平成16年7月6日宣告平成14年(わ)第3069号,同15年(わ)第717号銀行法違反(変更後の訴因銀行法違反,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反),内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律違反,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反被告事件判決 主文 被告人を懲役2年及び罰金150万円に処する。 未決勾留日数のうち310日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。 Aと共謀の上,平成14年4月24日及び同年5月10日,2回にわたり,規制薬物の対価として得た財産合計22万1525円を送金して,事実を仮装するとともに,不法収益を隠匿したとの点(平成15年3月31日付け起訴状記載の公訴事実)については,被告人は無罪。 理由 (犯罪事実)被告人は第1 B,C及び氏名不詳者多数名と共謀の上,金融再生委員会及び内閣総理大臣の免許をいずれも受けないで,別表1記載のとおり,平成12年6月29日ころから同14年7月18日ころまでの間,前後31回にわたり,名古屋市a区bc丁目d番e号f1階D1店内ほか1か所において,口頭又は電話により,国外送金の依頼客であるAほか6名から,その指定する外国に居住する受取人であるEほか16名への送金依頼を受けてこれを引き受け,いずれもそのころ,送金受任額に手数料を含めた金額である合計約1269万9000円の金員を受領した上,いずれもそのころ,上記店舗ほか1か所において,上記指 16名への送金依頼を受けてこれを引き受け,いずれもそのころ,送金受任額に手数料を含めた金額である合計約1269万9000円の金員を受領した上,いずれもそのころ,上記店舗ほか1か所において,上記指定国所在の氏名不詳者らに対し,電話により,上記受任に係る送金受任額等を連絡して,その旨の支払方を指図し,さらに,これに基づき,いずれもその翌日ころ,上記指定国内において,氏名不詳者らが,上記各受取人に対し,氏名不詳者らの保管する現金の中から上記送金受任額に相当する現金を支払う方法等により,営業として為替取引を行い,もって銀行業を営んだ第2 Fと共謀の上,法定の除外事由がないのに,別表2記載のとおり,平成13年10月5日から同14年1月11日までの間,前後3回にわたり,名古屋市g区hi丁目j番k号株式会社G銀行H支店ほか1か所において,アラブ首長国連邦に向け同銀行が行う為替取引により合計1450万7350円を国外送金する際,各国外送金に係る為替取引に係る同銀行H支店長ほか1名に対し,法定の告知書を提出するにあたり,真実は送金依頼人が被告人であるのに,同告知書依頼人欄にFの氏名を記載し,もって,同告知書に虚偽の記載をして提出したものである。 (証拠)(法令の適用)罰条第1 包括して刑法60条,銀行法61条,4条1項で処断する。 第2 別表2記載の番号ごとにいずれも刑法60条,内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律7条1号後段,3条1項1号に該当する。 刑種の選択第1 所定の懲役刑と罰金刑とを併科する。 第2 いずれも懲役刑を選択する。 併合罪の処理懲役刑につき刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の 所定の懲役刑と罰金刑とを併科する。 第2 いずれも懲役刑を選択する。 併合罪の処理懲役刑につき刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の罪の刑に法定の加重をする。)未決勾留日数の算入刑法21条労役場留置刑法18条刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が多数名と共謀の上,約2年間に,計31回にわたり,合計約1269万9000円の金員を受領して送金依頼を受任し,営業として為替取引を行い,もって銀行業を営んだ銀行法違反の事案(第1)及びイラン人1名と共謀の上,国外送金する際,法定の告知書に虚偽を記載して提出した3件の内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律(以下「内国税法」という)違反の事案(第2別表2番号1ないし3)から成る。 被告人らが第1の事実で送金依頼を受任した金額は合計で1200万円を超え,被告人らは,支払指定国にいる氏名不詳者らと頻繁に連絡を取り合い,銀行から払渡資金を送金するなどしており,その犯行態様は組織的かつ大規模で,悪質である。とりわけ被告人は,自ら国外の氏名不詳者らに受任内容を伝達したほか,イラン人従業員に送金受付の際の受領金額の計算方法を教えたり,受付記録の作成方法を指示したりするなど,本件各犯行において主導的な役割を果たしており,犯情は悪い。被告人は,店舗移転費用に充てた客からの預かり金の穴埋めなどの目的で第1の犯行に及んだもので,その利欲的な動機に酌量の余地はない。 以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は決して軽く見ることはできない。 しかしながら,被告人は,捜査段階から本件各罪を素直に認め,銀行業営 の犯行に及んだもので,その利欲的な動機に酌量の余地はない。 以上の事情に照らすと,被告人の刑事責任は決して軽く見ることはできない。 しかしながら,被告人は,捜査段階から本件各罪を素直に認め,銀行業営業店舗を閉店し,公判廷でも反省の態度を示していること,被告人はイランに帰国する旨供述し,被告人の妻も被告人に同行してイランで生活する旨証言していること,日本における前科がないことなど,被告人に酌むべき事情も認められる。 そこで,以上の事情を総合考慮の上,主文のとおり判決することとし,今回に限り刑の執行を猶予することとする。なお,未決勾留日数の算入については,無罪とした事件(後記(一部無罪の理由)第1の1に記載した公訴事実)の審理に要したすべての分を含めて算入することとした。 (一部無罪の理由)第1 公訴事実及び争点等 1 公訴事実訴因変更後の平成14年12月11日付け起訴状記載の公訴事実第1の2のうち,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という)違反の点の要旨は,「被告人が,Aと共謀の上,平成14年2月中旬から同年6月3日ころまでの間,D2(旧称D3)において,Aが多数名に対して譲り渡した覚せい剤等規制薬物の対価として得た財産(以下,規制薬物の対価として得た財産を総称して「不法収益」という)合計約678万円を預かり受領した上,前後3回にわたり,イラン・イスラム共和国に居住するIに対し,その金額に相当する現金を支払い,不法収益を送金して隠匿した」というものであり,同15年3月31日付け起訴状記載の公訴事実の要旨は,「被告人が,Aと共謀の上,同14年4月24日,同年5月10日の2回にわたり,不法収益合計22万1525円を,被告人名義で銀行 」というものであり,同15年3月31日付け起訴状記載の公訴事実の要旨は,「被告人が,Aと共謀の上,同14年4月24日,同年5月10日の2回にわたり,不法収益合計22万1525円を,被告人名義で銀行を通じてギリシャ共和国に送金し,不法収益の取得につき事実を仮装するとともに,不法収益を隠匿した」というものである。 2 公訴棄却等の申立てに対する判断弁護人は,検察官がした平成15年3月31日付け訴因変更請求は,麻薬特例法違反の捜査を目的とした別件逮捕,別件勾留及びそれらを利用した違法な取調べ,違法な自白強要を経て行われたものであって,訴因変更権の濫用であり許可するべきでなく,また,同様に同日付けの公訴提起は公訴権濫用であって,公訴棄却すべきである旨主張する。 しかし,一件記録によれば,各捜査機関が,被告人を内国税法違反,銀行法違反により各逮捕・勾留した期間中,各被疑事実を裏付けるために必要な捜査を行っていたことは明らかであり,各被疑事実の関係者に通訳を必要とする者が多数いたこと,各被疑事実を裏付ける上で上記D2の業務内容の把握が不可欠であるところ,そのためには多数の押収書類の翻訳,分析,上記関係者の供述等による裏付けなどが必要であったことなどから,上記各被疑事実の捜査のため各20日の期間を必要としたこと,その間,罪証隠滅,逃亡の防止,事案の重大性等の観点から被告人を逮捕・勾留する必要があったこともまた明らかである。よって,上記各逮捕・勾留は,麻薬特例法違反の捜査を目的として行われた別件逮捕・勾留にはあたらない。 また,麻薬特例法違反事件に関する被告人の各供述調書は,いずれも被告人の弁解内容が記載されており,捜査官の意図する内容となっていないことが明らかであって,被告人を取り調べるにあたり,捜査官から公訴提起,訴因変更の効力を否定するほど 告人の各供述調書は,いずれも被告人の弁解内容が記載されており,捜査官の意図する内容となっていないことが明らかであって,被告人を取り調べるにあたり,捜査官から公訴提起,訴因変更の効力を否定するほどの違法な自白の強要があったとは到底考えられない。 よって,弁護人の申立てはいずれも採用しない。 3 争点1の公訴事実につき,被告人は,不法収益の認識がなかったと弁解し,Aも公判廷において被告人と共謀していない旨述べたが,検察官は,被告人がAと親密な人的関係を有していたと推認されること,Aの送金依頼額が異常に高額であること,各従業員の供述などによれば,被告人は,Aが薬物の密売人であり,送金依頼に係る金員を不法収益と認識していたことが推認され,Aと少なくとも暗黙のうちに上記犯行の意思を通じていた旨主張する。そこで,以下検討する。 第2 前提事実証拠によれば,以下の事実が認められる。 1 D3の営業内容及び関係者(1) 被告人は,平成11年1月ころ,本邦に入国し,平成12年1月,Jと結婚して,在留特別許可を取得した。 (2) 被告人は,同年春ころから,雑貨,食料品,ペルシア語の新聞,雑誌,CD等を販売する「D1」(名古屋市a区bc丁目d番e号f1階,当時)を経営し,同13年4月ころには,同店店舗を同区lm丁目n番o号p1階に移転させ,店名も「D3」に変更した。D3は,開店当初から,上記雑貨等の販売のほかに,イラン人を相手に,無許可で営業として為替取引を行う,いわゆる地下銀行を営んでいた。同店の開店時間は,上記店舗移転前は午後8時から翌日の午前4時ころまで,移転後は午前11時から翌日の午前4時ころまでであった。 (3) 被告人は,上記地下銀行において,自ら送金依頼の受付をしていたほか,イラン等にいる氏名不詳者らに対し,受任に係る送金受任額 時ころまで,移転後は午前11時から翌日の午前4時ころまでであった。 (3) 被告人は,上記地下銀行において,自ら送金依頼の受付をしていたほか,イラン等にいる氏名不詳者らに対し,受任に係る送金受任額等を連絡して,その旨の支払方を指図したり,同人らに銀行を通じて受取人への払渡資金を送金するなどしていた。 (4) Bは,同13年11月から同14年10月21日までの間,D3の従業員として稼動し,同年4月ころから,被告人の依頼を受け,主に午後9時以降,上記地下銀行の受付をするようになった。 (5) Fは,同年4月ころから,D3の従業員として稼動していた。 (6) Kは,同年6月末又は7月初めころから,D3で従業員として稼動し,主に店舗入り口付近の屋台でケバブサンドの調理,販売などをしていた。 (7) 被告人らは,イランへの送金依頼を受け付ける際,被告人らが店頭で受領すべき日本円の額又は受領した日本円に対応する送金すべきトマン(イランの通貨単位,リアルの10倍)額について,それぞれ以下の計算式に従ってこれを計算し,受領する額と送金する額との差額を利益としていたもので,これとは別に金員を求めてはいなかった。なお,被告人らは,将来の送金のため現金を預かることもしていた。 ア被告人の場合受領すべき日本円の額=送金を希望するトマン(イラン通貨)の額÷(トマンとUSドルのレート(トマン/USドル)-約3トマン)×日本円とUSドルのレート(円/USドル,株式会社G銀行が発表するTTSレートを用いる。)イ Bの場合送金するべきトマンの額=受領した日本円の額÷(日本円とUSドルのレート(円/USドル)+約3円)×トマンとUSドルのレート(トマン/USドル) 2 Aの来店及び送金依頼の状況(1) Aは,D の額=受領した日本円の額÷(日本円とUSドルのレート(円/USドル)+約3円)×トマンとUSドルのレート(トマン/USドル) 2 Aの来店及び送金依頼の状況(1) Aは,D3開店当初から,多いときはおよそ週に1,2回の割合で同店を訪れていた。その際,後記(3)(4)の送金依頼をしたほか,数百万円を預けたり,買い物をするなどしていた。同人は,午前1時すぎに同店を訪れることが多かった。 (2) D3設置の電話機とAが当時所持していた携帯電話機との間では平成14年2月6日から3月5日までの間に合計9回,同年5月6日から7月25日までの間に7回通話があり,被告人が当時所持していた携帯電話機と上記Aの携帯電話機との間では,同年7月1日から同月25日までの間に2回通話があった。 (3) 被告人は,平成14年2月中旬からAから送金依頼を受けるようになり,犯罪事実第1別表1番号17,19,27にあるとおり,同年4月9日に347万2000円(2億300万リアル),同月24日に6万8000円(400万リアル),同年6月3日に324万円(2億リアル)をそれぞれイランに送金した。なお,上記各送金依頼は,いずれもD3店内でBが受け付け,D3が受領した日本円に対応するトマンの額又はD3が受領すべき日本円の額を,同人が上記第2の1(7)イの計算式から計算する方法により算定した。 (4) 被告人は,Aの依頼を受けて,同年4月24日に9万1875円(700USドル),5月10日に12万9650円(1000USドル)をそれぞれ株式会社L銀行M支店,株式会社G銀行H支店からギリシャ共和国に送金した。 (5) Aは,同年1月ころから,覚せい剤等の規制薬物を密売しており,上記(3)(4)の各送金に係る現金は規制薬物販売の対価であった。Aは,平成15年7月30 行H支店からギリシャ共和国に送金した。 (5) Aは,同年1月ころから,覚せい剤等の規制薬物を密売しており,上記(3)(4)の各送金に係る現金は規制薬物販売の対価であった。Aは,平成15年7月30日,薬物の密売等により,懲役5年及び罰金200万円の判決宣告を受け,同判決は確定した。 第3 被告人とAの人的関係被告人は,Aと親しい付き合いはしていない旨供述するところ,Aも被告人との親しい関係を否定し,BとFも,被告人とAの会食の事実を否定するなど,いずれも公判廷で被告人の弁解に沿う供述をする。 また,上記第2の2(3)にあるとおり,被告人らは,AがD3で送金を依頼した際,通常の場合(上記第2の1(7)イ)と同様に受領又は送金すべき金額を計算していた事実が認められるが,かかる事実は,被告人が,Aを他の客と同様に扱っていたことを示しており,被告人の弁解内容に沿うものである。 なお,Aは,上記のとおり,被告人との親しい関係を否定する一方,被告人からお金を借りたことがある旨公判廷で供述したが,これについて被告人は,送金の際,受領額が送金依頼額に満たないことがあり,その不足分をAに入金してもらって送金したことがあったが,Aが述べているのはこのことであると思う旨供述し,かかる説明内容はBが記入していた送金受付ノートの記載内容とも一致している。そうすると,上記のAの供述をもって,被告人が,上記の場合とは別に,Aに対して現金を貸し付けたり,同人の負債を肩代わりした事実があったとは認めがたい。 また,上記第2の2(2)にあるAとの通話状況について,被告人は,ビデオテープや食材の注文に関するものと考えられる旨供述しているところ,かかる供述内容は,Aの来店状況(上記第2の2(1))に照らして不自然とは言えない上,ほかに同供述と矛盾する証拠 て,被告人は,ビデオテープや食材の注文に関するものと考えられる旨供述しているところ,かかる供述内容は,Aの来店状況(上記第2の2(1))に照らして不自然とは言えない上,ほかに同供述と矛盾する証拠も見当たらないことからすると,これを信用できないと断定することはできない。 そうすると,上記のとおりAの来店状況等は認められるものの,検察官が主張するように,被告人とAに特別な人的関係があったことは推認できない。 第4 送金依頼額が高額であることについて被告人らがAから送金分として受領した金額は,約4か月間で合計約700万円であり,高額と評価できる。 この点につき,被告人は,捜査,公判を通じ,イラン人は他の人が貯めたお金を預かってまとめて送金することもあるので,高額だからという理由で不法収益であるとは認識しなかった旨弁解しているところ,Bも,イラン人は手数料を安くするために何人かでお金を集めて送ることがあり,Aから直接送金依頼を受けた際,同人はビジネスマンで,車等の輸出入などをしてお金を得てるんじゃないかなと思った,などと述べている。これらの供述内容に照らすと,被告人の弁解内容を虚偽とまでは断定できず,送金依頼に係る金額が多額であったことをもって,直ちに被告人が本件金員を不法収益であると認識できたと推認することはできない。 第5 B,F,Kの公判廷における供述 1 Bの公判廷供述について(1) Bは,公判廷において,以下のとおり供述する。 ア平成14年2月ころ,薬物の密売人かもしれない人物がD3に来店することを疑って,被告人に対し,「大丈夫か。」と尋ねた。これに対し被告人は,「自分としては確かに君に話したとおりの理想はある。それでイラン人はできるだけ離れてもらって,将来的にやはり,外人だとか日本人だとか来てもらえるように宣 ,「大丈夫か。」と尋ねた。これに対し被告人は,「自分としては確かに君に話したとおりの理想はある。それでイラン人はできるだけ離れてもらって,将来的にやはり,外人だとか日本人だとか来てもらえるように宣伝したいという気持ちもある。ただ,そうはいってもやはりなかなかすぐにはそういったことは実行に起こせるわけではないので,できればもう少しだけ待ってもらえないか。ただ,ここはコンビニみたいなお店なので,コンビニというのはやはり24時間営業でいろんな人たちが夜中にも入ってきたりするから,そういうことにはやはり君としても口出しができないことだし,カメラも設置することだから。将来的にはそういったお客には減ってほしい。」と答えた。 イ被告人は,同年3月ころ,Bに対し,送金依頼の受付や送金に関する仕事をするよう頼んだ際,「お金が大金であるときには,犯罪に関係するお金ということもあるので,その場ではすぐに何もするな。私の方に相談しろ。」と言った。 ウ被告人は,Bに対し,Aについて,以前からの客でほかの客と違うなどと言い,同年7月にAが逮捕された際,同人が逮捕されたこと,逮捕容疑が規制薬物に関するものであることを知り,あいつはいい客だったのにちょっと残念だなどと言った。 (2) そして,Bは,被告人が送金客の中に密売人がいたということを知らなかったと思うかとの問いに対し,「私が仮に被告人の立場にあったとすれば,気が付いていたと思います。」とも供述する。 (3) しかし,Bの上記(1)の供述によって認定できる被告人の言動は,Aが薬物密売人であることや,Aが送金依頼した金員が不法収益であると認識していたこととは直接関連しないものであり,せいぜい,D3の客の中に犯罪者がいる可能性があることの認識を推認させるにとどまるものである。また,B自身が,Aが薬物密売 頼した金員が不法収益であると認識していたこととは直接関連しないものであり,せいぜい,D3の客の中に犯罪者がいる可能性があることの認識を推認させるにとどまるものである。また,B自身が,Aが薬物密売人であるとの認識はなかったと述べていることも考慮すれば,Bの(2)の供述をもって,被告人がAを薬物の密売人と認識し,その送金依頼に係る金員が薬物密売の収益であると認識していたと推認することはできない。 2 Fは,被告人がAを密売人と知っていたと思うかとの問いに対し,「その当時は,知っていただろうとは思っていました。」と答え,その理由について,「私も知っていたんであって,彼もそういった意味で知っているだろうということです。」と供述する。 しかし,Fは,Aとはほぼ毎晩会っており,Aから直接規制薬物の密売をしている旨聞かされたと述べているが,被告人がFと同様にAと親密な関係にあったことを窺わせる証拠がないことは上記第3記載のとおりである。 また,Fは,D3に薬物の密売人が出入りしていることがわかった旨供述し,その理由について,密売人は通常スモークフィルムを窓に貼った乗用車に乗って午前零時ないし1時ころに来店し,店外で携帯電話を使用していたことなどを挙げ,Aも同様の行動をとっていた旨供述する。 しかし,被告人にかかるAの行動を認識できたかどうかは不明である。 したがって,被告人の認識を推認する上記Fの供述は根拠に乏しいと言わざるを得ず,同供述をもって,被告人がAを薬物の密売人と認識し,その送金依頼に係る金員が不法収益であると認識していたとは推認できない。 3 Kは,来店時間帯,風体,下品な言葉遣い,高額の買い物をすることなどから見て,薬物の密売人の可能性があると思った客がおり,被告人も,客の中に密売人がいることについて知っていてしか 認できない。 3 Kは,来店時間帯,風体,下品な言葉遣い,高額の買い物をすることなどから見て,薬物の密売人の可能性があると思った客がおり,被告人も,客の中に密売人がいることについて知っていてしかるべきだと思う旨供述するとともに,被告人に対し,「薬物反対を内容とするポスターを作って,それをD3の店外に貼り付けたり,お客さんに渡してはどうか。」と尋ねた際,「まだ時期尚早だ。」などと言われた旨供述する。 しかし,Kの供述も,B同様,その供述内容自体が,Aが薬物密売人であると被告人が認識していたか否かに直接関わるものではない上,Bは,Aの服装や言葉遣いが他の密売人と思われる客と異なっていた旨供述しており,K自身も,来店時間や買い物等に使う金額で売人と判断したかとの趣旨の問いに対し,「何時に来たからといって,その人がまず間違いなく薬物の売人だろうと,そんな判断まではできない。」とも供述する。 また,上記ポスターの点も,Kは,「具体的な話で薬物の売人が来るとか来ないとか,そういう話はなかった。」などと供述しており,具体的に密売人の出入りを認識した上での会話ではないと理解される。 したがって,上記被告人の言動によっても,被告人がD3に密売人が出入りすることを認識していたと断定することはできず,ましてかかる言動をもって被告人が本件金員を不法収益と認識していたと推認することはできない。 4 以上から,B,F,Kらの各供述によっても,被告人に不法収益を隠匿する認識があったことは推認できない。また,同人らの上記各供述やAの送金依頼額が高額であったことなどを総合しても,上記のような推認ができないことは同様である。 第6 Aの検察官調書なお,Aの平成15年3月6日付け及び同月12日付け各検察官調書の供述内容については,Aが,当公判廷において, どを総合しても,上記のような推認ができないことは同様である。 第6 Aの検察官調書なお,Aの平成15年3月6日付け及び同月12日付け各検察官調書の供述内容については,Aが,当公判廷において,被告人のせいで自分の犯罪が発覚し,求刑が重くなったと腹を立て,上記各検察官調書が作成された際の取調べにおいて,供述調書の内容が記憶と異なり被告人にとって不利な内容になっていたにもかかわらず,被告人に不利になれば有難いと思い訂正を求めなかった旨供述している上,名古屋拘置所備付けの官本2冊に,それぞれAの署名を付した「甲,ざまあ見ろ,密告者め」,「甲,きさまのせいで,刑期が倍になった」という趣旨のペルシア語の書き込みがあり,上記のAの公判供述を裏付けていることなどからすると,Aが,被告人を不利にするため,ことさら虚偽の供述をしたものとの疑いが濃厚である。 そうすると,Aの公判廷における供述にあいまいな部分があることは否定できないものの,これと比較して上記各検察官調書の供述につき信用すべき特別の情況があるとは認められない。 第7 結論以上のとおりであって,結局,本件全証拠によっても,被告人がAから送金依頼を受けた金員について不法収益と認識していた事実を認定するに足りないのであり,まして被告人とAとの間に不法収益隠匿等につき共謀があったと認める証拠はない。したがって,平成15年3月31日付け起訴状記載の公訴事実については犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをすることとする。 なお,訴因変更後の平成14年12月11日付け起訴状記載の公訴事実第1の2のうち,麻薬特例法違反の点についても,犯罪の証明がないが,犯罪事実第1の銀行法違反の事実と一罪の関係にあるから,主文において無罪の言渡しをしない。 よって,主 付け起訴状記載の公訴事実第1の2のうち,麻薬特例法違反の点についても,犯罪の証明がないが,犯罪事実第1の銀行法違反の事実と一罪の関係にあるから,主文において無罪の言渡しをしない。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑-懲役5年及び罰金300万円,追徴703万6000円)平成16年7月6日名古屋地方裁判所刑事第3部裁判長裁判官片山俊雄裁判官森島聡裁判官小松秀大
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