平成25(行ウ)137 保険医療機関指定取消処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月1日 大阪地方裁判所 その他
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判決文本文58,864 文字)

平成30年3月1日判決言渡平成25年(行ウ)第137号保険医療機関指定取消処分取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求近畿厚生局長が平成25年6月20日付けで原告に対してした,原告が開設するD病院(旧名称)につき保険医療機関の指定を同年10月1日をもって取り消す旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,医療法人である原告(平成29年2月1日に医療法人Eから医療法人Fに名称変更)が,平成25年6月20日付けで,近畿厚生局長から,原告が開設するD病院(現在の名称はG病院。以下「本件病院」という。)につき,健康保険法(平成25年法律第112号による改正前のもの。以下同じ。)80条1号,2号,3号及び6号に該当することを理由として,保険医療機関の指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 保険医療機関及び保険医の責務ア健康保険法70条1項は,保険医療機関は,当該保険医療機関において診療に従事する保険医に,同法72条1項の厚生労働省令で定めるところにより,診療に当たらせるほか,厚生労働省令で定めるところにより,療養の給付を担当しなければならない旨規定し,同法72条1項は,保険医療機関において診療に従事す る保険医は,厚生労働省令で定めるところにより,健康保険の診療に当たらなければならない旨規定する。 国民健康保険法40条1項は,保険医療機関又は保険医が,国民健康保険の療養の給付を担当し,又は国民健康保険の診療に当たる場合の準則については,健康保険法7 ならない旨規定する。 国民健康保険法40条1項は,保険医療機関又は保険医が,国民健康保険の療養の給付を担当し,又は国民健康保険の診療に当たる場合の準則については,健康保険法70条1項及び72条1項の規定による厚生労働省令の例による旨規定する。 高齢者の医療の確保に関する法律(平成18年法律第83号による改正前の題名は老人保健法。以下「高齢者医療確保法」という。)65条は,保険医療機関又は保険医は,同法71条1項の療養の給付の取扱い及び担当に関する基準に従い,後期高齢者医療の療養の給付を取り扱い,又は担当しなければならない旨規定する。 イ健康保険法70条1項及び72条1項の規定による厚生労働省令として,「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号。以下「療養担当規則」という。乙2)が定められており,高齢者医療確保法71条1項の療養の給付の取扱い及び担当に関する基準として,「高齢者の医療の確保に関する法律の規定による療養の給付等の取扱い及び担当に関する基準」(昭和58年厚生省告示第14号。なお,平成20年厚生労働省告示第70号による改正前の題名は「老人保健法の規定による医療並びに入院時食事療養費,入院時生活療養費及び保険外併用療養費に係る療養の取扱い及び担当に関する基準」。以下,上記改正の前後を問わず「高齢者担当基準」という。)が定められている。 療養担当規則においては,要旨,①保険医療機関は,その担当する療養の給付に関し,厚生労働大臣等に対する申請,届出等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行わなければならない旨(2条の3),②保険医療機関は,その担当 する療養の給付に関し,健康保険事業の健全な運営を損なうことの 等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行わなければならない旨(2条の3),②保険医療機関は,その担当 する療養の給付に関し,健康保険事業の健全な運営を損なうことのないよう努めなければならない旨(2条の4),③保険医療機関は,被保険者又は被保険者であった者については健康保険法74条の規定による一部負担金等の支払を,被扶養者については同法76条2項等所定の方法により算定された費用の額から家族療養費として支給される額に相当する額を控除した額の支払を受けるものとする旨(5条1項),④保険医療機関は,同規則22条の規定による診療録に療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し,これを他の診療録と区別して整備しなければならない旨(8条),⑤保険医療機関は,厚生労働大臣が定める療養の給付の担当に関する事項について,地方厚生局長等に定期的に報告を行わなければならない旨(11条の3第1項),⑥保険医は,患者の診療を行った場合には,遅滞なく,所定の様式の診療録に,当該診療に関し必要な事項を記載しなければならない旨(22条)などが規定されており,高齢者担当基準にも療養担当規則の上記各規定と同様の定めが置かれている。 (2) 診療報酬の算定等ア健康保険法76条1項は,保険者は,療養の給付に関する費用を保険医療機関に支払うものとし,保険医療機関が療養の給付に関し保険者に請求することができる費用の額は,療養の給付に要する費用の額から,当該療養の給付に関し被保険者が当該保険医療機関に対して支払わなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とする旨規定し,同条2項は,同条1項の療養の給付に要する費用の額は,厚生労働大臣が定めるところにより,算定するものとする旨規定する。 イ厚生労働大臣は 金に相当する額を控除した額とする旨規定し,同条2項は,同条1項の療養の給付に要する費用の額は,厚生労働大臣が定めるところにより,算定するものとする旨規定する。 イ厚生労働大臣は,健康保険法76条2項に基づき,療養の給付 に要する費用の額につき,「診療報酬の算定方法」(平成18年4月1日から平成20年3月31日までは平成18年厚生労働省告示第92号〔乙3・4枚目〕,平成20年4月1日から平成22年3月31日までは平成20年厚生労働省告示第59号〔乙4・4枚目〕)を定めており,歯科診療以外の診療に係る上記費用の額は,同告示別表第1の医科診療報酬点数表(以下「診療報酬点数表」という〔乙3・19頁以下の左欄,乙4・17頁以下の左欄〕)によるものとされている。また,基本診療料に係る施設基準(保険医療機関において人員や設備につき一定の基準を満たしていることが診療報酬の算定の要件とされる場合の上記基準のこと。以下同じ。)については,「基本診療料の施設基準等」(平成18年4月1日から平成20年3月31日までは平成18年厚生労働省告示第93号〔乙3・801頁〕,平成20年4月1日以降につき平成20年厚生労働省告示第62号〔乙4・911頁〕。以下,上記の前後を問わず「施設基準告示」という。)によるものとされている。 ウ一般病棟入院基本料(診療報酬点数表の区分A100)のうち10対1入院基本料(以下,単に「10対1入院基本料」という〔乙3・46頁,乙4・46頁〕。)とは,一般病棟において,1日に看護を行う看護職員(看護師及び准看護師をいう。以下同じ。)の数が,常時,当該病棟の入院患者数が10又はその端数を増すごとに1以上である場合に算定することができる入院基本料であり,これを算定するためには,施設基準告示により, び准看護師をいう。以下同じ。)の数が,常時,当該病棟の入院患者数が10又はその端数を増すごとに1以上である場合に算定することができる入院基本料であり,これを算定するためには,施設基準告示により,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間数が72時間以下であることが必要とされる(乙3・802頁,乙4・913頁。以下「72時間基準」ということがある。)。 障害者施設等入院基本料(診療報酬点数表の区分A106)の うち15対1入院基本料(以下「15対1障害者施設入院基本料」という〔乙3・67頁,乙4・67頁〕。)とは,難病患者等をおおむね7割以上入院させている病棟等において,1日に看護を行う看護職員の数が,常時,当該病棟の入院患者数が15又はその端数を増すごとに1以上である場合に算定することができる入院基本料であり,これを算定するためには,施設基準告示により,72時間基準を満たす必要があるとされる(乙3・802頁,乙4・913頁)。 回復期リハビリテーション病棟入院料(診療報酬点数表の区分A308。以下「回リハ入院料」という〔乙4・124頁〕。)とは,回復期リハビリテーションの必要性の高い患者を8割以上入院させている病棟等において,新規入院患者や退院患者について一定の要件を満たしている場合に算定することができる入院料であり,当該入院料の施設基準の届出をするためには,当該入院料を算定する病棟以外の病棟において,特別入院基本料以外の入院基本料を算定していることが必要である(乙4・929頁)。なお,回リハ入院料には1と2があり,原告が請求したのは回リハ入院料1の方である。 (3) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(平成18年4月1日から平成20年3月31日までは は1と2があり,原告が請求したのは回リハ入院料1の方である。 (3) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(平成18年4月1日から平成20年3月31日までは平成18年3月6日付け保医発第0306002号〔乙3・832頁〕,平成20年4月1日から平成22年3月31日までは平成20年3月5日付け保医発第0305002号〔乙4・947頁〕。 以下,併せて「医療課長通知」という。)別添2「入院基本料等の施設基準等」第2の4(2)キ(平成18年度の医療課長通知)又はク(平成20年度の医療課長通知)は,看護補助者の数を算出する に当たっては,看護職員を看護補助者とみなして差し支えない旨定めている(以下,当該規定を「本件みなし規定」という〔乙3・844頁,乙4・960頁〕)。なお,「看護補助者」とは,看護師長及び看護職員の指導の下に,原則として患者の療養生活上の世話のほか,病室内の環境整備,ベッドメーキング,看護用品及び消耗品の整理整頓等の業務を行う者である(乙3・845頁,乙4・962頁)。 (4) 保険医療機関の指定の取消し等健康保険法80条は,厚生労働大臣は,①保険医療機関において診療に従事する保険医が同法72条1項の規定に違反したとき(1号),②上記①のほか,保険医療機関が同法70条1項の規定に違反したとき(2号),③療養の給付に関する費用の請求について不正があったとき(3号),④同法以外の医療保険各法による療養の給付等に関し,健康保険法80条1号から5号までのいずれかに相当する事由があったとき(6号)等に該当する場合においては,当該保険医療機関に係る同法63条3項1号の指定(保険医療機関の指定)を取り消すことができる旨規定する(なお,保険医療機関の指定の取消しに係る厚生 由があったとき(6号)等に該当する場合においては,当該保険医療機関に係る同法63条3項1号の指定(保険医療機関の指定)を取り消すことができる旨規定する(なお,保険医療機関の指定の取消しに係る厚生労働大臣の権限は,同法205条1項,健康保険法施行規則159条1項5号の2により地方厚生局長に委任されている。)。 監査要綱(平成20年9月30日付け保発第0930008号厚生労働省保険局長通知「『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』の改正について」別添2。乙6・11頁以下)第6の1(1)は,監査後の行政上の措置の基準として,保険医療機関が,故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの(同1(1)②)又は重大な過失により,不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行っ たもの(同1(1)④)に該当するときには,保険医療機関の指定の取消しを行う旨規定する。 2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)(1) 原告及び本件病院(乙7)原告は,平成4年6月29日に設立された医療法人社団である。 本件病院は,原告が開設する奈良県(住所省略)所在の病院であり,平成9年4月1日付けで,奈良県知事から保険医療機関として指定された。 (2) 本件病院による虚偽の届出(乙8,22)ア本件病院は,平成19年11月6日,奈良社会保険事務局長に対し,10対1入院基本料及び15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る届出において,別紙1-1から1-3までのとおり(黄色の部分が事実に反する届出。以下,別紙1-4について同じ。),同年10月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の届出(以下「 本料の施設基準に係る届出において,別紙1-1から1-3までのとおり(黄色の部分が事実に反する届出。以下,別紙1-4について同じ。),同年10月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の届出(以下「平成19年11月届出」という。)をした。 イ本件病院は,平成20年10月1日,奈良社会保険事務局長に対し,回リハ入院料1を算定する病棟以外の病棟について10対1入院基本料や15対1障害者施設入院基本料を算定しているとして,回リハ入院料1の施設基準の要件を満たしている旨の虚偽の届出(以下「回リハ届出」という。)をした。 ウ本件病院は,平成20年10月10日,奈良社会保険事務局長に対し,15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る届出において,別紙1-4のとおり,同年9月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の届出(以下「平成20年10月届出」といい,平 成19年11月届出及び回リハ届出と併せて「本件各届出」という。)をした。 (3) 本件病院による虚偽の定例報告(乙8)ア本件病院は,平成19年8月9日,奈良社会保険事務局長に対し,10対1入院基本料及び15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る定例報告において,別紙1-5から1-7までのとおり(黄色の部分が事実に反する報告。以下,別紙1-8から1-10までについて同じ。),同年6月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の報告をした。 イ本件病院は,平成20年8月1日,奈良社会保険事務局長に対し,10対1入院基本料及び15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る定例報告において,別紙1-8から1-10までのとおり,同年6月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の報告をした。 (4) 適時調査の実施(乙8)近畿厚 入院基本料の施設基準に係る定例報告において,別紙1-8から1-10までのとおり,同年6月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の報告をした。 (4) 適時調査の実施(乙8)近畿厚生局奈良事務所(以下「奈良事務所」という。)は,奈良社会保険事務局に対する匿名の情報提供を契機として,平成21年10月13日,本件病院に対する施設基準に係る調査を実施した。その際,平成20年10月届出の添付書類のうち,平成20年9月分の看護職員勤務割当表及び病棟勤務割当表の内容が,本件病院の病棟で使用されていた病棟勤務割当表及び病棟管理日誌の内容と整合しないことから,本件病院の管理者及び当時事務長代理であったH事務長に説明を求めたものの,明確な回答が得られなかったことから,奈良事務所は,本件病院に対する施設基準に係る調査を中断した。 (5) 監査の実施(乙8)奈良事務所は,本件病院に対する施設基準に係る調査で収集した 資料を精査したところ,虚偽の届出に基づく入院基本料等の不正請求が疑われたため,平成21年12月17日から平成24年7月20日までの間,合計15回,延べ20日間にわたり,奈良県と共同で,本件病院に対する監査(以下「本件監査」という。)を実施した。 (6) 聴聞手続等(甲3,6~8,乙8~13,16~19)ア近畿厚生局長は,平成24年8月24日付けの聴聞通知書(以下「本件聴聞通知書」という。)により,原告に対し,保険医療機関の指定の取消処分(以下「保険医療機関指定取消処分」という。)が予想されること,根拠法令が健康保険法80条1号,2号,3号及び6号であること,行政手続法に基づく聴聞を同年9月14日に開催すること並びに不利益処分の原因となる事実等を通知した。 イ第1回聴聞期日は と,根拠法令が健康保険法80条1号,2号,3号及び6号であること,行政手続法に基づく聴聞を同年9月14日に開催すること並びに不利益処分の原因となる事実等を通知した。 イ第1回聴聞期日は,平成24年9月14日,近畿厚生局I事務所長の主宰により開催された。その後,同年12月21日に第2回聴聞期日が開催され,平成25年3月11日に第3回聴聞期日が開催された。 ウ原告の聴聞を主宰した近畿厚生局指導監査課長(平成25年4月1日付けで近畿厚生局I事務所長から転任)は,上記聴聞の結果を踏まえ,同月15日付けで,近畿厚生局長に対し,本件病院につき保険医療機関指定取消処分が妥当である旨回答した。 (7) 本件処分等(乙20,21)ア近畿厚生局長は,平成25年6月17日開催の第〇回近畿地方社会保険医療協議会に対して,本件病院に係る保険医療機関指定取消処分につき諮問を行い,同協議会は,上記諮問のとおり了承する旨の答申を行った。 イ近畿厚生局長は,平成25年6月20日付け通知書(以下「本件通知書」という。)により,同年10月1日をもって,本件病院について保険医療機関指定取消処分(本件処分)をした。 (8) 本件訴えの提起(顕著な事実)。 原告は,平成25年6月27日,本件訴えを提起した。 (9) 原告による修正の届出等(甲36,37)原告は,本件訴訟係属中の平成27年12月8日付けで,奈良事務所に対し,平成19年11月届出及び平成20年10月届出の内容を修正する旨の届出(以下「本件修正届出」という。)をし,本件各定例報告を修正する旨の報告(以下「本件修正報告」という。)をした(ただし,本件修正届出及び本件修正報告による修正の可否については,後記のとおり争いがある。)。 本件修正届出」という。)をし,本件各定例報告を修正する旨の報告(以下「本件修正報告」という。)をした(ただし,本件修正届出及び本件修正報告による修正の可否については,後記のとおり争いがある。)。 3 被告が主張する本件病院の不正請求等の概要(1) 不正請求ア 10対1入院基本料,15対1障害者施設入院基本料及び回リハ入院料1を請求するのに必要な施設基準を満たしていないにもかかわらず,これを満たしているかのように偽って診療報酬を不正に請求した(別紙2-1から2-3まで。以下「不正請求1」という。)。 イ医療行為の実施に当たっては医師の診察が必要であるにもかかわらず,医師が診察をせず,リハビリテーション(以下「リハビリ」という。)や点滴注射を実施し,又は静脈内注射を処方し,診療報酬を不正に請求した(別紙3の番号1から142まで。以下「不正請求2」という。)。 ウ他の医療機関からの依頼を受けて放射線撮影の設備を提供しただけであるにもかかわらず,診療報酬を不正に請求した(別紙3 の番号143及び144。以下「不正請求3」といい,不正請求1及び2と併せて「本件各不正請求」という。)。 (2) その他の療養担当規則違反行為ア患者から不正請求分に係る一部負担金を受領し,また,本件病院の従業者及びその家族に対して一部負担金を免除していた事実(以下「規則違反ア」という。)イ不正請求2に関して,本件病院の事務担当者が,医師の指示によることなく診療録に不実記載していた事実(以下「規則違反イ」という。)ウ定例報告の際,添付書類を施設基準に適合しているように装って虚偽の報告をしていた事実(以下「規則違反ウ」という。)エ本件病院で従事する保険医が,医師による診 反イ」という。)ウ定例報告の際,添付書類を施設基準に適合しているように装って虚偽の報告をしていた事実(以下「規則違反ウ」という。)エ本件病院で従事する保険医が,医師による診察が行われていないにもかかわらず,リハビリが実施された患者について,診察をしたものとして診療録に不実記載していた事実(以下「規則違反エ」といい,規則違反アからエまでを併せて「本件各規則違反」という。)(3) 不当請求(別紙4。ただし,番号4を除く。)ア算定要件を満たさない初診料に係る診療報酬を不当に請求した 事実 イ算定要件を満たさない入院基本料,入院基本料等加算の診療報酬を不当に請求した事実ウ算定要件を満たさない医学管理等に係る診療報酬を不当に請求した事実エ算定要件を満たさない在宅医療に係る診療報酬を不当に請求した事実オ算定要件を満たさない検査に係る診療報酬を不当に請求した事 実カ所定点数に含まれて別に算定できない処置に係る診療報酬を不当に請求した事実キ算定要件を満たさない麻酔に係る診療報酬を不当に請求した事実 4 主たる争点(1) 故意による不正請求1以外の事由の主張の可否(処分理由の追加)(2) 不正請求1に関する争点ア違反事実の有無(特に本件修正届出の適否)イ故意又は重過失の有無(3) 不正請求2に関する争点ア違反事実の有無(特に無診察治療該当性)イ故意又は重過失の有無(4) 不正請求3に関する争点-故意又は重過失の有無(5) 本件各規則違反に関する争点ア規則違反ア(不正請求に係る一部負担金の受領等)の有無等イ規則違反 (4) 不正請求3に関する争点-故意又は重過失の有無(5) 本件各規則違反に関する争点ア規則違反ア(不正請求に係る一部負担金の受領等)の有無等イ規則違反イ(事務担当者による診療録への不実記載)の有無等ウ規則違反ウ(定例報告における虚偽報告)の有無等エ規則違反エ(保険医による診療録の不実記載)の有無等(6) 不当請求に関する争点-違反行為の有無等(7) 裁量判断の適否ア処分の量定の適否(比例原則違反・平等原則違反)イ指定取消事由及び処分基準に該当しない事実の考慮の適否(他事考慮)(8) 手続上の違法ア処分基準の違法(行政手続法12条2項関係) イ処分理由書の理由付記の不備(行政手続法14条関係)ウ聴聞手続の違法エ監査手続の違法 5 当事者の主張の骨子(なお,原告の主張は別紙5-1「原告の主張」のとおりであり,被告の主張は別紙5-2「被告の主張」のとおりである。)(1) 故意による不正請求1以外の事由の主張の可否(処分理由の追加)(原告の主張)ア本件処分の処分理由は,「故意による不正請求1」のみであった。しかし,被告は,本件訴訟において,本件処分の対象となる行為を72時間基準違反(不正請求1)以外にも拡大し,故意のみならず重過失をも理由として追加し,故意の判断対象として当時原告の代表者であったJ理事長を追加する主張を行った。このように,被告は,本件訴訟において,本件処分の処分理由を追加して主張している。 イ保険医療機関指定取消処分は,公務員に対する懲戒処分と同様,特定の事実に着目して行われる不利益処分であるから,上記アの処分理由の追 において,本件処分の処分理由を追加して主張している。 イ保険医療機関指定取消処分は,公務員に対する懲戒処分と同様,特定の事実に着目して行われる不利益処分であるから,上記アの処分理由の追加は,本件処分につき処分の同一性を失わせるものであり,許されない。 仮に,上記アの処分理由の追加が処分の同一性を失わせるものとまではいえないとしても,地方社会保険医療協議会への諮問(健康保険法82条2項)及び理由付記(行政手続法14条1項)の趣旨に反し,許されない。 また,聴聞手続の担当者は,本件処分の対象はH事務長,K事務長及びL総師長(以下L総師長,H事務長及びK事務長と併せて「H事務長ら」という。)らの故意による不正請求1のみであ る旨の説明を行っていたのであり,上記アの処分理由の追加は,信義則(禁反言)等に反し許されない。 (被告の主張)ア本件処分の処分理由は,前記3「被告が主張する本件病院の不正請求等の概要」記載のとおり,不正請求1のみならず,不正請求2,不正請求3,本件各規則違反及び不当請求である。そして,これらの事実は,本件通知書(乙21の1)や本件聴聞通知書(乙9の1)に明確に記載されている。また,本件処分の処分理由において,個別の違反事実につき主観面を特定することは不要であるし,不正請求1に係る原告の故意についても,本件処分時から被告の解釈に変更はない。したがって,被告の本件訴訟における主張は,処分理由の追加には当たらない。 イ保険医療機関指定取消処分は,公務員に対する懲戒処分のように個々の非違行為に対する制裁としてされる処分とは異なり,公務員に対する分限処分のように被処分者に存する個別の違反事実の全体的評価として,現在「療養の給付を担当するのが不適格な 対する懲戒処分のように個々の非違行為に対する制裁としてされる処分とは異なり,公務員に対する分限処分のように被処分者に存する個別の違反事実の全体的評価として,現在「療養の給付を担当するのが不適格な状態」にあると認められることを処分理由としてされる行政処分であると解される。そうすると,個別の違反事実は現在の適格性欠如という状態の徴表事実にすぎず,それ自体は単なる攻撃防御方法にすぎないから,個別の違反事実によって処分の同一性が失われるものではない。また,地方社会保険医療協議会への諮問(健康保険法82条2項)及び理由付記(行政手続法14条1項)の趣旨により,処分理由の追加が制限されるものとは解されない。 処分理由の追加が信義則等により制限される旨の原告の主張は,その理論的根拠を欠くものである上,聴聞手続の担当者は,原告に対し,不正請求1だけが本件処分の処分理由であるとの説明は 行っていないから,上記主張はいずれにしても失当である。 (2) 不正請求1に関する争点ア違反事実の有無(特に本件修正届出の適否)(被告の主張)(ア) 本件病院は,10対1入院基本料,15対1障害者施設入院基本料及び回リハ入院料1の施設基準(72時間基準)を満たしていないにもかかわらず,平成19年11月届出及び平成20年10月届出の際には,別紙1-1から1-4までのとおり,これを満たしているかのように虚偽の届出をした上で,別紙2-1から2-3までのとおり,入院基本料,看護補助加算,栄養管理実施加算及び回リハ入院料1に係る各診療報酬を不正に請求していた(不正請求1)。かかる行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反するとともに,高齢者担当基準2条の3及び2条の4に違反する。 (イ) 原告は 料1に係る各診療報酬を不正に請求していた(不正請求1)。かかる行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反するとともに,高齢者担当基準2条の3及び2条の4に違反する。 (イ) 原告は,本件修正届出により,本件病院は不正請求1で問題とされた期間につき72時間基準を満たしていたこととなると主張する。 しかし,本件みなし規定に基づく,看護職員を看護補助者とみなして計算できる取扱いは,飽くまで看護配置の要件(入院基本料の算定における看護職員の入院患者に対する実質割合に基づく要件)に必要な最小数を超えて配置されている看護職員を,看護補助加算その他の施設基準で要件とされている看護補助者とみなす(看護補助者の不足数に充当する)場合に限られるのであって,看護職員の月平均夜勤時間数の計算に当たって,必要な最小数を超えて配置されている看護職員を看護補助者とみなして,延べ夜勤時間数及び実人員から除外して計算することを認めるもの ではない。原告が主張する計算方法は,看護職員の労働条件の改善を目的とする72時間基準が設けられた趣旨を没却するものであり,本件みなし規定についての正しい理解を欠く誤った計算方法であって,失当である。 (原告の主張)上記(被告の主張)(ア)の事実は争わない。しかし,本件病院は,本件修正届出により,不正請求1で問題とされた期間につき72時間基準を満たしていたこととなり,不正請求1は遡って適法なものとなった。 すなわち,本件みなし規定は,「看護補助者の数を算出するに当たっては,看護師,准看護師を看護補助者とみなして差し支えない。」と明記している。そして,原告が改めて確認したところ,本件各届出につき,看護配置の要件に必要な最小数を超えて配置されている看護職員の一 っては,看護師,准看護師を看護補助者とみなして差し支えない。」と明記している。そして,原告が改めて確認したところ,本件各届出につき,看護配置の要件に必要な最小数を超えて配置されている看護職員の一部を看護補助者とみなして看護職員から除外すれば,看護職員の月平均夜勤時間は72時間基準を満たすことが判明した。そこで,原告は,平成27年12月8日付けで,奈良事務所に対し,本件修正届出をしたものであり,これにより,不正請求1は遡って適法なものとなった。 イ故意又は重過失の有無(被告の主張)(ア) 故意又は過失の判断枠組み法人による不正請求につき,法人の故意又は過失の有無を検討するに際しては,第一次的には法人の代表者の故意又は過失の有無を基準とすべきであるが,法人によって保険医療機関の指定を受ける病院等が開設され内部的に事務が分掌されている場合等,代表者が一定の事務につき他の者に明示又は黙示に権限を与え ているとみることができる場合においては,代表者自身には不正請求に関する故意又は過失が観念できない場合であっても,特段の事情のない限り,当該権限を有する者は法人の機関として診療報酬に係る事務処理を行っているものと評価することができるから,その者の故意又は過失をもって法人の故意又は過失と解すべきである。 (イ) 不正請求1に係る故意又は重過失の有無不正請求1については,本件病院の診療報酬の請求に係る権限を有していたH事務長らが,それぞれ不正請求であることを認識していたから,原告の故意に基づくものと評価すべきである。 仮に,上記(ア)の判断枠組みにより原告の故意が認められないとしても,当時の原告の理事長(J理事長)や本件病院の管理 を認識していたから,原告の故意に基づくものと評価すべきである。 仮に,上記(ア)の判断枠組みにより原告の故意が認められないとしても,当時の原告の理事長(J理事長)や本件病院の管理者は,診療報酬の請求に係る監督義務を著しく怠っていたものであり,原告に重過失が認められる。 (原告の主張)(ア) 故意又は過失の判断枠組み法人の故意又は過失については,その代表者の主観によって判断するのが原則であり(法人の不当利得の悪意に関する最高裁判所昭和30年5月13日第二小法廷判決・民集9巻6号679頁参照),仮に代表者以外の者の主観をもって法人の故意又は過失を判断する場合には,その旨の特別の規定が必要である。しかし,健康保険法や監査要綱に上記の原則を変更する旨の規定はない。したがって,原告の故意又は過失の有無はその代表者(J理事長)の主観によって判断すべきであり,事務の受託者にすぎないH事務長らの主観をもって原告の故意又は過 失を判断することはできず,被告の主張は誤りである。 (イ) 不正請求1に係る故意又は重過失の有無H事務長らは,施設基準に係る届出につき虚偽の届出を行う権限を有しておらず,虚偽の届出は同人らが独断で行ったものである。当時原告の理事長であったJ理事長は,H事務長らから虚偽の届出を行っていることについて報告を受けておらず,このことを全く知らなかった。したがって,不正請求1につき原告に故意(不正の認識)はない。 また,J理事長が対内的に法令遵守の徹底を啓発すべき一般的な義務を負っていたことは認めるが,このような義務をもって,対外的に,法人としての義務違反が認められるようなものではない。また,原告のように複数の病院を開設する 的に法令遵守の徹底を啓発すべき一般的な義務を負っていたことは認めるが,このような義務をもって,対外的に,法人としての義務違反が認められるようなものではない。また,原告のように複数の病院を開設する法人においては,診療報酬請求手続等の権限は事務職員に分掌されているのが通常であって,理事長がこれに直接関与することはなく,この点からもJ理事長に法的な義務違反は認められない。このことは,本件病院の管理者においても同様であり,不正請求1につき,原告に重過失は認められない。 (3) 不正請求2に関する争点ア違反事実の有無(特に無診察治療該当性)(被告の主張)(ア) 医師法20条は無診察治療を禁止しており,医師が患者を診察することなく外来診療料やリハビリテーション料等の診療報酬を請求することは許されない。また,外来診療料については,診療報酬点数表(乙4・33頁)により,医師が診察しない限り請求することはできない。 しかし,①本件病院は,医師の診察が行われないままリハビ リを実施していたにもかかわらず,別紙3の番号1~93及び125~142(患者番号7,12,13,18及び52)のとおり,外来診療科,脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)及び運動器リハビリテーション料(Ⅰ)に係る診療報酬を不正に請求していた。また,②本件病院は,診療録に医師が診察した旨の記載がなく,医師が診察したことを確認することができない日についても,それ以前の最初の診療において指示したものとして,点滴注射を実施し,別紙3の番号100~124(患者番号44及び48)のとおり,外来診療料,薬剤料及び点滴注射に係る診療報酬を不正に請求していた。さらに,③本件病院は,看護師である同病院の職員に無診察で注射薬を処方し, の番号100~124(患者番号44及び48)のとおり,外来診療料,薬剤料及び点滴注射に係る診療報酬を不正に請求していた。さらに,③本件病院は,看護師である同病院の職員に無診察で注射薬を処方し,当該職員がその自宅で患者(当該職員の母)に注射したものについて,本件病院において保険医が診察し,保険医療機関が診療したものとして,別紙3の番号94~99(患者番号30)のとおり,外来診療科,薬剤料及び静脈内注射に係る診療報酬を不正に請求していた。 これらの行為(不正請求2)は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反する。 (イ) 仮に,原告が主張するように,医師の診察時に治療計画を定め,当該計画に基づきリハビリや点滴注射等の医療行為をした場合には,医師法20条違反(無診察治療)にはならないと解する余地があるとしても,本件病院がした不正請求2に係るリハビリや点滴注射等については,原告の主張するような治療計画が存在しないか,又は,治療計画に基づく治療の前提として,患者の将来の病状を適確に判断できるようなものではなく,上記の場合には該当しないから,いずれにしても,医師法20条 に違反し,不正請求に該当する。 (原告の主張)(ア) 医師がリハビリや点滴注射等の開始前に診察し,これによって将来の病状を判断し,一定の期間内,連続して数次にわたって一定のリハビリや点滴注射等を実施する計画を定め,当該計画に基づいてこれらの医療行為をした場合には,診察をしないで治療をしたものとはいえず,医師法20条には違反しない。 このことは,大審院大正3年3月26日判決・刑録20輯411頁(以下「大正3年大審判」という。)からも明らかである。 ただし,外来診療料については,医師の診察がなければ請求することはできないこ い。 このことは,大審院大正3年3月26日判決・刑録20輯411頁(以下「大正3年大審判」という。)からも明らかである。 ただし,外来診療料については,医師の診察がなければ請求することはできないことは認める。 (イ) 不正請求2として被告が主張する事実(別紙3の番号1~142)のうち,①リハビリ(同1~93,125~142)については,医師が診察の上でリハビリの指示を行い,その指示に基づいてリハビリが行われていたもので,主治医が定期的に診察を行っていたし,患者に著変があった場合にも医師が診察を行っていた。また,②点滴注射(同100~124)及び③静脈注射(同94~99)については,医師が診察の上,一定期間薬剤を投与する計画を立て,それに基づいて薬剤投与が行われていた。このように,これらのリハビリや点滴注射等は,いずれも医師の診察に基づくものであり,医師法20条に違反するものではないから,その診療報酬(外来診療料を除く。)の請求は不正請求には該当しない。 イ故意又は重過失の有無(被告の主張)(ア) 故意又は過失の判断枠組み 前記(2)イ(被告の主張)(ア)記載のとおり。 (イ) 不正請求2に係る故意又は重過失の有無不正請求2は,いずれも医師の診察及び保険医療機関による診療行為が欠如していたにもかかわらず,これらがあるかのように装って診療報酬を請求したものであり,これらの点については,診療録の記載等と突合すれば容易に虚偽であることが判明するものであるから,原告に故意があったものといわざるを得ない。 また,仮に,上記(ア)の判断枠組みにより原告の故意が認められないとしても,当時の原告の理事長や本件病院の管理者は,診療報酬の請求に係る ,原告に故意があったものといわざるを得ない。 また,仮に,上記(ア)の判断枠組みにより原告の故意が認められないとしても,当時の原告の理事長や本件病院の管理者は,診療報酬の請求に係る指導監督義務を著しく怠っていたものであり,原告に重過失が認められる。 (原告の主張)(ア) 故意又は過失の判断枠組み前記(2)イ(原告の主張)(ア)記載のとおり。 (イ) 不正請求2に係る故意又は重過失の有無仮に不正請求2が不正請求に当たるとしても,H事務長らに不正請求を行う権限はなく,不正請求2は同人らが独断で行ったものである。したがって,J理事長に不正の認識はなく,不正請求2につき原告に故意はない。 また,J理事長が対内的に法令遵守の徹底を啓発すべき一般的な義務を負っていたことは認めるが,このような義務をもって,対外的に,法人としての義務違反が認められるようなものではない。また,理事長に個々の患者の診療録の確認を求めることは非常識かつ不合理であり,この点からもJ理事長に法的な義務違反は認められない。このことは,本件病院の管理者に おいても同様であり,不正請求2につき,原告に重過失は認められない。 (4) 不正請求3に関する争点-故意又は重過失の有無(被告の主張)本件病院は,他の医療機関からの依頼を受けて放射線撮影の設備を提供しただけであるにもかかわらず,別紙3の番号143及び144(患者番号54)のとおり,本件病院で診察及び画像診断を行ったものとして,初診料及び画像診断に係る診療報酬を不正に請求していた。これは,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反する。 医師の診察がなかったにもかかわらず,漫然と初診料等を算定してい ったものとして,初診料及び画像診断に係る診療報酬を不正に請求していた。これは,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反する。 医師の診察がなかったにもかかわらず,漫然と初診料等を算定していたことを踏まえれば,原告には少なくとも重過失(J理事長及び本件病院の管理者の重大な監督義務違反,H事務長の重大な注意義務違反)があった。 (原告の主張)本件病院が,請求することができない初診料及び画像診断に係る診療報酬を請求していたこと,これが療養担当規則2条の3及び2条の4に違反することは認める。 H事務長らに不正請求を行う権限はなく,不正請求3は同人らが独断で行ったものである。したがって,J理事長に不正の認識はなく,不正請求3につき原告に故意はない。また,J理事長に個々の患者の診療録の確認を求めることは非常識かつ不合理であり,このことは本件病院の管理者についても同様であるし,H事務長についても,個々の患者の診療録の確認を行う立場にあったことの主張立証はないから,不正請求3につき,原告に重過失は認められない。 (5) 本件各規則違反に関する争点ア規則違反ア(不正請求に係る一部負担金の受領等)の有無等 (被告の主張)本件病院は,診療報酬を不正請求していたものであり,患者から本来受領すべきものよりも多額の一部負担金を受領していたことになる。このことは,療養担当規則5条及び高齢者担当基準5条に違反する。 また,本件病院は,従業者及びその家族が本件病院を受診した際,その一部負担金の支払を免除していた。このことは,療養担当規則5条に違反する。 (原告の主張)不正請求に係る一部負担金の受領については,不正請求と表裏一体の関係 受診した際,その一部負担金の支払を免除していた。このことは,療養担当規則5条に違反する。 (原告の主張)不正請求に係る一部負担金の受領については,不正請求と表裏一体の関係にあるから,これを原告に不利益に考慮することは一つの行為を二重に評価するものであり,不合理である。また,不正請求の反射的効果として被告が主張するような行為があったことは認めるが,金額(差額)が特定されておらず,原告の故意又は過失も認定されていない。 本件病院の従業者及びその家族に対する一部負担金の免除についても,過去にそのような行為があったことは認めるが,その患者名,回数,金額等は特定されておらず,原告の故意又は過失についても認定されていない。 イ規則違反イ(事務担当者による診療録への不実記載)の有無等(被告の主張)本件病院では,リハビリを受ける患者については,外来の受付において,受付事務を担当する者が,医師の指示がないまま診療録に医師の印鑑を押印するなどしていた。このことは,療養担当規則8条に違反する。 (原告の主張) 被告が主張するような行為があったことは認めるが,その事務担当者の氏名,記載日時,記載内容等が特定されておらず,原告の故意又は過失についても認定されていない。 ウ規則違反ウ(定例報告における虚偽報告)の有無等(被告の主張)本件病院は,本件各定例報告において,別紙1-5から1-10までのとおり,看護職員の一人当たりの月平均夜勤時間数が72時間基準を満たしているかのように装って虚偽の報告をした。 このことは,療養担当規則11条の3及び高齢者担当基準11条の3に違反する。 (原告の主張) りの月平均夜勤時間数が72時間基準を満たしているかのように装って虚偽の報告をした。 このことは,療養担当規則11条の3及び高齢者担当基準11条の3に違反する。 (原告の主張)本件みなし規定に基づき,原告は,平成27年12月8日付けで,奈良事務所に対し,本件各定例報告を修正する旨の本件修正報告をした。これにより,本件各定例報告は,実際の勤務状況に合致するとともに,72時間基準も満たすものとなった。 仮に本件各定例報告の修正が許されないとしても,規則違反ウは不正請求1に不可避的に伴う手段行為であって,これを原告に不利益に考慮することは一つの行為を二重に評価するものであり,不合理である。 エ規則違反エ(保険医による診療録の不実記載)の有無等(被告の主張)本件病院では,医師による診察が行われていないにもかかわらず,リハビリが実施された患者について,3名の保険医が診察をしたものとして診療録に不実記載した。このことは,療養担当規則22条に違反する。 (原告の主張) 過去に被告が主張するような行為があったことは認めるが,その回数や期間が特定されていない。 (6) 不当請求に関する争点-違反行為の有無等(被告の主張)本件監査の結果,本件病院が,診療報酬を不当請求していた事実が判明した。具体的には,①診療録に必要事項を記載し又は必要な文書の貼付がなければ請求できない診療報酬について,診療録に必要事項を記載し又は必要な文書の貼付をすることなく診療報酬を請求した(別紙4の番号1~3,5,11~15,18,20,24~31,36~38,41~47),②実施した医療行為の内容が,要件を満たしていないのに し又は必要な文書の貼付をすることなく診療報酬を請求した(別紙4の番号1~3,5,11~15,18,20,24~31,36~38,41~47),②実施した医療行為の内容が,要件を満たしていないのに,診療報酬を請求した(同番号19,22,39),③必要な手続をしなければ算定できない診療報酬について,手続を欠いているにもかかわらず診療報酬を請求した(同番号6~10,40。なお,同番号4は撤回された。),④算定の対象となる患者が限られているにもかかわらず,対象外の患者に対して医療行為を実施したとして診療報酬を請求した(同番号21,23,32~35,48,49),⑤他の算定項目の所定の点数に包含される医療行為(処置)について,別途診療報酬を請求した(同番号16,17)というものである。 これらの不当請求は,要件を満たしておらず本来診療報酬として請求し得ないものを請求したものであり,療養担当規則等の趣旨に反することは明らかであるから,本件処分の決定に当たって,不正請求等の事実とともに考慮されたものである。なお,原告には不当請求につき少なくとも過失が認められる。 (原告の主張)近畿厚生局長は,不当請求が原告の故意によるものか過失による ものかを認定していない。このようなずさんな認定に基づく事実を,保険医療機関の指定の取消しという重大な処分において不利益に考慮することは許されない。 個別にみると,被告の不当請求に係る主張のうち,①別紙4の番号41(患者番号47)に係る特定薬剤治療管理料の請求回数に関する主張は,本件聴聞通知書の記載とは異なる主張であり,原告の防御権を侵害するものであり許されない。②血糖自己測定器加算(別紙4の番号36~38,42,43,45,47)の主張については,本件聴 する主張は,本件聴聞通知書の記載とは異なる主張であり,原告の防御権を侵害するものであり許されない。②血糖自己測定器加算(別紙4の番号36~38,42,43,45,47)の主張については,本件聴聞通知書の記載とは異なる主張であり,原告の防御権を侵害するものであり許されない。③肺血栓塞栓症予防管理料(別紙4の番号22)に係る主張については,本件病院のいかなる行為が問題とされたのか詳細が不明であるため,否認し争う。④導尿(別紙4の番号16)に係る主張(尿道拡張を要しない場合の導尿は「簡単な措置」に該当し,別途診療報酬を請求することはできない。)については争う。 (7) 裁量判断の適否ア処分の量定の適否(比例原則違反・平等原則違反)(原告の主張)(ア) 本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分の内容は,原告による違反の内容,程度,態様等に照らして著しく過大であり(比例原則違反),裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法である。具体的には,本件処分の中心的な理由である不正請求1について,次のような事情がある。 すなわち,①本件病院は,72時間基準が施行された平成18年4月当時,これを遵守することができるよう,夜勤従事者3名体制であったものを2名体制とした。しかし,夜勤従事者 2名体制では,入院患者や急患患者に対応しきれず,患者を危険にさらすおそれがあったことから,本件病院は,医療の安全を重視し,夜勤従事者3名体制に戻した。その結果,本件病院は,72時間基準に違反してしまったものであり,その目的は正当である。また,②本件病院が72時間基準に違反したのは,上記のとおり,夜勤従事者3名体制に戻したからであって,経済的な利得を得る動機に基づくものではない。また してしまったものであり,その目的は正当である。また,②本件病院が72時間基準に違反したのは,上記のとおり,夜勤従事者3名体制に戻したからであって,経済的な利得を得る動機に基づくものではない。また,③夜勤看護師の配置は72時間基準を上回る水準を確保しているなど,違反の態様も悪質ではない。また,④本件病院は,72時間基準を遵守するため速やかに勤務体制を変更するなどしている。 また,⑤72時間基準については,医療現場の実態を理解しない問題のある制度との批判が強く,将来廃止される見込みとされているなど,その基準自体に合理性がない。さらに,⑥原告は,過大に受給した診療報酬の全額を返還することを申し入れていたが,近畿厚生局長は,返還すべき金額の特定や返還の方法について全く応対せず,原告はこれを返還したくてもすることができなかった。これらの事情に照らせば,近畿厚生局長は,指導などのより軽度の措置を執るべきであったというべきであり,本件処分は重きに失する。 (イ) また,本件処分は,72時間基準違反があったものの保険医療機関指定取消処分に至らなかった医療機関との間,及び悪質な態様による72時間基準違反により保険医療機関指定取消処分を受けた医療機関との間において,合理的な理由なく均衡を欠くものであり,平等原則に違反する。 (被告の主張)本件処分については,本件病院において,故意に虚偽の書類の 作成・届出を繰り返し,多量・多額の不正請求を行っていた事実が認められたことから,監査要綱の処分基準に従って適正にされたものである。したがって,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分は,処分の量定として相当であり,比例原則や平等原則に違反するものではなく,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは れたものである。したがって,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分は,処分の量定として相当であり,比例原則や平等原則に違反するものではなく,裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえない。 イ指定取消事由及び処分基準に該当しない事実の考慮の適否(他事考慮)(原告の主張)近畿厚生局長は,本件処分に係る処分基準の要件該当性を認めたのは72時間基準違反に係る不正請求1の事実であるとしつつ,本件処分の要否の判断については,不正請求2,不正請求3,本件各規則違反及び各不当請求の事実をも総合的に考慮している。 このような判断手法は,処分基準の要件に該当しない事実をもって本件処分を行うもので,処分基準を潜脱するものであり,違法又は著しく不当な他事考慮である。 (被告の主張)健康保険法80条の規定に該当する事由がある場合に,保険医療機関の指定を取り消すか否かについては,対象となった行為の種類,性質,違法性の程度,動機,目的,影響のほか,当該保険医療機関の性格,処分歴,反省の程度等,諸般の事情を考慮し,同条の趣旨に照らして判断すべきものであり,その判断は,地方社会保険医療協議会の諮問に付す(同法82条2項)という前提の下で,処分権者の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。処分行政庁が保険医療機関の指定を取り消すか否かの裁量判断の基準を提供し,処分行政庁の処分の妥当性を確保する ための準則として監査要綱を定めたとしても,それによって,処分行政庁が保険医療機関指定取消処分をするに当たり,監査要綱に定める処分基準に該当しない事由以外を考慮してはならないということはできない。また,仮に監査要綱に定める基準に反した処分がされたとしても,原則 庁が保険医療機関指定取消処分をするに当たり,監査要綱に定める処分基準に該当しない事由以外を考慮してはならないということはできない。また,仮に監査要綱に定める基準に反した処分がされたとしても,原則として,当不当の問題が生ずるにとどまり,処分そのものが当然に違法となるものではない。 (8) 手続上の違法ア処分基準の違法(行政手続法12条2項関係)(原告の主張)監査要綱には,保険医療機関の指定を取り消すか否かに係る判断の要素等に関する基準について何ら規定されておらず,処分基準として不明確であって,行政手続法12条2項に反しており,これに基づく本件処分も違法である。 (被告の主張)監査要綱における処分基準は,不正又は不当な診療報酬の請求の事実が認められただけでなく,故意の有無や過失の程度,違反事例の頻度といった不正又は不当の事案の内容に応じ,段階的に,「注意」「戒告」「取消処分」を行うと定めている。したがって,個々の保険医療機関がした具体的な不正請求又は不当請求について,当該基準に当てはめれば,いかなる場合に,どのような行政上の措置がされるかが明確にされており,監査要綱は行政手続法12条2項に違反しない。 イ処分理由書の理由付記の不備(行政手続法14条関係)(原告の主張)本件通知書及びその別紙においては,本件処分の処分理由となる事実の範囲が不明確であり,原告において,記載された根拠法 条の範囲が十分か否かすら判断することができず,また,事実との関連性を推知し得たとしても法規の特定として不十分であったものであり,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して処分されたのかが明らかでない。したがって,本件処分の処分 できず,また,事実との関連性を推知し得たとしても法規の特定として不十分であったものであり,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して処分されたのかが明らかでない。したがって,本件処分の処分理由付記は,行政手続法14条1項本文及び3項に反し,違法である。 (被告の主張)本件通知書には,①処分の理由となる具体的な事実,②当該事実がいかなる法規に違反するか,③その結果,取消処分の根拠となる法規のいかなる条項が適用されるか,そして,取消処分をするに当たっては,④具体的にいかなる事実について,⑤いずれの取消処分の基準が適用されているのかが,一目瞭然であって,何ら瑕疵はない。 ウ聴聞手続の違法(原告の主張)(ア) 本件聴聞通知書の「適用される処分基準に係る事実」の記載は,行政手続法が要求する「不利益処分の原因となる事実」としての具体性を欠く。また,「適用条文」の記載についても,適用される法規の特定として不十分である。 (イ) 聴聞通知書の「不利益処分の原因となる事実」を通知後に差し替える場合には,改めて通知からやり直さなければならない。 しかし,近畿厚生局長は,上記事実の訂正を行ったにもかかわらず,聴聞通知書を改めて発付しなかった。 (ウ) 近畿厚生局長は,本件聴聞通知書に記載されておらず原告に防御の機会が与えられていない事実(不正請求が原告の故意に基づくこと)を,本件通知書に書き加えており,重要な事実に つき聴聞手続を経ていない違法がある。 (被告の主張)(ア) 本件聴聞通知書には,①処分の理由となる具体的な事実,②当該事実がいかなる法規に違反するか,③その結果,取消処分の根拠となる法規のいかなる条項が適 (被告の主張)(ア) 本件聴聞通知書には,①処分の理由となる具体的な事実,②当該事実がいかなる法規に違反するか,③その結果,取消処分の根拠となる法規のいかなる条項が適用されるか,そして,取消処分をするに当たっては,④具体的にいかなる事実について,⑤いずれの取消処分の基準が適用されているのかが,一目瞭然であって,何ら瑕疵はない。 (イ) 本件聴聞通知書の内容に訂正すべき誤りはなく,同通知書を訂正する必要はない。 (ウ) 本件通知書における記載は,何ら本件聴聞通知書の趣旨を変えるようなものではなく,むしろ,原告の不服申立てに配慮した適切なものである。 エ監査手続の違法(原告の主張)近畿厚生局の職員は,本件監査において,本件病院の保険医らに対し,威迫的な態度を取り,誤導的な質問をした。 (被告の主張)近畿厚生局の職員が,本件監査において,誤った解釈を前提に誤導的な質問をしたり,脅迫的言動によって供述を強いたような事実はなく,本件監査は適正に行われている。 第3 当裁判所の判断 1 故意による不正請求1以外の事由の主張の可否(処分理由の追加)(1) 証拠(乙21)によれば,本件通知書には,本件処分の処分理由として,「平成21年12月17日から平成24年7月20日の間に… 行った監査の結果,健康保険法第70条第1項の保険医療機関 又は保険薬局の責務及び同法第72条第1項の保険医又は保険薬剤師の責務に違反し,かつ,療養の給付等に関する費用の請求について不正があった事実が別紙のとおり判明し,さらに,健康保険法以外の医療保険各法においても同様の事実が判明し,健康保険法第80条第1号,第2号,第3号及び第 かつ,療養の給付等に関する費用の請求について不正があった事実が別紙のとおり判明し,さらに,健康保険法以外の医療保険各法においても同様の事実が判明し,健康保険法第80条第1号,第2号,第3号及び第6号の保険医療機関の指定の取消に該当するため。」と記載されていること,本件通知書には,上記「別紙」が添付されており,当該書面の記載内容は,別紙6「不利益処分の原因となる事実」記載のとおりであることが認められる。 (2) 原告は,本件処分の処分理由は「故意による不正請求1」のみであることを前提に,本件訴訟における被告のこれ以外の主張は,処分の同一性を失わせる処分理由の追加であるなどとして,許されないと主張する。 しかし,本件通知書の「… 不正があった事実が別紙のとおり判明し,… 健康保険法第80条第1号,第2号,第3号及び第6号の保険医療機関の指定の取消に該当するため」との記載に照らせば,本件処分の処分理由となる事実には,常識的にみて,本件通知書の別紙第1「判明した事実」に記載されている事実の全てが含まれることが明らかである。そして,当該部分には,本件訴訟において被告が主張する事実(前記第2の3)が,その適用条項と併せて全て列記されていることが認められる。 したがって,本件処分の処分理由は,「故意による不正請求1」に限定されるものではなく,本件訴訟において被告が主張する事実の全てが含まれるというべきであるから,被告の本件訴訟における「故意による不正請求1」以外の主張は,本件処分の処分理由を追加するものとは認められない。原告の主張は,その前提を誤るものであって採用することができない。 (3) 原告は,本件聴聞通知書の記載や聴聞期日における担当者とのやりとりなどを指摘して,本件処分の処分理由は「故意によ 主張は,その前提を誤るものであって採用することができない。 (3) 原告は,本件聴聞通知書の記載や聴聞期日における担当者とのやりとりなどを指摘して,本件処分の処分理由は「故意による不正請求1」のみである旨主張する。 しかし,不利益処分が書面で行われるときは処分理由は書面により示されるのであって(行政手続法14条3項),本件処分の処分理由も本件通知書に記載されているとおりに理解すべきであるから,原告が指摘する聴聞手続に係る事情は,本件処分の処分理由に係る上記認定を左右するものではない。また,本件通知書の別紙第2の2(1)「適用される処分基準に係る事実」には,不正請求1に関する事情しか記載されていないものの,この部分は,処分基準である監査要綱第6の1(1)②「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当することについての具体的な理由を示したものであって,当該部分に記載されている事実のみを本件処分の処分理由とする趣旨であるとは認められない。 原告は,被告が本件訴訟において原告の重過失を主張していることや,当時の原告代表者(J理事長)の主観をもって原告の故意又は重過失の有無を論じていることを問題視し,これらの主張は本件処分の処分理由を追加するものであって許されないという。しかし,本件処分の処分理由には,上記(1)のとおり,「不正があった事実」などと記載されているところ,これが「原告の故意又は過失」に基づく行為であることはその趣旨に照らして明らかであり,「原告の重過失」に基づく行為を除外する趣旨とも,当時の原告代表者の主観に基づく原告の故意又は重過失を除外する趣旨とも解されないから,被告が本件訴訟において上記のような主張を行うことは,処分理由の追加には当たらないというべきである(なお 旨とも,当時の原告代表者の主観に基づく原告の故意又は重過失を除外する趣旨とも解されないから,被告が本件訴訟において上記のような主張を行うことは,処分理由の追加には当たらないというべきである(なお,仮に概念上「処分理由の追加」に該当すると解する余地があるとしても,上記の被告の主張は, 社会通念上,処分理由と基本的に同一の事実と評価し得る範囲内にとどまるものであり,当然に許されるというべきである。)。 (4) 以上のとおり,本件訴訟における被告の主張はいずれも処分理由の追加には当たらないから,この点に関する原告の主張は,その前提を誤るものであって採用することができない。 2 不正請求1に関する争点(1) 違反事実の有無(特に本件修正届出の適否)ア認定事実前記前提となる事実,証拠(乙8のほか掲記の証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(以下,乙8の内議資料部分を単に「内議資料」という。)。 (ア) 平成19年11月届出(10対1入院基本料)本件病院は,平成19年11月6日,奈良社会保険事務局長に対し,10対1入院基本料の施設基準の届出をしたが(内議資料1143頁),その際,別紙1-1のとおり,北3病棟については,P1ほか23名の看護職員(番号1~20,23~26)が,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数として届け出るとともに,P2(番号27)については,実際には夜勤に従事していたにもかかわらず,従事していなかったとして届け出た。また,本件病院は,P3及びP4(番号29,30)について,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数として届け出るとともに,実際には南 従事していなかったとして届け出た。また,本件病院は,P3及びP4(番号29,30)について,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数として届け出るとともに,実際には南2病棟において勤務していたにもかかわらず,北3病棟に勤務していたとして届け出た。本件病院は,上記と同様に,別紙1-2のとおり,南2病棟については,P5ほか25名の看護職員(番号1~26)が,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数とし て届け出るとともに,P6及びP7(番号30,31)については,実際には夜勤に従事していなかったにもかかわらず,夜勤に従事していたとして届け出た(内議資料1144~1153頁)。その結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間数は70.0時間であるとして,72時間基準を満たしているものとして届け出た(内議資料895頁)。しかし,本件監査の結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間は72時間基準を超過する93.4時間に上っていたことが判明した(内議資料895,1139~1142頁)。 (イ) 平成19年11月届出(15対1障害者施設入院基本料)本件病院は,平成19年11月6日(上記(ア)と同日),15対1障害者施設入院基本料の施設基準の届出をしたが(内議資料1171頁),別紙1-3のとおり,南3病棟については,P8ほか25名の看護職員(番号1~23,25~27)が,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数として届け出るとともに,P9(番号29)については,実際には夜勤に従事していたにもかかわらず,従事していなかったとして,P11,P2及びP10(番号 30~32)については,実際には夜勤に従事していなかったにもかかわらず,夜勤に従 )については,実際には夜勤に従事していたにもかかわらず,従事していなかったとして,P11,P2及びP10(番号 30~32)については,実際には夜勤に従事していなかったにもかかわらず,夜勤に従事していたとして届け出た(内議資料1172~1180頁)。その結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間数が71.0時間であり,72時間基準を満たしているものとして届け出た(内議資料896頁)。しかし,本件監査の結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間は72時間基準を超過する94.1時間に上っていたことが判明した(内議資料896,1169,1170頁)。 (ウ) 回リハ届出(乙22)本件病院は,平成20年10月1日,奈良社会保険事務局長に 対し,回リハ入院料1の施設基準の届出をした。当該施設基準を届け出るには,当該入院料を算定する病棟以外の病棟において,特別入院基本料以外の入院基本料を算定していることが必要であったが,本件病院では,回リハ入院料1を算定する病棟以外の病棟について,72時間基準を満たしていないため,本来であれば特別入院基本料を算定すべきであったが,本件病院は,他の病棟については10対1入院基本料や15対1障害者施設入院基本料を算定しているとして,回リハ入院料1の施設基準の要件を満たしている旨の虚偽の届出をした。しかし,本件監査の結果,回リハ入院料1の施設基準を満たしていないことが判明した。 (エ) 平成20年10月届出本件病院は,平成20年10月10日,奈良社会保険事務局長に対し,15対1障害者施設入院基本料の施設基準の届出をしたが(内議資料1196頁),その際,別紙1-4のとおり,P8ほか19名の看護職員(番号1~16,23,26~28)が,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時 施設入院基本料の施設基準の届出をしたが(内議資料1196頁),その際,別紙1-4のとおり,P8ほか19名の看護職員(番号1~16,23,26~28)が,それぞれ実際に夜勤をした時間数と異なった時間数を夜勤に従事した時間数として届け出るとともに,P3及びP12(番号29,30)については,実際には夜勤に従事していなかったにもかかわらず,夜勤に従事していたとして届け出た(内議資料1197~1205頁)。その結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間数は61.4時間であり,72時間基準を満たしているものとして届け出た(内議資料897頁)。しかし,本件監査の結果,看護職員1人当たりの月平均夜勤時間は72時間基準を超過する84.4時間に上っていたことが判明した(内議資料897,1194,1195頁)。 (オ) 不正請求1 本件病院は,平成19年10月から平成21年11月までの診療分につき,10対1入院基本料,15対1障害者施設入院基本料及び回リハ入院料1の施設基準を満たしていないにもかかわらず,上記(ア)から(エ)までのとおり,各施設基準につき虚偽の届出(本件各届出)を行った上で,別紙2-1から2-3までのとおり,10対1入院基本料,15対1障害者施設入院基本料及び回リハ入院料1(栄養管理実施加算等の各種加算を含む。)を請求した。 上記期間の診療分に係る不正請求1による不正金額(本来は請求することができない金額)は,10対1入院基本料及びその加算が298万6619円(別紙2-1),15対1障害者施設入院基本料及びその加算が287万7004円(別紙2-2),回リハ入院料1及びその加算が335万2096円(別紙2-3)であり,これらの合計は921万5719円である。 イ 害者施設入院基本料及びその加算が287万7004円(別紙2-2),回リハ入院料1及びその加算が335万2096円(別紙2-3)であり,これらの合計は921万5719円である。 イ違反事実の有無上記認定事実によれば,本件病院は,10対1入院基本料等の診療報酬の算定の要件となる施設基準につき虚偽の届出を行った上で,本来は請求することのできない上記診療報酬を請求したものであり(原告の故意又は重過失の有無については後述する。),かかる行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反するとともに,高齢者担当基準2条の3及び2条の4に違反すると認められる。 ウ原告の主張(本件修正届出の適否)について(ア) 原告は,「看護補助者の数を算出するに当たっては,看護師,准看護師を看護補助者とみなして差し支えない。」と定めている本件みなし規定を根拠に,看護職員の月平均夜勤時間数の計 算に当たっては,夜勤に従事していた看護職員の一部(必要な最小数を超えて配置されている看護職員)を看護補助者とみなすことができるとして,このような理解を前提に作成された本件修正届出により,平成19年11月届出及び平成20年10月届出の内容は修正され,不正請求1は遡って適正なものとなった旨主張する。 (イ) しかし,医療課長通知別添2「入院基本料等の施設基準等」第2「病院の入院基本料等に関する施設基準」4は,柱書きにおいて,「入院患者の数及び看護要員の数等については下記のとおりとする。」と定めた上で,同(1)から(6)までにおいて,順に,「入院患者の数」の留意点(同(1)),「看護要員の数」の留意点(同(2)),「夜間における勤務」の留意点(同(3)),「看護の勤務体制」の留意点(同(4)),「看護 から(6)までにおいて,順に,「入院患者の数」の留意点(同(1)),「看護要員の数」の留意点(同(2)),「夜間における勤務」の留意点(同(3)),「看護の勤務体制」の留意点(同(4)),「看護要員の配置に係る情報提供」の留意点(同(5))及び「看護の実施」の留意点(同(6))を定めている。そして,本件みなし規定は,同(2)「看護要員の数」の留意点として定められているのであるから,同(3)「夜間における勤務」の留意点によるべき看護職員の月平均夜勤時間数の計算に当たり,本件みなし規定に基づいて看護職員の一部を看護補助者とみなすことはできないというべきである(なお,同(3)「夜間における勤務」の留意点の中に,本件みなし規定と同様の定めやこれを準用する旨の定めは見当たらない。)。 また,72時間基準は,看護職員の不足やこれに伴う看護職員の過重労働という問題を踏まえ,その労働条件の改善を目的として設けられた施設基準であるところ(乙60,61),看護職員の月平均夜勤時間数の計算に当たり,本来は72時間基準を満たしていないにもかかわらず,夜勤時間数の多い看護職員 を看護補助者とみなすことにより72時間基準を満たすことが可能となるような解釈は,上記の趣旨に照らして明らかに不合理である。原告の主張は,本件みなし規定に係る独自の解釈を前提とするものであって,採用することができない。 (ウ) 原告は,上記(イ)の判断と同旨をいう被告の主張によると,本件みなし規定を用いる場合の施設基準に係る届出において,2種類の勤務計画表(甲37の1)を作成するなどの届出方法を用いることが必要となるが,そのような届出方法は,医療課長通知等に明記されていないし,届出実務とも乖離しているなどと縷々主張し,これを裏付ける証拠として,公益社団法人日本 作成するなどの届出方法を用いることが必要となるが,そのような届出方法は,医療課長通知等に明記されていないし,届出実務とも乖離しているなどと縷々主張し,これを裏付ける証拠として,公益社団法人日本看護協会作成の自動計算機能付き書式及びその手引き(甲40~46)を提出する。 しかし,医療課長通知等には,看護職員の月平均夜勤時間数の計算に当たり,看護職員の一部を看護補助者とみなすことができる旨の定めは見当たらず,このような取扱いが可能である旨の説明等も見当たらないのであって,本件みなし規定を用いる場合の届出方法が医療課長通知上必ずしも明確でないことを考慮しても,原告の主張する解釈を導き出すことは困難である。 また,本件みなし規定を用いる場合の届出方法の実務は証拠上必ずしも明らかでないが,少なくとも,この点をもって上記(イ)の判断が左右されるものではない(なお,原告が証拠として提出する書式を用いても,被告が主張する届出方法は可能であると考えられるし,また,上記の書式や手引きを通覧しても,原告が主張するような取扱いが可能である旨の記載は見当たらない。)。原告の主張は採用することができない。 (エ) 以上のとおり,本件みなし規定を根拠に,夜勤に従事してい た看護職員の一部を看護補助者とみなして看護職員の月平均夜勤時間数を計算することはできないから,本件修正届出は誤った前提に基づいて作成された不適正なものであり,これにより不正請求1が遡って適正なものとなるとは認められない。原告の主張は採用することができない。 (2) 故意又は重過失の有無ア故意又は過失の判断枠組み(ア) 保険医療機関の指定は,一種の公法上の契約であり,健康保険法80条に基づく保険医療機関指定取消処分は (2) 故意又は重過失の有無ア故意又は過失の判断枠組み(ア) 保険医療機関の指定は,一種の公法上の契約であり,健康保険法80条に基づく保険医療機関指定取消処分は,上記契約を解除する効果を有する行政処分であると解される(「健康保険法の解釈と運用・平成15年改訂版」482,584頁(乙48)参照)。同条の趣旨は,同条各号が定める法令違反や不正請求等の事由が認められる場合に,保険医療機関の指定を取り消すことができるものとすることにより,不適切な保険医療機関を排除するとともに,このような法令違反や不正請求等の発生を防止し,もって,適正な医療保険制度の実現を確保しようとするものと解される。 同条3号は,保険医療機関の指定の取消事由として,「療養の給付に関する費用の請求… について不正があったとき」と規定するところ,上記のような保険医療機関指定取消処分の性質及び同条の趣旨に加え,同号の文言上その行為主体が明示されていないこと(同条1号,2号,4号及び5号参照)にも鑑みると,法人である保険医療機関については,その代表者が自ら行った不正請求ではなくとも,社会通念上,不正請求が当該保険医療機関自体の行為としてされたと評価することができる場合であれば,同条3号に該当すると解するのが相当である。 (イ) ところで,相応の規模を有する法人においては,全ての事務を代表者が逐一判断して処理することは困難であるため,内部的に,相応の地位にある従業者に対し,当該法人の一定の事務に係る権限を委ねるのが通例である。このような場合,原則として,代表者は当該事務の個別の処理につき実質的に関与せず,当該従業者が当該法人の最終的な意思決定を行うことになる。 そうすると,当該従業者は,上記の内部的な権 のが通例である。このような場合,原則として,代表者は当該事務の個別の処理につき実質的に関与せず,当該従業者が当該法人の最終的な意思決定を行うことになる。 そうすると,当該従業者は,上記の内部的な権限の委譲に基づき,その責任と判断において当該事務を処理するのであるから,いわば法人の機関として当該事務を処理しているものと評価することができる。 このような理解を踏まえると,法人である保険医療機関において,診療報酬請求事務に関する権限を委ねられた従業者が,その権限に基づき,法人の業務の一環として行った不正請求については,専ら自己の利益を図る目的であったなど特段の事情がない限り,社会通念上,当該保険医療機関自体の行為としてされたものと評価することができ,健康保険法80条3号に該当するものというべきである(なお,上記(1)の説示は,このような理解を前提とするものである。)。 (ウ) 監査要綱第6の1(1)は,監査後の行政上の措置の基準として,保険医療機関が,故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの(同1(1)②)又は重大な過失により,不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの(同1(1)④)のいずれか1つに該当するときには,保険医療機関の指定の取消しを行う旨規定するところ,これらの処分基準については,その内容に照らし,健康保険法80条3号に係る上記(ア)及び(イ)の解釈に準拠して解釈すべきものと解される。そうすると,診療報酬 請求事務に関する権限を委ねられた従業者が,その権限に基づき,法人の業務の一環として行った不正請求については,上記の処分基準の適用においては,当該従業者の主観をもって法人の故意又は過失の有無及び過失の程度を判断すべきものと解するのが相当である。 この点につき, して行った不正請求については,上記の処分基準の適用においては,当該従業者の主観をもって法人の故意又は過失の有無及び過失の程度を判断すべきものと解するのが相当である。 この点につき,原告は,法人の故意又は過失については,その代表者の主観によって判断するのが原則であり,仮に代表者以外の者の主観をもって法人の故意又は過失を判断する場合には,その旨の特別の規定が必要であるところ,健康保険法や監査要綱に上記の原則を変更する旨の規定はないなどと主張する。 しかし,健康保険法80条及び監査要綱を合理的に解釈すれば,当該従業者の主観をもって判断すべきものと解されるのであって,原告がいうような特別の明文の規定がなければ上記のような解釈が許されないとは解し難い。また,原告の主張によれば,診療報酬請求事務に関する権限を委ねられた従業者が,業務の一環として不正請求を行い,法人が不正な利益を得ている場合であっても,代表者がこれを現実に把握することが困難であったことを理由に,当該法人が保険医療機関指定取消処分を免れることができるとすれば,大規模な法人ほど同処分を免れる可能性が大きくなり,保険医療機関が個人や小規模な法人である場合との比較において明らかに不合理であるし,ひいては,健康保険法80条の趣旨に反する事態を招くものというべきであって,同法や監査要綱がこのような解釈を基礎とするものとは解し難い。原告の上記主張は採用することができない。なお,原告が指摘する最高裁判所昭和30年5月13日第二小法廷判決は,本件とは事案を異にし,上記判断と抵触するものではな い。 イ不正請求1に係る故意又は重過失の有無(ア) 証拠(甲10,乙8)及び弁論の全趣旨によれば,本件各届出や不正請求1が行われた期間(平成19年1 ではな い。 イ不正請求1に係る故意又は重過失の有無(ア) 証拠(甲10,乙8)及び弁論の全趣旨によれば,本件各届出や不正請求1が行われた期間(平成19年10月分から平成21年11月分まで・別紙2-1~2-3)において,本件病院に係る施設基準の届出事務については,本件病院の事務長及び事務長代理にその権限が委ねられていたことが認められる(内議資料67~70,75,76,150,151,171~179,186~196頁等)。また,看護職員勤務割当表の作成事務については,看護総師長にその権限が委ねられていたことが認められる(内議資料194,197,226頁等。なお,本件病院の組織図につき内議資料1206~1219頁参照。)。 しかるところ,原告は,「事実と異なる届出を行ってしまったのは,当時の… 事務長であったK,同じく… 事務長代理であったH,… 総師長であったLの3名の独断によるものであった」,「同人ら3名の判断で,72時間規制を充たすように,虚偽の申請を行ってしまったものである」などと主張し(訴状13頁),当時,本件各届出の権限を委ねられていたH事務長らにおいて,実際には72時間基準を満たしていないにもかかわらず,これを満たしているように虚偽の看護職員勤務割当表等の書類を作成して,不正請求1の前提となる本件各届出を行ったことを認めている(なお,平成19年11月届出当時の事務長はMであるが,同人も,本件監査の際,本件病院が72時間基準に反していることを認識していたこと,タイムカードの偽装工作をしたこと,施設基準の届出書面に法人印を押印したことなどを供 述している(内議資料197~201頁)。)。 このように,本件各届出の権限を委ねられていた 偽装工作をしたこと,施設基準の届出書面に法人印を押印したことなどを供 述している(内議資料197~201頁)。)。 このように,本件各届出の権限を委ねられていた本件病院の歴代の事務長及び事務長代理は,看護職員勤務割当表の作成事務の責任者であったL総師長と共謀して,その業務の一環として,本来は請求することのできない10対1入院基本料,15対1障害者施設入院基本料及び回リハ入院料1等を請求することができるよう,近畿厚生局長等に対し,本件病院が72時間基準を満たしていると誤信させるべく,虚偽の看護職員勤務割当表等の書類を作成し,本件各届出を行ったものである。そして,本件病院は,本件各届出の内容を前提に,本来は請求することのできない10対1入院基本料等の請求(不正請求1)を行い,診療報酬を不正に受給したものであるから,上記アの判断枠組みに照らし,不正請求1につき原告に故意があることは明らかである。 (イ) なお,不正請求1に係る施設基準の届出(本件各届出)と診療報酬請求とは別個の行為ではあるが,本件各届出は,正に72時間基準を満たす場合に請求することができる10対1入院基本料等を請求するために行われたものであるから,診療報酬請求に係る不正の認識(故意)の有無を別途検討するまでもなく,原告の故意を認めて差し支えないというべきである(ちなみに,本件病院の診療報酬請求事務に関する権限は,事務部門の統括責任者である事務長及び事務長代理に委ねられていたと認められるが(内議資料178,194頁),実際のレセプトの入力・確認事務については,更に医事課長に委ねられていたものとみられる(内議資料75,175,224,225頁)。)。 また,H事務長は,本件監査において,回リハ入院料1につ トの入力・確認事務については,更に医事課長に委ねられていたものとみられる(内議資料75,175,224,225頁)。)。 また,H事務長は,本件監査において,回リハ入院料1につ き,当該入院料を算定する病棟以外の病棟において特別入院基本料以外の入院基本料を算定していることが必要であることを知らなかった旨述べるが(内議資料180頁),72時間基準に係る虚偽の届出(本件各届出)が,各種の入院基本料の不正請求を目的としてされたものであることに照らせば,回リハ入院料1の前提である本件各届出が虚偽であることについて認識がある以上,故意による不正請求と認めるのが相当である。仮に,請求の要件である施設基準について十分な理解がなく,不正の認識が欠けることにより原告の故意が否定されるとしても,少なくとも原告には重過失があるというべきである。 (ウ) 以上によれば,不正請求1につき,原告には故意(又は重過失)があったと認められる。 なお,原告は,施設基準につき虚偽の届出を行う権限はH事務長らに与えられておらず,本件各届出は同人らの独断によるものであるから,原告に故意はない旨主張する。しかし,本件病院に係る施設基準の届出事務の権限はH事務長らに委ねられており,H事務長らは,その権限に基づき,業務の一環として本件各届出を行ったものであることなどに鑑みると,不正請求1は,社会通念上,原告の行為としてされたものと評価することができ,上記アの判断枠組みに照らし,これをもって原告の故意を認めるのに十分というべきである。また,本件において,H事務長らが専ら自己の利益を図るために不正請求1を行っていたというような事情は認められず,原告の故意を否定すべき特段の事情(上記ア)があるともいえない。原告の主張は採用するこ た,本件において,H事務長らが専ら自己の利益を図るために不正請求1を行っていたというような事情は認められず,原告の故意を否定すべき特段の事情(上記ア)があるともいえない。原告の主張は採用することができない。 3 不正請求2に関する争点 (1) 違反事実の有無(特に無診察治療該当性)ア認定事実前記前提となる事実に証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 無診察でのリハビリ本件病院では,外来でのリハビリの実施に当たり,患者が診察を希望する場合を除いては,受付で患者にリハビリカードを渡しており,患者は,医師の診察を受けないまま直接リハビリ室に行き,リハビリを受けていた(内議資料206~209,260~263頁等)。また,本件病院では,医師の診察なくリハビリを実施した場合,受付の事務職員が当該患者の診療録に医師の印鑑を押す運用となっていた(内議資料114~115,181~185頁等。なお,平成21年10月以前の診療録に記載されている医師の所見の多くは,監督官庁による調査等に対応するため,後日,医師及び事務職員が追記したものである。)。 本件病院は,患者が来院した日に医師の診察を行わずリハビリのみを実施した患者につき,別紙3の番号1~93,125~142(患者番号7,12,13,18,52)のとおり,外来診療料,脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅰ)及び運動器リハビリテーション料(Ⅰ)に係る診療報酬を請求した。 (イ) 無診察での点滴注射本件病院は,点滴注射を実施する前に医師の診察を行わなかった事例につき,別紙3の番号100~124(患者番号44,48)のとおり,外来診療料,薬剤料及 (イ) 無診察での点滴注射本件病院は,点滴注射を実施する前に医師の診察を行わなかった事例につき,別紙3の番号100~124(患者番号44,48)のとおり,外来診療料,薬剤料及び点滴注射に係る診療報酬を請求した。 なお,患者番号44の患者は,当時,本件病院の看護職員(看護師)であった。 (ウ) 無診察での静脈内注射本件病院は,無診察で看護師である本件病院の職員に注射薬を処方し,同職員が自宅で患者である同職員の母に注射したものについて,別紙3の番号94~99(患者番号30)のとおり,外来診療料,薬剤料及び静脈内注射に係る診療報酬を請求した(内議資料250~253,1134頁)。 イ外来診療料について外来診療料は,診療報酬点数表上,「再診」を行った場合に算定することができる診療報酬であるから(乙4・12頁),医師の診察なくしてこれを請求することはできないと解される(このような解釈の適否については,原告も特に争っていない。)。したがって,不正請求2(別紙3の番号1~142)のうち外来診療料の請求に係る部分は,後記ウの無診察治療該当性について検討するまでもなく,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反すると認められる。 ウその余の診療報酬(無診察治療該当性)について(ア) 無診察治療該当性に係る判断枠組み医師法20条は,医師は,自ら診察しないで治療をしてはならない旨規定するところ,その趣旨は,医師自ら診察を行わなければ,患者の心身の状況を正確に知ることができず,症状に応じた適切な治療ができないことになり,ひいては患者の生命身体に不測の被害を及ぼすおそれがあるので,このような事態を防止することにあ 行わなければ,患者の心身の状況を正確に知ることができず,症状に応じた適切な治療ができないことになり,ひいては患者の生命身体に不測の被害を及ぼすおそれがあるので,このような事態を防止することにあると解される。このような同条の趣旨及び文言に照らすと,外来の患者につき医師が診察することなく医 療機関が治療を行うことは,原則として,同条が禁止する無診察治療に該当するが,例外的に,医師が患者を診察し,これによってその将来の病状を判断し得る場合において,一定の期間内に連続して数次にわたって一定の薬剤を投与するなどの継続的な治療を行う計画(以下「継続的治療計画」という。)を定めたときは,その計画に基づく治療は,毎回の医師の診察なく行われても,同条が禁止する無診察治療には該当しないと解するのが相当である(大正3年大審判参照)。ただし,医師の診察により継続的治療計画が定められている場合であっても,患者の病名,症状及びその推移,治療の経緯,薬剤やその治療行為自体の危険性など諸般の事情に照らし,医師が治療の度に診察しないことにより患者の生命身体に重大な被害が生ずるおそれがある場合には,同条の上記の趣旨に照らし,毎回の医師の診察なく治療を行うことは許されないというべきである。 この点につき,被告は,大正3年大審判は「薬剤の投与」に関する個別的な事例についての判断であり,不正請求2で問題とされているリハビリや点滴注射等には直ちに妥当しない旨主張する。しかし,上記の医師法20条の趣旨や大正3年大審判の説示等にも鑑みると,「薬剤の投与」以外の治療行為であっても,継続的なリハビリなど比較的危険性の低い治療行為については,大正3年大審判の趣旨は同様に当てはまると解するのが相当である(なお,外来の患者に対するリハビリについて の投与」以外の治療行為であっても,継続的なリハビリなど比較的危険性の低い治療行為については,大正3年大審判の趣旨は同様に当てはまると解するのが相当である(なお,外来の患者に対するリハビリについては,平成24年の診療報酬改定において,毎回の医師の診察がなくても請求することができる「外来リハビリテーション診療料」の点数が設けられており(乙59),被告においても,リハビリの度に医師の診察がなければ医師法20条違反となるとの解 釈を採用していないことは明らかである。)。 (イ) 無診察でのリハビリ(患者番号7,12,13,18,52)について原告は,患者番号7,12,13,18及び52の患者のいずれについても,長期的なリハビリが必要な状態であることが医師の診察によって判断され,それに基づいて長期的なリハビリの継続的治療計画が定められ,リハビリが行われたものであるから,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,上記認定事実のとおり,本件病院では,外来の患者に対するリハビリの実施に当たり,患者が診察を希望する場合を除いては,受付で患者にリハビリカードを渡し,患者は,医師の診察を受けないまま直接リハビリ室に行き,リハビリを受けていたことが認められ(上記ア(ア)),患者番号7,12,13,18及び52の患者につき,書類上はともかく,実質的な意味において,期間を特定して継続的治療計画が定められていたとは認められない。また,医師法20条の上記の趣旨に照らすと,リハビリを一定の期間実施した場合には,その症状の推移やリハビリの効果等を確認し,その継続又は変更の要否を判断するため,医師が当該患者を直接診察して判断することが必要と解されるところ,医師が継続的治療計画に係 定の期間実施した場合には,その症状の推移やリハビリの効果等を確認し,その継続又は変更の要否を判断するため,医師が当該患者を直接診察して判断することが必要と解されるところ,医師が継続的治療計画に係る期間ごとに定期的に診察していたとも認められない。 以上によれば,当該患者らのいずれについても,適切に継続的治療計画が定められていたとは認められず,本件病院が医師の診察なく当該患者らに対しリハビリを実施した行為は,医師法20条が禁止する無診察治療に該当すると認められる。 (ウ) 無診察での点滴注射(患者番号44,48)についてa 患者番号44の患者の突発性難聴について原告は,患者番号44の患者(本件病院に勤務する看護師)に対する平成21年7月10日,11日及び12日の薬剤の点滴注射(別紙3の番号100~103)は,同月9日に医師が診察を行い,突発性難聴と診断の上,継続的治療計画を定めて実行したものであり,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,当該患者の診療録(甲20・4枚目)には,「左突発性難聴」という診断名,「→N耳鼻科受診」という前医の名称,同日から同月12日までに実施する点滴注射の内容が記載されているにすぎず,当該疾患の経過,臨床症状・所見や,各種検査の結果などは記載されていない。また,本件病院で当該患者を診断した医師は,本件監査の事情聴取の際,「平成21年7月9日に診察し,院外耳鼻科医の指示通りの点滴を同7月9日~7月12日行う指示を出した。これは,前述耳鼻科医の依頼通りである。」と述べている(内議資料339頁)。これらの点からすると,上記医師は,当該患者に対する治療に関し,十分な診察を行うことなく,他 ~7月12日行う指示を出した。これは,前述耳鼻科医の依頼通りである。」と述べている(内議資料339頁)。これらの点からすると,上記医師は,当該患者に対する治療に関し,十分な診察を行うことなく,他院の医師の指示(甲24)に基づき薬剤の点滴注射の指示を出したものと認めるほかはなく,医師の診察なく治療を行うことが許される例外的な場合(上記(ア))に該当するとは認め難い。 しかも,①突発性難聴は,治療が困難な疾病として,厚生労働省における難治性疾患克服研究事業の臨床調査研究分野の対象疾患として指定されている疾病であり,その治療法が確立されていないことはもとより,いまだ原因も解明されておら ず,発症後2週間以上経過すると聴力の回復は望めないとされ,治療開始と共に原因を探るため検査を進め,検査結果によって治療法を変更する必要があるなどとされていること(甲22,乙25,26),②当該患者に点滴投与されたステロイド(水溶性プレドニン)の添付文書には,本剤の投与により,誘発感染症,続発性副腎皮質機能不全,消化管潰瘍,糖尿病,精神障害等の重篤な副作用があらわれることがあるので,投与中は副作用の発現に対し,常に十分な配慮と観察を行う必要があるなどとされていること(乙27)にも鑑みると,当時,当該患者の突発性難聴は発症初期であった(甲24,弁論の全趣旨)にもかかわらず,当該患者に対し,毎回の医師の診察を行わずに,3日間にわたりステロイド等の薬剤を継続的に点滴投与することは,たとい継続的治療計画に基づくものであったとしても,患者の生命身体に重大な被害が生ずるおそれがあり,許されないというべきである(なお,原告は,突発性難聴にステロイドを使用することは一般的な治療方法であること,ステロイドの内服薬の添付文書には上記②と同様の 命身体に重大な被害が生ずるおそれがあり,許されないというべきである(なお,原告は,突発性難聴にステロイドを使用することは一般的な治療方法であること,ステロイドの内服薬の添付文書には上記②と同様の記載があること(甲22,25,26)などを指摘するが,上記認定判断を左右するに足りない。)。 以上によれば,患者番号44の患者が本件病院に勤務する看護師であり,本件病院内で医師と会う機会が多いとみられることや,一定の医学的な知識や経験を有しているであろうことを考慮しても,当該患者に対する平成21年7月10日,11日及び12日の点滴注射につき,毎回の医師の診察なくこれを行ったことは,医師法20条の禁止する無診察治療に該当すると認められる。 b 患者番号44の患者の上顎部膿瘍について原告は,患者番号44の患者につき,平成21年8月22日及び23日(別紙3の番号104~106)の薬剤の点滴注射は,同月21日に医師が診察を行い,上顎部膿瘍であると診断の上,継続的治療計画を定めて実行したものであり,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,当該患者の診療録(甲20・6枚目)には,「BT:36.7°」「本日朝方より左頰部に腫張を認めた」「A/左上顎部膿瘍」「P/本日より3日間抗生剤ロセフィン2g投与」との記載があるが,それ以上の検査結果や臨床所見等の記載はなく,上顎部膿瘍の原発巣が追求された形跡もなく,同年7月17日まで点滴投与されていたステロイド剤(同10枚目)の副作用との関連も不明である。また,仮にこれが軽症のものであれば,抗生剤の内服を指示するのが通常であると考えられるところ(乙34,弁論の全趣旨),あえて身体への侵襲を ステロイド剤(同10枚目)の副作用との関連も不明である。また,仮にこれが軽症のものであれば,抗生剤の内服を指示するのが通常であると考えられるところ(乙34,弁論の全趣旨),あえて身体への侵襲を伴う抗生剤の点滴投与が選択されていること(なお,「今日の治療指針・2013年版」1347頁(乙34)には,「顎炎」の治療方針として,「軽症の場合は,… 経口抗菌薬を投与する。… 炎症進行期で切開排膿ができず,重症化が進むと判断した場合には注射用抗菌薬を投与する。」とされている。)も考慮すると,同年8月21日の診察時点において,当該患者の病状が軽症であったとは認め難い。 しかも,①上顎部膿瘍については,上気道閉塞による窒息や脳神経系への感染の伝播といった重篤な病態に進行する可能性が全くないとはいえないこと(乙34,35),②当該患者に点滴投与された抗生剤(ロセフィン)の添付文書には, 本剤によるショック,アナフィラキシー様症状の発生を確実に予知できる方法がないので,投与に際しては,必ずショック等に対する救急処置のとれる準備をしておくなどとされていること(乙36)にも鑑みると,発症初期の上顎部膿瘍の当該患者に対し,毎回の医師の診察を行わずに,2日間にわたり抗生剤を継続的に点滴投与することは,たとい継続的治療計画に基づくものであったとしても,患者の生命身体に重大な被害が生ずるおそれがあり,許されないというべきである。 以上によれば,患者番号44の患者が本件病院に勤務する看護師であったこと等の事情(上記a参照)を考慮しても,当該患者に対する平成21年8月22日及び23日の点滴注射につき,毎回の医師の診察なくこれを行ったことは,医師法20条の禁止する無診察治療に該当すると認められる。 上記a参照)を考慮しても,当該患者に対する平成21年8月22日及び23日の点滴注射につき,毎回の医師の診察なくこれを行ったことは,医師法20条の禁止する無診察治療に該当すると認められる。 c 患者番号48の患者(慢性肝炎)について原告は,患者番号48の患者に対する平成21年3月から同年8月までの薬剤の点滴注射(別紙3の番号107~124)については,医師が診察し,慢性肝炎と診断の上,継続的治療計画を定めて実行したものであり,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,当該患者の診療録(甲21)には,薬剤投与の指示はみられるものの,将来の病状に係る判断や,これに基づく治療計画とみられる記載は特に見当たらないし,当該患者に対し,一定の薬剤の投与を継続する期間や投与の頻度等につきどのような治療計画が定められ,これが実行されたのかについて,原告から具体的な主張立証もない。 したがって,当該患者につき,継続的治療計画が定められていたとは認められず,本件病院が毎回の医師の診察なく当該患者に対し薬剤を点滴注射した行為は,医師法20条が禁止する無診察治療に該当すると認められる。 (エ) 無診察での静脈注射(患者番号30・C型肝炎)について原告は,患者番号30の患者(本件病院の看護師の母)に対する平成21年6月から同年8月までの静脈内注射(別紙3の番号94~99)については,医師が診察し,C型肝炎と診断の上,継続的治療計画を定めて実行したものであり,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,当該患者につき,一定の薬剤の投与を継続する期間やその投与の頻度等につきどのような治療計画が定 実行したものであり,医師法20条が禁止する無診察治療には該当しないと主張する。 しかし,当該患者につき,一定の薬剤の投与を継続する期間やその投与の頻度等につきどのような治療計画が定められ,これが実行されたのかについて原告から具体的な主張立証はない。むしろ,内議資料250~253頁(乙8)からすると,本件病院の職員である看護師が,薬剤を自宅に持ち帰り,当該患者(上記看護師の母)に投与するという便宜的な取扱いを行っていたものにすぎず,一定の期間を定めた継続的治療計画が存在しないことは明らかというべきである。 したがって,当該患者につき,継続的治療計画が定められていたとは認められず,本件病院の看護職員が毎回の医師の診察なく当該患者に対し薬剤を静脈内注射した行為は,医師法20条が禁止する無診察治療に該当すると認められる。 エ違反事実の有無以上によれば,本件病院は,①医師の診療を行っていないにもかかわらず,外来診療料を不正に請求し(上記ア,イ),②医師法20条に違反する無診察治療であるにもかかわらず,脳血管疾患 等リハビリテーション料(Ⅰ),運動器リハビリテーション料(Ⅰ),点滴注射,静脈内注射及びこれらに係る薬剤料を不正に請求し(上記ア,ウ),③患者の家族が自宅で静脈内注射を実施していたにもかかわらず,本件病院が実施したものとして静脈内注射及びその薬剤料を算定して不正に請求した(上記ア(ウ),ウ(ウ))ものであり,これらの行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反すると認められる。 (2) 故意又は重過失の有無ア故意又は過失の判断枠組み前記2(2)アのとおり,診療報酬請求事務に関する権限を委ねられた従業者が,その権限に基づき められる。 (2) 故意又は重過失の有無ア故意又は過失の判断枠組み前記2(2)アのとおり,診療報酬請求事務に関する権限を委ねられた従業者が,その権限に基づき,法人の業務の一環として行った不正請求については,監査要綱の定める処分基準の適用においては,当該従業者の主観をもって法人の故意又は過失の有無及び過失の程度を判断すべきものと解するのが相当である。 イ不正請求2に係る故意又は重過失の有無(ア) 不正請求2は平成21年3月分から同年8月分の診療報酬に係る不正請求であるところ(別紙3の番号1~142参照),前記2(2)イ(ア)の認定事実並びに証拠(甲10,乙8)及び弁論の全趣旨によれば,上記の期間において,本件病院に係る診療報酬請求事務については,本件病院の事務長及び事務長代理にその権限が委ねられていたことが認められる(内議資料171~179,194~196頁等)。 そして,不正請求2が行われた上記期間において事務長代理であったH事務長は,本件監査の事情聴取の際,リハビリの診療録について問われ,「無診診療があるから,(診療録の)空いているところは医師に書いてもらえと,指示をしました。診察 後でなければリハビリはあかんというのは当然のことだから,所見が空いている部分を埋めるよう指示をしたものです。」(内議資料184頁),「無診診療だと,遡って返金を求められる可能性がある。悪いこととはわかっていたし,そんなことはしたくは無かったが,働いている以上,返還は止めたかった。」(内議資料185頁)などと述べている。このような供述からすると,不正請求2のうちリハビリに関する部分(別紙3の番号1~93,125~142)については,H事務長に不正の認識(故意 めたかった。」(内議資料185頁)などと述べている。このような供述からすると,不正請求2のうちリハビリに関する部分(別紙3の番号1~93,125~142)については,H事務長に不正の認識(故意)があったことは明らかであり,原告の故意を否定すべき特段の事情も見当たらないから,原告には故意があると認められる。 (イ) 他方,不正請求2のうち点滴注射及び静脈内注射に関する部分(別紙3の番号94~124)については,原告の理事長や本件病院の管理者はもとより,K事務長やH事務長についても,具体的にどの程度の事実関係を認識していたのかが証拠上明らかでなく,レセプトの入力・確認事務を担当する医療課長についても同様である。したがって,不正請求2のうち上記の部分については,原告に故意があるとは認められない。 もっとも,患者番号30,44及び48の患者に対し,医師の診察なく点滴注射や静脈内注射が実施されていたことは,同患者らの診療録(甲20,21,乙44)の記載から十分に明らかであり,不正請求となったことにつきやむを得ない事情があるともいえないから,外来診療料等の診療報酬を請求したことにつき,原告には少なくとも過失があると認められる。特に,患者番号30の診療録(乙44)には,「9/16分よりアミファーゲンP51本持帰ってもらってます。17回分あります。 なくなったらまた51本(17回分)渡すようにしてください。」「カルテの処理は今まで通りにして下さい。」などと,医師が診察せずに注射薬を手渡す取扱いとしたが,診療録上は従前のとおりとするよう指示する旨のものと解される記載があり,少なくとも当該患者に関しては,外来診療料等の診療報酬を請求したことにつき,原告に重大な注意義務違反があると評価されてもやむを得 録上は従前のとおりとするよう指示する旨のものと解される記載があり,少なくとも当該患者に関しては,外来診療料等の診療報酬を請求したことにつき,原告に重大な注意義務違反があると評価されてもやむを得ないというべきである。 したがって,不正請求2のうち,患者番号44及び48の患者に対する点滴注射に関する部分(別紙3の番号100~124)については,少なくとも原告の過失が認められ,患者番号30の患者に対する静脈内注射に関する部分(別紙3の番号94~99)については,少なくとも原告の重過失が認められる。 (ウ) 以上によれば,不正請求2のうち,①リハビリに関する部分(別紙3の番号1~93,125~142)については,原告に故意があると認められ,②静脈内注射に関する部分(別紙3の番号94~99)については,少なくとも原告に重過失があると認められ,③点滴注射に関する部分(別紙3の番号100~124)については,少なくとも原告に過失があると認められる。 4 不正請求3に関する争点-故意又は重過失の有無(1) 違反事実の有無証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,本件病院は,他の医療機関からの依頼を受けて放射線撮影の設備を提供しただけであるのに,別紙3の番号143及び144のとおり,本件病院で診察及び画像診断を行ったものとして,初診料及び画像診断に係る診療報酬を不正に請求したことが認められる(不正請求3)。 本件病院は,上記のとおり,初診料及び画像診断に係る診療報酬の要件を欠くにもかかわらずこれらを請求したものであり,かかる行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反する。 (2) 故意又は重過失の有無不正請求3については,原告の理事長や本件病院の にもかかわらずこれらを請求したものであり,かかる行為は,療養担当規則2条の3及び2条の4に違反する。 (2) 故意又は重過失の有無不正請求3については,原告の理事長や本件病院の管理者はもとより,K事務長やH事務長についても,診療報酬請求の時点において,具体的にどの程度の事実関係を認識していたのかが証拠上明らかでなく,レセプトの入力・確認事務を担当する医療課長についても同様である。したがって,不正請求3については,原告に故意があるとは認められない。 もっとも,患者番号54の患者の診療録(乙45)には,「児頭骨盤不均衡特殊撮影半切×1枚」との記載(数字以外はゴム印)以外にはほとんど何も記載されておらず,医師の署名や所見の記載はなく,骨盤X線撮影を依頼する旨の診療情報提供書が添付されていることに照らすと,このような診療録から,医師の診察が行われたものとして初診料や画像診断に係る診療報酬を請求するのはあまりにもずさんであって(なお,原告自身も,不正請求3を「明らかな不正請求」であると認めている(内議資料36頁)。),不正請求3については原告に重過失があると認めるのが相当である。 5 本件各規則違反に関する争点(1) 規則違反ア(不正請求に係る一部負担金の受領等)の有無等ア不正請求に係る一部負担金の受領について前記2から4までのとおり,本件病院は,診療報酬を不正に請求していたものであり(本件各不正請求),患者から本来受領すべきものよりも多額の一部負担金を受領していたと認められる。 これらの行為は,療養担当規則5条及び高齢者担当基準5条に違 反すると認められる。 この点につき,原告は,本件病院が不正請求に係る一部負担金を患者から徴収して たと認められる。 これらの行為は,療養担当規則5条及び高齢者担当基準5条に違 反すると認められる。 この点につき,原告は,本件病院が不正請求に係る一部負担金を患者から徴収していたことは,不正請求の反射的効果であり,これを原告に不利益に考慮することは一つの行為を二重に評価するものであり,許されないと主張する。しかし,一部負担金の受領行為と不正請求とは,相手方を異にする別個独立の行為であり,一部負担金の受領行為が不正請求の反射的効果であるとはいえない。したがって,一部負担金の受領行為を,診療報酬の不正請求とは別に本件処分の理由とすることは許されるというべきである。 原告の主張は採用することができない。 また,原告は,不正請求に係る一部負担金の受領により本件病院が不正に取得した金額(本来の一部負担金との差額)や,この規則違反に係る原告の主観(故意か過失か)が認定されていないから,これを原告に不利益に考慮することは許されないとも主張する。しかし,これらの点が逐一認定されていなくても,保険医療機関の指定の取消事由の一つとすることは許されるし,そのような認定の限度で処分の量定上考慮することも許されるというべきである(なお,原告には,本件各規則違反につき,少なくとも過失が認められる。)。原告の主張は採用することができない。 イ本件病院の職員及びその家族に対する一部負担金の免除について本件病院は,職員又はその家族が本件病院を受診した際,その一部負担金の支払を免除していたことが認められる(当事者間に争いがない。)。このような行為は,療養担当規則5条に違反すると認められる。 この点につき,原告は,免除された金額やその回数が特定され ておらず,原告の (当事者間に争いがない。)。このような行為は,療養担当規則5条に違反すると認められる。 この点につき,原告は,免除された金額やその回数が特定され ておらず,原告の主観も認定されていないと主張するが,上記アのとおり,採用することができない。 (2) 規則違反イ(事務担当者による診療録への不実記載)の有無等本件病院では,医師の診察を受けずにリハビリを受ける患者について,外来の受付において,受付事務を担当する者が,医師の指示がないまま診療録に医師の印鑑を押印していたことが認められる(当事者間に争いがない。)。このような行為(規則違反イ)は,療養担当規則8条に違反すると認められる。 この点につき,原告は,規則違反イを行った事務担当者の氏名,記載日時,記載内容等が特定されておらず,原告の主観も認定されていないと主張するが,上記(1)アのとおり,採用することができない。 (3) 規則違反ウ(定例報告における虚偽報告)の有無等前記前提となる事実(3)のとおり,本件病院は,奈良社会保険事務局長に対し,①平成19年8月9日,10対1入院基本料及び15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る定例報告において,別紙1-5から1-7までのとおり,同年6月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の報告をし,②平成20年8月1日,10対1入院基本料及び15対1障害者施設入院基本料の施設基準に係る定例報告において,別紙1-8から1-10までのとおり,同年6月の看護職員の夜勤の状況について,虚偽の報告をしたことが認められる。このような行為(規則違反ウ)は,療養担当規則11条の3及び高齢者担当基準11条の3に違反すると認められる。 この点につき,原告は, 状況について,虚偽の報告をしたことが認められる。このような行為(規則違反ウ)は,療養担当規則11条の3及び高齢者担当基準11条の3に違反すると認められる。 この点につき,原告は,本件みなし規定に基づき,一部の看護職員を看護補助者とみなして本件修正報告(前記前提となる事実(9))をしたから,本件各定例報告は72時間基準を満たす適正なものに なった旨主張する。しかし,前記2(1)ウのとおり,看護職員の月平均夜勤時間数の計算に当たり,本件みなし規定に基づいて看護職員の一部を看護補助者とみなすことはできないというべきであるから,原告の主張は採用することができない。 また,原告は,規則違反ウは不正請求1に不可避的に伴う手段行為であって,これを原告に不利益に考慮することは,同一の行為を二重に評価するものであり許されないと主張する。しかし,定例報告における虚偽報告と不正請求とは別個独立のものであり,法令上も別々のものとして扱われていることに照らせば,これらが同一の行為であるとも,同一の行為を二重に評価するものであるとも認められず,規制違反ウを不正請求1とは別に本件処分の理由とすることは許されるというべきである。原告の主張は採用することができない。 (4) 規則違反エ(保険医による診療録の不実記載)の有無等本件病院では,医師の診察を受けずにリハビリを受けた患者について,保険医が診察をしたものとして,診療録に虚偽の記載を行ったことが認められる(当事者間に争いがない。)。これらの保険医の行為(規則違反エ)は,療養担当規則22条に違反すると認められる。 原告は,規則違反エの回数や期間が特定されていないと主張するが,上記(1)アのとおり,採用することができない。 6 不当請求に関 違反エ)は,療養担当規則22条に違反すると認められる。 原告は,規則違反エの回数や期間が特定されていないと主張するが,上記(1)アのとおり,採用することができない。 6 不当請求に関する争点-違反行為の有無等(1) 証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,本件病院は,①診療録に必要事項を記載し又は必要な文書の貼付がなければ請求することができない診療報酬について,診療録に必要事項を記載し又は必要な文書の貼付をすることなく診療報酬を請求したこと(別紙4の 番号1~3,5,11~15,18,20,24~31,36~38,41~47),②実施した医療行為の内容が,要件を満たしていないのに,診療報酬を請求したこと(同番号19,22,39),③必要な手続をしなければ算定することができない診療報酬について,手続を欠いているにもかかわらず診療報酬を請求したこと(同番号6~10,40。なお,同番号4は撤回された。),④算定の対象となる患者が限られているにもかかわらず,対象外の患者に対して医療行為を実施したとして診療報酬を請求したこと(同番号21,23,32~35,48,49),⑤他の算定項目の所定の点数に包含される医療行為(処置)について,別途診療報酬を請求したこと(同番号16,17)が認められる。 これらの不当請求は,診療報酬点数表(乙4)が定める診療報酬の算定要件を満たしておらず,本来診療報酬請求として請求することができないものであり,療養担当規則等の趣旨に反すると認められる。また,これらの不当請求につき,原告には少なくとも過失が認められる。 (2) 原告は,本件処分において,不当請求に係る原告の主観(故意か過失か)が認定されていないと主張するが,上記5(1)アのとおり,採用することがで 原告には少なくとも過失が認められる。 (2) 原告は,本件処分において,不当請求に係る原告の主観(故意か過失か)が認定されていないと主張するが,上記5(1)アのとおり,採用することができない。なお,原告に少なくとも過失が認められることは上記のとおりである。 原告は,別紙4の番号41(患者番号47)に係る被告の主張(特定薬剤治療管理料の請求回数が2度算定されていること〔被告第1準備書面34頁〕)は,本件聴聞通知書の記載(診療録に薬剤の血中濃度及び治療計画の要点の記載がないこと〔甲3・5枚目〕)とは異なる主張であり,原告の防御権を侵害するものであり許されないと主張する。しかし,被告は,本件訴訟において,上記各主張を 並列的に行っていると認められるところ(答弁書68~69頁,被告第1準備書面34~35頁参照),当該患者の平成21年8月20日の診療録(乙32・5枚目)には,薬剤の血中濃度や治療計画の要点が記載されておらず,後者の主張により不当請求であると認められるから,前者の主張をすることの是非は結論を左右するものではない。原告の上記主張は採用することができない。 原告は,血糖自己測定器加算(別紙4の番号36~38,42,43,45,47)に係る被告の主張は,本件聴聞通知書の記載とは異なる主張であり,原告の防御権を侵害するものであり許されないと主張する。しかし,本件聴聞通知書には「診療録に管理内容の要点及び測定結果の記載がない」と記載されており(甲3・6枚目),被告の主張はこれと同旨のものと認められるところ(答弁書68~70頁),上記の血糖自己測定器加算については,いずれも,診療録に測定記録が記載されていないことが認められるから(乙8・内議資料335~337,349~352頁),本 認められるところ(答弁書68~70頁),上記の血糖自己測定器加算については,いずれも,診療録に測定記録が記載されていないことが認められるから(乙8・内議資料335~337,349~352頁),本件聴聞通知書の記載と齟齬するものではない。原告の上記主張は採用することができない。 原告は,肺血栓塞栓症予防管理料(別紙4の番号22)に係る被告の主張について,本件病院のいかなる行為が問題とされたのか詳細が不明であると主張する。しかし,この点に係る被告の主張は,「実施した各医療行為の内容が,算定要件で定められた要件を満たしていない」(答弁書71頁)というものであるところ,本件聴聞通知書(甲3・5枚目)や内議資料313頁(乙8)によれば,診療録に肺血栓塞栓症予防管理料の記載がなく,この医療行為を実施したことが認められないから不当請求とされたものであることは明らかである。原告の上記主張は採用することができない。 原告は,導尿(別紙4の番号16)に係る被告の主張(尿道拡張を要しない場合の導尿は「簡単な措置」に該当し,別途診療報酬を請求することはできない。)を争っている。しかし,内議資料165頁及び290頁(乙8)の記載からすると,医療実務上,尿道拡張を要しない女性患者に対する導尿は,別途診療報酬を請求することができない「簡単な処置」(乙4・17頁)に該当するものと解されていることが認められる。原告の上記主張は採用することができない。 7 裁量判断の適否(1) 保険医療機関の指定の取消事由該当性上記2から5まで記載のとおり,本件病院が行った本件各不正請求はいずれも療養担当規則2条の3及び2条の4に,規則違反アは同規則5条に,規則違反イは同規則8条に,規則違反ウは同規則11条の 上記2から5まで記載のとおり,本件病院が行った本件各不正請求はいずれも療養担当規則2条の3及び2条の4に,規則違反アは同規則5条に,規則違反イは同規則8条に,規則違反ウは同規則11条の3に,本件病院に勤務する保険医による規則違反エは同規則22条にそれぞれ違反するところ,これらは,保険医療機関の責務を定めた健康保険法70条1項及び保険医の責務を定めた同法72条1項に違反するとともに,保険医療機関及び保険医の責務を定めた国民健康保険法40条1項に違反する。 また,本件病院が行った不正請求1は高齢者担当基準2条の3及び2条の4に,規則違反アのうち不正請求に係る一部負担金の受領は同基準5条に,規則違反ウは同基準11条の3にそれぞれ違反するところ,これらは,保険医療機関の責務を定めた高齢者医療確保法65条に違反する。 したがって,本件各不正請求及び本件各規則違反は,保険医療機関の指定の取消事由を定める健康保険法80条1号,2号,3号及び6号(前記第2の1「関係法令等の定め」(4)参照)に該当する。 (2) 処分の量定の適否(比例原則違反・平等原則違反)ア処分基準該当性監査要綱第6の1(1)は,監査後の行政上の措置の基準として,保険医療機関が,故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの(同1(1)②)又は重大な過失により,不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの(同1(1)④)に該当するときには,保険医療機関指定取消処分を行う旨規定するところ(前記第2の1「関係法令等の定め」(4)参照),本件病院は,上記2及び3記載のとおり,故意に不正請求1及び不正請求2の一部(リハビリに関する部分)を行ったものと認められるから,監査要綱第6の1(1)②の「故意に不正又は不当な め」(4)参照),本件病院は,上記2及び3記載のとおり,故意に不正請求1及び不正請求2の一部(リハビリに関する部分)を行ったものと認められるから,監査要綱第6の1(1)②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当すると認められる。したがって,本件病院の上記各不正請求は,保険医療機関指定取消処分に係る処分基準に該当する。 イ比例原則違反の主張について(ア) 本件については,上記アのとおり,監査要綱第6の1(1)②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」という保険医療機関指定取消処分に係る処分基準に該当する事実が認められる。 しかも,①本件各不正請求に係る不正金額は合計974万2168円(そのうち,不正請求1の不正金額は921万5719円(前記2(1)ア(オ))),不正な診療報酬明細書の枚数は96枚であり,各不当請求に係る不当金額は20万6141円,不当な診療報酬明細書の枚数は41枚であり(乙8・内議資料5頁),その不正又は不当な診療報酬請求の金額は多額に及び,その回数も多数に及ぶこと(なお,不正請求1に係る上記の不正金額は,各月につき入院料の区分ごとに患者1名分の不正金 額を合計したものであるが,実際には,各月につき100名を超える多数の患者について同様の不正請求が行われており,実際の不正金額は上記の額よりもはるかに多額であることがうかがわれる(内議資料1135頁,弁論の全趣旨)。),②不正請求1に係る期間は,別紙2-1から2-3までのとおり,平成19年10月から平成21年11月までの長期間に及び(前記2(1)ア(オ)),72時間基準を満たしているかのように装って不正請求1を行うため,別紙1-1から1-10までのとおり,虚偽の施設基準の届出(本件 0月から平成21年11月までの長期間に及び(前記2(1)ア(オ)),72時間基準を満たしているかのように装って不正請求1を行うため,別紙1-1から1-10までのとおり,虚偽の施設基準の届出(本件各届出)及び定例報告(本件各定例報告)が繰り返されていること(前提となる事実(2)(3),乙8),③本件各不正請求及び不当請求のみならず,事務担当者が診療録に不実記載したり(規則違反イ),保険医が診察をしていないのに診療録に不実記載したり(規則違反エ)するなど,不正の隠蔽行為とみられてもやむを得ない行為も多数認められることなどに照らすと,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分は,処分の量定として相当であり,原告が主張する点を考慮しても(詳細は後記(イ)のとおり。),その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとは認められない。 (イ) 原告は,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分の内容は,原告による違反の内容,程度,態様等に照らして著しく過大であり(比例原則違反),裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であると主張し,その理由として,要旨,①本件病院が72時間基準に違反したのは,医療の安全を確保するという正当な目的に基づくものであること,②本件病院が72時間基準に違反したのは,経済的な利得 を得る動機に基づくものではないこと,③夜勤看護師の配置は72時間基準を上回る水準を確保しているなど,違反の態様は悪質ではないこと,④本件病院は72時間基準に違反している状態を速やかに改善したこと,⑤72時間基準には合理性がないこと,⑥原告は,過大に受給した診療報酬の全額を返還することを申し入れていたが,近畿厚生局長に拒絶されてき 間基準に違反している状態を速やかに改善したこと,⑤72時間基準には合理性がないこと,⑥原告は,過大に受給した診療報酬の全額を返還することを申し入れていたが,近畿厚生局長に拒絶されてきたことなどを挙げる。 しかし,①の点(目的の正当性)については,夜勤に従事する看護職員を増員することは医療の安全を確保する上で望ましいことであったとは思われるが,このような勤務体制を採用した以上,その現状に応じた入院基本料等を算定して診療報酬を請求すべきことは保険医療機関として当然のことである。看護職員の確保など様々な困難な問題があったとしても,72時間基準を満たしていないにもかかわらず,虚偽の届出を行うことにより不正に診療報酬の請求を行うことが許されるものではなく,少なくとも,原告が主張する上記の事情は,上記(ア)の判断を覆すほどの有利な事情であるとはいえない。また,②の点(動機)については,確かに,夜勤に従事する看護職員を増員したのは経済的な利益よりも医療の安全や現場の声を重視したものといえようが,不正請求1については,本件監査において,H事務長が「売上げを落とすことが出来ませんでした。 病院を継続するためには今の売上げを必要としていました。」,「特別入院基本料になると,収入が3分の1位に落ちてしまう。」などと述べているように(内議資料177頁),経済的な利得を得るために行われたものであることは明らかである。 ③の点(違反の態様)については,上記①の点と同様,本件 病院において,当時,72時間基準を満たそうと思えば満たすことができたとしても,そのような勤務体制を採用しなかった以上,これを満たしているかのごとく虚偽の届出を行って不正に診療報酬を請求することが許されるものではないし,上記( を満たそうと思えば満たすことができたとしても,そのような勤務体制を採用しなかった以上,これを満たしているかのごとく虚偽の届出を行って不正に診療報酬を請求することが許されるものではないし,上記(ア)で認定説示したとおり,長期間にわたり,別紙1-1から1-10までのとおり多数個所にわたる虚偽の届出等が行われ,その結果,多額の不正請求が行われたことなどに照らすと,不正請求1の違反の態様は,医療保険制度の根幹を揺るがしかねない非常に悪質なものと評価されてもやむを得ないものというべきである。また,④の点(速やかな是正)については,10対1入院基本料等の診療報酬を請求するのであれば,72時間基準を遵守する必要があるのは当然であって,上記(ア)の判断を覆すような有利な事情であるとはいえない。 ⑤の点(72時間基準の合理性)については,72時間基準の合理性について様々な意見があるとしても(甲11~14),看護職員の労働条件を改善するための規制として一定の合理性があるというべきであるし,他の保険医療機関は,仮に不満があってもこれに従って入院基本料等の診療報酬を算定しているのであり,72時間基準につき虚偽の届出を行って不正に診療報酬を請求することが正当化されるものではない。⑥の点(不正利得返還申出に対する拒否)については,原告は,本件処分に先立ち,不正又は不当に受給した診療報酬を返還しようとしていたことが認められるが(甲5,8,乙18),この返還については,監査要綱第6の4「経済上の措置」記載の手続により行われることが予定されていると認められ(乙6),当該手続を進めるには返還金額の確定などが必要であるから,本 件処分に先立ち,不当にその返還申出が拒絶されていたとは認められない(なお,その後原告が不正又は不当に受給した められ(乙6),当該手続を進めるには返還金額の確定などが必要であるから,本 件処分に先立ち,不当にその返還申出が拒絶されていたとは認められない(なお,その後原告が不正又は不当に受給した診療報酬を返還した旨の証拠は提出されていない。)。 以上によれば,原告が主張する点を検討しても,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分が著しく過大で重きに失するとはいえず,その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(比例原則違反)があるとは認められない。 ウ平等原則違反の主張について原告は,本件処分は,72時間基準違反があったものの保険医療機関指定取消処分に至らなかった医療機関との間,及び悪質な態様による72時間基準違反により保険医療機関指定取消処分を受けた医療機関との間において,合理的な理由なく均衡を欠くものであり,平等原則に違反するなどと主張する。 しかし,72時間基準を満たしているものと偽って故意の不正請求をした保険医療機関につき,保険医療機関指定取消処分が選択されないことが一般的であると認めるに足りる証拠はないし,保険医療機関指定取消処分相当とされた他の同種事例(乙38~41)と比較しても,本件病院の不正請求1が特に悪質でないとはいえない。 かえって,本件病院については,監査要綱第6の1(1)②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当すると認められるのであるから,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請等から,特段の事情がない限り,保険医療機関指定取消処分が選択されるべきものであるところ(最高裁判所平成27年3月3日第三小法廷判決・民集69巻2号143頁参照),上記イのとおり,本件病院につき保険医療機関の指定を取り消す 険医療機関指定取消処分が選択されるべきものであるところ(最高裁判所平成27年3月3日第三小法廷判決・民集69巻2号143頁参照),上記イのとおり,本件病院につき保険医療機関の指定を取り消す べきでない特段の事情は見当たらないから,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の判断は,平等原則に適うものというべきである。 以上のとおり,本件病院の保険医療機関の指定を取り消す旨の本件処分が,他の同種事案との比較において合理的な理由なく均衡を欠くものとはいえず,その判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用(平等原則違反)があるとは認められない。 (3) 指定取消事由及び処分基準に該当しない事実の考慮の適否(他事考慮)原告は,近畿厚生局長が,本件処分の要否の判断において,処分基準該当性の根拠とはされなかった不正請求2,不正請求3,本件各規則違反及び各不当請求の事実をも総合的に考慮したことは,処分基準を潜脱するものであり,違法又は著しく不当な他事考慮であるなどと主張する。 しかし,前述のとおり,本件病院は,不正請求1について,監査要綱第6の1(1)②の「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当すると認められ(上記(2)ア),本件病院につき保険医療機関の指定を取り消すべきでない特段の事情も見当たらないから(上記(2)イウ),不正請求1のみをもって優に保険医療機関指定取消処分に相当するものであり,不正請求2等を考慮することがいわゆる他事考慮に当たるかどうかについて検討するまでもなく,原告の主張は採用することができない。 なお,保険医療機関指定取消処分の処分基準に該当しない事実であっても,その根拠規定である健康保険法80条各号に該当するのであれば,これを上記処分の要否 告の主張は採用することができない。 なお,保険医療機関指定取消処分の処分基準に該当しない事実であっても,その根拠規定である健康保険法80条各号に該当するのであれば,これを上記処分の要否の判断において考慮し得ることは当然であるし,不適切な保険医療機関を排除するという同条の趣旨 に照らせば,療養担当規則違反等の事実を考慮し得ることもまた当然であって,これらが他事考慮に当たると評価されるようなものでないことは明らかである。原告の上記主張は,独自の見解に基づくものであって,採用することができない。 8 手続上の違法(1) 処分基準の違法(行政手続法12条2項関係)行政手続法12条2項は,行政庁は,処分基準を定めるに当たっては,不利益処分の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない旨規定するところ,原告は,監査要綱の処分基準につき,保険医療機関の指定を取り消すか否かに係る判断の要素等に関する基準について何ら規定されておらず,処分基準として不明確であって,同項に反すると主張する。 しかし,処分基準である監査要綱第6の1「行政上の措置」は,監査の対象である保険医療機関に診療報酬の不正請求又は不当請求が認められることだけでなく,その不正請求又は不当請求に係る故意の有無や過失の程度,その頻度といった事案の内容に応じ,段階的に,「注意」「戒告」「取消処分」を行う旨を定めている。このような監査要綱における処分基準の内容は,個々の保険医療機関がした不正請求又は不当請求について,当該基準に当てはめれば,いかなる場合にどのような行政上の措置がされるかが予測し得るものとなっている。加えて,不正請求又は不当請求に係る事情は,事案によって極めて多種多様なものがあり得ることから,これを処 当てはめれば,いかなる場合にどのような行政上の措置がされるかが予測し得るものとなっている。加えて,不正請求又は不当請求に係る事情は,事案によって極めて多種多様なものがあり得ることから,これを処分基準中に網羅的に考慮要素として掲げることは困難な面があることにも照らすと,監査要綱の処分基準は,処分に関する予見可能性や行政庁の判断過程の透明性を確保するという行政手続法12条2項の趣旨に照らし,十分に具体的なものと評価し得るものであ って,同項に反するとは認められない。原告の主張は採用することができない。 (2) 処分理由書の理由付記の不備(行政手続法14条関係)行政手続法14条1項本文は,行政庁は,不利益処分をする場合には,その名あて人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し,同条3項は,不利益処分を書面でするときは,上記の理由は,書面により示さなければならない旨規定するところ,原告は,本件通知書に記載されている処分理由をみても,いかなる事実関係に基づき,いかなる法規を適用して処分されたのかが明らかでないから,本件処分の理由付記は,行政手続法14条1項本文及び3項に反し,違法であると主張する。 しかし,本件通知書の別紙には,別紙6「不利益処分の原因となる事実」のとおり,「第1 判明した事実」として,療養担当規則等の違反条項ごとに具体的な違反事実が記載され,「第2 不利益処分に係る適用条項及び適用される処分基準等」の「1 適用条項」において,上記の療養担当規則等に違反する結果,健康保険法70条1項等の規定に違反することとなり,同法80条各号の保険医療機関の指定の取消事由に該当することが示されている。また,「2適用される処分基準等」において,適用される処分基準 る結果,健康保険法70条1項等の規定に違反することとなり,同法80条各号の保険医療機関の指定の取消事由に該当することが示されている。また,「2適用される処分基準等」において,適用される処分基準に係る事実が具体的に記載され,これにより,保険医療機関指定取消処分相当の処分基準である「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当することが示されている(甲4)。以上のとおり,本件処分の理由付記は,認定事実,関係法令の適用及び処分基準該当性につき,順を追って具体的に記載されており,行政手続法14条1項本文及び3項に反するとは認められない。 この点につき,原告は,本件処分の理由付記につき,個々の違反 事実の日時,主体,患者名,点数等が特定されていないと主張するが,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという同条の趣旨に照らしても,多数に上る違反事実につき,上記の点を逐一理由として付記しなければならないとはいえない。原告の主張は採用することができない。 (3) 聴聞手続の違法ア行政手続法15条1項は,行政庁は,聴聞を行うに当たっては,聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて,不利益処分の名あて人となるべき者に対し,「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」(1号),「不利益処分の原因となる事実」(2号)等を書面により通知しなければならない旨規定するところ,原告は,本件聴聞通知書の「適用される処分基準に係る事実」の記載は,同項が要求する「不利益処分の原因となる事実」としての具体性を欠いており,「適用条文」の記載についても,適用される法令の特定として不十分であり,本件聴聞通知書のこれらの記載は同 る事実」の記載は,同項が要求する「不利益処分の原因となる事実」としての具体性を欠いており,「適用条文」の記載についても,適用される法令の特定として不十分であり,本件聴聞通知書のこれらの記載は同項に違反すると主張する。 しかし,本件聴聞通知書の別紙には,「第1 判明した事実」として,療養担当規則等の違反条項ごとに具体的な違反事実が記載され,「第2 予定される不利益処分に係る適用条文及び適用される処分基準等」の「1 適用条文」において,上記の療養担当規則等に違反する結果,健康保険法70条1項等の規定に違反することとなり,同法80条各号の保険医療機関の指定の取消事由に該当することが示されている。また,「2 適用される処分基準等」において,適用される処分基準に係る事実が具体的に記載され,これにより,保険医療機関指定取消処分相当の処分基準 である「故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの」に該当することが示されている(甲3)。以上のとおり,本件聴聞通知書には,認定事実,関係法令の適用及び処分基準該当性につき,順を追って具体的に記載されており,行政手続法15条1項に反するとは認められない。 イ原告は,聴聞通知書の「不利益処分の原因となる事実」を通知後に差し替える場合には,改めて通知からやり直さなければならないのに,近畿厚生局長は,上記事実の訂正を行ったにもかかわらず,本件処分の聴聞通知書を改めて発付しなかったと主張する。 しかし,聴聞手続における近畿厚生局長の説明は,要するに,処分基準に該当する事実は,本件聴聞通知書の別紙「2 適用される処分基準等」に記載されている不正請求1に係る事実であるが,保険医療機関指定取消処分を行うか否かについては,それ以外の療養担当規則違反や不当請求に係る事実も は,本件聴聞通知書の別紙「2 適用される処分基準等」に記載されている不正請求1に係る事実であるが,保険医療機関指定取消処分を行うか否かについては,それ以外の療養担当規則違反や不当請求に係る事実も総合的に考慮しているということであって(甲7・3頁),原告が主張するように回答の「訂正」という言葉は用いられているが,その実質において,聴聞手続における近畿厚生局長の説明は一貫していると認められる(甲6~8,乙12,17,18)。また,上記のような説明は,本件聴聞通知書の別紙の内容に合致するものといえる(甲3)。したがって,本件処分の聴聞手続において,本件聴聞通知書の「不利益処分の原因となる事実」が訂正された事実は認められないから,原告の主張はその前提を欠くものであって採用することができない。 ウ原告は,近畿厚生局長は,本件聴聞通知書に記載されておらず原告に防御の機会が与えられていない事実(不正請求が原告の故意に基づくこと)を,本件通知書に書き加えており,重要な事実 につき聴聞手続を経ていない違法があると主張する。 しかし,本件通知書の別紙第2の2(1)「適用される処分基準に係る事実」には(別紙6参照),本件聴聞通知書の別紙第2の2(1)「適用される処分基準に係る事実」よりも具体的かつ詳細な記載があることが認められるが(甲3,4),これは,近畿厚生局長が,本件処分を行うに当たり,聴聞手続の経緯等を踏まえ,処分基準に係る原告の「故意」を認定した理由を具体的かつ詳細に記載したものであると認められ,防御の機会が与えられていない新たな事実を記載したものとはいえない。したがって,重要な事実につき聴聞手続を経ていない違法があるとはいえない。原告の主張は採用することができない。 (4) 監査手続の違法 られていない新たな事実を記載したものとはいえない。したがって,重要な事実につき聴聞手続を経ていない違法があるとはいえない。原告の主張は採用することができない。 (4) 監査手続の違法原告は,本件監査において,近畿厚生局の職員が威迫的な態度を取り,誤導的な質問をした違法があるなどと主張する。 しかし,本件の全証拠に照らしても,近畿厚生局の職員が,本件監査において,威迫的な態度を取り,誤導的な質問をしたとは認められないし,その他暴力的な行為や発言があったとも認められない。 原告の主張は採用することができない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官石川舞子(別紙1-1省略)(別紙1-2省略)(別紙1-3省略)(別紙1-4省略)(別紙1-5省略)(別紙1-6省略)(別紙1-7省略)(別紙1-8省略)(別紙1-9省略)(別紙1-10省略)(別紙2-1省略)(別紙2-2省略)(別紙2-3省略)(別紙3省略)(別紙4省略)(別紙5-1省略)(別紙5-2省略)(別紙6省略)

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