平成21(ワ)4238 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年4月22日 名古屋地方裁判所
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判決文本文26,385 文字)

平成23年4月22日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成21年(ワ)第4238号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成23年2月18日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成21年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,名古屋法務局長が,司法書士である原告に対し,原告が代理人として行った抵当権設定登記の債務者兼抵当権設定者の本人確認の際,本人になりすました者と面談し,運転免許証の原本を確認しなかったのに,原本を確認したかのような記載をした本人確認情報の提供を行ったこと等を理由として,平成21年2月12日付けでした3か月の業務停止処分(以下「本件懲戒処分」という。)について,原告が,本件懲戒処分は違法であり,これによって原告は売上の減少,信用の低下等による損害を被ったなどと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づく300万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成21年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。 2 前提事実等(当事者間に争いがないか,括弧内に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は,昭和48年から司法書士業務を行っている司法書士であって, 愛知県司法書士会に登録し(登録番号愛知第○号),平成18年当時,名古屋市内に主たる事務所を有する司法書士法人Aの社員で,名古屋市○区の同司法書士法人の従たる事務所で業務を行っていた。 (2) 司法書士に対す 士会に登録し(登録番号愛知第○号),平成18年当時,名古屋市内に主たる事務所を有する司法書士法人Aの社員で,名古屋市○区の同司法書士法人の従たる事務所で業務を行っていた。 (2) 司法書士に対する懲戒処分は,当該司法書士が業務を行う事務所の所在地を管轄する法務省の地方支分部局である法務局又は地方法務局の長(以下「法務局長等」という。)に委ねられており,司法書士が司法書士法又は司法書士法に基づく命令に違反したときは,法務局長等(原告については,名古屋法務局長)は,当該司法書士に対し,戒告,2年以内の業務の停止,業務の禁止の処分をすることができる(司法書士法47条)。 (3) 原告は,平成18年10月初めころ,B株式会社から,下記登記の申請の依頼等を受けた(甲10の1)。 記C所有の別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)について,債務者兼抵当権設定者をC,抵当権者をBとする抵当権設定登記(4) 原告は,前記(3)の登記の申請について,登記済証の代わりに,不動産登記法(平成16年法律第123号。以下同じ。)23条4項1号所定の,「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」(以下「資格者代理人」という。)による,申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報を提供するため,平成18年10月4日,B名古屋支店の応接室において,登記義務者であるCと称する者と面談して本人確認及び登記申請意思確認を行った(甲10の1。以下,この面談を「本件面談」という。)。 ところが,このとき原告が面談したCと称する者は,Cの妻である D(後に離婚してE。)と共謀してCになりすましたFであり,Fは,原告に対し,G健康保険組合発行の健康保険被保険者証(以下「本件健康保険証」という 原告が面談したCと称する者は,Cの妻である D(後に離婚してE。)と共謀してCになりすましたFであり,Fは,原告に対し,G健康保険組合発行の健康保険被保険者証(以下「本件健康保険証」という。)及び運転免許証のコピーを提示したが,この運転免許証のコピーはFが偽造したコピー(以下「本件偽造免許証」という。)であった(甲10の2)。 (5) CになりすましたFは,平成18年10月4日,本件面談と前後して,借入金額を650万円とし,その担保として本件土地及び本件土地上にある別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)に抵当権を設定する,CとBとの間の「金銭消費貸借ならびに抵当権設定契約証書」(以下「本件契約書」という。)を作成した(甲10の2,14の2)。 (6) 原告は,名古屋法務局半田支局(以下「半田支局」という。)登記官に対し,平成18年10月6日,Bから依頼された前記(3)の登記の登記申請書(甲8の1)を提出するとともに,Cがこの登記の登記義務者であることを確認するために必要な情報(甲8の2の1~3。以下「本件本人確認情報」という。)を提供して登記申請し(以下「本件登記申請」という。),半田支局登記官は,本件登記申請に基づき,別紙登記目録記載の登記(以下「本件登記」という。)をした。 (7) Bは,平成18年10月6日,本件登記の手続完了後,本件契約書に基づく融資(以下「本件融資」という。)を実行した(甲8の1,14の2)。 (8) F及びEは,平成19年10月ころ,本件登記ないし本件融資について,有印私文書偽造,同行使,詐欺等の被疑事実により,逮捕,勾留され,愛知県常滑警察署(以下「常滑警察署」という。)司法警察員等の取調べを受け,名古屋地方裁判所半田支部に起訴された(甲10の2・3,14の2)。 (9) 名 詐欺等の被疑事実により,逮捕,勾留され,愛知県常滑警察署(以下「常滑警察署」という。)司法警察員等の取調べを受け,名古屋地方裁判所半田支部に起訴された(甲10の2・3,14の2)。 (9) 名古屋地方裁判所半田支部は,平成20年1月10日,F及びEに対し,両名が共謀の上,FがCになりすまし,行使の目的をもって不動産担保ロ ーンの申込書,本件契約書等を偽造し,B名古屋支店従業員に対しこれらを提出行使して,Bから現金を騙し取ったなどとして,それぞれ懲役刑に処する等の判決を言い渡し,同判決は,Eにつき同月15日に,Fにつき同月25日に確定した(甲14の2)。 (10) 名古屋法務局長は,平成21年2月12日,原告を,司法書士法47条に基づき,平成21年2月13日から3か月の業務停止に処した(本件懲戒処分)(甲1)。 (11) 原告は,名古屋地方裁判所に,平成21年5月18日付け訴状(甲2)を提出して,本件懲戒処分の取消しを求める訴え(同裁判所平成21年(行ウ)第○号)を提起したが,同裁判所は,訴えの利益がないとして,原告の訴えを却下した。 3 主たる争点及びこれに関する当事者の主張等(1) 原告の行為の懲戒事由該当性(原告の主張)ア原告は,平成18年10月4日の本件面談の際,Fから提示された本件偽造免許証について,免許証の原本を確認しなかったが,原告が原本を確認しなかった理由は,原告がFに「免許証を見せてください」と言ったところ,B名古屋支店のH課長補佐から「今コピーをしているので,○(原告)さんにもそのコピーをお渡しします」と言われたことなどもあり,本件偽造免許証について,免許証の原本が存在すると信じてしまったためである。 イそもそも不動産登記規則(平成17年2月18日号外法務省令第18号。以下同じ。)72 す」と言われたことなどもあり,本件偽造免許証について,免許証の原本が存在すると信じてしまったためである。 イそもそも不動産登記規則(平成17年2月18日号外法務省令第18号。以下同じ。)72条には,各種証明書の原本を確認せよとは書かれていないから,必ずしも提示された書類について,原本を確認する必要はなく,原告は,同条2項1号の定めを満たす方法で,本人確認を行ったということができる。 ウまた,原告は,本件面談の際,本件偽造免許証について,免許証の原本を確認してはいないが,本件偽造免許証とCの印鑑登録証明書との照合をし,本件偽造免許証の顔写真とFの顔とを見比べ,Cの社員証の提示を受けて本人確認を行い,本件健康保健証の原本の提示を受け,Cの妻であるEとの面談及び事情聴取を行ったほか,本件健康保険証の写し,Cの印鑑登録証明書,本件建物の建物評価証明書,Cの住民票,Cの納税証明書等をF及びEから受領した。 エ原告は,本件健康保険証の写し等,本件偽造免許証以外の各文書を受領して本人確認を行っているのだから,実質的には,本件偽造免許証について,免許証の原本確認ないしそれと実質的に同視すべき,司法書士の職責に適った本人確認を行ったものであり,原告の行った本人確認は法の定めを満たす適法なもので,本件本人確認情報も,適法なものである。 オさらに,本件健康保険証は,不動産登記規則72条2項2号の書面に該当し,Cの印鑑登録証明書及び住民票は,いずれも同項3号の書面に該当する。このように,原告は,本件健康保険証(原本)のほか,Cの印鑑登録証明書及び住民票(いずれも原本)の提示を受けており,不動産登記規則72条2項3号の定めを満たす方法で,本人確認を行ったということができる。 カしたがって,原告の行った本人確認は,不動産登記規則7 明書及び住民票(いずれも原本)の提示を受けており,不動産登記規則72条2項3号の定めを満たす方法で,本人確認を行ったということができる。 カしたがって,原告の行った本人確認は,不動産登記規則72条2項1号及び3号の双方の定めを満たす適法なものであり,本件本人確認情報も適法なものであるから,本件懲戒処分は,その根拠を欠くもので,違法である。 (被告の主張等)ア原告の主張は,否認ないし争う。 イ原告は,不動産登記法23条4項1号の本人確認情報を作成するに当 たり,不動産登記規則72条2項1号所定の「運転免許証」の原本を確認していないにもかかわらず,本人確認資料として「愛知県公安委員会発行の運転免許証」と記載するなどした内容虚偽の本件本人確認情報を作成し,登記官に提供した。 ウこのような原告の本人確認は,不動産登記規則の定めを満たさない不適法なものであり,原告は,不動産登記法及び不動産登記規則に反する誤った本人確認情報を提供したというべきである。 エ不動産登記規則72条は,各種証明書について「写し」でも許されると規定していないのであるから,本件でも,原告が本人確認に当たって,提示された書類の原本を確認すべきことは当然である。 オ原告は,不動産登記規則72条2項3号に定められた方法による本人確認や,本件偽造免許証の原本確認と実質的に同視すべき行為を行ったなどと主張するが,前記イのとおり,原告は,本件偽造免許証について,免許証の原本を確認していないのであり,原告の本人確認が不動産登記規則72条2項1号の定めを満たさないこと,原告が誤った本人確認情報を提供したことは明らかである。 (2) 本件懲戒処分の量定(原告の主張)ア原告は,前記(1)において主張したとおりの本人確認を行っていた。 したがって と,原告が誤った本人確認情報を提供したことは明らかである。 (2) 本件懲戒処分の量定(原告の主張)ア原告は,前記(1)において主張したとおりの本人確認を行っていた。 したがって,原告の行為は,懲戒事由に該当するものではないが,仮に,原告による本件偽造免許証の原本確認が不十分で,結果的に内容虚偽の本件本人確認情報を提供してしまったことが懲戒事由に該当するとしても,原告は,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したのではなく,過失によって提供してしまったにすぎない。また,原告は,本件登記申請や本件本人確認情報の提供について,関係者の誰からも苦情を言われていない。 イ他の司法書士に対する類似の懲戒処分において,例えば,本件懲戒処分と同様に業務停止3か月の処分がされたものがあるが,この事例では,被処分者が全く本人確認を行っていなかったこと,被処分者の行為が不動産登記法160条の罪に該当するものであったこと及び被処分者に対して関係者からの苦情があったことなどの事情があったのであり,この事例と本件とを比較するなどしても,本件懲戒処分の量定が重すぎることは明らかである。 ウそれにもかかわらず,名古屋法務局長が,「運転免許証のコピーをして,その原本を確認したかのような」との例文的文言をもって業務停止3か月という本件懲戒処分をしたのは,著しく正義に反し,重きにすぎるものであり,処分の量定について裁量権を濫用するもので,違法である。 (被告の主張等)ア原告の主張は否認ないし争う。 イ本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,原告が内容虚偽の記述をした本件本人確認情報を作成して,これを法務局(半田支局)に提供したというものである。原告のこの行為は,資格者代理人による本人確認情報提供の制度(以下「本人確認情報提供制 は,原告が内容虚偽の記述をした本件本人確認情報を作成して,これを法務局(半田支局)に提供したというものである。原告のこの行為は,資格者代理人による本人確認情報提供の制度(以下「本人確認情報提供制度」という。)の存在意義を没却しかねないもので,非違の程度は重大であり,再発を防止する観点からも,厳正に対処する必要がある。 他方,本件懲戒処分の懲戒処分書(甲1。以下「本件懲戒処分書」という。)に記載のとおり,本件では,原告が一定の本人確認作業を行っていること,原告がF及びEの詐欺事件の被害者的な側面があること及び本件面談には当時のCの妻であったEが同席しており,FをCと誤認しかねない事情があったことなどの原告に有利な事情もあり,名古屋法務局長は,これらの事情を総合勘案して,本件懲戒処分の量定をした。 ウしたがって,原告が主張するように,原告が本件偽造免許証について,免許証の原本を確認したと思いこんでいたり,原告が本件に関して関係者から苦情を言われていないなどの事情があったとしても,本件懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を超えたり裁量権を濫用したりするものであったということはできない。 (3) 本件懲戒処分の手続違反等(原告の主張)ア適用条文の誤り等本件懲戒処分書の「第2 処分の理由」には,「このような被処分者の行為は,司法書士法第2条(職責),第23条(会則の遵守義務),愛知県司法書士会会則第82条(品位の保持)に違反するもの」との記載がある。 しかし,上記各条文は,抽象的倫理規定にすぎず,法務省民二訓第1081号「平成19年5月17日付け司法書士法(昭和25年法律第197号)第47条又は第48条の規定に基づく司法書士又は司法書士法人に対する懲戒処分に関する訓令」(甲3。以下「本件訓令 省民二訓第1081号「平成19年5月17日付け司法書士法(昭和25年法律第197号)第47条又は第48条の規定に基づく司法書士又は司法書士法人に対する懲戒処分に関する訓令」(甲3。以下「本件訓令」という。)の「違反行為登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反登記申請人の申請意思確認又は本人確認を怠ったもの」に該当する具体的な行為が処罰規定として定められておらず,原告の行為を「確認義務違反」として懲戒処分をする根拠条文とはならない。 また,司法書士法,不動産登記法,不動産登記規則,司法書士法施行規則,愛知県司法書士会会則及び本件訓令の条文は,いずれも故意行為を処罰する条文であって,過失により内容虚偽の本人確認情報を提供する行為を処罰する条文ではない。そして,原告は,原本確認が不十分であったという過失により,本件本人確認情報を提供してしまったにすぎず,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したわけではない。 したがって,名古屋法務局長が,上記各条文を根拠として原告に対して本件懲戒処分を行うことは,違法である。 イ処分基準に関する違法名古屋法務局長は,原告に対し,原告の行為が,本件訓令の,「違反行為登記申請意思確認義務違反又は本人確認義務違反登記申請人の申請意思確認又は本人確認を怠ったもの」,「懲戒処分の量定 2年以内の業務の停止又は業務の禁止」に該当するものとして,本件訓令を適用して,本件懲戒処分を行った。 原告が本件登記申請を行ったのは,平成18年10月であるところ,本件登記申請当時は,処分基準として,抽象的倫理規定である司法書士法47条が存在するのみであり,本件訓令は,その後の平成19年5月17日に発せられた(施行日は同年7月1日である。)。そして,本件訓令には,本件訓令の遡及適用を定めた規定がない。ま 定である司法書士法47条が存在するのみであり,本件訓令は,その後の平成19年5月17日に発せられた(施行日は同年7月1日である。)。そして,本件訓令には,本件訓令の遡及適用を定めた規定がない。また,本件訓令は,本件懲戒処分当時,公表されていなかった。 したがって,本件懲戒処分は,本件登記申請当時に具体的な処分基準が設定されていなかった点,本件申請当時は発せられていなかった本件訓令を遡及的に適用した点及び本件訓令が本件懲戒処分当時に公表されていなかった点において,行政手続法12条1項に反し,違法である。 ウ違法な調査,文書取得司法書士法施行規則42条は,法務局長等が,「司法書士又は司法書士法人の保存する事件簿その他の関係資料若しくは執務状況を調査」できると定めているが,関係者を調査したり,供述調書を取り寄せたりすることができるとの定めはない。 それにもかかわらず,名古屋法務局は,本件登記申請の関係者等(Bの担当者,常滑警察署司法警察員等)に対して事情聴取を行い,F及びEの常滑警察署司法警察員に対する供述調書を取得するなどしている が,これらは,司法書士法施行規則42条によっては許されない行為であるから,違法である。 エ黙秘権の不告知名古屋法務局の原告に対する事情聴取は,司法書士法施行規則42条の「調査」であったとしても,事情聴取の途中で原告に対する懲戒処分の可能性が発生した場合や,原告の行為が刑事処罰規定に触れるおそれが生じた場合には,名古屋法務局は,原告に対して黙秘権の告知を行ったうえで事情聴取を続行する必要があった。 ところが,名古屋法務局は,原告に対する事情聴取の際,黙秘権を告知しなかった。 したがって,本件懲戒処分には,名古屋法務局が,黙秘権を告知せずに原告の事情聴取を行ったという違法がある。 った。 ところが,名古屋法務局は,原告に対する事情聴取の際,黙秘権を告知しなかった。 したがって,本件懲戒処分には,名古屋法務局が,黙秘権を告知せずに原告の事情聴取を行ったという違法がある。 オ虚偽の記載本件懲戒処分書の「第2 処分の理由」には,原告について「警察等の取り調べ及び当局等の事情聴取にも協力的であること」という記載がある。 しかし,原告は,警察の取調べを受けたことは一切ない。なお,原告は,常滑警察署司法警察員から依頼されて捜査に協力し,供述調書が作成されたことはあった(甲10の1。原告の常滑警察署司法警察員に対する平成19年8月28日付け供述調書。以下「本件原告供述調書」という。)が,この際,常滑警察署司法警察員から黙秘権の告知はされていないため,「取り調べ」を受けたわけではない。 上記のとおり,本件懲戒処分は,名古屋法務局長の重大な事実誤認に基づいてされたものあり,違法である。 (被告の主張等)ア原告の主張はいずれも否認ないし争う。 イ適用条文の誤り等について司法書士に対する懲戒処分は,刑事罰ではないから,適用条文について,あらかじめ刑罰法規の構成要件のように個々に明確に規定されている必要はない。 また,本件懲戒処分の根拠となった各規定は,対象とする行為を故意行為に限定しておらず,本件懲戒処分には何らの違法もない。 ウ処分基準に関する違法について本件訓令は,懲戒処分権者である名古屋法務局長が定めたものではないから,そもそも行政手続法12条1項の「処分基準」にあたらない。 仮に,本件訓令が同項所定の「処分基準」に該当するとしても,本件訓令は,本件懲戒処分当時には発せられていた。 そもそも,行政手続法12条1項は,処分基準の設定,公表の努力義務を定めたものであって,努力義務とし 令が同項所定の「処分基準」に該当するとしても,本件訓令は,本件懲戒処分当時には発せられていた。 そもそも,行政手続法12条1項は,処分基準の設定,公表の努力義務を定めたものであって,努力義務とした趣旨は,処分基準を事前に具体的な基準として画一的に定めることが技術的に困難であり,また,処分基準を公表すると,違法行為が助長される等の弊害等が生ずるおそれがあるためである。 本件登記申請当時及び本件懲戒処分当時に処分基準が設定,公表されていなかったのは,このような弊害等を考慮した結果であり,合理的な理由があるから,違法ではない。 エ違法な調査,文書取得について法務局長等は,懲戒処分をするために必要な調査をする権限があり(司法書士法49条2項,司法書士法施行規則42条),司法書士法施行規則42条は,第三者に対する調査権の範囲を画する規定ではない。 したがって,権限の範囲内において名古屋法務局が原告や本件登記申請の関係者等から事情を聴取するなどの調査を行うことは違法ではない。 また,名古屋法務局が取得したF及びEの常滑警察署司法警察員に対する供述調書は,F及びEを被告人とする刑事確定記録の一部であり,当該記録は,刑事訴訟法53条により,何人も閲覧が可能である。名古屋法務局は,同法や刑事確定訴訟記録法に基づきこれらの供述調書の閲覧等をしたのであって,この手続に違法はない。 オ黙秘権の不告知について名古屋法務局による原告に対する事情聴取は,行政処分である懲戒処分の是非及び程度の判断のために行われたものであり,刑事責任の追及とは関係がないから,原告に対する黙秘権の告知は不要であり,黙秘権の告知がなくても違法ではない。 カ虚偽の記載について原告は,平成19年8月28日,司法書士法人Aの事務所において,常滑警察署司法 関係がないから,原告に対する黙秘権の告知は不要であり,黙秘権の告知がなくても違法ではない。 カ虚偽の記載について原告は,平成19年8月28日,司法書士法人Aの事務所において,常滑警察署司法警察員から任意に事情聴取されており,取調べを受けた事実があったことは明らかである。 (4) 損害(原告の主張)本件懲戒処分により,原告が勤務する司法書士法人の売上が減少したり,信用が低下するなどして,原告は,少なくとも300万円の損害を被った。 (被告の主張等)原告の主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実並びに括弧内に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) 原告は,平成18年10月1日ころ,BのHから,本件登記申請と共に,下記の各登記申請の依頼を受けた(甲10の1,原告本人)。 記 ① 本件建物の表題登記② 本件建物の所有権の保存の登記③ 本件建物について,債務者兼抵当権設定者をC,抵当権者をBとする抵当権設定登記(2) 平成18年10月4日午前11時ころ,原告は,B名古屋支店において,本件登記申請について,Cの本人確認及び登記申請意思確認のため,本件面談をした(甲10の1~3,原告本人)。本件面談の際,Cと称していたのはFであり,本件面談には,E,H及びBの女性社員も同席していたが,原告は,本件面談のときまで,C,F及びEとは面識がなかった(甲10の1~3,原告本人)。 (3) 原告は,本件面談の際,F及びEから,下記の書類を示された(甲10の1~3,原告本人)。 記① 本件偽造免許証 1通② の際,F及びEから,下記の書類を示された(甲10の1~3,原告本人)。 記① 本件偽造免許証 1通② 本件健康保険証 1通③ C名義の印鑑登録証明書 2通④ 本件建物の評価証明書 1通⑤ Cの住民票 1通⑥ Cの納税証明書 1通⑦ Eの運転免許証 1通⑧ Cの社員証(G株式会社の社員証)の写し 1通(4) 原告は,前記(3)の各書類のうち,F及びEから,①及び②の写し(Bの社員がコピーしたもの)のほか,③ないし⑥(いずれも原本)を受領した(甲10の1~3,原告本人)。 (5) 本件面談の際,原告は,本件健康保険証の原本を確認したが,本件偽造免許証について,免許証の原本を確認せず,本件偽造免許証の顔写真とF の顔とを見比べて同一性があるものと判断した(甲10の1~3,原告本人)。 (6) 本件偽造免許証は,Fの顔写真が表示され,Cの氏名,本籍,住所等が記載された運転免許証のカラーコピーであり,Fが,Cの運転免許証のカラーコピーの顔写真部分に,Fの運転免許証の顔写真部分のカラーコピーを上からのり付けし,これをさらにA4サイズの用紙にコピーして偽造したものであった(甲10の2,原告本人)。 また,原告がFから示された前記(3)⑧のCの社員証の写しは,Fが,Cの社員証のカラーコピーの顔写真部分に,Fの運転免許証の顔写真部分のカラーコピーを上からのり付けし,これをさらにA4サイズの用紙にコピーして偽造したものであ 記(3)⑧のCの社員証の写しは,Fが,Cの社員証のカラーコピーの顔写真部分に,Fの運転免許証の顔写真部分のカラーコピーを上からのり付けし,これをさらにA4サイズの用紙にコピーして偽造したものであった(甲10の2,原告本人)。 (7) 原告は,CになりすましたF及びBから委任を受けて,半田支局登記官に対し,平成18年10月6日,本件登記の登記申請書(甲8の1)を提出するとともに,Cが本件登記の登記義務者であることを確認するために必要な情報(本件本人確認情報。甲8の2の1~3)を提供し,半田支局登記官は,これらに基づき,本件登記をした(甲8の1,甲8の2の1~3)。 (8) 本件本人確認情報には,「7.確認資料」として,下記のとおり記載され,「8.登記名義人であることを確認した理由」として,「上記の証明書の提示を受け申請人(面談相手)に記載事項を尋ねたところ疑うべき特段の事情が無く,免許証の写真により本人との同一性を確認し,その外観・形状に異状がないことを視認した。また,氏名・住所・本籍・生年月日(年齢・干支含)・電話番号の申述を求めた所正確に回答した。」と記載され,下記各書類の写しが添付されていた(甲8の2の1~3)。 記名称愛知県公安委員会発行の運転免許証 有効期間確認平成21年10月26日まで写しの添付有 名称 G健康保険組合発行の保険証有効期間確認平成20年6月30日まで写しの添付有(9) Bは,平成18年10月6日,本件登記の手続完了後,本件融資を実行し,Fに対し,手数料等を控除した現金597万8159円を交付した(乙15の1~3)。 (10) 原告は,平成19年8月28日,F及 Bは,平成18年10月6日,本件登記の手続完了後,本件融資を実行し,Fに対し,手数料等を控除した現金597万8159円を交付した(乙15の1~3)。 (10) 原告は,平成19年8月28日,F及びEの刑事事件の参考人として,常滑警察署司法警察員から事情聴取を受け,常滑警察署司法警察員により,本件原告供述調書が作成された(甲10の1)。 (11) 名古屋法務局は,原告から,下記のとおり事情聴取を行った(甲11の1~3,証人I)。 記① 日時:平成19年12月20日午後3時から約1時間場所:名古屋法務局共用小会議室聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J同総務係員 K② 日時:平成20年2月20日午後4時から約1時間場所:名古屋法務局民事行政部総務課打合せ室聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J同総務係員 K③ 日時:平成20年2月21日午後2時から約15分場所:電話による事情聴取聴取者:名古屋法務局民事行政部総務課総務係長 J (12) 名古屋法務局長は,平成20年3月18日,本件について愛知県司法書士会に対して調査の委嘱をし,愛知県司法書士会は,これを受けて調査を行い,平成20年5月ころ,名古屋法務局長に報告書を提出した(乙4の1・2,8,13,証人I)。 (13) 名古屋法務局は,平成20年1月25日及び同年2月21日,常滑警察署巡査部長に対する事情聴取を,同月18日,Bの担当者に対する事情聴取を行った(乙9,10,13,証人I)。 名古屋法務局は,平成20年5月ころ,名古屋地方検察庁半 5日及び同年2月21日,常滑警察署巡査部長に対する事情聴取を,同月18日,Bの担当者に対する事情聴取を行った(乙9,10,13,証人I)。 名古屋法務局は,平成20年5月ころ,名古屋地方検察庁半田支部において,F及びEの刑事事件についてのF及びEの供述調書等の閲覧及びデジタルカメラによる撮影をした(乙13)。 (14) 名古屋法務局長は,平成21年1月20日,原告に対し,司法書士法49条3項に基づき,司法書士の業務停止処分に関する聴聞手続を行った(甲12の1・2)。 (15) 名古屋法務局長は,平成21年2月12日,原告を,司法書士法47条に基づき,平成21年2月13日から3か月の業務停止に処し(本件懲戒処分),同日,原告に対し,本件懲戒処分書(甲1)を交付して,本件懲戒処分を告知した(甲1,乙13,証人I)。 (16) 本件懲戒処分書には,以下の記載等がある(甲1)。 「被処分者は,運転免許証の原本の提示を求めて確認しなかったにもかかわらず,あたかも原本を確認したかのような記述をした本人確認情報を提供した」(第1 処分の事実)「本件においては,その資格者代理人による本人確認の過程において,健康保険証及び偽造された運転免許証の写しが提供され,依頼者に対して,面談し本人確認及び登記申請意思確認作業自体は行った事実は認められるものの,不動産登記規則に定められた手続を忠実に実行しなかった,具体的には,原告が,本人確認の際に,健康保険証については原本を確認し たものの,運転免許証については原本を確認しなかったにもかかわらず,運転免許証の原本を確認したかのような記述をした資格者代理人による本人確認情報の提供を行った」(第2 処分の理由)。 「このような原告の行為は,司法書士法第2条(職責),第23条(会則の遵守義務),愛知 許証の原本を確認したかのような記述をした資格者代理人による本人確認情報の提供を行った」(第2 処分の理由)。 「このような原告の行為は,司法書士法第2条(職責),第23条(会則の遵守義務),愛知県司法書士会会則第82条(品位の保持)に違反するものであり,その責任は重大であるといわざるを得ない」(第2 処分の理由) 2 司法書士に対する懲戒処分は,国が独占的資格として認めた司法書士の業務の適正さを保持するために行われるものであるが,法務局長等は,その職務上,管轄区域内で業務を行う司法書士の懲戒事由をよく知り得る立場にあり,かつ所属の司法書士に対する指導等の事務を行う管轄区域の司法書士会との連携も充分に図り得る立場にあるため,懲戒権限が付与されているものと解される。 そして,懲戒処分については,懲戒事由の内容,被害の有無やその大小,これに対する社会的な評価や被処分者に与える影響などの諸般の事情を考慮することも必要であり,司法書士を懲戒するか否か,懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては,その処分権限を有する法務局長等の合理的な裁量に委ねられていると解され,法務局長等の裁量権の行使としての懲戒処分が事実の基礎を欠くか,又は社会観念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,当該処分は違法となるというべきである。 そして,上記のような違法な処分について,懲戒処分を担当する法務局長等が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と懲戒処分をしたと認められるような事情がある場合には,当該処分は,国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものというべきである。 3 争点(1)(原告の行為の懲戒事由該当性)について (1) 本人確認情報提供制度について(乙12) 処分は,国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものというべきである。 3 争点(1)(原告の行為の懲戒事由該当性)について (1) 本人確認情報提供制度について(乙12)ア本人確認情報提供制度は,平成16年6月18日に公布された改正不動産登記法(平成17年3月7日施行)の下で導入されたもので,登記識別情報(登記済証)が提供できない場合に,資格者代理人が,登記申請者が登記義務者本人であることを確認するために必要な情報を提供し,かつ,登記官がその内容を相当と認めたときは,登記義務者に対する事前通知がなくても登記を行うことができる制度である(不動産登記法23条4項,不動産登記規則72条)。 イ平成16年法律第123号改正前不動産登記法(以下「旧法」という。)では,不動産の所有者が登記義務者となる登記申請をする際に,登記申請書に添付すべき書類として,登記義務者の意思の確認をするため,登記義務者の権利に関する登記済証を添付して提出することとされており(旧法35条1項3号),登記済証が滅失したような場合には,代用の制度として,保証書の制度があった(旧法44条)。そして,保証書を利用した登記申請が行われた場合には,登記所が,登記義務者に対して登記申請があったことを葉書で通知し,登記義務者がその受け取った葉書を登記所に提出して間違いない旨の申出をした場合に登記をするという制度が設けられていた(旧法44条の2)が,この制度は不正な登記事案にしばしば利用されるなどの問題点が指摘されていた。 そこで,平成16年の不動産登記法改正では,保証書の制度を廃止し,正当な理由により登記識別情報の提供ができない場合には,法務省令で定めるところにより,登記義務者に対し,当該登記申請があった旨及び当該登記申請の内容が真実であると思 改正では,保証書の制度を廃止し,正当な理由により登記識別情報の提供ができない場合には,法務省令で定めるところにより,登記義務者に対し,当該登記申請があった旨及び当該登記申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨の通知をしなければならず,かつこの通知は本人限 定受取郵便等によらなければならないこととする(不動産登記法23条1項,不動産登記規則70条)など,厳格な手続による登記義務者への事前通知の制度を設ける一方,このような場合でも,資格者代理人が,登記申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報を提供し,かつ,登記官がその内容を相当と認めるときなどには,事前通知をしないまま登記をすることができるものとされた(不動産登記法23条4項)。 ウこのように,本人確認情報提供制度は,平成16年の不動産登記法改正後の不動産登記法下において,登記義務者本人に対する厳格な事前通知制度に代替するものとして位置づけられるものであり,資格者代理人から本人確認情報の提供がされ,登記官がその内容を相当と認めた場合には,登記義務者本人に対する事前通知という意思確認手続が省略されたまま登記が行われるという重大な結果がもたらされるものである。そして,この本人確認情報の提供が不適切に行われた場合には,登記義務者にとってみれば,自分が関与しないところで何も知らされないまま登記が行われてしまうという重大な結果が生ずる危険があるし,登記権利者にとっても,登記義務者に対する通知という事前の意思確認手続を経ないまま登記がされてしまう結果,その登記が有効であることを信頼して思わぬ損害を被る危険があることも明らかである。 ところで,提供された本人確認情報については,登記官の審査が予 の意思確認手続を経ないまま登記がされてしまう結果,その登記が有効であることを信頼して思わぬ損害を被る危険があることも明らかである。 ところで,提供された本人確認情報については,登記官の審査が予定されているとはいえ,登記義務者本人に直接会って意思確認をする者が,どれだけ慎重かつ適切に本人確認をするのかが,本人確認情報提供制度が適正に運用されるかどうかを左右するものである。 そうであるからこそ,不動産登記法も,本人確認情報の提供等を行うことができる者を司法書士(司法書士法3条1項1号)等の,登 記の申請の代理を業とすることができる者に限定している(不動産登記法23条4項1号)ものと考えられる。すなわち,本人確認情報提供制度は,資格者代理人が行う本人確認行為に対する国民の信頼の上に成り立っているということができる(司法書士法1条,2条)。 エ以上の点を考慮すれば,資格者代理人が提供する本人確認情報は,登記義務者や登記権利者に不測の損害を与えないように,正確な情報を提供することが求められているというべきである。 そして,資格者代理人が行う本人確認は,本人確認情報提供制度を適切に運用するための根幹をなす基本的かつ重要な作業であるから,本人確認を行うに際して,資格者代理人には,登記義務者本人に対する厳格な事前通知制度に代替し得るだけの高度の注意義務が課せられているというべきである。 (2) 原告の行った本人確認についてア前記1(2)のとおり,本件登記申請に関し,原告は,Fとの本件面談のときまで,C,F及びEと面識がなかったことが認められるのであり,原告が本件登記申請の本人確認情報の提供をするにあたっては,不動産登記規則72条1項3号の「資格者代理人が申請人の氏名を知らず,又は当該申請人と面識がないとき」に該当するものと められるのであり,原告が本件登記申請の本人確認情報の提供をするにあたっては,不動産登記規則72条1項3号の「資格者代理人が申請人の氏名を知らず,又は当該申請人と面識がないとき」に該当するものとして,「申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から提示を受けた次項各号に掲げる書類の内容及び当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由」を明らかにした本人確認情報を提供する必要があった。 しかし,原告は,前記1(4),(5),(7)及び(8)のとおり,本件偽造免許証(運転免許証は,不動産登記規則72条2項1号の本人確認資料に該当する。)について,免許証の原本の確認を行わず,しか も,原本の確認を行っていない本件偽造免許証を確認資料として掲げ,そのコピーを添付した本件本人確認情報を提供した。 イ本人確認資料たる運転免許証に基づく本人確認が適正に行われるためには,前記(1)の本人確認情報提供制度の趣旨等からしても,本人確認に際し運転免許証の原本を確認することが必要不可欠であって,本件面談の際,本人確認を行う原告としては,Fに対し,本件偽造免許証の原本の提示を求めた上,その外観,形状等を検分して不審な点がないことを確認した上で,表示された顔写真とFの容貌との照合等の同一性の確認をするべき義務があったというべきである。 しかし,原告は,前記1(2)ないし(5)のとおり,本件面談の際,面談相手であるFに対し,本件偽造免許証について,免許証の原本を提示するように求めることが容易であったにも関わらず,その原本の提示を求めることをしないまま,本件偽造免許証の顔写真とFの容貌とを照合して同一人物であると判断したことが認められる。 このような原告による本人確認は,原告自身の重大な過失により,本件偽造 原本の提示を求めることをしないまま,本件偽造免許証の顔写真とFの容貌とを照合して同一人物であると判断したことが認められる。 このような原告による本人確認は,原告自身の重大な過失により,本件偽造免許証の原本確認を怠ったものであって,本人確認として極めて不十分かつ不適切なものであり,資格者代理人に求められる注意義務に著しく反するものであることが明らかである。 そして,原告は,Fが偽造した本件偽造免許証を本人確認資料として掲げ,そのコピーを添付資料として,誤った本件本人確認情報を半田支局登記官に提供したものである。しかも,前記1(8)のとおり,原告は,本件本人確認情報に,「8.登記名義人であることを確認した理由」として,「上記の証明書の提示を受け申請人(面談相手)に記載事項を尋ねたところ疑うべき特段の事情が無く,免許証の写真により本人との同一性を確認し,その外観・形状に異状がないことを視認 した。」と記載しているのであって,「その外観・形状に異状がないことを視認した。」とあるように,免許証の原本を確認したかのような記載をしているのである。 ウ以上のとおり,原告の行った本人確認は,本人確認情報提供制度の趣旨に反するものであって,不動産登記法及び不動産登記規則の定めを満たす適法なものとは到底いうことができないものであり,原告が,重大な過失により,半田支局登記官に対し,誤った本人確認情報を提供したことは明らかである。 (3)ア原告は,そもそも不動産登記規則72条には,各種証明書の原本を確認せよとは書かれていないから,必ずしも受領した書類について,原本を確認する必要はない旨主張する。 不動産登記規則72条1項3号は,本人確認情報として明らかにすべき事項として,資格者代理人が申請人の氏名を知らず,又は当該申請人と面識がないと 書類について,原本を確認する必要はない旨主張する。 不動産登記規則72条1項3号は,本人確認情報として明らかにすべき事項として,資格者代理人が申請人の氏名を知らず,又は当該申請人と面識がないときは,「申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から提示を受けた次項各号に掲げる書類の内容及び当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由」を明らかにするものでなければならないとしており,同条2項では,提示を受けるべき書類が列挙されているが,これらの書類について,写しでも許されるとの定めはない。 このように,不動産登記規則72条1項3号及び同条2項には,申請人から提示を受けるべき書類について写しでも許されるとの定めがない以上,不動産登記規則が同条2項に規定する書類について原本の確認を要求していることは明らかである。このことは,前記(1)のとおり,本人確認情報提供制度が厳格な事前通知制度に代替するものであるところ,写しであれば,偽造することは容易であり,厳格な事前通知制度に到底代替し得るものではないことからも明らかというべきである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イ原告は,本件偽造免許証について,免許証の原本確認ないしそれと実質的に同一視すべき行為を行っているし,不動産登記規則72条2項1号及び3号の要件に二重に該当する本人確認行為を行っており,司法書士の職責に適った本人確認をしているなどと主張する。 確かに,原告は,前記1(3)及び(4)のとおり,本件偽造免許証のほかに数種類のC名義の書類の提示を受け,その一部を受領したことが認められ,これによれば,原告は,不動産登記規則72条2項3号所定の本人確認を行うことが可能な状況であったことが認められる。 しかし,仮に,原告が他の書 の書類の提示を受け,その一部を受領したことが認められ,これによれば,原告は,不動産登記規則72条2項3号所定の本人確認を行うことが可能な状況であったことが認められる。 しかし,仮に,原告が他の書類によって本人確認を行うことが可能な状況であったとしても,不動産登記規則72条2項各号所定の書類のうち,顔写真がないものについては,本人との同一性が容易に確認できないものであるから,慎重な本人確認が求められているというべきであり,前記(1)の本人確認情報提供制度の趣旨からすれば,本人確認の作業中に,少しでも本人か否かについて疑わしい事情が生じた場合,手続を進めずに慎重な対応をすることが資格者代理人に求められているというべきである(前記(2)イのとおり,原告は,本件本人確認情報に,「疑うべき特段の事情が無く」,「その外観・形状に異状がないことを視認した。」などと記載している。)。そして,原告が免許証の原本の提示を求めることは容易であり,Fが免許証の原本を提示できないとすると,当然本人か否かに疑義が生じるものである。また,前記1(2)ないし(4)のとおり,本件面談の際,Cの妻であるEが同席し,Fとともに書類を提示するなどしていたが,配偶者であれば,本人に無断で健康保険証等を使用したり,官公庁から住民票等の書類を入手したりすることもできるのであるから,免許証の原本の顔写真等による同一性の確認ができない状況においては,かえって疑義を深めるものでありこそすれ,同一性 が裏付けられるものではない。本件では,原告は,本件偽造免許証について,免許証の原本等を確認していない状況にあったのだから,このような状況で確認作業を終了し,本件本人確認情報を作成して,登記官に提供したこと自体が,資格者代理人としての基本的な注意義務に反した不適切なものというべ 等を確認していない状況にあったのだから,このような状況で確認作業を終了し,本件本人確認情報を作成して,登記官に提供したこと自体が,資格者代理人としての基本的な注意義務に反した不適切なものというべきである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (4) 前記(2)アのとおり,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,原告が本件偽造免許証について,免許証の原本の確認を行っていないにもかかわらず,本件登記申請において本件偽造免許証を資料として掲げ,そのコピーを添付した本件本人確認情報を提供したことである。 前記(1)エのとおり,本人確認情報提供制度において,資格者代理人の行う本人確認は,同制度の適切な運用のための根幹をなす基本的かつ重要な作業であり,資格者代理人が本人確認を行うに際して,資格者代理人には,登記義務者本人に対する厳格な事前通知制度に代替し得るだけの高度の注意義務が課せられていることからすると,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,本人確認情報提供制度を扱う司法書士としての注意義務に著しく違反したものといわざるを得ず,本人確認情報提供制度の趣旨を没却しかねないものである。 したがって,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,本件懲戒処分書(甲1)に記載のとおり,司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務),愛知県司法書士会会則82条(品位の保持)に違反し,懲戒事由に該当するということができる。しかも,以上のとおり,原告は,原告自身の重大な過失により,本件偽造免許証の本人確認を怠ったものであることなどからすると,原告の非違の程度は重大であり,懲戒事由に該当することは明らかというべきである。 4 争点(2)(本件懲戒処分の量定)について (1) 原告は,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したのではなく, 違の程度は重大であり,懲戒事由に該当することは明らかというべきである。 4 争点(2)(本件懲戒処分の量定)について (1) 原告は,故意に内容虚偽の本人確認情報を提供したのではなく,原本確認が不十分であったために,結果的に内容虚偽の本件本人確認情報を提供してしまったにすぎないことや,本件について誰からも苦情を言われていないことなどから,原告の行為は,業務停止3か月という懲戒処分を受けるほどの重いものではないこと,他の事例と比較しても,3か月の業務停止という本件懲戒処分の内容は,明らかに重く,処分の均衡を失していることなどから,本件懲戒処分は社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権を濫用するもので,違法である旨主張する。 (2) しかし,前記3(4)のとおり,本件懲戒処分の対象となった原告の行為は,懲戒事由に該当するものであり,しかも,本人確認情報提供制度を扱う司法書士としての注意義務に著しく違反しており,本人確認情報提供制度の趣旨を没却しかねないものであって,原告の非違の程度は重大というべきである。また,前記1(9)のとおり,本件本人確認情報を提供した本件登記申請により本件登記がされたことによって,BはCになりすましたFへの本件融資を実行してしまったのであって,理由のない登記がされたことを超える実害が生じているのである。 他方で,前記1(2)ないし(7)のとおり,原告は,F及びEによる一連の犯罪行為の流れの中で,被害者であるBからの依頼を受けて,本件登記申請を行ったことが認められ,被害者としての一面もあるということができ,また,本件健康保険証(原本)の提示を受けてその写しを受領するなど,一定の本人確認は行っていること(本件健康保険証は,不動産登記規則72条2項2号に列挙された確認書類の1つに該当し,Cの住民票及び印鑑登 本件健康保険証(原本)の提示を受けてその写しを受領するなど,一定の本人確認は行っていること(本件健康保険証は,不動産登記規則72条2項2号に列挙された確認書類の1つに該当し,Cの住民票及び印鑑登録証明書は,同項3号に該当する書類である。),常滑警察署司法警察員による,F及びEの刑事事件の参考人としての供述調書の作成や,名古屋法務局からの事情聴取にも協力したことなどが認められる。 しかし,上記のような原告に有利な事情があったとしても,原告の非違の程度は重大であり,原告の司法書士としての業務を3か月間停止するとした本件懲戒処分は,社会通念上著しく妥当性を欠き裁量権の範囲を逸脱したり裁量権を濫用したりするものであったということはできないのであって,原告の前記(1)の主張は理由がない。 (3) また,原告は,他の処分事例と比較して本件懲戒処分が重すぎるなどと主張する。 しかし,そもそも個々の懲戒処分の量定については懲戒事由の内容,被害の有無やその大小,これに対する社会的な評価や被処分者に与える影響などの諸般の事情を考慮することが必要であることは前記2のとおりであり,事情の異なる他の懲戒事例と比較して処分が重かったとしても,それをもって直ちに本件懲戒処分が違法であるということはできないし,他の事例の処分が軽きに失した可能性もあるのであって,原告の上記主張は理由がない。 5 争点(3)(本件懲戒処分の手続違反等)について(1) 適用条文等の誤りについてア原告は,本件懲戒処分の根拠となった各規定は,いずれも抽象的倫理規定であり,本件懲戒処分の根拠規定となり得ない旨主張する。 名古屋法務局長は,前記1(16)のとおり,本件懲戒処分において,原告の行為を,司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務),愛知県司法書士会会 本件懲戒処分の根拠規定となり得ない旨主張する。 名古屋法務局長は,前記1(16)のとおり,本件懲戒処分において,原告の行為を,司法書士法2条(職責),23条(会則の遵守義務),愛知県司法書士会会則82条(品位の保持)に違反するとしたうえ,司法書士法47条に基づいて,原告を業務停止処分としたことが認められる。 ところで,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件懲戒処分は,処分権者である名古屋法務局長が,原告に対して懲戒事由があると認め,司法書士法47条により認められた懲戒権に基づいて 行った行政上の処分であり,その趣旨,目的は,前記2のとおり,国が独占的資格として認めた司法書士の業務の適正を保持するために行われるものであり,刑事手続上の処分(刑事罰)とは,目的,根拠を異にするものである。したがって,司法書士に対する懲戒処分の根拠となる各規定について,厳格な罪刑法定主義の要請が及ぶものではないというべきであるから,懲戒処分に先だって,懲戒処分の対象となる行為を個々に限定したうえ,刑罰法規における構成要件のような形で法律上明確に定めることが必要なわけではない。 したがって,司法書士法2条,23条,愛知県司法書士会会則82条等の規定が,抽象的倫理規定であることを理由として本件懲戒処分が違法であるとする原告の主張は理由がない。 イ原告は,原告には内容虚偽の本人確認情報を提供する認識(故意)はなかったところ,本件懲戒処分の根拠規定はいずれも故意行為を処罰する規定であるため,原告に対してこれらの規定を根拠に懲戒処分をすることは違法であるなどと主張する。 しかし,本件懲戒処分の根拠とされた規定となった司法書士法2条,23条,愛知県司法書士会会則82条の各規定や,不動産登記法23条,不動産登記規則72条などの各規定から,懲戒処分 るなどと主張する。 しかし,本件懲戒処分の根拠とされた規定となった司法書士法2条,23条,愛知県司法書士会会則82条の各規定や,不動産登記法23条,不動産登記規則72条などの各規定から,懲戒処分の対象となる違反行為を,対象者が内容虚偽の本人確認情報を提供する認識を有していた場合に限る趣旨を読み取ることはできず,むしろ対象者に内容虚偽の本人確認情報を提供する認識がなかった場合も懲戒処分の対象行為に含まれると解されるし,前記アのとおり,本件懲戒処分は,本件登記申請に関する行政上の処分であり,刑事罰ではないのだから,必ずしも刑罰法規のごとく,過失犯と故意犯とを各別の構成要件として明示的に規定しておかなければならないものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) 処分基準に関する違法について原告は,本件登記申請当時,具体的な処分基準が設定されていなかった点,本件登記申請当時は発せられていなかった本件訓令が原告に遡及的に適用された点及び本件訓令が本件懲戒処分当時に公表されていなかった点において,本件懲戒処分は行政手続法12条1項に違反する旨主張する。 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,本件訓令は,上級行政機関である法務大臣が,下級行政機関である法務局長等に対して,司法書士法47条又は48条の規定に基づき司法書士又は司法書士法人に対する懲戒処分を行う場合の基準及び同法51条の規定による公告をする場合における懲戒処分の公表について,その職務権限の行使を指揮するために,平成19年5月17日付けで発せられたものであること,本件懲戒処分の対象とされた原告の行為(本件登記申請)があった平成18年10月当時から本件懲戒処分時まで,名古屋法務局において,司法書士の懲戒処分の具体的基準は作成されていなかったことが ること,本件懲戒処分の対象とされた原告の行為(本件登記申請)があった平成18年10月当時から本件懲戒処分時まで,名古屋法務局において,司法書士の懲戒処分の具体的基準は作成されていなかったことが認められる。 ところで,訓令は,各省大臣等がその機関の所掌事務について命令又は至達するため,所管の諸機関や職員に対して発するものであり(国家行政組織法14条2項),行政組織内部における規律を定めるもので,原則として法規の性質を持たず,私人に対する拘束力を有するものではない。 したがって,本件懲戒処分について,名古屋法務局長が,原告に対して本件訓令を「適用」したという事実はそもそも法律上観念できないものであって,本件訓令の性質が上記のとおりである以上,この点についての原告の主張は理由がない。 また,行政手続法12条1項は,「行政庁は,処分基準を定め,か つ,これを公にしておくよう努めなければならない。」と規定し,同条2項は,「行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」と規定しており,処分基準の設定,公表を努力義務としているのである。 そうすると,本件登記申請や本件懲戒処分の当時,名古屋法務局において具体的な処分基準が作成されていなかったとしても,それは,上記努力義務に反したというにすぎないし,司法書士に対する懲戒処分という性質上,法務局長等が各別に具体的な基準を定めることは必ずしも容易なことではなく,本件懲戒処分が違法となるものではない。 したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。 (3) 違法な調査,文書取得について原告は,本件懲戒処分について,名古屋法務局が関係者から事情聴取を行ったり,F及びEの供述調書を取得したりしたのは,司法書士法施行規 はいずれも理由がない。 (3) 違法な調査,文書取得について原告は,本件懲戒処分について,名古屋法務局が関係者から事情聴取を行ったり,F及びEの供述調書を取得したりしたのは,司法書士法施行規則42条によって許されていない行為であり,違法である旨主張する。 法務局長等が司法書士に対する懲戒権限を有する以上,その判断のために必要な調査を行うことができることは当然であり(司法書士法49条2項参照),司法書士法施行規則42条は,法務局長等は,必要があると認めるときは,「司法書士又は司法書士法人の保存する事件簿その他の関係資料若しくは執務状況を調査し」,又は法務局等の職員にさせることができる旨定めているが,同条の趣旨は,法務局長等に対して,懲戒処分の是非及びその程度を判断するために当該司法書士等に対する調査を行うことができることを特に明示したものと解されるのであって,同条に規定されていない関係者から事情を聴取し,関係する書類を取り寄せるなどしたからといって,懲戒処分の判断のために必要である以上,当該調査やこれに基づいて行われた懲戒処分が違法になるものではない。 前記1(13)のとおり,名古屋法務局は,B等から事情聴取を行ったことが認められるが,これらの事情聴取は,原告に対する懲戒処分の是非及びその程度の判断のために行われた調査であることが明らかであるから,これらの事情聴取を行ったことに違法はない。また,前記1(13)のとおり,名古屋法務局は,F及びEの供述調書を閲覧し,デジタルカメラで撮影したことが認められるが,何人も被告事件の終結後,訴訟記録を閲覧することができる(刑事訴訟法53条)のであり,この閲覧については,刑事訴訟法53条,刑事確定記録訴訟法4条1項に基づいて行われたもので,撮影については,法務省刑総訓第652号「記 ,訴訟記録を閲覧することができる(刑事訴訟法53条)のであり,この閲覧については,刑事訴訟法53条,刑事確定記録訴訟法4条1項に基づいて行われたもので,撮影については,法務省刑総訓第652号「記録事務規程」第15条の「保管検察官は,保管記録又は最新保存記録の閲覧を許す場合には,その謄写を許すことができる。」との定めに基づいて行われたものであると認められるから,これらの点に違法はない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (4) 黙秘権の不告知について原告は,名古屋法務局は,原告に対する事情聴取の際,黙秘権を告知しなかったから,違法である旨主張する。 いわゆる黙秘権を規定した憲法38条1項は,単に「何人も,自己に不利益な供述を強要されない。」とあるにすぎないが,その法意は,何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきであって,純然たる刑事手続においてばかりでなく,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には,等しく及ぶものである(最高裁判所昭和44年(あ)第734号同47年11月22日大法廷判決等参照)。 本件では,名古屋法務局が,原告に対して,前記1(11)のとおり事情聴取を行ったことが認められるが,証拠(甲11の1~3,乙8)及び弁論の全趣旨によれば,これらの事情聴取は,司法書士法施行規 則42条に基づく調査として行われたものであることが認められ,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続ではない。 したがって,本件における事情聴取については,そもそも憲法38条1項のいわゆる黙秘権の保障が及ぶものではないから,名古屋法務局の事情聴取において,聴取者が原告に黙秘権を告知 に有する手続ではない。 したがって,本件における事情聴取については,そもそも憲法38条1項のいわゆる黙秘権の保障が及ぶものではないから,名古屋法務局の事情聴取において,聴取者が原告に黙秘権を告知しなかったとしても,本件懲戒処分が違法となるものではないし,国家賠償法1条1項にいう違法があったということもできず,原告の上記主張は理由がない。 (5) 虚偽の記載について原告は,警察の取調べを受けたことがないのに,本件懲戒処分書には,「警察等の取り調べ及び当局等の事情聴取にも協力的であること」という記載があり,本件懲戒処分はこのような名古屋法務局長の重大な事実誤認に基づいてされたもので,違法である旨主張する。 しかし,前記1(10)のとおり,原告は,平成19年8月28日,F及びEの刑事事件の参考人として,常滑警察署司法警察員から事情聴取を受け,本件原告供述調書(甲10の1)が作成されている。 そして,刑事訴訟法223条1項は,「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者以外の者の出頭を求め,これを取り調べ,又はこれに鑑定,通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。」と定めている。すなわち,刑事訴訟法上,被疑者以外の者(参考人)から供述を得て証拠化しようとする場合も,「取り調べ」という用語が用いられているのである。 上記のとおり,原告は,F及びEの刑事事件の参考人として「取り調べ」を受けたことが認められるのであるから,本件懲戒処分書(甲1)の「警察等の取り調べ」という記載はこの趣旨をいうものとして正当であるし,そもそも上記記載は,原告に有利な事情として記載さ れているのであって,原告の上記主張は理由がない。 (6) 結論以上のとおり,本件懲戒処分について,手続違反等の事実はいず 当であるし,そもそも上記記載は,原告に有利な事情として記載されているのであって,原告の上記主張は理由がない。 (6) 結論以上のとおり,本件懲戒処分について,手続違反等の事実はいずれも認められないのであって,これらの点についての原告の主張はいずれも理由がない。 第4 結論以上のとおり,本件懲戒処分が違法であったということはできず,名古屋法務局長やその他名古屋法務局の職員の行為について,国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部裁判長裁判官長谷川恭弘 裁判官鈴木陽一郎 裁判官中畑章生 別紙物件目録 1 土地所在常滑市(以下略)地番 36番地目宅地地積 177.85㎡ 2 建物所在常滑市(以下略)家屋番号 36番(主たる建物)種類居宅構造木造瓦葺平家建床面積 74.52㎡(附属建物)符号 1種類物置構造木造瓦葺平家建床面積 14.90㎡ 別紙登記目録 登記の目的抵当権設定原因平成18年○月○日金銭消費貸借同日設定債権額金650万円利息年7パーセント(月割計算。 別紙登記目録 登記の目的抵当権設定原因平成18年○月○日金銭消費貸借同日設定債権額金650万円利息年7パーセント(月割計算。1か月未満の端数期間については,年365日日割計算とする。)損害金年21.9パーセント(年365日日割計算)債務者常滑市(以下略)C抵当権者東京都(以下略)B株式会社

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