令和5(ワ)3101 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年4月25日 横浜地方裁判所
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判決文本文23,450 文字)

主文 1 被告は、原告Aに対し、973万9094円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、569万2649円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、55万0980円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、48万5230円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 5 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は、これを30分し、その7を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。 7 この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、1370万7398円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告Bに対し、646万3214円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告Cに対し、77万1078円及びこれに対する令和4年7月9日か ら支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 4 被告は、原告Dに対し、70万5353円及びこれに対する令和4年7月9日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、令和4年7月9日に、被告が路上を歩行中であった原告らに次々に衝突 するなどした結果、原告らが受傷したこと(以下「本件事件」という。)について、原告らが、被告に対し、前記第1の請求記載の人身損害に係る各損害 に、被告が路上を歩行中であった原告らに次々に衝突 するなどした結果、原告らが受傷したこと(以下「本件事件」という。)について、原告らが、被告に対し、前記第1の請求記載の人身損害に係る各損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である令和4年7月9日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 2 前提事実(証拠(甲46、56、65、70、77、80、96、98、100、 101のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴ 当事者ア原告Aは、本件事件当時58歳であった女性であり、飲食店及び海の家の経営者である。 イ原告Bは、本件事件当時33歳であった男性であり、会社員である。 ウ原告Cは、本件事件当時33歳であった男性であり、会社員である。 エ原告Dは、本件事件当時25歳であった女性であり、芸能、音楽関係の個人事業主である。 オ被告は、本件事件当時28歳であった男性であり、米海軍横須賀基地を母港とするE所属のFの乗組員を務める米海軍軍人であった。 ⑵ 本件事件ア被告は、令和4年7月9日午後8時30分頃、神奈川県逗子市新宿2丁目3番13号先路上において、同所を歩行中の原告Bに対し、その後方から同人の背部に体当たりをして、同人を路上に転倒させた上、うつ伏せに倒れている同人の背部を数回足で蹴った。 イ被告は、その直後、神奈川県逗子市新宿1丁目3番4号先路上において、同所を歩行していた原告Cに対し、その正面から同人の身体に体当たりをした。 ウ被告が原告Cに対し上記のとおり体当たりをしたところ、同人が後退し、同人の身体がそのすぐ後方にいた原告Dに衝突し、両名は路上に転倒した。被告は、さらに、しりもちをつくように後方に倒れ した。 ウ被告が原告Cに対し上記のとおり体当たりをしたところ、同人が後退し、同人の身体がそのすぐ後方にいた原告Dに衝突し、両名は路上に転倒した。被告は、さらに、しりもちをつくように後方に倒れて上体が起きた姿勢の原告Cの 顔面を足蹴りにした。 エ被告は、令和4年7月9日午後8時31分頃、前記場所から約58.1m離れた神奈川県逗子市新宿2丁目2番19号先の道路を走って進行中、被告の前方に広がって被告と同方向に歩行していた3名のうち原告Aに対し、走りながら同人の左背部に被告の右上半身を衝突させた。その際、原告Aは路上に転倒し、その顔面等をアスファルト舗装された路面に打ち付けた(甲47、48)。 (以下、被告による原告らに対する上記行為を「本件加害行為」という。) 3 争点及び当事者の主張⑴ 不法行為の故意の有無(争点1)(原告らの主張)本件加害行為は原告らに対する故意による傷害行為(刑法204条)であり、 被告は原告らに対して、不法行為による損害賠償責任を負う。 (被告の主張)被告の行為は故意によるものではない。 ⑵ 被告が本件事件時、責任弁識能力を欠いていたか(民法713条本文)(争点2)(被告の主張) G医師による令和5年9月30日付け精神鑑定書(乙2)及び本件の刑事事件におけるG医師の証人尋問調書(乙5。以下、この両者を併せて「本件鑑定」という。)によれば、被告は、本件事件当時、せん妄を伴うアルコール中毒にり患しており、そのために意識障害の状態にあった。これにより、本件事件当時、被告には著しい認知障害・判断力低下が生じており、自らの行為の意味・影響を適切に理解 できない状況に陥っていた。かかる精神症状は酩酊の分類として広く用いられているBinde り、本件事件当時、被告には著しい認知障害・判断力低下が生じており、自らの行為の意味・影響を適切に理解 できない状況に陥っていた。かかる精神症状は酩酊の分類として広く用いられているBinderの分類(1935年)にいう病的酩酊に該当するのであり、被告は本件事件当時「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」(民法713条本文)にあったから、被告はその間に生じた損害について賠償責任を負わない。 (原告らの主張) 本件事件に係る刑事事件(横浜地方裁判所横須賀支部令和4年(わ)第156号)についての同庁令和6年9月26日判決(甲77。以下「本件刑事事件判決」という。)は被告に本件事件時に完全な責任能力があったと認定しており、かかる認定からも、被告の主張が認められないことは明らかである。また、被告は、本件事件の前後に渡って病的酩酊状態であればできないはずの合理的な判断や行動を とっており、この点からも被告の主張は認められない。 ⑶ (上記⑵につき民法713条本文の適用が認められる場合)責任無能力に陥ったことについての故意又は過失の有無(民法713条ただし書)(争点3)(原告らの主張)仮に被告が相当の酩酊状態にあったとしても、被告は自ら多量の酒を飲んで酩 酊したにすぎず、被告もそれを自覚しているのであるから、自らの意思で故意又は過失により一時的に招いたものであり、被告は原告らに対する損害賠償責任を負う。仮に脳損傷による影響があったとしても、そうであれば被告は通常人以上に飲酒を厳しく控えるべきであったのに、それを怠って大量の多量の飲酒をしたのであるから、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときを否定する 事情にはなり得ない。 (被告の主張)被告がアルコール るべきであったのに、それを怠って大量の多量の飲酒をしたのであるから、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときを否定する 事情にはなり得ない。 (被告の主張)被告がアルコールの影響によってせん妄を伴う急性アルコール中毒に陥ったのは、2015年に経験した脳損傷による高次脳機能障害の影響によるものであると考えられるため、上記意識障害は被告が故意又は過失により招いたものではな い。 ⑷ 原告Aに生じた損害の有無及びその額(争点4)(原告Aの主張)ア原告Aは、令和4年7月9日に、両側上顎骨骨折、右眼窩底骨折、眼部打撲、眼瞼腫脹、皮下出血、鼻骨骨折、前額部挫創、左小指基節骨骨折、右環指基節骨 骨折、右中手骨骨折と診断された(甲1ないし3)。上記各傷害による症状の固 定日は令和5年4月6日であった(甲7)。 イ本件事件による原告Aの損害は次のとおりである。 (ア) 治療費 13万6620円(甲8、9、10、11の1、11の3、11の4)(イ) 交通費 2万4160円 原告Aは、29回通院し(甲8)、原告Aが通院に要する運賃は片道320円であるので電車代は1万8560円である。そのほかに、原告Aは病院の最寄駅から病院までのタクシー代として合計5600円を支払った(甲12の6ないし8、甲12の12ないし14)。 (ウ) 休業損害 37万5375円 原告Aは、上記アの傷害及び本件事件についての取調べのため、経営する海の家での仕事を2か月間休まざるを得なかった。その間、原告Aは、以下のとおり、5名をそれぞれ以下aないしeの日時において原告Aの補充として雇用し、合計37万5375円(時給1050円)を支払った。 a 7月10日9.5時間、同月17日6.5時間、同月18日7. 下のとおり、5名をそれぞれ以下aないしeの日時において原告Aの補充として雇用し、合計37万5375円(時給1050円)を支払った。 a 7月10日9.5時間、同月17日6.5時間、同月18日7.5時間、 同月24日8.5時間、同月31日 6.5時間、8月17日4時間、同月21日11.5時間合計54時間(甲49・10頁)54時間×1050円=5万6700円b 7月17日7時間、同月18日7.5時間、同月23日8.5時間、同月24日8.5時間、同月30日6.5時間、同月31日6.5時間、8月6 日6時間、同月7日7.5時間、同月8日7.5時間、同月9日7.5時間、同月11日9.5時間、同月12日7.5時間、同月15日7.5時間、同月16日9時間、同月19日6.5時間、同月20日7.5時間、同月22日6.5時間、同月27日7時間、同月28日6時間、9月3日6.5時間、同月4日6.5時間合計153時間(甲49・14、15頁) 153時間×1050円=16万0650円 c 7月12日2.5時間、同月20日5時間、同月29日4時間、8月2日5時間、同月7日5時間、同月8日7.5時間、同月16日5時間、同月19日6.5時間合計40.5時間(甲49・19頁)40.5時間×1050円=4万2525円d 7月17日12時間、同月18日12時間、8月6日12時間、同月7 日7時間、同月14日10時間、9月3日6時間合計59時間(甲49・21頁)59時間×1050円=6万1950円e 8月2日7.5時間、同月6日4.5時間、同月7日5時間、同月9日7時間、同月12日6.5時間、同月15日6.5時間、同月20日7.5時 間、同月22日6.5時間合計51時間(甲49・28頁) 日7.5時間、同月6日4.5時間、同月7日5時間、同月9日7時間、同月12日6.5時間、同月15日6.5時間、同月20日7.5時 間、同月22日6.5時間合計51時間(甲49・28頁)51時間×1050円=5万3550円(エ) 傷害慰謝料 200万円原告Aは上記アの傷害により、症状固定まで9か月通院した。原告Aは突然背後から暴行を受け、上記アの傷害を負ったことで多大な恐怖心を味わっ たのであり、これらの肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すれば、200万円を下らない。 (オ) 後遺障害による逸失利益 492万5116円① 右眉毛部の膨隆2cm長、右上眼瞼の陥凹2cm長が認められ(甲5)、両者を合わせて、10円銅貨(直径2cm)大以上の瘢痕ないし組織陥没 に該当するところ、原告Aの上記後遺障害は後遺障害等級12級14号の「外貌に醜状を残すもの」に該当する。 ② 鼻骨骨折、左方への斜鼻が認められる(甲3、5)ところ、これは上記後遺障害等級12級14号の「外貌に醜状を残すもの」と同等の醜状である。 ③ 右鼻翼、上口唇感覚麻痺(甲6)は、後遺障害等級14級9号の「局部に 神経症状を残すもの」に該当する。 ④ 小指MP関節付近の痛み、両手のこわばり(甲5、7)も、後遺障害等級14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当する。 以上によれば、原告Aの労働力喪失率は14%を下ることはない。 原告Aの症状固定時の59歳の女子平均賃金は412万4100円であり、症状固定以降の稼働可能年数は10年を下らないから、原告Aの逸失利益は 次式のとおり492万5116円を下らない。 【計算式】412万4100円×14%×8.5302=492万5116円(カ) 後遺障害による慰謝料 500 下らないから、原告Aの逸失利益は 次式のとおり492万5116円を下らない。 【計算式】412万4100円×14%×8.5302=492万5116円(カ) 後遺障害による慰謝料 500万円原告Aに生じた後遺障害は上記のとおりであるところ、女性として顔面の 醜状障害は大きなショックであり、また労働上も日常生活上も感覚麻痺は著しい不自由を招いている。よって、これらの精神的苦痛を金銭的に評価すれば、500万円を下らない。 (キ) 弁護士費用 124万6127円原告Aは被告に対して損害賠償を請求するにあたり原告ら訴訟代理人らに 依頼せざるを得なかったところ上記損害合計額の1割が本件加害行為と相当因果関係のある損害として認められる。 (ク) 損害合計 1370万7398円(被告の主張)ア原告Aが上記(原告Aの主張)アの各傷害の診断を受けたことは認める。 イ各損害に対する被告の認否・反論は次のとおりである。 (ア) 原告Aが負担した治療費が13万6620円であったことは認める(イ) 原告Aが負担した交通費が2万4160円であったことは認める。 (ウ) 否認する。アルバイト従業員のうち同時に勤務した者が複数いることからすれば、これらの雇用のすべてが原告Aの休業に伴う代替要員とはいえない。 (エ) 原告Aの傷害慰謝料が200万円であるとする評価は争う。 (オ) 原告Aの後遺障害による逸失利益が492万5116円であるとの評価は争う。 (カ) 原告Aの後遺障害による慰謝料が500万円であるとの評価は争う。 (キ) 弁護士費用が126万2458円であるとの評価は争う。 ⑸ 原告Bに生じた損害の有無及びその額(争点5) (原告Bの主張)ア原告Bは、令和4年7月9 円であるとの評価は争う。 (キ) 弁護士費用が126万2458円であるとの評価は争う。 ⑸ 原告Bに生じた損害の有無及びその額(争点5) (原告Bの主張)ア原告Bは、令和4年7月9日、頸椎捻挫、右胸背部挫傷、腰椎捻挫、腰部打撲、右殿部打撲、右前腕打撲血腫、左手関節打撲、右膝擦過傷、左膝打撲等の診断を受けた(甲14)。また、原告Bは、同月13日、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右前腕打撲血腫、右胸背部挫傷の診断を受けた(甲15)。上記各傷害による症状 の固定日は令和5年7月8日であった(甲18)。 イ本件事件による原告Bの損害は次のとおりである。 (ア) 治療費 3万7826円(甲19、20、21)(イ) 交通費 9210円原告Bが事件直後に負担した交通費(搬送先の病院から横浜駅までのタク シー代1万6100円)は原告Cと折半したため8050円であった。また、令和4年7月13日に整形外科に通院するためにタクシー代1160円を支払った(甲22)。 (ウ) 休業損害 40万円原告Bは、上記アの傷害のため、8日間有給休暇を取得し、療養や通院を したり、取調べを受けたりしなければならなかった。原告Bの勤務日1日あたりの給与は5万円を下ることはなく(甲23)、原告Bに生じた休業損害は40万円を下らない。 (エ) 傷害慰謝料 100万円原告Bは、上記アの傷害により、症状固定まで1年を要した。原告Bは突 然背後から被告に突き飛ばされ、その後うつ伏せで倒れているところを蹴ら れるなどしたのであり、著しい恐怖を味わった。そして、上記アの各傷害は仕事や日常生活に多大な支障と苦痛を与えた。原告Bが本件傷害により被った著しい肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すれば100万円を下らない。 のであり、著しい恐怖を味わった。そして、上記アの各傷害は仕事や日常生活に多大な支障と苦痛を与えた。原告Bが本件傷害により被った著しい肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すれば100万円を下らない。 (オ) 後遺障害による逸失利益 292万8613円① 原告Bには、「頸部痛、重だるさ。右背部違和感、吸気時痛あり。腰痛、 右肘痛、屈伸時右膝痛あり。階段昇降不可、ランニング不可。長時間座位は不可、日常生活と仕事に支障あり。(背部、頸部、腰部)」(甲18)といった症状があり、これらはそれぞれ後遺障害14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当する。 ② 原告Bの右肘には長さ10cm×1.5cmの瘢痕が残っており(甲1 7の1、甲18)、これは後遺障害14級4号の「上肢露出面に手のひら大の醜状を残すもの」に該当する。 以上によれば、原告Bの労働力喪失率は5%を下ることはない。 原告Bの症状固定時の年収は1278万9540円、症状固定以降の稼働可能年数は5年を下らないから、原告Bの逸失利益は次式のとおり292万 8613円を下らない。 【計算式】1278万9540円×5%×4.5797=292万8613円(カ) 後遺障害による慰謝料 150万円原告Bに生じた後遺障害は上記のとおりであるところ、日常生活と仕事に 支障があると診断された点や上肢の露出面に醜状がある(右膝、背部にも傷跡がある)点に鑑みれば、後遺障害による精神的苦痛の金銭的評価は150万円を下らない。 (キ) 弁護士費用 58万7565円原告Bは被告に対して損害賠償を請求するにあたり原告ら訴訟代理人らに 依頼せざるを得なかったところ上記損害合計額の1割が本件加害行為と相当 因果関係のある損害として 565円原告Bは被告に対して損害賠償を請求するにあたり原告ら訴訟代理人らに 依頼せざるを得なかったところ上記損害合計額の1割が本件加害行為と相当 因果関係のある損害として認められる。 (ク) 損害合計 646万3214円(被告の主張)ア原告Bが令和4年7月9日に診断を受けたのは「右背部擦過傷、右前腕部擦過傷、右膝擦過傷、腰部打撲、左殿部打撲左手関節打撲」である(甲14)。同 月13日に頸椎捻挫、腰椎捻挫、右前腕打撲血腫、右背部挫傷と診断されたことは認める。また、令和5年7月8日付の診断書において、同日症状が固定し、自覚症状として頸部痛等を、他覚症状として傷跡を残したと診断されたことは認めるが、これが後遺障害等級14級以上に該当するとの評価は争う。 イ各損害に対する被告の認否・反論は次のとおりである。 (ア) 原告Bの負担した治療費が3万7826円であることは認める。 (イ) 原告Bの負担した交通費が9210円であることは認める。 (ウ) 原告Bが有給休暇を8日間取得したことは不知だが、基礎収入を1日当たり5万円と評価すべきとの主張は争わない。 (エ) 原告Bの傷害による慰謝料が100万円を下らないとの評価は争う。通院 期間は令和4年7月9日から同年8 月22日までの約2か月である。 (オ) 後遺障害による逸失利益が292万8613円であるとの評価は争う。 (カ) 後遺障害による慰謝料が150万円であるとの評価は争う。 (キ) 弁護士費用が58万7565円であるとの評価は争う。 ⑹ 原告Cに生じた損害の有無及びその額(争点6) (原告Cの主張)ア原告Cは、令和4年7月9日、右眼瞼擦過傷、右眼瞼皮下血腫、顔面打撲、両膝打撲、両膝擦過傷により加療2週間 争う。 ⑹ 原告Cに生じた損害の有無及びその額(争点6) (原告Cの主張)ア原告Cは、令和4年7月9日、右眼瞼擦過傷、右眼瞼皮下血腫、顔面打撲、両膝打撲、両膝擦過傷により加療2週間との診断を受けた(甲24)。 イ原告Cに生じた損害は以下のとおりである。 (ア) 治療費 1万2930円(甲26) (イ) 交通費 8050円 原告Cが事件直後に負担した交通費(搬送先の病院から横浜駅までのタクシー代1万6100円)は原告Bと折半したため8050円であった。 (ウ) 休業損害 8万円原告Cは、少なくとも4日間を療養、治療、取調べのために休んだ。原告Cの勤務日1日あたりの給与は2万円を下ることはない(甲27)ため、休業 損害は8万円を下らない。 (エ) 傷害による慰謝料 60万円原告Cは上記アの傷害により、全治まで1か月を要した。そして、原告Cは突然正面から被告に体当たりをされ、倒れていたところをさらに蹴られるなどの暴行を受けたのであり、著しい恐怖を味わった。また、右眼瞼に顕著 な皮下血腫が発生して仕事に支障をきたしたとともに、見た目にも影響が及んだ。原告Cが症状固定までに被ったこれらの肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すると、60万円を下らない。 (オ) 弁護士費用 7万0098円原告Cは被告に対して損害賠償を請求するにあたり原告ら訴訟代理人らに 依頼せざるを得なかったところ上記損害合計額の1割が本件加害行為と相当因果関係のある損害として認められる。 (カ) 損害合計 77万1078円(被告の主張)ア原告Cが令和4年7月9日、右眼瞼擦過傷、右眼瞼皮下血腫、顔面打撲、両膝 打撲、両膝擦過傷により加療2週間との診断を受けたことは認める。 損害合計 77万1078円(被告の主張)ア原告Cが令和4年7月9日、右眼瞼擦過傷、右眼瞼皮下血腫、顔面打撲、両膝 打撲、両膝擦過傷により加療2週間との診断を受けたことは認める。 イ各損害に対する被告の認否・反論は次のとおりである。 (ア) 原告Cが負担した治療費等が1万2930円であることは認める。 (イ) 原告Cが負担した交通費が8050円であることは認める。 (ウ) 原告Cの休業期間は不知。基礎収入を1 日当たり2万円と評価すべきとの 主張は争わない。 (エ) 原告Cの傷害による慰謝料が60万円を下らないとの評価は争う。 (オ) 弁護士費用が7万0098円との評価は争う。 ⑺ 原告Dに生じた損害の有無及びその額(争点7)(原告Dの主張)ア原告Dは、令和4年7月9日、左手関節擦過傷、左手関節打撲、腰部打撲、尾 骨打撲により加療1週間との診断を受けた(甲28)。また、頭部擦過傷の傷害も受けた。 イ原告Dに生じた損害は以下のとおりである。 (ア) 治療費 9750円(甲30)(イ) 交通費 1480円(甲32) (ウ) 休業損害 3万円原告Dは上記アの傷害のため1週間仕事を休み、かつ、4日間仕事を休んで取調べを受けた。これにより、原告Dは少なくとも5日分の仕事と、出演料収入を失った。原告Dの1日あたりの出演料は6000円を下らないから休業損害は3万円を下らない。 (エ) 傷害による慰謝料 60万円原告Dは上記傷害が全治するまでに3か月を要した。また、原告Dは突然の暴行行為に著しい恐怖を味わった。特に尾てい骨の痛みは仕事や日常生活に著しい支障を及ぼした。原告Dが被ったこれらの肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すれば、60万円を下らない た。また、原告Dは突然の暴行行為に著しい恐怖を味わった。特に尾てい骨の痛みは仕事や日常生活に著しい支障を及ぼした。原告Dが被ったこれらの肉体的、精神的苦痛を金銭的に評価すれば、60万円を下らない。 (オ) 弁護士費用 6万4123円原告Dは被告に対して損害賠償を請求するにあたり原告ら訴訟代理人らに依頼せざるを得なかったところ上記損害合計額の1割が本件加害行為と相当因果関係のある損害として認められる。 (カ) 損害合計 70万5353円 (被告の主張) ア原告Dが令和4年7月9日、左手関節擦過傷、左手関節打撲、腰部打撲、尾骨打撲により加療1週間との診断を受けた事実は認める。頭部擦過傷の傷害を受けたことは不知。 イ各損害に対する被告の認否・反論は次のとおりである。 (ア) 原告Dが負担した治療費等が9750円であることは認める。 (イ) 原告Dが負担した交通費が1480円であることは争わない。 (ウ) 原告Dの休業損害を3万円とする評価は争わない。 (エ) 傷害による慰謝料を60万円とする評価は争う。 (オ) 弁護士費用を6万4123円とする評価は争う。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前提事実並びに証拠(甲77ないし80、82、乙2、5のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 本件事件の経緯等ア被告は、本件事件当日、昼過ぎに被告の妻及び子と逗子海岸の海水浴場に向 かった。 イ被告は、逗子海岸へ向かう途中の電車内や路上で缶酎ハイを数本飲んだほか、逗子海岸に到着した後も海の家においてテキーラやウィスキーなどを飲み続けた。 ウ夕方になると、被告の妻は、被告が逗子海岸にまだいたいと希望したため、 先に帰る旨告 ハイを数本飲んだほか、逗子海岸に到着した後も海の家においてテキーラやウィスキーなどを飲み続けた。 ウ夕方になると、被告の妻は、被告が逗子海岸にまだいたいと希望したため、 先に帰る旨告げて、被告が脱いでいたTシャツを被告に手渡した上、被告を残して子と共に帰宅した。被告は、その後被告の妻が帰宅途中や帰宅後自宅で休んでいる際に被告の妻に対し何度か架電し、「俺のTシャツはどこ」「何で先に帰ったの」などと同じことを繰り返し話した。被告の妻は、被告に対し、先に家に帰る旨伝えたことやTシャツを被告に渡したことを話したが、帰宅後の電 話では、被告が同じことを繰り返し話してくることに苛立ち、また、電波状況 が悪く被告の声もよく聞こえなかったため、先に家に帰る旨伝えたではないか等と言いたいことだけを一方的に伝えて電話を切った。被告は、被告の妻が被告を残していなくなっており、Tシャツも見つからなかったことや被告の妻との電話のやり取りに強い怒りを募らせ、その後、被告の妻に対し、「俺のTシャツどこだ」、「どこにいるんだ」、「俺が家に着いたら俺とお前は終わりだ」、「お 前はもう死ぬ」などというメッセージを立て続けに送信した。 エそして、被告は、同日午後8時30分から31分頃にかけて、本件事件を起こした(前提事実⑵)。 オ本件事件後、被告は、バイクで追いかけられるなど、断続的に被告を捕まえようとする周囲の者らに追われながら(甲48)、JR逗子駅に向かって走って いき、同日午後8時45分にICカードを用いてJR逗子駅に入場し、その後、同駅で警察官に取り押さえられた。 カ被告は、同日午後9時20分頃から午後11時50分頃までの間、逗子警察署において警察官による取調べを受けた後、自らタクシーに乗って、自宅に帰宅した その後、同駅で警察官に取り押さえられた。 カ被告は、同日午後9時20分頃から午後11時50分頃までの間、逗子警察署において警察官による取調べを受けた後、自らタクシーに乗って、自宅に帰宅した。 ⑵ 本件事件までの被告の心身の状況等ア被告は、平成27年に頭部外傷によるくも膜下出血の傷害を負った(乙3)。 イ被告は、上記アの外傷後、怒りっぽくなり、携帯電話で問合せをしている際に電話の待ち時間が長いことに怒り、携帯電話を床に叩きつけて壊してしまったり、海に行った帰りに足を洗いに行ったところ、長い行列が出来ていたこと に怒り、すごく怒った形相をして友人達もいる場で突然自分の着ているシャツをびりびりに破いて怒ってその場を立ち去るなどの行為に及ぶこともあった。 被告の妻が把握しているところでもこの種の出来事は結構な回数あり、その際の被告の様子は被告の妻が話しかけられないくらい怖い顔をして怒っている状態であったが、人に危害を加えることはなかった。被告としても、平成27年 の外傷後、前に比べて忍耐力がなくなり、人に対して切れやすくなり、すぐに 怒ってしまうようになったことを自覚していた。 ウまた、被告は、骨盤底障害の持病があり、本件事件以前の数年間は下腹部の痛み、夜間頻回にトイレに行くなどで睡眠不足が続いており、令和3年10月頃から頻尿や排便困難等の症状が悪化し、病院に行って検査をしても異常が見つからず症状も改善せず、精神的に追い詰められ、苛立ちや絶望感を感じるよ うになっていた。被告は、被告の妻に対し、常にトイレに行かないといけない、まだ20代なのにおむつをして生活しなければならないのではないか、そのような状態で生きていくくらいなら死にたい、がんなどと診断された方が気が楽だなどと話し、絶望した 常にトイレに行かないといけない、まだ20代なのにおむつをして生活しなければならないのではないか、そのような状態で生きていくくらいなら死にたい、がんなどと診断された方が気が楽だなどと話し、絶望した様子を見せていた。被告は、飲酒をすると、骨盤底障害の症状を和らぎ、気分もよくなると感じられたことから、徐々に飲酒量も増 えていき、休日にはまっすぐ歩けずふらふらになるほど飲酒をすることもあった。 エ被告は、毎日神に祈りを捧げるのを日課としていたが、本件事件の前夜は、毎日頑張ってるのに神様は応えてくれない、二度と信じないなどと神に対して被告の妻がこれまで聞いたことのないような悪い言葉を言っており、睡眠不足 も続いていて絶望した様子であった。 オ被告は、本件事件当日も骨盤底障害の症状で非常に身体の調子が悪く、精神状態も落ち込んで最悪の状態であった。被告の妻は、気晴らしになればと被告を逗子海岸の海水浴場に誘い、被告は上記の状態であったが、飲酒をして気を紛らわせて家族と少しでも楽しい時間を過ごしたいということで、逗子海岸に 向かう道中から飲酒を始めた。 ⑶ 本件鑑定について(乙2、5)ア G医師は本件の刑事事件の弁護人ら(本件の被告訴訟代理人らと同じ。)からの依頼を受け、①被告の本件事件時及び現在における精神障害の有無、②本件事件時に被告に精神障害があった場合、それが本件事件に与えた影響、③その 他参考事項について、本件鑑定を行い、鑑定書を作成した。 イ本件鑑定を行うにあたり、G医師は被告の診察(令和5年6月15日、同年7月6日、同年8月3日、同月31日)、各種検査、被告の妻からの聴取(令和5年7月8日、同月22日)、被告訴訟代理人らから提供された資料の精読を行った。 ウ本件鑑定は以 年6月15日、同年7月6日、同年8月3日、同月31日)、各種検査、被告の妻からの聴取(令和5年7月8日、同月22日)、被告訴訟代理人らから提供された資料の精読を行った。 ウ本件鑑定は以下(ア)ないし(エ)の事実を前提としている。 (ア) 被告が本件事件時、大量飲酒の結果としての酩酊状態であった。 (イ) 本件事件時とその前後の被告の記憶は断片的である。一部は完全に欠損しており、記憶にある部分についてはあいまいであり、事実と異なる部分もある。 (ウ) 本件加害行為はたまたまそこにいた人物に対する無差別的とも言える暴力 行為で動機は不明(主観的には記憶がほぼ欠損しており不明。客観的にも合理的な動機を見出すことはできない。)。被告の表情は一種異様であった。 (エ) 本件加害行為(暴力行為)は被告の常の人格からかけ離れている。 エ本件鑑定は、上記ウの各前提事実に基づき、以下(ア)ないし(エ)の精神医学的考察を行っている。 (ア) 本件事件時の被告が急性アルコール中毒であったことは確定的である。 (イ) 本件事件時とその前後の被告は意識変容の状態にあった。そして、被告の記憶障害の持続時間が長時間に及んでいることや、同時間内の一部の記憶は完全に欠損しており、かつ、主観的に残存している記憶はあいまいであること等に照らすと、被告の意識変容は質的に重篤であったといえる。 (ウ) 路上で、全く見知らぬ複数の人物に背後から走りより襲撃したという本件事件の態様は全く了解不能の行為と言わざるを得ない。上記記憶障害と併せて考察すると、被告の意識変容はせん妄を伴うものであり、Binderのいう病的酩酊に近い。 (エ) 上記のような本件事件の態様は、怒りっぽくなるとか 行為と言わざるを得ない。上記記憶障害と併せて考察すると、被告の意識変容はせん妄を伴うものであり、Binderのいう病的酩酊に近い。 (エ) 上記のような本件事件の態様は、怒りっぽくなるとか、抑制力が低下する というレベルを超えたものであるから、酩酊により発生する一般的な事象の 範囲内であるととらえることは不可能であり、被告が非酩酊時において時に易怒性や抑制力の低下を示していた事実を前提にしても、本件はそれとは質、程度を異にしており、本件事件を被告の常の人格と結びつけることはできない。 オ以上の考察を踏まえて、G医師は、鑑定主文として以下のとおり鑑定した。 (ア) 本件事件時、被告は、急性アルコール中毒としての重篤な意識変容の状態にあった。同状態はいわゆるBinderの分類における病的酩酊(もうろう型)に近いものであった。 (イ) したがって、アルコールの影響により、著しい認知障害・判断力低下があり、自らの行為の意味・影響を適切に理解できない状態になり、常の人格と はかけ離れた激しい攻撃行動が発露した。 (ウ) 正常な精神作用によって本件事件を思いとどまる余地はなかった。 (エ) 被告はさらに、平成27年の脳外傷の後遺症としての高次脳機能障害を有している疑いがある。この高次脳機能障害が事件時の精神状態に何らかの影響を及ぼした可能性も否定できない。 (オ) 現在の被告の診断は上記(エ)の高次脳機能障害疑いである。 ⑷ 本件事件に係る刑事事件本件刑事事件判決(甲77)は、被告の完全責任能力を認めた上で、原告B及び原告Cについては傷害の確定的故意を、原告A及び原告Dについては傷害の未必的故意を認めて、被告に対し、懲役2年4月、執行猶予4年の有罪判決を宣告し た。検 完全責任能力を認めた上で、原告B及び原告Cについては傷害の確定的故意を、原告A及び原告Dについては傷害の未必的故意を認めて、被告に対し、懲役2年4月、執行猶予4年の有罪判決を宣告し た。検察官及び被告は双方控訴せず、同判決が確定した。 2 不法行為の故意の有無(争点1)⑴ 原告B及び原告Cに対する故意について被告は、原告B及び原告Cの身体をめがけて体当たりや足蹴りをしたものであるところ(前提事実⑵ア及びイ)、これらの行為は原告B及び原告Cの身体を狙い、 傷害を負わせる危険が高い行為を繰り返すものであるから、被告は原告B及び原 告Cに対して確定的な故意を有していたと認められる。 ⑵ 原告Dに対する故意について原告Dは、被告に体当たりされ後退した原告Cに衝突され、転倒したものであるところ、原告Cに体当たりをすればすぐ後方にいる原告Dにも傷害を負わせる危険があることは明らかであり(前提事実⑵ウ)、被告は原告Dに傷害を負わせる かもしれないがそれでも構わないとの未必的な故意を有していたと認められる。 ⑶ 原告Aに対する故意について前提事実⑵エ並びに証拠(甲46ないし48、77、82)及び弁論の全趣旨によれば、①被告は、原告Aと衝突する直前、本件事件現場道路の中央付近を勢いよく、腕を振り、上体を起こして走っており、衝突時に、両手を地面につくように 転倒しそうになったが、すぐに上体を起こし、被告を捕まえようとした原告Aの知人2名をかわしてさらに進路前方に走り続けていること、②また、原告Aと上記知人2名が並ぶように歩いていた現場の状況からは、後方から相当な勢いで走ってきた被告が原告Aらを追い抜こうとした場合には原告Aの近くを縫うように追い抜く形になり、場合によって原告Aに衝突しかねない具体的 2名が並ぶように歩いていた現場の状況からは、後方から相当な勢いで走ってきた被告が原告Aらを追い抜こうとした場合には原告Aの近くを縫うように追い抜く形になり、場合によって原告Aに衝突しかねない具体的危険があったこ とが認められる。 上記①の原告Aへの衝突前後の被告の挙動からすると、被告が衝突前に意図的に体当たりの態勢を取ったとか、衝突後も原告Aに対して攻撃のそぶりを示したとは認められないし、上記②の現場の状況等からすると、被告が意図的に原告Aを攻撃しようと体当たりしたのではなくとも、被告が原告Aに衝突するおそれは あったといえるから、被告に原告Aに対する確定的故意があったとまでは認め難い。しかし、被告が②の現場の状況等の下において、相当な勢いで走り続けて原告Aに衝突したことからすれば、原告Aと衝突するかもしれないがそれでも構わないとの未必的な故意を有していたことが認められる。 3 被告が本件事件時、責任弁識能力を欠いていたか(民法713条本文)(争点2) ⑴ 被告は、本件鑑定に依拠して、被告は本件事件時、せん妄を伴う急性アルコー ル中毒により重篤な意識障害の状態にあり、自らの行為の意味・影響を適切に理解できない状況、すなわち「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」(民法713条本文)にあったと主張する。 ⑵ しかし、以下の理由から、被告の主張は採用することができない。 ア本件鑑定は、被告が本件加害行為に及んだ動機が不明であり本件事件は全く もって了解不可能であるという点(認定事実⑶ウ(ウ)(エ))を記憶障害と共に主な根拠としているが、並列的な事情ではなく、最も重要な具体的事情として考慮しているので(乙5〔13、62頁〕)、まず、この点を検討する。 う点(認定事実⑶ウ(ウ)(エ))を記憶障害と共に主な根拠としているが、並列的な事情ではなく、最も重要な具体的事情として考慮しているので(乙5〔13、62頁〕)、まず、この点を検討する。 前記1の認定事実(以下「認定事実」という。)及び本件鑑定によれば、被告は平成27年に頭部外傷を負って高次脳機能障害の疑いがあり、飲酒をしない 状態でも易怒性が高まり、抑制力の低下が見られており、些細なことで怒りを爆発させて怖い形相になって衝動的に物を破壊する出来事が複数回あり、被告も自らが怒りやすくなったことを自覚していたこと(認定事実⑵イ、本件鑑定)、被告は、骨底盤障害の持病に悩まされており、特に令和3年10月頃からはその症状や睡眠不足等から精神的に追い詰められ、苛立ちや絶望感を募らせ、妻 に対し死にたいなどと漏らすこともあったこと(認定事実⑵ウ)、被告は、本件事件の前夜も毎日祈りを捧げていた神に対して二度と信じないなどと被告の妻がこれまで聞いたことのないような悪い言葉を言っており絶望した様子であったこと(認定事実⑵エ)、被告は、本件事件当日に逗子海岸に出かける前も精神状態は落ち込んで最悪の状態であったこと(認定事実⑵オ)、被告は、本件事件 当日の昼過ぎから逗子海岸等で相当量の飲酒をし、その夕方に被告を残して先に帰宅した妻との間で、妻が逗子海岸から先にいなくなったこと、被告のTシャツが見当たらないこと等を電話でやり取りし、これらのこと及びそのやり取りに強い怒りを募らせ、妻に対し「お前はもう死ぬ」などと激しい怒りを示すメッセージを送信したこと(認定事実⑴アないしウ)、被告はその後間もなく本 件事件を起こしたこと(認定事実⑴エ)が認められる。以上の経過に照らすと、 平成27年以降、頭部外傷後の影響で易怒性が高 送信したこと(認定事実⑴アないしウ)、被告はその後間もなく本 件事件を起こしたこと(認定事実⑴エ)が認められる。以上の経過に照らすと、 平成27年以降、頭部外傷後の影響で易怒性が高まっていた上に骨底盤障害の持病の悩みから苛立ちや絶望感を募らせていた被告が、本件事件前夜から本件事件当日にはそうした精神状態が最悪の状態であったところ、本件事件当日の夕方に妻が先に帰宅しており、自分のTシャツがなかったことや妻とのやり取りで激しい怒りを抱き、相当量の飲酒による一般的な抑制力の低下の影響もあ って、衝動的に見ず知らずの通行人に対して怒りの矛先を向けたというものと理解することができ、被告が本件事件を起こしたことは、その当時の被告の状況に照らして了解可能な行動であるというべきである。飲酒による一般的な抑制力の低下という範囲を超えた病的酩酊(もうろう型)に近い状態下でされた了解不能な行動と評価することはできない。 被告は、被告の易怒性は、平成27年の脳損傷後に発症したと思われる高次脳機能障害の症状として生じているものであるから、これを被告の常の人格と評価することはできないと主張する。しかしながら、本件鑑定は、平成27年の脳損傷後の高次脳機能障害の疑いの下での被告の易怒性を前提としても、被告が本件事件を起こしたことは了解不能であると評価しているのであるところ (乙5〔14、37、53頁〕)、当裁判所は前記のとおり本件鑑定の上記評価とは異なり、この点は了解可能であると判断するものであり、本件鑑定が最も重要な具体的な事情とする点についての鑑定意見は採用しない。そして、単に平成27年の脳損傷後の被告の易怒性がそれより前の性格とは異なっていることを指摘するだけでは、認定事実⑵イのとおりそのことも踏まえてした当裁判所 情とする点についての鑑定意見は採用しない。そして、単に平成27年の脳損傷後の被告の易怒性がそれより前の性格とは異なっていることを指摘するだけでは、認定事実⑵イのとおりそのことも踏まえてした当裁判所 の上記判断を左右するには至らない。本件鑑定も脳損傷後の高次脳機能障害の疑いがアルコールによって意識変容が発生しやすい準備段階となっていた可能性があり、本件事件当時の精神状態に何らかの影響を及ぼした可能性を指摘しているにとどまり、平成27年の脳損傷後の被告の易怒性がそれより前の性格とは異なっていることを理由として結論を導いているわけではないのであり、 平成27年の脳損傷後の被告の易怒性がそれより前の性格とは異なっているこ とから直ちに被告が本件事件当時、責任弁識能力を欠いていたことを認めるに足りる証拠はない。 イまた、本件鑑定が被告の記憶は断片的かつあいまいであり、被告には著しい記憶障害がある旨をいう点(認定事実⑶ウ(イ))についても、本件鑑定のための診察が本件事件の約1年後に行われたこと(認定事実⑶イ)や被告は飲みす ぎると記憶が飛ぶことがある、年を経るにつれて飲んで記憶がなくなることが増えていたこと(甲80〔25頁〕)からすると、上記診察時において被告の記憶が断片的かつ曖昧であっても不自然とはいえないし、直ちに重篤な意識変容の根拠になるということはできない。しかも、被告は当該診察において、概要、妻が被告より先にビーチを去ったこと、その後妻に電話をしたが応答がなく怒 りを覚えたこと、4、5名の人とトラブルになり何人かの人を押したり、人と衝突したりしたこと、その後もバイクに乗っている人などから追いかけられて走って逃げたこと、駅で警官に捕まり警察署に連れていかれたことなどを述べており(乙2)、本件事件 なり何人かの人を押したり、人と衝突したりしたこと、その後もバイクに乗っている人などから追いかけられて走って逃げたこと、駅で警官に捕まり警察署に連れていかれたことなどを述べており(乙2)、本件事件当日の出来事について一連の経緯に応じた記憶があったといえるところ、本件鑑定では被告の記憶障害が重篤であることについて十 分な理由が示されているとはいえない。 ウ以上によれば、本件鑑定が主な根拠とする本件事件が了解不可能であることや記憶障害の点についての評価は採用できないから、本件鑑定の結論を採用することはできない。したがって、本件鑑定に依拠して被告が本件事件時に責任弁識能力を欠いていたとする被告の主張は採用することができない。 4 責任無能力に陥ったことについての過失の有無(民法713条ただし書)(争点3)上記のとおり民法713条本文の適用が認められない以上、争点3については判断を要しない。 5 原告Aに生じた損害の有無及びその額(争点4)証拠(甲46、96、原告A本人のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、 以下の事実が認められる。 ⑴ 原告Aの受傷及び治療経過(甲1ないし4、6ないし8、40、41)ア原告Aは本件加害行為により、両側上顎骨骨折、右眼窩底骨折、眼部打撲、眼瞼腫脹、皮下出血、鼻骨骨折、前額部挫創、左小指基節骨骨折、右環指基節骨骨折、右中手骨骨折の傷害を負った。 イ原告Aは本件事件当日、湘南鎌倉総合病院の救急外来を受診し、右眉の上を 5針縫う緊急手術を受け、令和4年7月15日、左小指をワイヤーで固定する手術を受け、湘南鎌倉総合病院の整形外科、形成外科及び眼科に通院した(実通院日数29日)。原告Aは、令和5年4月6日までに症状固定した。 を受け、令和4年7月15日、左小指をワイヤーで固定する手術を受け、湘南鎌倉総合病院の整形外科、形成外科及び眼科に通院した(実通院日数29日)。原告Aは、令和5年4月6日までに症状固定した。 ⑵ 損害額ア治療費 13万6620円(争いなし) イ交通費 2万4160円(争いなし)ウ休業損害 37万5375円原告Aは、海の家を経営しているところ(前提事実⑴ア)、上記⑴の受傷及び捜査機関の取調べへの対応のため2か月間海の家での業務を休業しなければならなかったと認められる。そして、店の全体について目配りのできる経営者で ある原告Aの代替としてアルバイト従業員で対応するためには同時間帯に複数人を雇用する必要があり、原告Aの主張する日時(前記第2の3⑷の(原告Aの主張)イ(ウ))において、5名を原告Aが休業していた間の補充として雇用する必要があったと認められるため、原告Aに生じた休業損害は37万5375円と認められる(甲49)。 エ傷害による慰謝料 160万円原告Aの傷害の程度及び治療状況や本件加害行為の態様等本件の諸事情を考慮すれば、傷害による慰謝料は160万円が相当である。 オ後遺障害による逸失利益 351万7939円(ア) 原告Aには以下の後遺障害が生じていることが認められる。 a 醜状障害 本件加害行為により、原告Aには右眉部に2cm長の膨隆、そのすぐ下の右上眼瞼に2cm長の陥没が存在し、鼻骨骨折により左方への斜鼻が生じている(甲5、6)。これらは後遺障害等級12級14号の「外貌に醜状を残すもの」に相当する後遺障害であると認めるのが相当である。 b 神経症状 原告Aは自覚症状として左手小指MP関節付近が痛く 甲5、6)。これらは後遺障害等級12級14号の「外貌に醜状を残すもの」に相当する後遺障害であると認めるのが相当である。 b 神経症状 原告Aは自覚症状として左手小指MP関節付近が痛く、力が入りにくい旨を訴えており、他覚症状として左手小指MPの可動域が右手よりも屈曲伸展ともにそれぞれ10度以上狭い(甲7)。そのため、原告Aは、接客中に物を落としてしまうことがある。以上によれば、原告Aには特に左手小指MP関節において日常生活や業務に支障が生じるような神経症状が生じ ているといえ、これは後遺障害等級14条9号の「局部に神経症状を残すもの」に当たる。 c 以上によれば、本件における後遺障害は併合12級と認められる。なお、原告Aに右鼻翼や上口唇感覚麻痺の自覚症状があるが(甲6)、これが後遺障害等級14条9号に該当するとしても併合12級は変わらない。 (イ) 原告Aの上記後遺障害は、客から瘢痕について言及されたり、接客中に物を落としてしまったりする点においては業務に一定の支障を及ぼすものであるが、その後遺障害の内容、程度等に照らし、上記後遺障害による労働能力喪失率は、原告Aが主張する基礎収入を前提として10%であると認めるのが相当である。 また、原告Aの症状固定時の年齢(59歳)からすると、原告Aは59歳からの10年間について労働能力を喪失したと認めるのが相当である。 以上によれば、後遺障害による逸失利益は次式のとおり、351万7939円と認められる。 【計算式】 412万4100円×0.1×8.5302(年3%で10 年のライプニッツ係数)=351万7939円 カ後遺障害による慰謝料 320万円原告Aに遺った後遺障害の内容、程度及び本件加害行為の態様等の 302(年3%で10 年のライプニッツ係数)=351万7939円 カ後遺障害による慰謝料 320万円原告Aに遺った後遺障害の内容、程度及び本件加害行為の態様等の本件の諸事情を考慮すると、後遺障害による慰謝料は320万円が相当である。 キ小計 885万4094円ク弁護士費用 88万5000円 本件事案の性質、認容額等からすると、被告に負担させるべき弁護士費用は88万5000円が相当である。 ケ合計 973万9094円 6 原告Bに生じた損害の有無及びその額(争点5)証拠(甲56、98のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が 認められる。 ⑴ 原告Bの受傷及び治療経過(甲14ないし16、18、20、53ないし55)ア原告Bは本件加害行為により、右背部擦過傷、右前腕部擦過傷、右膝擦過傷、腰部打撲、左殿部打撲、左手関節打撲、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右前腕打撲血腫、右背部挫傷の傷害を負った。 イ原告Bは本件事件当日、横須賀市立市民病院の救急科を受診し、応急治療を受けた。また、原告Bは令和4年7月13日と同年8月22日にさわい整形外科クリニックを受診し(原告Bはもっと通院したかったが、仕事が極めて多忙であったのと治療代を被告から支払ってもらえるか不明であったために通院を控えた。)、その後令和5年7月8日に同クリニックを再度受診し症状固定の診 断を受けた。 ⑵ 損害額ア治療費 3万7826円(争いなし)イ交通費 9210円(争いなし)ウ休業損害 40万円 原告Bは、令和4年7月11日から同年10月26日にかけて少なくとも8 日間を療養、治療及び取調べの イ交通費 9210円(争いなし)ウ休業損害 40万円 原告Bは、令和4年7月11日から同年10月26日にかけて少なくとも8 日間を療養、治療及び取調べのために休業した。そして、原告Bの基礎収入は1日当たり5万円であるから(争いなし)、原告Bに生じた休業損害は40万円と認められる。 エ傷害による慰謝料 60万円原告Bの傷害の程度及び治療状況や本件加害行為の態様等本件の諸事情を 考慮すれば、傷害による慰謝料は60万円が相当である。 オ後遺障害による逸失利益 292万8613円(ア) 原告Bには以下の後遺障害が生じていることが認められる。 a 神経症状本件加害行為により原告Bは、頸部痛、重だるさ、右背部違和感、吸気時 痛、屈伸時右膝痛等の各症状があり、階段昇降不可、ランニング不可、長時間座位は不可等で日常生活と仕事に支障がある(甲18)。以上によれば、原告Bのこれらの症状等は後遺障害等級14条9号の「局部に神経症状を残すもの」に当たる。 b 醜状障害 本件加害行為により、原告Bには右肘付近(肘関節の上下にかけて)に長さ10cmの瘢痕が生じている(甲17、18)ものの、その部位及び状況から後遺障害等級14条4号に当たる「醜状」とまでは認められない。 ただし、この点を含め、原告Bの身体にいくつかの瘢痕が残ったことは後遺障害による慰謝料において一定の考慮をすることとする。 (イ) 上記後遺障害の内容によれば、原告Bは症状固定時からの5年間について労働能力を5%喪失したと認めるのが相当である。原告Bの基礎収入は1278万9540円である(甲23)。 以上によれば、後遺障害による逸失利益は次式のとおり、292万86 からの5年間について労働能力を5%喪失したと認めるのが相当である。原告Bの基礎収入は1278万9540円である(甲23)。 以上によれば、後遺障害による逸失利益は次式のとおり、292万8613円と認められる。 【計算式】 1278万9540円×0.05×4.5797(年3%で5 年のライプニッツ係数)=292万8613円カ後遺障害による慰謝料 120万円原告Bに遺った後遺障害の内容、程度(後遺障害と認定するには至らなかった瘢痕も含む。)及び本件加害行為の態様等の本件の諸事情を考慮すると、後遺障害による慰謝料は120万円が相当である。 キ小計 517万5649円ク弁護士費用 51万7000円本件事案の性質、認容額等からすると、被告に負担させるべき弁護士費用は51万7000円が相当である。 ケ合計 569万2649円 7 原告Cに生じた損害の有無及びその額(争点6)証拠(甲65、100のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 原告Cの受傷及び治療経過(甲24、25、64)ア原告Cは本件加害行為により、右眼瞼擦過傷、右眼瞼皮下血腫、顔面打撲、 両膝打撲、両膝擦過傷(加療2週間の見込み)の傷害を負った。 イ原告Cは本件事件当日、横須賀市民病院の救急科を受診し、応急治療を受け、その後は通院していないが、右眼瞼に皮下血腫が生じ、外貌にも顕著な影響が生じ、しばらく外出を控えるなど不自由な生活を送り、全治まで1か月を要した。 ⑵ 損害額ア治療費 1万2930円(争いなし)イ交通費 8050円(争いなし)ウ休業損害 8万円原告Cは、令和4年7 全治まで1か月を要した。 ⑵ 損害額ア治療費 1万2930円(争いなし)イ交通費 8050円(争いなし)ウ休業損害 8万円原告Cは、令和4年7月10日から同年10月23日にかけて少なくとも4 日間を療養、治療及び取調べのために休業した。そして、原告Cの基礎収入は 1日当たり2万円であるから(争いなし)、原告Cに生じた休業損害は8万円と認められる。 エ傷害による慰謝料 40万円原告Cの傷害の程度及び治療状況や本件加害行為の態様等本件の諸事情を考慮すれば、傷害による慰謝料は40万円が相当である。 オ小計 50万0980円カ弁護士費用 5万円本件事案の性質、認容額等からすると、被告に負担させるべき弁護士費用は5万円が相当である。 キ合計 55万0980円 8 原告Dに生じた損害の有無及びその額(争点7)証拠(甲70、101のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 原告Dの受傷及び治療経過(甲28、29、69)ア原告Dは本件加害行為により、左手関節擦過傷、左手関節打撲、腰部打撲、 尾骨打撲、頭部擦過傷(加療1週間の見込み)の傷害を負った。 イ原告Dは本件事件当日、横須賀市立市民病院の救急科を受診し、応急治療を受け、その後は仕事が多忙であったため通院していないが、尾骨の痛みが引くまで約3か月を要し、その間痛みをこらえてライブ等に出演した。 ⑵ 損害額 ア治療費 9750円(争いなし)イ交通費 1480円(争いなし)ウ休業損害 3万円(争いなし)エ傷害による慰謝料 40万円原告Dの傷 ア治療費 9750円(争いなし)イ交通費 1480円(争いなし)ウ休業損害 3万円(争いなし)エ傷害による慰謝料 40万円原告Dの傷害の程度及び治療状況や本件加害行為の態様等本件の諸事情を考 慮すれば、傷害による慰謝料は40万円が相当である。 オ小計 44万1230円カ弁護士費用 4万4000円本件事案の性質、認容額等からすると、被告に負担させるべき弁護士費用は4万4000円が相当である。 キ合計 48万5230円 9 以上によれば、原告らの被告に対する請求は、原告Aにつき973万9094円、原告Bにつき569万2649円、原告Cにつき55万0980円、原告Dにつき48万5230円及びこれらに対する本件事件日である令和4年7月9日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これらの限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却するこ ととして、主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第9民事部 裁判長裁判官藤澤孝彦 裁判官南晴鞠子 裁判官西尾洋介は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官藤澤孝彦

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