平成23(ワ)7490 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年10月25日 名古屋地方裁判所
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判決文本文19,019 文字)

- 1 -平成23年(ワ)第7490号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告X 被告は,原告Xに対し,1万5250円及びこれに対する平成23年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。  訴訟費用は被告の負担とする。  仮執行宣言 2 原告弁護士会 被告は,原告弁護士会に対し,30万0380円及びこれに対する平成23年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。  訴訟費用は被告の負担とする。  仮執行宣言 3 被告 原告らの請求をいずれも棄却する。  訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要等 1 本件は,原告らが,被告において,被告に提出された第三者からの転居届(転送届)の有無及び転送先の住所等について,原告弁護士会から弁護士法23条の2第2項所定の照会(以下「23条照会」という。)に対する報告を求められながら,その回答をしなかったことは,原告弁護士会及び同弁護士会に照会申出をした弁護士への依頼者である原告Xに対する不法行為を構成する旨- 2 -主張し,その損害賠償として,被告に対し,原告Xが,1万5250円及びこれに対する平成23年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告弁護士会が,30万0380円及び平成23年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定するこ 年10月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実) 原告Xは,平成22年2月8日,A外7名を被告として,未公開株詐欺商法による不法行為等を理由とした損害賠償請求訴訟(名古屋地方裁判所平成22年第823号。以下「別件訴訟」という。)を提起したところ,同年9月16日,原告XとAとの間で,別紙和解条項記載の内容の裁判上の和解が成立した(甲1,2)。  別件訴訟で原告Xの訴訟代理人であった原告弁護士会所属のB弁護士は,平成23年9月26日,原告弁護士会に対し,照会申出書(以下「本件申出書」という。)を提出して,次のとおり,23条照会の申出をした(甲3)。 ア照会先被告(C支店)イ受任事件別件訴訟 依頼者(原告)原告X 相手方(被告)Aウ照会を求める理由依頼者は,相手方らにより未公開株詐欺被害を受けたため,平成22年2月8日,名古屋地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起し,平成22年9- 3 -月16日,相手方との間で,裁判上の和解が成立した。 しかし,相手方は,上記和解における支払期限までに支払をせず,その後も,支払をしようとしない。 このため,依頼者は,相手方につき,上記和解に基づき動産執行等の強制執行手続を採りたいと考えているところ,同手続を行うためには,依頼者に,相手方の住居所等が判明していることが必要となる。 相手方は,住民票上の住所を,「東京都中央区(以下略)」としているが,現在,住民票上の住所には居住していない。 そこで,依頼者は,相手方に対し動産執行等の強制執行手続を行うため,照会先に対し,相手方の転居先等 の住所を,「東京都中央区(以下略)」としているが,現在,住民票上の住所には居住していない。 そこで,依頼者は,相手方に対し動産執行等の強制執行手続を行うため,照会先に対し,相手方の転居先等についてご回答いただきたく,本照会に及んだ。 エ照会事項(以下「本件照会事項」という。) A宛ての郵便物についての「転居届」の提出の有無(照会事項1) 「転居届」の届出年月日(照会事項2) 「転居届」記載の新住所(居所)(照会事項3) 「転居届」記載の新住所(居所)の電話番号(照会事項4) 原告Xは,平成23年9月26日,原告弁護士会に対し,23条照会のために必要な費用として,5250円を支払った(甲36)。  原告弁護士会は,本件申出書を審査して申出を相当と判断し,平成23年9月27日,被告(C支店)に対し,本件申出書を添付した照会書(以下「本件照会書」という。)を送付して,本件照会事項について報告を求める23条照会(以下「本件照会」という。)をした。  被告(C支店)は,本件照会には応じかねる旨を記載した平成23年10月14日付け回答書を原告弁護士会に送付し,同月17日,同回答書は原告弁護士会に到達した(甲5)。 - 4 - 原告弁護士会は,原告弁護士会の調査室会議において,上記の回答書に対する対応を協議し,次の内容を記載した通知書(以下「本件通知書」という。)を作成し,原告弁護士会の副会長において発信許可をした上,平成23年10月27日,被告(C支店)に対し,本件通知書を送付して,本件照会に回答することを求めた(甲6,弁論の全趣旨)。 ア大阪高等裁判所平成19年1月30日判決は,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対して,法 求めた(甲6,弁論の全趣旨)。 ア大阪高等裁判所平成19年1月30日判決は,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対して,法律上,報告する公的な義務を負うものと解するのが相当であるとしている。 イ東京高等裁判所平成22年9月29日(本件通知書の「6月28日」は誤記)判決(以下「東京高裁判決」という。)は,「転居届は,通信,信書そのものとはいえず,個々の郵便物とは離れて存在するものである。そして,転居届の情報が報告されても,個々の通信の内容は何ら推知されるものではないから,同情報は憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないと解される。」と判示した上,本件照会事項ないしと同一の照会事項につき,「個々の郵便物の内容についての情報ではなく,単に住居所に関する情報である」,「住居所は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。したがって,その実質的な秘密性は低いと評価すべきものである。」などと指摘して,これらについて報告すべき義務は,郵便法8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」としての守秘義務に優越すると判示しており,本件照会事項が同の関連事項にすぎず郵便物とは全く別個の情報であることからすれば,本件照会に対する回答拒否に正当な理由がないことは明らかである。 ウ転居届の内容について回答を拒否されると,相手方が占有する動産の所- 5 -在場所が分からず,動産執行を行うことが不可能となり,他に代替手段もない。本件照会は必要かつ相当なものである。  原告弁護士会は,本件通知書を被告に発送するに際し,簡易書 する動産の所- 5 -在場所が分からず,動産執行を行うことが不可能となり,他に代替手段もない。本件照会は必要かつ相当なものである。  原告弁護士会は,本件通知書を被告に発送するに際し,簡易書留費用として380円を拠出した(甲44の1ないし3,弁論の全趣旨)。  被告(C支店)は,平成23年11月9日,原告弁護士会に対し,被告としては,東京高裁判決を根拠として転居届に係る23条照会に応ずることは困難と判断しているので,本件照会には応じかねる旨を回答した(甲7)。 3 争点及び当事者の主張 本件照会に対する被告の報告拒絶に正当な理由があるかア原告らの主張 23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする(弁護士法1条1項)ことに鑑み,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたものであり,その適切な運用を確保する目的から,照会する権限を弁護士会に付与し,その権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,個々の弁護士の申出が23条照会の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会の自律的判断に委ねて濫用的照会の排除の制度的保障を図るという2段階の構造を有している。このような23条照会の趣旨によれば,23条照会を受けた者は,報告を求められた事項について,照会した弁護士会に対し報告をする公法上の義務を負う。  他方で,「通信の秘密」(憲法21条2項後段)とは,通信の秘密に属する通信内容や事務上の事項について調査,探求をしてはならないこと(積極的知得行為の禁止),通信事務取扱者が通信の秘密について知り得た事項につき秘密を守るべきこと(漏えい行為の禁止)を意味し,郵便法8条1項の「信書 上の事項について調査,探求をしてはならないこと(積極的知得行為の禁止),通信事務取扱者が通信の秘密について知り得た事項につき秘密を守るべきこと(漏えい行為の禁止)を意味し,郵便法8条1項の「信書の秘密」は,憲法21条2項後段を受けてこれ- 6 -を具体化したものであるが,転居届は通信,信書そのものとはいえず,個々の郵便物とは離れて存在するものであって,転居届の情報が報告されても,個々の郵便物の内容は何ら推知されるものではないから,同情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しない。 もっとも,本件照会事項ないしは転居届に記載された事項で,本件照会事項はその前提となる事項であるところ,これらはいずれも郵便法8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たるので,被告は同項に基づく守秘義務を負う。しかし,これらは個々の郵便物の内容についての情報ではなく,単なる住居所に関する情報であるところ,住居所は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえず,その実質的な秘密性は低いと評価すべきものであるし,本件照会事項について報告がされても,この情報を得るのは,原告弁護士会のほか,照会申出をしたB弁護士及びその依頼者である原告Xのみであるから,これが知られる範囲は限定的なものである。  これに対し,23条照会は,前記のとおり,弁護士が受任した事件を処理するために所属弁護士会に照会申出をし,同弁護士会が照会を相当と認めた情報について報告を求めるものであるから,その制度趣旨からして,23条照会に対する報告の必要性は高いというべきである。  よって,被告が本件照会事項について報告すべき義務は 会が照会を相当と認めた情報について報告を求めるものであるから,その制度趣旨からして,23条照会に対する報告の必要性は高いというべきである。  よって,被告が本件照会事項について報告すべき義務は,郵便法8条2項に基づく守秘義務に優越するから,本件照会事項について,被告が報告を拒絶したことには正当な理由がない。 イ被告の主張 「通信の秘密」(憲法21条2項後段)の保障の対象には,通信の内容のみならず,通信の存在それ自体に関する事項,すなわち,通信・信- 7 -書の差出人・受取人の氏名・住所・居所,差出個数,年月日等も含まれる。そして,郵便法8条1項の「信書の秘密」は,憲法21条2項後段を,被告が取り扱う信書に関して規定したものであり,その範囲は信書に関わる「通信の秘密」の範囲と同一である。 転居届に従って郵便物が転送される場合,転居届の情報は,個々の郵便物の宛て所そのものに成り代わり,その郵便物の受取人の宛て所そのもの,場合によっては宛名ともなるから,転居届に従って既に郵便物の転送がされた場合には,転居届の情報には当然に通信の秘密の保障が及ぶ。また,転居届を提出する郵便利用者は,郵便物の受け取りを前提として転居届を提出するのであるから,一定期間のうちには当然転送されてくる郵便物が存在する。したがって,転居届そのものが郵便物の転送を前提とした存在であり,転居届は個々の郵便物と密接に関係せざるを得ないから,転居届そのものが「通信の秘密」に準じて取り扱われる必要がある。そして,憲法上の保障である「通信の秘密」が,23条照会に対する報告義務に優越することは明らかであるから,被告による本件照会への報告拒絶には正当な理由がある。  さらに,転居届の情報は,郵便物の転送を前提とした情報であるから,少なくとも郵便法8条2項の「郵便 告義務に優越することは明らかであるから,被告による本件照会への報告拒絶には正当な理由がある。  さらに,転居届の情報は,郵便物の転送を前提とした情報であるから,少なくとも郵便法8条2項の「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当する。 そして,郵便法8条が憲法21条2項後段を受けて定められたものであること,弁護士法23条の2は包括的な情報開示に関する根拠規定であるのに対し,郵便法の規定は信書及び郵便に関わる事項についての情報開示に関して限定的な守秘義務が定められているものであること,23条照会に従い情報を開示した場合,被告が不法行為責任を負うリスクを負担せざるを得ないなど不都合性があること,郵便法8条2項の守秘義務には明文の規定があるが,23条照会における公的な回答義務は弁- 8 -護士法上明文の規定がないこと,23条照会は法文上拒否事由や除外事由が規定されず,照会を受ける者に事前に意見を述べる機会もなく,事後に異議を述べて争う機会もないため,同照会への報告義務が民法上の違法性が生じる意味での法的義務であるとすることには疑問があるのに対し,郵便法8条1項に違反した場合には罰則の適用があり,同条2項に違反した場合には,その行為が違法性を帯びると判断され,その結果不法行為が成立する余地があること,被告の社員は転居届に関して証人として尋問された場合,証言拒絶権を有すること,転居届は文書提出義務除外文書に該当することなどからすれば,転居届の情報に関する秘密保持義務は23条照会への報告義務に優先するから,被告のした本件照会に対する報告拒絶には正当な理由がある。  また,郵便法8条1項の「信書の秘密」を侵害した場合,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰則が定められているが,同項と同条2項はその保障対象の明確な区別が困 は正当な理由がある。  また,郵便法8条1項の「信書の秘密」を侵害した場合,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰則が定められているが,同項と同条2項はその保障対象の明確な区別が困難であり,このような場合に転居届の情報を弁護士会に対して回答しなければならないとすれば,被告の業務従事者は重い罰則を科される危険を負担しなければならないことになり,不合理である。  転居届の情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」に対象事項そのもの,もしくはこれと密接な関連性を有し,「通信の秘密」に準じて取り扱われるべき情報であって,「前科及び犯罪経歴」の情報と同様に,その秘密保持につき高度の要保護性を有すること,本件照会事項は原告Xが将来にわたり強制執行をするために必要不可欠とはいえないか,少なくとも原告らはその立証をしていないこと,原告らにおいて,転居届と郵便物との結び付きがないことの主張,立証がないこと等の事情を,23条照会に関する最高裁昭和56年4月14日第三小法廷判決・民集35巻3号620頁(以下「昭和56年判例」という。)の基準に当て- 9 -はめると,本件照会に回答することは,開示対象者との関係で不法行為に該当する可能性があるから,これを避けるために行った本件照会に対する報告拒絶には正当な理由がある。  原告Xの権利・利益の侵害の有無ア原告Xの主張弁護士法23条の2がその照会の主体を弁護士会にしたのは,所属弁護士会による照会の必要性,相当性の判断を,弁護士を監督する地位にある弁護士会の自律的判断に委ねることをもって,23条照会制度の適正かつ慎重な運用を担保する趣旨であり,申出をした弁護士の依頼者も,同制度によって情報を得ることにより自己の権利の実現ないし利益を享受する法的利益を有している。原告Xは,被告の ,23条照会制度の適正かつ慎重な運用を担保する趣旨であり,申出をした弁護士の依頼者も,同制度によって情報を得ることにより自己の権利の実現ないし利益を享受する法的利益を有している。原告Xは,被告の報告拒絶により,Aに対する動産執行を実現する法的利益が妨げられたというべきである。 イ被告の主張23条照会に対する照会先の報告義務は,弁護士会に対するものであり,申出をした弁護士や依頼者個人に対するものではないから,照会先から回答を得られるかどうかについて,依頼者に権利ないし法的に保護された利益があるとはいえないから,被告の報告拒絶は,原告Xの権利ないし法的に保護された利益を侵害するものとは認められない。  原告弁護士会の権利・利益の侵害の有無ア原告弁護士会の主張23条照会の主体は,弁護士法23条の2の構造上,弁護士会に属するものであり,弁護士会が照会の権限を有している。 本件においては,被告の報告拒絶により,23条照会によって報告義務者から報告を受けることができるという原告弁護士会の権利・利益が害されている。 イ被告の主張- 10 -弁護士会は,所属弁護士からの照会の申出がなければ照会を行うことはできず,照会の申出が弁護士法23条の2の要件に該当しているか,濫用的な照会ではないかについて審査を行うのみであり,これらのチェック機能を与えられているにすぎない。 また,弁護士会は,照会の内容に関して一切の関わりがないが,照会によって必ず希望する報告が得られるとは限らないのであって,報告が得られたが内容が希望するものでなかった場合と比較しても,報告を拒絶されることによって侵害される利益が弁護士会に存在するとは観念し難い。 したがって,原告弁護士会は,独自に保護されるべき権利又は利益を有しない。  本件照会に対する 場合と比較しても,報告を拒絶されることによって侵害される利益が弁護士会に存在するとは観念し難い。 したがって,原告弁護士会は,独自に保護されるべき権利又は利益を有しない。  本件照会に対する報告拒絶についての被告の過失の有無ア原告らの主張 本件照会事項は,電話番号を除き,東京高裁判決の事案の照会事項と全く同一であり,電話番号も,住居所と同様に,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている情報であるとともに,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえないから,その照会についても同判決の射程の範囲内にある。そして,同判決は,転居届は通信,信書そのものではなく,転居届に記載されている新住居所の報告を求めることは通信の秘密とは無関係であると明示した上,住居所についての23条照会に対する報告義務は被告の守秘義務に優越し,被告による報告拒絶には正当な理由がなく,23条照会に対する報告義務違反があると判示しているから,被告には本件照会事項ないしに対する報告拒絶が違法であることの十分な予見可能性があり,また,同判決の論理に従えば,転居届記載の新住居所の電話番号についての23条照会に対する報告義務が被告の守秘義務に優越することも十分判断することができたといえ,被告には本件照会事項に対する報告- 11 -拒絶が違法であることの予見可能性も十分にあったといえる。 さらに,同判決では,補論として,「この判決を契機として,本件照会に改めて応じて報告することを要請したい。また,さらに,新住居所という転居届に記載された情報に関しては,本判決の意のあるところを汲み,23条照会に応ずる姿勢を組むことを切に要請したい。」と異例の意見表明までしている。  また,総務省が策定した「郵便事業分野における個人 に記載された情報に関しては,本判決の意のあるところを汲み,23条照会に応ずる姿勢を組むことを切に要請したい。」と異例の意見表明までしている。  また,総務省が策定した「郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドライン」の解説は,事業者が保有する個々の信書の送達には関連しない個人情報(契約者情報,料金の支払状況等)については,基本的には信書の秘密の保護の対象外になるとした上,23条照会の場合には原則として照会に応ずるべきであるが,当該個人データが本人の信書の秘密に該当する場合には当該データを提供することは適当ではないとしているから,これによれば,被告は原則として転居届に記載されている新住居所や電話番号についての23条照会に応ずるべきことになる。  被告が援用する昭和56年判例の事案の照会事項は,前科及び犯罪経歴という最も他人に知られたくない情報であって,他者への開示が予定されていない情報であるのに対し,本件照会事項である住居所や電話番号は,一定の範囲の他者への開示が予定されている情報であって,事案を全く異にしているから,本件は昭和56年判例の射程外である。昭和56年判例の事案においては守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると判断することは困難でない。  そして,本件照会は,動産執行をする前提として,債務者が居住している可能性がある場所の照会をするものであり,かような目的のものでの照会であるため,弁護士会としても,必要性・相当性があると判断して照会をしていることは本件申出書から明らかであり,電話番号についても,契約者に対する通信事業会社の請求書の送付先等を照会すること- 12 -で居所を把握することが可能であるため,弁護士会をして照会の必要性,相当性があると判断したものであるから,本件申出書の記載によって本件 する通信事業会社の請求書の送付先等を照会すること- 12 -で居所を把握することが可能であるため,弁護士会をして照会の必要性,相当性があると判断したものであるから,本件申出書の記載によって本件照会が必要かつ相当なものであることは被告において十分に判断することができ,被告には過失が認められる。 また,特段の事情がない限り,被告が転居届記載の新住居所についての23条照会に係る事案の個別事情に関する事実(転居届以外に新住居所を調べる方法がないかどうか,強制執行を動産執行により行う必要があるかどうかの事情)等を調査する必要がないことは,東京高裁判決に判示されているとおりである。 イ被告の主張 昭和56年判例は「市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ,犯罪の種類,軽重を問わず,前科等のすべてを報告することは,公権力の違法な行使にあたると解するのが相当である。」と判示し,23条照会への回答を行ったことについての損害賠償請求を認めているところ,23条照会については,この判決の先例的価値が高い。  本件照会に対する報告拒絶につき被告に過失があるとする原告らの主張の根拠は東京高裁判決の存在にあるが,23条照会に対し報告する義務が被告の守秘義務に優越するなどの判示部分は,傍論にすぎず,上告審である最高裁の判断を経ていないこと,住居と居所とを分けて秘密性の検討をしておらず,民事訴訟法等の関係法規との整合性の検討をしていないこと等の問題があり,被告は,これらの諸点を検討の上,本件照会に対する報告拒絶をしたものであるから,報告拒絶が違法であることについて予見可能性があったとはいえない。  本件申出書には,前記2の事項しか情報提供がなく,差し押さえるべき動産が所在する場所と郵便物の受取場所とが一致することの記載や,Aが住民票上の住所には ついて予見可能性があったとはいえない。  本件申出書には,前記2の事項しか情報提供がなく,差し押さえるべき動産が所在する場所と郵便物の受取場所とが一致することの記載や,Aが住民票上の住所には居住していない事情の開示がないため,昭和5- 13 -6年判例が示す「他に立証方法がないような場合」という基準を満たすかを判断することができない。 また,転居届記載の新住居所の電話番号については,仮に電話番号に基づき通信事業会社に照会する意図があったとしても,そのような意図は本件申出書の記載上知り得ない上に,通信事業会社に照会すれば,住民票記載の情報以上のものが取得できる可能性があるとの立証もされていない。原告らは,通信事業会社の契約者に対する請求書又は領収書の送付先の氏名及び住所について照会することが可能であると主張するが,従前このような説明はなかった。 さらに,本件照会書の記載からは,Aが別件訴訟において裁判上の和解に合意した事情を推認することはできず,和解の経緯も不明である。 そのほか,原告らにおいて,転居届と郵便物との結び付きがないことの主張,立証もない。  東京高裁判決においても,23条照会における報告の拒絶は依頼者に対する不法行為を構成するものとはいえない旨判断しており,被告が原告Xの権利侵害及び損害を予見することはできない。 また,弁護士会が23条照会に対する報告を得ることに関して,人格的な価値に関わる社会的評価を有するといえないとの論考もあり,被告において,原告弁護士会の損害を予見することもできない。  そして,被告が原告らの権利侵害や損害の発生を回避するための手段は,本件照会に対して報告するか,転居届の情報の開示が個々の通信と結び付くことを具体的に説明するしかないところ,転居届の情報の開示が個々の通信と結び付 告らの権利侵害や損害の発生を回避するための手段は,本件照会に対して報告するか,転居届の情報の開示が個々の通信と結び付くことを具体的に説明するしかないところ,転居届の情報の開示が個々の通信と結び付くことを具体的に説明することで,具体的な信書の有無等を明らかにすることは,郵便法8条1項に違反し,同法80条2項に該当する行為であるし,本件照会に対して転居届の情報を開示することは,被告には23条に対し報告する義務が郵便法上の守秘義務に- 14 -優越することについての予見可能性がないことから困難である。本件においては,損害発生の蓋然性の低さ及び被侵害利益の軽微さに比して,被告には,容易にとりうる結果回避の手段がないのである。  以上を総合考慮すると,本件では被告に過失を認めることはできない。  被告の報告拒絶と相当因果関係のある原告Xの損害の有無,損害額ア原告Xの主張原告Xは,Aに対する動産執行が不可能になったことで精神的苦痛を受け,その精神的損害は少なくとも1万円は下らない。 また,本件照会に対する報告を被告が拒んだ結果,原告Xが拠出した照会費用5250円が無駄になった。 以上のとおり,原告Xは,被告の報告拒絶により,少なくとも1万5250円の損害を被った。 イ被告の主張原告Xの主張する精神的苦痛はAに対する動産執行が不能になったというものであり,単に経済的損失として算定され得るものにすぎないし,被告の報告拒絶は,原告Xの経済的利益には何らの影響も与えない。 また,23条照会の申立てによって必ず希望する回答が得られるとは限らず,仮に被告が報告に応じたとしても,原告Xが望む情報が開示されるかどうか,開示されたとしても,動産執行が可能か否かは不明であるから,本件照会の申立費用の拠出は,被告の報告拒絶と因果関係がない。 らず,仮に被告が報告に応じたとしても,原告Xが望む情報が開示されるかどうか,開示されたとしても,動産執行が可能か否かは不明であるから,本件照会の申立費用の拠出は,被告の報告拒絶と因果関係がない。  被告の報告拒絶と相当因果関係のある原告弁護士会の損害の有無,損害額ア原告弁護士会の主張 原告弁護士会は,被告の報告拒絶により,改めて回答を求めるために通知書の発送をせざるを得なくなったため,本件通知書発送のための簡易書留郵便費用380円を支出しているが,この費用は被告の報告義務違反と因果関係のある財産的損害である。 - 15 - 原告弁護士会は,被告の回答拒否により,①23条照会の適正な権限行使を阻害されたという無形の損害を被ったほか,②我が国の司法制度を維持するための制度である23条照会制度を適正に運用できないという社会的評価の低下と,23条照会制度に基づく原告弁護士会の事実調査能力,証拠収集能力に対する国民の信頼が失われ,基本的人権の擁護と真実発見等の社会正義の実現を果たすことへの国民の信頼が失われるという社会的評価の低下という損害を被り,③被告の報告拒絶に対処するため,調査室会議において,被告に対して通知書を送付するかどうか,その内容をどのようなものにするかについて協議した上で本件通知書を作成するための労力の負担を強いられ,④23条照会手続の適正な運用を図るという責務の実現のために本件訴訟を提起し,遂行するための労力も強いられた。 以上の原告弁護士会が被った無形の損害を金銭で評価すれば,その額は,上記①ないし③につき合わせて30万円,上記④につき10万円の合計40万円を下らない。  原告弁護士会は,上記損害合計40万0380円のうち,の380円との一部である30万円の合計30万0380円を一部請求する。 わせて30万円,上記④につき10万円の合計40万円を下らない。  原告弁護士会は,上記損害合計40万0380円のうち,の380円との一部である30万円の合計30万0380円を一部請求する。 イ被告の主張 23条照会の制度が適正に運用できないとすれば,それは同制度の不備に基づくものであり,被告の不法行為に基づくものではないし,我が国の法制度上,郵便法8条には除外規定がなく,被告は,23条照会と守秘義務との優劣を自ら判断せざるを得ないのであり,そのような法制度において被告が報告を拒絶したとしても,それは郵便法を遵守した結果にすぎず,それによって23条照会の制度の担い手である弁護士会の社会的評価を低下させることにはならない。 さらに,原告弁護士会の弁護士会照会手続規則(以下「本件規則」と- 16 -いう。)7条において報告拒絶に対する処置が定められていることなど,報告拒絶がされた場合には一定の対応が予定されており,原告弁護士会の調査室が報告拒絶への対応のため調査,協議等を行うことは,通常業務の範囲内のものであり,数額の算定が困難である労力が強いられたものにはなり得ない。  本件規則8条2項には,報告拒絶に対する処置等をするにつき費用を要する場合には,原告弁護士会が申出会員に対して費用を負担させることができる旨の規定があるところ,その請求をするか否かは原告弁護士会の裁量であり,申出会員にあえて請求しないのであれば,因果関係論としても,当該費用の拠出が本件の損害となるはずがない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(本件照会に対する被告の報告拒絶に正当な理由があるか)について 23条照会を受けた者の報告義務について23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とすることに鑑み,弁護士 対する被告の報告拒絶に正当な理由があるか)について 23条照会を受けた者の報告義務について23条照会の制度は,弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とすることに鑑み,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,当該事件の適正な解決に資することを目的として設けられたものであり,その適正な運用を確保する目的から,その照会の権限を,弁護士の指導,監督等に関する事務を行うことを目的とする公法上の法人である弁護士会に付与し,その権限の発動を個々の弁護士の申出に係らせつつ,個々の弁護士の申出が23条照会の制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を弁護士会の自律的判断に委ねたものと解される。 このような23条照会の趣旨によれば,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,当該照会により報告を求められた事項について,照会をした弁護士会に対し報告をする公法上の義務を負うものと解するのが相当であるが,他方において,23条照会の制度が照会の相手方の権利利益の保護に関する- 17 -定めを欠いていること,昭和56年判例の事案においては23条照会に漫然と応じた相手方に第三者に対する損害賠償責任が認められていること等に照らせば,照会を受けた者に対してすべての照会に必ず回答すべき義務を負わせる趣旨でないことはおのずから明らかであり,報告をしないことについて正当な理由を有するときは,報告を拒絶することが許されると解される。  被告の負う守秘義務についてア通信の秘密,信書の秘密に基づく守秘義務の有無憲法21条2項後段は,「通信の秘密は,これを侵してはならない。」と規定し,これを受けて,郵便法8条1項は,「会社(被告)の取扱中に係る信書の秘密は,これを侵してはならない。」と規定している。 憲法21条2項後段は,「通信の秘密は,これを侵してはならない。」と規定し,これを受けて,郵便法8条1項は,「会社(被告)の取扱中に係る信書の秘密は,これを侵してはならない。」と規定している。 しかし,本件で問題となっている転居届は,通信や信書そのものではなく,個々の郵便物とは別個の存在であって,そこに記載された本件照会事項に係る情報が報告されても,個々の通信の内容が推知されるものではないから,同情報は,憲法21条2項後段の「通信の秘密」に該当せず,郵便法8条1項の「信書の秘密」にも該当しないと解される。したがって,被告は,本件照会事項について,「通信の秘密」や「信書の秘密」に基づく守秘義務を負うことはないというべきである。 これに対し,被告は,転居届の情報が,個々の郵便物の受取人の宛て所そのもの,場合によっては宛名ともなることから,転居届に従って既に郵便物の転送がされた場合には転居届の情報には当然に「通信の秘密」の保障が及ぶと主張するが,本件照会事項は,個々の通信とは関係のない情報としての転居届に記載された新住居所等の報告を求めるものであるから,上記主張は採用できない。また,被告は,転居届そのものが郵便物の転送を前提とした存在であり,転居届は個々の郵便物と密接に関係せざるを得ないから,転居届そのものが「通信の秘密」に準じて取り扱われる必要があるとも主張するが,転居届の存在により直ちに個々の郵便物の転送の有- 18 -無が明らかになるものではないから,上記主張も採用できない。 イ郵便物に関して知り得た他人の秘密に基づく守秘義務の有無郵便法8条2項は,被告が「郵便物に関して知り得た他人の秘密」を漏えいすることを禁じているところ,転居届は,被告が郵便業務を遂行する過程で取得するものであるから,転居届の情報は,「郵便物に関して 郵便法8条2項は,被告が「郵便物に関して知り得た他人の秘密」を漏えいすることを禁じているところ,転居届は,被告が郵便業務を遂行する過程で取得するものであるから,転居届の情報は,「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に当たるというべきである。 したがって,被告は,本件照会事項について,郵便法8条2項に基づく守秘義務を負っているということができる。  本件照会に対する報告を拒絶するについての正当な理由の有無ア以上のとおり,本件においては,被告が郵便法8条2項に基づく守秘義務を負っている本件照会事項について,原告弁護士会が23条照会をしたことの結果として,被告における上記守秘義務と公法上の報告義務とが衝突しており,これをいかに解すべきかが問題となる。そして,23条照会を受けた相手方が弁護士会に対して報告する法的義務を負う旨の明文の規定を欠いていること等を重視するならば,他の法律において相手方に守秘義務が明文で認められている照会事項については,一律に又は原則として,報告を拒絶することに前記の「正当な理由」が認められると解する立場もあり得ないではない。 しかしながら,前記の23条照会の制度趣旨からすれば,同制度には,国民の権利救済の実現に資するという司法制度の根幹にかかわる公法上の重要な役割が認められているというべきであり,このような23条照会の役割の重要性に鑑みれば,これに対する報告を拒む「正当な理由」は,相手方が法律上の守秘義務を負っていることだけで一律に又は原則として認められると解することは相当でなく,照会事項のそれぞれについて,当該事項に係る情報の秘匿性の程度や,国民の権利救済の実現のために報告を受ける必要性の程度等を踏まえた利益衡量によって,拒絶することに正当- 19 -性が存するかどうかが判断されるべきである。 ,当該事項に係る情報の秘匿性の程度や,国民の権利救済の実現のために報告を受ける必要性の程度等を踏まえた利益衡量によって,拒絶することに正当- 19 -性が存するかどうかが判断されるべきである。 イそこで,かかる見地から検討するに,本件照会事項は,個々の郵便物の内容についての情報ではなく,単に住居所や電話番号に関する情報であって,前記のとおり,被告が,憲法で保障されている「通信の秘密」(憲法21条2項後段)や,罰則の適用がある「信書の秘密」(郵便法8条1項)に基づく守秘義務を課せられているものではない。また,住居所や電話番号は,人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には開示されることが予定されている情報であり,個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない。 ウ他方,本件照会の主要な目的は,Aに対して強制執行(動産執行)をするため,Aの住居所を知ることにあるが,この目的は,国民の権利救済の実現に資するという23条照会の制度の役割に沿うものである。 そして,本件照会事項及びは,A宛ての郵便物についての転居届の届出年月日及び転居届記載の新住居所について,本件照会事項はその前提として転居届の提出の有無についての情報の報告を求めるものであり,強制執行(動産執行)をするための必要性が高いといえる。これに対し,本件照会事項は,Aの住居所を知るという目的のために直接的なものとはいえず,本件照会事項ないしに対する報告に加えてこれが必要であるかについては疑問を呈する余地がある。しかしながら,証拠(甲46)によれば,明らかにされた電話番号に係る電話の契約者に対する請求書又は領収書の送付先についてさらに通信事業会社に照会するなどして,住居所についての情報を取得する可能性が存することは認められるから,少なくとも本件照会事項 電話番号に係る電話の契約者に対する請求書又は領収書の送付先についてさらに通信事業会社に照会するなどして,住居所についての情報を取得する可能性が存することは認められるから,少なくとも本件照会事項ないしに対する報告によってもなおAの現在の住居所が判明しないという場合については,強制執行(動産執行)をするため,本件照会事項の報告を求める必要性があることは否定できないといえる。 - 20 -エ以上のような,本件照会によって報告を求められた情報の秘匿性の程度や,報告の必要性の程度に照らせば,被告が本件照会事項ないしについて報告すべき義務は,これらについて被告が負うべき守秘義務に優越すると解するのが相当であり,本件照会事項についても,少なくとも他にAの現在の住居所を知るための適切な手段が存しない場合には,これを報告すべき義務が守秘義務に優越すると解する余地がある。したがって,本件照会事項の全部について報告を拒絶した被告の対応には,正当な理由を欠くところがあったといわざるを得ない。 2 争点(本件照会に対する報告拒絶についての被告の過失の有無)について 以上のとおり,当裁判所は,少なくとも本件照会事項の一部については,被告が本件照会に対する報告を拒絶したことには正当な理由を欠くところがあったと判断するが,被告に不法行為責任が認められるためには,更に進んで被告の故意又は過失等の要件を満たすことを要する。  そもそも被告は,郵便法上,「信書の秘密」(郵便法8条1項)及び「郵便物に関して知り得た他人の秘密」(郵便法8条2項)についての守秘義務を負っており,「信書の秘密」を侵した場合には2年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰則が科せられることとなる。そして,本件照会事項についての報告が「信書の秘密」に関わるもので の守秘義務を負っており,「信書の秘密」を侵した場合には2年以下の懲役又は100万円以下の罰金という重い罰則が科せられることとなる。そして,本件照会事項についての報告が「信書の秘密」に関わるものであるかどうかは,報告を拒絶する正当な理由の存否の判断に影響するものと考えられ,それゆえに当裁判所も前記1においてこれを詳細に検討したものであるが,「信書の秘密」の対象範囲について,これを直接に判断した最高裁判例は存しない。 加えて,「郵便物に関して知り得た他人の秘密」を侵したにすぎない場合であっても,被告は,当該秘密に係る情報を不当に報告することで守秘義務違反を理由に利用者から法的責任の追及を受ける立場にある。  本件においては,被告に課せられた守秘義務と報告義務とが衝突しているところ,このうちいずれの義務が優越すると解すべきかについては既に判示- 21 -したとおりであるが,その判断は,弁護士法や郵便法等の関連諸規定の趣旨を踏まえた解釈を前提とし,各照会事項ごとに情報の秘匿性の程度や報告を受ける必要性の程度等を踏まえた利益衡量に基づく微妙な判断とならざるを得ないから,その判断が事後的に誤りとされたからといって,直ちに過失があるとすることは酷であり,相当でないというべきである。かかる場合においてあり得る一つの考え方は,前記1のように公的な存在である弁護士会において相当であると判断されて23条照会が行われた以上,相手方はその判断を信頼して照会に応ずれば過失がないとすることであろうが,漫然と23条照会に応じた相手方の損害賠償責任を肯定した昭和56年判例が現に存在するのであるから,そのような考え方を採用できないことは明らかであり,したがって,23条照会を受けた相手方としては,これに応ずるかについて慎重な対応を採ろうとすることも無理からぬも 年判例が現に存在するのであるから,そのような考え方を採用できないことは明らかであり,したがって,23条照会を受けた相手方としては,これに応ずるかについて慎重な対応を採ろうとすることも無理からぬものがある。  そして,被告が本件照会事項あるいは転居届の情報に関する23条照会に対して報告を拒絶することに正当な理由が認められるかについて,被告の負う守秘義務との関係から判断した最高裁判例はなく,かえって,漫然と23条照会に応じた相手方の損害賠償責任を認めた昭和56年判例が存することは上記のとおりである。もとより昭和56年判例の事案における照会事項は前科及び犯罪経歴であって,本件とは事情を異にするものであり,原告らは,上記事案においては守秘義務が23条照会に対する報告義務に優越すると判断することは困難でないと主張するのであるが,そのような照会事項についてすら,現実に当該弁護士会が23条照会を行っていたことは看過できない事実であるし,上記事案の照会事項に比して本件照会事項がどの程度の秘匿性を有するのかについて判断した最高裁判例が存するわけでもない。  原告らは,東京高裁判決の判決理由中の説示を援用して,被告に過失が認められる根拠とするが,同判決は結論としては損害賠償請求を棄却しているために被告においてこれに不服を申し立てる機会はなく,上告審の判断を経- 22 -ていないものであるし,同判決の判文自体から,原審は異なる見解を採っていたことがうかがわれることに照らしても,被告において,同判決の説示に従わないときには直ちに過失が認められるとまではいえない。また,原告らが援用する総務省による解説の記載も,被告において本件照会に応じないことが違法であると認識してしかるべきものであるとまではいえない。  本件の事実関係を見ても,被告に送付された ない。また,原告らが援用する総務省による解説の記載も,被告において本件照会に応じないことが違法であると認識してしかるべきものであるとまではいえない。  本件の事実関係を見ても,被告に送付された本件申出書及び本件照会書には,動産執行等の強制執行手続を行うため,現在住民票上の住所に居住していないAの転居先等について被告の報告が必要である旨は記載されているものの,住居所に加えて電話番号まで照会することの必要性についての理由は不明であるのみならず,Aの住居所を知るための他の手段の有無等を判断するために必要な事情は明らかにされていないし,その後に送付された本件通知書も,本件の個別具体的な事情を明らかにするものではなかった。  以上の事情を総合勘案すれば,本件において,郵便法8条2項の守秘義務を負っている被告が本件照会に対して報告できない旨の回答をしたことに相応の事情が存したことは否定できず,被告に過失があるとまではいえないというべきである。 3 以上によれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部 裁判長裁判官上田 哲 裁判官久保孝二 - 23 -裁判官髙場大地

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