昭和29(う)260 暴行傷害被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和30年3月31日 東京高等裁判所 破棄自判
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      被告人を懲役二月に処する。      この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。      原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

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判決文本文5,445 文字)

主文原判決を破棄する。 被告人を懲役二月に処する。 この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。 原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由本件控訴の趣意は、横浜地方検察庁検察官検事田中良人作成名義の控訴趣意書記載のとおりであつて、これに対する答弁は、弁護人山内忠吉作成名義の答弁書記載のとおりであるから、これらをここに引用し、これに対し次のとおり判断する。控訴趣意第一点について。 原判決が、被告人の本件暴行、傷害の所為を過剰緊急避難行為であると認定して、刑の免除を言い渡していることは、所論のとおりであつて、所論は、右は、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認である旨主張するにより、先ず、事実関係について、本件の記録並びに原裁判所で取り調べた証拠を調査し、且つ当審における事実取調の結果をもそう合して検討するに、原判決の認定した判示事実中、(一)組合員Aが行進してくる非組合員の隊列の面前に立ちはだかつたのが非組合員を説得しようとしたものであるとの点、(二)右Aと非組合員Bとがなぐりあいを始めたいきさつの点、(三)被告人が角棒を振りまわして本件暴行を働いた時期の点、(四)被告人の所為がピケラインに対する現在の危難を避けんとしてその程度をこえてなしたものであるとの点を除いたその余の部分は、すべて原判決援用の証拠によつてこれを肯認することができるのであるが、しかし右(一)及び(二)の点については、証人Aは、原審及び当審の各公廷において、いずれも原判示に符合する趣旨の供述しているけれども証人B、同C、同Dの原審及び当審における各供述、並びに当審証人E、同F、同G、同Hの各供述等をそう合し,これと対照して考えるときは、右A証人のこの点に関する各証言は、い る趣旨の供述しているけれども証人B、同C、同Dの原審及び当審における各供述、並びに当審証人E、同F、同G、同Hの各供述等をそう合し,これと対照して考えるときは、右A証人のこの点に関する各証言は、いずれもたやすくこれを信用することができないところであつて、他にこれを確認するに足る証拠は存在しないばかりでなくかえつて右各証拠をそう合考察するときは、組合員Aが非組合員らの前に立ちはだかつたのは、果して非組合員を説得するえめであつたか、又は実力をもつて非組合員らの入場を阻止しようとするためであつたかが不明であつたことが窺われるのであり、又、右(三)の点については、審人C、同D、同Bの原審及び当審における各供述、証人Iの原審公廷における供述、証人E、同F、同J、同Hの当公廷における各供述、並びに押収にかかる角棒一本(東京高等裁判所昭和二九年押第八六号の一)の存在等をそう合考かくするときは、被告人は、原判示のように非組合員らが、にわかに隊列をくずし、「突込め」と喚声をあげてピケラインめがけて殺到してきたのを見て初めてこれに憤激した結果、本件の暴行に出たものではなくて、前示組合員Aが非組合員らの隊列目がけて馳せつけるや、ほとんどこれに続く位に、原判示角棒を携えて非組合員等に接近して行き、右Aと非組合員Bとのなぐりあいがきつかけとなつて混乱状態に陥つた際には、既に自らもその混乱の中にあつて、右角棒を振りまわし、本件の暴行に及んだものであることが認められるのであつて、原判決援用の証拠によつては、未だ右各認定を左右するに足らないのであるから、原判決には、前示(一)(二)(三)の三点については、事実の誤認があるものといわなければならない。 よつて、進んで、右のような事実関係を前提として、被告人の本件所為が、果して、原判示のように過剰緊急避難行為に該当する )(二)(三)の三点については、事実の誤認があるものといわなければならない。 よつて、進んで、右のような事実関係を前提として、被告人の本件所為が、果して、原判示のように過剰緊急避難行為に該当するかどうかの点につき審究するに、我が国の憲法は、勤労者の団結権を保障しているので、労働者は労働組合を結成し、又は結成された労働組合に加入する権利を有することは明らかであろがこれと同時に、他にもいろいろの自由と権利とを右憲法によつて保障されている関係上、自己の意思に基ずいて労働組合を結成しないことも、既に結成された労働組合に加人しないことも自由であると解すべきことは、所論のとおりであり、又、労働組合は、その所属構成員に対してのみ、労働力のコントロールを加え得るものであつて、構成員以外にまでこれを強制しえないことは、労働法上の基本理論であるから、労働組合が組合員の労働力を統制してストライキを継続することが、当然の権利行使であると同時に、非組合員が右ストライキに同調しないで就業することも、また当然の権利行使であり、右の争議権と就業権とは、対等の立場に立ち、互に並立する関係にあるものと解すべきことも、また所論のとおりであるところ、これを本件についてみるに、証人C、同Dの原審及び当審における各供述、並びに当審証人E、同F、同J、同G、同Hらの各供述をそう合するときは、本件の場合における非組合員らは、いずれも自己の自由意思によつて原判示労働組合に加入せず、原判示ストライキにも参加しなかつたものである上に、原判示のような方法によつてまで就労しようとしたのは、ストライキに同調して就労しないでおれば、その間賃金による収入が中絶するばかりでなく、職場を馘首されるおそれがあつたため、自己及び家族の生活上の必要から、やむなくその挙に出たものであつて、故意に組合のスト キに同調して就労しないでおれば、その間賃金による収入が中絶するばかりでなく、職場を馘首されるおそれがあつたため、自己及び家族の生活上の必要から、やむなくその挙に出たものであつて、故意に組合のストライキを妨害しようとする意図のもとに行つたものではなかつたことが認められるのであるから、右非組合員らが就労しようとしたことは、正当な権利の行使であつたものというべきであり、従つてかかる権利の行使に対しては、ストライキ参加者において、これを積極的に妨害することは許されないものといわなけれげならない。 <要旨>しかして、ビケツトは、労働組合の争議権に基ずく争議手段の一種であつて、組合の構成員以外の非組合員</要旨>に対する関係においては、本来その就業を拒否する根拠がないものであり、特に、いわゆる「スト破り」の雇入れ等のように、ストライキの効果を減殺することを目的としたものではなくて、真に生活のために就労しようとする非組合員に対しては、平和的で穏和な説得行為であるならば格別、右限度をこえてその就労を拒否することは許されないものと解すべきところ、本件においては、非組合員らが、原判示のような集団の力によつて強いて就労しようとしたのは、前述のとおり、いわゆる「スト破り」の雇入れ等のように組合のストライキの効果を減殺することを目的としたものではなくて、真に生活上の必要から、やむなく採つた行動であつたことが認めえられるばかりでなく、被告人の司法警察員及び検察官に対する各供述調書によれば、被告人らは、非組合員といえども、組合のストライキには同調すべきことが当然の原則であるとの信念の持主であることが認められる上に、原審証人D、同Aの各供述、及び当審証人E、同F、同G、同Jの各供述をそう合考かくするときは、本件非組合員らは、組合が原判示ストライキに突入した当初は あるとの信念の持主であることが認められる上に、原審証人D、同Aの各供述、及び当審証人E、同F、同G、同Jの各供述をそう合考かくするときは、本件非組合員らは、組合が原判示ストライキに突入した当初は、これに同調するの態度に出たけれども、日を重ねるに従い、且つ争議解決の見とおしが困難となつてきたため、生活上の必要を痛感するに至り、本件発生の前日、相謀つて代表を送り、組合幹部に交渉させて入場方を懇請したけれども、組合側にこれを拒絶されたものである。並びに組合側においても、本件発生の前日において既に非組合員らが入場しようとしているとの情報を入手して、これに備え、非組合員といえども一切入場させない態勢を固めていたものであること等が窺われ、右非組合員らとしては、かかる事情の下においては、もはや、集団の力によつでても入場するより外に方法がないものとして、原判示のような集団入場を決意するに至つたものと認められるのであつて、このような方法によつて入場したのも、ひつきよう他に執るべき方法がなかつたため、やむをえざるに出た権利行使の手段であつたと考えられるのである。待つて、右非組合員等が、原判示日時に集団入場しようとして原判示場所に進行して行つた当時においては、既に両者決裂の後であつて、組合員によつて「平和的説得」の行われる余地のないような状態にまで立ち至つていたことが察せられるのであり、このような状況下におかれた非組合員らが、右現場において、前示AとBとのなぐりあいをきつかけとして混乱状態に陥つた際、その間隙に乗じて一せい入場しようとしたからといつて、いまだもつて、原判示のように刑法第三十七条第一項所定の現在の危難があつたものということはできないものというべく、従つて、被告人の本件所為は、結局、正当な権利の行使として就労しようとした非組合員に対し、実力を て、原判示のように刑法第三十七条第一項所定の現在の危難があつたものということはできないものというべく、従つて、被告人の本件所為は、結局、正当な権利の行使として就労しようとした非組合員に対し、実力をもつてこれを阻止しようとしてなした暴力行為であり、何ら違法性を阻却すべき理由を発見することができないものといわなければならない。してみれば、被告人の本件所為を目して、ピケラインに対する現在の危難を避けるためやむをえざるに出でた行為であつて、その程度をこえたものであると認定した原判決には、この点について事実の誤認があるものというべく、この誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点において到底破棄を免れない。 論旨は理由がある。 よつて、爾余の論旨に対する判断を省略して、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百八十二条に則り、原判決を破棄した上、同法第四百条但書を適用して、更に次のとおり自ら判決する。 被告人は、横浜市所在K労働組合の組合員であつて、同組合が、昭和二十八年七月二十二日からストライキに突入し、非組合員の就業を阻止すべく職場の各入口のピケツトライン責任者として、他の組合員らと共に、同所に泊りこんで、右ピケツトラインの維持に当つていたところ、右ストライキに参加しない非組合員らが、職場内に入ることを組合側に交渉したけれども容れられなかつたところより、集団入場しようとして、同月二十六日午前六時ごろ、約六十名の非組合員らが、四列縦隊を組んで、神奈川県庁前方面より新港橋入口に向つて進行して来たので、当時、同入口附近にたむろしていてこれを知つた被告人外十余名の組合員らは、右非組合員らの入場を阻止しようとして、そのうちA外数名の者が右非組合員らの隊列に向つて馳せつけるや、間もなく右Aと非組合員Bとがなぐりあいを始め、これがきつ これを知つた被告人外十余名の組合員らは、右非組合員らの入場を阻止しようとして、そのうちA外数名の者が右非組合員らの隊列に向つて馳せつけるや、間もなく右Aと非組合員Bとがなぐりあいを始め、これがきつかけとなつて、入場しようとする非組合員らと、極力これを阻止しようとする組合員らとが、互に入り乱れて混乱状態に陥つたが、その際、被告人は所携の長さ約三尺の角棒(東京高等裁判所昭和二九年押第八六号の一)を振りまわして、非組合員Dの大腿部を殴打し、更に非組合員Cの腕を殴打する等の暴行を加え、よつて右Cに対し、全治約一週間を要する右前腕部打撲傷を負わせてこれを傷害したものである。 (証拠説明省略)法律に照らすと、被告人の右判示所為中、Dに対するものは、刑法第二百八条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、Cに対するものは、刑法第二百四条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に各該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は、刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条に則り重い傷害罪につき定めた刑に、同法第四十七条但書の制限内において併合罪の加重をした刑期範囲内で、被告人を懲役二月に処し、なお、諸般の情状により、同法第二十五条第一項を適用して、この裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予し、原審及び当審の訴訟費用は、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従い、全部これを被告人に負担させることとする。 なお、被告人及び弁護人は、いずれも、被告人の本件所為は、正当防衛行為であると主張するけれども、そのしからざることは、前示認定のとおりであるから、右各主張はこれを採用しない。 よつて主文のとおり判決する。 (裁判長判事中西要一判事山田要治判事石井謹吾) であるから、右各主張はこれを採用しない。 よつて主文のとおり判決する。 (裁判長判事中西要一判事山田要治判事石井謹吾)

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