【宣告日】 令和6年5月8日【事件名】 電子計算機使用詐欺被告事件 主文 被告人3名をそれぞれ懲役10月に処する。 被告人3名に対し、未決勾留日数中各50日を、それぞれその刑に算入する。 被告人B及び被告人Cに対し、この裁判が確定した日から3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人3名の連帯負担とする。 理由 【罪となるべき事実】被告人3名は、D高速社が有料道路の料金所に設置したETCシステムを利用するに際し、ETCカードの正当な使用権限を有する者が乗車する場合に有料道路の通行料金が割引されるETC利用割引の適用を不正に受けようと考え、共謀の上、被告人C名義のETCカードを挿入したETC車載器を搭載した普通乗用自動車を被告人Bが運転し、被告人Aが同乗して、第1(令和5年2月22日付け起訴状記載の公訴事実)令和4年11月8日午前6時41分頃から同日午前6時50分頃までの間、大阪市a区b町c丁目d番地e号f高速g線h料金所から流入し、大阪府東大阪市ij丁目地先f高速k線l出口ランプから流出するに際し、真実は、被告人Cは乗車しておらず、被告人C名義のETCカードの正当な使用権限がないのに、同ETCカードを挿入した同ETC車載器を作動させて、前記各料金所等に設置されたETCシステムの路側無線装置と同車載器との間で、同ETCカードに記録されたETCカード情報等を交信させ、D高速社が管理する大阪府内に設置されたETCシステム利用による通行料金の記録、徴収等の事務処理に使用される電子計算機に対し、同ETCカードの正当な使用権限を有する者が同ETCカード を利用して前記各料金所等のETCレーンを通過したとの虚偽の情報を よる通行料金の記録、徴収等の事務処理に使用される電子計算機に対し、同ETCカードの正当な使用権限を有する者が同ETCカード を利用して前記各料金所等のETCレーンを通過したとの虚偽の情報を与え、その頃、同電子計算機に、前記区間内の通行料金が550円である旨の財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、よって、正規の通行料金との差額770円相当の財産上不法の利益を得た。 第2(令和5年3月30日付け起訴状記載の公訴事実)令和4年12月2日午前7時5分頃から同日午前7時16分頃までの間、大阪市a区b町c丁目d番地e号f高速g線h料金所から流入し、大阪府豊中市mn丁目地先f高速o線p出口ランプから流出するに際し、真実は、被告人Cは乗車しておらず、被告人C名義のETCカードの正当な使用権限がないのに、同ETCカードを挿入した同ETC車載器を作動させて、前記各料金所等に設置されたETCシステムの路側無線装置と同車載器との間で、同ETCカードに記録されたETCカード情報等を交信させ、D高速社が管理する大阪府内に設置されたETCシステム利用による通行料金の記録、徴収等の事務処理に使用される電子計算機に対し、同ETCカードの正当な使用権限を有する者が同ETCカードを利用して前記各料金所等のETCレーンを通過したとの虚偽の情報を与え、その頃、同電子計算機に、前記区間内の通行料金が690円である旨の財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作り、よって、正規の通行料金との差額630円相当の財産上不法の利益を得た。 【事実認定の補足説明】 1 本件の争点等弁護人らは、判示各事実につき、客観的な事実は争わないが、電子計算機使用詐欺罪の成否について、①「虚偽の情報」を与えていない【争点①】、②「財産上不法な利益」を得ていない【 1 本件の争点等弁護人らは、判示各事実につき、客観的な事実は争わないが、電子計算機使用詐欺罪の成否について、①「虚偽の情報」を与えていない【争点①】、②「財産上不法な利益」を得ていない【争点②】、③故意がなく、不法領得の意思もない【争点③】として、被告人らは無罪である旨主張する。 当裁判所は、被告人らは有罪であると判断したので、以下、その理由を補足して説明する。 2 前提となる事実関係証拠によれば、次の事実が認められる。 被告人Aと被告人Cは、同居する兄弟である。被告人Bは、被告人Aの運転手である。 ⑵ 各判示記載の各日時において、被告人Aは、被告人C名義のETCカード(以下「本件ETCカード」という。)が車載機に挿入された、被告人Bの運転する自動車に乗り、本件ETCカードを使用して、各判示記載の区間の高速道路を利用した。被告人Cは、同乗していなかったが、被告人Aらが本件ETCカードを使用することを認めていた。 3 争点①(「虚偽の情報」を与えていないとの主張)の検討⑴ 電子計算機使用詐欺罪における人の事務処理に使用する電子計算機に与える「虚偽の情報」(刑法246条の2)とは、電子計算機を使用する当該システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいうと解される(東京高等裁判所平成5年6月29日判決・高等裁判所刑事判例集46巻2号189頁参照)。 そこで、ETCシステムについてみると、まず、ETCシステムとは、料金の徴収を自動化するための機器及びこれを作動させるシステムの集合体をいい(有料道路自動料金収受システムを使用する料金徴収事務の取扱いに関する省令1条)、電子決済の一種であるところ、高速道路の混雑防止、キャッシュレス化による利便性の向上、管 させるシステムの集合体をいい(有料道路自動料金収受システムを使用する料金徴収事務の取扱いに関する省令1条)、電子決済の一種であるところ、高速道路の混雑防止、キャッシュレス化による利便性の向上、管理費の削減などを目的として運用が開始されたものである。 そして、ETCシステムを利用しようとする者は、ETCカードを発行する者の定める手続により、ETCカードの貸与を受けることが必要となる(ETCシステム利用規程3条)。 被告人C名義の本件ETCカードについてみると、Eファイナンスが発行する被告人C名義の「ECARD」というクレジットカードに付帯して発行さ れた「EETCCARD」であり、これを被告人CがEファイナンスから貸与を受けていることになる。 そして、クレジットカードに付帯するETCカードを使用した場合の料金の支払いについては、D高速社の定めるD高速道路営業規則及びETCシステム利用規程のほか、当該クレジットカード会社の定める会員規約によることとされている(D高速道路営業規則17条2項)。 そこで、D高速道路営業規則をみると、「ETCカードによるD高速道路の料金の支払いは、通行の都度、クレジットカード会社から貸与を受けている本人が乗車する車両1台に限り行うことができます。」(17条4項)、「当社は、次の各号に該当する場合は、ETCカードによる料金の支払いの取扱いを停止し、利用者に他の支払手段による支払いを求めることができます。・・・三当該ETCカードの名義人と異なる者が当該ETCカードを使用し、又は使用しようとした場合・・・」(17条7項)等の定めがあり、D高速社は、ETCカードの名義人が乗車していなければ、当該ETCカードを使用することはできないことを明確に示している。 また、本 使用しようとした場合・・・」(17条7項)等の定めがあり、D高速社は、ETCカードの名義人が乗車していなければ、当該ETCカードを使用することはできないことを明確に示している。 また、本件ETCカードの主たるカードであるクレジットカード(ECARD)の規約・規定をみると、その中のETCCARD利用規定(以下「ETC利用規定」という。)には、「ETCカードは、ETCカード上に表示された会員本人のみが利用することができます。」(2条4項)、「会員は、貸与されたETCカードを善良なる管理者の注意をもって使用・保管し、ETCカード上に表示された会員本人以外の者に、譲渡・質入その他の担保提供・貸与・寄託等のためにETCカードの占有を移転することはできないものとします。・・・」(2条5項)と定められており、ETCカードを使用できるのは名義人本人のみであることをやはり明確に示している。 このように、ETCカードを使用する有料道路を管理し、利用料金を徴収するD高速社及び本件ETCカードの発行元であるEファイナンスのいずれも、 本件ETCカードをカード名義人以外の者が使用することを禁止していることは明らかである。このように定められているのは、本件ETCカードが主たるカードであるクレジットカードの決済機能を利用するものである以上(ETC利用規定2条2項)、本件ETCカードもクレジットカードと同様に、カード名義人の個別的な信用を基礎として貸与されていることによるものと考えられる。 加えて、この点についてのEファイナンスの対応をみると、クレジットカードの現物を発行して名義人に郵送する際に会員規約やETC利用規定を同封して郵送するなどしているほか、ETCカードの裏面に、ETCカードの利用を本人に限定する旨記載するという方法 ると、クレジットカードの現物を発行して名義人に郵送する際に会員規約やETC利用規定を同封して郵送するなどしているほか、ETCカードの裏面に、ETCカードの利用を本人に限定する旨記載するという方法で周知しており、ETCカードの名義人と使用者とが一致していることに関心を持っていることが分かる。D高速社においては、クレジットカードに付帯するETCカードの場合、ETCカードが使用されると、クレジットカード会社がD高速社に立替払をする仕組みになっており、同社がクレジットカード会社の禁止する不正行為を見逃した場合には、クレジットカード会社との間の信頼関係に影響が出る可能性があるといえる。 D高速社(前身となるD高速道路公団)とEファイナンスとは、ETCカード名義人が同乗しない状態でETC会員以外の者がETCカードを使用したと認められる場合には、D高速社はETCカードによる支払いを拒絶した上で当該ETCカードを留置することができることとしていることからも(有料道路自動料金収受システム等を利用した有料道路通行料金決済契約書8条3号)、両社はETCカードの名義人以外の者がETCカードを使うことはできないとの共通認識を有していると考えられる。 以上のとおり、ETCシステムにおいては、クレジットカードに付帯するETCカードを使用する場合には、所定の審査を経てクレジットカードの発行を受け、ETCカードの貸与を受けた者との間でのみ電子決済をすることが重要な前提とされているといえる。そうすると、カード名義人である被告人Cが同 乗していないのに、被告人A及び被告人Bが本件ETCカードを使用したことは、ETCシステムで予定されている事務処理の目的に照らして真実に反するから、「虚偽の情報」を与えたといえる。 ⑵ 弁護人らの主張ア弁護人らは び被告人Bが本件ETCカードを使用したことは、ETCシステムで予定されている事務処理の目的に照らして真実に反するから、「虚偽の情報」を与えたといえる。 ⑵ 弁護人らの主張ア弁護人らは、被告人らは「虚偽の情報」を与えていないとして、ETCシステムの事務処理の目的は、道路整備特別措置法(令和5年6月改正前)や同施行規則等の文言を前提にすると、料金の徴収のために必要なその通行に関する情報を、当該料金を納付するために通行車をして記録させることにあるから、ETCカード名義人の情報が要求されるのみであって、カード名義人が同乗しているという情報までは要求されていないと主張する。 しかし、前述のとおり、ETCシステムは電子決済の一種であり、ETCカードがクレジットカードと結びついており、クレジットカードが名義人以外の者による使用を許さないものである以上、このような契約の内容を無視して、名義人以外の者がETCカードを使用することを許しているとは考えられない。 イまた、弁護人らは、「虚偽の情報」は「判断の基礎となる重要な事項」でなければならず、D高速社にとって「通過車両内にETCカード名義人が乗車している」との事情は上記の重要な事項ではないとも主張するが、下記~のとおり、採用することは困難である。 カード名義人の乗車を要求するとすれば、ETCレーンを通過させる車両をETCカード名義人が乗車して当該カードを利用する場合のみに制限することになってしまい、利便性向上等のETCシステムの目的に反するとの指摘については、前述のとおり、カード名義人の乗車を要求することがETCシステムの前提になっているとみることができ、それを前提にシステムを運用することは、ETC使用車両の利便性向上等と相反するわけではない。 おり、カード名義人の乗車を要求することがETCシステムの前提になっているとみることができ、それを前提にシステムを運用することは、ETC使用車両の利便性向上等と相反するわけではない。 D高速道路営業規則やETC利用規程の内容が分かりにくく、申込時に説明もないとの指摘については、本件ETCカードはクレジットカードに付帯して発行されるものであり、他人に貸してはいけないことはクレジットカードと同様であり、それ自体は難しい内容ではない上、本件ETCカードの裏面にはETCカードの利用を本人に限定する旨の記載がされているのであるから、名義人以外の者による使用が禁じられていることはむしろ分かりやすく示されているともいえる。 D高速社は、ETCカード名義人が同乗していない場合に当該カードを利用しての通行が不正通行であると評価されることの広報活動を行っておらず、家族間で名義人以外の者によるETCカードの利用がなされているかの実態調査も行っておらず、ETCレーン通過時に誰が通過したかの確認もしておらず、ETCカード名義人が乗車していることについて関心を抱いていない、D高速社は、ETCカードを名義人以外の者が使用していることを黙認しており、これに関心を寄せていることは外部的に明らかではないとの指摘については、どのような不正通行について、広報活動の有無も含めてどのように対応するかは、当該不正通行の悪質性、当該不正通行の広がりの程度、経済合理性等も踏まえて検討されるべきことであり、弁護人ら指摘の広報活動等が行われていなかったからといって、D高速社が関心を持っていなかったとか、黙認していたとはいえない。 「通過車両内にETCカード名義人が乗車している」ことに関する錯誤がなければETCレーンを通過させなかったという現実 て、D高速社が関心を持っていなかったとか、黙認していたとはいえない。 「通過車両内にETCカード名義人が乗車している」ことに関する錯誤がなければETCレーンを通過させなかったという現実的具体的因果関係はないとの指摘については、前述のとおり、ETCシステムにおいて、本来的にカード名義人の乗車が前提になっているとみることができる以上、錯誤がなければETCレーンを通過させていなかったとみるべきである。 道路交通法改正により車内に運転者が存在しない遠隔操縦が認められた のであるから、ETCカードの名義人が常に乗車しなければならないと考えるのは不合理であり、名義人本人の乗車を求めるD高速道路営業規則17条4項等は無意味化しているとの指摘については、本件は遠隔操縦での場面が問題となっているわけではないし、遠隔操縦の場合のETCカードの使用方法についての規定についてはこれから議論されていくものであり、本件のような通常の車両におけるETCカードの利用場面について、D高速道路営業規則が無意味になっているということはできない。 以上のとおりであり、そのほか関連して弁護人らが指摘する内容を踏まえて検討しても、D高速社にとって「通過車両内にETCカード名義人が乗車している」との事情が「虚偽の情報」の判断の基礎となる重要な事項ではないと評することはできない。 ウさらに、弁護人らは、仮にETCシステムにおける「通過車両内にETCカード名義人が乗車している」との事情が重要な事項に当たるとしても、クレジットカードの会員規約では、クレジットカードの紛失・盗難の事実をカード会社にすみやかに届け出る等の所定の手続をとった場合であっても、家族等の会員の関係者によって使用された場合には会員の支払は免除されないとされているか では、クレジットカードの紛失・盗難の事実をカード会社にすみやかに届け出る等の所定の手続をとった場合であっても、家族等の会員の関係者によって使用された場合には会員の支払は免除されないとされているから(会員規約15条2項)、会員の関係者は会員と同視できるとされているのであって、これはETCカードにもあてはまるとして、本件ETCカードの名義人である被告人Cの極めて身近な関係者である被告人Aによる本件ETCカードの使用は被告人Cによる使用と同視できると主張する。 しかし、上記会員規約によれば、家族については会員規約を承認の上申込手続等をした者のみを家族会員として扱い、家族会員にはカード利用を行う一切の権限を授与されている(会員規約2条2項)ことなどからすれば、会員規約において、会員本人と家族会員ではない家族とが明確に区別されていることは明らかである。弁護人らの挙げる会員の支払を免除しない規定(会 員規約15条2項2号)があるのは、家族等が使用すれば会員自身が支払いを負担することになると定めることにより、家族との関係でも無断で使用されないようにクレジットカードの使用・保管に善管注意を払ってもらう(会員規約3条5項参照)ためとみるのが素直である。会員規約が会員と会員の関係者を同視していると解することはできない。 ⑶ 小括以上の検討のとおり、弁護人らの主張を踏まえても、ETCシステムにおいて、本件ETCカードを使用するのは名義人本人のみであることが重要な前提とされているとの判断は左右されない。 したがって、名義人である被告人Cが同乗していない状態で、被告人Aと被告人Bが本件ETCカードを使用することは、「虚偽の情報」を与えたといえる。 4 争点②(「財産上不法な利益」を得ていないとの主張)の検討被告 る被告人Cが同乗していない状態で、被告人Aと被告人Bが本件ETCカードを使用することは、「虚偽の情報」を与えたといえる。 4 争点②(「財産上不法な利益」を得ていないとの主張)の検討被告人A、被告人Bは、本件ETCカードを不正に利用してETCシステムに虚偽の情報を与えたことによって、割引制度が適用されることになった。そのため、判示第1の事実においては正規の通行料金との差額770円相当の支払を免れ、判示第2の事実においては差額630円相当の支払を免れたのであるから、「財産上不法の利益」を得たといえる。 弁護人らは、平穏にETCレーンを通過した場合には現金払いとの差額を観念できないなどと主張するが、採用できない。 5 争点③(故意がなく、不法領得の意思もないとの主張)の検討 判示第1、第2のいずれの事実においても、被告人らは、被告人Cが同乗していない状態で、被告人A及び被告人Bが被告人C名義の本件ETCカードを利用して、ETCレーンを通過したという事実を認識・認容しているから、故意に欠けるところはない。なお、被告人Aと被告人Bは、暴力団組員であることから反社条項により自己名義のクレジットカードは持てないことを認識し、特に 被告人Aは、自己名義のETCカードを持てないことも認識しており、ETCカードの正当な使用権限のない者が他人名義のETCカードを用いることの認識を有していたことは十分に肯定することができる。 弁護人らは、被告人らは電子計算機使用詐欺罪が成立することを知らなかったと主張するが、違法性の錯誤にすぎず、故意は阻却されない。 また、ETCカードを利用すれば割引制度が適用されることは公知の事実であり、被告人らがこれを知らなかったという事情も見当たらないので、被告人らに不法領得の意思が認め ず、故意は阻却されない。 また、ETCカードを利用すれば割引制度が適用されることは公知の事実であり、被告人らがこれを知らなかったという事情も見当たらないので、被告人らに不法領得の意思が認められることも十分に肯定することができる。 弁護人らは、被告人Aは、ETCレーンを利用するとスムーズに高速道路に流入できるから本件ETCカードを使用したのであって、現金払いとの差額を得るためではないと主張するが、主たる目的が弁護人らの主張するようなものであるからといって、不法領得の意思が欠けることにはならない。 6 被告人らの行為の構成要件該当性争点①~③に関する判断は、これまでの検討のとおりである。また、被告人Cは、本件ETCカードを被告人Aらが使用することを認識しながら、被告人Aらに貸したのであるから、電子計算機使用詐欺罪の共謀があったと認められる。 以上によれば、被告人らの行為は、共謀による電子計算機使用詐欺罪の構成要件を充足するものと認められる。 7 本件の可罰的違法性についての検討本件では、被告人Cは、被告人Aらが本件ETCカードを使用することについて了解していたので、このような実態と、「ETCカードの名義人が同乗する」との情報との違いに、処罰に値するだけの「虚偽」性が認められるのかという観点でも、検討を加えておくこととする。 本件ETCカードの主たるカードであるクレジットカードは、名義人の承諾の有無にかかわらず、名義人でない者が使用することを許しておらず(会員規約3条4項、5項等)、名義人になりすまして使用した場合には詐欺の罪責を負うも のと解される(最高裁平成16年2月9日第2小法廷決定・刑集58巻2号89頁参照)。 そして、関係証拠によれば、被告人A及び被告人Bは、被告人Cが同乗 した場合には詐欺の罪責を負うも のと解される(最高裁平成16年2月9日第2小法廷決定・刑集58巻2号89頁参照)。 そして、関係証拠によれば、被告人A及び被告人Bは、被告人Cが同乗しない状態で本件ETCカードを頻繁に使用していたことが認められ、本件は、そのような常習的な行為の一環といえる。 さらに、本件ETCカードの主たるカードであるクレジットカードの会員規約29条には暴力団排除条項が規定されており、暴力団員にはクレジットカードを発行しないこととされているのであるから、クレジットカードに付帯するETCカードも暴力団員に発行されないはずであることは明らかである。ところが、被告人Cは、本件ETCカードと別のETCカードの発行を受ける一方、暴力団員である被告人Aと被告人Bに本件ETCカードを使用させ、本件ETCカードの利用料金については被告人Aが被告人Cに金員を渡し、被告人Cの口座から引き落とすことによって支払っていた。このような本件ETCカードの使用方法は、暴力団員との取引を拒絶する暴力団排除条項を潜脱するものである。 これらの事情に鑑みると、被告人Aらが本件ETCカードを使用するに当たり、被告人Cの了解があったにしても、処罰に値するだけの「虚偽」性を有するものと認められる。 弁護人らは、ETCカードの名義人(自分)が同乗していない状態で、自分名義のETCカードを貸したことのある人の割合が4割近くにのぼるなどのアンケート会社の調査結果を提出するなどして、本件で犯罪になると考えるのは非常識であるなどと主張するが、上記のような事情を踏まえると、本件では可罰的違法性もあると認められる。 8 結論以上の検討により、被告人らは電子計算機使用詐欺罪の共同正犯の罪責を負うものと判断した。 【累犯前科】 のような事情を踏まえると、本件では可罰的違法性もあると認められる。 8 結論以上の検討により、被告人らは電子計算機使用詐欺罪の共同正犯の罪責を負うものと判断した。 【累犯前科】 (被告人Aについて)省略【法令の適用】(被告人Aについて)省略(被告人B、被告人Cについて)省略【公訴権濫用の主張に対する判断】弁護人は、一般人であれば捜査すらしないのに、被告人Aが暴力団員であるがゆえに、本件公訴提起が行われたのであり、憲法14条に照らして許されない差別的、偏頗的なもので、公訴権の濫用であり、公訴棄却されるべきであると主張する。 しかし、前述のとおり、本件ETCカードは主たるカードであるクレジットカードと同様、名義人以外の者による使用を許されておらず、クレジットカードの他人使用は詐欺罪が成立し得る。そして、被告人らによる本件各犯行には常習性が認められる上、クレジットカード会社が規定する暴力団排除条項を潜脱するものである。 加えて、本件は、被告人Aを最高幹部とする暴力団組織に対する捜査をする中で嫌疑が生じ、D高速社に問い合わせたことで同社が本件を把握し、常習性、悪質性を考慮して同社が被害届を出すに至ったという経緯を経ている。 そうすると、被告人Aが暴力団員であるとの一事をもって公訴提起されたとはいえないのであり、憲法14条に反するような差別的、偏頗的な公訴提起ではないし、そのほか弁護人の主張を踏まえて検討しても、およそ職務犯罪を構成するような極限的な場合に当たらない(最高裁昭和55年12月17日第一小法廷決定・刑集34巻7号672頁参照)。 よって、公訴権濫用には当たらず、本件公訴が棄却されることはない。 【量刑の理由】本件は、常習的に行われた一環の犯行であり、悪質である。 第一小法廷決定・刑集34巻7号672頁参照)。 よって、公訴権濫用には当たらず、本件公訴が棄却されることはない。 【量刑の理由】本件は、常習的に行われた一環の犯行であり、悪質である。 そして、被告人Aは、異種とはいえ累犯前科があるのに本件各犯行に及んでおり、実刑とせざるを得ない。もっとも、被害額が比較的少ないことに照らすと、懲役10月とするのが相当と判断した。 また、被告人Bには考慮すべき前科はなく、被告人Cには前科がないことなどを踏まえると、両名については、それぞれ懲役10月とした上で、その刑の執行を3年間猶予するのが相当と判断した。 (求刑被告人Aにつき懲役1年6月、被告人Bにつき懲役1年、被告人Cにつき懲役10月)令和6年5月8日大阪地方裁判所第15刑事部裁判長裁判官末弘陽一裁判官髙橋里奈裁判官髙矢輝乃
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