主文 被告人を懲役2年6月に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,保険医療機関であるA病院の臨床麻酔部准教授であった者であるが,第1 前記病院の職員らの事務処理を誤らせる目的で,別表1記載のとおり,令和元年8月9日午後4時51分頃から令和2年1月28日午後5時14分頃までの間,47回にわたり,津市(住所省略)の同病院において,同病院内に設置された電子計算機から,電気通信回線を介し,同病院内に設置された麻酔使用情報等を管理する麻酔記録システムの電子計算機に対し,真実は,Bら47名の手術に際して「C150mg」を投与した事実がないのに,これを投与した旨の虚偽の情報を送信して前記麻酔記録システムの電子計算機に接続された記録装置に記憶蔵置させ,もって公務員によって作られるべき人の事務処理の用に供する事実証明に関する電磁的記録を不正に作出するとともに,これを人の事務処理の用に供した上,前記医学部教授であったDと詐欺につき共謀の上,前記病院をして,患者に「C150mg」を投与した事実がないのにこれがあるように装ってE基金F支部及びG連合会に診療報酬を請求させようと考え,別表1記載のとおり,令和元年9月9日頃から令和2年2月7日頃までの間,12回にわたり,情を知らない前記病院職員をして,同病院において,津市(住所省略)の前記E基金F支部及び同市(住所省略)の前記連合会に対し,前記Bら47名に対して「C150mg」を投与した旨の内容虚偽の診療報酬明細書を電気通信回線に接続した電子計算機を使用して提出させて診療報酬の支払を請求させ,令和元年9月25日頃から令和2年2月25日頃までの間,前記E基金F支部又は前記連合会において,前記E基 診療報酬明細書を電気通信回線に接続した電子計算機を使用して提出させて診療報酬の支払を請求させ,令和元年9月25日頃から令和2年2月25日頃までの間,前記E基金F支部又は前記連合会において,前記E基金F支部又は前記連合会の職員らをして,前記診療報酬明細書記載のとおりに「C150mg」が投与されたものと誤信させ,よって,令和元年10月21日頃から令和2年3月23日頃ま での間,東京都港区(住所省略)のE基金本部及び前記連合会から,投与していない前記「C150mg」の薬剤料分合計60万2589円を含む合計6359万1568円を津市(住所省略)の株式会社H銀行I支店に開設された前記病院名義の普通預金口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させ,第2 前記病院の職員らの事務処理を誤らせる目的で,別表2記載のとおり,令和2年2月3日午後9時3分頃から同月29日午前9時14分頃までの間,15回にわたり,同病院において,同病院内に設置された電子計算機から,電気通信回線を介し,前記麻酔記録システムの電子計算機に対し,真実は,Jら15名の手術に際して「C150mg」若しくは「C50mg」又はその両方を投与した事実がないのに,これらを投与した旨の虚偽の情報を送信して前記麻酔記録システムの電子計算機に接続された記録装置に記憶蔵置させ,もって公務員によって作られるべき人の事務処理の用に供する事実証明に関する電磁的記録を不正に作出するとともに,これを人の事務処理の用に供した上,前記Dと「C150mg」についての詐欺につき共謀の上,前記病院をして,患者に「C150mg」若しくは「C50mg」又はその両方を投与した事実がないのにこれがあるように装って前記E基金F支部及び前記連合会に診療報酬を請求させようと考え,別表2記載のとおり,令和2年3月9日頃, 150mg」若しくは「C50mg」又はその両方を投与した事実がないのにこれがあるように装って前記E基金F支部及び前記連合会に診療報酬を請求させようと考え,別表2記載のとおり,令和2年3月9日頃,2回にわたり,情を知らない前記病院職員をして,同病院において,前記E基金F支部及び前記連合会に対し,前記Jら15名に対して「C150mg」若しくは「C50mg」又はその両方を投与した旨の内容虚偽の診療報酬明細書を電気通信回線に接続した電子計算機を使用して提出させて診療報酬の支払を請求させ,令和2年3月20日頃から同月25日頃までの間,前記E基金F支部,前記E基金本部又は前記連合会において,前記E基金F支部,前記E基金本部又は前記連合会の職員らをして,前記診療報酬明細書記載のとおりに「C150mg」若しくは「C50mg」又はその両方が投与されたものと誤信させ,よって,同年4月20日頃から同月21日頃までの間,前記E基金本部及び前記連合会から,投与していない前記「C150mg」及び「C50mg」の薬剤料分合計24万0854円 を含む2179万9590円を前記普通預金口座に振込入金させ,もって人を欺いて財物を交付させ,第3 前記病院の職員らの事務処理を誤らせる目的で,別表3記載のとおり,令和2年3月2日午後3時40分頃から同月31日午後3時10分頃までの間,19回にわたり,同病院において,同病院内に設置された電子計算機から,電気通信回線を介し,前記麻酔記録システムの電子計算機に対し,真実は,Kら19名の手術に際して「C150mg」若しくは「C50mg」又はその両方を投与した事実がないのに,これらを投与した旨の虚偽の情報を送信して前記麻酔記録システムの電子計算機に接続された記録装置に記憶蔵置させ,もって公務員によって作られるべき人の事務処理 g」又はその両方を投与した事実がないのに,これらを投与した旨の虚偽の情報を送信して前記麻酔記録システムの電子計算機に接続された記録装置に記憶蔵置させ,もって公務員によって作られるべき人の事務処理の用に供する事実証明に関する電磁的記録を不正に作出するとともに,これを人の事務処理の用に供した。 (法令の適用)罰条判示第1の行為各公電磁的記録不正作出の点別表1の②欄の番号ごとにいずれも刑法161条の2第2項各不正作出公電磁的記録供用の点別表1の②欄の番号ごとにいずれも刑法161条の2第3項,2項各詐欺の点被害者(別表1の「国/社」欄の「社」に対応するE基金F支部及び「国」に対応するG連合会を指す。以下同じ。)ごとにそれぞれ包括して刑法60条,246条1項判示第2の行為各公電磁的記録不正作出の点別表2の②欄の番号ごとにいずれも刑法161条の2第2項 各不正作出公電磁的記録供用の点別表2の②欄の番号ごとにいずれも刑法161条の2第3項,2項各詐欺の点被害者ごとにそれぞれ包括して刑法246条1項(「C150mg」についての詐欺につき,更に刑法60条)判示第3の行為各公電磁的記録不正作出の点別表3の番号ごとにいずれも刑法161条の2第2項各不正作出公電磁的記録供用の点別表3の番号ごとにいずれも刑法161条の2第3項,2項科刑上一罪の処理判示第1の各罪いずれも刑法54条1項後段,10条(別表1の②欄の番号ごとの各公電磁的記録不正作出と各不正作出公電磁的記録供用と同番号に対応する被害者に対 判示第1の各罪いずれも刑法54条1項後段,10条(別表1の②欄の番号ごとの各公電磁的記録不正作出と各不正作出公電磁的記録供用と同番号に対応する被害者に対する各詐欺との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので,結局詐欺の被害者ごとにそれぞれ1罪としていずれも犯情の最も重い詐欺罪の刑で処断)判示第2の各罪いずれも刑法54条1項後段,10条(別表2の②欄の番号ごとの各公電磁的記録不正作出と各不正作出公電磁的記録供用と同番号に対応する被害者に対する各詐欺との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので,結局詐欺の被害者ごとにそれぞれ1罪としていずれも犯情の 最も重い詐欺罪の刑で処断)判示第3の各罪いずれも刑法54条1項後段,10条(各公電磁的記録不正作出と各不正作出公電磁的記録供用との間には手段結果の関係があるので,別表3の番号ごとにそれぞれ1罪としていずれも犯情の重い不正作出公電磁的記録供用罪の刑で処断)刑種の選択判示第3の各罪いずれも懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第1のG連合会に対する詐欺罪の刑に法定の加重)刑の執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)本件は,A病院臨床麻酔部准教授であった被告人が,手術の際に患者に投与していない薬剤を投与した旨の虚偽の記録をするとともに,同医学部教授と一部を除き共謀の上,実際には使用していない薬剤の薬剤料分合計84万円余りの診療報酬を,同病院をして診療報酬の審査支払機関に請求させて詐取したという事案である。 被告人は,同病院において特定 教授と一部を除き共謀の上,実際には使用していない薬剤の薬剤料分合計84万円余りの診療報酬を,同病院をして診療報酬の審査支払機関に請求させて詐取したという事案である。 被告人は,同病院において特定の薬剤を積極的に投与することを望む前記教授の意向を受け,前記薬剤を溶解して手術室に配布するなどしていたが,結局その多くは患者に投与されず廃棄されていた。それにもかかわらず,被告人は,それらが実際に使用されたかのように麻酔記録システムの記録を改ざんし,その結果不正な診療報酬請求も行っている。自己の立場を悪用して,患者に投与された薬剤の記録となり診療報酬請求の前提ともなる重要な記録についての公電磁的記録不正作出,同供用の犯行に及んだもので,医療の現場で記録される公電磁的記録に対する社会の信用が害された程度は大きいし,約8か月の間に81回も同様の改ざん行為を繰り 返しており常習性も認められる。詐欺の点についても,被告人に直接的な利得はなかったとはいえ,84万円余りに上る財産的被害は少額にとどまらない。また,被告人は,前記教授の意向を他の医局員に押し付けて前記薬剤を無理に使わせるわけにもいかないとの思いや,使用されなかった薬剤に係る薬剤料を病院の負担にすると大学に迷惑が掛かるとの思いもあって本件各犯行に及んだというものの,そのために公的な麻酔記録システムの記録改ざんや診療報酬の不正請求に及ぶことが許されるはずもなく,犯行を重ねた一連の意思決定は非難を免れない。 以上によれば,被告人の刑事責任は相応に重いというべきであるが,事実を全て認めて反省の弁を述べつつ,詐欺の損害額について被害弁償の申出をしていること,大学を懲戒解雇され一定の社会的制裁を受けたことなどの被告人のために酌むべき事情が認められ,前科前歴もない。 その行為責任の重さを前提に,事 つつ,詐欺の損害額について被害弁償の申出をしていること,大学を懲戒解雇され一定の社会的制裁を受けたことなどの被告人のために酌むべき事情が認められ,前科前歴もない。 その行為責任の重さを前提に,事件そのもの以外の事情も考慮すると,被告人を主文の執行猶予付き懲役刑に処するのが相当と判断した。 (求刑懲役2年6月)令和3年4月22日津地方裁判所刑事部裁判長裁判官四宮知彦裁判官檀上信介裁判官樋󠄀 口瑠惟(別表1~3省略)
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