令和5(受)1583 発信者情報開示等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年12月23日 最高裁判所第二小法廷 判決 その他 大阪高等裁判所 令和4(ネ)2431
ファイル
hanrei-pdf-93648.txt

判決文本文7,085 文字)

- 1 - 主文 1 原判決中、別紙目録記載1及び3の各情報の開示請求に関する部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。 2 前項の部分に関する被上告人の請求をいずれも棄却する。 3 上告人のその余の上告を棄却する。 4 訴訟の総費用は、これを8分し、その1を上告人の負担とし、その余を被上告人の負担とする。 理由 上告代理人渡邉峻ほかの上告受理申立て理由について 1 本件は、インスタグラム(インターネットを利用して画像等を投稿することができる情報ネットワーク)上のアカウント(以下「本件アカウント」という。)における投稿により権利を侵害されたとする被上告人が、本件アカウントへのログインのために行われた8回の通信(以下「本件各ログイン」という。)について、インターネット接続サービスを提供した経由プロバイダである上告人に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)に基づき、本件各ログインに係る別紙目録記載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ インスタグラムの利用者は、その運営者に対してインターネットを通じてパスワード等を送信し、アカウントにログインした状態でなければ、投稿をすることができない。上記運営者は、上記の送信に係るIPアドレス及び通信日時を記録し令和5年(受)第1583号発信者情報開示等請求事件令和6年12月23日第二小法廷判決- 2 -ているが、投稿時の通信に係るこれらの情報を記録していない。 ⑵ 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、本件アカウントにおいて、令 求事件令和6年12月23日第二小法廷判決- 2 -ているが、投稿時の通信に係るこれらの情報を記録していない。 ⑵ 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、本件アカウントにおいて、令和3年4月29日に第1審判決別紙投稿記事目録の投稿①~④記載の各記事を、日時不明の時期に同目録の投稿⑤記載の記事をそれぞれ投稿した(以下、それぞれの投稿を同目録の番号に従い「本件投稿①」などといい、併せて「本件各投稿」という。)。本件各投稿は、いずれも被上告人を被写体とする写真を無断で掲載し、社会生活上受忍すべき限度を超えて、被上告人の人格的利益を侵害するものであった。被上告人は、本件投稿者に対し、上記の人格的利益の侵害に基づく損害賠償請求訴訟の提起を準備している。 ⑶ 本件投稿者は、令和3年5月20日から同年6月13日までの間、第1審判決別紙IPアドレス目録のIPアドレス①~⑧記載の各接続日時に本件各ログインを行った(以下、それぞれの通信を同目録の番号に従い「本件ログイン①」などという。)。上告人は、本件各ログインにつきインターネット接続サービスを提供した者であって、本件各情報を保有している。 ⑷ 本件アカウントにおいては、本件投稿①~④がされてから本件各ログインがされるまでの間に、上告人の提供するインターネット接続サービスを利用した2回のログインのための通信(令和3年4月29日と同年5月1日にされたもの。以下「本件介在ログイン」という。)がされたが、上告人は、自らが保有する通信記録の中から本件介在ログインに対応するものを特定できなかった。 ⑸ 令和4年10月1日、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第27号。以下「令和3年改正法」といい、同法による改正前の法を「改正 令和4年10月1日、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第27号。以下「令和3年改正法」といい、同法による改正前の法を「改正前法」と、同改正後の法を「改正後法」という。)及び特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則(令和4年総務省令第39号。以下「施行規則」という。)が施行された。 改正前法は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたと- 3 -する者は、所定の要件を満たす場合、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定していた(4条1項)。 これに対し、改正後法は、特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号その他の符号の電気通信による送信(以下「ログイン通信等」という。)のうち、一定の範囲のものを侵害関連通信と規定した(5条3項、施行規則5条)上で、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、所定の要件を満たす場合、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該権利の侵害に係る発信者情報(侵害関連通信に係るIPアドレス等である特定発信者情報を含む。)の開示を請求することができ(5条1項、施行規則2条、3条)、また、当該特定電気通信に係る侵害関連通信の用に供される電気通信設備を用いて電気通信役務を提供した者に対し、当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定している(5条2項)。 ⑹ 原審は、令和5年2月、口頭弁論を終結した。 3 原審は、前記事実関 気通信役務を提供した者に対し、当該侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定している(5条2項)。 ⑹ 原審は、令和5年2月、口頭弁論を終結した。 3 原審は、前記事実関係等の下において、本件請求については、改正前法4条1項の規定が適用され、本件各ログインと本件各投稿をした者が同一人であることからすれば、本件各情報は同項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるなどとして、被上告人は、上告人に対し、本件各情報の開示を請求することができると判断し、本件請求をいずれも認容すべきものとした。 4 しかしながら、原審の前記判断のうち、別紙目録記載2の情報の開示請求に関する部分は結論において是認することができるが、その余の部分は是認することができない。その理由は次のとおりである。 ⑴ 原審の口頭弁論終結時には既に令和3年改正法が施行されているが、本件各投稿及び本件各ログインは同法の施行前にされたものであり、このような場合にも、改正前法4条1項の規定ではなく、改正後法5条2項の規定が適用されるか否- 4 -かが問題となる。 令和3年改正法附則には、改正前法4条2項の規定による意見の聴取を改正後法6条1項の規定によりされた意見の聴取とみなす旨の定めがあるものの(2条)、令和3年改正法その他の法令において、そのほかに、権利の侵害を生じさせた特定電気通信及び当該特定電気通信に係る侵害関連通信が令和3年改正法の施行前にされた場合について、改正後法の規定の適用を排除し、改正前法の定めるところによる旨の経過措置等の規定は置かれていない。また、令和3年改正法は、改正後法5条において、発信者情報の開示請求権の要件を一部整理するなどしたものであって、発信者情報の開示請求権そのものを新たに創設したものではない。 以上によれば、改正 い。また、令和3年改正法は、改正後法5条において、発信者情報の開示請求権の要件を一部整理するなどしたものであって、発信者情報の開示請求権そのものを新たに創設したものではない。 以上によれば、改正後法5条2項の規定は、権利の侵害を生じさせた特定電気通信及び当該特定電気通信に係る侵害関連通信が令和3年改正法の施行前にされたものである場合にも適用されると解するのが相当である。 そうすると、本件請求について、改正前法4条1項が適用されると解する余地はないというべきであって、これと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑵ もっとも、前記事実関係等によれば、本件各ログインが改正後法5条2項にいう「侵害関連通信」といえるのであれば、本件請求は同項が規定する要件を全て満たすといえる。そして、本件各ログインは施行規則5条2号に掲げる符号の電気通信による送信に当たるところ、これが本件各投稿との関係で同条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たる場合には、本件各ログインは「侵害関連通信」ということができるから、以下、この点について検討する。 ア改正後法5条1項、2項は、侵害情報の発信者の特定のためには当該侵害情報の送信に係る発信者情報の開示を認めるのが最も適切と考えられるものの、これにより当該発信者を特定することができない場合にログイン通信等に係る情報の開示を求めることができないとすれば侵害情報の流通により権利を侵害された被害者の救済が不十分になる一方で、ログイン通信等それ自体は権利侵害性を有しないこ- 5 -とから、被害者の権利救済の必要性と通信者等のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を踏まえた要件の下で、被害者が、侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を明示的に規定したもの 、被害者の権利救済の必要性と通信者等のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との均衡を踏まえた要件の下で、被害者が、侵害関連通信に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を明示的に規定したものと解される。改正後法5条3項は、このような趣旨の下で、上記の開示請求の対象範囲を画する侵害関連通信について、侵害情報の発信者が行った当該侵害情報の送信に係るログイン通信等であって、当該「侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるもの」としてその具体的内容を総務省令に委任しているものと解され、これを受けて施行規則5条柱書きは、侵害関連通信について、同条各号に掲げる符号の電気通信による送信であって、それぞれ「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」としている。 施行規則5条柱書きの上記文言や被害者の権利救済のために侵害関連通信に係る発信者情報の開示請求権を規定した改正後法の上記趣旨に照らせば、少なくとも他のログイン通信等に係る情報により侵害情報の発信者を特定できない場合にまで、侵害情報の送信との間に一定の時間的間隔があるなど当該送信との関連性を低下させ得る事情があることを理由として、一律に「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」といえないと解することは相当でない。 他方で、ログイン通信等は、それが侵害情報の発信者によって行われたものであるとしても、それ自体に権利侵害性はない上、開示対象となる情報の内容は、通信がされた時期や通信に利用された機器等によって異なることがあり、通信の時間・場所など当該発信者の行動等まで推知させる情報や、当該発信者が利用したインターネット接続サービスに関する契約を締結している第三者の情報等も含み得るから、その開示によりこれらの者の権利利益が制約されることは否定できない。そして、上記の制約の程度は、開示の対 が利用したインターネット接続サービスに関する契約を締結している第三者の情報等も含み得るから、その開示によりこれらの者の権利利益が制約されることは否定できない。そして、上記の制約の程度は、開示の対象となるログイン通信等の数が増加するに従ってより大きなものとなる一方で、被害者においては、ログイン通信等のうちの一つに係る情報により侵害情報の発信者を特定できるのであれば、更にその余のログイン通信等に係る情報の開示を求める必要性があるということはできない。 - 6 -以上に鑑みると、施行規則5条柱書きが侵害関連通信を「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」としたのは、同条各号に掲げる符号の電気通信による送信それぞれについて、開示される情報が侵害情報の発信者を特定するために必要な限度のものとなるように、個々のログイン通信等と侵害情報の送信との関連性の程度と当該ログイン通信等に係る情報の開示を求める必要性とを勘案して侵害関連通信に当たるものを限定すべきことを規定したものであると解される。そして、上記各送信のうち、施行規則5条2号に掲げる符号の電気通信による送信(以下「ログイン通信」という。)についてみれば、時間的近接性以外に個々のログイン通信と侵害情報の送信との関連性の程度を示す事情が明らかでない場合が多いものと考えられるところ、そのような場合には、少なくとも侵害情報の送信と最も時間的に近接するログイン通信が「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たり、それ以外のログイン通信は、あえて当該ログイン通信に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるときにこれに当たり得るものというべきである。 イ本件について、本件投稿①~④との関係でみると、これらの投稿と本件各ログインとの関連性の程度を示す事情は両者の時間的近接性以外にうかがわ る事情があるときにこれに当たり得るものというべきである。 イ本件について、本件投稿①~④との関係でみると、これらの投稿と本件各ログインとの関連性の程度を示す事情は両者の時間的近接性以外にうかがわれないところ、本件各ログインの中では、本件投稿①~④の21日後にされた本件ログイン②が、これらの投稿と最も時間的に近接する。また、本件投稿①~④と本件ログイン②との間には本件介在ログインが存在するが、上告人は自らが保有する通信記録の中から本件介在ログインに対応するものを特定できておらず、本件介在ログインに係る情報からこれらの投稿をした者を特定することは困難であって、あえて本件ログイン②に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情があるといえる。 したがって、本件ログイン②は、本件投稿①~④との関係で、施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるというべきである。 他方で、本件ログイン①、③~⑧は、本件ログイン②と比べ、本件投稿①~④と時間的に近接していない。そして、上告人は本件ログイン②に係る発信者情報を保- 7 -有しており、これに加えて、あえて本件ログイン①、③~⑧に係る情報の開示を求める必要性を基礎付ける事情はうかがわれない。 したがって、本件ログイン①、③~⑧が、本件投稿①~④との関係で、施行規則5条柱書きにいう「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるということはできない。 また、本件投稿⑤との関係でみても、当該投稿がされた日時は不明であって、本件各ログインのいずれがこれと最も時間的に近接するかは明らかでなく、ほかに両者の関連性の程度を示す事情もうかがわれないことからすれば、本件ログイン①、③~⑧が、当該投稿との関係で、上記「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるという るかは明らかでなく、ほかに両者の関連性の程度を示す事情もうかがわれないことからすれば、本件ログイン①、③~⑧が、当該投稿との関係で、上記「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に当たるということはできない。 5 以上によれば、本件ログイン②に係る別紙目録記載2の情報の開示請求を認容すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができ、この点に関する論旨は採用することができない。他方、本件ログイン①、③~⑧に係る同目録記載1及び3の各情報の開示請求に関する原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、この点に関する論旨は理由がある。 したがって、原判決中、別紙目録記載1及び3の各情報の開示請求に関する部分は破棄を免れず、当該請求は理由がないから、当該請求に関する部分につき第1審判決を取り消して、当該請求をいずれも棄却すべきであり、その余の上告は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官尾島明裁判官三浦守裁判官草野耕一裁判官岡村和美) (別紙)目録 1 第1審判決別紙IPアドレス目録のIPアドレス①記載の接続日時に同記載の- 8 -IPアドレスを割り当てられた電気通信設備のうち同記載の接続先IPアドレスに対して通信を行ったものの同日時における契約者に関する氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス 2 第1審判決別紙IPアドレス目録のIPアドレス②記載の接続日時に同記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備の同日時における契約者に関する氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス 3 第1審判決別紙IPアドレス目録のIPアドレス③~⑧記載の各接続日時に同各記載のIPア り当てられた電気通信設備の同日時における契約者に関する氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス 3 第1審判決別紙IPアドレス目録のIPアドレス③~⑧記載の各接続日時に同各記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備の同各日時における契約者に関する氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る