令和7年11月21日宣告令和6年(わ)第158号、第211号、第302号詐欺被告事件 主文 被告人を懲役4年6月に処する。 未決勾留日数中370日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、Aから投資金名目で金銭をだまし取ろうと考え、真実は、同人から運用資金として交付を受けた金銭を株式投資運用に充てることなく、他の出資者に対する元本の返済等に費消する意図であるのに、それを秘し、株式投資運用に充てるかのように装い、さらに、被告人名義の保険の解約返戻金債権は、被告人が同債権を担保に保険会社から借入れをしていたため、その返済に充当される見込みであるのに、それを秘し、株式投資で損失が発生した場合には、同債権を行使してその損失を補填するかのように装い、別表1(掲載省略)記載のとおり、令和4年3月頃から同年10月頃までの間に、3回にわたり、京都市(住所省略)所在の飲食店「B」又は日本国内のいずれかの場所において、前記Aに対し、被告人に金銭を預ければ、株式投資運用に充てて運用益を支払うなどと言って株式投資名目での出資を勧誘し、さらに、前記Aに対し、運用資金として金銭を預かり、一定額の運用益を支払う旨虚偽の内容が記載された契約書を交付するとともに、前記解約返戻金債権がある旨記載された保険証券の写しを交付するなどし、同人をして、被告人に出資して金銭を支払えば、その全額が株式投資運用に充てられ、仮に、株式投資で損失が発生した場合には、同債権を行使してその損失が補填される旨誤信させ、よって、同年3月25日から同年11月1日までの間に、3回にわたり、同市(住所省略)所在の前記A方において、同人から現金合計600万円の交付を受け、もって人を欺いて 財物を交付させた。 第2 て、同年3月25日から同年11月1日までの間に、3回にわたり、同市(住所省略)所在の前記A方において、同人から現金合計600万円の交付を受け、もって人を欺いて 財物を交付させた。 第2 被告人は、C(当時63歳)から投資金名目で金銭をだまし取ろうと考え、真実は、同人から運用資金として交付を受けた金銭を株式投資運用に充てることなく、他の出資者に対する配当金の支払や元本の返済等に費消する意図であるのに、それを秘し、株式投資運用に充てるかのように装い、令和4年5月中旬頃、情を知らない前記Cの妻であるDを介して前記Cに対し、被告人への株式投資名目での出資を勧誘した上、同月30日、金沢市(住所省略)前記C方において、同人に対し、被告人にお金を預ければ、株取引に投資して運用益を渡すなどという旨のうそを言い、さらに、前記Cから金銭の管理を委託されていた前記Dに対し、「運用資金として、金伍百萬円お預りいたします」「運用期間は原則3年とし年15%の運用益をお支払いします」「運用益の支払いは毎年11月、5月の末日とします」「尚、相場変動などいかなる場合においても元本は保証するものとする」などと虚偽の内容が記載された契約書を交付するなどし、前記C及び前記Dをして、被告人に出資して金銭を支払えば、その全額が株式投資運用に充てられる旨誤信させ、よって、同日、同所において、前記Dを介して前記Cから現金500万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第3 被告人は、E(当時50歳)から投資金名目で金銭をだまし取ろうと考え、真実は、同人から運用資金として交付を受けた金銭を株式投資運用に充てることなく、他の出資者に対する元本の返済等に費消する意図であるのに、それを秘し、株式投資運用に充てるかのように装い、別表2(掲載省略)記載のとおり、令和 として交付を受けた金銭を株式投資運用に充てることなく、他の出資者に対する元本の返済等に費消する意図であるのに、それを秘し、株式投資運用に充てるかのように装い、別表2(掲載省略)記載のとおり、令和5年1月12日から同年4月20日までの間に、5回にわたり、石川県加賀市(住所省略)所在の美容室「F」又は日本国内のいずれかの場所において、前記Eに対し、被告人に金銭を預ければ、株式投資運用に充てて運用益を支払うなどという旨のうそを言って株式投資名目での出資を勧誘し、前記Eをして、被告人に出資して金銭を支払えば、その全額が株式投資運用に充てら れる旨誤信させ、よって、同年1月18日から同年4月20日までの間に、5回にわたり、前記美容室「F」において、前記Eから現金合計1700万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点弁護人は、公訴事実記載の日時、場所で被告人が交付を受けた各金銭は、被告人において、株式投資によって運用し、被害者らに運用益を交付する意思があったから、詐欺の故意がないと主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。 したがって、本件の争点は、詐欺の故意及びその前提となる欺罔行為の有無である。具体的には、被告人が、行為時点において、被害者らから交付を受ける金銭を株式投資に充てる意図がなかったか否かが問題となる。 第2 争点に対する判断 1 各出資状況及びその趣旨⑴ 出資状況被告人は、被害者らから、以下のとおり金銭の交付を受けた。 番号日付被害者金額期間運用益交付時期①令和4年3月25日A300万円1年3か月ごと②同年5月30日C500万円3年6か月ごと③同年9月2日A200万円同年末ま 益交付時期①令和4年3月25日A300万円1年3か月ごと②同年5月30日C500万円3年6か月ごと③同年9月2日A200万円同年末まで明確な指定なし④同年11月1日A100万円6か月毎月⑤令和5年1月18日E200万円3年3か月ごと⑥同月31日E400万円3年3か月ごと⑦同年2月7日E200万円3年3か月ごと⑧同月28日E700万円3年3か月ごと⑨同年4月20日E200万円同年9月末同年9月末 まで以下、上記の各金銭交付を「本件各交付」といい、個別に挙示する場合は、それぞれに付した番号をもって、「交付①」などと略記する。 ⑵ 出資の趣旨被告人は、被害者らに対し、出資を受けた金銭を株に投資する旨告げていることが認められる上、被告人自身も株に対する運用資金として交付を受けた旨供述している。したがって、被害者らは、被告人に対し、株式投資に充てるべき資金として、金銭を交付したと認められる。 もっとも、弁護人が指摘するように、被害者らは取引する株式の銘柄、数量、取引のタイミング、取引の方法などについて被告人に一任していた。これに加え、相場の変動が必然的に伴うという株式投資の性質を踏まえれば、株式の運用資金として預かった金銭を一時的に他の出資者への運用益の支払や元本の返済に充てつつ、利益が見込める時機を待つことは一律に否定されるものではない。 しかし、被告人が被害者らに告げた内容及び被害者らに交付した各契約書(交付①から④まで)によれば、上記表の「期間」欄記載のとおり運用期間が設定され、「運用益交付時期」欄記載のとおり ものではない。 しかし、被告人が被害者らに告げた内容及び被害者らに交付した各契約書(交付①から④まで)によれば、上記表の「期間」欄記載のとおり運用期間が設定され、「運用益交付時期」欄記載のとおり、被告人は一定期間ごとに、あるいは、一定の期間内に被害者らに対して運用益を交付することとなっていた。これらの点を踏まえると、被害者らから交付された金銭の相当額が、遅くとも運用益交付時期までの合理的期間内に投資に充てられている状況にすることが、被告人において予定されていたといえ、被害者らにおいても、これを前提として金銭を交付したものと認められる。 なお、交付③については運用益交付時期の明確な指定がないものの、運用期間が3か月弱と短く、交付された金銭が少なくともその期間内に投資に充てられることが予定されていたといえるから、令和4年12月末までの合理的期間内に投資に充てられている状況にすることが、被告人において予定さ れていたといえ、被害者においても、これを前提として金銭を交付したものと認められる。 2 被告人の債務状況及び出資金の使途⑴ 被告人の債務状況被告人は、平成14年10月頃から株式投資における負債を抱えるようになり、その負債は全体として継続的に増加していた。そして、被告人は、被害者らに出資の勧誘をした際、各出資者に支払うべき運用益を除いた差引債務(各出資の運用期間経過後の債務合計額から既返金額を差し引いたもの)として4億4000万円を超える負債を抱えており、各出資者に支払うべき運用益も含めれば負債の額は8億6000万円を超えていた。 ⑵ 金銭の使途ア運用益の支払等への費消まず、被告人は、交付①の300万円に加え、令和4年3月28日に別の出資者から1000万円の交付を受けているところ、同月30日に を超えていた。 ⑵ 金銭の使途ア運用益の支払等への費消まず、被告人は、交付①の300万円に加え、令和4年3月28日に別の出資者から1000万円の交付を受けているところ、同月30日に627万5000円を他の出資者20人に支払ったほか、10万円をG銀行の被告人名義の口座に入金し、合計637万5000円を費消した。 次に、被告人は、交付②と同日の令和4年5月30日、5人の出資者に対して合計46万円を支払うとともに、H株式会社に対し、保険料として9万0300円を支払った。そして翌31日に、10人の出資者に対して合計393万5000円、H株式会社に43万9000円を支払ったほか、2万円をI信用金庫の被告人名義の口座に入金した。上記のとおり、被告人は、2日間合計で494万4300円を費消している。 そして、被告人は、交付③と同日の令和4年9月2日、8人の出資者に対して135万2500円、弁護士に対して40万円を支払い、合計175万2500円を費消した。 また、被告人は、交付④の後、令和4年11月2日から4日にかけて、 7人の出資者に対して104万5000円を支払ったほか、「カ)J」、「ユ. K」名義の口座に合計5万5000円振り込んでおり、合計110万円を費消した。 さらに、被告人は、交付⑤ないし交付⑨(合計1700万円)及び令和5年中の他の出資者による出資金を合計した2206万8680円のうち、他の出資者への支払、生命保険や飲食店の支払等で2199万4827円を費消した。 イ証券口座への入金状況被告人の証券口座の入金状況について、令和4年2月2日以降同年7月10日まで入金がないから、交付①及び交付②の金銭をそのまま証券口座に入金したとは認められない。また、同年8月16日の入金を最後 況被告人の証券口座の入金状況について、令和4年2月2日以降同年7月10日まで入金がないから、交付①及び交付②の金銭をそのまま証券口座に入金したとは認められない。また、同年8月16日の入金を最後に、それ以降被告人の証券口座に入金がないことからすれば、交付③ないし交付⑨の金銭も、証券口座に入金してはいない。 ⑶ 小括以上のように、被告人は、被害者らに出資の勧誘をした時点において、巨額の負債を抱えており、かつ出資金として交付を受けた金銭のほとんどを他の出資者への運用益の支払等に費消している状況が認められ、同金銭を証券口座に入金できていないことから、上記時点において、交付を受けた出資金をそのまま株式投資に充てることができる状況にはなかったといえる。 3 追加出資等の将来の見込み⑴ 前提被害者らから金銭の交付を受けてから合理的期間内に、他の出資者からの追加出資や株式投資等の結果、被害者らから交付を受けた金銭の相当額を、株式投資に充てられる見込みがある場合には、被告人において、被害者らから交付された金銭を株式投資に充てる意図がなくはなかったと考え得る余地があるので、さらに、この点について検討する。 ⑵ 支払うべき金銭の総額被害者らに出資の勧誘が行われた時期における債務を検討すると、出資者に交付すべき運用益を含めた債務総額から既返金合計額を差し引いた債務は令和4年3月1 日時点で約8億7000万円であり、微増微減を繰り返しつつも全体としてみれば増加傾向で、令和5年4月上旬から中旬においては9億2000万円前後で推移している。 そして当該期間において差引債務額の最小は、令和4年7月15日時点における8億6794万5822円である。 ⑶ 追加出資、新規出資等の見込み被害者らに出資の勧誘を 推移している。 そして当該期間において差引債務額の最小は、令和4年7月15日時点における8億6794万5822円である。 ⑶ 追加出資、新規出資等の見込み被害者らに出資の勧誘を行った時点において、追加出資や新規の出資の具体的な予定はなかった。また、被告人は、令和4年3月以降、本件各交付の2800万円を含めて合計6299万8670円の出資を実際に受けたが、令和4年7月11日から同年8月16日にかけて証券口座に入金された金額は208万円にとどまっており、被告人は、追加出資や新規の出資を受けたとしても、本件被害金と同様に、そのほとんどを他の出資者への運用益の支払等に費消せざるを得ない状況にあったといえる。そうすると、追加出資や新規出資に係る金銭のうち直接株の取引に充てることができる金額は、前記差引債務額に比して極めて限定的なものであったといえる。 ⑷ 保有株式被告人の取引履歴をみると、被告人は、短期での売買を行うことで利益を得る手法をとって運用しているところ、交付①にかかる出資の勧誘が行われた頃の被告人による株式の保有状況をみると、令和4年3月1日現在で保有していた株式は、約定価格にして6万6000円分に過ぎず、交付①時点において保有していた株式はなかった。 ⑸ 小括以上によれば、被告人が被害者らから出資の勧誘を行った時点において、 その後想定される追加出資や新規出資の金額は、全体の債務総額に比して少額であり、出資者に支払うべき運用益や元本の支払債務が巨額に上っている状況では、被告人がこれを原資として株取引を行って資金を増やし、被害者らから交付を受けた金銭の相当額を合理的な期間内に株式投資に充てることができる状況となる余地は現実的には見込まれず、およそ不可能なものであった。 資として株取引を行って資金を増やし、被害者らから交付を受けた金銭の相当額を合理的な期間内に株式投資に充てることができる状況となる余地は現実的には見込まれず、およそ不可能なものであった。 4 株式投資に充てる意図前述のように、被告人は、被害者らから交付を受けた金銭をそのまま株式投資に充てられる状況にはなかった。 そして、被害者らから交付を受けた金銭を一時的に他の出資者への運用益の支払等に充てながら、同金銭の相当額を合理的期間内に株式投資に充てることができる状況を確保することはおよそ不可能であり、被告人においても、かかる客観的な状況は十分に認識していたものと認められる。 そうすると、被告人には、被害者らから交付を受けた金銭を、合理的期間内に株式投資に充てる意図はなかったといえる。 5 被告人の弁解被告人は、被害者らから交付を受けた金銭を一時的に他の出資者への運用益の支払等に充てたとしても、追加出資や新規出資を受け、他の出資者への運用益の支払等を行いつつ運用を行い、運用で得た収益を充当することが十分可能であること、契約内容に従った支払を一部の被害者に対して行っていること等を指摘して、被告人には被害者らから交付を受けた金銭を株式投資に充てる意図があった旨弁解する。 しかし、上述のように、被告人が弁解で述べるような見込みは、当時の客観的な状況からして、およそ想定し難いものであった。被告人自身においても、自己の債務状態の概要を認識していたのであるから、上記の見込みがおよそ想定し難いものであることは認識していたといえ、そうである以上、被害者らか ら交付を受けた金銭を株式投資に充てるという被告人の思いは、客観的な状況を度外視した単なる願望に過ぎず、このような思いをもって、被害者らから交付を受けた金銭を株式投資に充てる 、被害者らか ら交付を受けた金銭を株式投資に充てるという被告人の思いは、客観的な状況を度外視した単なる願望に過ぎず、このような思いをもって、被害者らから交付を受けた金銭を株式投資に充てる意図があったと認めることはできない。 なお、被告人は、契約内容に従った支払を一部の被害者に対して行っているが、その支払はごく一部のものに過ぎず、被害者らに約束した支払を継続することがおよそ不可能であったことに変わりはないのであるから、この点を踏まえても、上記結論は左右されない。 6 結論以上によれば、被告人は、被害者らに出資の勧誘をし、金銭の交付を受けた時点において、その金銭を株式投資に充てることなく、他の出資者に対する元本の返済等に費消する意図であるのに、それを秘し、株式投資運用に充てるかのように装っており、被告人による欺罔行為が認められる。なお、判示第1の事実においては、被告人は、被告人名義の保険の解約返戻金債権が、保険会社からの借入れの返済に充当される見込みであるのに、それを秘して、同債権を行使して損失を補填するかのように装ったことも認められる。 以上で述べたところによれば、判示各事実について、被告人に詐欺罪の故意があったことも明らかである。 (量刑の理由)被告人は、多額の負債を抱え、被害者らから株式運用の資金として預かった金銭を合理的期間内に株式投資に充てる意図はなかったにもかかわらず、3名の被害者らから、言葉巧みに株式運用の資金名目でそれぞれ多額の現金をだまし取っている。 加えて、被告人は、判示第1の被害者に対し、実際にはオーバーローンであることを告げずに保険証券の写しを交付して出資させ、判示第2の被害者に対しては、出資のために借入れをさせてまでしてその金銭を詐取し、判示第3の被害者に対しては、生命保険を解約させてまでして ーンであることを告げずに保険証券の写しを交付して出資させ、判示第2の被害者に対しては、出資のために借入れをさせてまでしてその金銭を詐取し、判示第3の被害者に対しては、生命保険を解約させてまでして金銭を詐取しており、これらの点でも態様は悪質である。 本件被害金額の合計は2800万円と多額である上、被告人が判示第1及び第3の各被害者に対して一部運用益として支払うべき金銭を交付している事実はあるものの、それ以上の被害弁済の具体的な見込みはない。 もっとも、被告人が出資者から出資を受けて株式運用を行うというスキームは、当初は実際に利益を出していたのであって、本件は、全く架空の投資話を持ち掛けて金銭を詐取した事案とは異なり、多額の損失を出しながらも手仕舞いできずに自転車操業を継続した末の犯行であることも考慮すべきである。 以上に加え、本件被害者らが厳しい処罰感情を有していること、被告人に前科がないことなども踏まえ、主文の刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑懲役5年)令和7年11月21日金沢地方裁判所裁判長裁判官伊藤大介 裁判官藤 本 思帆音 裁判官谷 津 賢太郎
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