平成29年3月16日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(行コ)第63号休業補償給付不支給処分取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第142号)主文 1 原判決を取り消す。 2 半田労働基準監督署長が控訴人に対して平成24年11月28日付け及び平成25年3月5日付けでした労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,控訴人が,勤務先であったA病院(愛知県知多郡a町b番地所在。以下「本件病院」という。)において,いわゆるパワーハラスメントや退職の勧奨ないし強要を受けて精神障害を発病したとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく休業補償給付を請求したところ,処分行政庁(半田労働基準監督署長)から業務上の疾病とは認められないとして同給付を支給しない旨の処分を受けたため,その取消しを求めた事案である。 原審は,控訴人が業務上受けた心理的負荷が強かったとは認められないとして業務上の疾病であることを否定し,控訴人の各請求をいずれも棄却した。そこで,これを不服とする控訴人が控訴し,原判決を取り消して各請求を認容することを求めた。 2 前提事実(争いがない事実,掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「事 実及び理由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁12行目冒頭「原告は」から同頁13行目から14行目にかけての「臨床検査技師として」までを,「控訴人は,昭和42年 及び理由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決2頁12行目冒頭「原告は」から同頁13行目から14行目にかけての「臨床検査技師として」までを,「控訴人は,昭和42年8月生まれの女性であり,平成2年3月に大学を卒業後,同年5月に臨床検査技師の資格を取得し,Bセンター(現・Bセンター。以下「Bセンター」という。),民間の研究所,C社会福祉協議会等で勤務してきた(乙1・220,221頁)。同人は,前職の社会福祉協議会での雇用形態が臨時職員であったため,常勤で勤務できる医療機関を探していたところ,ハローワ-クから医療法人D会(以下,「D会」という。)が運営する本件病院の紹介を受けた。そこで,控訴人は,平成20年6月頃,D会の面接を受けた上,同会との間で期間の定めのない雇用契約を締結し,同年7月1日から本件病院において臨床検査技師として勤務を開始し」と改める。 (2) 原判決2頁17行目の「入職し」を「雇用され」と改め,同頁18行目末尾の次に,「E技師長は,昭和24年生まれの男性であり,昭和52年4月に愛知県名古屋市内のF病院にて勤務を開始した後,臨床検査技師の資格を取得し,D会に転職するまで上記病院に勤務していた者である。」を加える。 (3) 原判決2頁18行目末尾の次に行を改めて次のとおり加えた上,同頁19行目冒頭「(2)」を「(3)」と,同頁24行目冒頭「(3)」を「(4)」と,3頁16行目冒頭「(4)」を「(5)」と,4頁2行目冒頭「(5)」を「(6)」と,同頁11行目冒頭「(6)」を「(7)」と,それぞれ改める。 「(2) 平成23年1月27日の面談控訴人は,平成23年1月27日の午後3時過ぎ頃,当時,本件病院の事務部長であったG(以下「G事務部長」という。)から会 議室に呼び出 れ改める。 「(2) 平成23年1月27日の面談控訴人は,平成23年1月27日の午後3時過ぎ頃,当時,本件病院の事務部長であったG(以下「G事務部長」という。)から会 議室に呼び出され,午後6時過ぎ頃まで(ただし,H院長は午後5時頃退席),H院長,G事務部長及びI放射線技師(以下「I技師」という。)と面談した(以下「本件4者面談」という。なお,この面談内容が退職勧奨又は退職強要といえるものであったかについては争いがある)。」(4) 原判決3頁15行目の「本件精神障害」を「本件疾病」と改める。 (5) 原判決3頁22行目の「乙1・3頁」を「乙1・3~4頁」と改める。 (6) 原判決3頁25行目冒頭「処分行政庁は,」の次に「平成25年3月5日,」を加え,同頁26行目の「5頁」を「5~6頁」と改める。 (7) 原判決4頁1行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「本件各処分は,認定基準に依拠して行われ,それによれば『対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること』(心理的負荷の総合評価が『強』と判断される場合)が認定要件の一つとされている(乙3・2頁)。そして,本件各処分の前提となった平成24年11月22日付け精神障害の業務起因性判断のための調査復命書(乙1・27~48頁)によると,精神障害の発病の有無は『有』,発病時期を『平成23年1月27日以降末(頃)』,疾患名を『適応障害』としつつ,E技師長との対人関係のトラブルについては『単に性格的に合わない程度と考えられるため心理的負荷の強度は弱』と,本件4者面談については『請求人が他の技師との協調性に欠けたことにより他の技師が退職していることから勤務態度を改善しなければ雇用の継続を打ち切るとの申し出をしたものであり,請求人が勤務態度 弱』と,本件4者面談については『請求人が他の技師との協調性に欠けたことにより他の技師が退職していることから勤務態度を改善しなければ雇用の継続を打ち切るとの申し出をしたものであり,請求人が勤務態度を見直せば雇用の継続が見込まれることから恐怖感を抱かせる客観的な退職の強要の事実は認められないことから心理的負荷の強度は弱』とされ,総合評価は『弱』と判断されている(同・28頁)。 (8) 原判決4頁7行目の「390頁」の次に「以下」を,同行目の末尾の次に「上記審査官も,認定基準に依拠し,次のように判断した。すなわち,E技師長との出来事については『検査業務を行うにあたっての意見の食い違いで言い争うことはあっても,周囲からも明らかに対立が生じたとまではいえず,また,その後の業務に支障を来したとは認められず,客観的にはトラブルといえない程度のもの』と判断してその心理的負荷を『弱』と(甲3・42頁),本件4者面談については『A病院は毅然たる態度をもって請求人に退職勧奨をなし,その内容は請求人にとって一方的なものと認められるも,A病院は従前から請求人に上司,同僚等との協調性が認められないため,上司,同僚等と強調し協力することができれば雇用を継続することができるが,現状のままでは雇用を継続することが難しいと伝えている。・・・納得のいかない理由で退職勧奨されたことは一定の心理的負荷が認められる』としてその心理的負荷の評価を『中』とし(同・43頁),精神障害の発病に関与したと考えられる業務による出来事が複数認められ,その評価は『弱』及び『中』であり,恒常的な長時間労働も認められないことから,心理的負荷の全体評価は『中』と判断した(同・44頁)」を,それぞれ加える。 (9) 原判決4頁10行目末尾の次に,「上記裁決も認定基準に依拠して であり,恒常的な長時間労働も認められないことから,心理的負荷の全体評価は『中』と判断した(同・44頁)」を,それぞれ加える。 (9) 原判決4頁10行目末尾の次に,「上記裁決も認定基準に依拠して行われ,E技師長との出来事については『業務をめぐる方針等において周囲からも客観的に認識されるような対立が生じていたことが認められる。しかし,E技師長の発言において請求人の人格を否定する内容があるとは認められず,また,業務指導の範囲を逸脱したものとも認められない』としてその心理的負荷を『中』と(同・6頁),本件4者面談については『G事務部長が執拗に退職を求めたり,恐怖を抱かせる方法を用いて退職を勧奨した事実は認められない。一方,3人の臨床検査技師が辞めた原因が請求人にあるとのG事務部長の説明については・・・全く の虚偽であるとはいえない』としてその心理的負荷を『弱』と,全体評価は『中』と判断された(同・7頁)。」を加える。 3 本件の争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2~3に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決6頁9行目冒頭の「⑦ 」の次に「平成22年10月14日,感染症の会議に使用する資料である『感染情報レポート』(細菌検査一覧表)に関して,E技師長がBセンターへ用紙の手直しをお願いするよう控訴人に対して依頼した件で,」を加える。 (2) 原判決6頁21行目の「社団法人」から同頁22行目の「『Bセンター』という。)」までを「Bセンター」と改める。 (3) 原判決7頁3行目の「当時」から同頁6行目の「『I医師』という。))」までを,「G事務部長から会議室に呼び出され,平成23年1月27日,H院長,G事務部長及びI技師」と改める。 (4) 原判決 ) 原判決7頁3行目の「当時」から同頁6行目の「『I医師』という。))」までを,「G事務部長から会議室に呼び出され,平成23年1月27日,H院長,G事務部長及びI技師」と改める。 (4) 原判決7頁12行目,同頁13行目,同頁21行目の「本件精神障害」を,それぞれ「本件疾病」と改める。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加えて,各事実に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実を認めることができる。 (1) 本件疾病を発症するまでの経緯ア平成20年7月1日,控訴人は,臨床検査技師として本件病院の検査室に配属された。当時の検査室では,控訴人の他に,J,パート職員のK及び同Lの4人体制で検査業務が行われていた(乙1・179頁)。 なお,本件病院では,1か月単位の変形労働時間制が採用されてお り,所定労働時間は,AB勤務(A=8時30分~17時30分,休憩時間は12時30分~13時30分),AC勤務(A=8時30分~12時30分,C=16時30分~20時30)又はA勤務(8時30分~12時30分)のいずれかで,詳細は勤務予定表で定められている(ただし,控訴人採用時の求人公開カードでは,上記の勤務条件と異なっていた。乙1・118頁)。 イ控訴人は,平成20年8月から同年9月にかけて,Bセンターで人間ドック,血液一般に関する研修を受けた。同年10月に控訴人が職場に戻ると,検査室勤務の上記3人の職員が同年8月31日付けで退職しており,控訴人の一人体制となった(甲22,乙7・1頁参照)。 ウその後,平成20年10月16日から平成22年2月頃の間に,M,N(以下「N」という。),O及びP(アルバイト。以下「P」という。)が雇用され,検査室に配属されたが,いずれも短期間のうちに退職した(甲22, 成20年10月16日から平成22年2月頃の間に,M,N(以下「N」という。),O及びP(アルバイト。以下「P」という。)が雇用され,検査室に配属されたが,いずれも短期間のうちに退職した(甲22,甲23,乙7・1~2頁参照)。 エ平成22年6月1日,E技師長が入社し,検査室は2人体制となった。同人は,本件病院より規模の大きいF病院に昭和52年から勤務してきた経験豊富な臨床検査技師であり,採用面接の際,Q医事課長から「検査室を立て直してほしい。ベテランとして力を発揮してほしい」などと言われた(乙6・1頁)。 当時の勤務予定表によると,控訴人及びE技師長の勤務時間は,いずれも主としてAB又はAC勤務であり(乙1・126~127頁),ほぼ毎日顔を合わせた。そして,両者の関係は,初めの頃は問題なく検査業務を行っていたが,次第にぎくしゃくするようになった(乙6・2頁,原審E証人2頁)オ平成22年8月上旬頃,検査室の固定電話に電話があり,Eが対応 した。その電話の直後,控訴人がE技師長に対して電話の用件を尋ねたところ,同人はそれに直接答えず,「監視されているみたいだ」と述べた(乙6・5頁,原審E証人6頁)。 カ平成22年8月3日,E技師長は,控訴人に対し,「ここの病院は老健だから勉強ができない」,「もっと症例があって勉強ができる場所に行った方がいい」と述べた(甲20・5頁,乙6・7頁,原審E証人9頁)。 キ平成22年8月中旬,E技師長は,控訴人に対し,「そんなに職場が嫌なら他の病院を探したら」と言い,同月20日,Bセンターのスタッフ募集要項を手渡した(乙6・8頁)。 ク平成22年9月下旬頃,控訴人は,Q医事課長に対して,E技師長が退職を勧めてくることや同人との人間関係について相談した(乙1・100頁)。 ケ平成2 ッフ募集要項を手渡した(乙6・8頁)。 ク平成22年9月下旬頃,控訴人は,Q医事課長に対して,E技師長が退職を勧めてくることや同人との人間関係について相談した(乙1・100頁)。 ケ平成22年10月1日,E技師長は,検査室の技師長に昇格し,控訴人の上司となった。E技師長によれば,控訴人に対する指示・命令のためには同人との間で上下関係を設ける必要があると感じ,本件病院に対して役職を付けて欲しい旨要請したと説明している(原審E証人9頁)。 コ平成22年10月14日,E技師長は,感染症の会議に使用する資料である「感染情報レポート」(細菌検査の一覧表)について,Bセンターへ用紙の手直しをお願いするよう控訴人に対して依頼したところ,控訴人は,手直しはできないと答えた。その後,両者は,手直しできる,できないで口論となった上,E技師長が控訴人から1メートル程度の距離で怒鳴った(乙6・5~6頁,原審E証人7~8頁)。 サ平成22年11月5日,控訴人は,「退職を勧められている件と仕事の状況」と題する37頁に渡る文書(乙1・54~90頁。以下 「控訴人メモ」という。)をQ医事課長に提出し,検査室の状況の把握と職場の環境改善を要請した(乙1・101頁)。控訴人メモの冒頭には,同メモを提出した「経緯」として,「一つは,QさんにEさんが私に退職を勧めてくることを話した際,私が話をしているだけではしょうがないし,何か他の人が話してくると内容について書いてもらっており,相手側だけだと一方的に不利ということを伝えられたためです」,「もう一つはこれから充実した仕事をしていくためには,Eさんの意図のある強要で不利益を受けたくないため,現状のままでは不安であることと,さらには私が人として侮辱的な言動を受けたことを人事として状況を把握していただき対 充実した仕事をしていくためには,Eさんの意図のある強要で不利益を受けたくないため,現状のままでは不安であることと,さらには私が人として侮辱的な言動を受けたことを人事として状況を把握していただき対処をお願いしたいためです」と記載されている(同・54頁)。 シ平成22年11月15日,ホルター心電図の解析に使用する用紙について控訴人とE技師長は意見が対立し,言い争いになった。 両者の間には,このような衝突又は意見の対立が何度もあり,しかも,口論の中でお互いが引かずに大声となることもあった(原審E証人2頁,3頁)。検査室の隣の部屋は薬局となっているところ,薬局の職員の女性が大声に驚いて検査室に来たこともあった(乙1・177頁)。 ス平成23年1月27日,午後3時過ぎから6時過ぎ頃まで,本件4者面談が行われた。ただし,H院長は,外来診療のため途中30分程度中座した上,午後5時頃退席した(乙1・25頁参照)。 控訴人は,本件4者面談終了後に勤務の予定があったが,同面談の内容から精神的に動揺し,仕事に集中できる精神状態ではなかったため,勤務を交代してもらい早々に帰宅した(甲20・5頁,乙1・354頁)。 セその後,控訴人は,本件4者面談日の頃から3時間程度しか眠れな い日が続き(乙1・154頁),平成23年1月末日頃までの間に本件疾病を発症したが,後記のとおり休職に至るまで働き続けた。 ソなお,控訴人に懲戒事由,無断欠勤,能力不足等の解雇に相当する事由の指摘はない。 (2) 本件疾病を発症した直後の経過ア本件4者面談後,D会は直ちに本件をR弁護士(以下「R弁護士」という。)に一任し,同弁護士は,D会代理人弁護士との肩書を用いて,控訴人に対し,平成23年2月1日付けの文書(乙1・128頁)を送付した。その文書には D会は直ちに本件をR弁護士(以下「R弁護士」という。)に一任し,同弁護士は,D会代理人弁護士との肩書を用いて,控訴人に対し,平成23年2月1日付けの文書(乙1・128頁)を送付した。その文書には,「採用前,貴方は,病院勤務でなく研究室勤務であったためか,貴方の性格その他の事情からか,他の技師との協調に欠け,ご存知のように他の有能な技師の方たちが貴方が勤務していることを理由に退職されてしまいました。そのため貴方には再三注意しましたが,改めていただけません。そこで,貴方には退職していただく外ないと考えていますが,貴方にも言い分があろうかと思いますので,お時間をおとりいただき,貴方の意向をお聞かせいただきたいので,その日時,場所を決めるため,お手数ですが,来る2月4日までにお電話を下さい」などと記載されていた(もっとも,控訴人は,上記文書の存在を同月7日の午後まで気づかなかった。乙1・91頁)。 イ控訴人は,本件4者面談の内容を労働基準監督署等に相談したところ,本件病院に対して早く自らの意思を示したほうがよい旨アドバイスを受けた。そこで,平成23年2月7日の午前中,G事務部長宛てに「平成23年1月27日(木)に院長,事務部長,I技師との同席の際,私に対して病院を辞めてもらいたい旨のお話がありましたが合意できませんので,ここにお伝え致します」と記載した文書を提出した(乙1・117頁,原審控訴人本人35頁)。 同年2月7日の午後,R弁護士から検査室で勤務していた控訴人宛てに直接電話があり,前記の2月1日付け文書を送付したことを伝えられた。控訴人は,その日のうちに同文書の内容を確認した後,第三者に相談したいので待ってほしい旨R弁護士宛てに連絡した(乙1・354頁,原審控訴人本人18~19頁)。 ウ平 したことを伝えられた。控訴人は,その日のうちに同文書の内容を確認した後,第三者に相談したいので待ってほしい旨R弁護士宛てに連絡した(乙1・354頁,原審控訴人本人18~19頁)。 ウ平成23年2月11日,控訴人は,3時間程度の睡眠しか取ることができない日が続き,吐き気も感じたため,名古屋市内にあるクリニックSを受診し,「心因反応」との診断を受けた(甲16の1,乙1・150頁,原審控訴人本人22頁)。 なお,ICD-10精神科診断ガイドブックによれば,「一般に,『心因反応』とは,別名『体験反応』とも呼ばれ,広義には心理的原因によって反応性に生じた一過性の精神状態全般を指す広範囲の概念であり,呈する症状としては,不安,抑うつから幻覚,妄想までさまざまである。一方狭義には,心因性精神病のみを指す。・・・不安や抑うつ,あるいは行為の障害等を呈する『心因反応』は,F43(重度ストレス反応及び適応障害の略号)と診断されることが多い」とされている(甲18・330頁)。 エ平成23年2月12日,G事務部長は,控訴人に対し,同月10日付けのR弁護士作成の文書を手渡した。それによると,同月16日の勤務時間内である正午から午後1時までの1時間に話をしたい旨記載されていた(乙1・129頁)。控訴人は,半ば強制的にR弁護士と退職の話をしなくてはならないと思い,憂鬱に感じた(甲20・6頁,乙1・354頁)。 同月12日,控訴人は,Tユニオンに加入し,同組合とともに労使交渉を行うことになった(乙1・279頁参照)。 (3) 控訴人が休職に至った経緯 ア平成23年3月18日,E技師長は,控訴人の以前の職場であるBセンターに赴き,控訴人の元上司4名と面会の上,控訴人の評判を聞いた。しかし,E技師長にとって特 控訴人が休職に至った経緯 ア平成23年3月18日,E技師長は,控訴人の以前の職場であるBセンターに赴き,控訴人の元上司4名と面会の上,控訴人の評判を聞いた。しかし,E技師長にとって特に参考になる話はなかった(乙6・8~9頁,原審E証人22~24頁)。 イ控訴人は,たまたま仕事の件でBセンターに電話をしたところ,E技師長がBセンターへ評判を聞きに行ったことを聞き,世話になった元の職場の上司らを巻き込む結果となり,大変申し訳のない気持ちを抱き,ショックを受けた。翌19日,土曜日であったため一人で勤務を行ったが,気分が憂鬱で重苦しくなり,吐気も感じ,眠れなくなった(乙1・151頁,355頁)。 ウ平成23年2月22日,控訴人は,休暇を取得し,名古屋市内にあるUクリニックを受診し,その後も週に1度通院することになった(甲20・6頁,乙1・355頁)。同日付けのV医師の診断書によると,病名は「心因性抑うつ状態」とされ,「上記の疾病により2011年3月22日より2011年4月30日まで休養加療を必要と認めます」と記載されている(甲14,乙1・313頁)。 控訴人は,D会の代理人弁護士に対し,上記診断書を送付するとともに,有給休暇を取得した後,当面の間,休職する旨通知した(乙1・308頁参照)。 (4) D会の労働審判の申立てと控訴人の退職ア控訴人は,平成23年8月15日,H院長に対して状況が整えば同年10月から復職したい意向を書面で伝えていたが(乙1・285頁),話が進まなかった。そこで,控訴人は,同年9月29日,D会に対し,組合を通じて文書で復職の申入れを行い,同年10月3日付けの復職可能と記載された診断書を送付したが,その後,復職の手続をめぐり労使で意見が対立した(乙1・355~356頁)。 イ に対し,組合を通じて文書で復職の申入れを行い,同年10月3日付けの復職可能と記載された診断書を送付したが,その後,復職の手続をめぐり労使で意見が対立した(乙1・355~356頁)。 イ D会は,平成24年4月25日,名古屋地方裁判所に労働審判申立てを行い,勤続年数5年未満の労働者については,休職期間6か月が経過した後は就業規則22条3号により退職となると主張して,控訴人との労働契約は平成23年10月4日の経過をもって解消していることを確認するとの審判を求めた(名古屋地方裁判所平成24年(労)第●号。乙1・306頁以下)。 ウ平成24年10月11日,第3回労働審判手続期日において,控訴人とD会との間で調停が成立した。同調停条項には,控訴人とD会との間の労働契約を平成24年10月31日限り合意により解約する(第1項),D会は,控訴人に対し,解決金として550万円の支払義務があることを認める(第3項),D会は,上記解決金の他に,控訴人に対し,100万3285円及び50万円の各支払義務があることを認める(第4項,第5項),D会は,控訴人に対し,「貴方は,病院勤務でなく研究室勤務であったためか,貴方の性格その他の事情からか,他の技師との協調に欠け,ご存知のように他の有能な技師の方たちが,貴方が勤務されていることを理由に退職されてしまいました。」という事実とは異なる通知を出したこと,D会の従業員が控訴人の退職を勧奨し,あるいは休職からの復職(復職のための診断を含む。)を求める過程において,控訴人に多大な迷惑をかけたことを深く陳謝する(第8項),D会は,控訴人に対し,E技師長がBセンターに控訴人の評価・評判を問い合わせしたなど,本来の業務の範囲を超えて,継続的に控訴人の名誉感情を侵害する言動を行い,控訴人の働く環境を悪化させ雇 第8項),D会は,控訴人に対し,E技師長がBセンターに控訴人の評価・評判を問い合わせしたなど,本来の業務の範囲を超えて,継続的に控訴人の名誉感情を侵害する言動を行い,控訴人の働く環境を悪化させ雇用不安を与えたことにつき,お詫びの意を表する(第9項)等が盛り込まれた(乙1・242~243頁。以下「本件調停条項」という。)。 (5) 本件疾病に関する医師の意見 本件疾病に関する医師の意見は,以下のとおりである。 ア Uクリニック・V医師(甲17の1・2,乙1・191頁)(ア) 初診年月日平成23年3月22日(イ) 初診時の主訴「こみあげてくるような嘔気がする」,「胸が重苦しくて溜息をよくつく」(ウ) 初診時の症状不安,抑うつ,心気的症状が顕著であった。 (エ) 診断名及びその医学的根拠「心因性抑うつ状態」を「心因反応」へ訂正する。上記症状と業務中に事業主に呼び出され,仕事を長時間にわたってやめるように責められたこととの因果関係は明白である。時間的推移及び状況の苛酷さからして,心因反応と考えられる。病名訂正の理由は一般に流布する病名に合わせたためである。 (オ) 発症したと思われる時期平成23年1月27日より数日以内に発症したと思われる。 (カ) 各種検査結果ロールシャッハテスト所見「不安定感,孤立感,挫折感」が顕著である。 (キ) 療養の経過及び治療内容まじめな療養態度で医師の指示を守り,定期的に通院療養し,薬物療法,精神療法に従ったため軽快した。 イクリニックS・W医師(甲16の1・2,乙1・194~195頁)(ア) 初診年月日平成23年2月11日 (イ) 初診時の主訴嘔気,不眠,眼精疲労,肩凝症,勤務先の不当な扱い(ウ) 初診時の症状 6の1・2,乙1・194~195頁)(ア) 初診年月日平成23年2月11日 (イ) 初診時の主訴嘔気,不眠,眼精疲労,肩凝症,勤務先の不当な扱い(ウ) 初診時の症状他覚症状は認めませんでした。 (エ) 傷病名及び診断根拠患者様の訴えだけです。 (オ) 療養の経過及び治療内容内服薬,点眼薬,外用薬。なお,嘔気に対しては鎮吐剤は処方せず,眠剤と精神安定剤を処方致しております。 (カ)「心因反応」と上記傷病名との因果関係他に原因を求められないため薬剤処方上「心因反応」と診断。 (キ) その他参考となる意見について病院側の患者様に対する対応に不合理を感じました。なお,小医は不登校生徒を主に扱っておりますので精密な診断には自信がありません。 ウ愛知県労働局地方労災医員協議会精神障害専門部会(要旨)(乙1・186~190頁)(ア) 精神障害発病の有無等控訴人に発現した精神障害はICD-10診断ガイドラインに照らし「F43.2 適応障害」とするのが妥当である。なお,発病の時期は,不眠等の症状が平成23年1月27日以降出現していることから同日以降末頃と考える(乙1・188頁)。 (イ) 業務要因の検討控訴人は,E技師長との検査業務での手法や業務で高圧的な態度にストレスを感じたと述べているが,E技師長は強い感じでの会話は認めているものの怒鳴ることはなく,いじめや嫌がらせに当たる 状況はないことから,認定基準別表1のうち「⑤対人関係」,「上司とのトラブルがあった」に当てはめるのが適当であり,その平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。監督署の調査において,控訴人とE技師長は検査業務を行うにあたっての意見の食い違いで言い争うことはあっても,業務の範囲を逸脱したり明らかに対立が生じた ,その平均的心理的負荷の強度は「Ⅱ」である。監督署の調査において,控訴人とE技師長は検査業務を行うにあたっての意見の食い違いで言い争うことはあっても,業務の範囲を逸脱したり明らかに対立が生じたとまでは認められないこと,控訴人に恒常的な時間外労働も認められないことから,業務による心理的負荷の総合評価は「弱」と認められる(乙1・188頁)。 また,本件4者面談は,認定基準別表1の「④役割・地位等の変化」,「退職を強要された」に当てはまり,平均的心理的負荷の強度は「Ⅲ」である。本件病院からの4者面談報告書,G事務部長からの聴取から,従前から控訴人に上司,同僚等との協調性が認められないため,上司,同僚等と協調し協力することができれば雇用を継続することができるが,現状のままでは雇用を継続することが難しいこと,第三者の意見を聞くために弁護士を依頼したいが,混乱を招くので事前に意向を伝えたいため話し合いの場を設けたもので,話し合いは物別れに終わっており,控訴人自身,平成23年2月7日付けの退職については合意できないことをG事務部長に文書で述べている。この出来事は,退職の勧奨は行われたものの,控訴人が上司,同僚との協調や協力を図ることができれば雇用を継続できること,控訴人自身退職については拒否していること,また,継続して退職勧奨が行われたものではないことから,心理的負荷の総合評価は「弱」と認められる(乙1・189頁)。 (ウ) 業務以外要因の検討業務以外の心理的負荷は,特に評価すべき出来事は確認できない。特に評価すべき個体側要因も認められない(同・189頁)。 (エ) 総合判断以上のことから,控訴人の精神障害の発病に関与したと考えられる業務による心理的負荷の強度は「強」とは判断できず,精神障害を発 い(同・189頁)。 (エ) 総合判断以上のことから,控訴人の精神障害の発病に関与したと考えられる業務による心理的負荷の強度は「強」とは判断できず,精神障害を発病させるおそれのある心理的負荷であったとは認められない(同・189~190頁)。 以上を前提に争点について検討する。 2 業務起因性に関する法的判断の枠組みについて(1) 本件疾病が「業務上」のものであるといえるためには,業務と本件疾病との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁参照)。 この点,労働者災害補償制度は,労働者が従事した業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に,それによって労働者に発生した損失を補償するものである。このような制度趣旨に照らすと,業務と疾病との間の条件関係に加えて,その業務が当該発生の危険を含み,当該危険が現実化したと評価し得る場合に,相当因果関係が認められると解するのが相当である。 そして,精神障害の発症については,環境由来のストレスと個体側の反応性・脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まるという,いわゆる「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることからすると,ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性を総合考慮し,業務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には,業務に内在又は随伴する危険が現実化したものとして,業務と当該精神障害との相当因果関係が認められるものと解される。 (2) 心理的負荷の程度を判断する際の基準者控訴人は,業務上外の認定における過重負荷の判断に際して被災労働 者本人を基準と 障害との相当因果関係が認められるものと解される。 (2) 心理的負荷の程度を判断する際の基準者控訴人は,業務上外の認定における過重負荷の判断に際して被災労働 者本人を基準とすべきであると主張する。 しかし,使用者の拠出に基づいて運営されている労災保険制度の趣旨を前提とする限り,業務に内在又は随伴する危険(業務による心理的負荷)の程度は当該労働者と同種の平均的労働者,すなわち,通常の勤務に就くことが期待されている者を基準とすべきである。そして,労働者の中には,一定の素因や脆弱性を有しながらも,特段の治療や勤務軽減を要せず通常の勤務に就いている者も少なからずおり,これらの者も含めて業務が遂行されている実態に照らすと,ここでいう通常の勤務に就くことが期待されている者とは,完全な健常者のみならず,一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の勤務に就き得る者,いわば平均的労働者の最下限の者も含むと解するのが相当である。 (3) 認定基準について前記のとおり処分行政庁による精神障害等に係る業務上外の認定手続は,認定基準に基づいて行われている。認定基準は,法令と異なり,行政上の基準(通達)にすぎない上,最終的な評価に当たっては幅のある判断を加えて行うものであるから,当該労働者が置かれた具体的な立場や状況等を十分に斟酌して適正に心理的負荷の強度を評価するに足りるだけの明確な基準とはいえない。しかし,各分野の専門家による精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書に基づき,医学的知見に沿って作成されたもので,一定の合理性は認められるから,参考資料と位置付けるのが相当である。 3 仕事上の人間関係による心理的負荷(1) 控訴人主張の事実の存否ア控訴人主張事実1-①控訴人は,平成22年6月頃,職 の合理性は認められるから,参考資料と位置付けるのが相当である。 3 仕事上の人間関係による心理的負荷(1) 控訴人主張の事実の存否ア控訴人主張事実1-①控訴人は,平成22年6月頃,職員の健康診断において心電図を撮る作業があり,E技師長から「撮ってあげればいいじゃない」と言わ れたが,再度,同人に確認したところ,「私は,そんなことを言った覚えはない」と強い口調で言われたと主張し,これに沿う陳述をするのに対し,E技師長は,はっきり覚えていないが,「撮ってあげればいいじゃない」と言ったものと思う旨述べているので検討する。 この点,前記控訴人メモ(乙1・58頁)においても,E技師長が強い口調で自らの発言を否定したとは記載がなく,単に自己の仕事上の負担が多くなる可能性への不満が述べられているにすぎない上,E技師長が自らの発言を強く否定する理由も見当たらない。 そうすると,この点の控訴人の供述は直ちに採用することができず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はないから,控訴人主張事実1-①の出来事があったとは認められない。 イ控訴人主張事実1-②控訴人は,平成22年6月22日,控訴人がE技師長に対して試薬の注文は余裕を持って頼んだほうが良いと進言したところ,E技師長から「そんなことを言うんだったらあなたと一緒に仕事ができない」とすごい剣幕で怒られた上,控訴人が試薬は2週間前後使用可能だと述べたところ,E技師長は全ての試薬について1週間使用可能だと発言し,威圧的に自己の言うとおりにさせようとしたと主張し,これに沿う供述をするのに対して,E技師長は,控訴人から上記進言を受けたことは認めるものの,その後の控訴人主張の言動を否定しているので検討する。 この点,E技師長は,本件病院へ転職する前に勤務していた病院が比較的大 のに対して,E技師長は,控訴人から上記進言を受けたことは認めるものの,その後の控訴人主張の言動を否定しているので検討する。 この点,E技師長は,本件病院へ転職する前に勤務していた病院が比較的大きな病院で,試薬の注文後到着まで時間がかからなかった経験から本件病院も同様と誤解していたが,本件病院では手配に少し時間がかかることが分かったので,その後は早めに手配するように改めた旨述べている(乙6・4頁,原審E証人調書5頁)。そうすると, 控訴人は,転職したばかりで本件病院の事情を把握していないE技師長に対して善意で上記進言をしたものと考えられるが,その進言をした途端にE技師長が怒り出す理由は見当たらない(仮にE技師長が上記の発言をして怒り出すとすれば,その前に控訴人から他の発言があってしかるべきであるが,控訴人はそのような主張をしていない)。 そうすると,この点の控訴人の供述も直ちに採用することができず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はないから,控訴人主張事実1-②のやりとりがあったとは認められない。 ウ控訴人主張事実1-③控訴人は,平成22年6月18日,E技師長に対し,RPR(梅毒)の試薬について「血漿と血清とで凝集像が異なる」と添付文書に書いてあったと伝えたところ,同人から強い口調で怒られた旨主張し,これに沿う陳述をするのに対し,E技師長は,まったく覚えがない,怒鳴っていないと述べているので検討する。 この点,E技師長が強い口調で怒るには,それに至る経過や理由があってしかるべきところ,控訴人からE技師長が上記言動に至った納得のいく説明はされていない。 もっとも,他方で,E技師長は,自らの陳述書において「何か前後のいきさつがあるのかもしれませんが,いずれにしても控訴人の説明には,自分に不利なことは省略 った納得のいく説明はされていない。 もっとも,他方で,E技師長は,自らの陳述書において「何か前後のいきさつがあるのかもしれませんが,いずれにしても控訴人の説明には,自分に不利なことは省略してあると思います」,「RPR(梅毒)検査の場合,血清と血漿では結果が見にくいことがあるので,試薬に係るデータの検出の仕方に関して控訴人と意見が食い違うことがありました。そのようなときは,控訴人は感情的になって話をしてくるので,こちらからも何か言うことはあります」と述べているし(乙6・4頁),控訴人代理人からの質問に対しては上記の件で怒鳴った事実が「あったかもしれない」と認めた上で,(自分に)「不利なこ とというのは・・・私と控訴人の間でいろいろ口論してるんです。そういうのが全部省かれておって,私に不利なように書かれている」とも証言している(原審E証人17~18頁)。 そうすると,上記のいきさつは不明であるものの,二人が口論した結果として,控訴人主張事実1-③にほぼ近いやりとりがあったものと認められ,業務上,控訴人とE技師長との間で口論や意見の対立があったことを示す出来事の一つとみることができる。 エ控訴人主張事実1-④控訴人は,平成22年7月1日,E技師長から梅毒検査の判定について尋ねられ,「マイナスにすればいいんじゃないですか」と丁寧に答えたところ,E技師長が「それは,マイナスじゃない」と声を荒げたと主張し,これに沿う陳述をするのに対して,E技師長はこれを否定するので検討する。 この点,E技師長も「(+)(-)の判定が難しい場合は,控訴人に見てもらうようにしていた」と述べているところ(乙6・4頁),控訴人に対して検査の判定について意見を求めたE技師長が,控訴人の意見を否定する発言をすること自体,不可解である上,「声を 合は,控訴人に見てもらうようにしていた」と述べているところ(乙6・4頁),控訴人に対して検査の判定について意見を求めたE技師長が,控訴人の意見を否定する発言をすること自体,不可解である上,「声を荒げた」との点も人によって感じ方は異なるから,控訴人の誤解による可能性もある。 そうすると,この点の控訴人の供述は直ちに採用することができず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はないから,控訴人主張事実1-④のやりとりがあったとは認められない。 オ控訴人主張事実1-⑤控訴人は,平成22年8月上旬頃,検査室の固定電話に電話がかかってきた際,控訴人がE技師長に対して「何でした」と聞いたところ,E技師長から,「監視されているみたいだ」と嫌味っぽく言われ たので,「Eさんだって聞いてきますよ。」と指摘すると,「何を私が聞くの。言ってみて。それは何。言ってみて。」としつこくまくしたてるように怒鳴られたと主張し,これに沿う陳述をするのに対し,E技師長は,「監視されているみたいだな」と言ったことは認めるものの,その余の発言については覚えていないと述べているので検討する。 この点,控訴人メモ(乙1・67~68頁)によれば,E技師長が「監視されてるみたいだ」と発言した後にも双方のやりとりが続いており,E技師長が「必要かどうか私が判断してあなたに言うからいい」と述べているにもかかわらず,控訴人が更に話を続けた結果,E技師長の最終的な発言として「『何を私が聞くの?言ってみて!それは何?言ってみて!』としつこくまくし立てる」と具体的に記載されている。良好でない両者の関係を考慮すると,控訴人の話に業を煮やしたE技師長が上記の発言に至ることは特に不自然とは思われない。 また,同人もその後の発言内容は覚えていないと述べるのみで特に否定していない(乙6 好でない両者の関係を考慮すると,控訴人の話に業を煮やしたE技師長が上記の発言に至ることは特に不自然とは思われない。 また,同人もその後の発言内容は覚えていないと述べるのみで特に否定していない(乙6・5頁)。 そうすると,この点の控訴人の供述は信用できるから,控訴人主張事実1-⑤の出来事はあったと認められる。 カ控訴人主張事実1-⑥(ア) 控訴人は,平成22年11月15日,ホルター心電図の解析のときに使用する用紙として,従前から総務課が作成したA4のコピー用紙を使用していたところ,E技師長から,それとは別の既存の専用用紙を指して「こちらの用紙を使え。これは業務命令だ」と怒鳴られたと主張し,これに沿う供述をするので検討する。 この点,前記認定事実1(1)シ記載のとおり,上記の件でE技師長と控訴人の意見が対立したことが認められ,E技師長も,お互い に興奮して大きな声を出したこと,その際に「職務命令だ」と言ったかもしれないと証言している(乙6・5頁,原審E証人調書6頁)。そうすると,E技師長の証言と控訴人主張の内容はほぼ合致しているから,E技師長が上記発言をするに至る経過に不明な点があるものの,口論の末に控訴人主張事実1-⑥の出来事があったものと認められる。 (イ) また,同様にホルター心電図の関係で,控訴人は,平成22年8月27日,心電図を外す患者の件で,E技師長がA勤務で帰る予定の日に,同人から「自分がつけたから来週まで置いておいてくれ」と言われ,控訴人が解析結果を外来に早く提出する必要があるため戸惑っていると,「いいから聞け。あほか」と怒鳴られたこと,控訴人が「失礼じゃないですか」と抗議すると,E技師長から「あなたが聞かないからだ」と怒鳴られたと主張し,これに沿う供述をしているので検討する。 この点,E技 から聞け。あほか」と怒鳴られたこと,控訴人が「失礼じゃないですか」と抗議すると,E技師長から「あなたが聞かないからだ」と怒鳴られたと主張し,これに沿う供述をしているので検討する。 この点,E技師長は,平成24年6月12日の半田労働基準監督署における聴取書の中で,「出来事や時期もあまりよく覚えていないのですが,控訴人があまりにもヒステリックに声を上げる事があって,一度だけ大きな声で『あほか。いいから聞けよ。』と怒鳴ったことがあります」と述べているところ(乙1・173頁),この発言内容は,上記の控訴人主張の内容とほぼ一致している。また,E技師長は,この点について,「それは,お互い口論してるうちにだんだんだんだん話が大きくなってきて,控訴人は何度も何度も同じことを言ってくるもんですから,もうええ加減にせえって,あほかっていうことは言ったと思います」とも証言している(原審E証人19~20頁)。よって,この点の控訴人主張のやりとりもあったものと認められる。 キ控訴人主張事実1-⑦控訴人は,平成22年10月14日,感染症の会議に使用する資料である「感染情報レポート」(細菌検査の一覧表)に関して,E技師長がBセンターへ用紙の手直しをお願いしてほしい旨控訴人に対して依頼した件で,E技師長が控訴人の近くで怒ったと主張し,これに沿う陳述をするので検討する。 この点,前記認定事実1(1)コ記載のとおり,この件でE技師長と控訴人が口論となり,E技師長が怒鳴ったことが認められ,同人も,このやりとりについて,控訴人から,以前に確認したときはできないということであったし,変更するにはコストもかかると言われ,都合の良い言い訳だと感じ,つい「本当なのか」と怒鳴ったこと,控訴人から1メートルくらいの距離で怒鳴ったこと,控訴人が「おー怖っ,お ないということであったし,変更するにはコストもかかると言われ,都合の良い言い訳だと感じ,つい「本当なのか」と怒鳴ったこと,控訴人から1メートルくらいの距離で怒鳴ったこと,控訴人が「おー怖っ,おー怖っ」と挑発するような物言いをしたため,「あなた,頭おかしいんじゃないの」と言ったかもしれない旨証言している(乙6・5~6頁,原審E証人7~8頁,20~21頁)。よって,かかるやりとりの中で,控訴人主張事実1-⑦の出来事があったと認められる。 ク控訴人主張事実2-①控訴人は,平成22年8月2日,E技師長は,控訴人に対して「今のH院長から代が替わると,今あなたがやっている検査の仕事はなくなるよ」と言ったと主張し,これに沿う陳述をするのに対し,E技師長は,検査の仕事がなくなると言った記憶はないと述べているので検討する。 この点,E技師長は,「院長先生の息子の代になると患者の数が減るかもしれない」旨話した可能性は認めているから(乙6・6~7頁),その話に関連付けて控訴人主張の発言をしたことも十分に考えられる。もっとも,この発言の前後の文脈は不明であり,これのみで 退職を勧める発言とは評価することができない。 ケ控訴人主張事実2-②控訴人は,平成22年8月3日,E技師長から「ここの病院は老健だから勉強ができない。もっと症例があって勉強ができる場所に行った方がいい」と言われたと主張し,これに沿う陳述をするので検討する。 この点,経緯は不明であるが,前記認定事実1(1)カ記載のとおり,E技師長が控訴人に対して上記発言をした事実が認められる。なお,かかる発言をした理由について,E技師長は,「当院は患者数も少ないし,症例も少ないし,前の担当者のことを言ったり,病院に対して批判するならば,ほかの職場に変わったらどうかという が認められる。なお,かかる発言をした理由について,E技師長は,「当院は患者数も少ないし,症例も少ないし,前の担当者のことを言ったり,病院に対して批判するならば,ほかの職場に変わったらどうかということを話したことがあります」と証言している(原審E証人9頁)。 コ控訴人主張事実2-③控訴人は,平成22年8月4日,E技師長にホルター心電図の作業に時間がかかりすぎていると指摘したところ,同人が「もうあなたとは一緒にできない。もうやめる」と言い,怒り出した旨主張し,これに沿う陳述をするので検討する。 この点,E技師長は,「そのときの控訴人とのやり取りは,はっきり覚えていませんが,『時間がかかり過ぎ』という批判めいた長い話の中で,私が『自分が辞める』という趣旨の言葉を言ったかもしれません」と述べているから(乙6・7頁),上記趣旨の発言をしたものと認められる。かかる発言に至るにはそれ相応の経緯(控訴人の発言や口論など)があったものと推察され,その点は不明であるものの,「自分が辞める」との発言は冷静な状態ではなかったと推認できるから,最終的にE技師長が怒り出し,控訴人主張の発言をしたものと認められる。 もっとも,この点はE技師長が控訴人に対して退職を勧めているものではなく,両者の険悪な関係を示すエピソードの一つと捉えることができる。 サ控訴人主張事実2-④控訴人は,平成22年8月中旬,E技師長が控訴人に対し,「35歳までしか募集がないといったけどまだ募集はあるよ」などと言い,同月20日,Bセンターのスタッフ募集要項を手渡し,「G事務部長に,控訴人に辞めるように勧めていると伝えた」と言われたと主張し,これに沿う陳述をするので検討する。 この点,前記認定事実1(1)キ記載のとおり,E技師長が控訴人に対し,「そんな し,「G事務部長に,控訴人に辞めるように勧めていると伝えた」と言われたと主張し,これに沿う陳述をするので検討する。 この点,前記認定事実1(1)キ記載のとおり,E技師長が控訴人に対し,「そんなに職場が嫌なら他の病院を探したら」と話し,同月20日,Bセンターのスタッフ募集要項を手渡したことが認められる。 また,同人は,その件をG事務部長に話したかどうか定かな記憶はないが,話したとしても食堂等でたまたま会った時に雑談的に話しただけだと思う旨述べ(乙6・8頁),「まあ話したんでしょうね」とも証言している(原審E証人21頁)。よって,控訴人主張事実2-④の出来事があったと認められる。 シ控訴人主張事実2-⑤控訴人は,平成23年3月18日,E技師長が,控訴人が本件病院関係者から退職勧奨(強要)を受けたことが分かると,Bセンターに控訴人の評価・評判を問い合わせ,控訴人の働く環境を悪化させ,控訴人に雇用不安を与えたと主張し,これに沿う供述をするので検討する。 この点,前記認定事実1(3)ア記載のとおり,同日,E技師長はBセンターに赴き,かつての控訴人の上司4名と面会して,控訴人の評判を聞いたことが認められる。 (2) E技師長との人間関係による心理的負荷の検討ア上記に検討したとおり,控訴人とE技師長は,次第にぎくしゃくする関係となり,検査業務の進め方について度々意見が対立して口論となり(控訴人主張事実1-③など),ときにはE技師長が大声で怒鳴る又は怒り出すこともあった(控訴人主張事実1-⑥⑦,2-③)。 その言い争いの最中に,隣の薬局の職員の女性が驚いて検査室に来たこともあったというのであるから,両者の関係はかなり険悪で,このことは遅くともE技師長に役職が付いた平成22年10月頃には本件病院内で周知の事実であったと認め の薬局の職員の女性が驚いて検査室に来たこともあったというのであるから,両者の関係はかなり険悪で,このことは遅くともE技師長に役職が付いた平成22年10月頃には本件病院内で周知の事実であったと認められる(この点は,I技師の陳述書(乙8・3頁)においても,二人の間は会話が成立しないほどに険悪なものだった旨記載がある)。 また,平成22年8月3日,E技師長は,控訴人に対して退職を勧める発言をした上,同月20日にわざわざ他社の募集要項まで手渡した事実が認められ(控訴人主張事実2-②④),これらは人事に関する権限を有しない従業員の言動である点で使用者による退職勧奨とは異なるものの,控訴人のE技師長に対する不信を招き,双方の溝を更に広げる結果となったと認められる。 確かに,控訴人の主張事実の中には取るに足りない言動を問題とするものもあり,一つ一つを切り離して検討すると,その心理的負荷はさほど大きいとはいい難いものもあるし,E技師長による一方的な言動ばかりとは思われない。しかしながら,そのような言動を招いたことについて控訴人に非があったとも認め難いし,狭い検査室において毎日2人体制で勤務する中で度々意見が対立して口論となり,ときには年上の上司である男性技師から大声で怒鳴られるという状況(なお,控訴人メモの内容等からして,控訴人の各主張事実は主なものを例示したものと解し得る)が生じていたと認められ,控訴人は,このよう な状況を理不尽なものと感じ,相当なストレスを感じていたものと認められる。その上,前記認定事実1(1)サ記載のとおり,意を決した控訴人がQ医事課長に対して控訴人メモを提出し,職場の環境改善を促したにもかかわらず,本件病院が改善策を講じた形跡は何らうかがえない。 そうすると,控訴人は,職場の人間関係が悪化した中で,日々精 控訴人がQ医事課長に対して控訴人メモを提出し,職場の環境改善を促したにもかかわらず,本件病院が改善策を講じた形跡は何らうかがえない。 そうすると,控訴人は,職場の人間関係が悪化した中で,日々精神的負担を感じながら業務に従事せざるを得なかったと認められるから,これによる心理的負荷の程度は,客観的にみて相当程度過重であったとみるのが相当である(なお,控訴人主張事実2-⑤は,本件疾病を発症した後の出来事であることに加え,その他の事実から心理的負荷の過重性は判断できるから,ここでは評価しない)。 イなお,念のため認定基準に当てはめて検討すると,本件は別表1「上司とのトラブルがあった」(30項)に該当する。そして,その心理的負荷が「中」となる例としては,「業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じた」もの,「強」になる例としては,「業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した」ものが挙げられている。 本件では,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立がE技師長との間に生じたといえるから,少なくとも「中」に該当する。しかも,業務に関する両者の意見が合わないことが増え,会話が成立しないほどに人間関係が険悪なものとなり(乙8・3頁参照),検査室の運営に悪影響が生じていたと認められること,その後,本件病院が本件4者面談において控訴人に対して退職を迫り,解決を図ろうとしたこと(後述)に照らすと,検査業務に相当支障も出ていたものと認められる。よって,認定基準によれば,控訴人の心理的負荷は「中」 ないし「強」に当たる。 4 本件4者面談による心理的負荷(1) 面談内容ア控訴人は,G事務部長から,冒頭に と認められる。よって,認定基準によれば,控訴人の心理的負荷は「中」 ないし「強」に当たる。 4 本件4者面談による心理的負荷(1) 面談内容ア控訴人は,G事務部長から,冒頭に「本件病院として控訴人に辞めてもらいたい」,「円満退職しない場合は顧問弁護士を雇う」,「揉めるようなら顧問弁護士と話をしてほしい」と言われたこと,「これまでに控訴人が原因で退職した人がいる」との話もあったこと,G事務部長の話が控訴人が直接聞いた内容等と違っていたためその旨説明したが,一方的に否定されただけであった旨主張し,控訴人もこれに沿う供述をするのに対し,被控訴人は,今後は協調性を持って仕事をし,E技師長と仲良く仕事をしてほしいことを伝えたもので,過去に他の検査技師が控訴人との人間関係が原因で辞めたことも話したが,控訴人に退職を勧めたり,強要したりする発言はしておらず,控訴人が心を入れ替えて頑張ってくれれば,当然,継続して勤務してもらうつもりでいたこと,結局,控訴人から今後は心を入れ替え,協調性をもってやっていくという返事はなかったので,本件病院としては現状のままでは雇用を継続することが難しいこと,今後は客観的に判断してくれる第三者である顧問弁護士に依頼することを伝えたと主張しているので,以下,検討する。 この点,被控訴人の主張は,当初から退職ありきの話ではなかったとの趣旨を述べるものと思われるが,G事務部長の陳述書(乙7)及びその証言においても,「控訴人が心を入れ替えれば勤務を継続させる」旨伝えたとは述べられていない上,被控訴人の主張によっても,結局,本件4者面談の中で現状のままでは雇用を継続することが難しいこと,今後は顧問弁護士に依頼することを伝えたことを認めている(平成28年6月9日付け第5準備書面14頁)。また,G事務部長 っても,結局,本件4者面談の中で現状のままでは雇用を継続することが難しいこと,今後は顧問弁護士に依頼することを伝えたことを認めている(平成28年6月9日付け第5準備書面14頁)。また,G事務部長 作成の4者面談報告書(乙1・25頁)においては,面談の「目的」として「法人として現状のままでは雇用を継続する予定は無いこと(ただし,自己認識等により気持ちを入れ替え勤務態度が変えられる確証が得られれば雇用は継続可能)」,「詳細内容」として「目的である現状のままでは雇用の継続が難しいこと・・・を伝えた」と記載されており,雇用継続の予定がないという本件病院の基本的なスタンスとこれをそのまま伝えたことが十分に看取できる。そして,実際にも,前記認定事実1(2)ア記載のとおり,D会は,本件4者面談後,直ちにR弁護士に対してこの件を一任し,同弁護士が送付した平成23年2月1日付け文書には「貴方には退職していただく外ないと考えています」と一方的な記載があるから(乙1・128頁),その数日前の本件4者面談においても,G事務部長らは同じ意向を持って臨んでいたと推認することができる。その上,前記認定事実1(4)ウ記載のとおり,D会は,本件調停条項第8項において,控訴人に対して退職勧奨したことを深く陳謝した事実も認められる。 これらの事実を総合すれば,本件4者面談の内容は,控訴人の主張するとおり,G事務部長らが,冒頭から控訴人に対して本件病院として辞めてもらいたい旨を明確に申し入れ,控訴人が円満退職に応じない場合は顧問弁護士を依頼する,揉めるようなら弁護士と話すよう一方的にD会の意思を伝えたものであり,控訴人が心を入れ替えるなどすれば雇用を継続するという話はなかったと認めるのが相当である。 イこれに対して,G事務部長は,「A病院として辞めてもら と話すよう一方的にD会の意思を伝えたものであり,控訴人が心を入れ替えるなどすれば雇用を継続するという話はなかったと認めるのが相当である。 イこれに対して,G事務部長は,「A病院として辞めてもらいたい」,「もめるようなら顧問弁護士と話をしてもらう」との発言を否定し,退職の強要にならないよう注意していたと被控訴人の主張に沿う証言をしている(原審G証人6~7頁)。 しかし,他方で,G事務部長は,面談中に控訴人から「辞めると困 る」,「辞めたくない」との趣旨の発言があった旨証言しており(同証人7頁,16~17頁),この発言の前提には,G事務部長から辞めてほしい旨の申入れがあったと考えるのが自然である。また,面談の結論とはいえ,G事務部長は,「雇用の継続はちょっと難しい」,「弁護士さんに入ってもらって,客観的に見てもらいながら,ちょっと話をしてください」と話をしたことを認めている(同証人7頁)。 そうすると,面談の途中でH院長らの意向に変更があったことをうかがわせる事情も認められないから,同人らは最初から最後まで一貫して辞めてほしいと伝えていたと認められ,これに反する上記G証言は採用できない。 ウまた,G事務部長は,弁護士に依頼した理由について,「第三者の客観的な意見も聞きたいもんですから,弁護士さんに入ってもらうといいのかなというふうに思いました」と意見を聞くだけかのように証言し(原審G証人5頁),同人作成の4者面談報告書(乙1・25頁)にもその旨の記載がある。 しかし,第三者の客観的な意見を聞きたいというのであれば,本件事案の内容を弁護士に相談すればよいことであり,あえて弁護士を代理人として選任する必要は一切ない(そもそも一般に行われている退職勧奨の場合においても,顧問弁護士がその相談を受けることはあっても,代理人 の内容を弁護士に相談すればよいことであり,あえて弁護士を代理人として選任する必要は一切ない(そもそも一般に行われている退職勧奨の場合においても,顧問弁護士がその相談を受けることはあっても,代理人として選任されることは通常ない)。よって,G事務部長の上記証言は不合理な弁解というほかなく,信用することができない。そして,前記本件4者面談の内容からすると,D会は,控訴人を解雇できるだけの理由がないために,控訴人を自主的に退職させる目的で,R弁護士にその交渉を一任したと認めるのが相当である。 エさらに,G事務部長は,本件4者面談の内容について,「Nさんとか,Pさんとか,Mさんとかという技師さんたちが辞めていった理由 が控訴人にありますよということで,心を入れ替えて,そういうことがないように今後検査をやっていってほしいということを伝えたんですけども,その後は控訴人はその3者の失敗とか悪口とかを延々と話し始めたというのが現実です」と証言し(原審G証人6頁),前記4者面談報告書にも「よく話が出たのは,過去の3名の退職した検査技師の話で,検査技師各々の悪いところを延々と述べている」との記載がある。 確かに,控訴人自身も,本件4者面談において控訴人が原因で退職した検査技師がいると言われ,当該技師から直接聞いた退職理由等とG事務部長の話が違っていたため,そのことを説明した旨述べているから(甲20・5頁),控訴人がその説明に時間を費やしたことが認められる。 しかし,G事務部長がその根拠とするN,Pが退職時に作成したという書面(乙1・165~169頁,乙7・2頁,末尾の資料5枚)は,その体裁からして誰がどのような目的で作成したものかが不明である上,N及びPの退職時期(乙7・2頁によれば,それぞれ平成22年1月10日と同年4月26日)と本 9頁,乙7・2頁,末尾の資料5枚)は,その体裁からして誰がどのような目的で作成したものかが不明である上,N及びPの退職時期(乙7・2頁によれば,それぞれ平成22年1月10日と同年4月26日)と本件4者面談日とは時期が全く異なる。また,前記認定事実1(4)ウ記載のとおり,D会は,本件調停条項第8項において,控訴人に対し,「貴方は・・・他の技師との協調に欠け,ご存知のように他の有能な技師の方たちが,貴方が勤務されていることを理由に退職されてしまいました」という事実とは異なる通知を出したことを深く陳謝した事実も認められるから,当該技師らの退職した主な要因が控訴人にあったと認めることはできない(なお,同席したI技師も,当該技師らが個性の強い人達で,退職した理由が全て控訴人の責任であるかのような話に疑問を呈している。乙8・3頁)。 その上,G事務部長は,本件4者面談以前に,当該技師らの退職理由に関して,控訴人に対して事実確認すらしていないと証言している(原審G証人14頁)。 そうすると,控訴人は,G事務部長から,突然,身に覚えのない事実と異なる理由を指摘して退職を迫られたのであるから,一方的で理不尽な内容と感じたはずで,事実が異なることを理解してもらうべく懸命に説明することは自然な対応といえるし,控訴人が冷静に受け止め難い状況の中で,退職した技師ら自体の問題等に言及することがあったとしても致し方ないというべきである。 そして,前記アないしウ記載の認定事実も総合すると,本件4者面談の経過は,前記のとおり,G事務部長が冒頭で辞めてもらいたい旨申し入れ,その理由として,他の技師らの退職理由が控訴人にある旨事実に反する内容を指摘したことから,控訴人が,辞めたくないこと及び当該技師らの退職の事情は別にあることを懸命に説明したが,G たい旨申し入れ,その理由として,他の技師らの退職理由が控訴人にある旨事実に反する内容を指摘したことから,控訴人が,辞めたくないこと及び当該技師らの退職の事情は別にあることを懸命に説明したが,G事務部長らはこれを聞き入れず,前記申入れを最後まで撤回することはなく,後は本件病院の顧問弁護士と話すよう伝えたものと認められ,これに反する前記G証言は採用できない。 オこれに対して,被控訴人は,本件調停条項第8項の内容は事実に反しており,本来は受け入れがたい内容であったが,早期に控訴人との雇用を解消したいと考えていたため,真意ではないが受け入れたにすぎないと主張する。 しかし,本件調停条項は,裁判所における労働審判手続の中で双方が協議した上で正式に合意したものである以上,それに反する上記のような弁解は信用することができない。 (2) 本件4者面談による心理的負荷の検討ア上記に検討したとおり,本件4者面談は,G事務部長が控訴人を会 議室に呼び出し,H院長及びI技師の同席の下で,控訴人に対して,突然,冒頭から本件病院として辞めてもらいたい,円満退職しない場合は顧問弁護士を雇う旨申し入れ,控訴人が辞めたくないと答えたにもかかわらず,揉めるようなら弁護士と話してほしいなどと伝えたものであり,まさに退職の強要と評価することができる。その上,退職を迫る理由とされた過去の退職者との関係については事実に反する内容であり,これについて約3時間も費やして反論したにもかかわらず,病院側は再調査を検討することもなく,結局,最初から最後まで雇用継続しないとの本件病院の意向に変更はなかった。このような一方的かつ理不尽な退職強要を受けた労働者の立場からみると,その心理的負荷は客観的にみて相当大きな過重であったと認められる。 イなお,念のため認 ないとの本件病院の意向に変更はなかった。このような一方的かつ理不尽な退職強要を受けた労働者の立場からみると,その心理的負荷は客観的にみて相当大きな過重であったと認められる。 イなお,念のため認定基準に当てはめてみると,本件はまさに別表1の「退職を強要された」(20項)に該当し,そのうち「強」の例として挙げられている「退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,執拗に退職を求められた」場合といえる。よって,その心理的負荷の程度は「強」である。 5 業務以外の心理的負荷及び個体側要因の検討本件各処分についての審査請求における決定書(甲3)44頁には「業務以外に特に評価すべき出来事は認められない。個体側要因については,特筆すべきことは認められない」と記載されており,被控訴人も「業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと」との認定基準の要件は満たす旨答弁している(平成27年5月15日付け第2準備書面14頁)。また,前記認定事実1(3)ア記載のとおり,E技師長が,控訴人の以前の職場であるBセンターへ赴き,控訴人の評判を聞いたが,控訴人の勤務状況について特に問題視できる事情は聴取できなかったことが認められる。 よって,本件証拠上,控訴人には精神障害を発症する原因となるべき業務外の心理的負荷や精神障害の既往症はなく,本件疾病の発症につながるほどの個体的要因も見当たらない。 6 控訴人の心理的負荷に関する全体の総合評価前記のとおり,控訴人は,E技師長との確執により度々口論となり,退職を示唆する発言や怒鳴られることもあったため,平成22年11月5日,Q医事課長に対して控訴人メモを提出し,職場環境の改善を促した。ところが,これにより職場環境を改善する措置が採られることはなく,かえって する発言や怒鳴られることもあったため,平成22年11月5日,Q医事課長に対して控訴人メモを提出し,職場環境の改善を促した。ところが,これにより職場環境を改善する措置が採られることはなく,かえって,日頃からE技師長との確執によりストレスを感じていたところに,本件4者面談において,約3時間もの間,一方的な理由を告げられ退職を迫られた。これらを全体として評価すると,控訴人と同種の平均的労働者からみても,相当大きな精神的負担を受ける出来事であったと認められ,本件4者面談から数日のうちに控訴人が本件疾病を発症したという時間的経過とも合致する。 そうすると,業務による控訴人の心理的負荷は,社会通念上,客観的にみて精神障害を発症させる程度に過重なものであったと評価することが相当である。 7 小括以上に検討したとおり,控訴人は業務により過重な心理的負荷を受け,かつ,他に業務外の心理的負荷や控訴人の個体側の脆弱性も認められないことからすれば,本件疾病は,控訴人の従事する業務に内在する危険が現実化したものと評価できるから,業務との相当因果関係があると認められ,労災保険法7条1項1号,同法12条の8第2項,労基法75条所定の業務上の疾病に該当する。 第4 結論以上によれば,本件控訴は理由があるから,上記と結論を異にする原判 決を取り消して控訴人の各請求をいずれも認容することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官前田郁勝 裁判官金久保茂 田郁勝 裁判官金久保茂
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