平成15(行コ)25 公金違法支出差止等請求,同共同訴訟参加控訴事件(原審:名古屋地裁平成12年(行ウ)第62号,平成13年(行ウ)第7号)

裁判年月日・裁判所
平成17年2月25日 名古屋高等裁判所 住民訴訟
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判決文本文15,238 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,原判決別紙事業目録1,2記載の各事業に関する費用を支出してはならない。 第2 事実関係 1 本件は,愛知県の住民である控訴人らが,愛知県の地方公営企業である企業庁(愛知県企業庁)が実施している中部国際空港建設関連事業としての本件各事業(原判決別紙事業目録1,2記載の各事業)が,採算の見通しを欠き,かつ自然環境を破壊する不合理なものであり,地方公営企業の経営原則を定めた企業法(地方公営企業法)3条などに違反した違法なものであるから,これに要する費用の支出も違法な公金の支出に当たると主張して,地方自治法242条の2第1項1号(平成14年法律第4号地方自治法等の一部を改正する法律による改正前のもの)に基づき,企業庁の管理者兼業務執行者である被控訴人に対して,本件支出(上記費用支出)の差止めを求めた住民訴訟の控訴審である。 2 事実関係は,後記3に当審における控訴人らの補足的主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決5頁2行目の「本件格事業」を「本件各事業」に,同別紙事業目録11行目の「主張施設」を「主要施設」に,それぞれ改める。)。 3 当審における控訴人らの補足的主張(1) 需要予測が過大であることや販売戦略の欠如等により土地処分の可能性が乏しいことについて以下の各点から,本件収支計画において企業庁が予定したような土地処分が実現する可能性は皆無に等しいから,本件各事業は破綻することが明らかであり,これを実施すべきではなかった。 ア企業庁が本件各事業の大前提とした空港インパクト論は,総務省が本件空 たような土地処分が実現する可能性は皆無に等しいから,本件各事業は破綻することが明らかであり,これを実施すべきではなかった。 ア企業庁が本件各事業の大前提とした空港インパクト論は,総務省が本件空港を国際ハブ空港と位置づけた航空需要予測が過大であると指摘し(甲24,92の2頁),被控訴人側証人A(31,32頁)もそれにより自然に街ができるという錯覚ないし過大な期待があったことを認めているように破綻しており,これを当てにした需要予測に基づく本件収支計画は実行不可能なものである。 イまた,大規模商業施設やキャナルモールなどの中核的施設を先導的に誘致して街のにぎわいを作り出し土地需要に結びつけるというのが企業庁の土地処分計画であるが,そこで前提とする東京ディズニーランド等のような高い集客力のある施設を誘致することは,平成15年6月に分譲が始まっても未だにその計画すら存在しておらず,企業庁の計画は既に破綻している。その他,多様な土地処分のメニューを用意したとする点も,そこに挙示されている土地分譲代金の長期分納方式は売却の可能性を拡大するものではなく,または,土地リース制度などは売れない土地をいわゆる塩漬けにするだけのものであって,有効なものではない。 ウ日本経済は単にバブル崩壊の後遺症にとどまらず,デフレスパイラルといわれる新たな不況の段階に入るなど,ますます混迷の度を深めている。また,企業庁が,B(名古屋支店)に委託した対岸部地域開発用地に関するアンケート調査,同じくCに委託した中部国際空港近接部地域開発事業推進調査の各結果(甲87,88,125)によれば,企業等における用地需要の低さから,本件各事業が現実離れしたもので採算の見通しの立たないものであることが明白であった。現に,平成15年6月から第1期の販売が始められたが,空港周辺 5)によれば,企業等における用地需要の低さから,本件各事業が現実離れしたもので採算の見通しの立たないものであることが明白であった。現に,平成15年6月から第1期の販売が始められたが,空港周辺部で13社,対岸部では1社が名乗りを上げたにすぎない。 (2) 分譲予定価格が高額であることにより分譲地販売の可能性が乏しいことについて企業庁の分譲予定価格の決定は,以下のとおり適正価格に比較して非現実的に高額な価格を設定したため,今日までほとんど売れることがなく,今後とも適正な価格を設定する見込はないから,その収支計画(乙19)は実行できず,本件各事業は当初から実施すべきではなかった。 ア企業庁の分譲予定価格は評価書(D作成の「土地評価調査業務報告書」。乙24)に基づいて決定されているが,評価書は,前提条件として,願書(公有水面埋立免許願書。甲15及び17)が予測し計画したとおりに,①街ができあがること,②利用が予測されること,③インフラ整備がなされることを前提として土地価格を検討したものであるところ,その前提は誤っており,願書は甚だしく不合理なものである。 イ公有水面の埋め立ては土地の利用について確かな需要があるから認められたはずであり,また,地方公営企業である企業庁は投下資本を当該事業によって回収しなければならないから,願書作成の時点で,企業庁は願書の需要予測が将来実現するものとし,それを前提として算出された土地価格であれば売却可能であると判断したはずである。したがって,願書の需要予測を検討し,これが実現する可能性がない場合には,本件各事業の採算性も欠如しているはずである。しかるところ,願書は対岸部における商業・業務施設用地に関する部分を始めとしてずさん極まりないものであるから,本件各事業の実施は企業庁の会計を破綻させるも 件各事業の採算性も欠如しているはずである。しかるところ,願書は対岸部における商業・業務施設用地に関する部分を始めとしてずさん極まりないものであるから,本件各事業の実施は企業庁の会計を破綻させるものである。 ウ企業庁は,分譲価格について「常滑市街地や周辺地域との均衡に配慮しながら,優位性ある価格を設定する。」としたが,常滑市周辺の地価は下落が続いており,工業地域・準工業地域の平均公示価格は,平成12年度に対し,平成13年度は1.9%,平成14年度はさらに5.1%の下落となり,評価書の11頁で引用する「東海9-4」も,同様に0.5%,5%の下落であった。特に商業・業務用地の地価の下落は深刻であり,評価書の11頁で引用する「常滑5-1」は,平成12年度の20万8000円/㎡に対し,平成14年度は18万円/㎡と13.5%下落しており,企業庁の見込んだ下落率を超えて今後も更に下落する可能性が大きい。また,地方公営企業である企業庁は投下資本を当該事業によって回収しなければならないことからこれ以上の値下げはできない。 エ E作成の鑑定意見書(以下「E鑑定」という。)は,本件各事業の平成12年6月23日(本件埋立免許取得)時点での事業採算性の有無について,以下のとおり,収支予定期間(平成40年度)を前提に想定される本件各事業による総収益は約1112億円であり,「収支計画総括表」記載の総事業費に変動がないとした場合,本件各事業の採算性はないと判断しており,控訴人らの主張が裏付けられた。 (ア) 昨今の社会経済状況,土地取引及び地価の動向,隣接する常滑市の状況ならびに本件埋め立て地の処分状況等を総合的に考慮すると,本件収支計画のように土地の売却処分の期間を平成24年度までと想定することはほとんど不可能である。空港島周辺部については,平成18年こ の状況ならびに本件埋め立て地の処分状況等を総合的に考慮すると,本件収支計画のように土地の売却処分の期間を平成24年度までと想定することはほとんど不可能である。空港島周辺部については,平成18年ころ,22年,27年,32年に各20%,37年に10%,対岸部については,平成18年ころに10%,22年,27年,32年,37年に各20%の売却及び賃貸借契約が可能であると想定するのが相当である。 (イ) 本件収支計画の基礎となる土地価格は,埋立地が近隣の既成市街地とほぼ同程度に熟成した場合の価格であり,それ以前に売却する土地については熟成度による修正を行うべきであるのに,それが考慮されていない。市街地が熟成すると想定される平成25年1月1日以前の土地価格は年5%の現価率補正による修正を行うべきである。 (ウ) さらに,将来の処分価格を現在ないし過去の価格時点で評価する場合は評価時点への現価率補正をする必要があるのに,本件収支計画ではそれが考慮されていない。年5%の現価率補正により価格時点に割り戻した金額を収益額とすべきである。 (エ) そして,これらの修正をして想定される本件各事業による総収益は約1112億円となる。 (3) 環境破壊についてア F研究会(以下「F」という。)が平成14年10月から15年10月にかけて行った調査で,本件空港建設により周辺海域の環境悪化が進み,底生生物が激減していることが判明した(甲138ないし141,156)。その結果は,別紙1ないし3のとおりである。なお,別紙2の底泥表層は1㎝が約2年分である。 イ平成12年9月から平成14年5月までの間において,愛知県と本件会社(中部国際空港株式会社)によって実施された環境影響監視調査(月報は乙32の1ないし23,年報は乙34ないし37)及び平成13年3月に公表された から平成14年5月までの間において,愛知県と本件会社(中部国際空港株式会社)によって実施された環境影響監視調査(月報は乙32の1ないし23,年報は乙34ないし37)及び平成13年3月に公表された工事中の海域環境影響検討調査報告(甲8)は,深さ10㎝の底泥を採取して混合した試料を分析しているが(甲155,156),このような方法では約20年間の平均値しか測定できず,最近2,3年の工事の影響を調査するには不適切である。 ウまた,これらの調査結果である環境影響検討調査報告(甲151,152)に対し,環境省は,事業予定地から離れた地点で2㎎/l以上の濁りが観測されたこと,一部の監視点において,夏季に全硫化物値が高くなる傾向が見られたこと,空港島等周辺の底生生物等の海域生物の個体数等に変動があること,藻場面積には変化が大きいこと等から,引き続き監視を行い,注意を払う必要があるとの指摘をした(甲148ないし150)。 エ仮に,付近海域における水質浄化機能の喪失等の規模を確定できないとしても,一旦喪失した諸機能の復活は困難であり,生態系の調和が崩れた場合に,どのような状況が生ずるか予測ができないのであって,経済的損失だけでなく国民生活にとっても取り返しのつかない被害を及ぼすおそれがあるから,そのおそれがあると予測される場合は,環境に対し重大な結果を招く可能性があると認めて,事業を取りやめるべきである。 第3 当裁判所の判断当裁判所も控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断するが,その理由は,次の1のとおり補正し,2のとおり当審における控訴人らの補足的主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の補正(1) 原判決35頁3行目の「その主要部分である工事費」から8 らの補足的主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決の補正(1) 原判決35頁3行目の「その主要部分である工事費」から8行目の「被告から具体的な反論はない。)。」までを「予備費と建設利息を除いた実績ベースでの支出額は平成15年度末で約81%(1605億円/1980億)に達することが窺える(乙38,39,弁論の全趣旨)が,空港島周辺部及び対岸部の埋立造成工事の完了予定時期が平成16年度末とされていること,被控訴人からは支出済みであることを理由として本件支出により回復困難な損害を生ずるおそれがあるとはいえないとの主張はなされていないことを考慮すると,当審の口頭弁論終結時点(平成16年11月10日)では,いまだ100億円単位の支出が留保されている状態であると推認できる。」に改める。 (2) 同47頁10行目の「流通施設用地33.2パーセント」を「流通施設用地33.2ヘクタール」に改める。 (3) 同51頁13行目の「国内線旅客機5万4800回」の次に「)」を加える。 (4) 同53頁19ないし21行目の「分譲予定価格の7割相当を土地価格とした上,公租公課を含めた実質的な利回りが分譲予定価格の年利2ないし3パーセントとなるよう設定する」を次のように改める。 「本来の賃料額を分譲予定価格に対し年利3%を乗じ公租公課を加えた額と想定した上,これに対し,初期投資の負担を軽減して企業の進出を促すべく,分譲予定価格の年利2ないし3%となるよう設定するとしたうえ,収支計画上は土地価格に対し3%を乗じた額からさらに3割を控除する方法で積算した(乙19,27,証人A3頁)」(5) 同57頁5,6行目の「割引価格を前提とした賃料を設定し」を「推定賃料は土地価格に対し4%と査定された 対し3%を乗じた額からさらに3割を控除する方法で積算した(乙19,27,証人A3頁)」(5) 同57頁5,6行目の「割引価格を前提とした賃料を設定し」を「推定賃料は土地価格に対し4%と査定されたのに対し,本件収支計画においては,分譲予定価格の年利2ないし3%となるよう設定するとした上,収入額の計算上は分譲予定価格に対し3%を乗じた額からさらに3割を控除する方法(分譲予定価格に対し2.1%)で積算し」に改める。 (6) 同61頁4,5行目の「好ましからざる環境への影響が生ずるといえる。」を「環境の悪化が生ずる可能性が一応考えられる。」に,64頁12,13行目の「一定程度の環境の悪化が生じることは認められるものの」を「環境の悪化が生じる可能性が一応考えられるものの」にそれぞれ改める。 2 当審における控訴人らの補足的主張に対する判断当審における控訴人らの補足的主張について検討を進める前提として,地方公営企業の行為が,企業法3条違反により違法となることがありうるか,ありうるとしてもいかなる場合に違法とされるかについてみるに,それが,地方公営企業の財務運営を危殆に瀕せしめることが明らかであるなど,同法の趣旨を没却するような事態を招くものであるならば,企業法3条違反として当該行為が違法無効となる余地はあるものの,他方,企業法3条の規定がはなはだ抽象的であってそれ自体は具体的な行為規範とはなりがたく,しかも,そもそも地方公営企業における財務運営,経営判断が,政策的,専門的見地から多角的,総合的になされるべきことからすると,その判断には一定の裁量が認められているといわざるを得ず,当該行為の性質,その当時の状況等に照らし,上記裁量権を逸脱しこれを濫用したと認められる場合にはじめて違法となるというべきである。そして,当該行為が上記裁量権を逸脱 認められているといわざるを得ず,当該行為の性質,その当時の状況等に照らし,上記裁量権を逸脱しこれを濫用したと認められる場合にはじめて違法となるというべきである。そして,当該行為が上記裁量権を逸脱・濫用したもので企業法3条に違反する違法なものであることは,原告において具体的に主張し立証する必要があるとともに,本件においては,本件各事業が高度に政策的,行政的観点からの判断を要するものであることに鑑みると,単に社会経済情勢に対する見通しがいわゆる強気であって,これに反し厳しい状況が続けば破綻するかもしれないという程度を超え,本件各事業に採算の見通しがあり,これを行うとした判断が誤りであり,本件各事業の実施により企業庁の財務運営が危機に陥ることが明らかであるにもかかわらず,敢えて行ったことを主張立証することを要するというべきである。 以下,このような観点から控訴人らの主張を検討することにする。 (1) 需要予測の過大及び販売戦略の欠如等により分譲地販売の可能性が乏しいこと(当審における控訴人らの補足的主張(1))についてまず,控訴人ら指摘の航空需要予測については,前記(原判決55頁)のとおり現状と比較して過大なものであること自体は否定しきれず,これを前提とする願書の土地需要予測にも同様の疑いがあり得る。しかしながら,将来の航空需要予測は,甲24も述べるとおり,景気後退による需要の伸び悩みなどの影響を受けて甚だ困難なものである。そして,現状の景気動向の判断すら,控訴人らは,デフレスパイラルといわれる新たな不況の段階であると主張するが,政府・日銀をはじめとして一時的な停滞はあっても経済成長率が向上し景気回復基調にあるとの判断も有力に唱えられていることは公知の事実であって,控訴人らが主張するような景気見通しが明らかに正しいとはいえない。ま をはじめとして一時的な停滞はあっても経済成長率が向上し景気回復基調にあるとの判断も有力に唱えられていることは公知の事実であって,控訴人らが主張するような景気見通しが明らかに正しいとはいえない。ましてや,わが国あるいは中部圏における経済情勢が今後どの様に推移するかは明らかとはいえないのであって,これに左右される本件空港における需要予測について,的確に行うことは困難であり,一応の根拠に基づいて算出されていて,それが直ちに不合理と判断できなければ,その見通しが一定の時点で結果として過大であったとしても,直ちに政策的専門的判断としての裁量の範囲を逸脱しているとはいいがたい。 そこで,上記航空需要予測について検討するに,前記(原判決55頁)のとおり推進会議が平成10年3月に公表した「中部国際空港の計画案(最終まとめ)」中の利用予測のうち,平成12年度の航空貨物利用予測は,国内線と国際線を合わせて27万トンとされているが,平成11年度の名古屋空港における航空貨物の利用実績は15万8000トンにすぎず,その予測が大きく外れたとはいえるものの,他方,平成12年度の旅客数は国際線,国内線の合計で1100万人と予測したところ,平成11年度の名古屋空港における旅客数実績は約1060万人であって(甲19の58頁),大きな狂いはない。また,航空貨物利用予測については,中部圏内での利用実績は輸出入合わせて約54万トンに達しており,名古屋空港の能力的な面からこれらの多くが成田空港や関西空港に流れているという面があり,本件会社は本件空港が24時間空港であることや交通の利便性などを生かしてこれを本件空港に取り込むことを意図しているものである(乙50の1及び3,51の1及び2,52)。そうすると,上記航空需要予測が平成12年の名古屋空港の実績を下回ったことなど の利便性などを生かしてこれを本件空港に取り込むことを意図しているものである(乙50の1及び3,51の1及び2,52)。そうすると,上記航空需要予測が平成12年の名古屋空港の実績を下回ったことなどをもって,直ちに裁量権の逸脱を意味するほど大きく過大であったとまでは断定しがたい。ましてや,上記航空需要予測が平成17年以降も5年毎に1割の拡大を予測しているのに対し,願書の考え方は,基本的に開港時点である平成17年度の利用予測に基づいて必要面積を算出しており,拡大予測をそのまま取り入れているものではないのであって,上記裁量範囲を逸脱したとはいいがたい。 これに対し,本件各事業の見通しについて厳しい指摘が多くあること(甲87,88,125,142)は確かであるが,しかし,本件各事業の分譲地等の隣接部には,本件空港の外,ふ頭,自動車専用道路のインターチェンジ,鉄道駅などが整備されるのであるから(甲15,17),利用価値が高く,発展の可能性があること自体は明らかであり,E鑑定(甲142)も,その時期はともかくも将来的には上記分譲地等が街として形成され,後記(2)エのとおり本件収支計画程度の地価となることを前提とし,また,国際ハブ空港の開港というイニシアチブのあることが地価上昇に対する積極要因になることを前提とし,なおかつ,企業庁の事業努力や地元経済界の協力次第ではさらに改善される余地があることを認めている(30頁)。特に,C(甲125)の報告は全体としては前向きの提言となっており,これを受けて企業庁も土地分譲代金の長期分納方式,土地リース制度などを取り入れ,また,知事による海外企業の誘致活動等,まちづくりの推進計画及びガイドラインの策定などの対応をしている(乙40ないし42)。また,企業庁は,空港インパクトにより自然に街ができるというも 取り入れ,また,知事による海外企業の誘致活動等,まちづくりの推進計画及びガイドラインの策定などの対応をしている(乙40ないし42)。また,企業庁は,空港インパクトにより自然に街ができるというものではないことを前提として,地元常滑市や進出企業において円滑にまちづくりが行われるように当初から賃貸制度を導入するなど,これを誘導する方策を導入した(証人A32頁)。これに対し,控訴人らは,これらの方策に否定的な評価を与えているが,土地分譲代金の長期分納方式は資金力の未だ十分でない企業であっても参入を可能にし,土地リース制度は,さらに企業のリスクを減少させることになるから,処分の可能性を増大させ,さらに,これによって,まちづくりを促進するものと期待される。また,控訴人らが指摘するように,乙41によると,対象とするプロジェクトについて多彩な例を挙げ,平成17年(2005年)3月までに創設期の牽引プロジェクトである先導プロジェクトの進出を具体化させ,平成20年(2008年)度から平成24年(2012年)度の展開期において,その牽引プロジェクトである中核プロジェクトの開業をめざすとされているところ,上記先導プロジェクトの具体化が遅れている状況にあることが窺えるが,将来的にもこれが不可能な状況に至ったとは認めがたい。 以上からすると,仮に,本件空港設置に際して行われた需要予測が現時点において過大なものであること自体は否定しきれず,願書に基づく本件各事業の規模も現時点において過大である可能性がないとは断定できず,現状はなかなか厳しいとしても,企業庁の判断が全体として誤っており,企業庁が予定したような処分の可能性は皆無に等しいとまでは断じがたいのであって,上記のとおり土地分譲代金の長期分納方式等を活用し,また後記(2)のとおり周辺土地に対し優位な価 全体として誤っており,企業庁が予定したような処分の可能性は皆無に等しいとまでは断じがたいのであって,上記のとおり土地分譲代金の長期分納方式等を活用し,また後記(2)のとおり周辺土地に対し優位な価格設定をするなどの手法により売却ができる可能性は否定されず,かつ,公共的施設の整備には国等の補助金も期待できること(証人A54頁。なお,本件各事業により税収の増加や公共の福祉の増進が期待できるから,補助金を交付する理由はありうる。)から,上記指摘の点から直ちに本件各事業が破綻すると見込まれるといえるわけではない。 よって,控訴人らの上記主張は採用できない。 (2) 分譲予定価格が高額であることにより分譲地販売の可能性が乏しいこと(当審における控訴人らの補足的主張(2))について控訴人ら主張の点について以下順次検討する。 ア評価書(乙24)と願書との関係(当審における控訴人らの補足的主張(2)ア)について原判決(56頁)も指摘するとおり,願書の需要予測等は評価書の価格評価には直接影響していない。 すなわち,控訴人らの指摘する評価書の前提条件とは,正確には,①開発計画どおりに造成されること,②地域要因の把握に当たって土地利用計画及び施設利用者予測等のデータを前提とすること,③現況は埋立工事中であるが,埋立工事及びインフラ整備が完了した直後の熟成前の状態を前提とすることであり,上記①及び③が実現されることに特段の支障があるとは窺えず,同②の点が問題となりうるが,この点も,価格形成要因の分析において,当該土地の区画の形状及び規模,公法上の規制の有無,接道関係,交通機関からの距離,近隣の公共施設・緑地・広場の面積やそれとの位置関係などと共に土地利用計画を利用したり,また,取引事例比較法により査定した比準価格を検証する際に,比較の対象を選 有無,接道関係,交通機関からの距離,近隣の公共施設・緑地・広場の面積やそれとの位置関係などと共に土地利用計画を利用したり,また,取引事例比較法により査定した比準価格を検証する際に,比較の対象を選択するため施設利用者予測等のデータを利用したにとどまり,ことに比準価格の検証にあたっては,分譲等予定土地が熟成前の状態であることを考慮して,比較の対象として選択した土地の価格に減額修正をした上で比較しているのであり,取り立てて大きな弊害が生じるようなものではない。このように,願書(甲15及び17)の需要予測の影響は間接的であり,しかも,本件収支計画においては,上記報告書の査定価格からさらに控え目な数値を採用している(原判決51頁(3)ア,イ)のであり,仮に同願書の需要予測が結果として過大であったとしても,収支計画自体が明らかに不当であるとは断定できない。 イ願書の需要予測を前提として分譲価格が決められたとの点(当審における控訴人らの補足的主張(2)イ)について願書の趣旨及びその記載内容から,これが埋め立ての必要性,位置及び必要面積を明らかにしたものであって,事業の採算性を検討したものではないことは明白である。そして,埋立免許を受けたからといって埋立をする義務を負うわけではないし,実際上も願書作成時点から実際に着工するまでの時間的な経過において経済情勢の変化が予想されるから,その後,逐次,工事費等のコストと収入の見通しを見直しつつ事業を実施していくことになるのである。したがって,そもそも願書作成時点で事業の採算性をも厳密に検討しなければならないものではなく,また,願書作成の過程における需要予測が結果として過大であったとしても,直ちに事業そのものの採算性を欠くというものではない。また,控訴人らが願書の需要予測がずさん極まりないとして ないものではなく,また,願書作成の過程における需要予測が結果として過大であったとしても,直ちに事業そのものの採算性を欠くというものではない。また,控訴人らが願書の需要予測がずさん極まりないとしてるる指摘する〔原判決16頁(3)(原告らの主張)ウの点を含む。〕点を見ても,将来の見通しについて強気の見解を取るか,堅実な数値を採用するかなどの,いわば程度の差や当否の問題であって,作成時点において既に重大で明白な誤りがあったというようなものではない。控訴人らが特に不合理であると指摘する対岸部における商業・業務施設用地の需要予測についても,願書は,キャナルモールだけで東京ディズニーランドなどと同様の集客力を有すると想定しているのではなく,知多,尾張,三河,北勢,中勢地域を訪れる観光客数を算出するために120㎞圏域までの地域人口に乗じる係数として東京ディズニーランド等の入り込み比率の減衰率を使用し,その5分の1が知多地域を訪れると想定し,その2分の1がキャナルモールを利用すると想定したものである(甲15の1-92,93頁)。なお,大規模商業施設についても,知多地域及び常滑市の需要を前提に必要面積を算出していることは控訴人らも自認するところである(意見書4頁)。そして,これらは面積算出根拠であって価格設定には直接影響しない。 ウ優位性ある価格を設定できるかについて(当審における控訴人らの補足的主張(2)ウ)常滑市周辺の地価の下落幅が控訴人らの指摘するとおりであれば,対岸部の商業・業務用地については既に当初見込んだ15%に近い下落となっており,一層の下落が進めば,当初設定した価格では優位性を維持できない可能性はある(ちなみに,「常滑5-1」の平成14年度の公示価格は18万円/㎡であるのに対し,分譲予定価格はより地価の高い空港島周辺部との 層の下落が進めば,当初設定した価格では優位性を維持できない可能性はある(ちなみに,「常滑5-1」の平成14年度の公示価格は18万円/㎡であるのに対し,分譲予定価格はより地価の高い空港島周辺部との平均で17万2000円であり,この時点ではなお優位性を維持している。)。しかし,周辺地域の地価を全体として見れば当初見込んだ15%にはまだ余裕のある範囲に止まっているといえるし,予備費及び剰余金として140億円を見込んでいることから,これ以上の値下げなどの対応がとれないとはいえない。 エ E鑑定について(当審における控訴人らの補足的主張(2)エ)E鑑定は,土地価格について,熟成後の価格は本件収支計画と大差のない金額を算出していながら(全体の平均単価は,本件収支計画が13万8000円/㎡であるのに対し,13万6421円/㎡である。),市街地が熟成する時期を平成25年1月1日としてそれ以前に売却する土地はその価格につき利率年5%の複利での現価率補正による熟成度修正をするとともに,売却可能になるのは想定した将来であるとしてその時期から利率年5%の複利現価率を乗じて平成12年6月23日時点の現価額を算出しているところ,これには以下のような問題があり,直ちに採用できない。 まず,(ア)の点につき,売却及び賃貸借契約が可能であると想定した時期について,具体的な根拠としてはりんくうタウンの見直し後の事業計画の例を挙げている(甲142の23頁)が,本件各事業が同計画と同様の経過を辿るという根拠は十分ではないし,その他の根拠については具体性がない。 (イ)の点も,熟成度修正を加えること自体はともかく(乙24報告書でも,比準価格の検証において,利率年4%の5年間の複利現価率0.822を乗じている。),平成25年を基準とした上,平成18年分につき利率 の点も,熟成度修正を加えること自体はともかく(乙24報告書でも,比準価格の検証において,利率年4%の5年間の複利現価率0.822を乗じている。),平成25年を基準とした上,平成18年分につき利率年5%の7年間の複利現価率0.7107を,同22年分につき同じく3年間の複利現価率0.8638を乗じているが,これらの数値を採用する根拠も明らかではない(24頁)。 (ウ)の点も,上記のとおりに想定した売却金額に対し,利率年5%の複利現価率を乗じて平成12年6月23日時点の現価額を算出しているため,平成18年売却分で0.7646,40年売却分に至っては0.2614を乗じているが,本件収支計画では建設利息として事業資金に充てる企業債の利息(当初発行分は年1.4ないし1.7%,借換分は2.5%と設定)を330億円計上し,この中には平成24年以降に約290億円を2度借り換え平成37年度に最終償還するための利息を含んでおり(乙25),また,予備費として120億円を計上しているのであって,売却が将来にわたる点については一応考慮されていることに照らすと,それにもかかわらず,このような計算をすることの根拠は十分とはいえない(25頁)。 その後,提出された意見書(甲160)を考慮しても上記判断を左右するものではない。 ちなみに,上記のような修正を加えずに計算した売却総額は,空港島883億4000万円(70万㎡×12万6200円)に,対岸部1288億4700万円(87万㎡×14万8100円)を加えた2171億8700万円と本件収支計画を上回る金額であるが,同修正により945億4093万円と半分以下の金額に圧縮されている。 もちろん,今後の状況次第ではこのような結果となる可能性がないとまでは断定しがたいが,事業開始時点ではもちろん,当審の口頭弁論 同修正により945億4093万円と半分以下の金額に圧縮されている。 もちろん,今後の状況次第ではこのような結果となる可能性がないとまでは断定しがたいが,事業開始時点ではもちろん,当審の口頭弁論終結時点においてもこのような結果であろうと予想するだけの証拠はない。 (3) 環境破壊(当審における控訴人らの補足的主張(3))についてア当審における控訴人らの補足的主張(3)アについて見るに,甲157によると,Fは,平成14年10月から15年10月にかけて行った調査により,①工事開始後に堆積した底泥中の全硫黄(硫化物)の値が愛知県等の調査結果よりも著しく高く,あるいは,②自己の調査結果だけから見ても,工事開始後とそれ以前の値に大きな違いがあり,また,③底生生物の個体数が減少するなどの結果が得られたとして,本件各事業による埋立工事が周辺海域の海底環境を悪化させたと判断したことが認められる。 しかし,他方,甲157,乙62,63によると,①底泥の分析について愛知県等の調査結果よりもFのそれが高いとの点は,愛知県等とFの試料の採取方法,その検査及び分析方法が,いずれも前者が環境省の定める底質調査方法,すなわち,円形部分を上部として半球体に深さ10㎝までの底泥を採取するスミス・マッキンタイヤ型採泥器により採泥するなどの方法に拠っているのに対し,後者は独自の方法,すなわち,直径5㎝のパイプを垂直に打ち込んで採泥するなどの方法に拠っており(両者の方法の対比について乙63参照),両者を比較することには問題があること,②後者の分析結果自体からも工事開始後とそれ以前の値に大きな違いがあるとの点も,年代分析に使用した試料の残りを利用して分析した結果によって上記判断に至ったとしているところ(甲157の6ないし8頁),年代分析をした試料の残りに十分な量が それ以前の値に大きな違いがあるとの点も,年代分析に使用した試料の残りを利用して分析した結果によって上記判断に至ったとしているところ(甲157の6ないし8頁),年代分析をした試料の残りに十分な量が確保されていたのかの確認はできないこと(なお,当初採取した底泥を深さ2.5㎝ずつに分けて分析したところ,全体としては上層の2.5㎝とそれより深い層との差違が明瞭ではなかったとしている。),③底生生物の個体数についても,Fは着工前の個体数等は愛知県等の調査結果を使用して,着工後の自己の調査結果と比較しているところ(甲157の8,9頁,表の2-1ないし3),愛知県等は底泥の分析と同じく上記スミス・マッキンタイヤ型採泥器で採泥して調査している(乙34の添付資料15頁,乙59の参考資料の22頁)のに対し,Fの調査方法は必ずしも明らかではないが,底泥の分析でもこれとは異なる方法で底泥を採取していること,深さ15㎝までの底泥に住む生物を調べたとしていること(甲139)から,両者が異なる方法,範囲で採泥し調査した可能性があり,したがって,両者を比較して増減を判断した結果を直ちに採用することはできないから,Fの調査結果に基づく控訴人らの主張は採用できない。 イ同イについて見るに,愛知県等の調査方法では約20年間の平均値しか測定できないと非難する点は,上記スミス・マッキンタイヤ型採泥器で採泥した場合には,深さ10㎝近くまでの底泥を採取する可能性はあるものの,表層に近い部分が多く採取されることは明らかであり,調査方法として不適切であるとはいえないから,控訴人らの非難は的を得ていない。 ウさらに,同ウについては,甲148ないし150によれば,環境省は,愛知県等が提出した報告書に基づいて,平成16年5月,事業予定地から離れた地点で2㎎/l以上の濁りが観測さ 非難は的を得ていない。 ウさらに,同ウについては,甲148ないし150によれば,環境省は,愛知県等が提出した報告書に基づいて,平成16年5月,事業予定地から離れた地点で2㎎/l以上の濁りが観測されたこと,一部の監視点において,夏季に全硫化物値が高くなる傾向が見られたこと,空港島等周辺の底生生物等の海域生物の個体数等に変動があること,藻場面積には変化が大きいこと等から,引き続き監視を行い,注意を払う必要があると指摘したことが認められる。しかし,同指摘は,愛知県等の調査方法に問題があるとするものではなく,また,甚だしい環境の悪化が生じ,重大な環境破壊が生じる現実のおそれがあることをただちに裏付けるものでもない。 エ同エについては,独自の見解に基づくもので採用できない。 (4) 控訴人らは,以上の他にも本件支出が違法であるとしてるる指摘するが,いずれも上記判断を左右するものではない。 第4 結論以上のとおりであるから,控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部裁判長裁判官熊田士朗裁判官川添利賢裁判官多見谷寿郎

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