平成15(ワ)1563 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年1月14日 福岡地方裁判所
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判決文本文11,840 文字)

平成17年1月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第1563号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成16年10月19日判決 主文 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金266万7077円及びこれに対する,被告医院は平成15年5月16日から支払済みまで,被告Dは平成14年9月27日から支払済みまで,それぞれ年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,原告Aに生じた費用の8分の1及び被告らに生じた費用の10分の1を被告らの負担とし,原告Aに生じたその余の費用及び被告らに生じた費用の10分の7を原告Aの負担とし,その余の費用は原告B及び同Cの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して金2091万5753円及びこれに対する平成14年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告B及び同Cに対し,連帯して金500万円及びこれに対する平成14年9月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告Aが右足第5指の靴擦れによる水膨れが破れ,腫れてきたため,被告医院を訪れ受診したところ,被告Dからフルマーク錠の投与を受け,服用し,皮膚に発疹・紅斑が継続的に発生するに至った旨主張して,被告医院に対しては,債務不履行に基づく,同Dに対しては不法行為に基づく損害賠償として,原告Aに対して2091万5753円及び原告B・同Cに対して合計500万円並びにこれらに対する症状固定日(平成14年9月27日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め ,原告Aに対して2091万5753円及び原告B・同Cに対して合計500万円並びにこれらに対する症状固定日(平成14年9月27日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。 1 前提事実以下の事実は,争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1)当事者等原告Aは,平成7年12月31日生の女児であり,原告B及び同Cは,同Aの親である(甲A5)。 被告Dは被告医院を経営しかつ同病院で医療行為を行う医師である。 (2)フルマーク錠の投与ア原告Aは,平成13年12月7日,右足第5指に膿をもった傷があり,被告医院を受診した(以下「初診」という。)。被告Dは,原告Aの患部を診察して,原告Aに対してフルマーク錠1回1錠(100mg)を1日3回(1日300mg),5日分外を処方した。 イ原告Aは,同月11日,被告医院を受診した。原告Aの両下腿には発疹が数個認められた。被告Dは,フルマーク錠1回1錠(100mg)を1日3回,3日分外を処方した(以下,被告Dの原告Aに対する同月7日及び同月11日のフルマーク錠の各処方を「本件フルマーク投与」という。)。 (3)原告Aの症状原告Aは,被告医院受診後,発疹・紅斑の発生・消褪(茶色になって薄くなること)を繰り返し(以下,本件フルマーク投与から現在までの原告Aの皮膚状態の変化を「本件皮膚症状」という。),現在(平成16年)に至るまで,甲病院や乙病院に通院し治療を継続している。 (4)フルマーク錠の薬理作用等フルマーク錠は,抗菌作用を有する薬剤で,細菌のDNAの複製を妨げ殺菌的に作用する薬剤である。成人使用量は1日300ないし600mgを2,3回に分けて使用するとされている。小児に対しては 等フルマーク錠は,抗菌作用を有する薬剤で,細菌のDNAの複製を妨げ殺菌的に作用する薬剤である。成人使用量は1日300ないし600mgを2,3回に分けて使用するとされている。小児に対しては,投与が禁忌とされている(甲B1,2,4)。 本件皮膚症状は,本件フルマーク投与によって,発生した(甲A2,6,7の1,乙A1,証人丁)。 2 争点(1)本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか(2)原告らの被った損害 3 争点に対する当事者の主張(1)争点(1)(本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか)について(原告らの主張)一般に,薬物投与を初めとする医療行為は,人体に対する侵襲を伴うものであるから,医師は,患者の容態や全身状態を十分に把握し,善管注意義務を尽くして適切な処置を講じることが要求されている。特に薬物投与については,副作用等による被害を回避するため,当該医薬品の能書に記載された使用上の注意事項を遵守すべき注意義務がある。 しかるに,本件において被告Dは,フルマーク錠の副作用が「発疹,かゆみ,じんましん発熱,紅斑,むくみ及び光線過敏症」とされており,小児に対しては禁忌とされているにもかかわらず,原告Aに対して,漫然と本件フルマーク投与をした過失がある。 (被告らの主張)医薬品の能書に記載された使用上の注意事項は,これに従わなかったことが直ちに注意義務違反となるわけではない。 平成13年12月11日のフルマーク錠の処方は,被告Dがクレマニルドライシロップを処方しようとしたのに対し,原告Cが,粉薬よりも錠剤を希望したためにフルマーク錠を処方したのであって,漫然とフルマーク錠を投与したのではない。 またフルマーク錠の副作用は,ショック,アナフィラキ 方しようとしたのに対し,原告Cが,粉薬よりも錠剤を希望したためにフルマーク錠を処方したのであって,漫然とフルマーク錠を投与したのではない。 またフルマーク錠の副作用は,ショック,アナフィラキシー様症状,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症,急性腎不全,アキレス腱炎,腱断裂等の腱障害,間質性肺炎,低血糖,横紋筋融解症等である。 被告Dは,フルマーク錠を,十数年前より使用してきた経験がある。小児に対しても気管支炎や化膿症の薬剤として使用し数日で治癒した経験があり,今回のような過敏症状が発生したことはなかった。したがって,フルマーク錠投与による本件皮膚症状の発生については予見可能性がない。 (2)争点(2)(原告らの被った損害)について(原告らの主張)ア原告Aの被った損害(ア)治療費(将来にかかる治療費を含む) 225万9149円平成13年12月10日から平成14年8月末日までの治療費は8万1656円であるところ,少なくとも今後20年は通院加療が必要と考えられる。 8万1656円÷9×12×20=217万7493円8万1656円+217万7493円=225万9149円(イ)通院費等雑費(将来にかかる雑費を含む) 236万3261円平成13年12月10日から平成14年8月末日までに要した雑費は8万5421円であるところ,今後20年は必要である通院加療に伴い雑費も同期間に相当する額が発生する(計算方法は(ア)と同じ)。 (ウ)後遺障害逸失利益 495万4780円本件皮膚症状は平成14年9月27に症状固定したが,現在の原告Aには,顔のみならず,手足,太股,ふくらはぎ,股間等に重度の湿疹が認められ,女子の外貌に醜状を残すものであるから,後遺障害別 本件皮膚症状は平成14年9月27に症状固定したが,現在の原告Aには,顔のみならず,手足,太股,ふくらはぎ,股間等に重度の湿疹が認められ,女子の外貌に醜状を残すものであるから,後遺障害別等級表第12級に該当する。 349万8200円(女子労働者平均賃金)×10.117(ライプニッツ係数)×0. 14(労働能力喪失率)=495万4780円(エ)後遺障害慰謝料 224万円上記後遺症による肉体的・精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも224万円が必要である。 (オ)通院慰謝料 300万円本件皮膚症状発生時から少なくとも20年は通院が必要であると考えられるところ,慰謝料としては300万円が相当である。 (カ)本件皮膚症状によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料500万円原告Aは,本件皮膚症状により,子供としての通常の学校生活や日常生活が送れなかった。そのことによる精神的苦痛は,後遺障害慰謝料や逸失利益では補えない別個のものであり,その精神的苦痛を慰謝するには500万円でも足りない。 イ原告B及び同Cの被った損害 500万円原告B及び同Cは,娘である原告Aについて生じた本件皮膚症状の発生によって,治癒の見込みがたたないことから生じる様々な不安を抱え続けており,このような原告B及び同Cの精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも両名併せて500万円が必要である。 (被告らの主張)ア原告Aの被った損害(ア)治療費平成14年8月末日までの9か月と同じ通院治療が,今後20年間必要であるとの前提は根拠を欠く。また中間利息も控除されていない。原告の請求は過大である。 (イ)通院費等雑費上記(ア)と同様,原告の請求は過大 か月と同じ通院治療が,今後20年間必要であるとの前提は根拠を欠く。また中間利息も控除されていない。原告の請求は過大である。 (イ)通院費等雑費上記(ア)と同様,原告の請求は過大である。 (ウ)後遺障害逸失利益本件において発生したとされる上下肢の発疹,紅斑は女子の外貌の醜状に当たらない。 原告Aは現在小学生であるから,逸失利益は発生しないと考えるべきである。 一般に上下肢の発疹・紅斑は,稼働能力の喪失をもたらすものではなく,逸失利益の主張は不当である。 (エ)後遺障害慰謝料本件皮膚症状は,発生と消褪を繰り返すものであり,将来にわたり継続するかも不明であるから,本件皮膚症状は後遺症ではない。したがって,後遺障害慰謝料は発生しない。 (オ)通院慰謝料上記(ア)と同様の理由により,原告の請求は不当である。 (カ)本件皮膚症状によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料争う。 イ原告B及び同Cの被った損害争う。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件フルマーク投与について被告Dに過失があったか)について(1)フルマーク錠前記前提事実並びに証拠(甲B1,6の1ないし11,証人丁)及び弁論の全趣旨によれば,フルマーク錠について以下の事実が認められる。 フルマーク錠は,大日本製薬株式会社が製造・販売するニューキノロン薬で,緑膿菌やブドウ糖非発酵菌を含むグラム陰性菌及びグラム陽性菌に対し強い抗菌力を有し,各科領域の感染症に適応されている薬剤である。1996年当時の医学文献によれば,投与禁忌として「小児」が挙げられており,その理由は動物実験(幼若ビーグル犬)で関節軟骨の異常水疱又はびらんが見られ,動物で関節障害の見ら 応されている薬剤である。1996年当時の医学文献によれば,投与禁忌として「小児」が挙げられており,その理由は動物実験(幼若ビーグル犬)で関節軟骨の異常水疱又はびらんが見られ,動物で関節障害の見られる時期がヒトの小児期に相当するためとされている。また,1993年当時の副作用発現頻度表によれば,発疹が0.32パーセントと,他の副作用発生頻度に比して最も高い。また大日本製薬株式会社が作成したフルマーク副作用発現頻度表によっても,1985年8月22日の製造承認時迄の調査において,「皮膚・皮膚付属器障害」が0.68パーセントであり,そのうち「発疹」によるものが0.54パーセントであったが,この0.54パーセントという数字は,副作用発現頻度としては,高い確率を示すものである。 そのため,本件フルマーク投与当時,小児科医は,フルマーク錠を小児に投与していなかった。 (2)被告Dの過失についてア医師の注意義務人の生命及び健康を管理すべき業務(医療)に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のために最善の注意義務を要求されるが,その注意義務の基準となるべきものは,一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である。 イ本件フルマーク投与時の医療水準と過失の有無そうすると,前記(1)の認定事実によれば,フルマーク錠投与による副作用として発疹があり,発疹が発生する頻度は他の副作用に比して高いこと及び小児に対する投与は禁忌であって,このことは本件フルマーク投与当時の臨床医学の実践における医療水準であったと認められるから,被告Dが小児である原告Aにフルマーク錠を投与したことは,当時の医療水準に反した処置に当たり,過失があったと認められる。 ウ被告らの主張について(ア)この点,被 ったと認められるから,被告Dが小児である原告Aにフルマーク錠を投与したことは,当時の医療水準に反した処置に当たり,過失があったと認められる。 ウ被告らの主張について(ア)この点,被告らは,被告Dは,フルマーク錠について十数年前より使用し,小児に対してもフルマーク錠を気管支炎や化膿症の薬剤として使用した経験があり,今回のような過敏症状が発生したことはなく,したがって,原告Aに対するフルマーク錠の投与から本件皮膚症状の発生を予見することは不可能であったと主張する。 しかしながら,被告Dの個人的経験は,発現頻度0.54パーセントの副作用発現の予見可能性を何ら否定するものではなく,また当時の医療水準として,小児への投与は禁忌とされていたのであり,前記前提事実のとおり,初診時の原告Aの症状は,右足第5指の膿をもった傷に過ぎず,重篤なものでもなく,小児へのフルマーク錠投与を例外的に認める合理的理由もない(証人丁)から,被告らの上記主張は採用できない。 (イ)さらに,被告らは,平成13年12月11日のフルマーク錠投与は,原告Cの希望によるとも主張し,同日,被告Dがクレマニルドライシロップを処方しようとしたのに対し,原告Cが粉薬より錠剤を希望した事実を挙げる。 しかしながら,上記主張事実を認めるに足る証拠はなく,仮に認められるとしても,原告Cは飲みやすい錠剤を希望したにすぎず,フルマーク錠を希望したわけではないこと及び前記認定のフルマーク錠の副作用に照らせば,上記事実は,被告Dの同日のフルマーク錠投与を正当化する理由にはならない。しかも,証拠(甲A5,10,原告C本人)によれば,原告Aは,同日処方されたフルマーク錠を服用していないから,いずれにしても,被告らの責任を否定するものにはなり得ない。 2 争点( にはならない。しかも,証拠(甲A5,10,原告C本人)によれば,原告Aは,同日処方されたフルマーク錠を服用していないから,いずれにしても,被告らの責任を否定するものにはなり得ない。 2 争点(2)(原告らの被った損害)について(1)原告Aの本件皮膚症状等証拠(甲A1,2,4の1ないし87,甲A5ないし7,8の1ないし35,甲A9の1ないし30,甲A10,乙A1,原告C本人,証人丁)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア症状原告Aの本件皮膚症状は,症状が重い時には全身に水疱を伴った発疹・紅斑が生じ,症状が治まった時には手先,足先及び肘部分等に発疹がある多型滲出性紅斑である。なお,顔面については,時に認められる時期があるものの,普段は顔面に発症していないし,痕跡も残っていない。また,日光に当たることと本件皮膚症状との相関関係は明らかでなく,日光過敏症については認めることはできない。 イ経過(ア)本件フルマーク投与後の状況平成13年12月9日,原告Aの両下腿に小さな発疹が数個見られた。同月11日被告医院を受診した際も,両下腿に痒みを伴う発疹が数個見られた。 同月12日,原告Aの両足に紅斑が認められた。同月13日,原告Aは,甲病院を受診した。甲病院皮膚科は,原告Aの症状について多型滲出性紅斑と診断した。 同月中旬には,原告Aの全身に発疹・紅斑が広がっていた。 同月17日ころ,原告Aの両足先(かかとより先)ほぼ全体にわたって紅斑が生じ,両下腿,両腕の肘部分,手の甲部分及び顔面には無数の水疱様の紅斑が認められた。 平成14年1月末ころには原告Aの紅斑等は一旦治まった。 (イ)平成14年末までの状況平成14年に 両腕の肘部分,手の甲部分及び顔面には無数の水疱様の紅斑が認められた。 平成14年1月末ころには原告Aの紅斑等は一旦治まった。 (イ)平成14年末までの状況平成14年に入ってから,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返したが,同年3月12日には,原告Aの足部分,両足膝部分及び手の部分には,多数の水疱様の発疹,紅斑が認められた。 同年6月7日,原告Aの手先部分及び足先部分に紅斑が認められた。 同月12日,原告Aは乙病院を受診した際,同月2日に運動会が行われ,同月9日が最も症状がひどかった旨訴えた。同月26日ころ,原告Aの手部分,足先部分,膝部分には水疱様の発疹が多数認められた。 同年8月14日ころ,原告Aの足先,手先,肘及び膝部分には多数の発疹が認められた。 その後,同年8月中旬から同年9月末までは改善し,同年9月27日,乙病院を受診したところ,丁医師は良好であると診断した。 ところが,その後,再び悪化し,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返すようになり,同年11月19日ころには,四肢発赤疹相変わらず,痛みも出現していた。 (ウ)平成15年以降の状況平成15年に入ると,前年のように発疹・紅斑が全身に広がることがなくなったものの,発疹・紅斑は認められ,同年2月1日には,原告Aの足先には発疹(茶色い斑点状のもの)が認められた。 同月9日,原告Aの足指部分には紅斑が認められ,一部水泡様の発疹が見られた。 同年3月5日ころ,原告Aの足先部分には紅斑及び水疱が破れたとみられる発疹が認められた。 同年4月21日,原告Aの膝部分には紅斑が認められた。 同年5月16日,乙病院を受診したところ,皮膚良好であると診断され,一旦皮 及び水疱が破れたとみられる発疹が認められた。 同年4月21日,原告Aの膝部分には紅斑が認められた。 同年5月16日,乙病院を受診したところ,皮膚良好であると診断され,一旦皮疹が消えた状態になった。 ところが,同年8月1日宮古島へ行った際,同日の夜より発疹及び痛みが発生し始めた。 そして,同年12月31日ころの原告Aの膝,足先,臀部,肘及び手先部分には紅斑及び水疱様の発疹が多数認められ,本件フルマーク投与直後の重症時に次ぐ発疹・紅斑が出現した。 (エ)平成16年の状況平成16年に入っても,時折,手先や足先に発疹・紅斑が出現し,原告Aは,現在も通院治療を受けている。 (オ)小括本件皮膚症状の推移をみると,本件フルマーク投与の数日後である平成13年12月中旬には発疹・紅斑が全身に広がる重症となり,平成14年1月末には一旦治まったものの,その後,同年8月中旬までは発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返した。同年8月中旬から同年9月末までは改善したものの,同年9月末以降,再び悪化し,発疹・紅斑の発生・消褪を繰り返した。平成15年に入ると,前年のように発疹・紅斑が全身に広がることがなくなり,同年5月16日当時は一旦皮疹が消えた状態になったが,同年8月1日から発疹が生じ始め,平成15年12月31日ころには,膝,足先,臀部,肘,手先といった広範囲に発疹・紅斑が見られて,本件フルマーク投与直後の重症時に次ぐ発疹・紅斑が出現した。平成16年に入っても,時折,手先や足先に発疹・紅斑が発生し,原告Aは,現在も通院治療を受けている。 ウ治療法と予後本件皮膚症状は以上のとおりであり,薬疹の中では重症に近いと考えられるが,これに対する根治療法はなく,対症療法に依らざるを得 ,原告Aは,現在も通院治療を受けている。 ウ治療法と予後本件皮膚症状は以上のとおりであり,薬疹の中では重症に近いと考えられるが,これに対する根治療法はなく,対症療法に依らざるを得ない。本件フルマーク投与から現在まで約3年が経過しているが,発疹・紅斑はなお発生しており,このように長期間持続するメカニズムについては医学的に解明されていない。今後治癒するか否か,治癒するとしてどの程度の年月が必要であるかは,明らかでない。 エ日常生活への影響本件皮膚症状が原告Aの日常生活に及ぼす影響をみると,症状が悪化したときには,その痛みとかゆみにより,睡眠障害を来たしたり,泣いたり暴れたりする状況になり,保育園に行くことができない時期もあったし,それまで行っていた柔道ができなくなったり,プールに入れないなど,運動が制限されるようになった。また,時折,関節が曲がりにくいという運動障害や握力の低下によって,鉛筆や箸が持てなかったり,歩きにくいといった現象もみられるが,その原因は,関節が発疹によりむくむことにより関節が曲げにくくなったり,湿疹が手のひらに発生することにより,痛みから握力が入らないことによって生じるものであって,神経疾患や筋肉疾患によるものではない。 (2)後遺障害の有無等ア後遺障害の有無について上記認定のとおり,原告Aの本件皮膚症状は,症状発生部位及び程度が変化するものであり,固定継続した症状とはいえないが,その発生・消褪という変化自体が継続していることが固定継続した症状に当たると認めることができ,これは後遺障害というのが相当である。 イ症状固定時期について上記のとおり,原告Aの症状の変化を見ると,平成13年12月中旬に重症化し,平成14年1月末に一旦治まり,その後同 き,これは後遺障害というのが相当である。 イ症状固定時期について上記のとおり,原告Aの症状の変化を見ると,平成13年12月中旬に重症化し,平成14年1月末に一旦治まり,その後同年8月中旬までは症状の発生・消■を繰り返し,一旦治まった後,同年9月末から再び悪化したというのであり,本件後遺障害は発疹・紅斑の発生・消褪という症状の変化自体が持続するものであることからすると,同年8月中旬に症状の発生・消褪が一旦治まり,皮膚症状としては改善したとも考えられたにもかかわらず,再び症状の発生・消褪が開始した同年9月末を,原告Aの症状固定時期と解するのが相当である。 ウ後遺障害の程度について原告Aの後遺障害の内容は前記ア記載のとおりであって,発疹・紅斑が,発生及び消褪を繰り返すものであり,その発生場所,程度が変化しながら継続していくものである。 これについて原告らは,原告Aの症状は「女子の外貌に醜状を残すもの」に該当し,後遺障害等級第12級14号に該当すると主張する。しかしながら,同項の「女子の外貌に醜状を残すもの」とは,主として顔面について判断するところ,原告Aの本件皮膚症状は,顔面にも認められる時期はあるものの,継続固定した傷痕とまでは言えないことから,同号に該当するとはいい難い。 また,他の身体部分についても,傷痕が残っている箇所があると認めるに足りる証拠もないので,後遺障害等級14級4号の「上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」あるいは同級5号の「下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの」にも該当しないが,本件後遺障害の内容に照らすと,後遺障害等級14級に近い程度の後遺障害であるというべきである。 (3)損害額ア原告Aの被った損害(ア)治療費 醜いあとを残すもの」にも該当しないが,本件後遺障害の内容に照らすと,後遺障害等級14級に近い程度の後遺障害であるというべきである。 (3)損害額ア原告Aの被った損害(ア)治療費証拠(甲C1の1ないし58)によれば,平成13年12月10日から平成14年8月末日までの治療費は8万1656円であると認められる。 そして,今後20年間の治療費については,本件皮膚症状が20年間継続すること及び上記期間の治療と同程度の費用がかかることを認めるに足りる確たる証拠はなく,将来の治療費として独立の損害を認めることは相当でなく,症状固定後の治療費については,慰謝料の算定に当たって斟酌することとする。 (イ)通院費等雑費弁論の全趣旨によれば,平成13年12月10日から平成14年8月末までにかかった通院費等雑費は,8万5421円と認められる。 症状固定後の通院費等雑費については,上記(ア)と同様の理由により,慰謝料額の算定に当たって斟酌することとする。 (ウ)後遺障害逸失利益本件フルマーク投与後現在に至るまで約3年の年月が経過しているが,その期間の症状の変化を見ると,当初の症状に比して現在の症状が明らかに軽減したとまでは認められないこと,2年を経過した後でも広範囲の発疹・紅斑がみられ,薬疹としては,3年の間症状の発生・消褪を繰り返すことは重症に近いと評価できるものの,このように長期間継続して発生するメカニズムについては解明されておらず,さらに原告Aが現在(口頭弁論終結時)8歳であることからすれば,3年間症状が継続していることから直ちに18歳(労働能力喪失期間の始期)になった後も症状が継続するとまでは認めることができず,他に,18歳になった後も同症状が継続することを認める あることからすれば,3年間症状が継続していることから直ちに18歳(労働能力喪失期間の始期)になった後も症状が継続するとまでは認めることができず,他に,18歳になった後も同症状が継続することを認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告Aの後遺障害を理由とする逸失利益を認めることはできないといわざるを得ない。 もっとも,原告Aの症状は決して軽いものではなく,本件フルマーク投与から3年経過しても軽快に向かわないことから,原告らが,将来に対し多大な不安を抱くこと,そして,18歳以降も症状が継続して,それが労働能力喪失に影響する可能性が皆無とはいえないことは考慮すべきであり,この点は慰謝料において斟酌することとする。 (エ)慰謝料前記認定の本件皮膚症状の内容・程度,経過,予後の見通し及び日常生活への影響の内容・程度,そして,原告Aは本件フルマーク投与から症状固定日(平成14年9月末日)まで約9か月余り通院したこと(実通院日数41日。通院は不規則)(甲C1の1ないし58),さらには,前記認定の後遺障害の程度,将来の治癒の見通しが立たないことへの不安感並びに労働能力に対する影響がないとはいい切れないこと,症状固定後の治療費及び通院費等雑費などを総合考慮し,原告Aの肉体的・精神的苦痛を慰謝する金額としては250万円が相当である。 イ原告B及び同Cの被った損害原告らは,原告B及び同Cについて,固有の慰謝料が発生すると主張する。 しかしながら,身体を害された子の両親の精神的な苦痛は,原則として本人に対する損害の賠償がなされることによって慰謝され,それ以外に固有の損害は発生しないというべきであり,例外的に子が,生命を害されたにも比肩すべきないしは,それに比して著しく劣らない程度の精神的 本人に対する損害の賠償がなされることによって慰謝され,それ以外に固有の損害は発生しないというべきであり,例外的に子が,生命を害されたにも比肩すべきないしは,それに比して著しく劣らない程度の精神的な苦痛を受けたときに限り,自己の権利として慰謝料を請求することができる(最高裁昭和43年9月19日第一小法廷判決・民集22巻9号1923頁参照)。 そうすると,本件についてみると,原告Aの本件皮膚症状は上記程度に至ったとまではいうことができず,原告B及び同Cについては,それぞれ固有の権利としての慰謝料は認められない。 ウしたがって,原告らの請求は,被告らが原告Aに対して金員の支払を求める限度で理由があり,その額は前記アで認めた各金額の合計である266万7077円となる。 なお,原告らは,症状固定日を平成14年9月27日とし,同日からの遅延損害金を請求しているが,被告医院に対する請求は債務不履行に基づく損害賠償請求権であり,履行の請求が記録上明らかな訴状送達の日の翌日(平成15年5月16日)から遅延損害金が発生すると認められる。 3 結論よって,原告Aの本訴請求は,金266万7077円及びこれに対する被告医院については平成15年5月16日から,被告Dについては平成14年9月27日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,原告Aのその余の請求及びその余の原告らの請求は理由がないからいずれも棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条,65条1項,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部裁判長裁判官一志泰滋 61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第3民事部裁判長裁判官一志泰滋裁判官松葉佐隆之裁判官三島聖子

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