【DRY-RUN】主 文 本件各上告を棄却する。 理 由 被告人Aの弁護人安木健、同鬼追明夫の上告趣意第一、被告人Bの弁護人平山芳 明、同池田啓倫、同平山忠の上告趣意第一、被告
主文 本件各上告を棄却する。 理由 被告人Aの弁護人安木健、同鬼追明夫の上告趣意第一、被告人Bの弁護人平山芳明、同池田啓倫、同平山忠の上告趣意第一、被告人Cの弁護人木内道祥の上告趣意第一は、憲法三七条一項、三一条違反をいうが、記録によつても、本件の起訴及び第一、二審の審理が異常に遷延しているとは認められないから、各所論はいずれも前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。被告人Aの弁護人安木健、同鬼追明夫の上告趣意第二は、判例違反をいうが、所論引用の判例は事案を異にし本件に適切でなく、その余は単なる法令違反の主張にすぎず、被告人Bの弁護人平山芳明、同池田啓倫、同平山忠のその余の上告趣意は、憲法三一条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であり、被告人Cの弁護人木内道祥のその余の上告趣意は、憲法三九条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。 所論にかんがみ、職権をもつて判断すると、記録によれば、被告人三名は、昭和五〇年一二月二六日、別紙二記載の公正証書原本不実記載・同行使の事実により、大阪地方裁判所に公訴を提起されたが(以下、「旧起訴」という。)、同地方裁判所は、昭和五一年一一月一八日、右公訴事実の記載中、罪となるべき事実を特定するに当り最も重要である公正証書原本不実記載の内容として「保存登記」と記載されている部分が、文字通りに不実の「保存登記」をなさしめた点を示しているのか「表示登記」の誤記であるのかが、一見して明らかでなく、併合罪関係に立つと考えられる右二つの登記に関する不実記載のいずれともとれるような記載の存することなどの理由五点を挙げたうえ、「全体として、その訂正ないし補正の許される余地のないほど訴因が不特定 、併合罪関係に立つと考えられる右二つの登記に関する不実記載のいずれともとれるような記載の存することなどの理由五点を挙げたうえ、「全体として、その訂正ないし補正の許される余地のないほど訴因が不特定である。」として、右公訴を棄却する判決をし、右判決- 1 -はそのころ確定したこと、その後昭和五三年六月二八日、検察官が別紙一記載の本件各公訴事実につき、被告人三名をあらためて起訴したところ、第一審判決は、前記旧起訴には、公訴提起の不存在と目される程度の重大な瑕疵があつて本件各公訴事実につき公訴時効の進行を停止する効力がなく、同各公訴事実については本件起訴当時すでに公訴時効が完成しているとして、被告人三名をいずれも免訴したこと、これに対し、検察官が控訴を申し立てたところ、原判決は、旧起訴は本件公訴事実第二については公訴時効の進行を停止する効力を有しないが、同第一については右時効の進行停止の効力を有するとして、第一審判決のうち公訴事実第一に関する部分を破棄して右部分を第一審裁判所に差し戻し、同第二に関する検察官の各控訴を棄却する判決をしたことが明らかである。 ところで、刑訴法二五四条が、公訴時効の停止を検察官の公訴提起にかからしめている趣旨は、これによつて、特定の罪となるべき事実に関する検察官の訴追意思が裁判所に明示されるのを重視した点にあると解されるから、起訴状の公訴事実の記載に不備があつて、実体審理を継続するのに十分な程度に訴因が特定していない場合であつても、それが特定の事実について検察官が訴追意思を表明したものと認められるときは、右事実と公訴事実を同一にする範囲において、公訴時効の進行を停止する効力を有すると解するのが相当である。本件についてこれをみると、旧起訴状公訴事実中には、本件公訴事実第一を特定するうえで重要な「表示登記」という 実を同一にする範囲において、公訴時効の進行を停止する効力を有すると解するのが相当である。本件についてこれをみると、旧起訴状公訴事実中には、本件公訴事実第一を特定するうえで重要な「表示登記」という文言が一度も使用されておらず、かえつて、同第二を特定するうえで重要な「保存登記」という文言がくり返し使用されていて、そのいずれについてなされた公訴提起であるのか一見まぎらわしく、訴因の特定が十分でないことは否定することができないけれども、右起訴状公訴事実に記載された犯行の日時、場所、方法及び不実登記の対象となる建物は、すべて本件公訴事実第一のそれと同一であること、その結果としてなされた不実登記の内容も、建物の所有名義を偽るという点で両者は- 2 -共通していること、さらに、旧起訴審において、検察官が、公訴事実中「保存登記」とあるのは「表示登記」の誤記であるとの釈明をし、その旨の訴因補正の申立をしていることなどを総合考察すると、旧起訴によつて検察官が本件公訴事実第一と同一性を有する事実につき公訴を提起する趣旨であつたと認めるに十分であるから、これにより右事実に関する公訴時効の進行が停止されたとする原審の判断は、正当である。 なお、所論は、本件旧起訴に対する前記確定判決のいわゆる内容的確定力を援用し、前記確定判決の判断内容と異る判断をした原判決に法令解釈の誤りがあるとするのであるが、前記確定判決の理由中本件の受訴裁判所を拘束するのは、旧起訴は実体審理を継続するのに十分な程度に訴因が特定されていないという判断のみであり、右判断を導くための根拠の一つとして挙げられた、旧起訴状の公訴事実によつては併合罪関係に立つ建物の表示登記と保存登記に関する各公正証書原本不実記載・同行使罪のいずれについて起訴がなされたのか一見明らかでない、という趣旨に解し得る部 挙げられた、旧起訴状の公訴事実によつては併合罪関係に立つ建物の表示登記と保存登記に関する各公正証書原本不実記載・同行使罪のいずれについて起訴がなされたのか一見明らかでない、という趣旨に解し得る部分は、本件の受訴裁判所を拘束しないと解すべきであるから、旧起訴によつて、本件公訴事実第一と同一性を有する事実につき公訴時効の進行が停止されたとする原審の判断が、右確定判決のいわゆる内容的確定力に抵触するものとはいえない。 よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により主文のとおり決定する。 この決定は、裁判官伊藤正己の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。 裁判官伊藤正己の反対意見は、次のとおりである。 多数意見は、旧起訴により本件公訴事実第一に関する公訴時効の進行が停止されたとする原審の判断は確定判決のいわゆる内容的確定力に抵触しないとするのであるが、私は、この点について見解を異にするものである。 - 3 -およそ裁判が形式的に確定すると、その理由中の一定の判断につき、いわゆる内容的確定力を生じ、右の判断は、特段の事情の変更等のない限り、同一当事者間の後訴を審理する裁判所の判断を拘束すると解すべきであつて、多数意見も、もとよりこの見解を否定するものではない。問題は、右確定力の生ずるのは確定判決の理由中の判断のいかなる部分についてであるか、という点である。 多数意見は、本件において受訴裁判所を拘束するのは、確定判決の理由中、旧起訴は実体審理を継続するのに十分な程度に訴因が特定されていないという判断(以下、「訴因不特定の判断」という。)だけであり、確定判決が右判断を導くための根拠の一つとして挙げた、旧起訴の公訴事実によつては併合罪関係に立つ建物の表示登記と保存登記に関する各公正証書原本不実記載・同行使罪のいずれについて という。)だけであり、確定判決が右判断を導くための根拠の一つとして挙げた、旧起訴の公訴事実によつては併合罪関係に立つ建物の表示登記と保存登記に関する各公正証書原本不実記載・同行使罪のいずれについて起訴がなされたのか明らかでないという趣旨に解し得る部分(以下、「公訴事実不特定の判断」という。)については、内容的確定力が生じないとしている。多数意見が右のような結論をとる理由は、判文上示されてはいないが、おそらく、確定判決が旧起訴の公訴を棄却した直接の理由は旧起訴の訴因が特定されていないということなのであるから、右の限度において内容的確定力を認めれば足りる、という点にあるものと考えられる。しかしながら、もともと、確定判決の理由中の判断に内容的確定力を認めるという考え方の根本には、一定の事項について示された裁判所の判断が形式的に確定した以上、その後の同一当事者間の訴訟においては、右と異る主張・判断をすることを許さないこととして、被告人の地位の安定を図るという配慮があるものと考えられるのであつて、そうであるとすれば、右内容的確定力の生ずる範囲を、主文を導くための直接の理由となる判断だけに限定すべき合理的な根拠はなく、少なくとも、確定判決の主文を導くうえで必要不可欠な理由となる重要な判断については、右確定力が生ずると考えるべきである。多数意見のような考え方によれば、たとえば、確定判決が、「旧起訴は、併合罪関係に立つ甲、乙両事実- 4 -のいずれについてなされたのか不明である」、又は、「旧起訴は、いかなる事実についてなされたものか全く明らかでない」から訴因が不特定であるとの理由で公訴を棄却した場合においても、内容的確定力の生ずるのは右公訴棄却の直接の理由となつた「訴因不特定の判断」のみであるということになるのであろうか。しかし、右のような理由に 因が不特定であるとの理由で公訴を棄却した場合においても、内容的確定力の生ずるのは右公訴棄却の直接の理由となつた「訴因不特定の判断」のみであるということになるのであろうか。しかし、右のような理由による公訴棄却の判決が確定した後に、後訴を審理する裁判所が、「旧起訴は、じつは甲事実を起訴したものであつたと認める」旨、確定判決の前記判断と根本的に矛盾する判断をすることを許すことは、被告人の法的地位を不安定なものとし、ひいては、裁判の権威を損うことにもなるのであつて、にわかに賛同し難いところである。 多数意見は、あるいは、本件の確定判決が、右の例のように、公訴事実の不特定という理由のみによつて「訴因不特定の判断」を導いたのではなく、この点を「訴因不特定の判断」を導くための一つの根拠として挙げているに過ぎない点を重視したのかもしれない。しかし、確定判決が旧起訴の訴因を不特定であると解すべき根拠として挙げたその余の理由四点は、旧起訴状に関するそれほど重大な瑕疵の指摘であるとはいえないこと、それにもかかわらず、確定判決が、検察官の釈明や補正の申立を容れることなく、旧起訴の公訴を棄却していることなどからみて(なお、最高裁昭和二八年(あ)第五五六九号同三三年一月二三日第一小法廷判決・刑集一二巻一号三四頁参照)、確定判決中の「公訴事実不特定の判断」は、「訴因不特定の判断」を導くための最も重要な、いわば必要不可欠な理由であるというべきであるから、「公訴事実不特定の判断」が確定判決の「訴因不特定の判断」の唯一の理由ではないことは、「公訴事実不特定の判断」につき、内容的確定力が生ずると解することの妨げになるものではない。 以上の理由により、私は、本件旧起訴に対する確定判決のいわゆる内容的確定力は、単に、旧起訴の訴因が不特定であるという判断についてだけではなく 的確定力が生ずると解することの妨げになるものではない。 以上の理由により、私は、本件旧起訴に対する確定判決のいわゆる内容的確定力は、単に、旧起訴の訴因が不特定であるという判断についてだけではなく、その判- 5 -断の前提となる「公訴事実不特定の判断」についても生じ、本件の受訴裁判所は、これと異る判断をなし得ないものと考える。そうして、旧起訴が併合罪関係に立つ二個の事実のいずれについてなされたのかが確定され得ない以上、結局、右いずれの事実についても、旧起訴による公訴時効の進行停止の効力が及ばないこととなるのは、当然のことであるから、本件においては、公訴事実第二についてと同様、同第一についても、公訴時効の完成を認めるべきである。したがつて、右各公訴事実につき被告人三名を免訴した第一審判決の結論は、これを維持すべきものであつて、これと異り、検察官の控訴を容れて、第一審判決中本件公訴事実第一に関する部分を破棄しこれを第一審に差し戻すこととした原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるから、原判決中右の部分を破棄して、検察官の各控訴を棄却すべきである。 昭和五六年七月一四日最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官伊藤正己裁判官環昌一裁判官横井大三裁判官寺田治郎別紙一公訴事実被告人Aは、D株式会社の代表取締役、同Bは同会社取締役、同Cは、E株式会社の代表取締役であるが、被告人らは昭和四七年一月八日ころ、F株式会社(代表取締役G)との間に、同 公訴事実被告人Aは、D株式会社の代表取締役、同Bは同会社取締役、同Cは、E株式会社の代表取締役であるが、被告人らは昭和四七年一月八日ころ、F株式会社(代表取締役G)との間に、同会社を請負者、被告人Bおよび同Cを注文者として、H所有名義の大阪市a区bc丁目d番地のe、同番地のc所在の宅地上に工事代金四、七〇〇万円、右代金完済時に所有権が移転する約定のもとに、鉄筋コンクリート造- 6 -陸屋根三階建共同住宅・店舗・車庫(延床面積八八三・六平方メートル)の新築工事請負契約を締結し、同年九月ころには表示登記及び保存登記の可能な程度に右建物が出来上がつたが、右工事代金四、七〇〇万円のうち一、〇〇〇万円しか支払つていないため、F株式会社から右建物の引渡しを受けることができず未だ右建物の所有権を取得していないのに、同社の承諾を受けないで右建物につき、D株式会社を所有者とする表示登記および所有権保存登記をしようと企て前記Hと共謀のうえ第一同年一〇月六日、同市f区g町h丁目e番地のe所在大阪法務局今宮出張所において、情を知らない土地家屋調査士兼司法書士I方事務員Jをして同所登記官に対し、D株式会社が右建物の建築をE株式会社に発注し、同社において建築工事を完了させてD株式会社に引渡した旨記載したE株式会社代表取締役C作成名義の内容虚偽の建物引渡証明書及び右建物がD株式会社の所有であることを証明する旨記載した被告人B及びK両名作成名義の内容虚偽の建物所有権証明書等の関係書類を添えて、右建物の所有者がD株式会社である旨虚偽の表示登記申請をなさしめ、よつて右登記官をして右建物の登記簿の原本表題部の所有者欄にその旨不実の記載をさせ、即時これを同所に備付けさせて行使し、第二同月一一日、前同所において情を知らぬ前記Jをして同所登記官に対 しめ、よつて右登記官をして右建物の登記簿の原本表題部の所有者欄にその旨不実の記載をさせ、即時これを同所に備付けさせて行使し、第二同月一一日、前同所において情を知らぬ前記Jをして同所登記官に対し、右建物の所有者がD株式会社である旨虚偽の所有権保存登記申請をなさしめ、よつて右登記官をして同所備付けの不動産登記簿の原本にその旨不実の記載をさせ、即時これを同所に備付けさせて行使し、たものである。 別紙二公訴事実被告人Aは、D株式会社代表取締役、被告人H、同Bは同社取締役の地位にあるもの、被告人Cは、E株式会社代表取締役の地位にあるものであるが、共謀の上、被告人B及びL商事こと被告人Cを注文者、F株式会社(代表取締役G)を請負者と- 7 -して、大阪市a区bc丁目d番c号に建築工事中の鉄筋コンクリート造三階建のマンシヨン(延床面積八八三、六平方メートル)が工事未完成の上、右F株式会社の所有物件であるのに、同社の承諾のないまま、同建物につき、右D株式会社の名義で所有権保存登記を了して、同建物を金借の担保に供しようと企て、昭和四七年一〇月三日ころ、同市f区g町e丁目i番地、土地家屋調査士、司法書士I事務所において、情を知らない同所事務員Mらをして、右E株式会社において同建物を建築した上、右D株式会社に引渡した旨の被告人C作成名義にかかる建物引渡証明書、被告人H及び同Bにおいて同建物を所有する旨の被告人H、同B作成名義にかかる建物所有権証明書、被告人Bにおいて、同建物をD株式会社の所有名義とすることを承諾している旨の同被告人作成名義にかかる上申書等、内容虚偽の登記必要書類一切を作成させたうえ、同月六日同区同町h丁目e番地のe、大阪法務局今宮出張所において、右Mらをして、同出張所係員に対し、右登記必要書類の内 の同被告人作成名義にかかる上申書等、内容虚偽の登記必要書類一切を作成させたうえ、同月六日同区同町h丁目e番地のe、大阪法務局今宮出張所において、右Mらをして、同出張所係員に対し、右登記必要書類の内容が真実であるもののように装つて、これを同建物についてのD株式会社を権利者とする所有権保存登記を求める申請書に添付して提出させ、もつて不正な方法により所有権保存登記を申請し、よつてその旨誤信した同係員をして、不動産登記簿の原本に同建物の所有権が右D株式会社に帰属する旨の不実の保存登記をなさしめた上、即時同所にこれを備えつけさせて行使したものである。 - 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