平成24年2月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(ワ)第17204号職務発明の対価請求事件(知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10039号事件の判決による差戻事件,差戻前の第1審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第12522号)口頭弁論終結日平成23年9月28日判決東京都町田市<以下略>原告 X同訴訟代理人弁護士新保克芳髙 﨑 仁洞敬井上彰同復代理人弁護士酒匂禎裕東京都港区<以下略>被告三菱化学株式会社同訴訟代理人弁護士飯田秀郷栗宇一樹早稲本和徳大友良浩隈部泰正和氣満美子戸谷由布子辻本恵太林由希子同復代理人弁護士森山航洋主文 1 被告は,原告に対し,5900万円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決 年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,2億4281万1239円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告の元従業員である原告が,使用者であった被告に対し,特許法35条(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)に基づき,原告が被告に承継させた後記2(2)の職務発明に係る特許を受ける権利について,相当の対価として2億4281万1239円及びこれに対する支払期限到来日の翌日である平成10年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(証拠等を掲記した事実を除き,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア原告は,昭和40年に被告へ入社し,被告の中央研究所内に設置された医薬研究部などで新薬の開発に携わるなどした後,平成9年6月に被告を退職した。 イ被告は,医薬品等の各種化学製品の製造,加工及び販売等を行う株式会社である(旧商号は「三菱化成工業株式会社」,「三菱化成株式会社」である。)。 平成11年4月に東京田辺製薬株式会社(以下「東京田辺製薬」という。) の100%子会社としてティーティーファーマ株式会社(以下「ティーティーファーマ」という。)が設立され,同年9月30日,被告は医療事業に係る営業全部をティーティーファーマに譲渡した。同年10月1日,被告は東京田辺製薬と合併し,ティーティーファーマ (以下「ティーティーファーマ」という。)が設立され,同年9月30日,被告は医療事業に係る営業全部をティーティーファーマに譲渡した。同年10月1日,被告は東京田辺製薬と合併し,ティーティーファーマは商号を「三菱東京製薬株式会社」(以下「三菱東京製薬」という。)に変更した。平成13年10月1日,三菱東京製薬はウェルファイド株式会社(以下「ウェルファイド」という。)と合併し,商号を「三菱ウェルファーマ株式会社」(以下「三菱ウェルファーマ」という。)に変更した。平成17年10月1日,被告と三菱ウェルファーマを完全子会社とする株式会社三菱ケミカルホールディングス(以下「三菱ケミカルホールディングス」という。)が設立された。その後,平成19年10月1日,三菱ウェルファーマは,田辺製薬株式会社(以下「田辺製薬」という。)と合併し,田辺三菱製薬株式会社(以下「田辺三菱製薬」という。また,ティーティーファーマ,三菱東京製薬,三菱ウェルファーマ,田辺三菱製薬を区別せずに「三菱ウェルファーマ」ということがある。)となった。 (甲15,16,弁論の全趣旨)(2) 職務発明ア原告は,被告在職中の昭和56年1月頃,共同発明者の一人として,下記の特許権(以下「本件特許権1」といい,本件特許権1に係る特許を「本件特許1」という。)に係る発明(以下「本件発明1」という。)をした。 本件発明1は特許法35条1項所定の職務発明に該当し,被告は,原告ら共同発明者から本件発明1に係る特許を受ける権利を承継し,原告ほか4名を共同発明者,被告を出願人として特許出願し,本件特許権1の設定登録を受けた。(甲1の1,2,弁論の全趣旨)記特許番号特許第1466481号 発明の名称 (3-アミノプロポキシ)ビベンジル類 件特許権1の設定登録を受けた。(甲1の1,2,弁論の全趣旨)記特許番号特許第1466481号 発明の名称 (3-アミノプロポキシ)ビベンジル類出願日昭和56年8月20日(特願昭56-130704)公開日昭和58年2月25日(特開昭58-32847)出願公告日昭和63年3月25日(特公昭63-13427)登録日昭和63年11月10日満了日平成13年8月20日延長満了日平成18年4月10日発明者原告,H,B,C,Dイ原告は,被告在職中の昭和56年1月頃,共同発明者の一人として,下記の特許権(以下「本件特許権2」といい,本件特許権2に係る特許を「本件特許2」という。また,本件特許権1と本件特許権2を併せて「本件各特許権」と,本件特許1と本件特許2を併せて「本件各特許」という。)に係る発明(以下「本件発明2」といい,本件発明1及び本件発明2を併せて「本件各発明」という。)をした。本件発明2は特許法35条1項所定の職務発明に該当し,被告は,原告ら共同発明者から本件発明2に係る特許を受ける権利を承継し,原告ほか3名を共同発明者,被告を出願人として特許出願し,本件特許権2の設定登録を受けた。(甲10の1,2,弁論の全趣旨)記特許番号特許第1835237号発明の名称セロトニン拮抗剤出願日平成元年5月18日(特願平1-125055)公開日平成2年12月17日(特開平2-304022)出願公告日平成5年7月7日(特公平5-44926)登録日平成6年4月11日満了日平成21年5月18日 発明者 E,B,F,原告ウ本件各発明につき,原告は,被告から 成5年7月7日(特公平5-44926)登録日平成6年4月11日満了日平成21年5月18日 発明者 E,B,F,原告ウ本件各発明につき,原告は,被告から,昭和56年11月末日頃までに出願時補償金として●(省略)●円を,平成元年2月末日頃までに登録時補償金として●(省略)●円をそれぞれ受け取った。 なお,被告は,このほかに,本件発明2について出願時補償金●(省略)●円,登録時補償金●(省略)●円を原告に支払ったと主張する。 (3) 本件各発明の実施等ア本件各発明に係る化合物を有効成分とする医薬品は,一般名を塩酸サルポグレラート,商品名を①アンプラーグ錠50㎎,②アンプラーグ錠100㎎,③アンプラーグ細粒10%という(以下①~③の商品を併せて「アンプラーグ」という。)。 アンプラーグは,慢性動脈閉塞症モデルを始めとする種々の血栓モデルに有効性を示し,臨床的には,慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍,疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善に対して有用性が認められている。 正常な血管内では血管の内壁を覆う血管内皮細胞の働きにより,血栓が形成されることはないが,動脈硬化,糖尿病等の病的な状況下では血管内皮が傷害され,血管内皮下の結合組織が露出した部分に血流中の血小板が粘着反応を起こす。粘着した血小板からは,セロトニンを始めとした血小板内貯蔵物質が放出され,このとき放出されたセロトニンは,他の血小板を活性化し凝集を促進して血栓形成を増強させるとともに,動脈硬化等により損傷を受けた血管においては血管平滑筋(血管の太さを調節する筋肉組織)に作用して強い血管収縮を引き起こし血流を減少させる。セロトニンの示すこれらの生理作用は細胞膜上に存在する受容体を介することが知られている。この受容体のうち,5-HT2受容体は を調節する筋肉組織)に作用して強い血管収縮を引き起こし血流を減少させる。セロトニンの示すこれらの生理作用は細胞膜上に存在する受容体を介することが知られている。この受容体のうち,5-HT2受容体は,末梢組織では血小板と血管平滑筋に特異的に分布しており,血小板凝集の増強と血管の収縮に関与していることが明らかにされている。 アンプラーグは,慢性動脈閉塞症に関し製造承認された世界初の5-HT2受容体に対する選択的拮抗薬であり,血小板及び血管平滑筋細胞の5-HT2受容体を遮断して,血栓形成部位におけるセロトニンの血小板凝集を抑制するとともに血管収縮を抑制する。 イ被告は,①アンプラーグ錠50㎎及び②アンプラーグ錠100㎎については,平成5年7月2日に製造承認を受け,同年10月7日に販売を開始し,③アンプラーグ細粒10%については,平成11年3月4日に製造承認を受け,同年5月20日に販売を開始した。 被告は,平成5年10月7日から平成11年9月30日まで,全てのアンプラーグを東京田辺製薬に委託して販売した。この期間のアンプラーグの売上高は総額565億3720万円である。 上記(1)イのとおり,被告は,平成11年9月30日,アンプラーグを含む医薬品に係る事業全体を東京田辺製薬の完全子会社である三菱ウェルファーマ(当時の商号は「ティーティーファーマ株式会社」)に譲渡した。 その後も,被告は本件特許権1及び本件特許権2を保有しているものの,平成11年10月1日から平成19年9月30日までは,被告と三菱ウェルファーマとの間の独占的実施許諾契約に基づき,三菱ウェルファーマのみがアンプラーグの製造販売を行っていた。平成19年10月1日以降は,被告と田辺三菱製薬との間の独占的実施許諾契約に基づき,田辺三菱製薬のみがアンプラーグの製 許諾契約に基づき,三菱ウェルファーマのみがアンプラーグの製造販売を行っていた。平成19年10月1日以降は,被告と田辺三菱製薬との間の独占的実施許諾契約に基づき,田辺三菱製薬のみがアンプラーグの製造販売を行っている。この実施許諾契約に基づき,平成11年10月1日から平成21年5月18日までに被告が受領したアンプラーグに関する実施許諾料は,総額●(省略)●円である。(乙32,弁論の全趣旨)(4) 別件訴訟原告は,被告在職中にN2-アリールスルホニル-L-アルギニンアミド類の製造方法を職務上発明し,当該発明に係る特許を受ける権利を被告に承 継させたとして,特許法35条に基づき,被告に対し,当該職務発明の相当対価の支払を求める訴訟を当庁に提起した(東京地方裁判所〔以下「東京地裁」という。〕平成17年(ワ)第12576号職務発明対価支払等請求事件)。被告は,上記発明を利用して慢性動脈閉塞症を適応症とする抗血液凝固剤(薬品名「アルガトロバン」)を自ら製造販売し,又は三菱ウェルファーマ等に独占的実施許諾していた。 東京地裁は,平成18年12月27日,原告の請求を一部認容する判決をしたが,これを不服とする原告が知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という。)に控訴し,被告も附帯控訴した(知財高裁平成19年(ネ)第10008号職務発明対価支払等請求控訴事件)。知財高裁は,平成20年5月14日,原判決を変更し,認容金額を増額する一部認容判決をした(以下,この訴訟を「別件訴訟」という。)。(甲20)(5) 本件訴訟の経緯原告は,被告に対し,被告に承継させた本件各発明につき,特許法35条に基づき,相当対価の支払を求める訴訟を当庁に提起し(東京地裁平成19年(ワ)第12522号職務発明の対価請求事件),平成20年2月29日 ,被告に対し,被告に承継させた本件各発明につき,特許法35条に基づき,相当対価の支払を求める訴訟を当庁に提起し(東京地裁平成19年(ワ)第12522号職務発明の対価請求事件),平成20年2月29日,東京地裁は,原告の本件各発明に係る相当対価支払請求権は消滅時効の完成により消滅したとして原告の請求を棄却した。 原告はこれを不服として知財高裁に控訴した(知財高裁平成20年(ネ)第10039号職務発明の対価請求控訴事件)。 知財高裁は,平成20年10月29日,本件における実績補償に係る相当対価の支払請求債権については,各職務発明の実施から5年を経過した時点が消滅時効の起算点となるところ,本件各発明は平成5年10月7日に実施されたことが認められるから,本件各発明の実績補償に係る相当対価支払請求債権の消滅時効の起算点は平成10年10月7日となり,原告は平成19年2月1日に被告に対しその履行を催告し,同年5月18日に本訴を提起し たことにより,上記消滅時効は上記催告時に中断し,原告の本件各発明に係る相当対価支払請求債権は時効消滅しておらず,本訴請求の当否を判断するには相当対価額について実体審理をする必要があるとして,原判決を取り消し,本件各発明に係る相当対価の額等について更に審理を尽くさせるため,東京地裁に差し戻す旨の判決(以下「本件高裁判決」という。)をした。 被告は,本件高裁判決に対して上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成21年5月20日,受理しない旨の決定をし,本件高裁判決が確定した。 本件訴訟はこの差戻審である。 3 争点(1) 相当対価の額(争点1)(2) 消滅時効の成否(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(相当対価の額)について〔原告の主張〕(1) 相当対価を算出するための 争点 (1) 相当対価の額(争点1)(2) 消滅時効の成否(争点2)第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(相当対価の額)について〔原告の主張〕(1) 相当対価を算出するための基礎となる売上高ア被告の売上高(平成5年10月7日~平成11年9月30日)被告は,平成5年10月7日から平成11年9月30日まで,アンプラーグの販売を東京田辺製薬に対し委託していたが,当該期間のアンプラーグの売上高は565億3720万円である。 イ三菱ウェルファーマ等の売上高(平成11年10月1日~平成21年5月18日)(ア) 東京田辺製薬の100%子会社として設立されたティーティーファーマは,平成11年9月30日,被告から医薬品事業を,東京田辺製薬から食品添加物事業を除く全事業を譲り受け,同年10月1日,ティーティーファーマは商号を「三菱東京製薬株式会社」に変更した。また同日,親会社の東京田辺製薬は被告に吸収合併された。 三菱東京製薬は,平成13年10月1日,ウェルファイドと合併した際に商号を「三菱ウェルファーマ株式会社」に変更した。この合併後も三菱ウェルファーマの発行済株式の45.08%を被告が保有し筆頭株主であった。 平成15年12月,株式公開買付けにより被告は三菱ウェルファーマの発行済株式の58.94%を保有する親会社となり,平成17年10月,被告と三菱ウェルファーマを完全子会社とする三菱ケミカルホールディングスが設立され,被告と三菱ウェルファーマは完全な兄弟会社となった。平成19年10月1日,田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して田辺三菱製薬となった。 (イ) 被告と三菱ウェルファーマのこのような関係からすると,「その発明により使用者等が受けるべき利益」を検討するに当たって,被告と三菱ウ 三菱ウェルファーマが合併して田辺三菱製薬となった。 (イ) 被告と三菱ウェルファーマのこのような関係からすると,「その発明により使用者等が受けるべき利益」を検討するに当たって,被告と三菱ウェルファーマは,少なくとも,アンプラーグに関する事業については実質的に一体であり,アンプラーグに係る両社の売上げ及び利益は一体とみるべきである。 この点については,本件訴訟と同一の原告被告間で争われ,本件各発明と同様にグループ企業に承継されたアルガトロバンの製法特許に関する対価支払請求事件である別件訴訟において,知財高裁は,両社の関係を指摘した上で,職務発明における相当対価を算定するに当たって,三菱ウェルファーマの売上げを基礎とすべきである旨判示している。 したがって,アンプラーグに関する事業において,被告と三菱ウェルファーマは一体として扱うべきであり,三菱ウェルファーマに事業譲渡された後は,同社のアンプラーグの売上高が本件各発明によって「使用者が受けるべき利益」を算定する前提となる。 このことは,平成19年10月1日,田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して田辺三菱製薬となった後も同様である。すなわち,三菱ケミ カルホールディングスは田辺三菱製薬の約56%以上の株式を保有し,従前どおり三菱ケミカルホールディングスを中心とする企業集団において,被告は化学品部門の柱とされ,田辺三菱製薬は医薬部門として位置づけられ,一つの企業グループ内において利益を享受する体制を保持している。したがって,田辺三菱製薬によるアンプラーグの製造販売期間については,同社の売上げが本件各発明によって「使用者が受けるべき利益」を算定する前提となる。 (ウ) 「使用者が受けるべき利益」を算定する前提となる三菱ウェルファーマの売上高合計(三菱東京製薬,三 ては,同社の売上げが本件各発明によって「使用者が受けるべき利益」を算定する前提となる。 (ウ) 「使用者が受けるべき利益」を算定する前提となる三菱ウェルファーマの売上高合計(三菱東京製薬,三菱ウェルファーマ,田辺三菱製薬の売上高合計)は,1422億2914万4189円である。 (2) 超過売上高(40%)ア被告は,昭和46年に医薬事業を立ち上げたばかりであり,当初は他社からの導入品を販売していたにすぎなかったものであり,被告にとって,医薬品市場における市場シェアは限りなくゼロに近く,本件各発明の実施品であるアンプラーグは,他の大手医薬品メーカーであれば容易に同品質の製品を製造,販売することが可能であったから,もし被告が本件各特許権を有していなければ,競合他社の存在により被告がアンプラーグのシェアを独占できなかったことは明らかである。 イアンプラーグは,販売開始後5年間でアルガトロバンの4倍以上の売上げとなるほどの大型新薬であった。アルガトロバンに関する物質特許(2つ)の存続期間が満了する前の平成15年のアルガトロバンの売上高が約35億円であるに対して,アンプラーグは128億円にも達する。これは,アルガトロバンが注射剤であったのに対し,アンプラーグは経口投与薬として患者が日常的に服用できる新薬として開発されたことが大きな原因である。 ウ本件特許権2の存続期間が平成21年5月18日に満了したため,後発 品の製造販売に対する対策として,被告は,同年6月18日,「サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)に関する特許権について」と題する文書(甲25)により,被告がアンプラーグに関する特許権(結晶型特許・特許第3864991号〔以下「991号特許」という。〕)を有していることを公表し,当該特許権を侵害し又は侵害す ついて」と題する文書(甲25)により,被告がアンプラーグに関する特許権(結晶型特許・特許第3864991号〔以下「991号特許」という。〕)を有していることを公表し,当該特許権を侵害し又は侵害するおそれのある行為には,当該特許権に基づく権利行使をする旨を広く警告した。 しかし,被告による上記警告にもかかわらず,抗血小板薬サルポグレラート塩酸塩についてジェネリック大手4社を始めとする23社の製薬会社より計46品目の申請,承認がなされている。これは,平成21年11月の薬価追加収載に向けて承認された諸成分の6成分の中でも群を抜いて多いものであった。 このようなジェネリック各社の承認取得行動をみても明らかなとおり,本件各特許権があったからこそ競合他社によるサルポグレラート塩酸塩の製造販売を抑止できていたのであり,本件各特許権が高い排他的効果を有していたことは明らかである。 エよって,本件各特許権の排他的効果に基づいて通常実施権に基づく売上高を超過する割合は,少なくとも別件訴訟において認められた40%を下回るものではない。 オ被告は,再審査制度による独占力は基本物質に関する特許権の独占力と同等というべきであると主張するが,再審査期間中であっても,他者が承認申請に必要な試験を自力で行って資料をそろえて申請することは禁じられていないから,他者の参入を妨げているのは特許権であり,再審査期間中であっても薬事法上の再審査制度に排他的効力が認められることはない。 (3) 仮想実施料率(7.5%)ア使用者が受けるべき利益の算定は,本来アンプラーグ自身の利益率をもって行うべきであるが,かかる製品ごとの利益率の算定は困難が伴うため, 当該製品を含む医薬品事業部門の利益率を参考にせざるを得ない。そして,アンプラーグを含む被告の医 グ自身の利益率をもって行うべきであるが,かかる製品ごとの利益率の算定は困難が伴うため, 当該製品を含む医薬品事業部門の利益率を参考にせざるを得ない。そして,アンプラーグを含む被告の医薬品事業全体は三菱ウェルファーマに事業譲渡されているから,本件においては,医薬品専業の三菱ウェルファーマの利益率を参考にすべきこととなる。 医薬品業界においては,上位の売上げを誇る医薬品が会社全体の利益を牽引し,その余の研究開発費をまかなっていることは顕著な事実である。 実際にアンプラーグの平成20年度の売上げは,発売されてから既に15年以上経つにもかかわらず約190億円であり,高い売上高を維持している。 したがって,アンプラーグ単体の利益率は,少なく見積もっても三菱ウェルファーマ全体の利益率をはるかに上回ることが明らかであるから,以下,三菱ウェルファーマ全体の利益率を検討する。 イ平成14年度から平成16年度における平均原価率等を集計すると(甲4の5~7),三菱ウェルファーマの売上原価率は平均約37.78%であり,粗利益率は60%を超える。また,同社の売上高営業利益率は平均約12%である。 また,医薬品大手14社(又は13社)の平成14年度から平成16年度における売上高営業利益率は平均約18%である。 売上高営業利益率でみると,三菱ウェルファーマは業界平均より約6%低いが,これは同社の研究開発費が他社より高いことと,特許権を留保している被告に対して一定の実施料を支払うこと等によって,医薬品事業の利益を両社で分け合っている結果である。この意味からも,被告と三菱ウェルファーマの利益を合わせて,初めて医薬品事業の利益として他の医薬品大手と対比できるといえる。 ウしたがって,被告自らが医薬品事業を営んでいた場合の営業利益は,被 味からも,被告と三菱ウェルファーマの利益を合わせて,初めて医薬品事業の利益として他の医薬品大手と対比できるといえる。 ウしたがって,被告自らが医薬品事業を営んでいた場合の営業利益は,被告から医薬品事業を譲り受けた三菱ウェルファーマの営業利益及び同社か ら被告が得る実施料の合計を下回ることはない。そして,血液凝固阻止剤であるアルガトロバンについて被告とティーティーファーマとの間の実施許諾契約(甲6)において実施料率が3%に定められているから,アンプラーグについての実施料率も3%を下回ることはない。 よって,アンプラーグに関する事業によって被告が得るべき利益は,売上げの15%(12%+3%)を下回ることはないが,諸事情を考慮して仮想実施料率を5%と認定した別件訴訟の知財高裁判決を考慮し,15%の半分の7.5%が本件に適用すべき仮想実施料率であると主張する。 (4) アンプラーグ関連特許における各特許発明の寄与割合ア用途発明(特許)とは,「ある物の未知の属性を発見し,この属性により,当該物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明」であるが,新しい用途の発見がない,物質の特定の性質を専ら利用する発明も用途発明とされることがあるものの,このような用途発明は物質発明と基本的に変わるところがない。本件発明2は,新しい用途の発見がない,物質の特定の性質を専ら利用する用途発明に該当する。 したがって,物質発明である本件特許権1の存続期間中は,正にその排他的効力によりアンプラーグの超過売上げが維持され,本件特許権1の存続期間満了後には,用途発明である本件特許権2の排他的効力によりアンプラーグの超過売上げが維持されてきたといえるから,各発明の寄与割合は,本件特許権1が存続する期間は本件発明1が100%で 権1の存続期間満了後には,用途発明である本件特許権2の排他的効力によりアンプラーグの超過売上げが維持されてきたといえるから,各発明の寄与割合は,本件特許権1が存続する期間は本件発明1が100%であり,本件特許権1の存続期間が満了した後は本件発明2が100%である。 イ中間体製造法特許(特許第1854806号,以下「806号特許」という。)及び991号特許は,以下のとおり実質的に第三者によるアンプラーグの製造販売を禁止する効果はないから,被告の売上げ独占に対する寄与はない。 (ア) 806号特許は,メタ-ヒドロキシ安息香酸をジメチル化してメタ- メトキシ安息香酸メチルを合成し,それを還元してメタ-アルコキシベンジルアルコール,すなわち「メタ-メトキシベンジルアルコール」を製造する方法に関する発明である。 しかし,アンプラーグの製造に必要な中間体2-ヒドロキシ-3’-メトキシビベンジルの一製造原料としてメタ-メトキシベンジルクロリドがあり,その一製造原料にすぎないのが上記「メタ-メトキシベンジルアルコール」である。「メタ-メトキシベンジルアルコール」は,アンプラーグの製造工程においてはるか上流の工程における原料であり,また,古くから知られた構造の簡単な化合物である。しかも,806号特許に係る方法でなくても容易に医薬品を製造できる程度に安価かつ純度の高いものが得られる。 さらに,806号特許は,その特許請求の範囲において,出発原料をメタ-ヒドロキシ安息香酸に限定しているが,これをメタ-ヒドロキシ安息香酸アルキル,すなわちメタ-メトキシ安息香酸メチルとすることで回避することができる。また,二重アルキル化が構成要素となっているため,メタ-ヒドロキシ安息香酸を段階的にエステル化あるいはメトキシ化することによっても回 ちメタ-メトキシ安息香酸メチルとすることで回避することができる。また,二重アルキル化が構成要素となっているため,メタ-ヒドロキシ安息香酸を段階的にエステル化あるいはメトキシ化することによっても回避することができる。 このように,806号特許は,実質的に第三者の行為を禁止する効果はなく,被告のアンプラーグについての独占実施への寄与割合はゼロである。 (イ) 991号特許は,既に販売されているアンプラーグの原体の中に,これまで検出されていなかった結晶形が2つ混入していることを発見したにすぎないものである。これら結晶形を発見したからといって,医薬品として使用しているアンプラーグ本体に変わりはなく,また,アンプラーグの製造法を変えたとか,吸収性が良くなるといった効能の向上も全くない。特許公報の【発明の効果】をみても,「新規な結晶多形である Ⅱ形結晶及びⅠ形結晶を提供することができる」と記載するのみであって,単にアンプラーグの結晶をX線回折で測定した結果が延々と記述されているにすぎない。また,上記(2)ウのとおり,被告が991号特許を理由にアンプラーグの後発品による特許侵害を広く警告したにもかかわらず,23社計46品目の後発品が申請され承認されていることからしても,991号特許は被告のアンプラーグに関する事業の独占に対して何ら寄与しておらず,その寄与割合はゼロである。 (5) 共同発明者間における原告の寄与割合(50%)ア本件特許1については,アンプラーグという具体的な化合物を着想し合成したのが誰であるかにより誰が発明者であるかが決定されることになるが,その基準は同時に発明者間の寄与割合の決定基準にもなる。 本件特許2は,創薬の段階からターゲットとされていたセロトニン拮抗作用を確認したものにすぎず,効能が新たに追 るかが決定されることになるが,その基準は同時に発明者間の寄与割合の決定基準にもなる。 本件特許2は,創薬の段階からターゲットとされていたセロトニン拮抗作用を確認したものにすぎず,効能が新たに追加されたものではない。また,本件特許2におけるセロトニン拮抗作用は,本件特許1の明細書に記載されている抗血液凝固作用,血小板凝集阻害作用と用途について表現が異なるだけであって,薬理効果は同一であり,血栓生成抑制剤,血小板凝集抑制剤として医療に供されるものである。したがって,本件特許2は,既に存在する物質の特定の性質を発見し,それを利用するという意味での用途発明ではなく,物質発明に係る物質についてその用途を示す物質発明に基づく用途特許であり,その本質は物質発明の場合と同様に考えるべきであるから,本件特許2に係る発明者間の寄与割合は,物質特許である本件特許1と同一と解すべきである。 イ原告は,抗血液凝固作用を有する抗トロンビン剤であるアルガトロバンを既に創薬していたが,静脈血栓を治療対象とするアルガトロバンに対して,更に動脈血栓を治療対象とする血小板凝集阻害剤を創薬することができれば,全ての血栓症に治療薬を提供できることとなり,血栓治療に多大 な貢献をなし得ると考えた。また,アルガトロバンの基本骨格は経口吸収性の悪いアルギニン骨格であるため注射剤とするしかなく,入院時あるいは通院時にしか投与できないという制約があった。そのため,原告は,経口投与による治療が可能となる抗血栓治療薬を創薬しようと考えた。 原告は,中枢神経系用剤(抗うつ剤)の研究にも取り組んでおり,その対照薬として使用していたイミプラミンに抗レセルピン作用(抗うつ作用)の他に抗血小板作用があることを知っていた。そこで,原告は,抗血小板剤のリード化合物としてイ つ剤)の研究にも取り組んでおり,その対照薬として使用していたイミプラミンに抗レセルピン作用(抗うつ作用)の他に抗血小板作用があることを知っていた。そこで,原告は,抗血小板剤のリード化合物としてイミプラミンに着目するとともに,その有する抗うつ作用を消失させるためにイミプラミンの三環系部分の真ん中を切り離した開裂構造を考えた。このような考えの下,原告は,昭和50年11月,血小板凝集阻害剤の創薬を目的としてBP89及びBP90を合成した。 BP89,BP90を薬理評価したところ,いずれも抗レセルピン作用(抗うつ作用)が消失しており,BP90にBP89を上回る血小板凝集阻害効果が確認された。そのため,原告は,昭和51年6月,BP90を血小板凝集阻害作用を持った経口抗血栓剤のリード化合物として大量に合成した。 BP90に非常に強い抗血小板凝集阻害作用と血管収縮阻害作用が認められたことから,原告は,BP90の抗血小板凝集阻害作用には,セロトニンが関与しているのではないかと考えるようになった。セロトニン拮抗作用を有する化合物には,副作用として脳内セロトニンの神経活動を抑制することによって生ずる神経作用(不安症状,うつ症状など)が出るリスクがあったため,原告は,脳関門が脂溶性物質(油)で囲まれているために親水性化合物は通過しない,あるいは通過しにくいとされている点に着目し,昭和52年8月に合成したBP261という,毒性試験での活性が弱く,水に溶けやすい性状を持っている化合物を再評価する必要性があると考え,昭和55年5月にBP261を大量に合成し,中枢毒性や簡易毒 性などを徹底的に調べた。その結果,BP261は毒性値がBP90より弱いことが確認されたため,以後,原告はBP261の周辺化合物を精力的に合成した。 一方で,BP261は, や簡易毒 性などを徹底的に調べた。その結果,BP261は毒性値がBP90より弱いことが確認されたため,以後,原告はBP261の周辺化合物を精力的に合成した。 一方で,BP261は,P450(肝臓代謝酵素)によりベンゼン環の3位(メタ)が酸化されて-OH基になりグリシンなどと抱合体を作り,非活性化するとともに比較的早く代謝されてしまうことが分かっていた。 そこで,原告は,ベンゼン環の3位が酸化されないように保護基の導入を考え,また,その導入によって活性値を高める効果も期待して各種置換基の導入を検討したところ,メトキシ基(-OCH3)を置換したBP984,BP985の血小板凝集阻害作用の活性値がBP261の約2倍に上がった。BP984,BP985にはカルボキシル基(-COOH)が付いており水溶性の高い化合物であった。 そこで,昭和56年4月,原告は,親水性置換基であるカルボキシル基を含むBP261,BP935,BP985,BP1040を大量に合成して変異原生試験及び亜急性試験に供し,翌5月には,変異原生試験の結果が良く,中枢系副作用に対し影響のなかったBP985を選び,2週間の亜急性毒性試験のために130グラム合成した。 BP985は,BP984より活性は低いが経口吸収性が高く,血中に入ると体内の酵素でコハク酸のエステル部分(CO(CH2)2COOH)が加水分解されてBP984に変化する。つまり,BP985は,BP984より経口吸収性が高く活性を失うことなく血中にとどまり,血中ではより抗血小板凝集阻害作用の強いBP984に変化するという特性が確認できたため,原告は,変異原生試験,経口投与によるラットでの亜急性毒性試験,中枢性関連の副作用の有無の確認等,可能な限りの試験を行った上で,BP985を新薬候補化合物に選定した。 るという特性が確認できたため,原告は,変異原生試験,経口投与によるラットでの亜急性毒性試験,中枢性関連の副作用の有無の確認等,可能な限りの試験を行った上で,BP985を新薬候補化合物に選定した。 以上のとおり,原告は,明確にセロトニン拮抗作用を意識してリード化 合物BP90を合成し,水溶性化合物BP261を経て,最終的に新薬開発候補化合物としてBP985を選び,昭和57年7月頃,BP985を新薬開発会議に上程し,開発,治験に入ることが許可され,MCI-9042という新薬開発番号(治験薬番号にもなる。)が付された。 ウ上記イのアンプラーグの開発経緯から明らかなように,本件特許1において,具体的にどのような活性物質を得ることができればどのような効果があるかを予測し,ドラッグデザインを行ったのは全て原告である。人員が慢性的に不足していたため,原告自身が大半の活性物質の合成を行っており,他の者に活性物質の合成を行わせることがあっても,それも原告が化学式を示すなどして行わせたものであって,その結果についても全て原告に報告されていた。BP89に始まる抗血小板凝集阻害剤に関する合成に最初から最後まで一貫して関与したのは原告のみであり,また,アンプラーグに関する合成グループの月報も全て原告が作成している。 したがって,本件特許1については,全て原告の判断,指示に基づいて研究開発が行われたのであって,原告が単独発明者とも評価し得る重要な役割を果たした。 本件特許1は,原告のほかに,H,B(以下「B」という。),C,Dが共同発明者とされているものの,いずれも原告が行ったドラッグデザインに基づき,原告の指示の下,原告が行う合成の補助あるいは原告が示した化学式に基づき合成を行ったにすぎず,本件発明1において寄与度と評価されるような主 いるものの,いずれも原告が行ったドラッグデザインに基づき,原告の指示の下,原告が行う合成の補助あるいは原告が示した化学式に基づき合成を行ったにすぎず,本件発明1において寄与度と評価されるような主体的な働きはほとんどしていない。 エ本件特許2は,上記アのとおり,「物質発明に基づく用途特許」であり,その共同発明者間の寄与割合は物質特許である本件特許1と同様に認定されるべきである。 本件発明2はアンプラーグのセロトニン拮抗作用を用途としているが,原告はアンプラーグの創薬段階においてセロトニン拮抗作用に着目し,セ ロトニン拮抗作用を持つ製剤として明確にターゲットを絞り研究開発を進めBP985を合成したのであるから,本件特許2についても原告が単独発明者とも評価し得る役割を果たしたといえる。 オ原告の本件各発明の開発における圧倒的に重要な役割を考えると,他の発明者がそもそも発明者といえるのか疑問ではあるが,少なくともそうした他の発明者の寄与が補助的なものにすぎないことからすると,共同発明者間における原告の寄与割合は50%を下回ることはない。 なお,本件特許1と本件特許2における共同発明者間の寄与割合を別々に考えたとしても,本件特許1については50%を下回ることはない。本件特許2については,発明者として記載されている4名のうちFは,薬理班のグループリーダーだっただけでBP985の開発に何ら関与していないため発明者とはいえないから,共同発明者間における原告の寄与割合は,少なくとも残り3名の均等割合である33.3%を下回るものではない。 被告は,創薬における薬理担当者の重要性を縷々主張し,アンプラーグの開発に当たって重要な役割を果たしたのはBであると主張するが,薬理班に所属する者が通常必要とされる薬理評価を行ったとしても,それ 被告は,創薬における薬理担当者の重要性を縷々主張し,アンプラーグの開発に当たって重要な役割を果たしたのはBであると主張するが,薬理班に所属する者が通常必要とされる薬理評価を行ったとしても,それだけでは発明者ということはできない。新薬開発の成功には多岐にわたる安全性試験が必要であるが,これら試験にかかわった者が発明者たり得ないのと同様,薬理班に所属する者が新薬の開発に当たって薬理評価を行ったとしても,それは「使用者の貢献」として評価されることがあるにすぎない。 (6) 被告の貢献度(90%)ア昭和47年4月に合成班のグループリーダーとして医薬品の開発を行うようになった原告の研究テーマは酵素阻害剤の研究(抗トロンビン剤の合成研究)であったが,被告による医薬事業自体が昭和46年に開始されたにすぎなかったため,いまだ揺籃期にあり,研究開発のための設備,人員共に十分にそろえられている状態ではなかった。特に研究開発業務におけ る経験不足は深刻であり,アンプラーグについても被告にはその研究開発に関する技術や知見はほとんどなく,原告の独創に専ら依拠してその研究開発が進められたのである。 また,アルガトロバンは注射による投与が前提であり,使用は医師等専門家がいる病院に限られたため,原告は,経口剤とすることにより通院患者も対象とすることを考え,経口投与製剤を選択した。このことが,アルガトロバンをはるかに超えるアンプラーグの売上高を確立できた最大の要因となった。原告は,当時の上司にこの考えを具申したが,既に血栓症薬としてはアルガトロバンがあり,それを経口剤にすればよいとして,新たな原告の創薬研究に対しては否定的であった。 被告は,神戸大学医学部のG教授(以下「G教授」という。)と共同開発契約を締結したことを被告の貢献として挙 ンがあり,それを経口剤にすればよいとして,新たな原告の創薬研究に対しては否定的であった。 被告は,神戸大学医学部のG教授(以下「G教授」という。)と共同開発契約を締結したことを被告の貢献として挙げるが,G教授との共同開発契約は,別件訴訟のアルガトロバンの開発には役に立ったが,アンプラーグの開発には無関係であり被告の貢献度を上げる事情とはなり得ない。 以上のように,本件各発明は原告の着想と地道な努力によるものであって,G教授との共同開発契約を自らの貢献であると主張し,研究開発を中止するように申し入れたことさえある被告の貢献度は低い。医薬品であるため,実施までのプロセスで臨床試験などの負担が必要となるが,平成21年3月期決算でも年間185億円もの売上げがあるなど,アンプラーグが極めて長期にわたって被告に高い利益をもたらしていることを考慮すれば,使用者である被告の貢献度は90%を上回るものではなく,発明者の貢献度は10%を下回るものではない。 イ被告は,薬理班がセロトニン拮抗作用に着目してセロトニンと低濃度のコラーゲンの組合せによる高感度血小板凝集測定法を確立したことが重要であると主張するが,高感度血小板凝集測定法は,臨床試験を行う際にセロトニンの測定系が必要になったことから開発されたものにすぎない。し かも,当時入社して間もないE(以下「E」という。)がその開発を担当していたことからも分かるように,その開発に特段の困難もなく,薬理に携わる者であれば容易に開発できるものである。このような臨床試験を行うに際しての工夫は,どのような医薬品でも行われるものであって,アンプラーグの開発に特有のものではない。そのため,高感度血小板凝集測定法については,本件特許2の特許公報(甲10の2),アンプラーグの開発経緯を記載した論文(甲 な医薬品でも行われるものであって,アンプラーグの開発に特有のものではない。そのため,高感度血小板凝集測定法については,本件特許2の特許公報(甲10の2),アンプラーグの開発経緯を記載した論文(甲31)にも一切記載されていない。 したがって,高感度血小板凝集測定法の開発は,本件各発明に対する被告の貢献度を上げるべき理由にはなり得ない。 (7) 中間利息の控除本件各発明に係る相当対価支払請求債権は,支払時期の定めのある債権であり,その支払期限は本件各発明が実施された平成5年10月7日から5年が経過した平成10年10月7日である(本件高裁判決)。この日に,原告は,被告に対し,特許法35条に基づく相当対価の支払を請求することができたのであるから,相当対価の額の算定に当たっては,平成10年10月7日を基準として中間利息を控除すべきである。 中間利息の控除に当たっては,各年の中間の時期にその年の利益が得られたものとして年を単位に控除することが相当であり,被告は3月決算であることから,平成10年10月7日はおおむね平成10年度の中間の時期となる。したがって,平成11年度以降の利益については平成10年からの年数に応じて,別紙1のとおり中間利息を控除すべきである。 (8) 相当対価の額以上から,本件各発明に係る相当対価の額を計算すると,別紙1のとおり,2億4281万6039円となる。これは,各年度のアンプラーグの売上高の合計額1987億6634万4189円(上記(1))に,本件各特許による超過売上割合40%(上記(2)),仮想実施料率7.5%(上記(3)),本件 各特許発明の寄与率100%(上記(4)),共同発明者間における原告の寄与割合50%(上記(5)),発明者の貢献度10%(上記(6))を乗じ,平成11年度分からの中間利 (3)),本件 各特許発明の寄与率100%(上記(4)),共同発明者間における原告の寄与割合50%(上記(5)),発明者の貢献度10%(上記(6))を乗じ,平成11年度分からの中間利息を控除(上記(7))した金額である。 したがって,原告は,被告に対し,上記相当対価の額から被告から原告に支払われた出願補償金及び登録補償金の合計●(省略)●円を控除した2億4281万1239円を請求する。本件の相当対価支払請求債権は平成5年10月7日から5年が経過した平成10年10月7日に履行期が到来しているため,その翌日である同月8日から被告は履行遅滞に陥り,民法所定の年5分の遅延損害金が発生する。 なお,共同発明者間の寄与割合について,本件特許1と本件特許2を別々に検討し,本件発明1に対する原告の寄与割合を50%,本件発明2に対する原告の寄与割合を33.3%とした場合の本件各発明に係る相当対価の額は,別紙2のとおり,2億2462万1676円となる。 〔被告の主張〕(1) 相当対価を算出するための基礎となる売上高ア被告による自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日)被告がアンプラーグの販売を開始した平成5年10月7日から,三菱ウェルファーマ(当時のティーティーファーマ)に対して医薬事業を営業譲渡した平成11年9月30日までのアンプラーグの売上高は565億3720万円である。 イ三菱ウェルファーマによる実施期間(平成11年10月1日~平成21年5月18日)被告は,三菱ウェルファーマ(当時のティーティーファーマ)に対する医薬事業の譲渡に際して,知的財産権管理の観点から医薬事業に係る知的財産権については引き続き被告に帰属するものとした。そのため,被告は,平成11年9月30日付けで三菱ウェルファー ファーマ)に対する医薬事業の譲渡に際して,知的財産権管理の観点から医薬事業に係る知的財産権については引き続き被告に帰属するものとした。そのため,被告は,平成11年9月30日付けで三菱ウェルファーマとの間で実施許諾契約を 締結し,被告は,三菱ウェルファーマに対して,同社が医薬事業を遂行するために必要な知的財産(特許権,商標権及びノウハウ)について包括的かつ独占的な実施権を許諾した。 この実施許諾契約において,アンプラーグに関する実施料は,①平成11年10月1日から平成21年5月18日までは正味販売高の●(省略)●%,②それ以降は実施料支払期間満了日(平成21年9月30日)まで正味販売高の●(省略)●%と規定した(乙32)。この実施許諾契約に基づき,被告が三菱ウェルファーマ及び田辺三菱製薬から受領したアンプラーグに関する実施許諾料は●(省略)●円である(各年度の実施料額は別紙3記載のとおりである)。この実施許諾料は,本件各特許権に関連する被告の収入の全部であり,本件各特許権の独占権に基づくものである。 ウ被告は,平成11年9月30日,医薬事業部門を三菱ウェルファーマに対して営業譲渡し,譲渡時点において被告が有していた医薬事業に関する固定資産と流動資産及び医薬事業遂行のために必要な許認可を三菱ウェルファーマに譲渡した。これに伴い,アンプラーグの製造承認についても被告から三菱ウェルファーマに譲渡され,同社に承継された。製造承認がなければ新薬として承認を受けたアンプラーグを製造,販売することはできないため,アンプラーグの製造承認が三菱ウェルファーマに承継されたことによって,被告が有していたアンプラーグの実質的な事業価値のほとんど全ては三菱ウェルファーマに移転したことになる。被告は,上記営業譲渡に際し,知的財産権管理の 認が三菱ウェルファーマに承継されたことによって,被告が有していたアンプラーグの実質的な事業価値のほとんど全ては三菱ウェルファーマに移転したことになる。被告は,上記営業譲渡に際し,知的財産権管理の都合上から医薬事業に係る本件各特許権を含む知的財産権については引き続き被告に帰属するものとしたが,上記のようにアンプラーグに関する事業価値のほとんど全ては三菱ウェルファーマに移転しており,この製造承認と切り離された本件各特許権に独自の事業価値はなく,通常のライセンス契約において認められるような経済的価値は到底認められない。 したがって,被告が三菱ウェルファーマとの間で締結した実施許諾契約に規定されたアンプラーグについての実施料額は妥当なものである。 エ原告は,三菱ウェルファーマによる実施期間につき,アンプラーグに関する事業において被告と三菱ウェルファーマは一体として扱うべきであり,三菱ウェルファーマのアンプラーグの売上高が本件各発明によって「使用者が受けるべき利益」を算定する前提になると主張するが,両社の関係を原告自身の都合がよいように評価しただけの主張であって不当である。 そもそも,被告は,三菱ウェルファーマに対し本件各特許権を実施許諾しており,本件各特許権を実施しているのは三菱ウェルファーマである。 また,被告と三菱ウェルファーマは別法人であり,三菱ウェルファーマは本件各特許権の実施権者であるにすぎず,原告の「使用者」ではない。職務発明の相当対価支払請求権は使用者である被告に対する請求権である以上,本件各発明に関する「その発明により使用者等が受けるべき利益」を検討するに当たり,実施権者にすぎない三菱ウェルファーマの売上げや利益を算定の基礎資料とすべきではない。受けるべき利益として考慮の対象となるのは,上 する「その発明により使用者等が受けるべき利益」を検討するに当たり,実施権者にすぎない三菱ウェルファーマの売上げや利益を算定の基礎資料とすべきではない。受けるべき利益として考慮の対象となるのは,上記イのとおり,被告が三菱ウェルファーマから受領する実施料である。この点は,田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併した後も同様である。 (2) 被告による自己実施期間に係る超過売上高(6%)ア被告は,本件各特許権について無償の通常実施権を有しており,自己実施に基づく売上げは当該通常実施権に基づくものであるから,自己実施分について通常実施権を超える独占的な利益を使用者等が得たという特殊な状況が肯定されない限り,「独占的な利益」自体を観念することはできない。 仮に,被告が自己実施をしていた時期に後発医薬品が存在したとしても,その割合は現在の後発医薬品メーカーの売上状況に鑑みて多めに想定して もせいぜい市場の5%~6%程度であるから(乙38),被告の通常実施権を超える独占的利益が仮に存在したとしても6%を上回ることはない。 また,後記(4)イのように,先発医薬品メーカーである被告は薬事法上の再審査期間制度によって事実上の独占力を得ていたことも考慮すべきである。 (3) 被告による自己実施期間に係る仮想実施料率(5%)仮に,被告の自己実施期間中に通常実施権を超える独占的な利益が観念できるとしても,相当の対価を算定するための仮想実施料率は別件訴訟で認定された5%を上回ることはない。 (4) アンプラーグ関連特許における本件各発明の寄与割合アアンプラーグに関連する特許としては,本件各特許権を含めて下記の4件の特許権が存在する。そして,下記イのとおり,平成5年7月2日から平成11年7月1日までの6年 ける本件各発明の寄与割合アアンプラーグに関連する特許としては,本件各特許権を含めて下記の4件の特許権が存在する。そして,下記イのとおり,平成5年7月2日から平成11年7月1日までの6年間については,別途,薬事法上の再審査制度による独占力が付与されていると解すべきである。 ①本件特許1 昭和56年8月20日出願②本件特許2 平成元年5月18日出願③806号特許昭和59年4月6日出願④991号特許平成18年2月22日出願イ新薬を開発する先発医薬品メーカーは,下記(6)のとおり,長期に渡る研究と莫大な研究開発費用を掛けて医薬品の開発を行い,製造承認を得るための種々の臨床試験を行う必要がある。これに対し,後発医薬品メーカーは,一般的に薬事法上の再審査期間経過後に製造承認を得て,後発医薬品(ジェネリック)を製造して,先発メーカーの医薬品よりも安価で販売する。 後発医薬品を製造しようとする会社は,新薬として製造承認を得られれば再審査期間中であっても当該医薬品を製造販売することができるが,後 発医薬品メーカーが自ら新薬製造業者が開発当初から行った種々の試験を行うことは事業として全く成り立たないものである。後発医薬品メーカーが再審査期間中に自ら製造承認を得るためには先発会社と同等又はそれ以上の資料をそろえる必要があるところ,後発医薬品メーカーが僅か6年間という再審査期間中にそのような資料を準備することは極めて困難であり,再審査期間中に後発医薬品メーカーが製造承認を得ることは事実上不可能である。再審査期間経過後には,後発医薬品メーカーが製造承認を得ることはあり得るが,それは再審査期間経過後であれば製造承認を得るためにそろえるべき必要な資料が格 ーが製造承認を得ることは事実上不可能である。再審査期間経過後には,後発医薬品メーカーが製造承認を得ることはあり得るが,それは再審査期間経過後であれば製造承認を得るためにそろえるべき必要な資料が格段に少なくなるためである。したがって,先発医薬品メーカーは,医薬品について特許権があるかどうかとは全く関係なく,薬事法上の再審査期間という制度によって事実上の独占力を得るのである。これは,当該医薬品の製造販売について,薬事法上の再審査期間制度によって独占権の発生があるとみることができ,あたかも物質特許に比肩する別個の特許権が存在するのと同様の事態が現出していると解すべきである。 被告は,平成5年7月1日にアンプラーグの製造承認を得ており,翌日の同月2日から平成11年7月1日までが再審査期間となるから,この期間には,薬事法上の再審査制度によって,特許権(アンプラーグ関連特許発明の全て)の独占力と同等の独占力がもたらされているといわざるを得ない。 ウ一つの医薬品に対して複数の特許発明が寄与する場合に,特許発明の持つ本質的な排他力及び業界での現実的効果等からみて,発明の果たす後発品排除効果についての強弱関係については,物質発明,用途発明(承認用途のみ)は強く,製法発明は弱いとされている。 本件において,物質特許である本件特許1,用途特許である本件特許2は重要なウェイトを占めている。特に,医薬品として広く認知された要因 は,セロトニンに対する拮抗作用による血小板凝集阻害作用の薬理効果が明らかになった点にあり,その観点からすると,本件発明2こそが医薬品としての重要性を高めたものである。その観点からすれば,本件特許1と本件特許2の重要性は同等であり,そのウェイトはいずれも1とされるべきものである。これに対して,806号特許及び 発明2こそが医薬品としての重要性を高めたものである。その観点からすれば,本件特許1と本件特許2の重要性は同等であり,そのウェイトはいずれも1とされるべきものである。これに対して,806号特許及び991号特許は,本件特許1及び本件特許2ほどのウェイトは占めていないものの,特許権である以上ウェイトがゼロということはなく,いずれも0.3程度のウェイトを占めているというべきである。上記イの再審査制度による独占力は,基本物質に関する特許権の独占力と同等というべきであるから,そのウェイトは1と解すべきである。 (ア) 平成5年度から平成11年度まで本件特許1,本件特許2,806号特許が出願済みであり,再審査制度による独占力も考慮すべきであるから,寄与割合は以下のとおりとなる。 本件特許11/(1+1+0.3+1)=10/33本件特許21/(1+1+0.3+1)=10/33(イ) 平成12年度から平成17年度まで再審査期間が終了したことから,本件特許1,本件特許2,806号特許における寄与割合は以下のとおりとなる。 本件特許11/(1+1+0.3)=10/23本件特許21/(1+1+0.3)=10/23(ウ) 平成18年度から平成21年度まで 本件特許1,本件特許2,806号特許に加えて,991号特許が出願されたことから,寄与割合は以下のとおりとなる。 本件特許11/(1+1+0.3+0.3)=10/26本件特許21/(1+1+0.3+0.3)=10/26(5) 共同発明者間における原告の寄与割合ア昭和40年代後半,血小板凝集を阻害できれば抗血栓剤の開発につながる可能性があることは当業 1/(1+1+0.3+0.3)=10/26(5) 共同発明者間における原告の寄与割合ア昭和40年代後半,血小板凝集を阻害できれば抗血栓剤の開発につながる可能性があることは当業者における一般的な知見であったが,その当時,いまだ血小板凝集阻害剤として上市されている薬剤は存在していなかった。 そこで,薬理班のBは,血小板凝集阻害剤の新薬開発につながればと考え,血小板凝集阻害物質のスクリーニング探索を開始した。被告研究所内で合成,保管されていたOMシリーズ,PLシリーズ,BPシリーズ等の化合物をスクリーニングした結果,BP89,BP90に強い血小板凝集阻害効果が認められたため,Bが抗血栓剤としての開発が期待できると考え合成班に報告したことにより,BP90が血小板凝集阻害剤のリード化合物に選択されたものである。 原告は,イミプラミンの抗血小板凝集阻害作用と化学構造から着想し血小板凝集阻害剤の創薬を目的としてBP89,BP90を合成したと主張するが,原告はイミプラミンが生体内において血小板凝集阻害効果を発揮する作用機序を理解していなかった以上,イミプラミンを基に化学構造等を選択,決定してBP89,BP90を合成する(ドラッグデザインする)ことなどできたはずはなく,また,BP89,BP90はもともと抗うつ剤の開発を目的として合成された化合物であるから,原告の主張は事実に反するものである。原告は,単に薬理班との連携の下,機械的にBP89,BP90を設計,合成しただけである。 昭和51年6月にBP90が血小板凝集阻害剤のリード化合物に選択された後,被告研究所内においてBP90の血小板凝集阻害活性の向上と毒性の低減化を目指して構造最適化の研究を行うことになった。この構造最適化の研究とは,合成班が 血小板凝集阻害剤のリード化合物に選択された後,被告研究所内においてBP90の血小板凝集阻害活性の向上と毒性の低減化を目指して構造最適化の研究を行うことになった。この構造最適化の研究とは,合成班が提供したBPシリーズ化合物について,薬理班が血小板凝集阻害活性(invitro,invivo),物性,薬物動態,毒性,安全性等を測定し,その結果を合成班にフィードバックすることにより,合成班が新たにBPシリーズ化合物を合成する際の指針ないし方向性を与え,この情報を基に合成班がリード化合物に様々な化学修飾を加えて医薬品としての最適化を図るというものであり,薬理班と合成班の緊密な連携が不可欠な研究段階である。 Bが,既に合成されていたBP261について,薬理班においてBP化合物の血小板凝集阻害効果を測定するためのinvivo 実験系として確立した電流によるマウス腸間膜動脈血栓モデルを用いた実験を行ったところ,invivo ではBP90と同等の血小板凝集阻害効果を示すことが判明し,その後の各種薬理実験の結果,BP261がinvitro,invivo で血小板凝集阻害作用を持ち,毒性の弱い化合物として最もバランスが取れていることが見いだされたものであり,BP261はBが実験の結果,見いだした化合物である。 その後,最終的にBP985(アンプラーグ)が新薬候補化合物に選定されたが,これは薬理班が実験結果に基づき化合物の構造活性相関についての考察結果を合成班にフィードバックすることにより,合成班が新たな化合物を合成する際の重要な指針や方向性を与えるなどして,薬理班と合成班が連携して網羅的な検討と試行錯誤を行った結果である。 選択的5-HT2レセプター拮抗薬であるアンプラーグ(BP985)は,血栓形成部位にお な指針や方向性を与えるなどして,薬理班と合成班が連携して網羅的な検討と試行錯誤を行った結果である。 選択的5-HT2レセプター拮抗薬であるアンプラーグ(BP985)は,血栓形成部位において,血管内皮細胞上の5-HT1レセプターを介した血管弛緩反応を阻害することなく,血小板及び血管平滑筋細胞に存在 する5-HT2レセプターを選択的に遮断することにより,血小板凝集を抑制するとともに血管収縮を抑制して,慢性動脈閉塞症等の抹消循環障害を改善するものであるが,昭和56年にBP985(アンプラーグ)が新薬候補化合物に選定された後も,この血小板凝集阻害作用の作用機序の解明は困難を極めた。なぜなら,セロトニンは単独ではほとんど血小板凝集作用を示さないため,BP985がセロトニンによる血小板凝集を濃度依存的に阻害するか否かを検出すること自体が極めて困難なことだったからである。しかし,その後,セロトニンには他の血小板凝集物質,例えばコラーゲン,ADP,エピネフリンなどによる血小板凝集を相乗的に増強する作用があることが報告されたことをきっかけに,薬理班がセロトニンと低濃度コラーゲンの組合せによる高感度血小板凝集測定法を確立したことにより,BP985(アンプラーグ)の作用機序がセロトニン拮抗作用であることが解明され,本件発明2が完成したものである。 原告は,創薬段階から明確にセロトニン拮抗作用を意識してBP985を含め全ての化合物を合成し,最終的に新薬候補化合物としてBP985を選んだと主張するが,原告は,そもそもセロトニン拮抗作用の意味を理解していないため,セロトニン拮抗作用を意識して化合物を合成することは不可能である。また,BP985(アンプラーグ)の合成に至る過程において,BPシリーズが備える血小板凝集阻害効果の作 用の意味を理解していないため,セロトニン拮抗作用を意識して化合物を合成することは不可能である。また,BP985(アンプラーグ)の合成に至る過程において,BPシリーズが備える血小板凝集阻害効果の作用機序は全く不明であり,当該効果がセロトニン拮抗作用に基づくものであることは全く解明されていなかった上に,原告はドラッグデザインに不可欠なセロトニン受容体(5-HT2)の化学構造の解析を行っていないのであるから,セロトニン拮抗作用に着目してBP985(アンプラーグ)を合成した(ドラッグデザインした)という原告の主張は明らかな誤りである。 イ上記アのアンプラーグの開発経緯から明らかなように,本件特許1は原告が所属していた合成班よりも薬理班における研究結果を主として出願に 至ったものであり,薬理の貢献と合成の貢献をみたときに薬理の貢献が50%を下回ることはないとういうべきである,そして,薬理班の発明者であるBを除く4名の共同発明者で50%の貢献があるとみれば,共同発明者間における原告の寄与割合は12.5%(50%の4分の1)を上回ることはない。 ウまた,上記アのアンプラーグの開発経緯からすると,BP985(アンプラーグ)の作用機序がセロトニン拮抗作用にあることを解明したのは薬理班であるから,セロトニン拮抗作用による薬理効果を明らかにした本件特許2における原告の貢献は他の共同発明者よりも極めて低く,原告を除く3名の共同発明者の貢献は90%を下回ることはないというべきであるから,共同発明者間における原告の寄与割合は10%を上回ることはない。 (6) 被告の貢献度(97.5%)ア新規医薬品の開発は,長期に及ぶ研究開発が行われ,その研究開発には莫大な開発費用が掛かり,しかも医薬品の開発が成功するかどうかも分からないという多 。 (6) 被告の貢献度(97.5%)ア新規医薬品の開発は,長期に及ぶ研究開発が行われ,その研究開発には莫大な開発費用が掛かり,しかも医薬品の開発が成功するかどうかも分からないという多大なる開発リスクを負って行われるものであって,この開発リスクを全て負担しているのは被告である。 しかも,医薬品の開発に成功し製造承認を得たとしても,直ちに売上げに直結するわけではなく,企業の営業努力が必要不可欠であり,売上げが上がるか否かという事業リスクも被告が全て負担している。特に,医療関係者の多くが,セロトニンは中枢神経系あるいは腸管に作用するものと認識していたことから,アンプラーグが抗セロトニン拮抗作用を有するというだけでは,対象疾患である慢性動脈閉塞症の治療薬であることを医療関係者に理解してもらうことは難しい状況にあったため,アンプラーグについては通常の医薬品以上に営業努力が不可欠であり,医師にアンプラーグを浸透させるためにMRを増員し情報提供活動を強化したことがアンプラーグの販売拡大の要因である。 上記(5)のとおり,本件特許1は原告が所属していた合成班よりも薬理班における研究結果を主として出願に至ったものであり,本件特許2も原告転出後の薬理班による功績が大きく,原告が他の発明者に比して格段の貢献があったとは認められない。原告がアンプラーグの新薬事業の中で関与したのは,単にアンプラーグ(BP985)という化合物を機械的に設計,合成したことであり,下記イのように数多くのステップを有する新薬開発プロセスにおいて,原告はあくまで医薬候補品を創出する段階(第1段階)の中のごく一部に関与したにすぎず,新規化合物の中から医薬としての有用性,安全性等を見いだす貢献を果たしたのは薬理研究者である。 以上のことを考慮すれば,原告の 医薬候補品を創出する段階(第1段階)の中のごく一部に関与したにすぎず,新規化合物の中から医薬としての有用性,安全性等を見いだす貢献を果たしたのは薬理研究者である。 以上のことを考慮すれば,原告の貢献度が2.5%を上回ることはなく,被告の貢献度は97.5%を下回ることはないといえる。 イ新薬の開発プロセスには,大要,以下のような数多くのステップが存在する。この新薬の開発プロセスのうち,取り分け重要なのは,医薬候補品を医薬品に仕上げる過程(第2段階)であり,この段階における最も重要な課題は,医薬品の有効性,安全性及び品質の確保と安定供給することとされている。 ①医薬候補品を創出する段階(第1段階)医療ニーズを調査し,医薬品開発の対象とする病気を選択し,その病気の病態を調べ,予防や診断,治療に有効な物質を見つけ出す段階である。この段階において,化学,薬理,病理などの最新の知識に基づく科学的手法を駆使し,創意工夫して疾病に有効な物質を探索し,目的とする医薬候補品を創出することになる。ただし,得られた医薬候補品は薬効が期待される化学物質ではあるが,医薬品として有効かつ安全に使用することができるかどうかはいまだ分からないものである。第1段階は更に以下のように区別することができる。 (ア) 研究開発テーマの選定 (イ) リード化合物の発見と最適化研究,候補化合物の選定a スクリーニングによるリード化合物の発見b 化合物の合成c 最適化研究と候補化合物の選定d 特許出願②医薬候補品を医薬品に仕上げる段階(第2段階)医薬候補品を医薬品に仕上げる段階であり,医薬候補品が,対象とする病気の治療,診断に有効かつ安全であることを立証し,その評価成績を新薬承認書としてまとめ,国の承 を医薬品に仕上げる段階(第2段階)医薬候補品を医薬品に仕上げる段階であり,医薬候補品が,対象とする病気の治療,診断に有効かつ安全であることを立証し,その評価成績を新薬承認書としてまとめ,国の承認審査を受けて承認を取得する段階である。第1段階と同様,あるいはそれ以上に医薬品の開発においては重要な段階とされている。この段階では,化学・物理,薬理,毒性,臨床,薬事,知的財産権や営業などの各専門家が,広範囲の調査,研究及び評価を実施する。この段階は,医薬品開発に関する法制度や指針に従って開発業務を実施することが義務付けられており,この点が第1段階と大きく異なる。第2段階は更に以下のように区分することができる。 (ア) 品質評価と原体・治験薬の製造(イ) 非臨床評価/臨床評価(安全性・有効性評価)a 薬理試験(薬効薬理と一般薬理)b 薬物動態試験c 安全性試験d 物性検討e 薬剤検討f 製造法検討g 臨床試験(a) 第Ⅰ相臨床試験:健康成人を被験者とした安全性の評価(b) 第Ⅱ相臨床試験:少数の患者を被験者とした有効性・安全性 評価と用法,用量の検討(c) 第Ⅲ相臨床試験:多数の患者を被験者とした有効性・安全性の検証h 承認申請③医薬品が市販されて医療に使用される段階(第3段階)新薬の開発プロセスは,新薬が製造承認取得後に市場に販売されたことをもって全て終了というわけではない。上述した臨床試験は,限られた数の患者を対象に実施されるのに対し,市販後は,様々な背景(年齢,病態,合併症,併用薬など)を持った多くの患者に使用されるため,臨床試験では認められなかった有効性や安全性,用法・用量等の面で問題が生じるおそれがある。そこで,薬事法上,市販後の医薬 な背景(年齢,病態,合併症,併用薬など)を持った多くの患者に使用されるため,臨床試験では認められなかった有効性や安全性,用法・用量等の面で問題が生じるおそれがある。そこで,薬事法上,市販後の医薬品の安全性と有効性,適正使用の確保のために,市販後調査と安全性情報の規制当局への報告が義務付けられている。新薬として承認された後,一定期間(通常6年間)は企業の責任で有効性と使用成績,副作用の発現状況などの調査及び試験を行い,再審査を受けることが義務付けられており,この製造販売後の調査及び試験は第Ⅳ相臨床試験ともいわれている。 (7) 中間利息の控除職務発明の相当の対価の算定基準時が権利承継時である以上,相当の対価の算定に当たり,現実に得た各利益について権利承継時を基準とした現在価値に割り引くという意味において,中間利息を控除すべきは当然である。 本件においては,本件特許1においては出願日である昭和56年8月20日の翌年である昭和57年を1とし,本件特許2においては出願日である平成元年5月18日の翌年である平成2年を1として,中間利息を控除すべきである。 (8) 相当対価の額ア被告による自己実施期間の相当対価の額 以上から,被告の自己実施期間に係る相当対価の額を算定すると,別紙3のとおり,16万5788円となる。これは,被告の自己実施期間におけるアンプラーグの売上高の合計565億3720万円(上記(1)ア)に,本件各特許による超過売上割合6%(上記(2)),仮想実施料率5%(上記(3)),本件各特許発明の寄与率(いずれも10/33)(上記(4)),共同発明者間における原告の寄与割合(本件特許1:12.5%,本件特許2:10%)(上記(5)),発明者の貢献度2.5%(上記(6))を乗じ,中間 発明の寄与率(いずれも10/33)(上記(4)),共同発明者間における原告の寄与割合(本件特許1:12.5%,本件特許2:10%)(上記(5)),発明者の貢献度2.5%(上記(6))を乗じ,中間利息を控除(上記(7))した金額である。 イ被告による実施許諾期間(三菱ウェルファーマ等による実施期間)の相当対価の額以上から,被告による実施許諾期間(三菱ウェルファーマ等による実施期間)に係る相当対価の額を算定すると,別紙3のとおり,173万8054円となる。これは,被告が実施許諾契約に基づき三菱ウェルファーマ等から受領したアンプラーグに関する実施許諾料の合計●(省略)●円(上記(1)イ,ウ)に,本件各特許発明の寄与率(いずれも,平成11年度:10/33,平成12年度~17年度:10/23,平成18年度~21年度:10/26)(上記(4)),共同発明者間における原告の寄与割合(本件特許1:12.5%,本件特許2:10%)(上記(5)),発明者の貢献度2.5%(上記(6))を乗じ,中間利息を控除(上記(7))した金額である。 2 争点2(消滅時効の成否)について〔被告の主張〕(1) 本件高裁判決が判示するように,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は遅くとも平成10年10月7日に請求可能な状態に至ったものであり,この日が消滅時効の起算点となる。 原告は,平成21年8月17日付け訴え変更申立書により請求を追加的に 変更し,当初の請求金額150万円を2億0535万9500円に増額した。 当初の請求金額150万円については,消滅時効の時効期間の進行中である平成19年2月1日に原告が被告に対しその履行を催告し,同年5月18日に本件訴訟(一部請求)を提起したから,上記催告時に消滅時効は中断した。 しかし,増 円については,消滅時効の時効期間の進行中である平成19年2月1日に原告が被告に対しその履行を催告し,同年5月18日に本件訴訟(一部請求)を提起したから,上記催告時に消滅時効は中断した。 しかし,増額部分(当初の請求である150万円を超える部分)については,平成19年2月1日に上記150万円とともに原告は被告に対してその履行を催告したものの,平成21年8月17日に至って初めて訴訟提起(裁判上の請求)をしたものであるため,上記催告による時効中断の効力は生じない。 このため,上記増額部分の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断ぜずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって消滅時効期間が満了した。被告は,平成21年9月10日付け訴えの変更の申立てに対する答弁書においてこの消滅時効を援用し,同年9月25日の弁論準備手続期日において同書面を陳述したから,本件各発明に係る相当対価支払請求債権のうち増額部分(当初の請求である150万円を超える部分)は消滅時効により消滅した。 (2) 原告は,本件各発明に係る相当対価支払請求債権の行使を具体的に検討し,平成17年において一旦これを断念したものの,平成19年になり僅か150万円の一部請求として本件訴訟を提起したものである。そして,差戻前の本件訴訟の主たる争点は消滅時効の成否であったことからすると,原告の本件訴訟の提起は消滅時効の完成に関するテスト訴訟以外の何者でもない。 一部であることを明示して一部請求がされた場合,最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,請求された一部についてのみ時効が中断されるとし,訴訟係属後の請求の拡張部分につき,消滅時効完成後の請求であるという理由で実体法上認められないと判示した。 二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,請求された一部についてのみ時効が中断されるとし,訴訟係属後の請求の拡張部分につき,消滅時効完成後の請求であるという理由で実体法上認められないと判示した。 明示された一部のみが「訴訟物」となり時効中断は残部には及ばないのである。判例はこの限度で再訴許容という原告の利益,被告及び裁判所の不便, 不利益との調整を図ったものというべきである。特に,職務発明の相当の対価の支払請求債権の消滅時効期間は10年であり,消滅時効の起算点を遅く認定することができる本件のような場合においては,被告の不利益は大いに考慮されるべきものである。 また,以下のような原告と被告の利益状況からすれば,両者の均衡を保つため,残部(増額部分)に関する時効中断効を否定する必要があるというべきである。 ア原告は,通常であれば時効消滅と思われる状況下で,一旦は権利行使を断念しながら,時効消滅を否定する判断の可能性に懸けて提訴することができた。訴額150万円の訴訟費用は1万3000円であり,請求拡張後の訴額2億0535万9500円の訴訟費用は63万8000円であるから,この差額62万5000円の節約が当面の原告の利益である。これに対して,被告の応訴負担(一部請求の応訴負担及び残額請求の可能性に対する応訴負担)は膨大なものであり,原告の上記節約利益を優先するような状況にない。 イ原告は明示的な一部請求をすることにより残部請求の再訴が可能である状態を確保することができた。原告は,たとえ一部請求訴訟において敗訴しても残部の再訴が可能であるという大きな利益を得ている。一部請求が一審判決で認容されれば,控訴審で請求拡張をすることができるという利益があり,また,一審判決で請求棄却となっても,控訴審で請求拡張をすること,請求拡張 能であるという大きな利益を得ている。一部請求が一審判決で認容されれば,控訴審で請求拡張をすることができるという利益があり,また,一審判決で請求棄却となっても,控訴審で請求拡張をすること,請求拡張をせずに控訴審判決で認容判決を得て残部の再訴請求をすることも可能な状況を現出できるという利益がある。本件では,差し戻されたため,残部の再訴ではなく請求の拡張が可能であった。これに対し,被告は原告のなすがままに応答する負担のみを強いられている。 (3) 明示的な一部請求の場合に残部に関する時効中断効を否定するのが最高裁判例であり,原告訴訟代理人はこの点を熟知しているのであるから,少なく とも,平成20年10月6日の消滅時効完了時までに,別訴を提起するか,請求を拡張することができ,これに何らの障害もないのであるから,これを漫然と看過し,いずれの訴訟手続も採らなかった不利益は原告が負担すべきである。この意味においても,原告が主張する「裁判上の催告」理論は本件には妥当しないものである。 〔原告の主張〕(1) 被告の主張は過去の裁判例に反し失当である。すなわち,退職金債権の明示的一部請求訴訟において,最高裁判所昭和50年(行ツ)第27号同53年4月13日第一小法廷判決(訟務月報24巻6号1265頁)は,残額請求権についてもその権利存在の主張を維持し債務の履行を欲する意思を表し続けていたものと認められる場合には,その主張に残部債権に対する「裁判上の催告」の効力があるから,前訴終了後6か月以内の残部請求訴訟の提起が,残額請求権についての消滅時効の中断事由になるとした原判決を維持している。 したがって,いわゆる「裁判上の催告」として,①訴えの提起により,権利行使の意思が継続的に表示されていると認められれば「催告」としての効力 効の中断事由になるとした原判決を維持している。 したがって,いわゆる「裁判上の催告」として,①訴えの提起により,権利行使の意思が継続的に表示されていると認められれば「催告」としての効力が付与され,②当該催告の効力は訴訟係属中にも継続し,訴訟係属中に請求が拡張されれば,その時点で時効中断の効力が生じ,③当該訴訟係属中に請求の拡張がなされなかったとしても,当該訴訟終了後6か月以内に別訴を提起すれば時効中断の効力が認められるといえる。 被告は,最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決を引用し,1個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えの提起があった場合,訴え提起による消滅時効中断の効力はその一部の範囲においてのみ生じ残部には及ばないと主張するが,上記判例は,明示的一部請求訴訟における「訴えの提起」による時効中断効が生じる範囲を判示したものにすぎず,残部について催告等の「訴えの提起」以外の時効中断事由により時効 中断効が生じるか否かについて判示するものではない。 (2) 原告は,訴状において「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされるか不明であるので,念のため,一部請求額を「150万円」として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である。」と主張したように,消滅時効に関する議論が決着すれば後に残部請求を訴訟の対象とすることを明示的に表明していた。また,被告からの本件特許権2を請求の根拠として主張する予定はあるのかという求釈明に対し,原告は,平成19年7月17日付け第1準備書面において,本件特許権2を含めて本件各発明の相当対価請求額全体を明示している。このような事実経緯に鑑みれば,原告が,訴訟係属中一 のかという求釈明に対し,原告は,平成19年7月17日付け第1準備書面において,本件特許権2を含めて本件各発明の相当対価請求額全体を明示している。このような事実経緯に鑑みれば,原告が,訴訟係属中一貫して被告に対する相当対価請求の残部(増額部分)につき権利行使をする意思を有していたことは明らかであり,裁判上の催告の効力により時効が中断したといえる。 また,本件において消滅時効に関する裁判所の判断が確定するまでに,差戻前の第1審においては,消滅時効の成立が認められ,同第2審において消滅時効の成立が否定されるという変遷があり,原告が本件訴訟の過程において請求の拡張等の手続を採らなかったことをもって,残額の請求権につき権利の上に眠っていたとはいえず,また,いわゆる試験訴訟の弊を招くおそれを考える必要のない事実関係にあったということができる。 したがって,本件請求の増額部分について消滅時効は成立しない。 第4 当裁判所の判断 1 アンプラーグの開発等に係る事実認定証拠(甲1,10,29,34の各1,2,乙8~14,17,18,25,27,30,31,53~58,60,62,64,65,68,72,73,75,77,90,92,115,118,119,123~132,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件各発明の内容ア本件特許権1の特許請求の範囲は,別紙4(特公昭63-13427号公報,甲1の2)の「特許請求の範囲」に記載のとおりである。 本件特許1に係る明細書の「発明の詳細な説明」には,本件発明1に係る化合物である(3-アミノプロポキシ)ビベンジル類は,「抗血液凝固作用,特に血小板凝集阻害作用を有しさらにプロスタグランジンI2の作用を強める効果を有し,血栓症の治療及び予 」には,本件発明1に係る化合物である(3-アミノプロポキシ)ビベンジル類は,「抗血液凝固作用,特に血小板凝集阻害作用を有しさらにプロスタグランジンI2の作用を強める効果を有し,血栓症の治療及び予防効果を有する」ことが記載されているが,セロトニンについての記載はなく,血小板凝集阻害効果についてはinvitro 評価のみが記載されている。 イ本件特許権2の特許請求の範囲は,別紙5(特公平5-44926号公報,甲10の2)の「特許請求の範囲」に記載のとおりである。 本件特許2に係る明細書の「発明の詳細な説明」には,以下の記載がある。 (ア)「本発明は,アミノアルコキシビベジン類を有効成分とする,脳循環障害,虚血性心疾患,末梢循環障害等の疾患における,血管収縮抑制剤に関する。」(イ)「セロトニンは血小板凝集を伴う微小循環障害の発症・維持に重要な役割をしていることが知られている。…従って,血小板凝集に伴い血小板から放出されるセロトニンの作用(血小板凝集促進作用および血管収縮作用)を選択的に阻害するセロトニン拮抗剤は,血栓の生成を阻止し,血管収縮を抑制することにより,種々の循環障害の治療および予防に有用である。上記セロトニンの作用に対し選択的阻害作用を示す薬剤としては,下記に示すような化合物が知られているが,未だ数多くは知られていなかった。」(ウ)「本発明者らは,上記化合物とは基本的に構造が異なるアミノアルコキシビベジンジル類に着目して,セロトニンの作用に対し選択的阻害作用 を示す化合物を探索した。本発明者らの一部は,先に特定のアミノアルコキシビベジン類が,血小板凝集抑制剤として有用であることを提案した(特公昭60-21578号公報,同61-21463号公報,同63-13427号公報〔判決 本発明者らの一部は,先に特定のアミノアルコキシビベジン類が,血小板凝集抑制剤として有用であることを提案した(特公昭60-21578号公報,同61-21463号公報,同63-13427号公報〔判決注:甲1の2〕)。しかしながら,それらの化合物と上記の様なセロトニン拮抗作用との関係については全く知られていなかった。本発明者らは,かかるアミノアルコキシビベンジル類の内,更に特定のものが良好なセロトニン拮抗作用を有し,血管収縮抑制作用を有することを見いだし,本発明を完成した。即ち,本発明の要旨は,下記一般式(Ⅰ)で表されるアミノアルコキシビベンジル類を有効成分とするセロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制剤に存する。 …(Ⅰ)」(2) 本件各発明の経緯ア原告は,昭和47年4月,被告の中央研究所に設置された医薬の研究開発部門に移籍し,昭和56年11月にグループリーダーとして薬理班に移籍するまでの間,合成班のグループリーダーとして新薬の開発に従事し,昭和47年4月から抗血栓剤である抗トロンビン剤の研究を行っていた。 イ本件発明1の実施品であるアンプラーグ(BP985)は,BP90をリード化合物として合成されたものであるが,BP90は遅くとも昭和50年11月頃には原告により合成され,薬理テストに供された(甲29の1添付資料1)。 BPシリーズは,抗スロンビン剤として合成された化合物中に抗レセルピン(抗うつ)作用があるものが発見されたことをきっかけに,シリーズとして化合物の合成が開始されたものであり(乙56~59),BP90も,BP89までのBPシリーズと同様,抗うつ剤の開発を目的として合 成されたものである。 ウ薬理班のBは,遅くとも昭和48年頃から,血小板凝集阻害物質のスク 乙56~59),BP90も,BP89までのBPシリーズと同様,抗うつ剤の開発を目的として合 成されたものである。 ウ薬理班のBは,遅くとも昭和48年頃から,血小板凝集阻害物質のスクリーニング探索を継続的に行っており,合成班が合成したOMシリーズ化合物やPLシリーズ化合物などをスクリーニングし,血小板凝集阻害作用を測定していた(乙8~13,53~55,90等)。スクリーニングの結果,PLシリーズ化合物のうちBPシリーズ系の化合物(BPシリーズ化合物の合成中間体やBPシリーズ化合物そのもの)が比較的強い血小板凝集阻害効果を示したこと等から,薬理班のBが,昭和51年2月頃にBPシリーズ化合物について血小板凝集阻害効果を測定したところ,アミン部分が-NHCH3のものでは,BP89>BP30>BP4>BP18の順に阻害活性が強く,このアミン部分を,●(省略)●,●(省略)●(以下「A」という。)にすると,阻害効果は更に増強された(乙62)。 この結果を受け,Bは,既に合成班が合成していたBP90(BP89のアミン部分を●(省略)●にしたもの),合成班が合成したBP105(BP89のアミン部分をAにしたもの)の血小板凝集阻害効果を測定したところ,遅くとも昭和51年5月頃までには,BP90は,抗レセルピン作用がなく,血小板凝集阻害効果がinvitro 評価で当時血小板凝集阻害効果があると広く認められていたインドメサシンと同等程度と顕著であることを見いだした。このことをBが原告へ報告した結果,BP90が血小板凝集阻害剤のリード化合物に選定され,大量に合成された(甲29の1添付資料3,4,原告本人)。 エその後,原告は,BP90をリード化合物として,血小板凝集阻害作用の向上と毒性 ,BP90が血小板凝集阻害剤のリード化合物に選定され,大量に合成された(甲29の1添付資料3,4,原告本人)。 エその後,原告は,BP90をリード化合物として,血小板凝集阻害作用の向上と毒性の低減化の観点から,置換基や塩基等を変化させながらBP シリーズ化合物を順次合成し,昭和52年8月頃,BP261を合成し,薬理班に薬理テストを依頼した(甲29の1添付資料5,6,8,11等)。 薬理班のBは,昭和52年9月頃,BP261につきコラーゲンによる血小板凝集に対する効果を測定(invitro 評価)したところ,血小板凝集に対する阻害作用はBP90と比較するとやや劣る(I50値は●(省略)●M程度)ものの,急性毒性が低いとの結果であった(乙92)。 昭和53年5月頃,薬理班のBは,それまでスクリーニングしたBPシリーズ化合物の中で,毒性が弱く,血小板凝集に対する阻害活性が強いとの結果が出ていたBP319について,ラットへの経口投与による血小板凝集阻害効果を測定したところ,その阻害活性はBP90と比較すると大きく劣っていた(乙65)。 その後,しばらくの間BP261が薬理テストに供されることはなかったが,昭和55年5月頃,薬理班のBは,BP261とアラキドン酸による血小板凝集に対し阻害効果を有する化合物であるK77-185について,invivo での抗血栓作用を確認するため,電流によるマウス腸間膜動脈閉塞モデルを用いた実験を行ったところ,BP261のinvitro での血小板凝集阻害効果は,BP90,BP319の1/7~1/3であるにもかからず,invivo ではBP90,BP319と同等の強い血小板凝集阻害効果を示した。これを受け,Bは,BP261のエステル部分の切れた化合物であるBP262はI50値が 7~1/3であるにもかからず,invivo ではBP90,BP319と同等の強い血小板凝集阻害効果を示した。これを受け,Bは,BP261のエステル部分の切れた化合物であるBP262はI50値が●(省略)●Mであることから,invivo に投与した場合にはBP261がBP262に変化して血小板凝集阻害作用を発現している可能性もあると考察した(乙68)。 合成班は,昭和55年5月頃,血小板凝集阻害剤のinvivo テスト用にBP220,BP261を合成した(甲29の1添付資料13)。また,同年6月頃には,BP261と類似の構造を有する化合物(BP790,791)を含む多くのBPシリーズ化合物を合成し,薬理テストに供した (甲29の1添付資料14)。 オ BPシリーズ化合物につき,血小板凝集阻害効果についての測定や様々な毒性試験が行われ,その結果を受けて,薬理班のBは,以下のような考察を行った。 (ア) 「エーテルがm位についたBP378はo-,p-の場合に比べ阻害活性が低かった。これで位置と活性との相関は,o->p->m-となり,o-からp-,-pからm-と活性が1/5くらいに低下していく傾向が認められた。」(昭和53年4月月報,乙64)(イ) 「BP261のInVitro での血小板凝集抑制効果はBP90,BP319の1/7~1/3にもかかわらず,InVivo では同等の効果を示したことになる。この点に関する1つの考察として,BP261のエステル部分の切れた化合物であるBP262はI50が●(省略)●Mであることより,InVivo に投与した場合にはBP261がBP262に変化して作用を発現している可能性もある。」(昭和55年5月月報,乙68)(ウ) 「今回の実験により,Phenyl へ ことより,InVivo に投与した場合にはBP261がBP262に変化して作用を発現している可能性もある。」(昭和55年5月月報,乙68)(ウ) 「今回の実験により,Phenyl への置換基の導入によるinvivo の効果への影響に関しては3-置換体が最も強力で,次いで無置換>2-置換の順序となることが明らかとなった。一方,4-置換体では,活性が著しく減弱することが認められた。さらに,BP276,BP261はいずれもBP90並みの強い効果を示す事より,側鎖への-COOHの導入はinvivo の効果に対し悪影響を及ぼさないものと考えられる。」(昭和55年12月月報,乙72)カ原告は,昭和56年1月,BP985を合成し,薬理テストに供した(甲29の1添付資料17,乙18)。 Bが,昭和56年1月頃,BP985について,コラーゲンによる血小板凝集に対する阻害効果(invitro 評価),電流によるマウス腸間膜動脈閉塞モデルを用いた実験によりマウス腸間膜動脈閉塞時間に対する効果(i nvivo 評価)を測定した結果,前者の実験では,BP985のI50値は●(省略)●Mであり,BP261に比較してやや強い活性を示した。また,後者の実験では,BP985は,BP90,BP261と同程度の強い閉塞時間延長効果を示した。この結果を受けて,Bは,「R1については,3-置換体が最も良く,R2については5-Clと3-OCH3のみではあるが,5-Cl体に活性の上昇が認められた。R3に関しては,BP261タイプのカルボン酸の導入が重要であると考えられる。すなわちこのカルボン酸の導入により活性を損なうことなしに毒性の低下を得ることができる。」と考えた。また,BP化合物の経口投与による急性毒性を測定したところ,側鎖に の導入が重要であると考えられる。すなわちこのカルボン酸の導入により活性を損なうことなしに毒性の低下を得ることができる。」と考えた。また,BP化合物の経口投与による急性毒性を測定したところ,側鎖にカルボン酸の入ったBP276はBP261と同様の低毒性であった(乙73)。 キ合成班は,昭和56年4月,血小板凝集阻害剤の変異原性及び亜急毒性試験用に,4つの候補化合物(BP261,BP935,BP985,BP1040)を大量に合成した(甲29の1添付資料18)。これを受けて行われた上記4化合物についての変異原性試験の結果,BP261,BP935に弱い変異原性が認められたが,BP985,BP1040には変異原性は認められなかった(乙17)。 合成班は,昭和56年5月,血小板凝集阻害剤の候補化合物の中から変異毒性試験,中枢系副作用を考慮して選出されたBP985について,2週間の亜急性毒性試験を行うため,BP985を130グラム合成した(甲29の1添付資料19)。 被告は,昭和56年8月20日,本件特許権1につき特許出願をした(甲1の1)。 ク薬理班のBは,昭和56年11月頃,BPシリーズの血小板凝集阻害剤の最終候補となった8化合物(BP261,BP316,BP935,BP984,BP985,BP1017,BP1019,BP1040)に ついて,これまでの実験結果に基づき,invitro 及びinvivo での血小板凝集阻害効果,中枢作用,毒性等を総合的に判断すると,現在のところ,BP985が最もバランスのとれた化合物として開発候補化合物に最も近い位置にあると考えていた(乙77)。 ケ薬理班のBは,BPシリーズ化合物の血小板凝集阻害効果がどのような機序に基づくものなのか様々な観点から検討し とれた化合物として開発候補化合物に最も近い位置にあると考えていた(乙77)。 ケ薬理班のBは,BPシリーズ化合物の血小板凝集阻害効果がどのような機序に基づくものなのか様々な観点から検討していたが,昭和57年3月頃,血小板におけるセロトニン(5-HT)の動態に対するBP985の効果を検討し,検討結果を同年4月2日付けの3月度月報に以下のよう記載し,BP985の薬理作用とセロトニンの関係について初めて言及し,BP985がセロトニンの血小板からの放出を抑制することにより血小板の凝集を抑制することを指摘した(乙119)。 (ア) 「血中に存在する5HTのほとんどすべては血小板中に存在しているとされている。貯蔵されていた5HTは血小板の凝集に伴って引き起こされる放出反応によって血小板外に放出される。この様に,血小板と5HTとの係わり合いは非常に高いと考えられるにもかかわらず,血小板機能における5HTの役割は必ずしも明らかであるとは云えない。現在,考えられている事柄は,次の様なものである。…放出された5HTは血小板凝集を引きおこしたり,凝集部位の血管を収縮させる。」(イ) 「BP系血小板凝集阻害剤BP985の作用メカニズムを知るための実験の一環として,血小板における5HTの動態に対する作用に関する検討を行った。」(ウ) 「血小板の5HT取り込みに対して,BP985は全く影響を及ぼさなかった。」(エ) 「Collagen による血小板凝集および同時に起こる放出反応に対するBP985の効果をみた。その結果,BP985は,放出反応を抑制することにより凝集を抑制することが明らかとなった。」 コ原告は,最終的に新薬候補化合物としてBP985を選択し,昭和57年7月頃,BP985を新 BP985は,放出反応を抑制することにより凝集を抑制することが明らかとなった。」 コ原告は,最終的に新薬候補化合物としてBP985を選択し,昭和57年7月頃,BP985を新薬開発会議に上程し,開発,治験に入ることが許可され,BP985にはMCI-9042という新薬開発番号が付された。 サ薬理班は,昭和58年8月5日付けの7月度月報の,BP984のラット摘出尾動脈5-HT収縮に対する抑制作用に関する報告において,「82年11月度月報で報告した通り,MCI-9042(判決注:BP985)は5-HTに対する選択性が非常に強いこと,partialagonist 的性質がないこと,競合的拮抗を示すこと等から5-HTの拮抗剤としてはかなり優れたものであった。」と記載し,BP985がセロトニンに対する拮抗作用を有することを初めて指摘した(乙25)。 シ薬理班は,昭和58年10月頃,セロトニンによる血小板凝集増強に対するBP985の阻害効果につき検討したところ,強い阻害作用を示したことから,「MCI-9042が5-HT2receptor の強いantagonist であることによると思われ,血小板が凝集時に放出する5-HTの作用を弱めることはMCI-9042の抗血栓作用にとって好ましいことであり,他剤にない特長である。」として,BP985が5-HT2受容体に対し選択的拮抗作用を有することを確認している。また,ラット尾動脈の血小板凝集による血管収縮に対する抑制作用を検討した結果,「MCI-9042は10-8Mから血小板凝集による血管収縮を抑制し,10-5Mでは,ほぼ完全に抑制することを認めた。」として,BP985が血管収縮抑制作用を有することを確認している(乙27)。 ス薬理班のEは,昭和62年9 小板凝集による血管収縮を抑制し,10-5Mでは,ほぼ完全に抑制することを認めた。」として,BP985が血管収縮抑制作用を有することを確認している(乙27)。 ス薬理班のEは,昭和62年9月頃,BP985によるラット尾動脈の血管平滑筋収縮に対する抑制作用に関する実験を行い,BP985のラット尾動脈(5-HT2)の収縮阻害作用は,ラット胃底(5-HT1)収縮阻害作用に比べて●(省略)●倍強かったことから,BP985は5-HT 2受容体に対して選択的拮抗作用を有することを見いだし,同月18日,このことを薬理班の月例検討会で報告した(乙30)。 セ薬理班は,昭和62年,臨床薬理試験で利用可能な,BP985による抗血小板凝集阻害作用を高感度に,かつ,薬効としての抗セロトニン作用に対応させた測定系として,セロトニンとコラーゲンの同時添加系での高感度血小板凝集系の開発を行い,高感度血小板凝集測定法を完成させ(乙31),MCI-9042の臨床試験においてこの測定法を用いた。 ソ被告は,平成元年5月18日,本件特許権2につき特許出願をした(甲10の1)。 (3) 原告の主張についてア原告は,抗血小板のリード化合物としてイミプラミンに着目し,三環系部分の真ん中を切り離した開裂構造とすることにより抗レセルピン(抗うつ)作用を消失させようと考え,BP89及びBP90を合成したと主張し,当審の本人尋問においてその旨供述する。 しかし,昭和50年当時,原告はイミプラミンの血小板凝集阻害作用のメカニズムについて理解しておらず,開裂により抗レセルピン作用が消失すると考えた具体的な根拠についても合理的な説明がされていない(原告本人)。また,原告は,開裂構造とする際に,合成のしやすさからイミプラミンの化学構造のうち(CH ,開裂により抗レセルピン作用が消失すると考えた具体的な根拠についても合理的な説明がされていない(原告本人)。また,原告は,開裂構造とする際に,合成のしやすさからイミプラミンの化学構造のうち(CH2)3(n=3)をBP90では(CH2)4(n=4)としたと供述するが,biphenyl 骨格を固定して抗レセルピン作用に対する影響を調べた結果,(CH2)nのn=4の場合が最も抗レセルピン作用が強いとの知見を得ていたのであるから(乙60),開裂により抗レセルピン作用を消失させることを目的としながら,合成のしやすさから(CH2)nのnを最も抗レセルピン作用が強い4とすることは不自然であることも併せ考慮すると,原告の上記主張を採用することはできない。 イ原告は,BP90の抗血小板凝集阻害作用にはセロトニンが関与してい るのではないかと考え,セロトニン拮抗作用を有する化合物には副作用として脳内セロトニンの神経活動を抑制することによって生じる神経作用が出るリスクがあったため,脳関門が脂溶性物質(油)で囲まれているために親水性化合物は通過しないとされている点に着目し,毒性試験での活性が弱く,水に溶けやすい性状を持っているBP261を再評価する必要性があると考え,昭和55年5月にBP261を大量に合成し,中枢毒性や簡易毒性などを徹底的に調べたと主張し,当審の本人尋問においてその旨供述する。 しかし,上記(1)のとおり,本件特許2の明細書の「発明の詳細な説明」には,「本発明者らの一部は,先に特定のアミノアルコキシビベジン類が,血小板凝集抑制剤として有用であることを提案した(特公昭60-21578号公報,同61-21463号公報,同63-13427号公報〔判決注:本件特許権1の特許公報である甲1の2〕)。しかしながら,それ 小板凝集抑制剤として有用であることを提案した(特公昭60-21578号公報,同61-21463号公報,同63-13427号公報〔判決注:本件特許権1の特許公報である甲1の2〕)。しかしながら,それらの化合物と上記の様なセロトニン拮抗作用との関係については全く知られていなかった。」との記載があることからすると,少なくとも本件特許1の出願日である昭和56年8月20日時点において,原告は,アンプラーグ開発のリード化合物であるBP90の血小板凝集阻害作用にセロトニンが関与していることを認識していなかったと認めるのが相当である。BPシリーズ化合物の血小板凝集阻害作用とセロトニンとの関係について最初に報告されたのは薬理班のBが昭和57年4月2日付けで作成した月報(乙119)であり,昭和55年当時,原告がBP90の血小板凝集阻害作用についてセロトニンの関与を考えていたことについて記載された月報等の資料は認められないこと,BP90の抗血小板凝集阻害作用にセロトニンが関与しているのではないかと考えるようになった経緯や根拠につき原告は何ら具体的な主張立証をしていないことも併せ考慮すると,昭和55年当時,原告がBP90の抗血小板凝集阻害作用にセロトニンが関与し ているのではないかと考え,セロトニン拮抗作用を有する化合物の副作用に着目したとの原告の主張を認めることはできない。 また,原告は,昭和52年9月頃にBP261のinvitro 評価がされてから,昭和55年5月頃にinvivo 評価が行われるまでの約2年8か月の間,原告は抗うつ剤の研究を集中して行っていた旨供述し,昭和55年5月頃にBP261のinvivo 評価を行うに至ったきっかけや根拠につき何ら具体的な主張立証をしていないことに加え,原告自身が認めるように,Bが行 の研究を集中して行っていた旨供述し,昭和55年5月頃にBP261のinvivo 評価を行うに至ったきっかけや根拠につき何ら具体的な主張立証をしていないことに加え,原告自身が認めるように,Bが行ったBP261のinvivo 評価(電流によるマウス腸間膜動脈閉塞モデルを用いた実験,乙68)は原告が指示したものではないことからすると,原告がBP261を再評価する必要性があると自発的に考えたと認めることはできない。 2 争点1(相当対価の額)について(1) 相当対価の額の算定ア本件各発明に係る相当の対価を算定する際の考慮要素である特許法35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,使用者が「受けた利益」そのものではなく,「受けるべき利益」であるから,権利を承継した時に客観的に見込まれる利益の額をいうものと解される。 また,職務発明がされた場合,使用者は無償の通常実施権(特許法35条1項)を取得するから,使用者が当該発明に関する権利を承継することによって「受けるべき利益」とは,当該発明を実施して得られる利益ではなく,使用者が従業者から特許を受ける権利を承継することにより,当該発明を実施し得る権利を独占することによって受けることが見込まれる利益(独占の利益)をいうものと解される。そして,発明により使用者が受けるべき利益を考慮するに当たっては,当該発明の実施又は実施許諾による使用者の利益の有無やその額など権利の承継後の事情についても,その承継の時点において客観的に見込まれる利益の額を認定する資料とすることがで きるものと解される。 さらに,独占の利益が当該発明を含む複数の発明により得られたものと認められる場合には,他の発明との関係での当該発明の寄与度を認定する必要がある。 イ本件各発明に係る きるものと解される。 さらに,独占の利益が当該発明を含む複数の発明により得られたものと認められる場合には,他の発明との関係での当該発明の寄与度を認定する必要がある。 イ本件各発明に係る相当の対価を算定する際の考慮要素である特許法35条4項所定の「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」については,当該発明がされる経緯において発明者が果たした役割を,使用者との関係での貢献度として認定し,これを上記アの利益に乗じて,職務発明の相当対価の額を算定すべきである。 (2) 相当対価を算出するための基礎となる売上高ア被告による自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日)について平成5年10月7日から平成11年9月30日までの,被告によるアンプラーグの売上高は565億3720万円である(争いのない事実)。 イ三菱ウェルファーマ等による実施期間(平成11年10月1日~平成21年5月18日)について(ア) 証拠(乙32)及び弁論の全趣旨によると,被告は,平成11年9月30日付けでティーティーファーマ(現田辺三菱製薬)との間で,実施許諾契約を締結し,ティーティーファーマに対して,同社が医薬事業を遂行するために必要な知的財産(特許権,商標権及びノウハウ)について包括的かつ独占的な実施権を許諾し,この実施許諾契約において,アンプラーグに関する実施料は,①平成11年10月1日から平成21年5月18日までは正味販売高の●(省略)●%,②それ以降は実施料支払期間満了日(平成21年9月30日)まで正味販売高の●(省略)●%と規定したこと,この実施許諾契約に基づき,平成11年10月1日から平成21年5月18日までの間に,被告が三菱東京製薬,三菱ウェル ファーマ,田辺三菱製薬から受領したアンプラーグに ●%と規定したこと,この実施許諾契約に基づき,平成11年10月1日から平成21年5月18日までの間に,被告が三菱東京製薬,三菱ウェル ファーマ,田辺三菱製薬から受領したアンプラーグに関する実施許諾料は総額●(省略)●円であること(前記第2,2(3))が認められ,この金額が,被告が本件各特許権の独占権に基づき取得した利益というべきである。 (イ) 原告は,被告と三菱東京製薬,三菱ウェルファーマ,田辺三菱製薬の株式保有等の関係からすると,被告と三菱ウェルファーマ等は少なくともアンプラーグに関する事業については実質的に一体であり,アンプラーグの売上げ及び利益については一体とみるべきであり,平成11年10月1日以降は三菱ウェルファーマ等のアンプラーグの売上高を,相当対価を算出するための基礎とすべきであると主張する。 確かに,原告が主張するように,前記第2,2(1)のとおり,被告と三菱東京製薬,三菱ウェルファーマ,田辺三菱製薬は,親子会社又は兄弟会社の関係にあるため,被告が締結した上記実施許諾契約において定められた実施料率は,対等な当事者間において合意される経済的合理性を有する実施料率とは乖離した不相当なものである可能性もある。 しかしながら,被告と三菱東京製薬,三菱ウェルファーマ,田辺三菱製薬は親子会社又は兄弟会社であって資本上の関係が認められるものの,それぞれは別個の独立した法人であるから,直ちにこれらの会社の売上げ及び利益を一体のものであるということはできない。また,本件で問題となっている平成11年10月1日から平成21年5月18日までの間の,原告が本件各特許権の独占権に基づく利益であると主張する金額(三菱ウェルファーマ等の売上高×超過売上高40%×仮想実施料率7. 5%)の総額が●(省略)●円であ 日から平成21年5月18日までの間の,原告が本件各特許権の独占権に基づく利益であると主張する金額(三菱ウェルファーマ等の売上高×超過売上高40%×仮想実施料率7. 5%)の総額が●(省略)●円であるのに対し,被告が上記実施許諾契約に基づき受領した実施許諾料(本件各特許権の独占権に基づく利益)の同期間における総額は上記のように●(省略)●円であって,●(省略)●,一般に医薬品に係る実施料率が高率であること(甲27)を考 慮しても,上記実施許諾契約において定められた実施料率が経済的合理性を欠く不相当なものであるということはできない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (3) 被告の自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日)に係る超過売上高アンプラーグの被告の自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日まで)における売上高は,上記(2)アのとおり565億3720万円(年平均約94億2286万円)であり,別件訴訟における同種医薬品であるアルガトロバンの売上高を大きく上回っていること,本件特許権2の存続期間が満了した平成21年5月18日の直後である同年7月に,サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)について,23の製薬会社から計46品目の薬価追加収載の申請がされ,承認されており(甲26の1,2),被告は,本件各特許権の存在により競合他社によるサルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)の製造販売を抑止し,市場を独占することができたと認められることからすると,超過売上高(競業他社に本件発明1及び本件発明2の実施を禁止することによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上高)は,上記(2)アの売上高の40%と認めるのが相当である。 被告は,超過売上高の算定において薬事法上の再審査制度による 発明2の実施を禁止することによる通常実施権の行使による売上高を上回る売上高)は,上記(2)アの売上高の40%と認めるのが相当である。 被告は,超過売上高の算定において薬事法上の再審査制度による事実上の独占力を考慮すべきであると主張するが,下記(5)のとおり,被告の主張には理由がない。 (4) 被告の自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日)に係る仮想実施料率実施料に関する一般的な実例についての報告書である社団法人発明協会発行の「実施料率(第5版)」(甲27)によると,医薬品その他の化学薬品の分野における実施料率の平成4年度から平成10年度における平均値は,「イニシャル・ペイメント条件有り」が6.7%,「イニシャル・ペイメン ト条件無し」が7.1%であること,同期間における実施料率8%以上の契約137件のうち114件が医薬品であり,そのうち8~10%のものが60件,11~20%のものが35件,21~30%のものが9件,31~50%のものが10件であることが認められるものの,事例によるばらつきが大きく,医薬品に関する実施料率は,一般的な基準が確立されていると認めることはできない。 しかしながら,被告がティーティーファーマとの間で締結した実施許諾契約における実施料率は正味販売高の●(省略)●%であるところ,この実施料率が経済的合理性を欠く不相当なものといえないことは,上記(2)で説示したとおりである。 また,平成11年10月1日以降,アンプラーグを製造販売している三菱ウェルファーマの平成14年度から平成16年度における売上営業利益率の平均は11.98%であり,製薬企業大手14社の同期間における売上営業利益率の平均は18.24%である(甲4の5~7)ところ,本件の仮想実施料率を検討 4年度から平成16年度における売上営業利益率の平均は11.98%であり,製薬企業大手14社の同期間における売上営業利益率の平均は18.24%である(甲4の5~7)ところ,本件の仮想実施料率を検討する際にはこれらの数値を考慮することが相当といえる。 以上の事実に加え,本件各特許発明の内容・意義,本件各特許発明の実施品であるアンプラーグの売上高,上記(3)で超過売上高の算定において考慮した事情等を総合的に考慮すると,被告の自己実施期間における仮想実施料率は5%と認めるのが相当である。 原告は,三菱ウェルファーマの売上高利益率に基づき仮想実施料率を算定する旨主張するが,実施料収入はあくまで売上げの一部を構成するものにすぎないから,原告の主張は相当ではない。売上高利益率は,仮想実施料率を検討する際の事情と捉えるべきである。 (5) アンプラーグ関連特許における各特許発明等の寄与割合ア被告は,薬事法上の再審査制度に特許権と同等の事実上の独占力があり,この点も考慮すべきであると主張するが,再審査期間中であっても他者が 承認申請に必要な試験を自力で行って資料をそろえて申請することは禁じられていないから,薬事法上の再審査制度に排他的効力は認められず,他者の参入を妨げているのは特許権であると認められる。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 また,被告は,アンプラーグに関連する特許権である,806号特許及び991号特許も特許権である以上,排他的効力を有すると主張するが,上記(3)で説示したとおり,本件特許権2の存続期間が満了した平成21年5月18日の直後である同年7月に,サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)について,23の製薬会社から計46品目の薬価追加収載の申請がされたこと,806号 本件特許権2の存続期間が満了した平成21年5月18日の直後である同年7月に,サルポグレラート塩酸塩(アンプラーグ)について,23の製薬会社から計46品目の薬価追加収載の申請がされたこと,806号特許はアンプラーグの製造工程における一製造材料の製造方法に関する発明であって,その出発原料も限定されているため,当業者であれば容易に回避することができると解されること(甲12)からすると,806号特許及び991号特許は,第三者の実施行為を禁止する独占的排他的効力を有するものということはできず,これらの特許について寄与割合を考慮することは相当ではない。 イ前記第2,2(3)のとおり,アンプラーグは,慢性動脈閉塞症に関し製造承認された世界初の5-HT2受容体に対する選択的拮抗薬であり,血小板及び血管平滑筋細胞の5-HT2受容体を遮断して,血栓形成部位におけるセロトニンの血小板凝集を抑制するとともに血管収縮を抑制するものであって,5-HT2受容体を選択的に遮断するという血小板凝集抑制及び血管収縮抑制の機序は,従来の医薬品とは異なる全く新規なものである。 そして,本件発明1は,新規の化合物(ビベンジル類)に関する物質発明であり,当該化合物が血小板凝集阻害作用を有することを見いだしたものであるから(上記1(1)ア),価値の高い発明であると認められる。また,本件発明2は,特定の化合物(ビベンジル類)がセロトニンの競合的拮抗剤であること,セロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制剤として有用で あることを初めて見いだした発明(用途発明)であるから(上記1(1)イ),本件発明1と同様に価値の高い発明であると認められる。 相当対価の算定に係るアンプラーグの販売期間のうち,本件特許権1と本件特許権2が併存する期間(平成5年10月7日 (上記1(1)イ),本件発明1と同様に価値の高い発明であると認められる。 相当対価の算定に係るアンプラーグの販売期間のうち,本件特許権1と本件特許権2が併存する期間(平成5年10月7日から平成18年4月10日まで)における本件特許権1と本件特許権2の寄与割合については,上記の点に加え,本件発明1は,用途の限定を伴わない物質発明であるから,用途の限定(セロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制剤)を伴う本件発明2より技術的範囲が広いことも併せ考慮すると,本件特許1が60%,本件特許2が40%であると認めるのが相当である。 以上より,相当対価の算定に係るアンプラーグの販売期間における各特許権の寄与割合は,平成5年10月7日から平成18年4月10日までは,本件特許権1:本件特許権2=60:40であり,本件特許権1の存続期間満了後である平成18年4月11日から平成21年5月18日までは,本件特許権2が100%である。 原告は,本件特許2は新しい用途の発見がなく物質の特定の性質を専ら利用する用途発明であり物質特許と基本的に変わるところがないとして,物質発明に係る本件特許権1の存続期間中は本件特許権1のみが排他的効力を有すると主張する。しかし,本件発明2は,特定の化合物(ビベンジル類)がセロトニンの競合的拮抗剤であるという属性を発見し,セロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制剤として有用であるという新たな用法への使用に適することを見いだした用途発明であるから,本件発明1と変わるところがないということはできず,原告の上記主張は理由がない。 (6) 共同発明者間における原告の寄与割合ア本件特許1について(ア) 上記1(1)アで認定したとおり,本件特許1は,抗血液凝固作用,特に血小板凝集阻害作用を有し, 理由がない。 (6) 共同発明者間における原告の寄与割合ア本件特許1について(ア) 上記1(1)アで認定したとおり,本件特許1は,抗血液凝固作用,特に血小板凝集阻害作用を有し,血栓症の治療及び予防に有用であり,その 明細書には,血小板凝集阻害効果についてはinvitro 評価のみが記載されており,セロトニンについての記載は全くない。 (イ) これと本件特許1に係る特許請求の範囲の記載,及び上記1(2)で認定したアンプラーグの開発等に係る事実経過からすると,本件発明1は,①BP90の合成,②BP90の血小板凝集阻害作用の発見(リード化合物の選定),③BP261の合成,④BP261の血小板凝集阻害活性のinvivo 評価,⑤BP985の合成という経過により完成したと認められる。 (ウ) そして,上記1(2)で認定したように,①BP90は原告によって合成されたものであるが,BP90は血小板凝集阻害剤の候補化合物としてではなく,抗うつ剤の開発を目的として合成されたものであること,②抗うつ剤の開発を目的として合成されたBP90の血小板凝集阻害作用は,Bが血小板凝集阻害物質のスクリーニング探索の対象を独自の判断で広げていく過程で見いだされ,BP90がリード化合物に選定されたこと,③BP261は,原告が血小板凝集阻害作用の向上と毒性の低減化の観点から置換基や塩基等を変化させながら合成したものであること,④BP261はinvitro での血小板凝集阻害効果が不十分であり,合成当初にはinvivo 評価がなされなかったが,様々な化合物についての検討を経て,invitro 評価の約2年8か月後に,Bがinvivo 評価を行い,強い血小板凝集阻害効果を有することが確認されたこと,⑤BP261のinvivo たが,様々な化合物についての検討を経て,invitro 評価の約2年8か月後に,Bがinvivo 評価を行い,強い血小板凝集阻害効果を有することが確認されたこと,⑤BP261のinvivo 評価後,原告はその知識,経験を踏まえて多数の候補化合物を合成し,BP985を合成したことが認められる。 (エ) 本件発明1は,物質発明であり,BP90自体はその技術的範囲に属さず,BP261及びBP985はその技術的範囲に属するものであるところ,BP261及びBP985は血小板凝集阻害剤の開発を目的としてBP90をリード化合物として合成されたものであり,BP90は 本来抗うつ剤の開発を目的として合成されたものであるから,BP90の血小板凝集阻害作用が発見されなかった場合には,BP261やBP985の合成に至ることはなかったといえる。したがって,上記(ウ)②(BP90の血小板凝集阻害作用の発見)の本件発明1の完成に対する寄与割合は大きなものといえる。 また,上記(ウ)④(BP261の血小板凝集阻害活性のinvivo 評価)についても,上記1(2)の認定事実からすると,BP261は,合成された翌月である昭和52年9月頃に行われたinvitro 評価において血小板凝集阻害効果が不十分とされたため,その後,候補化合物の探索から除外され測定等の対象とされなかったが,様々な化合物について検討を重ねていた過程で,invitro 評価の約2年8か月後である昭和55年5月頃,Bが血小板凝集阻害作用についてinvivo 評価を行ったところ,強い血小板凝集阻害効果を有することが確認されたことをきっかけに,BP261が大量に合成され,BP985の合成に至ったと認めるのが相当であるから,本件発明1の完成に対する寄与割合は大きい。 さ ,強い血小板凝集阻害効果を有することが確認されたことをきっかけに,BP261が大量に合成され,BP985の合成に至ったと認めるのが相当であるから,本件発明1の完成に対する寄与割合は大きい。 さらに,上記(ウ)⑤(BP985の合成)については,Bは血小板凝集阻害作用の測定や測定方法の確立を担当したにとどまらず,以下のように,BP985の構造上の特徴点の一部について方向性を示唆しており,BP985の合成,本件発明1の完成に影響を与えたものと認められる。 すなわち,BP985は,(ア)2つのベンゼン環の間隔はC2,(イ)アルコキシとフェニルエチルの置換位置はオルト位,(ウ)アルコキシのメチレン鎖長は3または4,(エ)ベンゼン環への置換基導入はA環のメタ位,(オ)アミン部分は3級アミン,(カ)コハク酸エステルの導入による経口吸収性向上と急性毒性の低下を特徴とするが(甲31),上記1(2)で認定したとおり,Bは,(A)「エーテルがm位についたBP378はo-,p-の場合に比べ阻害活性が低かった。これで位置と活性との相 関は,o->p->m-となり,o-からp-,-pからm-と活性が1/5くらいに低下していく傾向が認められた。」(乙64),(B)「BP261のエステル部分の切れた化合物であるBP262はI50が●(省略)●Mであることより,InVivo に投与した場合にはBP261がBP262に変化して作用を発現している可能性もある。」(乙68),(C)「今回の実験により,Phenyl への置換基の導入によるinvivo の効果への影響に関しては3-置換体が最も強力で,次いで無置換>2-置換の順序となることが明らかとなった。一方,4-置換体では,活性が著しく減弱することが認められた。さらに,BP276,BP261はいずれもB 響に関しては3-置換体が最も強力で,次いで無置換>2-置換の順序となることが明らかとなった。一方,4-置換体では,活性が著しく減弱することが認められた。さらに,BP276,BP261はいずれもBP90並みの強い効果を示す事より,側鎖への-COOHの導入はinvivo の効果に対し悪影響を及ぼさないものと考えられる。」(乙72),「R3に関しては,BP261タイプのカルボン酸の導入が重要であると考えられる。すなわちこのカルボン酸の導入により活性を損なうことなしに毒性の低下を得ることができる。」(乙73)との考察をしており,上記(A)の示唆は上記(イ)の構造上の特徴点を,上記(B)及び(C)の示唆は上記(カ)の構造上の特徴点を,上記(C)の示唆は上記(エ)の構造上の特徴点を示唆したものといえる。 以上からすると,Bは,単に合成された化合物の生物活性を測定していただけではなく,原告と共に本件発明1の技術的思想の着想,具体化に係る創作的行為の中心的役割を担っていたと認めるのが相当というべきである。 (オ) したがって,本件発明1における合成班と薬理班の貢献割合は,いずれも50%であると認めるのが相当であり,合成班の発明者のうち原告以外の者(H,C,D)は,化合物の合成について原告以上の知識,経験を持った者とは認められず,原告の指示に基づき合成等を行っていた補助者とみるのが相当である(弁論の全趣旨)。 よって,原告の,本件発明1に係る共同発明者としての貢献割合は50%であると認める。 イ本件特許2について(ア) 上記1(1)イで認定したとおり,本件特許2は,血小板凝集に伴い血小板から放出されるセロトニンの作用(血小板凝集促進作用及び血管収縮作用)を選択的に阻害するセロトニン拮抗剤は,血栓の生成 (ア) 上記1(1)イで認定したとおり,本件特許2は,血小板凝集に伴い血小板から放出されるセロトニンの作用(血小板凝集促進作用及び血管収縮作用)を選択的に阻害するセロトニン拮抗剤は,血栓の生成を阻止し,血管収縮を抑制することにより,種々の循環障害の治療及び予防に有用であるところ,セロトニンの作用に対し選択的阻害作用を示す薬剤としてはいくつかの化合物が知られている程度であった中,これらとは構造の異なるアミノアルコキシビベンジル類のうち,更に特定のものが良好なセロトニン拮抗作用を有し,血管収縮抑制作用を有することを見いだし,完成されたものである。また,血管収縮抑制効果は,セロトニンに対するラット尾動脈収縮に対する抑制試験によって評価されている(甲10の2)。 (イ) これと本件特許2に係る特許請求の範囲の記載,及び上記1(2)で認定したアンプラーグの開発等に係る事実経過からすると,本件発明2は,BP985を包含する本件発明1の化合物及びそれらの血小板凝集阻害作用が判明していた中,BP985等にセロトニン拮抗作用という属性が初めて見いだされ,更にセロトニン拮抗作用に基づく血管収縮抑制作用が見いだされた結果,完成した発明といえる。 (ウ) 上記1(2)で認定したとおり,①アンプラーグ開発当時,血小板とセロトニンとの係わり合いは非常に高いと考えられていたにもかかわらず,血小板機能におけるセロトニンの役割は明らかではなかったが,Bは,昭和57年頃,セロトニンに着目し,イミプラミンのセロトニン取り込み抑制作用が知られていたところ,BP985の血小板凝集阻害作用のメカニズムを知るための実験の一環として,血小板におけるセロトニン の動態に対する作用に関する検討を行い,血小板のセロトニン取り込みに対してBP985が全く 985の血小板凝集阻害作用のメカニズムを知るための実験の一環として,血小板におけるセロトニン の動態に対する作用に関する検討を行い,血小板のセロトニン取り込みに対してBP985が全く影響を及ぼさなかったことだけではなく,BP985が,セロトニンの放出反応を抑制することにより血小板凝集を抑制することを見いだしたこと,②同時期に,Bは,セロトニンが血小板の凝集部位の血管を収縮させることについても指摘していること,③BP985のセロトニン拮抗作用を見いだしたのは薬理班であること,④BP985によるラット尾動脈の血管平滑筋収縮に対する抑制作用に関する実験を行ったのは薬理班であること,⑤薬理班がセロトニンに着目しセロトニン拮抗作用が見いだされた当時の薬理班のグループリーダーは原告であったが,原告には薬理班に移るまで薬理研究者としての経験がなく,具体的な実務はサブリーダーに任せていたこと(原告本人)が認められる。 したがって,本件発明2については,その技術的思想の着想,具体化に係る創作的行為の多くは薬理班が行ったものといえ,原告は,薬理班の具体的な実務にほとんど関与していないことからすると,原告の,本件発明2に係る共同発明者としての貢献割合は10%と認めるのが相当である。 (7) 被告の貢献度上記の本件各発明の経緯に加え,①本件各発明は被告が製薬事業を開始したばかりの時期におけるものであって,本件各発明は原告個人の能力が大きく貢献したものというべきであること(弁論の全趣旨),②上記(6)のとおり,本件各発明の完成には薬理班の研究者も大きな役割を果たしていることから,合成班と薬理班の連携が重要であったといえること,③臨床試験において用いられた高感度血小板凝集測定法は被告の薬理班が開発したものであること(上記1( 理班の研究者も大きな役割を果たしていることから,合成班と薬理班の連携が重要であったといえること,③臨床試験において用いられた高感度血小板凝集測定法は被告の薬理班が開発したものであること(上記1(2)),④上記第2,2(3)のとおり,アンプラーグは5-HT2受容体に対する選択的拮抗薬であり,血小板及び血管平滑筋細胞の5-HT2 受容体を遮断して血栓形成部位におけるセロトニンの血小板凝集を抑制するとともに血管収縮を抑制することを特長とする薬剤であるところ,BP985が5-HT2受容体に対して選択的拮抗作用を有することを見いだしたのは被告の薬理班であること(上記1(2)),⑤アンプラーグは,セロトニン拮抗剤であり,他の抗血小板剤と作用機序が異なるため,医療関係者にその作用機序を理解してもらうため,通常の医薬品以上に営業努力が不可欠であり,MRを増員し情報提供活動を強化する必要があったこと(弁論の全趣旨),⑥新薬の研究開発から製造承認を得て製造販売に至るまでには,数多くのステップが存在し,研究開発や臨床試験,上市など,各ステップにおいて様々な専門の担当者が関与しており,一つの新薬の開発には10~18年の期間と,150億円~200億円の開発費用を必要とすること(乙120),⑦製薬産業は他産業に比べ研究開発費の占める割合が大きく,多くの新薬の候補化合物を合成しても新薬の成功確率は極めて低く,1成分当たりの研究開発費は日本の調査データによると500億円に上るなど,新薬の開発は膨大な費用と時間を要するのに,成功確率が極めて低く,リスクが大きいものであること(乙36)等の事情を総合的に考慮すると,本件各発明における被告の貢献度は95%,発明者の貢献度は5%と認めるのが相当である。 (8) 中間利息の控除本件高裁判決が判示 のであること(乙36)等の事情を総合的に考慮すると,本件各発明における被告の貢献度は95%,発明者の貢献度は5%と認めるのが相当である。 (8) 中間利息の控除本件高裁判決が判示するように,本件の相当対価の支払請求債権については,各職務発明の実施から5年を経過した時点から権利を行使することができ,この時点が消滅時効の起算点となるところ,本件各発明は平成5年10月7日に実施されたものであり(前記第2,2(3)),原告は,平成10年10月7日までは被告に対し本件各発明に係る相当対価の支払を請求することができないのであるから,同時期までは中間利息の控除をすべきでないが,その経過後はその経過時を基準として対価の将来分につき年5分の割合による中間利息を控除するのが相当である。 (9) 相当対価の額ア被告による自己実施期間(平成5年10月7日~平成11年9月30日)の相当対価の額以上から,被告の自己実施期間に係る相当対価の額を算定すると,別紙6のとおり,1914万2328円となる。これは,被告の自己実施期間におけるアンプラーグの売上高の合計565億3720万円(上記(2)ア)に,本件各特許による超過売上割合40%(上記(3)),仮想実施料率5%(上記(4)),本件各特許権の寄与割合(本件特許権1:本件特許権2=60%:40%)(上記(5)),共同発明者間における原告の寄与割合(本件特許1:50%,本件特許2:10%)(上記(6)),発明者の貢献度5%(上記(7))を乗じ,中間利息を控除(上記(8))した金額である。 イ被告による実施許諾期間(三菱ウェルファーマ等による実施期間:平成11年10月1日~平成21年5月18日)の相当対価の額以上から,被告による実施許諾期間(三 した金額である。 イ被告による実施許諾期間(三菱ウェルファーマ等による実施期間:平成11年10月1日~平成21年5月18日)の相当対価の額以上から,被告による実施許諾期間(三菱ウェルファーマ等による実施期間)に係る相当対価の額を算定すると,別紙6のとおり,4061万6674円となる。これは,被告が実施許諾契約に基づき三菱ウェルファーマ等から受領したアンプラーグに関する実施許諾料の合計●(省略)●円(上記(2)イ)に,本件各特許権の寄与割合(平成11年10月1日~平成18年4月10日については本件特許権1:本件特許権2=60%:40%,平成18年4月11日~平成21年5月18日については本件特許権2:100%)(上記(5)),共同発明者間における原告の寄与割合(本件特許1:50%,本件特許2:10%)(上記(6)),発明者の貢献度5%(上記(7))を乗じ,中間利息を控除(上記(8))した金額である。 ウ上記ア及びイの金額を合計すると5975万9002円となるが,本件各発明につき,被告は,原告に対し,昭和56年11月末日頃までに出願時補償金として●(省略)●円を,平成元年2月末日頃までに登録時補償 金として●(省略)●円をそれぞれ支払っていること(争いのない事実),これまでに原告が被告から受けた処遇等の一切の事情を総合考慮すると,本件各発明に係る相当対価の額は5900万円と認めるのが相当である。 エ本件高裁判決が判示するように,本件各発明に係る相当対価の支払については,被告の発明等取扱規則(乙1の1)に「会社…が発明等を実施し,その効果が顕著である」ときに支払時期が到来すると定められており,被告が発明を実施しその効果を判定できるような一定期間の経過をもって相当対価の支払債務の支払時期が到来す に「会社…が発明等を実施し,その効果が顕著である」ときに支払時期が到来すると定められており,被告が発明を実施しその効果を判定できるような一定期間の経過をもって相当対価の支払債務の支払時期が到来することを定めたものと解するのが相当であるが,この一定期間について明確に定めた規定は認められないため,被告が負担する本件各発明に係る相当対価の支払債務は期限の定めのない債務と解するのが相当である。そして,期限の定めのない債務については,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負うところ(民法412条2項),別紙6のように,本件各発明の実施品であるアンプラーグの平成5年10月7日以降の売上高は,平成5年度に13億5430万円,平成6年度に65億6820万円,平成7年度に95億3260万円,平成8年度に112億1510万円,平成9年度に112億3450万円,平成10年度に116億8000万円と,極めて大きなものであることから,被告は,遅くともアンプラーグの製造販売を開始した平成5年10月7日から5年が経過した翌日である平成10年10月8日には,本件各発明の実施による効果が顕著であることを認識し,相当対価の支払期限が到来したことを知ったと認めるのが相当である。したがって,遅くとも同日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金が発生するといえる。 3 争点2(消滅時効の成否)について(1) 本件高裁判決判示のとおり,本件各発明に係る相当対価の支払請求債権は遅くとも平成10年10月7日に請求可能な状態に至ったものであり,この 日が消滅時効の起算点となる(本件高裁判決は,前記第2,2(5)のとおり,第1審判決を取り消し,事件を第1審に差し戻す旨の判決をしたものであり,差戻しを受けた当審は,裁判所法4条により同判決の取 日が消滅時効の起算点となる(本件高裁判決は,前記第2,2(5)のとおり,第1審判決を取り消し,事件を第1審に差し戻す旨の判決をしたものであり,差戻しを受けた当審は,裁判所法4条により同判決の取消しの理由となった判断に拘束される。)。 原告は,平成19年5月18日,本件各発明に係る相当対価の一部として150万円の支払を請求する本件訴えを提起したが,平成21年8月17日付け訴え変更申立書により請求を追加的に変更し,請求金額を2億0535万9500円に増額した(その後,原告は,平成22年2月10日付け訴え変更の申立書(2)により請求金額を2億4281万1241円に増額し,平成23年9月27日付け訴えの変更申立書(3)により2億4281万1239円に減縮した。)。 (2) 被告は,原告の請求のうち,当初の請求額である150万円を超える部分(増額部分)の消滅時効は平成10年10月7日から進行し,上記150万円の訴訟提起によってもその時効は中断ぜずに進行を続け,平成20年10月6日の経過をもって時効期間が満了し,被告の消滅時効の援用により増額部分の請求債権は時効消滅したと主張する。 しかし,数量的に可分な債権の一部につき一部であることを明示して訴えを提起した場合に,当該訴訟手続においてその残部について権利を行使する意思を継続的に表示していると認められる場合には,いわゆる裁判上の催告として,当該残部の請求債権の消滅時効の進行を中断する効力を有するものと解すべきであり,当該訴訟継続中に訴えの変更により残部について請求を拡張した場合には,消滅時効を確定的に中断すると解するのが相当である。 本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれ 時効を確定的に中断すると解するのが相当である。 本件において,原告は,訴状において,相当対価の総額として主張した約20億6300万円から既払額を控除した残額の一部として150万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するとしつつ,「本件請求については時効の問題は生じないものと考えられるが,被告からいかなる主張がなされ るか不明であるので,念のため,一部請求額を「150万円」として本訴を提起したものであり,原告は追って被告の時効の主張を見て請求額を拡張する予定である」として,本件訴訟手続において,残部について権利を行使する意思を明示していたと認められる。したがって,裁判上の催告により,当該残部の請求債権の消滅時効の進行は,遅くとも上記訴状を第1回口頭弁論期日において陳述した平成19年6月26日に中断し,その後,本件訴訟係属中に原告が訴えの変更により残部について請求を拡張したことにより,当該残部の請求債権の消滅時効は確定的に中断したものというべきであるから,被告の主張には理由がない。 被告が指摘する最高裁判所昭和34年2月20日第二小法廷判決(民集13巻2号209頁)は,明示的な一部請求における訴え提起による時効中断の効力を判示したものであって,被告の主張を根拠づけるものとはいえない。 (3) 以上のとおり,被告の消滅時効の主張は,採用することができない。 4 結論よって,原告の請求は,本件各発明に係る相当対価5900万円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本 岳 裁判官 主文 支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 事実 争点 判断 東京地方裁判所民事第40部 裁判長裁判官 岡本岳 裁判官 鈴木和典 裁判官 坂本康博
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