平成13(行ツ)38 代金返還代位請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年9月17日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄差戻 仙台高等裁判所 平成11(行コ)5
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判決文本文6,460 文字)

主文 原判決を破棄する。 本件を仙台高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人勅使河原安夫,同八島淳一郎,同三輪佳久の上告受理申立て理由について 1 本件は,仙台市(以下「市」という。)の住民である被上告人らが,市と上告人らとの間で締結された上告人らが共有する1審判決添付物件目録一及び二の土地(以下,同目録一の土地を「本件土地一」,同目録二の土地を「本件土地二」といい,これらを併せて「本件各土地」という。)の各売買契約(以下,本件土地一の売買契約を「本件契約一」,本件土地二の売買契約を「本件契約二」といい,これらを併せて「本件各契約」という。)が公序良俗違反又は錯誤により無効であるとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,本件各契約の相手方である上告人らに対し,不当利得として売買代金相当額の返還及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。 (1) 原審の確定した事実関係等の概要は,以下のとおりである。 ア市は,昭和45年ころ,史跡景勝の丘陵地帯であるa山を公園として整備するa山公園計画を有していた。市は,同63年11月11日以降数回にわたり,公園予定地の地権者を対象とした同計画の説明会を開催し,平成2年11月16日,a山公園について公園区域面積を変更する旨を決定して告示するとともに,本件各土地を含む買収予定区域を明示した都市計画案を縦覧に供し,同年12月14日,a山公園整備事業の認可を受けた。 イ市は,不動産鑑定士による鑑定評価及び仙台市公有財産価格審査委員会の審査を経て売買価格を決定した上,平成3年3月13日,上告人らから,a山公園整- 1 -備事業の公園用地として,本件土地一を1㎡当たり17万円の価格で よる鑑定評価及び仙台市公有財産価格審査委員会の審査を経て売買価格を決定した上,平成3年3月13日,上告人らから,a山公園整- 1 -備事業の公園用地として,本件土地一を1㎡当たり17万円の価格で買い受ける旨の本件契約一を締結した。本件土地一について,同月26日,本件契約一を原因とする上告人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同月30日,閲覧が可能であった仙台市土地台帳にも登録された。市は,同月29日,上告人らに対し,平成2年度予算の執行としてその売買代金を支払った。 また,市は,同様の手続を経た上,平成3年12月2日,上告人らから,a山公園整備事業の公園用地として,本件土地二を1㎡当たり18万0700円の価格で買い受ける旨の本件契約二を締結した。本件土地二について,同月9日,本件契約二を原因とする上告人らから市への共有者全員持分全部移転の登記がされ,同4年9月30日,仙台市土地台帳にも登録された。市は,同3年12月25日,上告人らに対し,平成3年度予算の執行としてその売買代金を支払った。 本件土地一の上記売買価格は,同年3月1日時点における正常価格の約3倍から4.7倍であり,本件土地二の上記売買価格は,同年11月1日時点における正常価格の約4.9倍であった。 ウ a山公園整備事業については,市の平成2年度予算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「単独事業,風致公園,a山公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,風致公園,a山公園」との,公共用地先行取得事業会計の歳出の部の公共用地先行取得事業の「事業費」欄に「a山公園5294.1㎡,900,000千円」との記載がある。同3年度予算説明書には,一般会計の 風致公園,a山公園」との,公共用地先行取得事業会計の歳出の部の公共用地先行取得事業の「事業費」欄に「a山公園5294.1㎡,900,000千円」との記載がある。同3年度予算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,特殊公園,a山公園」との記載がある。同年度決算説明書には,一般会計の歳出の部の土木費(款),公園造成費(項)の「説明」欄に「補助事業,特殊公園,a山公園」との記載があり,a山公園に係る歳出に関して一部別会計に- 2 -移された分につき,公共用地先行取得事業会計の歳入の部に記載がある。上記各予算説明書及び決算説明書は,いずれも一般の閲覧に供されていた。 エ市議会議員Dは,市が行った別の用地取得について調査をしていた際,a山公園用地の買収について問題があるとの情報を得,市から各年度ごとの各購入土地の所在,地積,単価等に関する資料の提出を受けて調査したところ,本件各契約の売買価格に問題があると考え,平成5年9月20日に開かれた市議会の一般質問において,a山公園に係る平成2年度及び同3年度の取得用地の売買価格が同4年度のそれの4倍に近い異常な高値であったことについて質問をした。市は,上記売買価格に疑問を持ち,調査中であることを明らかにした。翌21日,上記質疑の内容が新聞で報道された。その新聞記事には,市は,同2年度においてa山公園用地として仙台市b区cの土地約9400㎡を1㎡当たり平均17万円で購入し,同3年度において同様に同所の土地約1万2900㎡を1㎡当たり平均18万円で購入したこと,市は,平成5年3月,それまで依頼していた不動産鑑定士とは別の不動産鑑定士に依頼して改めて取得予定地の鑑定評価をし,平成4年度において約1万㎡の土地を1㎡当たり4万7747円で購入したこと,市は,同 市は,平成5年3月,それまで依頼していた不動産鑑定士とは別の不動産鑑定士に依頼して改めて取得予定地の鑑定評価をし,平成4年度において約1万㎡の土地を1㎡当たり4万7747円で購入したこと,市は,同2年度及び同3年度当時の鑑定内容や購入に至ったいきさつなどを調査していることなどが記載されていた。 オ被上告人らは,平成5年10月8日,仙台市情報公開条例に基づき,a山公園用地の売買契約書等の開示請求を行い,同月22日,請求に係る文書のうち土地の所在,地番,地積及び代金額部分が非開示とされ,その余の部分が開示された。 被上告人らは,同年11月10日ころまで,公図,登記簿謄本等を閲覧するなどして,疑義のある売買契約がされた土地の地番等を特定する作業を行い,同月25日,本件各土地の取得に関し,代金額を正当な価額に是正し,市の被った損害を賠償させる等の適切な措置を講ずることを求める監査請求(以下「本件監査請求」とい- 3 -う。)をした。監査委員は,同6年1月20日,被上告人らに対し,本件各契約における売買価格が不当に高額であるおそれがあるものの,その立証,確定をし得ないので措置の勧告をするまでには至らず,これに代えて,市長に対し監査結果に基づく意見を提出した旨を通知した。 (2) 記録によれば,上記(1)ウの平成3年度決算説明書中のa山公園に係る歳出に関して公共用地先行取得事業会計の歳入の部に移された分は,同会計の歳入の部の公共用地先行取得事業収入(款),財産収入(項),財産売払収入(目),土地建物(節)に「a山公園1435.6㎡,249,208千円」と記載されたものであることが明らかである。 2 第1審は,本件監査請求は法242条2項本文の監査請求期間を経過した後にされたものであって,被上告人らの本件訴えは,適法な監査請求を経ていない不 」と記載されたものであることが明らかである。 2 第1審は,本件監査請求は法242条2項本文の監査請求期間を経過した後にされたものであって,被上告人らの本件訴えは,適法な監査請求を経ていない不適法なものであるとして,これを却下すべきものとしたが,原審は,上記事実関係等に基づき,次のとおり判示して,本件監査請求について同項ただし書にいう正当な理由を認め,第1審判決を取り消して,本件を第1審裁判所に差し戻した。 (1) 法242条2項本文の趣旨に照らせば,財務会計上の行為が秘密裡に行われたため,監査請求期間経過後初めてその存在が明るみに出た場合のように,その経過後においてもなお住民の監査請求を認めるべき特別の事情がある場合でなければ,同項ただし書にいう正当な理由があるとすることはできない。 本件各契約は秘密裡にされたものではないところ,本件監査請求は,本件各契約の各売買代金支払時から起算しても,同項本文に定める1年の監査請求期間を経過している。しかしながら,被上告人らは,売買価格が適正な価格をはるかに超える違法又は不当なものであることを隠ぺいして本件各契約が締結されたと主張するものであるところ,そのような事実がある場合には,当該行為の違法,不当を判断する上で極めて重要な前提事実が隠されており,その結果として,住民が相当の注意- 4 -力をもって調査したとしても監査請求の対象とすることができない状態にあったものというべきである。この場合には,本件各契約が秘密裡にされたと同様に取り扱うべきであり,同項ただし書にいう正当な理由の有無は,住民が相当の注意力をもって調査したときに,客観的にみて,売買価格の相当性に関する点が隠ぺいされているのではないかとの合理的な疑いを持つことができた時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべき 注意力をもって調査したときに,客観的にみて,売買価格の相当性に関する点が隠ぺいされているのではないかとの合理的な疑いを持つことができた時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである。 (2) 本件各契約は所定の手続に従い公然と行われたものではあるが,住民においてその手続の中で売買価格の相当性につき疑いを差し挟む余地はなかったというべきである。また,平成2年度及び同3年度の各予算説明書及び決算説明書にはa山公園整備事業に関する記載があり,いずれも住民の閲覧に供されているが,その記載内容は概括的なものにすぎず,住民が売買価格の相当性の点に疑いを抱く端緒となり得る資料としては十分でない。結局,平成5年9月20日の市議会においてa山公園用地の売買価格の相当性に関する質疑がされ,その翌日にその内容が新聞で報道されるまでは,住民らが本件各土地の売買価格の相当性に関する点が隠ぺいされているのではないかとの合理的な疑いを持つことは著しく困難であったというべきである。そして,被上告人らは,上記の新聞報道により合理的な疑いを持つことができた時から2箇月余りを経過して本件監査請求をしているところ,事案の性格と被上告人らの調査のための作業内容からすれば,当該期間を要したことは無理からぬものがある。 (3) 以上によれば,本件監査請求は,法242条2項本文の監査請求期間経過後にされたものであるが,これにつき同項ただし書にいう正当な理由があるから,適法な監査請求であるというべきである。 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 - 5 -(1) 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求な の理由は,次のとおりである。 - 5 -(1) 法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為は,たとえそれが違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことが法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めている。しかし,当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にもその趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」があるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるようにしているのである。したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。そして,当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきである。したがって,そのような場合には,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間 は,上記正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである。 (2) 本件監査請求は,本件各土地の売買価格が不当に高額であるとしてされたものであるところ,前記事実関係等によれば,本件各契約に関しては,a山公園整- 6 -備事業都市計画案の縦覧並びに本件各土地につき市への所有権移転登記及び仙台市土地台帳への登録が前記各日にそれぞれされており,平成2年度及び同3年度の各予算説明書及び決算説明書にa山公園用地取得のための事業費に関する記載があるというのである。そして,上記各決算説明書の記載によれば,a山公園用地の各年度の売買価格の平均値が1㎡当たり約17万円であったことが明らかとなっていたというべきである。そうすると,【要旨】上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内容を了知することができるようになったころには,市の住民が上記各書類を相当の注意力をもって調査するならば,客観的にみて本件各契約の締結又は代金の支出について監査請求をするに足りる程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。 【要旨】ところが,上記各決算説明書が一般の閲覧に供されて市の住民がその内容を了知することができるようになった時期は,原審の確定するところではなく,記録上も明らかではないから,本件監査請求がその時から相当の期間内に行われたものであるか否かを判断することはできないといわざるを得ない。 4 【要旨】以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,上告理由について判断する はできないといわざるを得ない。 4 【要旨】以上によれば,原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,上告理由について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点につき更に審理を尽くした上,本件監査請求に法242条2項ただし書にいう正当な理由があるか否かについて判断させるため,本件を原審に差し戻すのが相当である。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官濱田邦夫裁判官金谷利廣裁判官奥田昌道裁判官上田豊三)- 7 -

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