平成14年1月23日宣告道路交通法違反被告事件判決被告人氏名,本籍,住居,職業,生年月日(略) 主文 被告人を罰金10万円に処する。 理由 (犯罪事実)被告人は,少年であるが,平成13年5月3日午前1時4分ころ,北海道山越郡a町b番地付近道路において,法定の最高速度(60キロメートル毎時)を82キロメートル超える142キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転して進行したものである。 (証拠)(略)(適用法令)罰条道路交通法118条1項2号,22条1項,同法施行令11条刑種の選択所定刑中罰金刑を選択労役場留置少年法54条(言い渡さない)(公訴棄却の主張に対する判断)弁護人らは,本件公訴提起の前提となる平成13年11月2日に札幌家庭裁判所がなした少年法20条1項の決定(以下「本件家裁決定」という。)は,憲法39条,あるいは少年法55条に違反して無効であるから,本件公訴も刑事訴訟法338条4号により棄却されるべきである旨主張する。 1 本件公訴提起に至る経緯関係証拠によれば,本件は,平成13年6月25日札幌家庭裁判所に事件送致されたが,同月27日,同裁判所により,少年法20条1項に基づき,札幌地方検察庁検察官に送致されたこと,そこで,同庁検察官は,同年8月8日,被告人を本件により札幌地方裁判所に起訴したところ,同裁判所は,同年10月4日,被告人に対しては,刑事処分よりも保護処分(交通短期保護観察)が相当であるとして,少年法55条により,本件を札幌家庭裁判所に移送する決定(以下「本件移送決定」という。)をしたこと,しかし,同裁判所は,被告人について保護処分を選択する余地はないとして,本件を再度札幌地方検察庁検察官に送致する より,本件を札幌家庭裁判所に移送する決定(以下「本件移送決定」という。)をしたこと,しかし,同裁判所は,被告人について保護処分を選択する余地はないとして,本件を再度札幌地方検察庁検察官に送致する決定(本件家裁決定)をなしたこと,同庁検察官は,本件家裁決定に基づき,被告人を再度札幌地方裁判所に起訴し,本件が当裁判所に係属したことが明らかである。 2 当裁判所の判断(1) 憲法39条は,「何人も……既に無罪とされた行為については,刑事上の責任を問われない。又,同一の犯罪について,重ねて刑事上の責任を問われない。」と規定しているが,これは,いわゆる二重の危険の禁止あるいは一事不再理の原則を定めたもので,一度無罪あるいは有罪の実体判決が確定した後には,無罪を覆して有罪の判決をしたり,更に重い刑を科すことを禁止したものと解することができる。ところで,少年法55条所定の移送決定は,刑事裁判所が審理の結果,被告人とされた少年に対しては,刑事処分を科するよりも保護処分に付する方が相当であると判断した場合に,事件を家庭裁判所に移送する決定であって,その性質上,家庭裁判所での処分を予定した中間的な判断で,少年を無罪あるいは有罪とする終局判断ではない。したがって,本件移送決定が確定したとしても,その後になされた本件家裁決定は,二重の危険の禁止あるいは一事不再理の原則に何ら抵触するものではないから,憲法39条に違反するものでないことは明らかといわなければならない。 弁護人らは,種々の理由を挙げ,本件家裁決定が憲法39条に違反すると主張するが,いずれも独自の主張であって,到底採用の限りではない。 (2) 次に,本件家裁決定が少年法55条に違反するか検討するに,確かに,弁護人が指摘するとおり,少年法55条により事件の移送を受けた家庭裁判所は,当該少年 張であって,到底採用の限りではない。 (2) 次に,本件家裁決定が少年法55条に違反するか検討するに,確かに,弁護人が指摘するとおり,少年法55条により事件の移送を受けた家庭裁判所は,当該少年の処遇を決定するに当たり,刑事裁判所の判断がその裁量を逸脱したものでない限り,特段の事情変更等がなければ,刑事裁判所の判断を尊重することが望ましく,原則として,そのような運用がなされるべきであるが,他方,少年法上,同法55条所定の移送決定に拘束力を認めた規定はなく,同条により事件の移送を受けた家庭裁判所が,更に事件を検察官に送致することを禁止する規定もないことにかんがみると,少年法55条により事件の移送を受けた家庭裁判所が,同法20条1項により,再度事件を検察官に送致したとしても,その妥当性はともかく,直ちにこれを違法であると解することはできない。 本件移送決定は,これまで被告人に交通違反歴を含めて非行歴がないこと,事件に対する反省の程度,親族ことに父親の指導監督に期待できること,被告人が公務員を目指して勉学中であることなどの被告人に固有な事情を考慮してなされたものであって,必ずしも,その判断に,裁量を逸脱したものがあるとはいえない上,本件移送決定後,家庭裁判所においては,被告人及びその保護者に対する調査が行われるなどしたものの,これを除いては,事情の変更があったとは認められないから,本件家裁決定には,その妥当性に議論の余地があるけれども,これを違法と解することもできない。 したがって,本件家裁決定に基づく,本件起訴も違法ということはできないから,結局,弁護人らの主張は採用できない。 (被告人の処遇=量刑の事情について) 1 弁護人らは,被告人に対しては,非行歴のないことや反省の程度等に照らし,刑事処分よりも保護処分が相当であるとして,少年法5 局,弁護人らの主張は採用できない。 (被告人の処遇=量刑の事情について) 1 弁護人らは,被告人に対しては,非行歴のないことや反省の程度等に照らし,刑事処分よりも保護処分が相当であるとして,少年法55条により,本件を再度札幌家庭裁判所に移送すべきであると主張する。 しかし,本件家裁決定は,刑事裁判所の判断を必ずしも十分に尊重しなかったという意味で,妥当性に議論の余地が残るものの,他の同種事案との均衡を重視する,その判断自体に一応の合理性があることは明らかである。そして,当裁判所が,再び少年法55条により,本件を家庭裁判所に移送した場合には,本件の最終的な解決が更に遅れ,被告人により大きな不利益をもたらすことになる。したがって,当裁判所としては,本件家裁決定に合理性がある以上,これを尊重すべきであると考え,被告人に対しては,刑事処分をもって臨むことが相当であると判断する。 2 そこで,被告人にいかなる刑事責任を科するべきか検討するに,本件のように,大幅な制限速度超過の事案については,少年の初犯の事案であっても,これまでそのほとんどが,懲役刑(執行猶予付き)で処理されてきたものと思料される。そして,事案の重大性,交通に対する危険性等に照らすと,一般的には,こうした処理は,道路交通秩序維持の観点からも十分合理的で,是認されるべきであるといえる。しかし,これまで被告人に非行歴・交通違反歴がないこと,事件に対する反省の程度,父親の指導監督能力等本件移送決定が指摘している諸事情に加え,次のような本件に固有な事情を考慮した場合,当裁判所としては,被告人に対し,執行猶予付きであっても懲役刑を科することには躊躇を覚えざるを得ない。すなわち,まず,被告人が執行猶予付きといえども懲役刑の宣告を受ければ,現在通学している専門学校を退学させられるおそれが大きい ,執行猶予付きであっても懲役刑を科することには躊躇を覚えざるを得ない。すなわち,まず,被告人が執行猶予付きといえども懲役刑の宣告を受ければ,現在通学している専門学校を退学させられるおそれが大きいことを指摘しなければならないが,何よりも,本件においては,被告人に対する処遇をめぐる家庭裁判所と地方裁判所との見解の相違により,被告人に帰責事由がないのにもかかわらず,被告人が長期間不安定な状態に置かれるなど,多大な手続的負担を強いられるとともに,事件が大きく報道されるなどして,被告人にとっては,大きな社会的な制裁を受けたと評価できること,しかも,本件犯行は,被告人が18歳で,免許取得後わずか1か月余の犯行であって,道路交通法規に対する規範意識が十分備わる以前のものであるところ,この間の公判及び審判での審理等を通じて,被告人においては,道路交通法規に対する規範意識の涵養が図られ,再犯のおそれもなくなったと考えられることなどを併せ勘案すると,現段階において,被告人に対し,執行猶予付きであっても懲役刑を科することは重きに過ぎるといわなければならない。 当裁判所としては,以上説示したことのほか,罰金刑が教育的な効果を有することをも総合考慮した上,被告人の刑事責任を明確にするとともに,被告人にこれを自覚させるためには,被告人を罰金刑(所定の最高金額)に処することが相当と判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官片山真人,私選弁護人内田信也《主任》,同大川哲也各出席)(求刑懲役4月)平成14年1月23日札幌地方裁判所刑事第1部1係裁判官小池勝雅 池勝雅
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