主 文 原判決中、上告人敗訴の部分を破棄し、右部分につき第一審判決を取り 消す。 前項の部分につき被上告人らの請求を棄却する。 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。 理 由 上告代理人中村光彦の上告理由について 一 原判決(その引用に係る第一審判決を含む)の確定した事実関係は、概要、 次のとおりである。 1 被上告人Bは、昭和五六年八月一四日午後四時すぎころ、弟のD、甥のEと ともに、長男のF(昭和五〇年一〇月一〇日生)を連れて上告人の設置するG中学 校に赴き、D、Eの二人と校庭内のテニスコートでテニスに興じていた。Fはその 間、球拾いをしたり、校庭を走り回るなどして遊んでいたが、同日午後四時三〇分 ころ、被上告人Bらがテニスをしていたコートのネットの横、サイドラインの約一 メートル外側に置かれてあった本件審判台に昇り、その座席部分の背当てを構成し ている左右の鉄パイプを両手で握って審判台の後部から降りようとしたため、本件 審判台が後方に倒れ、Fはそのまま仰向けに倒れて審判台の下敷きとなった。その 際、Fは、後頭部を地面に強打し、被上告人Bらが直ちに病院に運んで手当を受け させたが、同日午後六時一〇分ころ脳挫傷により死亡した。 2 本件審判台は、地上から座席までの高さが約一・四メートル、背当ての最上 部までの高さが約一・八メートル、重量が約二四キログラムで、鉄パイプとL字型 鋼によって骨格が作られ、座席部分に木製の板を渡したもので、その前面には昇降 用の階段を配して傾斜がつけられているが、後部の支柱はほぼ垂直の形状をしてい た。 - 1 - 3 しかし、審判台の前部階段を普通に昇り降りするという本来の用法に耐えら れないほど本件審判台の重心の位置が後部に偏っていたわけではなく、本件審判台 が設置されてか の形状をしてい た。 - 1 - 3 しかし、審判台の前部階段を普通に昇り降りするという本来の用法に耐えら れないほど本件審判台の重心の位置が後部に偏っていたわけではなく、本件審判台 が設置されてから本件事故が発生するまでの二〇年余の間、人身事故が発生したこ とは一度もなく、その間、本件審判台が倒れたことは一度あったが、それは生徒が ふざけて後方に引っ張ったためで、本件審判台は、本来の用法に従って利用する限 り、転倒の危険を有する構造のものではなかった。 4 また、G中学校の校庭は、土の地面で、本件審判台が置かれていた付近には 多少の凹凸が存したが、土の校庭に通常存し得る程度のものにすぎず、本件審判台 を所定の場所に置いた場合に、後方に向かって幾分低く傾斜していたことがうかが われないでもないが、本来の用法に従って利用する限り、本件審判台の転倒を誘発 するようなものではなかった。 5 G中学校の校庭と外部とは、一部が柵などによって仕切られているのみで、 一般人の出入りを妨げる門扉などは設けられておらず、また、かつて小学校が併設 されていた関係上、昭和五六年ころまでは、校庭内に滑り台、ブランコ、遊動円木、 雲梯などが設置されていたことから、近所の子供らや家族連れなどの遊び場として 利用されていたもので、その状態は、本件事故当時も続いていた。 二 原審は、右の事実関係の下において、次のとおりの判断を示し、本件事故が 上告人の本件審判台の設置及び管理の瑕疵に起因することは否定できないから、上 告人は、公の営造物の設置管理者としての責任を免れないとして、被上告人らの国 家賠償法二条一項に基づく損害賠償請求を一部認容した第一審判決を正当とし、上 告人の控訴及び被上告人らの附帯控訴をいずれも棄却した。 1 本件審判台は、本件事故前、転倒による死傷事故が起きたことはなかったの 二条一項に基づく損害賠償請求を一部認容した第一審判決を正当とし、上 告人の控訴及び被上告人らの附帯控訴をいずれも棄却した。 1 本件審判台は、本件事故前、転倒による死傷事故が起きたことはなかったの であるから、本来の用法に従う限り危険はなかったと考えられる。 2 しかし、本件審判台の構造及びその安定性、本件校庭の利用状況にかんがみ - 2 - ると、学齢児前後の幼児が保護者に伴われることなく、又は保護者同伴で本件校庭 内に至り、保護者の気づかないうちに本件審判台に昇り、本件事故時のような方法 で座席後部の背当て部分の鉄パイプをあたかもジャングルジムのように用いるなど の行動に出、その結果、審判台が後方に倒れるおそれがあり、これが倒れた場合、 その素材や重量のため死傷事故を惹起する可能性があることは、本件審判台の設置 管理者には通常予測し得るところであった。 3 したがって、本件審判台の設置管理者としては、本件審判台が後方に転倒す ることがないように、これを地面に固定させるか、不便用時は片付けておくか、よ り安定性のある審判台と交換するなどして、事故の発生を未然に防止すべきであっ たというべきである。 三 しかしながら、上告人に国家賠償法二条一項の責任を認めた原審の判断は、 是認することができない。その理由は次のとおりである。 1 国家賠償法二条一項にいう「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、 公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右の安全性を欠くか否 かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事 情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである(最高裁昭和四二年(オ)第 九二一号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁、最高裁 昭和五三年(オ)七六号同年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八 体的、個別的に判断すべきである(最高裁昭和四二年(オ)第 九二一号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・民集二四巻九号一二六八頁、最高裁 昭和五三年(オ)七六号同年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八〇九頁参 照)。 本件において、その設置又は管理に瑕疵があったと主張されている当該営造 物とは、具体的には、上告人(栃木県芳賀郡a町)町立のG中学校の校庭に設置さ れたテニスの審判台であるが、一般に、テニスの審判台は、審判者がコート面より 高い位置から競技を見守るための設備であり、座席への昇り降りには、そのために 設けられた階段によるべきことはいうまでもなく、審判台の通常有すべき安全性の - 3 - 有無は、この本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能 性があるか否かによって決せられるべきものといわなければならない。 本件審判台が本来の用法に従ってこれを使用する限り転倒の危険を有する構 造のものでなかったことは、原審の適法に確定するところであり、G中学校の校庭 において生徒らがこれを使用し、二〇年余の間全く事故がなかったことは、原審の 右判断を裏付けて余りあるものというべきであろう。 そして、本件審判台が右のように安全性に欠けるものでない以上、他種の審 判台と比較して安全性が劣っているとか、これを地面に固定すべきであるとか、競 技や練習終了後にはその都度片付けて置くべきであるとかいうのは、実情にそぐわ ない非難というほかはない。 2 本件事故の発生したG中学校の校庭が幼児を含む一般市民に事実上開放され ていたことは、前述のとおりであるが、このように、公立学校の校庭が開放されて 一般の利用に供されている場合、幼児を含む一般市民の校庭内における安全につき、 校庭内の設備等の設置管理者に全面的に責任があるとするのは当を得ないことであ り、幼児 のように、公立学校の校庭が開放されて 一般の利用に供されている場合、幼児を含む一般市民の校庭内における安全につき、 校庭内の設備等の設置管理者に全面的に責任があるとするのは当を得ないことであ り、幼児がいかなる行動に出ても不測の結果が生じないようにせよというのは、設 置管理者に不能を強いるものといわなければならず、これを余りに強調するとすれ ば、かえって校庭は一般市民に対して全く閉ざされ、都会地においては幼児は危険 な路上で遊ぶことを余儀なくされる結果ともなろう。 公の営造物の設置管理者は、本件の例についていえば、審判台が本来の用法 に従って安全であるべきことについて責任を負うのは当然として、その責任は原則 としてこれをもって限度とすべく、本来の用法に従えば安全である営造物について、 これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、 利用者である一般市民の側が負うのが当然であり、幼児について、異常な行動に出 ることがないようにさせる注意義務は、もとより、第一次的にその保護者にあると - 4 - いわなければならない。 3 以上説示するところによって本件をみるのに、本件事故時のFの行動は、本 件審判台に前部階段から昇った後、その座席部分の背当てを構成している左右の鉄 パイプを両手で握って審判台の後部から降りるという極めて異常なもので、本件審 判台の本来の用法と異なることはもちろん、設置管理者の通常予測し得ないもので あったといわなければならない。そして、このような使用をすれば、本来その安全 性に欠けるところのない設備であっても、何らかの危険を生ずることは避け難いと ころである。幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、保護者の側 の義務であり、このような通常予測し得ない異常な行動の結果生じた事故につき、 保護者から設置管理者に対して ることは避け難いと ころである。幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、保護者の側 の義務であり、このような通常予測し得ない異常な行動の結果生じた事故につき、 保護者から設置管理者に対して責任を問うというのは、もとより相当でない。まし て本件に現れた付随的事情からすれば、Fは、保護者である被上告人Bらに同伴さ れていたのであるから、同被上告人らは、テニスの競技中にもFの動静に留意して 危険な行動に出ることがないように看守し、万一その危険が察知されたときは直ち に制止するのが当然であり、また容易にこれを制止し得たことも明らかである。 4 これを要するに、本件事故は、被上告人らの主張と異なり、本件審判台の安 全性の欠如に起因するものではなく、かえって、前記に見るようなFの異常な行動 に原因があったものといわなければならず、このような場合にまで、上告人が被上 告人らに対して国家賠償法二条一項所定の責任を負ういわれはないというべきであ る。 四 以上と異なる原審の判断には、国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法 があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があ り、原判決中、上告人敗訴の部分は破棄を免れず、右部分につき第一審判決を取り 消し、被上告人らの請求を棄却すべきである。 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条、九三条に従い、 - 5 - 裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 可 部 恒 雄 裁判官 坂 上 壽 夫 裁判官 貞 家 克 己 裁判官 園 部 逸 夫 裁判官 坂 上 壽 夫 裁判官 貞 家 克 己 裁判官 園 部 逸 夫 裁判官 佐 藤 庄 市 郎 - 6 -
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