平成30(ワ)19730等 損害賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年3月11日 東京地方裁判所
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令和2年3月11日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成30年(ワ)第19730号損害賠償等請求事件(第1事件)平成30年(ワ)第27525号損害賠償等請求事件(第2事件)口頭弁論終結日令和元年12月25日判決 第1事件原告兼第2事件原告株式会社TOKYOBASE同訴訟代理人弁護士大沼邦匡第1事件原告訴訟復代理人兼第2事件原告訴訟代理人弁護士 杉山央第2事件原告訴訟代理人弁護士船津多香子 古木麻衣(以下「第1事件原告兼第2事件原告」を「原告」という。)第1事件被告A 第2事件被告B 上記両名訴訟代理人弁護士高橋宣人 韓泰英主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告Aは,アパレル事業に,同被告の原告退職時における原告の従業員の氏名,電話番号,メールアドレス及び住所の情報を使用してはならない。 2 被告Aは,原告に対し,160万円及びこれに対する平成30年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え 3 被告Bは,アパレル事業に,同被告の原告退職時における原告の従業員の氏 名,電話番号,メールアドレス及び住所の情報を使用してはならない。 4 被告Bは,原告に対し,160万円及びこれに対する平成30年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え第2 事案の概要 1 本件は,原告が,原告の従業員であった被告らに対し,被告らが,①原告の 従業員の違法な引抜行為をし,②その際に,原告の営業秘密である従業員の氏名,住所等の営業秘密に係る情報を不正に使用したとして, 件は,原告が,原告の従業員であった被告らに対し,被告らが,①原告の 従業員の違法な引抜行為をし,②その際に,原告の営業秘密である従業員の氏名,住所等の営業秘密に係る情報を不正に使用したとして,各被告に対し,民法709条に基づき,その損害の一部である160万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めるとともに,不正競争防止法3条1項に基づき,同情報の使用の 差止めを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者 ア原告は,アパレルブランド及びアパレルショップを運営する株式会社である。同社の販売するブランドとしては,平成27年に取扱いを始めた「UNITEDTOKYO」(略称「UT」)のほか,「STUDIOS」(略称「ST」)及び「CITY」(略称「CT」)などがあった(乙6,7)。 イ被告Aは,平成24年2月16日,原告に雇用され(甲5),人材開発チームのマネージャーを務めていたが,平成29年8月頃,退職の意向を示し,平成29年12月25日付けで原告を退職した。 ウ被告Bは,平成26年3月21日頃,原告に雇用され(甲25),その執行役員として,「UT/CT商品部」の部長を務めていたが,平成30 年2月5日,退職の意向を示し,同年5月12日付けで原告を退職した (甲8)。 (2) 被告ら及びその他の原告従業員の退職及び転職の経緯等ア被告Bの部下であり,UNITEDTOKYOに係る事業(以下「本件事業」という。)の商品企画部門(以下「UT商品部」という。) 。 (2) 被告ら及びその他の原告従業員の退職及び転職の経緯等ア被告Bの部下であり,UNITEDTOKYOに係る事業(以下「本件事業」という。)の商品企画部門(以下「UT商品部」という。)のデザイナーであるC及びDは,平成30年2月5日,原告に対し,退職の意 向を示した。C及びD(以下,被告Bと併せて「被告Bら3名」という。)は,同月20日,原告に退職届を提出し(乙5),Dについては同年5月11日付け,Cについては同月12日付けで,原告を退職した。 イ被告Bは,原告を退職後,衣料品の販売及び輸入などを業とする株式会社MAISONSPECIALの取締役に就任し,被告Aは,同社の採 用担当となり,D及びCも,同社に転職した。同社は,アパレルブランドなどを手掛ける株式会社サザビーリーグ(以下「サザビーリーグ」という。)が,新規のファッションブランドを展開するため,平成30年7月24日,その100%出資で設立した会社であった。(甲12,21)(3) 営業秘密に係る誓約 被告Aが原告に就職する際に提出した「個人情報に関する誓約書」(甲5)には以下の記載があり,被告Bが原告に就職する際に提出した「秘密保持等に関する誓約書」(甲25)にも基本的に同文の記載がある。 ア第1条(秘密保持の制約)私は,貴社就業規則等を遵守し,誠実に職務を遂行することを誓約する とともに,以下に示される貴社の技術上又は営業上の情報(以下「秘密情報」という。)について,貴社の許可なく,如何なる方法をもってしても,開示,漏洩もしくは使用しないことを約束致します。 ① 業務で取扱う顧客情報等の個人情報② 財務,人事,組織等に関する情報 ③ 他社との業務提携および業務取引に関する情報 ④ その他,貴社が秘密保持対 しないことを約束致します。 ① 業務で取扱う顧客情報等の個人情報② 財務,人事,組織等に関する情報 ③ 他社との業務提携および業務取引に関する情報 ④ その他,貴社が秘密保持対象として取扱う一切の情報イ第4条(退職後の秘密保持)秘密情報については,貴社を退職した後においても,開示,漏洩もしくは使用しないことを約束致します。また秘密情報が記載・記録されている媒体の複製物および関係資料等がある場合には,退職時にこれを貴社にす べて返還もしくは廃棄し,自ら保有致しません。 3 争点(1) 被告らが原告の従業員に違法な転職勧誘をしたか(争点1)(2) 被告らが原告の営業秘密を不正に使用したか(争点2)(3) 損害の有無及び額(争点3) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告らが原告の従業員に違法な転職勧誘をしたか。)について(原告の主張)⑴ 被告らは,以下のとおり,原告の従業員に対し,原告を退職し,被告Aが参画するサザビーリーグの事業(以下「本件競業事業」という。)に参加す るよう勧誘し,原告の従業員に対する引抜行為(以下「本件引抜行為」という。)を行った。 ア被告Aの行為(ア) 被告Aは,原告在職中の平成29年11月頃,原告の人事・採用担当者であるEに対し,「独立するので一緒にやらないか。」などと勧誘し た。 (イ) 被告Aは,原告退職後の平成29年12月頃,原告の香港店店長であったFに対し,「日本に戻って営業のトップをやってくれないか。」などと勧誘した。 (ウ) 被告Aは,平成30年2月5日以前に,被告Bに対し,原告を退職し, 本件競業事業に参加するよう勧誘した。被告Aは,同じ頃,Cに対して も,同様の勧誘した。 (エ) 被告Aは,平成3 ウ) 被告Aは,平成30年2月5日以前に,被告Bに対し,原告を退職し, 本件競業事業に参加するよう勧誘した。被告Aは,同じ頃,Cに対して も,同様の勧誘した。 (エ) 被告Aは,平成30年1月頃,被告Bをして,Dに対し,自分は原告を退職するが,転職先で「一緒にやらないか」などと述べさせることで,本件競業事業に勧誘し,Dに退職届を提出させた。 イ被告Bの行為 (ア) 被告Bは,平成30年2月5日以前に,UT商品部の中心メンバーであったC及びDに対し,原告を退職し,本件競業事業に参加するように勧誘し,同年5月,C及びDとともに退職した。 (イ) 被告Bは,平成30年5月頃,Dが翻意しようとすると,Dが共に退職しないと「出資の話が無くなってしまう。」,「自分を路頭に迷わせ るのか。」などと強い口調で申し向け,Dが翻意することを妨げた。 (2) 本件引抜行為は,その手段・態様において,社会的相当性を欠き,自由競争の範囲を逸脱するものとして,原告に対する不法行為を構成するというべきである。 ア被告Aは原告の従業員であったE及びFを引き抜こうとしたほか,被告 Bらに対する引抜きを行い,被告BもD及びCの引抜きを行った結果,被告Bら3名は現に退職している。このように,本件引抜行為は,具体的・確定的な引抜工作であり,特に,C及びDの移籍は,本件競業事業において,サザビーリーグから出資を受けるための条件となっており,被告Bは,Dが翻意しようとしたのに,それを強い口調で妨げるなどして妨害した。 イ被告Bら3名は,本件事業を行っているUT商品部に所属していた5名のうち,商品戦略の立案や商品デザインを行うトップ3であり,このような主要メンバーを引き抜くことにより,本件事業には大きな影響が生じた。 しかも,被告 本件事業を行っているUT商品部に所属していた5名のうち,商品戦略の立案や商品デザインを行うトップ3であり,このような主要メンバーを引き抜くことにより,本件事業には大きな影響が生じた。 しかも,被告らが本件引抜行為を行った時期は,本件事業がようやく立ち上がり,これから投資を回収できるかできないかという時期であり,事業 として不安定な時期であった。 また,被告Bは,退職するに当たり,十分な引継ぎをせず,取引先との関係が悪化した。上記のとおり,被告Bら3名の退職時にUT商品部は不安定な時期にあり,同被告らの退職後に残される2名は特段の役職者でもないという状況において,わずか3か月で全ての引継ぎを受けるのはそもそも困難なことであった。 実際,原告が様々な人員の手当をしたにもかかわらず,C及びDのようにチーフデザイナーとなるまでのスキルを有する者を確保することができず,慢性的にデザイナーが不足した。本件引抜行為の後,本件事業の業績は低下し,原告の営業努力によっても,その立直しは,平成31年春頃を予定せざるを得なかった。 ウ被告Aが,本件引抜行為をし得たのは,原告の人材開発部のマネージャーとして,原告の従業員の個人情報や能力等に情報に触れることができたからである。これらは守秘義務の対象となる情報であり,被告Aが,原告の従業員として,原告に対する誠実義務を負う時期にEの引抜きを行っていることも考慮すれば,本件引抜行為は,信義に反する行為であるという べきである。 しかも,被告Aは,退職に当たり,原告代表者や取締役のGに対し,引抜行為はしないと何度も明言していたにもかかわらず,引抜行為をしていることを隠し続けていた。また,原告代表者は,平成30年2月頃,被告Aに対し,被告Bら3名の引抜きをやめるよ や取締役のGに対し,引抜行為はしないと何度も明言していたにもかかわらず,引抜行為をしていることを隠し続けていた。また,原告代表者は,平成30年2月頃,被告Aに対し,被告Bら3名の引抜きをやめるように求めたが,被告Aはこれ を拒否した。 エ被告Bも,UT商品部のトップとして,C及びDの個人情報や能力等に情報に触れることができたからこそ,本件引抜行為をすることができた。 これらも守秘義務の対象となる情報であり,被告Bが,原告の従業員として,原告に対する誠実義務を負いながら,これらの情報を利用し,上司と いう立場で勧誘行為をし,部下を引き連れて独立しようとしたことは,信 義に反するというべきである。しかも,被告Bは,平成30年2月7日には,原告と競業するサザビーリーグにおいて,本件競業事業に係る事業提案のプレゼンテーションまでしており,この点も信義に反し,正当な自由競争の範囲を超える行為である。 (被告らの主張) (1) 被告らが本件引抜行為をしたとの主張は否認する。被告Aが,EやF,被告B,C及びDに対し,転職の勧誘をし,あるいは,被告Bが,CやDに対し,転職の勧誘をしたとの事実は存在しない。被告Bら3名は,自らの意思で転職したものである。また,被告Bが,Dが退職を翻意するのを妨げたことはない。 (2) 転職の勧誘行為が違法となるのは,社会的相当性を欠くような手段,態様による場合に限られ,単に同時期に同一の部署から複数名が退職したというだけでは,むしろ適正な競争を活性化するものと評価され得る。本件では,以下のとおり,被告らによる何らかの勧誘行為があったとしても,その手段,態様は社会的相当性を逸脱するものではなかった。 ア被告Bら3名は,被告らの勧誘にかかわらず,原告における経験を活かし, のとおり,被告らによる何らかの勧誘行為があったとしても,その手段,態様は社会的相当性を逸脱するものではなかった。 ア被告Bら3名は,被告らの勧誘にかかわらず,原告における経験を活かし,自らの可能性を試すため,その自発的な意思により退職したにすぎない。実際,C及びDは,原告代表者から給与を約1.5倍にするなどの提案を伴う慰留を受けても,「別の角度からお互いに日本のファッションを盛り上げていきたいというのがおこがましいながら私の気持ちです。」な どとメールし,自発的に転職したものである。 イまた,原告は,被告Bらの退職によって,社会通念上,甘受すべき範囲を超える損害を被っているとはいえない。 被告Bら3名は,退職の3か月前である平成30年2月5日に退職の意向を原告に伝えており,原告が,人員を補充するなどし,その損害を回 避するための措置を執る時間的余裕は十分にあった。しかも,被告Bら 3名は,退職前に,商品の販売戦略や予算,在庫管理の方法,取引先に係る情報などの引継ぎを行っており,UT商品部の事業が継続し得る態勢を整えていた。 また,代替人員も確保されていた。すなわち,UT商品部には,マーチャンダイザーとしては,既に被告Bの後任であるHがいたが,被告Bの 退職前に,新たにIが入社した。デザイナーとしても,C及びDの外に2名が残り,平成30年5月29日,さらにJが入社した。Hは,Dの上長であり,CやDが,チーフデザイナーというわけでもなかった。しかも,UTブランドには,営業や販促を含め100名規模の従業員が関わっており,商品部の数名が退職しただけで,体制が崩壊するはずもな かった。 実際,被告Bら3名の退職後も,本件事業の売上げは増加している。原告の平成31年2月期の第2四半期まで(平成 関わっており,商品部の数名が退職しただけで,体制が崩壊するはずもな かった。 実際,被告Bら3名の退職後も,本件事業の売上げは増加している。原告の平成31年2月期の第2四半期まで(平成30年3月~8月)における売上高は21.6%増加しており,既存店の売上も102.1%~104.1%と増加を示している。原告は,事業計画を下方修正したと 主張するが,これは被告Bら3名の退職とは関係がない。 ウ原告には,自社の従業員の独立を支援する社風があるのであるから,従業員の退職等に伴う不可避的な損害は,甘受すべきである。実際上,原告の離職率は高く,毎年,約2割程度の従業員が退職している。また,原告自身,他社の従業員に対する勧誘を恒常的に行っており,それを自社の従 業員にも奨励しているのであるから,自社の従業員が勧誘されたとして,それを違法視することはできない。 エ本件訴訟の提起は,濫用的なものである。原告は,被告Bら3名の退職に当たり,そのことに法的問題があるなどとは指摘していない。本件訴訟は,被告らの職業遂行の自由をいたずらに圧迫,侵害するものであり,直 ちに棄却されるべきである。 2 争点2(被告らが原告の営業秘密を不正に使用したか)について(原告の主張)(1) 被告らの行為ア被告Aは,本件引抜行為に当たり,原告の従業員名簿及び従業員に関する評価書を利用し,従業員の電話番号その他の連絡先,給与水準,営業成 績,職務キャリア,社内評価及び家庭状況などの情報(以下「本件情報」という。)を使用し,本件競業事業を行うために必要な能力のある従業員を選定した。被告Aが勧誘したE及びFが被告らのラインとは異なる者であることは,被告らが原告の従業員名簿及び従業員に関する評価書を利用したことを示している 競業事業を行うために必要な能力のある従業員を選定した。被告Aが勧誘したE及びFが被告らのラインとは異なる者であることは,被告らが原告の従業員名簿及び従業員に関する評価書を利用したことを示している。 イ被告Bは,C及びDを本件競業事業のために勧誘し,もって,本件引抜行為をするに当たり,本件情報を使用した。 (2) 営業秘密性ア本件情報は,原告の個人情報等保護管理規程に則って管理されており,アクセス制限をし,パスワードも掛けられているので,秘密管理性がある。 イ本件情報は,事業を行う上で必要な人材に関する情報であり,事業活動に有用である。また,従業員の採用には,当然費用がかかることからしても,そのような人材に関する情報には有用性があるということができる。 ウ前記アのとおり,原告において,本件情報は秘密情報として管理されており,誰もがその内容を知ることができる状態ではないので,非公知性も 認めることができる。 エしかも,被告らは,原告に入社するに当たり,個人情報に関する誓約書を提出し,「業務で取り扱う…個人情報」及び「人事に関する情報」が秘密情報に当たることを認めている(甲5,25)。 (3) 不正競争防止法2条1項7号該当性 ア被告らは,人材開発チームのマネージャー又はUT商品部の商品責任者 として,原告から本件情報のアクセス権限を与えられていたが,原告の従業員を本件競業事業に引き抜く目的で本件情報を使用し,実際に退職の意思表示をさせたのであるから,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項7号の不正競争(不正使用)に該当する。 イ従業員の連絡先など,従業員同士で交換した情報であるとしても,個人 情報の保護に関する法律15条,16条が,個人情報の利用目的の特定と目的外利用の禁 7号の不正競争(不正使用)に該当する。 イ従業員の連絡先など,従業員同士で交換した情報であるとしても,個人 情報の保護に関する法律15条,16条が,個人情報の利用目的の特定と目的外利用の禁止を規定していることに照らせば,従業員が知った情報は,会社の事業のためにのみ使用することが許されるというべきである。 (被告らの主張)原告は,本件情報を使用して原告従業員に対し退職の意思表示をさせたと主 張するが,被告は,本件情報を使用して勧誘行為を行ったことはない。本件情報は,会社からの開示を待つことなく知り得る同僚の一般的な属性の範囲を超えるものではなく,勧誘行為に使用する必要性もない。原告は,個人情報の要保護性と不正競争防止法上の営業秘密性を混同するものであり,その請求には理由がない。 3 争点3(損害の有無及び額)について(原告の主張)⑴ 原告は,被告らによる本件引抜行為及び本件情報の不正使用によって,被告Bら3名が退職したため,少なくとも3名の採用活動を行わなければならなくなった。原告が,これら3名と同程度のレベルの従業員を採用するため に要する費用は,以下のとおりである。 ア被告Bについて年収1396万3900円×紹介料率35%=488万7365円イ Cについて年収957万4147円×紹介料率28%=268万0761円 ウ Dについて 年収746万9250円×紹介料率28%=214万円1790円(2) また,被告Bら3名はUT商品部の中核であったため,本件引抜行為の結果,チームを一から作り直す必要が生じた。そのため,原告は,平成31年2月期の事業計画について,営業利益を12億9655万円から11億4786万円に1億4869万円の下方修正をせざるを得なくなった。 果,チームを一から作り直す必要が生じた。そのため,原告は,平成31年2月期の事業計画について,営業利益を12億9655万円から11億4786万円に1億4869万円の下方修正をせざるを得なくなった。これは, 被告らの本件引抜行為によって生じた損害である。 また,平成30年3月から同年8月におけるUNITEDTOKYOに関するUT商品部の実際の営業利益をみても,予算と実績の間に1億5926万0500円もの差異が生じているところ,これは実際に生じた損害ということができる。 (3) したがって,被告Aは,前記(1)のア~ウの合計額及び同(2)の損害を賠償する義務があり,被告Bは,同(1)のイ及びウの合計額並びに同(2)の損害を賠償する義務がある(ただし,本件訴訟においては,それぞれに対し,その一部である160万円の支払のみを求める。)。 (被告らの主張) (1) 原告の主張(1)は否認又は争う。被告Bら3名の退職と採用活動との間に相当因果関係はない。原告は日常的に採用活動を実施していた上,原告には人材紹介インセンティブ制度という仕組みがあり,これにより人材を採用した場合,多くても30万円程度の費用しか要しない。なお,被告Bは,退職時において,原告の別のブランド(PUBLICTOKYO)のマーチャ ンダイザーを務めていたから,UT商品部の非代替的な要員であったというわけでもない。 (2) 原告の主張(2)も否認又は争う。原告は,事業計画の下方修正額を損害としているが,不法行為上の損害は現実に生じた損害であって,事業計画の修正額が損害となるわけではない。また,原告が,営業利益の下方修正をした として,それは主力業態のSTUDIOSの売上高が減ったことなどによる ものであるから,UT商品部に所属 業計画の修正額が損害となるわけではない。また,原告が,営業利益の下方修正をした として,それは主力業態のSTUDIOSの売上高が減ったことなどによる ものであるから,UT商品部に所属する被告Bらの退職とは関係がない。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。 (1) 原告の組織等ア原告は,平成30年2月頃において,160名程度の従業員を有し,その平均年齢は約29歳,平均勤続年数は3.8年である。原告の組織は,事業本部と管理本部から成り,事業本部には,UT/CT商品部のほかに,ST,CT,UT各営業部,EC部,ST商品部などが含まれ,管 理本部の下には管理部があり,管理部には人材開発,経理総務が置かれている。(甲8,28)イ被告Aが務めていた人材開発チームのマネージャーは,管理部に属し,その指揮系統は,代表取締役社長,取締役兼管理部長(兼管理本部長),被告Aという順であった。被告Bは,原告において,事業本部に属する UT商品部を含むUT/CT商品部の執行役員兼部長として,指揮系統上,代表取締役社長,取締役兼事業本部長に次ぐ地位にあった。(甲8)ウ C(メンズ担当)及びD(ウィメンズ担当)は,前記のとおり,平成30年5月に原告を退社するまで,デザイナーとしてUT商品部に属していた。被告Bら3名が退職届を提出した平成30年2月当時,UT商品 部には,企画担当としてK及Lが,メンズ担当のマーチャンダイザーとしてHが在籍し,被告Bら3名が退職する直前の平成30年5月7日,ウィメンズ担当のマーチャンダイザーとしてIが加入した。その後,同月29日,デザイナーとしてJが,同年10月1日に同じくデザイナ ーとしてHが在籍し,被告Bら3名が退職する直前の平成30年5月7日,ウィメンズ担当のマーチャンダイザーとしてIが加入した。その後,同月29日,デザイナーとしてJが,同年10月1日に同じくデザイナーとしてMが入社した。(甲8,争いのない事実) なお,10期下半期(平成29年9月~平成30年2月)において, 「上長」としてC及びDの人事評価を行ったのはHである(甲18)。 (2) 本件事業の売上高の推移等ア原告の平成31年2月期の第2四半期まで(平成30年3月~8月)における売上高は約57億円,営業利益は約4.7億円であり,売上高の約6割は,主力ブランドであるSTUDIOSによるものであり,UNIT EDTOKYOの売上高は約19.1億円で約3割を占めている。(乙6)イ本件事業(UT関係)の平成31年2月期の第2四半期まで(平成30年3月~8月)の上記売上げは,前年同期比で21.6%増であり(乙6),同第3四半期まで(平成30年3月~11月)の本件事業の売上げ は約34億円であり,前年同期比で21.0%増となっている(乙9)。 (3) 被告A及び被告Bら3名の退職の経緯ア被告Aは,平成29年8月頃,障害者向けのアパレル事業を起こすことを考えているなどとして,原告に退職の意向を示し,同年12月25日付けで,原告を退職した。被告Aは,退職に当たり,採用・人事を担当 していたEや香港店店長のFに対し,自らの新規事業に参加するように勧誘したが,E及びFはこれに応じなかった。(甲31,証人G2~4頁)。 イ被告Aは,平成29年12月頃,Gと電話で話をした際,商品企画のできる者の採用に苦労しているなどと述べ,平成30年1月頃,同証人と会 食をした際は,同事業について,メンズの商品企 頁)。 イ被告Aは,平成29年12月頃,Gと電話で話をした際,商品企画のできる者の採用に苦労しているなどと述べ,平成30年1月頃,同証人と会 食をした際は,同事業について,メンズの商品企画の担当者の採用に目途がつき,大手のアパレル会社との資本提携を考えているなどと述べていた。 (甲31,証人G4~6頁)。 ウ被告Bら3名が原告に退職の申し出をした翌日である平成30年2月6日,原告代表者と被告Aは会食をし,その際,被告Aは,原告代表者に対 し,被告Bら3名と事業をさせてほしいなどと依頼し,原告代表者は,本 件事業への影響が大きいとしてこれを拒絶した。被告Aと原告代表者は,同月13日頃にも電話で話をしたが,双方の主張は平行線のまま終わった。 (甲30,原告代表者4~7頁)エ原告代表者は,平成30年2月7日,Cと面談し,給与が月額約50万円(甲10)から100万円(乙12)に昇給させる旨の待遇改善案を提 示し,慰留をしたが(原告代表者9~10頁,14~15頁),Cは,同月22日,原告代表者に対し,LINE上で「新しい挑戦をしてみたいという気持ちが強く,やはり退社をさせていただきたいです。」などと連絡し,退職する意思に変わりがないと伝え,原告代表者は「了解!考えてくれてありがとう。」と返答した(乙10)。 オ原告代表者は,Dとも話合い,「チーフデザイナー」の肩書を付与し,同様に月額45万円前後(甲27)の給与を月額60万円にすることを提案するなどした(原告代表者18~19頁)。また,原告代表者及びGは,Dの配偶者も原告の従業員であったため,同人を通じて,退職を翻意するよう説得をしたが,結局,Dは翻意することなく,原告を退職した。(甲 31,32,証人G13~14,31頁) 2 争点1(被告ら 配偶者も原告の従業員であったため,同人を通じて,退職を翻意するよう説得をしたが,結局,Dは翻意することなく,原告を退職した。(甲 31,32,証人G13~14,31頁) 2 争点1(被告らが原告の従業員に違法な転職勧誘をしたか。)について(1) 原告は,被告A及び同Bによる本件引抜行為が違法な転職勧誘に当たると主張するところ,職業選択の自由の保障の観点からすると,従業員が,その在職中に,同僚の従業員等に対して自らが転職する同業他社への転職の勧誘 を行ったとしても,それをもって直ちに違法な引抜行為であるということはできず,当該行為が単なる転職の勧誘の範囲を超え,著しく背信的な方法で行われ,社会的相当性を逸脱した場合に不法行為を構成するというべきである。そして,当該行為が社会的相当性を逸脱した引抜行為であるか否かの判断においては,勧誘の方法・態様,引抜きをした従業員の地位や数,従業員 の転職が会社に及ぼした影響(代替要員の確保の容易性,売上高や利益の減 少の有無・程度等)等の事情を総合的に考慮すべきである。 (2) 前記前提事実及び上記1の認定事実によれば,被告Aは,原告を退職するに当たり,採用・人事を担当していたEや香港店店長のFに対し,自らの新規事業に参加するように勧誘するとともに,被告Bについては,被告Aにおいて転職を勧誘したか又は両者が意を通じて原告を退職したものと認めるの が相当である。また,UT商品部に所属するC及びDについては,被告Bが転職を勧誘し,被告Aもそのことを認識していたものと認めるのが相当である。 (3) そこで,被告A及び同Bによる勧誘行為が不法行為を構成するかどうかについて検討する。 ア勧誘の方法・態様に関し,原告は,被告らは,原告の営業秘密である本件情報(従 当である。 (3) そこで,被告A及び同Bによる勧誘行為が不法行為を構成するかどうかについて検討する。 ア勧誘の方法・態様に関し,原告は,被告らは,原告の営業秘密である本件情報(従業員の電話番号その他の連絡先,給与水準,営業成績,職務キャリア,社内評価及び家庭状況など)の記載された評価書等を使用し,本件競業事業を行うために必要な能力のある従業員を選定した上で,本件引抜行為を行ったものであると主張する。 しかし,原告はその従業員数が160名程度の規模の会社であり,被告Aは管理部門に所属していたのであるから,同部門に所属するEの人柄・能力は知悉しており,Fについては入社時期が近いことなどから相互に親交があったものと認められる(証人G3頁)。また,同被告は,被告Bら3名についても,その地位等に照らして,その職務キャリア,給与水準, 能力等はある程度把握していたと推認するのが相当であって,少なくとも,これらの者に対して勧誘行為を行うに当たり,評価書等を使用する必要性があったとは考え難い。 被告Bについても,C及びDは,同じ部門に属するのであるから,その人柄・能力は知悉していたものと考えられる。 このように,被告らは,同僚である原告従業員の勧誘に当たり,その評 価書等にアクセスして,これを使用する必要性があったとは考えられず,実際上も,被告らが評価書等を使用して原告従業員に対して勧誘行為を行ったことを示す具体的な証拠は存在しない。 イ被告らの勧誘による事業への影響に関し,原告は,被告らの行為により,UT部門のトップ3が引き抜かれることにより,本件事業に大きな影響が 生じ,その業績が悪化したと主張する。 (ア) しかし,原告の従業員数は全体として約160名であり,その主力ブ により,UT部門のトップ3が引き抜かれることにより,本件事業に大きな影響が 生じ,その業績が悪化したと主張する。 (ア) しかし,原告の従業員数は全体として約160名であり,その主力ブランドはSTUDIOSで,同ブランドの売上げが原告全体の売上げの約6割を占める上,UT事業についても,UT商品部のほかに,UT事業部が存在し,UTブランドの商品を販売している店舗は平成31年第 3四半期において16店舗に及ぶこと(乙9)に照らすと,被告Bら3名は,本件事業に関わる原告従業員の一部にすぎないというべきであって,勧誘の対象となる人数が多いということはできない。 また,原告は,右上に「2018/10/16」と印字された甲14の組織図に基づいてC及びDはチーフデザイナーであったと主張するが, 同様の形式の組織図(右上に「2018/6/19」と印字)には,C及びDは単に「UTM企画」又は「UTW企画」とのみ記載されており(甲8),同人らの人事評価書(甲18)や名刺(乙11)にも同人らが「チーフデザイナー」である旨の記載は存在しない。これによれば,C及びDは管理職に相当する地位にあったものではなく,まして,UT 部門のナンバー2及び3の地位にあったとは認められない。 (イ) 本件事業に関与していた被告Bら3名が退職の申し出をしたのは,退職の3か月前である平成30年2月であり,原告には,UT商品部の人員を補充するについて相応の期間があったものというべきである。 実際のところ,前記1(1)ウ記載のとおり,被告Bら3名が退職届を提 出した当時,UT商品部には,企画担当として2名が在籍し,その3か 月前にはメンズ担当のマーチャンダイザーとしてHが,被告Bら3名が退職する直前にはウィメンズ担当のマーチ が退職届を提 出した当時,UT商品部には,企画担当として2名が在籍し,その3か 月前にはメンズ担当のマーチャンダイザーとしてHが,被告Bら3名が退職する直前にはウィメンズ担当のマーチャンダイザーとしてIが加入し,デザイナーについても,平成30年5月29日にはJが加入し,同年10月にはもう一名加わっているものと認められる。 そうすると,原告は,被告Bら3名が退職した後,合理的な期間内に, 本件事業を維持・継続するに足る人員の補充をすることができたものというべきである。 (ウ) 本件事業の売上高は,前記1(2)のとおりであり,被告Bら3名が退職した前後にわたる平成31年2月期第2四半期及び第3四半期の本件事業の売上げは前年度比で20%以上増加しており,原告の主張する売上 高(原告準備書面(4)別紙1)に基づくとしても,被告Bら3名が退職することにより本件事業の売上高が顕著に減少したなどの事情は認められない。 (エ) 以上によれば,被告Bら3名が転職することにより,原告において同人らに代替する人員を確保することが困難であったということはできず, また,同人らの転職により本件事業の業績が大幅に悪化したなどの事情も認められない。 ウ原告は,被告Aが本件引抜行為を秘匿し,平成30年2月に被告代表者から本件引抜行為をやめるように求められても中止しようとしかなかったと主張する。 しかし,同僚の従業員等に対し,自らが転職する同業他社への転職の勧誘を行ったとしても,それをもって直ちに違法な引抜行為であるということはできないことは前記判示のとおりであり,被告Aが原告代表者の上記要請に応じなかったとしても,それをもって著しく背信的であると評価することはできない。 また,被告Aが原告代 ということはできないことは前記判示のとおりであり,被告Aが原告代表者の上記要請に応じなかったとしても,それをもって著しく背信的であると評価することはできない。 また,被告Aが原告代表者に被告Bら3名に転職の勧誘をしている旨を 告げたのは,平成30年2月であり,原告は,同人らが退職するまでの3か月間に,原告を退職しないように慰留する機会は十分にあったものというべきである。 実際のところ,上記1(3)エ,オのとおり,原告は,Cに対し,給与を2倍にするなどの条件を提示して慰留したが,Cは退職の意思を変えなか ったのであり,Dについても,昇給を含む条件を提示し,原告従業員である配偶者を通じるなどして慰留したものの,Dは退職の意思を変えなかったものと認められる。このように,C及びDは,被告Bによる勧誘が転職の契機になったとしても,自らの意思で自発的に原告を退職したのであり,その勧誘方法が背信的であり,あるいは社会的相当性を逸脱しているとは 認められない。 なお,原告は,被告Bが,Dに対し,D及びCの移籍はサザビーリーグから出資を受けるための条件となっていることを告げ,原告を退職しないと「出資の話が無くなってしまう。」,「自分を路頭に迷わせるのか。」などと強い口調で申し向け,Dが翻意するのを妨げたと主張するが,これ を認めるに足りる的確な証拠はない。 エ被告AによるE及びFに対する転職の勧誘についても,その勧誘の方法・態様は,一般的な転職の勧誘の域にとどまるというべきであり,その方法・態様が背信的であり,あるいは社会的相当性を逸脱しているとは認められない。 オその他,原告は,被告Bは,退職するに当たり,十分な引継ぎをせず,平成30年2月7日には,原告と競業するサザビーリーグにおいて り,あるいは社会的相当性を逸脱しているとは認められない。 オその他,原告は,被告Bは,退職するに当たり,十分な引継ぎをせず,平成30年2月7日には,原告と競業するサザビーリーグにおいて,本件競業事業に係る事業提案のプレゼンテーションをしたなどと主張するが,これらの事実を認めるに足りる具体的かつ客観的な証拠はない。 カ以上を総合すると,被告A及び同Bによる原告従業員に対する本件引抜 行為は,いずれも,許容される勧誘の範囲にとどまるものであって,著し く背信的な方法で行われ,社会的相当性を逸脱するものとして不法行為を構成するということはできない。 したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。 3 争点2(被告らが原告の営業秘密を不正に使用したか。)について原告は,被告らが本件引抜行為に当たり原告の営業秘密である従業員名簿や 評価書等を不正に使用したと主張するが,前記2(3)アのとおり,被告らが,原告の従業員に転職の勧誘をするに当たり,原告の従業員名簿や従業員の評価書(甲18)を利用したと認めるべき証拠は存在しない。 したがって,上記評価書等の営業秘密性を検討するまでもなく,争点2に関する原告の主張は失当である。 4 結論以上のとおり,その余の争点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないので,これを全て棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 𠮷野俊太郎 裁判官 裁判官 𠮷野俊太郎 裁判官 今野智紀

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