平成14(行コ)167 損害賠償代位請求住民訴訟控訴事件(原審・さいたま地方裁判所平成8年(行ウ)第7号)

裁判年月日・裁判所
平成14年12月25日 東京高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文6,189 文字)

主文 原判決を取り消す。 本件をさいたま地方裁判所に差し戻す。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,埼玉県鶴ヶ島市の住民である控訴人らが,鶴ヶ島市の一部事務組合である坂戸・鶴ヶ島下水道組合(以下「本件組合」という。)が被控訴人日本下水道事業団(以下「被控訴人事業団」又は単に「事業団」という。)に委託した坂戸・鶴ヶ島下水道組合公共下水道根幹的施設(石井水処理センター)建設工事について,被控訴人事業団が,被控訴人株式会社明電舎(以下「被控訴人明電舎」という。)との間で3回にわたり締結した電気設備工事の請負契約に係る工事代金が,被控訴人事業団以外の被控訴人らが談合し,被控訴人事業団もこれに加功したことによって不当につり上げられ,本件組合がこれを負担することにより損害を被ったとし,本件組合は,被控訴人らに対し,不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,本件組合に代位して,怠る事実に係る相手方である被控訴人らに対し,損害金2億5501万5640円(談合がなければ形成されたであろう代金額と実際に支払った代金額の差額2億3183万2400円及び弁護士費用2318万3240円)及び各被控訴人に対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被控訴人らが,控訴人らの監査請求(以下「本件監査請求」という。)は監査請求期間内にされておらず不適法であって本件訴えも不適法であるなどと主張して,控訴人らの請求を争っている事案である。 原審は,本件監査請求には法242条2項本文が定める監査請求期間の制限規定の適用があり,その期間を経過した後に であって本件訴えも不適法であるなどと主張して,控訴人らの請求を争っている事案である。 原審は,本件監査請求には法242条2項本文が定める監査請求期間の制限規定の適用があり,その期間を経過した後にされたものであるから不適法であって本件訴えも不適法であると判断し,本件訴えをいずれも却下したので,控訴人らが控訴の申立てをした。 2 基本的事実関係,争点に関する当事者の主張次項以下に当事者双方の当審における主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の2,3項(原判決3頁18行目から37頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 控訴人らの当審における主張怠る事実については監査請求期間の制限がない。ただ,普通地方公共団体の長その他財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって,財産の管理を怠る事実とするときは,例外として,怠る事実に係る請求権の発生原因たる行為のあった日または終わった日を基準として,監査請求期間の制限の規定(法242条2項本文)が適用される。しかし,本件は,被控訴人らの談合や加功により入札で形成される適正価格より高い価格で被控訴人明電舎が落札して本件第一ないし第三契約を締結したことが不法行為を構成すると主張しているのであって,普通地方公共団体の長その他財務会計職員の特定の財務会計上の行為が違法,無効であったり,上記契約自体が違法,無効であると主張しているわけではなく,監査委員も上記契約が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはないから,上記例外の場合には当たらず,監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の適用はない。したがって,本件監査請求は適法であり,本件訴えも適法である。 かの判断をしなければならない関係にはないから,上記例外の場合には当たらず,監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の適用はない。したがって,本件監査請求は適法であり,本件訴えも適法である。 4 被控訴人らの当審における主張(1) 被控訴人日立製作所,同富士電機,同高岳製作所地方公共団体の財務会計上の行為の違法に基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とする監査請求については,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文が適用される。本件監査請求は,本件組合の債務負担額又は支出額が談合のない場合より高い違法なものであるとし,これに基づいて発生する損害賠償請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実とするものであるから,上記の場合に該当し,法242条2項本文が適用される。ところが,本件監査請求は,1年の監査請求期間が経過した後にされたのであるから,不適法である。したがって,適法な監査請求を経ていない本件訴えは不適法である。 (2) 被控訴人明電舎,同富士電機,同高岳製作所談合を理由とする損害賠償請求権が成立するためには,本件組合が委託料を支払ったことが前提となるので,この請求権は特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるからこそ発生する実体法上の請求権ということになり,上記行為が違法とされて初めて損害賠償請求権が発生するものであり,監査委員は上記行為が違法であるか否かを判断しなければ怠る事実の監査を遂げることができない関係にある。したがって,本件監査請求には監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の適用がある。 (3) 被控訴人神鋼電機,同富士電機,同高岳製作所控訴人らは,想定される適正な代金額と談合によって定められた現実の代金額の差額 求には監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の適用がある。 (3) 被控訴人神鋼電機,同富士電機,同高岳製作所控訴人らは,想定される適正な代金額と談合によって定められた現実の代金額の差額が損害であるとしてその賠償を求めているから,監査請求の対象となるのは談合行為そのものではなく,現実の代金額が財務会計法規に適った適正な代金額より高いかどうかという点にある。したがって,監査委員は現実の代金額が財務会計法規に反して高額であるか否かを判断しなければならない関係にあり,本件監査請求には監査請求期間の制限を定めた法242条2項本文の適用がある。 第3 当裁判所の判断 1 本件監査請求の適法性甲1によれば,控訴人らは,平成8年1月11日,本件組合の監査委員に対し,被控訴人らは談合という共同不法行為により本件第一ないし第三契約の契約金額を公正な競争が確保されていた場合の落札価格よりつり上げて本件組合に現実の価格の20%相当の損害を与えたのであるから,本件組合の管理者は被控訴人らに対して有する損害賠償請求権を行使して本件組合の被った損害を填補するに必要な措置を講ずべきであるのに,これを怠っているとして,上記措置を講ずべき旨の勧告を求める監査請求(本件監査請求)をしたことが認められる。 法242条1項は,普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の違法,不当な財務会計上の行為又は怠る事実につき監査請求をすることができるものと規定しているところ,法242条2項本文は,上記の監査請求の対象事項のうち行為については当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定するが,怠る事実についてはこのような期間制限を規定していない。したがって,怠る事実についてはこれが存在する限りいつでも監査請求をすることがで を経過したときは監査請求をすることができないものと規定するが,怠る事実についてはこのような期間制限を規定していない。したがって,怠る事実についてはこれが存在する限りいつでも監査請求をすることができるものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の不行使を怠る事実とした場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができない関係にあり,これを客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ないから,このような場合は,当該行為のあった日又は終わった日を基準として法242条2項本文を適用すべきである(最高裁判所昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であり,上記のようにその制限が及ぶ場合はその例外に当たることにかんがみれば,監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合は,これに法242条2項本文を適用すべきものではなく,そのように解しても,法242条2項本文の趣旨を没却することにはならないというべきである(最高裁判所平成14年7月2日第三小法廷判決・裁判所時報1318号1頁参照)。 本件監査請求の対象事項である怠る事実に係る損害賠償請求権は,上記のとおり,被控訴人らが談合により本件第一ないし第三契約の契約金額を公正な競争が確保されていた場合の落札価格より不 8号1頁参照)。 本件監査請求の対象事項である怠る事実に係る損害賠償請求権は,上記のとおり,被控訴人らが談合により本件第一ないし第三契約の契約金額を公正な競争が確保されていた場合の落札価格より不当につり上げ本件組合にその差額相当の損害を与える不法行為により発生したというのである。これによれば,本件組合と被控訴人事業団との間における委託契約の締結や委託費用の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて本件組合の被控訴人らに対する損害賠償請求権が発生するものではないから,本件監査請求について監査を遂げるためには,監査委員は,談合があったか否か,談合に基づく被控訴人明電舎の入札及び被控訴人事業団との工事請負契約の締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであるか否か,これにより代金額が不当に高いものとなって本件組合に損害が生じたか否かを確定すれば足り,本件組合と被控訴人事業団との間における財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったか否かを判断する必要はない。したがって,本件監査請求については法242条2項本文の適用がないものと解するのが相当である。 2 違法な怠る事実の有無と住民訴訟の許容性被控訴人東芝を除く被控訴人らは,地方公共団体は第三者に対し損害賠償請求権を有していたとしてもその行使をするか否かの裁量権を有するところ,本件組合がこれを行使しないことは上記裁量権の範囲内に属するので,本件訴えは不適法であると主張する。 しかし,上記主張は,本件組合が被控訴人らに対する損害賠償請求権を行使しないことが違法であるか否かという本訴請求の当否に関するものであって,仮に上記主張が認められたとしても,控訴人らの請求を棄却すべきことになるだけであって本件訴えを不適法にするものではない。 3 一部事 いことが違法であるか否かという本訴請求の当否に関するものであって,仮に上記主張が認められたとしても,控訴人らの請求を棄却すべきことになるだけであって本件訴えを不適法にするものではない。 3 一部事務組合の事務に関する住民訴訟の可否一部事務組合の処理する事務は本来的には当該組合を構成する各普通地方公共団体の事務にほかならず,また,一部事務組合を構成する普通地方公共団体の住民は一部事務組合に直接納税義務を負っているものではないが,各普通地方公共団体に対し納税義務を負うことによって実質的には一部事務組合の費用の全部又は一部を負担していることからすれば,普通地方公共団体の機関又は職員による違法,不当な財務会計行為を防止し,住民全体の利益を確保せんとする法242条、242条の2の立法趣旨は,一部事務組合の機関又は職員の違法、不当な財務会計行為に対しても妥当するものと解される。その上,法292条は,一部事務組合について普通地方公共団体に関する規定を準用する旨規定するところ,法その他法文上,住民訴訟に関する法242条及び242条の2の各規定が一部事務組合に準用されない旨の特別の規定は存在しない。そうすると,一部事務組合の機関又は職員による違法,不当な財務会計上の行為や怠る事実に対しては、当該組合を構成する普通地方公共団体の住民が法242条、242条の2の規定に基づき住民訴訟を提起し得るものと解するのが相当である(最高裁判所昭和63年12月16日第二小法廷判決・判例タイムス741号96頁参照)。 4 監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性被控訴人事業団,同富士電機,同安川電機及び同神鋼電機は,本件監査請求の対象とする不法行為者は被控訴人らであるところ,本件訴状によれば,被控訴人らには使用者責任を主張し,不法行為者は被控訴人9社の談合担当者及び被控 同富士電機,同安川電機及び同神鋼電機は,本件監査請求の対象とする不法行為者は被控訴人らであるところ,本件訴状によれば,被控訴人らには使用者責任を主張し,不法行為者は被控訴人9社の談合担当者及び被控訴人事業団の工務部次長とされているから,本件監査請求の対象とした財務会計上の怠る事実と本件訴えの対象たる財務会計上の怠る事実との間には,同一性がないと主張する。 しかし,住民監査請求と住民訴訟の各請求の同一性は,住民監査請求で対象とした違法な財務会計行為(財務会計上の行為又は怠る事実)が住民訴訟の請求に係る違法な財務会計行為と実質的に同一かどうかを基準として判断されるべきものであり,対象となった財務会計行為が同一であれば,その違法性を基礎付ける理由が異なっていても請求は同一と判断されるべきである。そうすると,控訴人らは,本件監査請求において,本件組合が被控訴人らに対する不法行為による損害賠償請求権の行使を怠っていることを住民監査請求の対象としているのであり,これは本訴の請求に係る財務会計行為と同一であるから,被控訴人らの損害賠償責任発生の根拠が不法行為か使用者責任かによって請求の同一性が失われることはないというべきである。 5 まとめ以上の次第で,本件訴えを不適法とすべき理由はないというべきである。 第4 結論よって,本件訴えが不適法な訴えであるとしてこれを却下した原審の判断は不当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消した上,本件を第一審裁判所であるさいたま地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部裁判長裁判官赤塚信雄裁判官宇田川基裁判官加藤正男 部裁判長 裁判官 赤塚信雄 裁判官 宇田川基 裁判官 加藤正男

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