令和4年11月24日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第394号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日令和4年8月4日判決 主文 被告は、原告Aに対し、770万円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 被告は、原告Bに対し、1366万4750円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 被告は、原告Cに対し、1366万4750円及びこれに対する平成27 年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用の負担は、以下のとおりとする。 原告Aに生じた費用は、これを10分し、その7を原告Aの負担とし、その余を被告の負担とする。 原告Bに生じた費用は、これを2分し、その1を原告Bの負担とし、その余を被告の負担とする。 原告Cに生じた費用は、これを2分し、その1を原告Cの負担とし、その余を被告の負担とする。 被告に生じた費用は、これを24分し、その11を被告の負担とし、その 5を原告Aの負担とし、その4を原告Bの負担とし、その余を原告Cの負担とする。 4 この判決は、第1項ないしに限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、2481万9970円及びこれに対する平成27年1 2月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、2734万9500円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、2734万9500円及 員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、2734万9500円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、2734万9500円及びこれに対する平成27年12月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、平成19年5月8日に死亡したDの相続人である原告らが、Dの勤務先であった被告に対し、被告の安全配慮義務違反によりDが自殺したと主張して、債務不履行に基づき、上記第1記載の各損害金元金及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成27年12月1日から支払済みまで民法所定の年5%の 割合(平成29年法律第44号による改正前のもの)による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば容易に認められる事実)原告ら及びDについて ア Dは、昭和▲年▲月▲日生まれの男性である(甲1)。 イ原告A(昭和▲年▲月生まれ)は、Dの妻であり、原告B(平成▲年▲月生まれ)及び原告C(平成▲年▲月生まれ)は、いずれもDの子である(甲1)。 Dの勤務経歴等 ア Dは、被告が経営する地方公営企業である新潟市水道局(以下、単に「水道局」という。)の職員であった。水道局におけるDの勤務経歴は、大要、以下のとおりであった(甲15の3、弁論の全趣旨)。 平成2年4月水道局に技手として採用され、工務課に勤務する。 平成5年4月技師となる。 平成6年4月維持管理課に異動する。 平成10年4月浄水課に異動する。 平成16年4月維持管理課維持計画係(以下、単に「維持計画係」という。)に異動する。 平成17年4月副 成6年4月維持管理課に異動する。 平成10年4月浄水課に異動する。 平成16年4月維持管理課維持計画係(以下、単に「維持計画係」という。)に異動する。 平成17年4月副主査に昇任する。 平成19年4月主査に昇任する。水道局の組織改編に伴って管路課 (以下、単に「管路課」という。)給配水係(以下、単に「給配水係」という。)所属となる。 イ Dの被告における平成18年中の給与収入は、合計647万9499円であり、平成18年4月から平成19年3月までの給与収入は、合計659万4969円であった(甲11)。 ウ平成18年4月から平成19年4月までのDの時間外勤務時間は、最も多い月で24時間であり、月平均7時間程度であった。平成19年3月の時間外勤務時間は16時間30分であり、同年4月の時間外勤務時間は13時間30分であった(甲15の3)。 Dの上司、同僚等 ア E係長は、平成17年4月、係長として(当時Dの所属していた)維持計画係に着任した(証人E、弁論の全趣旨)。 E係長は、平成17年4月以降、Dの死亡時まで、継続してDの直属の上司であった(争いのない事実)。 イ F主査は、平成18年4月、他の部署から(当時D及びE係長の所属して いた)維持計画係に異動した(甲15の2、甲15の3、甲25)。 平成18年度、維持計画係の職員は、E係長(副主幹)のほか、Gを含む副主幹2名、F主査を含む主査2名、D(副主査)、H技師及び派遣職員2名の合計9名であった(甲15の2、甲15の3、甲25)。 ウ新潟市が市町村合併を経て平成19年4月に政令指定都市となったこと に伴い、水道局において、平成19年4月、組織改編が行われた(争いのな い事実) 5の2、甲15の3、甲25)。 ウ新潟市が市町村合併を経て平成19年4月に政令指定都市となったこと に伴い、水道局において、平成19年4月、組織改編が行われた(争いのな い事実)。 平成19年4月、水道局の組織改編に伴って給配水係が新設され、E係長は給配水係の係長となり、F主査、D(副主査から主査に昇任)及びH技師も同様に給配水係の所属となった(甲25、甲61、証人E、弁論の全趣旨)。 また、平成19年4月、I主査が、給水装置課から給配水係に異動した(証 人I、弁論の全趣旨)。 平成19年4月以降、給配水係の職員は、E係長(副主幹)のほか、I主査、F主査、D(主査)及びH技師の5名となった。当時の各人の勤続年数は、E係長28年、I主査22年、F主査18年、D(主査)17年、H技師2年であった(甲15の3、弁論の全趣旨)。 単価表等の改定業務についてア水道局においては、給水装置の修繕工事等の価格や工事時の事故の賠償額の算定について、内部での算定基準として単価表等を設け、定期的に改定を行っていた。平成18年度以前、水道局における単価表等の改定業務は、主として、現場作業を行う部署(工事事務所等)が担当していた。しかし、水 道局において平成19年4月に組織改編が行われたことに伴い、単価表等の改定業務は、同月以降、全て給配水係が担当することとなった(争いのない事実)。 イ平成18年度、水道局の「給水装置修繕工事単価表」(以下「修繕単価表」という。)及び「配水管等事故賠償金算定表」(以下「事故算定表」と いう。)の改定業務の担当部署は、いずれもa工事事務所であり、a工事事務所に所属するJ副主査が修繕単価表の改定業務の主担当を、K主査が事故算定表の改定業務の主担当をそれぞれ務めていた。 」と いう。)の改定業務の担当部署は、いずれもa工事事務所であり、a工事事務所に所属するJ副主査が修繕単価表の改定業務の主担当を、K主査が事故算定表の改定業務の主担当をそれぞれ務めていた。また、K主査は、修繕単価表の改定業務にも補助的に関与していた。しかし、平成19年4月の組織改編に伴って、a工事事務所はなくなり、J副主査はb営業所に、 K主査はc事業所にそれぞれ異動し、修繕単価表及び事故算定表の改定業 務の担当部署は、給配水係に変更された。なお、K主査の異動先であるc事業所は、新潟市c区内の(Dが所属する給配水係と同じ)建物内にあったが、J副主査の異動先であるb営業所は、新潟市b区内にあった(甲61、乙11、乙31、乙32、弁論の全趣旨)。 E係長は、平成19年3月頃、F主査、D(主査)及びH技師に対し、 単価表等の改定業務を担当することを命じた。Dは、単価表等のうち、修繕単価表及び事故算定表の改定業務の主担当を命じられ(争いのない事実)、F主査は、少なくとも、給水鉛管更新工事給水管敷設工事単価表(以下「鉛管単価表」という。)の改定業務の主担当を命じられた(甲31、乙74の1、乙74の2、証人E)。 一方、Dは、それまで単価表等の改定業務に従事した経験はなく、当時、修繕単価表及び事故算定表の改定業務に関する事務処理要領等(マニュアル類)も存在しなかった(争いのない事実)。 平成19年頃、水道局においては、修繕単価表の電子データがエクセルファイルで管理されていた(争いのない事実)。 ウ平成19年4月当時、b営業所に所属していたJ副主査並びに給配水係に所属していたE係長及びI主査は、いずれも、修繕単価表の改定業務を主担当として単独で行うことが可能であり、Dが当該業務を行う際にこれ 平成19年4月当時、b営業所に所属していたJ副主査並びに給配水係に所属していたE係長及びI主査は、いずれも、修繕単価表の改定業務を主担当として単独で行うことが可能であり、Dが当該業務を行う際にこれを指導することも可能であった(争いのない事実)。 一方、その当時、給配水係に所属していたF主査及びH技師は、修繕単価 表の改定業務を主担当として単独で行うことも、Dが当該業務を行う際にこれを指導することもできなかった(甲25、弁論の全趣旨)。 管路課が管理する地理情報システム給配水係を含む管路課は、平成19年度当時、水道局の地理情報システムであるGISを管理していた。GISは、プライバシー情報を含んでおり、水道 局は、水道工事の施工業者に対し、GISを利用するための専用のパスワード を発行していた(争いのない事実)。 議事録作成業務水道局において、平成19年4月25日、「維持管理業務担当者会議」(以下「本件4月25日会議」という。)が開かれた。E係長は、Dに対し、本件4月25日会議の議事録の作成を命じた(争いのない事実)。 Dの自殺及び公務災害認定等ア Dは、平成19年5月の連休(5月6日まで)明けの同月7日当日、その日に有給休暇を取得する旨を職場に連絡し、翌日である同月8日午前8時頃、職場への出勤の途中で新潟市c区所在のdタワーに赴いてそこから飛び降り、その衝撃により、同日午前8時57分頃、死亡した(甲15の3、原告 A、弁論の全趣旨)。 イ原告Aは、Dの自殺の原因が水道局の上司のパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)であるとして、平成19年10月10日、公務災害認定申請を行った。しかし、地方公務員災害補償基金新潟市支部(以下「基金支部」という。)は、平成21年1月19日、Dの ント(以下「パワハラ」という。)であるとして、平成19年10月10日、公務災害認定申請を行った。しかし、地方公務員災害補償基金新潟市支部(以下「基金支部」という。)は、平成21年1月19日、Dの自殺が公務外の災害である旨の認 定(甲14)をした(争いのない事実)。 原告Aは、基金支部の認定を不服として、地方公務員災害補償基金新潟市支部審査会(以下「審査会」という。)に審査請求を行ったところ、審査会は、平成23年11月7日、基金支部の認定を覆し、Dの自殺が公務上の災害である旨の裁決(甲4)をした(争いのない事実)。 ウ基金支部は、原告Aに対し、Dの死亡が公務上の災害に当たることを前提に、以下の金員を支払った(甲13、甲68の1~甲68の13、乙61)。 a 葬祭補償 84万9900円(平成23年12月5日)b 遺族補償年金合計4698万9213円(令和4年5月まで) 全国市町村職員共済組合連合会は、原告Aに対し、Dの死亡が公務上の 災害に当たることを前提に、遺族共済年金として、合計1138万3220円(令和4年5月まで)を支払った(甲56、甲69)。 原告らと被告とのやり取り等ア原告らの代理人弁護士は、被告に対し、平成24年1月24日頃及び同年3月15日頃、Dの自殺に関する損害賠償を請求する趣旨の書面を送付した (甲7、甲8、弁論の全趣旨)。 イ被告の代理人弁護士は、平成24年8月20日頃、原告らに対し、損害賠償請求について円満に話合いで解決したいこと、原告らが審査会に提出した理由書やDの同僚職員の陳述書などの資料を被告に提供してほしいこと、これらの資料を被告における内部調査に使用することを承諾してほしいこと などを記載した書面を送付した(甲9、弁論 会に提出した理由書やDの同僚職員の陳述書などの資料を被告に提供してほしいこと、これらの資料を被告における内部調査に使用することを承諾してほしいこと などを記載した書面を送付した(甲9、弁論の全趣旨)。 これに対し、原告らは、平成24年9月3日頃、被告に提出する資料の利用目的を損害賠償請求に関する検討に限定することや、被告が陳述書の作成者に不利益な取扱いをしないことを条件として、被告から提出を求められた資料の一部を被告に提出した(甲10、弁論の全趣旨)。 しかし、その後、被告は、Dの自殺に関して、関係する職員から聴き取りを行うなどの内部調査を行った上、原告らに対し、損害賠償請求には応じられない旨、回答した(弁論の全趣旨)。 ウ原告らは、平成27年9月14日、本件訴訟を提起し、その訴状は同年11月30日に被告に送達された(顕著な事実)。 2 争点及びこれに関する当事者の主張被告の安全配慮義務違反の有無、Dの死亡との因果関係及び過失相殺について(争点)ア原告らの主張被告は、Dに対し、以下のような安全配慮義務を負っていたにもかかわ らず、これらを怠った。 a 平成19年4月当時の水道局では、新潟市の政令指定都市化に伴う水道局の組織改編というかつてない事態下にあって、単価表等の改定業務の担当部署が給配水係に変更されるなど、従前担当していない業務を新たに担当することとなった部署が複数生じていた。被告は、これらの状況を踏まえて、当該業務の前担当者及び新担当者を現場に周知し、当該 業務の十分な引継ぎを行う時間を確保できるよう引継ぎの行程表を作成して現場に周知し、当該業務の十分な引継ぎを行うために必要な人員を確保すべき注意義務があった。しかし、被告は、水道局の組織改編に伴って 務の十分な引継ぎを行う時間を確保できるよう引継ぎの行程表を作成して現場に周知し、当該業務の十分な引継ぎを行うために必要な人員を確保すべき注意義務があった。しかし、被告は、水道局の組織改編に伴ってDが所属することとなった給配水係の人員の確保や、給配水係が新たに担当した(Dが担当を命じられた)修繕単価表及び事故算定表の 改定業務に関する前担当者の周知、行程表の作成等に関して、上記の各注意義務をいずれも怠った。 bE係長は、上司の命を受けて係の事務をつかさどり、係の職員を指揮監督する係長として、Dを含めた係の職員の精神的負担が蓄積しないよう係の職員の心身の変調に留意し、変調があれば必要な対応を採 るべき立場にあり、被告のDに対する安全配慮義務の履行補助者であった。 ⒝ E係長がDに対して担当するよう命じた修繕単価表及び事故算定表の改定業務は、難易度が高く、ボリュームの多い業務であった。修繕単価表のデータは、ルックアップ関数が多用されたエクセルファイ ルでできており、その改定作業には、エクセルの高度な技能が必要であった。一方で、Dには、それ以前には単価表等の改定業務に関わった経験がなく、修繕単価表の改定業務を行うために必要となる設計・積算業務の経験もなく、修繕単価表の改定業務を行うために必要となる現場作業の経験についても作業に参加したことがある程度であり、 エクセルの高度な技能もなかった。したがって、当時のDは、修繕単 価表の改定業務について前担当者から短期間の引継ぎを受けただけで修繕単価表の改定業務を実施することができる状態ではなく、引継ぎを受けた後も、業務について分からない点を分かる職員に質問しながら業務を進める必要があった。 また、E係長は、Dに対し、修繕単価表の改定業務につき、金額の することができる状態ではなく、引継ぎを受けた後も、業務について分からない点を分かる職員に質問しながら業務を進める必要があった。 また、E係長は、Dに対し、修繕単価表の改定業務につき、金額の 入替えに用いる新たな単価が判明する平成19年5月の連休明けまでの間に、工種の追加や変更など、新たな単価が判明しなくともできる作業を行っておくよう指示していた。加えて、E係長は、Dに対し、修繕単価表のエクセルファイルの書式を、鉛管単価表のエクセルファイルの書式と同じものに変更するよう指示していた。しかし、実際の Dによる作業は、同年4月の段階では全く進んでおらず、E係長もそのことを認識していた。 なお、Dは、修繕単価表の改定業務の前担当者がJ副主査であることを知らされておらず、前担当者がK主査であると思い込んでおり、K主査に対して修繕単価表の改定業務に関する質問をしに行ったも のの、K主査からは何も回答してもらえなかった。 したがって、E係長には、Dに担当させた修繕単価表及び事故算定表の改定業務を(修繕単価表の改定業務を単独で行うことが可能であり、Dを指導することも可能であった)E係長やI主査を含めたチームで担当する体制としたり、当該業務の主担当をE係長又はI主査と しDにその補助をさせて1年間以上の研修期間を設ける体制としたり、当該業務に関しE係長又はI主査がDを指導する機会を設けたり、Dが当該業務に関してE係長又はI主査に質問できる環境を構築したりすべき注意義務があった。しかし、E係長は、これらの注意義務をいずれも怠った。 ⒞ E係長は、Dに対し、①Dが平成18年12月19日から同月21 日まで有給休暇を取得して家族旅行に出掛けたことをその後に不当に叱責し、②平成19年1月頃以降、Dを、長時間に ⒞ E係長は、Dに対し、①Dが平成18年12月19日から同月21 日まで有給休暇を取得して家族旅行に出掛けたことをその後に不当に叱責し、②平成19年1月頃以降、Dを、長時間にわたって厳しく叱ったり、無視したりし、③同年4月に行われた単価表等の改定業務の打合せの際、Dを「あなたはどうせできていないんだろう」「これおかしいですよね」などと不当に叱責し、④本件4月25日会議の議事 録を作成したDに対し、馬鹿にした態度で、些細な点を指摘して何度も議事録の書き直しを命じ、⑤Dが業者に対してGISのパスワードの「I」と「1」を誤って通知したミスについて、他の職員の前で「どういうチェックをしたんだ」などとDを罵倒して叱責し、⑥Dの座席の近くで連日にわたってDに対する説教を行った。 E係長によるこれらの行為は、パワハラやいじめに当たり、安全配慮義務に違反する。 被告の安全配慮義務違反により、Dは、E係長によるパワハラやいじめに苦しめられ、平成19年3月頃には鬱病エピソードを発症し、その後も、複雑困難な修繕単価表及び事故算定表の改定業務を実施するための知識・ 経験・能力がないにもかかわらず、周囲から十分なフォローを受けられず、工種の追加や変更などの作業の締切りである同年5月の連休明けを前に精神的に極限まで追い詰められ、同月8日に自ら命を絶った。Dの死亡と被告の安全配慮義務違反との間には相当因果関係があり、また、Dには、その死亡について過失相殺されるべき事情はない。 イ被告の主張被告には、Dに対する安全配慮義務違反はない。 Dが担当した修繕単価表及び事故算定表の改定業務は、Dのそれまでの経歴や、Dに対してされた引継ぎを踏まえれば、特に困難なものではなかったし、上司や同僚によるDのフォロー体制 全配慮義務違反はない。 Dが担当した修繕単価表及び事故算定表の改定業務は、Dのそれまでの経歴や、Dに対してされた引継ぎを踏まえれば、特に困難なものではなかったし、上司や同僚によるDのフォロー体制も整っていた。また、E係長のDに 対するパワハラやいじめも存在しなかった。 Dが担当することとなった修繕単価表の改定業務は、複雑困難なものではなかった。修繕単価表の改定業務を行うに当たっては、現場での作業経験と設計・積算業務の経験がその助けとなるが、Dには、修繕単価表の中身を理解するために重要な現場での作業経験があったし、管路(敷設された水道管等をいう。以下同じ)ではなく浄水場に関する経験ではあるもの の、設計・積算業務の経験もあった。修繕単価表の改定業務に必要となるエクセルの技能は、水道局の技術職員であれば誰でも持っている程度のものであった。平成19年度については修繕単価表の改定点自体も多くなかったし、既にJ副主査が終えていた業務もあった。 Dが担当した修繕単価表及び事故算定表の改定業務の業務量の負担は 過重ではなかった。また、Dが死亡した時期は、いまだ修繕単価表の改定業務を完成させなければならない時期ではなく、改定業務には時間的余裕があった。なお、E係長は、Dに対し、修繕単価表のエクセルファイルの書式を、鉛管単価表のエクセルファイルの書式と同じものに変更するよう指示していない。 水道局における業務の引継ぎは、前担当者と新担当者が一度顔を合わせて行い、その後は、新担当者が引き継いだ資料やデータを実際に見て前担当者に質問をしに行くという形態が一般的であった。 修繕単価表及び事故算定表の改定業務の引継ぎは、平成19年3月、J副主査が勤務していたa工事事務所の事務室において、J副主査、K主査 て前担当者に質問をしに行くという形態が一般的であった。 修繕単価表及び事故算定表の改定業務の引継ぎは、平成19年3月、J副主査が勤務していたa工事事務所の事務室において、J副主査、K主査 及びDが、二、三時間から半日程度顔を合わせて、改定業務の概要や改定点について資料を見ながら行われた。Dは、その後も、質問があればK主査に対して行っており、引継ぎについて特に問題はなかった。 また、給配水係には、修繕単価表の改定業務を単独で行うことが可能であり、Dを指導することも可能であったE係長やI主査がおり、I主査は、 Dに対し、もし分からないことがあれば聞いてくれと何度か伝えていた。 したがって、Dに対するフォロー体制も整っていた。 なお、E係長は、平成19年4月上旬又は中旬、Dに対し、Dが修繕単価表及び事故算定表の中身の確認を行っていることを確認している。 E係長は、Dに対しパワハラやいじめを行っていない。むしろ、E係長は、Dの上司として行っていた人事評価において、評価項目のうち「仕事 の成果」につき「優れている」を意味する「A」の評価をしていた。 Dは、職場の健康診断において精神的・肉体的な問題を指摘されたことはなく、時間外勤務についてもほとんどしておらず、平成19年5月2日に開催された職場の飲み会においても特に変わった様子はなかった。Dが、業務の負担が過重であることや、E係長との関係に悩んでいることを、被 告や労働組合に相談したことはなかった。 Dの家族である原告らも、Dの状態について、知人、医師、市の「こころの相談」等に相談したことはなかった。 したがって、被告が、Dが精神的に大きな問題を抱えていることを知る機会はなかった。 仮に被告に安全配慮義務違反があったとしても、Dの死亡との間 ころの相談」等に相談したことはなかった。 したがって、被告が、Dが精神的に大きな問題を抱えていることを知る機会はなかった。 仮に被告に安全配慮義務違反があったとしても、Dの死亡との間に相当因果関係があることは否認する。 また、Dは、職場においては、特に変調の様子を示すことはなかったものであるし、17年間も水道局の業務に従事していた中堅職員であるから、自殺以外の解決方法を採り得たはずである。したがって、過失相殺の割合 は少なくとも5割を下回らない。 原告らの損害及び損益相殺(争点)ア原告らの主張原告らの損害額は、以下のとおりである。 慰謝料 2800万円 逸失利益 6989万8000円 Dの年収659万4969円(平成18年4月から平成19年3月まで)×0.7(生活費控除率30%)×15.141(38歳から67歳まで29年間のライプニッツ係数)=6989万8000円(千円未満切捨て) 葬儀費用 150万円 からまでの合計額 9939万8000円 各原告の損害額(元金)a 原告Aの2分の1-(平成27年8月までに支払われた)遺族補償年金2622万9130円-葬祭補償84万9900円+弁護士費用220万円=2481万9970円 b 原告Bの4分の1+弁護士費用250万円=2734万9500円c 原告C の4分の1+弁護士費用250万円=2734万9500円イ被告の主張 損害額については争う。 Dが一家の支柱であったかどうかは不知である。 Dの逸失利益の算定に用いる基礎収入は、平成18年のDの年収である647万9499円によるべきであり、計算期間は60歳までの22年間とす 。 Dが一家の支柱であったかどうかは不知である。 Dの逸失利益の算定に用いる基礎収入は、平成18年のDの年収である647万9499円によるべきであり、計算期間は60歳までの22年間とすべきである(仮に67歳までとする場合には、再任用の場合に大幅に 給与が減額されることを考慮すべきである。)。 逸失利益は、647万9499円×0.7(生活費控除率30%)×13.163(38歳から60歳まで22年間のライプニッツ係数)=5970万2000円(千円未満切捨て)とすべきである。 葬儀費用については証拠がないため不明である。 遺族補償年金、葬祭補償及び遺族共済年金の既払額について損益相殺が されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実及び各項掲記の証拠等によれば、以下の各事実が認められる。 ⑴ 単価表等の改定業務について ア修繕単価表とは、水道局が民間の水道工事施工業者に対して発注する給水装置の修繕工事について、修繕工事の種類ごとに、標準的かつ適正な単価を定めた表であり、水道局が民間業者との間で工事費用に関する契約を締結したり、これに基づいて工事費用を精算したりする際に使用されるものである。 修繕単価表は、原則として年1回改定されている。改定の目的は、既存の工 種の労務費や材料費の単価を新年度の「水道事業実務必携」や「県積算基準及び設計単価表」等に記載された単価と入れ替えるほか、必要に応じて、新たな工種を追加したり、既存の工種の計算内容を変更したりするためである。 平成19年度の改定においても、新たな工種の追加が予定されていた(乙16、証人J、弁論の全趣旨)。 平成19年頃における修繕単価表の改定業務の例年の流れとしては、①担当者において、4月末 平成19年度の改定においても、新たな工種の追加が予定されていた(乙16、証人J、弁論の全趣旨)。 平成19年頃における修繕単価表の改定業務の例年の流れとしては、①担当者において、4月末頃までに、新たな工種を追加したり、既存の工種の計算内容を変更したりする業務を終了させ、新年度の労務費や材料費の単価が判明すれば入力できるような状態にし、②5月の連休明け頃、新年度の労務費や材料費の単価が明らかになったら、担当者において、これらの単価を既 存の単価と入れ替える作業を行い、③その後、入力内容のチェックや係内での分担による検算を行い、係長による最終的な内容のチェック及び決裁と、課長による決裁を経て、同月末頃までに修繕単価表の内容を確定させることが一般的であり、その後、他部署への説明等を経て、7月初めから新年度の修繕単価表が適用されていた(甲61、乙16、乙27の34~乙27の3 7、証人J、弁論の全趣旨)。 修繕単価表の改定業務は、作業自体の分量や使用するエクセルデータのシート数が比較的多く、エクセルデータのシート間の関係も比較的複雑であることに加えて、新たな工種を追加したり既存の工種の計算内容を変更したりする場合にはどのような作業や材料がどの程度の分量につき必要となるかなどを考えて行う必要があるため、水道局内では、おおむね、当該業務を初 めて担当する職員にとって比較的難しい部類の業務であると認識されていた。特に、現場における管路の修繕業務の経験がない職員にとっては困難な面があり、また、現場での作業経験よりも重要性はやや劣るものの、管路の設計・積算業務の経験もあれば有用であった(乙11、乙16、乙27の6、乙27の9、乙27の34~乙27の37、証人J、証人K、弁論の全趣旨)。 また、5月の連 要性はやや劣るものの、管路の設計・積算業務の経験もあれば有用であった(乙11、乙16、乙27の6、乙27の9、乙27の34~乙27の37、証人J、証人K、弁論の全趣旨)。 また、5月の連休明けから同月末頃までに行うべき業務については、作業量に比して時間的な制約が厳しく、係の職員が総出で、時間外勤務をしつつ業務に従事することもあった(乙11、乙27の15、乙27の34~乙27の37)。 K主査は、平成18年度、a工事事務所において修繕単価表の改定業務に 関与していたが、その内容は、J副主査が作成した修繕単価表の数字や計算を確認する程度の補助的なものであった。K主査には、平成19年4月当時、修繕単価表の改定業務を主担当として行った経験はなく、新たな工種の追加を含めた修繕単価表の改定業務を主担当として単独で十分に行うことや、これらの業務に関してDを十分に指導することはできなかった(甲61、証人 J、証人K、弁論の全趣旨)。 イ事故算定表とは、水道局において、管路(水道管とその周辺設備)での作業中に発生した事故による賠償額の算定に用いる表であり、原則として年1回改定されている。事故算定表の改定業務は、作業の分量自体は修繕単価表の改定作業と比較してさほど多くなく、業務内容も基本的に既存の算定表の 金額を新年度の金額と入れ替える作業が中心であるため、修繕単価表の改定 作業と比較して業務の難易度は低く、平成19年度の改定業務においても、事故算定表の項目自体の改定は予定されていなかった(乙11、乙27の6、乙27の9、乙27の34、乙27の36、乙33、証人K、弁論の全趣旨)。 なお、F主査が平成19年度に担当した鉛管単価表の改定業務についても、基本的に既存の単価表の金額を新年度の金額と入れ替える作業が中心 9、乙27の34、乙27の36、乙33、証人K、弁論の全趣旨)。 なお、F主査が平成19年度に担当した鉛管単価表の改定業務についても、基本的に既存の単価表の金額を新年度の金額と入れ替える作業が中心であ り、修繕単価表の改定作業と比較して業務の難易度は低かった。また、そもそも鉛管単価表の改定業務は、平成18年度以前から既に維持計画係が担当していた業務であった(甲31、乙27の14、乙27の15)。 ウ水道局において、過去に単価表等の改定業務に従事した経験のない者が新たに単価表等の改定業務に従事する場合には、まず、前担当者と新担当者が 顔を合わせて数時間ないし半日程度の引継ぎを行い、その後は、新担当者において前担当者から受領したエクセルファイルのデータを実際に操作して業務を行ってみて、分からない点があればその都度、基本的には前担当者に対し、場合によっては当該業務の経験がある他の職員に対し、疑問点を質問し、次第に業務に慣れていくという形態が一般的であった(証人J、証人E、 弁論の全趣旨)。 エ J副主査は、a工事事務所に所属していた平成19年3月頃、同じa工事事務所に所属しており、給配水係がある建物と同じ建物内の部署に異動する予定であったK主査に対し、修繕単価表の改定業務の引継ぎを行った。K主査は、その後、Dに対し、数時間ないし半日程度、修繕単価表の改定業務に 関する引継ぎを行い、また、エクセルデータの入ったMOディスクを含む資料をDに引き渡した。引継ぎを受けた当時のDは、修繕単価表の改定業務の前担当者が、J副主査ではなくK主査であると認識していた(乙31、乙32、証人J)。 オ修繕単価表の改定業務のうち担当者が4月末頃までに行うべき業務(新た な工種の追加業務等)については、適切な時期に終わらせること くK主査であると認識していた(乙31、乙32、証人J)。 オ修繕単価表の改定業務のうち担当者が4月末頃までに行うべき業務(新た な工種の追加業務等)については、適切な時期に終わらせることができるよ う、担当者によっては、3月以前から当該業務に着手する場合もあった。平成19年度においては、4月に当該業務の担当部署が変更となることから、新担当者であるDが、なるべく早い時期に当該業務に関する引継ぎを受けて当該業務に着手する必要があった。前担当者であるJ副主査も、既に引継ぎ前の時点で当該業務に少しずつ着手していたが、引継ぎ時点においても、新 たな工種の追加業務は完了していなかった(乙27の12、乙27の13、乙27の15、証人J、弁論の全趣旨)。 ⑵ E係長の性格等についてE係長には、同僚や部下に対し、仕事上、厳しい対応や頑なな対応を行う傾向があり、時折、強い口調で発言することもあった。そのようなE係長の影響 もあって、少なくとも平成18年度の維持計画係及び平成19年度の給配水係では、職員の誰かが他の職員に対して業務に関する質問をするような雰囲気が余りなく、係内での会話が少なくて係内での挨拶も余りされず、緊張感のある雰囲気があった。定時になると係の職員はおおむね早めに退庁し、E係長が一人だけで残業をしていることが多く、係外の職員の中には、余り係の雰囲気が 良くない、係に元気がないなどと感じていた者も少なくなかった(甲15の3、乙11、乙14、乙27の3、乙27の4、乙27の6、乙27の7、乙27の9、乙27の11、乙27の13~乙27の17、乙27の23、乙27の28、乙27の29、乙27の31、証人I、弁論の全趣旨)。 ⑶ Dの性格等について 水道局の職員から見たDの性格は、おおむね、 7の11、乙27の13~乙27の17、乙27の23、乙27の28、乙27の29、乙27の31、証人I、弁論の全趣旨)。 ⑶ Dの性格等について 水道局の職員から見たDの性格は、おおむね、真面目、温厚、物静か、おとなしいなどというものであった(甲15の3、乙28)。また、Dは、悩みがあっても、他者に相談することは余りしなかった(乙27の14、乙27の28、乙27の38)。 Dは、E係長から注意や叱責を受けて萎縮することが多く、特に、平成18 年以降は、E係長と接することが苦痛であり、E係長の自分に対する態度が「い じめ」であると感じ、E係長と接することをなるべく避けようとしていた(甲5、甲15の3、甲15の5、甲37、乙27の14、乙27の16、乙27の28)。 ⑷ Dによる修繕単価表の改定業務の状況についてDには、平成19年4月初めの時点で、少なくとも管路の修繕業務の経験は あった(証人J、証人I、証人E)が、修繕単価表の改定業務を、その主担当として、分からない点を前担当者や当該業務の経験がある他の職員に質問したりすることなく単独で行うことができるだけの能力や経験はなかった(甲5、甲15の5、甲37、乙27の6、乙27の14、乙31、証人K、原告A、弁論の全趣旨)。 Dは、平成19年4月以降、修繕単価表の改定業務の処理方法について、給配水係内の他の職員又は前担当者であるJ副主査に対し、直接質問をしたり、指導を仰いだりすることはなかった(証人I、証人J、弁論の全趣旨)。 一方、Dは、平成19年4月中に10回程度、修繕単価表の改定業務の処理方法に関して、K主査に対して質問をした。K主査は、これに対してK主査な りに対応したが、Dの業務に対する理解は、新たな工種の追加を単独で十分に行 月中に10回程度、修繕単価表の改定業務の処理方法に関して、K主査に対して質問をした。K主査は、これに対してK主査な りに対応したが、Dの業務に対する理解は、新たな工種の追加を単独で十分に行える程度にまで深まることはなかった。Dは、当時、4月末頃までに終わらせるべき新たな工種の追加等の業務を(業務に対する理解が十分でないために)終わらせることができない状態であり、そのことに悩んでおり、5月の連休明け頃(新年度の単価を既存の単価と入れ替える作業を行わなければならない時 期)になってもその前段階の業務が完了していないことについてE係長から叱責されることなどを恐れていた(甲5、甲15の5、甲37、乙27の6、乙27の14、乙31、証人K、原告A、弁論の全趣旨)。 ⑸ Dの遺書ア Dは、自殺する前に、携帯電話機の中に、携帯電話機のメモ機能を用いて 以下の文章のデータを残していた(甲5、原告A)。 「Aへ・・あとの事はたのむ・・ごめんね・・何にも力になれなくて・・」「あの人とはもうやっていけない。1年目はまあ優しかったが、2年目からはすごく変わり自分の事しか信じない。3年目は、いわゆるいじめ。 たとえば答えがあるのに教えないで考えさせ、あげくに説教されても、わたしには、どうしていいかわからないけど、あの人の態度は変わる事なく 日を増すごとに悪化してこれ以上耐えられません。これだけは、実際になった人しか分からないと思うけど、馬鹿は死ななけゃ直らない」「生きていく自信がない・・無理してもいつかはどこかでしわよせがくる・・わがままを許してくれ」「中途半端な気持ちじゃない事は分かって下さい。真剣です。」 イ Dは、自殺する前に、自宅のパソコンの中に、以下の文章のデータを残していた(甲3 わよせがくる・・わがままを許してくれ」「中途半端な気持ちじゃない事は分かって下さい。真剣です。」 イ Dは、自殺する前に、自宅のパソコンの中に、以下の文章のデータを残していた(甲37、原告A)。 「どんなにがんばろうと思っていてもいじめが続く以上生きていけない。 わかないのは少なくとも分かっている筈なのにいじめ続ける人を育てる気持ちがあるわけでもないし、自分が面白くないと部下に当たるような気が する。このままではどうしていいかわからないし、相談しろとたてまえ的には言うけれど回答がもらえるわけだもない。逆に怒られることが多い。いままで我慢してたのは、家族がいたからであるが、でも限界です。」Dの死後の状況等ア E係長は、Dの告別式の当日、給配水係の係員全員(I主査、F主査及び H技師)を別室に呼び、その場で「(自分が)Dに対して強く当たった」又は「(自分が)Dに対して強く当たったかもしれない」という趣旨の発言をした。もっとも、発言全体の趣旨は、Dの自殺に関してE係長自身に責任はないというニュアンスのものであった(乙27の12、乙27の14、乙27の15、証人E、弁論の全趣旨)。 イ Dの死亡後まもなく、F主査は、E係長の自分に対する態度が変わって「い じめ」になったと感じ、E係長と接することが苦痛となり、E係長の直接の上司であるL管路課長に対して他の部署への異動を強く願い出て、給配水係以外の部署に異動した。L課長は、F主査から上記の訴えを聴いて間もなく、E係長を別室へ呼び出し、部下への接し方に問題があるとしてE係長を厳しく叱責した。E係長は、これにショックを受け、その後、1週間ほど休暇を 取った(甲15の3、甲25、乙27の8、証人E)。 ウ E係長は、平成19年5月中旬以降に に問題があるとしてE係長を厳しく叱責した。E係長は、これにショックを受け、その後、1週間ほど休暇を 取った(甲15の3、甲25、乙27の8、証人E)。 ウ E係長は、平成19年5月中旬以降に上記休暇を終えて職場に復帰したが、その時点で、Dが主担当であった平成19年度の修繕単価表の改定業務は、Dによる作成途中のデータも見つかっていない状態であった。もっとも、給配水係としては、同年度の修繕単価表の改定業務を同年5月末頃までに完成 させる必要があったため、E係長は、自分が中心となってこの業務を行い、I主査もこれを残業しながら補佐し、期限である同月末までに形になるような状態とした。E係長は、それ以前に鉛管単価表の改定業務に従事した経験はあったものの、修繕単価表の改定業務自体には従事したことがなかったところ、この時、E係長は、新年度の修繕単価表のエクセルファイルを、鉛管 単価表のエクセルファイルの書式で作成した(乙27の12、証人E、証人I)。 もっとも、E係長らが作成した新年度の修繕単価表は、J副主査が給配水係への引継ぎ前に予定していた新たな工種の追加等の改定内容(J副主査が引継ぎ前に改定を終えていた箇所を含む)に関して、反映されていない点が 多く見られるものであり、J副主査は、平成19年7月以降、これらの点が新年度の修繕単価表に反映されていない理由について、水道局内の他部署から何度も問合せを受けた(甲62、証人J)。 2 判断 争点 (安全配慮義務違反、因果関係及び過失相殺)について ア原告らは、①被告が、Dが担当した業務の前担当者及び新担当者を現場に 周知し、十分な引継ぎを行う時間を確保できるよう引継ぎの行程表を作成して現場に周知し、十分な引継ぎを行うために必要な人員を確保すべき注意義 Dが担当した業務の前担当者及び新担当者を現場に 周知し、十分な引継ぎを行う時間を確保できるよう引継ぎの行程表を作成して現場に周知し、十分な引継ぎを行うために必要な人員を確保すべき注意義務を尽くさず、また、②被告の履行補助者としてのE係長が、Dの担当業務をE係長やI主査を含めたチームで担当する体制としたり、当該業務の主担当をE係長又はI主査としDにその補助をさせて1年間以上の研修期間を 設ける体制としたり、当該業務に関しE係長又はI主査がDを指導する機会を設けたり、Dが当該業務に関してE係長又はI主査に質問できる環境を構築したりすべき注意義務を尽くさなかったと主張している(その他に、パワハラやいじめに関する主張もあるが、これらについては後に触れることとする。)。 イこの点、前記前提事実、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、① 平成19年4月初めの時点で、Dには(Dのように初めて当該業務に従事する職員にとって比較的難しい業務であった)修繕単価表の改定業務を、分からない点を前担当者や当該業務の経験がある他の職員に質問することなく主担当として単独で行うことができるような能力や経験はなく、当 時のDは、分からない点をその都度前担当者又は当該業務の経験がある他の職員に質問しながら当該業務に慣れていく必要がある状態であったこと、② 平成19年4月当時の給配水係の職員のうちE係長及びI主査には、修繕単価表の改定業務に関してDを指導する能力があったものの、E係長に は、同僚や(Dを含めた)部下に対し、仕事上、厳しい対応や頑なな対応を行う傾向や、時折、強い口調で発言する傾向があり、E係長自身も、自分がDに対し「強く当たっている」ことを自覚しており、これらの影響もあって、当時の給配水係内における会話は少なく い対応や頑なな対応を行う傾向や、時折、強い口調で発言する傾向があり、E係長自身も、自分がDに対し「強く当たっている」ことを自覚しており、これらの影響もあって、当時の給配水係内における会話は少なく、挨拶も余りなく、職員の誰かが他の職員に対して業務に関する質問をするような雰囲気もなか ったこと、 ③ Dは、真面目かつ温厚であり、物静かでおとなしく、自身の悩みを他者に余り相談しない性格であり、E係長から注意や叱責を受けて萎縮することが多く、E係長の自分に対する態度を「いじめ」であると感じて苦痛を感じ、E係長との接触をなるべく避けようとしていたこと、④ Dは、平成19年4月中に10回程度、修繕単価表の改定業務の引継ぎ を直接受けた相手であり、Dが当該業務の前担当者であると認識していたK主査に対し、当該業務に関して質問をしたが、K主査には、修繕単価表の改定業務に関してDを十分に指導できる能力はなく、Dの業務に対する理解は、新たな工種の追加を十分に行える程度にまで深まることはなかったこと、 ⑤ 平成19年当時の修繕単価表の改定業務のスケジュールとしては、係内での作業を5月末頃までに終える必要があり、中でも、同月の連休明け頃から同月末頃までの間に行う単価の入替え作業は作業量に比して最も時間的な制約がタイトであったため、主担当者であるDが4月中に新たな工種の追加等の業務を終わらせることができない場合、その後のスケジュー ルに悪影響が及ぶ可能性があったこと、⑥ Dは、平成19年4月末時点においても(業務に対する理解が十分でないために)修繕単価表の改定業務における新たな工種の追加等の業務を終了させることができておらず、5月の連休明けにE係長から叱責されることなどを恐れて精神的に追い詰められ、そのことが主た 解が十分でないために)修繕単価表の改定業務における新たな工種の追加等の業務を終了させることができておらず、5月の連休明けにE係長から叱責されることなどを恐れて精神的に追い詰められ、そのことが主たる要因で自殺を決 意したことがそれぞれ認められる(なお、E係長が、Dに対し、修繕単価表のエクセルファイルの書式を鉛管単価表のエクセルファイルの書式と同じものに変更する業務まで指示していたと認めるに足りる証拠はない。)。 ウ一方において、死亡当時のDは、水道局における勤続18年目の中堅職員 であり、主査という(自治体においては一般的に係長クラスの)肩書を付与 されていたのであるから、上記のような業務上の困難に直面した場合であっても、前担当者がJ副主査であったことを他部署への問合せ等によって確認した上でJ副主査に対して業務の処理方法について質問したり、E係長及びI主査に対して(E係長から叱責される可能性を覚悟の上で)4月末までに行うべき業務を終了させる見込みがないことを率直に告げて助力を求めた り、E係長の上司であるL課長に対して直接、給配水係内のコミュニケーションの問題により担当業務に関して十分な助力を得られない状況を相談したりすることも、客観的に見れば、可能であったと考えられる。 他方において、当時の水道局内は、大部分が基本的に水道局以外の新潟市の部署への異動が予定されていない職員ばかりで、水道局内の人間関係が定 年で退職するまで継続するような状況にあって、このような環境に応じた組織結束の文化もあった(証人M)ところ、そのような中において、物静かでおとなしく、自身の悩みを他者に余り相談しないDが、上記のような積極的な対応を採ること、特に、給配水係内のコミュニケーション上の問題についてE係長を飛び越えて ところ、そのような中において、物静かでおとなしく、自身の悩みを他者に余り相談しないDが、上記のような積極的な対応を採ること、特に、給配水係内のコミュニケーション上の問題についてE係長を飛び越えて直接その上司であるL課長に相談することは、その性 格上難しい部分があり、そのため、Dは、一人で悩みを抱え込むことになったのではないかと考えられる。 エこれらの状況(日頃の執務等を通じ、E係長においてこれらの状況は認識していたか、少なくとも認識し得たはずである。)に照らせば、平成19年4月当時、E係長には、自分自身のDを含む他の職員に対する接し方が係内の 雰囲気に及ぼす悪影響や、Dとの人間関係の悪化による悪影響によって、Dが係内で発言しにくくなり、他の係職員に対し業務に関する質問をしにくくなっている給配水係内のコミュニケーション上の問題を踏まえて、初めて担当するDにとって比較的難しい業務であった修繕単価表の改定業務に関し、①Dによる業務の進捗状況を積極的に確認し、進捗が思わしくない部分につ いてはE係長又はI主査が必要な指導を行う機会を設けるか、又は、②E係 長において部下への接し方を改善して給配水係内のコミュニケーションを活性化させ、DがE係長又はI主査に対して積極的に質問しやすい環境を構築すべき注意義務があったというべきである。 そして、E係長はこれらの措置を何ら実施していなかったものと認めることができるから(E係長は、Dの自殺後まもなく、L課長から部下への接し 方に問題があるとして厳しく叱責された〔前記認定事実⑹イ〕にもかかわらず、本件訴訟の証人尋問において、Dが遺書で言及した人物〔同参照〕について自分のことだと思わない、至らないことがあったとは思っていないなどと証言しているところであって、このよう ⑹イ〕にもかかわらず、本件訴訟の証人尋問において、Dが遺書で言及した人物〔同参照〕について自分のことだと思わない、至らないことがあったとは思っていないなどと証言しているところであって、このようなE係長が上記のような措置を適切な形で採っていたものと認めることはできない。)、本件では、上記の注 意義務に違反した過失があったものというべきであり(なお、上記ア記載の原告ら主張の注意義務違反のうち、その余の注意義務違反については、認めるに足りる証拠がない。)、これによりDがその遺書(前記認定事実⑸)に記載されたような心境に陥って自殺するに至ったものと認めるのが相当である。 もっとも、Dにおいても、先に述べたとおり、自殺するに至る過程において、水道局の中堅職員として自らの苦境を解消するために可能であると考えられる対応を十分に採らなかったものと認めることができるから、その点に関して過失相殺を免れることはできないところ、その割合は、本件における一切の事情を考慮して、5割と評価することが相当である。 オなお、原告らは、E係長が、Dに対し、①有給休暇を取得して家族旅行に出掛けたことをその後に不当に叱責した、②長時間にわたって厳しく叱ったり、無視したりした、③平成19年4月に行われた単価表等の改定業務の打合せの際、「あなたはどうせできていないんだろう」「これおかしいですよね」などと不当に叱責した、④本件4月25日会議の議事録を作成したDに対し、 馬鹿にした態度で、些細な点を指摘して何度も議事録の書き直しを命じた、 ⑤Dが業者に対してGISのパスワードの「I」と「1」を誤って通知したミスについて、他の職員の前で「どういうチェックをしたんだ」などとDを罵倒して叱責した、⑥Dの座席の近くで連日にわたってD ⑤Dが業者に対してGISのパスワードの「I」と「1」を誤って通知したミスについて、他の職員の前で「どういうチェックをしたんだ」などとDを罵倒して叱責した、⑥Dの座席の近くで連日にわたってDに対する説教を行ったなどと主張し、これらがパワハラやいじめに当たり、不法行為を構成すると主張する。 しかし、これらの点に関して、E係長がDに対する不法行為に及んだとする原告らの主張の主たる根拠は、公務災害の認定手続において審査会に提出されたF主査作成の陳述書(甲25、甲31)であり、その他に、これに比肩する有力な証拠は存在しない。そして、F主査の陳述書の内容が、その後の被告による聴き取り調査の際に比較的大きく変遷しており(乙27の1 4)、この変遷についてF主査が被告から事実上の圧力を感じた可能性の有無を考慮する必要があるとしても、さらに、F主査が、本件訴訟において証人として呼び出された際にも十分な理由を示すことなく出頭しなかったこと(弁論の全趣旨)などの経過からすれば、審査会に提出されたF主査の陳述書の記載内容を本件訴訟において直ちに採用することは困難であるとい わざるを得ず、他に、本件において、原告らが主張するパワハラやいじめに関する上記各事実に関して、不法行為を構成するほどの違法性を有するE係長の行為を認めるに足りる証拠はない。 カ以上のとおり、本件においては、平成19年4月当時、E係長に、①Dによる業務の進捗状況を積極的に確認し、進捗が思わしくない部分については E係長又はI主査が必要な指導を行う機会を設けるか、又は、②部下への接し方を改善して給配水係内のコミュニケーションを活性化させ、DがE係長又はI主査に対して積極的に質問しやすい環境を構築すべき注意義務を怠った過失(以下「本件過失」という。)があり 又は、②部下への接し方を改善して給配水係内のコミュニケーションを活性化させ、DがE係長又はI主査に対して積極的に質問しやすい環境を構築すべき注意義務を怠った過失(以下「本件過失」という。)があり、本件過失とDの自殺との間には相当因果関係があったものと認められる一方、Dの対応状況等を考慮し、 5割の過失相殺を行うことを相当と認める。 争点 (原告らの損害及び損益相殺)についてア慰謝料Dは、本件過失と相当因果関係のある自殺によって死亡したところ、これに基づくDの慰謝料としては、当時のDが妻及び2人の子を養うべき一家の支柱であったこと(前記前提事実⑴、弁論の全趣旨)などを含めた本件にお ける一切の事情を考慮し、2800万円(原告らの主張どおりの金額)と認めることが相当である。 イ逸失利益Dの逸失利益としては、平成18年4月から平成19年3月までのDの収入合計659万4969円に0.7(生活費控除率30%)を乗じ、さらに、 死亡時である38歳から67歳まで29年間のライプニッツ係数である15.141を乗じた金額である6989万8000円(原告らの主張どおりの金額(千円未満切捨て))と認めることが相当である(仮に、Dが定年まで水道局に勤務していたとすれば、60歳以降に給与が減額される可能性は高かったと考えられるが、一方で、定年までの間にDの給与額が更に上昇して いた可能性もあるのであるから、これらの両方を考慮すれば、原告らの主張どおりの上記計算方法を採用することは相当である。)。 ウ葬儀費用Dの葬儀に200人以上の関係者が参列したこと(甲46)など、本件における一切の事情を考慮すれば、Dの葬儀費用として、150万円(原告ら の主張どおりの金額)の範囲で相当因果関係のある損害が発 Dの葬儀に200人以上の関係者が参列したこと(甲46)など、本件における一切の事情を考慮すれば、Dの葬儀費用として、150万円(原告ら の主張どおりの金額)の範囲で相当因果関係のある損害が発生したものと認められる。 エ過失相殺上記アからウまでの合計額9939万8000円につき、5割の過失相殺をすると、残額は4969万9000円となる(慰謝料1400万円、逸失 利益3494万9000円及び葬儀費用75万円の合計額)。 オ各原告の損害額元金(損益相殺を含む) 原告A原告Aは、上記エの2分の1である2484万9500円(慰謝料700万円、逸失利益1747万4500円及び葬儀費用37万5000円の合計額)を相続により取得している。 他方で、原告Aは、前記前提事実のとおり、葬祭補償として84万9900円の支払を、遺族補償年金及び遺族共済年金として合計5837万2433円の支払をそれぞれ受けている。これらは、それぞれ葬儀費用及び逸失利益との関係において損益相殺の対象となり、元金充当されるべきところ、その金額は、原告Aが相続した葬儀費用及び逸失利益の元金額をい ずれも上回っている。 そうすると、原告Aの残存する損害額(元金)としては、700万円(慰謝料相当額)及びこれに対する弁護士費用として相当な損害額70万円の合計770万円と認めることが相当である。 原告B及び原告C 原告B及び原告Cの損害額(元金)は、それぞれ、上記エの4分の1である1242万4750円及びこれに対する弁護士費用として相当な損害額124万円の合計1366万4750円と認めることが相当である。 3 結論以上のとおり、被告は、債務不履行責任に基づき、原告Aに対し770万円及 びこれに対する 護士費用として相当な損害額124万円の合計1366万4750円と認めることが相当である。 3 結論以上のとおり、被告は、債務不履行責任に基づき、原告Aに対し770万円及 びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年12月1日から、原告B及び原告Cに対し各1366万4750円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成27年12月1日から、それぞれ支払済みまで年5%の割合による遅延損害金を支払う義務があるものと認められるが、その余の原告らの請求については、いずれも理由がない。 よって、上記の限度で原告らの請求を一部認容することとして、主文のとおり 判決する。 新潟地方裁判所第二民事部 裁判長裁判官島村典男 裁判官髙倉文彦 裁判官佐藤克郎
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