主 文 1 被告らは,原告に対し,連帯して1045万円及びうち950万円に対する令和元年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告らの各負担とす る。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して2145万円及びうち1950万円に対す る令和元年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,被告会社の元代表取締役社長である原告が,①被告会社の代表取締役会長である被告Aによる罵声を浴びせるなどのパワーハラスメント・いじめ・ 嫌がらせ(以下「パワーハラスメント等」という。)により精神的苦痛を受けた,②被告Aが退職慰労金の支給に係る株主総会の議題を取締役会に上程しなかったために退職慰労金を受給できなかった,③被告Aが原告の役員報酬を一方的に減額したとして,被告会社に対しては会社法350条に基づき,被告Aに対しては民法709条又は会社法429条1項に基づき,連帯して損害金214 5万円及びうち1950万円に対する訴状送達の日である令和元年8月30日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか証拠〈事実の後に掲記。特記しない限り枝番を省略する。〉及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア被告会社は,パン及び菓子類の委託加工並びに製造販売等を業とする株式会社である。被告会社の前身であるB株式会 る。〉及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア被告会社は,パン及び菓子類の委託加工並びに製造販売等を業とする株式会社である。被告会社の前身であるB株式会社は,昭和25年5月に設立され,平成6年4月に株式会社C等を合併し,その商号を現商号である被告会社へ変更した(以下,商号変更の前後を問わず「被告会社」という。)。 被告会社の発行済株式総数は,平成31年3月31日時点で3210株 であり,被告Aが1058株,その親族が合計570株(D370株,E100株,F100株)を所有し,その合計は1628株であった。 (乙9)被告会社は,経営に関する重要事項について定期的に経営会議を開催して決定した。被告会社はその他に月次報告,中間業績報告といった会議を開催し,経営に関する事項について役員間で協議した。これらの会議には, 原告,被告Aのほか被告会社の役員が出席した。 (乙13)イ被告Aは,被告会社の元社長であった亡Gの婿養子であり,昭和54年,株式会社Cに入社した。被告Aは,平成4年5月,被告会社(当時はB株式会社)の代表取締役社長に就任し,平成24年6月,社長を退き被告会社の代表取締役会長となり,以後も,被告会社の経営に関する責任者とし ての地位を有した。 (乙12)ウ原告は,昭和56年3月,被告会社に入社した。原告は,平成23年6月,被告会社の取締役兼営業副本部長兼物流システム部長に就任し,平成29年6月,被告会社の代表取締役社長に就任した。原告は,遅くとも平成26年頃から,被告会社の取引先である株式会社Hなどとの交渉を担当 した。 (2)株式会社Hとの取引と原告の社長退任までア被告会社は,平成10年頃から,株式 任した。原告は,遅くとも平成26年頃から,被告会社の取引先である株式会社Hなどとの交渉を担当 した。 (2)株式会社Hとの取引と原告の社長退任までア被告会社は,平成10年頃から,株式会社Hとの取引を開始し,その後四国地区及び関西地区の株式会社Hの各店舗への商品供給を開始した。その後,物流費の負担を考慮して,平成28年2月から関西地区の,同年1 1月から四国地区の株式会社Hの各店舗への商品供給の一部をI株式会社 に依頼した。 被告会社は,平成30年4月,I株式会社が株式会社Hの四国地区の各店舗への商品供給を終了させたことに伴い,I株式会社に代わって,同各店舗への商品供給を開始した。 (甲3,4)イ被告会社の業績は,平成29年度(同年4月1日から平成30年3月3 1日まで)において売上高が約387億7400万円で前年比約4.6%の増収,経常利益が約7億2700万円で前年比約13.6%の増益であったが,平成30年5月頃から業績が急速に悪化した。 (乙7)ウ被告会社は,同年12月,I株式会社が株式会社Hの関西地区の各店舗への商品供給を終了させたことに伴い,I株式会社に代わって,同各店舗 への商品供給を開始した。 (甲3,4)エ原告の役員報酬は,同月までは月額100万円であったが,平成31年1月から原告が退任する同年3月までの3か月分については月額50万円に減額された。 オ被告会社における役員の退職慰労金について,被告会社の役員服務規程 (以下「本件役員服務規程」という。)14条は,「役員が退任する場合,その業績又は勤務により株主総会の承認を得て退職慰労金を支給する。退職慰労金に関する細部については別に内規を設ける。」と定める (以下「本件役員服務規程」という。)14条は,「役員が退任する場合,その業績又は勤務により株主総会の承認を得て退職慰労金を支給する。退職慰労金に関する細部については別に内規を設ける。」と定める。これを受けた被告会社の役員退職慰労金支給内規(以下「本件退職慰労金内規」という。)の3条は,退職慰労金額の具体的な算定基準のほか,退職慰労金は各 役員の在任中の功績及び業務評価により基本額に増額又は減額して支給する場合がある旨などを定める。 (乙1,2)カ被告会社の当時の総務部長であったJ(以下「J総務部長」という。)は,原告の退任に際し,原告に対して,退職慰労金が1200万円となる旨の計算結果を伝えた。この金額は,本件退職慰労金内規3条に原告の取締役 及び代表取締役社長在任期間をそのまま当てはめて算出される金額と同じ である。 (甲5の1,乙1)キ原告は,同月31日をもって,被告会社の代表取締役社長及び取締役を退任した。 被告会社の株主総会において,原告に対する退職慰労金支給の議案は上程されず,原告に対して退職慰労金は支給されなかった。 第3 争点及びこれに対する当事者の主張 1 不法行為及び任務懈怠に該当するパワーハラスメント等の有無(争点1)(原告の主張)被告Aは,原告に対し,以下のパワーハラスメント等を行った。これらは不法行為及び取締役としての任務懈怠に当たり,被告Aには悪意又は重過失があ った。 (1)罵声及び叱責ア被告Aは,被告会社の業績悪化が明らかになった平成30年6月頃から,原告に対し,会長室に呼びつけて罵声を浴びせ,会議の度に出席者の面前で厳しい叱責をし,原告が同年10月頃から体調不良を呈した後もこれらを続 は,被告会社の業績悪化が明らかになった平成30年6月頃から,原告に対し,会長室に呼びつけて罵声を浴びせ,会議の度に出席者の面前で厳しい叱責をし,原告が同年10月頃から体調不良を呈した後もこれらを続 けた。 具体的には,被告Aは,原告及び原告が本部長を兼務する営業部に対し,各種会議の席などで,「バカ者」「無能」「会社の経営のことを考えようとしないサラリーマン」「会社の金を横領した奴より悪質」などという悪罵を続け,その度合いは次第に激しく,執拗なものになった。 また,被告Aは,重要な取引先である株式会社Hを目の敵にして「株式会社Hとの取引を止めるくらいの覚悟で交渉して来い」などと,実現可能性に乏しい理不尽な要求をした。 その上,被告Aは,原告や営業副本部長であるK取締役(以下「K取締役」という。)に対し,「お前たち,来期はないぞ」「(平成31年3月までに) 死ぬ気でやれ」「もしそれまでに(改善の)目途がつかなかったら辞めても らうぞ」「退職金も出ないぞ」などと繰り返し脅した。また,被告Aは,同年1月21日の経営者会議において,原告とK取締役に対し,「二人を呪い殺してやるからな」ということまで言った。 イ被告らの主張について(ア)被告Aは,同人の言動が原告の奮起を促す目的であり,原告は被告会社 の危機的状況を招いたから強い言葉で叱責等をされてもやむを得ないと主張する。 (イ)しかし,被告Aの発言は,下位者の人格などを全く無視してひたすら悪罵するもので,遠慮のない叱責等という性質のものではない。 (ウ)また,原告は,I株式会社からの株式会社Hの四国店舗への商品供給を 終了するとの申出についてこれを平成29年10月9日の日報で被告Aに報告しており,これに対し被告Aは「うちがやるんだろ」と述べた。 ,原告は,I株式会社からの株式会社Hの四国店舗への商品供給を 終了するとの申出についてこれを平成29年10月9日の日報で被告Aに報告しており,これに対し被告Aは「うちがやるんだろ」と述べた。加えて,I株式会社は採算が取れないことを理由に株式会社Hの四国及び関西地区の各店舗への供給事業から撤退したいと申し出たところ,株式会社Hとの取引は被告会社において重要な位置を占め,四国及び関西地区の取 引のみを行わないことはできなかった。そのため,被告会社は,自ら株式会社Hの四国及び関西地区の店舗へ商品を供給せざるを得なかった。原告はこれらについて逐一経営会議で報告しており,被告会社が商品供給を引き受けるという方針は,被告Aをはじめとする役員の総意で決したものであった。 被告会社が株式会社Hの四国及び関西地区への商品供給を引き受けるまでの上記経緯からすると,被告Aが,原告に対し,原告が株式会社Hの四国及び関西地区への商品供給を独断で決したという非難を繰り返し,悪罵する理由はなかった。 (2)原告の社長としての体面を殊更に損なうような行為 被告Aは,平成30年10月頃,原告に対し,それまで担当していた広報企 画の仕事から外れることを指示した。 被告Aは,平成31年1月4日に開催された取引先との新年会について,原告とK取締役の2名に対して取引先との挨拶終了後に実施される幹部懇談会を欠席するよう指示し,出席を許さなかった。また,被告Aは,原告,K取締役及び営業部の幹部5名に対して,平成31年1月7日に実施されたグループ 会社の幹部による神社参拝後の懇親会への出席を認めなかった。 被告Aは,その後も,原告とK取締役について,商品開発会議等の主要な会議への出席を許さず,同月22日開催の新製品最終確認会議,新製品決 会社の幹部による神社参拝後の懇親会への出席を認めなかった。 被告Aは,その後も,原告とK取締役について,商品開発会議等の主要な会議への出席を許さず,同月22日開催の新製品最終確認会議,新製品決定会議,品質改善会議,原価低減会議,他社商品検討会議等,被告A出席の会議への出席を禁止した。 これらの被告Aの専断的な措置は,社長兼営業本部長としての原告の体面を被告会社の内外にわたって損なうものであり,不法行為に該当する。 (被告らの主張)否認ないし争う。以下のとおり,被告Aの発言や措置は,違法性がなく,任務懈怠にも当たらない。 (1)罵声及び叱責の主張についてア被告Aの発言内容について原告の主張は,被告Aの発言を不正確に引用し,又は不適切に抜き出すものである。原告が指摘する被告Aの発言は,実際には,経営上の問題点を具体的に指摘した上で批判・叱責をしたものや,原告に発破をかけたも の,重大な経営判断に当たって取締役会における報告・検討を経なかったことを批判するものなどである。 イ発言の状況について(ア)原告の指摘する被告Aの発言は,被告会社の取締役会においてされたものであるところ,取締役会は会社の業務執行の決定等を担う重要機関であ り,その判断が会社の命運を左右する場合もあるため,ときに遠慮のない 意見を述べることも必要である。 平成30年当時,被告会社の業績は過去17年で最悪という状況にあり,その原因や対策等について社内で激しい議論がされていた。その中でいきおい強い言葉が用いられたとしてもやむを得ない。被告Aは,被告会社の業績に危機感を抱き,原告の奮起を促す目的でこれらの言葉を発したもの である。 (イ)さらに,発言の相手である原告は,当時勤続38年目の被告会社の代表取締役 やむを得ない。被告Aは,被告会社の業績に危機感を抱き,原告の奮起を促す目的でこれらの言葉を発したもの である。 (イ)さらに,発言の相手である原告は,当時勤続38年目の被告会社の代表取締役社長として被告Aと共に代表権を有し経営に重大な責任を負う立場にありながら,取締役会を軽視して被告会社の危機的状況を招いた者であり,強い言葉で叱責等されてもやむを得ない状況にあった。 すなわち,被告会社は,かつて,I株式会社と交渉し,株式会社Hの四国及び関西地区への商品供給を依頼したものであり,これを引き受けることは,パン製品を遠方に大規模に送るという構図自体から大幅な採算割れが予想された。それにもかかわらず,原告は,I株式会社が株式会社Hの四国及び関西地区に対する商品供給を終了するという意向を聞 いた際,I株式会社に対し,被告会社がI株式会社に代わって商品供給を行う場合には社内検討が必要である旨を伝えず,再考を促すこともせずに,その場で直ちにI株式会社の撤退を了承する趣旨の回答をした。 その後原告は,被告会社の取締役会での検討を経ずに独断で,I株式会社に代わって,株式会社Hの四国地区における商品供給を引き受けた。 このような原告の独断の結果,九州の地域企業である被告会社は,平成30年4月,株式会社Hの四国地区における商品供給を開始し,物流経費が異常に増加して,危機的な経営状態に陥った。被告会社では原告の代表取締役社長としての資質が問題視されるに至り,原告は,強い言葉で叱責等されてもやむを得ない状況にあった。 (2)原告の体面を損なう行為との主張について 原告が被告会社の広報企画業務を外れた事実はあるが,それは原告の担当範囲を絞り,業績改善のための営業活動に注力させるためにとられた措置である。 また,原告が 体面を損なう行為との主張について 原告が被告会社の広報企画業務を外れた事実はあるが,それは原告の担当範囲を絞り,業績改善のための営業活動に注力させるためにとられた措置である。 また,原告が懇親会への出席や会議への出席を見送った事実はあるが,これも同様に業務改善のための営業活動に注力させるためにとられた措置である。 2 退職慰労金を不支給とした不法行為及び任務懈怠の有無(争点2) (原告の主張)(1)被告Aは,被告会社の代表取締役会長であり,本件退職慰労金内規に従い,原告に対する退職慰労金を支給する手続を行う義務,具体的には,株主総会に議案を上程する義務があったが,これを怠った。すなわち,J総務部長が原告に対する退職慰労金の支給手続を進めていたにもかかわらず,被告Aは, これを差し止めて不支給の指示をしたのであり,このことは,不法行為及び取締役としての任務懈怠に当たり,被告Aには悪意又は重過失がある。 本件退職慰労金内規が定められていることは,特段の事情のない限り同内規に従って役員退職金が支給されるべきことを意味し,役員にはそれを期待する権利がある。 現に,被告会社において,これまで退職した役員に対してほとんど例外なく同内規に 基づいて退職慰労金が支給されてきており,例外としては,業務上横領のような不祥事を引き起こした役員につき一部減額がされたという事例があるのみである。 (2)被告らの主張についてア被告らは,原告の退職慰労金を不支給とすることに理由があると主張する。 しかし,前記のとおり,株式会社Hの四国及び関西地区の各店舗への商品供給は,やむを得ない措置であり,また原告が経営会議に報告した上で行われた措置である。 また,被告ら主張の株式会社Lとの間で取引上の問題は存在せず,営業部内で発生 四国及び関西地区の各店舗への商品供給は,やむを得ない措置であり,また原告が経営会議に報告した上で行われた措置である。 また,被告ら主張の株式会社Lとの間で取引上の問題は存在せず,営業部内で発生したハラスメントに心当たりはない。さらに株式会社Hが原告 による商談を拒絶したなどという事実はない。 イ被告らは,退職慰労金支給の議案を上程しなかったのは,原告と被告らの間の交渉が決裂したからであると主張する。 しかし,被告らが主張する原告代理人との提訴前の和解交渉に関する経過は正確ではなく,仮に,被告らが原告に退職慰労金1200万円を支払うつもりがあるのであれば,示談交渉の結果にかかわらずその旨の議案を 上程すれば足りるのであり,そうしなかったのは退職慰労金を支給する意思がなかったからである。 (被告らの主張)否認ないし争う。 (1)被告Aに原告主張の義務はない。 前記のとおり原告は,株式会社Hとの取引に関して取締役会を軽視した経営判断をし,被告会社の平成30年度の業績を過去17年間で最悪のものとし,被告会社の価値を大きく毀損したのであるから,原告の退職慰労金を不支給とすることには十分な理由があり,退職慰労金の不支給について不法行為等が成立する余地はない。 また,原告は,①被告会社の長年の取引先である株式会社Lに対する恫喝ともとれる言動により同社との関係を悪化させ,②営業本部長を兼任していたのに営業部内で発生したハラスメント問題を取締役会に報告せず加害者に対する処分もしなかったため,被告会社が被害者から損害賠償請求を受ける結果を招き,③同年3月の株式会社Hとの商談の際,被告会社が株式会社H にパートナーとして紹介したI株式会社について「あんな会社とは思わなかった」との無責任な発言をし,不 損害賠償請求を受ける結果を招き,③同年3月の株式会社Hとの商談の際,被告会社が株式会社H にパートナーとして紹介したI株式会社について「あんな会社とは思わなかった」との無責任な発言をし,不信感を抱いた株式会社Hは原告が直接同社と商談に当たることを拒絶した。これらによれば,退職慰労金の不支給は相当ということができる。 (2)また,被告会社が株主総会に原告の退職慰労金支給の議案を上程しなかっ たのは,被告Aが不支給を指示したからではなく,代理人間の交渉が決裂し たからであり,被告Aに義務違反はなく,不法行為や任務懈怠はない。 すなわち,原告退職後の平成31年4月23日,原告代理人から退職慰労金等の支払請求があり,被告らは,退職慰労金として600万円を支払うこと,その旨の議案を株主総会に上程する予定であることを伝えた。その後の交渉を経て,被告らは,交渉の解決案として,原告に退職慰労金1200万 円を支払うことが可能であるとの判断をしたが,原告が納得せず,交渉は決裂した。 3 役員報酬の減額に関する不法行為及び任務懈怠の有無並びに原告の「第三者」(会社法429条1項)該当性(争点3)(原告の主張) (1)一旦決定された報酬額について本件役員服務規程10条を無視し,会長である被告Aの一存で減額することはできないが,被告Aは,原告の同意なく,同年1月7日の経営会議の場で唐突かつ一方的に役員報酬の減額を宣言し,原告の役員報酬を同月分から半額とした。これは,不法行為及び取締役としての任務懈怠に該当し,被告Aには悪意又は重過失がある。 なお,被告Aなど一部の役員は,他のグループ会社から役員報酬を得ていたのに対し,原告は被告会社のみの役員であり,報酬を半額にされることは生活に直結するものであった。 ( は重過失がある。 なお,被告Aなど一部の役員は,他のグループ会社から役員報酬を得ていたのに対し,原告は被告会社のみの役員であり,報酬を半額にされることは生活に直結するものであった。 (2)原告は被告会社の代表取締役であったものの,被告Aが被告会社において絶対的・専制的存在であるのに対し,原告はいわゆるたたき上げの社長にす ぎず,被告会社における地位に雲泥の差があったから,原告は会社法429条1項の「第三者」に該当する。 (被告らの主張)否認ないし争う。被告Aに不法行為及び任務懈怠はなく,重過失もない。 (1)原告の役員報酬の減額は,被告会社の業績の大幅な悪化に鑑み,原告が代表 取締役社長として出席した経営会議において協議のうえ承認され,承認に際し 原告から異議は述べられてなかった。原告の役員報酬の減額は原告の同意によるものである。また,役員報酬の減額については被告Aを含む全役員が同一の条件に服した。 (2)会社法429条1項の「第三者」は,その文言上,当然に会社の代表取締役を含むものではなく,原告は「第三者」に当たらない。 4 パワーハラスメント等による損害の有無及び額(争点4)(原告の主張)原告は,被告Aのパワーハラスメント等によりうつ病を発症するようなことがなければ,将来にわたって役員として活躍することが期待されたのであり,被告会社の取締役の定年である65歳までは取締役の地位に留まり,その間の役員報 酬が得られることも期待された。しかし,被告Aのパワーハラスメント等により,体調が悪化してうつ病を発症し,被告会社の代表取締役社長を退任して被告会社を辞めざるを得なくなり,多大な精神的苦痛を被った。被告のパワーハラスメント等による慰謝料は,600万円が相当である。 なお,原告は並 してうつ病を発症し,被告会社の代表取締役社長を退任して被告会社を辞めざるを得なくなり,多大な精神的苦痛を被った。被告のパワーハラスメント等による慰謝料は,600万円が相当である。 なお,原告は並み居る取締役の中でも能力,人格識見ともに社長にふさわしい 人物と目されたのであり,その原告が社長就任後しばらくして精神的不調を覚え,うつ病の診断を受けるまでに至った原因は,被告Aのパワーハラスメント等以外に考えられない。 (被告らの主張)否認ないし争う。慰謝料算定の基礎となる通院期間や通院日数は的確に主張 立証されていない。 また,原告のうつ病の発症は十分に立証されておらず,仮にうつ病との診断が適切であったとしても,その症状は軽微である。原告は被告会社の代表取締役社長という重責を担っていた者であり,その中で業績の大幅な悪化という深刻な事態が生じたのであるから,被告Aの行為以外に発症原因が存在する。原 告のうつ病は,退職後に生じた原告の入眠障害・中途覚醒の症状が特に誘引な く発生したことや,原告の年齢に照らし,原告主張のパワーハラスメント等と無関係に生じたものである。 5 被告Aが退職慰労金の支給に係る議案を株主総会に上程しなかったことによる損害の有無及び額(争点5)(原告の主張) 原告の退職慰労金は,本件退職慰労金内規の定める算定基準に基づくと,1200万円である。退職慰労金について取締役会及び株主総会の恣意が許されるものではなく,前記のとおり,株式会社Hの四国及び関西地区への商品の供給を被告会社が引き受けたことは,やむを得ない措置であり,また原告の独断によるものではない。そして,被告会社の業績が平成30年5月以降極度に悪化した のは,I株式会社に代わって株式会社Hの四国及び関西地区への商品の たことは,やむを得ない措置であり,また原告の独断によるものではない。そして,被告会社の業績が平成30年5月以降極度に悪化した のは,I株式会社に代わって株式会社Hの四国及び関西地区への商品の供給を引き受けざるを得なかったことによる不可避な結果であって,そのことをもって原告に経営責任を問うことはできない。 したがって,被告Aが退職慰労金の支給に係る議案を株主総会に上程しなかったことによる損害額は,1200万円である。 (被告らの主張)否認ないし争う。 株主総会に原告の退職慰労金の議案が上程されたとしても,1200万円の支給が決定されたとはいえず,損害は立証されていない。 仮に退職慰労金不支給に関する被告らの責任及び損害が認められるとしても, 損害額は850万円が限度である。 すなわち,被告会社の平成30年度の業績は著しく悪化し,その主たる原因は原告が独断で株式会社Hに対する四国及び関西地区の供給を引き受けたからである。このような被告会社の状況及び原告の代表取締役社長としての功労等を考慮すると,本件退職慰労金内規に従って算出される1200万円のうち, 原告が取締役社長であった期間の分である350万円を不支給とし,それ以外 の取締役在任期間の分である合計850万円を限度としたはずであり,さらなる減額も検討した可能性がある。そして,株主総会において平成30年度の業績悪化や原告の功労等を説明すれば,原告の退職慰労金を850万円とする議案は異議なく可決されたと考えられる。 6 被告Aが役員報酬を減額したことによる損害(争点6) (原告の主張)原告は,平成30年12月まで月額100万円の役員報酬を受け取っていたが,平成31年1月から同年3月までの間,被告Aによって一方的に役員報酬を月額50万円 る損害(争点6) (原告の主張)原告は,平成30年12月まで月額100万円の役員報酬を受け取っていたが,平成31年1月から同年3月までの間,被告Aによって一方的に役員報酬を月額50万円に減額された。これによる損害は,減額前の役員報酬との差額である150万円(計算式:月額50万円×3か月)である。 (被告らの主張)否認ないし争う。 7 原告の被った損害の合計(争点7)(原告の主張)争点4ないし6の損害額の合計は1950万円であり,弁護士費用はその1 割に当たる195万円が相当である(合計2145万円)。 (被告らの主張)否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え,証拠(事実の後に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)被告会社の取引先及び業績についてア被告会社は,九州地区を拠点とし,パン及び菓子類の製造販売等を業とする会社であり,平成10年頃,宮崎県の株式会社Hの店舗へ商品の供給 を開始して株式会社Hとの取引を開始し,その後平成15年頃には四国地 区の,平成21年頃には関西地区の株式会社Hの各店舗への商品供給を開始した。 (甲3,4)被告会社の最も東にある製造工場は山口県にあり,同工場よりも東側の地域への商品供給は,物流費増大の原因となった。 (甲3の1,原告本人〔24~27・45 項〕) 被告会社は,平成15年頃から関西地区に本店を置く地場スーパー等とも取引したが,営業副本部長であった原告は,平成24年,物流費の負担が大きいことを理由としてその取引を終了した。被告会社は,その頃,物流費を抑えるため,I株式会社の大阪空港工場を購入 場スーパー等とも取引したが,営業副本部長であった原告は,平成24年,物流費の負担が大きいことを理由としてその取引を終了した。被告会社は,その頃,物流費を抑えるため,I株式会社の大阪空港工場を購入する交渉をしたが,I株式会社に売却の意思がなく,断念した。また被告会社は,平成26年, 物流費の負担が大きいことを理由として,四国地区に本店を置く地場会社との取引を終了した。 (甲3,4,9の3〔1・2 頁〕,11,原告本人〔44・45・51~54 項〕,被告A本人〔36~40・46~48 項〕)被告会社は,その後,九州以外の地域に商品を供給することによる物流費の負担が大きいことから,I株式会社に対して商品供給に係る協力を求 めて交渉し,その結果,被告会社は,株式会社Hとの取引について,平成28年2月から関西地区の,同年11月から四国地区の同社の各店舗への商品供給の一部をI株式会社に依頼し,以後は,I株式会社と株式会社Hが直接取引をした。当時営業副本部長であった原告は,その際のI株式会社との交渉を担当した。 (甲3,4,原告本人〔62・63 項〕,被告A本人〔49~53 項〕)しかし,I株式会社は,平成29年10月9日,被告会社の代表取締役社長兼営業本部長であった原告に対し,株式会社Hの四国地区の各店舗への商品供給を終了する意向を伝えた。原告は,同日,株式会社Hの本社に行き,まず,直ちには対応することができないことを伝えた。そして原告 は,同日の業務日報にI株式会社が株式会社Hの四国地区の店舗への商品 供給を終了させ意向である旨を記載し,被告Aに対してその業務日報を提出した。被告Aは,その業務日報を見て,I株式会社の前記意向を知った。 (甲3,4,9の2〔11・12 頁〕,甲9 供給を終了させ意向である旨を記載し,被告Aに対してその業務日報を提出した。被告Aは,その業務日報を見て,I株式会社の前記意向を知った。 (甲3,4,9の2〔11・12 頁〕,甲9の3〔5 頁〕,12の2,原告本人〔72・73 項〕,被告A本人〔66・67 項〕)原告は,I株式会社が撤退した場合の対応について,株式会社Hとのそ の後の交渉を営業本部の担当者に任せた。そして,被告会社は,I株式会社に代わって,株式会社Hの四国地区の店舗への商品供給を行うことになった。 (甲3,原告本人〔173~176 項〕,被告A本人〔86~88 項〕)その間,原告は,被告会社が株式会社Hの四国地区の店舗への商品供給 を行うまで,被告会社の経営会議において,I株式会社に代わって株式会社Hの四国地区の店舗へ商品を供給するかを議題にせず,経営会議での検討をしなかった。被告会社は,平成30年4月,I株式会社に代わって株式会社Hの四国地区の店舗への商品供給を開始した。被告Aは,同月の予算会議において,被告会社が株式会社Hの四国地区の店舗への商品の供給 を引き受けたことを初めて知った。 (原告本人〔204~206・209 項〕,被告A本人〔68~73・354・358 項〕)イ被告会社の平成29年度(同年4月1日から平成30年3月31日まで)の業績は,売上高が約387億7468万円,経常利益が約7億2727万円,営業利益が約5億2459万円であった。しかし,被告会社の業績 は被告会社が株式会社Hの四国地区の店舗への商品供給を開始した翌月である同年5月頃から急速に悪化し,平成30年度(同年4月1日から平成31年3月31日まで)の被告会社の売上高約373億5649万円に対し,経常利益が約3億1126万円,営業利益が約3 開始した翌月である同年5月頃から急速に悪化し,平成30年度(同年4月1日から平成31年3月31日まで)の被告会社の売上高約373億5649万円に対し,経常利益が約3億1126万円,営業利益が約3580万円であった。 (乙7) 被告会社の業績が同年5月から悪化した原因は,株式会社Hの四国地区 の各店舗への商品供給を開始したことに伴って物流費が増大し,物流費を補うだけの売上げがなかったことにあった。 (甲8の4,乙7,原告本人〔214・221・222 項〕,被告A本人〔63~65 項〕)(2)原告が被告会社を退職するまでの経過ア被告Aは,平成30年11月5日から平成31年1月15日の間に行わ れた経営会議,月次報告ないし中間業績報告の各会議において,原告に対し,無能だ,サラリーマンだから辞めればいいと思っている,馬鹿だなどと言った。 (甲1の1)イ J総務部長は,平成30年11月12日の経営会議において,幹部職員の冬季賞与に関して,被告会社の厳しい現状に鑑み,一律,人事評価を下 げる旨説明した。 (乙13の47)被告Aは,平成31年1月7日の経営会議において,同月以降の役員全員の報酬を半額にすると発言した。原告を含む被告会社役員は,被告Aの発言に対して,何ら発言しなかった。 (原告本人〔101・102 項〕,被告A本人〔109~112 項〕) 原告の同月以降の役員報酬はそれまで支給されていた月額100万円から月額50万円に減額された。被告Aを含む多くの役員の報酬は,同月以降,原告と同様に半額となった。 (甲7)ウ被告Aは,同月18日の中間業績報告の会議において,K取 円から月額50万円に減額された。被告Aを含む多くの役員の報酬は,同月以降,原告と同様に半額となった。 (甲7)ウ被告Aは,同月18日の中間業績報告の会議において,K取締役による株式会社Hへの商品供給に関する説明が行われた後,原告に対し,「馬鹿っ てお前は,会社の経営のことは何も考えないで」と言い,その他に,「サラリーマン根性丸出し」「会社の金なんかどうなっても良いとかさ,根底にある」「お前,もう一生恨むぞ,俺は,おぉ,引きずり倒すぞお前を」と言った。 (甲9の3〔7・9・11 頁〕)また被告Aは,同月21日の経営会議において,株式会社Hへの商品供 給に関する話題となった際,原告に対し,「横領して悪いことして会社の金 とか,辞める奴よりお前の方が始末が悪い」「会社の金を横領するよりも始末が悪い」「何回も言うけど金を横領して,お前,辞めさせられるよりお前たちゃ始末が悪いんだぞ」と言ったほか「能力がなくて」「無能な,ひと,無能な,本当無能な人間やな」「お前,自分たちの無能のせいで」「無能なサラリーマンや,本当に無能やな」と言い,「最悪の状態になったらお前ら 2人を呪い殺してやるからな」とも言った。なお,ここでの「自分たち」ないし「2人」とは,原告及びK取締役のことを指す。 (甲9の1〔8~11 頁〕)さらに被告Aは,平成31年1月28日の経営会議において,担当役員からI株式会社が撤退したことによる損益影響額の報告があった後,原告 に対し,「本当,もう会社の金を横領するより始末が悪いな,お前は」と言った。 (甲9の2〔10・14 頁〕)エ被告会社の経営会議,月次報告,中間業績報告といっ に対し,「本当,もう会社の金を横領するより始末が悪いな,お前は」と言った。 (甲9の2〔10・14 頁〕)エ被告会社の経営会議,月次報告,中間業績報告といった各種会議には,原告,被告Aのほか被告会社の役員が出席し,役員以外の従業員が出席することもあった。 (乙13,被告A本人〔146~154 項〕) オ原告は,同年2月26日,うつ病と診断された。 (甲2の1)カ原告は,同年3月31日,被告会社代表取締役を退任した。 (3)退職慰労金に関する被告会社の規定等と原告に対する不支給ア被告会社は,退職慰労金について,取締役会で定める本件役員服務規程及び本件退職慰労金内規により算定基準等を定めるところ,これらの規定 上,代表取締役社長と取締役の退職慰労金の算定基準は異なり,退職慰労金を不支給とするのは本件役員服務規程に違反する行為により役員を退任する場合に限られ,退職慰労金の増減額事由は各役員の在任中の功績及び業務評価となっている。 (乙1,2)本件退職慰労金内規3条の定める算定基準によると,平成23年6月か ら平成29年6月までの6年間取締役を務め,同月から平成31年3月ま での1年9か月の間取締役社長を務めた原告の退職慰労金の額は,1200万円となる。 計算式:(100万円/年×1年)+(150万円/年×5年)+(200万円/年×〈1年+9/12年〉)(〈平成24年6月までの取締役の1年当たりの基本額〉×〈原告の 同月までの取締役在任期間〉)+(〈平成24年7月以降の取締役の1年当たりの基本額〉×〈原告の同月以降の取締役在任期間〉)+(〈取締役社長の1年当 までの取締役の1年当たりの基本額〉×〈原告の 同月までの取締役在任期間〉)+(〈平成24年7月以降の取締役の1年当たりの基本額〉×〈原告の同月以降の取締役在任期間〉)+(〈取締役社長の1年当たりの基本額〉×〈原告の取締役社長の在任期間〉) (乙1)イ被告会社における退職慰労金の支給状況についてみると,被告会社は, 平成20年6月から原告が退任する平成31年3月までの間に退任した役員(非常勤役員を除く。)9名に対しては,いずれも,退職慰労金を支給し,このうち2名には本件退職慰労金内規に基づいて算出される退職慰労金から減額された額を支給した。そのうち1名は,被告会社において部下から不正に金員を取得した役員であった。 (甲6,原告本人〔36~40 項〕,被告A本人〔309 項〕)また,被告会社は,役員に対し退職慰労金を支給しなかったことがあり,同人は被告会社の経営状況が危機的であった平成13年頃に経理担当だった役員であり,独断で融資を実行し1億円の損失を出した。同役員からは,本件退職慰労金によれば計算上800万円となる退職慰労金が支給されな いことに異議が出なかった。 (被告A本人〔10・11・177・178 項〕)ウ J総務部長は,原告の退任に際し,原告に対して,退職慰労金が1200万円となる旨の計算結果を伝えた。 (甲5の1・2)エ被告会社の取締役会において,原告に対する退職慰労金支給の株主総会の議案は上程されず,原告に対して退職慰労金は支給されなかった。 (4)株式会社Hとの取引に関する原告の主張について 原告は,株式会社Hの四国店舗に対し商品を供給するに先立ち,被告Aらに対し,経営会議等でその旨報告したと主張し,これに沿 た。 (4)株式会社Hとの取引に関する原告の主張について 原告は,株式会社Hの四国店舗に対し商品を供給するに先立ち,被告Aらに対し,経営会議等でその旨報告したと主張し,これに沿う原告の陳述書(甲11)の記載がある。 そして,証拠(甲9の2〔16 頁〕)によれば,被告Aが,平成30年4月の月次報告ないし中間業績報告の会議において,I株式会社に代わって被告会 社が同店舗に対する商品を供給することによって生じる物流費がどの程度であるかの説明を受けたことは認められる。しかし,同月は被告会社がI株式会社に代わって株式会社Hの四国地区の各店舗に商品供給を開始した月であって,原告が商品供給の開始に先立ちその旨説明したものではない。 また,証拠(乙13の1~24)によれば,平成29年10月から平成3 0年4月までの経営会議において,被告会社が株式会社Hの四国地区の各店舗に対して商品を供給することについて,付議ないし決議された記録はない。 この点,前記認定のとおり,被告会社は,I株式会社に対し,株式会社Hの四国及び関西地区の各店舗に対して商品を供給する際の物流費を考慮し,同各店舗に対する商品供給をI株式会社に依頼したという経緯があったところ, この経緯を踏まえると被告会社がI株式会社に代わって商品供給を行った場合には被告会社の経営を圧迫すると予測されるから,被告会社にとって,その商品供給を行うか否かは重要な経営判断事項であったということができる。 そうすると,被告会社の重要な経営に関する事項を決定する経営会議において,I株式会社に代わって被告会社が商品を供給するか否かが話題となった にもかかわらず,経営会議の議事録に記載されないとは考え難い。 そうすると,上記原告の陳述書の記載は裏付けを欠き,採用することがで 会社に代わって被告会社が商品を供給するか否かが話題となった にもかかわらず,経営会議の議事録に記載されないとは考え難い。 そうすると,上記原告の陳述書の記載は裏付けを欠き,採用することができず,原告が経営会議等において,I株式会社に代わって株式会社Hの四国店舗に対し商品を供給することを報告したということはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 2 争点1(不法行為及び任務懈怠に該当するパワーハラスメント等の有無)に ついて(1)前記前提事実のとおり,被告会社は,被告Aの同族会社であり(被告Aとその親族で過半数の株式を保有),被告Aは,被告会社の社長であった亡Gの婿養子となり,平成4年5月,被告会社の代表取締役社長に就任し,平成24年6月,社長を退き被告会社の代表取締役会長となり,以後も,被告会社 の経営に関する責任者としての地位を有した。これに対し原告は,昭和56年3月,被告会社に入社し,平成29年6月,被告会社の代表取締役社長兼営業本部長に就任したものであり,被告Aは,被告会社における経歴等に照らし,同じく当時代表取締役であった原告よりも優越的な地位にあった。 前記認定のとおり,被告Aは,平成30年11月から平成31年1月まで の間に開かれた経営会議及び中間業績報告の会議において,原告に対し,馬鹿,無能,サラリーマン根性丸出し,会社の経営を考えない,会社の金を横領した者より始末が悪い,と繰り返し言った。被告会社の経営会議及び中間業績報告の会議には,原告及び被告Aの他,取締役らが出席した。被告Aによる上記各発言は,被告Aの優越的な地位に基づき,他の取締役らの前で行 われたものであって,従業員から代表取締役となって被告会社の経営者となった原告を多数の人の前で馬鹿,無 出席した。被告Aによる上記各発言は,被告Aの優越的な地位に基づき,他の取締役らの前で行 われたものであって,従業員から代表取締役となって被告会社の経営者となった原告を多数の人の前で馬鹿,無能と罵り,経営者であることを否定し,さらに横領という犯罪行為を行った者よりも悪質などとするもので,原告の人格を否定するものである。 (2)他方で,前記認定のとおり,被告会社の業績は,平成29年度(同年4月 1日から平成30年3月31日まで)の営業利益が約5億2459万円であったが,被告会社は同年4月にI株式会社に代わって株式会社Hの四国地区の各店舗への商品供給を開始して物流費が増大した。被告会社の業績は,物流費の増大を原因として,その翌月である同年5月頃から急速に悪化し,平成30年度(同年4月1日から平成31年3月31日まで)の被告会社の営 業利益は約3580万円となって,前年度比で約5億円減少した。被告会社 がこのような経営状況に陥ったのは,平成13年以来であった。 そうすると,被告会社の経営に関する責任者であった被告Aは,株式会社Hの四国地区の各店舗への商品供給を開始したことに端を発する上記の困難な経営状況を乗り越える必要があり,被告Aは,そのために,被告A以下全員に対し業務指導ないし叱咤激励を行う必要があったということはできる。 しかし,前判示のとおり,被告Aの原告に対する各発言は,他の取締役の前で繰り返し,原告の人格を否定するものであって,被告Aにおいて業務指導ないし叱咤激励を必要とする状況にあったとしても,このような原告の人格を否定する激しい言葉が業務指導等のために必要ということはできず,業務指導等のため正当化されることはない。さらに被告Aは,前記認定のとお り,原告に対し,一生恨む,引きずり倒す うな原告の人格を否定する激しい言葉が業務指導等のために必要ということはできず,業務指導等のため正当化されることはない。さらに被告Aは,前記認定のとお り,原告に対し,一生恨む,引きずり倒す,呪い殺してやるなどと言って,業務指導ないし叱咤激励とは異なる強い嫌悪の感情を示す発言までしており,かかる一連の発言は,感情の赴くままになされたものというべきである。 (3)そうすると,被告Aが,平成30年11月から平成31年1月までの間に開かれた経営会議及び中間業績報告の会議において,原告に対し,馬鹿,無 能,サラリーマン根性丸出し,会社の経営を考えない,会社の金を横領した者より始末が悪い,と繰り返し発言(以下「本件各発言」という。)し,「呪い殺してやる」などと発言したことは,社会通念上許容される範囲を逸脱し,違法というべきである。 したがって,被告Aによる本件各発言は,不法行為を構成する。 (4)その余の原告の主張についてア原告は,被告Aによる,「株式会社Hとの取引を止めるくらいの覚悟で交渉して来い」,「お前たち,来期はないぞ」,「(平成31年3月までに)死ぬ気でやれ」,「もしそれまでに(改善の)目途がつかなかったら辞めてもらうぞ」「退職金も出ないぞ」などという原告に向けた発言が不法行為に該当 すると主張する。 しかし,前判示のとおり,被告会社の業績が悪化し,被告Aにおいて業務指導ないし叱咤激励を必要とする状況にあったことからすると,原告の主張する各発言は,経営状況を改善するために強い気概を持って交渉に臨むべきである旨を示したものにとどまり,業務上の必要性を超えて原告の人格を否定するものとまでいうことはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 イまた原告は,被告Aが べきである旨を示したものにとどまり,業務上の必要性を超えて原告の人格を否定するものとまでいうことはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 イまた原告は,被告Aが原告を広報企画業務から外し会議や懇親会等に出席させなかったことが,不法行為に該当すると主張する。 確かに証拠(被告A本人〔108 項〕)によれば,被告Aが原告に対し懇親会や各種会議に出席しないように指示したことが認められるものの,この ような指示のみによって原告の対外的な評価を低下させるということはできず,前記認定のとおり,原告は株式会社Hとの交渉に責任を負う代表取締役兼営業本部長であり,前判示のとおりの被告会社の状況を踏まえると,被告Aが原告を被告会社の業績の立直しに専念させるとして懇親会等に出席させなかったことが不合理であって違法とまでいうことはできない。ま た,被告Aが原告を広報企画業務から外したとしても,同様に,当時の経営状況及び原告の立場を踏まえると,その判断が不合理であるということはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 3 争点2(退職慰労金を不支給とした不法行為及び任務懈怠の有無)について (1)前記認定のとおり,被告会社は,退職慰労金について,取締役会において本件役員服務規程及び本件退職慰労金内規(以下「本件各内規」という。)により算定基準等を定めるところ,これらは被告会社が退職慰労金を不支給とする場合について本件役員服務規程に違反する行為により役員を退任する場合のみを掲げ,退職慰労金の増減額事由を各役員の在任中の功績及び業務評 価としていることからすると,被告会社は,本件役員服務規程に違反するこ とを原因として役員を退任した場合を除き,たとえ業務評価が低い役員 金の増減額事由を各役員の在任中の功績及び業務評 価としていることからすると,被告会社は,本件役員服務規程に違反するこ とを原因として役員を退任した場合を除き,たとえ業務評価が低い役員であったとしても,退職慰労金を支給することとしていたということができる。 そして,前記認定のとおり,被告会社における退職慰労金の支給状況についてみると,被告会社は,平成20年6月から原告が退任する平成31年3月までの間に退任した役員(非常勤役員を除く。)9名に対しては,いずれも, 退職慰労金を支給し,このうち2名には本件退職慰労金内規に基づいて算出される退職慰労金から減額した額を支給した。そのうち1名は,被告会社において部下から不正に金員を取得した役員であった。 他方で,前記認定のとおり,被告会社の経営が危機的な状況にあった平成13年頃に経理担当だった役員は,本件退職慰労金内規に基づいて算出され る退職慰労金が800万円であったものの,退職慰労金を支給されなかったが,同役員は,被告会社に1億円の損失を与え,退職慰労金の支給がないことに異議を述べず,黙示のうちに了承したものである。 (2)そして,被告会社の取締役に対する退職慰労金は,取締役の職務執行の対価として支給される趣旨を含むものと解されるから,会社法361条1項に いう報酬等に当たり,取締役会決議によって定められた本件各内規に従って退職慰労金の額が算定される場合であっても,取締役が退任により当然に本件各内規に基づき退職慰労金債権を取得することはなく,被告会社の株主総会決議による個別の判断を経て初めて,被告会社と退任取締役との間で退職慰労金の支給についての合意が成立し,当該退任取締役が具体的な退職慰労 金債権を取得するに至るものであるというのが相当であるところ,原 る個別の判断を経て初めて,被告会社と退任取締役との間で退職慰労金の支給についての合意が成立し,当該退任取締役が具体的な退職慰労 金債権を取得するに至るものであるというのが相当であるところ,原告は,株主総会決議なくして,退職慰労金を請求することはできないものである。 しかし,前記のような取締役会決議によって定められた本件各内規の定め及び被告会社の役員に対する退職慰労金の支給状況からすれば,被告会社の代表取締役である被告Aには,取締役会決議によって定められた本件各内規 に従って取締役会に原告への退職慰労金支給についての株主総会の議案を上 程するか,本件各内規に反して退職慰労金を支給しないのが相当とするならば,これを取締役会に諮るべきであった。 これに対し,被告Aは,上記義務を負っていたにもかかわらず,独断で,前記認定のとおり,原告が退任するに当たって取締役会に対し退職慰労金を支給する旨の株主総会の議案を提案せず,また不支給についての議案も取締 役会に提案しなかったのであるから,これらについての義務違反があり,取締役の善管注意義務に違反したというべきである。 (3)被告らの主張についてア被告らは,被告会社の平成30年度の業績が原告の経営判断により過去17年間で最悪となったこと,原告が株式会社Lとの関係を悪化させたこ と,ハラスメント問題を取締役会に報告しなかったこと,株式会社Hとの商談に当たり無責任な発言をしたことから,退職慰労金を不支給とする十分な理由があったと主張する。 しかし,被告らの主張する各事実があったとしても,職務執行の対価としての性質をも有する退職慰労金のうち,原告の取締役在任期間に対する 退職慰労金までを不支給とすべき事情であると直ちにいうことはできず,取締役会や株主総会の判断 ったとしても,職務執行の対価としての性質をも有する退職慰労金のうち,原告の取締役在任期間に対する 退職慰労金までを不支給とすべき事情であると直ちにいうことはできず,取締役会や株主総会の判断を経ることなく,被告Aの判断限りで原告の退職慰労金の全額を不支給とすべき事情があるということはできない。 したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。 イまた,被告らは,被告会社が株主総会に原告の退職慰労金支給の議案を 上程しなかったのは,代理人間の交渉が決裂したからであり,被告Aに義務違反はないと主張する。しかし,交渉が決裂したことをもって,取締役会に株主総会の議案等を上程することを不可能にする事情であるということはできない。したがって,被告らの前記主張を採用することはできない。 (4)小括 以上のように,被告Aが,原告の退任に際して,原告の退職慰労金支給に 関して取締役会に株主総会の議案等を上程しなかったことは,被告Aの義務違反行為であって,被告Aには任務懈怠があったというべきである。 したがって,被告Aは,会社法429条1項に基づき,原告に対し,任務懈怠責任を負うものというべきである。 4 争点3(役員報酬の減額に関する不法行為及び任務懈怠の有無並びに原告の 「第三者」〈会社法429条1項〉該当性)について(1)被告Aの不法行為及び任務懈怠の有無についてア原告は,原告の役員報酬が平成31年1月から原告が退任する同年3月までの間,当初100万円であったのに50万円に減額されたことについて,被告Aの不法行為又は任務懈怠があると主張する。 イ株式会社において,取締役の報酬額が具体的に定められた場合には,その報酬額は,会社と取締役間の契約内容となり,契約当事者である会社と取締役の双方 不法行為又は任務懈怠があると主張する。 イ株式会社において,取締役の報酬額が具体的に定められた場合には,その報酬額は,会社と取締役間の契約内容となり,契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから,当該取締役は,報酬の減額に同意しない限り,報酬請求権を失わないと解するのが相当である。 そして,まず前記認定のとおり,被告Aは,同年1月7日の経営会議に おいて同月以降の各役員報酬を減額すると述べ,原告を含む同経営会議出席者は,これに対して何も述べなかったものであり,原告が同月以降の役員報酬を減額するという被告Aの提案に対し,明示的に同意したということはできない。 しかし,前記認定のとおり,被告会社は平成30年5月以降困難な経営 状況にあり,原告は代表取締役であって被告会社の経営状況の悪化を招来する経営判断,すなわち株式会社Hの四国地区の各店舗への商品供給を引き受けるとの判断をしたものである。これに加えて,J総務部長が平成30年11月12日の経営会議において,幹部職員の冬季賞与に関して,被告会社の厳しい現状に鑑み,一律,人事評価を下げる旨の説明したのであ るから,被告会社の代表取締役であった原告は,被告会社の経営状況が幹 部職員の賞与を削減しなければならないほどであったことを了解していたものである。そして,報酬減額の終期である平成31年3月まで被告会社の経営状況が改善したと認めるに足る証拠はない。このような被告会社の当時の経営状況を踏まえると,原告は,被告Aが役員報酬を減額すると提案した時点で,その必要性があることを理解していたということができる。 そして,証拠(甲9の1~3)によれば,原告は,被告Aに対し,自らの意見を述べることもあったものであるから,前判示のとおり,被告Aによるパワーハ があることを理解していたということができる。 そして,証拠(甲9の1~3)によれば,原告は,被告Aに対し,自らの意見を述べることもあったものであるから,前判示のとおり,被告Aによるパワーハラスメント等の行為があったとしても,原告が被告Aに対して一切意見を言うことができない状況であったとまではいうことができない。 ウそうすると,原告が被告Aによる役員報酬を半額にするという提案に対 して何も発言しなかったことは,人件費を削減するために自らの役員報酬を半分に減額することもやむを得ないものだと認識して,反対の意を述べなかったものというべきであって,役員報酬の減額に対して黙示の同意をしたというべきである。 したがって,原告の役員報酬の減額は,原告の黙示の同意に基づくもの であって,被告Aに不法行為ないし任務懈怠があったということはできない。 (2)原告の主張についてア原告は,被告の提出する同年1月7日に行われた経営会議の議事録(乙3。被告Aが業績悪化を理由として同月分以降の役員報酬の減額を提案し, 承認された旨の記載がある。)は偽造されたものであって,同経営会議において報酬の減額が承認された事実はないと主張し,その根拠として,原告が被告会社の総務部から入手した報酬の減額に関する言及がされていない同経営会議の議事録(甲8の4)の存在を指摘する。 イしかし,前記認定のとおり,被告Aが平成31年1月7日の経営会議に おいて報酬の減額に言及したこと及び原告がこれに意見を述べなかったと 認められ,前判示のとおり,当時の被告会社の状況等を踏まえると,原告は報酬の減額に対して黙示の同意をしたということができるから,原告の主張する議事録の存在は前判示を左右するものではない。 ウしたがって,原告の上記主張 り,当時の被告会社の状況等を踏まえると,原告は報酬の減額に対して黙示の同意をしたということができるから,原告の主張する議事録の存在は前判示を左右するものではない。 ウしたがって,原告の上記主張を採用することはできない。 5 争点4(パワーハラスメント等による損害の有無及び額)について (1)前判示のとおり,被告による本件各発言は,不法行為を構成するものである。 そして,原告は,被告Aによる本件各発言は他の取締役らの前で行われ,原告の被告会社内での評価を著しく低下させるものであった。さらに,被告Aによる本件各発言は,従業員から代表取締役となって被告会社の経営者の 地位を有するに至った原告を,感情の赴くまま,馬鹿,無能と罵り,経営者であることを否定し,さらに横領を行った者よりも悪質な者であるとして,原告を強く,繰り返し非難し,原告の業績及び被告会社内での地位,人格を否定するものであって,原告は,本件各発言を受けたことによって精神的苦痛を受けた。 ただし,前判示のとおり,平成30年5月以降被告会社の業績が悪化し,被告Aにおいて一定程度強い発言をもって業務指導ないし叱咤激励を行ってもやむを得ない状況であったことを踏まえると,被告Aによる本件各発言の悪質性は一定程度減殺されるというべきである。 (2)原告は,原告がうつ病を発症したのは被告によるパワーハラスメント等が 原因であると主張する。 確かに,前記認定のとおり,原告は,平成31年2月26日,うつ病と診断されたところ,前判示のとおり原告が被告Aによる本件各発言及び「呪い殺してやるからな」などの発言によって精神的苦痛を受けており,前記認定のとおり本件各発言は平成30年11月から平成31年1月までの間に繰り 返し行われたものであることからすれば,原告は 「呪い殺してやるからな」などの発言によって精神的苦痛を受けており,前記認定のとおり本件各発言は平成30年11月から平成31年1月までの間に繰り 返し行われたものであることからすれば,原告は少なくとも3か月にわたっ て精神的苦痛を生じる発言を繰り返し受けたものであって,被告Aによるパワーハラスメント等がうつ病発症に寄与したということができる。 しかし,前判示のとおり,被告会社の業績は,被告会社がI株式会社に代わって株式会社Hの四国店舗に対する商品供給を開始したことによって平成30年5月以降急速に悪化して困難な経営状況に陥ったところ,原告は代表 取締役かつ営業本部長として株式会社Hとの交渉の責任者であったことに加え,証拠(原告本人〔233~235 項〕)によれば,原告は,会社の業績やその回復方向について思い悩んでいたと認められるから,原告は,その職責に照らし,被告会社の困難な経営状況に直面して経営改善を図らなければならないと考え,その方法を模索していたということができる。 そうすると,原告がうつ病を発症した原因として被告会社の業績悪化及び代表取締役社長としての職責による精神的負担があり,原告がうつ病を発症した原因は,もっぱら被告Aによるパワーハラスメント等であるということはできない。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (3)以上のように原告は,被告Aによる本件各発言によって,繰り返し,被告会社の他の役員のいる前で,原告の業績及び被告会社内での地位,人格を否定され精神的苦痛を被ったものの,被告会社の当時の状況を踏まえると被告Aによる本件各発言の悪質性は一定程度減殺される。その他,原告のうつ病がもっぱら被告Aによる本件各発言によって生じたということはできないこ と,本件に顕れ 被告会社の当時の状況を踏まえると被告Aによる本件各発言の悪質性は一定程度減殺される。その他,原告のうつ病がもっぱら被告Aによる本件各発言によって生じたということはできないこ と,本件に顕れた一切の事情を考慮すると,原告が被告Aの本件各発言によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は100万円というのが相当である。 6 争点5(被告Aが退職慰労金の支給に係る議案を株主総会に上程しなかったことによる損害の有無及び額)について(1)前記認定のとおり,被告会社は本件各内規において退職慰労金の算定基準 等を定めるところ,取締役社長在任期間と取締役在任期間の算定基準は異な るから,被告会社は,取締役社長の退職慰労金と単なる取締役の退職慰労金を一旦は区別して扱うものであるということができる。 (2)前記認定のとおり,被告会社における退職慰労金は各役員の在任中の功績及び業務評価により基本額から増減額される場合があるところ,証拠(被告A本人〔228 項〕)によれば,同人は原告が代表取締役社長に就任するまでの 間,原告のコスト意識を信用したものであり,原告は被告Aが信用を置くほど高く評価されていたということができる。その余に原告の取締役時代の退職慰労金相当額の功労を否定する理由は見当たらない。 (3)他方,前記認定のとおり,原告は,平成29年6月から被告会社の代表取締役社長に就任した後も引き続き株式会社Hとの交渉の責任者であったもの の,経営会議での検討を経ないまま平成30年4月からI株式会社に代わって株式会社Hの四国地区の店舗への商品供給を開始し,それに伴い被告会社の負担する物流費が増大したことに端を発して,被告会社の業績は同年5月から急激に悪化して,困難な経営状況に陥った。 このような同月以降の被告会社の困難な経営状 の商品供給を開始し,それに伴い被告会社の負担する物流費が増大したことに端を発して,被告会社の業績は同年5月から急激に悪化して,困難な経営状況に陥った。 このような同月以降の被告会社の困難な経営状況は,株式会社Hとの交渉 に責任を負う代表取締役である原告の職責によって生じたことを否めず,原告の代表取締役社長としての業務評価として,原告に代表取締役期間における退職慰労金相当額の分が株主総会で議決され支給されたということはできない。 (4)そうすると,多くても原告が受け取ることができた退職慰労金の額は,原 告の取締役在任時のものに限られるというべきである。 そして,証拠(被告A本人〔292~294 項〕)によれば,被告Aは,原告に対し原告の取締役時代の退職慰労金に相当する850万円を支給してもよいと考えており,前記前提事実のとおり,被告会社の発行済株式総数は3210株であり,平成31年3月31日時点で,被告Aが1058株,その親族 が合計570株(D370株,E100株,F100株)を所有し,その合計 は1628株であって,被告Aの親族で被告会社の発行済株式の過半数を超える株式を所有したのであるから,原告の退職慰労金850万円を支給する議案が株主総会に上程されれば,同議案は可決されたものということができる。 以上によれば,被告Aが退職慰労金の支給する旨の株主総会の議案を取締 役会に上程しなかったことと相当因果関係のある損害は,取締役在任時の退職慰労金相当額である850万円というのが相当である。 7 争点7(原告の被った損害の合計)について以上のとおり被告Aによる本件各発言は不法行為に該当し,これによって原告に生じた損害は100万円であり,原告の退職慰労金を支給する旨の株主総 会の議案を取締役会 の被った損害の合計)について以上のとおり被告Aによる本件各発言は不法行為に該当し,これによって原告に生じた損害は100万円であり,原告の退職慰労金を支給する旨の株主総 会の議案を取締役会に上程しなかったことは任務懈怠に該当し,これによって原告に生じた損害は850万円であるというのが相当である(合計950万円)。 そして,本件事案の内容及び上記損害額に照らすと,本件と相当因果関係のある弁護士費用は95万円というのが相当である(合計1045万円)。 第5 結論 よって,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく,被告会社に対しては会社法350条に基づき,被告Aに対しては民法709条及び会社法429条1項に基づき,損害金1045万円及びうち950万円に対する令和元年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないか ら棄却することとして,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部裁判長裁判官松葉佐隆之裁判官伊藤聡志裁判官光武敬志
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