主文 原判決を破棄する。 被告人を無期懲役に処する。 原審における未決勾留日数中330日をその刑に算入する。 理由 1 本件各控訴の趣意は,検察官佐渡賢一及び弁護人村上和夫作成名義の各控訴趣意書にそれぞれ記載のとおりであるから,これらを引用する。 2 検察官の論旨は,要するに,本件は,被告人及び共犯者2名が,金品強取の目的で,白昼堂々と都心部の金融会社に押し入った上,何ら落ち度のない高齢の被害者両名に容赦ない苛烈な暴行を加えて多額の金品を強取し,そのうちの1名を死亡させたという重大な結果を発生させた大胆不敵かつ凶悪極まりない犯行とその後に被告人が別の共犯者3名とともに敢行した住居侵入,窃盗の犯行であること,被告人は,強盗致死事犯の主犯であり,住居侵入,窃盗事犯も態様が悪質であること等にかんがみれば,被告人に対し無期懲役刑を科すべきであるにもかかわらず,原判決は,量刑事情を誤認し,あるいはその評価を誤り,酌量減軽をした上,被告人を懲役15年に処しているが,この原判決の量刑は著しく軽きに失して不当であるというのであり,弁護人の論旨は,要するに,被告人の反省の態度等にかんがみれば,原判決の上記量刑は重過ぎて不当であるというのである。 3 そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討することとする。 本件は,被告人が,A及びBと共謀の上,金品を強取しようと企て,平成11年12月14日午前9時55分ころ,東京都新宿区内のビル2階所在の金融業を営む株式会社C事務所において,同社代表取締役D(当時69歳)及び同社営業部長E(当時58歳)の両名に対し,所携のけん銃様の物を突き付け,両手を後ろ手にして手錠を掛けた上,布製粘着テープで両手首及び両足 株式会社C事務所において,同社代表取締役D(当時69歳)及び同社営業部長E(当時58歳)の両名に対し,所携のけん銃様の物を突き付け,両手を後ろ手にして手錠を掛けた上,布製粘着テープで両手首及び両足首を緊縛し,口腔内にビニール袋入りおしぼりを押し込み,さらに,口元に布製粘着テープを巻き付けるなどの暴行を加え,両名の反抗を抑圧し,現金約161万7600円,預金通帳1通,約束手形40通(額面合計7888万4917円),小切手32通(金額合計5169万6000円)及び財布ほか1点(時価合計約2500円相当)を強取し,上記暴行により,翌15日午前4時21分,同区内の大学病院で,Dを窒息による脳機能障害により死亡するに至らせ(原判示第1の事実),F,G及びHと共謀の上,平成12年4月2回にわたって,金品窃取の目的で,同中野区内及び江東区内の2か所のマンション居室の玄関の鍵をいずれもピッキング用具で解錠して侵入した上,現金約49万9010円及び腕時計合計4個ほか約91点(時価合計約407万3500円相当)を窃取し(同第2,第3の事実),さらに原判示第3の犯行後,金品窃取の目的で,F,G及びHと共謀の上,マンション出入口扉の隙間に紙片を差し込み,オートロックドアの自動開閉センサーを作動させるなどして施錠を解除して,同区内のマンション内に侵入した(同第4の事実)という事案である。 (一) 量刑上最も考慮を要する強盗致死事案についてみると,被告人らは,まずDに対し,次いで銀行から営業資金を取り出して戻って来たEに対し,いずれも,原判決認定のような暴行を加えてその反抗を完全に制圧している。その暴行態様はし烈を極めるものであるが,とりわけ,口腔内にビニール袋入りおしぼりを押し込んだ上口元に布製粘着テープを幾重にも巻き付ける行為は,Dが,事件後まもなくの同日 反抗を完全に制圧している。その暴行態様はし烈を極めるものであるが,とりわけ,口腔内にビニール袋入りおしぼりを押し込んだ上口元に布製粘着テープを幾重にも巻き付ける行為は,Dが,事件後まもなくの同日午前10時20分ころ,警察官が現場に臨場した際,脈もなく,問いかけに応答することもなく,顔色も青白かったという事実に徴しても,短時間に人を窒息死させる危険性が高いものであることは明らかである。このことは,当審取調べ済みの鑑定書(当審検察官請求証拠番号第1号)によりDの死因が窒息による脳機能障害と認められ,その原因は気道内異物の存在ないし鼻口部閉塞と推定されていることからも優に認定できる。また,EもDと同じ行為をされたのであり,そのままではEに対しても窒息死させる危険性が高かったということができる。しかるに,被告人らは,被害者両名を死に至らす危険性など意に介さず,制圧及び金品の奪取に専念していたのであって,そのような被告人らの態度は,被害者らの生命を一顧だにしないものとして厳しい非難に値する。 被告人らは,犯行に必要な道具や凶器をそろえ,直前にサングラスをかけるなどして変装した上で被害事務所に押し入り,短時間のうちに手際よく被害者両名を制圧し金品奪取に至っている犯行状況にかんがみると,それぞれの役割分担を含め事前に十分な打ち合わせを行っていると認められるのであって,本件は周到に準備された計画的な犯行である。 本件犯行により,Dの生命が失われたのであり,その結果は極めて重大である。もとよりDには何の落ち度もないのであって,被告人らによって,手及び足を緊縛されて身動きできず,目も粘着テープで塞がれ何も見えず,ビニール袋入りおしぼりを口腔内に押し込まれその上から幾重にも粘着テープを巻き付けられた状態下におけるDの恐怖と苦痛の大きさは筆舌に尽くしが 緊縛されて身動きできず,目も粘着テープで塞がれ何も見えず,ビニール袋入りおしぼりを口腔内に押し込まれその上から幾重にも粘着テープを巻き付けられた状態下におけるDの恐怖と苦痛の大きさは筆舌に尽くしがたい。長年連れ添ったDの内縁の妻や遺族の悲嘆は大きく,今なお被告人らに対する峻厳な被害感情を露わにしているのも至極当然である。また,Eが被った肉体的,精神的苦痛も甚大であったと認められる。いうまでもなく財産的被害も大きい。にもかかわらず,被告人らは被害回復及び遺族やEに対する慰謝の措置を何ら講じていない。 新宿という都心部において白昼金融会社事務所に押し入りこのような凶悪な犯行が行われたという本件が社会に与えた影響も軽視し得ない。 被告人は,本邦への3度目の密入国後,賭博場に入り浸るなど無為徒食の生活を送り,金員に窮していたところ,知人から,老人二人がやっている金融会社があり,そのうち一人が朝会社から出掛けて現金を持って戻って来るとの情報を得て被害事務所に押し入り強盗をしようと企てたというのである。そして,被告人はその実現のためにA及びBを誘い入れた上,自らけん銃様の物,実包様の物,手錠,変装用のかつらを準備したことも明らかである。のみならず,被告人は犯行に当たっても,被害者両名に順次けん銃様の物を突き付け,被害者両名の口腔内に共犯者方から持参したビニール袋入りおしぼりを押し込み,現金約161万円余を奪取するなど実行行為の枢要な部分を担っているのである(なお,被告人は,原審公判において,自己がDの口腔内にビニール袋入りおしぼりを押し込んだことを否認するが,「被告人が事務所にいた一番目の老人(D)の口に鞄から取り出したおしぼりを押し込んでいた。後で,被告人から「年寄りの口に指を入れたときにけがをした。」と聞かされ,指の傷を見せられたことが 認するが,「被告人が事務所にいた一番目の老人(D)の口に鞄から取り出したおしぼりを押し込んでいた。後で,被告人から「年寄りの口に指を入れたときにけがをした。」と聞かされ,指の傷を見せられたことがあった。」とのAの供述等によれば,Dの口腔内にビニール袋入りおしぼりを押し込んだのが被告人であることは優に認めることができる。)。このように被告人は本件を計画し犯行を終始主導した首謀者であることは明らかである。加えて,被告人はDの口腔内におしぼりを押し入れる際手加減した様子は認められず,現に警察官がDの口腔内からおしぼりを取り出そうとしても容易には取り出せなかったのであり,これに前記鑑定書により認められるDの喉頭蓋基部から喉頭入口部後壁にかけての気道に圧迫傷を生じていたとの事実を併せ考慮すると,被告人の行為が抵抗を示すいとまのない段階で予めDを制圧しておくとともに犯行発覚を遅延させる限度にとどめる意図から出たものであることにかんがみて被告人はDの死を認容した上あえてそのような行為に出たと認めるのは相当でないものの,被告人においてDを窒息死させる蓋然性が高いことは十分予見できていたと認めるのが相当である。そうしてみると,共犯者中,被告人の刑事責任が最も重大であるといわなければならない。 以上の諸事情に照らせば,犯情は極めて悪く,被告人の刑事責任は非常に重いといわざるを得ない。 (二) しかるに,原判決は,被告人の死に対する予見の点に触れることなくその余の点につき上記と同様の認定をして,本件が同じく刑法240条後段に当たる犯罪のうち被害者に対する殺意をもって犯行に及ぶ強盗殺人の類型とは異なる点において量刑上一定の考慮を要するところがあるとの見解を明らかにした上,本件について酌量減軽をしているのである。しかしながら,本件犯行自体及び犯行に至る経緯 って犯行に及ぶ強盗殺人の類型とは異なる点において量刑上一定の考慮を要するところがあるとの見解を明らかにした上,本件について酌量減軽をしているのである。しかしながら,本件犯行自体及び犯行に至る経緯等は前記認定のとおりであり,とりわけ被告人は自らの行為がDを死亡させる蓋然性が高いことを予見できていたとの事実は本件強盗致死の事案において量刑上重視せざるを得ない上,被告人は犯行後においても被害者両名の生命に対する配慮をしたなどの事跡はまったくないのであって,そこには無期懲役刑を選択した上なお酌量減軽をする特段の事情は見出すことができないのである。 してみると,被告人が反省の態度を示していること,本邦において前科を有しないことなどいわゆる一般情状を併せ考慮して酌量減軽をした原判決の量刑は軽きに過ぎるといわなければならない。 以上の次第であるから,弁護人の論旨は理由がなく,検察官の論旨は理由がある。 4 よって,刑訴法397条1項,381条を適用して原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に被告事件について次のとおり判決する。 原判決が認定した各罪となるべき事実に(原判決挙示の判示第1にかかる証拠の標目に,鑑定受託者I及び同J共同作成の鑑定書,司法警察員作成の司法解剖立会報告書を付加する。),原判決が掲げる罰条を適用し,いずれも同様の科刑上一罪の処理,刑種の選択,併合罪の処理をして被告人を無期懲役に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中330日をその刑に算入し,原審及び当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。 平成14年6月13日東京高等裁判所第12刑事部裁判長裁判官河辺義正裁判 告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。 平成14年6月13日東京高等裁判所第12刑事部裁判長裁判官河辺義正裁判官金子武志裁判官園原敏彦
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