平成16(わ)644 強盗殺人被告事件

裁判年月日・裁判所
平成17年4月27日 和歌山地方裁判所
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判決文本文6,049 文字)

主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 押収してあるネクタイ1本(平成17年押第4号の1)を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,昭和46年ころ,大阪府内の銀行に就職し,数年後には和歌山県伊都郡a町b番地所在の住宅に転居して,同所で両親らとともに暮らし始めたが,繁華街で飲み歩き,ホステスらと遊興にふけるなどして給与収入を大幅に超過した出費を続けていたため,消費者金融業者からの借入れを遊興費に充てるようになり,債務の返済に追われる現実のつらさを紛らわせるため,ますます遊興にふけって借入れを重ねた結果,約400万円の借金を作り,平成6年ころ両親にその借金が発覚して叱責を受け,家出をして自殺しようとしたものの,死にきれずに帰宅したが,勤務先の銀行にも上記借金が露見したことなどから,そのころ同銀行を依願退職した。 被告人は,上記銀行の退職金で借金を返済して,残債務を50ないし60万円程度にまで減らしたが,平成8年11月ころ和歌山県内の警備会社に就職した後,再びスナックに足繁く通い始め,平成14年ころには,複数のタイ人ホステスと付き合うようになり,同女らに対し,高額のチップを払ったり,求められるままに小遣い,飛行機代等の名目で金銭を渡したりするなどして,自己の収入の大半をつぎ込み,さらに消費者金融業者から自宅を担保にして400万円を借り入れるなど乱れた計画性のない生活を送っていたことから,平成16年11月初めころには,総額1000万円程度の債務を抱えるに至った。 被告人は,借金の返済に窮しながらも上記ホステスらと遊興を続け,手持ちの資金が不足したことから,同年10月5日,当時被告人と二人暮らしであった実母のAに無断で,同女のキャッシュカードを家か った。 被告人は,借金の返済に窮しながらも上記ホステスらと遊興を続け,手持ちの資金が不足したことから,同年10月5日,当時被告人と二人暮らしであった実母のAに無断で,同女のキャッシュカードを家から持ち出し,その預金口座から50万円を引き出して,借金を返済し,上記ホステスに与えるなどして費消した。 被告人は,その後も借金の返済資金や遊興費の調達に頭を悩ませていたが,同年11月2日午後2時ころ,Aから頼まれて自動車で同女をB銀行C支店まで連れていったところ,同女がその窓口で何らかの手続をとっている様子であったことから,前記無断引出しのため貸越し状態になっていた同女の普通預金口座に,定期預金を解約してその分の入金をするなどしているものと推測したが,同女とともに帰路についた際,車内で同女が難しい顔をして押し黙っていたことから,帰宅後は,同女に無断でその預金を引き出した件につき問い質され,厳しく叱責されるものと予想して憂鬱な気持ちになり,いっそ同女を殺してしまえば,そのような叱責を受けることはなく,同女の財産をすべて自分のものとすることができ,嫌なことを先送りにしてホステスらと楽しい時間を過ごすことができるなどと考えるようになった。 (罪となるべき事実)被告人は,前記の経緯で帰宅した後,前記所在の自宅8畳居間において,大変険しい表情をして座っていたAから,予想どおり,厳しい口調で前記の預金を引き出した件につき説明を求められたことから,同女を殺害してその金品を強取しようと決意し,平成16年11月2日午後3時ころ,同室内において,座椅子上からネクタイを拾い上げ,殺意をもって,A(当時82歳)の背後からその頸部に上記ネクタイ(平成17年押第4号の1)を巻き付けて交差させた上,力一杯絞め付け,ぐったりとして気絶した同女を死亡したものと思い,いったん い上げ,殺意をもって,A(当時82歳)の背後からその頸部に上記ネクタイ(平成17年押第4号の1)を巻き付けて交差させた上,力一杯絞め付け,ぐったりとして気絶した同女を死亡したものと思い,いったん敷き詰めた座布団上に仰向けに寝かせたところ,同女の胸の動きからまだ息があることに気付き,同女が意識を取り戻せば警察に突き出されるのではないかとの強い焦りから,確実に同女を殺害しようと考え,その頸部に上記ネクタイを巻き付けて交差させた上,再び力一杯絞め付け,同女を意識不明の状態にしてその反抗を抑圧し,同日午後3時30分ころ,同女所有の現金10万円及び同女管理にかかるキャッシュカード1枚を強取し,その後外出先から帰宅した際,意識不明状態のまま同女が生存しているのを確認したものの,そのうち死亡するものと考えてそのまま放置していたが,同月6日夕刻ころになっても,同女が死亡しないことから,自己の犯行が発覚するのではないかとの不安と焦りが高じ,自己の犯跡を隠蔽したまま同女の預金を費消し続けるためには,この場で同女を殺害するほかないと決意し,同日午後5時過ぎころ,前同所において,意識不明状態から回復しないまま仰向けに横たわっていたAに対し,その頸部を両手で強く絞め付け,よって,そのころ,同所において,Aを外頸部圧迫に基づく窒息により死亡させて殺害したものである。 (補足説明)以下,念のため強盗殺人罪の成立を認めた当裁判所の判断につき補足して説明しておく。 関係証拠によれば,被告人は,平成16年11月2日午後3時ころ,Aを殺害して金品を強取する意図をもって,自宅の8畳居間において同女の頸部を2度にわたってネクタイで強く絞め付け,現金10万円及びキャッシュカード1枚を奪った(以下,上記一連の行為を「第1行為」という。)後,被告人の行為により意識不明状態に陥っ 8畳居間において同女の頸部を2度にわたってネクタイで強く絞め付け,現金10万円及びキャッシュカード1枚を奪った(以下,上記一連の行為を「第1行為」という。)後,被告人の行為により意識不明状態に陥った同女が間もなく死亡すると考えて同所に放置しながら,外出と帰宅を繰り返す間に警備員の仕事に従事するとともに,同女の預金等を使ってスナックで飲酒したり,ホステスとホテルに行って小遣いを渡したりするなどし,Aの財産を使って少しでも長く現状を維持するためには,同女に死んでもらうほかないと考え続けながらも,罪悪感等から同女に対し3回にわたって牛乳あるいは野菜ジュースを少量スプーンで口から流し込んで与えるなどして,同月6日を迎えたが,同女が意識不明状態のまま徐々に衰弱してきてはいるものの,なお絶命するに至らなかったところ,同日夕刻ころ,新聞の集金人の来訪を受けたことを契機として,周囲に不審に思われて自己の犯行が発覚するのではないかとの不安と焦りが高じて同女にとどめを刺そうと決意し,同日午後5時過ぎころ,上記8畳居間において同女の頸部を両手で強く絞め付けて窒息死させた(以下,この行為を「第2行為」という。)事実が認められる。 そうすると,第1行為から第2行為まで約4日という間隔が空いており,第1行為時に既に財物奪取が完了し,その後第2行為までの間に被告人が自宅からの外出と帰宅を繰り返して仕事や遊興をしているとの事情がみられるけれども,両行為が全く同一の場所で同一の被害者に対して行われたものであること,Aが第1行為によって惹起された意識不明状態から回復しあるいは何らかの自律的行動をとった形跡がなく,被害者の状況にほとんど変化のないまま第2行為時に至ったものとみられること,被告人は第1行為後も一貫して,強取した金品を使用しつつこれに伴う利得を自己の手中に確保 らかの自律的行動をとった形跡がなく,被害者の状況にほとんど変化のないまま第2行為時に至ったものとみられること,被告人は第1行為後も一貫して,強取した金品を使用しつつこれに伴う利得を自己の手中に確保し続けることを望み,自己の犯跡を隠蔽するためには同女に死んでもらうほかないと考えていたため,何らの救命措置もとらずに同女を放置し続けており,放置という不作為状態を挟んだ両行為間でAに対する強盗殺人の犯意が前後一体となって継続しているとみられること(この点,上記のとおり被告人が同女に牛乳等を与えた行為は,およそ同女の救命措置といえるようなものではなく,その延命措置としても極めて不十分であることが明らかであるから,被告人の犯意の前後一体性,継続性の認定の障害となるような性質のものとはいえない。),第2行為においては同女の頸部を強く絞めるという点で第1行為と共通する態様の行為によって第1行為時に既に企図されていた結果を最終的に実現したものであり,第1行為のいわば延長線上にあるものといえることなどを総合的に考慮すると,第1行為と第2行為の間には実質的な関連性が認められ,第2行為が新たな決意に基づいて強盗とは別の機会になされた別個独立の行為と認めるに足りる他の事情も存在しない。 以上に照らせば,本件殺害行為(第2行為)は強盗の機会になされたものというべきであるから,被告人には刑法240条後段の強盗殺人罪が成立する。 (法令の適用)被告人の判示所為は,平成16年法律第156号(刑法等の一部を改正する法律)附則3条1項により同法による改正前の刑法240条後段に該当するところ,所定刑中無期懲役刑を選択して被告人を無期懲役に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,押収してあるネクタイ1本(平成17年押第4号の1)は,判示強盗殺人の用 当するところ,所定刑中無期懲役刑を選択して被告人を無期懲役に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中90日をその刑に算入し,押収してあるネクタイ1本(平成17年押第4号の1)は,判示強盗殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1項2号,2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,自宅で実母を殺害して金品を強奪したという強盗殺人の事案である。 被告人は,分不相応な浪費を続けた結果,消費者金融業者等からの多額の借金を抱え,その返済に追われながらも,スナックのホステスと遊興してはその歓心を買うため求められるままに金銭を渡すといった刹那的な快楽を求める生活態度を改めず,被害者の預金までも無断で引き出して費消していたところ,これが同女に発覚し,その説明を求められたことから,同女を殺せば叱責を受けなくてもすむ上,その財産を自分のものにしてこれまでどおりの享楽的な生活を続けていくことができると考え強盗殺人行為に及んだものの,予想に反して同女が意識不明状態に陥りながらも生存し続けたことから,このままでは周囲に不審に思われ,自己の犯行が発覚してしまうとの強い焦り等も加わって,同女を殺害したというのである。このように,本件の動機は,自己にとって不快なものを遠ざけつつ,快楽を追求するためには実母の生命すら奪うことも辞さないという極めて自己中心的で甚だ利欲的なものであり,酌量の余地は寸毫も認められない。 その犯行態様についてみても,被告人は,無防備状態で座っていた被害者の頸部に背後からいきなりネクタイを巻き付け,苦しがって首に手をやる同女の抵抗を意に介さず数分間にわたって強く絞め上げ,その意識を失わせて失禁するに至らせ,仰 ,被告人は,無防備状態で座っていた被害者の頸部に背後からいきなりネクタイを巻き付け,苦しがって首に手をやる同女の抵抗を意に介さず数分間にわたって強く絞め上げ,その意識を失わせて失禁するに至らせ,仰向けに寝かせた同女が死亡していないことに気付くや,再び同女の頸部をネクタイで強く絞め上げて,その胸が動かなくなり,呼吸が停止したのを確認してからようやく手を放し,その後も同女が意識不明状態のまま生存し,次第に衰弱していくのを十分に認識しながら,救急車を呼ぶなどの適切な救命処置を何ら施すことなく,ひたすら自己の犯行の発覚を恐れて同女を4日間にもわたってその場に放置し続けた後,みたび同女の頸部を,その絶命を確認するまで両手で思いきり絞め続けて,同女を窒息死させたもので,確定的な殺意に基づく執拗かつ冷酷非情で残忍な犯行というべきである。 しかも,尊い人命が奪われた結果は誠に重大であるばかりか,前記のように三度にもわたって断続的に首を絞めるという犯行態様やその間の放置状況,同女の発見時,その顔面にうっ血が生じていたことなどに照らすと,同女が死に至るまでの間に蒙った肉体的苦痛は非常に大きかったとみられる上,82歳と高齢ながらもかくしゃくとして,平穏な余生を送り,何らの落ち度もなかったにもかかわらず,苦労して一人前に育て上げ,本件当時も食事の世話などをしていた実の息子に裏切られ殺害されるという思いもかけない形で突然人生を断たれた被害者の無念さは察するに余りある。また,強取された金品は現金10万円とキャッシュカード1枚であるが,金銭的被害として軽微とはいえず,この点を軽視することはできない。 さらに,被告人は,被害者のキャッシュカードを用いて,同女の預金をほしいままに引き出し,同女が自宅で虫の息の状態に陥っているというのに,借金の返済やスナックの飲食代金 点を軽視することはできない。 さらに,被告人は,被害者のキャッシュカードを用いて,同女の預金をほしいままに引き出し,同女が自宅で虫の息の状態に陥っているというのに,借金の返済やスナックの飲食代金,ホステスとの宿泊費などに費消した上,同女殺害後も自殺に見せかけるべく救急隊員や警官に嘘をついて罪証の隠滅を図っており,犯行後の情状も悪い。 加えて,本件犯行が近隣住民や社会に与えた衝撃にも看過できないものがある。 以上に照らせば,犯情は誠に芳しくなく被告人の刑事責任は極めて重大である。 そうすると,被告人は被害者から預金の無断引出しの説明を求められた言葉が直接のきっかけとなって犯行を決意したもので計画的なものとまではいえないこと,犯行中数日間は被害者にとどめを刺すことを躊躇し,罪悪感等から極めて不十分ながらも被害者に牛乳などを与えており,被告人の規範意識の片鱗が窺われないではないこと,捜査段階から事実関係を素直に認めて真摯な反省の態度を示していること,被告人には業務上過失傷害,道路交通法違反の罰金前科が1犯あるのみであることなど,被告人のために酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人に対しては,主文のとおり無期懲役刑をもって臨むのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑)無期懲役,ネクタイ1本の没収平成17年4月27日和歌山地方裁判所刑事部裁判長裁判官樋口裕晃裁判官田中伸一裁判官下和弘 下和弘

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