主文 1 仙台労働基準監督署長が,原告に対して平成24年12月12日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文と同旨第2 事案の概要本件は,原告が仙台労働基準監督署長に対し,原告の子である亡Aは,勤務していた佐川急便株式会社(以下「本件会社」という。)での過重な業務,上司からの叱責やパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)等により,うつ病(以下「本件精神障害」という。)を発病して自殺(以下「本件自殺」という。)したものであり,本件精神障害が労働基準法(以下「労基法」という。)75条,労働基準法施行規則(以下「労基法施行規則」という。)35条,別表第1の2第9号及び労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号所定の「業務上の疾病」に該当し,Aがそれにより「業務上死亡」(労基法79条,80条)したとして,労災保険法12条の8第1項4号,5号及び第2項に基づき,遺族補償一時金及び葬祭料の各支給を請求したところ,仙台労働基準監督署長が平成24年12月12日付けでいずれも支給しない旨の各処分(以下「本件各処分」という。)をしたため,原告が本件各処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠等により容易に認定することができる事実)(1) 当事者等ア本件会社は,宅配便等の各種輸送に係る事業を主な事業とする株式会社 である。(争いのない事実)イ Aは,平成元年12月19日生まれの男性であり,原告とBとの間の子である。(争いのない事実)ウ Aは,平成20年3月に岩手 主な事業とする株式会社 である。(争いのない事実)イ Aは,平成元年12月19日生まれの男性であり,原告とBとの間の子である。(争いのない事実)ウ Aは,平成20年3月に岩手県立宮古商業高等学校を,平成22年3月に仙台大原簿記公務員専門学校をそれぞれ卒業した後,同月21日に本件会社に雇用された。(争いのない事実)(2) Aの勤務状況等ア Aは,入社後,本件会社の東北支社仙台店(以下「仙台店」という。)の営業課に配属され,ドライバー業務に従事していたが,平成22年4月中には同課に所属したまま配送管理課で荷さばき業務等に従事するようになった。(乙9の1・3,25,弁論の全趣旨)イその後,Aは平成22年5月には営業課に所属したままカスタマーサービス課(以下「CS課」という。)の業務を担当するようになり,同業務を担当したまま同年10月21日付けで営業課から配送管理課に異動し,同年12月又は平成23年1月頃より配送管理課に所属しながらCS課の業務を中心に担当するようになった。(乙5の3,25,弁論の全趣旨)ウ Cは,本件会社の従業員であり,平成23年5月,CS課に係長として配属され,同月以降Aが死亡するまでの間,Aの直属の上司であった。(争いのない事実)エ Dは,派遣会社から本件会社に派遣されている者であり,平成23年6月又は7月,主にAの担当していた業務を補助するためにCS課に配属された。(乙11,弁論の全趣旨)(3) Aの医療機関の受診ア Aは,平成23年12月21日,本件会社を無断欠勤し,同日午後5時30分頃,自ら救急車を呼んで東北厚生年金病院の緊急外来を受診し,前日の夜から頭痛,全身倦怠感,食欲不振及び吐き気があると訴えた。(争 いのない事実) 会社を無断欠勤し,同日午後5時30分頃,自ら救急車を呼んで東北厚生年金病院の緊急外来を受診し,前日の夜から頭痛,全身倦怠感,食欲不振及び吐き気があると訴えた。(争 いのない事実)イ Aは,平成23年12月22日,精神科の医療機関「広瀬通クリニック」(以下「広瀬通クリニック」という。)を受診した。同クリニックのE医師の診察で,Aに,頭がぼーっとして何も考えられないこと,眠気,頭痛,物忘れ,抑うつ気分,意欲低下,不安,動悸,息苦しさ及び食欲不振があり,自殺の観念もみられたことから,うつ病と診断された。(争いのない事実)(4) 本件自殺Aは,平成23年12月26日,自宅で首をつって自殺し,同月28日,既に死亡している状態で発見された。(乙6,弁論の全趣旨)(5) 本件各処分等ア原告は,仙台労働基準監督署長に対し,平成24年2月21日付けで,Aが本件会社における過重な業務,上司からの叱責やパワハラ等により本件精神障害を発病し,本件自殺に至ったとして,労災保険法12条の8第1項4号,5号及び第2項に基づき,遺族補償一時金及び葬祭料の各支給を請求した。(乙19,弁論の全趣旨)イ仙台労働基準監督署長は,平成24年12月12日付けで,Aの死亡には業務起因性が認められないとして,遺族補償一時金及び葬祭料のいずれも支給しない旨の処分(本件各処分)を行った。(甲4,5,弁論の全趣旨)ウ原告は,本件各処分を不服として,宮城労働者災害補償保険審査官に対し,労災保険法38条1項に基づき審査請求をしたが,同審査官は,本件各処分は妥当であるとして,平成25年5月8日付けで審査請求を棄却する決定をした。(甲6)エ原告は,上記決定を不服として,労働保険審査会に対し,労災保険法38条1項に基づき再 同審査官は,本件各処分は妥当であるとして,平成25年5月8日付けで審査請求を棄却する決定をした。(甲6)エ原告は,上記決定を不服として,労働保険審査会に対し,労災保険法38条1項に基づき再審査請求を行ったが,同審査会は,平成26年3月24日,これを棄却する裁決をした。(甲7) オそのため,原告は,平成26年9月9日,本件各処分の取消しを求めて本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著な事実)(6) うつ病に関する医学的知見国際疾病分類第10回修正版(以下「ICD-10」という。)第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害に係る診断ガイドラインが定められている「ICD-10 精神および行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」(以下「ICD-10診断ガイドライン」という。)には,「F3 2 うつ病エピソード」の診断基準について,次の内容の記載がある。(乙27)ア軽症,中等症,重症の抑うつのエピソードでは,患者は通常,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労性(活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少)を有する(一括して,以下「典型的症状」という。)。このほか,一般的症状として,集中力と注意力の減退,自己評価と自信の低下,罪責感と無価値観,将来に対する希望のない悲観的な見方,自傷あるいは自殺の観念や行為,睡眠障害,食欲不振を有する(一括して,以下「一般的症状」という。)。 うつ病エピソードは,重症度の如何に関係なく,通常,少なくとも2週間の持続が診断に必要とされるが,症状が極めて重く急激な発症であれば,2週間未満でも診断してよい。 イ軽症うつ病エピソードは,典型的症状のうち少なくとも2項目,一般的症状のうち少なくとも2項目が存在する必要がある。 て重く急激な発症であれば,2週間未満でも診断してよい。 イ軽症うつ病エピソードは,典型的症状のうち少なくとも2項目,一般的症状のうち少なくとも2項目が存在する必要がある。 中等症うつ病エピソードは,典型的症状のうち少なくとも2項目,一般的症状のうち3又は4項目が存在する必要がある。 重症うつ病エピソードは,典型的症状の全ての項目と一般的症状のうち4項目の症状が存在し,そのうちのいくつかが重症である必要がある。特に重症な症例では際立って自殺の危険が大きい。 2 争点本件の争点は,(1)本件精神障害の発病時期,(2)本件精神障害及び本件自殺の業務起因性であり,この点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 本件精神障害の発病時期(原告の主張)Aは,平成23年12月21日に救急車で東北厚生年金病院に搬送され,医師に対し,前日夜から頭痛,全身倦怠感,食欲不振及び吐き気の症状がある旨を訴えたから,本件精神障害の発病時期は,Aが東北厚生年金病院に搬送された同月21日頃である。 (被告の主張)広瀬通クリニックのE医師は,平成23年12月22日,Aを直接診察した上,Aが,頭がぼっーとして何も考えられず,眠気,頭痛,耳鳴り,物忘れ及び息苦しさを訴えたこと,Aに抑うつ気分,意欲低下,注意・集中の低下,自殺の観念及び食欲低下が2週間以上持続していることを根拠にAがうつ病であると診断し,発病時期についてはAが述べた内容を根拠に平成23年12月初旬と判断した。その後,複数の医療専門家が上記症状の出現状況やE医師の意見等を踏まえて,発病時期について同月上旬頃と判断した。 うつ病の診断は,うつ病に関する医学的知見による必要があり,いくつかの異常所見 の後,複数の医療専門家が上記症状の出現状況やE医師の意見等を踏まえて,発病時期について同月上旬頃と判断した。 うつ病の診断は,うつ病に関する医学的知見による必要があり,いくつかの異常所見の発現があれば直ちに確定診断できるものではないから,本件精神障害の発病時期は,平成23年12月上旬頃である。 (2) 本件精神障害及び本件自殺の業務起因性(原告の主張)ア業務起因性の判断基準精神障害が,労基法施行規則別表第1の2第9号の「心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神の障害」に該当し,労基法75条2項,労基法施行規則35条の「業務上の疾病」に該当するといえるために は,業務と精神障害との間に相当因果関係が存在すること(業務起因性)が必要であるが,労災保険法の定める労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の趣旨は,被災労働者の損害を塡補するとともに,被災労働者及びその遺族の生活を保障することにあるから,業務起因性は,同種業務に従事する平均的な労働者ではなく,当該労働者を基準として,客観的に精神障害を発病させるに足りる程度の負荷であったか否かという基準で判断すべきである。 仮に平均的な労働者を基準とするとしても,業務起因性の判断に当たり,労働者の年齢,経験等の客観的な要素を考慮すべきである。 イ本件における業務起因性(ア) 業務の過重性Aは,平成22年5月に仙台店でCS課の業務を担当するようになった当時は,Fの指導の下,2人で経理業務を行っていたが,平成23年5月にFが転勤したため,Aは入社2年目で経験が浅いにもかかわらず,経理業務を1人で行うようになった。また,同年5月頃は,同年3月11日に発生した東日本大震災の影響もあり, 行っていたが,平成23年5月にFが転勤したため,Aは入社2年目で経験が浅いにもかかわらず,経理業務を1人で行うようになった。また,同年5月頃は,同年3月11日に発生した東日本大震災の影響もあり,Aの担当業務はさらに増えていた。同年6月頃からはDがAの補助にあたっていたものの,Dが補助を担当していたのは現収処理(ドライバーが集金した代金を取りまとめる業務)だけであったので,Aの業務の過重性は緩和しなかった。このほか,Aは,業務の過重性から,業務上のミスを犯すようになり,また,処理できない業務に関する書類を多数自宅に持ち帰っていた。 このように,Aの業務は客観的に過重であったと評価することができる。 (イ) CのAに対する叱責,パワハラCは,平成23年10月頃から,Aに対して毎日のように叱責し,他の従業員の前で,「Aがこんなミスをしました。」などとミスを指摘し た上,日常的に「バカ」,「辞めろ。」,「使えないやつ」などの暴言を吐いていた。 また,Cは,自らが仙台店に持ち込んだエアガンをAに向けて撃ったり,Aの机が置かれている場所で話している際,Aに唾を吐きかけたりしていた。 さらに,Cは,平成23年12月20日,前日にAが受け付けた荷物が未着であったとして,Aに対し何度も電話して叱責した上,その後Aが退職の意思を伝えたときも,「辞めんのはいいんだけど,仕事片付けてからにしろ。」と言い,Aがうつ病を発病したと言ったことに対して,「そんなの関係ないんだ。迷惑かけられて大変だった。」と暴言を吐いた。 このようなCの言動はいずれもパワハラであって,Aに与えた心理的負荷の程度は強度であったと評価することができる。 (ウ) 以上の事情に,業務以外に自殺をする原因がないことを踏まえると,Aは業務によって ようなCの言動はいずれもパワハラであって,Aに与えた心理的負荷の程度は強度であったと評価することができる。 (ウ) 以上の事情に,業務以外に自殺をする原因がないことを踏まえると,Aは業務によって強度の心理的負荷を受け,それに基づき本件精神障害を発病し,本件自殺に至ったといえるから,本件精神障害及び本件自殺の業務起因性は肯定される。 (被告の主張)ア厚生労働省の認定基準厚生労働省は,精神障害に係る労災認定請求事案について,審査の迅速化を図るため,平成23年12月26日,厚生労働省労働基準局長通達(基発第1226第1号)「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(乙1。以下「認定基準」という。)を都道府県労働基準局長宛てに発出した。認定基準の主な内容は,次のとおりである。 (ア) 対象疾病ICD-10第V章「精神および行動の障害」に分類される精神障害 であって,器質性のもの及び有害物質に起因するものを除く。 (イ) 認定要件①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと(以下,各要件をそれぞれ「認定要件①」ないし「認定要件③」という。)の要件をいずれも満たす場合に,上記対象疾病につき,労基法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。 (ウ) 認定要件の具体的な判断a 認定要件①の対象疾病の発病の有無,発病時期及び疾患名は,ICD-10診断ガイドラインに基づき,主治医の意見書や診療録等の関係資料,請求人や関係者からの聴取内容,その他の情報から得られた認定事実により,医学的に判断 病の発病の有無,発病時期及び疾患名は,ICD-10診断ガイドラインに基づき,主治医の意見書や診療録等の関係資料,請求人や関係者からの聴取内容,その他の情報から得られた認定事実により,医学的に判断される。 b 認定要件②は,対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり,当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められることをいう。業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては,対象疾病の発病に関与したと考えられる業務による出来事及びその後の状況を具体的に把握する。それらによる心理的負荷の強度の程度については,別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「認定基準別表1」という。)を指標として,出来事の心理的負荷を「強」,「中」及び「弱」の三段階に区分し,総合評価が「強」と判断される場合には,認定要件②を満たすものとする。 具体的には,発病前おおむね6か月の間に,認定基準別表1の「特別な出来事」(以下「「特別な出来事」」という。)に該当する業務による出来事が認められた場合は,心理的負荷の総合評価を「強」と 判断する。「特別な出来事」に該当する出来事がない場合には,業務による個々の具体的な出来事について,心理的負荷の程度が「強」,「中」,「弱」のいずれであるかを評価する。業務による出来事が複数ある場合には,いずれかの出来事が「強」の評価となるときは,業務による心理的負荷を「強」と判断する。いずれの出来事も単独では「強」の評価にならないときは,出来事が関連して生じていれば,全体を一つの出来事として評価し,原則として,最初の出来事を認定基準別表1に当てはめ,関連して生じた出来事については出来事後の状況とみなす方法により全体評価を行 きは,出来事が関連して生じていれば,全体を一つの出来事として評価し,原則として,最初の出来事を認定基準別表1に当てはめ,関連して生じた出来事については出来事後の状況とみなす方法により全体評価を行うが,出来事に関連性がなければ,出来事の数,各出来事の内容(心理的負荷の強弱),各出来事の時間的な近接の程度を基に,全体的な心理的負荷を評価する。 c 認定要件③とは,業務以外の心理的負荷及び個体側要因が認められない場合と業務以外の心理的負荷又は個体側要因は認められるものの,業務以外の心理的負荷又は個体側要因によって発病したことが医学的に明らかであると判断できない場合のいずれかをいう。 イ業務起因性の判断基準業務起因性を認めるには,業務と精神障害との間に事実的因果関係があるのみでは足りず,相当因果関係があることが必要であり,それは業務に内在する危険が現実化したかという基準で判断される。 業務の危険性は,業務の内容,性質に基づき客観的に判断されるべきであり,本人の脆弱性の程度によって業務の危険性が左右されるのは不合理である。現在の精神医学で広く受け入れられている「ストレス―脆弱性」理論においては,客観的に小さなストレスに対して過大に反応した場合には,当該特定人の個体側の脆弱性の問題として理解するとされている。労災保険制度は危険責任に基づく無過失責任であり,脆弱性の大きな労働者に発生した精神障害まで労災保険制度で救済することは制度の趣旨に反す る。これらの点に鑑みれば,危険性は平均的な労働者を基準に判断されるべきである。 また,業務に内在する危険が現実化したといえるには,業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因になったと認められることが必要である。 そして,具体的事案において である。 また,業務に内在する危険が現実化したといえるには,業務による危険性が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因になったと認められることが必要である。 そして,具体的事案において業務起因性の有無を適正に判断するためには,精神障害の医学的知見を踏まえた上で,危険性,現実化の要件を具体化する必要がある。この点,認定基準は,医師らの専門家が「ストレス―脆弱性」理論に依拠して検討した報告書を踏まえて作成されたものであり,その内容は現時点における医学的経験則に沿ったものといえるから,精神障害の業務起因性を認定基準に沿って判断することは,医学的にはもとより,社会的な側面からも合理性がある。したがって,業務起因性の判断にあたっては,認定基準における認定要件①ないし③を満たすか否かを検討する必要がある。 ウ本件における業務起因性本件では,発病時期について争いはあるものの,Aはうつ病を発病しているから,認定要件①を認めることができるが,次のとおり認定要件②を欠くから,業務起因性は認められない。 (ア) 業務の過重性平成23年5月頃にFが異動した後,Aは支払申請事務(顧客に対して支払請求をする書類を本社に送付する業務)を滞らせるようになったことから,本件会社はAを同事務の担当から外した。また,同年6月又は7月頃以降は現収処理等の業務経験のあるDにAの補助をさせていたので,Aの業務量はFが担当していた業務量よりも少なかった。 また,Aの時間外労働時間は最長でも1か月当たり45時間12分であり,同年12月10日から同月24日までの時間外労働時間の合計も 6時間43分に過ぎないので,Aが恒常的に長時間労働をしていたともいえない。 Aは,業務に関する書類を自宅に持ち帰っているが,これらの書類は,自宅に 24日までの時間外労働時間の合計も 6時間43分に過ぎないので,Aが恒常的に長時間労働をしていたともいえない。 Aは,業務に関する書類を自宅に持ち帰っているが,これらの書類は,自宅に持ち帰ったからといって何らかの作業ができるような性質,内容のものではないから,書類を持ち帰ったことをもって業務が過重であるということはできない。 このように,本件でのAの業務は過重であったとはいえず,認定基準に当てはまるような事情はない。 (イ) CのAに対する叱責,パワハラCは,Aがたびたび遅刻をしたため注意したことはあったが,これは社会人として当然遵守すべきルールを指導したにとどまり,社会通念上許容される範囲内のものである。また,Cは,Aが何度か書類の送付を怠り,注意をしても改善が見られなかったため,強い口調で,「何度言ったら分かるのか。」などの注意をしたこともあるが,上司が部下の業務上のミスについて注意することは通常の対応であって,不適切な言動や表現が用いられたものではない。 このほか,Cが,Aに対し,日常的に,「バカ」,「辞めろ。」,「使えないやつ」等の暴言を吐いた事実はない。 また,CがAに対してエアガンを撃ったり,Aに唾を吐きかけたりしたという事実はない。 さらに,平成23年12月20日,Aが前日受け付けた荷物が未着であったことが判明した際,仙台店の従業員がAに対し,電話連絡等を行って受付の経緯等について調査しているものの,Aは,Cから叱責を受けておらず,本件会社から処分やペナルティを受けていない。その後Aから退職の意思を伝えられた時,CはAに対し,正月に帰省した際に親と相談するように話したにとどまり,「辞めんのはいいんだけど,仕事 片付けてからにし 分やペナルティを受けていない。その後Aから退職の意思を伝えられた時,CはAに対し,正月に帰省した際に親と相談するように話したにとどまり,「辞めんのはいいんだけど,仕事 片付けてからにしろ。」,「そんなの関係ないんだ。迷惑かけられて大変だった。」という暴言を吐いた事実はない。 そして,Cからの注意や叱責については,その態様を踏まえれば,心理的な負荷の強度は認定基準別表1の「弱」にとどまる。また,Aの受け付けた荷物が未着であったことについては,Aのミスによるとも断定できない上,仮にAのミスであるとしても,重大な仕事上のミスであるとまではいえず,Aがその事後対応に当たったこともないから,その心理的負荷の強度は「弱」にとどまる。 (ウ) 以上のように本件精神障害の発病前,発病後の事情のうち,特別な出来事に当たるような事情はなく,具体的出来事に対する心理的負荷の強度は「弱」にとどまるので,認定要件②は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実上記前提事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる(なお,【 】内の数字は尋問調書の該当頁を示す。)。 (1) Aの業務内容等ア A(平成元年12月19日生まれ)は,平成22年3月21日に本件会社に入社し,仙台店において,ドライバー業務や荷さばき業務等を担当した後,同年5月からCS課の業務を担当するようになり,同年12月又は平成23年1月頃以降は,主としてCS課の経理業務を担当していた。 イ AがCS課の業務に従事するようになってから担当した業務は,①現収処理,②代引き調査(代金引換の荷物をシステム上確認し,集金の遅れの有無等を調査して報告する業務),③小口現金処理(仙台店で保管している少額の現金の入出金を管理する業務),④手書き た業務は,①現収処理,②代引き調査(代金引換の荷物をシステム上確認し,集金の遅れの有無等を調査して報告する業務),③小口現金処理(仙台店で保管している少額の現金の入出金を管理する業務),④手書き領収書の確認(領収書等に記載誤り等があり,直ちに修正する必要がある際に,データを見ながら領収書を手書きで再発行する業務),⑤本社への書類送付(本件会社の 本社あてに入金明細書等を封筒に入れて発送する業務),⑥ドライバーからの運賃確認等の問合せへの対応,⑦アイリスオーヤマ株式会社での荷さばき業務,⑧顧客からの苦情の電話がかかってきた場合の電話の取次ぎ,⑨仙台店における荷受け業務,来客対応,⑩支払申請業務(顧客に対して支払請求をする書類を本社に送付する業務)等であった。(乙10の1,25,証人C【3,5頁】)Aの主な業務は上記①の現収処理であったが,これは,前日にドライバーが入金した現金や小切手の管理,入金データの本件会社のシステムへの送信,入金データと入金伝票との照合,前日にドライバーが上記入金処理を行わなかった場合における事務処理の代行等であった(乙10の1,12の2)。また,上記⑦の荷さばき業務の頻度は,月に1,2回程度であり(乙25),上記⑨の荷受け業務,来客対応の頻度は,日に1,2回程度であった。(乙10の1)ウ Aは,平成22年12月又は平成23年1月頃以降,Fの指導の下で上記各業務を行った。Aは,Fが同年5月に異動した後は,これらの業務を1人で行っていたが,上記⑩の支払申請業務が滞るようになったことから,本件会社はAを同業務の担当から外した。(乙9の3,25,証人C【4,5頁】)その後も,Aの業務が滞ることがあったため,同年6月又は7月頃,Aの補助のため,現収処理の経験のあるDがCS 本件会社はAを同業務の担当から外した。(乙9の3,25,証人C【4,5頁】)その後も,Aの業務が滞ることがあったため,同年6月又は7月頃,Aの補助のため,現収処理の経験のあるDがCS課に配属され,Aの同業務を補助するようになった。(乙10の1,11,証人C【6,7頁】)(2) Aの労働時間ア Aの始業時刻は午前9時,終業時刻は午後6時であり,休憩は昼に交代で1時間,休日は毎週日曜日及び交代制による他の曜日,年末年始等とされていた(乙10の1,11)。Aの具体的な労働時間及び時間外労働時間は,以下のとおりであった。(乙14の2) イ平成23年6月14日から同年7月13日までの労働時間総労働時間 200時間14分内時間外労働時間 32時間14分ウ平成23年7月14日から同年8月12日までの労働時間総労働時間 194時間10分内時間外労働時間 22時間49分エ平成23年8月13日から同年9月11日までの労働時間総労働時間 204時間13分内時間外労働時間 44時間13分オ平成23年9月12日から同年10月11日までの労働時間総労働時間 185時間38分内時間外労働時間 17時間38分カ平成23年10月12日から同年11月10日までの労働時間総労働時間 198時間23分内時間外労働時間 22時間23分キ平成23年11月11日から同年12月10日までの労働時間総労働時間 221時間12分内時間外労働時間 45時間12分ク平成23年12月11日から同月24日までの労働時間総労働時間 2月10日までの労働時間総労働時間 221時間12分内時間外労働時間 45時間12分ク平成23年12月11日から同月24日までの労働時間総労働時間 76時間33分内時間外労働時間 6時間43分(3) CのAに対する日常的な注意ア Cは,平成23年5月,CS課に異動し,同課の係長としてAの直属の上司となった。これ以降,CS課の事務室において,Cの座席は,Aの座席から通路を挟んだ向かい側に,Dの座席は,Aの座席の隣にあった。(証人C【27頁】) イ Aは,平成23年7月と8月に遅刻を繰り返していたことから,Cは,Aに対し,二,三回,社会人として遅刻はよくないという注意を少し強い口調でしたところ,Aの遅刻はほぼなくなった。(乙10の1,14の2,証人C【9,10,11,35頁】)ウまた,Aは,平成23年5月以降,上記(1)イ⑤の本社への書類送付の業務を怠ったため,Cは,Aに対し,月に一,二回,注意をしていた。Cは,Aが注意を受けた後も同業務を怠ったため,Aに対し,「何度言ったら分かるんだ。」と,強い口調で注意したことがあった。(証人C【12,36頁】)エ上記以外にも,Cは,Aに対し,平成23年10月頃から,日常的な仕事のミス等に対して毎日のように注意を行っていた。(乙15の1・2,19,24)(4) CのAに対するエアガンの発射行為及び唾を吐きかける行為ア Cは,CS課に異動後,荷物を置いてある構内に来た鳩を追い払うためとして,仙台店に私物のエアガンとプラスチック製の小さな弾が約500個入ったボトルを持ち込み,自らの机の引き出し内に共に保管していた。 なお,構内の鳩を追い払うのはCS課の業務ではなく,Cは,エアガンを て,仙台店に私物のエアガンとプラスチック製の小さな弾が約500個入ったボトルを持ち込み,自らの机の引き出し内に共に保管していた。 なお,構内の鳩を追い払うのはCS課の業務ではなく,Cは,エアガンを持ち込むに当たり,上司の指示や他の課から依頼を受けたことはなく,仙台店の店長に相談することもなかった。(証人C【39,40頁】)Cは,仙台店において,毎日少なくとも1回,1日平均20発,多いときは30から40発程度エアガンを撃っていた。(証人C【31頁】)イ Cは,平成23年12月18日頃,仙台店において,周りに人がいる場所で,Aの足元をめがけてエアガンを撃った。また,Cは,同じ頃,仙台店において,Aに対し,唾を吐きかけた。(この認定根拠については,後記2(2)及び(3)で詳述する。)ウ Aは,平成23年12月18日,インターネット上のサイトである「ミ クシィ」の掲示板に,仮名で「上司に唾かけられたり,エアガンで打たれたりするんですが,コレってパワハラ?」という投稿を行った。(甲3)(5) 平成23年12月20日から本件自殺に至るまでの経緯ア平成23年12月20日,顧客から仙台店に対し,同日到着予定の荷物が届いていない旨の連絡があった。上記荷物預り証の控えにAの印影があり,Aが前日に受け付けた荷物であることがわかったため,Cを含む複数の仙台店の従業員が,公休日で休んでいたAに何度も電話し,上司の中にはAを叱責する者もいた。その後,一度に複数の荷物を受け付けた者が荷物に貼ることになっているバーコードのシールが一部の荷物に貼られていないため,荷物が配送されないままになっていたことが判明し,仙台店の店長が当該荷物を当日中に配送先に届けた。なお,Aがこの件に関し本件会社から処分やペナルティを受 ドのシールが一部の荷物に貼られていないため,荷物が配送されないままになっていたことが判明し,仙台店の店長が当該荷物を当日中に配送先に届けた。なお,Aがこの件に関し本件会社から処分やペナルティを受けることはなかった。(乙9の1,10の1,15の1,19,24,証人C【14頁】)イ Aは,平成23年12月20日夜から頭痛,全身倦怠感,食欲不振が現れ,食事もとれなくなったため,同月21日,本件会社を無断欠勤した。 Aは,吐き気も伴ったため,同日午後5時半頃,自身で救急車を呼んで東北厚生年金病院の緊急外来に搬送され,同病院のG医師の診察を受けた。 Aは,G医師に対し,一昨日(同月19日)に仕事でミスをして上司から叱責され,その後から,上記各症状が出現したと訴えた。G医師は,仕事上のストレスから心身症を発症した疑いがあると診断し,Aに対し,専門機関の受診を指示した。(乙14の2,15の1,19)Cは,同日夕方頃,救急隊員からAの携帯電話を通じてAが救急車で上記病院に運ばれた旨の連絡を受け,上記病院に行った。Cは,G医師からAの症状について説明を受け,Aの専門機関への受診を指示された。(乙15の1,19,証人C【15頁】)Aが上記病院でCに対し,退職を考えていると話したところ,Cは,残 っている仕事を片付けてからにするよう告げた。(この認定根拠については,後記2(4)で詳述する。)Aは,同日夜,母親であるBに対し,同日救急搬送された件のほか,仙台店において上司のCからエアガンで撃たれたことや唾を吐きかけられたことを伝えた。(乙18)ウ Aは,平成23年12月22日,精神科の医療機関である広瀬通クリニックを受診し,E医師の診察を受けた。E医師は,Aに,頭がぼーっとして何も考えられないこと,眠気,頭痛 ことを伝えた。(乙18)ウ Aは,平成23年12月22日,精神科の医療機関である広瀬通クリニックを受診し,E医師の診察を受けた。E医師は,Aに,頭がぼーっとして何も考えられないこと,眠気,頭痛,物忘れ,抑うつ気分,意欲低下,不安,動悸,息苦しさ及び食欲不振があり,自殺の観念もみられたことから,うつ病(本件精神障害)と診断し,約1か月間の自宅療養を指示した。 (乙15の2)Aは,同日夜,自身のスマートフォンに,「これを始めに読んだひとへ。 僕も僕なりに色々頑張ってみたけどやっぱりダメでした。薬を飲んでも,励ましてもらっても,病気の事を訴えても理解してもらえませんでした。 心配してもらって,迷惑かけまくってるのも重々承知の上ですが私は2011年12月23日に自分の人生に幕を降ろす事にきめました。ごめんなさい。」という書き込みを行った。(甲2,乙18)エ Aは,平成23年12月23日,仙台店に行き,Cに対し退職の意向を示したが,Cから,仕事を片付けてからにするよう指示され,Aがうつ病になったと訴えても,「そんなの関係ない,迷惑かけられて大変だった。」と言われた。(この認定根拠については,後記2(4)で詳述する。)オ Aは,平成23年12月23日及び同月24日,2日間合計で約2時間30分の時間外労働に及ぶ勤務に従事した。 Aは,同月25日は公休日であったため出勤せず,勤務日であった同月26日,Cに対し,体調が悪いので遅れる旨の連絡を入れた後,自宅において,本件会社の制服姿で首をつって自殺した。(乙10の1,14の1・ 2,18,弁論の全趣旨)(6) Aの自宅に残されていた書類Aの自宅には,Aが仙台店から本件会社に無断で持ち帰った口座振替に関する書類,輸入代理店の荷物の配送に関する伝票,現収処理,小口現金処理及び 論の全趣旨)(6) Aの自宅に残されていた書類Aの自宅には,Aが仙台店から本件会社に無断で持ち帰った口座振替に関する書類,輸入代理店の荷物の配送に関する伝票,現収処理,小口現金処理及び代引き処理に関する書類,業務日報等の業務に関する書類が発見されたが,Aがこれらの書類を自宅に持ち帰った理由や経緯は不明である。(甲9の1ないし11,10の1ないし7,11の1ないし13,12の1ないし3,13,14,15の1ないし3,16の1・2,17ないし23,25の1・2,26,27の1ないし5,28,29,30の1・2,乙25) 2 事実認定の補足説明(1) CのAに対する日常的な注意(上記認定事実(3)イないしエ)についてア原告は,CがAに対し,日常的に「バカ」,「辞めろ。」,「使えないやつ」などの暴言を吐いていたと主張し,Bの聴取書(乙18)にも同旨の記載がある。 しかしながら,Bの聴取書(乙18)によれば,Bは上記発言をAから直接聞き取ったものではなく,Aが専門学校に在籍していた際に寮で同室であった友人から上記発言の存在を伝え聞いたにすぎないところ,Aと同じ寮に入っていた友人(上記友人と同一人であるかは明らかでない。)であるHの聴取書(乙21)及びI作成の陳述書(甲8)には上記発言の存在を裏付ける記載はなく,東北厚生年金病院及び広瀬通クリニックの各診療録(乙15の2,19,24)にも上記発言の存在を窺わせる記載がないことからすると,Cの上記発言を認めるには足りないというべきである。 イ他方,上記認定事実(3)エにつき,証人Cは,Aを毎日のように注意することはなかった旨供述する。 しかしながら,Aは,東北厚生年金病院のG医師に対し,二,三か月前から毎日仕事で怒られた旨を述べ(乙15の1,19), ,証人Cは,Aを毎日のように注意することはなかった旨供述する。 しかしながら,Aは,東北厚生年金病院のG医師に対し,二,三か月前から毎日仕事で怒られた旨を述べ(乙15の1,19),その翌日には, 広瀬通クリニックのE医師に対し,自らの仕事のミスが多く毎日のように怒られている旨を述べたこと(乙15の2,24)が認められるところ,体調不良が原因で病院に行った患者であるAが,診察に当たった医師に対し,自らの職場の状況について殊更に真実に反する内容を話す理由がないことに照らすと,Aが医師に話した上記内容は信用性が高いというべきである。そうすると,Cの上記供述部分は,Aに対する注意の頻度を実際よりも少なく述べるものであって,信用することはできない。 また,証人Dは,AがCから注意されたのを見たのは1回のみであり,他にAがCから叱られたことを聞いたこともないと供述するが,上記供述部分は,Dの聴取書(乙11)にAが仕事のミスで何度かCから叱られたことを知っている旨の記載があることと整合せず,内容が変遷したことについて合理的な説明もない。そうすると,Dの上記供述部分は,上司からの叱責等が精神障害の原因となったのか否かが争点となっている労災認定請求事案にとって重要な部分において,その供述内容を変遷させるものであって,信用することができない。 したがって,証人C及び証人Dの上記各供述部分は,上記認定を左右するものではない。 (2) CのAに対するエアガンの発射行為(上記認定事実(4)イ)について原告は,CがエアガンをAに向けて撃ったと主張し,被告は同事実を否認する。 そこで検討するに,証拠(甲3,乙18,21,証人B【16頁】)及び弁論の全趣旨によれば,BがAから,Cにエアガンで足元をめがけて撃たれ,その際に 向けて撃ったと主張し,被告は同事実を否認する。 そこで検討するに,証拠(甲3,乙18,21,証人B【16頁】)及び弁論の全趣旨によれば,BがAから,Cにエアガンで足元をめがけて撃たれ,その際に周囲で見ていた人が引いていた旨の話を聞いたこと,Aの友人であるHもAからエアガンで撃たれた旨の話を聞いたこと,Aが,平成23年12月18日,インターネット上のサイトである「ミクシィ」の掲示板に,上司からエアガンで撃たれたことを内容とする書き込みをしたことが認められ る。 まず,BがAから聞いたとするエアガンで撃たれた際の状況は,周囲の人の反応を含んだ具体的なものである上,HがAから聞いた内容やAによるインターネット上の書き込みの内容とも合致している。また,仮にAが職場で上司からエアガンで撃たれたという事実が存在しないのであれば,Aが殊更に架空の話を作り上げて,母親や友人に話したり,仮名であるとはいえインターネット上に書き込んだりする動機は見出せない。加えて,Cが,上記認定事実(4)アのとおり,鳩を追い払うという理由で,私物のエアガンを職場に持ち込んで自らの机の中に保管し,実際に毎日相当多くの弾を撃っていたことに照らすと,客観的には,何らかの機会にCがAに向けて撃とうと思えば撃つことが可能な状況にあったことが認められる。さらに,上記認定事実(3)ウ,エによれば,Cにおいて,部下であるAが書類送付等の業務で多くのミスを犯していた上に,何度注意しても容易に改まらないと認識していたことが認められ,そのようなAに対していらだちや不満といった負の感情を抱えていたことが窺えることからすると,Aに向けてエアガンを撃つといった嫌がらせを行う動機の存在を否定することはできない。これらの事実を併せ考慮すると,Aによる上記書き込みがされた日と同じ日頃に を抱えていたことが窺えることからすると,Aに向けてエアガンを撃つといった嫌がらせを行う動機の存在を否定することはできない。これらの事実を併せ考慮すると,Aによる上記書き込みがされた日と同じ日頃に,CがAの足元をめがけてエアガンを撃ったという事実を推認することができる。なお,Hの聴取書(乙21)には,Aからエアガンで撃たれたと聞いた時期が同年10月頃であるとの記載があるが,Aがエアガンで複数回撃たれたこともあり得ることからすると,同記載は上記認定と矛盾するものではない。 これに対し,証人Cは,仙台店の構内の鳩を追い払うためにエアガンを職場に持ち込んだのであって,Aも含めて人に向けてエアガンを撃ったことはないと供述する。 しかしながら,構内の鳩を追い払うことはCの所属するCS課の業務ではなく,また,Cは上司の指示や他の課からの依頼もないのに,独断でエアガ ンと弾を職場に持ち込んだ上に,実際に毎日数十発もの弾をエアガンで撃っていたのであり,そのような状況下では,たとえ鳩を追い払うためにエアガンを職場に持ち込んだのだとしても,エアガンを机から取り出して使用後にしまい込むまでの間に,Aが構内に出ていたり,Cと同じ事務室にいたりする機会において,Aに向けて撃つことは可能であり,また,そのような行動に及ぶ動機の存在については上記認定のとおりであるから,Aに向けて撃ったことはないとのCの供述は信用することができない。 また,証人Dは,Cがエアガンを職場に持ち込んでいることを知らなかったと供述するが,上記認定のとおり,CとDの各机が同じCS課の事務室内にあって,Cがその机の中からエアガンを毎日持ち出していたことに照らすと,Cがエアガンを職場に持ち込んでいたことにDが気づかないということは不自然,不合理である上に,証人Dの供述は, S課の事務室内にあって,Cがその机の中からエアガンを毎日持ち出していたことに照らすと,Cがエアガンを職場に持ち込んでいたことにDが気づかないということは不自然,不合理である上に,証人Dの供述は,上記(1)イのとおり重要な部分において不合理な変遷を含むものであって,全体としての信用性が高くないことに照らすと,証人Dの上記供述部分は信用することができない。 (3) CのAに対する唾を吐きかける行為(上記認定事実(4)イ)について原告は,CがAに唾を吐きかけたと主張し,被告は同事実を否認する。 そこで検討するに,証拠(甲3,乙18,21,証人B【5,6頁】)及び弁論の全趣旨によれば,BがAから,Cと話している時にぺっと唾をかけられた旨の話を聞いたこと,Aの友人であるHもAから職場で唾を吐かれた旨の話を聞いたこと,Aが,平成23年12月18日,インターネット上のサイトである「ミクシィ」の掲示板に上司から唾を吐きかけられたことを内容とする書き込みをしていることが認められる。 まず,BがAから聞いた内容は,HがAから聞いた内容及びAによるインターネット上の書き込みの内容と合致している。また,仮にAが職場で上司から唾を吐きかけられたという事実が存在しないのであれば,Aが殊更に架空の話を作り上げて,母親や友人に話したり,仮名であるとはいえインター ネット上に書き込んだりする動機は見出せない。さらに,上記認定事実(3)ウ,エによれば,Cにおいて,部下であるAが書類送付等の業務で多くのミスを犯していた上に,何度注意しても容易に改まらないと認識していたことが認められ,そのようなAに対してCがいらだちや不満といった負の感情を抱えていたことが窺えることに照らすと,CがAに対し注意を行った時などに唾を吐きかけるという行動に及ぶことも十分に 識していたことが認められ,そのようなAに対してCがいらだちや不満といった負の感情を抱えていたことが窺えることに照らすと,CがAに対し注意を行った時などに唾を吐きかけるという行動に及ぶことも十分にあり得る。これらの事実を併せ考慮すれば,Aによる上記書き込みがされた日と同じ日頃に,CがAに対し唾を吐きかけたという事実を推認することができる。なお,Hの聴取書(乙21)には,Aから職場で唾を吐きかけられたと聞いた時期が同年10月頃であるとの記載があるが,複数回唾を吐きかけられた可能性もあり得ることからすると,同記載は上記認定と矛盾するものではない。 これに対して,証人Cは,Aに唾を吐きかけたことはないと供述するが,上記説示したところに照らして採用することはできない。また,証人Dは,AがCから唾を吐きかけられた事実を見たことや聞いたことはないと供述するが,CがDの見ていない時にAに唾を吐きかけた可能性も存在すること,証人Dの供述は,上記(1)イ及び(2)のとおり不合理な内容を含むものであって,全体としての信用性が高くないことに照らすと,証人Dの上記供述部分は,上記認定を左右するものではない。 (4) Aから退職の意向を聞いた際のCの対応(上記認定事実(5)イ,エ)について原告は,AがCに退職の意思を伝えた際に暴言を吐かれたと主張し,被告はこれを否認する。 そこで検討するに,証拠(乙14の1・2,18,21)及び弁論の全趣旨によれば,Bが平成23年12月21日にAから,東北厚生年金病院でCに退職を考えている旨話したところ,Cから「残っている仕事を片付けてからにしろ。」と告げられた旨の話を聞いたこと,Aが同病院を受診した翌日 である同月22日に,スマートフォンに「病気のことを訴えても理解されなかった」旨の書き込みをしたこ る仕事を片付けてからにしろ。」と告げられた旨の話を聞いたこと,Aが同病院を受診した翌日 である同月22日に,スマートフォンに「病気のことを訴えても理解されなかった」旨の書き込みをしたこと,Hが同月23日にAから,同日職場で「辞めんのはいいけど,仕事を片付けてからにしろ。」と言われ,うつ病になったと言っても,「そんなの関係ないんだ。迷惑かけられて大変だった。」と言われた旨の話を聞き,これがAとHとの間の最後の会話となったこと,Aが同月21日にCに対し退職の意向を示したにもかかわらず,同月23日及び24日に出勤して時間外労働に及ぶ勤務をしたことが認められる。 まず,BがAから聞いた話の内容は,HがAとの最後の会話として述べる内容とも整合的である上,Aがスマートフォンに,自分がうつ病を発病したことを職場に訴えたものの理解されなかったことを示唆する内容の書き込み(なお,「励ましてもらっても」という書き込み部分はBらによる励ましを指すものと考えられる。)をしたという客観的事実とも合致している。また,HがAから聞いた話の内容は,Hが死亡した者との間の最後の会話として記憶していたものであって通常印象に残りやすく,また,本件に利害関係を持たない者の供述として信用性が高いというべきであり,BがAから聞いた内容とも整合しており,互いに信用性を補完し合う関係にある。加えて,Aが同月23日及び24日当時うつ病を発病し,約1か月間の自宅療養を指示されて退職を考えていた状況にあり,上司であるCは,Aが救急搬送された病院に行き,Aに元気がなかった様子を目の当たりにし,医師からAの専門機関への早急の受診を指示されるなど(乙15の1・2,19,証人C【31頁】),Aの病状を把握できる立場にいたことに照らせば,Aが同月23日及び24日に時間外労働に及ぶ勤 たりにし,医師からAの専門機関への早急の受診を指示されるなど(乙15の1・2,19,証人C【31頁】),Aの病状を把握できる立場にいたことに照らせば,Aが同月23日及び24日に時間外労働に及ぶ勤務に従事したという事実は,健全な職場環境において上司の部下の健康に対する配慮があれば通常生じるはずのない経過を辿ったものであり,Aが病を押して上記のとおりの勤務に従事するに至る過程で,上司であるCから本件精神障害を理解しない職務上の指示を受けたことを強く推認させるものである。 これらの事実によれば,Aが同月21日にCに退職を考えている旨話した際,CがAに対し,残っている仕事を片付けてからにするよう指示したという事実,Aが同月23日に退職の意向を示した際,CがAに対し,再び,仕事を片付けてからにするように指示し,Aからうつ病になったと言われても,「そんなの関係ない,迷惑かけられて大変だった。」と述べたという事実が認められる。 これに対し,証人Cは,同月21日に東北厚生年金病院を訪れた際,Aが精神障害を患っていたことについて話を聞いておらず,Aから退職を検討している旨の申入れを受けた際には,正月に実家で両親と相談した方が良いと伝え,上記のような発言はしていないと供述する。 しかしながら,東北厚生年金病院の診療録(乙19)には,G医師が上司(C)に対し,Aに心身症の疑いがあるので,専門機関を早急に受診するよう説明し,了解された旨が記載されているところ,証人Cの上記供述部分は客観的証拠である診療録の記載内容と整合しないことから信用することができない。 3 争点(1)(本件精神障害の発病時期)について(1) 上記前提事実のとおり,うつ病エピソードに関し,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労性(活動性の減退による易疲労感 とができない。 3 争点(1)(本件精神障害の発病時期)について(1) 上記前提事実のとおり,うつ病エピソードに関し,抑うつ気分,興味と喜びの喪失,易疲労性(活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少)の典型的症状のうち,軽症と中等症では少なくとも2項目,重症では全項目が存在するとともに,集中力と注意力の減退,自己評価と自信の低下,罪責感と無価値観,将来に対する希望のない悲観的な見方,自傷あるいは自殺の観念や行為,睡眠障害,食欲不振の一般的症状のうち,軽症では少なくとも2項目,中等症では3又は4項目,重症では4項目が存在する必要がある。 これを本件についてみると,上記認定事実及び証拠(乙15の2,19,24)によれば,Aは,平成23年12月21日に東北厚生年金病院を受診した際に,前日から摂食できておらず,入眠障害があり,睡眠時間が4時間 程度しかとれなかったと訴え,翌22日に広瀬通クリニックを受診した際には,抑うつ気分,意欲低下,不安,物忘れ,自殺について考える,食欲低下といった症状を訴えたことが認められるところ,これらの症状は,上記診断基準の典型的症状のうち抑うつ気分及び易疲労性に該当し,一般的症状のうち集中力と注意力の減退,自殺の観念,睡眠障害,食欲不振に該当するというべきである。また,Aは,同日,自身のスマートフォンに,仕事に対する自信を喪失して,将来を極度に悲観し,自殺することを示唆する文章を記載していることに照らすと,典型的症状の一つである興味と喜びの喪失の究極的な表現がされているとみることができる。 次に,これらの症状の出現時期についてみると,同年12月21日に受診した東北厚生年金病院の診療録(乙19)には,「一昨日(12月19日)仕事でミスをして,上司から叱責された。症状はそ る。 次に,これらの症状の出現時期についてみると,同年12月21日に受診した東北厚生年金病院の診療録(乙19)には,「一昨日(12月19日)仕事でミスをして,上司から叱責された。症状はその後から出現。本日は仕事を無断欠勤」という記載があるところ,同記載によれば,Aに症状が出現したのは同月20日に注意を受けた後であると認められる。また,広瀬通クリニックの診療録(乙24)には「一昨日(12月20日)の休み会社から文句。昨日(12月21日)めまいがひどく救急車で厚生年金病院受診怒られたことによって症状悪化」という記載があるところ,以前の症状及びその程度は明らかでないことからすると,本件精神障害を発病したと認められる程度の症状に至ったのは,同月20日に注意を受けた後であるというべきである。 そして,上記の症状に関する状況と,Aが東北厚生年金病院や広瀬通クリニックを受診する以前,うつ病などの精神障害を理由に病院を受診したり,本件会社を無断欠勤したりしたことは窺えないことからすると,うつ病エピソードの出現時期,すなわち本件精神障害の発病時期は,同月21日頃と認めるのが相当である。なお,発病時期を同日頃とすると,Aは同月26日に自殺しているため,発病から2週間の症状の持続がなかったことになるが, Aが自殺に追い込まれるような精神状態であったことを踏まえれば,症状が極めて重く,急激な発症であったことが推認されるとともに,仮に本件自殺がなければ少なくとも2週間は上記症状が持続したものと考えられるから,Aが自殺した時点で上記症状が2週間以上持続していなかったことは,上記判断を左右するものではない。 (2) これに対し,被告は,Aが広瀬通クリニックにおける問診において平成23年12月上旬頃に症状が出現したと述べたとして,本件 以上持続していなかったことは,上記判断を左右するものではない。 (2) これに対し,被告は,Aが広瀬通クリニックにおける問診において平成23年12月上旬頃に症状が出現したと述べたとして,本件精神障害の発病時期はその頃であると主張している。 しかしながら,証拠(乙15の2)によれば,Aが同月22日に広瀬通クリニックにおいて記載した書面には,同月から症状が現れたという記載があるものの,その症状が具体的に同月のどの時期に現れたのか,またどのような理由により発病したかに関しては記載がなく,東北厚生年金病院の診療録(乙19),広瀬通クリニックの診療録(乙15の2,24)にも,Aの同月20日以前の症状の内容に関する記載はない。 そうすると,Aが同月上旬に本件精神障害を発病していたことを的確に裏付ける客観的証拠はなく,また,症状が同月に現れたというAによる申告は上司からの注意を多数受けていたことなどのために本件精神障害に至らない程度に気分が落ち込んだことを示すものに過ぎないとみることも可能であることから,同月上旬に既に本件精神障害を発病していたものと認めることはできない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 4 争点(2)(本件精神障害及び本件自殺の業務起因性)について(1) 判断の枠組みア労災保険法12条の8第2項は,業務災害に関する保険給付(同条第1項)は,労基法75条,79条及び80条に規定する災害補償の事由が生じた場合に,補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対 し,その請求に基づいて行うことを規定し,労基法75条1項及び2項の定める「業務上の疾病」の範囲は,労基法施行規則35条,別表第1の2によって規定され,「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の 請求に基づいて行うことを規定し,労基法75条1項及び2項の定める「業務上の疾病」の範囲は,労基法施行規則35条,別表第1の2によって規定され,「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」はこれに該当するとされている(同規則別表第1の2第9号)。 労災保険制度が,労基法上の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失を塡補する制度であることを踏まえると,上記の「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」であるというためには,当該精神障害と業務との間に相当因果関係が認められること(業務起因性)が必要であり,そのためには当該精神障害が,被災労働者の従事していた業務(仕事それ自体のみならず,上司との関係や職場環境も含めて総合的に捉えたもの)に内在する危険性が発現したものと認められる必要があると解される。 そして,今日の精神医学的,心理学的知見としては,環境由来のストレス(心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こり,逆に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていることからすると,業務起因性の判断においては,当該労働者と同種業務に従事する平均的な労働者にとって,業務の具体的状況における心理的負荷が精神障害を発病させる危険性を有し,当該業務による心理的負荷が他の業務以外の要因に比して相対的に有力な原因となって精神障害を発病させたか否かによっ 働者にとって,業務の具体的状況における心理的負荷が精神障害を発病させる危険性を有し,当該業務による心理的負荷が他の業務以外の要因に比して相対的に有力な原因となって精神障害を発病させたか否かによって判断すべきである。 イさらに,精神障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって認識能力や行為選択能力が著しく阻害され,また自殺行 為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定されるから,精神障害について,業務起因性が肯定され,「業務上の疾病」(労災保険法12条の8第2項,労基法75条2項)に該当すると認められれば,その後の自殺についても,原則として業務起因性が認められるものというべきである。 ウなお,認定基準は,行政組織内部の命令であって,法規ではなく,行政組織内部における解釈基準を定めたものにすぎないから,裁判所を拘束するものではないが,裁判所が業務起因性を判断する上で参考にすることは可能である。 (2) 本件精神障害の業務起因性についてア対象疾病の発病上記のとおり,Aは,平成23年12月21日頃,ICD-10の「F32うつ病エピソード」に分類される本件精神障害を発病したことが認められる。 イ本件精神障害の発病前おおむね6か月の間における業務の心理的負荷について(ア) 業務の過重性上記認定事実によれば,Aは,現収処理等の業務を行っていたところ,業務が滞り,ミスも多かったのであるから,Aが担当していた業務は,Aにとって適度な負担とはいえない状況にあったことが認められる。 しかしながら,上記認定事実によれば,支払申請業務を担当業務から外す,現収処理の経験のあるDがAの補助につくなど,業務の負担を は,Aにとって適度な負担とはいえない状況にあったことが認められる。 しかしながら,上記認定事実によれば,支払申請業務を担当業務から外す,現収処理の経験のあるDがAの補助につくなど,業務の負担を軽減するための措置が講じられていること,BがAから仕事そのものの負担が重すぎるとの訴えを聞いたといった事情は見受けられないこと,東北厚生年金病院や広瀬通クリニックの診療録(乙15の2,19,24)にも特段業務の過重性を訴えた記載がないことからすると,同種業務に 従事する平均的な労働者にとって,その心理的負荷が強度のものであったと評価することはできない。また,Aの時間外労働時間は最大で1か月当たり45時間12分であったことに照らすと,Aに業務の遅滞やミスがみられたことと相俟って,Aにとっては,仕事そのものからある程度心理的負荷を受けていたことは推認されるものの,それが強度であったと評価することはできない。 以上を踏まえ,同種業務に従事する平均的な労働者を基準に判断すれば,Aが担当していた業務の内容,仕事の量及び時間は,労働者にある程度の心理的負荷を生じさせるものではあるが,心理的負荷の程度が精神障害を発病させる危険性があるほど強度なものであったとはいえない。 これに対し,原告は,Aが業務に関する資料を自宅に持ち帰っていたことから業務の過重性があったと主張するが,上記認定事実のとおり,Aが持ち帰った書類に基づき自宅でどのような仕事をしていたか明確ではない上,Aが書類を持ち帰った理由や経緯も不明である。そうすると,Aが書類を自宅に持ち帰ったという事実をもって,Aの業務が過重であったという事実を推認することはできず,したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (イ) CのAに対する日常的な注意上 ったという事実をもって,Aの業務が過重であったという事実を推認することはできず,したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (イ) CのAに対する日常的な注意上記認定事実によれは,上司であるCが部下であるAに対して,遅刻や仕事上のミス等に対する注意を毎日のように行っており,時には強い口調で注意を行ったことが認められるところ,上司が部下の仕事上のミス等を発見した場合に部下に対して注意をすることは,業務上の指導として社会通念上許容される範囲内のものである限り,労働契約上も,労働者が上司の注意を受け止めて職務遂行の改善に生かすものとして期待されているものであるから,上記のような事実が認められたからといって直ちに,同様の状況に置かれた平均的労働者を基準にした場合に,強 度の心理的負荷を受けるものと評価することはできず,その心理的負荷が強度といえるためには,上司による指導の態様等が社会通念上相当と認められる限度を超えるなどの事情が必要であると解される。 もっとも,Aのように入社2年程度の経験の浅い者にとっては,仕事上のミスについての度重なる注意は自らの力量不足を痛感するものとして現在及び将来の勤務に対する不安を抱かせるものであり,強度とはいえないまでも,相当程度の心理的負荷を与えるものであるといえる。 (ウ) CのAに対するエアガンの発射行為及び唾を吐きかける行為上記認定説示によれば,Aは,平成23年12月に至るまでの間,仕事上のミスが続き,上司であるCから日常的に注意を受け,時には強い口調で注意を受けることもあったために,強度とはいえないまでも,相当程度の心理的負荷を受ける状況に置かれていたことが認められる。 そうしたところ,上記認定事実のとおり,同月18日頃 受け,時には強い口調で注意を受けることもあったために,強度とはいえないまでも,相当程度の心理的負荷を受ける状況に置かれていたことが認められる。 そうしたところ,上記認定事実のとおり,同月18日頃,CがAに対し,その足元に向けてエアガンを撃ったり,唾を吐きかけたりしたことが認められる。このように人に向けてエアガンを発射したり唾を吐きかけたりする行為は,いずれも相手を侮辱又は威嚇し,その人格を踏みにじるものであり,たとえそれらが仕事上の注意に関連して行われたものであったとしても,業務上の指導として社会通念上認められる範囲を逸脱した暴行又は嫌がらせ行為というべきものであって,それ自体として違法性を帯びるものである。そして,一般に,上司からこのように指導として社会的に許される範囲を逸脱した行為を受けた部下の心理状態としては,その後も当該上司の下で働かなければならない状況にあるのが通常であることと相俟って,指導の名の下に同様の行為が継続することに恐れを抱き,強度の心理的負荷を受けるものと評価することができる。 (エ) Aが受け付けた荷物の未着事故上記認定事実のとおり,Aは,公休日だった平成23年12月20日, 自らが前日に受け付けた荷物が未着になったことに関して仙台店から何度も電話が入り,上司から叱責を受けたことが認められる。 たしかに,配送先には当日中に荷物を届けることができたこと,Aに対しては特にこの事故に基づく処分等がなされていないことからすると,荷物が予定時刻に配達されなかったことについてAのみに責任があったかどうかは断定できかねるものの,一般に,本件会社のような運送会社にとって,配送を依頼された荷物の未着は社会的信用を損なうおそれが高い重大な事故であること,同日,Aの電話に仙台店従業員から多くの問合せがあ は断定できかねるものの,一般に,本件会社のような運送会社にとって,配送を依頼された荷物の未着は社会的信用を損なうおそれが高い重大な事故であること,同日,Aの電話に仙台店従業員から多くの問合せがあり,上司から叱責を受けたことからすると,入社2年程度の職務経験の浅い労働者にとっては,仕事上の重大なミスを犯して勤務先の信用に傷をつけたものと捉えて責任を痛感するのが通常であり,Aと同様に入社2年程度の勤務経験の浅い若年労働者を基準にした場合において,当該労働者は強度に近い心理的負荷を受けるものと認められる。 (オ) 小括以上によれば,Aは,平成23年12月18日頃までの間に,上司であるCから,仕事上のミスについて毎日のように注意を受け,時に強い口調で注意を受けていたことで,相当程度の心理的負荷を受けていたところ,同月18日頃に,Cからエアガンで撃たれ,唾を吐きかけられるといった業務上許容される指導の範囲を逸脱した暴行又は嫌がらせ行為を受け,さらに,同月20日に,前日に自分が受け付けた荷物に関する未着事故が発生し,多数の電話による問合せや上司からの叱責を受けたのであって,これらの事実が重なれば,Aと同様の勤務経験を有する平均的な若年労働者にとって,現在及び将来に対する大きな不安や恐れを抱き,業務上強度の心理的負荷を受けるのが通常であることに照らすと,上記のような具体的状況下での業務には,本件精神障害を発現させる危険性が内在するものと認められる。 ウ業務以外の心理的負荷及び個体側要因についてAには,業務以外の心理的負荷及び個体側要因として本件精神障害に至るような事情は認められないから,Aが業務以外の心理的負荷及び個体側要因により本件精神障害を発病したとは認められない。 エ以上検討したところによれば,Aの び個体側要因として本件精神障害に至るような事情は認められないから,Aが業務以外の心理的負荷及び個体側要因により本件精神障害を発病したとは認められない。 エ以上検討したところによれば,Aの本件精神障害の発病は,Aが従事していた業務に内在する危険性が発現したものであって,業務起因性が認められ,労基法施行規則別表第1の2第9号にいう「心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神の障害」に当たり,労災保険法12条の8第2項,労基法75条2項にいう「業務上の疾病」に該当するということができる。 (3) 本件自殺の業務起因性についてア上記認定事実によれば,Aは,平成23年12月21日,うつ病を発病した状況でCに退職を考えている旨申し出たものの,上司であるCから,残っている仕事を片付けてからにするよう指示され,同月23日に同様の申告をした際にも,Cから,部下の健康に対する配慮の欠ける職務上の指示を受けたことにより,同月23日及び24日の両日に時間外労働に及ぶ勤務に従事するに至ったことが認められる。 イうつ病を発病し退職を考えている部下に対して,直属の上司が,その病状を理解せず,引き続き仕事を行うよう求める指示を行えば,当該部下がさらに精神的に追い詰められていくことは当然であり,勤務経験の浅い若年労働者にとってその影響は特に大きいものと考えられる。 ウそうすると,Aは,本件精神障害を発病したために,認識能力や行為選択能力が著しく阻害され,また自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態で,上司であるCから上記のとおり病状に関する理解のない職務上の指示を受けて引き続き業務に従事することを要求されたことによって,業務から解放される機会を奪われ,更に,強度の心理的 負荷を受けて自殺に至ったものと認め おり病状に関する理解のない職務上の指示を受けて引き続き業務に従事することを要求されたことによって,業務から解放される機会を奪われ,更に,強度の心理的 負荷を受けて自殺に至ったものと認めるのが相当であるから,本件自殺についても,業務起因性を認めることができる。 5 結論以上によれば,原告の労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の給付請求に対し,本件精神障害及び本件自殺の業務起因性を否定していずれも不支給とした本件各処分は違法であり,その取消しを求める原告の請求はいずれも理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 仙台地方裁判所第3民事部 裁判長裁判官大嶋洋志 裁判官北嶋典子 裁判官木村洋一
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