平成29(行コ)380 勧告処分等差止請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年6月28日 東京高等裁判所 その他
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判決文本文6,450 文字)

平成30年6月28日判決言渡平成29年(行コ)第380号勧告処分等差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成29年(行ウ)第126号)主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 公認会計士・監査審査会(以下「審査会」という。)は,インターネット上 に公開する自らのホームページ(URL:http://www.fsa.go.jp/cpaaob/)に原判決別紙2記載の公表文を掲載してはならない。 3 審査会は,平成29年6月8日に金融庁長官に対して公認会計士法41条の2の規定に基づき控訴人に対して行政処分その他の措置を講ずるよう勧告した事実を公表してはならない。 第2 事案の概要等 1 審査会は,平成29年6月8日付けで,監査法人である控訴人に対し,公認会計士法(以下「法」という。)41条の2に基づき,行政処分その他の措置を講ずるよう金融庁長官に勧告し(以下「本件勧告」という。),これを同日記者発表するとともに,審査会のホームページに原判決別紙2記載の公表文を 掲載し,本件勧告の公表を継続している(以下,上記掲載の方法による公表とその他の方法による公表を区別せずに「公表」ということがある。)ところ,本件は,控訴人が,被控訴人に対し,本件勧告の公表は違法な行政処分に当たり,本件勧告が今後も公表されることによって控訴人において事業経営上の回復することのできない損害を被るなどと主張して,行政事件訴訟法(以下「行 訴法」という。)3条7項所定の差止めの訴えとして,本件勧告の公表(上記 掲載の方法によるものと,その他の方法によるもの)の差止めを求める事案である。 原審は本件訴えをいずれも却下 訴法」という。)3条7項所定の差止めの訴えとして,本件勧告の公表(上記 掲載の方法によるものと,その他の方法によるもの)の差止めを求める事案である。 原審は本件訴えをいずれも却下し,控訴人が控訴した。 2 関係法令等の定め,前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張を付加するほかは,原判決の 「事実及び理由」第2の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正)(1) 原判決5頁21行目の「監査事務所」を「監査事務所(公認会計士,外国公認会計士又は監査法人をいう。以下同じ。)」と改める。 (2) 同6頁22行目の「実施体勢」を「実施態勢」と,同頁25行目の「品質 管理体勢」を「品質管理態勢」とそれぞれ改める。 3 当審における控訴人の補充主張⑴ 本件勧告の公表により,控訴人は,その会計専門家としての職業上の中核的利益の部分において名誉・信用の法益を著しく侵害され,業務上の著しい被害を受けており,その監査法人としての存立の危機に瀕している(甲30)。 被控訴人は,法41条の2に基づく勧告は,被控訴人に属する1つの行政機関が他の行政機関に対して行う行政機関相互の手続に過ぎず,公権力の行使が行われているのではないとするが,一般人にとって,「勧告」と「処分」の区別はない。本件勧告の公表により,控訴人に重大な被害が発生し,控訴人がそのような重大な被害の受忍を強いられている以上,公表行為が対象監査法人の 名誉・信用棄損を「直接の」目的としてされたものではないとしても,被害者はその権利・利益の侵害を受けているのであるから,司法的救済が必要である。 ⑵ア本件勧告の公表は,差止請求の対象となる事実行為(その他公権力の行使 」目的としてされたものではないとしても,被害者はその権利・利益の侵害を受けているのであるから,司法的救済が必要である。 ⑵ア本件勧告の公表は,差止請求の対象となる事実行為(その他公権力の行使に当たる行為)に該当する。 行政事件訴訟特例法(以下「特例法」という。)の廃止後,行訴法は,取 消訴訟の対象を特例法の「行政庁の処分」の取消訴訟に限定することをやめ,その上で,行訴法の対象を公権力の行使に関する不服の訴訟(3条の抗告訴訟)及び「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」にまで拡大した。このような立法過程の中で,行訴法3条2項の「処分」の定義を「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」と定めている。平成16年法律第84 号による行訴法の改正により新しく制定された差止めの訴え(行訴法3条7項)は,行政庁がその「処分」をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟と定義されているが,この「処分」は,特例法上の「行政庁の処分」と同義ではなく,事実行為的処分に当たる公権力の行使(権力的事実行為)が含まれており,行政庁の一方的意思決定に基づき,特定の行政目的のために国 民の身体,財産等に実力を加えてその受忍を強要し,行政上必要な状態を実現させようとする権力的行為も差止めの対象となる。平成16年法律第84号による行訴法の改正は,そのような事実行為的な公権力の行使の場面での活用をも期待して,差止めの訴えを法定抗告訴訟に引き上げたのである。 本件勧告の公表は,行政庁相互間のやり取りであるとされる形を取りつつ も,その中身は,控訴人を名指しした上で,控訴人の監査業務に不備・不十分があるので行政処分をすべきであるとの重大な名誉毀損・信用毀損情報を,公権力の権威のもとに一方的に広く,かつ無制約・無期限に流布し,それによ ,控訴人を名指しした上で,控訴人の監査業務に不備・不十分があるので行政処分をすべきであるとの重大な名誉毀損・信用毀損情報を,公権力の権威のもとに一方的に広く,かつ無制約・無期限に流布し,それにより生ずる累積的かつ重大な損害(ないしは致命的な損害)を受忍するよう,控訴人に強いる積極的な事実行為であるから,本件勧告の公表は, 「その他公権力の行使に当たる行為」として,差止めの対象となる「処分」に該当することは明らかである。 イ平成28年最高裁判決は,防衛大臣による厚木飛行場における自衛隊機の運航に係る権限行使が違法であるとして,周辺住民がその運航権限の行使の差止めを求める訴えを,行訴法3条7項に定める差止めの訴えに該当するも のとして適法と認め,本案の判断をしている。自衛隊機の運航に係る防衛大 臣の権限行使といっても,それは,行政内部における指揮・命令権の行使であって,周辺住民を名宛人としてなす公権力の行使ではないから,法律行為的処分行為ではあり得ず,また周辺住民に対して「直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定する」権限の行使でもない。これは,事実行為としての権限行使であり,その他公権力の行使に当たる行為である。平成28年 最高裁判決は,差止めの訴えの対象となる公権力の行使として,事実行為により人民の権利・法益を侵害する形態の公権力の行使も差止めの訴えの対象となることを判示しているのであり,本件においてもその趣旨が適用されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の本件訴えはいずれも不適法であると判断する。その理由は,以下のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから,これを引用する。 不適法であると判断する。その理由は,以下のとおり補正し,次項に当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) ⑴ 原判決13頁4行目冒頭から同頁9行目末尾までを次のとおり改める。 「 これに対し,控訴人は,行訴法は,特例法下における「処分」から「処分その他の公権力の行使に当たる行為」に拡張し,さらに,平成16年法律第84号による行訴法の改正によって,公定力を排除するための取消訴訟とは別に差止訴訟を法定したのであるから,古典的な意味での「処分」に当てはまらず, 取消訴訟の対象とならないとしても,公権力の行使により一方的に控訴人の権利利益を重大に侵害する事実行為すなわち権力的事実行為は,行訴法3条2項所定の「その他公権力の行使」に該当し,差止訴訟の対象となると主張する。 しかし,平成16年法律第84号による行訴法改正によって設けられた差止めの訴えは,一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそ れがある場合に,取消訴訟と異なり,処分又は裁決がされる前に,行政庁がそ の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める事前救済のための訴訟であると解されるのであり,その文理が前示のとおりであることをも踏まえて,処分の取消しの訴えの対象となる「処分」と差止めの訴えの対象となる「処分」とは同義と解すべきである。控訴人の主張は採用することができない。」 (2) 同15頁9行目の「鑑み,」の次に「当該勧告は,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するという法律効果が付与されていると認められるものとして,」を加える。 (3) 同15頁15行目の「自衛隊機の」から同頁17行目の「ことから」ま は,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定するという法律効果が付与されていると認められるものとして,」を加える。 (3) 同15頁15行目の「自衛隊機の」から同頁17行目の「ことから」までを「防衛大臣は,自衛隊に課せられた任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括 し,その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされ,自衛隊機の運航は,このような防衛大臣の権限の下において行われるものであるが,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義 務付けるものであり,そうすると,その権限の行使は,騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,」と改める。 ⑷ 同15頁19行目の「運行」を「運航」と改める。 2 当審における控訴人の補充主張について⑴ 控訴人は,本件勧告の公表により,その会計専門家としての職業上の中核的 利益の部分において名誉・信用の法益を著しく侵害され,業務上の著しい被害を受けており,一般人にとって「勧告」と「処分」の区別はなく,本件勧告の公表により,控訴人に重大な被害が発生し,その受忍を強いられている以上,公表行為が対象監査法人の名誉・信用棄損を「直接の」目的としてされたものではないとしても,司法的救済が必要であると主張する。 しかし,行訴法3条7項所定の差止めの訴えは,国又は地方公共団体が公権 力の行使として行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを対象とするものと解すべきであること,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表 行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを対象とするものと解すべきであること,法41条の2に基づく審査会の勧告がされた事実を公表する行為は,審査会の保有する情報を投資者の保護等の目的から公開するという事実上の行為であり,その効果についても,対象監査法人につき権利がは く奪され又は義務が課せられるものではなく,公表により対象監査法人につき信用の低下等が生ずることがあるとしても,それは事実上の不利益にとどまるものというほかないこと,審査会の勧告は,審査会から金融庁長官に対してされる行政機関相互間の行為であって,これと金融庁長官の行政処分とを一体のものとして捉えることはできず,本件勧告を公表する行為をこれらと一体のも のとしてその処分性を肯定することもできないことは,前記1説示のとおりである。本件勧告の公表により,控訴人について信用の低下等が生ずるとしても,それは,公表内容が勧告の対象となった監査法人等の顧客層に評価された上での反射的・間接的なものというべきであって,上記の判断を左右するものではない。控訴人の主張は採用することができない。 (2) 控訴人は,平成16年法律第84号による行訴法の改正により新しく定められた差止めの訴え(行訴法3条7項)の対象は,特例法上の「行政庁の処分」と同義ではなく,行政庁の一方的意思決定に基づき,特定の行政目的のために国民の身体,財産等に実力を加えてその受忍を強要し,行政上必要な状態を実現させようとする権力的行為も差止めの対象となるところ,本件勧告の公 表はこれに該当すると主張する。 しかし,平成16年法律第84号による行訴法改正によって設けられた差止めの訴えは,一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生 るところ,本件勧告の公 表はこれに該当すると主張する。 しかし,平成16年法律第84号による行訴法改正によって設けられた差止めの訴えは,一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に,取消訴訟と異なり,処分又は裁決がされる前に,行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める事前救済のための訴 訟であると解されるのであり,文理上,行訴法3条7項の「処分」について同 条2項の「処分」と別の定義は定められていないこと等をも踏まえて,処分の取消しの訴えの対象となる「処分」と差止めの訴えの対象となる「処分」とは同義と解すべきであることは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採用することができない。 (3) 控訴人は,平成28年最高裁判決は,防衛大臣による厚木飛行場における 自衛隊機の運航に係る権限行使の差止めを求める訴えを,行訴法3条7項に定める差止めの訴えに該当するものとして,適法と認めており,事実行為としての権限行使も差止めの訴えの対象となることを判示しているとして,本件においてもその趣旨が適用されるべきであると主張する。 しかし,平成28年最高裁判決は,防衛大臣が,自衛隊機の運航を統括し, 自衛隊機の航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされ,自衛隊機の運航は,このような防衛大臣の権限の下で行われるものであるが,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛大臣の権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務付 けるものであり,そうすると,その権限の行使は,騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,公権力の行使に当たり, 限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務付 けるものであり,そうすると,その権限の行使は,騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,公権力の行使に当たり,それによって個々の国民の法的地位に直接の法的効果が生ずるものであることを前提として,自衛隊機の運航の差止めを求める訴えの適法性を肯定したものと解され,本件とは事案を異にするものであることは,前記1説示のとおりである。控訴人の主張は採 用することができない。 3 結論よって,控訴人の本件訴えをいずれも却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第14民事部 裁判長裁判官後藤博 裁判官中山直子 裁判官藤岡淳(別紙1省略)

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