平成17(受)1841 保険金請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年4月23日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 大阪高等裁判所 平成16(ネ)3596
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判決文本文4,520 文字)

- 1 -主文原判決を破棄する。 本件を大阪高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人岸本佳浩ほかの上告受理申立て理由第2について 本件は,被上告人が,車両の盗難により損害を被ったと主張して,上告人に対し,保険契約に基づき保険金の支払を求める事案である。 原審の確定した事実関係の概要は次のとおりである。 (1)上告人は,損害保険業を主たる目的とする株式会社であり,被上告人は,自動車修理業を営む者である。 (2)被上告人が盗難被害に遭ったとする車両(平成8年に新車登録がされた三菱パジェロ。以下「本件車両」という。)は,平成13年7月に事故により破損したことから修理のために被上告人の経営する修理工場に持ち込まれてきたものを,被上告人が無償で譲り受けたものである。被上告人は,同年11月2日,本件車両の所有者を被上告人名義とする登録をした上,本件車両の破損箇所を修理し,附属品や盗難防止装置も取り付けるなどして本件車両を使用していた。なお,被上告人が前所有者から受け取った本件車両のキーは,スペアキー1本のみであった。 (3)被上告人は,平成13年12月11日,上告人との間で,本件車両につき,車両損害保険金額を240万円,保険期間を同日午後4時から平成14年12月11日午後4時までとする一般自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。本件保険契約に適用される約款(以下「本件約款」という。)の車両条項1条1項には,上告人は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の- 2 -落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」によって被保険自動車に生じた損害及び「被保険自動車の盗難」によって生じた損害に対して,車両条項及び一般条項に従い,被保険自動車の所有者に車両損害保険金を支払う旨の定め(以下,これを「本件条項」と によって被保険自動車に生じた損害及び「被保険自動車の盗難」によって生じた損害に対して,車両条項及び一般条項に従い,被保険自動車の所有者に車両損害保険金を支払う旨の定め(以下,これを「本件条項」という。)がある。 (4)被上告人は,平成14年5月22日午後2時ころ,大阪府富田林警察署小金台交番に赴き,買物のために訪れたショッピングセンターの5階屋上駐車場に本件車両を駐車していたところ,同日午後0時ころから同日午後1時40分ころまでの間に盗難(以下「本件事故」という。)に遭った旨の盗難届を提出した。 被上告人は,当時,自動車修理業を営むかたわら,清掃会社にも勤務していたが,同日午後0時ころ清掃会社を退社し,自らの自動車修理工場に出勤するまでの間に,上記ショッピングセンターを訪れたものであった。 (5)被上告人は,当時1000万円以上の負債を抱えており,また,平成10年6月に自己の工場内に鍵を付けたまま駐車中の車両を盗まれたとして保険会社から車両保険金を受領したなどの保険金詐欺事件で起訴され,平成12年2月に有罪判決を受けたことがあった。 (6)被上告人は,平成14年8月22日,上告人に対し,本件保険契約に基づき車両損害保険金の支払を請求した。これに対し,上告人は,①被上告人は,平成7年9月にその所有に係るホンダオブアメリカがフロントガラスを割られるなどの被害を受けたとして保険会社から車両保険金を受領し,平成8年1月にも同じホンダオブアメリカが盗難に遭ったとして車両保険金を受領していたにもかかわらず,上告人による過去の盗難被害歴の調査に対し「なし」と回答したものであり,このことは,本件約款の一般条項15条4項所定の免責事由である上告人に提出する書- 3 -類への不実記載に該当すること,②本件車両の盗難被害の申告は信ぴょう性に乏しく,本 」と回答したものであり,このことは,本件約款の一般条項15条4項所定の免責事由である上告人に提出する書- 3 -類への不実記載に該当すること,②本件車両の盗難被害の申告は信ぴょう性に乏しく,本件事故は,その偶然性に疑問の余地があるので,本件条項にいう保険事故に該当しないことを理由として,保険金の支払を拒否した。 原審は,次のとおり判示して,被上告人の請求を認容した。 (1)本件約款によれば,被保険自動車の盗難は保険金請求権の成立要件であり,したがって,保険金請求者において,被保険自動車に盗難事故が発生したことを主張,立証すべき責任がある。しかし,車両の盗難は,通例,所有者の不知の間に秘密裡に行われ,多くの場合,その痕跡を残さないものであるから,その立証の程度については,当該事故前後の状況や所有者,使用者の行動,とりわけ車両の管理使用状況等に照らし,外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況が立証されれば,盗難事故であることが事実上推定されるというべきであり,これに対し,その推定を覆すには,保険者の側で,その事故が保険金請求者の意思に基づき発生したと疑うべき事情を立証しなければならない。 (2)本件において,本件事故前後の状況や被上告人の行動,とりわけ本件車両の駐車状況に照らし,外形的・客観的にみて第三者による本件車両の持ち去りとみて矛盾のない状況が立証されているということができる一方,本件事故が被上告人の意思に基づき発生したと疑うべき事情は立証されていないから,本件事故は,盗難に該当する。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)商法629条が損害保険契約の保険事故として規定する「偶然ナル一定ノ事故」とは,保険契約成立時において発生するかどうかが不確定な 判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1)商法629条が損害保険契約の保険事故として規定する「偶然ナル一定ノ事故」とは,保険契約成立時において発生するかどうかが不確定な事故をいうもの- 4 -と解される。また,同法641条が,保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害について保険者はてん補責任を負わない旨規定しているのは,保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として規定したものと解される。 本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,物の落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定しているが,これは,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故を「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを明らかにしたもので,商法629条にいう「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。本件条項にいう保険事故を,商法の上記規定にいう「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において被保険者の意思に基づかない事故であること(保険事故の偶発性)をいうものと解することはできない(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・裁判集民事220号391頁参照)。もっとも,本件条項では「被保険自動車の盗難」が他の保険事故と区別して記載されているが,これは,本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり,少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故 れは,本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を含むものであることを保険契約者や被保険者に対して明確にするためのものと解すべきであり,少なくとも保険事故の発生や免責事由について他の保険事故の場合と異なる主張立証責任を定めたものと解することはできない。 ところで,一般に盗難とは,占有者の意に反する第三者による財物の占有の移転をいうものと解することができるが,商法の上記各規定が適用されると解される本- 5 -件保険契約においては,被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者又は被保険者の意思に基づいて発生したことは,保険者が免責事由として主張,立証すべき事項であるから,被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項に基づいて車両保険金の支払を請求する者は,被保険自動車の持ち去りが被保険者の意思に基づかないものであることを主張,立証すべき責任を負うものではない。しかしながら,上記主張立証責任の分配によっても,上記保険金請求者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を免れるものではない。そして,その外形的な事実は,「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」という事実から構成されるものというべきである。 (2)原審は,本件保険契約に基づいて車両損害保険金を請求する者は保険事故の偶発性を含めて盗難が発生した事実を主張,立証すべき責任を負うとする一方,「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」が立証されれば,盗難の事実が事実上推定されるとした上,本件では,上記「矛盾のない状況」が立証されているので,盗難の事 うとする一方,「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」が立証されれば,盗難の事実が事実上推定されるとした上,本件では,上記「矛盾のない状況」が立証されているので,盗難の事実が推定されるとしている。しかしながら,上記保険金請求者は,盗難という保険事故の発生としてその外形的な事実を立証しなければならないところ,単に上記「矛盾のない状況」を立証するだけでは,盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度にまで立証したことにならないことは明らかである。したがって,上記「矛盾のない状況」が立証されているので盗難の事実が推定されるとした原審の判断は,上記(1)の主張立証責任の分配に実質的に反するものというべきである。 - 6 - そうすると,原審の前記判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,盗難の外形的な事実,すなわち「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」が証明されたものといえるのかなどについて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官涌井紀夫裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官泉徳治裁判官才口千晴)

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