【DRY-RUN】主 文 本件各上告を棄却する。 理 由 検察官の上告趣意について 所論のうち、最高裁判所の判例違反をいう点は、所論引用の各決定は、いずれも、 上告趣意が刑訴
主 文 本件各上告を棄却する。 理 由 検察官の上告趣意について 所論のうち、最高裁判所の判例違反をいう点は、所論引用の各決定は、いずれも、 上告趣意が刑訴法四〇五条の上告理由にあたらないとして上告を棄却したものにす ぎず、所論の罪数関係につき法律判断を示しているものとは認められないから、同 条二号の判例にあたらない。高等裁判所の判例違反をいう点のうち、所論引用の大 阪高裁昭和五〇年(う)第一五一三号同五一年三月一六日判決・最高裁刑事裁判資 料二二二号麻薬・覚せい剤等刑事裁判例集三〇八頁は、覚せい剤取締法四一条、一 三条の輸入罪(以下、覚せい剤輸入罪という。)と関税法一一〇条の関税通脱罪と の罪数関係について判断を示したものであるから、本件とは事案を異にし適切でな い。所論引用のその余の高等裁判所の各判例(東京高裁昭和五二年(う)第一五四 号同年六月八日判決・東京高検速報二二四一号、東京高裁昭和五二年(う)第三一 六号同年六月六日判決・前掲刑事裁判資料二二二号三一三頁、東京高裁昭和五三年 (う)第一九七七号同年一二月一一日判決・東京高検速報二三二二号、東京高裁昭 和五三年(う)第二六一九号等同五四年五月二八日判決・高刑集三二巻二号一三八 頁、東京高裁昭和五四年(う)第一七二四号同年一一月一九日判決・刑事裁判月報 一一巻一一号一三六七頁、福岡高裁昭和五五年(う)第二二九号同年七月一日判決・ 刑事裁判月報一二巻七号五一一頁)は、いずれも、保税地域、税関空港等外国貨物 に対する税関の実力的管理支配が及んでいる地域に、外国から船舶又は航空機によ り覚せい剤を持ち込み、これを携帯していわゆる通関線を突破し又は突破しようと した場合につき、覚せい剤輸入罪と関税法一一一条一項の無許可輸入罪又は同条二 項の無許可輸入未遂罪との関係を併合罪としたも よ り覚せい剤を持ち込み、これを携帯していわゆる通関線を突破し又は突破しようと した場合につき、覚せい剤輸入罪と関税法一一一条一項の無許可輸入罪又は同条二 項の無許可輸入未遂罪との関係を併合罪としたものであるところ、原判決は、右と - 1 - 同様の場合につき覚せい剤輸入罪と無許可輸入未遂罪とは観念的競合の関係にある としたものであるから、右各判例と相反する判断をしたものといわなければならな い。 ところで、右のような場合において、無許可輸入罪の既遂時期は、覚せい剤を携 帯して通関線を突破した時であると解されるが、覚せい剤輸入罪は、これと異なり、 覚せい剤を船舶から保税地域に陸揚げし、あるいは税関空港に着陸した航空機から 覚せい剤を取りおろすことによつて既遂に達するものと解するのが相当である。け だし、関税法と覚せい剤取締法とでは、外国からわが国に持ち込まれる覚せい剤に 対する規制の趣旨・目的を異にし、覚せい剤取締法は、覚せい剤の濫用による保健 衛生上の危害を防止するため必要な取締を行うことを目的とするものであるところ (同法一条参照)、右危害発生の危険性は、右陸揚げあるいは取りおろしによりす でに生じており、通関線の内か外かは、同法の取締の趣旨・目的からはとくに重要 な意味をもつものではないと解されるからである。 そこで、進んで覚せい剤輸入罪と無許可輸入罪(未遂罪を含む。)との罪数関係 について考えるに、右のように、保税地域、税関空港等税関の実力的管理支配が及 んでいる地域を経由する場合、両罪はその既遂時期を異にするけれども、外国から 船舶又は航空機によつて覚せい剤を右地域に持ち込み、これを携帯して通関線を突 破しようとする行為者の一連の動態は、法的評価をはなれ構成要件観点を捨象した 自然的観察のもとにおいては、社会的見解上一個の覚せい剤輸入行為と評価すべき ものであ 域に持ち込み、これを携帯して通関線を突 破しようとする行為者の一連の動態は、法的評価をはなれ構成要件観点を捨象した 自然的観察のもとにおいては、社会的見解上一個の覚せい剤輸入行為と評価すべき ものであり(最高裁昭和四六年(あ)第一五九〇号、同四七年(あ)第一八九六号、 同年(あ)第七二五号同四九年五月二九日各大法廷判決刑集二八巻四号一一四頁、 一五一頁、一六八頁、同五〇年(あ)第一五号同五一年九月二二日大法廷判決・刑 集三〇巻八号一六四〇頁参照)、それが両罪に同時に該当するのであるから、両罪 は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあると解するのが相当である。よつて、 - 2 - 刑訴法四一〇条二項により、原判決と相反する所論引用の各高裁判例を変更し、原 判決を維持することとする。したがつて、所論は、原判決破棄の理由にはならない。 弁護人戸田勝、同木下準一の上告趣意について 所論は、違憲をいう点を含め、実質はすべて単なる法令違反の主張であつて、刑 訴法四〇五条の上告理由にあたらない。 よつて、同法四〇八条により主文のとおり判決する。 この判決は、検察官の上告趣意について、裁判官谷口正孝の反対意見があるほか、 裁判官全員一致の意見によるものである。 裁判官谷口正孝の反対意見は、次のとおりである。 一 刑法五四条一項前段にいわゆる一個の行為とは、「法的評価をはなれ、構成 要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のも のとの評価を受ける場合をいう」と解するのが最高裁判所大法廷判例の示すところ である(最高裁判所昭和四九年五月二九日判決・刑集二八巻四号一一四頁、同五一 年九月二二日判決・刑集三〇巻八号一六四〇頁等)。しかし、私は、この見解に従 うことには躊躇を感ずる。 「行為論は、性質上、自然的観察や社会的見解になじむ」ものであつて、行為 八巻四号一一四頁、同五一 年九月二二日判決・刑集三〇巻八号一六四〇頁等)。しかし、私は、この見解に従 うことには躊躇を感ずる。 「行為論は、性質上、自然的観察や社会的見解になじむ」ものであつて、行為が 構成要件的評価の対象となる事実であることは、右五一年九月二二日判決における 団藤裁判官の補足意見に示すとおりである。そして、行為論における行為が、「法 的評価をはなれ、構成要件的観点を捨象した」自然的観察や社会的見解上のもので あることは、正にそのとおりであろう。しかし、行為論における行為を右のように 理解したからといつて、刑法五四条一項前段にいわゆる一個の行為が数個の罪名に 触れるという場合の一個の行為の意味を、これと同一に理解しなければならないと いうことにはならない。後者のばあいには、数個の罪名に触れるかどうかという判 断をするに当たり、構成要件的評価を捨象して行為を考えることは不可能である。 - 3 - すなわち、ここでは、問われている構成要件的評価の対象となる行為の枠を考えず に、一個・同一の行為かどうかの判断はできないはずである。自然的、社会的見解 のもとで一個の行為として意味づけられた行為の過程において、ある罪の構成要件 的評価の対象となる部分と他の罪の構成要件的評価の対象となる部分とが一個・同 一であるばあいに、初めて右五四条一項前段の要件は充たされるのである。私は、 前記最高裁判所大法廷判例が、同条項前段の要件を考えるに当たつて、構成要件的 評価をも取り外してしまつたことには、とうてい賛成できないのである。 二 原判決は、「本件は、被告人らが、約九九三・四グラムの覚せい剤を隠匿携 帯してA空港から空路B空港に到着し、同空港内大阪税関伊丹空港支署旅具検査場 を通過しようとして同係官に右覚せい剤を発見されたという事案であつて、被告人 らの右一連の動態を構成要 ラムの覚せい剤を隠匿携 帯してA空港から空路B空港に到着し、同空港内大阪税関伊丹空港支署旅具検査場 を通過しようとして同係官に右覚せい剤を発見されたという事案であつて、被告人 らの右一連の動態を構成要件的にみれば、B空港に到着した時、覚せい剤取締法違 反の輸入罪は既遂に達し、以後関税法違反の実行の着手があり未遂に終つたものと 評価することができるのであるが、法的評価をはなれ、構成要件的観点を捨象した 自然的観察のもとにおける社会的見解によれば、被告人らの右一連の動態は、明ら かに事象を同じくし、税関を無事通過することにより終了する一個の覚せい剤輸入 行為として評価することができる。」と判示しているのであつて、原判決は前記最 高裁判例に忠実に従おうとしているのである。右判例を前提とするかぎり、「法的 評価をはなれ、構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとにおける社会的見解」 との基準に照らして被告人のした本件一連の行為(動態)を一個の行為と評価した ことは、無理からぬものであつたと私は思う。問われるべきは、むしろ前記最高裁 判所判例であつたというべきではなかろうか。 三 刑法五四条一項前段の一個の行為にして数個の罪名に触れるかどうかを判断 するに当たつて、構成要件的評価を取り外しては考えられないことは、前に述べた とおりである。そこで、以下私のこのような見解に従つて、被告人の本件一連の行 - 4 - 為が刑法同条項の要件を充たすかどうかを検討してみる。 私は、覚せい剤取締法上の輸入罪の既遂時期については、覚せい剤を携帯して空 路税関空港に到着したという本件の如きばあいには、被告人が搭乗した航空機が税 関空港に着陸して人の乗降が開始され被告人がその携帯にかかる覚せい剤を航空機 から機外に持ち出した時点にこれを求めるべきである、と考える。この時点におい て、同法の予定する法益 告人が搭乗した航空機が税 関空港に着陸して人の乗降が開始され被告人がその携帯にかかる覚せい剤を航空機 から機外に持ち出した時点にこれを求めるべきである、と考える。この時点におい て、同法の予定する法益に対する侵害の危険が発生するからである。覚せい剤取締 法上の輸入罪の構成要件の評価の対象となる行為は、右の時期までである。 次に、関税法上の無許可輸入罪については、その既遂時期は、保税地域や税関空 港等を経由するばあいは、通関線突破の時と解すべきであろうが、その着手時期に ついては問題がある。本件の如きばあい、その着手の時期は、覚せい剤を除外した 申告書を税関職員に提出した時と解する見解もあろうが、輸入が禁止されている覚 せい剤の如きを法規に違反して不正に輸入しようとする者には、通常正当な通関手 続をとる意思はないであろうから、着手の時期を右の時点までずらす必要はなく、 犯人が通関線を通過すべく旅具検査場に向かつて行動を開始すれば既にその着手が あつたと解してよいであろう。関税法上の無許可輸入罪の構成要件の評価の対象と なる行為は、右のように解した着手の時点から前記既遂の時期までである。 私の意見によれば、被告人がその携帯にかかる覚せい剤をその搭乗した航空機か ら機外に持ち出した時点において覚せい剤取締法上の輸入罪は既遂に達し、その後 は同罪の構成要件の評価の対象外となり、関税法上の無許可輸入罪は、右の被告人 の機外持ち出し後被告人が通関線を通過すべく旅具検査場に向かつて行動を開始し た時から通関線通過の時までを同罪の構成要件の評価の対象としているのであるか ら、両罪の評価の対象となる行為が一個・同一であるとはいい難、すなわち、本件 被告人の行為(動態)は、刑法五四条一項前段の要件を充たすものではなく、併合 罪として処理されるべきものである。 - 5 - 四 以上の次第で 象となる行為が一個・同一であるとはいい難、すなわち、本件 被告人の行為(動態)は、刑法五四条一項前段の要件を充たすものではなく、併合 罪として処理されるべきものである。 - 5 - 四 以上の次第であるから、本件のような場合について、覚せい剤取締法上の輸 入罪と関税法上の無許可輸入罪との関係を併合罪と解した所論引用の高裁判例は、 これを維持すべきものであり・これと相反する原判決は破棄を免れない 昭和五八年九月二九日 最高裁判所第一小法廷 裁判長裁判官 和 田 誠 一 裁判官 団 藤 重 光 裁判官 藤 崎 萬 里 裁判官 中 村 治 朗 裁判官 谷 口 正 孝 - 6 -
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