令和7年3月6日宣告令和4年(わ)第268号、第303号、第327号、第358号、令和5年(わ)第9号、第35号業務上横領、詐欺被告事件 主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中360日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 公益社団法人A(以下「本件法人」という。)の経営管理部職員として、本件法人名義の預金口座の管理、入出金等の業務に従事していたものであるが、株式会社B銀行C支店に開設された本件法人名義の普通預金口座ほか1口座の預金を管理するなどして本件法人のために業務上預かり保管中、別表1(添付省略)記載のとおり、平成29年6月29日午後0時21分頃から令和2年3月30日午前9時7分頃までの間、37回にわたり、大分市a 町b 丁目c 番d 号株式会社B銀行本店営業部ほか3か所において、ほしいままに自己の用途に費消する目的で前記各口座から現金合計2658万8533円を払い戻して着服し、もって横領し、第2 本件法人の銀行届出印が押捺された払戻請求書及び本件法人名義の前記普通預金口座ほか1口座の預金通帳を使用して、預金払戻しの名目で現金をだまし取ろうと考え、真実は、本件法人を既に退職して、本件法人名義の預金の払戻しを行う権限がないのに、これがあるかのように装い、別表2(添付省略)記載のとおり、同年5月13日午後1時6分頃から同年7月16日午前11時38分頃までの間、7回にわたり、同市e 町f 丁目g 番h 号株式会社B銀行D支店ほか1か所において、同銀行職員Eほか3名に対し、金額欄に別表2(添付省略)払戻金額欄記載の各金額を記入した本件法人の銀行届出印等が押捺された払戻請求書7通を前記普通預金口座ほか1口座の預金通帳と共に提出して現金の払戻し 銀行職員Eほか3名に対し、金額欄に別表2(添付省略)払戻金額欄記載の各金額を記入した本件法人の銀行届出印等が押捺された払戻請求書7通を前記普通預金口座ほか1口座の預金通帳と共に提出して現金の払戻しを請求し、同人らに、 正当な権限に基づく払戻請求であると誤信させ、よって、いずれもその頃、株式会社B銀行D支店ほか1か所において、同人らから現金合計604万円の交付を受け、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点被告人は、本件の預金払戻しについて、全て身に覚えがない旨供述し、弁護人は、本件の事件性、被告人の犯人性、故意の有無を争い、被告人は無罪である旨主張するので、以下、判示事実を認定した理由につき補足して説明する。 第2 本件の事実関係関係証拠によれば、本件の事実関係は、以下のとおりである。 1 本件法人の会計等⑴ 会計期間等本件法人は、大分県内における観光事業の発展や振興、地域の活性化を図ることなどを目的として設立された公益社団法人である。会計期間は、毎年4月から翌年3月までであり、毎年6月に定時通常総会が開かれ、決算報告が行われる。会計区分として、公益目的事業会計、収益事業会計、法人会計が設けられており、本件法人名義の預金口座として、公益目的事業会計と法人会計のための株式会社B銀行C支店の普通預金口座(本件法人ではメイン口座と呼ばれる。)や収益事業会計のための同銀行F支店の普通預金口座(本件法人では収益口座と呼ばれる。以下、この口座とメイン口座を併せて「本件各口座」といい、それらの通帳を併せて「本件各通帳」という。)等が存在する。 ⑵ 本件法人の事務分掌等ア本件法人における財務会計事務等の担当部署は、平成29年度と平成30年度は経営管理部、平成31年( い、それらの通帳を併せて「本件各通帳」という。)等が存在する。 ⑵ 本件法人の事務分掌等ア本件法人における財務会計事務等の担当部署は、平成29年度と平成30年度は経営管理部、平成31年(令和元年)度(以下「令和元年度」という。)と令和2年度は同部の下に設けられた経営管理課であり、同部(課)には、経営管理部(課)長のほか、契約社員である一般職員2名が所属していた。 イ本件当時の経営管理部(課)の職員配置は、以下のとおりであった。 平成29年度平成30年度令和元年度令和2年度経営管理部(課)長GHII 一般職員被告人、J被告人、K同左K、L(10月まで。)ウ被告人は、平成29年度から令和元年度にかけ、財務担当者として、決算処理等の財務会計事務や銀行用務等の総務事務を受け持ち、会計ソフト(以下「本件会計ソフト」という。)への入力作業を行ったり、1か月ないし二、三か月ごとに行われる顧問税理士による監査の対応に当たったりしていたものであるが、令和元年度は、体調を崩して休みがちとなったため、本件各通帳等を自宅に持ち帰り、私用パソコンで本件会計ソフトへの入力作業を行うことが容認されていたものの、7月頃から12月頃までの間、体調不良で業務が行えず、長期休暇となったため、本件法人は、令和2年2月頃、未入力であった平成31年4月から令和元年12月までの本件会計ソフトへの入力作業を外部の業者に依頼したことがあった。被告人は、令和元年度を最後に本件法人を退職した後も、令和2年4月から同年5月までの間、本件法人との間で業務委託契約を締結し、本件会計ソフトへの入力作業や令和元年度の決算事務処理等を受託していたほか(ただし、本件各口座の預金払戻し権限は与えられていなかった。)、同年4 5月までの間、本件法人との間で業務委託契約を締結し、本件会計ソフトへの入力作業や令和元年度の決算事務処理等を受託していたほか(ただし、本件各口座の預金払戻し権限は与えられていなかった。)、同年4月から同年7月までの間、被告人が受け持っていた財務会計事務を引き継いだIやKに本件会計ソフトへの入力作業の方法を指導するなどとして経営管理課に出入りし、L使用パソコンから本件会計ソフトにログインして操作したり、Kからの質問に応じて本件会計ソフトに入力すべき仕訳を指示したりしていた。 ⑶ 本件法人の預金払戻し手続等本件法人における支払は、原則として、経営管理部(課)長が担当するインターネットバンキングの振込によっており、預金の払戻しが必要な場合(例えば、収入 印紙や切手の購入、資金前渡金の出金等。これらの際に払い戻される現金は多くとも二、三十万円程度であった。)は、以下の手続によることとされていた。 すなわち、まず、支出を必要とする事業の担当者が、支出科目や支出金額等を記載した「支出伺い」と題する書面を作成し、事務局長の決裁を受ける。その後、経営管理部(課)長が、部下である一般職員に払戻しを指示し、指示を受けた職員や当該職員から依頼を受けた同部(課)の一般職員が、銀行所定の払戻請求書に必要事項を記入した上で本件法人の銀行届出印を押捺し、これと預金通帳を持って本件法人事務所から銀行窓口へ行き、払戻しを受け、同事務所に戻って払い戻された現金を金庫に入れる(なお、同部(課)の一般職員が不在の場合、例外的に、他部署の職員が経営管理部(課)長の指示を受けてここまでの手続を行うこともあったが、預金の払戻しを含む銀行用務は、基本的に、同部(課)の一般職員が担当していた。)。当該現金が当該支出伺い記載の支出目的のために使用された後、同部(課)の を受けてここまでの手続を行うこともあったが、預金の払戻しを含む銀行用務は、基本的に、同部(課)の一般職員が担当していた。)。当該現金が当該支出伺い記載の支出目的のために使用された後、同部(課)の一般職員が、当該支出伺いに基づいて本件会計ソフトに仕訳を入力し、当該預金通帳の余白に当該支出目的と本件会計ソフトによって当該仕訳に与えられた伝票番号を手書きした上、当該支出伺いを領収証等とともに簿冊に綴る、というものである。 他方、本件法人における預金口座間の資金移動は、支出伺いの作成が不要であるが、基本的に、経営管理部(課)長が担当するインターネットバンキングの振込によっており、例外的に、一般職員に銀行用務として実行してもらう場合でも、銀行窓口で現金を払い戻して本件法人事務所へ持ち帰る必要はなく、同窓口で処理を完結することができた。 ⑷ 預金の払戻しに必要な物品や証憑書類の保管状況本件法人の執務時間中、白紙の払戻請求書は事務所内の無施錠のレターケースに保管されており、銀行届出印と本件各通帳については、平成29年度は施錠された金庫に保管され、Gが自身のデスクに保管している鍵でこれを解錠することとされていたが、平成30年度から令和2年度まではそれらが保管されている金庫やキャ ビネットが常時解錠されていた。また、支出伺いや領収証等の証憑書類は、月ごとに簿冊に綴られており、近い月の簿冊は、経営管理部(課)付近のキャビネットに保管されていた。 ⑸ 顧問税理士による監査状況前記⑵ウのとおり、本件法人においては、1か月ないし二、三か月ごとに、顧問税理士による監査が行われていたが、平成29年度から令和2年度にかけ、使途不明の預金払戻しや証憑書類の不存在等を指摘されたことはなかった。 2 本件の預金払戻し等⑴ 本件の預金払戻し 問税理士による監査が行われていたが、平成29年度から令和2年度にかけ、使途不明の預金払戻しや証憑書類の不存在等を指摘されたことはなかった。 2 本件の預金払戻し等⑴ 本件の預金払戻し平成29年6月29日午後0時21分頃から令和2年7月16日午前11時38分頃までの間、44回にわたり、B銀行本店営業部ほか3か所において、本件法人の銀行届出印等が押捺された払戻請求書と本件各通帳が用いられて本件各口座から現金合計3262万8533円が払い戻された(以下「本件各払戻し」という。)。 ⑵ 発覚・調査令和3年6月頃、本件法人において、令和2年度における使途不明の預金払戻しが発覚したため、外部委員で構成される調査委員会(なお、調査委員1名の補助者として、M税理士が会計面の調査実務を担当した。)が調査した結果、本件各払戻しについては、証憑書類が存在せず、かつ、払い戻された現金が本件法人に還流した形跡もないことなどが判明した。 ⑶ 本件各通帳に手書きされるなどしていた内容本件各払戻しに関し、本件各通帳に手書きされるなどしていた内容は、以下のとおりであった。 すなわち、平成29年度分は本件法人の取引先であるNとOへの支払を思わせるもの及び無記載のものが大方を占め、平成30年度分は、無記載のものが少しあるほか、預金口座間の資金移動や社会保険料の支払を思わせるものが大方を占め、令和元年度分と令和2年度分は全て預金口座間の資金移動を思わせるものであった。 ⑷ 本件会計ソフトへの仕訳の入力・変更・削除等本件各払戻しに関する本件会計ソフトへの仕訳の入力等の状況は、おおむね以下のとおりであった。 すなわち、本件各払戻しのおおむね数か月後に最初の仕訳が入力され、二、三月頃までにその多くに変更・削除が加えられ(これにより最終的 計ソフトへの仕訳の入力等の状況は、おおむね以下のとおりであった。 すなわち、本件各払戻しのおおむね数か月後に最初の仕訳が入力され、二、三月頃までにその多くに変更・削除が加えられ(これにより最終的に仕訳が存在しないこととなる払戻しも多数存在した。)、決算報告の準備時期である四、五月頃までに支出の二重計上や架空計上(例えば、「平成29年7月30日Pに対して1567万7800円を支払った」旨の虚偽内容の仕訳が平成30年3月28日から同月29日にかけて入力されるなどしていた。)がされることなどにより本件各口座に係る本件会計ソフト上の残高が実際の通帳残高と一致させられていた。 以上の入力等は、平成29年度と平成30年度は本件法人事務所の被告人使用パソコンから、令和元年度はこれに加えて被告人の私用パソコンから、令和2年度は被告人の私用パソコンに加えて本件法人事務所のK使用パソコンとL使用パソコンからされていた。 3 被告人に関する事情⑴ 被告人名義の預貯金口座への入金等ア判示第1別表1(添付省略)番号1の払戻しの約16分後、その払戻場所から移動距離約650mの場所にあるATMにおいて、被告人名義の貯金口座に50万円が入金された。 イ前記番号2、3の各払戻しと同一機会に収入印紙と切手の購入代金に充てられる現金も払い戻され、約11分後にQ郵便局でそれらが購入されているところ、その払戻しに係る支出伺いの作成名義人は被告人であった。 また、前記番号3の払戻しの約17分後から、前記郵便局のATMにおいて、被告人名義の貯金口座に合計60万円が入金された。 ウ前記番号6の払戻しの約11分後、その払戻場所から移動距離約260mの場所にあるATMにおいて、被告人名義の預金口座に49万円が入金された。 エ前記番号7の払戻しの が入金された。 ウ前記番号6の払戻しの約11分後、その払戻場所から移動距離約260mの場所にあるATMにおいて、被告人名義の預金口座に49万円が入金された。 エ前記番号7の払戻しの約10分後、その払戻場所と同一の建物にあるATMにおいて、被告人名義の預金口座に28万円が入金された。 オ前記番号24の払戻しの約2分後、その払戻場所と同一の場所にあるATMにおいて、被告人名義の預金口座に5万円が入金された。 ⑵ Kとのメッセージのやり取り被告人は、判示第1別表1(添付省略)番号24ないし34の各払戻しが行われた前後、Kとの間で、被告人が本件法人の通帳を所持していることを前提としたメッセージのやり取りをしていた。 ⑶ 日記帳等の記載ア令和4年6月9日に被告人方で押収された日記帳のうち、平成29年のものには「15677800」との記載等があり、平成30年のものには「10/12698、000 88」「10/12 1280、000 705」「10/17324、000 731」との記載があった。 イ同日に被告人の実家で押収されたメモ紙には「9/6 ¥648000¥972000」「9/27 ¥972000 ¥648000」「12/27¥648000 ¥972000」「2/21 ¥972000 ¥984000」との記載があった。 ⑷ 収支関係被告人は、平成29年度ないし令和2年度当時、FX取引による多額の損失(令和2年度末時点で合計約3800万円)を出していたが、その一方で、被告人名義の預貯金口座への入金のうち捜査機関が出所を把握できなかったものの額が同年度末時点で合計約5400万円存在した。 第3 本件の事件性 1 本件の事実関係のうち、① 本件法人における支払と預金口座間の資金移動 入金のうち捜査機関が出所を把握できなかったものの額が同年度末時点で合計約5400万円存在した。 第3 本件の事件性 1 本件の事実関係のうち、① 本件法人における支払と預金口座間の資金移動は、インターネットバンキングの振込によるのが通常であり、本件各払戻し、すなわち、数十万円ないし百数十万円という比較的多額の現金が平成29年6月から令 和2年7月までの3年余の間に44回という高頻度で本件各口座から払い戻されることは、それ自体が異例であること、② 本件各払戻しについては、正規の手続を履践していれば存在するはずの証憑書類が存在していない上、払い戻された現金が本件法人に還流した形跡もないこと、③ 本件各払戻しに関し、本件各通帳に手書きされるなどしていた内容は、①のとおりインターネットバンキングの振込によるのが通常である取引先への支払や預金口座間の資金移動を思わせるもの、無記載のもの、本件法人では預金口座からの自動引落しで支払っていた社会保険料等、不審な点が多々あり、また、本件会計ソフトへの仕訳の入力等の状況は、最終的に仕訳が存在しないこととなる、支出の二重計上や架空計上等を伴うなどの不正な操作であったこと、以上の諸事情を総合考慮すると、本件各払戻しは、本件法人に無断で行われた不正なものであり、犯人は、それを糊塗するため、③のような隠蔽工作を行ったものと合理的に推認できる。 2 これに対し、弁護人は、本件各払戻しが正規の取引に基づく正当な出金であった可能性がある旨主張した上、前記②に関し、正規の手続を履践していれば存在するはずの証憑書類が存在していない理由として、NやO等の取引先との間で正規の取引が行われた後、証憑書類が、そもそも存在していなかったり、破棄隠匿されていたり、データ改変がされていたり、適切に捜査機関等に提出されてい が存在していない理由として、NやO等の取引先との間で正規の取引が行われた後、証憑書類が、そもそも存在していなかったり、破棄隠匿されていたり、データ改変がされていたり、適切に捜査機関等に提出されていなかったりした結果、取引先や捜査機関が後日検証した時点では、あたかも最初から正規の取引は存在していないかのように見えている可能性を指摘するとともに、「平成29年度から令和2年度にかけての本件法人との取引において、現金での支払を受けたものは、自社の取引記録には存在しない。自社が取引先から現金による支払を受けるのは、金額が少額の場合等である」旨のNとOの各関係者の供述の信用性を争う。 しかし、本件発覚後、調査委員会の補助者として本件法人の会計面の調査実務を担当したM税理士の公判供述によれば、本件法人の証憑書類は月ごとに簿冊に綴られて適切に保管されており、現に平成28年度の払戻しには証憑書類が存在しない ものはなかったことが認められるから、本件法人の職員が過失によって本件各払戻しに係る証憑書類を散逸させた可能性は低いといえるし、弁護人が他に指摘する種々の可能性を具体的に疑わせる証跡は見当たらない。なお、平成29年度から令和2年度にかけての顧問税理士による監査において、証憑書類の不存在を指摘されたことがなかったことは、前記第2の1⑸のとおりであるが、M税理士の警察官調書(甲73)によれば、監査の際、税理士がすべての会計資料に目を通すことは難しいと認められること、本件各払戻しに関する本件会計ソフトへの仕訳の入力等の状況が前記③のとおり不正なものであったことなどに照らすと、顧問税理士が証憑書類の不存在に気付かなかった可能性が考えられるから、前記事情は、直ちに本件各払戻しが正規の取引に基づく正当な出金であった可能性を疑わせるものではない。そして、N となどに照らすと、顧問税理士が証憑書類の不存在に気付かなかった可能性が考えられるから、前記事情は、直ちに本件各払戻しが正規の取引に基づく正当な出金であった可能性を疑わせるものではない。そして、NとOの各関係者の供述は、本件法人における取引先への支払が原則として経営管理部(課)長が担当するインターネットバンキングの振込によっていたこと(前記第2の1⑶)、本件各払戻しの払戻金額が数十万円ないし百数十万円と比較的多額であったことと整合しており、その信用性を疑わせる事情はない。 したがって、弁護人の主張は採用の限りでない。 3 以上によれば、本件各払戻しは、本件法人に無断で行われた不正なものであったと認められる。 第4 本件の犯人性と故意の有無 1 本件の犯人像と被告人の合致等⑴ 前記第3で検討した本件の事件性を前提に、本件の事実関係のうち、本件法人の事務分掌(前記第2の1⑵)・預金払戻し手続(同⑶)・同手続に必要な物品の保管状況(同⑷)、本件各払戻しに関する本件会計ソフトへの仕訳の入力等の状況(同第2の2⑷)を総合考慮すれば、本件各払戻しを実行した犯人は、平成29年6月から令和2年7月までの間、経営管理部(課)に保管されている預金払戻しに必要な物品を使用したり本件法人事務所から持ち出したりしても不審に思われない立場にあり、かつ、同事務所の被告人使用パソコンや被告人の私用パソコンを操 作するなどして本件会計ソフトへの仕訳を入力等することが現実的に可能であった人物ということになるところ、このような犯人像に合致する人物は、平成29年度から令和元年度まで経営管理部(課)職員であり、令和2年度にも同課に出入りしていた被告人以外には存在しない(なお、令和2年度は、本件法人事務所のK使用パソコンとL使用パソコンからも本件会計ソフトへ から令和元年度まで経営管理部(課)職員であり、令和2年度にも同課に出入りしていた被告人以外には存在しない(なお、令和2年度は、本件法人事務所のK使用パソコンとL使用パソコンからも本件会計ソフトへの仕訳の入力等がされているが、被告人において、L使用パソコンから本件会計ソフトにログインして操作したり、Kからの質問に応じて本件会計ソフトに入力すべき仕訳を指示したりしていたことは、前記第2の1⑵ウのとおりであるから、同年度の前記入力等も被告人が自ら又はKを介して行ったものと認められる。)。 したがって、本件各払戻しを実行した犯人は、ほかならぬ被告人であったことが強く推認できる。 ⑵ また、本件の事実関係のうち、① 判示第1別表1(添付省略)番号1ないし3、6、7、24の各払戻しに関しては、被告人がそれらの行為と近接する日時・場所に存在していたと認められること(前記第2の3⑴)、② 被告人が、同番号24ないし34の各払戻しが行われた前後、Kとの間で、被告人が本件法人の通帳を所持していることを前提としたメッセージのやり取りをしていたこと(同⑵)、③ 本件発覚後に被告人の自宅と実家から押収された日記帳等には、本件会計ソフトに入力された虚偽内容の仕訳の金額と一致する数字や、前記番号13ないし15、25ないし32の各払戻しの日付、払戻金額、伝票番号と一致する数字、記号が記載されていたこと(同第2の2⑷、第2の3⑶)、④ 被告人は、平成29年度ないし令和2年度当時、FX取引による多額の損失(令和2年度末時点で合計約3800万円)を出していたが、その一方で、被告人名義の預貯金口座への入金のうち捜査機関が出所を把握できなかったものの額が同年度末時点で合計約5400万円存在したこと(同第2の3⑷。この点、被告人は、「多いときで1200万円超あった自宅の 被告人名義の預貯金口座への入金のうち捜査機関が出所を把握できなかったものの額が同年度末時点で合計約5400万円存在したこと(同第2の3⑷。この点、被告人は、「多いときで1200万円超あった自宅のたんす預金等である」旨供述するが、裏付けを欠く不自然、不合理な内容であり、信用できない。)といった諸事情は、前記の推認力を補強し、 あるいは支えるものと評価できる。なお、本件各払戻しについて、被告人のアリバイの存在を疑わせる事情はない。 2 被告人以外の人物が本件の犯人である可能性これに対し、弁護人は、被告人以外の本件法人の職員が、経営管理部(課)に保管されている預金払戻しに必要な物品を使用したり持ち出したりして本件各払戻しを実行し、被告人に罪を着せるため、本件法人事務所の被告人使用パソコンを操作するなどして本件会計ソフトへ不正な仕訳を入力等した可能性がある旨主張するので、以下、検討する。 ⑴ 他部署の職員経営管理部(課)の一般職員が不在の場合、他部署の職員が、経営管理部(課)長の指示を受けて銀行窓口で本件法人の預金を払い戻す例があったことは、前記第2の1⑶のとおりであるし、本件法人の執務時間中における預金払戻しに必要な物品の保管状況(前記第2の1⑷)に照らすと、他部署の職員も、それらの物品を使用したり本件法人事務所から持ち出したりすることが可能であったとはいえる。しかし、他部署の職員がそれらの物品を悪用して本件法人に無断で本件各口座から現金を払い戻せば、後日、財務会計事務等の担当部署である経営管理部(課)に発覚するおそれが高いから、他部署の職員があえてそのような行為に及ぶことは考え難い。のみならず、他部署の職員が、被告人をはじめとする経営管理部(課)職員に気付かれないまま、本件法人事務所の被告人使用パソコンを操作したり、 ら、他部署の職員があえてそのような行為に及ぶことは考え難い。のみならず、他部署の職員が、被告人をはじめとする経営管理部(課)職員に気付かれないまま、本件法人事務所の被告人使用パソコンを操作したり、被告人の私用パソコンを操作したりして、本件会計ソフトへ本件各払戻しの仕訳に関する不正な入力等をしたという事態は、非現実的であるし、情を知らない被告人に、そのような不正入力等をさせたことを疑わせる事情もない。 以上によれば、他部署の職員が本件の犯人である可能性は否定できる。 ⑵ 経営管理部(課)の被告人以外の職員前記第2の2⑷の事実関係を敷衍すると、本件各払戻しに関する本件会計ソフトを用いた隠蔽工作(以下「本件隠蔽工作」という。)は、期中においては、顧問税 理士が当該払戻しについて適切に仕訳の入力がされていると誤信するような虚偽の仕訳を入力し、期末から6月の定時通常総会までの決算事務処理においては、前記の虚偽の仕訳に変更・削除を加え、期末に多額の未払金を計上して4月以降にこれを支払うという本件法人の特性に沿うよう、四、五月頃に多額の未払金を支払ったという内容の仕訳を入力するなどして、本件各口座に係る本件会計ソフト上の残高と実際の通帳残高を一致させるというものであったと考えられ、本件法人の会計実態を十分に理解していなければ遂行できないものであったといえる。 そこで、本件隠蔽工作の遂行能力という観点を中心に、経営管理部(課)の被告人以外の職員が本件の犯人である可能性を検討する。 ア GGは、自らが担当していたインターネットバンキングの振込分につき本件会計ソフトへ仕訳の入力をしていたことを認めている。しかし、他部署の職員について検討したのと同様、Gが、本件各払戻しに関し、経営管理部長を務めていた平成29年度から本件法人を離れ の振込分につき本件会計ソフトへ仕訳の入力をしていたことを認めている。しかし、他部署の職員について検討したのと同様、Gが、本件各払戻しに関し、経営管理部長を務めていた平成29年度から本件法人を離れた平成30年度以降にかけ、被告人をはじめとする経営管理部(課)職員に気付かれないまま、本件法人事務所の被告人使用パソコンを操作したり、被告人の私用パソコンを操作したりして、本件会計ソフトを用いた本件隠蔽工作に及んだという事態は、非現実的であり、かつ、情を知らない被告人に本件隠蔽工作をさせたことを疑わせる事情もない。 以上によれば、Gが本件の犯人である可能性も否定できる。 イ G以外の職員GとJは、Jは本件会計ソフトを扱う能力がなかった旨供述し、H、I、Lも、自らにその能力がなかった旨供述し、Kは、令和元年度から本件会計ソフトへの入力作業を行うようになったが、その内容は資金前渡や給与等の単純なものに限られていた旨供述する。これらの供述は、平成29年度から令和元年度までを通じ、被告人使用パソコンからの本件会計ソフトへのログインや操作の回数が他の職員使用パソコンからのそれらと比べて圧倒的に多いことのほか、平成29年度に関しては、 そもそも七、八月頃までJ使用パソコンでは本件会計ソフトが利用できなかったこと、Jが本件法人から能力不足と判断されて雇用契約の更新を受けられずに同年度で退職していること、令和元年度に関しては、被告人が、7月頃から12月頃までの間、体調不良で業務が行えず、長期休暇となったため、本件法人が、令和2年2月頃、未入力であった平成31年4月から令和元年12月までの本件会計ソフトへの入力作業を外部の業者に依頼したこと(前記第2の1⑵ウ)、令和2年度に関しては、被告人が本件法人を退職した後の4月から5月までの間、本件法人が 平成31年4月から令和元年12月までの本件会計ソフトへの入力作業を外部の業者に依頼したこと(前記第2の1⑵ウ)、令和2年度に関しては、被告人が本件法人を退職した後の4月から5月までの間、本件法人が被告人との間で業務委託契約を締結して本件会計ソフトへの入力作業等を委託し、4月から7月までの間、被告人が、IとKに本件会計ソフトへの入力作業を指導するなどとして経営管理課に出入りし、L使用パソコンから本件会計ソフトにログインして操作したり、Kからの質問に応じて本件会計ソフトに入力すべき仕訳を指示したりしていたこと(同)と整合するから、いずれも信用できる。 以上によれば、G以外の平成29年度から令和2年度までの経営管理部(課)職員には、本件会計ソフトを用いて本件隠蔽工作を遂行する能力がなかったと認められるから、同人らが本件の犯人である可能性も否定できる。 3 総合評価と結論前記1⑴の事実関係によれば、本件各払戻しを実行した犯人は、ほかならぬ被告人であったことが強く推認でき、同⑵の諸事情は、その推認力を補強し、あるいは支えるものと評価できるのに対し、被告人以外の人物が本件の犯人である可能性はいずれも否定できる。前記事実関係は、まさに被告人が犯人でないとしたならば合理的な説明が極めて困難なものといえる。 したがって、検察官が主張するその他の事情(払戻請求書の指掌紋や筆跡鑑定)の証拠価値を検討するまでもなく、被告人が本件各払戻しの犯人であると優に認められ、この認定に合理的な疑いを差し挟む余地はない。 そして、被告人が本件法人の在職中から退職後にかけて本件法人に無断で本件各払戻しを繰り返したという犯行態様に照らすと、業務上横領と詐欺の各故意に欠け るところはなかったと認められる。 よって、判示事実を認定した。 (量刑の理由) かけて本件法人に無断で本件各払戻しを繰り返したという犯行態様に照らすと、業務上横領と詐欺の各故意に欠け るところはなかったと認められる。 よって、判示事実を認定した。 (量刑の理由)被告人は、本件会計ソフトへの入力作業を中心的に担う立場を奇貨とし、それを用いた本件隠蔽工作を行いながら、在職中から退職後にかけての3年余の長期間、多数回にわたり、横領・詐欺行為を繰り返したものであって、一連の犯行は巧妙で背信性・悪質性が高く、被害総額は3262万円余と多額である。また、動機は、FX取引による多額の損失の埋め合わせ等にあったと合理的に推認でき、酌むべき点がない。 こうした事情に照らすと、被告人の刑事責任は重いが、前科がなく、健康状態に不安があることも考慮し、主文の刑を量定した。 (求刑:懲役5年)令和7年3月7日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官辛島靖崇 裁判官北島聖也 裁判官山西健太
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