主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して金789万4231円及びこれに対する平成13年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の負担とし,その余を被告らの連帯負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,各自金1807万7300円及びこれに対する平成13年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が平成11年12月11日に散歩中,被告らの飼犬に左ふくらはぎを突然咬みつかれ,左下腿部咬創,左膝内障の傷害を負った上,心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder。以下「PTSD」という。)を発症したとして,被告ら各自に対し,民法709条及び同法718条に基づき,原告が被った損害金2357万9883円の内金1807万7300円及びこれに対する不法行為の後であり訴状送達の日の翌日である平成13年6月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 1 争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実(1) 原告(西暦1950年6月12日生)は,平成11年12月11日午前10時30分頃,愛知県尾張旭市所在の被告ら方前の東側先路上をD(以下「D」という。)と散歩をしていたところ,被告ら方で飼われている雑種犬(犬名・G。以下「本件飼犬」という。)に突然背後から左ふくらはぎを咬みつかれた(以下「本件事故」という。)。 (2) 本件事故の当時,被告ら方には被告A(以下「被告A」という。)が現在していたが,本件飼犬を被告ら方建物内及び裏庭で放し飼いにしていた 左ふくらはぎを咬みつかれた(以下「本件事故」という。)。 (2) 本件事故の当時,被告ら方には被告A(以下「被告A」という。)が現在していたが,本件飼犬を被告ら方建物内及び裏庭で放し飼いにしていた上,本件飼犬が外に逃げないようにするための措置としては,同建物内及び裏庭から車庫に通じる通路にトタン板をたわませて弾力ではめて遮蔽していただけであった。本件事故後に被告Aがトタン板の状態を確認したところ,何かの拍子にトタン板は外れてしまっており,通路に本件飼犬が通り抜ける隙間ができていて遮蔽の用を為さず,本件飼犬が自由に東側道路に出入りできる状態であった(甲1,15)。 (3) 本件飼犬は,約3年前にも人を咬んで被害を与えたことがあり,本件事故当時も被告らはそのことを認識していた(甲3,弁論の全趣旨)。 (4) 原告は,本件事故後,公立陶生病院整形外科で受診し,左下腿部咬創,左膝内障と診断されたほか,左膝内側半月板損傷の疑いありと診断され,同病院神経精神科では心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された(甲4ないし6,7の1,証人F)。 (5) 被告B(昭和17年6月25日生。以下「被告B」という。)は被告A(昭和20年4月8日生)の夫であり,被告C(昭和47年10月9日生。以下「被告C」という。)は被告Bと被告Aの長男である(乙1)。 2 争点(1) 被告らは本件飼犬の占有者と認められるか。 ア原告の主張本件飼犬は被告らの自宅内で飼われていたのであるから被告ら全員が占有者であり被告ら全員が原告の損害について民法718条の責任を負う。また,占有者として被告ら全員が,本件飼犬が居宅から逃げ出すことがないようにして事故が発生することを未然に防止する注意義務を負うのであり,民法709条の責任も免れない。 イ被告らの主張被告Aが本 た,占有者として被告ら全員が,本件飼犬が居宅から逃げ出すことがないようにして事故が発生することを未然に防止する注意義務を負うのであり,民法709条の責任も免れない。 イ被告らの主張被告Aが本件飼犬の占有者であることは認める。本件飼犬の世話のほとんどをしていたのは被告Aであり,同人が実質的所有者である。 被告B及び被告Cは本件飼犬の世話を全くしていないのであるから被告Aの占有補助者に過ぎないのであり,民法718条の責任を負うことはなく,民法709条の責任を負うこともない。 (2) 原告の左膝内障及び左膝内側半月板損傷の疑いと本件事故との因果関係(3) 原告がPTSDを発症していると認められるか。 ア原告の主張原告は,突然本件飼犬に襲われ噛みつかれたこと,咬まれた左下腿部及びひねった左膝の激しい痛みに苦しんだこと及び咬まれた直後に本件飼犬が狂犬病の予防注射をしていなかったことを知り狂犬病発症におびえたことが原因となってPTSDを発症した。そして,同障害による強度のパニック症状により情緒不安定となり全く就業できない状態になった。 イ被告の主張ある患者がPTSDであると診断するための国際的基準として一般に承認されているDSM-Ⅳでは,診断にあたっての客観的基準として患者が生命の危険を感じるような状況を体験したことが必要とされるが,犬にかまれたという原告の体験は生命の危険を感じるような状況ではないからこの基準を満たさず,原告の症状はPTSDにはあたらない。 (4) 原告の損害額ア原告の主張合計2357万9883円① 治療費 5万4800円② 休業損害 1908万5083円原告は入国後就労する前に本件事故に遭ってお 計2357万9883円① 治療費 5万4800円② 休業損害 1908万5083円原告は入国後就労する前に本件事故に遭っており本件事故当時は無職であったが,H大学の学士及び修士課程を卒業し,1978年には同大学の博士号を得るなど高い学歴があり,平成7年までコンピューター技術者として日本で高額の収入(平成6年9月から平成7年3月までの月平均で129万4620円)を得ていた。 本件事故当時もJ社と共同で新しい事業を起こす準備を進めていたところであり,本件事故後近い時期に就労する蓋然性が高かった。しかし,本件事故によりPTSDを発症し,そのパニック症状により事業を起こすことができなかった。このため,平成11年12月から平成14年5月までの合計1908万5083円の賃金収入(平成12年度版賃金センサス産業計・企業規模計・男性労働者・大卒45歳から49歳までの平均年収額880万8500円を基礎に算出)を得ることができなかった。 ③ 通院慰謝料 230万円④ 弁護士費用 214万円イ被告の主張原告主張の損害額は争う。原告は平成7年から本件事故の当時無職であったのであり,また,本件事故と近接した時期に職を得る蓋然性は低いから,原告には本件事故による休業損害は生じていない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 被告Aが本件飼犬の占有者であることは当事者間に争いがない。被告らは,被告B及び被告Cは本件飼犬の占有者ではなく,民法718条あるいは民法709条の責任を負わないと主張するのでこの点について判断する。 (2) 証拠(乙3,被告A本人)によれば,本件事故の当時,被 ,被告B及び被告Cは本件飼犬の占有者ではなく,民法718条あるいは民法709条の責任を負わないと主張するのでこの点について判断する。 (2) 証拠(乙3,被告A本人)によれば,本件事故の当時,被告B及び被告Cは外出中であり,自宅にいたのは被告Aだけであったとのことであるが,本件飼犬は被告ら全員が日常起臥する被告ら方の建物内及び裏庭で飼われていたこと,本件飼犬の寝る場所は特に決まった場所があるわけではなく,被告Bの寝室で寝ることもあったこと,被告Cは平成4年から就職のため東京で暮らしていたが本件事故の半年ないし1年前に東京から被告ら方に帰ってきており,本件飼犬は被告C名義で登録されていることが認められる。 (3) 一般に,庭や居宅内など家族全員の居住空間で犬などのペットを飼う場合には,ペットの占有・管理は家族全員が日常生活の一部として各自が責任を持ってするものであると解される。そして,上記(2)の認定事実によれば,本件飼犬の管理状態は一般的な家庭における飼犬の飼い方に比べて取り立てて特殊な事情は認められず,被告Aのみが占有者であると認めるべき特段の事情は認められない。また,被告B及び被告Cが本件事故当時に被告ら方に現在していなかったとしても,上記のとおりペットの占有・管理は同居家族全員の日常生活の問題であることからすれば,世帯主である被告Bが本件飼犬の占有者としての責任を免れるのは不自然であり,被告Cについても,本件飼犬の登録名義人であり,東京から被告ら方に帰ってきてすでに少なくとも半年が経過しており,また,本件事故の後の近い日に被告ら方を出るといった事情も認められないのであるから,被告Cも本件飼犬の占有者の一人であると認定するのが相当である。 被告Aは本人尋問において,原告代理人に被告Cが本件飼犬の登録名義人になってい を出るといった事情も認められないのであるから,被告Cも本件飼犬の占有者の一人であると認定するのが相当である。 被告Aは本人尋問において,原告代理人に被告Cが本件飼犬の登録名義人になっていることについて,「家族で飼っていたために名義人は誰でも良かったのではないか」と質問され,「そう言われると何も言えない」と答えるなど,被告ら家族の間でも本件飼犬の飼主が被告Aのみであるというような明確な認識はなかったことを窺わせる返答をしており,この点からも被告ら3名を本件飼犬の共同占有者と認定するのが相当である。 (4) 以上の検討のとおり,被告B及び被告Cを被告Aの占有補助者にすぎないと認めることはできず,被告ら3名全員が本件事故当時の本件飼犬の共同占有者であったと認められるところ,被告らが「動物ノ種類及ヒ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管ヲ為シタ」ことの適切な立証もない。 したがって,被告らは,いずれも民法718条により,本件事故によって原告が被った損害を賠償する責任があることになる。 2 争点(2)について(1) 証拠(甲5,6,10,公立陶生病院整形外科に対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,①本件事故のあった平成11年12月11日,原告は,公立陶生病院整形外科のE医師(以下「E医師」という。)の最初の診断を受けた際に,犬に咬まれたときに左膝をひねったことを申告したこと,②本件事故の直後から原告は左足全体の激しい痛みを訴えてほとんど歩けない状態になり,2度目の診察の後ころからは左膝の激しい痛みを訴えるようになったこと,③平成11年12月24日の3度目の診察の際に,原告は初めてE医師に対し左膝の痛みを訴え,E医師の診察によると左膝内側半月板損傷を疑わせる所見が認められたが,手術による確認がないため左膝内障と診断し 平成11年12月24日の3度目の診察の際に,原告は初めてE医師に対し左膝の痛みを訴え,E医師の診察によると左膝内側半月板損傷を疑わせる所見が認められたが,手術による確認がないため左膝内障と診断したことが認められる。 (2) この点,被告Aは,陳述書(乙3)において,被告Bが原告の症状を不審に思ってE医師を訪ねたところ,「当初の所見では筋肉や靱帯に損傷は認められず,腫れも発熱も認められなかったので痛みの原因がわからず影像診断を行った。」とか,「膝付近の筋肉が痩せており筋肉の衰えが見られた。これは長期間膝をかばう生活をしていたと考えられる。」との説明を受けたことを述べ,本人尋問でも同趣旨のことを答えている。 しかし,仮に本件事故当時に原告の膝に筋肉の衰えがあったことなどの事情をE医師が認めていたとしても,本件事故の後において左膝の傷害の原因となるような新たな外傷の存在を証拠上認めることはできないから,公立陶生病院整形外科E医師の調査嘱託事項回答書の記載内容に照らしても,原告が負った左膝内障の傷害は本件事故が原因であると認めるのが相当である(左膝内側半月板損傷についてはその疑いがあるだけで,手術による確認がされていないのであるからただちにこれを認めることはできない。)。 3 争点(3)について(1) 原告の症状まず,原告の本件事故後の症状について検討するに,証拠(甲7の1,証人D,原告本人)によると,原告は,本件事故以降,外出中に犬を見かけると身動きがとれなくなる,抑うつ状態が続き気力が低下している,情緒不安定となり人に注意される程度で駅で泣き出すこともある,犬を見るとパニック状態に陥り過呼吸を起こす,左膝の痛みをきっかけに事件を思い出して犬に襲われる夢にうなされる,夜なかなか眠れない,外出中は小さい犬でも避けて 注意される程度で駅で泣き出すこともある,犬を見るとパニック状態に陥り過呼吸を起こす,左膝の痛みをきっかけに事件を思い出して犬に襲われる夢にうなされる,夜なかなか眠れない,外出中は小さい犬でも避けて通るようになる,誰かが襲ってくるのではないかという強迫観念に駆られるなどの症状を示すようになったことが認められる。 原告は,かかる症状について本件事故によりPTSDを発症したためである旨の主張をするので,この点について検討する。 (2) PTSDの診断基準松下正明ら編集「臨床精神医学講座S6外傷後ストレス障害(PTSD)」(甲9)及び本件事故後原告の診断に当たった公立陶生病院神経精神科のF医師(以下「F医師」という。)作成の「PTSDをめぐって」(甲7の2)によれば,心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは,強度の外傷的出来事に遭遇したことを原因として再体験症状,回避・麻痺症状,覚せい亢進症状等が現れることを特徴とする精神障害であり,アメリカ合衆国精神医学会(APA)の診断基準であるDSM-Ⅳでは,PTSDの診断基準として別紙診断基準記載の条件を設けている。 また,同文献によれば,従来の基準ではPTSDの概念が狭すぎるという批判を受け近年PTSDの範囲も変容を受けてきていること,DSM-Ⅳ基準はその批判を受けて改訂されたものであるが,改定前の基準であるDSM-Ⅲ-R基準では診断基準のうちのA基準(外傷的出来事)の範囲を「通常の人が体験する範囲を超えた出来事で,ほとんどすべての人に著しい苦痛となるもの」として出来事の異常性・非日常性を要件としていたのに対し,改訂後のDSM-Ⅳ基準によれば「実際にまたは危うく死ぬ,または重傷を負うような出来事」に直面し「強い恐怖,無力感または戦慄に関するもの」であると変更されており,今日 日常性を要件としていたのに対し,改訂後のDSM-Ⅳ基準によれば「実際にまたは危うく死ぬ,または重傷を負うような出来事」に直面し「強い恐怖,無力感または戦慄に関するもの」であると変更されており,今日の精神医学の分野ではPTSDと診断する際に外傷的出来事の非日常性を問題としないのが一般的になってきていることが認められる(甲7の1,甲9,証人F)。 (3) 原告はPTSDを発症したと認められるか原告の本件事故において体験した外傷的出来事は,散歩中に犬に背後から突然左ふくらはぎを咬みつかれた,咬まれた瞬間に感電したような痛みを感じた,自宅に帰った後,足の痛みが増しパニックに陥り救急車で公立陶生病院に運ばれた,その後1週間半くらいは足が急激に腫れて痛みで動けなかったというものである(原告本人)。そして,原告が本件事故を契機として上記(1)のようなかなり重度の精神障害の症状を呈しており,さらに,精神医学の経験の豊富なF医師が平成12年12月14日にDSM-Ⅳ基準に基づく自記式質問紙法テストによる原告の精神障害についての診察においても,初診時から10か月を経過しているにもかかわらず極めて高い値を示している(甲7の1)のであるから,本件事故の発生とその後の原告の症状は,「強度の外傷的出来事に遭遇したことを原因として再体験症状,回避・麻痺症状,覚せい亢進症状等が現れることを特徴とする精神障害」とのPTSDの一般的な定義とも矛盾しないし,前記のDSM-Ⅳ基準が,外傷的出来事の非日常性を不可欠の要素とせず,患者が実際にどのように感じたかをも考慮する基準であることを鑑みれば,原告の本件事故における体験は,原告自身にとっては同基準にいう「危うく死ぬ,または重傷を負うような出来事」に直面したものと評価しうるものであり,同基準の「強い恐怖,無力感ま 準であることを鑑みれば,原告の本件事故における体験は,原告自身にとっては同基準にいう「危うく死ぬ,または重傷を負うような出来事」に直面したものと評価しうるものであり,同基準の「強い恐怖,無力感または戦慄」を覚えるものであったと認めうるものであるから,結論的には,原告の症状は,公立陶生病院神経精神科での診断のとおり,本件事故によるPTSDであると認めて差し支えないものと解される。 この点,前述の松下正明ら編集の文献でトラウマの原因となるものの例示としては,戦争・自然災害・大規模人的災害や暴力犯罪,性暴力,虐待,交通事故が挙げられており,F医師も証人尋問において,犬に咬まれてPTSDを発症するという症例はF医師自身他に経験が無く,学会の報告例も聞いていない旨を述べている。しかし,前述したDSM-Ⅳの緩和された基準の考え方が比較的新しいものであることからすれば,上記の文献に動物による負傷の事例が例示として上がっていないことや他に原告のような犬に咬まれた症例がないことは,本件における原告の症状がPTSDであるとの認定を妨げるものではない。 4 争点(4)について(1) 治療費 5万3735円証拠(甲19の1ないし12)によれば,原告は本件事故による左下腿部咬創,左膝内障及び精神障害の治療のための治療費として,公立陶生病院に対して上記の金額を支出したことが認められ,原告が上記の金額を超えて治療費を支出したことを裏付ける証拠はない。 (2) PTSDによる原告の逸失利益についての被告らの負担分569万0496円ア証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば原告は本件事故当時無職であったことが認められる。とすれば,原告が本件事故によって現実に 569万0496円ア証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば原告は本件事故当時無職であったことが認められる。とすれば,原告が本件事故によって現実に休業を余儀なくされたという関係にはなく,厳格な意味での休業損害という費目の損害は原告に発生していないとみるのが相当である。 イしかし,証拠(甲8,11,証人D,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告はH大学コンピューターサイエンス課程の学士課程,修士課程を修了し,同大学のコンピューターサイエンスの博士号を取得するなど高学歴を修めていること,東京でコンサルタント会社のIを設立しコンピューター大手のIBM社関連のコンサルタント業務を中心に高収入を得ていたこと,本件事故の直後である平成12年1月からは名古屋においてJ社と日本企業向けのインターネットコンサルティングやコンピューターエンジニア向けのセミナーを開催する新事業を計画中であったことが認められ,原告のコンピューターに関する知識や技能の高さが窺われる。 昨今の経済社会においてコンピューター関連の技能を有する労働者が高い評価を受けていることは周知の事実であることからすれば,原告が本件事故当時無職であったとしても,近い将来就労の機会を得て,平均的な日本人の大卒労働者程度の水準の収入を得る蓋然性は低くはなかったものと認められる。 ウそうだとすれば,原告に本来の意味での休業損害は認められないとしても,前記3認定の本件事故によるPTSDにより原告が労働能力を失ったと評価できる限度においては,原告が主張する休業損害に相当する期間中における得べかりし利益を失い,同額の損害を被ったと認めることができるというべきである。 証拠(甲8,証人D,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は本件事故 する休業損害に相当する期間中における得べかりし利益を失い,同額の損害を被ったと認めることができるというべきである。 証拠(甲8,証人D,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は本件事故以降,PTSDによる精神的障害のため,突然泣き出したり声を荒げたりするなど精神状態が不安定になり電話でのやりとりも含めて他人との会話が困難となったこと,人と約束をしたり期日に仕事を間に合わせるというような仕事上の基本的な決まりを実行することも困難となっていることが認められ,一方,電子メールのやりとりは精神的負担が少なくある程度できること,食事・排泄・入浴や簡単な掃除などの最低限の家事は大体できることが認められる。 そして,前記3(1)認定の原告の症状と上記認定事実を考慮すれば,原告は本件事故によるPTSDにより労働能力の少なくとも56パーセントを喪失したもの(自動車損害賠償保障法施行令2条の後遺障害等級表7級4号所定の神経系統の機能または精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないものに相当する。)と認めるのが相当である。また,F医師の証言によれば,PTSDの症状は発症からだいたい6年くらい経つと落ち着くと言われているから,上記の労働能力喪失状態は一応数年は継続するものと推認できる。 もっとも,前記の原告がJ社と計画していた新事業が成功するか否かは未知数であると言わざるを得ない。また,賃金センサスは,日本企業において特徴的に見られる年功序列・終身雇用の制度の下,労働者が基本的には一つの企業で定年まで就労し,年齢に応じて漸増的に賃金が上昇するシステムを前提として算定されており,結果として年齢が高くなるほどきわめて高収入になる性質を持っている。そうすると,原告のように年功序列・終身雇用を前提としない就労態様においてそのま に賃金が上昇するシステムを前提として算定されており,結果として年齢が高くなるほどきわめて高収入になる性質を持っている。そうすると,原告のように年功序列・終身雇用を前提としない就労態様においてそのまま原告の年齢層の賃金センサスを適用するのは適切ではない面が少なからずあると認められるから,原告の逸失利益を算定するに当たっては,確実なところで年齢計の賃金センサスを適用するのが相当である。 そこで,平成12年度版賃金センサスの産業計・企業規模計・男性労働者・大卒・年齢計の平均年収677万4400円を基礎として,原告が休業損害期間として主張する平成11年12月から平成14年5月まで30か月分の労働能力喪失による原告の逸失利益を算出すると,948万4160円となる。 (計算式) 6,774,400×30/12×0.56=9,484,160エところで,原告は本件事故当時満49歳の健康な男性であり(証人D,原告本人),過去においても精神的に病的な症状を示したことがあったことを認めるに足りる証拠はないが,証拠(甲7の1,甲9,証人F)及び弁論の全趣旨によれば,外傷的事件によるPTSDの発症に関しては,同じ体験をしてもその人がPTSDを発症するかはそれぞれの人の個人的な脆弱因子に関わり同じ外傷的事件を経験した人の全員が発症するわけではないこと,脆弱因子は身体的,精神的,社会的,遺伝的,環境的な様々な因子が影響していること,DSM-Ⅳ基準による診断の場合,PTSDを発症するかどうかは患者個人の感じ方に依るところが大きいことからすると,PTSD発症の原因については心因性のものの影響が強く,本件の犬に咬まれたことによる原告のPTSDの発症についても原告の性格などの心因的素因が少なからず競合して発症したものと推認できる。そうだとすれば,PTSD 原因については心因性のものの影響が強く,本件の犬に咬まれたことによる原告のPTSDの発症についても原告の性格などの心因的素因が少なからず競合して発症したものと推認できる。そうだとすれば,PTSDにより原告に発生した損害の全てを被告らに負担させるのは公平な損害の分担という損害賠償法の基本理念に照らして相当ではない。 そこで,過失相殺の法理(民法722条)を類推適用して,前認定のPTSDによる原告の逸失利益の損害948万4160円については被告らに負担させる損害額を一部減額するのが相当であり,本件に現れた諸般の事情を考慮してその40パーセント減額した残額である569万0496円の限度で被告らに負担させるのが相当である。 (3) 慰謝料 150万円証拠(甲16,18)によれば,原告は,本件事故による上記傷害及び精神障害の治療のため,公立陶生病院整形外科に平成11年12月11日から平成13年10月4日まで計27回通院し,同病院精神科に平成12年2月7日から平成14年5月9日までの間に計51回通院したことが認められる。上記通院日数に加え,犬に対する恐怖心から外出することもままならないという原告のPTSDの症状を考慮すれば,原告の通院等に伴う精神的苦痛は小さくないものと認められることから,原告の本件事故についての慰謝料としては上記の金額をもって相当と認める。 (4) 弁護士費用 75万円原告は本件事故による損害の賠償を求めるため,その訴訟提起及び遂行を弁護士である訴訟代理人に委任したが,そのための費用として上記金額の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (5) 損害の填補 10万円証拠(甲2,10,被告 ある訴訟代理人に委任したが,そのための費用として上記金額の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (5) 損害の填補 10万円証拠(甲2,10,被告A本人)によれば,被告らは本件事故の見舞金名目でDを介して原告に対して金10万円を支払っていることが認められる。 (6) まとめ以上の検討によれば,被告らは,原告に対し,連帯して(1)から(4)までの合計額799万4231円から同(5)の10万円を控除した残金789万4231円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成13年6月10日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務があることになる。 第3 結論よって,原告の請求は,被告に対し不法行為による損害賠償金789万4231円及びこれに対する平成13年6月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,61条を,仮執行の宣言について同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第6部裁判官氣賀澤耕一(別紙省略)
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