主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 外務大臣が原告に対して平成30年8月1日付けでした原告の平成29年12月18日付け旅券発給申請につき旅券不発給とする処分(以下「本件処分」という。)が無効であることを確認する。 2 原告が日本国籍を有することを確認する。 3 被告は、原告に対して、22万円及びこれに対する令和4年6月30日から 支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の骨子⑴ 原告は、日本国籍を有する父の子として日本において出生した(日本国籍を取得した)が、2004年(平成16年)頃、自己の志望によりアメリカ 合衆国(以下「米国」という。)の国籍を取得した。原告は、平成29年12月、外務大臣に対し、日本の旅券発給申請をしたが、外務大臣は、平成30年8月、国籍法11条1項により日本国籍を喪失していることを理由として、原告の上記旅券発給申請につき旅券不発給とする処分(本件処分)をした。 国籍法11条1項は、「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍(以下 「外国国籍」又は「外国籍」ということがある。)を取得したときは、日本国籍を失う」旨を規定する(なお、以下、自己の志望によりある国の国籍を取得することを「志望取得」ということがある。)。 ⑵ 本件は、原告が、国籍法11条1項は憲法の規定(憲法10条、22条2項及び13条、98条2項、14条1項)に反し無効であるとして、次のア ~ウの請求をする事案である。 ア本件処分の無効の確認請求(請求の趣旨1)イ原告が日本国籍を有することの確認請求(請求の趣旨2)ウ原告が、次のA~Cにより して、次のア ~ウの請求をする事案である。 ア本件処分の無効の確認請求(請求の趣旨1)イ原告が日本国籍を有することの確認請求(請求の趣旨2)ウ原告が、次のA~Cにより精神的苦痛を受けたことを理由として、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料3億円の一部請求として、慰謝料及び弁護士費用合計22万円及びこれに対する訴状送達の日である令和4年6月 30日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求(請求の趣旨3)A 被告が、遅くとも平成元年頃までに、憲法に反する国籍法11条1項を改廃すべき義務があったにもかかわらず、これを故意又は重過失により怠ったこと B 外務大臣が、従前の旅券発給申請時と事情の変更がないにもかかわらず、原告に対し、本件処分をしたことC 被告が、国籍法11条1項を国民に周知徹底すべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったこと 2 関係法令等の定め 別紙2の1・2のとおり。 3 前提事実(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、証拠番号は、特記なき限り枝番を含む。)別紙3の1・2のとおり(以下、この事実を同別紙の項番号等により「前提事実第1の1⑴」等と略称して引用する。)。 4 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点は、次のとおりであり、これに関する当事者の主張は、別紙4のとおりである。 国籍法11条1項の合憲性(争点1)ア憲法10条、22条2項及び13条、98条2項に反するか否か(争点 1-1) イ憲法14条1項に反するか否か(争点1-2)⑵ 本件処分が無 項の合憲性(争点1)ア憲法10条、22条2項及び13条、98条2項に反するか否か(争点 1-1) イ憲法14条1項に反するか否か(争点1-2)⑵ 本件処分が無効であるか否か(争点2)⑶ 原告の日本国籍の有無(争点3)⑷ 国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点4) ⑸ 本件処分の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点5)⑹ 国籍法11条1項の周知徹底に係る国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点6)第3 当裁判所の判断 1 国籍法11条1項が憲法10条、22条2項及び13条、98条2項に反す るか否か(争点1-1)について⑴ 判断枠組みについてア憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて、国籍法は、日本国籍の得喪に関する要件を規定している。 憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得 喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される(最高裁平成25年(行ツ)第230号同27年3月10日第三小法廷判決・民集69巻2号265頁。以下「平成27 年最高裁判決」という。)。 イ本件においては、日本国民が、自己の志望によって外国国籍を取得した場合において、日本国籍を失うこと(国籍法11条)の当否が争われているところ、憲法は、日本国民たる要件につき、特段の要件を設けずに前記アのとおり規定し(10条)、他方、「何人も、外国に移住し、又 た場合において、日本国籍を失うこと(国籍法11条)の当否が争われているところ、憲法は、日本国民たる要件につき、特段の要件を設けずに前記アのとおり規定し(10条)、他方、「何人も、外国に移住し、又は国籍を 離脱する自由を侵されない」として、国籍を離脱する自由を保障する旨を 明確かつ具体的に規定する(22条2項)にとどまる。このことに加え、国際法上、無国籍の防止が望まれているものの、重国籍の取扱いについては確定した原則があるとまではいえないことを併せ考慮すると、自己の志望によって外国国籍を取得した日本国民がこれにより日本国籍を失わないことが、憲法13条、22条2項又は憲法の基本原理によって具体的な権 利として直接保障されているものと解することはできない。 ウもっとも、日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位である(最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁参照。以下「平成20年最 高裁判決」という。)。憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているところ、上記のような日本国籍はいわゆるアイデンティティの一要素となるものである。そして、憲法10条の委任を受けて規定され た国籍法は、外国国籍を有する日本国民につき、国籍留保制度(12条)、国籍選択制度(14条)等、その日本国籍を喪失させるに当たって当該日本国民の意思をできる限り尊重する制度を定めている。これらのことを踏まえると、国籍法に自己の志望によって外国国籍を取得し 12条)、国籍選択制度(14条)等、その日本国籍を喪失させるに当たって当該日本国民の意思をできる限り尊重する制度を定めている。これらのことを踏まえると、国籍法に自己の志望によって外国国籍を取得した日本国民の日本国籍を喪失させる旨の定めを設けるに当たっても、その者の意思をでき る限り尊重すべきことは、憲法13条の規定等の精神に照らして、考慮要因の1つとなり得るものと解するのが相当である。 エ以上を総合すれば、国籍法11条1項についても、憲法10条に基づき国籍の得喪に関する要件について立法府に与えられた裁量に上記ウの観点から一定の制約が及び得るとしても、当該規定に係る立法目的及びその 目的を達成する手段が合理的である場合には、その裁量権の範囲を逸脱し 又はこれを濫用したものということはできないと解するのが相当である。 ⑵ 立法目的の合理性についてこれを本件についてみるに、まず、立法目的に関しては、次のとおり指摘することができる。 ア国籍法11条1項の立法目的 前提事実により指摘することができる次の~のような国籍法11条1項の沿革に照らせば、国籍法11条1項は、旧国籍法20条の規定をそのまま踏襲したものであり、その趣旨は、自己の志望によって外国籍を取得したときには従前の日本国籍を当然に喪失することとして、憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障するに至ったことを受けて、①国籍離脱の一 場面として国籍変更の自由を保障するとともに、②重国籍の発生を防止するものであると解される。 明治32年に制定された旧国籍法20条は、自己の志望による外国国籍の取得による国籍の喪失を認めていた(ただし、国籍喪失については一般的な制約があった。)ところ、同条の趣旨については、立案担 る。 明治32年に制定された旧国籍法20条は、自己の志望による外国国籍の取得による国籍の喪失を認めていた(ただし、国籍喪失については一般的な制約があった。)ところ、同条の趣旨については、立案担当者に より国籍の積極的衝突(二重国籍)の弊害の防止が指摘されていたほか、昭和13年頃には、国籍自由の原則(国籍非強制の原則)及び二重国籍の発生防止を掲げる見解が存在していた(前提事実第1の1⑴・⑶)。 昭和25年に制定された現行国籍法は、個人の尊厳及び両性の本質的平等を立法の基本原則(憲法24条)とし、国籍離脱の自由(憲法22 条2項)を保障した日本国憲法の制定を踏まえたものであるところ、㋐国籍離脱に係る一般的な制約を廃止し、㋑旧国籍法20条の規定を踏襲して自己の志望により外国国籍を取得したときは日本国籍を失う旨を規定した(8条)。現行国籍法8条の趣旨については、立案担当者により、国籍変更の自由を認めるとともに、国籍の抵触を防止するものであると 指摘されており、国会における法案審議においてこの点につき異論や疑 問が呈されたことはうかがわれない(前提事実第1の2⑵)。 昭和59年改正後の国籍法においても、自己の志望により外国国籍を取得したときに日本国籍を失う旨の規定は、11条1項として存続した(前提事実第1の3⑵)。 イ立法目的の合理性 そこで、前記アのような国籍法11条1項の立法目的の合理性についてみると、次のとおりいずれの点も合理的であるといえる。 国籍変更の自由の保障という点についてまず、国籍法11条1項が国籍変更の自由を保障したという立法目的は、国籍離脱の自由を保障する憲法22条2項を受けて、国籍離脱の自 由の一場面として外国籍への変更を認めたものである いてまず、国籍法11条1項が国籍変更の自由を保障したという立法目的は、国籍離脱の自由を保障する憲法22条2項を受けて、国籍離脱の自 由の一場面として外国籍への変更を認めたものであるから、合理的であるということができる。 重国籍の発生の防止という点について国籍は、前記⑴ウのとおり、国家の構成員としての資格であり、基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重 要な法的地位であるだけでなく、主権の存する国民及び当該国家の主権(統治権)に服する者の範囲を画するものである。したがって、個人が複数の国家に対して主権を持つ場合又は複数の国家が個人に対して対人主権を持つ場合には、国家と国家の間に摩擦を生じさせるおそれや国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせる おそれがあるといえる。具体的には、重国籍者に対しては、複数の国家が対人主権を持つことになるから、国家間の外交保護権の衝突等により国際摩擦が生ずるおそれがある。また、一般に、国家は、自国民に対し、納税義務、兵役義務等の種々の義務を課し得るところ、重国籍者は、国籍を有する国家からそれぞれその義務の履行を要求され、これらの義務 が衝突したり抵触したりする事態が生じ得る。さらに、重国籍者は、関 係国間の通報制度がない限り、その属する国家においてそれぞれ別個の氏名により国民として登録されることも可能であり、別個の旅券を行使することが可能となるため、個人の同一性の判断が困難となり、場合によっては適正な入国管理が阻害されたり、重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。このように、重国籍が常 態化した場合には、国家間の外交保護権が衝突し、国家と個人との間又は個人と個人 国管理が阻害されたり、重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。このように、重国籍が常 態化した場合には、国家間の外交保護権が衝突し、国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがある。 これに加え、現行国籍法が制定された昭和25年(1950年)及び昭和59年改正が行われた昭和59年(1984年)当時は、国際法上、人はいずれかの国籍を有し、かつ、1個のみの国籍を有すべきであると いう国籍唯一の原則が国籍立法の理想として承認されており、重国籍容認国も42%(1984年当時。オランダのマーストリヒト大学の研究チームの調査結果による。前提事実第2の1)にとどまっていた。 このようなことからすると、できる限り重国籍の発生を防止しようとする国籍法11条1項の立法目的は、昭和59年改正当時において、合 理的であることが明らかであったといえる。 そして、前提事実によれば、昭和59年改正以降の事情として、2020年(令和2年)の時点において、重国籍容認国が76.9%(195か国中150か国。オランダのマーストリヒト大学の研究チームの調査結果による。)となり、過去60年間に世界各国の約3分の1から約4分 の3にまで増加し(前提事実第2の1)、日本国外に生活の拠点を有する日本国籍を有する者が大幅に増加している(公知の事実)など、国際情勢及び社会情勢が大きく変化していることを指摘することができるが、他方、国際法上、国籍の得喪に関する立法が各国家の国内管轄事項であるとされており、2020年(令和2年)当時においても、なお195 か国中45か国(オランダのマーストリヒト大学の研究チームの調査結 果による。ただし、別紙3の2によれば、46か国)が自己の志 ており、2020年(令和2年)当時においても、なお195 か国中45か国(オランダのマーストリヒト大学の研究チームの調査結 果による。ただし、別紙3の2によれば、46か国)が自己の志望によって外国国籍を取得した場合の国籍自動喪失制度を設けている。そうすると、上記のような国際情勢及び社会情勢の変化等の事情は、少なくとも現在において、重国籍の発生を回避すること自体の合理性を直ちに否定するものとまではいえず、これをもって重国籍の発生の防止という立 法目的の合理性が失われているとはいえない。 ⑶ 立法目的を達成する手段の合理性について次に、前記⑵の立法目的を達成する手段の合理性についてみると、日本国籍を有する者が自己の志望により外国国籍を取得した場合、その日本国籍を喪失させなければその者が必ず重国籍者となるため、重国籍の発生を 可能な限り防止するという観点からは、外国国籍の取得と同時にその日本国籍を喪失させることが簡明である。そして、国籍法11条1項は、自己の志望により外国国籍を取得することによってその日本国籍を喪失するとの効果が生ずることを明示的に規定することにより、その者にあらかじめ日本国籍を喪失することになっても自己の志望により外国国籍を取得するか否かを自 身で選択する機会を与えている。したがって、外国国籍を自己の志望により取得するか否かの選択をもって日本国籍を喪失するか否かも選択したものとみることは、妥当でないとはいえず、その者の意思をできるだけ尊重したものであるといえる。また、昭和59年改正以降の事情として、国際情勢及び社会情勢が大きく変化していることを指摘することができるが、2020年 (令和2年)当時においても、なお195か国中45か国(ただし、別紙3の2によれば 9年改正以降の事情として、国際情勢及び社会情勢が大きく変化していることを指摘することができるが、2020年 (令和2年)当時においても、なお195か国中45か国(ただし、別紙3の2によれば、46か国)が自己の志望によって外国国籍を取得した場合の国籍自動喪失制度を設けていることは、前記イのとおりである。 以上の点に照らすと、国籍変更の自由を保障しつつ、重国籍の発生を可能な限り防止するという観点からは、自己の志望による外国国籍の取得に伴っ て当然に日本国籍を喪失させることは相当であるものといえるから、国籍法 11条1項は、その立法目的を達成する手段として合理的であるということができる。原告指摘に係る重国籍を解消する手段としての国籍離脱制度(国籍法13条)や国籍選択制度(同法14条)の存在は、上記判断を左右するものとはいえない。 ⑷ 原告の主張について 原告及び被告の主張のうち以上の説示に反する部分は、以上に説示したところに照らし、いずれも採用することができないが、所論に鑑み、原告の主張を採用することができない理由について補足して説明する。 ア日本国籍を離脱しない自由等に関する原告の主張について 原告は、憲法10条の委任範囲には、国籍を剥奪する立法は含まれな いと考えるのが自然であり、憲法10条は、国籍の「喪失」については本人の真意に基づく離脱(憲法22条2項)の要件のみを法律に委任するものであると解すべきである旨を主張する(別紙4.第1の1(原告の主張)⑵ア参照)。 しかしながら、前記⑴アのとおり、憲法10条の規定は、国籍は国家 の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び しかしながら、前記⑴アのとおり、憲法10条の規定は、国籍は国家 の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解されることに照らせば、憲法10条が、原告が主張するように限定的な委任 をしたものと解することはできず、原告の上記主張は採用することができない。 原告は、日本国籍を離脱しない自由(日本国籍を保持する権利)が、憲法22条2項、憲法13条、憲法の基本原理により保障されていることを前提に、自己の意思に反して国籍を喪失させる効果を生ずる国籍法 11条1項の憲法適合性を判断するに当たっては、より厳しい審査基準 を用いるべきである旨を主張する(別紙4.第1の1(原告の主張)⑵イ参照)。 しかしながら、前記で説示したところに加え、憲法22条2項は、国籍を離脱する自由を保障する旨を明確かつ具体的に規定するが、他に国籍の取得又は保持に関する権利を保障するか否かを明らかにした憲法 上の定めが見当たらないこと等に照らすと、同項の定める国籍離脱の自由は、日本国籍からの離脱を欲する者に対して、その者が無国籍とならない限り、国家がこれを妨げてはならない旨を明らかにしたにとどまるというべきである。また、立法府の裁量によって付与される国籍という地位に関して、前記⑴ウで説示したところを超えて、憲法13条等に基 づいて何らかの権利が直ちに保障されるものとは解し難い。そうすると、原告指摘に係る憲法の規定等を根拠として、いかなる場合においても日本国籍を離脱しない自由(日本国籍を保持する権 13条等に基 づいて何らかの権利が直ちに保障されるものとは解し難い。そうすると、原告指摘に係る憲法の規定等を根拠として、いかなる場合においても日本国籍を離脱しない自由(日本国籍を保持する権利)が具体的な権利として保障されているものとまでは認められない。原告の上記主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。 原告は、専断的な国籍剥奪(「恣意的な国籍剥奪」)の禁止(世界人権宣言15条2項)は国際慣習法であるとして、日本政府には、専断的な国籍剥奪の禁止原則に則った立法をする憲法上の義務があること(憲法98条2項)等を理由として、国籍法11条1項について、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「無国籍に関する第5ガイドライン 」 中の「専断的(恣意的)な国籍剥奪」を防止するためのガイドラインが示す3つの要件を全て満たす必要がある旨を主張する(別紙4.第1の1(原告の主張)⑵ウ参照)。 しかしながら、そもそも世界人権宣言は、国際連合の考え方を表明したものであって、加盟国に対して法的拘束力を有するものではなく、上 記ガイドラインは、各国政府等が無国籍の問題に対応する際の解釈の法 的指針にすぎない。また、例えば、1997年ヨーロッパ国籍条約は、世界人権宣言15条2項に倣って、同条約4条cで「何人もほしいままにその国籍を奪われない」と規定するとともに、同条約7条1項aは、国内法により法律上当然に国籍を喪失する旨の規定を設けてよい場合として、「任意の外国国籍取得」を挙げていた。以上を踏まえると、上記ガ イドラインの存在のみをもって、国際法上、自己の志望により外国国籍を取得した場合に当然に原国籍を喪失させることが専断的な国籍剥奪に該当するとの確定した原則が存在するとは 上を踏まえると、上記ガ イドラインの存在のみをもって、国際法上、自己の志望により外国国籍を取得した場合に当然に原国籍を喪失させることが専断的な国籍剥奪に該当するとの確定した原則が存在するとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。 イ国籍法11条1項の立法目的に関する原告の主張について 原告は、国籍法11条1項の立法目的につき、国籍変更の自由の保障は含まれない旨を主張する(別紙4.第1の1(原告の主張)⑵イa 参照)。 しかしながら、前記⑵ア~で説示した国籍法11条1項の沿革に照らせば、国籍法11条1項の趣旨は、国籍変更の自由を含むものと解するのが相当であり、原告の上記主張は採用することができない。 ウ立法目的の合理性に関する原告の主張について原告は、重国籍の発生の防止という立法目的について、①重国籍による弊害は、他に重国籍による弊害を回避する方法があるか、当該弊害が他の要因により生ずるものであるといえることから、根拠が全くないか、弊害のおそれがあったとしても抽象的・観念的なものにとどまること、②国際 的には重国籍容認国が圧倒的多数を占めており、昭和59年改正後の国際情勢及び社会情勢が大きく変化していること等を指摘する(別紙4.第1の1(原告の主張)⑵イa)。 しかし、上記①については、仮に、重国籍によって生じ得る種々の弊害について、他に弊害を回避する方法があり、必ずしも重国籍のみが原因で その弊害が生ずるものではないとしても、弊害の原因となる重国籍の発生 を可能な限り防止しようとする立法目的自体が直ちに合理性を失うものとまではいえない。重国籍による弊害の中には、納税義務の抵触のように国家間の条約等によって解決する 原因となる重国籍の発生 を可能な限り防止しようとする立法目的自体が直ちに合理性を失うものとまではいえない。重国籍による弊害の中には、納税義務の抵触のように国家間の条約等によって解決することが可能な事項があるとしても、そのためには我が国と関係諸国との間の政治的・社会的・経済的環境等を踏まえた外交交渉が必要となるから、全ての国との間においてそのような弊害 の防止等を目的とする国際条約等を締結することが現実的であるとはいえず、現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。さらに、国際法上、重国籍によって生ずる国家間の紛争を解決するルールが存在したとしても、その解釈や適用等をめぐる紛争を未然に防ぐ必要性があることは、否定し難い。 また、上記②については、前記⑵イで説示したとおり、少なくとも現在において、原告指摘に係る国際情勢及び社会情勢の変化等の事情をもって重国籍の発生の防止という立法目的の合理性が失われているとまではいえない。 したがって、原告の上記指摘を踏まえても、重国籍の発生の防止という 立法目的が不合理であるとまではいえない。 エ立法目的を達成する手段の合理性に関する原告の主張について 原告は、国籍法11条1項が、国籍変更の自由を保障するという立法目的からすれば、日本国籍の離脱を望まない者に対しても日本国籍を剥奪する点で、その適用対象が過大包摂であって、外国国籍の取得をため らわざるを得ない日本国民を生じさせており、国籍法11条1項は、国籍変更の自由をむしろ阻害する原因となっていると指摘する。 しかしながら、前記アで説示したとおり、そもそも憲法22条2項の定める国籍離脱の自由は、日本国籍からの離脱を欲する者に対して、そ 変更の自由をむしろ阻害する原因となっていると指摘する。 しかしながら、前記アで説示したとおり、そもそも憲法22条2項の定める国籍離脱の自由は、日本国籍からの離脱を欲する者に対して、その者が無国籍とならない限り、国家がこれを妨げてはならない旨を明ら かにしたにとどまるのであり、前記⑴イで説示したとおり、自己の志望 によって外国国籍を取得した日本国民がこれにより日本の国籍を失わないことが、憲法13条、22条2項又は憲法の基本原理によって具体的な権利として直接保障されているわけでもないから、原告の上記指摘は、その前提を欠くといわざるを得ない。この点を措くとしても、国籍法11条1項の立法目的は、①国籍変更の自由を保障しつつ、②重国籍の発 生を防止するというものであることを踏まえると、原告の上記指摘のような一方の立法目的との関係のみをもって、直ちに国籍法11条1項の立法目的と手段との合理性を否定することはできない。 原告は、①国籍法11条1項によって重国籍の発生が防止できるのは外国国籍の志望取得の場合のみであり、1985年から2020年まで の36年間に生じた重国籍者は100万人を超えると推定される一方で、国籍法11条1項により発生を防止できた重国籍者は2万5272人に過ぎず、国籍法11条1項の手段は、重国籍の発生の防止という立法目的との関係ではなはだしく過小包摂であること、②外国国籍を取得する意思と日本国籍を離脱する意思は別個のものであり、国籍法11条1項 は、その存在及びその法的効果を知らなければ、外国国籍を取得することによって日本国籍を喪失するということを知り得ないのであるから、外国国籍を取得するか否かの選択の機会があるからといって、日本国籍を放棄するか否かの機会が保障されてい なければ、外国国籍を取得することによって日本国籍を喪失するということを知り得ないのであるから、外国国籍を取得するか否かの選択の機会があるからといって、日本国籍を放棄するか否かの機会が保障されているとはいえないこと、③国籍法上、重国籍を解消するためのより権利侵害的でない手段(事後的解消の 手段)として、国籍選択制度(国籍法14条)等があり、外国国籍の志望取得の場合に限り、選択の機会を奪ってまで厳格に複数国籍の発生を防止すべき必要はなく、外国国籍の取得と同時に自動的に日本国籍を喪失することは非常に重大な不利益となること等からすれば、国籍法11条1項は、手段として合理性を欠く旨を指摘する(別紙4.第1の1(原 告の主張)⑵イ)。 確かに、国籍法の昭和59年改正から既に40弱年が経過し、その間に、重国籍容認国が世界各国の約3分の1から約4分の3にまで増加し、日本国外に生活の拠点を有する日本国籍を有する者が大幅に増加しているなど、国際情勢及び社会情勢が大きく変化していること等を踏まえると、日本国籍を有する者が自己の志望により外国国籍を取得する場合に おける重国籍の解消方法として、原告主張のように一旦重国籍の発生を認めた上で所定の期間内に国籍選択をさせるといった手段を採用することも、国籍立法の在り方としては傾聴に値するといえる。 しかしながら、上記①については、国籍喪失届の届出数が原告指摘の程度にとどまっていることは、実体法上自己の志望により外国国籍を取 得したことにより日本国籍を喪失した者が国籍喪失届を怠っているにとどまる場合もあることを踏まえると、この点のみをもって国籍法11条1項が重国籍の発生の防止という立法目的を達成する手段の実効性が低いとまではいい難く、その立法目的との関係で当該手段が不合理で るにとどまる場合もあることを踏まえると、この点のみをもって国籍法11条1項が重国籍の発生の防止という立法目的を達成する手段の実効性が低いとまではいい難く、その立法目的との関係で当該手段が不合理であると断じることはできない。 上記②・③については、国際法上、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは、各国の国内管轄事項に属するとされているため、重国籍を生ずる原因としては様々なものがあり得るところ、重国籍の発生をできる限り解消するための手段としてどのような制度を設けることが相当であるかは、重国籍を生ずる原因によって異なり得るものである。そ して、自己の志望によって外国国籍を取得する場合以外に重国籍の問題が生ずる場合、すなわち、何ら自己の意思によらずに外国の国籍を取得する場合は、国籍選択制度等のように、自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採ることには合理性があるといえる。他方で、自己の志望によって外国国籍を取得した者については、前記⑶で説示し たとおり、その法的効果を明示的に規定した国籍法11条1項の規定を 踏まえ、外国国籍を自己の志望により取得する際に、事前にいずれかの国籍を選択する機会が与えられているとみることができるから、一旦重国籍の発生を認めた上で、自己の意思により事後的に重国籍を解消させる制度を採る必要性が高いとはいえない。原告の指摘のように法の不知をもって日本国籍の喪失を選択する機会がなかったとはいえないし、国 籍法11条1項が、自己の志望によって外国国籍を取得した者について、重国籍を解消するための手段として事後的解消の手段を採用せず、当然に日本国籍を喪失することとしたことも不合理であると断じることはできない。 したがって、原告の上記指摘を踏まえても、国籍1 国籍を解消するための手段として事後的解消の手段を採用せず、当然に日本国籍を喪失することとしたことも不合理であると断じることはできない。 したがって、原告の上記指摘を踏まえても、国籍11条1項が、その 立法目的を達成する手段として不合理であるとまではいえない。 ⑸ 争点1-1の結論以上を総合すれば、憲法は、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて立法府の裁量判断に委ねる趣旨であり(10条)、自己の志望によって外国国籍を取得した日本国民がこれにより日本国籍を失わないことを具 体的な権利として直接保障するものとは解されないが、我が国の構成員としての資格であるとともに、基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある日本国籍がいわゆるアイデンティティの一要素となること等を踏まえると、国籍法に同法11条1項のような内容の定めを設けるに当たり、その者の意思をできる限り尊重すべき ことは、憲法13条の規定等の精神に照らして、考慮要因の1つとなり得るものと解される。 そして、国籍法11条1項は、①国籍離脱の一場面として国籍変更の自由を保障するとともに、②重国籍の発生を防止することを立法目的として、「日本国民は、自己の志望によって外国国籍を取得したときは、日本国籍を失う」 旨を規定し、自己の志望による外国国籍の取得によって日本国籍を喪失する との効果が生ずることを明示して、その者自身に事前に日本国籍と外国国籍を選択する機会を与えたものである。国籍法の昭和59年改正以降、重国籍容認国が世界各国の約3分の1から約4分の3にまでに増加するなどの国際情勢及び社会情勢の大きな変化がみられ、上記のような場面における重国籍の解消方法として原告主張のよ 法の昭和59年改正以降、重国籍容認国が世界各国の約3分の1から約4分の3にまでに増加するなどの国際情勢及び社会情勢の大きな変化がみられ、上記のような場面における重国籍の解消方法として原告主張のように一旦重国籍の発生を認めた上で所定の期 間内に国籍選択をさせるといった手段を採用することも国籍立法の在り方としては傾聴に値すること等を踏まえても、国籍法11条1項は、その立法目的及びその目的を達成する手段がなお合理的であるといえるから、憲法10条により立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとは認められない。 以上によれば、国籍法11条1項は、憲法10条、13条及び22条2項、憲法98条2項に違反するものではない。 2 国籍法11条1項が憲法14条1項に反するか否か(争点1-2)について⑴ 判断枠組みについて憲法10条は、前記1⑴アで説示したとおり、国籍の得喪に関する要件を どのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨であるものであると解される。そして、憲法14条1項が法の下の平等を定めているのは、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、法的取扱いにおける区別が合理的な根拠に基づくものである限り、同項に違反するものではないから、上記のようにして定められた日本国籍の得喪に関する法律の要件によ って生じた区別につき、そのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、かつ、その区別の具体的な内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認められる場合には、当該区別は、合理的理由のない差別に当たるとはいえず、憲法14条1項に違反するということはできないものと解する のが相当である(最高裁昭和 判断の範囲を超えるものではないと認められる場合には、当該区別は、合理的理由のない差別に当たるとはいえず、憲法14条1項に違反するということはできないものと解する のが相当である(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日 大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月22日第二小法廷判決・裁判集民事208号495頁、最高裁平成20年判決、最高裁平成27年判決参照)。 ⑵ 国籍法が定める重国籍の解消方法に関する区別の合憲性についてア外国国籍の当然取得との区別について 日本国籍を有する者が身分行為等によって(自己の志望によらずに)外国国籍を当然取得した場合(例えば、外国人との婚姻等の身分行為によって外国国籍を取得した場合、親族の外国への帰化等に伴って外国国籍を取得した場合等。以下、このような態様による国籍の取得を「当然取得」ということがある。)には、当該者は、重国籍となった時から2年 以内(重国籍となった時が18歳に達する前であれば20歳に達するまで)にいずれかの国籍を選択しなければならず(国籍法14条1項)、日本国籍の選択の方法は、外国国籍を離脱することによるほか、日本国籍を選択し、かつ、外国国籍を放棄する旨の宣言(選択の宣言)をすることによって行うものとされている(同条2項)。 上記の場合における重国籍は、国際法上、国籍の得喪に関する立法が各国家の国内管轄事項であるとされており、当該外国の法律によって日本国籍を有する者に当該外国国籍が付与されることにより生ずるものであるから、この点を我が国の法律で規律することはできない。 そうすると、上記のように外国国籍を当然取得した日本国籍を有する 者に 者に当該外国国籍が付与されることにより生ずるものであるから、この点を我が国の法律で規律することはできない。 そうすると、上記のように外国国籍を当然取得した日本国籍を有する 者については、身分行為等によって何ら本人の意思を介在することなく外国国籍を取得したのであるから、直ちに日本国籍を失うこととはせず、前記のように、ひとまず重国籍の発生を許容した上で、国籍選択の機会を与えることにより、重国籍を解消させることは、その立法目的が合理的であり、その手段としても合理的であるといえる。 これに対し、日本国籍を有する者が自己の志望によって外国国籍を取 得した場合については、前記1⑶で説示したとおり、当該外国国籍を取得する前に日本国籍と外国国籍を選択する機会が与えられているものとみることができるから、外国国籍の取得後にあえて国籍選択の機会を付与する必要は乏しく、また、重国籍から生ずる弊害をできる限り防止する観点からは、速やかに日本国籍を喪失させることが望ましいといえる。 このようなことを踏まえ、国籍法11条1項は、自己の志望により外国国籍を取得したことにより日本国籍を当然に喪失する旨を規定したものである(前記1⑵・⑶参照)。 そうすると、国籍法が日本国籍を有する者が外国国籍を当然取得したか(前記・)又は自己の志望により取得したか(前記)により重 国籍の解消方法に関する区別をしたことについては、このような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものでないと認めることができる。 イ生来的取得により生ずる重国籍について 出生により日本国籍 立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものでないと認めることができる。 イ生来的取得により生ずる重国籍について 出生により日本国籍と外国国籍を取得する場合(例えば、ある個人が血統主義を採用する外国国籍を有する者とその配偶者である日本国民との間に生まれた場合、一方の親が日本国民であって生地主義を採る国で生まれた場合〔国籍法12条の規定により出生の時に遡って日本の国籍を失った者を除く。〕等。このような態様による国籍の取得を「生来的取 得」といい、これによる重国籍者を「生来的重国籍者」ということがある。)には、このような生来的重国籍者については、前記アで説示したところと同様に、同法14条1項により、所定の年齢までにいずれかの国籍を選択しなければならないとされている。 このような生来的重国籍者は、自らの意思によらずに外国の国籍を取 得することになるのであるから、前記のように、国籍選択の機会を与 えて事後的に重国籍を解消するものとすることは、前記アで説示したところと同様に、その立法目的が合理的であり、また、その手段として前記のように相当長期間の猶予期間を設けることも、重国籍の発生原因が出生であることに鑑みれば、合理的である。 これに対し、日本国籍を有する者が自己の志望による外国国籍を取得 した場合については、前記アのとおりである。 そうすると、国籍法が生来的重国籍者(前記・)と日本国籍を有する者で自己の志望により外国国籍を取得したもの(前記)とで重国籍の解消方法に関する区別をしたことについては、このような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、その区別の具体的内容が上記 の立法目的との関連において不合理なものではな 記)とで重国籍の解消方法に関する区別をしたことについては、このような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、その区別の具体的内容が上記 の立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認めることができる。 ウ外国国籍を有する者による日本国籍の志望取得との区別国籍法3条1項は、出生後に日本国民である親から認知された子について、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場であっ て、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、届出によって日本国籍を取得することができる旨を規定している。また、同法17条1項は、国籍留保制度によって日本国籍を失った者で20歳未満の者は、日本に住所を有するときは届出によって日本国籍の再取得ができる旨を規定している。さらに、同法5条 2項は、帰化を許可するに当たっては従前の国籍を喪失させることが必要であるところ、本人の意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合、特別の事情があると認めるときは、帰化を許可することができる旨を規定している。 前記のような外国国籍を有する者が日本国籍を志望取得する場合に ついては、国際法上、国籍の得喪に関する立法が各国家の国内管轄事項 であるとされているから、我が国の法律によってその者が日本国籍を取得する前に外国の法律によって付与された当該外国国籍を当然に喪失させることはできない。 そうすると、このような者については、前記のように、ひとまず日本国籍を取得させ、重国籍となることを許容せざるを得ず、その後に国 籍選択の機会を与えることによって重国籍を解消させることは、その立法目的が合理的であり、 については、前記のように、ひとまず日本国籍を取得させ、重国籍となることを許容せざるを得ず、その後に国 籍選択の機会を与えることによって重国籍を解消させることは、その立法目的が合理的であり、その手段としても合理的であるといえる。 これに対し、日本国籍を有する者が外国国籍を志望取得した場合については、前記アのとおりである。 そうすると、国籍法が外国国籍を有する者で日本国籍を志望取得した もの(前記・)と日本国籍を有する者で外国国籍を志望取得したもの(前記)とで重国籍の解消方法に関する区別をしたことについては、このような区別をすることの立法目的に合理的な根拠があり、その区別の具体的内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認めることが できる。 エ小括以上によれば、国籍法が定める重国籍の解消方法に関する区別(①外国国籍の当然取得、②生来的取得及び③日本国籍の志望取得の場合と外国国籍の志望取得〔国籍法11条1項〕の場合)については、そのような区別 をすることの立法目的に合理的な根拠があり、かつ、その区別の具体的な内容が上記の立法目的との関連において不合理なものではなく、立法府の合理的な裁量判断の範囲を超えるものではないと認められるから、当該区別は、差別的な取扱いに当たるとはいえず、憲法14条1項に違反するとはいえない。 ⑶ 原告の主張について以上の説示に反する原告の主張は、いずれも採用することができないが、所論に鑑み、補足して説明する。 ア国籍法が定める重国籍の解消方法に関する区別に関して 原告は、外国国籍の当然取得及び生来的取得の場合 主張は、いずれも採用することができないが、所論に鑑み、補足して説明する。 ア国籍法が定める重国籍の解消方法に関する区別に関して 原告は、外国国籍の当然取得及び生来的取得の場合について、国籍法 は、複数国籍の発生を広く認めた上で、その解消を本人の選択に委ねる一方、国籍法11条1項は、複数国籍の発生そのものを防止する規定であり、同法11条1項の適用を受ける者は、国籍選択の機会を与えられずに当然に日本国籍を喪失させるものであって、本人の意思を尊重して複数国籍の解消を行い、最終的には複数国籍であり続けることを可能と している国籍法の全体の仕組みの中で、複数国籍に対処する手段として過剰であること等を主張する(別紙4.第1の2(原告の主張)⑴)。 しかしながら、前記⑵で説示したとおり、重国籍をできる限り解消するための手段としてどのような制度を設けるのが相当であるかは、重国籍が生じた原因によって異なり得るところ、原告が差別的取扱いである と主張する区別は、いずれも前提となる制度の趣旨・目的や要件を異にすることによるものであることに照らすと、各取扱いとの差異が生ずることについては合理的であるといえるから、原告の上記主張は、採用することができない。 原告は、重国籍の防止という観点からすれば、日本国籍の志望取得を した外国国籍を有する者も、外国国籍の志望取得をした日本国籍を有する者も何ら違いはないこと等を指摘し、両者の区別(複数国籍を発生させた上で事後的にその解消を本人の意思に委ねるか否か等の差異)が不合理な差別的取扱いに当たる旨を主張する(別紙4.第1の2(原告の主張)⑴ウ)。 しかし、そもそも原告が指摘する国籍法3条1項、17条1項及び5 の差異)が不合理な差別的取扱いに当たる旨を主張する(別紙4.第1の2(原告の主張)⑴ウ)。 しかし、そもそも原告が指摘する国籍法3条1項、17条1項及び5 条2項が適用される場面では、前記⑵ウのように、いずれも元々外国国籍を有していた者が届出や帰化によって日本国籍を取得した場合に、元々有していた外国国籍の喪失を問題としているのであって、日本国籍喪失の要件に関する区別ではない。両者は、全く異なる場面を想定した規定であるから、単純に比較すること自体が相当ではなく、原告主張の 上記区別は、憲法14条違反を根拠付けるものとはいえない。原告の上記主張は、採用することができない。 イ法の不知への対処の相違に関して原告は、国籍法11条1項の適用対象者には、同項の存在を知らずに外国国籍を取得した場合も一律かつ機械的に日本国籍を喪失させられてし まい、「法律の不知」によって日本国籍を喪失させられないためのセーフガードがないのに対し、国籍選択制度の適用対象者には、「法律の不知」のせいで日本国籍を喪失することがないように、選択催告というセーフガードが設けられているという区別があり、この区別に合理的根拠はないとして、国籍法11条1項が憲法14条1項に反する旨を主張する(別紙4.第1 の2(原告の主張)⑵)。 しかしながら、このような区別が生ずる理由は、前記⑵で説示したとおりであり、このような区別は合理的理由のない差別に当たらない。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 ウ社会的身分に基づく幸福追求権の享受に係る差別に関して 原告は、国籍法11条1項が、憲法22条2項が保障する外国移住の自由を行使した者であって、日本国民のうち家族 い。 ウ社会的身分に基づく幸福追求権の享受に係る差別に関して 原告は、国籍法11条1項が、憲法22条2項が保障する外国移住の自由を行使した者であって、日本国民のうち家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまったという社会的身分(社会生活上継続的に占める地位)を有する者にだけ適用される条項であることを前提に、社会的身分という憲法14条1項列挙事由を理由とする差別であるとして、憲法14条 1項に反すると主張する(別紙4.第1の2(原告の主張)⑶)。 しかしながら、国籍法11条1項は、外国国籍を志望取得した者に適用されるものであり、原告が主張するような日本国民のうち家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまった者のすべてに適用されるわけではない。他方、これらの者以外の者であっても、自己の志望により外国国籍を取得すれば、同項が適用される。 したがって、原告の上記主張は、その前提を欠き、採用することができない。 エ適用の不平等に関して原告は、日本政府において、本人の自己申告がない限り、外国国籍を志望取得した者を原則として把握できないため、国籍法11条1項は、外国 国籍を志望取得した事実がたまたま発覚した者と当該事実を自己申告した者のみに適用され、それらの者のみを不利益に扱うという事態を生じさせ、外国国籍を志望取得した日本国民の間で実質的に不衡平な扱いを広範かつ不可避的に生じさせるものであって、憲法14条1項に反する旨を主張する(別紙4.第1の2(原告の主張)⑷)。 しかし、国籍法11条1項は、外国国籍を志望取得した者は、戸籍法上の手続等を行わなくても当然にその適用を受け、外国国籍を志望取得した時点で自動的に日本国籍を喪失することを定める ⑷)。 しかし、国籍法11条1項は、外国国籍を志望取得した者は、戸籍法上の手続等を行わなくても当然にその適用を受け、外国国籍を志望取得した時点で自動的に日本国籍を喪失することを定めるものである。したがって、国籍法11条1項は、国籍喪失届出をした者とこれをしない者との取扱いの区別を定めるものではなく、これ自体が原告主張のような不利益な取扱 いや不公平な扱いを生じさせるものではない。 よって、原告の上記主張は、採用することができない。 ⑷ 争点1−2の結論以上によれば、国籍法11条1項が、前記⑵のように①日本国籍を有する者による外国国籍の当然取得若しくは生来的取得又は外国国籍を有する者に よる日本国籍の志望取得の場合と②日本国籍を有する者による外国国籍の志 望取得の場合とで、重国籍の解消方法に関する区別を生じさせていることは、そのような重国籍が生じた原因に応じてこれを解消するための合理的な手段が採用されたことによるものであり、合理的理由のない差別に当たらないから、国籍法11条1項は、憲法14条1項に違反するものではない。 3 本件処分が無効であるか否か(争点2)及び原告の日本国籍の有無(争点3) について⑴ 日本国籍を失った者は、一般旅券の発給を受けることができないものと解される(旅券法18条1項1号参照)。 ⑵ これを本件についてみると、前記1及び2で説示したとおり、国籍法11条1項は、憲法10条、22条2項、13条、98条2項及び14条1項に 反するものではなく、違憲無効であるとは認められないところ、前提事実によれば、原告は、2004年(平成16年)頃、自己の意思で米国の国籍を取得したのであるから(前提事実第3の1⑶)、その頃、国籍法11条1項に基づき、米国の 効であるとは認められないところ、前提事実によれば、原告は、2004年(平成16年)頃、自己の意思で米国の国籍を取得したのであるから(前提事実第3の1⑶)、その頃、国籍法11条1項に基づき、米国の国籍の取得に伴い日本国籍を喪失したものと認められる。 ⑶ よって、原告は日本国籍を有しておらず、外務大臣が原告に対して平成3 0年8月1日付けでした旅券不発給処分(本件処分)は有効である。 以上の説示に反する原告の主張は、採用することができない。 4 国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点4)について⑴ 原告の主張の要旨 原告は、国籍法11条1項が、憲法10条、13条、22条2項及び憲法14条1項に違反していることを前提として、違憲無効な国籍法11条1項によって日本国籍を喪失したものとして扱われたことにより、精神的損害を被ったとして、被告の立法不作為の違法を主張する。 ⑵ 検討 アしかしながら、国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使 に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ、国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反し たかどうかの問題であり、立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのことから直ちに国会議員の立法 きものである。そして、上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのことから直ちに国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法の評価を受けるものではない。 もっとも、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては、国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして、例外的に、その 立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁、最高裁平成13年(行ツ)第82号、同第83号、平成13年(行ヒ)第76号、同第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平 成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。 イこれを本件についてみると、国籍法11条1項が、憲法10条、13条及び22条2項並びに14条1項に違反するものでないことは、前記1及び2で説示したとおりであるから、国籍法11条1項を改正しなかった立 法不作為をもって、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとは認められ ない。 ⑶ 結論したがって、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告の請求は、理由がない。 5 本件処分の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点5)につい て⑴ 原告の主張 したがって、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告の請求は、理由がない。 5 本件処分の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点5)につい て⑴ 原告の主張の要旨原告は、①違憲無効な国籍法11条1項に基づく本件処分が違憲無効であること、②外務大臣は、原告が2008年(平成20年)に一般旅券の発給の申請をした際は、何の問題もなく一般旅券の発給をしたにもかかわらず、 その後、従前の取扱いを変更して原告に対して日本国籍喪失の疑いがあることを理由として本件処分(旅券不発給処分)をしたことは、禁反言の法理に反すること、③本件処分は、原告の米国国籍の取得の事実がたまたま外務大臣によって把握されたがゆえの不利益処分であり、平等原則に反し、違法であることを主張する。 ⑵ 検討ア ①の点についてこの点に関する原告の主張を採用することができないことは、前記3で説示したとおりである。 イ ②の点について 前提事実により指摘することができる次の事情に照らせば、外務大臣は、原告に対し、2008年(平成20年)の一般旅券の発給をした際には、原告が日本国籍を喪失していることを認識していたとはいえないから、その後に原告が日本国籍を喪失したことを理由に旅券不発給とする処分(本件処分)をしたとしても、禁反言の法理に反するとはいえない。 原告は、2004年(平成16年)頃、自らの意思で米国の国籍を取 得した(前提事実第3の1⑶)。 ところが、原告は、2008年(平成20年)1月、一般旅券の発給の申請をした際、一般旅券発給申請書の「外国国籍を併せ有している場合」のチェック欄を空欄にして、同月、外務大臣から一般旅券の発給を受けていた(前提事実第3の2⑴ 年(平成20年)1月、一般旅券の発給の申請をした際、一般旅券発給申請書の「外国国籍を併せ有している場合」のチェック欄を空欄にして、同月、外務大臣から一般旅券の発給を受けていた(前提事実第3の2⑴・⑵)。 その後、在ロサンゼルス総領事館領事らは、2010年(平成22年)頃、情報誌に掲載された原告の二重国籍に関する記事及びその後の原告との面談を通じて、原告が自己の志望により米国国籍取得を把握したことを認識した(前提事実第3の3⑴・⑵)。 ウ ③の点について 前記で指摘した事情に照らせば、本件処分は、法に基づきされたものであり、その過程に不適切な点は見当たらない。 原告の主張するような真実は外国国籍及び日本国籍を有している者が、そのことを明らかにせずに、国籍法に反して事実上の便益を得ている事例が存在するとしても、これと上記のような原告の事例とを同列に論じるこ とは相当ではなく、そのことをもって本件処分が平等原則に違反するとはいえない。 ⑶ 結論よって、原告の上記主張は、いずれも採用することができないから、その余の点を判断するまでもなく、この点に関する原告の請求は、理由がない。 6 国籍法11条1項の周知徹底に係る国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点6)⑴ 原告の主張の要旨原告は、被告が、国籍法11条1項の適用対象者である外国国籍の志望取得者に関して、「法律の不知」により日本国籍を喪失する不利益を防ぐセーフ ガード(選択催告〔国籍法15条〕参照)を設けていないにもかかわらず、 日本国籍の喪失という重大な結果をもたらす国籍法11条1項の存在と適用場面等について全国民に効果的に周知徹底すべき義務を怠ってきた旨を主張する。 ⑵ 検討ア いにもかかわらず、 日本国籍の喪失という重大な結果をもたらす国籍法11条1項の存在と適用場面等について全国民に効果的に周知徹底すべき義務を怠ってきた旨を主張する。 ⑵ 検討ア国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた 法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集5 8巻4号1032頁、最高裁平成13年(オ)第1194号、第1196号、同年(受)第1172号、第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁、最高裁平成26年(受)第771号同年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁、最高裁平成30年(受)第1447号、第1448号、第1449号、第1451号、 第1452号令和3年5月17日第一小法廷判決・民集75巻5号1359頁等参照)。そして、国又は公共団体が、上記公務員が規制権限を行使しなかったことを理由として同項に基づく損害賠償責任を負うというためには、上記公務員が規制権限を行使していれば上記の者が被害を受けることはなかったであろうという関係が認められなければならない(最高裁令和 3年(受)第1205号同4年6月17日第二小法廷判決・裁判集民事268号37頁)。以上のことは、国の公務員による法律の施行及び執行に関する権限の不行使に関しても、同様に解することができる。 イこれを本件についてみると、前提事実及び掲記の証拠によれば、次の事情を指摘する 頁)。以上のことは、国の公務員による法律の施行及び執行に関する権限の不行使に関しても、同様に解することができる。 イこれを本件についてみると、前提事実及び掲記の証拠によれば、次の事情を指摘することができる。 成文の法令が一般に国民に対し、現実にその拘束力を発動する(施行 される)ためには、その法令の内容が一般国民の知り得べき状態に置かれることを前提条件とするが、憲法は、法令の内容を一般国民の知り得べき状態に置く方法として法律の公布(憲法7条1号)を採用し、その公布の方法は原則として官報によってされるものと解されている。 法務省は、基本法制の維持及び整備、法秩序の維持、国民の権利擁護、 国の利害に関係のある争訟の統一的かつ適正な処理並びに出入国及び外国人の在留の公正な管理を図ることを任務とし(法務省設置法3条1項)、その任務を達成するため、①民事法制に関する企画及び立案に関すること、②国籍、戸籍、登記、供託及び公証に関すること等の事務をつかさどる(同法4条1項1号、21号)とされている。 昭和59年改正に係る法律(国籍法11条1項の規定を含む。)は、昭和59年5月25日に公布されたから(前提事実第3の6⑴)国籍法11条1項は、一般に国民に対し、現実にその拘束力を発動した(施行された)ものと認められる。 原告は、1997年(平成9年)頃、米国A州の弁護士資格を取得し、 それ以降、米国に在住する日本人等を対象とする日米関係法律相談や弁護活動(これには、国籍法関連の相談も含まれる。)を行い、2010年(平成22年)10月に雑誌に掲載された二重国籍をテーマにした法律相談記事(乙5〔4~12枚目〕)において、国籍法改正運動に参加していたなどの自己の経験や重国籍に関する自己の見解等を記載していた 年(平成22年)10月に雑誌に掲載された二重国籍をテーマにした法律相談記事(乙5〔4~12枚目〕)において、国籍法改正運動に参加していたなどの自己の経験や重国籍に関する自己の見解等を記載していた (前提事実第3の3、甲104)。 原告は、上記の間の2004年(平成16年)頃、自己の意思で米国の国籍を取得した。 なお、法務省は、少なくとも現在、ホームページに「国籍Q&A」と題する記事を掲載し、その中で国籍法11条1項の説明等をしている(前 提事実第3の6⑵)。 ウ以上の事情によれば、法務省(法務大臣及び法務省民事局の担当者等を総称する趣旨である。以下同じ。)は、国籍法の施行及び執行(国籍に関する事務を含む。)に関する権限を有し、少なくとも国籍法11条1項の施行に必要な行為を適切に行っていたものであるが、他方、原告は、米国A州弁護士として上記イのような活動をしていた最中の平成16年頃、自己 の意思で米国の国籍を取得したものであり、国籍法11条1項の存在・内容を認識していたことがうかがわれることからすると、仮に、法務省が、上記の行為に加えて、上記権限の行使として原告の主張するような国籍法11条1項の存在と適用場面等について全国民に効果的に周知徹底するために必要な行為を行っていたとしても、原告が上記のとおり米国の国籍を 取得していた可能性は否定し難い。そうすると、本件の事実関係の下においては、法務省が原告の主張するような態様により上記権限を行使していれば原告が平成16年に米国の国籍を取得せず日本国籍を喪失することがなかったであろうという関係を認めることはできないというべきである。 したがって、被告は、法務省が日本国籍の喪失という重大な結果をもた らす国籍法11条1項の存在と適用場面等 を喪失することがなかったであろうという関係を認めることはできないというべきである。 したがって、被告は、法務省が日本国籍の喪失という重大な結果をもた らす国籍法11条1項の存在と適用場面等について全国民に効果的に周知徹底する行為をしなかったことを理由として、原告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うということはできない。 ⑶ 結論よって、原告の上記主張は採用することができないから、その余の点を判 断するまでもなく、この点に関する原告の請求は、理由がない。 7 結論以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第1民事部 裁判長裁判官林史高 裁判官柴田啓介 裁判官本城伶奈 (別紙1)当事者目録(省略) (省略) (別紙2の1)国籍法〔昭和25年5月4日号外法律第147号〕 (この法律の目的)第1条日本国民たる要件は、この法律の定めるところによる。 (出生による国籍の取得)第2条子は、次の場合には、日本国民とする。 ① 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。 ② 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。 ③ 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。 (認知された子の国籍の取得)第3条 1 父又は母が認知した子で18歳未満のもの(日本国民であつた者 本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。 (認知された子の国籍の取得)第3条 1 父又は母が認知した子で18歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。 2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。 (帰化)第4条 1 日本国民でない者(以下「外国人」という。)は、帰化によつて、日本の国 籍を取得することができる。 2 帰化をするには、法務大臣の許可を得なければならない。 第5条 1 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。 ① 引き続き5年以上日本に住所を有すること。 ② 18歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。 ③ 素行が善良であること。 ④ 自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。 ⑤ 国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。 ⑥ 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。 2 法務大臣は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは、その者が前項第5号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは、その者が前項第5号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。 (国籍の喪失)第11条 1 日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。 2 外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選 択したときは、日本の国籍を失う。 第12条出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。 第13条 1 外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を離脱することができる。 2 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を失う。 (国籍の選択)第14条 1 外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに、その時が1 8歳に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。 2 日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言(以下「選択の宣言」という。)をすることによつてする。 第15条 1 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第1項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告すること つてする。 第15条 1 法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条第1項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。 2 前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によつてすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。 3 前2項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から1月以内に日 本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。 ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によつてその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をすることができるに至つた時から2週間以内にこれをしたときは、この限りでない。 第16条 1 選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。 2 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失つていないもの が自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であつても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。 3 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければな らない。 4 第2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。 5 第2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。 (国籍の再取得) 第17条 らない。 4 第2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。 5 第2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。 (国籍の再取得) 第17条 1 第12条の規定により日本の国籍を失つた者で18歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。 2 第15条第2項の規定による催告を受けて同条第3項の規定により日本の国籍を失つた者は、第5条第1項第5号に掲げる条件を備えるときは、日本 の国籍を失つたことを知つた時から一年以内に法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。ただし、天災その他その者の責めに帰することができない事由によつてその期間内に届け出ることができないときは、その期間は、これをすることができるに至つた時から1月とする。 3 前2項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を取得する。 以上 (別紙2の2)旅券法〔昭和26年11月28日法律第267号・令和4年4月27日法律第33号による改正前のもの〕 (一般旅券の発給の申請)第3条 1 一般旅券の発給を受けようとする者は、外務省令で定めるところにより、次に掲げる書類及び写真を、国内においては都道府県に出頭の上都道府県知事を経由して外務大臣に、国外においては最寄りの領事館 (領事 館が設置されていない場合には、大使館又は公使館。以下同じ。)に出頭の上領事官(領事館の長をいう。以下同じ。)に提出して、一般旅券の発給を申請しなければならない。ただし、国内において申請する場合において、急を要し、かつ、都道府県知事又 は公使館。以下同じ。)に出頭の上領事官(領事館の長をいう。以下同じ。)に提出して、一般旅券の発給を申請しなければならない。ただし、国内において申請する場合において、急を要し、かつ、都道府県知事又は外務大臣がその必要を認めるときは、直接外務省に出頭の上外務大臣に提出することができる。 ① 一般旅券発給申請書② 戸籍謄本又は戸籍抄本③ 申請者の写真④ 渡航先の官憲が発給した入国に関する許可証、証明書、通知書等を申請書に添付することを必要とされる者にあつては、その書類 ⑤ 前各号に掲げるものを除くほか、渡航先及び渡航目的によつて特に必要とされる書類⑥ その他参考となる書類を有する者にあつては、その書類2~5 略 (一般旅券の発給等の制限) 第13条 1 外務大臣又は領事官は、一般旅券の発給又は渡航先の追加を受けようとする者が次の各号のいずれかに該当する場合には、一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる。 ① 渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められな い者② 死刑、無期若しくは長期二年以上の刑に当たる罪につき訴追されている者又はこれらの罪を犯した疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者 ③ 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者④ 第23条の規定により刑に処せられた者⑤ 旅券若しくは渡航書を偽造し、又は旅券若しくは渡航書として偽造された文書を行使し、若しくはその未遂罪を犯し、刑法(明治40法 律第45号)第155条第1項又は第158条の規定により刑に処せられた者⑥ 国の援助等を必要とする帰国者 は渡航書として偽造された文書を行使し、若しくはその未遂罪を犯し、刑法(明治40法 律第45号)第155条第1項又は第158条の規定により刑に処せられた者⑥ 国の援助等を必要とする帰国者に関する領事官の職務等に関する法律(昭和28年法律第236号)第1条に規定する帰国者で、同法第2条第1項の措置の対象となつたもの又は同法第3条第1項若しくは 第4条の規定による貸付けを受けたもののうち、外国に渡航したときに公共の負担となるおそれがあるもの⑦ 前各号に掲げる者を除くほか、外務大臣において、著しく、かつ、直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者 2 略 (旅券の失効)第18条 1 旅券は、次の各号のいずれかに該当する場合には、その効力を失う。 ① 旅券の名義人が死亡し、又は日本の国籍を失つたとき。 ②~⑦ 略 2 略以上 (別紙3の1)前提事実 第1 国籍法11条1項の沿革等について 1 国籍法(明治32年法律第66号)について(甲12、20、21、乙8、15)⑴ 国籍法(明治32年法律第66号。以下「旧国籍法」という。)は、出生による国籍の取得につき、父系血統主義を採用するとともに、無国籍の防止に 配慮し、日本で出生した子で父母がともに知れないもの又は父母がともに無国籍であるものは、出生により日本国籍を取得するものとし、補充的に生地主義を採用していた。 旧国籍法は、国籍喪失事由として、外国人の妻となった場合等、身分行為又は身分関係に基づく当然の喪失を認めていたほか、「自己ノ志望ニ依リテ 外國 るものとし、補充的に生地主義を採用していた。 旧国籍法は、国籍喪失事由として、外国人の妻となった場合等、身分行為又は身分関係に基づく当然の喪失を認めていたほか、「自己ノ志望ニ依リテ 外國ノ國籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ」(20条)として、自己の志望による外国国籍の取得による国籍の喪失を認めていたが、国籍の喪失については、17歳以上の男子は既に陸海軍の現役に服したとき又はこれに服する義務がないこと及び現に文武の官職を帯びていないことといった一般的制限(24条)があった。 なお、立案担当者は、旧国籍法20条の趣旨について、「自己ノ意思ヲ以テ日本ヲ離レテ外國ノ國籍ニ入ル者ハ強ヒテ之ヲ日本人ト為シ置クモ毫モ日本ニ益ナキノミナラス國籍ノ積極的衝突ヲ生スル弊害アリ」と指摘していた(甲20〔66~67頁〕)。 ⑵ 大正5年以降、在米邦人に対する排日運動を背景として、日本国籍を喪失 し、完全な米国人になることを目的とする帰化制度促進のため、旧国籍法に 国籍離脱に関する条項(20条の2等)が整備されるなどした。 ⑶ 昭和13年(1938年)頃には、旧国籍法20条の趣旨について、国籍非強制の原則及び二重国籍の発生防止を挙げる見解(實方正雄「國籍法」(昭和13年、日本評論社)。甲21・乙15〔57頁〕)が存在した。 2 昭和25年の国籍法全面改正について(甲12、23~29、乙39) ⑴ 日本国憲法の制定により、個人の尊厳及び両性の本質的平等が立法の基本原則(同法24条)とされ、国籍離脱の自由(同法22条)が保障されたことに伴い、昭和25年に旧国籍法が廃止され、現行の国籍法(昭和25年法律第147号。以下においては、旧国籍法と区別する趣旨で「現行国籍法」ということがあり、また、「国籍法」とは、現行の国籍法 れたことに伴い、昭和25年に旧国籍法が廃止され、現行の国籍法(昭和25年法律第147号。以下においては、旧国籍法と区別する趣旨で「現行国籍法」ということがあり、また、「国籍法」とは、現行の国籍法を指す。)が制定さ れた。 ⑵ 現行国籍法は、出生による国籍の取得につき、父系血統主義が維持されたが、国籍離脱の自由を規定する憲法22条2項を受け、国籍離脱の制限を撤廃し、外国国籍を有する日本国民は、全て、届出により、日本国籍を離脱することができるものとされた。また、旧国籍法20条の規定は、現行国籍法 8条(現在の11条1項)として踏襲されており、立案担当者は、衆議院における法案審議において、同条の趣旨について、国籍変更の自由を認めるとともに、国籍の抵触を防止することであると説明した。上記法案審議において、上記趣旨につき、異論や疑問が呈されたことは、確認することができない。 なお、上記法案審議における、国籍の離脱を定めた現行国籍法10条に係る質疑の中で、政府委員(立案担当者)は、憲法22条2項所定の国籍離脱の自由につき、他国の国籍を持つ者に対し、自国の国籍を強制しないという国籍法上の原則を制定したものであること、無国籍者の発生防止(国籍の消極的抵触の防止)と二重国籍の発生防止が各国国籍立法の共通の理想であり、 憲法22条2項の規定も、その趣旨で解すべきであると理解していること、 国籍法10条は国籍離脱の自由を国籍法によって明確にした趣旨である旨を説明している。 3 昭和59年の国籍法等改正について(乙8、16)⑴ 日本政府が昭和55年に署名した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備え、現行国籍法が制定された昭和25年以来の 国際情勢及び社会情勢の変化(渉外婚姻が増加し 6)⑴ 日本政府が昭和55年に署名した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備え、現行国籍法が制定された昭和25年以来の 国際情勢及び社会情勢の変化(渉外婚姻が増加し、日本国民の子で日本国籍を有しないものの数が増加したこと、日本国民の親族で日本国籍を有しない者の大多数が我が国への定住を希望する傾向にあったこと、両性平等の意識が昂揚したこと)に対応するため、昭和59年法律第45号「国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律」が成立した(以下、同法による国籍法の改正を 「昭和59年改正」という。)。 ⑵ 昭和59年改正による主要な改正点は、次の①~⑥が挙げられる。なお、昭和59年改正後の国籍法においても、11条1項が「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う」と規定し、自己の志望によって外国国籍を取得したときに日本国籍を失う旨の規定が 存続した。 ① 出生による国籍の取得について、父系血統主義を改め、父母両系血統主義を採用したこと② 準正により日本国民の嫡出子たる身分を取得した者について、届出による国籍取得の制度を新設したこと ③ 日本国民の配偶者である外国人の帰化条件について、その者が夫であるか妻であるかにかかわらず同一の条件を定めるとともに、生計要件、重国籍防止条件等の帰化の条件を整備したこと④ 国籍留保制度を国外で出生した血統による重国籍者にも適用する等、国籍留保制度を整備し、国籍再取得制度を新設したこと ⑤ 重国籍者は成年に達した後、所定期間内にいずれかの国籍を選択しな ければならないものとする国籍選択制度を新設したこと⑥ 経過措置として、改正法施行前に日本国民たる母から出生した子で所定の要件を満たすものは、届出により日 内にいずれかの国籍を選択しな ければならないものとする国籍選択制度を新設したこと⑥ 経過措置として、改正法施行前に日本国民たる母から出生した子で所定の要件を満たすものは、届出により日本国籍を取得し得るものとしたこと第2 諸外国における複数国籍に係る制度について 1 複数国籍に係る国際的動向(甲44、122)オランダのマーストリヒト大学の研究チームの調査によれば、自己の志望によって外国国籍を取得した場合の国籍自動喪失制度がなく、複数国籍に寛容な国・地域(台湾を含む。以下、単に「国」と表記し、これらの国を「重国籍容認国」という。)は、1960年には39%(85か国中33か国)、1984 年には42%、1997年には54%、2018年には75%(195か国中146か国)、2020年には76.9%(195か国中150か国)に増えたことが報告されており、重国籍容認国は、過去60年間に、世界各国の約3分の1から約4分の3へと増加したとされている。また、同研究チームの分析によれば、重国籍容認国は、2020年1月現在、アメリカ(北米、中南米)が9 1%、オセアニアが83%、ヨーロッパ諸国が80%、アフリカが70%、アジア(アジア、中東)が65%である。 2 諸外国における外国国籍を志望した場合の原国籍の扱いについて諸外国における外国国籍を志望した場合の原国籍の扱いについては、別紙3の2のとおりである(弁論の全趣旨)。 第3 本件に係る事実関係 1 原告について⑴ 原告は、昭和22年、日本国籍を有する父の子として出生し、出生により、日本国籍を取得した。 ⑵ 原告は、昭和46年頃(1971年頃)、渡米し、その後、グリーンカード を取得した。また、原告は、1997年頃(平成9年頃 有する父の子として出生し、出生により、日本国籍を取得した。 ⑵ 原告は、昭和46年頃(1971年頃)、渡米し、その後、グリーンカード を取得した。また、原告は、1997年頃(平成9年頃)、米国A州の弁護士 資格を取得した。 ⑶ 原告は、2004年(平成16年)頃、自己の意思で米国の国籍を取得した。 2 平成20年の一般旅券発給申請⑴ 原告は、平成20年1月28日、一般旅券の発給の申請を行った。原告が その際に提出した一般旅券発給申請書(乙4〔1・2枚目〕)は、「外国国籍を併せ有している場合」の欄が空欄にされていた。 ⑵ 外務大臣は、平成20年1月30日付で旅券を発給し、原告は、同年4月6日、旅券の交付を受けた。(乙4) 3 国籍喪失が疑われるに至った経緯 ⑴ 2010年(平成22年)10月頃、A州の在留邦人向け無料月刊情報誌に、二重国籍をテーマにした法律相談記事(乙5〔4~12枚目〕)が掲載された。原告は、同記事において、A州の日本人弁護士として、二重国籍に関する意見を述べる中で、原告は、「私は自分の意思で米国国籍を取りました」として、自己の志望により米国籍を取得していることを明らかにしていた。 在ロサンゼルス総領事館職員は、同月、同雑誌の上記記載を確認した。 (乙5)⑵ 在ロサンゼルス領事館領事らは、2010年(平成22年)11月、原告と面談を行った。その際、原告は、平成15年~16年頃、自らの意思で米国籍を取得し、上記2⑴の申請の際には、国籍法11条1項に該当することを認識した上で、あえて「外国国籍を併せ有している場合」欄を未記入とし て一般旅券発給申請書を提出して旅券を取得した旨を述べた。同領事らは、原告に対し、国籍喪失の届け出に係る書類を渡し、そ とを認識した上で、あえて「外国国籍を併せ有している場合」欄を未記入とし て一般旅券発給申請書を提出して旅券を取得した旨を述べた。同領事らは、原告に対し、国籍喪失の届け出に係る書類を渡し、その提出を促したところ、原告は、「努力します。」などと述べた。(乙5) 4 平成29年の一般旅券発給申請及び本件処分⑴ 原告は、平成29年12月18日、東京都旅券課有楽町分室において、一 般旅券の発給の申請を行った。 原告がその際に提出した一般旅券発給申請 書(乙6〔1・2枚目〕)は、担当職員による原告に対する確認を経た後の時点で、「現在外国の国籍を有していますか。(※該当する枠内に✓印を記入してください)」との質問欄について、「いいえ」に印が付けられた状態であった。 ⑵ 外務省領事局旅券課は、前記3のとおり、原告が自己の意思により米国籍 を取得したとの情報を把握していたことから、平成29年12月20日、東京都旅券課有楽町分室に対して、原告は自己の志望による米国籍取得により日本国籍は喪失しているため、本申請にかかる旅券は発給できないこと、原告に対して一般旅券発給申請の取下げを求めるようにすることを伝えた。 (乙7) ⑶ 原告は、 平成29年12月22日、東京都旅券課有楽町分室を訪れたが、一般旅券発給申請の取下げをしなかった。(乙7)⑷ 外務大臣は、平成30年8月1日、原告の一般旅券発給申請につき、旅券不発給とする処分(本件処分)をした。 5 本件訴えの提起 原告は、令和4年6月2日、被告を相手に、本件訴えを提起した。 6 昭和59年改正後の国籍法の公布等⑴ 昭和59年改正に係る法律は、昭和59年5月25日、官報により公布された(公知の事実)。 ⑵ 法 6月2日、被告を相手に、本件訴えを提起した。 6 昭和59年改正後の国籍法の公布等⑴ 昭和59年改正に係る法律は、昭和59年5月25日、官報により公布された(公知の事実)。 ⑵ 法務省は、ホームページに「国籍Q&A」と題する記事を掲載しており、 その中で「Q12:日本国籍を喪失するのは、どのような場合ですか」として、「自己の志望による外国国籍の取得(国籍法第11条第1項)」等を紹介している(甲4)。 以上 (別紙3の2) 添付省略 (別紙4)争点に関する当事者の主張 第1 国籍法11条1項の合憲性(争点1) 1 憲法10条、13条、22条、98条2項に反するか否か(争点1-1) (原告の主張)⑴ 日本国籍の剥奪に対する憲法原理等による制約国籍法11条1項は、日本国籍の放棄・離脱の規定ではなく、外国国籍の志望取得という外形的行為の存在を理由として、本人の内心の意思とは無関係に日本国籍を剥奪する規定である。 日本国憲法における日本国籍は、我が国の構成員としての資格であるとともに、我が国において基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位であり、日本国民から日本国籍を剥奪することは、次のア〜エのとおり、㋐国民主権原理、㋑基本的人権尊重原理、㋒「個人の尊重」原理(憲法13条)、㋓憲法22条2項及び98条2項(国 際慣習法である「専断的(恣意的)な国籍剥奪の禁止」原則違反)により、厳しく制約される。 ア国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理による制約憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわ る「専断的(恣意的)な国籍剥奪の禁止」原則違反)により、厳しく制約される。 ア国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理による制約憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すなわち我が国の国籍を有する者であり、日本国籍は、日本国の統治者たる主権者としての資 格を意味する。そして、憲法の国民主権原理は、すべての国民に選挙を通じた国政への参加を固有の権利として保障しており、個人の尊重原理(憲法13条)の下、憲法の国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理は、すべての国民が代表民主制の過程に参加し続けられることを、統治機構の在り方に関する最も根本的な要請として求めている。 日本国籍の剥奪は、日本国民から憲法の正統性の淵源にして、日本国の 統治者たる主権者としての資格を奪い、代表民主制への参加等の固有の権利を喪失させて、代表民主制が要請する政治参加の過程から追放させる事態を招来するものであり、憲法が定める国民主権原理及び代表民主制の原理に基づく統治の在り方に関する最も根本的な要請に反し、原則として許されない。 したがって、日本国籍の剥奪を定める法律は、国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理に反して憲法10条の委任の範囲を逸脱し、違憲であると推定される。その違憲審査に当たっては立法目的及び手段について、違憲の推定を覆す事情の有無が厳格に審査されなければならない。 イ基本的人権尊重原理による制約 基本的人権尊重原理は、日本国憲法制定の目的たる原理であり、その実現手段である国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理は、基本的人権が保障されてこそ有効に機能し、憲法が追求する基本的人権保障に結実していく。 日本国籍の剥奪は、基本的人権保障の土台を根こそぎ奪うもの ある国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理は、基本的人権が保障されてこそ有効に機能し、憲法が追求する基本的人権保障に結実していく。 日本国籍の剥奪は、基本的人権保障の土台を根こそぎ奪うもので、日本 国籍に結び付いた諸権利及び諸々の自由とそれらの保障を包括的かつ全面的に失わせるものであり、日本国憲法制定の目的の否定ともいえ、原則として許されない。 したがって、日本国籍の剥奪を定める法律は、基本的人権尊重原理に反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱し、違憲であると推定される。その違 憲審査に当たっては立法目的及び手段について、違憲の推定を覆す事情の有無が厳格に審査されなければならない。 ウ 「個人の尊重」原理による制約「個人の尊重」原理(憲法13条)は、立憲主義及び基本的人権保障の基盤であって、全法秩序の指針となる憲法の根本原理であり、国民一人ひ とりの存在の唯一性、代替不能性及び自己同一性(アイデンティティ)を 承認した上で、例えば、各人が自認する自己の存在意義や生きる目的を尊重し(アイデンティティと人格権)、各人が自己にとって重要な事項について自由に決定すること(自己決定権の行使)、各人が自己の存在意義や生きる目的の実現のために自由に活動すること(幸福追求権の行使)を最大限尊重することを要請する。 日本国籍の剥奪は、「個人の尊重」原理に反してアイデンティティや人格権、日本国籍離脱に関する自己決定権、幸福追求権を侵害するものであるから、原則として許されない。 したがって、日本国籍の剥奪を定める法律は、憲法の根本原理たる「個人の尊重」原理(憲法13条)に反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱し、 違憲であると推定される。その違憲審査に当たっては立法目的及び手段について、違 剥奪を定める法律は、憲法の根本原理たる「個人の尊重」原理(憲法13条)に反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱し、 違憲であると推定される。その違憲審査に当たっては立法目的及び手段について、違憲の推定を覆す事情の有無が厳格に審査されなければならない。 エ憲法22条2項及び憲法13条による制約憲法22条2項は、①「自由」という文言が、一般に不作為の自由を内包していること、②基本的人権保障の規定として定められていること、③ 国際慣習法となった専断的(恣意的)な国籍剥奪禁止の原則を遵守すべきこと(憲法98条2項、国際協調主義)、④同項の沿革等に照らせば、「個人の尊重」と幸福追求権を保障する憲法13条と一体となって、個人の意思に反して日本国籍離脱を強制されないこと、すなわち日本国籍を離脱しない自由(日本国籍を保持する権利)を保障している。そして、自由及び 幸福追求に対する国民の権利は立法その他の国政上最大の尊重を必要とするとされるから、この自由あるいは権利に対する制約は必要最小限のものでなくてはならず、日本国籍の剥奪を定める法律は、憲法22条2項及び憲法13条によって厳しく制約される。 ⑵ 国籍法11条1項の違憲審査ア憲法10条は、日本国籍の剥奪を委任していないこと①憲法10条の文言(法律への委任事項を「日本国民たる要件」とする。)、②沿革(明治憲法下では、一旦付与された国籍を保持する権利があり、本人の意思に反して国籍を剥奪することは原則として許されないと考えら れていたこと等)、③日本国憲法が制定された当時の国籍剥奪に関する学説や憲法10条についての議論(憲法制定過程において、国籍を保持する権利や国籍剥奪に関して従来の立場とは異なる制度を設けるという議論はなく、従前の制度の存続 憲法が制定された当時の国籍剥奪に関する学説や憲法10条についての議論(憲法制定過程において、国籍を保持する権利や国籍剥奪に関して従来の立場とは異なる制度を設けるという議論はなく、従前の制度の存続を前提として、憲法10条が創設されたこと等)、④憲法制定権者である国民の合理的意思に照らせば、憲法10条の委任範 囲には、国籍を剥奪する立法は含まれないと考えるのが自然であり、憲法10条は、国籍の「喪失」については本人の真意に基づく離脱(憲法22条2項)の要件のみを法律に委任するものであると解すべきである。 そして、国籍法11条1項をみると、同項の固有の存在意義は、外国の国籍を取得した本人の意思・希望にかかわらず、自動的かつ強制的に日本 国籍を喪失させる点にあり、同条項の適用によって本人の意思にかかわらず、あるいは本人の意思に反して日本国籍が喪失させられる事態が生ずる。 また、国籍法11条1項は、外国の国籍を志望取得したという外形的事実のみを根拠として日本国籍を喪失させる規定であり、その行為者に日本国籍を離脱する「真実の意図」があったことを被告が証明した場合にのみ日 本国籍を喪失させるという限定解釈は条文上不可能である。したがって、国籍法11条1項は、日本国籍を剥奪する法律である。 よって、国籍法11条1項は、日本国籍を剥奪する規定であるから、憲法10条の委任の範囲を逸脱しており、違憲無効である。 イ憲法10条が日本国籍の剥奪することを委任しているとしても、国民主 権原理、基本的人権尊重原理及び「個人の尊重」原理、並びに憲法13条、 22条2項に違反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱していること 違憲審査基準上記⑴のとおり、日本国籍を剥奪する法律は、憲法22条2項及び13条、憲法原理に に憲法13条、 22条2項に違反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱していること 違憲審査基準上記⑴のとおり、日本国籍を剥奪する法律は、憲法22条2項及び13条、憲法原理によって厳しく制約され、違憲であることが推定されるから、その違憲審査に当たっては、その法律の立法目的実現によって得 られる利益と「日本国籍剥奪がもたらす被害」とを適切に比較衡量し、一つひとつの基本的人権や自由を侵害する法律の違憲性を審査する場合に比して、はるかに厳しい審査基準が用いられなくてはならない。 具体的には、やむにやまれぬ政府利益(主権者である国民の誰もが、憲法に立脚した政府を創設した目的に照らして、当該利益のためであれ ば問題となっている権利等の制約を受け入れざるを得ないと認めるほどに強力な理由がある場合にのみ、肯定される。)を達成するために必要不可欠な場合(手段が目的とほとんど完全に適合していなければならず、過大包摂も過小包摂も許されない場合)でなければ許されない」とする基準が用いられるべきである。 国籍変更の自由の保障という立法目的及びその目的を達成するための手段についてa 立法目的について(a) 被告は、国籍法11条1項には、国籍変更の自由の保障という立法目的が含まれると主張する。 しかしながら、そもそも国籍法11条1項は、本人の内心の意思とは無関係に日本国籍を喪失させる点にその本質があるのだから、その立法目的を個人の「自由の保障」であるとすること自体に根本的な矛盾がある。仮に矛盾がないとしても、極めて限定的な場面(日本国民が外国に帰化しようとするときに、その国の帰化制度が、原 告籍の離脱を帰化の要件とし、かつ、「原国籍の離脱ができない場合 には原国籍を 盾がないとしても、極めて限定的な場面(日本国民が外国に帰化しようとするときに、その国の帰化制度が、原 告籍の離脱を帰化の要件とし、かつ、「原国籍の離脱ができない場合 には原国籍を保持したままで帰化を認める」という例外扱いも行っていない場合)を除いて国籍法11条1項には国籍変更の自由を保障する機能は存在せず、国籍変更の自由の保障という立法目的と、国籍法11条1項が現に有する機能・効果との間には重大な齟齬がある。また、国籍法が、旧国籍法とは異なり、国籍離脱の制度(国 籍法13条)を別に定めていること等を踏まえると、国籍法11条1項の立法理由として国籍変更の自由を持ち出すのは不適切である。 君主主権国家からの離脱の場面で問題とされた「国籍変更の自由」を、国民主権国家となった現在の日本における国籍喪失の場面で立法目的として論じることも誤りである。 したがって、被告の上記主張は理由がないが、念のため、以下、国籍変更の自由の保障が国籍法11条1項の立法目的に含まれると仮定して主張する。 (b) 個人の自由意思による国籍変更は、憲法13条及び22条2項によって保障されるから、国籍変更の自由を保障することは、主権者 である国民の誰もが、現憲法に立脚する政府を創設した目的に照らして、当該利益のためであれば問題となっている権利等(本件では日本国籍、あるいは日本国籍を離脱しない自由又は日本国籍を保持する権利)の制約を受け入れざるを得ないと認めるほどに強力な理由がある立法目的であると解し得る。 よって、国籍変更の自由の保障は「やむにやまれぬ政府利益」ということができる。 b 手段が必要不可欠ではないこと(a) 国籍法11条1項が国籍変更の自由の保障に資するのは、①本人が日本国籍を離脱し外国の国籍 更の自由の保障は「やむにやまれぬ政府利益」ということができる。 b 手段が必要不可欠ではないこと(a) 国籍法11条1項が国籍変更の自由の保障に資するのは、①本人が日本国籍を離脱し外国の国籍を取得することを希望していて、② 当該外国の国籍法制が当該国の国籍取得と同時に原国籍を離脱する ことを要件としており、③当該外国の国籍法制に当該国の国籍の取得と同時に原国籍の離脱ができない場合に原国籍を離脱しないで国籍取得を認める救済規定がないという、3つの条件すべてを満たす場合に限られる。 (b) 上記①を満たさない者、すなわち日本国籍の離脱を望まない者と の関係では、国籍法11条1項は国籍変更の自由の保障に資することはない。同条項の適用対象は過大包摂であり、この結果、国籍法11条1項は、外国国籍を取得したくても取得をためらわざるを得ない日本国民を生じさせ、外国の国籍と日本国籍の両方を必要とする日本国民の外国国籍取得を妨げる効果をもつ。この点で国籍法1 1条1項は、国籍変更の自由をむしろ阻害する原因となっている。 (c) 一方、上記①~③のすべてにあてはまる日本国民の「国籍変更の自由の保障」を実現しながら、そうではない日本国民の日本国籍を奪うことのない立法をすること(例えば、「自己の志望により外国の国籍を取得した者は、上記①~③の条件すべてを満たす場合には、 当該外国の国籍を取得すると同時に日本国籍を喪失する。」と定めること等)は難しくない。 よって、外国の国籍を志望取得した者すべての日本国籍を喪失させるという国籍法11条1項が採用する手段は、「国籍変更の自由の保障」という立法目的達成に必要不可欠ではない。 c 小括以上より、国籍法11条1項は、仮に、その立法目的が国籍変更の自 という国籍法11条1項が採用する手段は、「国籍変更の自由の保障」という立法目的達成に必要不可欠ではない。 c 小括以上より、国籍法11条1項は、仮に、その立法目的が国籍変更の自由の保障にあり、これが「やむにやまれぬ政府利益」であるとしても、その手段が必要不可欠なものではないから、違憲無効である。 複数国籍の発生防止という立法目的及びその目的を達成するための手 段について a 立法目的がやむにやまれぬ政府利益ではないこと複数国籍の発生防止という立法目的に関して、下記(a)~(f)の点が指摘できるところ、これらを総合して考慮すると、「複数国籍の発生防止」という立法目的は、主権者である国民の誰もが、現憲法に立脚した政府を創設した目的に照らして、当該利益のためであれば問題とな っている権利等(本件では日本国籍、あるいは日本国籍を離脱しない自由又は日本国籍を保持する権利)の制約を受け入れざるを得ないと認めるほどに強力な理由がある立法目的とはいえない。すなわち、「やむにやまれぬ政府利益」ではない。 (a) 複数国籍の発生防止を立法目的とすることは憲法の要請ではない。 複数国籍は不可避的に生ずるものであるところ、不可避的に生じた複数国籍の日本国民に対して、憲法は、22条2項によって日本国籍離脱の自由を保障する一方、複数国籍の解消は一切求めていない。 (b) 被告が主張する複数国籍の弊害は、以下のとおり、根拠がないも の又は抽象的・観念的なおそれにとどまる。 ① 外交保護権の衝突について外交保護権の衝突については、①国籍国同士が互いに相手国に対し外交保護権を主張する場合と、②国籍国の一方が第三国に対し外交保護権を主張した場合において、当該第三国がその国を本 の衝突について外交保護権の衝突については、①国籍国同士が互いに相手国に対し外交保護権を主張する場合と、②国籍国の一方が第三国に対し外交保護権を主張した場合において、当該第三国がその国を本 人の帰属国として扱ってよいかが問題となるときの二つがある。 しかしながら、①については、国籍法抵触条約4条が相互に外交保護権を行使できないと定めており、これが国際慣習法化している。②については、いわゆるノッテボーム事件における国際司法裁判所の1955年(昭和30年)4月6日判決で示された「実 効的国籍の原則」が国際慣習法となっている。被告は、憲法98 条2項に基づき、これらの国際慣習法上のルールを遵守する義務を負っており、被告が国際慣習法に従う限り、外交保護権の衝突は問題とならない。 また、外交保護権の衝突については、外交保護権不行使による解決も可能である。 よって、外交保護権の衝突を回避するために複数国籍者の日本国籍を喪失させることは、不要である。 ② 兵役義務の衝突について徴兵制度を持たない日本と外国との間で、兵役義務の衝突が生じ得ない。日本が兵役義務を有する外国に対して自衛権を行使せ ざるを得ない事態になったときに、複数国籍者は、日本の方針に従って当該外国の兵役を拒否するか、当該外国の方針に従ってその兵役義務を履行するかの選択を余儀なくされるというジレンマに立たされるが、これは複数国籍によって生ずるものではなく、両国に対する帰属意識によって生ずるのであり、本人の選択によ って解決が図られるべき問題にすぎない。 ③ 納税義務の衝突について納税義務の衝突は、関係する複数の国が国籍を課税根拠とする法制度を採用している場合に生ずるものであるところ、日本の税制において 解決が図られるべき問題にすぎない。 ③ 納税義務の衝突について納税義務の衝突は、関係する複数の国が国籍を課税根拠とする法制度を採用している場合に生ずるものであるところ、日本の税制においては国籍を基準に課税する制度は存在せず、納税義務の 衝突が現実化する見込みはない。 仮に関係する複数の国が国籍を課税根拠とする法制度を採用することがあったとしても、領土主権により、納税義務の衝突は現実化しない。納税義務の衝突を防ぐために必要なのは、国家相互間の領土主権の尊重あるいは租税条約であり、万が一、納税義務 の衝突が生じたとしても、多重の納税義務を望まないのであれば、 本人が日本国籍を離脱することで容易に回避することができる。 納税義務の衝突を回避するために、複数国籍の防止や解消を行う必要はない。 ④ 適正な入国管理の阻害について被告は、複数国籍者が外国旅券を使用して日本から出国し、日 本旅券を使用して帰国した場合、当該複数国籍者の出入国の事実が明らかにならず、人物の同一性が確認できないため、適正な入国管理が阻害されると主張する。 しかし、外国籍者に対する出入国管理と日本国籍者に対する出入国管理はその内容を異にしており、日本国民については居住移 転の自由及び出入国の自由が保障されている以上、日本国民に対する入国管理とは、出国及び入国の事実の確認並びに有効な旅券の所持の確認にとどまるのであって、そもそも複数国籍者の出入国について人物の同一性を確認することは予定されていない。被告の主張に係る適正な出入国管理の阻害を裏付ける具体的事実は、 皆無である。 ⑤ 重婚の発生について戸籍制度を有する日本において重婚が発生するのは、①外国で成立した婚姻が速やかに日本人当事者の本籍地に届 出入国管理の阻害を裏付ける具体的事実は、 皆無である。 ⑤ 重婚の発生について戸籍制度を有する日本において重婚が発生するのは、①外国で成立した婚姻が速やかに日本人当事者の本籍地に届けられず、戸籍に婚姻が記載されていない状態が利用された場合、②一夫一婦 制ではない国が関わる場合である。 ①・②のいずれについても、当該本人が日本国籍のみを有するときであっても生ずるものであり、複数国籍と重婚の発生とは無関係である。 ⑥ 単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生について 被告は、複数国籍者がそれぞれの国から得られる権利保障や利 益は単一の国籍のみを有する者には与えられていない利益であり、保護には値しないものであると主張する。 しかし、複数国籍者が日本国民としての権利利益を保障されるのは日本の法制度によるものであり、他方、国籍国において国民としての権利利益を保障されるのもその国の法制度によるもので ある。被告の主張が、複数国籍者について日本国民としての権利利益を保障する必要はないとするものであるとすれば、それが誤りであることは明らかである。 (c) 複数国籍については、国際的にその弊害よりも有益性が重視されるようになり、2020年末(令和2年末)には、複数国籍を肯定 する国が76%に達している。 (d) 複数国籍を肯定することは、平和主義、民主主義(国民主権原理)、人権擁護(基本的人権尊重原理、「個人の尊重」原理)という憲法上の要請に適う。 (e) 複数国籍の発生防止という立法目的は、何を犠牲にしてでも達成 しなければならないほど重要なものではない。現に、被告は、現在もこれを重要な立法目的とはしていない。 (f) 複数国籍の発生防止を徹底して追求すれば、日本の 法目的は、何を犠牲にしてでも達成 しなければならないほど重要なものではない。現に、被告は、現在もこれを重要な立法目的とはしていない。 (f) 複数国籍の発生防止を徹底して追求すれば、日本の主権者の範囲を外国の国籍法制に従属させることになる上、複数国籍の発生防止という立法目的を掲げることは、生来の複数国籍者の人格を傷つけ、 複数国籍者に対する差別を助長・煽動するおそれがある。 b 手段が必要不可欠なものではないこと(a) 過小包摂又は過大包摂であること国籍法11条1項によって複数国籍の発生が防止できるのは外国国籍の志望取得の場合のみである。同項を含む国籍法の採用する 手段では、複数国籍のうち出生による場合、日本への帰化の場合、 身分行為に付随して外国の国籍を付与される場合等に生じた複数国籍は防止できない。統計を見ても、昭和60年(1985年)から令和2年(2020年)までの36年間に生じた重国籍者は100万人を超えると推定される一方で、国籍法11条1項により発生を防止できた重国籍者は2万5272人に過ぎず、国籍法11条1項 が防止できる重国籍の発生はごくわずかである。 よって、国籍法11条1項の手段は、複数国籍の発生防止という立法目的との関係ではなはだしく過小包摂である。 (b) 不可欠性について被告の主張する「複数国籍の弊害」を防止するためには必ずしも 複数国籍の発生を防止する必要はなく(上記a(b)参照)、日本国籍剥奪も不要である。 外国国籍を取得する意思と日本国籍を離脱する意思は別個のものであり、国籍法11条1項は、その存在及びその法的効果を知らなければ、外国国籍を取得することによって日本国籍を喪失するとい うことを知り得ないのであるから、外国国籍を 離脱する意思は別個のものであり、国籍法11条1項は、その存在及びその法的効果を知らなければ、外国国籍を取得することによって日本国籍を喪失するとい うことを知り得ないのであるから、外国国籍を取得するか否かの選択の機会があるからといって、日本国籍を放棄するか否かの機会が保障されているとはいえない。 また、国籍法上、重国籍を解消するためのより権利侵害的でない手段(事後的解消の手段)として、国籍選択制度(国籍法14条) 等があり、外国国籍の志望取得の場合に限り、選択の機会を奪ってまで厳格に複数国籍の発生を防止すべき必要はなく、外国国籍の取得と同時に自動的に日本国籍を喪失することは非常に重大な不利益となる。 よって、日本国籍剥奪という手段は「複数国籍の弊害」を防止す る上で不可欠ではなく、国籍法11条1項は、その立法目的を達成 するための手段として合理性を欠く。 c 小括以上より、複数国籍の発生防止を立法目的とする場合、国籍法11条1項は、その立法目的が「やむにやまれぬ政府利益」ではなく、その手段も必要不可欠なものではないから、違憲無効である。 小括したがって、外国の国籍を志望取得しただけで日本国民の日本国籍を本人の意思に反してまで喪失させる国籍法11条1項は、その立法目的が、国籍変更の自由の保障と複数国籍の発生防止のいずれか又はその両方であっても、国民主権原理、基本的人権尊重原理及び「個人の尊重」 原理、並びに憲法13条、22条2項に違反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱するものであり、違憲無効である。 ウ憲法10条が日本国籍の剥奪することを委任しているとしても、憲法98条2項に違反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱していること 違憲審査基準 のであり、違憲無効である。 ウ憲法10条が日本国籍の剥奪することを委任しているとしても、憲法98条2項に違反し、憲法10条の委任の範囲を逸脱していること 違憲審査基準 仮に、憲法10条の委任の範囲に日本国籍の剥奪が含まれるとした上で、前記イ記載の違憲審査基準が採用されなかったとしても、専断的な国籍剥奪(「恣意的な国籍剥奪」)の禁止(世界人権宣言15条2項)は国際慣習法であるから、日本政府には、専断的な国籍剥奪の禁止原則に則った立法をする憲法上の義務がある(憲法98条2項)。 そして、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「無国籍に関する第5ガイドライン」(2020年5月)中の「専断的(恣意的)な国籍剥奪」を防止するためのガイドラインは、これが法的拘束力を有するか否かにかかわらず、㋐専断的な国籍剥奪の禁止(世界人権宣言15条2項)が国際慣習法であること、㋑日本政府は確立した国際法規すなわち 国際慣習法を遵守する義務を負うこと(憲法98条2項)、㋒専断的な国 籍剥奪の禁止は明治憲法下の憲法学界の通説であったこと、㋓サンフランシスコ講和条約において日本政府は世界人権宣言の目的を実現するために努力すると宣言したこと、㋔国会答弁において被告の政府委員が、日本国籍はほしいままに奪われない旨及び恣意的(専断的)な日本国籍の剥奪はしないのが原則である旨を述べていたこと、㋕上記ガイドライ ンは国際慣習法たる専断的な国籍剥奪の禁止(世界人権宣言15条2項)の内容を具体化したものであることから、国籍法11条1項も上記ガイドラインの制約を受けるというべきである。また、上記ガイドラインは、1997年にヨーロッパ国籍条約が採択された後、23年を経て作成・公表されたものであり、たとえヨーロッパ 国籍法11条1項も上記ガイドラインの制約を受けるというべきである。また、上記ガイドラインは、1997年にヨーロッパ国籍条約が採択された後、23年を経て作成・公表されたものであり、たとえヨーロッパ国籍条約が許容する条文(た とえば任意の外国国籍取得によって原国籍を喪失することを定める法律)が国内法にあったとしても、その国内法の解釈運用が上記ガイドラインに抵触すれば専断的な国籍剥奪であって許されないということを示した国連文書である。 したがって、日本国籍を剥奪する法律は、剥奪が専断的なものとなら ないために、上記ガイドラインが示す3つの要件、すなわち、①国籍の取り上げが法律で定められたことに適合していること(パラグラフ92、93)、②正当な目的を達成するための最も侵害的でない手段であること(パラグラフ94〜96)、③適正な手続に従うこと(パラグラフ97〜105)、の全てを満たす必要がある。 また、明治憲法下における憲法学説、日本国憲法下で国籍の専断的(恣意的)な剥奪が禁止されてきた歴史及び政府見解等に照らしても、日本国籍を剥奪する法律は、上記「専断的(恣意的)な国籍剥奪」を防止するためのガイドラインが示す3つの要件を満たさない場合、違憲無効となると解すべきである。 当てはめ a 要件①(法律に沿って剥奪されること)国籍法11条1項による日本国籍の剥奪は、法律に沿ってなされるので、同条項はこの要件を満たす。 b 要件②(正当な目的を達成するための最も侵害的でない手段であること) 以下のとおり、国籍法11条1項は、この要件を満たさない。 (a) 国籍変更の自由の保障について国籍変更の自由の保障との関係 の最も侵害的でない手段であること) 以下のとおり、国籍法11条1項は、この要件を満たさない。 (a) 国籍変更の自由の保障について国籍変更の自由の保障との関係では、国籍法11条1項の採用する手段は過大包摂であり、過大包摂にならずに国籍変更の自由を保障できる代替手段を設けることは難しくない。よって、国籍法11 条1項の採用する手段は、国籍変更の自由の保障という立法目的達成のための最も非侵害な手段ではない。 (b) 複数国籍の発生防止について国籍法11条1項における複数国籍の発生防止という立法目的は、動機が疑わしく、目的達成の見込みも不足しており、被告も重要性 が乏しいと判断したものであり、不当な差別目的の存在もうかがわせるものである。したがって、国籍法11条1項における複数国籍の発生防止が正当な目的であるとは考え難い。 複数国籍の発生防止の本来的な目的と解される複数国籍の弊害防止に目を向けても、被告の主張する複数国籍の弊害のうち現憲法下 で生じ得るのは外交保護権の衝突のみであり、これは国際慣習法によって解決することが可能である。被告が外交保護権を行使しないことで回避するという手段もある。 よって、国籍法11条1項の採用する手段は、複数国籍の弊害防止という立法目的達成のための最も非侵害な手段ではない。 c 要件③(適正手続に従うこと) 国籍の剥奪は、組織化された社会における個人が有する地位の全体的な破壊であり、拷問よりも原始的な刑罰の形態であって、その刑罰を受ける個人にとって、何世紀もかけて発展した政治的存在を破壊するものであるから、国籍を剥奪する法律においては、国籍を剥奪されることになった原因は何か、国籍剥奪を正当化できる根拠 であって、その刑罰を受ける個人にとって、何世紀もかけて発展した政治的存在を破壊するものであるから、国籍を剥奪する法律においては、国籍を剥奪されることになった原因は何か、国籍剥奪を正当化できる根拠があるか、 立法目的を達成するための最小限の手段が取られているかなどについて、公正な聴聞の機会が保障されることが不可欠であり、本人に争う機会が与えられることが、刑事手続に準じて適正手続として求められる。 しかし、国籍法11条1項をみると、外国の国籍を志望取得すると 同時に日本国籍が自動的に剥奪されてしまい、剥奪の正当性に関する公正な聴聞の機会が保障されていない。 したがって、国籍法11条1項は、この要件を満たさない。 エ小括以上より、国籍法11条1項は、要件②及び③を満たさないので専断的 な国籍剥奪の規定であり、憲法98条2項に違反しており、憲法10条の委任の範囲を逸脱し、違憲無効である。 (被告の主張)⑴ 憲法10条が日本国籍の得喪について広い立法裁量に委ねていることア何人を国家の構成員とするのかは国家統治の根幹に関わる事柄であって、 国籍の得喪要件をどのように定めるかは各々の主権国家における自主的な判断に委ねられている(国内管轄の原則)。現に、我が国を始め各国は、その国の歴史的沿革、伝統、社会的・経済的事情、国際社会の状況等の諸般の要因を考慮して国籍の得喪要件を定めている。我が国は、憲法10条において、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定している ところ、最高裁平成25年(行ツ)第230号同27年3月10日第三小 法廷判決・民集69巻2号265頁は、「憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に ところ、最高裁平成25年(行ツ)第230号同27年3月10日第三小 法廷判決・民集69巻2号265頁は、「憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される」と判示 し、上記の基本的な考え方を示している。原告は、憲法10条が法律(国籍法)に委任する国籍喪失の要件について限定的に解釈すべきであると強調するが、上記のとおり、国籍の性質上、国家と国民との関係をどのように定めるかは各国の立法府の裁量判断に委ねられていることに照らせば、憲法10条が国籍喪失の要件に係る法律への委任の範囲を限定している と解釈すべき根拠はない。 日本国憲法は、憲法22条2項において国籍離脱の自由を定めるほかは、憲法10条において「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定するにとどめ、国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項として、その裁量に委ねている。また、憲法10条の制定に当たって、国籍の喪失 の要件に係る法律への委任の範囲が審議されたということもない。 イなお、明治憲法18条は、「日本臣民タルノ要件ハ法律ノ定ムル所二依ル」と定めるとともに、明治32年に公布・施行された旧国籍法は、国籍喪失事由として、自己の志望による外国の国籍取得(同法20条)のほか、身分行為又は身分関係に基づく当然の国籍の喪失を定めていたのであるから、 明治憲法下において、日本国民が外国国籍を取得した場合に日本国籍を喪失しない権利を含む「国籍を保持する権利」が保障されていたと解すること 係に基づく当然の国籍の喪失を定めていたのであるから、 明治憲法下において、日本国民が外国国籍を取得した場合に日本国籍を喪失しない権利を含む「国籍を保持する権利」が保障されていたと解することはできない。 ウよって、憲法10条が国籍の喪失につき本人の真意に基づく離脱の要件のみを法律に委任するものであるという原告の主張は、独自の見解に基づ くもので失当である。 ⑵ 原告が主張する「日本国籍を離脱しない自由」又は「日本国籍を保持する権利」は憲法13条及び22条2項によって保障されてはいないことア原告が主張する権利の内実は「重国籍を保持する利益」にすぎないこと原告の主張を前提とすると、日本国籍を有する者は、自己の志望により外国国籍を取得しても、その意思に反して日本国籍を失わない権利が憲法 上保障されているということとなる。そうすると、当該外国国籍に加えて、日本国籍をも保持することになるから、原告が主張する権利の内実は、重国籍を保持する利益と同義であるといえる。しかし、原告の主張を前提とすると、二つの国籍国のいずれにおいても、主権者たる地位を与えられ、旅券の発給を受け、参政権を行使し、居住の権利、出入国の権利が保障さ れ、社会保障を受け得る地位を取得し、それらの国により外交保護権によって庇護を受けるという立場を取得する利益があるということになるが、このような便益を求める関係は、国籍概念が前提としている国民と国家との結合関係とはあまりにもかけ離れたものである。いかなる者を国家の一員に帰属させるかという国籍の得喪の問題は、その者と国家との結合関係 をどのように把握するかという問題であって、その者が受けることができる便益のみを考慮して決まるものではない。 よって、憲法13条及び22条2 いう国籍の得喪の問題は、その者と国家との結合関係 をどのように把握するかという問題であって、その者が受けることができる便益のみを考慮して決まるものではない。 よって、憲法13条及び22条2項が重国籍を保持する利益を保障しているとの原告の主張は、明らかに前提を欠くものである。 イ日本国憲法は、日本国籍の得喪について広い立法裁量を認めていること 日本国憲法は、22条2項において日本国籍離脱の自由を定めるほかは、10条において「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定するにとどめ、国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項として、その裁量に委ねている。 また、憲法22条2項が保障する国籍離脱の自由は、国家の構成員たる 資格からの離脱を自ら意欲する者に対して(無国籍状態が招来されない限 りは)国家があえて引き留めず、妨害しないという、いわば消極的権利であり、同条項の文理に照らしても、同項が、日本国籍を有する者に対して国籍を離脱することではなく、原告が主張するような「日本国籍を保持する権利」を具体的に保障しているとは解し難い。 よって、原告が主張するように外国国籍を取得しながら「日本国籍を保 持する権利」なるものが憲法上の権利として保障されていると解することはできない。 ウ国籍を個人の権利義務の問題としてのみ捉える考え方は誤りであること国籍の得喪は、個人の側からみた権利義務の関係として捉えれば事足りるというものではなく、国家の側からみて、どのような者に統治権を及ぼ すのが相当であるのかという観点をも考慮して制度が設計されなくてはならない問題である。 よって、「日本国籍を保持する権利」が憲法上保障されているとする な者に統治権を及ぼ すのが相当であるのかという観点をも考慮して制度が設計されなくてはならない問題である。 よって、「日本国籍を保持する権利」が憲法上保障されているとする原告の主張は、国益という観点を欠き、専ら個人の権利義務の問題と捉えるものであって、国籍の意義や性質に反する。 エ原告が主張するところの「アイデンティティ」は、憲法上の権利として保護に値する利益とはいい難いこと原告が主張するところの「アイデンティティ」というものは極めてあいまいな概念であって、憲法上の権利として保護に値するような利益とはいい難く、国籍を変更することによって、各人の固有の存在意義・目的や、 各人の個性が奪い取られることになるなどとは到底いえない。 オ小括以上より、原告が主張するような「個人の意思に反して国籍の離脱を強制されない自由」、すなわち「日本国籍を離脱しない自由」「日本国籍を保持する権利」は、憲法上保障された権利とはいえない。よって、これらが 憲法13条及び22条2項により保障されることを前提とする原告の主 張は失当である。 ⑶ 国籍法11条1項が憲法13条及び22条に反するものではないことア国籍法11条1項に係る憲法13条及び22条2項適合性の判断基準判断基準①憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規 定し、国籍の得喪については、歴史的沿革、伝統、社会的・経済的事情、国際社会の状況等種々の要因を考慮する立法府の合理的な裁量判断に委ねており、国会には、国籍に係る広範な立法裁量が存在する。また、②国籍の得喪に起因する利益は、表現の自由などのような前国家的な権利利益ではなく、上記のような広範な立法裁量を下 の合理的な裁量判断に委ねており、国会には、国籍に係る広範な立法裁量が存在する。また、②国籍の得喪に起因する利益は、表現の自由などのような前国家的な権利利益ではなく、上記のような広範な立法裁量を下敷きに定められた国籍 制度を前提とした利益にとどまるものであって、性質上、このような利益に何らかの制約が課せられるとしても、それによる不利益の程度は限定的というほかはない。そして、③国籍法11条1項は、自己の志望により外国籍を取得した場合に限って日本国籍を喪失するというにとどまり、同項が適用される前提として日本国籍を喪失する者の自己決定が存 在する。これらの事情からすれば、同項の憲法適合性の判断基準としては、立法目的とその立法目的の達成手段について合理性が認められれば足りるというべきである。 原告の主張についてこれに対し、厳格な違憲審査がなされるべきとする原告の主張は、自 己の志望により外国国籍を取得し、当該外国国籍に加えて日本国籍をも保持することによって、二つの国籍国のいずれにおいても主権者たる地位や基本的人権の享有主体たる地位を保持することを認めるべきであるというものであり、このような二重国籍の解消の場面において、国民主権原理や基本的人権尊重原理の重要性を理由に、二つの国籍国での利 益を保持することを最優先しなければならないような厳格な違憲審査 が求められるなどとはいえない。 イ検討 国籍法11条1項の立法目的国籍法11条1項の立法目的は、国籍変更の自由を認めるとともに、国籍の積極的抵触(重国籍の発生)を防止することにあり、国籍の積極 的抵触(重国籍の発生)を防止するために、自己の志望により外国国籍を取得したときは、当然に従来の国籍を放棄する意思があると に、国籍の積極的抵触(重国籍の発生)を防止することにあり、国籍の積極 的抵触(重国籍の発生)を防止するために、自己の志望により外国国籍を取得したときは、当然に従来の国籍を放棄する意思があるとみるべきものとして、当然に日本国籍を喪失させるものである。 国籍法11条1項の「国籍変更の自由」に関する立法目的が合理的であること a 国家は個人の意思に反して自国の国籍をこれに強制すべきでないとする「国籍自由の原則」も、国籍立法における一つの理想とされており、我が国においては憲法22条2項で国籍離脱の自由が規定され、その国籍離脱の自由の一場面として、国籍変更の自由を認めているものである。そして、国籍変更の自由を保障する趣旨から、「自己の志望 によって」とは、外国国籍を希望する意思表示に基づき、直接外国国籍を取得するもの(志望取得)を広く指し、単なる身分行為等に伴う外国国籍の取得によっては日本国籍を失わないとされ、また、実質上外国国籍の取得が自己の意思に基づくものと認め難い場合には、そもそも「自己の志望」による外国国籍の取得には該当しないこととされ、 日本国籍を喪失しないとされている。 よって、国籍変更の自由を認めるという立法目的が合理性を有することは明らかである。 b 原告の主張について 国籍法13条との関係について 国籍法11条1項と同法13条とでは、重国籍の発生原因及び想 定している場面が異なり、同法13条の存在をもって、同法11条1項が存在意義を有しないこととなるとは到底いえない。 ⒝ 「国籍自由の原則」の意義について「国籍自由の原則」は、国家が個人の意思に反して自国の国籍をこれに強制すべきでないとする 義を有しないこととなるとは到底いえない。 ⒝ 「国籍自由の原則」の意義について「国籍自由の原則」は、国家が個人の意思に反して自国の国籍をこれに強制すべきでないとする原則であって、自己の意思により他 国の国籍を取得した場合には従前の国籍の喪失を認めるべきであるとの見地から主張されたものであり、この意味において、国籍自由の原則は、第一義的には国籍変更の自由の原則を意味するものである。 ⒞ 旧国籍法20条の解釈・沿革との関係について 旧国籍法20条は、国家が個人の意思に反して自国の国籍を強制すべきでないという国籍自由の原則の発現であり、日本人が自己の志望により外国の国籍を取得した以上、既に日本人たることを欲しないのであるから、国籍非強制の原則(国籍自由の原則)上、これを日本人として強制することは適当ではなく、かつ、二重国籍者の 発生という国際関係上好ましくない結果を生ずるおそれがあるとして、同条は自己志望により外国国籍を取得する場合を日本国籍喪失の原因と認めたものと説明されている。旧国籍法20条が国籍自由の原則、すなわち、国籍変更の自由の保障を基礎に置く規定である以上、旧国籍法20条を踏襲した昭和59年改正前の国籍法8条、 国籍法11条1項もまた、国籍自由の原則、すなわち、国籍変更の自由の保障を基礎に置いていることは明らかである。 なお、昭和25年の国籍法制定時、立案担当者は、昭和59年改正前の国籍法8条は国籍変更の自由を認める規定であって、旧国籍法20条の規定をそのまま踏襲するものである旨を説明しているこ とからも、国籍法11条1項が昭和59年改正前の国籍法8条の内 容を引き継ぐとともに国籍変更の自由という立法目的を 国籍法20条の規定をそのまま踏襲するものである旨を説明しているこ とからも、国籍法11条1項が昭和59年改正前の国籍法8条の内 容を引き継ぐとともに国籍変更の自由という立法目的をも引き継いでいることは、明らかである。 ⒟ 国籍変更の自由の保障と複数国籍の防止が国籍法11条1項の立法目的として並立することについて外国法が重国籍防止の規定を設けるかどうかは当該外国の立法政 策に委ねられている以上、自己の志望により外国国籍を取得する者について日本国籍を喪失させて重国籍防止を図ることは合理性がある。 したがって、国籍法11条1項は、原告が主張する場面でのみ有用性を発揮すると理解されるものではない。また、同条項の立法目 的は、日本人に対して外国国籍への変更を認めるとともに、それに伴う重国籍を防止するという相互が密接に関連したものであるといえる。 国籍法11条1項の「重国籍の発生防止」に関する立法目的が合理的であることについて a 国籍が、主権の保持者であり統治権に服する者の範囲を画定するという問題である以上、一人の人間に対して複数の国家が対人主権を持つ、又は、主権在民の国において一人の者が複数の国に対して同時に主権を持つということは、主権国家の考え方とは根本的に相容れないことであって、人は必ず国籍を持ち、かつ、国籍は唯一であるべきで あるという考え方は、国籍の本質から導かれるものである。このように、国籍唯一の原則(重国籍の発生防止)という考え方自体は、存在意義から当然導かれる原理ないし国籍立法の理想である。 また、例えば、英米やヨーロッパ諸国では重国籍容認国もそれなりに多くみられるものの、重国籍を許容しつつもそ いう考え方自体は、存在意義から当然導かれる原理ないし国籍立法の理想である。 また、例えば、英米やヨーロッパ諸国では重国籍容認国もそれなりに多くみられるものの、重国籍を許容しつつもその解消のための方策 を採っている国(ドイツ、スペイン、スウェーデン、フィンランド、韓 国等)や中国のように重国籍を明確に禁止する国もみられ(法曹時報69巻10号271頁)、2011年(平成23年)時点の国際連合の調査によれば、国連加盟国196か国中、28%の政府が二重国籍を許す規定を持たないとの結果となっていること(乙14)からすると、国籍唯一の原則は、現在も一部の主要国を含む相当数の国において維 持されているといえる。 したがって、国籍の得喪の決定が国内管轄事項とされる中にあって、これを我が国の国籍法が立法目的の一つとして掲げることが憲法適合性の吟味に際して不合理であるとされる余地はない。 b 原告の主張について 重国籍の弊害を軽視する原告の主張について①外交保護権の衝突、②兵役義務の抵触、③納税義務の抵触、④適正な入国管理の阻害、⑤重婚の防止不能、⑥単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生という重国籍の弊害は、重国籍という事実状態に内在する問題であり、重国籍の発生がこれらの弊害の要 因と考えられる以上、その防止を図ることを立法目的とすることが合理的であることは当然であって、重国籍の弊害の具体的な事象の存在が現に認められない限りは立法目的の合理性が否定されるかのような原告の主張は失当である。なお、我が国を取り巻く現在の国際情勢の下では、我が国が重国籍の弊害に対処する条約等の整備を 進めることは困難といわざるを得ない。欧州諸国間のよう 否定されるかのような原告の主張は失当である。なお、我が国を取り巻く現在の国際情勢の下では、我が国が重国籍の弊害に対処する条約等の整備を 進めることは困難といわざるを得ない。欧州諸国間のように重国籍の弊害に対処する条約等の整備が十分である国であれば格別、そうでない我が国において、重国籍の弊害の全てを既存の法律や個別事案ごとの国家間の調整によって解決することは見込まれない。 ⒝ 我が国の法制度が重国籍を容認しているとする原告の主張につい て 重国籍(国籍の積極的抵触)防止という要請は、一般論として、各国の国籍法下において守るべき他の要請との比較においては後退することもあり得るし、また、国籍の得喪の決定が各国の国内管轄事項であることから生ずる制約上、国内法制で重国籍解消を完全に実現することには限界があるために、自国民に対し、外国国籍の離 脱を訓示的規定をもって促し、外国国籍の離脱義務の履行を自国民の良心に委ねている部分も存する。 しかしながら、上記のような実情があるからといって、我が国の姿勢として、重国籍を広く容認しているとは到底いえず、更には、重国籍解消という立法目的が不合理であるなどと解される余地はな い。 なお、国籍法上、外国国籍離脱について、強力な強制手段が法定されていないのは、国籍得喪の決定が国内管轄事項とされる原則の下にあって、外国国籍の離脱を我が国の法で規律することはできないからである。むしろ、国籍法16条1項(国籍選択制度において 日本国籍を選択した者の外国国籍離脱の努力義務)の立法経緯は、国内管轄の原則という制約の中で、我が国が可能な限り重国籍解消を貫徹しようとすることを裏付ける。現行の国籍法5条2項が、帰化に 日本国籍を選択した者の外国国籍離脱の努力義務)の立法経緯は、国内管轄の原則という制約の中で、我が国が可能な限り重国籍解消を貫徹しようとすることを裏付ける。現行の国籍法5条2項が、帰化における重国籍防止要件を緩和したのは、外国の法制度によっては帰化申請者自身の意思により許可前に重国籍防止条件を備えるこ とができないことが少なくないため、特則を設ける必要があったことによる。 被告は、本人の自発的意思を尊重すべきであるとの立場から、これまで積極的に国籍選択の催告を行ってこなかったという経緯があるが、それは、国籍選択が履行されるべき時点までの間に形成され た本人の生活環境や親族等の関係者の生活状況等に重大な影響を及 ぼす可能性を考慮し、催告を行うに際し、より慎重な配慮が要求されているからである。 国籍法11条1項の立法目的達成の手段が合理性を有することa 日本国籍を有する者が自己の志望により外国国籍を取得した場合、日本国籍を喪失させることとしなければ、必ずその者は重国籍者とな ることになる。そうすると、国籍変更の自由を認めながら、自己の志望により外国国籍を取得することによって重国籍ないし重国籍者が発生する場合に生じ、あるいは生じ得る弊害を防止又は解消するために、外国国籍を取得した段階で、その者の日本国籍を喪失させ、その者が重国籍の状態に至るのを防ぐことが合理的である。 よって、自らの志望により外国国籍を取得した者について日本国籍を喪失させるという国籍法11条1項の手段は、国籍変更の自由を認めるとともに重国籍の発生を防止するという同条の立法目的達成の手段として合理的であることは明らかである。 b 原告の主張について 国籍法11条1項の 条1項の手段は、国籍変更の自由を認めるとともに重国籍の発生を防止するという同条の立法目的達成の手段として合理的であることは明らかである。 b 原告の主張について 国籍法11条1項の制度的問題点を指摘する原告の主張について外国の国籍取得の手続が国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当するか否かは、当該手続が当該外国の国籍取得の意思を示す形態のものであるか否かにより判断されるべきものであって、当該外国法の規定が、当該国において「志 望取得」又は「当然取得」という分類概念のいずれに分けられるかで判断されるものではなく、飽くまで当該外国国籍の取得が、国籍法11条1項の規定する自己の志望による外国国籍の取得に該当するかによって判断されるものである。すなわち、外国国籍の取得の有無は、当該国の専権事項であるが、国籍法11条1項による日本 国籍の喪失の有無は、我が国の法律の適用の問題であり、その国籍 取得が国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に該当する否かについては、当該国の国籍取得の手続の内容を検討し、それが当該国の国籍を取得する意思を示す形態のものであると認められるか否かにより判断するものである。なお、ある法律の適用に当たって、他の法規範や種々の事実を検討してその 解釈や判断をすることは広く行われることであり、国籍法11条1項のみが他の法律等の解釈を要する規定ではないから、原告の指摘に係る外国法の解釈の困難性をもって制度的問題があるとはいえない。 ⒝ 国籍法11条1項による国籍喪失は戸籍に記載される制度的保障 がなく、国籍喪失したが除籍されないことにより問題が生ずるという原告の主張について あるとはいえない。 ⒝ 国籍法11条1項による国籍喪失は戸籍に記載される制度的保障 がなく、国籍喪失したが除籍されないことにより問題が生ずるという原告の主張について原告の主張は、国籍法11条1項による日本国籍喪失の効果に係る法の不知によって戸籍法において課される届出義務が履行されない状況を問題視するものであると解されるところ、それは、日本国 籍を当然に喪失させることによって重国籍の発生を防止するという目的を達成する過程に何ら影響を与えるものではないから、仮に、そのような状況があったとしても、重国籍の発生を可能な限り防止しつつ、国籍変更の自由を保障するという国籍法11条1項の立法目的を達成するために、自己の志望による外国国籍の取得に伴って 当然に日本国籍を喪失させるという国籍法11条1項の手段の合理性が否定されることにはならない。 ⒞ 国籍選択制度(国籍法14条)は国籍の選択の結果が戸籍に反映されるため、国籍法11条1項よりも優れているという原告の主張について 国籍選択制度によっても、当然に戸籍に反映されるものではなく、 届出を行わなければ戸籍から除籍されることにはならず、その点は、国籍法11条1項の場面と異ならない。 ⒟ 国籍法11条1項が不可避的に不公平をもたらすという原告の主張について原告の主張は、重国籍発生をできる限り防止しようとする我が国 の国籍法の理念に反して国籍喪失届を提出せず、事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて、国籍法11条1項が不公平をもたらすものであると主張するものであって、そのような立論の前提自体が失当である。 せず、事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて、国籍法11条1項が不公平をもたらすものであると主張するものであって、そのような立論の前提自体が失当である。 ウ小括 以上より、国籍法11条1項の立法目的は合理的であり、その達成の手段が合理性を有することは明らかであるから、原告らの主張する権利の制約が憲法13条及び22条2項に反することにはならない。 ⑷ 国籍法11条1項が憲法98条2項に反するものではないことア原告が指摘する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「無国籍に 関する第5ガイドライン」は、各国政府等が無国籍の問題に対応する際の「解釈の法的指針」であり、拘束力のない国際文書の一つである。 イ例えば、1997年ヨーロッパ国籍条約は、世界人権宣言15条2項に倣って、同条約4条cで「何人もほしいままにその国籍を奪われない」と規定するとともに、同条約7条1項aは、国内法により法律上当然に国籍 を喪失する旨の規定を設けてよい場合として、「任意の外国国籍取得」を挙げていることから、国際慣習法上も、国内法により、任意の外国国籍取得によって原国籍を喪失することは、専断的な国籍剥奪に当たらないと理解されていることは明らかである。 ウまた、上記ガイドラインが存在することから直ちに任意の外国国籍によ って原国籍を喪失することを定める法律が許されないことにはならない。 エよって、国籍法11条1項が国際慣習法に違反し、憲法98条2項に反するとの原告の主張は、理由がない。 2 国籍法11条1項が憲法14条1項に反するか否か(争点1-2)(原告の主張)⑴ 差別的取扱いの不 法に違反し、憲法98条2項に反するとの原告の主張は、理由がない。 2 国籍法11条1項が憲法14条1項に反するか否か(争点1-2)(原告の主張)⑴ 差別的取扱いの不平等 ア差別的取扱いの存在国籍法は、次の①~③の場合には、複数国籍の発生を広く認めた上で、その解消を本人の選択に委ねている。他方、国籍法11条1項は、複数国籍の発生そのものを防止する規定であり、同項の適用を受ける者は、国籍選択の機会を与えられずに当然に日本国籍を喪失させられる。このように、 同項は、複数国籍の発生について差異が生じている。 ① 外国籍の当然取得による複数国籍の場合外国の法の規定によって、婚姻や養子縁組、認知などの身分行為があった際に本人の意思にかかわりなく当然に当該国籍を付与することとされている場合、ある者の帰化に伴いその配偶者や子に対しても当然に当 該国籍を付与することとされている場合等、一定の身分行為等に伴い外国籍を当然に取得すること(以下「当然取得」という。)があり得る。この場合には、国籍法11条1項に該当しないため、その者は日本国籍を喪失せず、複数国籍を保持することとなる。 ② 生来的取得による複数国籍の場合 日本人と外国人(血統主義国の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国内で出生した場合、あるいは、日本人と外国人(血統主義国の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国外で出生した者や生地主義国において日本人の父母の間に出生した者等が、国籍法12条の国籍留保をした場合には、生来的に日本国籍と外国籍を取得することとなる。 ③ 日本国籍の志望取得による複数国籍の場合 国籍法3条1項又は同法17条1項に 条の国籍留保をした場合には、生来的に日本国籍と外国籍を取得することとなる。 ③ 日本国籍の志望取得による複数国籍の場合 国籍法3条1項又は同法17条1項による届出により日本国籍を取得した場合、あるいは同法5条2項の要件を充足して日本への帰化が認められた場合は、外国籍を保有したまま自己の志望によって日本国籍を取得し、複数国籍を有することとなる。 イ憲法14条1項適合性を判断する審査基準 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨である。他方、憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて、国籍法は、国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員として の資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。しかしながら、このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じ た区別が、合理的理由のない差別的取扱いとなるときは、憲法14条1項違反の問題を生ずる。すなわち、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差 別として、憲法14条1項に違反するというべきである。そして、国籍法11条1項が、 の具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差 別として、憲法14条1項に違反するというべきである。そして、国籍法11条1項が、元来有していた日本国籍という重要な法的地位を、本人の意図ないし認識と無関係に喪失させるものであり、権利利益の侵害が強度で、要保護性が高いことを踏まえ、国籍法11条1項の適用対象者に限り、複数国籍の発生を防止するために日本国籍を喪失させることに合理的理 由があるかについては、慎重に検討することが必要である。 ウ検討 「国籍変更の自由の保障」という立法目的についてa 立法目的の合理性の検討国籍変更の自由の保障とは、本人が日本国籍から外国の国籍への移行を希望する場合にその希望を実現する手段を確保することであるか ら、「個人の尊重」原理の観点から抽象的にいえば、その目的自体には合理性がある。 b 具体的な区別と立法目的の合理的関連性の検討(a) 立法目的に資する場面は限定的であること国籍法11条1項が日本国民の国籍変更の自由の保障に資する場 面は限定的である。すなわち、①本人が日本国籍を離脱し外国の国籍を取得することを希望し、②当該外国の国籍法制がその国の国籍取得と同時に原国籍を離脱することを要件とし、③国籍取得と同時に原国籍の離脱ができない場合に原国籍を離脱しないで国籍取得を認める救済規定がない、という3つの条件すべてを満たす場面での み、国籍変更の自由の保障は国籍法11条1項の立法目的として意味をもつ。 (b) 立法目的と矛盾する場面にも適用されることところが、国籍法11条1項は、上記(a)の限定された場面を超えて適用されることが予定されている。例えば、国籍法1 の立法目的として意味をもつ。 (b) 立法目的と矛盾する場面にも適用されることところが、国籍法11条1項は、上記(a)の限定された場面を超えて適用されることが予定されている。例えば、国籍法11条1項は、 同条項の存在を知り、かつ日本国籍の放棄・離脱を望まないため上記①を満たさない日本国民にとっては、外国国籍の取得をためらわせ、国籍変更の自由を制約する規定として機能する。つまり、国籍法11条1項の採用する手段は、上記①を満たさない場面では「自由の保障」という立法目的とは本質的に相容れず矛盾するものとい える。この点で、国籍法11条1項による別異の取扱いは立法目的 に対して過剰な内容となっている。 (c) 立法目的に資する場面の有無は不明である国籍法11条1項が日本国民の国籍変更の自由の保障に資する上記の限定的な場面を生じさせる法制を持つ外国、換言すると上記の②と③の両方を満たす外国が、国籍法制定時にどれくらいあった か、あるいはそれ以降の時期においてどれくらい存在したのか、原告弁護団は関係資料を精査したが、上記の②と③の両方を満たす外国の数どころか、このような法制を有する外国の存在をうかがわせる記載すら見当たらなかった。また、被告は、上記②と③の両方を満たす外国の具体例をまったく挙げなかったことからすると、被告 も上記限定的な場合が生じ得る外国の具体例を把握しておらず、被告ですら把握できないほどに上記限定的な場合が生じ得る法制の国が圧倒的に少ないことが強く推測される。 c 小括以上のとおり、国籍法11条1項は、国籍の変更(日本国籍の喪 失)を求めない者の日本国籍を強制的に喪失させてしまう点で、国籍変更の自由の保障という立法目的に対して過剰である。しかも、国籍法11条 のとおり、国籍法11条1項は、国籍の変更(日本国籍の喪 失)を求めない者の日本国籍を強制的に喪失させてしまう点で、国籍変更の自由の保障という立法目的に対して過剰である。しかも、国籍法11条1項が日本国民の国籍変更の自由の保障に資する限定的な場面は、その存否すら明らかでない。よって、国籍変更の自由の保障という立法目的のために、外国国籍を志望取得した者の日本国籍を一律 かつ自動的に喪失させて複数国籍の発生を徹底的に防止するという区別を設けることは、国籍変更の自由の保障という立法目的にとって過剰であり、目的と手段の均衡を著しく失し、国籍法11条1項が生じさせる具体的な区別と国籍変更の自由の保障という立法目的との間に合理的関連性はないというべきである。 「複数国籍の発生防止」という立法目的についてa 立法目的の合理性の検討国籍法は、選択催告制度(国籍法15条)を採用するなど複数国籍の防止解消の制度を設けており、複数国籍の発生防止という立法目的に合理性がないとはいえない。 b 具体的な区別と立法目的の合理的関連性の検討(a) 外国国籍の当然取得による複数国籍発生との差別的取扱い複数国籍の発生を防止するという要請は、複数国籍の弊害を防止するためであり、複数国籍の発生原因で異なることはなく、志望取得でも当然取得でも発生する複数国籍の状態は何ら変わらない。 しかし、国籍法は、外国国籍の志望取得と当然取得の場合とで複数国籍の発生の許否をまったく違うものとしており、その差異(外国国籍の志望取得と当然取得の差異)は、外国の国籍法制が本人の国籍取得の意思表示を国籍取得の要件としているか否かに起因するところ、外国の国籍法制の定め方の違いに応じて、日本国籍という 差異(外国国籍の志望取得と当然取得の差異)は、外国の国籍法制が本人の国籍取得の意思表示を国籍取得の要件としているか否かに起因するところ、外国の国籍法制の定め方の違いに応じて、日本国籍という 重要な法的地位を本人の意思に反してでも喪失させて複数国籍を防止すべきか否かを決することに合理性はない。 また、国籍法は、当然取得の場合には日本国籍を喪失させずに一旦複数国籍を発生させた上でその解消を本人の意思に委ね、場合によっては複数国籍状態が残ることも許容するのに、外国国籍の志望 取得の場合は、本人の意思を無視してでも日本国籍という重要な法的地位を喪失させて複数国籍の発生を防止しているところ、外国国籍の志望取得では複数国籍の弊害を理由に複数国籍の発生を徹底して防止し、外国国籍の当然取得では複数国籍の発生を許容するという区別に、合理性がない。 加えて、本人の意思を無視してでも日本国籍という重要な法的地 位を喪失させることにより複数国籍の発生を防止する国籍法11条1項は、複数国籍の解消を本人の意思を尊重して行い最終的には複数国籍であり続けることを可能としている国籍法の全体の仕組みの中で、複数国籍に対処する手段として過剰でもある。 よって、外国国籍の志望取得と当然取得とで国籍法11条1項が 生じさせている区別と、複数国籍の発生防止という立法目的の間には、合理的関連性がない。 (b) 外国国籍の生来的取得による複数国籍発生との差別的取扱い複数国籍の発生を防止するという要請は、複数国籍の弊害を防止するためであり、複数国籍の発生原因で異なることはなく、志望取 得でも生来的取得でも発生する複数国籍の状態は何ら変わらない。 しかし、国籍法は、外国国籍の生来的取得の場合には一旦複数国籍を発生させた上でその解消 国籍の発生原因で異なることはなく、志望取 得でも生来的取得でも発生する複数国籍の状態は何ら変わらない。 しかし、国籍法は、外国国籍の生来的取得の場合には一旦複数国籍を発生させた上でその解消を本人の意思にゆだね、場合によっては複数国籍状態が残ることも許容する一方、外国国籍の志望取得の場合には、日本国籍を喪失させて複数国籍の発生を防止している。 複数国籍の発生を防止という要請は、複数国籍の発生原因によって要請の程度が異なることはなく、外国国籍の志望取得でも生来的取得でも発生する複数国籍の状態は変わらないことを踏まえると、外国国籍生来的取得の場合とでは複数国籍の発生を許容するという区別には、合理性がない。また、本人の意思を無視してでも日本国籍 という重要な法的地位を喪失させることにより複数国籍の発生を防止する国籍法11条1項は、複数国籍の解消を本人の意思を尊重して行い最終的には複数国籍であり続けることを可能としている国籍法の全体の仕組みの中で、複数国籍に対処する手段として過剰でもある。 よって、外国国籍の志望取得と生来的取得とで国籍法11条1項 が生じさせている区別と複数国籍の発生防止という立法目的の間には合理的関連性がない。 (c) 日本国籍の志望取得による複数国籍発生との差別的取扱い複数国籍の発生を防止するという要請は、複数国籍の弊害を防止するためであり、複数国籍の発生原因で異なることはなく、志望取 得でも当然取得でも発生する複数国籍の状態は何ら変わらない。 また、国籍法は、複数国籍の発生を広く許容した上で、その解消は本人の意思を尊重して国籍選択制度を通して図ることを全体的な方針としている。加えて、日本国籍の志望取得の要件をどのように定めるかについては、日本国籍を喪失させる場面に比し く許容した上で、その解消は本人の意思を尊重して国籍選択制度を通して図ることを全体的な方針としている。加えて、日本国籍の志望取得の要件をどのように定めるかについては、日本国籍を喪失させる場面に比して広い裁量 が認められていると解されるため、日本国籍の志望取得の場面では、原国籍の喪失を日本国籍取得の条件とするなど、実質的に日本国籍の取得を制限することによって複数国籍の発生を防止することが容易かつ可能である。 ところが、国籍法は、日本国籍の志望取得の場合には一旦複数国 籍を発生させた上でその解消を本人の意思にゆだね、場合によっては複数国籍状態が残ることも許容する一方、外国国籍の志望取得の場合は、日本国籍を喪失させて複数国籍の発生を防止する。複数国籍の発生を防止するという要請は、複数国籍の弊害を防止するためであり、複数国籍の発生原因で異なることはなく、外国国籍の志望 取得でも日本国籍の志望取得でも発生する複数国籍の状態はなんら変わらないことを踏まえると、外国国籍の志望取得の場合に複数国籍の弊害を理由に複数国籍の発生を徹底して防止し、日本国籍の志望取得の場合は複数国籍の発生を許容するという区別には、合理性がない。加えて、本人の意思を無視してでも日本国籍という重要な 法的地位を喪失させることにより複数国籍の発生を防止する国籍法 11条1項は、複数国籍の解消を本人の意思を尊重して行い最終的には複数国籍であり続けることを可能としている国籍法の全体の仕組みの中で、複数国籍に対処する手段として過剰でもある。 よって、外国国籍の志望取得と日本国籍の志望取得とで国籍法11条1項が生じさせている区別と複数国籍の発生防止という立法目 的の間には合理的関連性がない。 (d) 小括以上のとおり、国籍法1 国国籍の志望取得と日本国籍の志望取得とで国籍法11条1項が生じさせている区別と複数国籍の発生防止という立法目 的の間には合理的関連性がない。 (d) 小括以上のとおり、国籍法11条1項が生じさせる区別と複数国籍の発生防止という立法目的との間に合理的関連性はない。 エ小括 国籍法11条1項が生じさせる区別は「国籍変更の自由の保障」及び「複数国籍の発生防止」という立法目的とも合理的関連性を有しない。 よって、国籍法11項1項は、憲法14条1項に違反し、違憲無効である。 ⑵ 法律の不知への対処の不平等 ア法律の不知への対処の相違国籍法11条1項の適用対象者は、同項の存在を知らずに外国の国籍を取得した場合も一律かつ機械的に日本国籍を喪失させられてしまい、「法律の不知」によって日本国籍を喪失させられないためのセーフガードがない。一方、国籍法14条以下の国籍選択制度の適用対象者には、「法律の不 知」のせいで日本国籍を喪失することがないように、選択催告というセーフガードが設けられている。 イ検討「法律の不知」による日本国籍喪失を防ぐセーフガード、手当の有無について、外国の国籍の志望取得者のみを不利益に扱う制度設計にすること に合理的根拠はない。このような制度設計が行われていること自体、不当 な差別目的を強く推認させる。 このような不当な差別目的の有無は措くとしても、外国の国籍の志望取得の場合に限って「法律の不知」に対処する手当を設けないことに合理的根拠はないから、国籍法11条1項は、平等原則(憲法14条1 項)に違反し、違憲無効である。 ⑶ 家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまったという社会的身分に基づく、幸 に合理的根拠はないから、国籍法11条1項は、平等原則(憲法14条1 項)に違反し、違憲無効である。 ⑶ 家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまったという社会的身分に基づく、幸福追求権の享受についての差別ア幸福追求権の享受に係る差別的取扱い国籍法11条1項は、日本国民のうち家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまったという社会的身分(社会生活上継続的に占める地位) を有する人々だけに適用される条項である。そして、このような人々は、多くの場合、幸福追求(家族との交流・結合、職業選択の機会と自由、財産の所有と確保、社会参画、人として尊重されること等を重要な要素とする。)のために日本国籍と居住国の国籍の双方が必要になる。 個人の尊重と幸福追求権に対する最大の尊重を定めた憲法13条の趣旨 と、憲法22条2項前段が外国に移住する自由を保障していることとを併せ考えると、憲法13条は、外国に渡るなどした日本国民が居住資格の安定や活躍の場の拡大等を実現できるように、日本国籍を保持したまま外国の国籍を取得できる道を開くことをこそ目指すものと解すべきである。 そうすると、国籍法11条1項を存置することにより、被告は、日本国 民のうち家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまったという社会的身分(社会生活上継続的に占める地位)を有する人をその社会的身分に基づき、幸福追求権の享受について、他の日本国民との間で差別的取扱いをしているというべきである。 イ違憲審査基準 幸福追求権が「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲 法13条)とされていること、社会における継続的地位すなわち社会的身分という憲法14条1 項列挙事 幸福追求権が「立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲 法13条)とされていること、社会における継続的地位すなわち社会的身分という憲法14条1 項列挙事由を理由とする差別であることから、厳格なものとする要請が働く。その一方で、国籍法11条1項による幸福追求権の侵害は直接的なものではなく、同項が日本国籍を自動的・機械的・一律に奪うことの間接的効果として生じること、及び各人が追求する幸福の 内容は個人によって多様であり得ることにも配慮する必要がある。 そこで、この点に関する違憲審査基準は、本件の差別的取扱いには違憲性の推定が働くとした上で、①国籍法11条1項の存在によって侵害される幸福追求権の具体的内容(被侵害利益)と、国籍法11条1項によって実現される利益(実現利益)との比較衡量を行い、②後者(実現利益)を 前者(被侵害利益)に優先させるべき特段の事情が認められる場合にのみ違憲の推定が覆され、国籍法11条1項が間接的にもたらす差別的取扱い(幸福追求権の侵害)は憲法14条1項に違反しないと解するのが妥当である。 ウ検討 「国籍変更の自由」という利益との比較衡量国籍変更の自由の保障という立法目的に関して、国籍法11条1項が実現する利益とは、①本人が日本国籍を離脱し外国の国籍を取得することを希望し、②当該外国の国籍法制が当該国の国籍取得と当時に原国籍を離脱することを要件としており、③国籍取得と同時に原国籍の離脱が できない場合に原国籍を離脱しないで国籍取得を認める救済規定がないという3つの条件すべてを満たす場合に、日本国籍を離脱して外国の国籍を取得することを望む日本国民の国籍変更の自由の保障である。 国籍法11条 を離脱しないで国籍取得を認める救済規定がないという3つの条件すべてを満たす場合に、日本国籍を離脱して外国の国籍を取得することを望む日本国民の国籍変更の自由の保障である。 国籍法11条1項による幸福追求権の侵害は、上記①の要件を満たさない人に生ずる。そして、日本国籍の離脱を希望するかしないかは個人 の自由であり、離脱を希望する人(①を満たす人)の利益も離脱を希望 しない人(①を満たさない人)の利益も等価であって、一方が他方に優先するという関係にはいから、国籍変更の自由の保障に関して国籍法11条1項が実現しようとする利益(離脱希望者の利益)を、国籍法11条1項適用対象者が日本国籍と外国の国籍の両方を持って幸福を追求するという利益(離脱を希望しない者の利益)に優先させるべき特段の事 情は認められない。 よって、国籍法11条1項は、国籍変更の自由の保障という立法目的との関係では、憲法14条1項に違反する。 「複数国籍の発生防止」という利益との比較衡量被告が主張する「複数国籍の弊害」は、複数国籍とは因果関係がなか ったり、現憲法下では生じなかったり、生じたとしても容易な解決方法が確立しているものであるから、複数国籍の発生防止という立法目的に関して国籍法11条1項が実現する利益は、想定し難い。 一方、国籍法11条1項による幸福追求権の侵害は、原告を含む多くの在外日本国民らに現実に生じている実害である。よって、複数国籍の 発生防止に関して国籍法11条1項が実現しようとする幻影のような利益を、国籍法11条1項適用対象者が日本国籍と外国の国籍の両方を持って幸福を追求するという現実の利益に優先させるべき特段の事情は認められない。 したがって 現しようとする幻影のような利益を、国籍法11条1項適用対象者が日本国籍と外国の国籍の両方を持って幸福を追求するという現実の利益に優先させるべき特段の事情は認められない。 したがって、国籍法11条1項は、複数国籍の発生防止という立法目 的との関係でも、憲法14条1項に反する。 小括以上より、国籍法11条1項は、平等原則(憲法14条1項)に違反し、違憲無効である。 ⑷ 不平等な適用が避けられないこと 被告は、国籍法11条1項について「外国国籍を志望取得した瞬間にそ の者の日本国籍は自動的に喪失する」と解釈しているが、実際には、外国国籍を志望取得した日本国民が必要な書類を添付して国籍喪失届を提出しない限り、被告は原告など「外国国籍を志望取得した疑義が大きい」者に対して日本の旅券の発給を拒否することはあっても、日本国民ではないとして扱うことは徹底できず、外国の国籍を取得した国民の間で実質的に不衡平な扱 いを生じさせ、法における正義の原則に反する現象を広範に生じさせている。 国籍法11条1項は、外国国籍の志望取得と同時に日本国籍を自動的に喪失するとする被告の解釈による限り、衡平な適用が本質的に不可能であり、国籍法11条1項は、外国国籍志望取得の事実がたまたま発覚した者と当該事実を自己申告した者のみに適用され、それらの者のみを不利益に扱い、日 本国籍を剥奪する点で、平等原則(憲法14条1項)に違反するというほかない。 よって、国籍法11条1項は、憲法14条1項に違反し、違憲無効である。 (被告の主張)⑴ 国籍法11条1項に係る憲法14条1項適合性判断基準 ①憲法10条が国籍立法について広範な立法裁量を認めていること、②憲法14条 し、違憲無効である。 (被告の主張)⑴ 国籍法11条1項に係る憲法14条1項適合性判断基準 ①憲法10条が国籍立法について広範な立法裁量を認めていること、②憲法14条1項は、合理的な根拠を有する区別を許容していることに照らせば、国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するとされる場合は、「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と 上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合」(最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁)に限られるというべきである。 ⑵ 原告の主張する「差別的取扱い」についてア目的や趣旨の異なる制度を単純に比較することは誤りであること 国籍法11条1項が、「日本国民は、自己の志望によつて外国の国籍を取 得したときは、日本の国籍を失う。」と規定するのは、「自己の志望によつて」外国国籍を取得した者については、国籍変更の自由を保障している以上、重国籍防止の見地から、当然に従来の国籍を放棄する意思があるとみるべきであり、その反射的効果として日本の国籍を失うとしたものである。 これに対し、①当然取得によって外国国籍を取得した日本国民は、外国 人との婚姻等の身分行為又は母の外国への帰化等に伴い、当該外国の法の規定に基づき当然に外国国籍を取得するもの(当然取得)、②生来的に外国国籍を取得した日本国民は、血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民から生まれた場合や、日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合に、生来的に外国国籍を取 得するもの(生来 統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民から生まれた場合や、日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合に、生来的に外国国籍を取 得するもの(生来的取得)、③日本国籍を志望取得した外国人と国籍法11条1項に基づき自己の志望により外国国籍を取得した日本国民は、出生等により外国国籍を取得した者が、日本国民を血統上の親として出生したことを前提とする認知(国籍法3条)又は届出(国籍法17条1項)や、帰化(国籍法4条)によって日本国籍を取得するものである。このような上 記①~③の制度は、国籍法11条1項の適用対象となる場面、すなわち、日本国民が自己の志望によって(志望取得)出生後に事後的に外国国籍を取得する場合(伝来的取得)とは、そもそも制度目的や趣旨が異なる。また、外国国籍の取得又は日本国籍の取得の制度によって、重国籍防止を図る方法に差異があるのは当然であり、原告指摘に係る上記①~③の制度と の対比において、国籍法11条1項が合理性を欠くということにならないことは明らかである。 イ原告らの主張する各制度と国籍法11条1項との区別には合理性があること上記アの点を措くとしても、以下のとおり、国籍法11条1項と原告ら の主張する上記ア①~③の制度との区別に合理性があることは明らかで ある。 ① 当然取得によって外国籍を取得した日本国民との区別当然取得により外国籍を取得した場合、外国籍の取得には本人の意思が介在していないから、外国籍の取得によって直ちに日本国籍を失うこととすると、何ら本人の意思を介在させることなく日本国籍を失わせる こととなる。そこで、外国籍を当然取得した者に対しては、ひとまず重国籍が発生することを容認し 取得によって直ちに日本国籍を失うこととすると、何ら本人の意思を介在させることなく日本国籍を失わせる こととなる。そこで、外国籍を当然取得した者に対しては、ひとまず重国籍が発生することを容認した上で、自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当である。 他方、自己の志望により外国籍を取得した場合、国籍取得の段階で本人の意思が介在しているため、当然取得に見られる上記のような不都合 は存在しない。よって、当然取得によって外国籍を取得した日本国民と自己の志望によって外国籍を取得した日本国民との間で、取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。 ② 生来的に外国籍を取得した日本国民との区別ある個人が、血統主義を採用する外国籍を有する者とその配偶者であ る日本国民から生まれた場合には、父母の国籍が異なるため法律上当然に重国籍が生じ、日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合においても、生地主義を採用する国が存在することから当然に重国籍が生ずるものであって、いずれの場合も重国籍の発生について当該個人に責任がないことは明白である。 よって、生来的に外国籍を取得した日本人に対しては、ひとまず重国籍が発生することを容認した上で、自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当であり、自己の志望によって外国籍を取得した日本国民との間に取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。 ③ 日本国籍を志望取得した外国人との区別 国籍法3条又は17条1項の規定により日本国籍を取得した者は、日本国民を血統上の親として出生した子であるところ、 ③ 日本国籍を志望取得した外国人との区別 国籍法3条又は17条1項の規定により日本国籍を取得した者は、日本国民を血統上の親として出生した子であるところ、我が国の国籍法が父母両系血統主義を採用していることの均衡上、日本国籍の取得の際に重国籍防止要件を課していないものである。また、これらの場合には、従来から有する外国籍について、その得喪の決定が各国の国内管轄事項 であることからすると、一律に重国籍防止義務を課すことは相当でないため、ひとまず重国籍が発生することを容認した上で、自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることとしたものである。よって、同法3条又は17条1項のように日本国籍取得前から外国籍を有する状態である場合と、日本国籍取得後に外国籍の取 得を自らの意思で行った場合との間で、重国籍防止の取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。 また、国籍法5条2項は、帰化による重国籍は人為的なものであり、出生による重国籍に比べ重国籍防止の要請が強いことから、国籍法の昭和59年改正により、重国籍防止要件(同条1項5号)を備えることを 原則としつつ、特別の場合にこれを免除することができるとし、当該外国籍の離脱又は放棄が可能となったときに、事後的に重国籍を解消させることとしたものである。国籍の得喪の決定が国内管轄事項であることから生ずる制約上、国内法制で重国籍解消を完全に実現することには限界があることからすれば、同条2項のように自らの意思により外国籍を 喪失できない場合と同法11条1項のように自己の志望によって外国籍を取得する場合との間で、取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。 ウ小括 により外国籍を 喪失できない場合と同法11条1項のように自己の志望によって外国籍を取得する場合との間で、取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。 ウ小括以上より、原告が重国籍が容認されると主張する上記各場面と国籍法1 1条1項による自己の志望による外国国籍の取得の場面とでは、前提とな る制度の目的や趣旨を異にするのであって、取扱いに差が設けられていることに合理性があることは明らかである。 ⑶ 法律の不知への対処で不平等を生じさせているという原告の主張についてア重国籍者は、日本国籍と外国国籍の重国籍となった時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに、重国籍となった時が18歳に達 した後であるときはその時から2年以内に、日本国籍あるいは外国国籍を選択しなければならない(国籍法14条1項)ところ、当該期限経過後も国籍の選択をしない者に対して、法務大臣は国籍を選択すべきことを催告することができることとされており(国籍法15条1項、2項)、催告を受けた者は催告を受けた日から1か月以内に国籍の選択をしなければ、その 期間が経過した後に自動的に日本国籍を失う(国籍法15条3項本文)。 国籍選択制度が適用される当然取得や生来的取得は、外国国籍の取得について本人の意思が介在することのない場面である一方、国籍法11条1項は外国国籍を自己の志望によって取得した場面で適用されるものであり、重国籍が発生する場面や原因なども異なることから、重国籍防止を図 る方法に差異が生ずるのは当然であって、制度目的や趣旨の異なる制度を比較する原告の主張は失当である。 イまた、当然取得や生来的取得によって外国国籍を取得した者は、自らの 止を図 る方法に差異が生ずるのは当然であって、制度目的や趣旨の異なる制度を比較する原告の主張は失当である。 イまた、当然取得や生来的取得によって外国国籍を取得した者は、自らの意思によらずに外国国籍を取得することになるため、国籍選択の機会を与えることは合理的である一方、自己の志望によって外国国籍を取得した者 については、当該外国国籍を取得する前に日本国籍か外国国籍かを選択する機会が与えられているのであるから、外国国籍取得後にあえて国籍選択の機会を与える必要性は乏しい。そして、重国籍から生ずる弊害をできる限り防止し、解消させる観点からは、速やかに日本国籍を喪失させることが望ましいところ、その実現を図るという国籍法11条1項の立法目的及 び立法目的達成のための手段は合理的であるから、当然取得及び生来的取 得の場面と志望取得の場面とで異なる制度となっていることは何ら不合理ではなく、原告の主張には理由がない。 ⑷ 社会的身分に基づく幸福追求権の享受について差別を生じさせているという原告の主張についてアそもそも国籍法11条1項は、自己の志望により外国国籍を取得した者 に適用されるものである。すなわち、原告が主張する「日本国民のうち家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまった」者であっても、自己の志望により外国国籍を取得した場合でなければ、国籍法11条1項が適用されることはない一方、これらの者以外の者であっても、自己の志望により外国国籍を取得すれば、同項が適用されるのであって、原告が主張 する「家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまった」点に着目して適用されるものではないから、原告の主張は前提を欠き、失当である。 イまた、外国に移 あって、原告が主張 する「家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまった」点に着目して適用されるものではないから、原告の主張は前提を欠き、失当である。 イまた、外国に移住した者、あるいは、家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えた者は必ず、外国国籍の取得が必要であるから国籍法11条1項の適用を受けざるを得ないかのような原告の主張は誤りである。近時、 多くの国では、外国人に対して法律上の保護を与える必要があるとして、一定の制限はあるものの、広範な権利の享有を認めるようになっている。 国家は、外国人が日常生活を営むのに必要な権利能力や行為能力、裁判の当事者能力は認めなければならず(自由権規約16条参照)、移動・居住の自由、表現・思想・信教の自由は、国の安全等に必要な場合を除いて、原 則的に制限することはできない(自由権規約12条、18条、19条)とされている。 ウなお、原告は、「家族関係や経済生活、社会生活が国境を越えてしまった」ことが憲法14条1項後段の「社会的身分」に当たると主張するが、憲法14条1項後段の「社会的身分」とは、「人が社会において占める継続 的な地位」(最大判昭和39年5月27日民集18巻4号676頁)であり、 単に外国で継続的に暮らしていることが「社会的身分」に当たるとするには疑問がある。また、判例上、憲法14条1項後段列挙事由による区別とその他の事由による区別とで憲法14条1項適合性の判断基準に差異はなく、「社会的身分」を理由とする差別であるから厳格な審査がされるべきであるとする原告の主張には理由がない。 ⑸ 国籍法11条1項の不平等な適用をいう原告の主張について原告が主張する国籍法11条1項の 厳格な審査がされるべきであるとする原告の主張には理由がない。 ⑸ 国籍法11条1項の不平等な適用をいう原告の主張について原告が主張する国籍法11条1項の「適用の不均衡」が意味するところは判然としない。そもそも、国籍法11条1項は、戸籍法上の手続等を行うことなく、自己の志望により外国国籍を取得した者には当然に適用され、自己の志望により外国国籍を取得した時点で自動的に日本国籍を喪失するのであ るから、国籍法11条1項が不公平な適用を行うものであるという原告の主張は前提を誤っており、失当である。また、原告の立論は、国籍喪失届を提出しない者という我が国の国籍法の理念に反して事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて、その者と原告との不均衡を論ずるものであって、このような立論の前提自体が失当である。 ⑹ 結論国籍法11条1項の取扱いは、合理的な区別をするものにすぎず、原告が主張するような不合理な差別をするものとは認められない。 したがって、国籍法11条1項は憲法14条1項に違反しない。 第2 本件処分が無効であるか否か(争点2) (原告の主張)本件処分は、原告が国籍法11条1項により日本国籍を喪失していると疑われることを理由としてなされたものであるところ、国籍法11条1項は違憲無効の規定であり、違憲無効な国籍法11条1項に基づいてされた本件処分の違法は重大であり、当然に明白である。 そして、外務大臣は、必要書類を揃えて一般旅券の発給申請がされた場合、 旅券法13条1項列挙事由に該当しない限り、一般旅券を発給する義務があり(旅券法5条1項)、原告には旅券法13条1項列挙事由に該当する事実はなかった。外務大臣がした本件処分は、原 場合、 旅券法13条1項列挙事由に該当しない限り、一般旅券を発給する義務があり(旅券法5条1項)、原告には旅券法13条1項列挙事由に該当する事実はなかった。外務大臣がした本件処分は、原告の適式な申請につき旅券法13条1項列挙事由に該当する事実がないにもかかわらず、旅券不発給としたものであるから、法律上の根拠がなく、違法であることが客観的に明白である。 よって、本件処分は、無効である。 (被告の主張)争う。 第3 原告の日本国籍の有無(争点3)(原告の主張) 国籍法11条1項が違憲無効であるから、原告は米国国籍の取得により日本国籍を失っていない。よって、原告が日本国籍を有する。 (被告の主張)争う。 第4 国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性、損害の 有無及びその額(争点4)(原告の主張) 1 国籍法11条1項の違憲性国籍法11条1項は、昭和25年の立法当初から国民主権原理、基本的人権尊重原理及び「個人の尊重」原理との関係で憲法10条に違反し、また、 憲法13条及び22条2項、14条1項に違反していた。さらに、国籍法11条1項は、昭和59年改正により複数国籍の発生を広く肯定する国籍法の改正が行われて以降、憲法14条1項にも違反することが一層明確となった。 2 被告の不作為と有責性⑴ 被告は、①昭和57年までに、複数国籍の発生防止という国籍法11条1 項の立法目的の正当性が疑われることについて、②昭和58年までに、外国 国籍の志望取得の場合にのみ「法律の不知」に対するセーフガードを設けないという差別的な制度を創出することについて、③平成元年までに、国籍法11条1項が本人の意思に反してでも日本国籍を喪失さ 国籍の志望取得の場合にのみ「法律の不知」に対するセーフガードを設けないという差別的な制度を創出することについて、③平成元年までに、国籍法11条1項が本人の意思に反してでも日本国籍を喪失させる規定であり、日本国籍を恣意的に奪われない権利を侵害するものであることについて、それぞれ認識し、あるいは容易に認識することができた。そして、被告は、これ らを認識することにより、国籍法11条1項の違憲性を容易に認識することができたし、認識すべきであった。 ⑵ 日本国籍が憲法上極めて重要な地位・資格であることは、憲法の規定内容と沿革から極めて明らかであり、被告は、国民全体の奉仕者(憲法15条2項)として、違憲の疑いのある法律によって日本国籍が本人の意思に反して 失われるおそれがあることを察知すれば、直ちにその法律の検討、改廃に取り組む義務を負う。 被告は、遅くとも平成元年までに、国籍法11条1項の違憲性を容易に認識することができ、また認識すべきであったにもかかわらず、同条項の検討と改廃を漫然と怠り、日本国民が意思に反して日本国籍を失う事態を放置し 続けた。本人の意思に反する日本国籍喪失が個人に極めて重大な不利益をもたらし、国民主権原理に基づく代表民主制の過程を損なうこと等に鑑みれば、被告の上記義務違反は著しく重大である。また、被告の主張する「複数国籍の弊害」のうち唯一現実化し得るのが外交保護権の衝突であるところ、外交保護権の衝突は国際慣習法に則った防止と解消が可能であり、被告には国際 慣習法に則った対処が求められる(憲法98条2項)。被告は、このことを当然に認識しながら、国際慣習法に則った対処というごく当たり前の対応をすることを厭い、日本国民から日本国籍を剥奪することで外交保護権の衝突を防止すべきだとして、国籍法1 条2項)。被告は、このことを当然に認識しながら、国際慣習法に則った対処というごく当たり前の対応をすることを厭い、日本国民から日本国籍を剥奪することで外交保護権の衝突を防止すべきだとして、国籍法11条1項を存続させてきた。 これらの事情等に照らせば、被告による上記義務の懈怠は、故意又は重大 な過失によるものというべきである。 3 損害の発生等被告の上記義務違反が継続している間に、原告は、米国国籍を取得し、違憲無効である国籍法11条1項によって日本国籍を喪失したとして扱われ、甚大な精神的損害を被るに至った。その損害は、金銭に換算すると1億円を下らない。 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、上記の精神的損害に対する慰謝料の一部請求として、金10万円及びこれに対する弁護士費用1万円の支払を求める。 (被告の主張)否認し又は争う。 1 国籍法11条1項の合憲性国籍法11条1項の立法目的は合理的であって、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるなどとはいえない。 2 国の国家賠償法1条1項の責任の不存在について そもそも国会議員の立法行為又は立法不作為が国賠法1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり、立法内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規 定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評 国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって、仮に当該立法の内容が憲法の規 定に違反するものであるとしても、それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。立法不作為が例外的に国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるのは、法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもか かわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る 場合などである。 そうすると、前記1で述べたところからすれば、国籍法11条1項の改正を行わなかったことが国賠法上違法であるなどといえないことは明らかであり、原告の主張には理由がない。 第5 本件処分の国家賠償法上の違法性、損害の有無及びその額(争点5) (原告の主張) 1 違法性⑴ 本件処分の違法性外務大臣は、原告が必要書類を揃えて行った旅券発給申請に対して、国籍法11条1項の効果により日本国籍を喪失している疑いがあることを理由と して、本件処分をした。しかし、国籍法11条1項は違憲無効な規定であるから、違憲無効な規定を根拠としてされた本件不発給処分は、違憲無効な処分であり、違法性がある。 ⑵ 禁反言の法理ロサンゼルス領事館の領事らは、原告が2004年(平成16年)に米国 国籍を取得して間もなく、原告の米国国籍取得を把握し、原告に対して国籍喪失届の提出を迫った。その後、原告は、平成20年に日本の旅券の発給申請を行ったが、その際は、何の問題もなく旅券の発給を受けた。 ところが、原告が、平成29年12月18日、外務大臣に対し、旅券更新の申請をしたところ、外務大臣は、突如、従前の取扱 に日本の旅券の発給申請を行ったが、その際は、何の問題もなく旅券の発給を受けた。 ところが、原告が、平成29年12月18日、外務大臣に対し、旅券更新の申請をしたところ、外務大臣は、突如、従前の取扱いを変更し、原告の米 国国籍取得とそれによる日本国籍喪失の疑いがあることを理由として、本件処分をした。 原告は、外務大臣が原告の米国国籍取得と日本国籍喪失について何ら疑義を示さずに旅券更新(発給)を行ったという事実を信用し、その事実を前提として平成29年12月に旅券更新の申請を行ったのであるから、外務大臣 が従前の「原告の米国国籍取得と日本国籍喪失について何ら疑義を示さずに 旅券更新(発給)を行った」という事実と矛盾する行動をとり、旅券更新(発給)を拒否することは、禁反言の法理によって禁じられる違法な行為である。 ⑶ 平等原則違反(恣意的な対象選択)被告が日本国民のうち誰が外国の国籍を志望取得したのかを正確に漏れなく把握することは不可能であり、国籍法11条1項が適用されるか否かは当 事者が外国の国籍志望取得の事実を認めるか否かによることが多くなる。 このような制度の中で、たまたま被告が把握したり疑義を抱いたりした者にだけ、国籍喪失届の提出を迫ったり旅券発給を拒否したりすることは、外国の国籍を取得した日本国民の間に実質的に不均衡な扱いを生じさせ、法における正義の原則に反するといわざるを得ない。原告に対する本件処分は、 原告の米国国籍取得がたまたま被告に疑われるに至ったがゆえの不利益処分であり、平等原則(憲法14条1項)に違反する。 よって、本件不発給処分は違法である。 2 重過失被告は、遅くとも平成元年頃には、国籍法11条1項が違憲無効であるとい う疑いを抱くことができたにもかかわらず、それか 項)に違反する。 よって、本件不発給処分は違法である。 2 重過失被告は、遅くとも平成元年頃には、国籍法11条1項が違憲無効であるとい う疑いを抱くことができたにもかかわらず、それから四半世紀以上が経過した平成30年になって、外務大臣が国籍法11条1項を根拠に本件処分をしたことは、重過失による違法行為というべきである。 3 損害の発生等原告は、本件処分により、被告がたまたま外国国籍取得の疑いを持った者に 向けて行う差別的な扱いの対象とされ、著しい精神的苦痛を受けた。さらに、原告は、本件処分により日本の旅券がなくなり、コロナ禍で出入国が厳しく制限される中、故郷であり将来の居住地とも考えている日本へ帰国することができない事態が生じ得るのではないかと大きな不安を感じ、精神的苦痛を受け続けている。また、A州弁護士である原告は、クライアントからの相談を踏まえ、 このままではいずれ原告だけでなく原告の親族も被告による不当で差別的な 扱いを受けることになるのではないかという不安を抱き、被告による不当で差別的な扱いが自分のせいで招来されるのではないかという自責をおぼえ、甚大な精神的苦痛を受け続けるなどしている。 このような原告が本件処分により受けた精神的損害を金銭に換算すると、額にして1億円を下らない。 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、上記の精神的損害に対する慰謝料の一部請求として、金5万円及びこれに対する弁護士費用5000円の支払を求める。 (被告の主張)争う。次の点からすると、本件処分は、国家賠償法1条1項の適用上、違法 とは評価できず、原告の主張は理由がない。 1 本件処分の理由に関する主張について国籍法11条1項は憲法の規定に違反するものではなく すると、本件処分は、国家賠償法1条1項の適用上、違法 とは評価できず、原告の主張は理由がない。 1 本件処分の理由に関する主張について国籍法11条1項は憲法の規定に違反するものではなく、原告は米国国籍を自己の志望よって取得したことにより、日本国籍を喪失したのであるから、外務大臣が原告に対して旅券を発給しなかったこと(本件処分をしたこと)は、 何ら違法ではない。 2 禁反言の法理に関する主張についてそもそも原告は、平成20年の旅券発給申請の際、自らが外国の国籍を持っている旨の申告をしておらず、被告において、原告が外国国籍を有していることを認識しつつ旅券を発給した事実はない。 したがって、原告の禁反言法理に基づく主張(前記(原告の主張)⑴イ)は、その前提を欠くものであり、失当である。 3 平等原則違反(恣意的な対象選択)に関する主張についてそもそも日本の旅券は、日本国籍を有する者に対して発給されるものであり、自己の志望により米国籍を取得した者に対して、外務大臣が旅券を発給するこ とはできない。 本件においては、外務大臣は、原告が自己の志望により米国籍を取得した疑いが生じたため、旅券の発給を行わなかったのであり、この点に何ら恣意的な要素はない。 原告の恣意的な対象選択をいう主張(前記(原告の主張)⑴ウ)は、要するに、日本国籍を喪失しながら、そのことを明らかにせずに旅券発給申請をする 者が存在しており、その者との間で不平等な取扱いが行われていることをいうものであるが、我が国の国籍法の理念に反して事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて、その者と原告との不均衡を主張するものにすぎず、前提自体が失当である。 第6 国籍法11条1項の周知徹底に係る国家賠償法上の違法性、損害の 念に反して事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて、その者と原告との不均衡を主張するものにすぎず、前提自体が失当である。 第6 国籍法11条1項の周知徹底に係る国家賠償法上の違法性、損害の有無及び その額(争点6)(原告の主張) 1 周知徹底義務違反被告は、「法律の不知」により日本国籍を喪失する不利益を防ぐために、昭和59年改正により、選択催告(国籍法15条)というセーフガードを設けたが、 国籍法11条1項の適用対象者である外国国籍の志望取得者に関しては、「法律の不知」により日本国籍を喪失する不利益を防ぐセーフガードを設けず、日本国籍の喪失という重大な結果をもたらす国籍法11条1項の存在と適用場面等について、全国民に効果的に周知徹底すべき義務を怠ってきた。 本人の意思に反する日本国籍喪失が国民に極めて重大な不利益をもたらし、 国民主権原理に基づく代表民主制の過程を損なうことなどに鑑みれば、被告の上記義務違反は、著しく重大であり、重大な過失によるものと評価すべきである。 2 損害の発生等原告は、被告の上記義務違反により、国籍法11条1項を知らないまま米国 国籍を取得し、その結果、被告から日本国籍がないと扱われ、甚大な精神的損 害を被るに至った。その損害は、金銭に換算すると1億円を下らない。 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、上記の精神的損害に対する慰謝料の一部請求として、金5万円及びこれに対する弁護士費用5000円の支払を求める。 (被告の主張) 1 国賠法1条1項の要件との関係国賠法1条1項の責任を問うには、違法行為をしたとする「公務員」を特定し、職務上の違法行為の内容及び故意、過失の内容を具体的に明らかにすべきであるところ 1 国賠法1条1項の要件との関係国賠法1条1項の責任を問うには、違法行為をしたとする「公務員」を特定し、職務上の違法行為の内容及び故意、過失の内容を具体的に明らかにすべきであるところ、原告はこれらの点を何ら明らかにしていないから、同項を適用する余地はなく、原告の主張は失当である。 2 本件における職務上の法的義務について最大判昭和33年10月15日刑集12巻14号3313頁は、「成文の法令が一般的に国民に対し、現実にその拘束力を発動する(施行せられる)ためには、その法令の内容が一般国民の知りうべき状態に置かれることを前提要件とするものであること、またわが国においては、明治初年以来、法令の内容を 一般国民の知りうべき状態に置く方法として(中略)原則としては官報によつてなされるものと解するを相当とすることは、当裁判所の判例とするところである」と判示しており、法律の公布は、行政府が法令を国民一般に周知させるための公知手段であると解されているところ、国籍法11条1項については昭和59年5月25日に適法に公布されており、同項の規定は既に国民一般に周 知しているといえる。 公布を行うことのほか、特定の公務員が国籍法11条1項の規定を周知するために何らかの行為を行う職務上の法的義務を有すると解する根拠はなく、原告は、この点につき、何ら主張していない。 なお、被告は、法務省ホームページにおいて、国籍法11条1項の規定の内 容を周知しているから(甲4)、国籍法11条1項につき周知を行うことなく漫 然と時を過ごしていたとはいえない。 よって、原告の上記主張は、理由がない。 以上 主文 時を過ごしていたとはいえない。よって、原告の上記主張は、理由がない。 以上
▼ クリックして全文を表示