平成26年8月7日判決言渡平成25年(行ケ)第10334号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成26年6月24日判決 原告 X 被告特許庁長官 指定代理人北川清伸同土屋知久同相崎裕恒同堀内仁子 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求特許庁が不服2012-25336号事件について平成25年10月8日にした審決を取り消す。 第2 前提となる事実 1 特許庁における手続の概要(弁論の全趣旨)原告は,発明の名称を「半導体装置の製造方法」とする特許について,平成22年3月31日,特許出願(特願2010-80762号。平成17年2月4日を国際出願日とする特許出願(特願2005-517741号。優先権主張・平成16年2月9日)の分割出願である。以下「本願」という。)をし,平成24年2月3日 付けの手続補正書により,特許請求の範囲の補正をした。原告は,同年4月9日付けで拒絶理由(最後)の通知を受けたので,同年6月28日付けの手続補正書により,特許請求の範囲の補正をしたが,同年8月29日付けで補正が却下されるとともに同日付けで拒絶の査定を受けたことから,同年12月20日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2012-25336号事 により,特許請求の範囲の補正をしたが,同年8月29日付けで補正が却下されるとともに同日付けで拒絶の査定を受けたことから,同年12月20日,拒絶査定に対する不服の審判(不服2012-25336号事件)を請求するとともに,同日付けの手続補正書により,特許請求の範囲及び明細書の補正(以下,併せて「本件補正」という。)をした。 特許庁は,平成25年10月8日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は成り立たない」との審決をし,その謄本を,同年11月16日,原告に送達した。 2 本件補正前の特許請求の範囲本件補正前の特許請求の範囲(請求項の数14)の請求項7の記載は,次のとおりである(甲13。以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」といい,本件補正前の明細書と図面を併せて「本件明細書」という。)。 「DRAM,フラッシュメモリ,マイクロプロセッサなどの半導体装置,または同一基板上に設けたDRAM,フラッシュメモリ,マイクロプロセッサを含む半導体装置を製造する方法であって,半導体ウエハ上に絶縁膜または導電膜を含む皮膜を形成するステップと,前記皮膜上にフォトレジスト膜を形成するステップと,前記皮膜に形成する回路パターンのマスクを設計,作製するステップと,前記フォトレジスト膜を露光するステップと,を含み,前記マスクを設計,作製するステップは,被露光面とフォーカス合せのための校正用パターン,または転写パターンの結像位置合せのための校正用パターンの内の少なくとも一方の校正用パターンを含む回路パターンのマスクを設計,作製するステップであり,前記フォトレジスト膜を露光するステップは,前記マスクを縮小投影露光装置の 所定の箇所に配置するステップと,前記半導体ウエハ上への回路パターンの形成は,露光の 製するステップであり,前記フォトレジスト膜を露光するステップは,前記マスクを縮小投影露光装置の 所定の箇所に配置するステップと,前記半導体ウエハ上への回路パターンの形成は,露光の際に所定の厚さとなるようにした透明な液体からなるウエハカバーを半導体ウエハ上に設けると共に,前記半導体ウエハを縮小投影露光装置の所定の箇所に配置するステップと,前記校正用パターンの透過光を利用して,露光光が前記ウエハカバーを透過させることに起因する前記縮小投影露光装置の投影レンズのフォーカス位置ズレ,または光軸との直交面上の結像位置ズレの少なくとも一方を校正するステップと,透明な液体からなるウエハカバーを透過した露光光により,前記フォトレジスト膜を露光するステップであり,露光後前記ウエハカバーを除去し,フォトレジスト膜を現像することによって半導体ウエハ上に回路パターンを形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」 3 本件補正後の特許請求の範囲本件補正後の特許請求の範囲(請求項の数14)の請求項7の記載は,次のとおりである(甲16。以下,同請求項に記載された発明を「本願補正発明」という。 補正部分には下線を付した。)。 「DRAM,フラッシュメモリ,マイクロプロセッサなどの半導体装置,または同一基板上に設けたDRAM,フラッシュメモリ,マイクロプロセッサを含む半導体装置を製造する方法であって,半導体ウエハ上に絶縁膜または導電膜を含む皮膜を形成するステップと,前記皮膜上にフォトレジスト膜を形成するステップと,前記皮膜に形成する回路パターンのマスクを設計,作製するステップと,前記フォトレジスト膜を露光するステップと,を含み,前記マスクを設計,作製するステップは,被露光面とフォーカス合せのための校正 皮膜に形成する回路パターンのマスクを設計,作製するステップと,前記フォトレジスト膜を露光するステップと,を含み,前記マスクを設計,作製するステップは,被露光面とフォーカス合せのための校正用パターン,または転写パターンの結像位置合せのための校正用パターンの内の少なくとも一方の校正用パターンを含む回路パターンのマスクを設計,作製するステップであり, 前記フォトレジスト膜を露光するステップは,前記マスクを縮小投影露光装置の所定の箇所に配置するステップと,露光光が高屈折率の透明媒体からなるウエハカバーを透過してフォトレジスト膜を露光可能とし,前記透明媒体が液体であって均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たすウエハカバーを半導体ウエハ上に設けると共に,前記半導体ウエハを縮小投影露光装置の所定の箇所に配置するステップと,前記校正用パターンの透過光を利用して,露光光が前記ウエハカバーを透過させることに起因する前記縮小投影露光装置の投影レンズのフォーカス位置ズレ,または光軸との直交面上の結像位置ズレの少なくとも一方を校正するステップと,透明な液体からなるウエハカバーを透過した露光光により,前記フォトレジスト膜を露光するステップであり,露光後前記ウエハカバーを除去し,フォトレジスト膜を現像することによって半導体ウエハ上に回路パターンを形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」 4 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりである。要するに,①本件補正は,願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものとはいえないから,特許法17条の2第3項の規定に違反するので,却下すべきである,②本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に た明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものとはいえないから,特許法17条の2第3項の規定に違反するので,却下すべきである,②本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に当たるところ,本願補正発明は,特開平10-303114号公報(甲9。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,却下すべきものである,そして,③本願発明は,本願補正発明の限定事項を省いたものであるから,本願発明も,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり, 特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 第3 原告の主張する取消事由 1 取消事由1(前置報告書の認定の誤り)不服審判の前置報告書(甲4)においては,「引用文献5に記載された発明において,投影光学系の開口数を1以上とするとともに,これに対応したマスクを作製することは,当業者が適宜なし得たことである。」と記載されている。 しかし,引用文献5(甲5)に記載された投影光学系は,その開口数1以上とすることが自然科学技術上の基礎事実に反するから,当業者は,引用文献5により,投影光学系の開口数を1以上とすることが開示されていると解せないし,縮小投影レンズの開口数を1以上とする数値制限が想定できるとはいえない。本願補正発明は,開口数を1以上とする投影光学系を前提条件として,他の構成要件と組み合わせた手法を提示 されていると解せないし,縮小投影レンズの開口数を1以上とする数値制限が想定できるとはいえない。本願補正発明は,開口数を1以上とする投影光学系を前提条件として,他の構成要件と組み合わせた手法を提示し,新たな効果が得られることを示した発明であるから,引用文献5から,当業者が適宜なし得たということはできない。 したがって,前置報告書の上記記載は,自然科学技術上の基礎事実に反し,誤りである。そして,審決は,前置報告書が正しいということを前提としたものであり,前置報告書が誤っているのであるから,審決も誤っている。 2 取消事由2(最後の拒絶理由通知の認定の誤り)(1) 最後の拒絶理由通知の内容は,以下のとおり誤っているから,審決も誤っている。 ア最後の拒絶理由通知には,引用文献1ないし5に記載された発明は,縮小投影レンズの開口数を1以上にし得るものであると記載されている。しかし,これらの引用文献の記載からは,投影光学系の開口数を1以上とすることが開示されているとは解せないし,縮小投影レンズの開口数を1以上とする数値制限まで想定できるとはいえない。一方,本件明細書には,投影光学系の開口数を1以上とすることが,平成24年2月3日付けの補正(請求項1,3,5,9)及び平成23年9月22日付けの補正(請求項2,4,6,10)に記載されており,これは本願にか かる発明の構成要件である。したがって,最後の拒絶理由通知の上記記載は誤っている。 イまた,最後の拒絶理由通知は,本願の各請求項の中の「所定の厚さ」の用語の技術的意味が把握できない旨を指摘しているが,引用文献1ないし5が「均一の厚さ」の透明媒体であるとの基準で選定されている事実等からすれば,審査官は,請求項の中の「所定の厚さ」という用語を,明細書全体の記述から「均一の厚さ」 旨を指摘しているが,引用文献1ないし5が「均一の厚さ」の透明媒体であるとの基準で選定されている事実等からすれば,審査官は,請求項の中の「所定の厚さ」という用語を,明細書全体の記述から「均一の厚さ」と解していたとしか解されず,「所定の厚さ」の技術内容が把握できていたことを示している。したがって,最後の拒絶理由通知の上記指摘には根拠がない。 ウ最後の拒絶理由通知には,投影光学系の開口数1以上の露光装置に対応したマスクを当業者が容易に作製できると記載されている。しかし,引用文献1ないし5には,投影光学系の開口数1以上とする露光装置に対応するマスクは開示されておらず,投影光学系の開口数が1以上に対応するマスクの作製を当業者が容易に想定できるとはいえない。一方,本願の請求項1ないし6,9,10は,投影光学系の開口数が1以上とする条件をマスクの回路パターンの作製条件に変える特殊なマスクを構成要件とするものである。したがって,最後の拒絶理由通知の上記記載は誤っている。 エ最後の拒絶理由通知には,請求項2,4,6,10,11に係る発明について,CMP等によって各種の皮膜表面を平坦化することは,当業者が容易になし得たとの記載がある。しかし,これらの発明は,液浸露光の際に,ウエハステージの移動によって液体媒体中に微細な泡が発生する問題を指摘し,その微細な泡の発生を低減する手法を開示したものである。一方,引用文献1ないし5の発明は,液体中の投影露光に係わる発明であるが,すべて半導体ウエハが平坦として扱われ,特別に平坦化することを想定しておらず,半導体ウエハ上の微細な段差による微細な泡発生や,これを抑制するために絶縁膜や導電膜を平坦化することの開示がない。 したがって,最後の拒絶理由通知の上記記載は誤りである。 (2) 被告は,14個ある請求項のうち, の微細な段差による微細な泡発生や,これを抑制するために絶縁膜や導電膜を平坦化することの開示がない。 したがって,最後の拒絶理由通知の上記記載は誤りである。 (2) 被告は,14個ある請求項のうち,請求項7については拒絶理由通知の理由 がある旨主張する。しかし,同主張は,拒絶理由通知において,複数の請求項のうち1つでも理由があれば,該当しない請求項については拒絶理由通知の理由がなくてもよいとするものであり,拒絶理由通知の制度が存在する意義を無視した独善的見解である。「投影光学系の開口数1以上とする」ことを構成要件とする請求項1ないし6,9ないし14については,拒絶理由通知の根拠がなく,最後の拒絶理由通知には,被告が主張する請求項の他の有効な特許請求項を潰すことになる重大な瑕疵がある。 (3) また,原告は,被告が主張する請求項7(本願発明)の拒絶理由をそのまま認めた訳ではない。 請求項7は,露光光が透過する液体の透明媒体に対して,「所定の厚さ」である条件を構成要件としている。ところが,被告が提示した引用例には,当該発明者が意図した発明の特徴を示すため,明らかに透明媒体の厚さが異なる複数の実施例(図3,5,8)が開示されている。引用発明を特徴付けるこれらの実施例の開示内容からすれば,引用例には,所定の厚さであるとの条件が開示されていないし,引用例からこれを当業者が想定できるということもできない。すなわち,引用例には,露光光が透過する液体の透明媒体に対して,所定の厚さであるとの条件を構成要件とする公知例が記載されているということはできない。 したがって,公平な観点に立てば,請求項7については,前記引用例は,拒絶理由通知の理由であるということはできない。 3 取消事由3(本件補正却下の判断の誤り)(1) 補正却下理由1(新規事項 したがって,公平な観点に立てば,請求項7については,前記引用例は,拒絶理由通知の理由であるということはできない。 3 取消事由3(本件補正却下の判断の誤り)(1) 補正却下理由1(新規事項に当たるとの認定)の誤り審決は,本件補正は,「願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面の記載から自明な事項であるとも認められない」と認定している。 アしかし,本件明細書の図4の黒丸(最適化前)は,投影光学系に均一厚さの透明媒体を設けたときに投影光学系に生じる波面収差であるところ,図4の黒丸をみれば,「透明媒体は,均一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度を低下さ せる」と当業者は容易に解する。 一方,図4の白丸(最適化後と記入)は,黒丸(最適化前と記入)と異なって,投影光学系に生じる波面収差が著しく低減する基板厚さがあることが一目で分かるところ,図4の白丸を見れば,当該分野の当時の当業者は,「均一の厚さ条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件と」があり,それらの条件を満たすことが解決策であると容易に解する。 当業者の当時の状況を考慮すれば,当業者は,図4の黒丸と白丸とを比較して見れば,「透明媒体は,均一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度を低下させ,逆に解像度を向上させる透明媒体厚さの条件がある」と解するものである。 イまた,本件明細書の図4は,マスク面と投影レンズ系との間に均一な厚さの透明媒体を設けたときの解析結果を示したものであるが,本件明細書の実施例の説明において,「仮にウエハ面から光を透過するならば,光束は最短距離となる光路パスを逆に進み,マスク面上の対応箇所に結像する。」と記述している。 光束が最短距離となる光路を進み,光束の進行方向を逆にしても同じ光路となるということは,光束の逆進の原理と 束は最短距離となる光路パスを逆に進み,マスク面上の対応箇所に結像する。」と記述している。 光束が最短距離となる光路を進み,光束の進行方向を逆にしても同じ光路となるということは,光束の逆進の原理と称し,自然科学上の基礎的な事実である。マスク面上の1点がウエハ上の1点に1対1で対応する投影光学系においては,ウエハ上から光束の進行方向を逆にすれば,マスク上の同じ一点に結像する。これは,当時も今も当業者に広く知られている。 したがって,当業者は,前記記述から,ウエハ面と投影レンズ系との間に均一な厚さの透明媒体を設けたときも同じ結果になると当業者は解する。 ウ以上からすれば,本件補正の内容が,本件明細書の図面に記載した事項から自明でないとの審決の認定は間違いである。 (2) 補正却下理由2(特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの認定)の誤りア本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの審決の認定は,本件明細書の記載から,補正内容が自明な事項でないことが前提である。し かし,上記(1)のとおり,本件補正の内容は,本件明細書の図4から自明な事項であるから,同前提は誤っており,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するということはできない。 イまた,本件補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とした補正である。 (3) なお,原告の上記3(1)及び(2)の主張は,最後の拒絶理由通知に瑕疵がないことを前提にして行ったものである。しかし,被告は,その後の主張において同通知の引用文献の解釈が自然科学上の基礎事実に反する誤りがあることを認めており,これを前提とすれば,審決に提出された請求項に関し,そもそも本件補正を行う必要性はまったくなかったものである。拒絶理由通知の瑕疵が訂正されたとすれば 学上の基礎事実に反する誤りがあることを認めており,これを前提とすれば,審決に提出された請求項に関し,そもそも本件補正を行う必要性はまったくなかったものである。拒絶理由通知の瑕疵が訂正されたとすれば,原告の手続補正も大幅に変わり,拒絶査定されないことになる。 第4 被告の反論 1 取消事由1(前置報告書の認定の誤り)について前置報告書は,本件補正後の請求項1について引用文献5から容易としているのに対し,審決においては,補正の却下は本件補正後の請求項7について,補正の却下後は本件補正前の請求項7について,それぞれ引用例から容易と判断している。 したがって,前置報告書と審決とでは対象としている請求項および引用文献が異なっており,しかも審決が対象とした請求項7には「投影光学系の開口数を1以上」とすることは記載されていないから,審決が前置報告書の認定を前提としていないことは明らかである。また,原告の主張は,もっぱら前置報告の瑕疵を主張するものにすぎない。したがって,原告の主張は失当である。 2 取消事由2(最後の拒絶理由通知における認定の誤り)について原告の主張する内容は,以下のとおり審決の対象となっていない又は審決が前提としない事項であり,また,原告の主張は,もっぱら拒絶理由の瑕疵を主張するものにすぎない。したがって,原告の主張は失当である。 (1) 原告は,最後の拒絶理由通知の引用発明には,投影光学系の開口数1以上とすることの開示がないと主張するが,上記1のとおり,審決が対象としている請求 項は,本件補正後の請求項7と本件補正前の請求項7であり,何れも投影光学系の開口数が1以上であることを発明特定事項としていない請求項である。 (2) 原告は,本願の各請求項の中の「所定の厚さ」の用語の技術的意味が把握できないとする拒 の請求項7であり,何れも投影光学系の開口数が1以上であることを発明特定事項としていない請求項である。 (2) 原告は,本願の各請求項の中の「所定の厚さ」の用語の技術的意味が把握できないとする拒絶理由通知には根拠がないと主張する。しかし,審決は特許法36条6項2号の明確性要件違反については判断していないから,審決が原告の主張するような最後の拒絶理由通知の認定を前提としたものでないことは明らかである。 (3) 原告は,最後の拒絶理由通知の引用発明からは,投影光学系の開口数1以上に対応するマスク作製を当業者が容易になし得ないと主張する。しかし,上記(1)のとおり,審決が対象としている請求項7は,本件補正前も本件補正後も,何れも投影光学系の開口数が1以上であることを発明特定事項としていない請求項である。 (4) 原告は,最後の拒絶理由通知の引用発明には,半導体ウエハ上の微細な段差による微細な泡発生の開示がないと主張する。しかし,上記(1)のとおり,審決が対象としている請求項7は,本件補正前も本件補正後も,何れも平坦化することを発明特定事項としていない請求項である。 3 取消事由3(本件補正却下の判断の誤り)について(1) 補正却下理由1(新規事項に当たるとの認定)の誤りについて原告は,本件補正は,本件明細書の図4から自明な事項である旨主張する。しかし,図4は,(液体からなる)ウエハカバーについて記載されたものではなく,合成石英ガラスからなるマスクカバーについて記載されたものであり,材質およびカバーする対象が異なっているから,図4の記載から(液体からなる)ウエハカバーの厚さに関し「均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たす」ことや,「均一厚さとした場合,単に設けただけでは解像度低下させ,逆に解像度向上させる透 液体からなる)ウエハカバーの厚さに関し「均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たす」ことや,「均一厚さとした場合,単に設けただけでは解像度低下させ,逆に解像度向上させる透明媒体厚さの条件がある」ことが自明な事項であるとはいえない。 また原告は,光束の逆進の原理により図4の記載からウエハ面と投影レンズ系との間に均一な厚さの透明媒体を設けたときも同じ結果になると当業者は解する旨の主張をしている。しかし,図4の記載から当業者がそのように解することができた としても,そのことが図4に記載されているのと同然であるとはいえない。 また,原告は図4の黒丸(最適化前と記入)と白丸(最適化後と記入)とを比較してみれば,「透明媒体は,均一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度低下させ,逆に解像度向上させる透明媒体厚さの条件がある」と当業者は容易に解する旨の主張をしている。しかし,本件明細書には,マスクカバーを設ければその厚さに依存して波面収差が激増するが,マスク面と結像面位置を光軸方向に補正して最適化した場合,波面収差が小さくなることは記載されているといえるとしても,マスク面と結像面位置を光軸方向に補正することとは無関係にマスクカバーの厚さの条件によって解像度を向上できることは何ら記載されていない。 したがって,原告の主張は何れも失当であり,審決の認定に誤りはない。 (2) 補正却下理由2(特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの認定)の誤りについてア原告は,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの審決の認定は,同補正が,本件明細書の記載から自明な事項でないことが前提である旨の主張をしている。しかし,審決では,本件補正前の請求項7の記載と,本件補正後の請求項7の記載を比べて, に該当するとの審決の認定は,同補正が,本件明細書の記載から自明な事項でないことが前提である旨の主張をしている。しかし,審決では,本件補正前の請求項7の記載と,本件補正後の請求項7の記載を比べて,補正後の特許請求の範囲が減縮されていると認定しただけであり,本件明細書の記載から自明な事項でないことを前提とはしていない。 イまた,原告は,本件補正は,明りようでない記載の釈明を目的とした補正である旨の主張をしている。しかし,本件補正は,透明な液体からなるウエハカバーの厚さについて,補正前は「所定の厚さとなる」であったものを,補正後は「均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たす」と補正しており,補正前の「所定の厚さとなる」ことと,補正後の「均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たす」ことが同じ意味であるとは考えにくいから,明りようでない記載の釈明を目的とした補正であるとはいえない。むしろ補正前の「所定の厚さとなる」では特に条件による限定がなかったものが,補 正後では「均一厚さとする条件と,解像度が向上する透明媒体厚さの条件とを満たす」と,二つの条件を満たすものに限定されているといえるから,特許請求の範囲の減縮を目的とした補正であると考える方が自然である。 ウしたがって,原告の主張は何れも失当である。 第5 当裁判所の判断当裁判所は,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法はないと判断する。その理由は次のとおりである。 1 認定事実(1) 審決に至る経緯として,以下の事実が認められる。 ア特許庁は,平成24年4月9日付けで,原告に対し,最後の拒絶理由通知(甲7。以下「最後の拒絶理由通知」という。)をした。同通知における拒絶理由は,①請 る経緯として,以下の事実が認められる。 ア特許庁は,平成24年4月9日付けで,原告に対し,最後の拒絶理由通知(甲7。以下「最後の拒絶理由通知」という。)をした。同通知における拒絶理由は,①請求項1,3,5,7,9,11及び13に係る発明の,「露光の際に所定の厚さとなるようにした」透明な液体からなるウエハカバーを半導体ウエハ上に設けることについて,ウエハカバーを「露光の際に所定の厚さとなるようにした」ことの技術的意味が把握できないから,同各請求項に係る発明は明確ではなく,したがってこれらを引用する請求項2,4,6,8,10,12及び14に係る発明も明確でないので,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないこと(理由1),②請求項1ないし14に係る発明は,引用文献1ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易になし得たものであること(理由2。なお,引用例は,引用文献2として引用されていた。)であった。 イ原告は,上記通知を受けて,平成24年6月28日付けで,請求項1,3,5,7,9,11及び13について補正をしたが,同年8月29日付けで,特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるとして補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶の査定を受けた(乙1)。拒絶査定においては,最後の拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をするものとされた。 ウ原告は,平成24年12月20日,請求項1,3,5,7,9,11及び1 3並びに本件明細書について本件補正をするとともに,拒絶査定に対する不服審判請求をした。特許庁は,平成25年2月27日付けで,原告に対し,審査官による前置審査の結果,前置報告書の内容のとおり,特許をすべき旨の査定ができない旨の報告がされたので,その内容について意見があれば回答するよう求 許庁は,平成25年2月27日付けで,原告に対し,審査官による前置審査の結果,前置報告書の内容のとおり,特許をすべき旨の査定ができない旨の報告がされたので,その内容について意見があれば回答するよう求めた(甲4)。 同前置報告書の内容は,本件補正後の請求項1に係る発明は,拒絶査定で示した引用文献5に記載された発明から容易に想到できるものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,本件補正は却下されるべきものであるから,本願は拒絶査定の理由のとおり拒絶されるべきであるというものであった。 エ特許庁は,平成25年10月8日,前記第2の4のとおりの内容の審決をした。 (2) 本件明細書の記載について本件明細書(甲3。なお,明細書については,出願時から本件補正時まで補正されていない。)には,以下の記載がある。 ア 「【技術分野】【0001】本発明は,光露光技術に係り,例えば半導体集積回路等の製造プロセスにおける回路パタ-ンの転写技術等に適用して有効な技術に関するものである。」イ 「【背景技術】【0002】集積回路パターンの微細化および高集積化が進み,遠紫外光又は真空紫外光を使用してマスク上の集積回路パターンを半導体ウエハに転写するフォトリソグラフィ工程においては,露光波長の半分より微細な寸法の回路パターンを高精度に半導体ウエハ上へ露光し,パターン形成できる手段が求められている。」ウ 「【発明が解決しようとする課題】【0008】半導体集積回路装置の高集積化は留まることなく進展している。半導体集積回路パターンの最小寸法は,量産レベルでも100ナノメータ以下まで微細化されつつある。このような微細な回路パターン形成には主に縮小投影露光方式が用いられてきた。この縮小投影露光方式は, 体集積回路パターンの最小寸法は,量産レベルでも100ナノメータ以下まで微細化されつつある。このような微細な回路パターン形成には主に縮小投影露光方式が用いられてきた。この縮小投影露光方式は, これまでのように光源の短波長化,レンズの大口径化がますます困難になり,高集積化の進展に伴って要求される回路パターンの微細化に対応できなくなっている。」「【0009】・・・本発明の目的は,縮小投影露光法を用いて,露光波長の半分より微細な回路パターンの半導体集積回路装置を精度良く,かつ,効率よく製造する手段を提供することである。」「【0010】・・・本発明の具体的な一つの目的は,半導体ウエハ上の絶縁膜,導電膜に回路パターンを形成する工程において・・・露光光の波長より微細な回路パターンを精度よく形成する手法を提供することである。」エ 「【課題を解決するための手段】【0011】本願において開示される発明のうち,代表的なものの概要を簡単に説明すれば,次のとおりである。 すなわち,本発明は,集積回路パターンを形成したマスク,マスクの集積回路パターン面に接触させたマスクカバー,半導体ウエハ上のフォトレジスト面に接触させたウエハカバーを用い,縮小投影露光法により,半導体ウエハ上のフォトレジスト面に回路パターンを露光するものである。露光光は,マスクを照明し,マスクカバー,縮小投影露光装置の投影レンズ,ウエハカバーを透過して,半導体ウエハ上のフォトレジストを露光させる。ウエハカバーを除去して,フォトレジストを現像し,半導体ウエハ上に回路パターンを形成する。 【0012】・・・本発明は,フォトレジスト面に接触した透明液体から成るウエハカバー,ガラスの投影レンズカバーを設けた縮小投影露光装置であり,マスクの集積回路パターンを半導体ウエハ上のフォトレジス 【0012】・・・本発明は,フォトレジスト面に接触した透明液体から成るウエハカバー,ガラスの投影レンズカバーを設けた縮小投影露光装置であり,マスクの集積回路パターンを半導体ウエハ上のフォトレジストに露光する装置である。露光光は,マスクを照明して,縮小投影露光装置の投影レンズ,投影レンズカバー,ウエハカバーを透過し,前記半導体ウエハ上のフォトレジスト面に結像し,露光する機能を備えた装置である。・・・追加縮小して良好なパターン形成するため,フォトレジスト面に接触させたウエハカバーを用いる。露光光は,マスク,縮小投影露光装置の投影レンズ,ウエハカバーを透過し,半導体ウエハ上のフォトレジスト面にマスクの集積回路パターンを結像させ,露光するものである。 また,本発明は,マスクに形成した集積回路パターンを半導体ウエハ上のフォトレジストに露光するため,次の第一の機能と第二の機能と両方備えた縮小投影露光装置である。 【0013】第一の機能は,フォトレジスト面に接触させたウエハカバーを用い,半導体ウエハ上のフォトレジストを露光する機能である。露光光は,マスク,縮小投影露光装置の投影レンズ,ウエハカバーを透過し,フォトレジスト面に結像する。」オ 「【発明の効果】【0016】本願によって開示される発明のうち,代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば,以下の通りである。 マスクの回路パターン面にマスクカバー,半導体ウエハのフォトレジスト面にウエハカバーを設け,マスクと縮小投影露光装置により,半導体ウエハ上のフォトレジストに露光することにより,縮小投影露光の収差問題を抑制し,半導体ウエハへ転写される回路パターンの精度を向上させる。」カ 「【実施例1】【0021】実施例1は,集積回路パターンを形成したマスクと縮小投影レンズを利用 り,縮小投影露光の収差問題を抑制し,半導体ウエハへ転写される回路パターンの精度を向上させる。」カ 「【実施例1】【0021】実施例1は,集積回路パターンを形成したマスクと縮小投影レンズを利用して半導体ウエハ上のフォトレジスト面へ回路パターンを露光するためのマスク,縮小投影露光装置,および集積回路パターンの形成手法に関するものである。 図1は,半導体集積回路装置の製造に用いるマスク,縮小投影露光装置,半導体ウエハの全体構成図の一例を示している。マスクには,回路パターン面に接触させたマスクカバーと半導体ウエハには,フォトレジスト面に接触させたウエハカバーを設けている。・・・」 「図4は,マスクカバーの厚さに対して,設計した縮小投影レンズの波面収差の変化を調べたものである。マスクカバーの材質は,屈折率1.47の合成石英ガラスである。波面収差は,マスクカバーを設ければその厚さに依存して激増する。図4に示したように,マスク面と結像面位置を光軸方向に補正し,最適化した場合,その波面収差は,マスクカバーの厚さに依存して変化した。」「本発明者は,マスクカバーの厚さが,0.1mmから0.6mmとし,マスク面と結像面位置を光軸方向に位置を補正して最適化すれば,マスクカバーを設けなかった時より小さくなることを見出した。マスクカバーの厚さが0.3mmの時,縮小投影レンズの波面収差は,図5に示すように,rms値が0.0008λである。 【0022】縮小投影光学システムでは,マスク上の一点から出た光がウエハ上のフォトレジスト面の一点に結像する。結像投影光学系においては,マスク面である物面とウエハ面である結像面とは,投影レンズを挟んで一対一に対応する。仮に,ウエハ面から光を照射するならば,光束は最短距離となる光路パスを逆に進 像する。結像投影光学系においては,マスク面である物面とウエハ面である結像面とは,投影レンズを挟んで一対一に対応する。仮に,ウエハ面から光を照射するならば,光束は最短距離となる光路パスを逆に進み,マスク面の対応箇所に結像する。 上記の検討から,本発明者は,マスクの回路パターン面でなく,ウエハ上のフォトレジスト面へウエハカバーを付加することで,縮小投影レンズを利用してフォトレジスト面へ露光するとパターン転写の解像度が向上することを見出した。」「【0024】発明の実施形態としては,フォトレジスト面上に所定の厚さのウエハカバーを設けることで,転写パターンの解像度を向上させることができる。以下に,図1に示した実施例1の縮小投影露光装置とウエハカバーについて詳細に説明 する。」「・・・マスクM1は,・・露光体に対して透明なマスクカバーM2が設けられている。」「半導体ウエハW1は,XYZステージE8上に載置されている。この半導体ウエハW1の主面には,露光光に対して感光性を有するフォトレジストが形成されている。このフォトレジスト面に接触させたウエハカバーW2が設けられている。ウエハカバーは,屈折率が高い材質が望ましい。ウエハカバーW2は,露光光に対して実質的に透明なマスクの基板材料である合成石英ガラス(1mm厚,屈折率が1. 47)を用いた。投影レンズの結像面側のレンズ端面とウエハカバーとのギャップは,100ミクロンとした。ウエハカバーは,投影レンズの結像面側のレンズ端面からフォトレジスト面まで,90%以上となる光路長の厚さとなった。投影レンズの結像面側のレンズ端面からフォトレジスト面までの光路長に対し,ウエハカバーの厚さを増す程,転写パターンの解像度向上の大きい効果を得ることができる。」「【0026】」「・・・本発明 た。投影レンズの結像面側のレンズ端面からフォトレジスト面までの光路長に対し,ウエハカバーの厚さを増す程,転写パターンの解像度向上の大きい効果を得ることができる。」「【0026】」「・・・本発明の露光装置は,ウエハカバーとして,純水を用いる液侵露光装置としても露光できるようにした。」(3) 引用例の記載について引用例(甲9)には,以下の記載がある。 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,レチクル上に描画されたパターンを投影光学系によってウエハに焼付ける露光装置に関し,特に液浸型の露光装置に関する。」「【0004】【発明が解決しようとする課題】・・・本発明は,ワーキングディスタンスを満たす液体の温度制御を容易にして,結像性能の劣化を招くことのない液浸型露光装置を提供することを課題とする。」「【0012】【第1の実施例の説明】・・・ 【0017】・・・本実施例では,・・・液浸状態における投影レンズ系PLの最良結像面(レチクル共役面)が,先端のレンズ素子の下面から約2~1mmの位置に形成されるように設計されている。従って,先端のレンズ素子の下面とウエハWの表面との間に形成される液体層の厚みも2~1mm程度になり,・・・」「【0020】・・・本実施例では・・・投影レンズPLの先端のレンズ素子とウエハWとの間の2~1mm程度の狭い間隔に液体LQを満たす・・・」「【0031】・・・本実施例では図3に示したように,投影レンズ系PLの先端のレンズ素子LE1の下面PeとウエハW(又は補助プレート部HRS)の表面とのベストフォーカス状態での間隔Lは,2~1mm程度に設定される。・・・このように本実施例では,投影レンズ系PLのワーキングディスタンスとしての間隔Lを極めて小さくしたため,ホルダテーブルWH内に満 のベストフォーカス状態での間隔Lは,2~1mm程度に設定される。・・・このように本実施例では,投影レンズ系PLのワーキングディスタンスとしての間隔Lを極めて小さくしたため,ホルダテーブルWH内に満たされる液体LQの総量も少なくて済み,温度制御も容易になる。」「【0041】【第3の実施例の説明】次に第3の実施例について図5を参照して説明する。」「【0043】・・・本実施例で使用する投影レンズ系PLの先端部には,サブ鏡筒80の先端に光軸AXと垂直に固定された石英の平行平板CGが取り付けられ,したがって先端のレンズ素子LE1(平凸レンズ)が液体LQに浸かることがないように構成されている。本実施例では,この平行平板CGの下面とウエハWの表面との間隔が,見かけ上のワーキングディスタンスとなり,先の実施例と同様に2mm以下に設定される。またサブ鏡筒80の平行平板CGとの取付け面は防水加工され,サブ鏡筒80の内部には窒素ガスが充填されている。 【0044】このように投影レンズ系PLの先端に平行平板CGを設けるように すると,投影レンズ系PLの実質的なバックフォーカス距離(屈折力を持つ先端の光学素子から像面までの距離)が10~15mm程度であっても,容易にワーキングディスタンスLを1~2mm程度にして液体の温度変化の影響を低減させた液浸投影法が実現できる。」「【0055】【第6の実施例の説明】次に図8は本発明の第6の実施例を示し,この実施例では下部容器7と上部容器8を用いている。ウエハ3を載置するウエハホルダー3aは下部容器7の内面底部に形成されており,下部容器7の上面は上部容器8の底面によって密閉されており,下部容器7の全容積は浸液7aによって完全に満たされている。他方上部容器8にも浸液8aが満たされており, の内面底部に形成されており,下部容器7の上面は上部容器8の底面によって密閉されており,下部容器7の全容積は浸液7aによって完全に満たされている。他方上部容器8にも浸液8aが満たされており,その浸液8a内に投影光学系1の最終レンズ面1aが浸されている。」「【0057】この実施例においては,下部容器7と上部容器8を一体として移動することにより,ウエハ3を移動している。」「【0058】なお本実施例では下部容器7と上部容器8を一体として移動したが,下部容器7のみを移動し,上部容器8を固定することもできる。この構成のときには,上部容器8内の浸液8aは完全に停止することになる。したがってワーキングディスタンスLのうちで,上部容器8内の浸液8aの厚さL8よりも,下部容器7内の浸液7aの厚さL7の方を十分に薄く形成することが好ましい。」 2 原告主張の取消事由1(前置報告書の認定の誤り)について原告は,前置報告書の引用文献5(甲5)に関する認定は誤りであるところ,審決は前置報告書が正しいということを前提としたものであるから,審決も誤っている旨主張する。 (1) しかし,審決取消訴訟において,審理の対象となるのは,審決の違法性であるところ,前置報告書の内容の違法性は,審決が違法となる理由には当たらないから,原告の主張は失当である。 (2) また,原告の主張を,審決の判断内容の誤りをいうものであると解したとしても,上記1の認定事実のとおり,審決においては,前置報告書記載の内容とは異なり,引用文献5(甲5)ではなく,引用例(甲9)記載の発明を引用発明として認定して,かつ,請求項1ではなく,本件補正による補正後及び補正前の請求項7に係る発明を対象とする判断をしているのであって,審決の判断内容は,前置報告書記載の内容を前提と 記載の発明を引用発明として認定して,かつ,請求項1ではなく,本件補正による補正後及び補正前の請求項7に係る発明を対象とする判断をしているのであって,審決の判断内容は,前置報告書記載の内容を前提としたものではない。したがって,仮に前置報告書に記載された内容が誤っているとしても,審決の内容が誤っているということはできず,審決が違法となるものではないから,原告の主張は理由がない。 (3) なお,仮に原告の主張が審判手続の違法をいうものであると解したとしても,前置報告とは,拒絶査定不服審判請求と同時に補正があったときに,審査官がその請求を審査し(特許法162条。前置審査),拒絶査定を取り消す場合を除いて,その審査の結果を特許庁長官にする報告(同法164条3項)である。そして,審判手続においては,前置報告の内容に対する意見陳述の機会を与えるため,審判長が審判請求人(出願人)に対して,前置報告の内容を審尋(同法134条4項)により送付するという運用が行われているものであり,前置報告の内容が正しいことが審判手続の前提となっているものではない。そうすると,仮に前置報告の内容が誤っているとしても,そのことをもって審判手続に何らかの瑕疵があるということもできない。 (4) したがって,取消事由1についての原告の主張を採用することはできない。 3 原告主張の取消事由2(最後の拒絶理由通知の認定の誤り)について(1) 原告は,最後の拒絶理由通知は,①引用文献1ないし5に記載された発明は,縮小投影レンズの開口数を1以上にし得るものであると記載した点,②「所定の厚さ」の用語の技術的意味が把握できないと指摘した点,③投影光学系の開口数1以 上の露光装置に対応したマスクを当業者が容易に作製できると記載した点,④CMP等によって各種の皮膜表面を平 の厚さ」の用語の技術的意味が把握できないと指摘した点,③投影光学系の開口数1以 上の露光装置に対応したマスクを当業者が容易に作製できると記載した点,④CMP等によって各種の皮膜表面を平坦化することを当業者が容易になし得たと記載した点で誤っており,したがって,審決も誤っている旨主張する。 アしかし,前記2(1)で説示したとおり,審決取消訴訟において,審理の対象となるのは,審決の違法性であるところ,最後の拒絶理由通知の内容の誤り自体は,審決が違法となる理由には当たらないから,原告の主張は失当である。 イまた,原告の主張を,審決の判断内容の誤りをいうものと解したとしても,前記1(1)の認定事実のとおり,審決においては,本件補正前の請求項7(本願発明)及び本件補正後の請求項7(本願補正発明)についての判断がされているところ,原告の主張する上記①,③又は④の記載に係る構成要件は,いずれも本願発明又は本願補正発明の特許請求の範囲に含まれていないから(このことは,原告の主張自体からも明らかである。),上記①,③又は④についての最後の拒絶理由通知の記載内容は,審決の判断内容の前提となっているものではない。また,審決は,最後の拒絶理由通知とは異なり,特許法36条6項2号違反を理由として特許を受けることができないと判断しているものでもないから,上記②についての最後の拒絶理由通知の指摘も,審決の判断内容となっているものではない。 したがって,仮に最後の拒絶理由通知の上記①ないし④の記載が誤っているとしても,そのことをもって審決の内容が誤っているということはできず,審決が違法となるものではないから,原告の主張は理由がない。 (2) 原告は,請求項7について拒絶理由があるとしても,その他の請求項についての拒絶理由が根拠がないものである以上, うことはできず,審決が違法となるものではないから,原告の主張は理由がない。 (2) 原告は,請求項7について拒絶理由があるとしても,その他の請求項についての拒絶理由が根拠がないものである以上,最後の拒絶理由通知には重大な瑕疵があると主張する。 しかし,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り, 当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定するほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするという可分的な扱いは予定されていない(最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。したがって,複数の請求項のうち,一つの請求項について拒絶すべき理由があれば,他の請求項について拒絶理由がないとしても,特許出願全体が一体不可分のものとして拒絶査定をすべきものである。 そして,拒絶査定又は審決において拒絶理由があると判断された請求項以外の請求項に係る発明について,拒絶理由通知における拒絶理由が根拠を欠くものであるとしても,そのことをもって拒絶理由通知が違法となるものではなく,審判手続に審決を取り消すべき瑕疵があるということはできない(審決において拒絶理由があると判断された請求項に係る発明について,拒絶理由通知においても当該拒絶理由が示されていれば足りると解される。)。したがって,原告の主張は理由がない。 (3) 原告は,引用例には,液体の透明媒体について「所定の厚さ」であるとの条件が開示されて 由通知においても当該拒絶理由が示されていれば足りると解される。)。したがって,原告の主張は理由がない。 (3) 原告は,引用例には,液体の透明媒体について「所定の厚さ」であるとの条件が開示されているとはいえないから,引用例を理由とする本件補正前の請求項7(本願発明)の拒絶理由も理由がない旨主張する。 原告の上記主張は,拒絶理由通知の瑕疵の一つとして主張されているものであるところ,拒絶理由通知の内容の誤りが審決の取消事由とはならないことは前記(1)のとおりである。また,同主張を,本願発明について特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断内容の誤りをいうものと善解したとしても,以下のとおり理由がない。 ア上記1(2)によれば,本願発明は,半導体集積回路装置の微細な回路パターン形成には,主に縮小投影露光方式が用いられてきたところ,縮小投影露光方式は,高集積化の進展に伴って要求される回路パターンの微細化に対応できなくなっている(【0008】)という課題を解決するため,縮小投影露光法を用いて,露光波長の半分より微細な回路パターンの半導体集積回路装置を精度良く,かつ,効率よく 製造する手段を提供することを目的とする(【0009】),半導体装置の製造方法に係る発明である。そして,本願発明は,半導体ウエハ上への回路パターンの形成において,露光の際に「所定の厚さ」となるようにした透明な液体からなるウエハカバーを半導体ウエハ上に設けるステップを有することを特徴とする。 しかし,本願発明の特許請求の範囲の文言上,「所定の厚さ」についての条件は何ら付されておらず,「所定」との文言の通常の意義は,「定まっていること,定めてあること」(岩波書店・広辞苑第6版)であると認められるから,本願発明の構成要件は,「定まった厚さ さ」についての条件は何ら付されておらず,「所定」との文言の通常の意義は,「定まっていること,定めてあること」(岩波書店・広辞苑第6版)であると認められるから,本願発明の構成要件は,「定まった厚さ」となるようにした透明な液体からなるウエハカバーを半導体ウエハ上に設けるステップを有するものと解するのが相当である(なお,本件明細書中に「所定の厚さ」との文言の言及があるのは,段落【0024】に「発明の実施形態としては,フォトレジスト面上に所定の厚さのウエハカバーを設けることで,転写パターンの解像度を向上させることができる。」と記載されている部分のみであるところ,仮に同記載部分を参酌して,本願発明の「所定の厚さ」の意義について,単に「定まった厚さ」ではなく,「解像度を向上させることができる定まった厚さ」と解したとしても,後記のとおり,結論は左右されない。)。 イ一方,上記1(3)によれば,引用例には,以下のとおりの点で本願発明に一致する引用発明が開示されていると認められる(原告も明示的に争っていない。)。 「半導体装置を製造する方法であって,半導体ウエハ上に絶縁膜または導電膜を含む皮膜を形成するステップと,前記皮膜上にフォトレジスト膜を形成するステップと,前記皮膜に形成する回路パターンのマスクを設計,作製するステップと,前記フォトレジスト膜を露光するステップと,を含み,前記マスクを設計,作製するステップは,被露光面とフォーカス合せのための校正用パターン,または転写パターンの結像位置合せのための校正用パターンの内の少なくとも一方の校正用パターンを含む回路パターンのマスクを設計,作製するステップであり, 前記フォトレジスト膜を露光するステップは,前記マスクを縮小投影露光装置の所定の箇所に 内の少なくとも一方の校正用パターンを含む回路パターンのマスクを設計,作製するステップであり, 前記フォトレジスト膜を露光するステップは,前記マスクを縮小投影露光装置の所定の箇所に配置するステップと,露光光が高屈折率の透明媒体からなるウエハカバーを透過してフォトレジスト膜を露光可能とし,前記透明媒体が液体であって均一厚さとする条件を満たすウエハカバーを半導体ウエハ上に設けると共に,前記半導体ウエハを縮小投影露光装置の所定の箇所に配置するステップと,前記校正用パターンの透過光を利用して,露光光が前記ウエハカバーを透過させることに起因する前記縮小投影露光装置の投影レンズのフォーカス位置ズレ,または光軸との直交面上の結像位置ズレの少なくとも一方を校正するステップと,透明な液体からなるウエハカバーを透過した露光光により,前記フォトレジスト膜を露光するステップであり,露光後前記ウエハカバーを除去し,フォトレジスト膜を現像することによって半導体ウエハ上に回路パターンを形成する半導体装置の製造方法。」ウそうすると,引用発明と本願発明は,いずれも上記構成を有する点で一致するが,本願発明のウエハカバーが「所定の厚さ」,すなわち「定まった厚さ」となるようにしたものであるのに対し,引用発明ではそのようにしたものか否かが不明であるという点での相違点がある。 しかし,上記1(3)のとおり,引用発明は,「投影レンズ系PLの先端のレンズ素子LE1の下面PeとウエハWの表面とのベストフォーカス状態での間隔Lは,2~1mm程度に設定される」とされていることからすれば(【0017】【0020】【0031】),引用発明においては,投影レンズ系の先端とウエハ表面との間に形成される液体層の厚さが「定まっている」といえる。したがって,本願 る」とされていることからすれば(【0017】【0020】【0031】),引用発明においては,投影レンズ系の先端とウエハ表面との間に形成される液体層の厚さが「定まっている」といえる。したがって,本願発明のウエハカバーが「所定の厚さ」となるようにしたことは,引用発明との実質的な相違点とはいえない(なお,仮に本願発明の「所定の厚さ」の意義について,「解像度を向上させることができる定まった厚さ」と解したとしても,引用発明の上記液体層の厚さは「ベストフォーカス状態での間隔」として定められるものであるから,転写 パターンの解像度を向上させることができる定まった厚さのウエハカバーが開示されているといえる。)。 エこの点,原告は,引用例には,明らかに透明媒体の厚さが異なる複数の実施例(図3,5,8)が開示されているから,引用例には,所定の厚さであるとの条件が開示されていないし,引用例からこれを当業者が想定できるということもできないと主張する。 しかし,上記1(3)のとおり,引用例に記載された図3,5,8は,それぞれ,第1,3,6の実施例を示すものであるところ(【0031】【0041】【0055】),投影レンズ系の構造等は各実施例で異なっているのであるから,ベストフォーカス状態における投影レンズ系の先端とウエハ表面との間に形成される液体層の厚さも,各実施例で異なることは当然である。したがって,投影レンズ系の先端とウエハ表面との間隔が各実施例で異なるとしても,それは,それぞれの実施例において,ベストフォーカス状態における投影レンズ系の先端とウエハ表面との間に形成される液体層の厚さが異なるからであり,引用例には,各実施例それぞれについての「所定の厚さ」が開示されているといえる。 したがって,原告の主張を採用することはできない。 4 原告 面との間に形成される液体層の厚さが異なるからであり,引用例には,各実施例それぞれについての「所定の厚さ」が開示されているといえる。 したがって,原告の主張を採用することはできない。 4 原告主張の取消事由3(本件補正却下の判断の誤り)について(1) 補正却下理由1(新規事項に当たるとの認定)の誤りについて原告は,本件補正は,当業者にとって本件明細書の図4から自明の事項であるから,新規事項の追加には当たらないと主張する。 アこの点,原告は,本件補正により,前記第2の3のとおりの請求項7の補正をするとともに,以下のとおり,本件明細書の段落【0022】について補正をしたことが認められる(甲17。補正部分には下線を付した。)。 (本件補正前)「仮に,ウエハ面から光を照射するならば,光束は最短距離となる光路パスを逆に進み,マスク面の対応箇所に結像する。」 (本件補正後)「仮に,ウエハ面から光を照射するならば,光束は最短距離となる光路パスを逆に進み,マスク面の対応箇所に結像する。ウエハ面から光を照射するならば,光路パスを逆に進み,マスク面の対応箇所に結像するとは,前記した投影光学系の物面であるマスク面側の透明媒体が結像面であるウエハ面側の透明媒体になるということであり,前記マスク面側の透明媒体は,均一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度低下させ,逆に解像度向上させる透明媒体厚さの条件がある,と同じように,前記結像面側の透明媒体は,均一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度低下させ,逆に解像度向上させる透明媒体厚さの条件があるということである。」イ特許法17条の2第3項は,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と定めているところ, 厚さの条件があるということである。」イ特許法17条の2第3項は,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と定めているところ,「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項をいうと解される。 そこで,本件明細書を検討するに,図4は,マスクの回路パターン面と縮小投影レンズとの間に屈折率が1より大きい媒質(屈折率1.47の合成石英ガラス)の「マスクカバー」(透明媒体)を設けた場合に,マスクカバーの厚さに対して,設計した縮小投影レンズの波面収差の変化を調べた結果をグラフにしたものである(【0021】)。そして,一般的には,マスクカバーを設けると,マスクカバーを設けなかった場合と比して波面収差が大きくなり,その厚さに依存して波面収差が激増するという状態が確認されているところ,図4によれば,縮小投影レンズ,マスク面と結像面位置を光軸方向に位置を補正して最適化した場合に,マスクカバーを設けると,マスクカバーの厚さが0.1mmから0.6mmの範囲では,マスクカバーを設けなかった時よりも縮小投影レンズの波面収差が小さくなるという結果となっていることを理解することができる。 一方,本件補正による本件明細書の補正の内容は,マスク面側の透明媒体(マスクカバー)と同じように,ウエハ面側の透明媒体(ウエハカバー)についても,均 一の厚さとした場合,単に設けただけでは解像度を低下させ,逆に解像度を向上させる透明媒体厚さの条件があるという記載を追加するものであるところ,原告は,このようにマスクカバー(マスク面側の透明媒体)についての図4の実験結果が,当然にウエハカバー(ウエハ面側の透明媒体)についても当てはま 厚さの条件があるという記載を追加するものであるところ,原告は,このようにマスクカバー(マスク面側の透明媒体)についての図4の実験結果が,当然にウエハカバー(ウエハ面側の透明媒体)についても当てはまるのは,光束の逆進の原理と称する自然科学上の基礎的な事実であり,当業者は,図4から,ウエハ面と投影レンズ系との間に均一な厚さの透明媒体を設けたときも同じ結果になると解すると主張する。 しかし,図4の実験結果は,「縮小投影レンズ,マスク面と結像面位置を光軸方向に位置を補正して最適化した」とあるだけで,その具体的な距離関係等の実施条件は不明であり,マスクカバーの他にウエハカバーも設けられているのか,マスクカバーだけが設けられているのかも不明であるし,仮に,図4の実験結果がウエハカバーにもそのまま当てはまるのであれば,ウエハカバーを設けると,0.1mmから0.6mmの厚みの範囲では波面収差が小さくなるとしても,それ以外ではウエハカバーの厚さに依存して波面収差が激増するはずである。しかし,本件明細書中には,発明の実施形態として,マスクカバーと同じ材質(屈折率)の合成石英ガラスで形成したウエハカバーを設ける場合に(なお,この実施形態ではマスクカバーも設けられている。),その厚さを「1mm」とすることとされているし(【0024】),さらに,「ウエハカバーの厚さを増す程,転写パターンの解像度向上の大きい効果を得ることができる」という記載がされている(【0024】)。このような記載は,図4のグラフから読み取れる内容と矛盾するものであるから,本件明細書全体の記載をみた当業者が,マスクカバーについて行った図4の実験結果について,直ちに,ウエハカバーに対しても適用できると理解できるものとは認められない。 ウしたがって,本件明細書についての補正は,図4から自 みた当業者が,マスクカバーについて行った図4の実験結果について,直ちに,ウエハカバーに対しても適用できると理解できるものとは認められない。 ウしたがって,本件明細書についての補正は,図4から自明の事項であるとの原告の主張を採用することはできず,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するとして,これを却下した審決の結論が誤っているとは認められない。 (2) 補正却下理由2(請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの認定) の誤りについて原告は,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとの認定は,本件明細書の記載から,補正内容が自明な事項でないことが前提であるところ,本件補正の内容は,本件明細書の図4から自明な事項であるから,同前提は誤っており,本件補正が,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するということはできず,本件補正は,明りようでない記載の釈明を目的とした補正であると主張する。 しかし,上記(1)のとおり,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反する不適法なものであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件補正を却下した審決の結論に誤りがあるとはいえない。なお,審決の補正却下の理由2の記載から明らかであるとおり,審決は,本件補正前の請求項7の記載と,本件補正後の請求項7の記載とを比べて,補正後の特許請求の範囲が減縮されていると認定しているだけであり,同認定の際に,本件補正が本件明細書の記載から自明な事項でないことを前提としているものではないから,いずれにせよ原告の主張は失当である(なお,審決には,補正却下の理由1と理由2の相互の関係が明示されていないため,原告は,理由2が理由1を前提としたものであると解した可能性があるが,審決の理由全体を合理的に解釈すれば,本件補正が新規事項 お,審決には,補正却下の理由1と理由2の相互の関係が明示されていないため,原告は,理由2が理由1を前提としたものであると解した可能性があるが,審決の理由全体を合理的に解釈すれば,本件補正が新規事項の追加に該当するのであれば,他の要件を要せずに,それだけで却下理由となるのであるから(特許法17条の2第3項),これとは別に,本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものとして,本願補正発明が独立特許要件を満たすかどうかについての検討をしているのは,本件補正が新規事項の追加に該当しないと解した場合の予備的な判断を示しているものと解するのが相当である。)。 (3) その他の原告の主張について原告は,本件補正に関する各主張は,拒絶理由通知に瑕疵がないことを前提としたもので,同通知記載の引用発明の認定等が誤っているのであれば,そもそも本件補正を行わなかったはずであり,拒絶査定されないことになるなどと主張する。 しかし,拒絶査定も,審決も,本件補正前の請求項7(本願発明)について,特許法29条2項の規定に違反するとの理由で特許を受けることができないと判断しているのであり,本件補正をしなければ拒絶査定がされないことになるとはいえないから,原告の主張は理由がない。 5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決には取り消すべき違法があるとは認められない。原告はその他縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官設樂一 裁判官大須賀滋 裁判官大寄 裁判長 裁判官設樂一 裁判官大須賀滋 裁判官大寄麻代
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