平成24(ワ)1046 B型肝炎損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年6月2日 広島地方裁判所 棄却
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判決文本文44,130 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 被告は,原告番号482に対し,1300万円及びこれに対する平成24年7月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告番号641に対し,1300万円及びこれに対する平成24年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,B型慢性肝炎の患者である原告らが,乳幼児期に被告が実施した集団予防接種又は集団ツベルクリン反応検査(以下「集団予防接種等」という。)を受けた際,注射器(針又は筒)の連続使用によってB型肝炎ウイルス(he-patitisBvirus。以下「HBV」という。)に感染し,その後, 成人になって慢性肝炎を発症し,一旦は鎮静化した後に,更に慢性肝炎を再発したとして,従前の慢性肝炎の発症による損害とは区別される別個の損害が発生したなどの主張をして,当該再発後に発生した損害の包括一律請求として,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,損害金各1300万円(弁護士費用相当額50万円を含む。)及びこれに対する不法行為後の日であ る訴状送達日の翌日(原告番号482につき平成24年7月21日,原告番号641につき同年10月23日)から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる。) ⑴ B型肝炎に関する一般的な医学的知見 遅延損害金の各支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる。) ⑴ B型肝炎に関する一般的な医学的知見ア B型肝炎とは,HBVに感染することによって発症する肝細胞障害である。もっとも,HBV自身には細胞傷害性がないか,あっても軽度であると考えられており,HBVの感染による肝細胞障害は,主として,HBV感染細胞を排除しようとする宿主の免疫応答によって引き起こされるもの であると考えられている。(乙482の30・本文1頁)イ HBVは,人の血液又は体液を介して感染するため,その主な感染経路は,HBV感染者である母親からの母子感染(垂直感染と呼ばれる。),又は,予防接種等による水平感染であると考えられている(乙482の1・2枚目)。 ウ乳幼児期にHBVに感染した場合,乳幼児はHBVに対する宿主の免疫応答が未発達であるため,免疫応答がないまま,HBVが排除されることなく,HBV持続感染者になると考えられている(乙482の30・本文1,2頁)。 エ HBVに感染すると,HBs抗原,HBe抗原と呼ばれる抗原が生成・ 放出され,これに対する反応として,宿主において,各抗原にそれぞれ対応するHBs抗体,HBe抗体と呼ばれる抗体が形成されるため,それらの各抗原及び各抗体をウイルスマーカーとして測定することによって,HBVの感染状態を診断することができるとされている。 各ウイルスマーカーが陽性である場合の臨床上の意味は以下のとおりで ある。(甲B482の4・5枚目,482の16) HBs抗原が陽性 HBVに現在感染していることを意味する。 HBs抗体が陽性 HBVの感染既往であることを意味する。 ある。(甲B482の4・5枚目,482の16) HBs抗原が陽性 HBVに現在感染していることを意味する。 HBs抗体が陽性 HBVの感染既往であることを意味する。 HBe抗原が陽性 HBVの活動性が高いことを意味する。 HBe抗体が陽性 HBVの活動性が低いか,又は,HBe抗原非 産生変異株が増殖していることを意味する。 オエに加えて,現在では,測定技術の進歩によって,血中のHBV‐DNA量が,臨床上,ウイルスマーカーとして広く用いられている。HBVは,宿主に感染すると,RNAからDNAへの逆転写の過程を経て,複製され,増殖するため,血中のHBV‐DNA量は,宿主に感染しているHBV量自体を直接に反映するウイルスマーカーである。(甲B482の16) HBV-DNA量の臨床上の意味について,日本肝臓学会・肝炎診療ガイドライン作成委員会が平成29年8月付けで作成した「B型肝炎治療ガイドライン(第3版)」(以下「本件ガイドライン」という。)によれば,明らかなコンセンサスまでは存在しないものの,HBV-DNA量が「2000IU/mL」未満である場合には,原則として,慢性肝炎としての治 療対象にはならないものとされている。(乙482の30・本文12頁)カ HBV持続感染者は,臨床上,肝機能が正常である「無症候性キャリア」と,肝機能に異常が認められる「症候性キャリア」とに大別されるほか(甲B482の42,乙482の3),一旦「症候性キャリア」となった後に肝炎が沈静化した感染者は,「非活動性キャリア」と呼ばれ,「無症候性キャ リア」と区別される(乙482の30・本文2頁)。 キ肝機能の正常・異常を診断する指標の一つとして,臨床上,血中の血清 が沈静化した感染者は,「非活動性キャリア」と呼ばれ,「無症候性キャ リア」と区別される(乙482の30・本文2頁)。 キ肝機能の正常・異常を診断する指標の一つとして,臨床上,血中の血清ALT濃度(ALT値。従前は「GPT値」と呼称されていたこともあったが,同義である。)が用いられている。ALTは,肝細胞内に含まれ,肝細胞が破壊されることによって血中に放出される物質であるため,その血 中濃度によって,肝臓の炎症の程度,すなわち肝炎の活動性を判断することができる。(乙482の20・2,3,6頁)そして,ALT値がいくつ以上の場合に肝機能に異常があると診断するかについては,本件ガイドラインによれば,明らかなコンセンサスまでは存在しないものの,「慢性肝炎におけるALT値正常値を30U/L以下と 定義し,31U/L以上は異常として治療対象とする。」とされている(乙 482の30・本文12頁)。 ク HBV持続感染者で肝機能に異常が認められる「症候性キャリア」の病態には,慢性肝炎及び肝硬変が含まれる(乙482の3・1枚目)。 このうち,慢性肝炎とは,わが国において慢性肝炎の組織学的診断基準として広く用いられている「新犬山分類」によれば,「6か月以上の肝機能 検査値の異常とウイルス感染が持続している病態」をいうものとされる。 慢性肝炎のうち,HBVの持続感染によって発症するものが,B型慢性肝炎である。 そして,肝硬変は,慢性肝炎が進展した病態であるとされている。すなわち,慢性肝炎とは,肝臓に持続的な炎症が起き,それによって肝細胞の 破壊が繰り返されている状態であるが,肝細胞が破壊されると,肝細胞が再生される過程で,破壊された場所に,いわば「かさぶた」の役割を果たす繊維が発生するところ,肝臓の炎症が れによって肝細胞の 破壊が繰り返されている状態であるが,肝細胞が破壊されると,肝細胞が再生される過程で,破壊された場所に,いわば「かさぶた」の役割を果たす繊維が発生するところ,肝臓の炎症が持続する場合には,繊維が次々と発生し,その吸収が間に合わずに,最終的には,線維によって肝細胞の構造が変化する線維化が進展し,肝硬変に至る。肝硬変に至ると,肝細胞と 周辺の脈管との間,肝細胞同士の間での物質交換が妨げられ,その結果として,肝機能が低下するとされている。(乙482の3・2枚目,20・5,6頁,29・4枚目)この点,「新犬山分類」によれば,肝炎の組織所見(病理組織学的所見)は,線維化の程度(staging)を軽い順からF0からF4までの5 段階に分類し,肝炎の活動性(grading)を軽い順からA0からA3までの4段階に分類することによって診断することとされているところ,線維化の程度が最も重い分類であるF4(結節形成傾向が全体に認められる場合)は,肝硬変と診断することとされている。すなわち,慢性肝炎と肝硬変は,線維化の進展度合いによって区別される。(甲B482の80, 乙482の3・2枚目,19・3枚目,39・2頁) ケ慢性肝炎,肝硬変が進展すると,肝がんを発症するとされており,HBV-DNA量が高値であることが,肝がんの発症に係る危険因子であるとされている(乙482の4・7枚目)。 コ慢性肝炎がどの程度重い病態に進展するかを決定付ける要因については,現在までに完全には解明されていないものの,一般には,①ウイルス要因 (ウイルスの量,活動性,ゲノタイプ(遺伝子型)等),②宿主要因(免疫応答の強さ等),③環境要因(飲酒・喫煙歴等)が関連している可能性があると考えられている(乙482の20・6頁, イルス要因 (ウイルスの量,活動性,ゲノタイプ(遺伝子型)等),②宿主要因(免疫応答の強さ等),③環境要因(飲酒・喫煙歴等)が関連している可能性があると考えられている(乙482の20・6頁,23・1頁)。 サ現在,HBV持続感染者の治療については,主として,①インターフェロン製剤(INF)及び②核酸アナログ製剤の2種類の抗ウイルス薬剤を 投与することが,抗ウイルス治療として有効であると考えられているが(乙482の30・本文5,6頁),これらの治療法によっても,HBV持続感染者のHBVを完全に排除することは困難であると考えられている(乙482の1・2枚目,4・16枚目)。そこで,本件ガイドラインでは,HBV持続感染者に対する抗ウイルス治療の目標は,「肝炎の活動性と肝線維化 進展の抑制による慢性肝不全の回避並びに肝細胞がん発生の抑止,及びそれらによる生命予後並びにQOLの改善」であるとされている。(乙482の30・本文3頁)シ HBV持続感染者に対する抗ウイルス治療の目標について,少なくとも昭和56年(1981年)頃には,当時の医学的知見として,HBV持続 感染者において,HBe抗原が陰性となり,HBe抗体が陽性となる状態(以下「HBe抗原セロコンバージョン」という。)が生じた後は,もはやHBVが複製されることはなく,肝機能も正常化すると考えられていたため(甲B482の25の1,2・いずれも2頁,甲B482の27・6枚目),HBe抗原セロコンバージョンが,臨床上の最終的な治療の目標とさ れ,HBe抗原セロコンバージョンが生じてALT値が正常化することが, 臨床上の治癒であると考えられてきた(乙482の2)。 しかし,現在では,HBV持続感染者において,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後 ンバージョンが生じてALT値が正常化することが, 臨床上の治癒であると考えられてきた(乙482の2)。 しかし,現在では,HBV持続感染者において,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後も,B型慢性肝炎が再燃(被告の主張)又は再発(原告らの主張)(以下「再燃(再発)」という。)する症例があることが知られている(甲B482の28,乙482の2,38・6枚目)(以下,便宜上, HBe抗原セロコンバージョン後に再燃(再発)したB型慢性肝炎を「HBe抗原陰性慢性肝炎」といい,HBe抗原セロコンバージョンを生じていない状態のB型慢性肝炎を「HBe抗原陽性慢性肝炎」という。)。 そのため,本件ガイドラインでは,HBV持続感染者に対する抗ウイルス治療の「長期目標」は,「HBe抗原陰性化」ではなく,「HBs抗原消 失」とされている。もっとも,現在においても,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後に,肝機能等が正常化し,「非活動性キャリア」となったHBV持続感染者については,長期予後が良好であると考えられているため,本件ガイドラインにおいても,「HBs抗原消失」に至るまでの「短期目標」としては,「HBe抗原陰性化」が挙げられている。(乙482の3 0・本文3頁)なお,平成3年(1991年)頃までには,複数の医学文献(甲B482の28から30まで)において,HBV持続感染者において,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後も,B型慢性肝炎が再燃(再発)する症例があることが報告・指摘されていたことから,遅くともこの頃までには, HBe抗原陰性慢性肝炎に至る症例があることは,一般的な医学的知見になっていたと考えられる。 ス HBV持続感染者の自然経過(病態推移)については,そもそも,HBV持続感染者は,「症候性キャリ HBe抗原陰性慢性肝炎に至る症例があることは,一般的な医学的知見になっていたと考えられる。 ス HBV持続感染者の自然経過(病態推移)については,そもそも,HBV持続感染者は,「症候性キャリア」として肝障害を発症して医療機関等を受診するまで,自身がHBVに感染していること自体に気が付かないこと が多いことなどから,その自然経過(病態推移)を正確に描写することは 困難であるものの(乙482の31・2頁),例えば,本件ガイドラインでは,HBV持続感染者の自然経過(病態推移)について,以下のとおり説明されている(乙482の30・本文1,2頁)。 免疫寛容期(immunetolerancephase)乳幼児期はHBVに対する宿主の免疫応答が未発達のため,HBVに 感染すると持続感染に至る。その後も免疫寛容の状態,すなわちHBe抗原陽性かつHBV-DNAの増殖が活発であるが,ALT値は正常で肝炎の活動性がほとんどない状態が続く(無症候性キャリア)。感染力は強い。多くの例では乳幼児期における感染後,免疫寛容期が長期間持続するが,その期間は数年から20年以上まで様々である。 免疫応答期(immuneclearancephase)成人に達するとHBVに対する免疫応答が活発となり,免疫応答期に入って活動性肝炎となる。HBe抗原の消失・HBe抗体の出現(HBe抗原セロコンバージョン)に伴ってHBV-DNAの増殖が抑制されると肝炎は鎮静化する。しかし,肝炎が持続してHBe抗原陽性の状態 が長期間続くと肝病変が進展する(HBe抗原陽性肝炎)。 低増殖期(lowreplicativephase又はin-activephase)HBe抗原セロコンバージョンが起こると多くの 続くと肝病変が進展する(HBe抗原陽性肝炎)。 低増殖期(lowreplicativephase又はin-activephase)HBe抗原セロコンバージョンが起こると多くの場合肝炎は鎮静化し,HBV-DNA量は2000IU/mL以下の低値となる(非活動性キ ャリア)。しかし10~20%の症例では,HBe抗原セロコンバージョン後,HBe抗原陰性の状態でHBVが再増殖し,肝炎が再燃する(HBe抗原陰性慢性肝炎)。また4~20%の症例では,HBe抗体消失並びにHBe抗原の再出現(リバースセロコンバージョン)を認める。 寛解期(remissionphase) HBe抗原セロコンバージョンを経て,一部の症例ではHBs抗原が 消失しHBs抗体が出現する。寛解期では,血液検査所見,肝組織所見ともに改善する。HBV持続感染者での自然経過におけるHBs抗原消失率は約1%と考えられている。 このように,HBV持続感染者はその自然経過においてHBe抗原陽性の無症候性キャリアから,HBe抗原陽性あるいは陰性の慢性肝炎を 経て,肝硬変へと進展しうる。肝硬変まで病変が進行すれば年率5~8%で肝細胞がんが発生する。一方,自然経過でHBe抗原セロコンバージョンが起こった後にHBV-DNA量が減少し,ALT値が持続的に正常化したHBe抗原陰性の非活動性キャリアでは,病期の進行や発がんのリスクは低く,長期予後は良好である。 セ HBe抗原陰性慢性肝炎の発症には,HBVの変異株であるHBe抗原非産生株が関与していると考えられている。すなわち,HBe抗原セロコンバージョンは,HBVのプレコア(precore)領域及びコアプロモーター(corepromoter)領域の遺伝子変異によって,HBe が関与していると考えられている。すなわち,HBe抗原セロコンバージョンは,HBVのプレコア(precore)領域及びコアプロモーター(corepromoter)領域の遺伝子変異によって,HBe抗原の産生が停止又は抑制されることによって生じると考えられているが, これらの遺伝子変異は,HBVの増殖自体を停止又は抑制させるものではないため,HBe抗原セロコンバージョンが生じたとしても,HBVの増殖が持続すれば,再び肝炎が活性化することがあると考えられている。もっとも,現在まで,遺伝子変異が遺伝子の増殖力に与える影響については,医学的に解明され確立されてはいない。(甲B482の57,58,60, 乙482の8・3枚目,14・3,4枚目,20・14枚目,23・2頁,38・6枚目)⑵ 原告番号482の診療経過等ア原告番号482は,昭和●●年(●●●●年)●●月生まれの男性である(甲A482の1)。なお,原告番号482の母親は,B型肝炎ウイルス の持続感染者ではない(甲A482の8)。 イ原告番号482は,遅くとも満7歳になる昭和●●年頃までに,集団予防接種等を受けた(甲A482の4,5)。 ウ原告番号482は,昭和55年(当時●●歳)頃,献血をした際,HBe抗原が陽性である旨の通知を受け,初めて,自身がHBVに感染していることを認識したため,広島大学病院を外来受診したが,このときは,治 療には至らなかった(甲A482の25,原告番号482本人・1頁)。 エ原告番号482は,昭和59年9月26日(当時●●歳),再度,広島大学病院を外来受診し,血液検査を受けたところ,ALT値(GPT値)が,231U/Lの高値を示し,その後もALT値(GPT値)が,最高194・最低44の高値を 年9月26日(当時●●歳),再度,広島大学病院を外来受診し,血液検査を受けたところ,ALT値(GPT値)が,231U/Lの高値を示し,その後もALT値(GPT値)が,最高194・最低44の高値を継続的に示したため(甲A482の13・39枚目, 24・3枚目),同年10月29日から,インターフェロン製剤の投与による抗ウイルス治療を受けた(甲A482の13・34枚目)。 オ原告番号482は,昭和60年10月16日(当時●●歳),広島大学病院に入院し,同月19日,肝臓の腹腔鏡下肝生検を受けたところ,慢性肝炎である旨の診断を受け,再度,インターフェロン製剤の投与による抗ウ イルス治療を受けた(甲A482の13・45枚目,甲A482の25)。 カしかし,原告番号482は,インターフェロン製剤の投与中,原因不明の薬疹(白血球数の減少)が発生したため,インターフェロン製剤の投与を中止し,昭和60年11月25日(当時●●歳),広島大学病院を退院した(甲A482の13・33枚目)。 キ原告番号482は,退院後も,広島大学病院を定期的に受診し続けていたが,昭和61年(当時●●歳)頃から,広島大学病院での担当医であったA医師がA消化器内科クリニックを開業したため,同クリニックを受診するようになった(甲A482の13・7枚目,甲A482の22・2頁,5頁)。 ク原告番号482は,昭和61年(当時●●歳)以降,定期的にA消化器 内科クリニックを受診し,継続的に血液検査等を受けた。平成4年以降の同クリニックの診療録等によれば,原告番号482のALT値(GPT値)は,遅くとも平成4年11月5日(当時●●歳)に実施された血液検査では,同クリニックが定める正常値(45U/L以下)を示し(甲A482の1 クの診療録等によれば,原告番号482のALT値(GPT値)は,遅くとも平成4年11月5日(当時●●歳)に実施された血液検査では,同クリニックが定める正常値(45U/L以下)を示し(甲A482の13・19枚目),そのときから,平成8年1月24日(当時●●歳)ま で継続的に実施された血液検査においても,ALT値(GPT値)は正常値(45U/L以下)を示し続けた(甲A482の14・19,20,30,31,38,40,43,52,56から62まで,67から69まで,71枚目)。 また,原告番号482は,平成6年(1994年)2月21日(当時● ●歳)に実施された血液検査で,初めて,HBe抗体が陽性であることが認められた(甲A482の14・43,62枚目)。 以上より,原告番号482については,遅くとも平成6年(当時●●歳)頃までには,HBe抗原セロコンバージョンが生じたものと考えられる。 なお,原告番号482は,平成元年(当時●●歳)頃,A医師から,H Be抗原セロコンバージョンが生じた旨の説明を受けたと証言するが(原告番号482本人・8頁),これを裏付ける検査結果等の客観的な証拠はない。 ケしかし,原告番号482のALT値(GPT値)は,平成8年4月11日(当時●●歳)に実施された血液液査において,再び,異常値(46U /L以上)である83U/Lを示し(甲A482の14・74,78枚目),それ以降に実施された血液検査においても,間欠的に,異常値(46U/L以上)を示すようになり,特に,平成12年4月3日の検査では185U/L(甲A482の14・106枚目),同月21日の検査では146U/L(甲A482の14・105枚目),同13年6月5日の検査では12 1U/L(甲A482の14・106枚目 査では185U/L(甲A482の14・106枚目),同月21日の検査では146U/L(甲A482の14・105枚目),同13年6月5日の検査では12 1U/L(甲A482の14・106枚目),同14年1月25日の検査で は128U/L(甲A482の14・119,147枚目),同年2月18日の検査では208U/L(甲A482の14・118枚目),同年3月5日の検査では149U/L(甲A482の14・116枚目)を示すなど,高値を示すこともあった。 コ原告番号482は,平成14年4月8日(当時●●歳),広島赤十字・原 爆病院に検査入院し,腹腔鏡下肝生検を受けたところ,「新犬山分類」による肝炎の組織所見(病理組織学的所見)として,①線維化の程度は,肝硬変と診断される「F4」を除くと4段階中2番目に重い「F2(線維性架橋形成)」と診断され,②肝炎の活動性の程度は,4段階中2番目に重い「A1」と診断された(甲A482の14・159,160,163枚目,甲 A482の15,原告番号482本人・16頁)。 サ原告番号482は,平成14年6月17日(当時●●歳),B医院を受診し,それ以降,現在まで,核酸アナログ製剤の投与による抗ウイルス治療を継続的に受けている。 原告番号482については,核酸アナログ製剤の投与による抗ウイルス 治療が奏功し,現在まで,ALT値(GPT値)は,おおむね正常値を維持し,HBV-DNA量も,低値を維持しており,肝硬変,肝がんへの進展には至っていない。もっとも,核酸アナログ製剤は,投与を終了するまでに長期間を要する薬剤であり,投与を中止することによって肝機能の悪化,肝炎の重症化等を起こすことがあるとされているため(甲B482の 81〔枝番を含む。〕),肝硬変,肝がんへの進 終了するまでに長期間を要する薬剤であり,投与を中止することによって肝機能の悪化,肝炎の重症化等を起こすことがあるとされているため(甲B482の 81〔枝番を含む。〕),肝硬変,肝がんへの進展を防ぐために,今後も継続的な投与が必要であるとされている(甲A482の10,21,原告番号482本人・27頁)。 ⑶ 原告番号641の診療経過等ア原告番号641は,昭和●●年(●●●●年)●月生まれの男性である (甲A641の1)。なお,原告番号641の母親は,B型肝炎ウイルスの 持続感染者ではない(甲A641の12)。 イ原告番号641は,遅くとも満7歳になる昭和●●年頃までに,集団予防接種等を受けた(甲A641の4)。 ウ原告番号641は,昭和57年(1982年)(当時●●歳)頃,献血をした際,HBs抗原が陽性である旨の通知を受け,初めて,自身がHBV に感染していることを認識したが,このときは,治療には至らなかった(甲A641の22・2枚目,原告番号641本人・2頁)。 エ原告番号641は,昭和60年2月2日(当時●●歳),広島赤十字・原爆病院を外来受診し,血液検査を受けたところ,ALT値(GPT値)が,220U/Lの高値を示しため,同月12日から同病院に入院し(甲A6 41の22・5,18枚目),腹腔鏡下肝生検を受けたところ,慢性肝炎である旨の診断を受けた(甲A641の9・1,2枚目)。原告番号641は,同病院において,同月19日から同月25日まで,インターフェロン製剤の投与による抗ウイルス治療を受け,同月27日に同病院を退院した(甲A641の9の1,2枚目)。 なお,原告番号641は,同病院に入院した際,血液検査を受けたところ,HBe抗原が陽性で による抗ウイルス治療を受け,同月27日に同病院を退院した(甲A641の9の1,2枚目)。 なお,原告番号641は,同病院に入院した際,血液検査を受けたところ,HBe抗原が陽性であることが認められた(甲A641の22・5,18枚目)。 オ原告番号641は,広島赤十字・原爆病院を退院した後も,経過観察として定期的に同病院を受診し,継続的に血液検査等を受けていた(原告番 号641本人・7頁)。その結果によれば,原告番号641のALT値(GPT値)は,遅くとも平成3年(1991年)11月16日(当時●●歳)に実施された血液検査では,同病院が定める正常値(32U/L以下)を示し(甲A641の21・91,118枚目),そのときから,平成8年1月8日(当時●●歳)まで継続的に実施された血液検査においても,AL T値(GPT値)は同病院が定める正常値(32U/L又は30U/L以 下)を示し続けた(甲A641の21・24,91,92,118枚目)。 また,原告番号641は,平成3年11月16日(当時●●歳)に実施された血液検査で,初めて,同病院が定める基準(HBe抗原は0・9未満で陰性,HBe抗体は70以上で陽性とされている(甲A641の21・15枚目)。)において,HBe抗原が陰性,かつ,HBe抗体が陽性であ ることが認められた(甲A641の21・91,118枚目)。 以上より,原告番号641については,平成3年11月16日(当時●●歳)頃,HBe抗原セロコンバージョンが生じたものと考えられる。 カ原告番号641は,HBe抗原セロコンバージョンが生じた頃から,医師の指示により,広島赤十字・原爆病院を受診する頻度を減らし,経過観 察として人間ドックを受けることで足りる状態にな カ原告番号641は,HBe抗原セロコンバージョンが生じた頃から,医師の指示により,広島赤十字・原爆病院を受診する頻度を減らし,経過観 察として人間ドックを受けることで足りる状態になった(原告番号641本人11から13頁)。 キしかし,原告番号641のALT値(GPT値)が,平成9年1月13日(当時●●歳)に実施された人間ドックの血液検査において,再び,異常値(30U/L以上)である97U/Lを示した(甲A641の23の 1・5枚目表面)ため,原告番号641は,再び,広島赤十字・原爆病院を受診し,それ以降,おおむね2日に1回の頻度で,強力ネオミノファーゲンシー(以下「強ミノ」という。)の投与による治療を継続的に受けることとなった(原告番号641本人・16頁から19頁まで)。なお,強ミノは,いわゆる肝庇護剤(肝臓の炎症等を鎮めるための薬剤)であり,抗ウ イルス治療のための薬剤ではない。 しかし,強ミノの投与等による治療を継続したにもかかわらず,原告番号641のALT値(GPT値)は,それ以降に実施された血液検査においても,間欠的に,異常値(37U/L又は30U/L以上)を示すようになり,特に,平成9年1月27日の検査では646U/L(甲A641 の8・25枚目,甲A641の21・93,118枚目),同年2月10日 の検査では417U/L(甲A641の8・25枚目,甲A641の21・93,118枚目),同月17日の検査では336U/L(甲A641の8・25枚目,甲A641の21・93枚目),同10年11月24日の検査では320U/L(甲A641の21・99,121枚目),同年12月8日の検査では324U/L(甲A641の21・100枚目),同13年2月 1日の検査では490U/L(甲 年11月24日の検査では320U/L(甲A641の21・99,121枚目),同年12月8日の検査では324U/L(甲A641の21・100枚目),同13年2月 1日の検査では490U/L(甲A641の11・2枚目,甲A641の21・143,157枚目)を示すなど,高値を示すこともあった。 ク原告番号641は,平成13年2月2日(当時●●歳)から同月4日まで,広島赤十字・原爆病院に検査入院し,腹腔鏡下肝生検を受けたところ,「新犬山分類」による肝炎の組織所見(病理組織学的所見)として,①線 維化の程度は,肝硬変と診断される「F4」を除くと4段階中2番目に重い「F2」と診断され,②肝炎の活動性の程度は,4段階中最も重い「A3」と診断された(甲A641の11)。 ケ原告番号641は,平成13年4月4日(当時●●歳)頃から,現在まで,核酸アナログ製剤(具体的な薬剤名は,当初はラミブジンであったが, 現在はベムリディである。)の投与による抗ウイルス治療を継続的に受けている(甲A641の11,原告番号641本人・27,28頁)。 原告番号641については,核酸アナログ製剤の投与による抗ウイルス治療が奏功し,現在まで,ALT値(GPT値)は,おおむね正常値を維持し,HBV-DNA量も,低値を維持しており,肝硬変,肝がんへの進 展には至っていない。もっとも,核酸アナログ製剤は,投与を終了するまでに長期間を要する薬剤であり,投与を中止することによって肝機能の悪化,肝炎の重症化等を起こすことがあるとされているため(甲B482の81〔枝番を含む。〕),肝硬変,肝がんへの進展を防ぐために,今後も継続的な投与が必要であるとされている。(甲A641の1,原告番号641本 人・29頁) ⑷ 集団予防接種等に 81〔枝番を含む。〕),肝硬変,肝がんへの進展を防ぐために,今後も継続的な投与が必要であるとされている。(甲A641の1,原告番号641本 人・29頁) ⑷ 集団予防接種等によるHBV感染に関する被告の責任被告は,予防接種法(昭和23年7月1日施行),結核予防法(昭和26年4月1日施行)等に基づき,集団予防接種等を実施してきた。 被告は,遅くとも昭和26年には,集団予防接種等の際,注射器(針又は筒)を連続使用すれば,被接種者間にB型肝炎ウイルスが感染するおそれが あることを予見できた。 したがって,被告は,原告らに対し集団予防接種等を実施するに当たっては,注射器(針及び筒)の被接種者1人ごとの交換又は徹底した消毒の励行等を各実施機関に指導してB型肝炎ウイルス感染を未然に防止すべき義務があった。ところが,被告は,原告らが集団予防接種等を受けた昭和●●年か ら同●●年頃までの間,実施機関に対して,注射器の交換又は徹底した消毒の励行を指導せず,注射器の連続使用の実態を放置し,上記義務を怠った過失がある。(最高裁平成16年(受)第672号,同年(受)第673号同18年6月16日第二小法廷判決・民集60巻5号1997頁(以下「平成18年最判」という。)参照) ⑸ B型肝炎患者の救済に関する被告の方針ア被告は,現在,特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下「特措法」という。)に基づき,昭和23年7月1日から同63年1月27日までの間に実施された集団予防接種等によってHBVに持続感染したと認められる者又はその相続人について,提訴があった場合 には,当該感染者が発症した病態を,順次,「無症候性キャリア」,「慢性肝炎」,「肝硬変」,「肝がん」に分類し よってHBVに持続感染したと認められる者又はその相続人について,提訴があった場合 には,当該感染者が発症した病態を,順次,「無症候性キャリア」,「慢性肝炎」,「肝硬変」,「肝がん」に分類し,各病態に応じた一律の和解金をもって和解することとしており,このうち,当該感染者が「慢性肝炎」を発症したと認められる場合には,1250万円の和解金(ただし,弁護士費用等の諸費用は除く。)で裁判上の和解をすることとしている(乙482の3 7・7頁)。 イただし,被告は,「慢性肝炎」を発症したと認められるHBV持続感染者であっても,「発症後提訴までに20年を経過したと認められる者」については,現に治療等を受けている者であれば300万円,それ以外の者は150万円の和解金(ただし,弁護士費用等の諸費用は除く。)をもって裁判上の和解をすることとしている(乙482の37・9頁)。 なお,被告は,「発症後提訴までに20年を経過したと認められる者」の意義,すなわち除斥期間の起算点の考え方について,多中心性発生による肝がん(過去に発症した肝がんの根治後における非がん部(治療後の残存肝)から発生した新しい肝細胞がん)の再発については,「例外」として,当該多中心性発生による肝がんを再発した時期とみなすこととしている (乙482の25・2頁)。 ウ被告との間で特定の病態を前提とする裁判上の和解をした者において,その後に別の病態に進展した場合には,特措法に基づく追加給付金の給付を受けることができるが(同法8条1項),当該追加給付金の金額は,進展後の病態を前提とする給付金から,従前の病態を前提として既に受領した 和解金を控除した金額となる(同法11条本文,2号)。 他方,「発症後提訴までに20年を経過したと認められ 金の金額は,進展後の病態を前提とする給付金から,従前の病態を前提として既に受領した 和解金を控除した金額となる(同法11条本文,2号)。 他方,「発症後提訴までに20年を経過したと認められる者」であることを前提として和解をした者において,別の病態に進展したことを理由として追加給付金の給付を受ける場合には,当該追加給付金から,従前の病態を前提として既に受領した和解金は控除されない(同法11条1号括弧書)。 ⑹ 本件訴訟の経緯等ア原告らは,それぞれ,集団予防接種等によってHBVに持続感染して「慢性肝炎」を発症したとして,国賠法1条1項に基づき,被告に対し,1300万円(弁護士費用50万円を含む。)の支払を求め,本件訴訟を提起した。 イ原告番号482(第1事件)の提訴日は平成24年6月27日であり, 原告番号641(第2事件)の提訴日は同年10月10日であった。 ウ被告は,原告らについて,いずれも「慢性肝炎」の発症が認められるものの,発症時期がいずれも訴訟提起から20年以上前であるとして,除斥期間の経過を前提とする和解金(約300万円)による和解案を提示したが,原告らは,これを拒否した。 ⑺ 本件と関連する最高裁判所の判例等後記のとおり,本件の主たる争点は,除斥期間の起算点であるところ,この点に関連する最高裁判所の判例は,以下のとおりである。 ア最高裁昭和40年(オ)第1232号同42年7月18日第三小法廷判決・民集21巻6号1559頁(以下「昭和42年最判」という。) 昭和42年最判は,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効について,被害者が不法行為に基づく損害の発生を知った以上,その損害と牽連一体をなす損害であって当時においてその発生を予見するこ 昭和42年最判は,不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効について,被害者が不法行為に基づく損害の発生を知った以上,その損害と牽連一体をなす損害であって当時においてその発生を予見することが可能であったものについては,全て被害者においてその認識があったものとして,民法724条所定の時効は前記損害の発生を知った時から進行を始めるも のと解すべきではあるが,不法行為によって受傷した被害者が,その受傷について,相当期間経過後に,受傷当時には医学的に通常予想し得なかった治療を必要とされ,右治療のため費用を支出することを余儀なくされるに至ったなどの事実関係の下においては,後日その治療を受けるまでは,右治療に要した費用について民法724条の消滅時効は進行しない旨を判 示した。 イ最高裁平成元年(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁(以下「平成6年最判」という。)平成6年最判は,雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺にかかったことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,じん肺法所定の管理区分に ついての最終の行政上の決定を受けた時から進行する旨を判示した上,そ の理由について,以下のとおり,判示した。(なお,じん肺法とは,じん肺に関し,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずること等を目的とし(同法1条),粉じんを吸入するおそれがある作業に従事し,又は,従事していた労働者等を,所定の健康診断の結果に基づいて管理1から4までに区分して,各区分に応じた健康管理に関する措置を行うこと等(同法 4条2項,20条の3,21条)を規定する法律である。)じん肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異 措置を行うこと等(同法 4条2項,20条の3,21条)を規定する法律である。)じん肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行するが,それは肺内の粉じんの量に対応する進行であるという特異な進行性の疾患であって,しかも,その病状が管理2又は管理3に相当する症状にとどまっているようにみえる者もあれば,最も重い管理4に相当する症状まで進行した者もあり,ま た,進行する場合であっても,じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けてからより重い決定を受けるまでに,数年しか経過しなかった者もあれば,20年以上経過した者もあるなど,その進行の有無,程度,速度も,患者によって多様であることが明らかである。そうすると,例えば,管理2,管理3,管理4と順次行政上の決定を受けた場合には,事後的に みると一個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの,このような過程の中の特定の時点の病状をとらえるならば,その病状が今後どの程度まで進行するのかはもとより,進行しているのか,固定しているのかすらも,現在の医学では確定することができないのであって,管理2の行政上の決定を受けた時点で,管理3又は管理4に相当す る病状に基づく各損害の賠償を求めることはもとより不可能である。以上のようなじん肺の病変の特質にかんがみると,管理2,管理3,管理4の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,したがって,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を 行使することが法律上可能となるものというべきであり,最初の軽い行政 上の決定を受けた時点で,その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみ 損害賠償請求権を 行使することが法律上可能となるものというべきであり,最初の軽い行政 上の決定を受けた時点で,その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは,じん肺という疾病の実態に反するものとして是認し得ない。 ウ最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁(以下「平成16年最判」という。) 平成16年最判は,じん肺にり患した炭鉱労働者が,被告による規制権限の不行使が国賠法1条1項の適用上違法であると主張して,損害賠償を求めた事案について,民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から 進行する旨を判示した上,その理由について,以下のとおり,判示した。 身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や,一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように,当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時 が除斥期間の起算点となると解すべきである。なぜなら,このような場合に損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることは,被害者にとって著しく酷であるし,また,加害者としても,自己の行為により生じ得る損害の性質からみて,相当の期間が経過した後に被害者が現れて,損害賠償の請求を受けることを予期すべきであると考えられるからである。 エ平成18年最判平成18年最判は,B型肝炎を発症したことによる損害賠償請求権の除斥期間の起算点について,平成16年最判等を引用した とを予期すべきであると考えられるからである。 エ平成18年最判平成18年最判は,B型肝炎を発症したことによる損害賠償請求権の除斥期間の起算点について,平成16年最判等を引用した上で,B型肝炎を発症したことによる損害は,その損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められるから,除斥期間の起算 点は,加害行為(集団予防接種等)の時ではなく,損害の発生(B型肝炎 の発症)の時というべきである旨を判示した。 3 争点及びこれに対する当事者の主張⑴ 被告の集団予防接種等と原告らのHBV感染の因果関係の有無(争点⑴)。 (原告らの主張)原告らは,いずれも,満7歳になるまでにHBVに感染した持続感染者で あるところ,原告らは,乳幼児期に集団予防接種等を受け,その際,注射器(針又は筒)が連続使用されていたこと,原告らの母親は持続感染者ではなく,原告らは乳幼児期に輸血を受けたなど,他の感染源も見当たらないことに照らせば,集団予防接種等における注射器等の連続使用によってHBVに感染した蓋然性があるというべきであり,集団予防接種等と原告らのHBV 感染との間には,因果関係がある。 (被告の主張)否認する。 ただし,原告らが集団予防接種等によりHBVに感染した可能性があるという限度では認める。 ⑵ 原告らの損害賠償請求権は除斥期間の経過によって消滅したか(除斥期間の起算点は,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時と解すべきか,又は,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべきか。)(争点⑵)。 (被告の主張)ア原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,最初のHBe抗原陽性 慢性肝炎の発症時と解すべきである。 Be抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべきか。)(争点⑵)。 (被告の主張)ア原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,最初のHBe抗原陽性 慢性肝炎の発症時と解すべきである。 この点,原告番号482は,遅くとも,初めて慢性肝炎である旨の診断を受けた昭和60年(1985年)10月19日までに,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎を発症したと認められるから,同日を除斥期間の起算点と解すべきである。 また,原告番号641は,昭和60年(1985年)2月19日までに, 初めて慢性肝炎である旨の診断を受けた上で,インターフェロン製剤による抗ウイルス治療を受け始めたことから,遅くとも同日までには最初のHBe抗原陽性慢性肝炎を発症したと認められるため,同日を除斥期間の起算点と解すべきである。 そして,原告番号482の提訴日は平成24年(2012年)6月27 日であり,原告番号641の提訴日は同年10月10日であるから,原告らの損害賠償請求権は,いずれも除斥期間の経過によって既に消滅したというべきである。 イ原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点を,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時と解すべき理由は,以下のとおりである。 民法724条後段所定の除斥期間の起算点については,「不法行為の時」と規定されているとおり,加害行為の時がその起算点となるのが原則である。 もっとも,平成16年最判によれば,不法行為によって発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生す るような例外的な場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時を除斥期間の起算点とすべきであるところ,HBV持続感染者におけるB型肝炎(慢性肝炎)の発症による損害は,HBV持続感染者の自然経過に照らして な例外的な場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時を除斥期間の起算点とすべきであるところ,HBV持続感染者におけるB型肝炎(慢性肝炎)の発症による損害は,HBV持続感染者の自然経過に照らして,加害行為である集団予防接種等が終了してから相当の期間が経過した後に発生するものであると認められるから,上記例外的な場合として,当 該損害の全部又は一部が発生した時を除斥期間の起算点とすべきである(平成18年最判参照)。 そうすると,本件では,再燃後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を含んだ損害が,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時において既に発生していたと評価することができるかが問題となる。 ウこの点について,昭和42年最判の趣旨に照らせば,加害行為そのもの が一回限りである場合には,加害行為が終了した後に一定期間を経てから損害が発生し,その損害が更に進行・拡大していくときであっても,損害発生の原因たる加害行為が一回限りで完了してしまう以上,当該加害行為と相当因果関係を有すべき損害については,実体法上,加害行為後に最初の損害が発生した時に,将来生ずるべき損害を含めた全ての損害が発生し, 客観的に確定され得る状態にあるというべきであって,最初の損害が発生した時にはその当時の科学的,医学的知見が進んでいなかったために,被害者において全損害を把握できず,権利行使ができなかったといった事情は,被害者の主観に属する事実上の障害にすぎないから,原則として,加害行為後に発生した最初の損害と牽連一体をなす損害については,その損 害の全部について,最初の損害が発生した時を除斥期間の起算点と解すべきである。 もっとも,平成16年最判の趣旨に照らせば,加害行為そのものが一回限りである場合であっても,例 その損 害の全部について,最初の損害が発生した時を除斥期間の起算点と解すべきである。 もっとも,平成16年最判の趣旨に照らせば,加害行為そのものが一回限りである場合であっても,例外的に,加害行為後に最初の損害が発生した後に,更に「質的に異なる損害」が新たに発生していくときは,当該「質 的に異なる損害」は,最初の損害と牽連一体をなす損害であるということはできないから,当該「質的に異なる損害」については,最初の損害が発生した時ではなく,当該「質的に異なる損害」が発生した時を除斥期間の起算点と解すべきである。 そして,特定の病態に基づく損害について,加害行為後に発生した最初 の損害と「質的に異なる損害」が新たに発生したというためには,根治(完治)後の再発の場合を除けば,①前後の損害を比較して,各損害に対応する病状に,その損害額の算定に影響するような看過できない差異があることが必要であり,かつ,②前後の損害の基礎をなす病状に,医学的観点から比較して,類型的な軽重の相違があることが必要である。 エこの点,現在の医学的知見を前提にすると,HBV持続感染者において, 慢性肝炎の原因であるHBVを完全に排除することは困難であると考えられていることから,B型慢性肝炎については,「根治(完治)」を観念することができないため,「根治(完治)後の再発」を観念することもできない。 この点で,被告が,多発多中心性発生による肝がんの再発について,例外的に再発時を除斥期間の起算点としていることとは,前提が異なる。 そして,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎は,「慢性肝炎」という病態において同一であり,両者は,HBV持続感染者の自然経過における病期が異なるにすぎないから,両者の間に,①損害額の算 そして,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎は,「慢性肝炎」という病態において同一であり,両者は,HBV持続感染者の自然経過における病期が異なるにすぎないから,両者の間に,①損害額の算定に影響するような看過できない差異があるとはいえず,②類型的な軽重の相違があるということもできない。 オよって,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害と「質的に異なる損害」ということはできず,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時に,それと牽連一体をなす損害として既に発生していたと評価すべきであるから,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害についても,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発 症時を除斥期間の起算点と解すべきである。 (原告らの主張)ア原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべきである。 この点,原告番号482は,平成11年1月12日頃,HBe抗原陰性 慢性肝炎を発症したから,同日を除斥期間の起算点と解すべきである。 また,原告番号641は,平成9年頃,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症したから,その頃を除斥期間の起算点と解すべきである。 そして,原告番号482の提訴日は平成24年6月27日であり,原告番号641の提訴日は同年10月10日であるから,いずれも提訴日まで に除斥期間を経過していないことは明らかであり,原告らの損害賠償請求 権は,消滅していない。 イ原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点を,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべき理由は,以下のとおりである。 前提として,原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害 点を,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべき理由は,以下のとおりである。 前提として,原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害として区 別して,損害賠償を請求している。 そうすると,本件では,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは区別され得る別個の損害として発生したかが問題となる。 ウこの点,B型肝炎の発症による損害は,観念的に,①仮にB型慢性肝炎 を発症しなければ存在したであろう生活状態と,B型慢性肝炎を発症したことにより制約をうけることとなる生活状態との差,②B型慢性肝炎を発症したことによって抱えることとなる将来の肝硬変,肝がんへの進展リスク等に対する精神的苦痛として把握され,それらを金銭的に評価することによって損害額が算定されるものである。 もっとも,HBVの持続感染者について,将来的な病状等の進展を具体的かつ完全に予測することは不可能であることから,損害の把握に当たっては,HBVの持続感染者が将来的にいかなる損害を被ることとなるかについて,典型的(平均的)なモデルを措定し,それに基づいて,損害を把握し,損害額を算定するほかない。 そして,HBV持続感染者の自然経過に関する確立した医学的知見によれば,HBV持続感染者においてHBe抗原セロコンバージョンが生じると,当該感染者は,多くの場合,非活動性キャリアになり,非活動性キャリアとなった後は,積極的な治療の対象ではなくなり,その長期予後は良好であるとされているから,HBV持続感染者の損害の把握に当たっては, HBe抗原セロコンバージョン後に非活動性キャリアとなり,積極的な治 極的な治療の対象ではなくなり,その長期予後は良好であるとされているから,HBV持続感染者の損害の把握に当たっては, HBe抗原セロコンバージョン後に非活動性キャリアとなり,積極的な治 療の必要もなく,その長期予後が良好となる症例をもって,典型的(平均的)なモデルとして措定すべきである。 これに対し,HBV持続感染者においてHBe抗原セロコンバージョンが生じたにもかわらず,非活動性キャリアにならず,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症する症例は,上記典型的(平均的)なモデルに対する例外的な 症例とされ,継続的に積極的な治療が必要となり,その予後は不良であるとされている。 このように,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害は,上記典型的(平均的)なモデルを前提として把握されるべきものであるから,HBe抗原セロコンバージョン後に非活動性キャリアとなり,その長期予後が良 好である症例を前提として把握されるものである。一方,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,上記典型的(平均的)なモデルにおいて通常想定されていない例外的な症例によって生じるものであり,しかも,HBe抗原陰性慢性肝炎は,上記典型的(平均的)なモデルと異なり,継続的に積極的な治療が必要とされ,その予後が悪いため,上記典型的(平均 的)なモデルに基づいて把握された損害の中で評価し尽くされないものである。 この点について,被告は,平成23年6月28日付けで,B型肝炎患者の救済に関して,裁判所からの和解勧告を受けて,全国B型肝炎訴訟原告団及び全国B型肝炎訴訟原告弁護団との間で基本合意(「本件基本合意」と いう。)を締結したところ,当該和解勧告において,当該裁判所が和解金の額を定めるに当たって前提とした考え方について,「やがて沈静化しうる 炎訴訟原告弁護団との間で基本合意(「本件基本合意」と いう。)を締結したところ,当該和解勧告において,当該裁判所が和解金の額を定めるに当たって前提とした考え方について,「やがて沈静化しうるB型肝炎は,同じウイルス性肝炎であっても,発症後に肝硬変等に移行することの多いC型肝炎と同列に論じることはできないが,他方において,肝炎の発症により,感染による損害とは質的に異なる損害,すなわち,少な くとも肝機能障害のある間は継続する死に対する現実的,具体的恐怖や, 発症前を上回る社会生活上の差別的取扱いその他の被害による損害が発生するであろうこと,また,沈静化した後においても,一定の率で肝がんとなる危険になることから,たとえ肝機能障害が沈静化したとしても,その損害に見合う和解金の額は,いわゆるC型肝炎救済特別措置法におけるC型肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきでは ないと考えた。」などと説明されていたことからも,B型慢性肝炎の発症時には,将来,肝硬変等に移行することが通常であるとは想定されておらず,それを前提として,B型慢性肝炎の発症による損害が把握されているというべきである。そうすると,HBe抗原セロコンバージョンが生じたにもかかわらずB型慢性肝炎が再発するなどという例外的な症例については, なおさら,最初のB型慢性肝炎の発症時における損害の把握に当たって想定されていないというべきであることは明らかである。 よって,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,上記典型的(平均的)なモデルに基づいて把握される陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害であるというべきである。 エまた,確立した医学的知見によれば,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,① て把握される陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害であるというべきである。 エまた,確立した医学的知見によれば,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,①線維化が進展しており,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向があるなど病状が重篤である,②変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起される,③肝硬変,肝がんへの進展リスクが高く,その予後が悪いとされているなどの点で,HBe抗原陽性慢性肝炎と は独立した進んだ病期にあるというべきであるから,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害と区別し得るものである。 オ以上のとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは区別され得る別個の損害とし て発生したものであるから,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時では なく,再発後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時を除斥期間の起算点と解すべきである。 カ被告は,B型慢性肝炎について,「根治(完治)」を観念することができないため,「根治(完治)後の再発」を観念することもできないとして,HBe抗原陰性慢性肝炎の再発によって「質的に異なる損害」が新たに発生 したとはいえないと主張する。 しかしながら,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく保険給付について,行政上の運用として,B型肝炎の「治癒」及び「再発」という概念が用いられていることに照らせば,少なくとも法的観点からは,B型慢性肝炎について,「根治(完治)後の再発」を観念するこ とはできる。 キ被告は,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎との間には,①損害額の算定に影響するような看過でき B型慢性肝炎について,「根治(完治)後の再発」を観念するこ とはできる。 キ被告は,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎との間には,①損害額の算定に影響するような看過できない差異があるとはいえず,②類型的な軽重の相違があるということもできないから,HBe抗原陰性慢性肝炎の再燃(再発)によって「質的に異なる損害」が新たに発生したと はいえないとして,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症時が,HBe抗原陰性慢性肝炎との関係でも除斥期間の起算点となる旨を主張するが,除斥期間の起算点について,このような制限的な解釈をすることは,以下のとおり,昭和42年最判,平成6年最判及び平成16年最判等の各判例の理解を誤ったものである。 確かに,裁判実務上,損害賠償請求権の発生時期の解釈に当たっては,原則として,加害行為の時又は加害行為後に最初の損害が発生した時に,全損害が一回的に発生したものと法的に擬制して解釈する見解が定着している。 しかしながら,判例上,そのような法的擬制を及ぼすことは,損害賠償 制度の究極的な目的である損害の公平な分担という観点に照らして,被害 者・加害者間の衡平性が担保される場合にのみ許容されているというべきである。 例えば,①昭和42年最判は,受傷時に全損害が一回的に発生したものと法的に擬制することを原則としながらも,受傷時から相当期間経過後に,受傷時には医学的に通常予想し得なかった損害が発生するような場合には, 被害者において受傷による損害の将来予測が困難であることから,衡平の理念に基づき,上記原則を修正し,被害者を救済した判例であると理解されるべきである。 また,②平成6年最判は,じん肺が,進行性の疾患であり,その進行の有無,程度,速度が患者によって多様であるという特 念に基づき,上記原則を修正し,被害者を救済した判例であると理解されるべきである。 また,②平成6年最判は,じん肺が,進行性の疾患であり,その進行の有無,程度,速度が患者によって多様であるという特性を有することを踏 まえ,被害者が,管理2の行政上の決定を受けた時点では,管理3又は管理4に相当する病状に基づく各損害の賠償を求めることは不可能であることから,各損害が同一の身体に対する侵害という点では同一であるにもかかわらず,衡平の理念に基づき,あえて「質的に異なる損害」という概念を用いて,後発の損害を別個の損害とすることによって,被害者を救済し た判例であると理解されるべきである。 加えて,③平成16年最判は,本来的には客観的に判断されるべき除斥期間の起算点の判断についても,消滅時効の起算点について判断した平成6年最判の趣旨が及ぶとした上で,衡平の理念に基づき,損害の発生を待たずに除斥期間の進行を認めることが被害者にとって著しく酷であること, 他方,加害者としても,損害の性質上,相当の期間が経過した後に被害者が現れて損害賠償の請求を受けることを予期すべきであることなどの被害者・加害者双方の主観的な事情も考慮して,被害者を救済した判例であると理解されるべきである。 以上のとおり,除斥期間の起算点について,最初のHBe抗原陽性慢性 肝炎の発症時と解すべきか,又は,再発後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発 症時と解すべきであるかは,被害者側・加害者側双方の主観的な事情も考慮した上で,衡平の理念に基づいて判断されるべきである。 クこれを本件についてみると,①HBe抗原陰性慢性肝炎の発症は,HBV持続感染者の自然経過において例外的な症例であるから,原告らにおいて,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎が発症した時に,HBe抗原 クこれを本件についてみると,①HBe抗原陰性慢性肝炎の発症は,HBV持続感染者の自然経過において例外的な症例であるから,原告らにおいて,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎が発症した時に,HBe抗原陰性慢性 肝炎の発症を予測することは困難であったほか,原告らがHBe抗原陰性慢性肝炎を発症したと考えられる平成9年又は同11年当時は,いまだ集団予防接種等に関する被告の責任が確定していなかったことも踏まえると,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎が発症した時にあらかじめ請求することは客観的に不可能であった, ②他方,被告は,違法な集団予防接種等によって,多数のB型肝炎患者を生み出したにもかかわらず,被告の責任を認めた平成18年判決後も,平成23年6月にB型肝炎訴訟原告団及び弁護団との間で本件基本合意を締結するまで,被害者の救済を怠り,その救済を遅らせておきながら,現在,除斥期間の経過を理由として,被害者の救済を拒んでいる,③その結果, より早くからより長く苦しんだ者ほど権利が保障されないという不条理が生じている。 これらの事情を考慮の上,衡平の理念に基づき判断すれば,除斥期間の起算点は,再発後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべきである。 ケ以上のとおり,①HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,客観的 に,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは区別され得る別個の損害であるという点においても,②仮に最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時を起算点としたのでは,被害者である原告らと加害者である被告との間で衡平性が担保されないというべき事情があるという点においても,除斥期間の起算点は,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発 症時と解すべきであるということに 原告らと加害者である被告との間で衡平性が担保されないというべき事情があるという点においても,除斥期間の起算点は,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発 症時と解すべきであるということになる。 (被告の反論)原告らは,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎との間には,確立した医学的知見に照らして,それぞれの発症による損害を区別し得る程度の差異がある旨を主張するが,以下のとおり,原告らが主張する差異があるとはいえない。 ア原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎について,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,線維化が進展している病状であり,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向があるなどとして,病状が重篤である旨を主張する。 確かに,本件ガイドラインには,HBe抗原陰性慢性肝炎について,「HBe抗原陽性の慢性肝炎と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進 んだ病期と認識すべきである」との記載があるほか,日本肝臓学会が作成した「慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド」には,HBe抗原陰性慢性肝炎の特徴として,「HBV-DNA量が中程度の範囲で変動し,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向がある」との記載がある。 しかしながら,この点については,武蔵野赤十字病院のC医師が作成し た意見書(以下「C意見書」という。)において,「慢性肝炎の病態の本質は,壊死・炎症反応が維持し,その結果として線維化が生じる一連の経過であり,その壊死・炎症反応の程度は,その時々のウイルスに対する免疫反応の程度により変動する」,「線維化(F0~F3)及び活動性(A0~A3)は,必ずしも一方向に不可逆的に進行するものではない」,「「HBe 抗原陽性慢性肝炎」,「HBe抗原陰性慢性肝炎」というのは,肝炎が生じているときのHBe抗原の状 3)及び活動性(A0~A3)は,必ずしも一方向に不可逆的に進行するものではない」,「「HBe 抗原陽性慢性肝炎」,「HBe抗原陰性慢性肝炎」というのは,肝炎が生じているときのHBe抗原の状態(陽性か陰性か)により呼び分けたものであり,それぞれを別の慢性肝炎として取り扱うものではない」,「HBe抗原陰性の非活動性キャリアと,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBV感染者の自然経過において移行しうる一覧の病態であることが,海外のガイドラ インにおいても示されている」などと指摘されているとおり,HBe抗原 の陽性・陰性の別は,HBe抗原の状態を意味しているにすぎず,慢性肝炎の重さの程度を決定付ける要因ではない。 以上によれば,原告らが指摘する文献の記載は,臨床上,HBe抗原陰性慢性肝炎の治療に当たって注意すべき傾向を示したものにすぎないと理解されるべきであり,全ての症例において当てはまる一般的特徴を示した ものであるとはいい難い。 イ原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起される点を挙げて,HBe抗原陽性慢性肝炎との間で,それぞれの発症による損害を区別し得る程度の差異がある旨を主張する。 しかしながら,この点については,C意見書において,「ウイルスは,体 内に入ると,免疫から逃れ生きるために多様な変異を生じながら増殖を続け,免疫もこれに対応すべく変化していく。そのため,HBV感染後は,時間の経過とともに体内に多様な変異を有するウイルスが存在するようになり,それぞれが異なる様々な変異を個々に生じながら,増殖したり,免疫によって増殖を抑えられたりを繰り返す。このようなウイルス変異の詳 細や病態との関係については,未だ十分研究が進んでおらず,その全体像は不明な部分が多 変異を個々に生じながら,増殖したり,免疫によって増殖を抑えられたりを繰り返す。このようなウイルス変異の詳 細や病態との関係については,未だ十分研究が進んでおらず,その全体像は不明な部分が多い」,「ウイルスは体内に入ると多様な変異を遂げるため,体内のウイルスのバリエーションは,時の経過により様々に変化する。そのため,肝炎(HBe抗原陽性慢性肝炎)を発症した時点とHBe抗原セロコンバージョン後のウイルスのバリエーションは当然異なっている。し たがって,そのような意味において,HBe抗原陰性慢性時のウイルスは,「変異株(HBe抗原陽性慢性肝炎発症のものから変異したウイルス)」である。しかしながら,HBe抗原陰性化後のHBVの全てがPC変異を有するHBVに置き換わるというものではないため,「HBe抗原陰性慢性肝炎は変異株のウイルスによって惹起される」などと単純化することは適当 ではない」などと指摘されているほか,千葉大学大学院医学研究院消化器 内科学のD教授が作成した意見書(以下「D意見書」という。)において,「プレコア変異やコアプロモーター変異は,いずれもセロコンバージョン前後でみられることが報告されているが,(中略)HBVに生じる変異はこれらのみではなく,プレコア変異やコアプロモーター変異がみられるHBVであっても,体内にはプレコア変異等が生じていない,いわゆる野生株 も残存している。HBVの増殖力は,このような様々なHBVの増殖能や,それらの免疫からの逃避能力などに影響されるものなのであって,(中略)プレコア変異等を生じたウイルスの増殖力によって決まるという単純なものではない。」などと指摘されている。 これらの指摘を踏まえると,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株である HBe抗原非産生株によって 変異等を生じたウイルスの増殖力によって決まるという単純なものではない。」などと指摘されている。 これらの指摘を踏まえると,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株である HBe抗原非産生株によって惹起されるとまで断定することはできないし,また,HBe抗原セロコンバージョンによってHBVの変異株であるHBe抗原非産生株が生じることは,体内に入ったHBVが遂げる多様な変異の一つにすぎないから,HBe抗原陰性慢性肝炎を,HBe抗原陽性慢性肝炎と区別する根拠とはならない。 ウ原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎は,肝硬変,肝がんへの進展リスクが高いなど,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して予後が悪い旨を主張し,その根拠として,国立病院機構長崎医療センターの八橋弘医師ほか3名が作成した文献である「HBV感染症の自然史(2009年)」(以下「八橋文献」という。)において,「B型慢性肝炎からの年間の肝硬変進展率は, HBe抗原陽性B型慢性肝炎で2~6%,HBe抗原陰性B型慢性肝炎で8~10%と報告されており,HBe抗原陰性B型慢性肝炎において肝硬変進展リスクが高い」と記載されていることなどを挙げる。 しかしながら,上記記載については,その根拠にしたと考えられる引用文献(原著論文)に,上記記載の根拠となるような記載,すなわち,HB e抗原陰性慢性肝炎の肝硬変進展率が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較し て,有意に高いといえる調査結果の記載が見当たらないことから,信用できる医学的知見であるということはできない。 また,原告らは,GiovannaFattovichが作成した文献である「B型肝炎の自然史ならびに予後(2003年)」(以下「Fattovich文献」という。)に,「軽微あるいは軽度の慢性肝炎は多くな は,GiovannaFattovichが作成した文献である「B型肝炎の自然史ならびに予後(2003年)」(以下「Fattovich文献」という。)に,「軽微あるいは軽度の慢性肝炎は多くな く,重篤な懐死性炎症がHBe抗原陰性慢性肝炎患者の50%以上に診断時に認められる」などの記載があることも根拠とする。 しかしながら,東京大学医科学研究所先端医療センター感染症分野のE教授が作成した意見書(以下「E意見書」という。)において,「これまでの報告は欧米からのものが多く,ウイルスゲノタイプもHBe抗原陰性化 の時期も日本とは異なっている。いずれにしても日本人を対象とした研究結果をもとにしない限り,「HBe抗原陽性慢性肝炎」と「HBe抗原陰性慢性肝炎」の予後がどのように違うかを正確に評価することはできない」と指摘されているとおり,日本人のHBV持続感染者と欧米人のHBV持続感染者とでは,B型肝炎の病状の経過に影響を与えると考えられている HBVのウイルスゲノタイプ等が異なるため,欧米人のHBV持続感染者を対象とする調査結果が,日本人の持続感染者にも直ちに妥当するとはいえないところ,Fattovich文献の上記記載は,イタリア,ギリシアでの調査結果を基礎としたものであるから,日本人のHBV持続感染者に直ちに妥当するものではない。 他方,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎との間の肝硬変,肝がんへの進展率については,広島大学大学院医歯薬保険学研究院統合健康科学部門疫学・疾病統制学のF教授が作成した意見書(以下「F意見書」という。)がある。F意見書の内容は,我が国のある地域の全住民を対象とする検診の結果によって得られたHBV持続感染者集団の長期にわ たる大規模な観察研究データを基礎として 書(以下「F意見書」という。)がある。F意見書の内容は,我が国のある地域の全住民を対象とする検診の結果によって得られたHBV持続感染者集団の長期にわ たる大規模な観察研究データを基礎として,HBe抗原陽性慢性肝炎の患 者群とHBe抗原陰性慢性肝炎の患者群について,累積肝発がん率,累積肝硬変罹患率等を指標として予後を比較検討し,結論として,「HBe抗原陰性慢性肝炎群は過去に「HBe抗原陽性HBV持続感染の時期を経験したという<持ち越し効果>」を有しているにもかかわらず,HBe抗原陽性慢性肝炎群と比較して不良とはいえない,と推察された。」とするもので ある。なお,F意見書は,比較検討の対象とするデータについて,「HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎を比較する場合,HBV持続感染者を対象とした研究では,その病態を有する年齢の影響が,病態の進展や予後に交絡する。そのため,単純比較による結果は,HBe抗原陽性・陰性の相違だけでなく,年齢,性別などの影響が含まれており,その解釈 は難しい。」として,①仮想的に年齢・性別を揃えるデータ解析の手法(マルコフモデル),②特定の年齢集団(30歳から49歳まで)を抽出する手法をそれぞれ用いて得られたデータを基礎として分析を加えたものであるから,その内容は,科学的な信頼性が高いものである。 以上のとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎は,肝硬変,肝がんへの進展リ スクが高いなど,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して予後が悪いということはできない。 (原告らの再反論)HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎の差異に関する被告の指摘は,以下のとおり,その前提が誤っているか,原告らの主張に対する反 論として妥当しない。 ア被告は,C意見書等を根拠として,本 原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎の差異に関する被告の指摘は,以下のとおり,その前提が誤っているか,原告らの主張に対する反 論として妥当しない。 ア被告は,C意見書等を根拠として,本件ガイドラインにおける「HBe抗原陽性の慢性肝炎と比較し高齢で線維化進展例が多いため,より進んだ病期と認識すべきである」等の記載は,全ての症例において当てはまる一般的特徴を確立した医学的知見として示したものではないなどと主張する。 しかしながら,原告らとしても,全ての症例においてHBe抗原陰性慢 性肝炎の病状が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して重篤であるとまで主張しているものではない。 C意見書における指摘を前提としても,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBV持続感染者の自然経過において,HBe抗原陽性慢性肝炎よりも後に至る病期であり,比較的高齢になってから至る病期であることから,HB e抗原セロコンバージョン前に長期間にわたって進展した線維化が,そのまま,HBe抗原セロコンバージョン後にも持ち越されることが多いことなどを考慮すれば,全ての症例において当てはまる医学的知見であるかはともかくとして,類型的に,HBe抗原陰性慢性肝炎の方が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して線維化が進展しているなどの点で,より進んだ病 期に位置付けられること自体は,医学的知見として否定し難いといえる。 イ被告は,C意見書及びD意見書等を根拠として,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起されると断定することはできないなどと主張する。 しかしながら,被告が根拠とするC意見書及びD意見書は,HBVが, HBe抗原陽性慢性肝炎の発症時には野生株(変異していない状態のHBV)であり,HBe抗原陰性慢性肝 どと主張する。 しかしながら,被告が根拠とするC意見書及びD意見書は,HBVが, HBe抗原陽性慢性肝炎の発症時には野生株(変異していない状態のHBV)であり,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時には変異株というように明確に区分できるものではないということを述べているにすぎず,HBe抗原陰性慢性肝炎が,変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起されるという確立した医学的知見を揺るがすものではない。 ウ被告は,F意見書を根拠として,HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して予後が悪いということはできないと主張する。 しかしながら,F意見書は,①HBe抗原陽性慢性肝炎を発症したが,高齢になってもHBe抗原セロコンバージョンをしないまま,HBe抗原陽性慢性肝炎が長期化している患者群と,②HBe抗原陰性慢性肝炎の患 者群を比較して,①の患者群の方が②の患者群よりも肝硬変,肝がんへの 進展率が高いとして,HBe抗原陽性慢性肝炎の方が,HBe抗原陰性慢性肝炎より予後が悪いと結論付けているが,HBe抗原陽性慢性肝炎が長期化している患者が,肝臓の線維化が進展しているなどの理由で予後が悪いことは当然である。原告らは,①HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,HBe抗原セロコンバージョンが生じ,非活動性キャリアになるという通 常の自然経過をとる患者と,②HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,HBe抗原セロコンバージョンが生じたにもかかわらず,非活動性キャリアになることなく,HBe抗原陰性慢性を発症するという例外的な自然経過をとる患者とを比較して,②の患者の方が①の患者よりも肝硬変,肝がんへの進展率が高いと主張しているのであるから,F意見書は,原告らの主 張に対する適切な反論になっていない いう例外的な自然経過をとる患者とを比較して,②の患者の方が①の患者よりも肝硬変,肝がんへの進展率が高いと主張しているのであるから,F意見書は,原告らの主 張に対する適切な反論になっていない。 ⑶ 再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害であるとした場合,その損害額はいくらか(争点⑶)。 (原告らの主張) ア包括一律請求各1250万円原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個に区別される損害を被った。 まず,HBe抗原陰性慢性肝炎は,後記のとおり,間欠的に肝機能の異常を生じさせ,自然寛解の可能性が低いとされているため,原告らは,多 大な通院の負担を余儀なくされ,多大な肉体的・精神的苦痛及び経済的損害を被った。 具体的には,原告番号482は,平成14年6月から現在まで,核酸アナログによる抗ウイルス治療のために,山口県に所在するB医院に,広島県から定期的に通院することを余儀なくされているところ,このことによ って,原告番号482は,通院治療のための支出による経済的損害を被っ たほか,往復のための所要時間等,多大な時間を捻出することを余儀なくされており,肉体的・精神的苦痛も被っており,これらの苦痛及び損害は,一生涯続くことが見込まれている。 また,原告番号641は,平成9年頃から平成13年頃までの4年間で約700回も強ミノの投与のための通院を余儀なくされたため,注射によ る投与によって肉体的苦痛を被ったのみならず,通院治療のための支出によって経済的損害を被ったほか,通院のために,平日は仕事の都合を調整し,休日は家族との交流の時間を犠牲にするなどしなければな る投与によって肉体的苦痛を被ったのみならず,通院治療のための支出によって経済的損害を被ったほか,通院のために,平日は仕事の都合を調整し,休日は家族との交流の時間を犠牲にするなどしなければならず,精神的苦痛を被った上,しかも,強ミノの投与による治療は終了したものの,今後も通院治療自体は継続しなければならないことから,これらの肉体的・ 精神的苦痛及び経済的損害は,今後も増加していくことが見込まれる。 さらに,HBe抗原陰性慢性肝炎は,予後が悪く,肝硬変,肝がんへの進展の確率が高いとされているため,原告らは,病態の進展による死の恐怖を身近に感じながら生活を送らざるを得ず,しかも,原告らは,いずれも,HBe抗原セロコンバージョンによって,一旦は死の恐怖から逃れら れたと感じていたにもかかわらず,突然,再び死の恐怖を身近に感じざるを得なくなったのであるから,原告らが被った精神的苦痛は多大である。 以上のとおり,原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって,多大な肉体的・精神的苦痛及び経済的損害を被ったものであり,原告らの損害額は,いずれも1250万円を下回らないから,これを包括一律請求と して請求する。 イ弁護士費用各50万円原告らは,被告の不法行為により被った損害賠償を求めるために本件訴訟提起を余儀なくされたところ,そのために必要な弁護士費用は,各50万円が相当である。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(因果関係)について争点⑵のとおり,除斥期間の経過が認められるので判断を要しない。 2 争点⑵(除斥期間の起算点)について ⑴ 損害の発生時期については,昭和42年最判の趣旨に照らせば,加害行為そのものが一回限りである場合には,加 の経過が認められるので判断を要しない。 2 争点⑵(除斥期間の起算点)について ⑴ 損害の発生時期については,昭和42年最判の趣旨に照らせば,加害行為そのものが一回限りである場合には,加害行為が終了した後に一定期間を経てから損害が発生し,その損害が更に進行・拡大していくときであっても,当該加害行為と相当因果関係を有すべき損害については,実体法上,加害行為後に最初の損害が発生した時に,将来生ずるべき損害を含めた全ての損害 が発生すると解すべきである。また,昭和42年最判は,消滅時効について判断したものであって除斥期間について判断したものではないから,除斥期間の始期としての損害発生の解釈に被害者の予見可能性の有無は影響を与えないと解される(一小法廷判決・民集43巻12号2209頁(以下「平成元年最判」という。) 参照)。 ⑵ 民法724条後段所定の除斥期間は,不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時から進行する(平成16年最判)。 原告らは,いずれも,幼少期に被告の集団予防接種等によってHBVに持 続感染した可能性があって,成人となった後にB型慢性肝炎を発症したところ,HBV持続感染者の自然経過に照らせば,B型慢性肝炎を発症したことによって原告らが被った損害は,その性質上,加害行為(集団予防接種等)が終了してから相当期間が経過した後に発生するものと認められるから,原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,加害行為の時ではなく,B型 慢性肝炎の発症による損害の全部又は一部が発生した時であるというべきで ある(平成18年最判参照)。 ⑶ そうすると,原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点を検討す 時ではなく,B型 慢性肝炎の発症による損害の全部又は一部が発生した時であるというべきで ある(平成18年最判参照)。 ⑶ そうすると,原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点を検討するに当たっては,原告らにおけるB型慢性肝炎の発症による損害が,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害も含めて,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時において既に発生していたというべきであるかが問題 となる。 HBe抗原陽性慢性肝炎及びHBe抗原陰性慢性肝炎は,いずれも,臨床上,上位の病態である「肝硬変」とは明確に区分される「慢性肝炎」という同一の病態に属しているから,原告らにおけるB型慢性肝炎の発症による損害は,最初に「慢性肝炎」を発症した時,すなわちHBe抗原陽性慢性肝炎 の発症時において,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害も含めた一個の損害として,既に発生していたと考えるのが原則である。 もっとも,平成6年最判は,同一の病態である「じん肺」の中であっても,病状の進展によって上位の管理区分に至った場合には,「質的に異なる損害」が新たに発生したとして,上位の管理区分に至った後に生じた損害につき, 除斥期間の起算点を,上位の管理区分に至った時であるとしている。この趣旨に照らせば,同一の病態であることのみをもって直ちに別個の損害が生じることがないとまでいうことはできず,同一の病態の中であっても,前後の病状において,それぞれの病状によって生じる損害が別個であると評価するに足りる差異がある場合等には,後発の病状であるHBe抗原陰性慢性肝炎 の発症によって生じる損害について,先発の病状であるHBe抗原陽性慢性肝炎の発症によって生じた損害とは別個の損害であるとして,除斥期間の起算点をH は,後発の病状であるHBe抗原陰性慢性肝炎 の発症によって生じる損害について,先発の病状であるHBe抗原陽性慢性肝炎の発症によって生じた損害とは別個の損害であるとして,除斥期間の起算点をHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時であると解する余地があるので,以下,検討する。 ⑷ 原告らは,B型慢性肝炎の発症による損害は,HBV持続感染者の自然経 過に関する典型的(平均的)なモデルに基づき把握されるべきであることを 前提として,上記典型的(平均的)なモデルは,HBe抗原セロコンバージョンが生じ,これが生じた後は,慢性肝炎を再燃(再発)することなく,非活動性キャリアになるという,通常のHBV持続感染者がとるとされる自然経過を想定したものであるから,これと異なり,HBe抗原セロコンバージョンが生じたにもかかわらず,非活動性キャリアになることなく,慢性肝炎 を再燃(再発)するという点で例外的な症例であるHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,上記典型的(平均的)なモデルに基づき把握される損害の中では評価し尽くされていない旨を主張する((第2の3⑵(原告らの主張)アからウまで)。 確かに,慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド(乙482の1・10頁)によれ ば,「HBe抗原陽性の慢性肝炎が長期に続くと肝硬変へ進行するが,多くの患者ではHBe抗体へセロコンバージョンし,非活動性キャリアとなる」とされているほか,本件ガイドラインによれば,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後にHBe抗原陰性慢性肝炎が発症する症例は,自然経過において「10~20%の症例」であるとされている(第2の2⑴ス)ことから, HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBV持続感染者の自然経過において例外的な症例であるということは,医学的に確立した知見であると考えられ ~20%の症例」であるとされている(第2の2⑴ス)ことから, HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBV持続感染者の自然経過において例外的な症例であるということは,医学的に確立した知見であると考えられる。 しかしながら,現在の医療技術においては,HBV持続感染者のHBVを完全に排除することは困難であるとされており,慢性肝炎を含むB型肝炎が,主として,HBV感染細胞を排除しようとする宿主の免疫応答によって引き 起こされるものである以上,上記慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド(乙482の1・10頁)記載のとおり,HBe抗原セロコンバージョンを生じたからといって,慢性肝炎を再燃(再発)する可能性のあることも医学的に確立した知見として認められており,HBV持続感染者においては,慢性肝炎を再燃(再発)する可能性は,HBe抗原セロコンバージョン後においても絶え ず存在し続けるものであるといえる。そして,HBV持続感染者においては, 必ずHBe抗原セロコンバージョンが生じるわけではない(HBe抗原陽性慢性肝炎を発症した後,そのまま,HBe抗原セロコンバージョンが生じることなく,肝硬変,肝がんへと進展する症例も存在する。)ほか,現在の医学的知見では,HBe抗原セロコンバージョンを生じたHBV持続感染者が,その後にどのような経過をたどるのか,どのような場合に慢性肝炎が再燃(再 発)するのかなどについて,医学的に解明され,確定されているとはいい難く,例えば,本件ガイドライン(乙482の30・2頁)において,HBe抗原セロコンバージョンが生じたHBV持続感染者の自然経過として,①非活動性キャリアになるもの,②HBe抗原陰性慢性肝炎を発症するもののほかに,③HBe抗体消失並びにHBe抗原の再出現(リバースセロコンバー ジョン)に至るもの 持続感染者の自然経過として,①非活動性キャリアになるもの,②HBe抗原陰性慢性肝炎を発症するもののほかに,③HBe抗体消失並びにHBe抗原の再出現(リバースセロコンバー ジョン)に至るものが挙げられている(第2の2⑴ス)。 そうすると,B型慢性肝炎を発症すると,その病状が将来的にどのような経過をたどるのか,沈静化するとしていつ沈静化するのか,仮に一旦沈静化したとして,どのような場合に慢性肝炎がいつ再燃(再発)するのかなどについて,そもそも不確定であるということができる。 以上を前提とすると,B型慢性肝炎の発症による損害については,将来,沈静化しないことや,一旦,沈静化しても,その後,再燃(再発)することを除外することはできず,特定の時期までに沈静化することに限定された損害であるとは解釈できない。 原告らは,B型慢性肝炎の発症による損害について,HBV持続感染者の 自然経過に関する典型的(平均的)なモデルを前提として損害を算定すべきである以上,将来の予後が良好となることを前提として算定するほかないので,結果的に予想どおりにならず,将来の予後が良好とならなかったB型慢性肝炎患者については,当初の損害の算定において評価され尽されていない別損害が生じており,その賠償を別途求めることができる旨を主張する。 しかしながら,原告らの主張は,損害の発生を前提として,損害の算定と して平均値を採用したというものに過ぎず,損害が発生していないことの理由とはなり得ない。損害の発生の議論としては,原告らの主張する将来の予後が良好となるものに限定され(そもそも将来とはいつまでなのか不明である。),予後が結果的に良好とならなかったものが除かれているとの結論を採用できない。現に,第1事件及び第2事件の訴状の損害の記載には,慢 好となるものに限定され(そもそも将来とはいつまでなのか不明である。),予後が結果的に良好とならなかったものが除かれているとの結論を採用できない。現に,第1事件及び第2事件の訴状の損害の記載には,慢性肝 炎の発症による損害算定の前提となる病態について,HBe抗原セロコンバージョンが生じた場合を含めて,成人期のHBV持続感染者の10~15%が肝炎を発症し,ひとたび肝炎を発症すると,慢性肝炎,肝硬変,肝がんへと,死に至る道筋をたどる可能性を常に抱えることとなるなどとして,HBe抗原セロコンバージョン後の再発(再燃)によって生じた損害も,損害賠 償の対象として含むことを前提としていると解される記載があるし,原告ら以外の慢性肝炎患者に関して,何らの限定もしないで和解が成立していることは当裁判所に顕著である。 よって,この点に関する原告らの主張は採用できない。 なお,原告らは,本件基本合意に係る裁判所の和解勧告において,和解金 の額について,「やがて沈静化しうるB型肝炎は,同じウイルス性肝炎であっても,発症後に肝硬変等に移行することの多いC型肝炎と同列に論じることはできないが(中略)C型肝炎ウイルスの無症候性キャリアに対する給付金の額を下回るべきではないと考えた。」などと説明されていたことを根拠として,B型肝炎の発症による損害は,HBe抗原セロコンバージョン後に非活 動性キャリアになるという通常の経過をとる場合を前提として把握されていることが明らかであるなどと主張する。 しかしながら,原告らが指摘する上記説明をもって,本件基本合意に係る裁判所の和解勧告が,B型慢性肝炎の損害から,HBe抗原陰性慢性肝炎の損害を除く趣旨とまでは解されないので,原告らの主張によっても結論は左 右されない。 ⑸ア原告らは,H 意に係る裁判所の和解勧告が,B型慢性肝炎の損害から,HBe抗原陰性慢性肝炎の損害を除く趣旨とまでは解されないので,原告らの主張によっても結論は左 右されない。 ⑸ア原告らは,HBe抗原陰性慢性肝炎について,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,①線維化が進展しており,間欠的に激しい肝炎を起こす傾向があるなど病状が重篤である,②変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起される,③肝硬変,肝がんへの進展リスクが高く,その予後が悪いとされているなどの点(慢性肝炎・肝硬変の診療ガイド(乙482の38・ 10頁))で,HBe抗原陽性慢性肝炎とは独立した進んだ病期にあるというべきであるから,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害は,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害と区別し得るものであると主張する(第2の3⑵(原告らの主張)エ,オ)。 イしかしながら,原告らの主張(第2の3⑵(原告らの再反論)ア)から 明らかなとおり,HBe抗原陰性慢性肝炎が全ての症例においてHBe抗原陽性慢性肝炎と比較して病状が重篤ないし悪化しているというものではない。この結果,HBe抗原陰性慢性肝炎を理由として,HBe抗原陽性慢性肝炎の損害額とは別の損害額を加算することは合理的な区別の結果であるとはいえず,採用し難い。すなわち,HBe抗原セロコンバージョン に至ることなくHBe抗原陽性慢性肝炎を発症し続け,それによる損害を被り続ける患者と比較して,必ず,HBe抗原セロコンバージョンに至った後にHBe抗原陰性慢性肝炎を発症する患者の方が大きな被害を被っているとはいえない以上,両者の間で不公平が生じ得る。平成6年最判は,じん肺に関する事案であるが,じん肺については,管理区分に応じて,各 病状の間に類型的な軽重が認められるから,上位の を被っているとはいえない以上,両者の間で不公平が生じ得る。平成6年最判は,じん肺に関する事案であるが,じん肺については,管理区分に応じて,各 病状の間に類型的な軽重が認められるから,上位の管理区分に病状が進展した場合に別の損害額を加算することが不公平とはいえないが,平成6年最判が,上記のように不公平な扱いが生じる場合においても,別個の損害であると評価することを求めた趣旨とは解されないし,そのような不公平な扱いは起こらないとか不公平な扱いが生じてもやむを得ないとする理由 は見当たらない。 ウさらに,HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,重篤ないし悪化しているという傾向があることの理由に関して検討するに,①については,仮に,HBe抗原陰性慢性肝炎の病状が,HBe抗原陽性慢性肝炎の病状と比較して重篤であるという傾向があったとしても,本件ガイドライン(乙482の30・68頁)において,HBe抗原陰性 慢性肝炎が「より進んだ病期」に位置付けられる理由として,「HBe抗原陽性の慢性肝炎と比較し高齢で線維化進展例が多い」ことが指摘されているように,HBe抗原陰性慢性肝炎であること自体が病状の重篤化の原因であるというよりも,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症する患者の多くが,比較的高齢で,かつ,既にB型慢性肝炎の発症による肝細胞の炎症活動・ 線維化を経ているといった事情が上記傾向に影響している可能性が残る。 すなわち,HBe抗原陰性慢性肝炎は,HBV持続感染者の自然経過として,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症を経て,更に,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後に至る病期であることから,HBe抗原陰性慢性肝炎の患者は,比較的高齢で,かつ,既にB型慢性肝炎の発症による肝細胞 の炎症活動・線維化を経 を経て,更に,HBe抗原セロコンバージョンが生じた後に至る病期であることから,HBe抗原陰性慢性肝炎の患者は,比較的高齢で,かつ,既にB型慢性肝炎の発症による肝細胞 の炎症活動・線維化を経ていることが多いと考えられるため,相対的に若年で発症することもあるHBe抗原陽性慢性肝炎の患者全体と比較したときに,病状が重篤化しやすいという傾向が現れている可能性がある。 よって,仮に,HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して,病状が重篤であるという傾向があったしても,そのことは,重 篤傾向の原因が,HBe抗原が陰性である点にあるということを意味しない。 エ ②については,仮に,HBe抗原陰性慢性肝炎が,HBVの変異株であるHBe抗原非産生株によって惹起されるとしても,D意見書(乙482の40)によれば,一般に,HBVは,宿主の体内に入ると,宿主の免疫 機能に対応して,多様な変異を遂げるとされているため,体内に変異株が 存在することは,HBe抗原陰性慢性肝炎の患者に特有の現象ではないことが認められるし,HBe抗原陰性慢性肝炎の悪化や重篤を直接説明するものではないので,損害の区別の観点からはその理由として合理的なものとは認めることができない。 原告らは,HBe抗原非産生株によって惹起される点において質的に異 なるのであるから,HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎は,別の慢性肝炎であると主張し,被告においても,多発多中心性発生による肝がんの再発について,別の肝がんとして認めていることを指摘する。 しかしながら,多発多中心性発生の肝がんにおいて別損害と認められていることから,直ちに,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝 炎とは別の慢性肝炎となることは説明できないし,多発多中 しかしながら,多発多中心性発生の肝がんにおいて別損害と認められていることから,直ちに,HBe抗原陰性慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝 炎とは別の慢性肝炎となることは説明できないし,多発多中心性発生による肝がんの再発については,「根治(完治)」を理由に別の損害と認められるが,B型慢性肝炎については「根治(完治)」が観念できないとの点において相違しているとの説明が可能であるので,原告らの指摘によっても結論は変わらない。 オ ③については,確かに,八橋文献(甲B482の46),Fattovich文献(甲B482の44の1,2)等の医学文献には,HBe抗原陰性慢性肝炎の肝硬変の進展率が,HBe抗原陽性慢性肝炎と比較して高い旨の報告があったなどの記載があるが,これに反対するE意見書やF意見書があるほか,ウで説示したところと同様に,仮に,肝硬変,肝がんへの 進展リスクが高い傾向があったとしても,そのような傾向は,HBe抗原陰性慢性肝炎であること自体が直接影響しているというよりも,HBe抗原陰性慢性肝炎を発症する患者の多くが,比較的高齢で,かつ,既にB型慢性肝炎の発症による肝細胞の炎症活動・線維化を経ているといった事情が影響している可能性が残る。 したがって,原告らの主張は採用できない。 カ原告らは,各原告について,HBe抗原陰性慢性肝炎が発症した症状と,HBe抗原陽性慢性肝炎が発症した当時の症状と比較すれば,悪化が認められるので,別損害といえるとの主張をする。 しかしながら,⑷のとおり,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症は,将来,沈静化しないことや,一旦,沈静化しても,さらに再燃(再発)すること が予想され,その意味で悪化も予想されているところ,これが損害として,現在,損害賠償請求できると解する以 肝炎の発症は,将来,沈静化しないことや,一旦,沈静化しても,さらに再燃(再発)すること が予想され,その意味で悪化も予想されているところ,これが損害として,現在,損害賠償請求できると解する以上,結果的に,沈静化後,再燃(再発)したからといって,別損害には該当しないと解される。 また,B型慢性肝炎の悪化に関しては,C意見書(乙482の39)によれば,慢性肝炎の病態の本質は,壊死・炎症反応が持続し,その結果と して線維化が生じる一連の経過であり,その壊死・炎症反応の程度は,その時々のウイルス量や宿主免疫反応の程度により変動し,ウイルスに対する免疫反応により肝臓に壊死・炎症が生じる一方で,肝細胞の再生と繊維の吸収による肝臓の修復も同時に進行するため,肝臓の修復スピードが肝臓の壊死・炎症のスピードを上回る場合もあり,そのような時期には,繊 維化の程度が軽減することもあり得るので,新犬山分類による肝炎の組織所見の繊維化の程度と活動性の程度は,必ずしも一方向に不可逆的に進行するものではないとの医学的意見があることも認められる。 以上の医学的意見も踏まえると,原告らについて,HBe抗原陽性慢性肝炎発症からの経過年数や,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症を理由として B型慢性肝炎自体の症状が悪化しているとの主張については,悪化が一時的なものであって,将来,沈静化する可能性があり,かつ,将来が予想できない以上,固定したものとして認めることができない。 キ以上より,原告らが指摘する点を踏まえても,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別損 害であると評価するには足りない。 ⑹ 原告らは,労災保険法に基づく保険給付に関して,B型肝炎の「治癒」及び「再発」という概念 損害が,HBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別損 害であると評価するには足りない。 ⑹ 原告らは,労災保険法に基づく保険給付に関して,B型肝炎の「治癒」及び「再発」という概念が用いられていること(甲B482の66,67・75,76頁)を根拠として,少なくとも法的観点からは,B型慢性肝炎について,「根治(完治)後の再発」を観念することができるとして,このことが,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害が,最初のHB e抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害であることの根拠に当たる旨を主張する(第2の3⑵(原告らの主張)カ)。 しかしながら,労災保険法は,被災労働者の社会復帰の促進,援護,福祉の増進を図ることなどを目的とするものであって(同法1条),同法の解釈を損害の公平な分担を図る不法行為法にそのまま持ち込むことはできないも のといわざるを得ないから,原告らの主張を採用することはできない。 ⑺ア原告らは,①原告らにおいて,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害を,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時にあらかじめ請求することは客観的に不可能であった,②他方,被告は,平成23年6月に本件基本合意を締結するまで,被害者の救済を怠り,その救済を遅らせてきた,③ その結果,より早くからより長く苦しんだ者ほど権利が保障されないという不条理が生じているなどと主張し,これらの事情を考慮の上,衡平の理念に基づき判断すれば,除斥期間の起算点は,再発後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症時と解すべきであると主張する(第2の3⑵(原告らの主張)キからケまで)。 イしかしながら,①について,原告らの主張が採用できないことは,⑷で説明したとおりである。 また,②の主張は,除斥の起算点として 主張する(第2の3⑵(原告らの主張)キからケまで)。 イしかしながら,①について,原告らの主張が採用できないことは,⑷で説明したとおりである。 また,②の主張は,除斥の起算点として損害の発生時と解する立場を前提とする以上,加害者の態度はこれに影響を与えるものとは解釈できないので採用することができない。 さらに,③の主張は,除斥期間制度や消滅時効制度が存在する以上,避 けることができないので直ちに結論に影響を与えるものではなく採用できない。 ウ原告らの主張①から③までを,除斥規定の適用について信義則違反又は権利濫用による排除を求めるものと理解しても,その主張は採用できない(平成元年最判参照)。 ⑻ 以上のとおり,原告らの主張を検討しても,再燃(再発)後のHBe抗原陰性慢性肝炎の発症によって,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症による損害とは別個の損害が発生したと解することはできないから,原告らの損害賠償請求権の除斥期間の起算点は,HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害も含め,最初のHBe抗原陽性慢性肝炎の発症時と解すべきである。 そして,原告らの診療経過等(第2の2⑵及び⑶)によれば,原告番号482については遅くとも昭和60年10月19日までに,原告番号641については遅くとも同年2月19日までに,それぞれ最初のHBe抗原陽性慢性肝炎を発症したと認められるから,各日が各原告の損害賠償請求権の除斥期間の起算点となる。また,本件訴訟の提起日は,原告番号482について は平成24年6月27日であり,原告番号641については同年10月10日である。 そうすると,原告らは,いずれも,除斥期間の起算点から20年が経過するまでに本件訴訟を提起しなかったことになるから,原告らの損害賠償請求権は り,原告番号641については同年10月10日である。そうすると,原告らはいずれも,除斥期間の起算点から20年が経過するまでに本件訴訟を提起しなかったことになるから,原告らの損害賠償請求権は,除斥期間の経過によって消滅したというほかない(国賠法4条,民法724条後段)。 3 争点⑶(損害額)について判断することを要しない。 4 結論 よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第3部 裁判官大川潤子 裁判官友部一慶 裁判長裁判官小西洋は,転補のため,署名押印できない。 裁判官大川潤子

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