令和2238号強制執行妨害目的財産損壊等,非現住建造物等放火被告事件 主文 被告人両名はいずれも無罪。 理由 第1 本件公訴事実の要旨及び本件の争点本件公訴事実の要旨は,「被告人両名は,名古屋地方裁判所岡崎支部により差押えを受けていた被告人A所有の愛知県刈谷市a町b丁目c番地d所在の家屋(以下「本件家屋」という。)に居住していたものであるが,同家屋に対する担保権の実行としての不動産競売を妨害する目的で同家屋に放火しようと考え,共謀の上,平成31年1月31日午前1時50分頃,同家屋1階和室において,何らかの方法で点火して火を放ち,その火を同室の壁面等に燃え移らせ,よって,同家屋を焼損させ,もって差押えを受けた現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を焼損するとともに,強制執行を受けるべき財産を損壊した」というものである。 被告人Aが所有し,被告人両名が居住していた本件家屋が火災(以下「本件火災」という。)により焼損したことに争いはないところ,①本件火災は放火によるものか(事件性),②放火は被告人両名によるものか(犯人性,共謀),③被告人両名に「不動産競売(強制執行)を妨害する目的」があったといえるか(目的)が争点である。当裁判所は,本件火災は,被告人両名のうち少なくともいずれか1名によって放火されたことによるものであるが,被告人両名の共謀を認定することはできないため,被告人両名はいずれも無罪であると判断したので,以下にその理由を補足して説明する。なお,特に記載がない限り,以下の日時は全て平成31年1月31日を指す。 第2 争点①(本件火災は放火によるものか(事件性))について 1 出火箇所についてまず,本件家屋の検証調 て説明する。なお,特に記載がない限り,以下の日時は全て平成31年1月31日を指す。 第2 争点①(本件火災は放火によるものか(事件性))について 1 出火箇所についてまず,本件家屋の検証調書並びに本件火災発生当日に衣浦東部広域連合消防局 通信指令課指揮調査係の消防士として本件家屋の火災調査を行ったCの証言(以下「C証言」という。)及び本件火災についてその出火箇所・原因等を鑑定した元I火災研究所研究員のDの証言(以下「D証言」という。)等によれば,本件家屋のうち最も焼損が激しかったのは1階東側和室(以下「本件和室」という。)であること,そのほか焼損が認められる2階の各部屋及びバルコニーについては1階側から,1階リビングについては本件和室のある東側からそれぞれ燃え広がっていったものと考えられること,本件火災においては,本件和室南側の通気口から炎が出ていたことが認められるから,同人らが証言するとおり,本件和室が出火箇所のある部屋であると認められる。 なお,C証言及びD証言は客観証拠から認められる本件家屋の焼損状況とも整合している上,それぞれの知識や経験等に基づいた合理的な内容であり,また相互に一致ないし整合していて信用性を高め合っているのであって,それぞれ十分信用できる。 次に,本件和室南西にあるたんす(以下「本件たんす」という。)の天板の上方の焼損が激しいこと等からすれば,本件和室内の本件たんすの天板上付近が出火箇所であると認められる。 なお,本件たんす前面の畳上でも燃焼が起こっていたことが認められるところ,D証言によれば,これが,本件たんす天板上付近から落ちてきた物により燃えたのか,もともと畳の上に置いてあった物に火がついたのかは判然としないから,同箇所も出火箇所である可能性はある。 2 本件火災の出火原因 ,これが,本件たんす天板上付近から落ちてきた物により燃えたのか,もともと畳の上に置いてあった物に火がついたのかは判然としないから,同箇所も出火箇所である可能性はある。 2 本件火災の出火原因本件火災の出火原因につき,弁護人らは,たばこの不始末,電気関係,自然発火,神棚に供えたろうそくの火の不始末等が考えられると主張する。しかし,前記のとおり信用できるC証言及びD証言では,これらの原因は考え難く,本件火災は放火であるとされており,以下のとおり,当裁判所も,弁護人らが主張する出火原因により本件火災が生じた可能性はなく,本件火災は放火によるものと認 めた。 たばこの不始末についてC証言等関係各証拠によれば,本件たんすの天板上やその前面の畳上にたばこが出火原因である場合によくみられるたばこ大の燃え込みは生じていないことが認められる。また,そもそも,本件火災発生前に本件家屋内にいたのは,被告人両名及びその次女であるEの3名であると認められるが,この3名はいずれもたばこを吸わない。 よって,たばこの不始末は本件火災の出火原因ではないと認められる。 電気関係について被告人Aは,本件たんす付近のコンセントに充電器やLEDライトを差したままにしていたと供述している。しかし,C証言によれば,同人が本件家屋を見分した際に本件たんす付近の南側壁下方のコンセントには何も接続されていなかったことを確認しているところ,同人による見分前に,消火活動に当たった消防隊員がコンセントに接続されていた電気器具のプラグを敢えて抜き取るということは考えにくいから,出火時においても前記コンセントに充電器やLEDライトは接続されていなかったと認められる。したがって,前記コンセントに差し込まれたプラグの上にたまったほこりに電流が流れることによってトラ くいから,出火時においても前記コンセントに充電器やLEDライトは接続されていなかったと認められる。したがって,前記コンセントに差し込まれたプラグの上にたまったほこりに電流が流れることによってトラッキング現象が生じて出火したという可能性はないと認められる。 また,D証言によれば,本件たんす付近の南側壁には前記コンセントのほかCVCC電源もあったと認められるが,本件たんすの天板より下側の断熱材は燃えておらず,壁内部の流し配線をしていたケーブルもほぼ健全な状態であったというのであるから,壁内部で電気的な不具合が生じて出火したという可能性もない。 自然発火について肥料等の自然発火の原因となるものは本件たんす付近に見当たらず,自然発火により出火した可能性もないと認められる。 神棚のろうそくの火の不始末について被告人Aは,長年にわたり,毎月末に,本件たんす上部の壁に設置してあった神棚にアルミホイルを置き,その上にろうを垂らし,火を点けたろうそくを置いていた,これまで火は消さずに放置していた旨供述している。しかし,被告人Aの妻であり長年本件家屋において被告人Aと生活を共にしていた被告人Bですら,被告人Aが本件たんすの上の神棚に火を点けたろうそくを立てていたことを一度も見たことがない旨供述しているし,そもそも,被告人Aの述べる,燭台も使わずに,火を点けたろうそくを置くという方法は,家庭内で神棚のろうそくに火を点ける方法としては,危険で不自然というほかないのであって,当該供述は信用できない。したがって,神棚においたろうそくの火が本件たんすの天板上に燃え移って出火したとは考えられない。 以上に加え,ほかに本件たんすの天板上付近に火源となるようなものがあったとはうかがわれないことを踏まえると,本件火災は放火(以下「本件放火」 件たんすの天板上に燃え移って出火したとは考えられない。 以上に加え,ほかに本件たんすの天板上付近に火源となるようなものがあったとはうかがわれないことを踏まえると,本件火災は放火(以下「本件放火」という。)によるものと認められる。 第3 争点②(放火は被告人両名によるものか(犯人性,共謀))について 1 出火時刻について本件火災を目撃し,午前2時5分頃に119番通報をしたFは,通報当初は煙しか見えていなかったが,通報途中の午前2時7分頃,本件家屋で炎が上がっているのを確認している。当公判廷においてFは,本件家屋のどこから炎が出たかはよく覚えていない旨証言しているが,本件和室外側の通気口上部の壁部分が熱により変色していることや1階南側の雨戸が閉まっていた(Gの証言)と認められることからすれば,その炎が出た箇所は,前記通気口であったと認められる。 そして,Cは,「Fの通報中にフラッシュオーバーが起きたと考えられる。本件家屋は雨戸が閉まった状態で空気の流入がなかったことから出火時刻から約10分ほどでフラッシュオーバーが起きたと考えられる。推定なので幅を持たせ,出火時刻は午前1時50分頃から午前2時頃までの間と特定した。」旨証言する。 C証言の前記内容は合理的であり,Dも,「本件和室全体の焼損が生じた最も大きな理由はフラッシュオーバーである。建物の大きさ等によって出火してからフラッシュオーバーまでの時間は,誤差はあるもののおおよそ十数分であると考えられ,出火時刻は,Cが推定した出火時刻である午前1時50分頃から午前2時頃であると考えて問題はない。」旨証言しているところであるから,Cの出火時刻の特定にかかる前記証言は十分信用できる。 よって,本件火災の出火時刻は午前1時50分頃から午前2時頃までの間であると認められる。 問題はない。」旨証言しているところであるから,Cの出火時刻の特定にかかる前記証言は十分信用できる。 よって,本件火災の出火時刻は午前1時50分頃から午前2時頃までの間であると認められる。 2 本件家屋の施錠等の状況について先着隊の消防士として午前2時16分頃に本件火災現場に臨場したというGの証言によれば,同人が火災の通報を受けて本件家屋に到着し,施錠状況を確認したところ,玄関は施錠され,本件和室の南側掃き出し窓の雨戸は閉じられ,さらに,施錠されていたか不確かではあるものの1階の全ての窓や雨戸も閉まっており,2階についても他の消防隊員からサッシ,窓は閉まっていて開けられないという報告を受けたことが認められる。また,C証言によれば,同人は,消火活動を行った消防隊員に対して本件家屋の施錠状況について確認したところ,全て施錠されていたことが確認でき,被告人Aからも1階は全て施錠して出かけたと回答を受けたことが認められる。 以上によれば,本件火災が発生した後の午前2時16分頃には,本件家屋の全ての外部への扉,窓は施錠されていたと認められる。 3 本件放火の実行行為者について以上のとおり認められる出火時刻や本件家屋の施錠状況等からすれば,本件放火の実行行為をしたのは,本件和室内に入って放火した後に本件家屋から出て施錠できる者であると認められる。そうすると,本件家屋の鍵を有していたのは被告人両名及びEに加え,被告人両名の長女であるHのみであるため,本件放火の実行行為をしたのは,被告人両名,E及びHのうちのいずれかということになる。 しかし,このうちE及びHについては,以下の理由により,本件放火の実行行為をした犯人ではないと認められる。すなわち,本件火災発生当日の未明に被告人両名及びEが本件家屋を出て2台の車に分乗して しかし,このうちE及びHについては,以下の理由により,本件放火の実行行為をした犯人ではないと認められる。すなわち,本件火災発生当日の未明に被告人両名及びEが本件家屋を出て2台の車に分乗して出発し,外出していたHと合流したことが明らかであるところ,EはHに対し,LINEで,午前1時29分頃,「なんか行くよとか言ってどっか連れてかれるんだけど・・・」と,午前1時47分頃,「あかんもう行かんとかん」と,午前1時51分頃,「玄関開けようとしても」「すげえ怒られる」とそれぞれ送信し,その後,午前1時54分頃には,被告人BがEに対し,LINEで「発車して」と送信していることからすれば,午前1時54分頃までは被告人両名及びEは本件家屋かその近辺に所在し,その頃出発したものと認められ,そうすると,H以外の3名のうちの誰かが,本件家屋に放火して,その直後に当該3名が本件家屋を出たということになる。また,EとHの前記LINEのやり取りからすれば,HだけでなくEも,自分たちの行き先について被告人両名から事前に知らされてはいなかったことが認められるから,放火についても同様に知らなかったと推認され,Eが本件放火の実行行為をした犯人である可能性もないといえる。 以上によれば,被告人両名のうちのいずれかが,又は,被告人両名が共同して本件放火の実行行為に及び,その後直ちに本件家屋を出て出発したと認められる。 これに対し弁護人らは,被告人ら家族以外の第三者が放火した可能性も否定できない旨主張するが,出火時刻と本件家屋の施錠状況等からすると第三者の侵入は考えられず,また,本件和室に設置された前記通気口は,高い位置にあり,夜のため暗い中,うまく火源を投げ入れることも困難な大きさであることからすると,第三者が本件放火の実行行為をした可能性はないと認められる。 た,本件和室に設置された前記通気口は,高い位置にあり,夜のため暗い中,うまく火源を投げ入れることも困難な大きさであることからすると,第三者が本件放火の実行行為をした可能性はないと認められる。 4 共謀について以上のとおり,被告人両名のうち,少なくともいずれか1名が本件放火の実行行為をしたものと認められるが,それ以上に本件放火の実行行為者を特定するに足りる証拠はない。検察官も,実行行為者を特定することなく,本件火災は,被 告人両名の共謀に基づく放火であることを主張しているところである。 そこで,被告人両名の間に共謀が認められるかについて検討する。 前提事実関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 ア被告人Aは,平成15年1月29日,本件家屋の敷地となる土地(以下「本件土地」という。)を購入し,その際,J金庫から1500万円を借り入れるとともに,K協会との間でJ金庫に対する債務についての保証委託契約を締結して本件土地に抵当権を設定し,同日,登記もなされた。また,同年4月16日,本件家屋を新築し,同年6月9日には,本件家屋について前記K協会に対し抵当権を追加設定し,同日,登記もなされた。さらに,同月2日にはL公庫からも1500万円を借り入れて,本件土地及び本件家屋に抵当権を設定し,同月9日,登記がなされた。なお,L公庫の債権及び抵当権は,この後,M機構に引き継がれた。 イ平成30年8月30日,前記K協会は,J金庫に対し,前記保証委託契約に基づき936万8931円を代位弁済し,同年12月21日には,抵当権を実行して名古屋地方裁判所岡崎支部に対し本件土地及び本件建物について担保不動産競売の申立てを行い,同月28日,競売開始決定がなされた。また,前記M機構から債権回収の委託を受けたN株式会社も 抵当権を実行して名古屋地方裁判所岡崎支部に対し本件土地及び本件建物について担保不動産競売の申立てを行い,同月28日,競売開始決定がなされた。また,前記M機構から債権回収の委託を受けたN株式会社も,同月22日,同様の申立てを行い,平成31年1月18日,競売開始決定がなされた。 ウ本件土地及び本件家屋については,本件火災発生当日の午前10時から前記裁判所の執行官が現況調査を行う予定になっており,平成31年1月22日,同執行官が被告人A方に普通郵便で前記予定を記載した現況調査日通知書を発送したところ,これが返送されることはなかった。また,これに先立ち,同執行官は,同月上旬ないし中旬に,被告人A方に現況調査を行う期日を調整するための書面を普通郵便で発送しているが,これについても返送されることはなかった。 エ本件火災発生当日の午前1時14分頃から午前1時34分頃までの間,Eは,Hに対し,LINEで,「お父ちゃんがなんか色々持ってかれるからって部屋のもの持ってってるんだが」「明日なんかくるらしいわ」「だからそのために逃げるんじゃない?」「これ全部取られるのかな」などと送信し,これに応じてHも,Eに対し,金目の物を持ち出すよう依頼する内容のメッセージを送信した。 オ本件火災発生当日,被告人両名及びEは,本件家屋を出て出発した際,鞄数個,ペット用ケージ2個,ペット用薬等,被告人Bが所持していたポーチ(E名義の通帳,ライフ共済及びホーム火災共済に係る書類が入ったもの),衣類を入れた買い物かご,Hの好きな芸能人のグッズを入れたキャリーバッグ等を持ち出した。 カ被告人Bのスマートフォンには,平成31年1月27日にインターネット上の火災関連記事を閲覧した履歴複数件及び同月28日に競売手続の流れや現況調査について たキャリーバッグ等を持ち出した。 カ被告人Bのスマートフォンには,平成31年1月27日にインターネット上の火災関連記事を閲覧した履歴複数件及び同月28日に競売手続の流れや現況調査についての記事を閲覧した履歴複数件がある。 キ被告人Bは,Eに対し,LINEで,同月19日,「家が大変なことになるねお母ちゃんは毎日気がきじゃないよ」「今,のいえに住めなくなるなんて」と,同月26日,「あとね,家のことで頭おかしくなりそう」と送信した。 検討検察官は,①被告人両名が長年夫婦関係にあり,関係も良好であったと認められること,②未明の火災であったにもかかわらず,被告人両名及びEが無事に自宅を離れていること,③被告人Bが,本件火災発生の4日前に,スマートフォンを使って住宅火災に関する複数のインターネット記事を見ていること,④被告人両名が本件家屋に火災が発生することを見越した行動をとっていることなどからすれば,被告人両名が相互に相通じることなく,どちらか一方が単独で本件犯行に及んだとは認められず,共謀が優に認められると主張する。 しかし,①については,長年良好な関係にある夫婦であっても,どちらかが単独で犯行に及ぶことは十分あり得るし,②も,被告人両名のいずれか一方のみが本件放火を行うことを考えてこれを実行に移したとしても,他の家族とともに先に出発の準備を整えてから放火し,その後すぐに出発すれば,被告人両名及びEがいずれも本件火災に巻き込まれることなく本件家屋を離れることは可能である。また,③Bのスマートフォンに閲覧履歴があるものの,被告人Bは当該記事を閲覧した記憶はない旨供述している上,被告人両名の供述によれば,被告人Aは,インターネット閲覧可能な携帯電話機を持っておらず,これまで同人が被告人B フォンに閲覧履歴があるものの,被告人Bは当該記事を閲覧した記憶はない旨供述している上,被告人両名の供述によれば,被告人Aは,インターネット閲覧可能な携帯電話機を持っておらず,これまで同人が被告人Bのスマートフォンを使って検索等をすることがあったというのであるから,被告人両名のうちどちらが当該記事を閲覧したのかを断定することはできないし,当該記事の閲覧前後には他の様々なインターネット上の記事の閲覧履歴があることからすれば,単に興味本位でこれら火災の記事を閲覧した可能性も否定できない。 次に,④について検討すると,本件火災が発生した頃に,被告人両名及びEは,大量の荷物及びHが貴重品と考えていたものを持ち出して本件家屋を出発しているのであって,これは,被告人両名が,本件火災が発生することを見越していたからこその行動とみる余地もある。すなわち,被告人両名はいずれも,裁判所からの情EとHのLINEのやり取りからすれば,同人らですら,詳細はさておき,本件家屋において現況調査がある予定を知っていたと認められることからすると,被告人両名は,平成31年1月31日当日,本件火災が発生する前の時点で,同日午前10時から現況調査が行われるということを十分認識していたと認められるし,被告人両名のうち取り分け被告人Aが慌てて大量の荷物を本件家屋から運び出していたことがうかがわれるが,被告人Bも被告人Aが荷物を運び出していることに異議を唱えている様子はなく, 一緒になってこれを運び出していたと考えられるのであって,これらは,被告人両名が,相互に意思を通じ合って,現況調査がなされる前に本件家屋に放火することに決めたとみることと整合的な事情である。しかし,NEのやり取りからすれば,E及びHは,現況調査により金目の動産が執行官に取られるものなどと 通じ合って,現況調査がなされる前に本件家屋に放火することに決めたとみることと整合的な事情である。しかし,NEのやり取りからすれば,E及びHは,現況調査により金目の動産が執行官に取られるものなどと誤解していたものと解されるが,被告人両名のうちのどちらか1名についても,E及びHと同様に誤解した上,現況調査により本件家屋にはもう住めなくなるのだと考えて,しばらく寝泊まりするための荷物や貴重品を持って本件家屋を出発したという可能性もある。すなわち,本件放火の実行行為を担っていない被告人両名のうちのどちらか1名は,放火については何も知らずに,単にもう家にはいられないのだ,といういわゆる夜逃げ的な発想で行動したとみることも十分に可能といえる。 そこで,検察官が主張していない事情においても,被告人両名の共謀があると推認できる事情がないか検討する火災共済関係の書類は,被告人両名が火災が発生した際に共済金を得るために手続上必要であると考えて持ち出した可能性がある。しかし,当該書類は被告人Bが所持していたポーチから発見されたものではあるが,被告人両名がそれぞれ本件家屋から荷物を運び出していたことや書類自体は契約者である被告人A宛であったことからすれば,被告人両名のうちどちらがこれらの書類を運び出したのか断定することはできないし,慌てていたために特段荷物を精査することなくそのポーチを紛れ込ませてしまった可能性も否定できない。また,E及びHは,本件火災発生後にLINEのやり取りの一部を削除し,罪証隠滅を図っていることがうかがわれるが,単に両親である被告人両名が捜査機関から疑われているため被告人両名の不利になると思われるものを削除したに過ぎないと考えることも十分可能であり,この事実から被告人両名の共謀を推認することはできない。 その他,当公判廷に提出され 捜査機関から疑われているため被告人両名の不利になると思われるものを削除したに過ぎないと考えることも十分可能であり,この事実から被告人両名の共謀を推認することはできない。 その他,当公判廷に提出された各証拠を精査しても,被告人両名の共謀を推認させる事情は見当たらない。 そうすると,被告人両名が相通じることなく,被告人両名のうちのいずれか一方のみが,本件家屋への競売手続の執行を妨害するため,若しくは,本件家屋に住むことができなくなることを悲観して自暴自棄となり,又は,火災共済金を得ること等を目的として,本件放火を見越して荷物を持ち出すとともに本件放火の実行行為を行い,もう一方は,本件放火については事前には何も知らず,現況調査前に本件家屋から逃げ出しただけであったという現実的な可能性はなお残るといわなければならない。 なお,被告人両名は,本件火災の原因は神棚に供えたろうそくの火による失火である旨や不動産競売がなされること自体や本件家屋の現況調査が行われる予定であったことも知らなかった旨等の供述をしているところ,これらの供述はいずれも虚偽と認められる。しかし,被告人両名は,いずれも本件放火の犯人であるとの疑いがかけられているのであるから,その疑いを晴らそうとする余り虚偽の弁解をするということはあり得るし,被告人両名は夫婦であるから,自身が本件放火に全く関与していないとしても,相被告人をかばって虚偽供述をする動機はあるといえるから,当該虚偽供述をしたことで,被告人両名が共謀して本件放火を行ったことが推認されるものとはいえない。 5 そうすると,以上において検討した各事情の共謀に関する推認力はいずれも強いものではなく,これらを総合考慮しても,被告人両名のうちいずれか一方のみが相被告人とは共謀することなく本件放火に及んだと 5 そうすると,以上において検討した各事情の共謀に関する推認力はいずれも強いものではなく,これらを総合考慮しても,被告人両名のうちいずれか一方のみが相被告人とは共謀することなく本件放火に及んだという合理的な疑いが残る。したがって,被告人両名が共謀の上本件放火に及んだという事実を認定することはできない。 第4 結論よって,被告人両名については,それぞれ本件公訴事実について犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,いずれも無罪の言渡しをする。 令和3年8月18日名古屋地方裁判所岡崎支部刑事部 裁判長裁判官村瀬賢裕 裁判官鈴木真耶 裁判官堀内さゆみは差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官村瀬賢裕
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