反例としての意味があり,その反例であることが認められれば,科学的,論理的に起こり得ないといった理論的な議論が事実によって 関係では,本件放水によって直腸裂開が起こり得ないとする意見書に対する現実の反例としての意味があり,その反例であることが認められれば,科学的,論理的に起こり得ないといった理論的な議論が事実によって疑問視されることになる。 原決定は,この説示に当たり,bは,解剖時に重篤な肺挫傷の所見があったこと,本件放水時には平素と異なりさほど抵抗しなかったことなどを踏まえると,豚実験に供された麻酔の影響下の豚と同様,身動きできない弱弱しい状態にあったとみることができ,本件放水により受傷したとみることに支障はないなどとの趣旨をも説示している。 所論は,bの肺挫傷の所見は,死戦期の肺うっ血で説明が付くし,仮に肺挫傷があったとしても,肛門括約筋の作用に影響を及ぼすとも考えられないから,本件放水時のbの状態を,麻酔の影響で肛門括約筋の弛緩した豚と同視するのは誤っているなどとして,豚実験の証拠価値に関する 原決定の評価に誤りがあると論難している。確かに,本件放水時のbを麻酔下の豚と同視しているかにみられる原決定の説示には,科学的にみて,事実と論理を慎重に積み上げているか否かにつき,疑問の余地があろう。 しかし,関係証拠によると,bが本件放水時にさほど抵抗しなかったことは明らかであって,抵抗した場合と比べて肛門から水が浸入しやすい状況にあったことは動かし難い事実と考えられる。豚実験については,条件設定が本件放水と異なっている面もあり,これをそのまま本件に当てはまるものとするには難があるであろうが,確定判決も説示するように,一定の条件があれば,豚の場合,短時間の放水により水が肛門から直腸内に浸入し,肛門裂創や直腸裂開等の傷害を生じさせる可能性があるという限度では,証拠価値を肯認してよいと思われる(確定判決は, うに,一定の条件があれば,豚の場合,短時間の放水により水が肛門から直腸内に浸入し,肛門裂創や直腸裂開等の傷害を生じさせる可能性があるという限度では,証拠価値を肯認してよいと思われる(確定判決は,その限度で証明力を認めていると解される(確定判決34頁)。)。豚実験により,bの死亡の原因が本件放水であるとの積極的な証明がなされたとみることはできないものの,本件のbの場合も,豚実験と同じような状況が,絶対に起こらないとは限らないといった程度の証明力は肯定できよう。 いずれにせよ,原決定のこの説示を論難したところで,前記アの原判断が揺らぐことになるものではないし,この論難によって,確定判決の事実認定が揺らぐものでもない。 ウ原決定は,その上で,第二証拠群の各証拠とこれらに基づく原審弁護人らの主張は,本件放水以外に受傷の原因が考えられないこと等を無視し,bの身体の状況等の,本件の事実関係に即した前提条件を網羅しているともいい難い抽象的な検討内容に依拠するものであるから,説得力が乏しいと評価している(原決定理由第2・2(3)ウの項)。 そして,原決定は,個別的に,①番号1ないし8の各証拠については,豚実験に係るビデオテープの映像により認められる,本件放水を再現した水流の勢い等の特徴,本件放水当時のbの身体の状態等を正しく踏ま えないものであるから,採用できない,②番号16,17,19の各証拠については,上記映像により認められる,相当の力を持った水流が本件放水で加えられたことと大きく乖離した結論をいう不合理なものであるし,豚実験の結果を統一的に説明できるか,多角的な検討がされているか疑問がある,③番号21の証拠については,bの症例は先例が乏しいから,過去の症例と対照することに重要な意味 をいう不合理なものであるし,豚実験の結果を統一的に説明できるか,多角的な検討がされているか疑問がある,③番号21の証拠については,bの症例は先例が乏しいから,過去の症例と対照することに重要な意味があるとはいえないなどと説示して,結局,これらの第二証拠群の各証拠と確定審の証拠を総合考慮しても,確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じないとの趣旨の判断を示している。 所論は,種々の指摘をして以上の原判断を争うが,いずれも原判断の結論を左右するとは考えられない。 (ア) 例えば,所論は,これらの原決定の個別的な説示を取り上げて,上記①,②のうち豚実験の映像に言及する説示は,主観的,非科学的で柔弱な印象論にすぎないなどという。確かに,原決定のこれらの説示の中には,客観的なデータ等に基づいた論証がなされていない嫌いは否定できないものの,だからといって豚実験の結果がなくなるわけではないし,その映像に現れた事実を裁判官が認識し,一定の見解を持つことに何ら問題はない。そして,原決定は,より根本的には,bの受傷原因として考えられるものは本件放水以外にはなく,この点は,第一証拠群の各証拠を検討しても揺るがないのであるから,この点を無視して種々の主張をしたところで,本件の事実関係に即した議論とはならず,説得力が乏しいと評価しているものと理解される。この評価自体の正当性に疑問はない。 また,所論は,上記③の説示について,bの直腸裂開に当該医学的経験則が妥当するか否かの判断についても専門家の意見は尊重されるべきであるなどともいう。しかし,番号21の証拠が依拠する医学文献 に現れた事例から導かれる医学的経験則が,すべての場合に妥当するとまでの確証が得られているとはいい難く,直腸裂開という形での下部消 が依拠する医学文献 に現れた事例から導かれる医学的経験則が,すべての場合に妥当するとまでの確証が得られているとはいい難く,直腸裂開という形での下部消化管穿孔で,bの当時の体力といった個体差も考慮すると,放水後約13時間という時間で死亡に至ることがあり得ないとまではいえないであろうから,本件因果関係の推認を妨げるべき特段の事情があるとはいえないことは明らかである。 したがって,これらの所論は,上記原判断の結論を左右するものではない。 (イ) 所論は,①番号7,8,16,17,18の各証拠に含まれる,直腸内でラプラスの式が成立しない旨の内容は,確定判決の中核的証拠であるe1鑑定の根本的な欠陥を明らかにするものであるし,②番号7,8の各証拠には,水圧と水量との関係や肛門括約筋の最大随意収縮圧に関する確定判決の判断の誤りを明らかにする内容であるのに,これらの事柄について判断・言及していない原決定には,著しい審理不尽,理由不備があるなどという。確かに,原決定は,所論の指摘するこれらの事柄を個々に取り上げて判断を示しているわけではないが,これらの各証拠と確定審の証拠を総合考慮しても,確定判決の事実認定に合理的な疑いは生じないとの判断(ただし,原審が取り調べないこととした検察官提出の意見書(原審検2)に対する反論である番号18の証拠については,検討の必要がないとの判断(原決定理由第2・2(1)イの項))をその理由と共に明確に示しているから,この所論の論難に理由がないことは明らかである。 もっとも,これらの証拠が,その証拠のみで,本件放水による直腸裂開が科学的にみて生じることはないと,論理的に可能性まで否定できるのであれば,本件因果関係の推認を妨げるべき特段の事情を明らかにする証拠とい も,これらの証拠が,その証拠のみで,本件放水による直腸裂開が科学的にみて生じることはないと,論理的に可能性まで否定できるのであれば,本件因果関係の推認を妨げるべき特段の事情を明らかにする証拠といえよう。しかし,所論の指摘するこれらの個々の事柄 自体は,控訴審で取り調べられたe7教授の所見等に一部は現れていたし,さらには,上告審の上告趣意書中でも指摘されており,これらと同旨の内容を含むe6教授,e7教授の各意見書もその添付資料として提出されていたから,確定までの過程で全く問題にされていなかったわけではない。また,これらの証拠は,確定審で取り調べられ,信用できるとされた専門家の意見に対する反論としての意味合いが強く,特に,確定判決が依拠したe1教授の鑑定に対する反論となっている。 確定審以来,両陣営において,いわば科学論争が展開されている(といっても,相手方の議論が誤った仮定をおいて議論しているなどというものが多い。)感があるが,若干付言する。 ラプラスの式が成立しないとの点は,本件放水によっては肛門から水は浸入せず,浸入したとしても,肛門や直腸は円管状の組織であって,閉鎖的な空間ではないとする。しかし,肛門が本件放水によって開き,その内部に水が浸入することについては,控訴審において議論されたところであり,所論の指摘する意見書は,いずれもその延長線上にあるものである。また,肛門や直腸の形状等からラプラスの式が成立しないというのなら,なぜ,豚実験で直腸裂開が生じたのであろうか。麻酔下ということは,肛門括約筋の機能に影響を与えることではあっても,直腸の形状等に影響はないはずであるから,ラプラスの式が成立しないのであれば,直腸が裂開した原因を科学的,論理的に推論すべきであろう。 水圧 ,肛門括約筋の機能に影響を与えることではあっても,直腸の形状等に影響はないはずであるから,ラプラスの式が成立しないのであれば,直腸が裂開した原因を科学的,論理的に推論すべきであろう。 水圧と水量の関係も確定審以来議論されてきたもので,その延長線上の議論といえる。もっとも,確定判決が,kPa という圧力の単位に関連して,「温水洗浄便座から吐水される水流はその直径が小さく,単位面積自体にも達していないとみられる上」(21頁)などと説示しているのは誤解と考えられるが,その点が直腸裂開の原因についての判断 に影響を与えたとはいえない。確定審以来,申立人側は,本件放水と温水洗浄便座の吐水とを比較して議論しているが,実際上の問題としては,現実に温水洗浄便座から吐出される水の水圧の実測値と本件で用いられた消防用ホースで放水した際の実測値を比較する必要があると思われるが,そのような観点からの現実的な検討はなされていないようである。肛門括約筋の最大随意収縮圧についても,確定判決は,「本件放水の水圧がこれを上回っているから,肛門括約筋が本件放水による水の浸入を防ぐことにはならない」(23頁)などとしており,この点は,番号7の意見書が指摘するとおり,適切とはいえない。しかし,この点でもe1教授は,直腸の破裂圧を求めて,強い便意を催した場合,直腸が破裂する前に便が肛門から漏れること,肛門管の断面形状が入口と出口でほぼ対称であることを前提に,肛門が開く圧力を算定し,本件放水によって肛門が開くことが十分あり得るとの結論を導いているところである。このような立論が,科学的に成り立ち得ないとの論証がなされているとはいい難い。 以上,確定判決の認定を誤りとする意見書の内容を検討しても,本件の事実関係に即した 結論 を導いているところである。このような立論が,科学的に成り立ち得ないとの論証がなされているとはいい難い。 以上,確定判決の認定を誤りとする意見書の内容を検討しても,本件の事実関係に即した検討がなされているか疑問である上,豚実験で実証された事実を踏まえて,しかも,確定審で取り調べられた証拠をも含めて検討しても,本件因果関係の推認を妨げるべき特段の事情と評価できるだけの,科学的,論理的に,bの受傷原因が本件放水ではあり得ないとの疑いを抱かせるものはないといわなければならない。 4 その余の証拠について(1) 番号12,13の各証拠についてア番号12の証拠は,名古屋刑務所長が名古屋地方検察庁検事宛てにbの死亡の経過について通報した平成14年1月11日付け書面で,死亡経過として,平成13年12月14日,bは,肛門部に裂創が発見された後, 受傷の方法や病状等について職員や医師から問い質されても,何ら申し立てすることなく,痛み等も訴えなかったなどの記載がある。また,番号13は,名古屋矯正管区長が申立人a1を告発した平成15年2月12日付け告発状で,告発事実として,申立人a1がbに加圧した水を多量に放水する暴行を加えて死亡させたなどとの記載がある。 イ原決定は,これらに基づく申立人らの主張は,抽象的に捜査の誤りや不備があったというものにすぎず,第一及び第二証拠群の各証拠の信用性を裏付けるものでもないなどとして,これらの各証拠は再審事由の存在をうかがわせるものではないと判断している(原決定理由第2・3(1)の項)。 この判断に誤りは認められない。 (2) 番号14の証拠についてア番号14の証拠は,豚実験に関するk市消防長の回答書で,同市消防職員は,同実験の際,放水の準備 由第2・3(1)の項)。 この判断に誤りは認められない。 (2) 番号14の証拠についてア番号14の証拠は,豚実験に関するk市消防長の回答書で,同市消防職員は,同実験の際,放水の準備作業等は行ったが,実験開始後は放水場所から離れていたため,水圧の調整・計測には一切関与していないなどとの記載がある。所論は,この証拠は,検察官が豚実験において,有罪立証に都合がよいように放水圧力を調整・改変させた可能性を示すというようである。 イしかし,原決定は,この証拠が所論のいうような意味までを持つものではないと判断している(原決定理由第2・3(2)の項)。 所論に鑑み検討しても,この原判断に誤りはないし,既に説示した豚実験の証拠価値等(前記3(3)イ)に照らしても,この所論の論難によって確定判決の事実認定が揺らぐものではない。 5 結論以上の次第であるから,本件各再審請求を棄却した原判断に,誤りがあるとは認められない。論旨は理由がない。 よって,刑訴法428条3項,426条1項により,主文のとおり決定する。 平成29年3月15日名古屋高等裁判所刑事第2部 裁判長裁判官村山浩昭 裁判官大村泰平 裁判官平手一男
▼ クリックして全文を表示