平成28(行コ)46

裁判年月日・裁判所
平成29年11月30日 名古屋高等裁判所 名古屋地方裁判所 平成27(行ウ)88
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判決文本文24,713 文字)

平成29年11月30日判決言渡名古屋高等裁判所平成28年(行コ)第46号未支給年金の時効理由による不支給処分取消請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成27年(行ウ)第88号)主文 1 原判決主文第2項を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人は,控訴人に対し,537万5275円及びこれに対する平成26年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人のその余の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを4分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 3 この判決の第1項(1)は,本判決が被控訴人に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,537万5275円及びこれに対する昭和63年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 A(平成25年8月21日死亡。以下「亡A」という。)の相続人である控訴人は,厚生労働大臣に対し,亡Aに係る昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法(以下「旧国民年金法」という。)に規定する通算老齢年金(以下「通老年金」といい,旧国民年金法上の通算老齢年金を「国民通老年金」という。)の裁定の請求をしたと ころ,厚生労働大臣から,平成26年1月9日付けで,受給権発生年月を昭和63年8月とする国民通老年金の裁定を受け,平成20年7月分以前の国民通老年金は時効消滅により支給しないこととされた。 そこで,控訴人は,当該不支給を不服として,社会保険審査官に対する審査請求をしたところ 8月とする国民通老年金の裁定を受け,平成20年7月分以前の国民通老年金は時効消滅により支給しないこととされた。 そこで,控訴人は,当該不支給を不服として,社会保険審査官に対する審査請求をしたところ,これを棄却する旨の決定を受け,更に社会保険審査会に対する再審査請求をしたが,これも棄却する旨の裁決を受けた。本件は,控訴人が,①厚生労働大臣から同月分以前の国民通老年金を支給しない旨の処分を受けた旨主張して(以下,控訴人の主張する上記処分を「本件処分」という。),本件処分の取消しを求めるとともに,②昭和63年9月分から平成20年7月分までの国民通老年金は時効消滅していないなどと主張して,国民通老年金の支給請求権に基づき,上記期間分の本件国民通老年金の合計額である537万5275円及びこれに対する昭和63年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,①の請求については,「行政庁の処分」(行政事件訴訟法3条2項)の取消しを求めるものではないから不適法であるとして却下し,②の請求については,消滅時効を理由に棄却した。そこで,これを不服とする控訴人が控訴し,原判決を取り消して②の請求について認容することを求めるとともに(①の請求は不服の範囲外である。),当審において,②の請求原因として,予備的に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を追加した。 2 関係法令の定め,前提事実(争いがない事実,掲記の各証拠により容易に認定できる事実),争点及びこれに関する当事者の主張は,以下のとおり補正し,当審における当事者の新たな主張を次項で追加するほか,原判決「事実及び理由」第2の2~4(ただし,本件処分の取消しに関する4(1)を除く。)に記載のとおりであるから,これを 引用する。 (1) ける当事者の新たな主張を次項で追加するほか,原判決「事実及び理由」第2の2~4(ただし,本件処分の取消しに関する4(1)を除く。)に記載のとおりであるから,これを 引用する。 (1) 原判決3頁2行目冒頭から3頁3行目の末尾までを次のとおり改める。 「2 関係法令の定め及び通老年金の概要(1) 関係法令の定め原判決別紙「関係法令の定め」記載のとおりである。ただし,原判決19頁18行目の「法律第109号」を「法律第111号」と改める。また,現行の国民年金法102条1項及び3項は,次のとおりである。 1項「年金給付を受ける権利(当該権利に基づき支払期月ごとに又は一時金として支払うものとされる給付の支給を受ける権利を含む。第三項において同じ。)は,その支給事由が生じた日から五年を経過したときは,時効によつて,消滅する。」3項「給付を受ける権利については,会計法(昭和二十二年法律第三十五号)第三十一条の規定を適用しない。」これらの規定は,平成19年法律第111号によって改正されたもので,その適用時期については,同法律附則6条により「施行日後において同法による給付を受ける権利を取得した者について適用する。」と定められている。 (2) 国民通老年金の概要ア旧国民年金法における老齢年金及び国民通老年金は,同法が定める年金給付の種類の一つであり(同法15条1号),老齢によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与する目的を達成するため,国民の老齢に関して必要な給 付を行うものである(同法1条,2条)。 イ老齢年金は,保険料納付済期間,保険料納付済期と保険料免除期間とを合算した期間又は保険料免除期間が25年以 め,国民の老齢に関して必要な給 付を行うものである(同法1条,2条)。 イ老齢年金は,保険料納付済期間,保険料納付済期と保険料免除期間とを合算した期間又は保険料免除期間が25年以上である者について,65歳に達したときに支給される(旧国民年金法26条)。これに対して,通老年金は,老齢年金を受けるために必要な受給要件を満たしていない者でも,各公的年金制度に係る通算対象期間を通算することにより受給資格期間を満たしたときに,それぞれの加入期間に応じて支給されるものである(通算年金通則法2条参照)。 ウ具体的な通老年金の支給要件は,保険料納付済期間等が1年以上で,通算対象期間を合算した期間が25年以上であること(旧国民年金法29条の3第1号)などである。 ただし,昭和5年4月1日までに生まれた者であって,昭和36年4月1日以後の通算対象期間を合算した期間が生年月日に応じて一定の年数以上である者は,旧国民年金法29条の3第1号の要件に該当するとみなされる。例えば,大正12年4月2日から大正13年4月1日までに生まれた者は18年間で上記の支給要件に該当するものとみなされる(同法77条の2第1項)。 エまた,国民通老年金は,旧国民年金法によるほか,通算年金通則法の定めるところによることとされ(旧国民年金法29条の2),国民年金以外の公的年金制度の被保険者の配偶者に該当したため,国民年金法7条2項の規定により国民年金の被保険者とされなかった期間(任意加入の期間を除く。)がある者については,その被保険者とされなかった期間もまた通算対象期間となる(通算年金通則法4条2項)。 オなお,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)により基礎年金が導入されたことに伴い,通老 なかった期間もまた通算対象期間となる(通算年金通則法4条2項)。 オなお,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)により基礎年金が導入されたことに伴い,通老年金及び通算年金通則法はいずれも廃止されたが(同法附則第2条),大正15年4月1日以前に生まれた者又は昭和60年法律第34号の施行日(昭和61年4月1日)の前日において国民通老年金等の受給権を有していた者については,なお適用される(同法附則31条1項)。 (3) 旧厚生年金保険法上の通老年金の概要ア旧厚生年金保険法における老齢年金及び通老年金は,いずれも労働者の老齢について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものであり(同法1条),同法が定める保険給付の一つである(同法32条1号,2号)。 同法上の通老年金も,国民通老年金と同様,老齢年金を受けるために必要な被保険者期間を満たしていない者でも,各公的年金制度に係る通算対象期間を通算することにより受給資格期間を満たしたときに受給できる制度である。また,大正12年4月2日から大正13年4月1日までに生まれた者は,通算対象期間を合算した期間が18年間あれば,必要な受給資格期間を満たすことになる(同法46条の3第1項1号イ,昭和36年法律第182号附則7条1項)。 イ旧厚生年金保険法上の通老年金も,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)により廃止されたが,大正15年4月1日以前に生まれた者又は昭和60年法律第34号の施行日(昭和61年4月1日)の前日において老齢年金の受給権を有していた者については,旧厚生年金保 険法上の通老年金の規定が適用される(昭和60年法律第34号附則63条1項)。」(2) 施行日(昭和61年4月1日)の前日において老齢年金の受給権を有していた者については,旧厚生年金保 険法上の通老年金の規定が適用される(昭和60年法律第34号附則63条1項)。」(2) 原判決3頁17行目の「,9」を削除する。 (3) 原判決3頁21行目の「(乙10)」を削除する。 (4) 原判決4頁23行目の末尾の次に,行を改めて次のとおり付加する。 「なお,上記裁定時に未支給とされた昭和63年9月分から平成20年7月分までの本件国民通老年金の合計額は,537万5275円である(当事者間に争いがない)。」 3 当審における当事者の新たな主張(1) 被控訴人の消滅時効に関する予備的主張(被控訴人)平成19年改正前国民年金法102条1項は,基本権たる受給権について適用されるものであるが,仮に支分権たる年金受給権についても同条が適用されると解する立場にたったとしても,亡Aは,支分権たる年金受給権につき平成25年9月に至るまで裁定請求しなかったため,平成20年7月以前の支分権については,同項に基づき消滅時効が完成していたから,予備的に,平成29年2月6日付け第1準備書面の陳述をもって上記消滅時効を援用する。 (控訴人)争う。 (2) 控訴人の予備的請求(公務員の違法行為による国家賠償責任)(控訴人)仮に消滅時効が年金裁定の有無にかかわらず,基本権発生時点から進行していると判断され,また,本件のような事情の下でも被控訴人の時効の主張が信義則に反するとはいえないとしても,年金担 当職員の誤った対応により年金請求ができないまま時効期間が満了したことになるから,被控訴人は,支給されるべき年金を受けられなかった損害について国家賠償責任を負う。控訴人は,亡Aの死亡により 当職員の誤った対応により年金請求ができないまま時効期間が満了したことになるから,被控訴人は,支給されるべき年金を受けられなかった損害について国家賠償責任を負う。控訴人は,亡Aの死亡により,同人の損害賠償請求権を全部相続した。 (被控訴人)争う。そもそも本件言動がされたとは認められない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加えて,各事実に掲記した証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の各事実を認めることができる。 (1) 亡Aの生活歴ア亡Aは,大正12年8月●日に出生した。同人は,昭和23年10月15日,厚生年金保険の被保険者資格を初めて取得し,昭和24年7月20日に同資格を喪失した(乙7。以下,この9か月間を「厚年①期間」又は「本件訂正期間」という。)。 イ昭和23年11月11日,亡Aは,B(以下「B」という。)と婚姻し,昭和25年11月16日に一旦離婚したが,昭和29年12月13日にBと再婚した(乙10の1)。なお,亡Aは,昭和25年12月●日,控訴人を出産した。 ウ昭和36年4月1日,亡Aは,Bの扶養家族となった。なお,これ以降,昭和41年12月までの69か月間は,国民年金以外の公的年金制度の被保険者の配偶者(いわゆるサラリーマンの妻)として,旧国民年金法7条2項に規定する国民年金の被保険者とはならないが,受給要件としての通算対象期間には含まれる(以下「カラ期間①」という。)。 エ昭和42年1月7日,亡Aは,正社員として仕事に従事し,厚 生年金保険の被保険者資格を再度取得したが,昭和49年2月14日,退職して同資格を喪失した(乙7,控訴人本人10頁。この85か月を「厚年②期間」という。)。 オ亡Aは,上記職場を退職した昭和49年2月から同年5月まで無職となり,新たな 昭和49年2月14日,退職して同資格を喪失した(乙7,控訴人本人10頁。この85か月を「厚年②期間」という。)。 オ亡Aは,上記職場を退職した昭和49年2月から同年5月まで無職となり,新たな転職先を探していた(控訴人本人10頁。この4か月間を「カラ期間②」という。カラ期間①との合計は73か月である。)カ昭和49年6月7日,亡Aは,パートで新しい職場に勤め始めたことを機に,旧国民年金法附則6条に規定する任意加入手続を行い,国民年金の被保険者資格を取得し,昭和51年3月10日に同被保険者資格を喪失した(乙8,控訴人本人10頁。以下,この期間を「国年①期間」という。)キ昭和51年3月9日,亡AはBと離婚し,旧姓(A)に戻った(乙10の1)。 そして,亡Aは,同年3月10日付けで旧国民年金法7条1項に規定する被保険者資格を取得し,60歳の誕生日の前日である昭和58年8月●日に同資格を喪失した(乙8。以下,この期間を「国年②期間」という。国年①期間との合計は110か月である。)。 ク昭和51年3月22日,亡Aは,国民年金の氏名変更手続を行った(甲6)。 (2) 亡AがC区役所を訪れた経緯ア控訴人は,大学院修了後,横浜市所在の会社に勤務していたが,昭和60年に名古屋市所在の会社に転職し,以後,平成3年2月に婚姻するまで,亡Aと一緒に同居していた(甲19・2頁,甲31・2頁,控訴人本人1~2頁,24~25頁)。 イ亡Aと控訴人は,昭和63年5月5日,名古屋市a 区b 所在の市営住宅に転居した(甲16)。同年8月8日頃,亡A宛に,名古屋市建築局住宅部住宅企画課から市営住宅使用許可証が送付された(甲14)。 ウ亡Aは,65歳の誕生日を迎えた日の翌々日である昭和63年8月●日(月曜日),かねてからの予 月8日頃,亡A宛に,名古屋市建築局住宅部住宅企画課から市営住宅使用許可証が送付された(甲14)。 ウ亡Aは,65歳の誕生日を迎えた日の翌々日である昭和63年8月●日(月曜日),かねてからの予定どおり年金の受給手続をしようと考え,たまたま上記使用許可証の送付を受けたことから住所変更手続をしようとしていた控訴人と共に同人が運転する車に同乗してC区役所を訪れた(控訴人本人2~3頁)。 なお,控訴人は,同区役所に訪れた日を同月●日の月曜日と供述しているが(控訴人本人19頁),月曜日は同月●日であるから,●日の勘違いであると認められる。 エ同日,C区役所に到着した後,控訴人は,亡Aと別れて一人で住民課に行き,住所変更手続等を行った。その間,亡Aは,国民年金手帳と同手帳中に挟んで保管していた厚生年金被保険者証を持参して年金係を訪れた(控訴人本人4~6頁)。 持参した国民年金手帳には,氏名(「D」と記載がある。),生年月日,男女の別,住所等のほか,変更後の氏名として「A(昭和51年3月22日変更)」と,「(資格取得)昭和49年6月7日」の右欄には,「(被保険者の種別)任」(任意加入),「(資格喪失)昭和51年3月10日」と,次の資格取得日である「昭和51年3月10日」の欄には「(被保険者の種別)強」とそれぞれ記載がある(甲6)。また,厚生年金保険被保険者証には,生年月日,氏名等のほか,資格取得年月日として「昭和42年1月7日」と記載されている(甲8の1)。 しかし,亡Aは,その後も本件国民通老年金の裁定請求を行わなかった。 (3) その後の亡Aの対応ア昭和63年8月31日,亡Aは,E社会保険事務所を訪れ,厚生年金被保険者証の氏名変更手続(Aへ姓の変更)を行った上,同年10月11日,厚生通老年金の裁定請求をし (3) その後の亡Aの対応ア昭和63年8月31日,亡Aは,E社会保険事務所を訪れ,厚生年金被保険者証の氏名変更手続(Aへ姓の変更)を行った上,同年10月11日,厚生通老年金の裁定請求をした。その結果,社会保険庁長官は,同年11月2日付けで,厚生通老年金の裁定をし(乙11),亡Aは,月額3万円程度の厚生通老年金を受給できるようになった(甲31・2頁)。 なお,上記裁定時に,9か月間の厚年①期間に関する記録が確認できず,厚年①期間は年金の基礎となる被保険者期間に含まれなかったため,亡A死亡後の平成26年5月22日,控訴人の申請により裁定の訂正が行われた(乙13の2,乙14)。 イ平成元年に66歳となった亡Aは,名古屋駅付近の職場から名古屋市c区d所在の寿司屋に職場を変え,以後76歳までパート勤務を続けた(甲19・2頁,甲31・2頁,控訴人本人19頁)。 (4) 本件国民通老年金の裁定請求に至った経緯亡A死亡後,控訴人は,未支給の厚生通老年金を請求するためF年金事務所を訪れたところ,担当者から,実は昭和63年から国民年金も受給できた旨の指摘を受けた。そのため控訴人自身もインターネットを通じて調べた上,再度確認に行ったところ,担当者によれば,合算対象期間としてカラ期間①及びカラ期間②の合計73か月があり,これと当時判明していた厚生②期間85か月,国年①期間及び国年②期間の110か月を合計すると268か月となるから,昭和63年当時,すでに受給資格要件を満たしていたというこ とであった(甲32,控訴人本人9~11頁)。 そこで,控訴人は,平成25年9月11日,本件国民通老年金の裁定の請求及び未支給年金の支給請求に至った(乙16,乙17)。 2 時効特例法の適用について控訴人は,本件にお 11頁)。 そこで,控訴人は,平成25年9月11日,本件国民通老年金の裁定の請求及び未支給年金の支給請求に至った(乙16,乙17)。 2 時効特例法の適用について控訴人は,本件において時効特例法2条が適用されると主張するが,亡Aの年金記録について,厚生年金保険の被保険者期間について本件訂正期間の訂正があったのは,本件国民通老年金に関する裁定後の平成26年5月22日であるから,同条の「記録した事項の訂正がなされた上で」同裁定がされたとは認められない。よって,時効特例法2条は適用されない。 3 消滅時効の起算点控訴人は,支払期月ごとに支払うものとされる年金給付の支給を受ける権利(以下「支分権」という。)について権利を行使することができるのは,年金の裁定処分によって基本権の存在が行政庁によって確認されることが絶対条件であり,社会保険庁長官又は厚生労働大臣の裁定を受けていないことは,支分権の消滅時効との関係で法律上の障害に当たり,時効の進行の妨げになる旨主張するから,以下,検討する。 (1) 基本権の時効平成19年改正前国民年金法102条1項は,年金給付を受ける権利は,その支給事由が生じた日から5年を経過したときは時効により消滅する旨を規定するところ,この規定は,年金給付を支給すべき事由が生じたときに発生し,受給権者において裁定の請求をすることが可能となる基本権たる受給権について,年金給付を支給すべき事由が生じたときから5年で時効により消滅することを定めた ものと解される。 なお,この規定は,会計法31条1項後段に係る「別段の規定」に当たるものと解されるから,基本権たる受給権の消滅時効については,民法の規定により,国においては時効の援用をしないことが可能であって,実際にも,基本的には時効を援用し 1項後段に係る「別段の規定」に当たるものと解されるから,基本権たる受給権の消滅時効については,民法の規定により,国においては時効の援用をしないことが可能であって,実際にも,基本的には時効を援用しない取扱いがされていたものであり(乙3参照),前記前提事実(4)によれば,本件国民通老年金の受給権(基本権)についても,時効の援用がされていない。 (2) 支分権の時効一方,平成19年改正前国民年金法は,支分権については消滅時効に関する別段の定めを置いておらず,したがって,支分権については,会計法30条後段,同法31条1項後段により,5年間これを行わないときは援用を要することなく時効により消滅する。 そして,上記支分権の消滅時効は,「権利を行使することができる時」から進行する(会計法31条2項後段,民法166条1項)ところ,受給権者は,当該国民年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることはできない。しかしながら,国民年金を受ける権利の発生要件やその支給時期,金額等については,国民年金法に明確な規定が設けられており,裁定は,受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎないのであって(最高裁平成3年(行ツ)第212号同7年11月7日第三小法廷判決・民集49巻9号2829頁参照),受給権者は,裁定の請求をすることにより,同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて国民年金の支給を受けられることとなるのであるから,裁定を受けていないことは,上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。したがって,上記支分権の消滅時効 は,当該国民年金に係る裁定を受ける前であっても,国民年金法所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成29年(行ヒ)第44 たがって,上記支分権の消滅時効 は,当該国民年金に係る裁定を受ける前であっても,国民年金法所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である(最高裁平成29年(行ヒ)第44号同年10月17日第三小法廷判決参照)。 そうすると,国民年金法所定の支払期月(旧国民年金法18条3項,国民年金法18条3項参照)の翌月の初日が「権利を行使することができる時」であり,消滅時効の起算日となると解される。 (3) これを本件についてみると,亡Aが本件国民通老年金の受給権者となった後,通算老齢年金の裁定の請求をせずに死亡し,その子である控訴人が平成25年9月11日に裁定の請求をするまで,本件国民通老年金につき裁定の請求はされていないから,本件国民通老年金の支分権のうち平成20年7月分以前のもの(支払期月が同年8月以前のもの)については,控訴人がそれについての裁定の請求をした平成25年9月11日の時点において既に時効期間が満了している。 4 被控訴人の消滅時効の主張が信義則違反となるかについて(1) 本件言動の有無控訴人は,信義則違反の主張の前提として,亡Aが,C区役所年金係の担当職員から「受給資格期間が少し足りない」と言われた旨主張するのに対して,被控訴人はこれを争っている。そこで,以下,これにつき検討する。 ア前記のとおり,亡Aは,自ら任意加入するなど国民年金の受給に関心を有していたところ,昭和63年8月●日,国民年金を受給しようとして,年金手帳等を持参してC区役所年金係を訪問したこと,その後,社会保険事務所に赴き,厚生通老年金の裁定請求は行ったものの,本件国民通老年金の裁定請求は行わなかった ことの各事実が認められる。通常,国民年金と厚生年金の両者の受給資格を有する者が,それらの受給手続を行 き,厚生通老年金の裁定請求は行ったものの,本件国民通老年金の裁定請求は行わなかった ことの各事実が認められる。通常,国民年金と厚生年金の両者の受給資格を有する者が,それらの受給手続を行おうとして,それ一方の手続を行ったのみで,他方の手続を行わないまま放置するというのは著しく不自然かつ不合理である。しかも,控訴人は,同日,亡Aが同区役所の担当者から「受給期間が少し足りない」と言われたとして憤慨していたと述べている(甲31,控訴人本人7頁)。これらのことからすると,控訴人の上記供述等の信用性に疑問が生じない限り,亡Aは,国民年金の受給手続のためにC区役所年金係を訪れたものの,担当職員から受給資格がない等,国民通老年金の請求ができない旨の説明を受けた結果,同年金の裁定請求を断念したと認めるのが相当である。 そこで,控訴人の供述等の信用性について検討するに,同供述等は,区役所を訪れた日について1日間違っていると考えられるものの,その少し前に入居していた市営住宅についての使用許可証の日付けや,その日が亡Aの65歳の誕生日の直後の月曜日であって,自らも年次休暇を取得して住所変更手続を行うため区役所に同行したことなど,具体的かつおおむね客観的に明らかな事実を根拠にしている点で,十分信用性があると認められる。また,担当者から指摘されたという内容と亡Aの被保険者期間とを比較すると,前記認定事実(2)エによれば,亡Aが持参した昭和63年当時の国民年金手帳から容易に分かることは,①昭和49年6月7日から昭和51年3月10日まで国民年金に任意加入していること,②同日以降60歳の誕生日の前日(昭和58年8月●日)まで国民年金に強制加入していることである(認定事実(1)キ記載のとおり,この合計は110か月である。)。また,厚生年 加入していること,②同日以降60歳の誕生日の前日(昭和58年8月●日)まで国民年金に強制加入していることである(認定事実(1)キ記載のとおり,この合計は110か月である。)。また,厚生年 金被保険者証から容易に分かることは,昭和42年1月7日に亡Aが被保険者資格を取得したことである。同日以降の厚生年金の被保険者期間は,認定事実(1)エ記載のとおり,昭和49年2月14日まで(85か月間の厚年②期間)であるから,これらを合計すると195か月であり(なお,9か月間の厚生①期間を併せても204か月である。),カラ期間73か月を考慮しなければ,亡Aが国民通老年金を受給するのに必要な期間である18年間(216か月)にわずかに足りないことになる。 これらの事実を総合すれば,年金係の担当職員がカラ期間に思いが至らず,亡Aに対して受給資格がない旨説明したものと推認されるから,「受給資格期間が少し足りない」と言われたのを聞いたとの控訴人の供述は,伝聞ではあるものの,実際に亡Aが担当職員から伝えられた内容として十分に信用できるというべきであり,その結果,亡Aは,国民通老年金の裁定請求を断念したものと認められる。 イ被控訴人の主張についての検討(ア) これに対して,被控訴人は,裁定請求においては公的年金制度の管掌機関が通算対象期間を確認した書類を添付しなければならないところ,仮に亡Aが昭和63年8月にC区役所に当該書類を持参していたとすれば,同所職員において亡Aが国民通老年金の受給要件を満たしていることを容易に確認できるし,他方で,当該書類を持参していなかったとすれば,亡Aの受給資格期間を確認することができないから,いずれにせよ「受給資格期間が少し足りない」と発言することは考え難いと主張する。 しかし,前記のとおり,担当職員が 類を持参していなかったとすれば,亡Aの受給資格期間を確認することができないから,いずれにせよ「受給資格期間が少し足りない」と発言することは考え難いと主張する。 しかし,前記のとおり,担当職員が通算対象期間のいずれか を通算しないで誤った教示をした可能性は否定できないし,当時,亡Aが,国民年金手帳及び厚生年金保険被保険者証のほかに,公的年金制度の管掌機関が通算対象期間を確認した書類を持参していたと認めるに足りる証拠はないところ,仮にその場合に,被控訴人の主張するように受給資格期間を確認できなかったのであれば,担当職員がその旨を伝え,必要書類を持参して再度来訪するよう伝えてしかるべきであるが,亡Aは,この日以降,裁定請求を断念し,区役所年金係を訪れていないのであるから,担当職員が上記のような請求の余地を残す発言をしたとは考え難い。よって,被控訴人の上記主張は採用できない。 (イ) また,被控訴人は,昭和63年当時,いわゆる「カラ期間」,すなわち,他の公的年金制度の被保険者の配偶者であった期間を含めれば国民通老年金の受給要件を満たすという案件は何ら特殊ではなく,年金担当職員にとってごく一般的なことであり,カラ期間が存在する可能性を度外視して受給期間が足りない旨教示することはあり得ないとも主張する。 しかし,日本年金機構のプレスリリースによれば,平成22年の時点ですら,年金の給付額に反映されない合算対象期間(カラ期間)の確認を漏らしたため,既に受給期間を満たしている者に対して国民年金の任意加入が必要である等の誤った説明を行ったことが公表されているのであるから(甲26),昭和63年当時に上記のような誤った説明があったとしても,いささかも不自然でないというべきである。よって,被控訴人の上記主張も採用できない。 たことが公表されているのであるから(甲26),昭和63年当時に上記のような誤った説明があったとしても,いささかも不自然でないというべきである。よって,被控訴人の上記主張も採用できない。 (ウ) さらに,被控訴人は,亡Aが年金担当職員に促されて社会 保険事務所に行ったという事実は,社会保険事務所におけるカラ期間の確認を促したことの証左であるとも主張する。 しかし,亡Aは,厚生通老年金の被保険者でもあったのであるから,カラ期間の確認を促されずとも,同年金の受給手続のために社会保険事務所を訪れるのは当然であるし,また,担当職員が国民通老年金の受給資格を確認する目的でカラ期間の確認するよう教示したのであれば,亡Aは,再度,区役所年金係を訪問するはずであるが,そのような事実は認められない。そもそも,カラ期間を考慮しない通算期間は合計195か月(9か月間の厚生①期間を併せると204か月)であり,国民通老年金の受給に必要な期間(216か月)にわずか1年ないし1年9か月不足していたにすぎないのであるから,会社員の妻であった期間がその程度の期間あれば受給の要件を充足することになり,区役所の年金担当職員がカラ期間に思いを致したのであれば,この点を本人に質問すれば直ちに受給資格の有無が判明したはずであって,わざわざ社会保険事務所にカラ期間を確認するよう教示する必要はない。そうすると,担当職員が,受給資格の有無の確認のために,わざわざ社会保険事務所にカラ期間を確認するよう教示したとは認め難いから,被控訴人の上記主張も採用できない。 (2) 消滅時効に対する信義則違反の主張の是非国に対する債権について,信義則の適用が排除される旨の規定はないから,個別の事案に応じて,国の消滅時効の主張に対して信義則を適用することは許され (2) 消滅時効に対する信義則違反の主張の是非国に対する債権について,信義則の適用が排除される旨の規定はないから,個別の事案に応じて,国の消滅時効の主張に対して信義則を適用することは許されるものと解される。 もっとも,会計法31条1項後段が,国に対する権利で金銭の給付を目的とするものの消滅時効につき国による援用を要しないこと としたのは,上記権利については,その性質上,法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが,国の事務処理上の便宜及び国民の平等的取扱いの理念に資することから,時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解される。このような趣旨にかんがみると,国に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないか否かについては,極めて慎重に検討すべきである(地方自治法236条2項所定の消滅時効が問題となった事案に関する最高裁平成18年(行ヒ)第136号同19年2月6日第三小法廷判決・民集61巻1号122頁参照)。 そこで,以下,これを本件について検討する。 (3) 本件における信義則違反の検討ア本件年金制度の特質と受給権者の権利利益の性格まず,本件で問題となっている国民通老年金は,年金を受ける権利の発生要件やその支給時期,金額等について,旧国民年金保険法等に詳細かつ具体的な規定が設けられ,受給権者は,社会保険庁長官又は厚生労働大臣に対して裁定の請求をすることにより,同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて年金の支給を受けられるものであるが(旧国民年金法16条。平成19年法律第109号による改正後の同条も同じ。),その原資には受給権者が長年にわたって負担してきた保険料が含まれているのであるから,これを受給できないことは,それまで負担してきた保 法16条。平成19年法律第109号による改正後の同条も同じ。),その原資には受給権者が長年にわたって負担してきた保険料が含まれているのであるから,これを受給できないことは,それまで負担してきた保険料が無に帰すことにより受給権者には多大の不利益をもたらすのに対し,制度を運用する国等には既に受領した保険料をすべて労せずして取得するという多大の利益をもたらすものである。これらのことからすると,国民年金の受給権は,受給権者にとって強い権利性を有する性質のもので あり,かつ,その受給をめぐっては,経済的かつ実質的にみると,国と受給権者とは利害が対立する関係にあると認められる。 その上,通老年金は,企業等を退職する年齢に達した受給権者が,その後,亡くなるまでの生計を維持していく上で必要な生活費の極めて重要な原資となるから,平均寿命が延びている昨今の状況に照らしても(なお,厚生労働省大臣官房統計情報部作成「平均余命の年時推移」によれば,昭和63年当時の女性の平均余命は81.30歳である。),その重要性は一層増しているといえる。現に亡Aは,前記認定事実(3)イのとおり,厚生通老年金受給後もパートの仕事を76歳まで続けざるを得なかったのであるから,国民通老年金の支給を受けられるか否かが控訴人自身の生計を維持していく上で大きな影響を及ぼすものであったと認められる。 さらに,年金制度は,生まれた年代や加入する制度,加入期間によって受給することができる年金が異なるなど非常に複雑であるから,少なくとも平成18年に年金記録問題が大々的に報道される以前の,とりわけインターネットも普及していない昭和63年当時においては,区役所年金係に相談に訪れる受給権者が年金制度について詳細な専門的知識を有していることはほとんどなく,窓口で教示された情報は法 前の,とりわけインターネットも普及していない昭和63年当時においては,区役所年金係に相談に訪れる受給権者が年金制度について詳細な専門的知識を有していることはほとんどなく,窓口で教示された情報は法令上の根拠を有するものと受け止め,それを唯一の頼りとして対応するのが通常であったと考えられる。そのような状況下では,受給権者が担当職員の対応が誤っている可能性を疑い,専門家に相談したり,これに抗して裁定請求をするなどの対応を期待することは極めて困難であったといわざるを得ない。したがって,区役所の担当職員から年金の受給資格がない旨の説明を受ければ,それが区役所年金係としての公式 な見解であると考え,受給権者がそのまま裁定請求を断念してしまうのも通常の対応であったということができる。 しかも,昭和60年法律第34号による国民年金法の改正により,いわゆる基礎年金制度が導入されるとともに,厚生年金保険法の年金の報酬比例部分は,基礎年金の上に積み上げられる職域年金(二階部分)となった。この改正に伴い,被用者年金の被保険者・組合員についても国民年金の第2号被保険者として基礎年金が支給され,この場合の基礎年金の裁定請求等の手続については,同時に上乗せの被用者年金が支給されることから,基礎年金と上乗せ給付とで手続が重複しないよう窓口が社会保険事務所に一本化された。ところが,亡Aの場合,昭和60年改正後においても,旧国民年金法に規定する給付を受ける権利の裁定の請求の受理及びその請求に係る事実についての審査に関する事務は,昭和60年改正後も依然として市町村が行うものとされていたから(国民年金法3条2項,同法施行令2条第8号〔現在の同法施行令1条の2第12号〕),国民年金と厚生年金のいずれも受給できる立場であっても,それぞれ別の窓口で手続を行う 町村が行うものとされていたから(国民年金法3条2項,同法施行令2条第8号〔現在の同法施行令1条の2第12号〕),国民年金と厚生年金のいずれも受給できる立場であっても,それぞれ別の窓口で手続を行うことが必要となり,かつ,取扱窓口相互間の情報共有や連携もされていなかった。そのため,受給権者にとっては,同じ通老年金でありながら,一方の窓口で誤った説明を受けて裁定請求を断念したとしても,他方の窓口でその誤りに気付かれることがないという制度に内在する問題もあった。 このような年金制度の特質や国と年金受給権者との利害関係等を踏まえると,本件のように,受給権者が年金の受給手続を長期間行わなかったことの主たる原因が,受給手続を正しく教示すべき立場にある年金係の担当職員が誤った説明を行ったことにより 受給権者の裁定請求を妨げたことにある場合には,画一的処理という行政事務処理上の便宜を重視して年金受給権者の支分権が時効消滅したとすることは,行政機関の誤った事務処理によって年金受給権者に多大の経済的損失を与える反面,国には多大の経済的利益を与える点で,著しく不当な結果を招くこととなる。また,前記認定事実(2)ウ及びエのとおり,亡Aは,65歳の誕生日の翌々日に受給手続のために区役所年金係を訪問しているのであり,「権利の上に眠る」者とは評価できないから,単に裁定請求を失念したことによってその年金の支給を受けないまま支分権が時効消滅した者とは全く事情が異なり,そのような者と同じ扱いをすることはむしろ不平等と評価すべきである。そうすると,上記場合にまで,国に消滅時効を理由として受給権者の請求権を否定することを認めるような結果は,著しく信義に反するものというべきである。 イ担当職員が本件言動に至った経緯,説明内容及びその要因 まで,国に消滅時効を理由として受給権者の請求権を否定することを認めるような結果は,著しく信義に反するものというべきである。 イ担当職員が本件言動に至った経緯,説明内容及びその要因昭和42年4月5日付けの社会保険庁医療保険部長・同庁年金保険部長通知「年金たる保険給付を受ける権利の時効消滅の防止について」(庁文発第3665号,甲23)によれば,「厚生年金保険,船員保険および国民年金の年金たる保険給付を受ける権利(基本権)は,裁定請求を5年間行わないままにしておくと基本権が時効によって消滅することになるところ,裁定の本質が既に発生している基本権の確認処分であることに鑑み,「裁定請求の処理にあたっては,次の事項に御留意のうえ,現行法令の許容する限度において,できるかぎり弾力的な運用を図るとともに,受給権者に対する早期裁定請求の指導の徹底を期し,もって時効による受給権の消滅の防止を期するよう特段の御配意を煩わした い。」とした上で,「裁定請求は,所定の様式による書面により行なうこととされているが,請求の意思が明確に表示されている限り,所定の様式に合致しないものであっても裁定請求書として受け付け,受付簿に受付けの旨等を明記するとともに,所定の請求手続をとるよう請求者に連絡するなどの措置を講ぜられたいこと。」や「被保険者が高齢により退職したとき,65歳に達したとき,死亡したときなどには早期に年金裁定請求を行うよう関係者を指導されたいこと。」など,年金を受給する権利ができる限り時効消滅とならないよう配慮することが求められている(なお,平成25年1月9日付け厚生労働省令第1号により,国民年金法施行規則が改正され,「厚生労働大臣は,被保険者及び被保険者であつた者に対し,必要に応じ,年金たる給付を受ける権利の裁定 れている(なお,平成25年1月9日付け厚生労働省令第1号により,国民年金法施行規則が改正され,「厚生労働大臣は,被保険者及び被保険者であつた者に対し,必要に応じ,年金たる給付を受ける権利の裁定の請求に係る手続に関する情報を提供するとともに,当該裁定を請求することの勧奨を行うものとする。」(同規則133条1項),「厚生労働大臣は,前項の規定による情報の提供及び勧奨を適切に行うため,被保険者であつた者その他の関係者及び関係機関に対し,被保険者であつた者に係る氏名,住所その他の事項について情報の提供を求めることができる。」と定められ(同条2項),国が受給権者に対して早期の裁定請求を促すよう措置が講じられている。)。 そうすると,昭和63年当時においても,年金担当職員としては,上記昭和42年の通知に基づき,年金の受給手続に訪れた者に対し,年金を受給する権利が消滅時効にかからないよう早期に裁定請求することを勧めるべきであり,誤った情報に基づき,同請求を断念させてはならない職務上の義務を負っていたというべきであるところ,本件においては,前記認定のとおり,担当職員 が亡Aのカラ期間に思いが至らず,亡Aに対し,軽率に受給資格がない旨説明したものと認められ,裁定請求を勧めたことは何らうかがえず,また,再度来訪して資料を持参するよう助言した形跡もない。さらに,当時,担当職員にとって,「カラ期間」を含めて受給に必要な年数を満たす通老年金の裁定請求は特別なことではなかったというのであるから(乙38・2頁),担当職員が本件言動に至ったことにつき酌むべき事情も見当たらない。前記のとおり,窓口での担当者の説明は法令上の根拠があるものとの推測を国民に与えるものであり,受給資格がない旨説明して帰宅させれば,少なくとも当時は,手続のために二度と来 むべき事情も見当たらない。前記のとおり,窓口での担当者の説明は法令上の根拠があるものとの推測を国民に与えるものであり,受給資格がない旨説明して帰宅させれば,少なくとも当時は,手続のために二度と来訪しない可能性が高かったというべきであるから,相当程度慎重な検討の上での対応が必要であったというべきである。 また,年金担当者が再度資料を持参して来訪するよう助言して裁定請求を勧めた形跡がなく,前記昭和42年の通知が遵守されていたとはいえないこと,「カラ期間」という婚姻歴を有する女性に対して通常想起されてしかるべき事項に関わるものであることに照らすと,その原因は,個々の担当者の単なる理解不足にとどまるものではなく,むしろ区役所年金係として,担当職員が公的年金制度の説明を正しく教示し,手続に来訪した受給権者の受給資格を正確に判断するための体制や,仮に不足する情報があれば再度来訪して資料を持参させるなどして,速やかに裁定請求することを勧奨する体制が十分に整えられていなかったことにあると考えられる。 これらの本件言動に至る経過や要因等も,被控訴人の消滅時効の主張が信義則に反するか否かを検討するに当たって十分に考慮すべきである。 ウ現行法における消滅時効に対する国の対応平成19年法律第111号により国民年金法の一部が改正され,平成19年7月7日以降に受給権が発生した年金の支分権については,改正後の国民年金法102条3項により,会計法31条を適用しない旨の規定が設けられ,同条1項により,支分権たる年金給付請求権についても,5年を経過した場合であっても自動的に消滅せず,国が時効を援用したときに時効消滅することとされた。これを受けて,平成24年9月7日付けで厚生労働省大臣官房年金管理審議官が日本年金機構理事長宛てに発した を経過した場合であっても自動的に消滅せず,国が時効を援用したときに時効消滅することとされた。これを受けて,平成24年9月7日付けで厚生労働省大臣官房年金管理審議官が日本年金機構理事長宛てに発した「厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付を受ける権利に係る消滅時効の援用の取扱いについて」と題する書面(年管発0907第6号,甲22)には,「7 説明誤り」として,「機構若しくは市区町村の窓口若しくは電話等における制度の説明誤り及び説明漏れ,又は請求書等の作成若しくは添付に係る指示誤りを行った事実が確認できる場合であって,受給権者の責めに帰すべき事由が認められない場合。ただし,市区町村が行った説明については,国民年金法に基づく法定受託事務を執り行う過程で行ったものに限るものとする。」を挙げ,かかる場合は時効を援用せず,年金を支給する旨記載されている。 上記法律による改正後の国民年金法102条1項,同条3項は,改正法の施行日(平成19年7月6日)後に受給権を取得した者に適用される(改正法附則6条)ものであるし,これを受けた上記書面も同様であるから,同日よりも前に取得された本件未支給年金に適用されるものではない。しかし,上記改正法施行の前後において,年金受給権者と国との法的地位や実質的利害関係に目立った変化があったとは認め難く,むしろ,前記アのとお り,インターネット等の情報獲得手段が不十分であり,かつ,いわゆる年金記録問題が明るみに出る以前で行政機関に対する信頼の高かった本件当時の方が,上記「説明の誤り」があった場合に時効を援用しない取扱いをすべき必要性は高いと認められ,これを無視して改正法施行前後で取扱いを異にするのは,不当な不平等取扱いというほかない。また,前記のとおり,本件はC区役所年金係の窓口における制度の説明誤 ない取扱いをすべき必要性は高いと認められ,これを無視して改正法施行前後で取扱いを異にするのは,不当な不平等取扱いというほかない。また,前記のとおり,本件はC区役所年金係の窓口における制度の説明誤りの事実が確認できる場合であって,受給権者の責めに帰すべき事由が認められない場合に該当すると解される。そうすると,改正後の規定の適用を受けないものであるとしても,本件未支給年金請求に対して国が消滅時効の主張をすることが信義則に反するか否かを検討するに当たっては,改正法の施行日後に取得される受給権について上記のような取扱いがされていることを十分に斟酌すべきである。 エ基本権の消滅時効との関係本件のような年金請求の特殊性の一つは,国民年金法の支給要件を満たすことによって発生する年金給付を受ける権利(基本権)と,基本権の存在を前提として,そこから派生して各支給期月ごとに生じる権利(支分権)としての支給請求権の2つの権利が区別され,基本権たる受給権について,裁定を受けて初めて年金の支給が可能になるにもかかわらず,裁定前であっても,支分権の消滅時効が進行することにある。しかも,平成19年改正前国民年金法102条1項は,基本権の消滅時効を定めたものと解され,援用を要するが,支分権については会計法の適用を受け,5年が経過すると援用を要することなく消滅し,時効利益の放棄もできないという異なる枠組みが採られていた(なお,前記のとおり,平成19年法律第111号により国民年金法の一部が改正 され,現在は基本権及び支分権ともに時効の援用を要することが明記されている。)。 しかし,本件で問題となっている支分権は,基本権の存在を前提とするものであるから,基本権の帰趨は支分権に影響すると解される。そして,一般に,債務者が権利行使その他の時効 とが明記されている。)。 しかし,本件で問題となっている支分権は,基本権の存在を前提とするものであるから,基本権の帰趨は支分権に影響すると解される。そして,一般に,債務者が権利行使その他の時効中断行為を妨げたと評価することができる特段の事情がある場合は,消滅時効の援用が信義則に照らして許されないと解されるところ,本件においては,前記のとおり,受給権者が年金の受給手続を長期間行わなかったことの主たる原因が,受給手続を正しく教示すべき立場にある年金係の担当職員が誤った説明を行ったことにより受給権者の裁定請求を妨げたことにあると認められるから,国が基本権の消滅時効を援用することは,信義則に照らして許されない。そうすると,その支分権の消滅時効の主張の是非についても,国が基本権の消滅時効を援用できないことを十分踏まえた上で判断されるべきである。 オ小括以上のアないしエの諸事情からすると,区役所年金係担当職員の誤った本件言動によって亡Aが国民通老年金の裁定請求を断念し,当該職員が本件言動に至ったことにつき,同職員に有利に斟酌されるべき事情は認められない以上,本件においては被控訴人が消滅時効を主張することは信義則に反し許されないと解するのが相当である。 (4) 被控訴人の主張についての検討以上に対して,被控訴人は,最高裁平成19年2月6日第三小法廷判決(以下「平成19年判決」という。)の判示からすれば,例えば,行政の担当者が窓口において誤った指導をしたとしても,そ れのみでは信義則違反は直ちに認められず,仮に本件言動が存在したとしても,その態様は現場の一職員が自らの判断でたった一度だけ誤った教示をしてしまったものにすぎないと考えられるから,このような事情は,消滅時効の主張が信義則違反になることを基礎付け 動が存在したとしても,その態様は現場の一職員が自らの判断でたった一度だけ誤った教示をしてしまったものにすぎないと考えられるから,このような事情は,消滅時効の主張が信義則違反になることを基礎付ける事情とはいえず,主張自体失当である旨主張するので,以下,検討する。 アこの点,被控訴人が引用する平成19年判決は,被爆者救護法等に基づく健康管理手当の請求につき通達により被爆者が国外に居住地を移した場合には失権の取扱いとなることが定められ,同通達を根拠として上記手当の支払がされなかったものの,被爆者救護法等には,健康管理手当の受給権を取得した被爆者が国外に居住地を移した場合に同受給権を失う旨の規定は存在せず,上記通達の定め及びこれに基づく行政実務は,被爆者援護法等の解釈を誤る違法なものであったという事案に関するものである。最高裁は,当該事案に現れた事情の下においては,自ら違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にしていた国から事務の委任を受け,又は事務を受託し,自らも上記通達に従い違法な事務処理をしていた普通地方公共団体ないしその機関自身が,受給権者によるその権利の不行使を理由として支払義務を免れようとするに等しいと指摘して,自己の権利を行使することが合理的に期待できる事情があったなどの特段の事情のない限り,信義則に反し許されない旨判示したものである。 その上で,平成19年判決は,会計法31条と同内容の規定である地方自治法236条2項につき,普通地方公共団体に対する権利について適正かつ画一的にこれを処理することが,事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念に資するとして定められたものであるとした上で,同項の趣旨にかんがみると,「普通地方公共団体 に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる び住民の平等的取扱いの理念に資するとして定められたものであるとした上で,同項の趣旨にかんがみると,「普通地方公共団体 に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は極めて限定される」と判示しているものの,「本件のように,普通地方公共団体が,上記のような基本的な義務に反して,既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し,法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし,その行使を著しく困難にさせた結果,これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合」においては,同条の趣旨である行政上の事務処理上の便宜を与える基礎を欠くこと等を指摘し,「したがって,本件において,上告人が上記規定を根拠に消滅時効を主張することは許されないものというべきである。論旨の引用する判例(最高裁昭和59年(オ)第1477号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁)は,事案を異にし本件に適切でない。」と述べている。 上記論旨の進め方に照らすと,平成19年判決の後半の判示(判旨3(2))は,同じく援用を要しない民法724条後段所定の除斥期間が問題となった最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決が,除斥期間の経過により請求権が消滅したと判断される場合において,これに対する信義則違反の主張が主張自体失当となる旨判示したこととの平仄を合せるために,事例判断として,違法な通達により権利行使を妨げたという当該事案の特徴を「一方的かつ統一的な取扱いをした」と評価し,上記平成元年12月21日判決とは事案が異なる旨補足的に理由を述べて,当該事案では消滅時効を主張できない旨を当てはめたにとどまるものと解される。そうすると,平成19年判決の後半部分はいわば傍論であって,その他のケース 1日判決とは事案が異なる旨補足的に理由を述べて,当該事案では消滅時効を主張できない旨を当てはめたにとどまるものと解される。そうすると,平成19年判決の後半部分はいわば傍論であって,その他のケースで,具体的にいかなる場合に消滅時効の主張が信義則に反し許されないかは一切判断されていないというべきである。 したがって,会計法31条後段に係る国に対する権利の消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場面は厳格に解すべきではあるものの,具体的には個々の事案に委ねられているものと解され,行政の担当者が窓口において誤った指導をした事案がこれに該当しないと直ちにいうことはできない。よって,これに反する被控訴人の上記主張は採用できない。 イそして,確かに,本件言動は1度の誤った教示ではあるものの,信義則違反の評価は,回数の問題よりも,関係する私人及び行政主体の権利利益の法的性質や相互の関係,私人による権利行使の期待可能性,行政主体が問題とされる当該行為に至った経緯及びその要因,同種の事案における行政取扱いなどが重視されるべきである。 以上のような諸観点から検討するに,年金受給権者と国との権利利益の法的性質や相互の関係については,前記(3)アのとおり,本件の場合は,年金給付の原資に年金受給権者が過去に拠出した保険料が含まれる点において,年金受給権の消長につき,両者の利害が激しく対立する関係にあるのに対し,平成19年判決の事案は,被爆者救護法等による健康管理手当という無拠出制の給付に関するものである点で,利害の対立関係はかなり弱いものと評価すべきであり,それに伴って,国側の立場にある窓口担当者の誤った言動についても,信義則適用の可否に当たっては,本件の方がより強度に受給権者側の利益に考慮すべきものと考えられる。 次に,受 のと評価すべきであり,それに伴って,国側の立場にある窓口担当者の誤った言動についても,信義則適用の可否に当たっては,本件の方がより強度に受給権者側の利益に考慮すべきものと考えられる。 次に,受給権者の権利行使の可能性については,前記(3)アのとおり,本件年金制度の特殊性や昭和63年当時の年金制度を取り巻く状況などを勘案すると,本件言動は,少なくとも当時においては,亡Aの国民通老年金の裁定請求を断念させるに十分足りるものといえ,同人が裁定請求に至らなかったこともやむを得なかったという べきであり,同請求をすることが合理的に期待できる事情はなかったと認められるから,裁定請求を断念した主要な要因は担当職員の軽率な本件言動にあると認められる。その点では,通達を根拠に被爆者の権利行使を妨げた平成19年判決と類似の事案であるということができるし,事務処理上の便宜や平等取扱いとの趣旨がそのまま妥当すべき事案でない点も同様である。 さらに,同種事案における行政取扱いとの比較の観点については,前記(3)ウのとおり,平成19年の法改正以降は本件のような事案につき一律に消滅時効を援用しないとの取扱いがされているところ,同時点の前後で異なった取扱いをすべき合理的な理由は見当たらず,むしろ本件の時点の方がより強く時効の援用を差し控えるべき事情があったと認められるのであるから,本件において信義則の適用を否定することは,平成19年判決がその結論を導くに当たって言及している平等取扱いの原則に反する結果となると考えられる。 したがって,本件は,平成19年判決とは明らかに事案を異にするものであり,本件の事情の下においては,同判決の説示にかかわらず,被控訴人が消滅時効を主張することは信義則に反し許されないと解すべきであり,これに反する被控訴人の上記 判決とは明らかに事案を異にするものであり,本件の事情の下においては,同判決の説示にかかわらず,被控訴人が消滅時効を主張することは信義則に反し許されないと解すべきであり,これに反する被控訴人の上記主張は採用できない。 5 遅延損害金の起算点について(1) 控訴人は,遅延損害金の起算点を昭和63年9月1日と主張するが,被控訴人が同日から遅滞の責を負うとする法的根拠はないから採用できない。 (2) そこで,更に検討すると,本件国民通老年金の支分権は,裁定を受けるまでは行使することができないから,それ以前に履行しな いことが被控訴人の責に帰すべき事由に基づくものとはいえない。 よって,裁定時までは支分権の履行遅滞とはならないと解するのが相当である。 そして,本件において,厚生労働大臣は,平成26年1月9日,本件国民通老年金の裁定をしたのであるから(甲1),これに国民年金法18条3項の規定を適用すると,裁定後の同年2月28日の経過をもって本件不支給部分につき履行遅滞に陥ったものというべきである。したがって,本件未支給年金の遅延損害金の起算日は,平成26年3月1日となる。 6 国家賠償請求の当否(予備的請求)について控訴人は,当審において,予備的請求として,消滅時効が完成していることを前提とする国家賠償請求をするところ,本件国民通老年金に係る未支給年金請求(主位的請求)について,被控訴人による消滅時効の主張が信義則に反するものとして許されないことは,前記4のとおりであるから,消滅時効の完成を前提とする国家賠償請求は,その前提を欠くものであって,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は,537万5275円及びこれに対する平成26年3月1日から支払 請求は,その前提を欠くものであって,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は,537万5275円及びこれに対する平成26年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,控訴人の未支給年金請求を全部棄却した原判決は失当であって,本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更し,また,仮執行宣言については,本判決送達日から14日間の猶予期間を定めるとともに,仮執行免脱宣言の申立ては相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決 する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 裁判官金久保茂

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