平成24(ワ)3341 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年11月28日 東京地方裁判所
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判決文本文11,226 文字)

平成25年11月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成24年(ワ)第3341号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成25年9月10日判決名古屋市中区<以下略>原告北川工業株式会社 同訴訟代理人弁護士上谷清仁田陸郎萩尾保繁山口健司薄葉健司石神恒太郎関口尚久水野健司 同訴訟代理人弁理士足立勉 同補佐人弁理士田崎豪治 東京都大田区<以下略>被告竹内工業株式会社 同訴訟代理人弁護士佐藤治隆鷹見雅和 同補佐人弁理士鈴木章夫 主文 原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,販売し,輸出し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は,被告製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造,販売等が原告の特許権の侵害 販売し,輸出し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告は,被告製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,被告による被告製品の製造,販売等が原告の特許権の侵害に当たる旨主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求める訴訟である。 1 争いのない事実等(後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実を含む。) 当事者原告は,電子機器部品,電気制御部品及びプラスチック成形部品の製造,販売等を業とする株式会社である。被告は,電子部品,配線部品,電子機器の販売等を業とする株式会社である。  原告の特許権(甲2,7,10)ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。また,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者である。 特許番号第3005213号出願年月日平成10年11月10日(特願平10-319452)登録年月日平成11年11月19日発明の名称導電部材及び当該導電部材の自動実装に用いられるキャリアテープイ本件特許権に係る特許請求の範囲の請求項1(ただし,平成24年10月12日に確定した審決による訂正後のもの)の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)。 - 3 -「基部と,前記基部から延設され,プリント配線板にはんだ付けされる脚部と,前記基部から前記脚部の反対側へ当該基部との角度が鋭角になるように折り返され,当該折り返し部分を中心に弾性変形して接地導体に圧接すると共に,当該圧接部分付近から前記基部側へ折り曲げられた腕部を有する接触部とを備え,前記接触部が前記基部に近づく方向へ弾性変形した場合に,前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合し 接地導体に圧接すると共に,当該圧接部分付近から前記基部側へ折り曲げられた腕部を有する接触部とを備え,前記接触部が前記基部に近づく方向へ弾性変形した場合に,前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合しないよう構成することによって,前記接触部の弾性変形に連れて前記プリント配線板に最も近づく前記腕部の最下部が,前記基部よりもプリント配線板側へ移動できるようにしたことを特徴とする導電部材。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件A」などという。)。 A 基部と,B 前記基部から延設され,プリント配線板にはんだ付けされる脚部と,C 前記基部から前記脚部の反対側へ当該基部との角度が鋭角になるように折り返され,当該折り返し部分を中心に弾性変形して接地導体に圧接すると共に,当該圧接部分付近から前記基部側へ折り曲げられた腕部を有する接触部とを備え,D 前記接触部が前記基部に近づく方向へ弾性変形した場合に,前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合しないよう構成することによって,E 前記接触部の弾性変形に連れて前記プリント配線板に最も近づく前記腕部の最下部が,前記基部よりもプリント配線板側へ移動できるようにしたF ことを特徴とする導電部材。  被告の行為ア被告は,被告製品の製造,販売及び販売の申出をしている。 - 4 -イ被告製品の構成は,次のとおりである。また,その構造及び使用時の圧縮状態を示す図は,別紙被告製品説明書記載のとおりである。  ベース部と, レッグ部と, ベース部から延設されたγ部始点から連続するコンタクト部とを備え,コンタクト部は,ベース部からレッグ部の反対側へ折り返され,コンタクト部aとベース部との角度は鋭角になり,当該折り返し部分(γ部)を中心に弾性 ら延設されたγ部始点から連続するコンタクト部とを備え,コンタクト部は,ベース部からレッグ部の反対側へ折り返され,コンタクト部aとベース部との角度は鋭角になり,当該折り返し部分(γ部)を中心に弾性変形して相手金属すなわち筺体パネル等に圧接し, 非圧縮状態において,コンタクト部の先端部分10(接点dから先端eまで)がベース部に当接し,かつ,コンタクト部cが上辺部にも接しており,コンタクト部がベース部に近づく方向へ弾性変形した場合に,コンタクト部とベース部とは常に接点dにおいて当接しているが,レッグ部に接触せず,先端部分10は,先端eが接点dより斜め上方向に浮き上がってベース部より離れ, コンタクト部がベース部に近づく方向へ弾性変形した場合に,コンタクト部の弾性変形に連れてプリント配線板に最も近づくコンタクト部の最下部が,ベース部よりもプリント配線板側へ移動することができるように構成されており,コンタクト部は圧縮されるに従って大きく変形し,コンタクト部cがコンタクト部bとの間の折り曲げられた部分辺りが,プリント配線板に当接するに至り, レッグ部は,ベース部から延びた部材が一旦ベース部と垂直方向になるように折り曲げられ,さらにプリント配線板にはんだ付けされる接合面fを設けるために外側に向うように折り曲げられて形成される, 表面実装コンタクト。 2 争点及び争点に関する当事者の主張- 5 -上記被告製品の構成中のベース部,レッグ部及びコンタクト部はそれぞれ本件発明の基部,脚部及び接触部に対応するもの,被告製品のアーム部(別紙被告製品説明書参照)は本件発明の腕部に対応するものであり,被告は,被告製品が本件発明の構成要件A~C及びFを充足することを争っていない。 本件の争点は,被告製品が構成要件D及びEを充足し( 別紙被告製品説明書参照)は本件発明の腕部に対応するものであり,被告は,被告製品が本件発明の構成要件A~C及びFを充足することを争っていない。 本件の争点は,被告製品が構成要件D及びEを充足し(文言侵害の成否。 争点1),又は均等による特許権侵害が認められるか(争点2),本件特許権に係る特許に無効理由があるとして,特許法104条の3第1項の規定により権利行使が制限されるか(争点3)であり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。  争点1(文言侵害の成否)について(原告の主張)被告は,構成要件D及びEの充足性を争うが,構成要件Eについては,構成要件Dと手段結果の関係にあるので,構成要件Dを充足しない以上は構成要件Eを充足しない旨主張するにとどまる。そうすると,構成要件Dを充足する場合には構成要件Eを充足するといえるから,構成要件Dの充足性について述べることとする。 ア構成要件Dの「係合しない」の解釈特許請求の範囲にいう「係合」とは一般的に「係わり合うこと」をいうが,多義的な文言であるので,構成要件Dの「係合しない」の意義は本件明細書の記載に基づいて解釈されるべきものである。 本件明細書の【発明の詳細な説明】欄の【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】(段落【0006】,図8及び9),【課題を解決するための手段及び発明の効果】(段落【0012】,【0014】,【0016】~【0018】,【0020】及び【0028】~【0030】,図6及び7)並びに【発明の実施の形態】(段落【0039】,図1)の記載によれば,本件明細書では,従来技術及び本件発明に関し- 6 -て,「当接」と「係合」が明確に区別して用いられており,「係合」は「ある部材が他の部材によって特定の方向に移動することを規制するように設ける」 本件明細書では,従来技術及び本件発明に関し- 6 -て,「当接」と「係合」が明確に区別して用いられており,「係合」は「ある部材が他の部材によって特定の方向に移動することを規制するように設ける」という意味で統一的に用いられている。したがって,腕部が基部に当接していることは「係合しない」と認めることの妨げにならない。 そして,本件明細書の記載によれば,構成要件Dの「係合」とは「腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができないように拘束する関係を有すること」を意味するものと認められるから,「係合しない」とは「脚部によって基部をプリント配線板から所定距離だけ離して配置する場合に,腕部が基部及び脚部に邪魔されて,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができないようになることを避けること」であると認められる。したがって,腕部が基部と当接し,基部から抗力を受ける場合であっても,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるのであれば,「係合しない」構成に当たるということができる。 イ被告製品の構成被告製品は,被告製品の構成(前記1イ)のに記載されたとおり,コンタクト部(接触部)がベース部(基部)に近づく方向へ弾性変形した場合に,コンタクト部の弾性変形に連れてプリント配線板に最も近づくコンタクト部の最下部がベース部よりもプリント配線板側へ移動することができるように構成されている。すなわち,上記最下部がプリント配線板側へ移動することができないように構成されていないのであるから,構成要件Dを充足する。 (被告の主張)ア 「係合」とは,通常,構成要素同士が接触,当接等することをいい,本件発明の構成要件Dに即していえば,腕部が基部及び脚部に当接等す- 7 -ることが「係合」であっ 充足する。 (被告の主張)ア 「係合」とは,通常,構成要素同士が接触,当接等することをいい,本件発明の構成要件Dに即していえば,腕部が基部及び脚部に当接等す- 7 -ることが「係合」であって,「係合しないよう構成する」とは,腕部が基部及び脚部に当接せず,抗力を受けることがないように構成することを意味する。このような文言解釈が本件明細書の記載(段落【0017】等)に整合するものであり,原告の上記主張は不当な拡張解釈である。 被告製品は,アーム部が常にベース部に当接しているという構成であって,「係合」しているから,構成要件Dを充足しない。 イ構成要件Eは,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるという構成が,構成要件Dの「係合しないよう構成することによって」実現されるものである。ところが,被告製品は構成要件Dを充足しないから,構成要件Eを充足することもない。  争点2(均等による特許権侵害の成否)について(原告の主張)被告製品が「腕部が基部に係合する」ものであって,構成要件Dの「前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合しないよう構成する」との部分と相違するとしても,以下のとおり,均等による特許権侵害が成立する。 ア本件発明の課題解決手段における特徴的原理は,脚部によって基部をプリント配線板から所定距離だけ離して配置する場合に,腕部を有する接触部の弾性変形に連れて,プリント配線板に最も近づく腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるよう構成することにある。したがって,上記の相違する部分は本件発明の本質的部分でない。 イ被告製品においては,コンタクト部がベース部に近づく方向へ弾性変形した場合,アーム部とベース部は常に当接しているものの,アーム部の最下部がベース部よりもプ 部分は本件発明の本質的部分でない。 イ被告製品においては,コンタクト部がベース部に近づく方向へ弾性変形した場合,アーム部とベース部は常に当接しているものの,アーム部の最下部がベース部よりもプリント配線板側へ移動することができる。 したがって,被告製品は本件発明と同一の作用効果を奏するから,構成- 8 -要件Dを被告製品のように構成することについては置換可能性がある。 ウ脚部によって基部をプリント配線板から所定距離だけ離して配置する場合に,腕部の最下部が基部よりプリント配線板側へ移動することができなくなることを避ける程度に,腕部が基部に接触する構成に置換することは,本件発明の開示に基づけば,被告製品の製造時点において,当業者にとって日常的な設計事項にすぎない。したがって,構成要件Dを被告製品の上記構成に置換することは容易である。 エ被告製品が本件発明の特許出願時における公知技術と同一であり,又は容易推考性があったという事情はなく,また,被告製品のような構成が特許出願手続において意識的に除外されたという事情もない。 (被告の主張)本件発明の本質的部分は,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動すること(構成要件E)を,腕部が基部及び脚部に係合しないよう構成すること(構成要件D)によって実現するところにある。したがって,被告製品は本件発明の本質的部分を欠いている。 また,被告製品においては,アーム部が常にベース部に当接していることによってベース部から抗力を受け続けており,その結果,押圧された場合に永久変形するので,本件発明の作用効果を奏しない。 さらに,均等が成立するための他の要件も満たさないから,被告製品につき均等による特許権侵害を認めることはできない。  争点3(無効理由の有無)について(被告の主張 明の作用効果を奏しない。 さらに,均等が成立するための他の要件も満たさないから,被告製品につき均等による特許権侵害を認めることはできない。  争点3(無効理由の有無)について(被告の主張)本件発明は,その特許出願の前に頒布されていた公開実用新案公報の全文明細書等(実願平5-43948号(実開平7-8969号)のCD-ROM。乙1)に記載された発明(考案)と実質的に同一であるから,新規性を欠いている。また,これと相違点があるとしても,上記発明及び公- 9 -知技術(乙2,4)に基づいて容易に発明することができたから,進歩性を欠く。したがって,本件発明に係る特許には無効理由があるので(特許法29条1項3号,2項,123条1項2号),原告は本件特許権を行使することができない(同法104条の3第1項)。 (原告の主張)本件発明は上記刊行物に記載された発明と相違するものであり,また,この発明につき被告主張の公知技術を適用することの動機付けはない。したがって,被告の主張する無効理由は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(文言侵害の成否)について 被告製品は,コンタクト部のうちアーム部が常にベース部に当接しているものであるが(前記第2の1イの被告製品の構成参照),原告は,構成要件Dの「係合しない」とは,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができないようになることを避けることを意味するところ,被告のアーム部の最下部はベース部よりプリント配線板側へ移動することができるから(別紙被告製品説明書の「使用時の説明図」参照),被告製品は構成要件Dを充足する旨主張するので,以下,検討する。 ア 「係合」とは,その文言上,複数の部材が「係り(係わり)合うこと」,すなわち,何らかの関係を有することを 使用時の説明図」参照),被告製品は構成要件Dを充足する旨主張するので,以下,検討する。 ア 「係合」とは,その文言上,複数の部材が「係り(係わり)合うこと」,すなわち,何らかの関係を有することをいうものであるから,特許請求の範囲の「前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合しないよう構成」との記載は,腕部と基部及び脚部が何らかの関係を有しないことと解することができる。他方,腕部は基部から折り返された接触部の一部(構成要件C),脚部は基部から延設されたもの(構成要件B)であるから,腕部と基部及び脚部が一切の関係を有しないことはない。そして,これらが具体的にいかなる関係を有しないことを「係合しない」というのかについては,特許請求の範囲に明示的な記載はない。そうすると,- 10 -「係合しない」ことの意義,換言すると,腕部と基部及び脚部がいかなる関係を有する場合が「係合」するものとされるのかは,本件明細書の記載(図面を含む。)を考慮して解釈すべきものとなる(特許法70条2項参照)。 イ本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には,「係合」ないし「係合しない」に関して,以下の趣旨の記載があると認められる(甲2。なお,本件発明には,はんだ付け処理に関する従来技術の問題点を解決するという目的もあるが,本件の争点に関係しないので,記載を省略する。)。  従来技術の導電部材は,薄板状の金属部材を折り曲げて形成されており,基部と接触部を備え,基部がプリント配線板にはんだ付けされるものであるが,他の物体が導電部材の接触部に誤って接するような場合に,接触部に大きな荷重が加わると,接触部の端部が基部に当接し,基部から抗力を受けることになる。そのため,接触部に過大な荷重が作用した場合には,基部からの抗力が大きくなり,接触部に発生する応力が大きくなって,接触 な荷重が加わると,接触部の端部が基部に当接し,基部から抗力を受けることになる。そのため,接触部に過大な荷重が作用した場合には,基部からの抗力が大きくなり,接触部に発生する応力が大きくなって,接触部が弾性限度を超えて永久変形してしまうという問題点があった。(段落【0002】~【0006】,【0009】及び【0016】,図8及び9)。  本件発明は,上記問題点を解決するためにされたものであり,導電部材の接触部に過大な荷重がかかった場合に生じる接触部の永久変形を防止することを目的とする。(段落【0010】) 上記目的を達成するため,本件発明は,基部から延設される脚部を設け,接触部が基部に近づく方向へ弾性変形した場合に,腕部が基部及び脚部に係合しないよう構成することによって,接触部の弾性変形に連れてプリント配線板に最も近づく腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるようにしたことを特徴とする。 例えば,図6の導電部材では,基部に近づく方向の弾性変形に際し,- 11 -腕部は,基部の外側を通り,二つの脚部の間を通る,つまり,基部及び脚部に係合しないのである。また,図7の導電部材では,腕部は,基部に形成された挿通孔を通るので,基部に係合しないようになっている。(段落【0011】,【0014】,【0015】及び【0018】,図6及び7) 本件発明は,腕部がプリント配線板に当接しないように,あるいは当接するまでに,接触部を十分弾性変形させるようにする。すなわち,本件発明では,接触部が基部及び脚部に係合せず弾性変形するようにしたため,基部及び脚部から抗力を受けることがない。また,脚部を設けたことによって,基部はプリント配線板から所定距離だけ離れているので,接触部の最下部は基部よりもプリント配線板側へ移動可能とな にしたため,基部及び脚部から抗力を受けることがない。また,脚部を設けたことによって,基部はプリント配線板から所定距離だけ離れているので,接触部の最下部は基部よりもプリント配線板側へ移動可能となっている。つまり,接触部は,その最下部がプリント配線板に当接するまで,あるいはプリント配線板に当接することなく,十分に弾性変形するのである。結果として,他の物体が導電部材の接触部に誤って圧接し,大きな荷重が接触部に加わったとしても,基部等から受ける抗力がなくなるため,接触部に発生する応力が大きくなることが防止される。その結果,弾性限度を超えてしまう可能性が低くなり,接触部の永久変形を防止することができる。(段落【0017】) 本件発明の実施形態の導電部材においては,接触部に対し物体から過大な荷重が作用した場合,接触部の腕部は,基部の外側を通り,二つの脚部の間を通って弾性変形し,基部及び脚部に係合しない。そして,腕部の最下部は,基部よりもプリント配線板側へ移動する。(段落【0044】,図1及び2)ウ本件明細書の上記記載を総合すると,本件発明は,従来の導電部材には,接触部が基部に当接し,基部から抗力を受けることによって永久変形してしまうという問題点があったので,これを解決するため,接触部- 12 -が基部及び脚部から抗力を受けることのない構成を採用したものであり,このような構成をもって「係合しないよう構成する」と特許請求の範囲に記載したものと認められる。したがって,接触部と基部が,接触部(腕部)が基部に当接して基部から抗力を受ける関係にある場合は,「係合しない」に当たらないと判断することが相当である。 エ被告製品は,コンタクト部がベース部に近づく方向で弾性変形した場合に,コンタクト部(アーム部)が常にベース部に当接しているのであ 場合は,「係合しない」に当たらないと判断することが相当である。 エ被告製品は,コンタクト部がベース部に近づく方向で弾性変形した場合に,コンタクト部(アーム部)が常にベース部に当接しているのであり(前記被告製品の構成,別紙被告製品説明書の使用時の説明図参照),その接点においてベース部から常に抗力を受けていると認められる(乙5参照)。そうすると,被告製品は,構成要件Dの「係合しない」との構成を充足しないと解すべきものである。 オこれに対し,原告は,腕部が基部に当接していることは「係合しない」と認めることの妨げになるものではなく,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるのであれば「係合しない」構成に当たる旨主張する。 そこで判断するに,腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるとの点は,本件発明の構成要件Eにおいて規定されているところであり,本件発明は,構成要件Dに記載された構成を採用することによって,そのような移動を可能にしたものである。したがって,上記の移動が可能であることから直ちに構成要件Dを充足するといえないことは明らかである。原告の主張は,従来技術の問題点及びそれを解決するために本件発明が採用した構成に関する本件明細書の上記記載と相いれないものであって,採用することができない。  以上のとおり,被告製品は構成要件Dを充足しないから,特許請求の範囲の文言上,本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。 2 争点2(均等による特許権侵害の成否)について- 13 - 特許請求の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた製品と異なる部分が存する場合であっても,① 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,② 上記部分を当該製品におけるものと置き換えても特許発明 の範囲に記載された構成中に特許権侵害訴訟の対象とされた製品と異なる部分が存する場合であっても,① 上記部分が特許発明の本質的部分ではなく,② 上記部分を当該製品におけるものと置き換えても特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③ そのように置き換えることに特許発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が当該製品の製造時点において容易に想到することができたものであり,④ 当該製品が特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考することができたものではなく,かつ,⑤ 当該製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,当該製品は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。 被告製品は,上記1で判示したところによれば,本件発明の構成要件Dにいう「前記腕部が前記基部及び前記脚部に係合しないよう構成する」との部分を「アーム部が常にベース部と当接するよう構成する」と置き換えたものであるが,原告は,上記①~⑤の要件を満たすので,被告製品について均等による特許権侵害が認められる旨主張するものである。  そこで判断するに,まず,原告は,上記①の要件につき,本件発明の本質的部分は腕部の最下部が基部よりもプリント配線板側へ移動することができるよう構成することにある旨主張する。この主張は,構成要件Eをもって本件発明の本質的部分であることをいうものと解されるが,本件発明は,特許請求の範囲の記載によれば,腕部が基部及び脚部に係合しないよう構成することによって(構成要件D),上記の移動を可能 件Eをもって本件発明の本質的部分であることをいうものと解されるが,本件発明は,特許請求の範囲の記載によれば,腕部が基部及び脚部に係合しないよう構成することによって(構成要件D),上記の移動を可能にしたもの(構成要件E)である。原告の主張は,構成要件Dを事実上無視し,本件発明が採用した課題解決手段を離れてその本質的部分を論じるものという- 14 -ほかなく,これを採用することはできない。 次に,上記②の要件についてみるに,本件発明は,前記認定の本件明細書の記載によれば,接触部の永久変形の防止という目的を達成するために,腕部が基部及び脚部から抗力を受けないとの構成を採用したものである。 ところが,原告が行った試験(甲9)によれば,圧縮変形を繰り返した場合の被告製品の復元率は83.91%であり,本件発明の実施品とされる原告の製品の復元率92.68%に比し1割程度劣っているというのであって,被告製品はその分永久変形しやすいとみることができる。したがって,被告製品が本件発明と同一の作用効果を奏すると認めることはできない。 さらに,原告は,上記③の要件につき,本件発明の構成要件Dを被告製品におけるような腕部が常に基部に接触する構成に置換することは日常的な設計事項にすぎない旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。  したがって,被告製品については均等による特許権侵害を認めるための要件を欠くと解すべきものである。 3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官清野正彦 - 15 -裁判官 主文 のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官清野正彦 裁判官髙橋彩 (別紙)被告製品目録 SMコンタクト(製品番号SM-A364030A)

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