- 1 - 令和6年(わ)第304号主文被告人を懲役14年に処する。 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、実父であるAの経営する家業に従事していたものであるが、かねて同家業の資金をギャンブルや投資のために着服していたところ、その発覚が間近に迫ったと考えて危機感を覚え、強盗による犯行にみせかけて同人を殺害しようと企て、第1 令和6年7月10日午前7時13分頃、和歌山県海南市(住所省略)B商店内において、Cほか4名所有の現金合計8万60円を窃取し、第2 同日午前7時16分頃から同日午前7時20分頃までの間に、前記場所において、出勤してきたA(当時66歳)に対し、いきなり、殺意をもって、石頭ハンマーでその頭部等を多数回殴打する暴行を加え、よって、同日午前9時27分頃、D病院において、同人を重傷頭部外傷により死亡させて殺害した。 【事実認定の補足説明】窃盗事件につき、弁護人は、被告人は被害金の占有取得に当たり強盗の犯行に見せかける目的しかなかったため、不法領得の意思を欠く旨主張する。 この点、関係証拠によれば、被告人は、本件の直後に、凶器の石頭ハンマー、着用していた衣服及び店内にあった防犯カメラ用の機器を、焼却したり海に捨てたりしたこと、家業用の工場内の棚の中に被害金を置いたことが認められる。このように、被告人が、種々の証拠品を処分する一方で、被害金については保管していたことに加え、置いておけばいつでも何らかの用途に使うことができるという現金の一般的性質を考慮すると、被告人には、被害金の占有取得時において、ほとぼりが冷めた後に自己の用途に使用する目的も併存していたことが強く推認される。被告人の供述する「現金を捨てる発想がなかった」との点も、まさにその経済的用法に従 人には、被害金の占有取得時において、ほとぼりが冷めた後に自己の用途に使用する目的も併存していたことが強く推認される。被告人の供述する「現金を捨てる発想がなかった」との点も、まさにその経済的用法に従った処分意思を裏- 2 - 付けるものにほかならず、弁護人の主張にも前記推認を左右するものはないから、被告人には不法領得の意思が認められる。 【量刑の理由】被告人は、自身の犯行と露見することなく確実に被害者を殺害することを企図し、事前にそれなりの準備をした上、相当の重量のあるハンマーを用い、被害者の頭部を目がけて10回以上も執拗に殴打しており、計画的で強固な殺意に基づく非情な犯行である。結果の重大性はいうまでもなく、訳もわからないまま息子の手で絶命させられた被害者の無念は察するに余りある。 その動機・経緯に関し、弁護人は、絶対的な存在である被害者を中心とした家族内の長年にわたる問題とそれによる被告人のストレスを強調している。確かに、被害者には頑固一徹で周囲への配慮を欠く面があり、従順で自己主張が弱い被告人との間で情緒的交流が乏しかったことや、被告人に跡取りとして被害者の期待に応えなければならないという思いがあったこと等がその意思決定に影響したことは否定できない。 しかし、本件以前に被告人と被害者との間に特段の軋轢が生じていたわけではなく、被告人自身、やりがいを持って家業に従事していたと述べている。本件の主な要因は、被告人が、学生の頃にギャンブルで失敗して被害者に迷惑をかけたという負い目を有しながら、性懲りもなくギャンブルや投資にのめり込み、多額の着服に及んでいたところ、その発覚をおそれたことにあると認められ、身勝手かつ短絡的な犯行というほかない。 そうすると、被告人の犯情は悪く、本件は同種事案(前科のない者による凶器を用いた親に 額の着服に及んでいたところ、その発覚をおそれたことにあると認められ、身勝手かつ短絡的な犯行というほかない。 そうすると、被告人の犯情は悪く、本件は同種事案(前科のない者による凶器を用いた親に対する殺人1件の事案)の中でも比較的重い部類の事案である。 以上の犯情評価を前提に、被告人が概ね事実を認めて反省の意を示していること、被告人の母親という立場にもあるとはいえ、被害者の妻が厳しい処罰を望んでいないこと等も踏まえ、主文のとおりの刑が相当と認めた。 (求刑懲役18年、弁護人の科刑意見懲役8年程度以下)令和8年1月23日- 3 - 和歌山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官福島恵子 裁判官西谷大吾 裁判官石井大貴
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