主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,金1178万7270円及びこれに対する平成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。 4 第2項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人の理事及び代表理事(組合長)を務めた控訴人が,被控訴人に対し,主位的に,被控訴人の役員退任慰労金支給規程又は慣行に基づき退任慰労金982万2725円及び功労金196万4545円並びにこれらに対する平成12年6月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,控訴人には上記の退任慰労金及び功労金の支給を受ける期待権があり,被控訴人はこれを違法に侵害したとして,不法行為に基づき同額の金員の支払を求める事案である。 原判決は,被控訴人における退任慰労金及び功労金の支給には総会による承認決議が要件とされているとして,これを欠く本件では控訴人に退任慰労金及び功労金の請求権は発生しておらず,慣行による請求権も認められないとして主位的請求を棄却し,また,支給しないとした総会決議が無効ないし衡平の理念に反するということもできず,不法行為には当たらないとして予備的請求も棄却した。これを不服として控訴人が控訴したのが本件である。 2 その他の事案の概要は,次項に補正し,第4,第5項に当事者双方の当審における主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 補正(1) 原判決2頁8行目 項に補正し,第4,第5項に当事者双方の当審における主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 補正(1) 原判決2頁8行目の「被告においては,」の次に「昭和51年2月7日施行に係る」を加える。 (2) 同2頁11行目の「支給及び支給額については,」の次に「その都度」を加える。 (3) 同2頁12行目の「本件規程の計算方法」の次に「は,非常勤役員については年報酬額の12分の2に在任年数を乗じた額,常勤役員については,退任時の報酬月額に就任年数を乗じ,更に就任年数に応じた支給率を乗じた額をもって退任慰労金の支給額とするものであり,これ」を加える。 4 控訴人の当審における主張(1) 本件規程の解釈・長期間の運用実態ア本件規程は総会の承認の下に制定され,第2条において「理事退任したときは,慰労金を支給する。」とし,第3条において退任慰労金の支給額が裁量の余地のないほど明確に規定されている。そして,第5条においては「本組合に損害を与え,又は,信用を失う言動により役員としての職務遂行にもとると理事会が認めた退任役員に対する慰労金は減額または支給を停止することができる。」として,退任慰労金を減額又は停止できる事由が明定されている。 イまた,被控訴人においては,死亡したA組合長に対する役員退任慰労金が昭和57年に支払われて以降,役員(理事11人,監事4人)は度々交替したが,退任役員に対する退任慰労金の支給の可否及びその額が総会又は理事会で審議・決定されることのないまま,本件規程に基づく金額が支給され,昭和57年から平成11年までの17年間にわたり,総会及び理事会は,事後追認又は業務報告書の承認という形で何らの異議もなくこれらの支給を認めてきたものである。した ,本件規程に基づく金額が支給され,昭和57年から平成11年までの17年間にわたり,総会及び理事会は,事後追認又は業務報告書の承認という形で何らの異議もなくこれらの支給を認めてきたものである。したがって,被控訴人における退任慰労金は,本件規程の長期間の運用から,本件規程に基づいて支給金額が決定され,これが支給されるという慣行が成立していたものである。 ウしたがって,退任役員に対する慰労金の支給は被控訴人の自由裁量ではなく,被控訴人は,本件規程第5条に該当する事由がない限り,その第3条に定める支給額の支払義務があり,第3条ただし書の総会の承認は,理事が退任役員に慰労金を支給したことについて,これが本件規程に基づいて正当に行われたか否かを審査する意味にすぎないというべきである。 (2) 本件規程第5条該当事由の有無ア控訴人が被控訴人の組合長をしていた間の平成5年度以降,被控訴人には赤字の年度があったものの,これは,①信用事業において,金利の引下げにより金利収入が激減したこと,②漁業補償金が減少したこと等によるものであり,控訴人が組合長として責任を負うべきものではない。 したがって,控訴人が被控訴人に損害を与え又は信用を失う言動により役員として職務懈怠をしたということはなく,本件規程第5条に該当することはない。 イ被控訴人は,控訴人に忠実義務違反がある旨主張する。しかし,赤字の原因は上記のとおりである。また,平成5年度の赤字に関し,控訴人は,補助金の交付時期が従来より延ばされたが,これが従来どおりの時期に入っていれば「黒」になると言ったにすぎず,平成5年度の決算が赤字であるのに黒字であると説明したものではない。さらに,平成5年度以降,控訴人が組合長を辞めるまでの間に作成された平成10年度までの業務報告書,貸借対照表 になると言ったにすぎず,平成5年度の決算が赤字であるのに黒字であると説明したものではない。さらに,平成5年度以降,控訴人が組合長を辞めるまでの間に作成された平成10年度までの業務報告書,貸借対照表,損益計算書,剰余金処分案又は損失処理案は,いずれも理事会で承認され,監事によって「その内容は適正である。」との監査を受け,通常総会においても何ら異議なく全員賛成により承認可決されているほか,理事会は,毎年前年度の業務内容を検討して翌年度の事業計画を立て,通常総会において承認を受けていたものである。控訴人が忠実義務に違反して虚偽の説明を行い,理事会をして有効な赤字対策を執るべき契機を失わせて,被控訴人に損害を与えたとは到底いえない。 (3) 本件決議の無効ア上記(2)のとおり,控訴人には本件規程第5条に該当する事由はないのであるから,これに該当することを前提として控訴人に退任慰労金を支給しないとした理事会決議は無効であり,無効な理事会決議に基づき提案された議案に基づく本件決議もまた無効である。 イまた,本件決議がされた通常総会(本件総会)において,被控訴人の理事又は理事会は,控訴人の退任慰労金に関し,組合員に対して虚偽の説明をし,また,理事会としてすべき正確な報告をしていなかったものであるから,これを前提としてされた本件決議は公序良俗に反するものとして無効である。 すなわち,上記のとおり,控訴人には本件規程第5条に該当する事由がないにもかかわらず,被控訴人理事は,本件総会において,控訴人には上記条項に該当する事由がある旨虚偽の説明をした。また,被控訴人においては,控訴人の退任慰労金についてB連合会に退職慰労金を積み立てていた(現に,本件総会に先立つ平成11年10月5日には,B連合会から被控訴人に対し,435万0581円の をした。また,被控訴人においては,控訴人の退任慰労金についてB連合会に退職慰労金を積み立てていた(現に,本件総会に先立つ平成11年10月5日には,B連合会から被控訴人に対し,435万0581円の退職慰労金積立金が支払われている。)から,被控訴人が黒字の年度であっても本件規程第6条に基づく役員退任手当積立金の積立てはしていなかったにもかかわらず,被控訴人理事会は,本件総会において,控訴人の在任期間中,過去5年間赤字を出したため剰余金の中から役員退任手当積立金を積み立てることができなかった旨説明したのみで,上記のとおりB連合会から積立金が支払われていることについて何らの説明もしていない。 ウさらに,前記のとおり,長期間にわたり本件規程に基づいて退任慰労金の金額が決定され,その金額が支給されるという慣行が成立していたが,控訴人についてのみこれを支給しないとする本件決議は,信義則及び衡平の理念に反して無効である。 (4) 期待権の侵害ア上記(1)のような本件規程の解釈や,被控訴人においては,本件規程に基づいて退任慰労金の金額が決定され,これが支給されるという慣行が成立していたこと,上記(2)のとおり控訴人には本件規程第5条に該当する事由はないことからすれば,控訴人は,本件規程に基づいて退任慰労金が支給されるという法的に保護されるべき期待利益すなわち期待権を有していた。 イところが,被控訴人の理事らは,共同して,控訴人には本件規程第5条に該当する事由がないのに,これに該当する事由があるとして控訴人に対して退任慰労金を支給しない旨の決議をし,さらに,本件総会において,「過去5年間赤字を出したため,積立金を積み立てることができなかった。」「この赤字により資本が大きく減少した。」「控訴人は本件規程第5条に該当すると判断した。」「 議をし,さらに,本件総会において,「過去5年間赤字を出したため,積立金を積み立てることができなかった。」「この赤字により資本が大きく減少した。」「控訴人は本件規程第5条に該当すると判断した。」「赤字について定款においては減額もしくは停止できることになっている。」「交際費等をもう少し使わせてもらったらどうかということが発端でこういう結果になった。」などと虚偽の事実を摘示し,組合員に対し,控訴人に対する退任慰労金の支給をしない旨の承認を求めて不当な総会決議をさせ,控訴人の上記期待権を侵害したものである。 ウ被控訴人は,上記のような被控訴人の理事による不法行為について,民法44条1項により控訴人に対して不法行為責任を負う。 5 被控訴人の当審における主張(1) 本件規程の法的性質について本件規程の解釈上,退任慰労金は,本件規程第5条に該当しない場合であっても,総会の裁量に基づいてこれを支給しないことができるというべきである。 すなわち,本件定款第38条は,理事及び監事の退任慰労金について総会の議決を経なければならないとし,本件規程第3条本文においても,「その都度総会において承認を得なければならない。」と定めており,退任慰労金の支給は総会決議が要件とされている。また,本件規程の目的は財務の健全化を図ることにあり(第1条),役員の退任慰労金は,破産等においても優先債権とされている従業員の退職金とは性質が異なることなどからすれば,その支給について総会に裁量権がなく,本件規程第5条に該当する事由がないかぎり支給義務があるとすることは妥当でない。総会に裁量権がないのであれば,総会の議決を支給要件として本件定款及び本件規程に定める必要はない。被控訴人の財務の健全化を図るためには,総会による審査を経なければならないことも明ら ことは妥当でない。総会に裁量権がないのであれば,総会の議決を支給要件として本件定款及び本件規程に定める必要はない。被控訴人の財務の健全化を図るためには,総会による審査を経なければならないことも明らかである。また,被控訴人に損害等を与えていない以上常に支給されるとするのは,まさに従業員の退職金と同じことになってしまうからである。 (2) 本件規程第5条該当性について控訴人には,以下のとおり,本件規程第5条の「本組合に損害を与え」の要件に該当する事由がある。 すなわち,役員は,本件定款32条により,「法令,法令に基づいてする行政庁の処分,定款,規約,共済規程及び総会の議決を遵守し,この組合のために忠実にその職務を遂行しなければならない。」とされており,被控訴人に対する忠実義務を負っている。ところが,控訴人は,組合長という役員のトップにありながら,被控訴人が12月決算で,平成5年に279万5940円の損失を出していたにもかかわらず,決算のための理事会において,翌年3月に入金される500万円ないし600万円の漁業保険の補助金が入れば黒字になる旨説明し,そのため,翌平成6年には,上記の補助金が入金されても510万0741円の損失を出していたにもかかわらず,理事会においてまったく問題視されず,何らの対策も執られなかった。被控訴人は,平成10年も続けて損失を出したが,同年に新しく役員になったC理事らから経理内容について疑問が出されたことがきっかけで,被控訴人が赤字決算を繰り返していたことが理事全員に発覚し,平成11年2月13日開催の理事会において,C理事から,役員報酬の減額,漁業権行使料の値上げ,総会費用の削減等の赤字対策が提案されて可決され,その後,D新組合長のもとで経費削減の努力がされた結果,損失を出さなくなった。控訴人が 会において,C理事から,役員報酬の減額,漁業権行使料の値上げ,総会費用の削減等の赤字対策が提案されて可決され,その後,D新組合長のもとで経費削減の努力がされた結果,損失を出さなくなった。控訴人が,平成5年の損失が判明した時点から早急に対策を講じていれば,被控訴人が黒字になったか,少なくとも損失額を圧縮できたことは明らかである。また,控訴人は,常勤の組合長であるにもかかわらず,組合事務所に詰めていたのは午前中のみであることがほとんどであり,そのこと自体が忠実義務に違反するが,そのような勤務実態にそぐわない高額な役員報酬は真っ先に削減すべきであり,さらに,被控訴人とは関係のない特定の政党や特定の政治家関連の行事への出席等の費用も削減すべきであった。 以上のとおり,控訴人は,忠実義務に違反して虚偽の説明を行い,理事会をして有効な赤字対策を執るべき契機を失わせたことにより被控訴人に損害を与えたものであり,本件規程第5条に該当する。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について(1) 控訴人は,退任慰労金等の支給額は,本件規程に基づいて決定されるものであり,総会の承認は退任慰労金等の支給が本件規程に基づいて正当に行われたかどうかを審査する意味を有するに過ぎない旨主張するので,この点について検討する。 本件定款によれば,被控訴人の理事及び監事の退任慰労金については総会の議決を経なければならないと規定されているところ,被控訴人においては,昭和51年2月7日施行にかかる本件規程が定められ,同規程は,「理事,監事退任し,又は死亡したときは,慰労金を支給する。」旨(第2条1),また,支給額について,非常勤役員については年報酬額の12分の2に在任年数を乗じた額,常勤役員については,退任時の報酬月額に就任年数を乗じ,更に就任年数に応じた支給率 を支給する。」旨(第2条1),また,支給額について,非常勤役員については年報酬額の12分の2に在任年数を乗じた額,常勤役員については,退任時の報酬月額に就任年数を乗じ,更に就任年数に応じた支給率を乗じた額とする旨(第3条)規定して,具体的な支給金額の算出が可能な計算基準を定める一方で,支給額についてその都度総会において承認を得なければならないとの規定が設けられている(第3条ただし書)ことは,引用に係る原判決の事実及び理由第2の2(2)に記載(前記訂正部分を含む。)のとおりである。 また,本件規程は,退任慰労金の支給及び運営に係る基準を定め,財務の健全化を図ることを目的として定められたものであること(第1条),上記の算定基準とは別に,在任中特に功績顕著である等の場合には退任慰労金の増額ないし功労金の支給も可能であるとされ,その支給額についても総会の承認を得て理事会が決するとされていること(第4条),反対に,被控訴人に損害を与え,又は,信用を失う言動により役員としての職務遂行にもとると理事会が認めた場合には退任慰労金の減額又は支給を停止することができるものとされていること(第5条)が認められるのである(乙1)。 そして,上記のとおり,そもそも退任慰労金の支給について総会の決議事項とすることは本件定款によって規定されているものであることを併せ考慮すると,本件規程は,退任慰労金の支給が恣意的にされることを防止するとともに,支給金額の計算基準を示すことにより被控訴人の財務を不当に圧迫するような支給がされないようにする目的を含むものと解され,支給額についてその都度総会の承認を得なければならないとする上記条項の趣旨は,具体的な支給金額が本件規程に基づいて正当に算出されたものか否かを形式的に審査するというものではなく,本件規程により算出され 額についてその都度総会の承認を得なければならないとする上記条項の趣旨は,具体的な支給金額が本件規程に基づいて正当に算出されたものか否かを形式的に審査するというものではなく,本件規程により算出された具体的な支給金額が組合財務の状況等からも妥当なものか否か,また,増額や功労金の支給が妥当か否かという,いずれも実質的な観点からの審査について,その権限を総会に留保したものであって,総会は,本件規程に基づき算出される具体的な支給金額について,前記の第5条に該当する場合に限らず,上記のような観点からの審査をすることができるというべきである。そして,以上のような本件定款の内容,本件規程の趣旨,文言からすれば,本件規程に基づいて直ちに退任慰労金を請求できるものではなく,総会の承認が退任慰労金請求権発生の要件であると認められる。 現に,証拠(甲1,原審における乙10,11)及び弁論の全趣旨によれば,昭和57年に死亡退任したA代表理事(組合長)や同時期に辞任したE理事の退任慰労金の支給については,同年に開催された臨時総会に付議され,その具体的承認を得て理事会において決定をしている。しかも,本件規程は,昭和51年2月7日の施行日以降に該当する役員については当初就任の日に遡及するものとされ(附則2。甲1),A組合長の理事就任期間が約30年に及び,本件規程を形式的に適用した場合の同人の退任慰労金の額は1800万円を超えるものであったとみられるのに,剰余金処分による退任慰労金積立金の額及び退職共済からの支給金の額を考慮して1500万円に減額されている。 (2) 控訴人は,従来の退任慰労金の支給に関する慣行や運用状況についても,その主張の根拠とするが,昭和57年当時に退任慰労金の支給について具体的な総会の承認を得て理事会において支給を決定していたことは上記認定 人は,従来の退任慰労金の支給に関する慣行や運用状況についても,その主張の根拠とするが,昭和57年当時に退任慰労金の支給について具体的な総会の承認を得て理事会において支給を決定していたことは上記認定のとおりである。もっとも,証拠(乙4の1・3・5・6,5の1,6の1ないし14,原審における証人F,同控訴人本人,同被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば,その後,控訴人が組合長に在任していた時期には,退任役員に対して本件規程に基づき算出した退任慰労金を支給しながらも,事前に理事会及び総会の承認を得ることはせず,事後的に,特別積立金や役員退任手当積立金の減少分の記載のある業務報告書について承認を得るという限度で総会の関与を受けていたにすぎないこと,積立金が不足している場合には費用として退職給与費から支出したこともあったことが認められる。しかし,そのような運用は,上記判示のような本件規程の趣旨,文言に反するものである。また,このような運用がされたのは直接的には組合長である控訴人自身の処理方法が原因であり,他方,総会の関与の程度,態様は上記のようなものであって,総会において各人に対する具体的な退任慰労金の額を明確に把握した上でこれを個別に承認したこと,ないし,上記のような運用を意識してこれを追認したものと認めるに足りる的確な証拠はない。しかも,証拠(乙4の1ないし6,5の1ないし7)によれば,控訴人が組合長に在任していた期間中(ただし,控訴人本人が退任した平成11年度を除く。)に退任した常勤役員は控訴人の前任者1名のみであり,その他は退任慰労金の額が比較的少額な非常勤の理事ないし監事のみである。以上のような事情からすれば,上記のような運用がされていたとしても,本件規程の解釈において総会の承認なくして退任慰労金請求権が発生するものとされ,あるい 比較的少額な非常勤の理事ないし監事のみである。以上のような事情からすれば,上記のような運用がされていたとしても,本件規程の解釈において総会の承認なくして退任慰労金請求権が発生するものとされ,あるいはこれが慣行として規範化していたということはできず,控訴人の上記主張は採用できない。 (3) また,功労金についても,前記認定のとおり総会の承認を要するものとされており,その趣旨は退任慰労金についての上記判示と同様に解されることに加え,功労金に関しては,退任慰労金を支給することを前提に,これに付加するものとして「支給することができる」とされているにすぎず(甲1),その額を具体的に算出する規定もないのであるから,総会及び理事会のいずれにおいてもこの点についての決議,承認のない本件においては,いまだこれが具体的権利として発生したものということはできない。 (4) 以上によれば,その余について判断するまでもなく,本件規程又は慣行に基づき退任慰労金及び功労金の各請求権が発生したものということはできず,この点に関する控訴人の主張は理由がない(なお,控訴人は,本件決議が無効であるとして,控訴人には退任慰労金等の請求権がある旨主張するが,上記判示のとおり,功労金については勿論,退任慰労金についても,総会の承認(決議)が支給の要件であるというべきであるから,本件決議が仮に無効であったとしても,控訴人に対する退任慰労金等の支給についての総会の承認(決議)があったことにはならず,結論を左右しない。)。 2 争点(2)について(1) 前記のとおり,本件においては,退任慰労金の支給について,理事会の決議のみならず総会による承認(決議)もされていないのであるから,支給額についての定めのない功労金は勿論,退任慰労金についても,本件規程に基づき算出される額が支給 退任慰労金の支給について,理事会の決議のみならず総会による承認(決議)もされていないのであるから,支給額についての定めのない功労金は勿論,退任慰労金についても,本件規程に基づき算出される額が支給されるとの期待権が当然に生じているということはできない。 (2) また,控訴人の組合長在任中に,控訴人が本件規程に基づき算出された退任慰労金を支給し,これについて理事会や総会が特段異議を述べなかった事実があるとしても,その主たる原因は,控訴人自身が組合長として明確な承認手続を履践していなかった点にあり,総会の関与の態様等からしても,総会が上記のような運用を意識してこれを追認したものとまでは認められないことは前記判示のとおりであり,この点からみても控訴人の期待が正当なものと認めることはできない(なお,甲6,当審における乙11によれば,被控訴人は,B連合会を通じて,G共助会から,被控訴人を受取人とする退職共済による給付金として435万0581円の支払を受けていることが認められるが,上記の給付金についてこれを控訴人に支払う旨の合意があったと認めるに足りる証拠はなく,また,そのような事情を考慮しても,これが控訴人に支払われるとの正当な期待があったとも認められない。)。 (3) さらに,控訴人は,被控訴人理事らが共同して,控訴人には本件規程第5条に定める事由がないにもかかわらず,総会に対し,これがあるかのような虚偽の事実を摘示して,控訴人に対して退任慰労金等を支給しない旨の本件決議をさせたものである旨主張するところ,証拠(甲2の1及び2,3の1,乙2)によれば,控訴人に退任慰労金を支給しないこととする旨の議案が提出された本件総会の議案書添付の理由書には,過去5年間赤字を出したため,積立金を積み立てることができず,この赤字により資本が大きく減少した よれば,控訴人に退任慰労金を支給しないこととする旨の議案が提出された本件総会の議案書添付の理由書には,過去5年間赤字を出したため,積立金を積み立てることができず,この赤字により資本が大きく減少したこと,支給した場合に平成12年度は大幅な赤字が予想されるとの記載がされていたほか,本件総会において,理事や事務局からは,「本件規程第5条に該当するとの判断をした。」,「赤字については定款において退任慰労金を減額,停止できることになっている。」,「交際費等をもう少し使わせてもらったらどうかということが発端でこういうことになった。」などの説明や発言がされていたことが認められる。 しかし,証拠(乙4の1ないし7,5の1ないし7)によれば,被控訴人の収支は,控訴人の組合長在任期間中,昭和61年から平成4年および同7年の各年度は黒字決算であったが,平成5年,同6年,同8年ないし同10年の各年度は赤字決算であり,これらの年度には約280万円から約660万円程度の損失金を計上し,特別積立金の取崩しにより損失処理していたこと,また,その結果,被控訴人の貸借対照表上の資本は平成5年度の約1億1184万円を境に減少し,平成10年度においては約8500万円となっていたこと,本件規程上は退任慰労金等の原資として役員退任手当積立金を積み立てることとされていたが,昭和62年度を最後に役員退任手当積立金の積立てはされず,専ら特別積立金の積立てがされてきたが,平成5年度以降は積立てがされていないか,されても僅かの額であり,かえって,上記のとおり損失処理に使用されたために特別積立金についても平成5年度の3890万円を境に減少し,平成10年度は2067万1610円(平成11年度は,未処理損失金434万4587円の処理後は1632万7023円)となっていたこと,平成11 積立金についても平成5年度の3890万円を境に減少し,平成10年度は2067万1610円(平成11年度は,未処理損失金434万4587円の処理後は1632万7023円)となっていたこと,平成11年度は僅かに42万4087円の剰余金を計上したにすぎなかったことが認められる。これらの事実からすれば,前記議案書添付の理由書に記載された内容が虚偽のものということはできない。 また,前記各証拠によれば,控訴人が組合長に就任した昭和61年以降,被控訴人の事業管理費は昭和61年度の約1900万円から漸増して平成4年度には約2800万円となり,その後は平成9年度,同10年度は若干減額したものの,ほぼ同規模の費用を支出していたこと,事業管理費の約5ないし6割を占める人件費(役員報酬を含む)も,昭和61年度の約1150万円から漸増し,平成5年度以降は約1600万円から約1800円程度を推移していたこと,この間の役員報酬も漸増して約200万円増加していること,なお,接待交際費も昭和63年度から平成8年度までは,その以前よりも大幅に増えて約50万円から約100万円程度の支出をしていたことが認められ,被控訴人が上記のような損失を生じた原因にこれらの費用支出の増加が関連することは否定できない(事業総利益自体は,増減の繰り返しはあるものの,昭和61年度の約1100万円から平成10年度の約1450万円と増加している。)。本件規程第5条との関係についても,本件総会における理事ないし事務局の発言は,理事会において上記条項に該当する事由があると判断したとの意見を述べたにすぎない(上記の事実からすれば,その判断も不相当なものとは認められない。)。 そして,証拠(乙2。総会議事録)によれば,本件総会においては控訴人も反論し,さらに,理事ないし事務局からは,赤 すぎない(上記の事実からすれば,その判断も不相当なものとは認められない。)。 そして,証拠(乙2。総会議事録)によれば,本件総会においては控訴人も反論し,さらに,理事ないし事務局からは,赤字に対しては理事全員にも責任があるが,控訴人については代表者としての経営責任の観点から問題にせざるを得ない旨,控訴人に対しては基準額の半額程度での解決が図れないか打診をしたが,控訴人が拒否したために支給そのものの是非を判断せざるを得なくなった旨の説明がされ,討議の結果退任慰労金を支給しないとの決議がされたものであって,理事ないし事務局が虚偽の説明をしたとはいえないし,そもそも,不支給の理由が必ずしも本件規程第5条に該当する事由に限定されないことは前記判示のとおりであり,本件総会においてはそのような観点から討議や決議がされたものである。また,本件総会において,理事から赤字の場合には「定款により」退任慰労金を減額,停止できるとの発言がされたことは前記認定のとおりであるが,前記証拠によれば,上記発言は本件規程の内容についての説明を承けてされたものであって,誤解であることは出席者にとっても明らかな状況であったと認められる。なお,控訴人は,B連合会から積立金が支払われていることを説明すべきであったとも主張するが,本件総会における上記のような討議内容からすれば,少なくとも,控訴人指摘のような発言がされず,あるいは説明がされていれば控訴人に退任慰労金を支給しないとする本件決議がされなかったものとは認められない。 したがって,本件決議に関し,被控訴人の理事らが虚偽の事実を摘示するなどして,違法に控訴人の期待権を侵害したものということもできない。 3 以上によれば,控訴人の請求は主位的請求及び予備的請求のいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相 が虚偽の事実を摘示するなどして,違法に控訴人の期待権を侵害したものということもできない。 3 以上によれば,控訴人の請求は主位的請求及び予備的請求のいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第3部 裁判長裁判官西島幸夫裁判官山口浩司裁判官齋藤憲次
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