主文 1 原告の平成9年1月20日相続開始にかかる相続税について,被告が平成11年12月7日付で原告に対してした通知処分の取消しを求める訴えを却下する。 2 原告の平成9年1月20日相続開始に係る相続税について,被告が平成11年12月7日付で原告に対してした更正処分のうち課税価格4億3049万6000円,納付すべき相続税額1億3267万2000円を超える部分の取消しを求める訴えを却下する。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 請求の趣旨(1) 被告が,平成11年12月7日付で原告に対してした平成9年1月20日相続開始に係る相続税の更正の請求に対する相続税更正処分(以下,「本件更正処分」という。)及び更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下,「本件通知処分」といい,本件更正処分と同通知処分をあわせて,「本件各処分」という。)をいずれも取り消す。 (2) 訴訟費用は,被告の負担とする。 2 請求の趣旨に対する答弁(本案前の答弁を含む。)(1) 原告の訴えのうち,課税価格4億3049万6000円,納付すべき相続税額1億3267万2000円を超える部分の取消しを求める訴えをいずれも却下する。 (2) 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は,原告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,原告が相続税の申告後に成立した遺産分割調停によって承継することとなった被相続人の債務について,当初の申告においてこれを申告していなかったとして,被告に対して同債務を相続財産に含めて相続税額を算出する更正の請求をしたにもかかわらず,被告が本件各処分を行って同債務の相続財産への算入を認めなかったことが違法であるとして,上記各処分の取消しを求めた事案である 同債務を相続財産に含めて相続税額を算出する更正の請求をしたにもかかわらず,被告が本件各処分を行って同債務の相続財産への算入を認めなかったことが違法であるとして,上記各処分の取消しを求めた事案である。 1 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠上容易に認めることができる(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)。 (1) 当事者等ア原告と訴外甲は訴外亡乙と丙の子である。 イ乙は,平成8年11月24日に,丙は,平成9年1月20日にそれぞれ死亡し,原告及び甲が乙及び丙の相続財産を相続した(以下,乙及び丙の相続を「別件相続」「本件相続」と,乙及び丙の相続財産をそれぞれ「別件相続財産」及び「本件相続財産」という。)。 (2)ア原告と甲は,本件相続財産の分割方法について話し合ったものの,本件相続に係る相続税の法定申告期限である平成9年11月20日までに話し合いがつかなかった(弁論の全趣旨)。 イそのため,原告は,上記法定申告期限内に,本件相続につき,被告に対して,取得財産を4億0482万8592円,承継債務を2219万2598円,相続税額を1億3861万7500円とする相続税の申告書を提出した(以下,「本件申告」という。)。 (3) 原告は,平成9年6月20日に,神戸家庭裁判所姫路支部に対して本件相続及び別件相続について相手方を甲として遺産分割調停を申し立てた(以下,「本件調停事件」という。)。 (4) 本件調停事件は,平成11年7月2日に,原告と甲との間で調停が成立し(以下,「本件調停」という。),原告の取得財産が4億7910万8008円に,承継債務が,本件申告当時未分割であった訴外丁株式会社の債務について乙の負っていた連帯保証債務(以下,「本件保証債務」という。)を含め,5億3990万3700円となった。 (5)ア 万8008円に,承継債務が,本件申告当時未分割であった訴外丁株式会社の債務について乙の負っていた連帯保証債務(以下,「本件保証債務」という。)を含め,5億3990万3700円となった。 (5)ア原告は,平成11年9月3日,被告に対し,①未分割財産の分割によりその取得した財産に基づく相続税の税額が当初の申告額と異なること,②未分割財産の分割により租税特別措置法69条の3第1項の適用を受けることになったこと,③本件保証債務を含めて課税価格を計算すべきであること,を理由として更正の請求をした(以下,「本件更正の請求」という。)。 イ被告は,平成11年12月7日付で,上記ア①及び②については理由があるが,③についてはその更正をすべき理由がなく,当初申告額を基に本件調停内容より算定すると,相続税額が当初申告額を上回ることになるとして,原告に対し,本件更正処分及び本件通知処分をした(甲6,弁論の全趣旨)。 (6) 原告は,上記(5)イの本件各処分について,被告に対し,平成11年12月24日に異議申立てをしたところ,被告は,平成12年3月23日付で,上記(5)ア②について理由のあることを認めたものの,同③は理由がないとして本件各処分を一部変更する旨の異議決定をした(以下,「本件異議決定」といい,本件異議決定によって変更された部分を「変更部分」という。そして,変更部分を除く本件更正処分及び同通知処分をそれぞれ「変更後の本件更正処分」「変更後の本件通知処分」といい,両者をあわせて「変更後の本件各処分」という。)。 そこで,原告は,上記決定を不服として,平成12年4月10日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたが,同所長は,平成13年2月27日付けでこれを棄却するとの裁決をした。 2 争点(1) 本件更正処分の取消しを求める訴えのうち,本件異議決定 2年4月10日,国税不服審判所長に対して審査請求をしたが,同所長は,平成13年2月27日付けでこれを棄却するとの裁決をした。 2 争点(1) 本件更正処分の取消しを求める訴えのうち,本件異議決定によって取り消された部分の取消しを求める訴えの適法性(争点1)(2) 変更後の本件更正処分の適法性(争点2) 3 争点1(本件更正処分の取消しを求める訴えのうち,変更部分の取消しを求める訴えの適法性)についての当事者の主張(被告)被告は,前記前提事実(5)のとおり,原告に対して,①未分割財産の分割によりその取得した財産に基づく相続税の税額が当初の申告額と異なること,②未分割財産の分割により租税特別措置法69条の3第1項の適用を受けることになったこと,③本件保証債務を含めて課税価格を計算すべきであること,を理由に基づく本件更正の請求に対して本件各処分をしたが,その後,同事実(6)のとおり,本件異議決定において,本件各処分は,別表1「課税の経緯」のとおり,課税価格を4億3049万6000円,納付すべき相続税額を1億3267万2000円にそれぞれ減少させる旨変更された。 したがって,本件各処分のうち,変更部分の取消しを求めることについて,原告は訴えの利益を有しない。 よって,本件各処分の取消しを求める訴えのうち,変更部分の取消しを求める訴えは却下されるべきである。 4 争点2(変更後の本件更正処分の適法性)についての当事者の主張(原告)(1) 本件調停により原告が承継した本件保証債務は,相続税法14条に規定されている「確実と認められる債務」にあたるから,同法13条によって相続財産の価額から本件保証債務の額を控除すべきである。 本件保証債務は,主債務者を丁とする連帯保証債務であるが,仮に原告が弁済をしても,丁が破産等の清算手続に入らざるを得 から,同法13条によって相続財産の価額から本件保証債務の額を控除すべきである。 本件保証債務は,主債務者を丁とする連帯保証債務であるが,仮に原告が弁済をしても,丁が破産等の清算手続に入らざるを得ない状況にあることから,求償することはできない。 したがって,本件保証債務は「確実と認められる債務」にあたる。 (2) 相続税法32条1号による更正の請求について本件は,相続税法32条1号所定の事由に該当するところ,本件調停は平成11年7月2日に成立し,本件更正の請求は同年9月2日になされているから,本件調停成立後4か月以内になされた本件更正の請求は適法である。 相続税法55条に基づく相続税の申告は暫定的な申告であり,現実に法定相続に従わない遺産分割がなされた場合には,これを基礎としてなされた更正の請求ないし修正申告が新たな申告であり,相続税額を最終的に確定させるものである。 したがって,相続税の申告については,同法32条1号に基づく更正の請求が本来的な申告であり,国税通則法に基づく一般の更正の請求とは特別法の関係にあるから,相続税法の規定が優先的に適用されるべきである。 そして,単に本件保証債務の存在を知っているか否かを基準として相続税法32条の適用の有無を解釈すべきではなく,相続税法14条が相続税の申告の際に計上できる債務を確実と認められる債務に限定していることからすれば,当初の申告において債務を申告していなかったことが過誤に該当するのは,当該債務が確実と認められる債務であることを知っていたにもかかわらず,申告しなかった場合に限られると解するべきである。 本件では,甲が本件保証債務を相続に含めるべきであると主張していたが,丁の代表取締役である原告が顧問税理士に本件保証債務について尋ねた際に,同税理士から会社の債務であるから本件保証債 べきである。 本件では,甲が本件保証債務を相続に含めるべきであると主張していたが,丁の代表取締役である原告が顧問税理士に本件保証債務について尋ねた際に,同税理士から会社の債務であるから本件保証債務を相続財産に含めるべきではないと言われたため,原告が同税理士の判断を信用して甲との間で本件保証債務を相続財産に含めるべきか否か,また,これを原告が承継するか否かについて争っていた。 したがって,原告は,本件申告当時において本件保証債務の存在を知っていたものの,これが相続財産に含まれることが「確実と認められる債務」(相続税法14条)であるとの認識はなかったため,相続税の申告においてこれを計上することができなかったものであるから,本件申告時に相続財産として本件保証債務を計上しなかったことが過誤であるとはいえない。 そして,本件調停の成立により,本件相続財産のうち,遺産分割による原告の取得財産価額及び債務が確定し,本件申告時から大幅に変更されているのであるから,相続税法32条1号所定の事由に該当し,同条に基づき更正の請求をすることができると解すべきである。 また,申告により確定した価額を基準とし,相続税法16条により相続人全員についての相続税の総額が決まっているのであれば,その後に相続税額が変更となっても相続人間で清算すれば足り,相続税法32条の規定による更正の請求は不要となるから,申告により確定した価額を基準として相続税額を算出すべきとの被告の主張は合理性を欠く。 (3) 国税通則法23条2項1号が規定する更正の請求ができる期間の起算点について国税通則法23条2項1号が規定する更正の請求ができる期間の起算点は,調停調書正本が送達された時と解すべきである。 調停調書がなければ税務署に対して説明をすることができず,更正の請求自体をすることが 税通則法23条2項1号が規定する更正の請求ができる期間の起算点は,調停調書正本が送達された時と解すべきである。 調停調書がなければ税務署に対して説明をすることができず,更正の請求自体をすることができない。 本件では,本件調停の調停調書は,平成11年7月12日に交付されているから,同日の翌日から2か月以内である同年9月3日になされた本件更正の請求は適法である。 (被告)(1) 本件更正の請求及び変更後の本件更正処分による原告の納付すべき相続税額及びその算出根拠は,別表1ないし3記載のとおりであり,相続税法上適法な処分である。 前記前提事実(5)アのとおり,本件更正の請求は,①未分割財産の分割によりその取得した財産に基づく相続税の税額が当初の申告額と異なること,②未分割財産の分割により租税特別措置法69条の3第1項の適用を受けることになったこと,③本件保証債務を含めて課税価格を計算すべきであること,を理由とする相続税額の減額請求であったところ,これに対して被告は下記のとおり本件保証債務を相続財産に加算することは認めず,①②を考慮して算出された相続税額が当初申告の相続税額を上回ることから,原告に対して修正申告を促したものの原告がこれに応じなかったことから,原告の相続税額を増額させる本件更正処分を行うとともに,原告の税額減額の請求に対して上記①②を考慮した結果相続税額が増額となり,減額の理由とはならないこと,同③はそもそも更正の理由に該当しないことを通知する旨の本件通知処分を行った。 その後,本件各処分は,甲が遺産分割によって取得した姫路市南條517-2所在建物を原告が取得したものとして課税価格を計上していたこと及び別表3のうち,「⑥その他の財産」の欄の所得税還付金36万0019円(以下,「本件還付金」という。)を原告の相続財産として 517-2所在建物を原告が取得したものとして課税価格を計上していたこと及び別表3のうち,「⑥その他の財産」の欄の所得税還付金36万0019円(以下,「本件還付金」という。)を原告の相続財産として加算していたことから,本件異議決定によって上記建物の価格及び本件還付金を相続財産から除いて,課税価格及び納付すべき相続税額を算出し,本件各処分のうち,変更部分を取り消したものである。 (2) 原告は,本件申告において,本件還付金ならびに本件保証債務すなわち別表3のうち「⑧債務」の欄の「借入金(連帯保証)姫路信金」6000万円及び「借入金(連帯保証)(姫路信金・さくら銀行・三和信用)」4億4000万円をいずれも計上せず,課税価格を3億8263万5000円と申告した後,本件更正の請求を行ったものであるが,以下の理由から本件更正の請求のうち本件還付金及び本件保証債務を相続財産に計上することは不適法であり,これを認めないことを前提とする変更後の本件各処分に何ら違法はない。 (3) 相続税法32条1号に基づく更正の請求について相続税法32条1号は,相続財産のうち,未分割の財産について一旦相続税の申告がなされ,同法55条の規定に基づく計算によって税額が確定した後に,遺産分割が行われて各相続人の按分割合が変更された結果,確定した税額が当初申告による確定した税額に比して過大になる場合があるという相続税に特有の後発的事由があることから,かかる場合に例外的に更正の請求を認めたものであって,当初の申告で本来申告すべきであった債務を申告しなかった等申告当初に存在した過誤を是正することを目的とするものではない。 したがって,当初申告によって申告することが客観的に可能であった債務を申告しなかった場合には,当初申告によって確定した価額を基礎として算出した分割遺産に係る課 正することを目的とするものではない。 したがって,当初申告によって申告することが客観的に可能であった債務を申告しなかった場合には,当初申告によって確定した価額を基礎として算出した分割遺産に係る課税価格及び相続税額と比較して既に確定した課税価格及び相続税額が過大とならない限り,当初申告の際に相続財産の帰属が争われており,その後相続財産の帰属が確定した場合であっても,相続税法32条1号によって上記債務を計上して算出された納税額への変更を求める更正の請求をすることはできない。 本件では,原告は,本件申告当時に本件保証債務の存在自体は認識しており,本件保証債務の存在を前提として単にその帰属を争っていたに過ぎないのであるから,本件申告に本件保証債務を含めることは可能であったというべきである。したがって,本件申告に含めなかった本件保証債務を本件調停によって原告が承継することになったとしても相続税法32条1号の更正の理由に該当しない。そして,別表3記載のとおり,本件調停事件で成立した調停に基づき原告が取得した財産のうち本件還付金及び本件保証債務を除く財産に係る課税価格は別表1のとおり4億3049万6000円であり,上記(2)の本件申告時における課税価格3億8263万5000円を上回っているから,申告当初の課税価格及び納付すべき相続税額が遺産分割後のそれに比べて過大になっていないから,結局同法32条1号の更正の事由は存在せず,同号に基づく更正の請求は不適法である。 また,個々の相続人に対する相続税は,相続税法16条により算出された相続税の総額に基づいて同法17条により各人の相続税額を計算し,同法18条ないし21条に規定する税額を加算若しくは控除して各人の納付すべき税額が算定されるのであり,同法16条により算出された相続税の総額によって同一の被相続人 17条により各人の相続税額を計算し,同法18条ないし21条に規定する税額を加算若しくは控除して各人の納付すべき税額が算定されるのであり,同法16条により算出された相続税の総額によって同一の被相続人より財産を取得した相続人全員の納付すべき相続税額が一義的に確定するものではなく,その場合には相続税法32条の規定による更正の請求が必要となるから,同条の規定が不要になることはない。 (4) 国税通則法23条2項1号に基づく更正の請求について国税通則法23条2項1号に基づく更正の請求は,判決等が成立した日の翌日から2か月以内に限りすることができるとされているところ,本件更正の請求は,本件調停が成立した平成11年7月2日の翌日から2か月を経過した同年9月3日になされており不適法である。 また,同号の要件は,申告時に顕在化しておらず,また納税義務者が予見しえなかった事態その他やむを得ない事由が申告後に生じたことにより,その申告等の課税標準等の計算の基礎となった事実が,当該事実に関する訴えに対する判決ないし判決と同一の効力を有する和解その他の行為によって,当該計算の基礎としたところと異なることが確定した場合をいうと解されるところ,本件調停事件において原告及び甲は,本件保証債務の存在自体ではなく単にその帰属を争っていたに過ぎないから,課税標準等の計算の基礎となった事実すなわち本件保証債務の存在自体が本件調停によって変更されたということはできず,本件調停は国税通則法23条2項1号の「判決と同一の効力を有する和解その他の行為」に該当しない。 (5) よって,変更後の本件各処分は,いずれも適法である。 第3 判断 1 本件通知処分の取消しを求める訴えについてア職権で判断するに,国税通則法23条4項によれば,納税者が申告税額が過大であるとしてその減額を求め 後の本件各処分は,いずれも適法である。 第3 判断 1 本件通知処分の取消しを求める訴えについてア職権で判断するに,国税通則法23条4項によれば,納税者が申告税額が過大であるとしてその減額を求めて更正の請求をした場合には,税務署長はその請求に係る課税標準等又は税額等について調査し,その調査したところに基づき減額更正をするか,又は更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下,「通知処分」という。)を行うものとされている。したがって,通知処分自体は税額等の減額を拒否する処分にすぎず,同処分によって納税者が納税義務を負う税額等全体を確定するものではないといえ,通知処分の取消訴訟においても納税者の主張する更正の請求の理由の有無に限りこれを審理判断することが予定されていると解される。 これに対して,納税額を増加させる増額更正処分は,単に申告税額に対し更正された税額との増差税額を追加するものではなく,申告により確定した税額を変更し,申告された税額を含めて納税者の納税額の総額を確定するものである。 したがって,通知処分と増額更正処分の法的性質は異なるものであり,両処分は別個独立の処分であるといえる。 しかしながら,両処分は,いずれも納税者の納税額等を確定させる処分であるところ,通知処分は申告税額の減少のみに関わるのに比し,増額更正処分は,課税要件に係る事実全体を見直し,実質的には申告された税額等を正当なものでないとして否定し,これに増額変更を加えて納税者の納付すべき税額等の総額を確定するものであるから,増額更正処分の内容は減額更正をすべき理由がない旨の通知処分の内容を包摂する関係にあるということができる。 だとすれば,両処分がなされた場合は,審理判断の重複を排するため,税額等を争う納税者は増額更正処分に対し取消訴訟をもって争えば足り,これと別個に通 分の内容を包摂する関係にあるということができる。 だとすれば,両処分がなされた場合は,審理判断の重複を排するため,税額等を争う納税者は増額更正処分に対し取消訴訟をもって争えば足り,これと別個に通知処分を争う利益や必要を有しないと解するのが相当である。かく解しても,増額更正処分の内容は,通知処分の内容を包摂する関係にあるから,増額更正処分に対する取消訴訟の中で通知処分における減額更正をしない旨の判断の存する違法を主張して申告税額等を下回る額にまで増額更正処分の取消しを求めることもでき,増額更正処分を取り消す旨の判決が言い渡され,判決理由中において減額更正をすべき理由があるとの判断が示されれば当該行政庁はこれに拘束され,減額更正を認める更正処分を行うことを義務づけられるものと解されるから,納税者側は何ら不利益を被ることはないということができる。 イ本件について検討するに,本件更正処分及び本件通知処分はいずれも同一日になされており,かつ原告が納付すべき相続税額についての処分であるから,前者が後者を包摂すべき関係にあるということができる。だとすれば,本件更正処分についてその取消訴訟を提起すれば,本件通知処分の適法性を含め原告に対する相続税額の総額を確定した本件更正処分の適法性を審理することができるのであるから,本件通知処分の取消しを本件更正処分とは別個に求めることについて,原告は法律上の利益を有しないというべきである。 ウよって,原告の請求のうち,本件通知処分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠き,不適法である。 2 争点1(本件更正処分の取消しを求める訴えのうち,変更部分の取消しを求める訴えの適法性)本案前の答弁の理由について国税通則法83条3項によれば,税務署長がした処分に対してなされた異議申立てが理由があるときは,異議審理庁は しを求める訴えのうち,変更部分の取消しを求める訴えの適法性)本案前の答弁の理由について国税通則法83条3項によれば,税務署長がした処分に対してなされた異議申立てが理由があるときは,異議審理庁は,決定で当該異議申し立てに係る処分の全部若しくは一部を取消し,又はこれを変更するとされているところ,弁論の全趣旨によれば,本件更正処分は,本件相続について課税標準額を4億3472万2000円,納税すべき相続税額を1億3401万4700円と決定したのに対して,本件異議決定は,課税標準額を4億3049万6000円,納付すべき相続税額を1億3267万2000円と決定したことが認められ,上記認定事実によれば,本件更正処分のうち,本件異議決定によって決定された課税標準額及び納付すべき相続税額を上回る金額の部分については,すでに同決定によって取り消されているから,同部分の取消しを求めることについて,原告は法律上の利益を有しない。 よって,本件更正処分のうち,本件相続について課税標準額を4億3049万6000円,納付すべき相続税額を1億3267万2000円をそれぞれ上回る部分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠き,不適法である。 3 争点2(本件処分の適法性)について(1) 当初申告に含まれていなかった被相続人の債務を遺産分割調停によって承継することとなった事実が,相続税法32条1号の更正の事由に該当するか否かについてア相続税法32条1号の趣旨(ア) 相続税法55条の趣旨相続税法55条は,遺産の全部または一部が未分割の場合には,未分割財産については,各共同相続人が民法(同法904条の2を除く。)の規定による相続分に従って未分割財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算する旨を定めている。 同条の趣旨について検討するに,そもそも相続税は自然人 同相続人が民法(同法904条の2を除く。)の規定による相続分に従って未分割財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算する旨を定めている。 同条の趣旨について検討するに,そもそも相続税は自然人の死亡に伴う相続等によって財産を取得した者に対して,その取得財産の価額を課税標準として課税される租税であることから,個々の相続人が遺産分割等により現実具体的に相続した相続財産の価額を相続税の課税標準とすべきであるが,仮に遺産の分割の完了を待って相続税の課税価格を計算しなければならないとすれば,遺産分割を行う時期については民法上特段の制限はなく,また相続財産が多数に上る場合や財産の種類,被相続人を含めた家庭事情等が複雑に関係し,相続人間の利害の調整が容易に行われない場合などは遺産分割が現実に行われるまで長期間を要することもあることから,相続税法27条1項の申告期限までに課税価格の計算を行うことが不可能となったり,更正の請求等の除斥期間との関係で相続税の納付義務を不当に免れるなどの不都合が生じかねない。 そこで,上記不都合な事態が生じるのを防止し,国家の財源を迅速・確実に確保するという国家的要請に基づき,相続税法55条は,分割前であっても一応民法の相続分に従って相続財産を分割したものとし,その取得した財産の価額によって相続税の課税標準及び納付すべき相続税額を算出すべきものとして,相続税法27条1項の申告期限までに相続税の納付を義務づけたものであると解される。 (イ) 相続税法32条1号の事由についてただ,その後遺産分割によって個々の相続人の相続財産が変更され,分割後の相続財産を基準に算出された相続税額が同法55条に基づいて算出された金額と異なることとなる場合があることから,かかる場合には当初申告に係る課税標準等の変更による更正の請求を認め,相 更され,分割後の相続財産を基準に算出された相続税額が同法55条に基づいて算出された金額と異なることとなる場合があることから,かかる場合には当初申告に係る課税標準等の変更による更正の請求を認め,相続人間の公平を図る必要がある。 かかる要請から,相続税法32条は,相続税について申告書を提出した者について同条各号に該当する事由により当該申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは,当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4か月以内に限り,その課税価格及び相続税額について国税通則法23条1項の規定による更正の請求をすることができるとし,相続税法32条1号は,同法55条の規定に基づいて課税標準及び納付すべき相続税額を算出し,法定申告期限内にそれに基づいて相続税の申告をした者について,同期間経過後に当該未分割財産の分割が行われ,共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことを挙げていると解される。 だとすれば,同法32条1号の事由は,未分割の財産につき一旦同法55条の規定による計算で税額が確定した後,遺産の分割が行われ,その結果,既に確定した相続税額が過大になるという相続税額に固有の後発的事由について規定したものであるというべきであり,同法32条により更正の請求をすることができるか否かの判断にあたっては,当該相続人について当初申告により確定した価額を基礎として算出された分割による相続財産に係る課税価格及び相続税額と当初申告により既に確定している課税価格及び相続税額とを比較検討すべきであって,後者が過大とならない場合には相続税法32条各号列記以外の部分及び同条1号の規定による更正の請求の事由に該当せず,当該更正の請求は不適法となると解すべきである。 イ 税額とを比較検討すべきであって,後者が過大とならない場合には相続税法32条各号列記以外の部分及び同条1号の規定による更正の請求の事由に該当せず,当該更正の請求は不適法となると解すべきである。 イ本件における検討弁論の全趣旨によれば,本件申告及び変更後の本件更正処分における相続財産の課税価格及び納付税額は,それぞれ3億8263万5000円及び4億3049万6000円であることが認められるところ,上記認定事実によれば,課税価格及び納付すべき相続税額のいずれについても変更後の本件更正処分における金額が本件申告における金額を上回っている。 したがって,本件において原告には相続税法32条1号に該当する事由が存在せず,同号による更正の請求は不適法であるから,同号による更正の請求を認めなかった変更後の本件更正処分は適法である。 なお,原告は,本件申告当時において本件保証債務の存在を知っていたものの,これが相続財産に含まれる「確実と認められる債務」(相続税法14条)であるとの認識はなかったのであり,かかる場合には,当初の相続税の申告においてこれを計上することが不可能であるから,調停の成立によって初めて本件保証債務が「確実と認められる債務」であることが確定し,これを相続財産の課税価格から控除すれば,本件申告における課税価格と異なることから,相続税法32条1号の事由にあたると主張する。 しかしながら,上記アで説示したとおり,同号の規定は,当初申告時に相続財産として申告されていた財産を基礎として,未分割財産を法定相続分ないし包括遺贈の割合に従って計算した課税価格が,申告後に行われた遺産分割によって,相続財産全体としてはその課税価格に変化がないものの,申告後の遺産分割という相続に特有の後発的事由によってその承継する財産について相続人間の按分割合に変動 税価格が,申告後に行われた遺産分割によって,相続財産全体としてはその課税価格に変化がないものの,申告後の遺産分割という相続に特有の後発的事由によってその承継する財産について相続人間の按分割合に変動が生じることがあることから,かかる相続に特有の後発的事由によって相続人間に生じた納税額についての不平等を解消するため,当初申告による納税額が分割によって承継することが確定した相続財産の課税価格に基づいて計算した納税額に比べて過大になった場合に,更正の請求を認める規定であって,当初申告においてその存在が明らかであったにもかかわらず申告されていなかった財産について,遺産分割後にこれを相続財産に算入することを認める規定でないことは,同号の明文上明らかであって,かかる場合にも同号による更正の請求が認められるべきとする原告の主張は,独自の解釈に基づくものであって採用できない。 (2) 国税通則法23条2項1号に基づく更正の請求についてア国税通則法23条2項1号は,申告にかかる課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときには,その確定した日の翌日から起算して2か月以内に更正の請求をすることができると規定しているところ,同規定は,納税者が課税当時若しくは同条1項の期間内にも適切な権利の主張ができなかったような後発的な事由により,当初の課税が実体的に不当となった場合に納税者からその是正を請求できる方法を認めたものと解される。 そして,納税者が被相続人の債務の存在自体を争っている場合に,判決により債務の存在が確定した場合には,当初申告時点において債務の存在を争っていた以上,適切な権利の主張をすることができなかったということができる。 しかしながら,被相続人の債 争っている場合に,判決により債務の存在が確定した場合には,当初申告時点において債務の存在を争っていた以上,適切な権利の主張をすることができなかったということができる。 しかしながら,被相続人の債務の存在を前提として,単に相続人間のいずれに帰属するかについて争いがある場合には,当該債務が相続財産に含まれること自体は明らかであるから,相続税法55条の規定に従って申告すべきであるし,申告後に判決等により,法定相続分とは異なった割合で債務を承継することが確定した場合には,相続税法32条による更正の請求が認められているから,当初申告時において債務を相続財産として申告したとしてもその後に適切な権利の主張を行うことは可能であるということができる。 したがって,当初申告時において被相続人の債務の存在自体は争っておらず,単にその帰属が問題となっている場合に,申告後にその帰属が確定したとしても,そのことは国税通則法23条2項1号の更正の理由に該当しないというべきである。 イ本件について検討するに,原告は,そもそも前記認定のとおり本件各保証債務の存在自体は争っておらず,かつ本件申告当時もその存在を認識していたのであるから,本件申告の時点で本件保証債務を計上したとしても自らの権利を適切に主張することができたということができるから,同債務の帰属について争いがあり,その後法定相続分とは異なる割合で同債務を承継することが確定した場合であっても当該事情は国税通則法23条2項1号所定の更正の理由には該当しないというべきである。 (3) 原告は,その余の点については特に争っておらず,相続税法の規定に照らしても,変更後の本件更正処分により決定された原告の納税額は適法であると認められる。 4 結語以上によれば,原告の請求のうち,本件通知処分の取消しを求める訴え及び変更後 おらず,相続税法の規定に照らしても,変更後の本件更正処分により決定された原告の納税額は適法であると認められる。 4 結語以上によれば,原告の請求のうち,本件通知処分の取消しを求める訴え及び変更後の本件更正処分の取消しを求める訴えのうち,主文記載の金額を上回る部分の取消しを求める訴えはいずれも不適法であるから却下することとし,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第5民事部裁判長裁判官前坂光雄裁判官寺本明広裁判官窪田俊秀
▼ クリックして全文を表示