平成20(ワ)5038 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年10月16日 大阪地方裁判所
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判決文本文12,617 文字)

主文 被告Bは,原告に対し,被告A株式会社と連帯して55万円及びこれに対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告A株式会社は,原告に対し,88万円(ただし,被告Bと55万円の限度で連帯して)及びこれに対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告の被告B及び被告A株式会社に対するその余の各請求並びに被告Cに対する請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 被告Bは,原告に対し,被告A株式会社(以下「被告会社」という。)と連帯して360万4760円及びこれに対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告Cは,原告に対し,被告会社と連帯して360万4760円及びこれに対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告会社は,原告に対し,910万4760円(ただし,被告B及び被告Cとそれぞれ360万4760円の限度で連帯して)及びこれに対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成19年11月から同21年8月まで,毎月28日限り月額11万0120円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告会社の従業員であった原告が,配属先の業務責任者である被告Bからセクシュアル・ハラスメントを,専任支援者である被告Cからパワー・ハラスメントを受け,休職を余儀なくされたと主張し,被告B及び被告Cに対 しては,民法709条に基づき損害賠償を求め,被告会社に対しては,民法715条1項又は会社法350条に基づき損 からパワー・ハラスメントを受け,休職を余儀なくされたと主張し,被告B及び被告Cに対 しては,民法709条に基づき損害賠償を求め,被告会社に対しては,民法715条1項又は会社法350条に基づき損害賠償を求めるとともに,休職時から退職時までの賃金の支払を求める事案である。 前提事実(末尾に証拠の引用のない事実は,当事者間に争いがない。)(1)被告会社は,建物及び各種施設の総合管理業務(清掃,保安,警備等)の請負等を目的とする会社であり,D協同組合,独立行政法人E(以下「E」という。)等の協力を得て,多数の障害者を雇用している。 (2)原告(昭和42年11月10日生)は,療育手帳B2(軽度の知的障害)の判定を受けている者であるが,社会福祉法人F(以下「F」という。)の紹介により,平成18年9月1日,被告会社と次の条件で雇用契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲7,乙17)。 ア契約期間定めなしイ勤務場所甲ウ業務清掃エ勤務時間(ア)9月1日から2週間程度午前8時45分から午前11時45分まで(イ)(ア)の後午前8時45分から午後3時45分まで(休憩1時間)オ休日土曜日,日曜日,祝日カ賃金時給800円(毎月15日締切・当月28日支払)(3)被告会社は,平成17年以降,Gから甲の清掃業務を受託しており,知的障害者7名程度を同所に配属していた。被告会社の同所における統括者は,業務部課長代行Hであり,同人は,一月に3回から6回程度,同所に出向き,清掃業務の確認や指導に当たっていた。被告B(昭和21年2月23日生)は業務責任者として,被告C(昭和14年3月3日生)は専任支援者として,いずれも同所において知的障害者の業務を支援しつつ,自らも清掃業務に従 事していた。 (4)F及びEは,原告に対 23日生)は業務責任者として,被告C(昭和14年3月3日生)は専任支援者として,いずれも同所において知的障害者の業務を支援しつつ,自らも清掃業務に従 事していた。 (4)F及びEは,原告に対し職場に適応できるように就労支援を継続し,随時,EやG等においてケース会議を実施したり,原告との面談を行った。 (5)原告は,平成19年10月18日以降,被告会社に出勤しておらず,平成21年8月31日付けで被告会社を退職した。 争点 (1)被告Bの不法行為の有無(原告の主張)被告Bは,平成19年1月ころから同年4月5日ころまでの間,甲本館清掃員控室において,被告Cがいない時に原告に対し次のようなセクシュアル・ハラスメントを行った。 ア被告Bは,休憩時間中や終礼の時刻ころ,頻繁に,原告の肩を揉んだり,腰や臀部を触ったり,自己の太股を原告の太股に密着させたり,原告に抱きつくように密着し,自己の股間を原告の臀部に接触させるなどした。 イ被告Bは,原告が勤務時間表に記入している際,原告の背後から近づき,自己の身体を原告の身体に密着させた。 ウ被告Bは,平成19年3月19日,終礼の待機中,原告の背後から近づき,「カイロが少し上にずれている。」と言いながら,原告の背中に指を指し,腰部から臀部にかけて触った。 (被告Bの認否)いずれも否認する。ただし,被告Bが2度だけ原告の身体に触れたことは認める。すなわち,被告Bは,平成19年2月か同年3月ころ,①原告が衣服の中に付けていたカイロが脇腹の方に外れていたので,背中の中心に付けた方が良いのではと言って,原告の背中の中心部分を指先でトントンとさしたこと,及び②原告が肩がこっていると言って肩を回す仕草をしたので,声をかけてポンポンと原告の肩に触れたものであるが,いずれも権利侵害とま ではいえない。 告の背中の中心部分を指先でトントンとさしたこと,及び②原告が肩がこっていると言って肩を回す仕草をしたので,声をかけてポンポンと原告の肩に触れたものであるが,いずれも権利侵害とま ではいえない。 (2)被告Cの不法行為の有無(原告の主張)被告Cのパワー・ハラスメント(上司によるいじめ)は,平成19年4月6日から同年10月18日まで続いた。 被告Cは,同年4月6日,被告Bのセクシュアル・ハラスメントを訴えた原告に対し,怒鳴り声で,「あんたセクハラがどういうことかわかってんの。 セクハラなんてどこでもまかり通っていることだ。」と言い,その後,原告の面前で,男性の従業員らに対し,「原告さんに近づいて話をしたら,セクハラで訴えられるで。」と言った。 また,原告は,平成19年1月から同年7月まで甲分館にある便所(同所は,換気が悪く,悪臭がする状態にある。)の清掃を担当していたところ,被告Cは,同年4月末ころから同年7月末までの間に,週に2,3回,同便所の掃除を終えた原告に対し,「臭い」と言った。 被告Cは,原告に注意する際は,きつい調子で(けんか腰で)話し,嫌みを言うことが多かった。例えば,原告が職場で菓子を配ろうとすると,同被告は,「余計なことをしなくていい。」と言ったりした。 (被告Cの認否)いずれも否認する。ただし,被告Cは,原告が清掃員控室で制汗スプレーを身体に吹き付けているのを見て,原告に対し,スプレーをする場所を考えて下さいと指導したことはある。 (3)被告会社の責任の有無(原告の主張)被告B及び被告Cの前記不法行為は,職場において行われ,事業の執行についてなされたものであるから,被告会社は,両被告の使用者として民法715条1項の責任を負う。また,Hは,原告が平成19年4月に被告Bのセ クシュアル・ハラスメントと被告Cのパ われ,事業の執行についてなされたものであるから,被告会社は,両被告の使用者として民法715条1項の責任を負う。また,Hは,原告が平成19年4月に被告Bのセ クシュアル・ハラスメントと被告Cのパワー・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,これらについて十分な調査を行わず,原告の誤解に過ぎないと結論づけ,さらに,前記不法行為を行った被告B及び被告Cを配置転換しない一方で,原告に対し,職場復帰の条件として配置転換を求めた。被告会社は,このようなHの業務上の言動に現れた被告会社の代表取締役Jによる不法行為について,会社法350条の責任を負う。 (被告会社の主張)いずれも争う。 (4)損害(原告の主張)ア被告Bのセクシュアル・ハラスメント及び被告Cのパワー・ハラスメントによって原告が被った精神的苦痛についての慰謝料は,それぞれ300万円を下らない。 イ被告会社の不誠実な対応自体によって原告が被った精神的苦痛についての慰謝料は,200万円を下らない。 ウ原告は,平成19年10月19日,被告らの不法行為が原因で多量の睡眠導入薬を服用して自殺を図るに至り,K病院に救急搬送されて治療を受けたが,その治療費として27万7055円を要した。 エ本件に要した弁護士費用のうち,被告らに対する各損害賠償請求額の1割が被告らの行為と相当因果関係にある損害である。 カよって,原告は,被告B及び被告C各自に対し,民法709条に基づき,及び被告会社と連帯して360万4760円(上記ア(300万円),ウ及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月エの合計額)3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被告会社に対し,民法715条1項又は会社法350条に基づき,910万4760円(300万円×2)ただし,被告(上記 計額)3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,被告会社に対し,民法715条1項又は会社法350条に基づき,910万4760円(300万円×2)ただし,被告(上記アないしエの合計額。 B及び被告Cとそれぞれ360万4760円の限度で連帯して)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告らの主張)いずれも争う。 (5)未払賃金の有無(原告の主張)原告は,平成19年10月29日から同21年8月31日(退職時)まで休職したが,これは,被告会社が,前記不法行為を行った被告B及び被告Cを配置転換しない一方で,原告に対し,職場復帰の条件として配置転換を求めたことに原因があるから,被告会社は,民法536条2項により,原告の休職中の賃金を支払う義務がある。 (被告会社の主張)争う。被告は,原告に対し,平成19年11月28日支給分までの賃金を支払った。原告と被告会社は,平成19年10月30日,原告を休職扱いとすることで合意したが,被告会社の就業規則52条によれば,休職の間は無給とされている。 第3争点に対する判断 証拠(甲10,11,15,23ないし25,乙8,14,15,証人H,原告本人,被告B本人,同C本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1)原告は,入社当初から,遅刻や欠勤が少なくなく,平成18年9月に1回,同年10月に2回,同年11月に6回,同年12月に2回,平成19年1月に3回欠勤した。 (2)平成19年2月5日に実施された全体ケース会議において,被告会社がGで稼働させている知的障害者の勤務状況について話し合われた。その際, 原告については,遅刻の多いことが挙げられ,原告に対し (2)平成19年2月5日に実施された全体ケース会議において,被告会社がGで稼働させている知的障害者の勤務状況について話し合われた。その際, 原告については,遅刻の多いことが挙げられ,原告に対し,余裕をもって出勤するよう指導することが申し合わされた。 (3)原告は,同月7日,Eに対し,被告Cから遅刻について厳しく注意されたことについて電話相談した。これに対し,同センター所属のカウンセラーLは,被告Cの原告に対する指導は前記(2)の全体ケース会議の結果を受けてのものであることを説明し,原告を納得させた。 (4)原告は,同月21日,FジョブコーチMとの面談の際,「昨日,体調不良で無断欠勤した。起きたら11時だったので,連絡しなくてもいいと思った。今日は来づらかったけど,謝りました。」「(原告が一人暮らししているアパートの)上階の物音が大きく,寝付けない。」「(父親が)何度も電話をかけて来て苛々する。お父さんも上の階の人に話をすると言ったのに,未だに何もしてくれない。」「体調は良くない。頭痛と腰痛が続いている。」「仕事は楽しいです。休みたくないけど腰が痛い。」「Cさんとは自然な関係になったと思う。こんなに休んでいるのに怒らないし,バレンタインのチョコをくれたりするので申し訳ない。」などと述べた。 (5)同年3月23日に実施されたケース会議(出席者/L,E所属のジョブコーチN及びF所属のジョブコーチO及び同P)において,原告から,「被告Bによって,勤務時間表に記入している原告の背後から身体を密着されたり,同年3月19日の終礼中に,原告の腰(携帯カイロを貼った箇所)から臀部にかけて触られた」旨の苦情があったことが報告され,LはHにこれを伝えた。 (6)同年4月5日に実施されたケース会議(出席者/L,O,H,被告B,被告C)において,原 カイロを貼った箇所)から臀部にかけて触られた」旨の苦情があったことが報告され,LはHにこれを伝えた。 (6)同年4月5日に実施されたケース会議(出席者/L,O,H,被告B,被告C)において,原告の同年2月及び同年3月の出勤状況が著しく悪く(原告は,同年2月に7回,同年3月に6回欠勤した。),勤務の継続が可能か否かについて協議がなされたが,原告が,「体調が良くても,気分的に嫌なとき,休んだりしていた。甘えはあった。他の人に負担がかかっている のは知っている。」などと述べたことから,被告会社は,原告の様子を1か月間見ることとした。 (7)原告が,同年4月6日,本館清掃員控室において,被告Bに対し,「Cさんがいない時に,セクハラをしないで下さい。」と述べたところ,被告Cが,原告に対し,「セクハラって知ってるの。」と問い返し,被告Bを庇う形となり,その場の収拾が取れなくなったため,終業後,L,P及びOが,原告及び同被告らから事情聴取した上協議し,原告にはしばらく欠勤させ,ケース会議で今後の方策を決めることを申し合わせた。 (8)原告は,同月16日から再び出勤するようになった。 (9)Hは,同月18日に実施されたケース会議(出席者/原告,原告の父親,L,P,O,H)において,原告及び原告の父親に対し,職場において原告に対するセクシュアル・ハラスメントと捉えられることがあったことを認めて謝罪した上,被告B及び被告Cに注意し,再発を防止することを約束した。 (10)原告は,同年5月26日ころ,アパートを退居して実家に戻り,父親と二人で暮らすようになった。 (11)原告は,同年4月16日以降,通院時を除き,ほとんど欠勤しなくなった。 (12)F及びEのジョブコーチが,同年4月18日から同年10月4日まで,月1,2回程度,甲に赴き,原告や なった。 (11)原告は,同年4月16日以降,通院時を除き,ほとんど欠勤しなくなった。 (12)F及びEのジョブコーチが,同年4月18日から同年10月4日まで,月1,2回程度,甲に赴き,原告や被告B及び被告Cと面談し,原告の勤務状況や被告B及び被告Cの原告に対する対応について継続的に観察した。原告は,同年6月15日のOとの面談において,「被告Cが少し高飛車な態度,言葉になる。」と述べた外は,ジョブコーチらに対し被告B及び被告Cについて特段不満を述べることはなかった。 (13)原告は,平成19年1月から甲分館にある便所の清掃を担当していたが,同年6月ころから,同便所の臭いがきつく,身体に便所の臭いが染みこんでいる気がして,周囲から「臭い」と思われているのではないかとしきりに気 にするようになり,同年7月初めころ,被告Cに対し,同便所の担当替えを求め,同被告は,同年8月1日から,同便所の担当を原告から他の従業員に変更した。 (14)原告は,同年10月19日欠勤し,同日夕方,多量の睡眠導入薬を服用したところを父親に発見され,K病院に救急搬送されて治療を受け,うつ状態及び急性薬物中毒により同月28日まで安静が必要との診断を受け,同月20日に退院した。 (15)原告は,同月26日に実施されたケース会議(出席者/原告,原告の父親,L,P)において,「(同月19日に)自殺するつもりで薬を飲んだ。 死のうと思ったのは,職場のストレスが原因である。今は仕事を続けたいと思っている。Gの仕事は自分に合っている。仕事を続けるに当たっては,被告Cとの関係を何とかしなければと考えている。」と述べ,原告の父親も,同月29日から原告を出勤させると述べる一方,同年4月18日のケース会議以降,被告Cの原告に対する態度が厳しくなった旨主張し,同被告の配置転換等 とかしなければと考えている。」と述べ,原告の父親も,同月29日から原告を出勤させると述べる一方,同年4月18日のケース会議以降,被告Cの原告に対する態度が厳しくなった旨主張し,同被告の配置転換等を要求した。 (16)被告会社は,同年10月30日に実施されたケース会議(出席者/原告,原告の父親,L,P,H)において,原告及び原告の父親に対し,被告Cの配置転換をしない旨回答した。そして,同日のケース会議においても,原告の復職の方法について結論が出なかったため,当面の間,様子を見ることとなり,被告会社は,原告を休職扱いとした。 (17)原告は,同年11月24日から同年12月28日まで,抑うつ状態によりK病院に入院した。 争点(1)(被告Bの不法行為の有無)についてア上記1の認定事実及び証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,少なくとも,被告Bが,①平成19年3月ころ,勤務時間表に記入している原告の背後から身体を密着させたこと,及び②同月19日の終礼中,原告の腰 (携帯カイロを貼った箇所)から臀部付近にかけて触ったことが認められる。 これに対し,被告Bは,上記①の行為うち,勤務時間表に記入している原告の背後から接近し,身体が触れたかも知れないこと,上記②の行為のうち,原告の腰に指で触れたことは認めるものの,身体を密着させたことや臀部を触ったことを否認するとともに,原告が被告Bのセクシュアル・ハラスメントを指摘したのは,原告の欠勤が問題となった平成19年4月5日のケース会議が最初であり,それも原告の欠勤の理由として持ち出された話にすぎず,原告の供述は信用性に乏しい旨主張する。しかしながら,証拠(甲15,原告本人)によれば,原告は,上記②の直後である同年3月23日ころ,ジョブコーチのO及びNに対し,被告Bによって,勤務時間表に記入 原告の供述は信用性に乏しい旨主張する。しかしながら,証拠(甲15,原告本人)によれば,原告は,上記②の直後である同年3月23日ころ,ジョブコーチのO及びNに対し,被告Bによって,勤務時間表に記入している原告の背後から身体を密着されたり,同月19日の終礼中,原告の腰(携帯カイロを貼った箇所)から臀部にかけて触られた旨の相談をしていることが認められることに加えて,上記①及び②の行為がなされる前には,原告と被告Bとの間に特段問題となるようなこともなく,原告が敢えて同被告について虚偽の事実を述べるような事情も見出せないことに照らすと,上記①及び②の行為に関する原告の供述の信用性は高いものということができる。 なお,原告は,被告Bが,上記①及び②の行為以外にも,休憩時間中や終礼の時刻ころ,頻繁に,原告の腰や臀部を触ったり,自己の太股を原告の太股に密着させたりしたなどと主張し,原告本人尋問においても,被告Bが,平成19年3月から同年5月にかけて,5回ほど原告に身体を密着させてきたことがあると供述するが,同供述には原告自身の主張と整合しない点(原告は,被告Bのセクシュアル・ハラスメントの時期を平成19年1月ころから同年4月5日ころまでの間と主張している。)があり,他にこれに沿う証拠も見出せないことから,原告の上記①及び②の行為を除くその余の主張を直ちに採用することはできない。 イ被告Bの上記①及び②の行為は,明らかにセクシュアル・ハラスメント (他者を不快にさせる職場における性的な言動)であり,原告の人格権(性的自由)を侵害する不法行為に該当する(以下,上記①及び②の行為を「本件セクシュアル・ハラスメント」という。)。 争点(2)(被告Cの不法行為の有無)についてア前記1の認定事実のとおり,F及びEのカウンセラーやジョブコーチらは, 以下,上記①及び②の行為を「本件セクシュアル・ハラスメント」という。)。 争点(2)(被告Cの不法行為の有無)についてア前記1の認定事実のとおり,F及びEのカウンセラーやジョブコーチらは,原告が被告会社に入社した後も,職場への適応を確認するために継続的に原告の勤務状態を観察し,とりわけ本件セクシュアル・ハラスメントが表面化した平成19年4月以降は,原告のみならず,被告Bや被告Cの原告に対する対応についても注視するようになったが,原告は,同年6月15日のOとの面談において,「被告Cが少し高飛車な態度,言葉になる。」と述べた外は,ジョブコーチらに対し,被告B及び被告Cについて特段不満を述べることはなかったものである。そして,原告は,被告Cから遅刻について厳しく注意されたことについてEに電話相談したり(前記1(3)),本件セクシュアル・ハラスメントについては,比較的速やかにジョブコーチに相談しており(前記2ア),仮に被告Cからいじめを受けていれば,これについてもジョブコーチらに容易に相談し得る状態にあったにもかかわらず,このような相談をしていないことに加えて,被告Cが,原告の求めに応じて,速やかにI局の便所の清掃担当を原告から他の従業員へ変更していること(前記1(13))などに照らせば,原告の本人尋問における供述のみから,被告Cが,I局の便所掃除を終えた原告に対し「臭い」と言うなど,業務指導の範囲を逸脱したいじめを行っていたことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。 なお,被告Cは,同年4月6日,原告が被告Bに対し「Cさんがいない時に,セクハラをしないで下さい。」と述べた際,直ちに原告に対し「セクハラって知ってるの。」と問い返しており,配慮に欠ける言動をしたといえるが,この発言のみをもって,慰謝料請求を認 「Cさんがいない時に,セクハラをしないで下さい。」と述べた際,直ちに原告に対し「セクハラって知ってるの。」と問い返しており,配慮に欠ける言動をしたといえるが,この発言のみをもって,慰謝料請求を認めなければならないほどの違法 性があるとはいえない。 イよって,被告Cの不法行為に関する原告の主張は採用できない。 争点(3)(被告会社の責任の有無)についてア本件セクシュアル・ハラスメントは,勤務時間中に,職場で行われたものであり,被告Bの職務と密接な関連を有するものと認めるのが相当であるから,これによって原告が被った損害は,被告Bが被告会社の事業の執行について加えた損害にあたるというべきである。よって,被告会社は,民法715条1項に基づき,被告Bの上記不法行為によって原告が被った損害を賠償する責任がある。 イ使用者は,被用者に対し,信義則上その人格的利益に配慮すべき義務を負っており,セクシュアル・ハラスメントに起因する問題が生じ,これによって被用者の人格的利益が侵害される蓋然性がある場合又は侵害された場合には,その侵害の発生又は拡大を防止するために必要な措置を迅速かつ適切に講じるべき作為義務を負っているものと解される。 しかるに,証拠(証人H,同Q,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が被告会社に対し本件セクシュアル・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,Hは,被告Bから簡単な事情聴取をしただけで,セクシュアル・ハラスメントの存否を確認しないまま,同被告に対しセクシュアル・ハラスメントと誤解を受けるような行為をしないように注意したにすぎず,Jは,被告会社の代表者として,H等の担当者に対し,本件セクシュアル・ハラスメントについて十分な調査を尽くさせないまま,適切な措置を執らなかったことが認められるのであって,Jのこのような対 すぎず,Jは,被告会社の代表者として,H等の担当者に対し,本件セクシュアル・ハラスメントについて十分な調査を尽くさせないまま,適切な措置を執らなかったことが認められるのであって,Jのこのような対応は,上記作為義務に違反するものといわなければならない。 そして,原告は,Jのこのような対応によって,セクシュアル・ハラスメントが生じた職場環境に放置され,人格的利益の侵害を被ったことが容易に認められるから,被告会社は,会社法350条に基づき,Jの上記対応(作 為義務違反)によって原告が被った損害を賠償する責任がある。 争点(4)(損害)について(1)治療費について原告は,被告らの不法行為が原因で多量の睡眠導入薬を服用して自殺を図るに至り,K病院に救急搬送されて治療を受けた旨主張し,被告らに対し,その治療費を請求するので,本件セクシュアル・ハラスメント及びこれに対するJの対応(不作為)と原告の自殺未遂との間に相当因果関係があるか否かについて検討する。 証拠(乙15)によれば,原告は,①平成15年ころから,父親の過干渉等が原因で暴力・衝動的な行動が見られたため,平成17年1月21日,K病院神経科を受診し,うつ病と診断されて以来,継続して通院精神療法を受けていたこと,②同病院の医師に対し,「職場で感情不安定になりやすい。 人間関係のストレス。(平成18年11月14日の問診)」「少しイライラ。 不眠あり。(同年12月28日の問診)」「上の階の物音にイライラ。仕事休みがち。(同19年2月27日の問診)」「上の階の物音がうるさい。 (同年4月3日の問診)」「父と同居している。けんかは週に2回。以前の様に少し幻聴が出る。(同年6月26日の問診)」「もの忘れが少し多い。 イライラ,けんかは時々あり。(同年10月18日)」と述べていたこと,③平成19年 」「父と同居している。けんかは週に2回。以前の様に少し幻聴が出る。(同年6月26日の問診)」「もの忘れが少し多い。 イライラ,けんかは時々あり。(同年10月18日)」と述べていたこと,③平成19年11月24日に同病院に入院する前は,自宅で父親と衝突を繰り返していたが,入院後は易興奮などの症状は目立たなくなり,抗うつ剤の処方を中止されたが,典型的な抑うつ気分は見られなかったことが認められる。 このように,原告は,被告会社に入社する以前から精神的に不安定な状況が続いていたことに加えて,前記1の認定事実のとおり,本件セクシュアル・ハラスメントが止んでから,原告が自殺未遂を起こすまでの約6か月の間,原告は,ほとんど欠勤することもなく,比較的良好な勤務状態を保っており, 原告と被告Bとの間には特段問題とするようなこともなかったことに鑑みると,本件セクシュアル・ハラスメント及びこれに対するJの対応(不作為)と原告の自殺未遂との間に相当因果関係があるとまではいえず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。 よって,原告が主張する治療費は,損害として認めることはできない。 (2)慰謝料についてア被告Bは,業務責任者として原告等の知的障害者を支援する立場にありながら,原告にとっては容易に抗い難い状況の中で本件セクシュアル・ハラスメントを行ったものであり,その態様は相当悪質であること,原告が抗議した後も,原告に対し直接謝罪の意思を示していないこと(被告B本人),その他本件に顕れた一切の事情を総合勘案すると,原告が本件セクシュアル・ハラスメントによって被った精神的苦痛を慰謝するためには50万円をもってするのが相当である。 イ原告は,被告会社に対し,被告Bのセクシュアル・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,被告会社から,本件セクシュアル・ハラスメ った精神的苦痛を慰謝するためには50万円をもってするのが相当である。 イ原告は,被告会社に対し,被告Bのセクシュアル・ハラスメントを訴えたにもかかわらず,被告会社から,本件セクシュアル・ハラスメントについて十分な調査をなされず,曖昧なまま放置されたものであり,原告がこれにより被った精神的苦痛を慰謝するためには30万円をもってするのが相当である。 (3)弁護士費用本件事案の内容,訴訟の審理経過,認容額等一切の事情を勘案すると,被告Bの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は5万円,Jの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は3万円をもって相当と認める。 争点(5)(未払賃金の有無)について前記1の認定事実のとおり,原告の父親が,平成19年10月26日,被告会社に対し,被告Cの配置転換を要求したのに対し,被告会社が,同月30日,これを拒否したことから,原告は同日以降も出勤しなかったものであるが,前 記3に説示したとおり,被告Cの原告に対するいじめが存在したと認められない以上,被告会社が被告Cの配置転換に応じなかったとしても不当とはいえない。そうすると,原告の平成19年10月18日以降の欠勤は,被告会社の責めに帰すべき事由によるものとはいえないから,被告会社は,原告に対し上記期間の賃金を支払う義務はない。 結論 以上によれば,原告の本訴各請求は,①被告B及び被告会社に対し,被告Bについては民法709条,被告会社については民法715条1項に基づき,連帯して55万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(不法行為の後の日)である平成20年5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並びに,②被告会社に対し,会社法350条に基づき,33万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(不法行為の後の日)である平成20年5月 5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並びに,②被告会社に対し,会社法350条に基づき,33万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(不法行為の後の日)である平成20年5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払いを求める限度で理由があるから認容し,被告B及び被告会社に対するその余の各請求並びに被告Cに対する請求は,いずれも理由がないから棄却する。 大阪地方裁判所第5民事部裁判官菊井一夫

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