- 1 - 主文 1 原判決主文第3項から第5項までを次のとおり変更する。 被上告人のその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 令和4年(行ヒ)第352号上告代理人清水幹裕、同溝内健介、同清水光及び同第353号上告代理人春名茂ほかの各上告受理申立て理由について 1 被上告人は、被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律(平成24年法律第63号。以下「一元化法」という。)の施行日(平成27年10月1日。以下「一元化法施行日」という。)前から、厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)附則8条の規定によるいわゆる特別支給の老齢厚生年金(以下「特老厚年金」という。)及び地方公務員等共済組合法(一元化法による改正前のもの。以下同じ。)附則19条の規定によるいわゆる特別支給の退職共済年金(以下「特退共年金」という。)の支給を受けていたが、厚生労働大臣及び上告人共済組合から、特老厚年金及び特退共年金の各一部につき平成28年5月分から支給停止とする処分を受けた。また、被上告人は、厚生労働大臣及び上告人共済組合から、特老厚年金及び特退共年金を平成29年4月分から減額する各処分を受けた。 本件は、被上告人が、上告人らを相手に、上記各処分のうち特老厚年金の一部を支給停止とする処分を除く3個の処分(以下、この3個の処分を併せて「本件各処令和4年(行ヒ)第352号、第353号退職共済年金及び老齢厚生年金減額処分無効確認乃至取り消し等請求事件令和6年9月13日第二小法廷判決(処分行政庁の表示)上告人国処分行政庁 352号、第353号退職共済年金及び老齢厚生年金減額処分無効確認乃至取り消し等請求事件令和6年9月13日第二小法廷判決(処分行政庁の表示)上告人国処分行政庁厚生労働大臣 A- 2 -分」という。)の取消しを求めるとともに、上記支給停止に係る特退共年金の支払を求めるなどする事案である。 2 特老厚年金及び特退共年金の支給等に関する法令の定め及び制度の概要は、次のとおりである。 特老厚年金及び特退共年金は、65歳未満の者であっても、60歳以上であることなどの所定の要件を満たす場合に支給されるものである(厚年法附則8条、地方公務員等共済組合法附則19条)が、いずれも、その受給権者が在職して賃金を得ている場合には、その一部又は全部の支給停止(以下「在職支給停止」という。)がされることがある。 一元化法の施行前は、特退共年金の在職支給停止の要件は特老厚年金の在職支給停止の要件と比べて厳格であったが、一元化法により、前者は後者に合わせることとされ、これに伴い、特退共年金の受給権者につき、在職支給停止による減額幅に上限を定めるなどの配慮措置が設けられた。 上記配慮措置のうち、特老厚年金の受給権者であって特退共年金の受給権者であるものが、一元化法施行日の前後において厚生年金保険の被保険者資格を有している場合における特老厚年金の在職支給停止に係るものについては、一元化法(令和2年法律第40号による改正前のもの)附則15条2項が規定している。同項の適用範囲については、「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生年金保険の保険給付等に関する経過措置に関する政令」(平成27年政令第343号)50条(以下「本件規定1」という。)が規定しており、特老厚年金の 厚生年金保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生年金保険の保険給付等に関する経過措置に関する政令」(平成27年政令第343号)50条(以下「本件規定1」という。)が規定しており、特老厚年金の受給権者であって特退共年金の受給権者であるものが厚生年金保険の被保険者(第一号厚生年金被保険者に限る。)であって一元化法の「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」であるときに同項が適用されるものとしている。 また、上記の場合における特退共年金の在職支給停止に係る配慮措置(以下、上記の特老厚年金の在職支給停止に係る配慮措置と併せて「本件配慮措置」とい- 3 -う。)については、一元化法(令和2年法律第40号による改正前のもの)附則17条2項において準用される同附則15条3項(「被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律及び地方公務員等共済組合法及び被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律の一部を改正する法律の施行に伴う地方公務員等共済組合法による長期給付等に関する経過措置に関する政令」(平成27年政令第347号。令和3年政令第229号による改正前のもの)36条1項による読替え後のもの。以下「本件規定2」という。)が規定しており、特老厚年金の受給権者であって特退共年金の受給権者であるものが一元化法の「施行日前から引き続き改正後厚生年金保険法第27条に規定する被保険者…であるもの」に当たるときには、一元化法(令和2年法律第40号による改正前のもの)附則15条2項の例によるものとしている。なお、厚年法(令和2年法律第40号による改正前のもの)27条は、同条の規定する被保険者には被保険者であった70歳以上の者であって所定の要件を満たすものを含むものとしている。 3 原審の ている。なお、厚年法(令和2年法律第40号による改正前のもの)27条は、同条の規定する被保険者には被保険者であった70歳以上の者であって所定の要件を満たすものを含むものとしている。 3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。 ⑴ 被上告人(昭和▲年▲月生まれ)は、昭和56年4月1日に東京都の教員として採用され、上告人共済組合の組合員資格を取得し、平成24年9月に特退共年金の受給権を取得したが、在職中であったことなどから、同年金は在職支給停止とされた。被上告人は、平成25年3月31日に定年退職したことにより、上記資格を喪失するとともに、特退共年金を同年4月分から受給することとなった。 ⑵ 被上告人は、平成25年4月1日、東京都の日勤講師に任命され、東京都立B高等学校(以下「B高校」という。)での勤務を開始した。都立高等学校については各校がそれぞれ厚生年金保険の適用事業所であるところ、被上告人は、同日、B高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を取得した。 被上告人は、平成26年4月1日に特老厚年金の受給権を取得し、同年金を同年5月分から受給していた。 - 4 -被上告人は、一元化法施行日(平成27年10月1日)以降、本件配慮措置の適用により、特老厚年金及び特退共年金の全額を受給していた。 ⑶ 被上告人は、平成28年3月31日、B高校での勤務を終了し、同年4月1日、日勤講師として、東京都立C高等学校(以下「C高校」という。)での勤務を開始した。これにより、被上告人は、同日、B高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、C高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を取得した。 ⑷ 厚生労働大臣は、被上告人がB高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を喪失したため特老厚年金に係 被保険者資格を喪失し、C高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を取得した。 ⑷ 厚生労働大臣は、被上告人がB高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を喪失したため特老厚年金に係る本件配慮措置の要件を満たさなくなったとして、平成28年6月7日付けで、被上告人に対し、特老厚年金の一部を同年5月分から在職支給停止とする処分をした。また、厚生労働大臣は、平成29年6月1日付けで、被上告人に対し、物価の下落を理由として、特老厚年金を同年4月分から減額する処分をした。 上告人共済組合は、被上告人がB高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を喪失したため特退共年金に係る本件配慮措置の要件を満たさなくなったとして、平成28年7月7日付けで、被上告人に対し、特退共年金の一部を同年5月分から在職支給停止とする処分をした。また、上告人共済組合は、平成29年6月1日付けで、被上告人に対し、物価の下落を理由として、特退共年金を同年4月分から減額する処分をした。 4 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件各処分は違法であるとしてその取消請求を認容するとともに、特退共年金の支払請求の一部を認容した。 複数の適用事業所を有する法人内での異動等により適用事業所が変更になったが、引き続き同一法人内において継続して就労しており、給与に関する雇用条件が異ならないような場合には、本件規定1に規定する者及び本件規定2に規定する者と同視して、本件配慮措置の適用があるものと解するのが相当であるところ、本件- 5 -は上記の場合に当たるから、被上告人の平成28年5月分以降の特老厚年金及び特退共年金に本件配慮措置を適用すべきである。 5 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ るから、被上告人の平成28年5月分以降の特老厚年金及び特退共年金に本件配慮措置を適用すべきである。 5 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 ⑴ 本件規定1は、本件配慮措置を適用するための要件の一つとして、一元化法施行日の前から引き続き厚生年金保険の被保険者資格を有する者であることを定めているところ、厚年法は、原則として、適用事業所に使用されること又は使用されなくなることを厚生年金保険の被保険者資格の得喪事由とし(6条1項、9条、13条1項、14条2号等)、厚生年金保険の被保険者資格を個々の適用事業所ごとに把握することとしているものと解される。そうすると、本件規定1にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」とは、一元化法施行日の前から有していた特定の適用事業所に係る厚生年金保険の被保険者資格を同日以後も継続して有する者をいい、同日の前から特定の適用事業所に使用されていたが、同日以後に別の適用事業所に使用され、当該特定の適用事業所に使用されなくなったことにより、当該特定の適用事業所に係る厚生年金保険の被保険者資格を喪失した者を含まないと解するのが、上記のような厚生年金保険の制度の仕組みと整合的であり、本件規定1の文理にも沿うものといえる。 原審は、適用事業所が変更になった場合であっても、その前後における雇用条件等に係る具体的な事実関係によっては、なお本件規定1に規定する者と同視すべきものとするが、このように解することは、年金に係る大量の事務を画一的かつ公平に処理する必要性を踏まえて本件配慮措置の適用範囲を明確にするという本件規定1の趣旨にそぐわないことに加え、厚年法及びその関係法令上、適用事業所間で異動があった場合に異動前の適用事業所における当該異動の時点での報酬額等 まえて本件配慮措置の適用範囲を明確にするという本件規定1の趣旨にそぐわないことに加え、厚年法及びその関係法令上、適用事業所間で異動があった場合に異動前の適用事業所における当該異動の時点での報酬額等を報告することを事業主に義務付けるなどの規定は置かれていないことに照らしても、相当とはいえない。 以上によれば、本件規定1にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を- 6 -有するもの」とは、一元化法施行日の前から有していた特定の適用事業所に係る厚生年金保険の被保険者資格を同日以後においても継続して有する者をいうものと解するのが相当である。 ⑵ 本件規定2にいう「施行日前から引き続き改正後厚生年金保険法第27条に規定する被保険者…であるもの」についても、本件規定1と同様の文言が使われていることに加え、特老厚年金及び特退共年金のそれぞれについて本件配慮措置が設けられた前記の経緯に照らせば、本件規定1にいう「施行日前から引き続き当該被保険者の資格を有するもの」と同義に解釈されるべきである。 そうすると、本件規定2にいう「施行日前から引き続き改正後厚生年金保険法第27条に規定する被保険者…であるもの」とは、一元化法施行日の前から有していた特定の適用事業所に係る厚生年金保険の被保険者資格を同日以後においても継続して有する者をいうものと解するのが相当である。 ⑶ 前記事実関係等によれば、被上告人は、平成28年4月1日、一元化法施行日の前から有していたB高校を適用事業所とする厚生年金保険の被保険者資格を喪失したというのであるから、これにより、本件規定1に規定する者及び本件規定2に規定する者に該当しなくなったものというべきであり、被上告人の同年5月分以降の特老厚年金及び特退共年金には本件配慮措置は適用されない。 6 以上によれば、原審の上記判 1に規定する者及び本件規定2に規定する者に該当しなくなったものというべきであり、被上告人の同年5月分以降の特老厚年金及び特退共年金には本件配慮措置は適用されない。 6 以上によれば、原審の上記判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨は理由がある。そして、前記事実関係等の下においては、被上告人のその余の主張を採用することができないことは明らかであるから、被上告人の本件各処分の取消請求は理由がなく、また、特退共年金の支払請求のうち原審が認容した部分も理由がない。したがって、これらはいずれも棄却すべきであるから、原判決主文第3項から第5項までを本判決主文第1項のとおり変更することとする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官岡村和美裁判官三浦守裁判官草野耕一裁判官- 7 -尾島明)
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