平成17(ワ)234 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年1月24日 那覇地方裁判所 その他
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判決文本文23,734 文字)

- 1 -主文 被告は,原告Xに対し,金4464万5703円及びこれに対 する平成15年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X及び原告Xに対し,それぞれ金2232万28 51円及びこれに対する平成15年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを10分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Xに対し,金5189万1935円及びこれに対する平成1 5年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告X及び原告Xに対し,それぞれ金2594万0967円及び これに対する平成15年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告が経営するダイビングショップが主催し,被告が所有し,船長として操船していた船舶を用いて行われたダイビング講習等に同ダイビングショップの一員として同行していたAが,同船舶を海底の岩礁に係留していたアンカーを海中に潜って外す作業に従事中,海中で溺れて意識不明の状態に陥り,死亡した事故(以下「本件事故」という。)について,Aの妻及び子らである原告らが,被告に結果発生についての過失があると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償及び事故発生の日から民法所定の年5分の割合による- 2 -遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(証拠掲記のないものは当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告原告Xは,Aの妻であり,原告X及び原告Xは,Aの子である。な お, 延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実(証拠掲記のないものは当事者間に争いがない。)(1) 当事者ア原告原告Xは,Aの妻であり,原告X及び原告Xは,Aの子である。な お,原告Xは,A死亡時には胎児であったが,平成15年8月19日に 出生した。 イ被告被告は,本件事故当時,「B」の商号でダイビングショップを経営していた者である。 (2) Aの資格等についてAは,平成9年6月,4級小型船舶操縦士免許を取得し,平成13年4月13日には小型特殊1級船舶操縦士免許を取得している。また,Aは,平成14年12月1日にスキューバダイビングの業界団体であるPADIのOPENWATERDIVER(以下「オープンウォーター」という。)として認定され,認定証であるCカードの発行を受けている。(甲29ないし31)(3) 本件事故の発生Aは,被告の経営するダイビングショップでの採用面接を受け,平成15年5月15日,同ダイビングショップが主催するダイビング講習等に同ダイビングショップの一員として同行するため,被告の所有する船舶「C」に乗船した。被告は,Cの船長として同船の操船等を行っていた。 上記ダイビング講習等は,沖縄県島尻郡渡嘉敷村字ab番地c島灯台から南西約900メートル沖合に同船を係留して行われた。同講習等が終了した同日午後4時30分ころ,Aは,同船を係留するために水深約3.8メートルの海底の岩礁に掛けられていたアンカーの引き上げ作業に従事していたと- 3 -ころ,海中にて溺れて意識不明の状態に陥り,水深約10メートルの海底に倒れたため,これに気付いた被告らにより引き上げられ,D病院に搬送され,さらに,E病院に転送されて,治療を受けたものの,同月17日午後4時38分ころ,溺水を原因とする脳虚血による脳機能障害により に倒れたため,これに気付いた被告らにより引き上げられ,D病院に搬送され,さらに,E病院に転送されて,治療を受けたものの,同月17日午後4時38分ころ,溺水を原因とする脳虚血による脳機能障害により死亡した。(甲8ないし13,39,40,46,47)(3) 被告は,本件事故に関して,平成16年4月12日,業務上過失致死罪により起訴され,同日罰金50万円の略式命令を受けた。(甲2) 争点 (1) 被告の過失の有無(原告らの主張)ア予見可能性(ア) 岩礁に掛けられたアンカーを外す作業は,まず,作業員がアンカーの掛けられている位置の真上まで泳いで行き,それから船上でロープを緩める係を務める作業員に合図を送った上で海中に潜り,船上の作業員がタイミングを見計らってロープを緩めたところで,アンカーを外すという手順により行われる。 アンカーを外す作業は,海中での作業であることや船上の作業員との連携が必要であることから,困難な作業であるとともに,外れたアンカーが体に当たったり,アンカーをつなぐロープが手足や体に絡まったり,さらには,無理な潜水や潜水回数を重ねることにより溺れるなどの高度の危険性を伴う作業である。 このように,アンカーを外す作業には高度の危険性を伴うことから,この作業を1人でできるようになるには,上達が早い者で半年,そうでない場合には1年以上かかるのが実情であるとされている。そのため,同作業には経験を積んだ熟練の作業員が当てられるのが通常であった。 同作業には高度の危険性を伴うということは,船舶の船長やダイビン- 4 -グショップの責任者であれば,当然に認識していることであり,この危険な作業を全く経験のない初心者に対して事前に何ら指導することもなく,1人で従事させた場合には,作業がうまくできずにパニック状態となったり,無理な 任者であれば,当然に認識していることであり,この危険な作業を全く経験のない初心者に対して事前に何ら指導することもなく,1人で従事させた場合には,作業がうまくできずにパニック状態となったり,無理な潜水を何度も繰り返すことなどにより無酸素状態に陥るなどして,作業員の生命身体に重大な危険を及ぼすおそれのあることは当然に予測できることであった。 なお,被告が主張する海況やアンカーのかけ方等によってアンカー外し作業の難易度が変わり得ること自体は否定しないが,それはあくまでも作業の難易度の問題にすぎないのであって,作業の難易度が低い場合であっても同作業には危険を伴うことに変わりはないのであるから,同作業について危険性がないとの被告の主張は理由がない。 (イ) Aは,本件事故当時,PADIのオープンウォーターのライセンス(Cカード)しか有しておらず,また,海中の岩礁に掛けられたアンカーを外す作業の経験もなかったのであるから,アンカー外し作業の初心者であった。 (ウ) 被告は,労働安全衛生法による潜水士免許やダイビングインストラクターの免許を取得し,かつ,ダイビングクラブの責任者及び汽船Cの船長を務める者であり,アンカーを外す作業の危険性は当然に認識していた。 そして,被告は,Aが同作業の初心者であることを認識していたにもかかわらず,同人に同作業を行わせるに当たって,同人に対して同作業の方法を事前に指導することもなく,また,同人の泳力も確認することなく,初心者の同人をして,同作業に1人で従事させたものであって,同人がうまくアンカーを外せないことにあわてたり,無理な潜水を何度も繰り返すことなどにより,同人の生命身体に重大な危険を及ぼすおそれのあることは当然に予測できた。 - 5 -イ結果回避可能性(ア) アンカーを外す作業は,前記ア(ア)のとお ,無理な潜水を何度も繰り返すことなどにより,同人の生命身体に重大な危険を及ぼすおそれのあることは当然に予測できた。 - 5 -イ結果回避可能性(ア) アンカーを外す作業は,前記ア(ア)のとおり,高度の危険性を有することから,経験を積んだ熟練の作業員に担当させるか,仮に初心者に行わせる場合であっても,1人では行わせずに,熟練の作業員と一緒に潜ってその指導を仰ぎながら従事させるべきであり,その場合でも,船上から,初心者の動向を十分に監視して,事故の発生を未然に防止すべきであった。 (イ) 本件では,アンカー外し作業の経験者として,被告だけでなく,被告の従業員であったFも同船していたのであるから,仮にAに同作業を行わせるとしても,被告あるいはFも一緒に潜って指導監督することが可能であったし,また,どちらか一方が一緒に潜って,もう片方が船上でAの動向を監視することも可能であった。そして,これらの対応をとっていれば,Aが何度もアンカー外しのために潜ることを阻止し得たし,ひいては,Aの死亡という結果も回避できた。 ウ以上より,被告は,本件事故当時,Cの船長として,運行,作業全般における指揮監督及び安全管理等の業務に従事していたのであるから,同船舶のアンカー引き上げ作業を実施するに際し,同作業は海中で岩礁に掛けたアンカーを外す危険な作業であることから,同作業に習熟した者に従事させるか,仮に初心者に行わせる場合であっても,1人では行わせずに,熟練の作業員と一緒に潜ってその指導を仰ぎながら従事させるべきであり,その場合でも船上から初心者の動向を十分に監視して,事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,アンカーを外す作業の経験が全くない就労初日の従業員であったAに同作業に従事させ,これにより同人を死亡させたものである。 監視して,事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,アンカーを外す作業の経験が全くない就労初日の従業員であったAに同作業に従事させ,これにより同人を死亡させたものである。 (被告の主張)ア予見可能性について- 6 -(ア) 原告らの主張がアンカーのかけ方や海況等について一切考慮することなくアンカーを外す作業全般が危険だとする点について否認し争う。 アンカーを外すには,海中に潜って作業をする必要があることは確かではあるが,海中に潜って行う作業のすべてが困難であるわけではない。 これは,海況によって困難度が変わってくることを考えればすぐに理解できる。また,アンカーのかけ方によっても困難度が変わることも容易に理解できる。 アンカーを外す作業は,船上の作業員との連携が必要な場合があることも事実ではあるが,そのような連携が必要な場合に船上の作業員の行う作業は,アンカーを外した作業員からの連絡を待って行うものであるから,原告ら主張のような困難なものではない。もちろん,海況が悪ければ,その連絡がうまく伝わらない場合もあり,そのような場合には困難な作業となり得るが,だからといってすべての場合に困難だということにはならない。 また,外れたアンカーが海中の作業員に当たる場合についても,アンカー外し作業に常に伴うものではないし,アンカーをつなぐロープが海中の作業員の手足や体に絡まる場合は,なおさらレアケースといえる。 さらに,無理な潜水や潜水回数を重ねることにより溺れるとの点は,被告の本件事故の過失の前提としての予見可能性としては否認する。 無理な潜水や潜水回数を重ねることにより溺れるということは,一般の潜水に伴う危険であり,しかも,潜水する本人自身が無理な潜水や潜水回数を重ねることによって初めて生じる危険であって,アンカーを外 る。 無理な潜水や潜水回数を重ねることにより溺れるということは,一般の潜水に伴う危険であり,しかも,潜水する本人自身が無理な潜水や潜水回数を重ねることによって初めて生じる危険であって,アンカーを外す作業をさせるに当たって特有に生じるものではない。そのような危険は,あえていえば,指導者ないしは監督者の指示を作業員が無視した場合に生じ得るという限度でのみ考えられるのである。 以上のとおり,原告らの主張は,アンカーを外す作業全般が危険だと- 7 -するものであり,同作業についての実情からかい離した主張である。 (イ) 被告の認識として,各海況を踏まえた上で,アンカーを外す作業が場合により危険を伴うこともあるという限度で同作業の危険性があることの認識を有していたことは認める。問題は,本件における具体的海況下での危険性であり,その危険性についてもA自身が単なる初心者でないことを考慮すべきである。 本件事故発生時における海況は,天気は曇り,風向は南から南西方向,風速は毎秒5メートルから7メートル,波高1メートル以下,午後4時における潮流の方向は北(009度)方向へ約0.1ノット,潮位については午後4時で122センチメートル,午後5時で164センチメートルというのであるから,極めて穏やかな状況であり,初心者でも十分にアンカー外し作業を行うことが可能な海況であったといえる。 しかも,Aは,平成9年6月に4級小型船舶操縦士免許を取得し,平成11年4月から平成12年6月まで,「G」にて「H」の船長であったもので,小型船舶における船長の指示の重要性について十二分な理解が可能であったこと,PADIオープンウォーターのCカードを取得するコースにおいて,スキンダイビングの技術も含めてインストラクターから詳細なテキストを使用した丁寧な指導を受け,その達成条件を満 理解が可能であったこと,PADIオープンウォーターのCカードを取得するコースにおいて,スキンダイビングの技術も含めてインストラクターから詳細なテキストを使用した丁寧な指導を受け,その達成条件を満たすものと認定されたものであることからすれば,単なる初心者とはいえないのである。 以上のとおり,予見可能性に関する原告らの主張は理由がない。 イ結果回避可能性について原告らの主張は,アンカーを外す作業全般が高度の危険性を有するということを前提としているが,前記ア(ア)のとおりであって,そもそも前提において誤っている。 そして,本件事故における結果回避可能性については,前記ア(イ)のよ- 8 -うな事情を考慮に入れる必要がある。 すなわち,本件事故当時の海況は,極めて穏やかな状況であり,原告らが主張するような危険はない。 そして,Aは,前記ア(イ)のとおり,ダイビングの技術について素人同然というわけではなく,また,6年間の小型船舶操縦士としての経験及び船長として稼働していた経験もあったのであるから,本件で被告に要求される回避行為は,一般の素人に対する回避行為と同レベルのものが要求されるわけではない。 現に,被告において,作業の中止をAに命じていたのであるから,Aがその指示を無視することは,そもそも予見できないこともさることながら,被告の回避行為をないがしろにするものであって,その回避可能性を否定するものである。 以上から,被告には,原告ら主張の結果回避可能性も認められない。 ウよって,この点に関する原告らの主張は理由がない。 (2) 因果関係の断絶の有無(被告の主張)Aは,4級小型船舶操縦士の免許を取得し,かつ「船長」の経験があった者であり,小型船舶において船長がどのような地位にあり,どのような責任を負っているかを自ら熟知していた者である 有無(被告の主張)Aは,4級小型船舶操縦士の免許を取得し,かつ「船長」の経験があった者であり,小型船舶において船長がどのような地位にあり,どのような責任を負っているかを自ら熟知していた者である。つまり,船長が指示を出した場合,その重要性について十二分に理解が可能な者であったのである。しかも,世界的に著名なダイビング指導団体であるPADIの指導を受け,技術も会得したとして認定を受けたダイバーであって,ハイパーベンチレーションという泳法の危険性についても十分に理解していた者である。 Aがこのような人物であったことからすれば,仮に,被告に何らかの過失があったとしても,被告の作業中止命令を無視しているのであるから,A自らの行動によって,本件事故との因果関係を断絶したものといわざるを得な- 9 -い。 (原告らの主張)被告の主張は争う。 仮に,被告がAに対して作業の中止を命じていたとしても,被告は,Aが再度海中に潜っていくところを見ていながら,「最後のチャレンジをしたのだ」と思い,そのままAにアンカーを外す作業に従事させているのであるから,作業の中止を命じたとしても,それによって因果関係が断絶されるようなことはない。 (3) 損害(原告らの主張)アAに生じた損害9436万3869円(ア) Aの死亡逸失利益6486万3869円基礎収入565万9100円(賃金センサス男性労働者学歴計全年齢)×生活費控除率(1-0.3)×ライプニッツ係数16.3741(死亡時32歳)=6486万3869円(イ) Aの死亡慰謝料2800万円Aは一家の支柱であり,死亡慰謝料としては,2800万円が相当である。 (ウ) 葬儀費用150万円(エ) 合計9436万3869円イ原告らは,前記アのとおりの損害額を以下のとおり相続した。 (ア) 原告X であり,死亡慰謝料としては,2800万円が相当である。 (ウ) 葬儀費用150万円(エ) 合計9436万3869円イ原告らは,前記アのとおりの損害額を以下のとおり相続した。 (ア) 原告X4718万1935円 9436万3869円×1/2=4718万1935円(イ) 原告X2359万0967円 9436万3869円×1/4=2359万0967円(ウ) 原告X2359万0967円 - 10 -9436万3869円×1/4=2359万0967円ウ弁護士費用原告らは,原告ら訴訟代理人に対して,その報酬として,それぞれ請求額の1割として,以下のとおりの金額を支払うことを約束した。 (ア) 原告X471万円 (イ) 原告X235万円 (ウ) 原告X235万円 (被告の主張)争う。 なお,原告らは,基礎収入について,賃金センサスに基づいて主張しているが,被告の経営するダイビングショップにおいては,臨時雇用の従業員の給料は,最盛期であった平成12年度で,1級小型船舶操縦士免許を所持し,ダイビングについてダイブマスタークラスの資格を持っている者については月額8万円,1級小型船舶操縦士免許を所持しているインストラクターで月額13万円である。到底,原告ら主張の賃金センサス程度の収入など望むべくもないのであり,賃金センサスを適用すべきではない。 また,葬儀費用については,後記(5)(被告の主張)イ記載のとおり,原告らは,労災補償金等として葬祭料49万5000円を受け取っているところ,それを超える金額については,相当の葬祭料とはいえないのであるから,損害額としては認められない。 (4) 過失相殺(被告の主張)仮に,被告に過失が認められた場合,Aについては,前記(1)(被告の主張)記載の事情が存在するのであるから 料とはいえないのであるから,損害額としては認められない。 (4) 過失相殺(被告の主張)仮に,被告に過失が認められた場合,Aについては,前記(1)(被告の主張)記載の事情が存在するのであるから,Aにおいて重大な過失があるといえ,過失相殺されるべきである。 (原告らの主張)- 11 -本件においては,過失相殺すべき事由はない。 なお,被告がAに対して,作業の中止を命じていたという主張については,否認ないし争う。 仮に,被告が作業の中止を命じていたとしても,Aは,数回の潜水後の呼吸の乱れにより適切な判断能力を喪失していたと考えられることからすれば,被告が口頭で作業の中止を命じただけでは,既にその命令に対して適切に従うことはできない状態であったのであるから,その指示に従えなかったとしても,それをもって過失相殺事由とするのは相当でない。 (5) 損益相殺(被告の主張)原告らが受けた労災補償金等の下記の支給額については,損害額から控除されるべきである。 ア定額の特別支給金300万円イ葬祭料49万5000円ウ労災保険年金エ労災就学等援護費なお,原告らは,葬祭料と労災保険年金(支給確定分)のみ損害額から控除されると主張するが,現実に原告らに金員が支給され,また,保険年金については各年ごとに支給額が決定され,その度に現実的な損害填補がされていくという実情を無視した議論であり到底認められない。原告らの主張を前提とすると,原告らは労災保険年金を受給できるものであり,しかも,その支給は原告Xが再婚しない限り継続的にされるものであるところ,この継 続的に支給される労災保険年金の受給を認めながら,その一方で原告らの損害賠償請求をそのまま認めることになると,結局のところ,原告らの二重取りを認めることとなって,衡平の原則ないし公平の理念 の継 続的に支給される労災保険年金の受給を認めながら,その一方で原告らの損害賠償請求をそのまま認めることになると,結局のところ,原告らの二重取りを認めることとなって,衡平の原則ないし公平の理念に照らし容認できない。 - 12 -(原告らの主張)損害額から控除できるのは,葬祭料と労災保険年金(支給確定分)である。 特別支給金は,労働福祉事業の一環として,福祉の増進を図るために支給されるものであることから,損害額から控除することはできない(最高裁判所平成6年(オ)第992号同8年2月23日第二小法廷判決・民集50巻2号249頁参照)。 また,労災就学等援護費も同様に労働福祉事業の一環として支給されるものであると考えられるから,損害額から控除することはできない。 第3当裁判所の判断 前記第2の1の前提事実並びに証拠(各項掲記のもののほか,被告本人,証人F,甲8,13,53ないし55,62,乙3,4,8ないし10)及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。 (1) 当事者アAの資格,職歴等Aは平成2年に高校を卒業後,同年10月から平成3年3月まで,季節工として稼働し,同年4月から平成9年1月まで,飲食業でウェイター,バーテンダー,マネージャーとして稼働し,同年2月から平成10年3月まで金融業で営業職として稼働し,同年6月から平成11年1月までは季節工として稼働していた。その後,平成11年4月から平成13年4月ころまで,Gで,タンカー船(H)の船長として船に燃料を配送する業務を行い,Gを退職した後平成15年2月まで,店頭精米販売の自営業を行っていた。 Aは,平成9年6月,4級小型船舶免許を取得し,平成13年4月13日には小型特殊1級船舶免許を取得している。また,Aは,平成14年12月1日にPADIのオープンウォーターとし 自営業を行っていた。 Aは,平成9年6月,4級小型船舶免許を取得し,平成13年4月13日には小型特殊1級船舶免許を取得している。また,Aは,平成14年12月1日にPADIのオープンウォーターとして認定され,認定証であるCカードの発行を受けているが,ダイビング業界で稼働した経験はなく,- 13 -頻繁にダイビングをしに行ったこともなかった。(原告X本人,甲29 ないし31)イ被告被告は,本件事故当時,「B」の商号でダイビングショップを経営していた者である。 被告は,昭和63年12月に1級小型船舶操縦士の免許を,平成8年5月に労働安全衛生法による潜水士の免許をそれぞれ取得し,また,いずれもダイビングの指導団体であるJCIAのインストラクタートレーナー,NAUIのインストラクター,ライフセイバー,BSACのアドバンスドインストラクター,CMASのモニターインストラクターの各認定を受けている。(甲26)被告は,本件事故当時,Cの船長として,同船を操船していた。Cには,船首側中央部にアンカーロープを巻き付ける船首用ビットが1か所,船尾側には左右両サイド端に船尾用ビットがそれぞれ1か所ずつ設置されている。 船首用ビット及び右船尾側の船尾用ビットにはアンカーロープが結束されており,アンカーロープの先に結束されたチェーンでアンカー(いかり)が接続されていた。右船尾側のアンカー(以下「バックアンカー」ともいう。)は,4爪からなるステンレス製のクランプネルアンカー(四爪いかり)で,長さ約42センチメートル,爪と爪との間が約27センチメートル,重さ約3.7キログラムであった。 (2) アンカー掛け,アンカー外しの手順等ア沖縄のダイビング業界やダイビング協会の取り決めで,サンゴの保護のために,アンカーを掛ける際には,アンカーを船上から投げ下 約3.7キログラムであった。 (2) アンカー掛け,アンカー外しの手順等ア沖縄のダイビング業界やダイビング協会の取り決めで,サンゴの保護のために,アンカーを掛ける際には,アンカーを船上から投げ下ろしてアンカーを掛けるという方法ではなく,実際に手に持って水中に潜り,岩礁にアンカーを掛けるという方法が採られている。アンカーを掛ける際には,- 14 -風向きや風力,潮の流れ等により,アンカーの本数を増やしたり,岩礁に掛ける位置や方法を変えたりするとされる。 岩礁に掛ける方法としては,岩礁のくぼみにアンカーの爪をかけるだけの方法(乙12の1)や,岩礁のくぼみにアンカーの爪をかけた上,アンカーに結束されているチェーンを岩礁に絡めてより強く固定するという方法(乙12の2及び3)などがある。 イアンカーを外す際にも,水中に潜って,岩礁に掛けられているアンカーを外すという作業が必要であるが,アンカーロープが張っている状態では岩礁にアンカーの先が掛かっているので外すことが困難で,その状態でアンカーを外すとアンカー部分が船の方向に引っ張られる可能性があり,ロープにからまれたり,外れたアンカーが手足や体の一部に当たったりして危険であり,船上の者と連携をして,まずビットに結ばれているアンカーロープを緩めてからアンカーを外すという作業が必要であるとされる。 そのため,被告以外のダイビングショップの経営者は,アンカーを外す作業には,経験を積んだ者を従事させている。(甲52,56ないし58)(3) 本件事故に至る経緯アAは,平成15年(以下,平成15年については月日のみを記載する。)5月14日,求人情報誌に掲載されていた被告が経営するBに履歴書(甲29)を持参して,被告による就職面接を受けた。 Aが持参した履歴書には,おおむね前記(1)アのとおりの職歴, 月日のみを記載する。)5月14日,求人情報誌に掲載されていた被告が経営するBに履歴書(甲29)を持参して,被告による就職面接を受けた。 Aが持参した履歴書には,おおむね前記(1)アのとおりの職歴,資格が記載されており(なお,同履歴書には,1級小型船舶免許の取得時期は平成11年6月,Gでの稼働期間は平成11年4月から平成12年6月までと,前記(1)アで認定した事実と異なる記載がされている。),Aは,被告に対して,海が好きで,マリンレジャー関係の仕事に就きたいと積極的にアピールした。 - 15 -これに対し,被告は,Aの年齢が当時32歳だったことや,扶養家族がいること等を総合的に判断して,Aを採用することは困難であると判断し,Aに採用はできない旨告げた。 しかしながら,Aがなおも採用を懇願したことから,被告は,実際に海の仕事を体験すれば困難さが分かるだろうなどと考え,とりあえず1週間から3週間前後,仕事内容を見てもらいたい旨告げ,Aは翌日の5月15日から被告のところで仕事内容を見ることとなった。 イ当日朝から本件事故に至るまで(ア) Aは,5月15日午前8時ころまでには被告の事務所に一番乗りで到着した。 同日午前10時30分ころ,被告,被告の従業員であるF,I,Aのほか,ダイビング講習生3名,体験ダイビングの客1名の合計8名で,被告がCを操船して,dマリーナから,西方約6キロメートルの沖合にある通称「e」こと沖縄県島尻郡渡嘉敷村のc島向けに出航した。 (イ) Cは,同日午前11時ころ,目的地である同村字ab番地c島灯台から南西約900メートル沖合の「e」の「d」というポイントに到着した。 同ポイントは,潮汐状況によって異なるが水深はおおむね4メートルから10メートル程度であって,潮の流れも穏やかで,海中の透明度も非常に高いポイントで 沖合の「e」の「d」というポイントに到着した。 同ポイントは,潮汐状況によって異なるが水深はおおむね4メートルから10メートル程度であって,潮の流れも穏やかで,海中の透明度も非常に高いポイントである。海底は,様々な形をした岩礁で覆われている。 同日午後4時の天気は曇り,風向は南から南西,風速は秒速5メートルから7メートル,波の高さは1メートル以下であり,同日午後3時から午後5時までの潮流は約0.1ノットと非常に穏やかな状況であった。 (甲35,37)同ポイントに到着後,Iは,Fから指示をされ,Cを同ポイントで停- 16 -泊させるため,マスク,シュノーケル,フィンのみを装着した素潜りで船首側のアンカーを持って潜り,沖縄県ダイビング安全対策協議会が設置した黄色の浮きにアンカーを掛けて船首側を固定した。その後,Iは,Fから指示をされ,右船尾側のバックアンカーをFから指示された岩礁の斜面に掛けた。Iがバックアンカーを掛けた位置は,Cから直線距離で約17.7メートル,水深約5メートル(潮汐によって若干水深は異なる。)ほど潜った位置にある岩礁であり,そこからC側に進むと深くなっており,最大水深は約10メートル程度である。 (ウ) その後,被告は,スキューバダイビングの講習を行っていたが,体験ダイビングの客が耳抜きしやすいように,バックアンカーを,Iが掛けた場所から若干Cと反対側の岩礁の浅い場所に,岩礁のくぼみにアンカーの爪を掛けるだけの方法で掛け直した。被告がバックアンカーを掛けた場所は,Cから直線距離で約19.4メートル,水深約3.8メートルである(潮汐によって若干水深が異なることは同様である。)。 (エ) しかしながら,体験ダイビングの客は,結局,耳抜きができずに潜れなかったことから,水面でFと一緒に泳ぐなどした。Aは,その際,素潜り ある(潮汐によって若干水深が異なることは同様である。)。 (エ) しかしながら,体験ダイビングの客は,結局,耳抜きができずに潜れなかったことから,水面でFと一緒に泳ぐなどした。Aは,その際,素潜りで水中に潜り,水中から体験ダイビングの客に見えるように手を振るなどしていた。 ウ本件事故発生の状況(ア) 同日午後4時ころ,被告は,スキューバダイビングの講習を終え,Cの上で,講習生たちに器材の後かたづけの方法等を説明するなどし,I,Fも器材の整理等をしていた。 その後,被告やFが帰港の準備をしていた際,Aは,素潜りの経験があるのでアンカー外しをしたいと申し出た。それに対して,被告は,大丈夫か,気をつけろよなどと言って,アンカー外しをさせることを了解した。 - 17 -そこで,Aは,ウェットスーツを着て,腰にウエイトベルトを巻き,マスク,シュノーケル,フィンを装着し,水中に入り,バックアンカーを掛けてあった付近まで水面を移動していき,バックアンカーが掛かっている付近で,頭から水中へ潜っていった。 その際,Cでは,Aがバックアンカーを外しやすいように,Iが,船尾側のビットに結束されていたロープを緩めた。 (イ) 1回目にAが潜った際には,Iはバックアンカーが外れた手応えを得たが,AとIのタイミングが合わず,Iはアンカーを引き上げることができなかった。そこで,被告がIからロープを受け取り,ロープを巻き上げる作業を替わった。 Aは,2回目に潜った際もアンカーを外すことができずに浮上した。 Aは,更に3回目に挑戦して潜ったが,結局アンカーを外すことができずにCから十数メートル離れた場所に浮上し,浮上した際には,海面上でシュノーケルを口から外して,息苦しそうに荒い呼吸をしていた。 (ウ) シュノーケルを口から外して息苦しそうにしているAの様子を見た被 にCから十数メートル離れた場所に浮上し,浮上した際には,海面上でシュノーケルを口から外して,息苦しそうに荒い呼吸をしていた。 (ウ) シュノーケルを口から外して息苦しそうにしているAの様子を見た被告は,Aに対して,シュノーケルを口にくわえろ,呼吸を整えろ,横になれと指示をした。 その指示に対して,Aは,シュノーケルを口にくわえ,横になった状態をとった。 被告は,Aに対して,「無理だったら戻ってこい。」と声をかけるとともに,Iに対して,Aの代わりにアンカー外しに行く準備をするように指示をしたが,Aは,再び頭から潜って行った。 (エ) 被告は,Aが最後の挑戦をしたものと思い,アンカーロープを緩めた後,バックアンカーが外れた感触があったため,アンカーロープを引っ張った。 ところが,Aがなかなか海面に浮上してこないため,被告の指示によ- 18 -りFが水中をのぞいたところ,Fは,頭から海底に沈んでいく様子のAを見て,あわてて被告に対して,「やばい,やばい。落ちている,落ちている。」と叫んだ。 そこで,被告も水中を確認し,マスク,フィン,スキューバ器材等を装着し,水中に潜り,Aを救助して,Cに引き上げた。被告がAを救助するため水中に潜った際,Aは,被告がバックアンカーをかけ直した岩礁よりもCに数メートル近づいた位置で,水深約10メートルの海底で倒れていた。 (オ)同日午後4時30分ころ,被告は,Aを引き上げたが,Aには脈がなく,呼吸もしていなかったため,人工呼吸等の心肺蘇生術を行い,Cを出航させ,心肺蘇生術を繰り返した上,港に到着後,直ちに救急隊員にAを引き継いだ。 しかしながら,Aは,同月17日午後4時38分ころ,溺水を原因とする脳虚血による脳機能障害により死亡した。 争点(1)(被告の過失の有無)について(1) アンカー外し作業の危 にAを引き継いだ。 しかしながら,Aは,同月17日午後4時38分ころ,溺水を原因とする脳虚血による脳機能障害により死亡した。 争点(1)(被告の過失の有無)について(1) アンカー外し作業の危険性についてア前記1(2)で認定したところによれば,素潜りでアンカーを外す作業は経験を必要とする作業であり,危険を伴う作業であると認められる。 なお,被告は,アンカー外しが危険を伴う作業であり,同作業には経験を積んだ者を充てている旨のダイビングショップ経営者らの供述(甲52,56ないし58)は,アンカーの掛け方を間違っていたり,Cとは別タイプのダウンフォース型アンカーについての供述であるなどとして,同供述の信用性はなく,これらを本件に当てはめることはできない旨主張する。 この点,確かに,Jの供述(甲56)は,珊瑚礁にロープを巻き付けてアンカーを掛けるとしており,前記1(3)イ(ウ)で認定した本件でのアンカー掛けの方法とは異なる方法となっているが,他のK(甲52)やL(甲- 19 -57),M(甲58)の各供述内容をみても,本件とは異なるアンカー掛けの方法を前提とするものとは認められない。また,これら各供述内容をみても,そこにいうアンカーが本件のような爪型アンカーではなく,ダウンフォース型アンカーを前提とした危険性を指摘するものとも認められない。 イこれに対し,被告は,本件事故発生時の海況やバックアンカーの掛け方等に照らせば,本件のバックアンカーを外す作業は危険な作業ではないと主張すると共に,これに沿う陳述ないし供述をし(被告本人,乙9),Fも,証人尋問において,岩礁のくぼみにアンカーの爪を掛けるだけの方法で掛けられているアンカーを外す作業は簡単である旨証言する。 確かに,本件において,被告が掛け直したバックアンカーは,岩礁のくぼみにアン 証人尋問において,岩礁のくぼみにアンカーの爪を掛けるだけの方法で掛けられているアンカーを外す作業は簡単である旨証言する。 確かに,本件において,被告が掛け直したバックアンカーは,岩礁のくぼみにアンカーの爪を掛けるだけの方法であり,その爪を岩礁から外すだけでアンカーが外れるという掛け方であったことが認められ,また,本件事故が発生した場所の海洋状況も,前記1(3)イ(イ)のとおり穏やかな状況であったこと,バックアンカーが掛けられていた場所の水深も4メートル程度とさほど深い場所ではなかったことが認められる。 しかしながら,アンカー外しの作業は,前記1(2)イで認定したようなこれに伴う危険の内容に照らせば,アンカーの掛け方や作業場所の状況(海況)如何にかかわらず,程度の差こそあれ,危険を伴うと共に,船上でロープの操作をする者との連携が必要となるなど,とりわけ素潜りで行うには経験を必要とする作業というべきである。 この点,F自身,アンカーを外す作業を行う前には,2,3回,前の店長が外すのを見せてもらい,教えてもらっているのであって(証人F),全く経験がない状態でアンカーを外す作業に従事したわけではない(なお,Fはジェットスキーを係留する際に使っていたアンカーも,本件のバックアンカーと同じ様なアンカーであり,これを外す作業はそれ以前から行っ- 20 -ていたという趣旨の証言もするが,水深約4メートルの水中に掛けられているアンカーを外す作業とジェットスキーを係留しているアンカーを外す作業とではその危険性が異なることは明らかである。)。 以上から,本件でバックアンカーを外す作業は危険な作業ではないとする被告の主張は失当である。 (2) Aの能力,経験についてアAの泳力については,前記1(3)イ(エ)のとおり,素潜りで水中に潜り,水中から水面で泳い クアンカーを外す作業は危険な作業ではないとする被告の主張は失当である。 (2) Aの能力,経験についてアAの泳力については,前記1(3)イ(エ)のとおり,素潜りで水中に潜り,水中から水面で泳いでいる人に向かって手を振ったりすることができることが認められるのであり,素潜り(スキンダイビング)自体の能力は,決して低いものではなかったことが認められる。 イしかしながら,前記1(1)アで認定したとおり,Aは,従前,ダイビング業界では稼働したことがない。 また,Aは,平成14年12月に,オープンウォーターのCカードを取得していることが認められるところ,証拠(乙1の2,乙2)によれば,オープンウォーターのCカードは,ダイビングを趣味として始めてみたいという人が最初に取得するものであり,スキンダイビングの講習を含め,基礎知識,基本スキルについてPADIによって定められた学習目標,達成条件を満たしていると認定された者に対して発行されるものであることが認められる。 しかしながら,前掲各証拠によれば,オープンウォーターのCカードは,これを取得してはじめて,インストラクターなしにダイビングをすることができるというにとどまるものと認められ,しかも,オープンウォーターの上に,様々な上級コースが用意されていることからすれば,オープンウォーターのCカードの取得は,ダイビングを行うための第一歩に過ぎず,これを取得しただけの者は,ダイビングの初心者の域を出ないものといわざるを得ない。 - 21 -しかも,本件事故当時,Aは,オープンウォーターのCカードを取得してから約5か月半しか経過しておらず,その間,頻繁にダイビングをしていたものでもない。 そうすると,オープンウォーターのCカードを取得しているからといっても,Aのダイビングに関する経験は決して高いものではな 5か月半しか経過しておらず,その間,頻繁にダイビングをしていたものでもない。 そうすると,オープンウォーターのCカードを取得しているからといっても,Aのダイビングに関する経験は決して高いものではなかったと認められる。 ウまた,前記1(1)アのとおり,Aは平成9年6月に4級小型船舶操縦士の免許を取得し,その後,平成13年4月には小型特殊1級船舶操縦士免許も取得していることが認められ,Fにおいてタンカー船の船長として燃料の配達等の仕事をしていたことも認められることから,小型船舶における船長の指示等の意味については理解をすることができたものと認められる。 しかしながら,前記1(1)アのとおり,Aはダイビング業界では稼働したことがなく,また,前記1(2)のとおり,沖縄のダイビング業界やダイビング協会の取り決めでは,サンゴの保護のために,アンカーを掛ける際には,通常の船における手順とは異なり,実際に手に持って水中に潜り,岩礁にアンカーを掛けるという方法が採られていることにかんがみれば,小型船舶操縦士免許を有するからといって,被告が主張するように初心者が無理な潜水や潜水回数を重ねることにより溺れたのとは事情が異なるとはいえない。 エ以上によれば,Aが,前記(1)のとおり危険性を内在する水中に掛けられているアンカーを外す作業を行う技量を十分に有していたとは認められない。 オ被告は,Aと面接をした際に,Aがダイビング業界で稼働したことがないことを確認し,また,Aにマリンレジャーの仕事に対する甘さがあることを感じ,仕事の厳しさを体験してあきらめてもらおうと考えていたこと- 22 -や,被告がAの泳力を確認したわけではないこと(被告本人,甲62,乙10),さらに,本件事故当日は,被告のもとでAが稼働することになった初日であることからすれば,被 うと考えていたこと- 22 -や,被告がAの泳力を確認したわけではないこと(被告本人,甲62,乙10),さらに,本件事故当日は,被告のもとでAが稼働することになった初日であることからすれば,被告は,Aにアンカーを外す作業を行う技量が十分にないことを認識していたものと認めるのが相当である。 (3) 予見可能性について前記(1)のとおり,本件においても,バックアンカーを外す作業については,経験を要する作業であって,危険を伴う作業であると認められる。 また,前記(2)のとおり,Aが,危険性を有するアンカーを外す作業を行う十分な技量を有していたとは認められず,被告もそのことを認識していたものである。 そうであるとすれば,被告は前記1(1)イのとおり,スキューバダイビングのインストラクターとして十分な経験を有しているのであるから,その経験に照らして,ダイビング業界で稼働したことがなく,アンカーを外す作業に関して十分な経験のない者にその作業をさせれば,アンカーを外す作業の際に無理な潜水や潜水回数を重ねることにより,作業員の生命や身体に重大な危険を及ぼすおそれのあることは十分予見可能であったと認められる。 (4) 結果回避可能性について被告には前記(3)のとおりの予見可能性があったと認められるところ,被告は,前記1(3)ウ(ア)のとおり,Aがアンカーを外す作業に従事したいと申し出たことを了承しているのであるから,被告が,そもそもAにアンカーを外す作業をさせないか,インストラクターとしての経験が豊富な被告あるいはアンカー外しの経験が十分にあるFをAと一緒に潜らせることにより,本件事故を回避することは十分可能であったと認められる。 これに対し,被告は,Aが小型船舶操縦士免許を有し,船長として稼働していた経験もあることなどから,船長の指示の重要性を十二 潜らせることにより,本件事故を回避することは十分可能であったと認められる。 これに対し,被告は,Aが小型船舶操縦士免許を有し,船長として稼働していた経験もあることなどから,船長の指示の重要性を十二分に理解できる者であったとして,本件で被告に要求される回避行為は,一般の素人に対す- 23 -る回避行為と同レベルのものが要求されるわけではない,現に被告はAに作業の中止を命じたがAがその指示を無視することは予見できなかったのであるから,結果を回避することは不可能であったという趣旨の主張もする。 しかしながら,上記のとおり,Aに作業をさせないか,被告あるいはFと一緒に潜ってAにアンカー外しの作業をさせることで結果を回避することは十分可能であるから,上記主張は理由がない。 (5) 結論以上より,被告には,アンカーを外す作業には,十分経験のある者を従事させるか,十分経験のない者に従事させる場合には経験のある者と一緒に作業に従事させるなど,十分その動静を監視すべき注意義務があるにもかかわらず,それを怠ったという過失が認められる。 争点(2)(因果関係の断絶の有無)について前記1(3)ウのとおり,被告は,Aが3回バックアンカーを外しに行ったが失敗した後,海面でシュノーケルを口から外し,息を荒げている状態を見て,シュノーケルを口にくわえろ、呼吸を整えろ,横になれと指示し,Aがシュノーケルを口にくわえて横になった状態を見た後,「無理だったら戻ってこい。」と声を掛けたことが認められる。 もっとも,被告は,Aに対して,「もう無理するな。もういいよ。戻ってこい。」と声をかけ,明確に作業の中止を命じた旨陳述ないし供述する(被告本人,甲62,乙10)。 しかしながら,この点,Iは,被告は「無理だったら戻ってこい。」と述べたと供述しており(甲53,乙8),また 」と声をかけ,明確に作業の中止を命じた旨陳述ないし供述する(被告本人,甲62,乙10)。 しかしながら,この点,Iは,被告は「無理だったら戻ってこい。」と述べたと供述しており(甲53,乙8),また,被告自身,平成15年8月13日に行われた実況見分において,Aに「無理だったらもういいぞ」と声をかけた旨の指示説明をしている(甲13)。 なお,Fは,本訴において,被告がAに対し,「もういい。戻ってこい。」と指示した旨記載した陳述書(乙4)を作成し,また,同人の証人尋問におい- 24 -てその旨の証言をするが,Fの平成15年9月10日付け警察官に対する供述調書には,被告が上記指示をした旨の記載はなく,上記Fの陳述書の記載内容や証言は,たやすく信用できない(この点,Fは,警察官に何度言っても調書に記載してくれなかったとする(乙4)が,上記のように被告やIの供述調書には,それぞれ,この被告の指示に関する記載がされており,これに反して,Fがこの点を供述したにもかかわらず,警察官が調書への記載を拒否したものとは認められない。)。また,ダイビング客であったNも,本訴において,被告がAに「無理するな。戻ってこい。」と指示した旨記載した陳述書(乙3)を作成するが,同人の平成15年5月19日付け警察官に対する供述調書(甲60)によれば,同人は,本件事故の数日後に警察官に対し,Aがアンカー外しのために海に飛び込んだが,1回で外すことができず,また潜るところを見た,その後は,更衣室に入って着替えをし,出てきたところ,Aが船のデッキの上で横たわり,応急措置を受けていた旨の供述をしていることが認められ,同供述内容に照らし,上記陳述書の記載内容は信用できない(なお,同人も,警察官に対する供述調書には被告のAに対する指示部分が抜け落ちているとする(乙3)が,上記Fに の供述をしていることが認められ,同供述内容に照らし,上記陳述書の記載内容は信用できない(なお,同人も,警察官に対する供述調書には被告のAに対する指示部分が抜け落ちているとする(乙3)が,上記Fに対すると同様,Nがこの点を供述したにもかかわらず,警察官が調書への記載を拒否し,あるいは,調書を改ざんしたものと認めることはできない。)。 これらからすると,Aに対し明確に作業の中止を命じた旨の被告の上記陳述ないし供述は,信用できない。 以上のとおり,被告がAに対して,「無理だったら戻ってこい。」と述べたことまでは認められるものの,明確に作業の中止を命じる趣旨で「戻ってこい。」との指示をしたとまで認めることはできない。 加えて,Aは,3回失敗した後,シュノーケルを口から外して,息を荒げていたものであるところ,そのような状態は非常に危険であることが認められ(被告本人),そのような状態からシュノーケルを口にくわえて横になった状- 25 -態になったからといって,どれだけAが落ち着いて被告の言うことを理解できていたのかどうかも疑問である。また,そもそもAが上記のようにシュノーケルを口にくわえて横になった状態(すなわち海面でうつぶせになっている状態)において被告の言葉を聞き取れていたか自体明らかでない。 この点,被告は,「戻ってこい。」との被告の指示に対し,Aが手を上げた旨供述する(被告本人)が,同供述は,被告本人尋問に至って初めてされたものであり,被告の警察官に対する供述調書(甲62)や被告の陳述書(乙10)の記載内容に照らしても,信用できない。 そうすると,Aが4回目に潜ったのは,被告の指示を無視したものであるとの被告の主張は採用することができず,それを前提として被告の過失と結果との因果関係が断絶しているとする被告の主張は理由がない。 争点(3 ,Aが4回目に潜ったのは,被告の指示を無視したものであるとの被告の主張は採用することができず,それを前提として被告の過失と結果との因果関係が断絶しているとする被告の主張は理由がない。 争点(3)(損害)について(1) Aの死亡逸失利益死亡逸失利益の算定に当たり,その基礎収入については,原則として死亡時の実収入によるべきであるところ,Aは,正式に被告の経営するBに採用されたとは認められないものの,被告の仕事内容を見るとのことで同ダイビングクラブの一員として被告に同行した初日に死亡したものであって,被告からは,賃金を得ていない。 この点,証拠(被告本人,乙5,6)によれば,被告の経営するBにおいては,平成12年当時,1級小型船舶操縦士免許とダイブマスターの資格を有する者の基本給が1か月8万円,1級小型船舶操縦士免許とダイビングインストラクターの資格を有し,ダイビング器材の修理,メンテナンスができる者の基本給が1か月13万円であったこと,本件事故当時もおおむねその程度であったことが認められ,平成15年度の賃金センサス男性労働者高卒計全年齢の年収額には及ばない。 しかしながら,上記賃金の設定に際しては,被告の下でスキューバダイビ- 26 -ングを始めとするマリン事業についての技能を習得するという意味合いも含まれており(被告本人),その額面どおりの金額を基礎収入とすべきではない。 そして,Aは,死亡当時32歳とまだ若く,その年齢にかんがみれば,同学歴の男性の平均程度の賃金を得る蓋然性があったと認められるというべきである。 したがって,基礎収入については,平成15年度の賃金センサス男性労働者高卒計全年齢の年収額である,497万2700円とすべきである。 そうすると,Aの死亡逸失利益は,以下のとおり5699万6440円となる。 基礎収入49 ついては,平成15年度の賃金センサス男性労働者高卒計全年齢の年収額である,497万2700円とすべきである。 そうすると,Aの死亡逸失利益は,以下のとおり5699万6440円となる。 基礎収入497万2700円×生活費控除率(1-0.3)×ライプニッツ係数16.3741(死亡時32歳)=5699万6440円(2) Aの死亡慰謝料Aは一家の支柱であったのであるから,死亡慰謝料は2800万円を認めるのが相当である。 (3) 葬儀費用葬儀費用としては,150万円を認めるのが相当である。 なお,被告は,葬儀費用としては,原告らが労災補償給付の葬祭料として受給した49万5000円(甲66)の範囲で認めるべきであると主張するが,同金額は通常葬祭に要する費用を考慮して厚生労働大臣が定めたもので,社会通念上相当な葬儀費用の全てを賄うものとはいえないことからすれば,被告の主張には理由がない。 (4) 合計8649万6440円以上のとおり,Aの損害は8649万6440円となる。 争点(4)(過失相殺)について被告は,Aが船長の指示がどのような意味を持つのか十分に理解できる者で- 27 -あるところ,被告が戻ってこいと指示をしたにもかかわらず,Aはその指示に従わず潜っていったものであり,Aには重大な過失があるから過失相殺されるべきであると主張する。 しかしながら,前記3で認定したとおり,Aが被告の指示に従わなかったとまでは認めるに足りないのであって,被告の主張は前提を誤っており,採用することはできない。 争点(5)(損益相殺)について(1) 証拠(甲66,67)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは労働者災害補償保険法又は労働者災害保険特別支給金支給規則に基づき,定額の特別支給金,葬祭料,労災保険年金,労災就学等援護費の支給を受け,又は将来的に 66,67)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは労働者災害補償保険法又は労働者災害保険特別支給金支給規則に基づき,定額の特別支給金,葬祭料,労災保険年金,労災就学等援護費の支給を受け,又は将来的に受けるものと認められる。 (2) このうち,定額の特別支給金は,労働者災害補償保険特別支給金支給規則5条に基づく遺族特別支給金であると認められるところ,このような特別支給金の支給は,労働福祉事業の一環として,被災労働者の遺族の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであって,特別支給金が損害をてん補する性質を有するということはできず,特別支給金を損害額から控除することはできないと解するのが相当である(最高裁判所平成6年(オ)第992号同8年2月23日第二小法廷判決・民集50巻2号249頁参照)。 さらに,労災就学等援護費も,労働者災害補償保険法29条1項2号の事業に基づくものであり,特別支給金の支給と同様に労働福祉事業の一環として,被災労働者の遺族の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであると認められるから,損害額から控除することはできないと解すべきである。 (3) 他方,葬祭料は,労働者災害補償保険法17条に基づいて支給されるものであって,葬儀費用をてん補するものであるから,損害額から控除すべきである。 - 28 -また,遺族補償年金(労災保険年金)は,労働者災害補償保険法16条に基づく給付であるところ,保険給付が行われたときは,使用者はその限度で民事上の損害賠償債務を免れるとされるが(労働基準法84条2項の類推適用),いまだ現実の給付がない場合には,たとい将来にわたり継続して給付されることが確定していても,受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり,このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することは だ現実の給付がない場合には,たとい将来にわたり継続して給付されることが確定していても,受給権者は使用者に対し損害賠償の請求をするにあたり,このような将来の給付額を損害賠償債権額から控除することは要しないと解するのが相当であり(最高裁判所昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁参照),本件においても,現実に給付を受けた額は損害額から控除すべきであるが,将来分については控除することを要しない。 (4) 前掲各証拠によれば,原告が葬祭料として支給を受けた金額は49万5000円,労災保険年金(遺族補償年金)として現在までに支給を受けた金額は471万0034円と認められる(原告らは,平成17年8月分まで,321万5044円の給付を受けており(2か月に1回支払われる。),平成16年10月分からは1回に付き24万9165円の支給を受けていることが認められる。そうすると,口頭弁論終結時には,少なくとも平成18年8月分までの支払は終了していると認められるから,321万5044円の給付に加え,149万4990円の給付を受けていると認められる。)。 結論 (1) したがって,前記6のとおり,葬祭料及び現実に給付を受けた遺族補償年金の合計額520万5034円は,前記4で認められる損害額から控除すべきであり,控除後の損害額は,8129万1406円となる。 そして,原告らは,Aの損害を以下のとおり相続した(1円未満切り捨て)。 ア原告X4064万5703円 8129万1406円×1/2=4064万5703円- 29 -イ原告X2032万2851円 8129万1406円×1/4=2032万2851円ウ原告X2032万2851円 8129万1406円×1/4=2032万2851円(2) 弁護士費 -イ原告X2032万2851円 8129万1406円×1/4=2032万2851円ウ原告X2032万2851円 8129万1406円×1/4=2032万2851円(2) 弁護士費用本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用として,原告Xについては 400万円,原告X,原告Xについてはそれぞれ200万円を損害と認め る。 (3) 以上より,原告Xの損害額については4464万5703円,原告X, 原告Xの損害額についてはそれぞれ2232万2851円となる。 第4 結論 以上の次第で,原告らの請求は,原告Xについて4464万5703円, 原告X及び原告Xについてそれぞれ2232万2851円並びに本件事故の 日である平成15年5月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 那覇地方裁判所民事第1部裁判長裁判官田中健治裁判官加藤靖- 30 -裁判官北村治樹

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