主文 1 被告は,原告に対し,44万円及びこれに対する平成29年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを140分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,4293万9441円及びこれに対する平成29年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の従業員であったAの父である原告が,Aは先輩従業員からの暴言等によって適応障害を発症したにもかかわらず,被告が労務環境を抜本的に改 善しなかったために自死したなどと主張して,被告に対し,安全配慮義務違反の債務不履行責任又は使用者責任(選択的併合と解される。)に基づき,損害賠償金のうち相続分(2分の1)に係る4293万9441円及びこれに対するAの死亡日である平成29年7月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支 払を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア Aは,平成8年生まれの男性であり,平成28年4月1日から被告に雇用されていた者である。(甲1) イ原告は,Aの父である。Aの相続人は,原告とAの母であるBである。(甲 1)ウ被告は,自動車及び部分品の販売並びに修理加工等を業とする株式会社である。 エ Cは,平成28年1月から平成29年1月まで,被告のD支店の支店長であった者である。( 1)ウ被告は,自動車及び部分品の販売並びに修理加工等を業とする株式会社である。 エ Cは,平成28年1月から平成29年1月まで,被告のD支店の支店長であった者である。(乙17) オ Eは,平成27年7月から平成29年1月まで,D支店のサービス課課長であった者である。(乙18)カ Fは,Cの後任として,平成29年1月からD支店の支店長であった者である。(乙19)キ Gは,Eの後任として,平成29年1月からD支店のサービス課課長兼チ ーフアドバイザーであった者である。(乙20)ク Hは,平成18年に被告に入社し,平成28年1月からD支店のサービス課サービス係でエンジニアとして勤務していた者である。(乙21)ケ Iは,平成23年に被告に入社し,平成28年4月から平成29年1月まで,D支店のサービス課サービス係でエンジニアとして勤務していた者であ る。(乙22)(2) 被告におけるAの就労状況等ア Aは,平成28年3月にJを卒業した後に,同年4月,被告に入社し,D支店サービス課において,エンジニアとして勤務していた。(甲25)イ Aは,平成28年9月7日に自宅を出た後に失踪して同月8日まで行方不 明となり,また,同月7日から同年10月6日まで被告に出勤しなかった(以下,同年9月7日からの失踪を「1回目の失踪」という。)。 ウ Aは,平成29年4月28日に自宅を出た後に失踪して同月29日まで行方不明となり(以下,同月28日からの失踪を「2回目の失踪」という。),また,同年5月24日にも自宅を出た後に失踪して同月30日まで行方不明 となり(以下,同月24日からの失踪を「3回目の失踪」という。),同年4 月28 踪を「2回目の失踪」という。),また,同年5月24日にも自宅を出た後に失踪して同月30日まで行方不明 となり(以下,同月24日からの失踪を「3回目の失踪」という。),同年4 月28日以降は被告に出勤しなかった。(甲25)エ Aは,平成29年7月18日,自動車内でヘリウムガスを吸引する方法により自死した。(甲1,25) 2 争点及びこれに対する当事者の主張(1) 被告の従業員による暴言等の有無 (原告の主張)Aは,平成28年4月の入社時から同年9月までの間,先輩従業員から,①業務中に,「仕事ができないんだったら早く辞めればいい」,「死ねばいいのに」,「明日から来なくてもいい」及び「お前には才能がないから仕事をしなくてもいい」などの暴言を日常的に受けていたほか,②適切な業務指導を伴わないま ま,「仕事が遅い」,「早くやれ」及び「あと何分かかるのか」などの指導の範囲を超える叱責を受けていた。また,Aが,1回目の失踪後,被告の業務に復帰した当初こそ暴言は収まっていたが,復帰から1か月が経過した頃から,「早く死んだらいいのに」,「お前は逃げ場所があっていいな」という暴言を受けるようになった。これらの暴言や叱責は,主としてI及びHが行っていたもので あって,他の先輩従業員もI及びHの暴言等があれば,興に乗ったように暴言等を述べることがあった。これらの先輩従業員による暴言や指導の範囲を超える叱責はパワーハラスメントと評価すべきである。 (被告の主張)原告は,被告の従業員によるAに対する暴言や叱責について,具体的にいつ, どこで,誰に対してされたのかを明らかにしないのであるから,主張の特定として不十分である。 Aは,エンジニアとしての基礎的な作 業員によるAに対する暴言や叱責について,具体的にいつ, どこで,誰に対してされたのかを明らかにしないのであるから,主張の特定として不十分である。 Aは,エンジニアとしての基礎的な作業について多くのミスを繰り返すなど技術の習熟が遅く,報告・連絡・相談等を含む同僚らとのコミュニケーションも極めて不足しており,被告の従業員は,Aの成長や顧客の安全を守るために 繰り返し注意するなどの指導をしてきた。これらの指導は,労働施策の総合的 な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律に基づく厚生労働省の告示に照らしても,パワーハラスメントに当たらないことは明らかである。 また,被告の従業員が,Aに対して,「死ねばいい」や「辞めればいい」などの指導の範囲を超えて人格を否定するような発言をしたとの事実はない。 (2) 過大なノルマの要求の有無(原告の主張)D支店では,エンジニアである従業員に対し,自動車任意保険,クレジットカード及び携帯電話等の契約獲得本数について,ノルマを課していた。そして,エンジニアは,通常自動車整備工場で勤務しており,顧客と接する機会はほぼ ないのであるから,これらのノルマを業務時間中に達成することはおよそ不可能である。このように,被告が,Aに対しておよそ達成が不可能なノルマを課していたことは,パワーハラスメントと評価すべきである。 (被告の主張)被告が,エンジニアに対し,営業活動のノルマを課していたとの事実はない。 携帯電話や保険等の契約獲得については,部門ごとに業務目標が設定されていたにすぎず,この目標が達成されなくても,ペナルティが課されるわけではなく,査定に影響を及ぼすものでもない。 (3) 被告の安全 話や保険等の契約獲得については,部門ごとに業務目標が設定されていたにすぎず,この目標が達成されなくても,ペナルティが課されるわけではなく,査定に影響を及ぼすものでもない。 (3) 被告の安全配慮義務違反の有無(原告の主張) ア Aの使用者であった被告は,Aに対し,生命,身体及び健康を危険から保護するように配慮する義務(安全配慮義務)を負っていた。 イ前記(1)及び(2)の(原告の主張)のとおり,Aに対するパワーハラスメントが行われ,その結果,Aが適応障害を発症するに至ったのであるから,被告は安全配慮義務に違反したというべきである。 ウ仮に,Aの適応障害発症について,被告の安全配慮義務違反が認められな いとしても,被告は,平成29年4月28日時点において,Aが適応障害を発症しており,2回にわたって失踪したこと,Aや原告がD支店から被告のK支店への異動を希望していたことを認識していた。そうすると,被告には,同日以降,Aの適応障害が悪化するのを防ぐために,主治医と連絡を取る,又はAを産業医に受診させるなどして病状を正確に把握した上で,休職を命 じて一定期間の休養を取らせる,D支店から異動させるなどの方法により,就労環境を抜本的に改善すべき安全配慮義務を負っていたというべきである。 しかし,被告は,同日以降も,D支店から異動したいというAや原告の要望を拒絶した上に,Aの病状を正確に把握するための措置を取らないままに, 「これ以上面倒見切れない」などと述べていたずらに出勤を促し,Aに休養を取らせなかった。このような被告の対応は,前記安全配慮義務に違反したものというべきである。 (被告の主張)ア前記(1)及び(2)の(被告の主張)のとおり,原告 勤を促し,Aに休養を取らせなかった。このような被告の対応は,前記安全配慮義務に違反したものというべきである。 (被告の主張)ア前記(1)及び(2)の(被告の主張)のとおり,原告が主張するパワーハラス メントは認められない以上,被告の安全配慮義務違反はない。 イ被告は,1回目の失踪以降,エンジニアであるLをAの仕事を割り振る担当にして,積極的に話しかけて相談に乗るように指示し,また,実際の業務を指導する者をAの一年先輩のエンジニアであるMにするなどの指導体制の変更をした。さらに,被告は,I及びHに対して,理解しやすく,かつ優 しい口調でAに対して指導するよう伝えたほか,AとI及びHが話合いをする機会を作った。現に,Aらは,その場において気持ちのすれ違いを解消するための握手をした。 被告は,2回目の失踪以降,作業のチェックや業務指示を求める際には,FやGに申し出るようにAに伝えている。原告は,2回目の失踪以降,被告 がAに対していたずらに出勤を促したなどと主張するが,そのような事実は ない。 このように,被告は,Aの仕事上の不安や原告の要望に対して適切な対応を取っているのであるから,安全配慮義務違反はない。 (4) 被告の使用者責任の存否(原告の主張) 先輩従業員による暴言や指導の範囲を超える叱責(前記(1)の原告の主張)は,被告の業務に際して行われたものであるから,被告は使用者責任を負う。 (被告の主張)否認し,争う。 (5) Aの死との因果関係の存否 (原告の主張)Aは,先輩従業員から暴言や指導の範囲を超える叱責(前記(1)の(原告の主張))を受けたり,過大なノルマを課されたりした (5) Aの死との因果関係の存否 (原告の主張)Aは,先輩従業員から暴言や指導の範囲を超える叱責(前記(1)の(原告の主張))を受けたり,過大なノルマを課されたりしたこと(前記(2)の(原告の主張))によって,適応障害を発症し,自死に至った。したがって,これらのパワーハラスメントとAの自死との間には,因果関係が認められるというべきであ る。 また,平成29年4月28日以降に,被告がAの就労環境を抜本的に改善する義務を怠ったという安全配慮義務違反(前記(3)の(原告の主張)ウ)についても,Aの自死との間に因果関係が認められるというべきである。 (被告の主張) 否認し,争う。 (6) 損害額(原告の主張)Aの死亡により以下の損害が生じ,原告はその2分の1を相続した(4293万9441円)。 ア死亡慰謝料 2500万円 イ死亡による逸失利益 5307万1712円基礎収入は,平成28年度賃金センサスにおける高専・短大卒の全年齢の男子労働者の平均賃金額である494万7000円を採用するのが相当である。就労可能年数は,Aが死亡当時21歳であったことから,46年(ライプニッツ係数17.8801)である。生活費控除は,40%とすべきで ある。 ウ弁護士費用 780万7171円エ前記アからエの合計 8587万8883円(被告の主張)否認し,争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) Aの入社後から1回目の失踪まで ア Aは,平成28年4月1日に被告に入 1 認定事実前提事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) Aの入社後から1回目の失踪まで ア Aは,平成28年4月1日に被告に入社し,同月23日まで全体研修を受けた後,同月25日からD支店サービス課に配属され,エンジニアとして勤務を開始した。(弁論の全趣旨〔答弁書・9頁〕)イ Aは,自動車のオイル交換の業務において,エンジン内にオイルをこぼしたにもかかわらず,拭かないままにすることが複数回あり,当該オイルが原 因で車両から白煙が出たとのクレームが顧客から来たことがあった。また,Aは,自動車のタイヤ交換の業務において,最後にホイールナットを締める「増し締め」という工程を度々怠ることがあり,さらに,ディスクブレーキのキャリパーボルトを折るなどのミスをしたことがあった。「増し締め」を怠ると走行中にタイヤが脱落することがあり,ディスクブレーキのキャリパ ーボルトが折れたまま走行すると,ブレーキが効かなくなることがある。 (乙 13,17〔4頁〕,18〔2頁〕21〔1,2頁〕,証人H〔2,3頁〕,証人I〔2頁〕)Aは,このようなミスをしても,何らの対処をせず,かつ先輩従業員に対する報告や連絡を怠ることも多く,先輩従業員がこれを注意しても,「はい」や「すいません」などの返事しかしなかった。(証人H〔3,4頁〕,証人I 〔3,4頁〕)ウ被告は,「責任感」,「積極性」,「規律遵守」,「協調性」及び「計画性」の5項目に分けて,新人エンジニアの行動や能力を評価していた。平成28年8月時におけるAの評価は,①「積極性」の項目のうち「(携帯電話や保険等の)紹介運動への参加」,②「規律遵守」の項目のうち「社会人としてのマナーを 守る」及び「お客 を評価していた。平成28年8月時におけるAの評価は,①「積極性」の項目のうち「(携帯電話や保険等の)紹介運動への参加」,②「規律遵守」の項目のうち「社会人としてのマナーを 守る」及び「お客様との約束を守る」,③「協調性」の項目のうち「職場の仲間と協力している」,④「計画性」の項目の全て(「仕事の流れ・手順の理解」,「仕事を計画的にすすめる」「ムダ・ムラ・ムリの無い仕事」)の各事項は「できない」,その他の事項も全て「時々できていない」「助けがあればできる」及び「あまりできない」というものだった。(乙5) エ Aは,同年9月7日,自宅を出た後に失踪して無断欠勤した(1回目の失踪)。原告やその家族が捜索したところ,同月8日午前7時頃になって,原告の妻の電話がAにつながり,同日函館市内において保護された。 (甲25〔4,5頁〕)(2) 1回目の失踪から業務への復帰まで ア A及び原告夫妻は,平成28年9月12日,I及びHからパワーハラスメントを受けているとして,札幌弁護士会の無料法律相談を受けた。 (甲24)イ原告及び原告の父は,同月18日,D支店を訪れ,C,E及びD支店サービス課リーダーのNと面談をした。この面談において,原告は,Aが失踪した理由として,Iから「死ねばいい」,Hから「辞めればいい」などと言われ たことを挙げ,I及びHに対して,Aに上記各発言をしたのかを問いただし た。また,原告は,AをK支店に異動させてほしいとの希望を述べた。Cは,原告に対し,欠勤処理のためにAの診断書を提出するよう説明した。(乙17〔3~6頁〕,証人C〔2,3頁〕,証人H〔4,5頁〕,証人I〔4,5頁〕)ウ Eは,同日の面談を受けて,被告の従業員に対し,Aには,新人の頃を思い出して,粘 提出するよう説明した。(乙17〔3~6頁〕,証人C〔2,3頁〕,証人H〔4,5頁〕,証人I〔4,5頁〕)ウ Eは,同日の面談を受けて,被告の従業員に対し,Aには,新人の頃を思い出して,粘り強く,優しい口調で指導するよう伝えた。(証人E〔4頁〕) エ Aは,被告から診断書の提出を求められたため,同月23日,Oクリニックを受診し,診察において,先輩従業員から多々「辞めてしまえ」などと言われて,次第に出勤が嫌になった旨述べた。医師は,Aには適応障害が認められ,同月7日から同年10月6日までの自宅療養が必要であり,病状改善のためには職場の異動が必要と思われると診断した。(甲5,16,17) オ原告,A,C及びEは,同年9月26日,K市内の寿司屋において面談し,Cは前記エの診断が記載された診断書を受領した。この面談において,原告は,Aを被告のK支店に異動させるよう要望し,Aは,1回目の失踪の理由について,リーダーは忙しくて声をかけづらかった,失敗続きで責められる,手伝うことがないか尋ねてもあっち行けと言われる旨述べた。これに対して, Eは,Aに対し,被告の従業員には同じミスがあっても強い口調にならないようにし,わかりやすく指導する旨伝えた。Aが被告の業務に復帰する日は,同年10月7日とされた。(乙17〔6,7頁〕,乙18〔5,6頁〕)カ CとEは,Aの指導体制について,被告のエンジニアであるPを全般的な業務の面倒を見る担当に,Aの一年先輩のエンジニアであるMをコミュニケ ーション担当とし,Eは,これをAに伝えた。(乙17〔3,7,8頁〕,乙18〔8頁〕,証人E〔5,6頁〕)Eは,被告の従業員に対し,Aの指導体制を説明し,さらに,IとHに対しては,言葉選びも含めて優しく接することと,わ これをAに伝えた。(乙17〔3,7,8頁〕,乙18〔8頁〕,証人E〔5,6頁〕)Eは,被告の従業員に対し,Aの指導体制を説明し,さらに,IとHに対しては,言葉選びも含めて優しく接することと,わがたまりを解消できる機会を設けるように伝えた。Aは,同年10月7日,被告の業務に復帰したと ころ,I及びHは,Aに謝罪し,握手をした。(乙18〔6~8頁〕,証人H 〔7,8頁〕,証人I〔5,6頁」)キ Aは,平成28年11月1日,Oクリニックを受診し,同日のカルテには,「全く普通の状態」との記載がある。Aは,同日以降,Oクリニックを受診しなかった。(甲17)ク Aは,被告の業務に復帰した平成28年10月7日以降もミスが多く,先 輩従業員に対する報告,連絡及び相談を怠ることが度々あった。(乙22〔5頁〕,証人H〔12,13頁〕)平成29年2月か3月頃には,Aが本来受けるべきダブルチェックを受けなかったため,車両点検の責任者である整備責任者が署名をしなかったことがあった。(乙20〔4頁〕,証人G〔2,3頁〕) (3) 2回目の失踪からAの自死までア Aは,平成29年4月28日,自宅を出た後に失踪して被告を無断欠勤した(2回目の失踪)。原告やその家族が捜索したところ,同月29日午後2時30分頃,Aは原告の知人によって保護された。同月28日以降,Aが被告に出勤することはなかった。(甲25〔13,14頁〕) Gは,同年5月1日,原告の母から電話でAが自宅に戻ったと伝えられたことにより,Aが失踪したことを初めて認識した。(乙20〔6頁〕)イ原告,A,F及びGは,平成29年5月14日,D支店において面談した。 この面談において,原告が,AをK支店に異動させる たことにより,Aが失踪したことを初めて認識した。(乙20〔6頁〕)イ原告,A,F及びGは,平成29年5月14日,D支店において面談した。 この面談において,原告が,AをK支店に異動させるよう要望したところ,Fは,支店には人事権がないこと,K支店の方がD支店に比して配属される 従業員の人数が少ないため業務が大変であること,仮に異動を希望してもK支店に異動になるとは限らず,一人暮らしをしなければならない場所に異動することもあることなどを説明した。(乙19〔7頁〕,20〔7,8頁〕)また,Fが,Aに対し失踪の原因を尋ねたところ,原告は,「整備の仕事をしているときなどに誰も何もいってくれないし,みてくれない,手が空いて いるといっても何も指示してもらえないようだ」と述べた。これを受けて, Fは,Aがそのように感じているのであれば状況を改善する,FかGに報告してもらえれば工場に指示をする旨述べた。(乙19〔7頁〕)Aは,同月17日から被告の業務に復帰する旨述べ,D支店のアドバイザー及びエンジニアに挨拶をして帰宅した。(乙19〔8頁〕)ウ Aが同月17日に出勤できなかったことから,原告とAは,同月21日, D支店を訪れ,F及びGと面談した(なお,F及びGは,原告及びAと面談したのは同月14日のみであると証言するが(F〔5,6頁〕,G〔6,7頁〕),FもGも,同年8月24日の面談の際,この4人で面談をした機会が2回あったとも述べていること(甲27〔5,6,9頁〕)からすれば,同年5月21日にも面談をしていたと認めることが相当である。)。この面談にお いて,同月24日にAが被告の業務に復帰することとした。(甲25〔16~18頁〕)Aは,同日,被告に出勤しようとして自宅を出た後に失踪 と認めることが相当である。)。この面談にお いて,同月24日にAが被告の業務に復帰することとした。(甲25〔16~18頁〕)Aは,同日,被告に出勤しようとして自宅を出た後に失踪し,同月30日に洞爺湖畔において保護された(3回目の失踪)。(甲18,25〔18頁〕)エ Fは,同年6月3日,原告の自宅を訪れ,原告に対して,「無断欠勤だが, 欠勤の詳しい理由,失踪したことなどについては本社には報告していない。 もうかばいきれない。」,「診断書を取ってほしい。」などと述べた。(甲25〔18頁〕)オ Aは,同月12日,Q病院を受診し,精神保健福祉士(PSW)との面談において,上司から叱責を受け,仕事を辞めたらどうか,早く死んだら,お 前は逃げ場があっていいなと言われた旨を述べ,さらに,医師の診察において,自動車の点検をしてもチェックしてくれず,たらい回しにされる旨を述べた。同日,同医師は,同年4月28日から適応障害が認められ,3か月の休養が必要である旨診断した。(甲6,18,19)カ A及び原告の母は,同年6月14日,前記オの診断が記載された診断書を 交付するためにD支店に向かったが,Aが建物内に入ることができなかった ため,原告の母が診断書をGに交付した。(甲25〔19頁〕)キ Aは,同月28日,Q病院において医師の診察を受けた。同医師は,Aの症状について,「安定」,「落ち着いている」などとカルテに記載した。(甲19)ク Aは,同年7月18日,自動車内でヘリウムガスを吸引する方法により自 死した。(前提事実(2)エ)(4) Aの自死後ア F及びGは,同年8月24日,原告の自宅を訪れ,原告及び原告の父母と面談した。(甲27)イ スを吸引する方法により自 死した。(前提事実(2)エ)(4) Aの自死後ア F及びGは,同年8月24日,原告の自宅を訪れ,原告及び原告の父母と面談した。(甲27)イ C,E及びFは,同年9月8日,原告の自宅を訪れ,原告及び原告の父母 と面談した。(甲28) 2 1回目の失踪までの先輩従業員の暴言及び叱責について(被告の従業員による暴言等の有無)(1) 原告は,Aが,平成28年4月の入社時から1回目の失踪までの間,I及びHを中心とする先輩従業員から,業務中に「仕事ができないんだったら早く辞 めればいい」,「死ねばいいのに」,「明日から来なくてもいい」及び「お前には才能がないから仕事をしなくてもいい」などの暴言を日常的に受けていたほか,適切な業務指導を伴わないまま「仕事が遅い」,「早くやれ」及び「あと何分かかるのか」などの指導の範囲を超える叱責を受けていたと主張し,これに沿う供述をする(甲25〔5~7頁〕,原告本人〔6,7頁〕)。 (2)アそこで検討するに,原告が,1回目の失踪直後,D支店の支店長らとの面談の際,Iに対して「死ねばいい」という発言をしたのか,Hに対して「辞めればいい」という発言をしたのかと問いただしたこと(認定事実(2)イ)からすれば,Aから同旨の発言があったと聞かされていたことが認められる。 また,Aは,平成28年9月12日に札幌弁護士会の無料法律相談を受け た際,I及びHからパワーハラスメントを受けた旨を述べたほか(認定事実 (2)ア),同月23日にOクリニックの診察を受けた際も,先輩従業員から多々「辞めてしまえ」などと言われた旨を述べている(認定事実(2)エ)。弁護士との法律相談や医師による診察の場において,あえて虚偽の発言をしたとは考え Oクリニックの診察を受けた際も,先輩従業員から多々「辞めてしまえ」などと言われた旨を述べている(認定事実(2)エ)。弁護士との法律相談や医師による診察の場において,あえて虚偽の発言をしたとは考え難く,1回目の失踪直後の発言であることに照らし,記憶違い等があったとも考え難い。 IやHによる「死ねばいい」や「辞めればいい」などの発言は,業務中になされたものとされている。Aは,新人エンジニアとして技術的に未熟であり,ミスも多かったにもかかわらず,先輩従業員に対する報告や連絡は不十分であったというのであるから(認定事実(1)イ,ウ),先輩従業員であるIやHが上記のような発言をしたとしても,不自然ではない。 更にHについて見ると,原告から「辞めればいい」という発言の趣旨を問われたのに対し,その発言をしたこと自体は否定していない(甲22〔1頁〕)。 イ上記の各事情を踏まえれば,入社時から1回目の失踪までの間にIから「死ねばいい」と,Hから「辞めればいい」と,それぞれ言われた(以下「本件発言」という。)とするAの説明及びこれをAから聞いたとする原告の供 述は,概ね信用できるものと認められ,これに反するI及びHの供述は信用できず,この点についての被告の主張は採用できない。 (3) その上で,Aが入社後間もない新人エンジニアであり,作業等に不慣れであったことやI及びHとの関係性を踏まえれば,本件発言は,いずれも業務上相当な指導の範囲を逸脱するものといわざるを得ず,Aに対して精神的苦痛を与 えるものと評価できる(現にAは適応障害を発症しており〔認定事実(2)エ〕,その時期等に照らし,本件発言が原因になったものと認めることが相当である。)。 したがって,I及びHがした本件発言は,不法行為に該当するというべきである。 を発症しており〔認定事実(2)エ〕,その時期等に照らし,本件発言が原因になったものと認めることが相当である。)。 したがって,I及びHがした本件発言は,不法行為に該当するというべきである。 3 1回目の失踪以降の先輩従業員の暴言及び叱責について(被告の従業員による 暴言等の有無)(1) 原告は,Aが被告の業務に復帰してから1か月を経過した頃から,「早く死んだらいいのに」,「お前は逃げ場所があっていいな」という暴言を受けるようになったと主張し,これに沿う供述をする(原告本人〔15頁〕)。 (2) そこで検討するに,確かに,平成29年6月12日にAと面談した精神保健 福祉士が作成した初回面接記録用紙(甲18)の主訴欄には,「・意欲の減少,職場環境への不適応,睡眠障害,出社拒否(これまでに数回,出社途中で音信不通,行方不明になることあり)→以降,仕事が頭に入らない。上司からも叱責を受け,仕事を辞めたらどうか,早く死んだら,お前は逃げ場所があっていいな…と言われた。」との記載が認められる。もっとも,「→以降」との記載は, 職場環境に不適応となった時点以降と解することもでき,叱責や暴言を受けた時期については必ずしも判然としない。 また,D支店サービス課課長であるEは,Aが1回目の失踪から被告の業務に復帰するまでの間,被告の従業員に対し,優しい口調でAに指導するように伝え,さらに,I及びHに対しては,言葉選びも含めて優しく接するように指 導しているところ(認定事実(2)ウ,カ),直属の上司であるEがこのような指導をした後も,被告の従業員がAに対して暴言や指導の範囲を超える叱責を行うとは通常考え難い。現に,何かあればAから事情を聞くことができたと考えられる原告においても,平成29年8月24日の面談及び平成 導をした後も,被告の従業員がAに対して暴言や指導の範囲を超える叱責を行うとは通常考え難い。現に,何かあればAから事情を聞くことができたと考えられる原告においても,平成29年8月24日の面談及び平成29年9月8日の面談の際,2回目の失踪の理由について,仕事を教えてもらえないことや, 業務について聞いてもたらい回しにされることなどを述べるにとどまり,暴言や指導の範囲を超える叱責があったとは述べていない(甲27〔23,24頁〕,28〔8,38頁〕)。 そして,他に原告の主張を裏付けるに足りる的確な証拠ないし事情は見当たらない。 (3) 以上によれば,原告の前記主張は採用できず,1回目の失踪以降に,先輩従 業員から暴言や指導の範囲を超える叱責があったと認めることはできない。 4 過大なノルマの要求の有無について(1) 原告は,被告が,エンジニアである従業員に対し,自動車任意保険,クレジットカード及び携帯電話等の契約獲得本数について達成不可能なノルマを課したことがパワーハラスメントである旨主張する。また,被告の従業員である Rは,原告との私的な会話の中で,このノルマが達成されなかった場合はボーナスなどの査定に影響が出る旨を述べている(甲21〔7,17頁〕)(なお,C及びHは,これに反する証言をする(証人C〔8,9頁〕,証人H〔10頁〕)。)。 (2) しかしながら,原告が主張するような賞与の査定に影響するノルマの存在を具体的に裏付けるに足りる証拠ないし事情は見当たらない(Rはこのようなノ ルマがあった旨を述べるが,これを裏付ける客観証拠は見当たらない。かえって,証拠(乙14)によれば,上記契約獲得に係るノルマは部門ごとに設定されており,その表彰においても「個人別の実績件数は問わない」とされていたこ べるが,これを裏付ける客観証拠は見当たらない。かえって,証拠(乙14)によれば,上記契約獲得に係るノルマは部門ごとに設定されており,その表彰においても「個人別の実績件数は問わない」とされていたことが認められる。)。 また,被告は,携帯電話の加入手続の代行業務,クレジットカードの取次に 関する業務,損害保険の代理店業務を行っているから(乙14,弁論の全趣旨〔被告履歴事項全部証明書,被告準備書面4・22頁〕),仮に契約獲得本数について,賞与の査定に影響するノルマが課されていたとしても,それ自体は被告の経営に関する事項として業務上の必要性が認められるものである。加えて,新入社員に求められていた携帯電話及びクレジットカードの契約獲得本数(目 標)が各1件であり(乙14),契約獲得に必要な知識を習得させるための講習も行われていたこと(乙3,10,11)に照らせば,原告の主張を前提としても,それが適正な業務指示の範囲を超えるものと評価することはできない。 したがって,原告の主張は採用できず,過大なノルマの要求があったとは認められない。 5 被告において,平成29年4月28日以降,Aの就労環境を抜本的に改善する 安全配慮義務に違反したか否かについて(1) 原告は,被告において,Aが適応障害を発症していることを認識しながら,2度目の失踪以降,Aの就労環境を抜本的に改善するなどの対応を取らなかったこと,具体的には,①FやGにおいて,Aに休養をとらせることもせず,いつ出勤できるのかをしつこく問いただしたり,②「かばいきれない」などの発 言をしたりして,Aを追い詰めたこと,③Aの主治医との面談や被告の産業医に受診させるとの措置を講じなかったこと,④AをD支店から異動させたいとする原告の要望を拒絶し続けたことが,安 」などの発 言をしたりして,Aを追い詰めたこと,③Aの主治医との面談や被告の産業医に受診させるとの措置を講じなかったこと,④AをD支店から異動させたいとする原告の要望を拒絶し続けたことが,安全配慮義務違反である旨主張する。 (2) しかしながら,上記①の点については,原告自身が,平成29年5月21日の面談の際,F及びGから,Aがいつから出勤できるのかをしつこく問いただ されたと供述する(甲25〔17頁〕)にとどまり,これを裏付ける客観的証拠は見当たらない(同年6月28日から通院したQ病院の医療記録並びに同年8月24日の面談及び同年9月8日の面談にもこのような事情は現れていない(甲19,27,28)。)。 したがって,F及びGが,Aの病状を考慮することなくいたずらに出勤を促 したと認めることはできない。 (3) また,上記②の点については,確かにFがこのような発言をしたこと自体は認められるものの(認定事実(3)エ),2回目の失踪以降,平成29年6月14日まで診断書の提出がなく,Aが長期にわたって無断欠勤となっていたという当時の状況を踏まえると,上記発言の趣旨は,診断書が提出されないと欠勤の 理由を本店に説明できないというものであって,業務上の必要性及び相当性がないとはいえず,これをもって安全配慮義務に違反したということはできない。 (4) 上記③の点について,被告は,平成29年6月14日,原告の母からAには3か月の休養が必要である旨の同年4月28日付け診断書を受領しており(認定事実(3)オ),その内容に従って,Aの欠勤を許容していたことが認められる。 Aの死亡時点において,このような対応を超えて,原告の主治医との面談など をしなければならない義務が被告にあったとは認め難い。 (5)ア Aの欠勤を許容していたことが認められる。 Aの死亡時点において,このような対応を超えて,原告の主治医との面談など をしなければならない義務が被告にあったとは認め難い。 (5)ア上記④の点について,Fは,Aの2回目の失踪の原因(先輩従業員に整備のチェックをお願いしてもすぐに見てもらえないなど。)を本人に確認した上で,その状況をFかGに報告してもらえれば工場に指示する旨を約束しており(認定事実(3)イ),職場環境の改善に努めようとしていたことが認め られる。 また,原告やAが異動を希望していたK支店は,D支店よりも配属される従業員が少なく,一人当たりの業務量が多くなる支店であったところ(甲28〔10頁〕,乙19〔7頁〕,証人C〔6頁〕),上述した2回目の失踪の原因に加えて,Aの技術面やコミュニケーション面に大きな課題が見られ たこと(認定事実(1)イ,ウ,同(2)ク)を併せ鑑みれば,原告が指摘する事情(AはK支店まで徒歩通勤が可能な距離に住んでおり,Aの母もK支店の近くで働いていたこと(原告本人12頁)。)を考慮しても,Aを負担の多いK支店へ異動させなかったことが不合理であったということはできない。 以上の点を踏まえると,AをK支店に異動させなかったことが安全配慮 義務に反するものであったとはいえない。 なお,原告は,今後万が一Aが出勤できなくなった場合にはK支店へ異動させる旨をCが約束したにもかかわらず,これが後任者に引き継がれておらず,職場環境改善に向けた約束が履行される見込みがなくなったため,Aにおいて再び出勤する気力を喚起することができなくなったなどと主張 し,これに沿う供述をする(甲25〔10,18頁〕)。しかし,D支店長であったCにAを異動させる権限がなかったこと(証人C〔3頁〕) て再び出勤する気力を喚起することができなくなったなどと主張 し,これに沿う供述をする(甲25〔10,18頁〕)。しかし,D支店長であったCにAを異動させる権限がなかったこと(証人C〔3頁〕)からすれば,Cがこのような約束をしたとは考え難く,他に原告の主張を裏付ける的確な証拠ないし事情も見当たらない。原告の上記主張は採用できない。 イ上記の点に関して,原告は,Aが適応障害にり患していること,その原因 が被告の職場にあること,K支店への異動について強い希望が出ていたこ とについて,平成29年1月までD支店の支店長であったCから,同月からD支店の支店長となったFに対して引継ぎがされていなかったことを指摘する。 証拠(証人F〔8,9頁〕,証人G〔10頁〕)によれば,C及びEは,Aがパワーハラスメントを受けたと訴えていること,無断欠勤の理由がパワ ーハラスメントにあると主張していること及びK支店への異動を希望していることについて,F及びGに引継ぎをしなかったことが認められるところ,このような従業員の生命・身体の安全に関する情報が共有されていなかったことは不適切であったというほかない。 しかしながら,1回目の失踪以降は,前記3で検討したとおり暴言や業 務の範囲を超える叱責があったとは認められないことに加えて,Aに配慮した指導体制が整えられていること(認定事実(2)カ),原告やAが2回目の失踪の原因として述べた事項(車両整備ができても先輩従業員にチェックしてもらえない,仕事が無いか指示を仰いでも無視される。)については,本来受けるべきダブルチェックを受けずに整備を進めたことや先輩従業員 に対する報告,連絡及び相談を怠っていたというAの業務における姿勢に起因する問題ともいえること(認定事実(2)ク) いては,本来受けるべきダブルチェックを受けずに整備を進めたことや先輩従業員 に対する報告,連絡及び相談を怠っていたというAの業務における姿勢に起因する問題ともいえること(認定事実(2)ク),2回目の失踪以降の同年5月14日の面談において,Fが2回目の失踪の原因となった状況を改善する旨述べたこと(認定事実(3)イ)に照らせば,C及びEがAに関する引継ぎをしなかったことが,直ちに安全配慮義務に反するということはでき ない。 (6) したがって,原告の主張はいずれも採用できず,被告において,平成29年4月28日以降,Aの就労環境を抜本的に改善する安全配慮義務に違反したとは認められない。 6 Aの死との因果関係について (1) 前記2ないし5で検討したところによれば,原告が主張するパワーハラスメ ントないし安全配慮義務違反について,被告の責任を肯定し得るものは本件発言のみであるから,本件発言とAの死との間に因果関係が認められるか検討する。 (2) この点について,本件発言はAが1回目の失踪をする前になされたものと認められるところ,Aは,上記失踪直後に適応障害と診断されている(認定事実 (1)エ,同(2)エ)。前述したとおり,このような時間的関係性及び本件発言の内容に照らすと,本件発言が,Aの適応障害発症の原因になったものと認めることが相当である。 もっとも,本件発言は,これを言われた者に対して当然に希死念慮を抱かせるような危険性を内在するものとは評価できないから,自死との間に直ちに因 果関係(相当因果関係)を認めることはできない。自死に至る経緯を見ても,1回目の失踪は平成28年9月7日のことであるが(認定事実(1)エ),Aが自死したのは平成29年7月28日であり(認定事実 果関係(相当因果関係)を認めることはできない。自死に至る経緯を見ても,1回目の失踪は平成28年9月7日のことであるが(認定事実(1)エ),Aが自死したのは平成29年7月28日であり(認定事実(3)ク),本件発言からAの自死までは少なくとも10か月以上が経過している。また,医療記録からも,平成28年11月1日にはAの適応障害の症状が良化の傾向にあったことが うかがわれるほか(認定事実(2)キ),自死直後の平成29年8月24日の面談等においても,本件発言は2回目の失踪の理由には挙げられていない(甲27,28)。 これらの点を踏まえると,本件発言とAの自死との間に因果関係(相当因果関係)があるといえるためには,発言者であるI及びHにおいて,Aの自死に ついての予見可能性があったと認められることが必要であるというべきであるが,本件の全記録を精査しても,I及びHが,本件発言によってAが自死に至るほどに心身の健康を損なうことを具体的に予見していたことを認めるに足りる証拠はない。 (3) したがって,本件発言とAの自死との間に因果関係があると認めることはで きない。 7 被告の使用者責任について前記2のとおり,本件発言は不法行為に当たると認められるところ,被告はI及びHの使用者であって(前提事実(1)ク及びケ),本件発言は被告における業務中にされたものであるから,被告の事業の執行についてされたものといえる。 したがって,被告は,I及びHの不法行為について,民法715条1項に基づ く使用者責任を負う。(なお,被告の使用者責任及び債務不履行責任〔安全配慮義務違反〕は,いずれもI及びHの発言に関するものであるから,責任原因がいずれであっても損害賠償の範囲は異ならない。したがって,債務不履行責任 う。(なお,被告の使用者責任及び債務不履行責任〔安全配慮義務違反〕は,いずれもI及びHの発言に関するものであるから,責任原因がいずれであっても損害賠償の範囲は異ならない。したがって,債務不履行責任の有無を別途判断する必要はない。) 8 損害額について (1) 本件発言によるAの精神的苦痛を慰謝するための金額としては,本件発言の内容,Aが被告に入社して間もない頃に先輩従業員であるI及びHからされたものであること及びAが本件発言を原因として適応障害を発症したと見られることなど,本件に顕れた一切の事情を考慮し,80万円をもって相当と認める。原告は2分の1の割合によってAを相続したから,原告が請求できる金額 は40万円となる。 (2) 原告は,相当額の報酬をもって,本件訴訟の追行を弁護士に委任したと認められるところ(弁論の全趣旨),本件訴訟の類型,難易度,認容額など本件訴訟に関する一切の事情を考慮すれば,本件と相当因果関係を有する弁護士費用は4万円をもって相当と認める。 第4 結論以上によれば,原告は,被告に対し,民法715条1項(使用者責任)に基づき,44万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 よって,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官髙木勝己 裁判官小西俊輔 裁判官豊富育 裁判官 豊富育
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