平成28(行ウ)130 退去強制令書発付処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年11月29日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-88283.txt

判決文本文28,153 文字)

平成29年11月29日判決言渡平成28年(行ウ)第130号退去強制令書発付処分取消等請求事件 主文 1 原告Aの訴えに基づき,東京入国管理局長が平成27年10月9日付けで同原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出に は理由がない旨の裁決並びに東京入国管理局主任審査官が同年12月2日付けで同原告に対してした退去強制令書発付処分をいずれも取り消す。 2 原告Bの訴えのうち,前項の裁決及び処分の各取消しを求める部分を却下する。 3 原告Bのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,被告に生じた費用の2分の1と原告Bに生じた費用を同原告の負担とし,被告に生じたその余の費用と原告Aに生じた費用を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 (原告らの請求) 1 東京入国管理局長が平成27年10月9日付けで原告Aに対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。 2 東京入国管理局主任審査官が平成27年12月2日付けで原告Aに対してし た退去強制令書発付処分を取り消す。 (原告Bの請求)被告は,原告Bに対し,10万円を支払え。 第2 事案の概要本件は,ウガンダ共和国(以下「ウガンダ」という。)の国籍を有する外国人男 性である原告Aが,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)所定の 退去強制対象者に該当する(退去強制事由は不法残留)との認定に係る異議の申出には理由がない旨の裁決を受けるとともに,退去強制令書を発付する処 理及び難民認定法(以下「入管法」という。)所定の 退去強制対象者に該当する(退去強制事由は不法残留)との認定に係る異議の申出には理由がない旨の裁決を受けるとともに,退去強制令書を発付する処分を受けたのに対し,①原告A及びその妻である原告Bが,日本人である原告Bと婚姻しているなどの事情が存在するにもかかわらず,原告Aの在留を特別に許可しなかった上記裁決及びこれを前提としてされた上記処分はいずれも違法なものであ ると主張して,これらの各取消しを求めるとともに,②原告Bが,被告に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償として,違法な上記裁決及び上記処分により被ったとする精神的損害を慰謝するための慰謝料10万円の支払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 原告らの身分事項ア原告Aは,1979年(昭和54年)▲月▲日にウガンダにおいて出生した同国の国籍を有する男性である。 イ原告Bは,昭和43年▲月▲日に本邦において出生した日本人女性であり,原告Aの妻である。 ウ原告らは,平成27年▲月▲日,埼玉県C市長に対し婚姻の届出をした。 (争いのない事実,乙2,9)(2) 原告Aの入国及び在留の状況ア原告Aは,平成19年8月22日,関西国際空港(以下「関西空港」という。)に到着し,大阪入国管理局(以下では入国管理局を「入管」という。) 関西空港支局入国審査官から,在留資格「短期滞在」,在留期間「30日」,在留期限「2007年9月21日」の上陸許可の証印を受けて本邦に上陸した。 イ原告Aは,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることな ,在留資格「短期滞在」,在留期間「30日」,在留期限「2007年9月21日」の上陸許可の証印を受けて本邦に上陸した。 イ原告Aは,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく,在留期限である平成19年9月21日を超えて本邦に留まり,不法残留の 状態となった。 (3) 退去強制令書発付処分に至る経緯等ア原告Aは,平成27年▲月▲日,東京入管に出頭し,不法残留の事実を申告するとともに,引き続き本邦に在留することを希望した。 イ東京入管入国警備官は,平成27年2月27日,原告Aが入管法24条4号ロ(不法残留)に該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして, 東京入管主任審査官から収容令書の発付を受けた。 ウ東京入管入国警備官は,平成27年3月5日,上記収容令書を執行して原告Aを収容し,東京入管主任審査官は,同日,原告Aに対し,仮放免を許可した。 エ東京入管入国審査官は,平成27年3月5日,原告Aについて審査を行 った結果,原告Aが入管法24条4号ロに該当し,かつ,出国命令対象者に該当しない旨の認定をし,原告Aにこれを通知した。原告Aは,同日,東京入管特別審理官に対して口頭審理の請求をした。 オ東京入管特別審理官は,平成27年9月17日,原告Aについて口頭審理を行った結果,上記エの認定に誤りがないと判定し,原告Aにその旨を 通知した。原告Aは,同日,入管法49条1項に基づき,法務大臣に対して異議の申出をした。 カ法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長は,平成27年10月9日,上記オの異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同日,東京入管主任審査官にこれを通知し カ法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長は,平成27年10月9日,上記オの異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし,同日,東京入管主任審査官にこれを通知した。 キ東京入管主任審査官は,平成27年12月2日,原告Aに対し,本件裁決を通知するとともに,送還先をウガンダとする退去強制令書を発付する処分(以下「本件退令発付処分」という。)をした。 ク東京入管入国警備官は,平成27年12月2日,上記退去強制令書を執行して原告Aを収容した。 ケ原告Aは,平成28年7月1日,東京入管主任審査官から仮放免の許可 を受け,東京入管収容場を出所した。(乙22,23)(4) 本件訴えの提起原告らは,平成28年3月24日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 2 争点(1) 原告Bが,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める訴えの原告 適格を有するか。(本案前の争点)(2) 本件裁決及び本件退令発付処分の適法性。具体的には,①法務大臣の権限の委任を受けた東京入管局長が本件裁決をするに当たり,原告Aに入管法50条1項4号所定の「特別に在留を許可すべき事情」があるとは認められないとして原告Aの在留を特別に許可しなかったことにつき,その裁量権の範 囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるか否か,及び,②本件裁決に理由付記を欠く違法があるか否か。(本案の争点)(3) 本件裁決及び本件退令発付処分が,原告Bとの関係において国賠法の適用上違法か。(本案の争点) 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(原告Bが,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求め 処分が,原告Bとの関係において国賠法の適用上違法か。(本案の争点) 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点(1)(原告Bが,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める訴えの原告適格を有するか。)について(原告Bの主張の要旨)ア婚姻の自由が法的に保護されていること(ア) 個人の婚姻関係の保護は,憲法24条により,憲法上要請されてい る。憲法24条2項は,国家が婚姻関係の維持発展の妨げとなるような法律を定めることがないように設けられた規定である。また,婚姻した夫婦が同居し協力して生活していくことは,憲法13条の幸福追求権の一内容としても保護されるべきである。 (イ) 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」とい う。)17条により,国家その他の第三者が婚姻関係を侵害することは 禁止されている。 (ウ) 入管法の運用において,外国人の在留中に生じた家族的結合を十分に配慮すべきことは立法者の意思であり,同法は,在留特別許可に関する裁量権を法務大臣に与える際にも,裁量判断の過程で婚姻関係の保護を十分考慮することを予定している。このことは,出入国管理及 び難民認定法の一部を改正する法律(平成16年法律第73号)が成立した際の衆議院法務委員会及び参議院法務委員会の各附帯決議の内容や,法務省入国管理局の「在留特別許可に係るガイドライン」(平成18年10月策定,平成21年7月改訂。以下「ガイドライン」という。)の内容から明らかである。 イ法務大臣の裁決及び退去強制令書発付処分により侵害される法律上の利益の存在本邦に不法滞在している外国人であって日本人と適 う。)の内容から明らかである。 イ法務大臣の裁決及び退去強制令書発付処分により侵害される法律上の利益の存在本邦に不法滞在している外国人であって日本人と適法に婚姻している者について,入管法49条1項の異議の申出には理由がないとして法務大臣の裁決がされ,在留特別許可も付与されないことになると,当該日本人配 偶者は本邦において当該外国人と同居して婚姻生活をすることができなくなり,その結果,当該日本人配偶者に対し,別居生活か,あるいは他国での婚姻生活を受忍することを強いることになる(日本人配偶者の他国への移住が不可能な場合もあり,その場合には別居生活の受忍を強いることになる。)。この点は,退去強制令書発付処分がされた場合も同様である。 このように,法務大臣の上記裁決と退去強制令書発付処分は,本邦に不法滞在する外国人と日本人配偶者の夫婦双方の有する本邦において同居して婚姻生活を営むという具体的な権利利益を侵害するものである。 ウ以上から,本件裁決及び本件退令発付処分は,原告Bの有する婚姻の自由(具体的には,本邦において原告Aと同居して婚姻生活を営むこと)と いう法律上の利益を侵害するものであり,原告Bは,本件裁決及び本件退 令発付処分の各取消しを求める原告適格を有する。 (被告の主張の要旨)ア入管法上,在留特別許可の許否の判断は法務大臣又は法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長(以下「法務大臣等」という。)の極めて広範な裁量にゆだねられており,当該外国人に配偶者や子がいることは,法 務大臣等が入管法49条1項に基づく異議の申出に対する裁決をする際にしんしゃくされる事情の一つにはなり得るが,それを超えるものではない。また られており,当該外国人に配偶者や子がいることは,法 務大臣等が入管法49条1項に基づく異議の申出に対する裁決をする際にしんしゃくされる事情の一つにはなり得るが,それを超えるものではない。また,入管法2条の2,別表第一及び第二所定の在留資格は,入管法が,外国人が行おうとする活動内容又は外国人の地位・身分に応じて,在留中,日本で行い得る活動と在留期間をあらかじめ定めておく制度を採用 していることとの関係で設けられた資格の分類概念であって,外国人の配偶者の地位にある者の権利,利益を保護するための規定ではない上,上記裁決及び退去強制令書発付処分の関係条項でもない。そのほか,外国人の配偶者の地位にある者の婚姻関係上の権利,利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解される法の規定やこれと目的を同じくする関係法令の規 定は存しない。 よって,裁決及び退去強制令書発付処分の関係法令が上記婚姻関係上の権利,利益を保護すべきものとする趣旨を含むとは解されず,行政事件訴訟法9条2項に掲げられた各事項を十分に参酌,勘案しても,入管法49条1項に基づく異議の申出は理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付 処分との関係において,外国人の配偶者が,行政事件訴訟法9条1項に規定する「法律上の利益を有する者」であるとは認められない。 イ以上によれば,原告Bは,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求めるにつき法律上の利益を有しているとはいえず,原告適格を有しない。 (2) 争点(2)(本件裁決及び本件退令発付処分の適法性)について (原告らの主張の要旨) ア法務大臣等の裁量権に対する制約広範な行政裁量であっても,一般的な行政原則及び法の一般原則 適法性)について (原告らの主張の要旨) ア法務大臣等の裁量権に対する制約広範な行政裁量であっても,一般的な行政原則及び法の一般原則による制約を受けるものであって,行政庁の行政行為において,重大な事実誤認,目的違反ないし動機違反,比例原則違反,平等原則違反,信義則違反等の事情がある場合には,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとし て違法になる。 イ在留特別許可が付与されるべき事情(原告Bとの婚姻)原告らは,平成24年8月に本邦で出会い,交際を経て,平成27年▲月▲日に婚姻した。原告らは,以後,夫婦として同居生活をしている。 ウ実体上の違法事由 (ア) 比例原則違反原告らの婚姻は保護されるべきであり,原告Aが退去強制されることによる婚姻に対する侵害は著しい。したがって,原告Aに在留特別許可を付与せずに退去強制することは,比例原則に違反する。 (イ) 事実誤認 裁決行政庁は,原告Aが,在留資格取得目的で原告Bと婚姻した旨認定し,原告らの同居に疑いを抱いて,同居事実を判断の前提としなかった。これらは事実誤認である。 (ウ) 平等原則違反法務省入国管理局は,ガイドラインを策定して公表しているほか,ガ イドラインを踏まえた審査の標準例として,「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」との表題の下にまとめた事例集(以下「公表事例」という。)を同局ホームページで公表しているところ,ガイドラインは,法務省入国管理局長が平成21年7月10日付けで発出した「在留特別許 た事例について」との表題の下にまとめた事例集(以下「公表事例」という。)を同局ホームページで公表しているところ,ガイドラインは,法務省入国管理局長が平成21年7月10日付けで発出した「在留特別許可に係るガイドラインの見直しについて」と 題する通達(地方入国管理局長及び地方入国管理支局長に対し,異議申 出があった場合の裁決及び在留特別許可の許否の決定はガイドラインを踏まえて行うよう指示するもの)によって示された裁量基準として,平等原則を介して法務大臣等の判断を拘束するものであり,公表事例も,審査基準としての機能が期待されているものである。 そして,ガイドラインに示された考慮要素と上記標準例に照らして判 断すれば,原告Aには在留特別許可が付与されるべきであった。具体的には,原告Aは日本人である原告Bと婚姻し,夫婦として8か月間共同生活をし,相互に協力して扶助をしていたものであり,公表事例における在留特別許可された事例と比較しても,婚姻の安定性,成熟性を否定する要素はなく,これは特に考慮する積極要素に当たる。また,原告A は,不法滞在者であることを申告するため自ら地方入国管理官署に出頭しており,これは積極要素に当たる。他方,消極要素は特にない。 この点,ガイドラインは,不法滞在が長期にわたるという事情について消極要素には挙げず,むしろ「当該外国人が,本邦での滞在期間が長期間に及び,本邦への定着性が認められること」を積極要素として挙げ ており,原告Aの不法滞在期間が長期にわたることを消極要素と評価する裁決行政庁の考え方は,ガイドライン及び公表事例の示す考え方に沿わないことが明らかである。また,ガイドラインは,不法就労や外国人登録法(以下「外登法」という。なお,外登法は ことを消極要素と評価する裁決行政庁の考え方は,ガイドライン及び公表事例の示す考え方に沿わないことが明らかである。また,ガイドラインは,不法就労や外国人登録法(以下「外登法」という。なお,外登法は,平成24年7月9日に廃止された。)違反を消極要素として考慮することは予定していないと 解すべきである。 以上からすれば,裁決行政庁は,ガイドライン及び公表事例を踏まえず,これに沿わない考え方に基づいて原告Aに在留特別許可を付与しなかったものであり,その判断は,平等原則に違反する。 (エ) 信義則違反 法務省は,ガイドラインを裁量基準として作成しただけでなく,ウェ ブサイトで公表し,またガイドラインの運用上の判断事例である公表事例をも公表し,これによって,在留特別許可を受け得る期待を抱いた不法滞在者が出頭することを促した。外国人の自主出頭を促すべく公表された基準(ガイドライン)や同基準に沿って許可された実例(公表事例)を知り,自らも同様の基準に沿って審査されるであろうという予見に基 づいて自主出頭した者に対して,合理的理由なく,異なる基準によって審査することは,信義則に違反する。 したがって,自主出頭した原告Aについて,ガイドラインと異なる基準で審査をして在留特別許可を付与しなかった本件裁決は,信義則に違反する。 エ手続上の違法事由(理由付記の不備)本件裁決に係る裁決・決定書(乙18)には,在留特別許可に関する決定の理由として「在留を特別に許可すべき事情は認められない。」としか記載されていない。このような理由の記載では,裁量基準であるガイドラインがありながら,これをどのように適用したのかが全く示 関する決定の理由として「在留を特別に許可すべき事情は認められない。」としか記載されていない。このような理由の記載では,裁量基準であるガイドラインがありながら,これをどのように適用したのかが全く示されていない上, 仮に本件でガイドラインが適用されず他の判断基準が適用されたのであれば,その不適用の合理的理由が示されなければならない。これを欠く本件裁決は,理由付記を欠くものとして違法である。 オ被告の主張に対する反論(ア) 婚姻の安定性・成熟性について a 公表事例の内容に照らせば,ガイドラインの運用上,8か月の婚姻期間の婚姻が安定性,成熟性を欠くものとは扱われていない。本件裁決までの婚姻期間が8か月では安定かつ成熟した婚姻関係とはいえないとする被告の主張は失当である。 b 原告Aの婚姻理由は在留資格取得目的であるとの主張は否認する。 原告Bに当初結婚意思がなかったのは,「夫が結婚したいと何度も言 ってくれたことにより,私がこの年齢でも結婚できるという選択肢があることを夫が気付かせてくれました」(乙9・9頁)と供述するように,男性を愛して同居しても,年齢的に,結婚までは高望みだという考えがあったからである。被告が指摘する原告Bの供述は,婚姻の目的が在留資格取得であったことを示すものではない。原告らの婚姻は, 原告らの真摯な愛情を基盤としている。 c 原告らが夫婦として同居していたことは,原告らの出頭時の提出書類(乙5の1,6),原告らの一致した供述(乙8,9),原告らの住所(乙2,10)及び原告Aが収容されていた時期に原告らの自宅に残されていた同居の痕跡(甲1)から明らかである。 らの出頭時の提出書類(乙5の1,6),原告らの一致した供述(乙8,9),原告らの住所(乙2,10)及び原告Aが収容されていた時期に原告らの自宅に残されていた同居の痕跡(甲1)から明らかである。 (イ) 送還による支障について原告Aは,過去7年以上を日本で生活しており,ウガンダに生活の基盤はない。原告Bがウガンダの社会に適応することに大きな支障があることはもちろん,原告Bは日本に子がいる。原告Aの送還は,原告Bとの離別を強制するか,原告Bとその子との断絶を強制するものであり, 特段の支障がある。 カ原告らの主張のまとめ以上から,本件裁決は,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であり,理由付記を欠くものとしても違法である。そして,違法な本件裁決を前提とする本件退令発付処分も違法である。 (被告の主張の要旨)ア在留特別許可に関する法務大臣等の裁量権の範囲在留特別許可の許否の判断には法務大臣等の極めて広範な裁量権が認められていることから,その判断の適否に関する司法審査の在り方は,法務大臣等と同一の立場に立って在留特別許可をすべきであったか否かを判 断するのではなく,法務大臣等の第一次的な裁量判断が存在することを前 提として,同判断が裁量権を付与した目的を逸脱し又はこれを濫用したと認められるかどうかを判断すべきである(行政事件訴訟法30条参照)。在留特別許可をしない判断が裁量権の逸脱又はその濫用に当たるとして違法となり得るのは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお在留を認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこ れが看過されたなど, 量権の逸脱又はその濫用に当たるとして違法となり得るのは,法律上当然に退去強制されるべき外国人について,なお在留を認めなければならない積極的な理由があったにもかかわらずこ れが看過されたなど,在留特別許可の制度を設けた入管法の趣旨に明らかに反するような極めて特別な事情が認められる場合に限られる。この特別な事情の主張立証責任は原告側にある。 イ在留状況の悪質性原告Aの在留状況は,以下のとおり,悪質であって出入国管理行政上看 過することができず,在留特別許可の許否の判断における重要な消極要素として考慮されるべきである。 (ア) 不法残留は,入管法70条1項5号又は8号によって処罰の対象となる違法行為であり,その行為自体が我が国の出入国管理制度の秩序を乱すものであって,重要な国家・社会の法益を侵害する悪質な行為 であるところ,原告Aは,平成19年8月22日に,関西空港において,在留資格「短期滞在」及び在留期間「30日」の上陸許可の証印を受けて本邦に上陸したが,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく,在留期限である同年9月21日を超えて不法残留し,平成27年▲月▲日に東京入管に出頭するまでのおよそ7年4月 もの長期間,本邦に不法残留した。原告Aは,来日前から不法残留することを企図していた上,不法残留についての原告Aの認識に照らし,その遵法精神は著しく欠如しているといわざるを得ない。 (イ) 原告Aは,本邦入国直後から東京入管に出頭する直前まで,千葉県内や埼玉県内で自動車や自転車,機械の解体作業員や,自転車の修理 工として稼働し続け,1日当たり1万円,あるいは1か月当たり10 万円前後の収入を得るという不法就労に従事した。 県内や埼玉県内で自動車や自転車,機械の解体作業員や,自転車の修理 工として稼働し続け,1日当たり1万円,あるいは1か月当たり10 万円前後の収入を得るという不法就労に従事した。 (ウ) 原告Aは,外登法3条1項により入国後90日以内に新規登録申請をすべき義務を負っていたのに,同申請を行わず,その義務に違反した。 ウ原告Bとの関係が格別有利にしんしゃくすべき事情に当たらないこと (ア) 入管法は,在留特別許可の許否の判断において,日本人の配偶者がいる外国人について,そうでない外国人と区別して一律に特別の扱いをすべき法的地位を付与しているものとは解されず,上記のとおり,在留特別許可に関する法務大臣等の裁量権の範囲が極めて広範なものであること等に鑑みると,退去強制事由のある外国人に日本人の配偶 者がいることは,法務大臣等が当該外国人に対して在留を特別に許可すべきか否かの判断をする際にしんしゃくされる事情の一つとはなり得るものの,同配偶者との婚姻関係の存在が,法務大臣等の裁量権の行使に対する制約となると解することはできない。 (イ) また,原告らの関係は,原告Aの不法残留という違法状態の上に築 かれたものであり,原告らは,原告Aが本来退去強制されるべき立場にあることを知りながら婚姻を成立させたものであるから,原告らの婚姻関係は法的保護に値しない。 (ウ) さらに,以下の事情に照らせば,本件裁決までの原告らの交際及び同居の状況を考慮しても,本件裁決の時点において,原告らの関係は, 安定かつ成熟した夫婦と同様のものであったとまではいえないから,実質的にみても保護すべき必要性が低い。 a 原告らが平成2 ても,本件裁決の時点において,原告らの関係は, 安定かつ成熟した夫婦と同様のものであったとまではいえないから,実質的にみても保護すべき必要性が低い。 a 原告らが平成26年4月頃から同居を始めたという原告らの供述を前提としても,本件裁決(平成27年10月9日)までの同居期間は約1年半にとどまり,本件裁決までの形式的な婚姻期間をみても,僅 か8か月程度である。 b 原告らは,平成24年8月か9月頃に出会い,同年10月頃から交際を開始したというが,交際開始当時,原告Bは日本人男性と婚姻中であり,原告らの関係は,平成26年▲月▲日に原告Bが前夫と離婚するまでの約1年半は不倫関係であった。原告Bは,離婚する直前まで前夫及び実子と同居していた。 c 原告らは,原告Bの待婚期間が経過する前後の平成26年▲月頃に結婚に合意し,結婚準備に着手したと供述しているが ,「当初は夫と結婚することには全くこだわっておらず,一緒に生活できればいいと思っていました」(乙9・8~9頁),「私には待婚期間があったことと,具体的にどのような手続をすべきか分からなかった」 (乙9・9頁)などの原告Bの供述の内容からすれば,原告Bには,待婚期間経過後すぐに原告Aと結婚しようという積極的な結婚意思はなかったことがうかがえる。また,原告Bが,原告Aが当初から婚姻にこだわっていた理由について,「夫の友人が日本人女性と結婚してビザを持っているので,夫もビザが早くほしかったから結婚にこだわって いたのではないかと思」うと述べている(乙9・9頁)などの原告Bの供述の内容に照らせば,原告Aの原告Bとの婚姻理由は本邦での在留資格取得 しかったから結婚にこだわって いたのではないかと思」うと述べている(乙9・9頁)などの原告Bの供述の内容に照らせば,原告Aの原告Bとの婚姻理由は本邦での在留資格取得目的であるとも考えられ,原告Aは,原告Bと結婚して入管に出頭すれば在留特別許可が付与されることを期待して,原告Bに執拗に結婚を申し込み,原告Bも原告Aの目的を承知の 上で,その目的に加担して,結婚準備に着手し,婚姻したものであることが強く疑われる。 d 原告Aは,平成27年2月18日に行われた違反調査において,同年1月26日まで日雇いで自転車や機械を解体する仕事をし,一日当たり約1万円の収入を得ていた旨供述している(乙8・7頁)のに対 し,原告Bは,同日に行われた事情聴取において,「夫は友人からビザ がないので仕事を辞めるよう言われてようで(原文ママ),1年くらい前に仕事を辞め,現在は一切仕事はしていません。」(乙9・8頁),「夫については,先ほどもお話ししたとおり,1年前から無職で,掃除と洗濯は夫がしてくれています。」(乙9・10頁)と供述し,原告Aの稼働期間について,原告らの供述が齟齬しているところ,平成26年 4月頃から同居し,生計を共にしていたとする原告らの間にこのような供述の齟齬があること自体,不自然不合理と言わざるを得ず,原告らが平成26年4月頃から同居していたという前提においても疑う余地がある。 (エ) 以上から,原告Bとの関係は,原告Aに対する在留特別許可の許否 の判断において格別有利にしんしゃくすべき事情とはなり得ない。 エ原告Aの送還に特段の支障はないこと原告Aは,ウガンダで生まれ育ち,同国の大学を卒業後,平成19年 の判断において格別有利にしんしゃくすべき事情とはなり得ない。 エ原告Aの送還に特段の支障はないこと原告Aは,ウガンダで生まれ育ち,同国の大学を卒業後,平成19年8月22日に来日するまで,スポーツ専門の記者として生計を営んでいたこと等から,原告Aが本国に帰国しても稼働して生活することは十分に可能 である。また,原告Aの来日後も良好な関係を維持している父親が本国に在住しており,原告Aが本国に帰国した後,父親から経済援助を受けたり,父親の下で稼働したりして自活することが可能である。さらに,原告Aの供述によれば,原告Bは,ウガンダで原告Aと共に生活することも視野に入れている様子がうかがえる。 したがって,原告Aをウガンダに送還することに特段の支障はない。 オガイドラインに係る原告らの主張について在留特別許可は,諸般の事情を総合的に考慮した上で個別的に決定されるべき恩恵的措置であって,その許否の判断を拘束する行政先例ないし一義的,固定的基準は存在しない。このことは,入管法が,在留特別許可を 付与すべき要件を何ら具体的に規定せず,その判断を法務大臣等の裁量に 任せ,その裁量権の範囲を広範なものとした趣旨からも明らかである。 そして,法務省入国管理局は,平成21年7月にガイドラインの改訂を行ったところ,改訂後のガイドラインでは,改訂前のガイドラインに掲げられていた積極要素及び消極要素のほかに,新たにそれぞれの要素を「特に考慮する積極要素」と「その他の積極要素」,「特に考慮する消極要素」 と「その他の消極要素」に分類・整理し,在留特別許可の許否の判断を行うに当たっての考え方を示し,「在留特別許可方向」又は「退去方 慮する積極要素」と「その他の積極要素」,「特に考慮する消極要素」 と「その他の消極要素」に分類・整理し,在留特別許可の許否の判断を行うに当たっての考え方を示し,「在留特別許可方向」又は「退去方向」で検討するそれぞれの例を複数掲載するなど,更なる透明化を図っているものの,その冒頭において,改訂前のガイドラインと同様に,「在留特別許可の許否の判断に当たっては,個々の事案ごとに,在留を希望する理由,家族 状況,素行,内外の諸情勢,人道的な配慮の必要性,更には我が国における不法滞在者に与える影響等,諸般の事情を総合的に勘案して行う」と記載され,改訂後のガイドラインも,在留特別許可に係る基準ではなく,当該許可の許否判断に当たり考慮する事項を例示的に示したものにすぎないことを明らかにしている。 したがって,仮に,ガイドラインに例示された「積極要素」に該当する事情があったとしても,それをどの程度重視するかは法務大臣等の裁量に委ねられており,更には,他の例示されていない事項についても考慮することができるのであるから,原告Aに当然に在留特別許可を付与すべきであるということにはならず,まして,在留特別許可をしなかったことが法 務大臣等に与えられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用になるということもない。 また,法務省入国管理局が公表している公表事例は,法務大臣等が諸般の事情を総合的に考慮した結果として在留特別許可を付与した事例のごく一部を抽象化して公表しているにすぎないことから,法務大臣等が行っ た在留特別許可の許否の判断が違法であるか否かを論ずるに当たっての 判断準則にはなり得ず,また,単に在留特別許可を付与されたほかの事例と比較して状況等が似ているといった事情をもって,平等原則 在留特別許可の許否の判断が違法であるか否かを論ずるに当たっての 判断準則にはなり得ず,また,単に在留特別許可を付与されたほかの事例と比較して状況等が似ているといった事情をもって,平等原則に反するということはできない。 以上によれば,ガイドラインに関する原告らの主張は,ガイドラインの理解を誤るものであり,理由がない。 カ理由付記について入管法施行規則43条1項所定の裁決・決定書は,法務大臣の慎重,適正な判断を期するための内部文書にすぎず,容疑者に対して手続的利益を保障したものではない。この点,平成13年法務省令76号による改正前の入管法施行規則43条所定の裁決書が作成されていない事案について, 最高裁平成18年10月5日第一小法廷判決・集民221号403頁は,同裁決書の不作成は,入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決及びその後の退令発付処分の取消事由に当たらない旨判示している。このように,裁決書の不作成は違法事由とはならないのであって,これと同じく内部文書にすぎない裁決・決定書の理由の記載についても, 同様に違法事由となるものではない。なお,外国人の出入国に関する処分については,行政手続法3条1項10号により,不利益処分の理由の提示に関する同法14条は適用されず,また,処分基準の設定等に関する同法12条も適用されないのであるから,これらの規定の適用を前提として理由付記の不備の違法を論ずることはできない。 よって,本件裁決が理由付記を欠き違法であるとする原告らの主張は理由がない。 キ被告の主張のまとめ以上を総合すると,原告Aの在留を特別に許可しなければ入管法の趣旨に反するような極 理由付記を欠き違法であるとする原告らの主張は理由がない。 キ被告の主張のまとめ以上を総合すると,原告Aの在留を特別に許可しなければ入管法の趣旨に反するような極めて特別な事情があるとは認められず,本件裁決は,そ の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえない。また,本 件裁決に理由付記を欠く違法はない。 よって,本件裁決は適法であり,そうである以上,本件裁決の通知を受けた主任審査官がした本件退令発付処分も当然に適法である。 (3) 争点(3)(本件裁決及び本件退令発付処分が,原告Bとの関係において国賠法の適用上違法か。)について (原告Bの主張の要旨)原告Bは,夫である原告Aが,本件裁決によって在留特別許可を受けられず,本件退令発付処分によって送還される立場に置かれたことで,精神的苦痛を受けた。 本件裁決及び本件退令発付処分が違法であることは争点(2)で主張したと おりであるところ,裁決処分庁は,事実誤認に基づいて裁決を行ったか,あるいはガイドラインに沿わない判断を行ったものであり,この点において注意義務違反は明らかである。そして,公務員の違法な行為によって損害を被った原告Bは,裁決又は処分の名宛人でなくとも当然に国家賠償請求ができる(公務員の職務義務が被害者との関係上の法的義務でなければ国賠法1条 1項の違法に該当しないとする見解には根拠がないが,仮にかかる見解を採ったとしても,争点(1)で主張したとおり,在留特別許可の許否の判断においては外国人の配偶者である者の婚姻の自由も保護される利益であるから,裁決行政庁は原告Bに対して職務上の義務を負っていると解される。)。 主張したとおり,在留特別許可の許否の判断においては外国人の配偶者である者の婚姻の自由も保護される利益であるから,裁決行政庁は原告Bに対して職務上の義務を負っていると解される。)。 したがって,本件裁決及び本件退令発付処分は,原告Bとの関係において 国賠法の適用上違法であり,被告は,原告Bに対し,慰謝料10万円(原告Bの精神的損害の賠償に要する額は10万円を超えるところ,内金として請求する。)の賠償義務を負う。 (被告の主張の要旨)本件裁決及び本件退令発付処分が国賠法上違法と評価されるのは,東京入 管局長及び東京入管主任審査官が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすこ となく漫然と本件裁決及び本件退令発付処分をしたと認められるような事情がある場合に限られる。 この点,争点(2)で主張したとおり,本件裁決及び本件退令発付処分はいずれも適法であるから,これらが国賠法上違法となる余地はない。また,原告Bは,本件裁決及び本件退令発付処分の行政処分としての違法を主張するに すぎず,東京入管局長ないし東京入管主任審査官が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件裁決及び本件退令発付処分をしたと認められるような事情について,何ら主張立証をしていない。 したがって,本件裁決及び本件退令発付処分が国賠法の適用上違法であるとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(原告Bが,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める訴えの原告適格を有するか。)について(1) 判断枠組み行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するところ,同 条1項にいう当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき「 適格を有するか。)について(1) 判断枠組み行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するところ,同 条1項にいう当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処分又は裁決により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分又は裁決を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的 利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分又は裁決によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分又は裁決の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。 そして,処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有 無を判断するに当たっては,当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文 言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してさ れた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項参照)。 (2) 本件における検討前提事実(3)カ,キによれば,本件裁決及び本件退令発付処分は,いずれも原告Aを相手方としてされたものであると 勘案すべきものである(同条2項参照)。 (2) 本件における検討前提事実(3)カ,キによれば,本件裁決及び本件退令発付処分は,いずれも原告Aを相手方としてされたものであると認められ,原告Bが本件裁決及び 本件退令発付処分の相手方であると認めるべき法令上の根拠は見当たらない。 そこで,上記(1)の見地から,原告Bが,本件裁決及び本件退令発付処分の相手方以外の者として,これらの取消しを求める原告適格を有するか否かを検討する。 ア根拠法令の趣旨,目的等 国際慣習法上,国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかを,当該国家が自由に決定することができるものとされているから,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引 き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解すべきであるところ(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照),入管法50条1項に基づく在留特別許可に関し,同項4号におい て「特別に在留を許可すべき事情」が概括的に記載され,その判断基準が 特に定められていないのは,事柄の性質上,外国人の出入国の管理の目的である国内の治安と善良な風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地に立って,当該外国人の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情をしんしゃくし,時宜 風俗の維持,保健・衛生の確保,労働市場の安定等の国益の保持の見地に立って,当該外国人の一切の行状,国内の政治・経済・社会等の諸事情,国際情勢,外交関係,国際礼譲など諸般の事情をしんしゃくし,時宜に応じた的確な判断をするため,その判断を出入国管 理行政の責任を負う法務大臣の判断に任せ,その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。 このように,在留特別許可の許否に関する判断が法務大臣等の広範な裁量に委ねられていることに加え,入管法には,上記判断において,日本人の配偶者がいる外国人を特別に取り扱うべきことを定めた規定等が見当 たらないことからすれば,退去強制事由のある外国人に日本人の配偶者がいることは,在留特別許可の許否の判断において,積極的にしんしゃくされる事情の一つにはなり得るものの,当然に保護されるべき法的利益として考慮されるものではないというべきである。 この点,原告は,入管法の運用において,外国人の在留中に生じた家族 的結合を十分に配慮すべきことは立法者の意思であるとし,ガイドラインにもその旨の内容が記載されていることを指摘するが,在留特別許可の上記のような趣旨に照らせば,これらは,入管法の運用において,日本人の配偶者がいることが事実として考慮されるべき事項であることを示すにとどまるものと解される。 なお,入管法が定める種々の在留資格(入管法2条の2,別表第一及び第二)は,同法が,外国人の地位・身分に応じて,在留中,本邦において行い得る活動と在留期間をあらかじめ定めておく制度を採用していることとの関係で必要となる分類概念であって,外国人の配偶者の地位にある者の権利又は利益を保護するために定められたものではない上,入管法4 9条1 留期間をあらかじめ定めておく制度を採用していることとの関係で必要となる分類概念であって,外国人の配偶者の地位にある者の権利又は利益を保護するために定められたものではない上,入管法4 9条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決及び退去強制令書発 付処分をすることを制約する規定でもないことは明らかである。 また,入管法が第5章において規定する退去強制の手続は,同法24条各号の退去強制事由に該当する外国人を国外に退去させるための手続であって,退去強制対象者に該当するとの入国審査官の認定に対して同法48条1項に基づく口頭審理の請求をする権利や,上記認定に誤りがないと の特別審理官の判定に対して同法49条1項に基づく異議の申出をする権利は,これらの規定の文理上,容疑者,すなわち,退去強制事由に該当すると思料される外国人に与えられていることが明らかであり,当該外国人の配偶者その他の第三者は,上記の手続に関与することが事実上あるにせよ,その手続への関与や不服申立てが当然に認められると解すべき法令 上の根拠は見出し難い。 以上のとおり,上記裁決及び退去強制令書発付処分との関係において,これらの名宛人である外国人の配偶者の婚姻関係上の権利又は利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解される入管法及びその関係法令の規定は見当たらない。 イ利益の内容及び性質等原告Bは,個人の婚姻の自由や婚姻関係は,憲法24条,13条,自由権規約17条により法的に保護されている旨主張する。 この点,婚姻の自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らして十分尊重に値するといえるし,また,婚姻の自由が幸福追求権を規定する憲法13条 の保障に含まれると解する る旨主張する。 この点,婚姻の自由は,憲法24条1項の規定の趣旨に照らして十分尊重に値するといえるし,また,婚姻の自由が幸福追求権を規定する憲法13条 の保障に含まれると解する余地はあるとしても,他方において,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないことは上記アのとおりであるから,上記のような憲法の規定が存在することをもって,退去強制事由のある外国人の配偶者が本邦において 当該外国人と婚姻生活を営む利益が,当然に保障されるべきものとされてい るとまで解することはできない。 また,上記アのとおり,国際慣習法上,国家は,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付すかを自由に決定することができるものとされているところ,自由権規約にはかかる国際慣習法上の原則を排斥する旨の規定が存在せず, かえって,締約国が法律に基づいて行われた決定によって外国人をその領域から追放することができる旨を定めていること(13条参照)からすれば,自由権規約は,上記の国際慣習法上の原則を変更するものとは解されず,自由権規約17条の規定は,退去強制事由のある外国人の配偶者の婚姻関係上の利益を当然に保護すべき旨を定めたものであると解することはできない。 (3) 以上説示したところからすれば,本件裁決及び本件退令発付処分の根拠法令等の趣旨及び目的並びに当該処分等において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮したとしても,原告Bは,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たるとは認められず,これらの び目的並びに当該処分等において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮したとしても,原告Bは,本件裁決及び本件退令発付処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たるとは認められず,これらの取消しを求める訴えの原告適格を有しないものというべきである。 よって,本件訴えのうち,原告Bにおいて本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める部分は,不適法であり,却下を免れない。 2 認定事実前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(争いのない事実を含む。)。 (1) 原告Aの来歴,不法残留に至る経緯,本邦在留中の稼働状況等ア原告Aは,1979年(昭和54年)▲月▲日にウガンダにおいて出生した同国の国籍を有する男性である。(前提事実(1)ア)原告Aは,本国で,2004年(平成16年)10月頃にD大学を卒業した後,スポーツの記事を書いて新聞社に寄稿するジャーナリストとして 働いていた。原告Aは,来日前,当時住んでいたαの治安情勢が悪いこと を理由として,ウガンダを出て他国に行きたいと考えていたところ,2007年(平成19年),大阪市で開催された世界陸上大会について記者として取材をするため,来日することとなった。(甲13,乙8,15,原告A本人)イ原告Aは,平成19年8月22日,関西空港に到着し,在留資格「短期 滞在」,在留期間「30日」,在留期限「2007年9月21日」の上陸許可の証印を受けて本邦に上陸した。原告Aは,この上陸の当初からウガンダへ帰国する意思はなく,今回の来日を契機にしばらく本邦で生活しようと考えていたところ,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく,上記 本邦に上陸した。原告Aは,この上陸の当初からウガンダへ帰国する意思はなく,今回の来日を契機にしばらく本邦で生活しようと考えていたところ,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく,上記在留期限を超えて本邦に留まり,不法残留の状態となった。 (前提事実(2),甲13,乙8,15,原告A本人)ウ原告Aは,上記陸上大会の取材を終えると,あらかじめ連絡先を把握していた千葉県に住むウガンダ人男性甲に連絡を取り,大阪市から千葉県に移動し,平成19年9月末頃から約2年間にわたり甲の住居に住み,甲又は甲の知人が行う自転車,自動車や機械を解体する仕事に従事して稼働し, 平均して月額10万円程度の収入を得ていた。原告Aは,平成21年9月末頃に埼玉県C市に住むウガンダ人の友人乙の住居に移ると,同県内において,自転車や機械を解体する日雇いの仕事や,自転車の修理をするアルバイトに従事して稼働し,1日当たり1万円程度の収入を得ていた。原告Aは,こうした稼働を,東京入管に出頭する平成27年▲月▲日の直前の 時期まで続けていた。(甲13,乙5の1,7,8,15,原告A本人)エ原告Aは,本邦上陸後,外登法3条1項に基づく新規登録申請をしていない。(争いのない事実)(2) 原告らの交際の経過,婚姻に至る経緯等ア原告Bは,自身が24歳の時に婚姻した日本人男性(以下「前夫」とい う。)との間に長女及び二女をもうけたが,平成8年頃から前夫とはいわゆ る家庭内別居の状態にあった。(甲14,乙9)イ原告Bは,平成18年ないし19年頃から埼玉県C内の公民館において,ボランティアとして外国人向けの日本語教室で日本語を教える活動をしていたところ,平成24年7月頃, 甲14,乙9)イ原告Bは,平成18年ないし19年頃から埼玉県C内の公民館において,ボランティアとして外国人向けの日本語教室で日本語を教える活動をしていたところ,平成24年7月頃,原告Aがその日本語教室に通い始めたことをきっかけとして,原告らは互いの存在を知るようになった。原告B は外国人の子どもを対象とするクラスを受け持ち,原告Aは原告Bの生徒ではなかったものの,同年9月頃,遅刻した原告Aが原告Bのクラスで学び,原告らは会話をするようになった。 原告Aが原告Bに好意を持ち,同年9月ないし10月頃に原告Bを外食に誘ったことから原告らは日本語教室外でも話をする関係となり,同年1 0月頃,原告Aが原告Bに男女としての交際を申し込んだ。原告らは,同年11月ないし12月頃,当時の原告Aの居宅において肉体関係を持ち,交際する関係となった。原告らは,その後,携帯電話のLINE等でやり取りをするほか,原告Bにおいて,前夫,長女及び二女と同居しながら,週に2回程度,自宅から車で5分程度の距離にあった当時の原告Aの居宅 に行き,原告Aのための食事を作るなどして交際を続けた。(以上につき,甲13,14,乙8,9,原告A本人,原告B本人)ウ原告Aは,交際開始後,原告Bに対して結婚してほしい旨の希望を度々伝えたが,原告Bは,原告Aに対し,二女が高校を卒業するまで(平成26年3月がその卒業時期に当たる。)は,前夫と離婚しないし,原告Aと同 居することもできないと伝えていた。もっとも,原告Bは,原告Aが日頃から当時の居宅(アパート)を退去したいと言っていたことに加え,二女が高校を卒業すれば前夫と別居して原告Aと同居しようとの考えがあったことから,平成25年3月頃,原告Aと同居するための物件 Aが日頃から当時の居宅(アパート)を退去したいと言っていたことに加え,二女が高校を卒業すれば前夫と別居して原告Aと同居しようとの考えがあったことから,平成25年3月頃,原告Aと同居するための物件(原告らの肩書住所地の物件。以下「本件転居先物件」という。)を探して原告B名義 で賃貸借契約を締結し,同年3月ないし4月頃,原告A一人が同物件に転 居して生活を始めた。(甲13,14,乙8,9,原告A本人,原告B本人)エ原告Bは,平成25年2月ないし3月頃,上記賃貸借契約の締結に先立ち,原告Aを同居人として申告するために住民票の取得又は外国人登録証の提示を求めたところ,原告Aから同人が不法滞在していることを打ち明けられ,その事実を知るに至った。(甲14,乙6,9,原告A本人,原告 B本人)オ原告Bは,平成26年4月1日頃に本件転居先物件に転居して原告Aとの同居を開始し,同月21日,前夫と協議離婚した。(乙2,9,原告B本人)カ原告Bは,原告Aとの同居を開始する際,必ずしも婚姻という形式には こだわらず,一緒に暮らすことができればそれでよいと考えていたが,同居開始後,改めて原告Aの人となりに触れ,将来にわたり原告Aと一緒にいたいのであれば婚姻という形式をとるのが自然であると思い直し,原告Aと婚姻したいという気持ちを抱くようになった。原告Aは,平成26年▲月頃,原告Bに対して正式に婚姻の申込みをし,原告Bはこれを承諾し た。(甲13,14,乙8,9,原告B本人)キ原告らは,平成27年▲月▲日,埼玉県C市長に対し婚姻の届出をした。 (前提事実(1)ウ)ク原告Bは,クリーニング工場の契約社員(事務職)として週5日働き,月額18万円程度 キ原告らは,平成27年▲月▲日,埼玉県C市長に対し婚姻の届出をした。 (前提事実(1)ウ)ク原告Bは,クリーニング工場の契約社員(事務職)として週5日働き,月額18万円程度の給与を得ており,これを食費,光熱費等の生活費に充て ている。原告らの住居の家賃については,原告Aの預貯金をその支払に充てている。(甲14,乙9)(3) 原告Aの出頭申告及びその後の状況ア原告らは,平成27年▲月▲日,上記(2)キのとおり婚姻の届出をした上,東京入管に出頭し,原告Aにおいて係官に対し不法残留の事実を申告した。 (前提事実(3)ア,甲14,乙7) イ原告Aは,平成27年12月2日から平成28年7月1日までの間,退去強制令書に基づき東京入管収容場に収容されていたところ,その収容中,原告らは毎日一,二回の頻度で電話をしたほか,原告Bは,週に1回は仕事を休んで東京入管に赴き,原告Aと面会した。(前提事実(3)ク,ケ,甲13,14,乙23,原告A本人,原告B本人) 3 争点(2)(本件裁決及び本件退令発付処分の適法性)について(1) 在留特別許可に関する法務大臣等の裁量について上記1(2)アで説示したとおり,憲法上,外国人は,我が国に入国する自由を保障されているものでないことはもちろん,在留の権利ないし引き続き在留することを要求し得る権利を保障されているものでもないと解すべきであ り,入管法50条1項に基づく在留特別許可に関し,同項4号において「特別に在留を許可すべき事情」が概括的に記載され,その判断基準が特に定められていないのは,その判断を出入国管理行政の責任を負う法務大臣の判断に任せ,その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨か おいて「特別に在留を許可すべき事情」が概括的に記載され,その判断基準が特に定められていないのは,その判断を出入国管理行政の責任を負う法務大臣の判断に任せ,その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からであると解される。 もっとも,上記の法務大臣の判断は,その裁量権の性質に鑑み,その判断 の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断が全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等によりその判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合には,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして,違法になるものと解される。 以上の理は,法務大臣の権限の委任を受けた地方入国管理局長についても,別異に解する理由はない。 (2) 本件裁決に係る裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無以下,原告Aの在留を特別に許可しなかった本件裁決における判断につき,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるか否かを検討する。 ア退去強制事由該当性 前提事実(2)によれば,原告Aは,入管法24条4号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当する。そうすると,原告Aは,原則として本邦から当然に退去させられるべき法的地位にあるということができる。 イ在留状況について認定事実(1),(3)アによれば,原告Aは,平成19年8月22日に「短 期滞在」の資格で本邦に上陸しながら,在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく不法残留に及んだものであるところ,その不法残留の経緯ないし動機をみても,αの治安情勢が悪いことを理由として,ジャーナリストとして来日する機会を 在留期間更新許可又は在留資格変更許可を受けることなく不法残留に及んだものであるところ,その不法残留の経緯ないし動機をみても,αの治安情勢が悪いことを理由として,ジャーナリストとして来日する機会を捉えてしばらく本邦で生活しようと考えたというにとどまり,特に酌むべき点があるとはいえない。また,原 告Aは,本邦に上陸して程ない時期から東京入管に出頭する直前まで機械等の解体作業員や自転車の修理工として不法就労に従事したこと,原告Aは,本邦上陸後,外登法3条1項に基づく新規登録申請をしておらず,同法が廃止されるまでこれに違反していたことも認められる。 このような原告Aの入国及び在留の状況は,出入国管理行政上看過し得 ない悪質なものとして,原告Aに対する在留特別許可の許否の判断に当たって消極要素として評価されたとしても,不合理ということはできない。 もっとも,原告Aは,不法残留の状態になった後本件裁決に至るまで約8年1か月にわたり本邦に在留する中で,入管法及び外登法関係の上記各違反を除いては本邦において特段の違法行為を行ったことはなく(弁論の 全趣旨),また,自ら東京入管に出頭して不法残留の事実を申告しており,これらは上記の消極的評価を減殺する事情と評価することができる。 ウ原告Bとの関係について(ア) 認定事実(2)によれば,原告Aは,日本人女性の原告Bと婚姻関係を築いているところ,原告らの出会い及び交際開始の当初において原告 Bには配偶者(前夫)があったものの,原告らが出会う前から原告B と前夫とは長期間にわたりいわゆる家庭内別居の状態にあったことから,前夫の存在は原告らの交際関係の進展にとって特段妨げにはならず,そのような状況の下,原 のの,原告らが出会う前から原告B と前夫とは長期間にわたりいわゆる家庭内別居の状態にあったことから,前夫の存在は原告らの交際関係の進展にとって特段妨げにはならず,そのような状況の下,原告らは真摯な交際を経て,自然な愛情に基づいて婚姻意思を形成し,婚姻するに至ったことが認められ,原告らの関係が,原告Bと前夫との間の二人の子らに歓迎ないし祝福され ていること(甲15,22)も認められる。そして,原告らが互いへの愛情によって結び付いた関係にあることは,本件裁決後の事情ではあるものの,退去強制令書の執行による原告Aの収容時に原告Bが頻回に面会に訪れていること,本件訴訟の尋問時において,原告Bが,自身にとっての原告Aの存在の重要性を語り,原告Aへの愛情を表現 していること(原告B本人・7~9頁,26頁),原告Aも原告Bへの愛情を率直に表現していること(原告A本人・5頁)などから明らかである。 これらの事情に照らせば,原告らの婚姻関係は,婚姻の届出から本件裁決まで約8か月余りの期間にとどまり,原告らの間に子がいないとし ても,本件裁決の時点において既に,真摯で安定かつ成熟した婚姻関係であると評価すべき素地が十分にあったものと認められる。 しかるに,被告が答弁書において「原告Aの原告Bとの婚姻理由は本邦での在留資格取得目的であるとも考えられ,原告Aは原告Bと結婚し入管に出頭すれば,在留特別許可が付与されることを期待して,原告B に執拗に結婚を申し込み,原告Bも原告Aの目的を承知の上で,その目的に加担して,結婚準備に着手し,婚姻したものであることが強く疑われる」(答弁書24頁)と主張していることに照らせば,裁決行政庁は,既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係が形成されていたと 上で,その目的に加担して,結婚準備に着手し,婚姻したものであることが強く疑われる」(答弁書24頁)と主張していることに照らせば,裁決行政庁は,既に真摯で安定かつ成熟した婚姻関係が形成されていたと評価すべき素地があったにもかかわらずこれを適切に評価せず,原告Aが在留資格取 得目的で原告Bと婚姻したにとどまるものと誤認したことが認められる。 また,被告が答弁書において「両名(引用者注:原告ら両名を指す。)が平成26年4月頃から同居していたという前提においても疑う余地がある」(答弁書25頁)と主張していることに照らせば,裁決行政庁は,原告らが同月頃から同居を開始した事実を認定しなかったことがうかがわれ,あるいは,同事実を認定していたとしても,原告らが真摯な交際関 係にあったことに疑念を持ち,真摯な交際を経て婚姻に至った経過について十分な評価をしなかったことが認められる。 (イ) 被告は,上記のとおり原告Aが在留資格取得目的で婚姻したとも考えられる旨主張し,その根拠として,「夫の友人が日本人女性と結婚してビザを持っているので,夫もビザが早くほしかったから結婚にこだ わっていたのではないかと思」う(乙9・9頁)などの原告Bの東京入管入国警備官に対する供述を挙げている。 しかしながら,不法在留中の外国人が専ら在留資格を取得する目的で日本人と婚姻する場合があり得ることは否定できないとしても,他方で,交際関係にある日本人と本邦で安定的な婚姻生活を送りたいとの希望か ら真摯な婚姻意思をもって当該日本人と婚姻する場合もあり得るのであって,不法在留中の外国人が在留資格の取得に向けた行動をとることは,必ずしも真摯な婚姻意思の存在を否定する事情とはいえない。また,認定事実(2)ウのとお って当該日本人と婚姻する場合もあり得るのであって,不法在留中の外国人が在留資格の取得に向けた行動をとることは,必ずしも真摯な婚姻意思の存在を否定する事情とはいえない。また,認定事実(2)ウのとおり,原告Bは,二女が高校を卒業する平成26年3月までは前夫と離婚しない旨を原告Aに伝えていたところ,これに対して 原告Aが婚姻を急かすこともなかった(原告B本人)というのであって,このような事実関係を前提とすれば,原告Aがビザが早く欲しくて婚姻にこだわっていた旨などをいう原告Bの上記供述をもって,原告Aが,真摯な婚姻意思に基づかず,単に在留資格を取得する目的で原告Bと婚姻したものと認めることはできない。 (ウ) なお,被告は,退去強制事由のある外国人に日本人の配偶者がいる 事実は,当該外国人に対する在留特別許可の許否に関する法務大臣等の裁量権の行使に対する制約になるものではないという趣旨の主張をするが,上記事実は,被告も認めるとおり,その許否の判断に当たってしんしゃくされる事情にはなり得ると考えられるものであり,とりわけ当該配偶者との婚姻関係が安定かつ成熟したものである場合には, その許否の判断に影響を与える重要な基礎事実であると解される。 エ総合判断以上説示したところによれば,東京入管局長は,原告Aの在留を特別に許可するか否かの判断に当たり,原告Bとの婚姻関係について,真摯なもので,既に安定かつ成熟した婚姻関係が形成されていたと評価すべき素地 が十分にあったにもかかわらずこれを適切に評価せず,原告Aが在留資格取得目的で原告Bと婚姻したにとどまるものと誤認し,かつ,原告らが真摯な交際関係にあったことに疑念を持ち,真摯な交際を経て婚姻に至った経過について十 かかわらずこれを適切に評価せず,原告Aが在留資格取得目的で原告Bと婚姻したにとどまるものと誤認し,かつ,原告らが真摯な交際関係にあったことに疑念を持ち,真摯な交際を経て婚姻に至った経過について十分な評価をしなかったものといえる。また,不法残留等に及んだ原告Aの入国及び在留の状況は,消極要素として評価されたとして も不合理ということはできないが,その消極的評価を減殺する事情も存する。 東京入管局長が,本件裁決に際し,以上のような評価に基づいて原告Aの在留を特別に許可しないとした判断は,その基礎とされた重要な事実に誤認があることにより全く事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明 白に合理性を欠くことにより社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものであることが明らかというべきであるから,本件裁決には,その裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法があるものというべきである。 よって,その余の点について判断するまでもなく,本件裁決の取消しを求める原告Aの請求は理由がある。 (3) 本件退令発付処分の適法性 上記(2)のとおり本件裁決が違法である以上,これを受けてされた東京入管主任審査官による本件退令発付処分も違法であり,その取消しを求める原告Aの請求は理由がある。 4 争点(3)(本件裁決及び本件退令発付処分が,原告Bとの関係において国賠法の適用上違法か。)について (1) 国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであり,国又は公共団体の公務員が行った行政処分(不服申立て の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであり,国又は公共団体の公務員が行った行政処分(不服申立てに対する行政庁の裁決を含む。)が適法要件を欠く違法なものであったとしても,そのこ とから直ちに当該行政処分を行った公務員の行為に同項にいう違法があったと評価されることにはならず,公務員による公権力の行使に同項にいう違法があるというためには,公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷 判決・民集39巻7号1512頁,最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成18年(受)第263号同20年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号 1005頁等参照)。 (2) これを本件についてみるに,上記1で説示したとおり,入管法及びその関係法令は,入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がない旨の裁決及び退去強制令書発付処分の名宛人である外国人の配偶者の婚姻関係上の権利又は利益をその個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものではな いと解されるところ,上記異議の申出を受けた法務大臣等は,入管法49条 3項の裁決及び同法50条1項に基づく在留特別許可の許否の判断をするに当たり,当該裁決の名宛人である外国人の配偶者との関係において,当該配偶者の固有の権利又は利益に配慮すべき職務上の 条 3項の裁決及び同法50条1項に基づく在留特別許可の許否の判断をするに当たり,当該裁決の名宛人である外国人の配偶者との関係において,当該配偶者の固有の権利又は利益に配慮すべき職務上の法的義務を負うものではないと解するのが相当である。また,上記異議の申出に理由がない旨の裁決の通知を受けた主任審査官においても,退去強制令書発付処分をするに当たり, 当該処分の名宛人である外国人の配偶者との関係において,当該配偶者の固有の権利又は利益に配慮すべき職務上の法的義務を負うものではないと解するのが相当である。 したがって,本件裁決をした東京入管局長及び本件退令発付処分をした東京入管主任審査官が,原告Bに対し,原告Bの婚姻関係上の権利又は利益等 の固有の権利又は利益に配慮すべき職務上の法的義務を負っていたとは認められず,本件裁決及び本件退令発付処分につき,原告Bが主張するような国賠法上の違法があったということはできない。 よって,原告Bの国賠法1条1項に基づく損害賠償請求は理由がない。 5 結論 以上によれば,原告Aの各請求はいずれも理由があるからこれを認容し,原告Bの訴えのうち,本件裁決及び本件退令発付処分の各取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し,原告Bの損害賠償請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条本文を適用の上,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官谷口豊 裁判官工藤哲郎 裁判長 裁判官谷口豊 裁判官工藤哲郎 裁判官細井直彰(別紙省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る