令和3(わ)667 覚醒剤取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和4年4月27日 札幌地方裁判所
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判決文本文19,309 文字)

令和4年4月27日宣告令和3年(わ)第667号判決上記の者に対する覚醒剤取締法違反被告事件について、当裁判所は、検察官大友隆及び同中田和暉並びに国選弁護人野田晃弘各出席の上審理し、次のとおり判決する。 主文 被告人を懲役2年に処する。 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、法定の除外事由がないのに、令和3年8月下旬頃から同年9月13日までの間に、日本国内において、覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し、もって覚醒剤を使用した。 (証拠の標目)括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カードにおける検察官の証拠請求番号である。 ・被告人の公判供述・鑑定嘱託書謄本(甲2)・鑑定書(甲3)・捜査関係事項照会書謄本(甲7)・捜査関係事項照会回答書(甲8)(証拠能力についての説明)第1 争点弁護人は、被告人の尿から覚醒剤成分が検出されたことは争わないものの、被告人の尿を差し押さえるまでの捜査に複数の違法があり、これらを総合考慮すると、本件の強制採尿令状に基づく尿の差押手続は重大な違法を帯び、令状主義の精神に 照らして尿の証拠能力を否定すべき場合に当たり、被告人の覚醒剤自己使用を根拠付ける尿の鑑定書等(甲1~6。以下、まとめて「本件鑑定書等」という。)も証拠能力を欠くから、被告人は無罪であると主張する。 そこで、以下、本件鑑定書等の証拠能力が肯定できる理由を説明する。 第2 本件各証拠の収集等に関する認定事実関係証拠によれば、本件鑑定書等の収集に至る経緯として、以下の事実が認められる。 1 被告人の取調べ状況等⑴ 被告人は、令和3年9月13 説明する。 第2 本件各証拠の収集等に関する認定事実関係証拠によれば、本件鑑定書等の収集に至る経緯として、以下の事実が認められる。 1 被告人の取調べ状況等⑴ 被告人は、令和3年9月13日(以下、時刻の記載は全て同日を指す。)午後1時20分頃、Aを被疑者とする道路交通法違反事件(以下「別件道交法事件」という。)の関係者として事情聴取を受けるため、知人であるBと共に札幌方面豊平警察署(以下「豊平署」という。)に出頭した。 被告人に対する取調べの冒頭において、同署交通第二課のC警部が、取調室において、被告人に対し、別件道交法事件について尋ねると、被告人は、テレビのニュースで知った旨などを平静な様子で答えた。引き続き午後1時30分頃から、同署交通第一課のD巡査部長が1人で被告人の取調べを行ったが、被告人は落ち着いた様子で質問に答えた。 C警部は、事前に、被告人とBに覚醒剤使用の前科があることを把握しており、同署刑事第二課薬物銃器対策係のE警部補に対し、覚醒剤使用の前科がある2人が来署した旨を報告した。E警部補は、同報告を受け、午後1時42分頃、被告人の犯罪経歴を照会すると、被告人に覚醒剤取締法違反の前科が6件あり、前刑執行終了から1年足らずであることを知った。 取調べ開始から30分以上経過した頃、C警部は、再び取調室に入り、被告人に対し、Aが運転していたレンタカーの貸し渡し簿に緊急連絡先として被告人が記載されていたことについて尋ねると、被告人は心当たりがない旨平静な様子で答えた。 その後、C警部は、D巡査部長に対し、被告人に供述拒否権を告知した上で被疑者の供述調書を作成するように指示し、被告人にも被疑者調書を作成する旨を告げた。すると、被告人は、態度が変わり、興奮して、「早くしろ。」「俺は関係ない。」「だったら来なかっ 拒否権を告知した上で被疑者の供述調書を作成するように指示し、被告人にも被疑者調書を作成する旨を告げた。すると、被告人は、態度が変わり、興奮して、「早くしろ。」「俺は関係ない。」「だったら来なかった。」旨声を荒げて言ったり、大声を出すなどの言動や、体ないし上半身を左右に動かすといった挙動を示すようになった。C警部が、被告人がAの無免許運転を幇助したのではないかと考え、そのことについて尋ねても、「Aが無免許であることに驚いた。」「自分は関係ない。」「来なければよかった。」などと、否定する旨を繰り返した。 C警部は、被告人のこれらの言動、挙動を見て、E警部補に対し、被告人が落ち着きがなく、発言内容が支離滅裂である旨伝えた。 E警部補は、C警部から前記報告を受けた後、自らも取調べ中の被告人の様子を取調室の視認窓から確認した上、被告人に対して、覚醒剤使用の嫌疑があるものとして採尿手続を求めることにした。 ⑵ 以上の認定事実に関し、被告人は、豊平署に来てから供述調書を完成させるまでの間、C警部と会話したことはない旨供述する。 しかし、C警部が直接被告人と会話したことや、被告人の態度が変わった後の言動や挙動については、C警部とD巡査部長の証言が一致しており、「早くしろ。」「関係ない。」などと発言したことは被告人も認めている。したがって、前記認定に沿うC証言の信用性は高く、被告人の供述はこれに疑いを容れない。 2 豊平警察署での声掛けから地下鉄乗車に至る経緯⑴ 別件道交法事件の取調べ終了後の午後3時10分頃、E警部補と薬物銃器対策係の警察官1人は、豊平署1階において、被告人に対し、覚醒剤の関係で事情聴取をしたい旨声を掛け、被告人は、別件道交法事件のために来署したので応じない旨答えて、同署出入口に向かって歩き出した。E警部補らは、被告人を後ろ 豊平署1階において、被告人に対し、覚醒剤の関係で事情聴取をしたい旨声を掛け、被告人は、別件道交法事件のために来署したので応じない旨答えて、同署出入口に向かって歩き出した。E警部補らは、被告人を後ろから追いかけながら、さらに、事情聴取をしたい旨や、任意採尿や注射痕の確認を求めたが、被告人は、令状がなければ応じない旨怒鳴って拒否した。被告人は、二、三分 ほどで同署建物から駐車場に出た。 同駐車場内において、E警部補らは、被告人と共に歩きながら、任意採尿や注射痕の確認に応じるよう説得したが、被告人は、歩いたり立ち止まったりすることを繰り返しながら、興奮して声を荒げ、令状がなければ、任意捜査には一切応じない旨答えて、拒否した。被告人は、更に二、三分ほど立ち止まることなく歩き続け、同駐車場から豊平署敷地外に出た。E警部補は、報告と救援要請のため豊平署内に戻り、その後は、上司の指示を受けて強制採尿令状の請求手続に従事した。 この頃、E警部補と入れ替わりに、F巡査部長とG巡査部長がその場に現れ、被告人に対し、任意採尿等の説得に当たり、さらに、同署刑事第二課組織犯罪対策係のH警部補を含む3人の警察官がこれに加わった。F巡査部長、G巡査部長らが被告人のすぐそばで説得を行い、その他の警察官は距離を取っていた。被告人は、豊平署や地下鉄豊平公園駅の周辺を歩いたり立ち止まったりしながら移動し、警察官らは被告人を追尾しながら、説得行為をしたが、警察官らは、被告人の前に手を差し出したり、立ち塞がったりするなどして、被告人の進行を止めようとすることがあり、この際、被告人と警察官らの体が接触することもあった。この間、被告人は、任意採尿等を拒否する旨の言動に終始していた。 午後3時30分頃、豊平署内において、被告人に対し強制採尿令状を請求する方針が決定され、説得 人と警察官らの体が接触することもあった。この間、被告人は、任意採尿等を拒否する旨の言動に終始していた。 午後3時30分頃、豊平署内において、被告人に対し強制採尿令状を請求する方針が決定され、説得に当たっていたH警部補らにもその旨が伝えられた。F巡査部長らは、被告人に対しても強制採尿令状を請求する旨伝えたが、被告人は「今は令状がないから応じない。」旨などを答えて任意採尿を拒否した。 午後3時28分頃、被告人は、携帯電話で、I法律事務所に電話をかけ、約2分5秒間、通話した。午後3時32分頃、被告人は、J弁護士に電話をかけ、約10分13秒間通話し、警察官らに対する対応等について相談し、J弁護士から帰っていい旨の助言を受けた。この際、F巡査部長は、同携帯電話でJ弁護士と話し、被告人を帰らせるよう求められ、もうしばらく任意の説得を続ける旨答えた。 なお、被告人がかばんから携帯電話を取り出そうとした際に、警察官に手首を押 さえられたが、弁護士と話をする旨告げたところ、手を離されることがあった。 ⑵ 以上の認定事実について、E警部補は、豊平署内において被告人に声を掛けてから同署に戻るまでの経緯が前記のとおりである旨証言する。また、被告人の説得に加わってから豊平公園駅までの経緯について、F巡査部長は、被告人が逃げるそぶりをした際に手を前に出して制止したが、被告人が歩くのを妨害して立ち止まらせたことはないと証言し、H警部補は、被告人が立ち止まった際に、警察官が被告人の前に立って説得し、移動する際には被告人の後について移動していた、歩く被告人に対して、止まるように手を出したところ、被告人が体当たりしてきて、その腕や肩などが警察官の体に触れることがあったと証言する。 これに対し、被告人は、豊平署内で任意採尿を求めていたのは、男性警察官2人であり 止まるように手を出したところ、被告人が体当たりしてきて、その腕や肩などが警察官の体に触れることがあったと証言する。 これに対し、被告人は、豊平署内で任意採尿を求めていたのは、男性警察官2人であり、出口に向かおうとすると、警察官が進路を塞ぐように前に出てきた、帰りたいから進路を開けるよう求めても、前に立ち塞がり、警察官の人数が三、四名に増えて、自分の前に扇形に並んでいた、豊平署内には10分から15分くらいいた、同署の敷地を出てから地下鉄の駅に向かおうとしたときには、警察官が肩や胸で押さえつけてきた、駐車場にも15分から20分ぐらいいた、携帯電話を取り出そうとしたときに警察官に手首を押さえられたと供述する。 E証言のうち、E警部補が被告人の説得に当たり、二、三分で豊平署の建物から出て、更に二、三分で同署駐車場から出たとする点は、E警部補が自らのこのような行為について記憶違いをするとは考えられないし、E警部補の二、三分遅れくらいで採尿に向かうと被告人らが建物の外に出ており、同署に戻ってくるE警部補と擦れ違ったというF証言と整合する。したがって、豊平署敷地外に出るまでの経緯については、E証言に沿って前記のとおり認定した。 豊平署敷地外での警察官らの行為について、被告人が、J弁護士との通話において、「とうせんぼして帰してくれないんだもん。」と発言し、警察官の「押さないで、押さないで、危ない。」という発言に対し、被告人が「危ないじゃないって、おまえらがどければいいんだって。」と言い返す場面が録音されていること、被告 人が豊平署内でE警部補に声を掛けられてから、すぐ近くにある豊平公園駅で地下鉄に乗るまでに約40分間が経過していること、F巡査部長やH警部補が被告人の前に手を出したことや接触があったこと自体は認めていることからすれば、被告人 掛けられてから、すぐ近くにある豊平公園駅で地下鉄に乗るまでに約40分間が経過していること、F巡査部長やH警部補が被告人の前に手を出したことや接触があったこと自体は認めていることからすれば、被告人と警察官との相互の位置関係について具体的に認定することは困難であるものの、少なくとも、警察官らは被告人の進路前方に手を差し出したり立ち塞がるなどして被告人の進行を止め、被告人と警察官の体が接触することがあったことは否定できない。また、携帯電話を取り出す際に手首をつかまれたという被告人供述を排斥するに足りる証拠はない。したがって、前記のとおり認定した。 3 地下鉄乗車から麻生駅に至る経緯午後3時48分頃、被告人は、豊平公園駅で地下鉄に乗車した。F巡査部長、H警部補を含む警察官4人も同乗したが、地下鉄車両内においては、警察官は被告人と距離を取って乗車し、説得を行うことはなかった。 被告人は、地下鉄さっぽろ駅で乗換えをし、北34条駅で地下鉄を降りると、歩いて被告人方自宅に向かった。警察官らは被告人の後ろを歩いて追尾し、この際にも、尿の提出に応じるよう説得したが、被告人は応じなかった。北34条駅から被告人方に至るまで、被告人と警察官の体が接触することはなかった。 午後4時18分頃、被告人は、札幌市a区bc条の被告人方に帰宅した。警察官らは、同所玄関ドア前まで追尾したが、中に立ち入ることはなかった。 午後4時28分頃、被告人は、同人方から外出し、麻生駅方面に向かって歩き出した。警察官らは、被告人の後ろを歩いて追尾し、その間に数回説得したが、被告人は応じず、歩き続けた。この間、被告人と警察官の体が接触することはなかった。 4 タクシー乗車から発進までの経緯午後4時35分頃、被告人は、麻生駅バスターミナル前においてタクシーの後部座席に乗り込んだ 歩き続けた。この間、被告人と警察官の体が接触することはなかった。 4 タクシー乗車から発進までの経緯午後4時35分頃、被告人は、麻生駅バスターミナル前においてタクシーの後部座席に乗り込んだ。G巡査部長は、タクシーの車体と開いているドアとの間に自らの体を挟み入れ、ドアが閉まらないようにした上、被告人に対し、タクシーから降 り、尿を提出するよう説得した。また、F巡査部長は、同タクシーの運転手に対し、捜査車両が到着したら後ろを追尾させてほしい、そのために低速走行してほしいと依頼した。その後、捜査車両が到着し、午後4時50分頃、被告人の乗ったタクシーが発進したため、警察官らは捜査車両で追尾したが、失尾した。 5 被告人発見から捜査車両乗車までの経緯午後4時57分頃、F巡査部長らは、札幌市北区新琴似付近において、走って逃げる被告人を発見し追い掛けた。この際、その場にいた私人2人が被告人を制止し、F巡査部長らが追い付き、その場に立ち止まった被告人に対し、再び任意採尿に応じるよう説得したが、被告人は黙って応じなかった。 午後5時頃、F巡査部長らは、被告人に対し、間もなく強制採尿令状が発付される旨や捜査車両内で説明したい旨を言って捜査車両に乗るよう促したところ、被告人は捜査車両に向かって歩き、乗車した。被告人は、捜査車両である3列シートのワンボックスカーの3列目運転席側に乗車し、その隣にG巡査部長、2列目運転席側にH警部補、その隣にF巡査部長が乗車した。 6 捜査車両乗車から逮捕に至るまでの経緯、J弁護士からの着信の状況⑴ F巡査部長らは、捜査車両内において、被告人に対し、改めて尿の提出を求めたが、被告人は黙秘して応じなかった。 午後5時8分頃、被告人に対する強制採尿令状(以下「本件採尿令状」という。)が発付された。H警部補は、そ 捜査車両内において、被告人に対し、改めて尿の提出を求めたが、被告人は黙秘して応じなかった。 午後5時8分頃、被告人に対する強制採尿令状(以下「本件採尿令状」という。)が発付された。H警部補は、その連絡を受けて、被告人に対し、本件採尿令状が発付された旨や、発付された同令状をその場に届けてもらい、被告人に呈示したらそのまま病院に行って執行する予定である旨告げた。F巡査部長が、この場で令状の到着を待って病院で強制採尿をするのか、それとも、豊平署に行って自力で排尿するのか旨被告人に尋ねると、被告人は、警察署に行く旨答えた。 被告人らが上記の会話をしていた最中である午後5時11分頃、J弁護士から被告人の携帯電話に着信があった。F巡査部長とH警部補は、被告人に対し、応答しないように求め、被告人は、この求めに従って電話に出なかった。このとき、H警 部補は、G巡査部長から知らされて、弁護士からの着信であることを認識していた。その後、被告人の尿が差し押さえられるまで、被告人がいずれかへ電話をしたいと申し出ることはなかった。 午後5時26分頃、被告人らを乗せた捜査車両が発進し、午後6時4分頃、豊平署に到着した。午後6時16分頃、本件採尿令状が被告人に呈示され、被告人は自力で排尿する旨告げ、午後6時20分頃、被告人が自力で排尿し、本件採尿令状に基づきこの尿が差し押さえられた。同尿の鑑定の結果、覚醒剤成分が検出され、午後8時27分頃、被告人は緊急逮捕された。 ⑵ 以上の認定事実のうち、J弁護士から着信があった際の状況に関し、F巡査部長は、被告人は特に何も言っておらず、誰からの着信なのか分からなかった、「今電話に出るのは控えてくれ。」と言うと、被告人は電話に出るのをやめたと証言する。H警部補は、被告人が携帯電話を取り出し画面を見て、「電話だ。」と言っ ておらず、誰からの着信なのか分からなかった、「今電話に出るのは控えてくれ。」と言うと、被告人は電話に出るのをやめたと証言する。H警部補は、被告人が携帯電話を取り出し画面を見て、「電話だ。」と言った、被告人の隣にいたG巡査部長が、画面を見て口パクで「弁護士」と伝えたため弁護士からの着信であると分かった、F巡査部長と共に「電話やめてくれるか。」などと言うと、被告人は自ら操作して携帯電話をかばんにしまった、電話に出ないよう求めた時点と弁護人と分かった時点のどちらが先だったかは分からないと証言する。 これに対し、被告人は、豊平署に行くかどうか尋ねられる前に着信があり、かばんから携帯電話を取り出して「弁護士だから電話に出る。」と言って出ようとしたが、横にいた警察官に、「お前はもう電話に出る権利はないんだから電源を切ろ。」と言われた、横から手が出てきて押さえられ、電話に触られたが、電話を切られたのかどうかは分からないと供述する。 電話への応答を制止した際の被告人と警察官の具体的な発言内容については、前記のF巡査部長、H警部補及び被告人の供述は一致しないが、G巡査部長の口パクにより弁護士であることを伝えられたとするH警部補の証言は迫真性があって信用できる。H警部補は、電話に応答しないよう求めた時点と弁護士と分かった時点の 前後関係の細部についてはっきりしない旨証言するが、弁護士からの着信であることを認識しながら、応答を制限したことは否定しがたく、前記のとおり認定した。 第3 捜査の適法性について 1 争点①警察官が、被告人に覚醒剤使用の嫌疑を抱き、任意採尿を求めたことが適法かについて検討する。 嫌疑の相当性前記認定事実のとおり、被告人は、被疑者調書を作成すると伝えられると、態度が変わり、興奮して声を荒げ、大声を上げるなどの言動を き、任意採尿を求めたことが適法かについて検討する。 嫌疑の相当性前記認定事実のとおり、被告人は、被疑者調書を作成すると伝えられると、態度が変わり、興奮して声を荒げ、大声を上げるなどの言動を繰り返し、上半身を左右に動かすなどの挙動をした。これらの被告人の言動や挙動について、C警部は、質問とかみ合わない言動である、覚醒剤の薬理作用をうかがわせる不自然で異常な挙動である旨証言する。 弁護人は、被告人が怒ったのは急に被疑者として扱われたからであり、前記被告人の言動や挙動は、覚醒剤使用の嫌疑の根拠にならない旨主張する。また、弁護人は、取調べを担当したD巡査部長が被告人に対して覚醒剤使用の嫌疑を抱いていないことを指摘する。たしかに、被告人が怒ったのは、被疑者扱いされたからという理解や説明ができそうに思われなくはない。D巡査部長も、取調べの時点では同様に理解していた旨証言する。 しかし、前記被告人の言動や挙動についてのC警部の証言の趣旨は、要するに、被疑者扱いされて立腹したという理由だけでは説明できないほどに不自然な言動や挙動であるというものと理解でき、このような挙動は、覚醒剤の薬理作用が影響したこと等の表れであると考えることができる。特に、大声を上げるなど興奮して、上半身を左右に動かすといった挙動をしたことは、被疑者扱いされたという理由だけでは行き過ぎていて、不自然であるという違和感には合理性がある。覚醒剤の薬理効果であることを一義的にうかがわせるとまではいえないが、嫌疑の根拠の一つとして肯定することは可能である。D巡査部長が、被告人の言動や挙動から覚醒剤 使用の嫌疑を抱かなかったことについては、これまでに薬物事案の取扱い経験がなく、そのような嫌疑の判断能力を欠いたものと理解できる。 そして、このような被告人の言動、挙動に加え、 動から覚醒剤 使用の嫌疑を抱かなかったことについては、これまでに薬物事案の取扱い経験がなく、そのような嫌疑の判断能力を欠いたものと理解できる。 そして、このような被告人の言動、挙動に加え、被告人の覚醒剤取締法違反の前科や前刑執行終了から間もない時期であったことを考慮すれば、被告人に対し、採尿を求める前提としての覚醒剤使用の嫌疑の相当性を認めることができる。 なお、被告人の表情について、C警部は、被告人の目線が定まっていなかったと証言し、E警部補は、被告人の目がうつろであったと証言する。これらの証言内容は、多義的で、主観的な印象であり、被告人の挙動を具体的に認定することは困難であるが、C警部やE警部補が、証言するとおりの認識を抱き、覚醒剤使用の嫌疑の根拠の一つと考えたことも、不合理ではない。 ⑵ 任意採尿の促し前記のとおり覚醒剤使用の嫌疑を肯定できる以上、E警部補らが、被告人に対して、任意採尿を求めるために声を掛けたり、警察署から退去する被告人を後ろから追いかけて更に説得をすることに、違法はない。 弁護人は、E警部補は、尾行して被告人の所在場所を把握しつつ、その間にD巡査部長から被告人の様子について聞き取りをするなどして、嫌疑を慎重に検討すべきであった旨主張するが、D巡査部長の認識にかかわらず、覚醒剤使用の嫌疑は肯定できるから、任意採尿の説得に着手するか、それとも、更に嫌疑の有無を検討するかは、捜査機関の裁量に属する。 ⑶ 以上からすれば、警察官が、被告人に覚醒剤使用の嫌疑があると考え、尿の提出を求めたことは適法である。 2 争点②警察官が、豊平署から札幌市北区新琴似の住宅街に至るまでの間、被告人を留め置き、追尾し、捜査車両に乗車させたこと(以下「本件追尾行為」という。)が適法かについて検討する。 まず、本件 争点②警察官が、豊平署から札幌市北区新琴似の住宅街に至るまでの間、被告人を留め置き、追尾し、捜査車両に乗車させたこと(以下「本件追尾行為」という。)が適法かについて検討する。 まず、本件追尾行為が実質的に逮捕行為に当たるか検討する。 前記認定事実のとおり、警察官は、豊平署において被告人に声掛けをしてから、同署周辺で約40分間、被告人が豊平公園駅から地下鉄に乗車することを妨げ、さらに、新琴似の住宅街において捜査車両に乗車するまで、約2時間にわたり被告人を追尾している。しかし、被告人は、豊平署周辺では自らの足で歩き回ることはできており、地下鉄に乗車した後は、一旦自宅に帰り、その後外出してタクシーも利用しつつ新琴似の住宅街まで移動するなど、広範囲にわたり移動している。このような被告人の状況からすれば、逮捕と同一視できる程度に被告人の移動が制限されたという評価はできないから、本件追尾行為が実質的な逮捕行為に当たるとはいえない。 ⑵ 次に、本件追尾行為が任意捜査として適法かについて検討する。 ア本件追尾行為の目的まず、本件追尾行為の目的について検討する。警察官は、被告人に対し、覚醒剤使用の嫌疑を抱き、尿の提出を求めるために声を掛けたのであるから、本件追尾行為の当初の目的は、任意採尿に応じるよう説得することにあったと認められる。 しかし、被告人は、再三にわたり任意採尿を明確に拒否しており、これに応じる可能性は低くなっていた。そして、午後3時30分頃、警察官らは本件採尿令状の請求手続に着手し、そのことを被告人にも伝えたが、被告人が任意採尿や事情聴取等を拒否する態度は変わらず、その場から立ち去ることを求めていた。捜査機関において、強制採尿令状の発付を受けても、その間に、被疑者が所在不明となり、覚醒剤の体内残留期間を経過する 任意採尿や事情聴取等を拒否する態度は変わらず、その場から立ち去ることを求めていた。捜査機関において、強制採尿令状の発付を受けても、その間に、被疑者が所在不明となり、覚醒剤の体内残留期間を経過するなどすれば、強制採尿令状の発付を受けた目的を達成できなくなるから、その執行に備えて被疑者の所在を確認することは、正当な捜査目的である。本件においても、被告人は、興奮した様子で任意捜査に応じない姿勢を明確にしていた上、別件道交法事件での出頭要請にも容易に応じなかった経緯があること、被告人の犯罪歴、前科関係等を考慮すると、被告人が所在不明になるなどして強制採尿令状の執行が困難とならないよう、被告人の所在を確認することには、必要性、緊急性を肯定できる。同時点以降の本件追尾行為の目的は、任意採 尿の説得から、強制採尿令状の執行に備えた所在確保へと、併存ないし移行していったと認められる。 そこで、これらの捜査目的を前提に、本件追尾行為における有形力の行使等が任意捜査として適法とされるか、検討する。 イ本件追尾行為の態様豊平署での声掛けから地下鉄乗車までE警部補らは、豊平署建物内から、被告人に声を掛け尿の提出を求め、被告人が拒否したあとも被告人を後ろから追尾しつつ説得を継続しているが、その際にE警部補らが被告人の進路を妨げるなどすることはなかった。 次いで説得に当たったF巡査部長らは、前記認定のとおり、口頭での説得だけでなく、被告人の前に手を出して遮ったり、立ち塞がったりして、進行を止めようとし、この際、体が接触するなどして、豊平署付近から地下鉄に乗って立ち去ることを制止し、その場付近に留め置いていたものと認められ、その時間は、E警部補が任意採尿の説得を開始してから被告人が地下鉄に乗るまで、約40分間であった。 しかし、被告人が、E 下鉄に乗って立ち去ることを制止し、その場付近に留め置いていたものと認められ、その時間は、E警部補が任意採尿の説得を開始してから被告人が地下鉄に乗るまで、約40分間であった。 しかし、被告人が、E警部補らの説得を振り切って豊平署の駐車場に出るまでの時間は短時間であり、F巡査部長らにおいて、なお被告人の翻意を期待して、更に任意採尿や事情聴取の説得を一定時間継続することには、合理性がある。F巡査部長らは、J弁護士から、電話で被告人を帰らせるよう求められた後も、説得を続けたが、被告人が地下鉄に乗車するまでのその時間は、短時間にとどまっている。 また、前記のとおり、強制採尿令状の執行に備えて被告人の所在を確保することは正当な捜査目的である。警察官らにおいて、強制採尿令状を請求する方針を検討、決定した上、地下鉄に乗車するなどして移動する被告人を追尾するなどの準備のために、必要最小限度の時間を要するのはやむを得ない。本件でも、豊平署周辺で被告人に任意採尿の説得をする間に、強制採尿令状を請求する方針が決定され、その後、警察官4人が被告人と共に地下鉄に乗車し、被告人を追尾していることなどからすれば、強制採尿令状の執行に備えた準備のために被告人を駅周辺に留め置 いていたという面も認められる。 警察官らが強制採尿令状請求の方針を決定した午後3時30分頃から、被告人が豊平公園駅で地下鉄に乗るまで、留め置いていた時間は20分足らずにとどまっている。この間に、被告人は、法律事務所やJ弁護士に電話して相談することができていた。この間、警察官らは、被告人の前に手を出したり、立ち塞がったりして進路を遮ったり、被告人の体と接触することもあったが、被告人の体をつかんだり、周囲を取り囲んだりすることまではなく、被告人は、豊平署の駐車場や豊平公園駅周辺の路上を自らの したり、立ち塞がったりして進路を遮ったり、被告人の体と接触することもあったが、被告人の体をつかんだり、周囲を取り囲んだりすることまではなく、被告人は、豊平署の駐車場や豊平公園駅周辺の路上を自らの足で歩き回ることはできていた。 以上の事情に鑑みると、警察官らの前記行為は、任意採尿の説得や所在確保のための有形力の行使として、相当な範囲内と認められる。 なお、この間、被告人が携帯電話を取り出そうとした際に警察官が被告人の手首をつかんだことが認められるが、凶器等の危険物が持ち出される場合に備えたごく短時間の安全確保のための制止であったと認められ、違法はない。 地下鉄乗車からタクシー乗車まで被告人は、地下鉄に乗車すると、乗換えもしつつ、北34条駅まで移動し降車している。そして、歩いて自宅まで帰り、その後外出して、麻生駅方面まで歩き、タクシーに乗車している。この移動中、警察官らは常に被告人の動静を把握できる程度の距離におり、被告人が歩いて移動する際には後ろを歩いて追尾し、尿の提出に応じるように説得を行っていたが、この間、警察官らと被告人の体が接触したり、警察官らが被告人の進行を妨げるといったことはなかった。また、被告人が自宅に帰った際、警察官らは、共同住宅の共用部分を経て被告人方の玄関先まで追尾しているが、被告人は、これを黙認していたとうかがわれるし、警察官らは、被告人方には立ち入らず、建物外で待機している。 以上の検討によれば、この間の警察官らの追尾行為に、違法はない。 タクシーの停止行為について前記認定事実のとおり、被告人が麻生駅バスターミナル前においてタクシーに乗 り込むと、G巡査部長がタクシーのドアと車体の間に体を入れてタクシーの発進を阻止し、被告人に対して降車を求め、F巡査部長はタクシーの運転手に捜査車両で追尾する ーミナル前においてタクシーに乗 り込むと、G巡査部長がタクシーのドアと車体の間に体を入れてタクシーの発進を阻止し、被告人に対して降車を求め、F巡査部長はタクシーの運転手に捜査車両で追尾するために低速走行するように求めている。 しかし、捜査車両の準備等の追尾体制が整わないまま、被告人がタクシーで立ち去れば、被告人がそのまま所在不明となるおそれがあるから、強制採尿令状の執行に備えた所在確保の必要性に照らせば、捜査車両を手配してこれがその場に到着するなどの追尾体制を整えるための必要最小限度の留め置きは、短時間の限りであれば、許されるというべきである。 本件では、捜査車両到着後、タクシーは速やかに発進している上、被告人がタクシーに乗車してから発進するまでの時間は約12分間と比較的短時間にとどまっている。留め置きの態様も、被告人の身体に直接力を行使するのではなく、タクシーのドアを閉めさせないようにして、運転手に協力を求めるという間接的な方法によるものである。タクシーの発進を制止した被告人の留め置きは、任意捜査として相当な範囲内であると認められる。 タクシー発進後から捜査車両に乗り込むまで被告人が乗車したタクシーが発進した後、警察官らは捜査車両で追尾し、一度失尾したが、被告人を発見し、徒歩で追尾して、追い付いている。そして、被告人は、警察官らから、間もなく強制採尿令状が発付される見込みなどを伝えられ、警察官らから促され、自ら歩いて捜査車両に乗り込んでいる。 このとき、被告人が乗車を拒否する意思を示したことはなく、警察官らが力づくで乗せたこともなく、要するに、被告人は、逃走することを断念して、自らの意思で乗車したと認められる。なお、F巡査部長らが被告人を発見した後、警察官ではない私人が被告人を制止したが、捜査の適法性に影響する事情 こともなく、要するに、被告人は、逃走することを断念して、自らの意思で乗車したと認められる。なお、F巡査部長らが被告人を発見した後、警察官ではない私人が被告人を制止したが、捜査の適法性に影響する事情ではない。被告人は、近隣住民の好奇の目に耐えられず、やむを得ず捜査車両に乗ったと供述するが、警察官らが意図的に説得の場として住宅街を選んだなどの事情はない。 したがって、警察官らの前記行為にも、違法はない。 まとめ以上のとおり、豊平署における声掛けから被告人が捜査車両に乗車するまでの経緯について、個別の場面を検討しても、任意捜査として違法は認められない。約2時間にわたる本件追尾行為を全体として評価しても、警察官らは被告人に任意採尿を説得し始めてから約20分後には強制捜査に移行する方針を被告人にも伝えて強制採尿令状請求の準備に取り掛かっていること、その後の留め置きは被告人が地下鉄に乗車するまで20分足らずであること、被告人が、地下鉄の駅、自宅等を経て、自らの足や地下鉄、タクシー等を使用して移動していること、各場面における有形力の行使は強度のものではないこと、最終的に被告人が自ら捜査車両に乗車したことなどに照らせば、本件追尾行為は、任意採尿の説得や所在確保という正当な捜査目的に照らして、相当な範囲内であって、違法はないと認められる。弁護人は、本件追尾行為が、令状によらない強制処分に当たるか、任意捜査としての許容性を逸脱している旨主張するが、以上の検討によれば、いずれも採用できない。 3 争点③警察官が、捜査車両内で採尿のため病院に向かう旨を告げたことが適法かについて検討する。 前記認定事実のとおり、捜査車両内において、本件採尿令状発付の連絡を受け、被告人に対し、H警部補は、令状を呈示したら病院に行く旨告げ、F巡査部長は、 う旨を告げたことが適法かについて検討する。 前記認定事実のとおり、捜査車両内において、本件採尿令状発付の連絡を受け、被告人に対し、H警部補は、令状を呈示したら病院に行く旨告げ、F巡査部長は、令状の到着を待って病院で強制採尿をするのか、警察署に行って自力で排尿するのか、尋ねた。 弁護人は、F巡査部長らの前記発言について、強制採尿令状を呈示することなく同令状の執行に着手したものであり、刑事訴訟法222条1項、110条に反し違法であると主張する。 しかし、H警部補やF巡査部長の前記各発言は、いずれも、本件採尿令状が手元に届いてから、これを呈示してその執行手続に着手し、病院に向かうことが前提になっており、その執行に着手したものではない。また、F巡査部長の発言は、本件 採尿令状に基づいて病院で強制採尿をされるか、警察署で自力で排尿するかの選択を被告人に求めただけである。いずれの発言も、強制採尿令状が手元に到着していないのに、その執行に着手するという趣旨ではなく、そのような誤解を招くようなものともいえない。したがって、弁護人が主張する違法は認められない。 4 争点④警察官らが、捜査車両内において、被告人に対し、電話の着信に応答しないよう求めたことが適法かについて検討する。 前記認定事実のとおり、捜査車両乗車後、被告人の携帯電話にJ弁護士から着信があったが、F巡査部長は、これに応答しないよう被告人に求めた。また、H警部補は、電話の相手が弁護士であると分かった上で電話に出ないよう求めて、応答させなかった。 まず、電話への応答を制止ないし制限することの可否について検討する。被告人の携帯電話に着信があった時点においては、本件採尿令状はF巡査部長らの手元に到着しておらず、その執行には着手していない任意捜査の段階であった。このような状 制限することの可否について検討する。被告人の携帯電話に着信があった時点においては、本件採尿令状はF巡査部長らの手元に到着しておらず、その執行には着手していない任意捜査の段階であった。このような状況においては、強制採尿手続が後に控えているからといって、被告人の電話連絡を制限することは、直ちに正当化できない。 F巡査部長は、今後の手続を説明している途中だったため電話に出ることを制止したと証言するが、既に捜査車両に乗車していた状況において、電話連絡を制限してまで説明を行う必要性、緊急性は認められない。 次に、弁護士との連絡を制限することの可否について検討する。被疑者が捜査への対応について弁護人の助言を受けることは弁護人依頼権(身柄を拘束されていない被疑者でも刑訴法30条により保障されている。)の一内容をなすものと考えられる。本件で、J弁護士は弁護人の地位に就いていないとしても、被告人が、任意捜査を受けている最中に弁護士と電話で話すことは、権利として保障されるべきである。捜査妨害の危険性といった観点に照らしても、弁護士との連絡を制限する必要はない。 J弁護士から着信があった時点では、被告人は病院での強制採尿と警察署での自力の排尿の選択を求められていたことや、地下鉄乗車前に被告人とJ弁護士が通話した際には、被告人は、捜査の適法性や対応等について尋ねて助言を得ていたことからすれば、被告人がJ弁護士からの電話に応答していれば、同様に強制採尿への対応等を相談したであろうと考えられ、弁護人依頼権を確保すべき場面であったといえる。 検察官は、F巡査部長らは一時的に電話に出ないように求めたにすぎないと主張する。しかし、前記のとおり、約2時間にわたり被告人を追尾した後、捜査車両に共に乗車し、複数の警察官が電話に出ないように求める行為は、被告人に 部長らは一時的に電話に出ないように求めたにすぎないと主張する。しかし、前記のとおり、約2時間にわたり被告人を追尾した後、捜査車両に共に乗車し、複数の警察官が電話に出ないように求める行為は、被告人に電話連絡を断念させる効果があったことは明らかであり、単に一時的な求めや任意の促しを超えており、実質的な制限に近いものと評価せざるを得ない。したがって、検察官の主張は採用できない。 以上からすれば、警察官らが、被告人に対しJ弁護士からの電話に応答しないように求め、その電話連絡を制限した行為は、任意捜査で許容される範囲を逸脱しており、弁護人依頼権の侵害にも該当する違法なものである。 5 争点⑤強制採尿令状の請求の際、嫌疑の有無を判断するために提出された疎明資料の適法性について検討する。 ⑴ まず、強制採尿令状の発付に必要な事情があったといえるか検討する。 前記検討のとおり、E警部補らが被告人に任意採尿を求めるに当たり、被告人について、覚醒剤使用の相当な嫌疑があったと認めることができる。 その上で、E警部補らは、被告人に対し、任意採尿、事情聴取や腕の注射痕の確認を繰り返し説得したものの、被告人は、これをいずれも拒否して、その場から立ち去ろうとしている。覚醒剤使用を被疑事実とする採尿は、任意捜査によることは困難であり、強制採尿の必要性も認められる。 したがって、本件採尿令状の発付に必要な要件は充足していたと認められる。 次に、疎明資料の適否について検討する。 E警部補は、本件採尿令状を請求するに当たり、総括報告書(弁護人証拠請求番号5、以下「本件報告書」という。)を作成した。そして、同令状請求の際、本件報告書、医師からの聴取内容を記載した電話通信用紙、法定の除外事由の有無に関する回答書、犯罪経歴照会結果報告書(乙2)、別件道交 、以下「本件報告書」という。)を作成した。そして、同令状請求の際、本件報告書、医師からの聴取内容を記載した電話通信用紙、法定の除外事由の有無に関する回答書、犯罪経歴照会結果報告書(乙2)、別件道交法事件で録取した被告人の供述調書の謄本(弁護人証拠請求番号2)などを裁判所に提出した。 本件報告書には、「事犯の端緒人身事故の関係者として取扱い。」「被疑者の風体様相被疑者は、目がうつろで、会話の内容が支離滅裂で終始落ち着かない様子である。」「注射痕の有無被疑者に対し、注射痕の確認を求めるも拒否。」「任意採尿拒否状況令和3年9月13日、被疑者を同月7日発生の人身事故の関係者として当署で取調べを実施した際、覚醒剤使用者特有の風体を呈し、覚醒剤使用の嫌疑が濃厚であったたけ、被疑者に対し、尿の提出を求めたところ、「なんでよ。令状持ってこいや。」等と尿の提出を拒否し、再三にわたる説得に対しても、「関係ねぇ。令状でもなんでも持ってこいや。」と尿の提出を拒否している状況にある。」などと記載されている。 本件報告書の、「会話の内容が支離滅裂で終始落ち着かない様子である。」との記載は、前記認定の被告人が興奮して大声を出すなどの言動や上半身等を動かすなどの挙動を指したものであると考えられる。裁判官が嫌疑を判断するに当たり、被告人の言動等は重要な考慮要素であるところ、「支離滅裂」や「落ち着きがない」という記載は、主観的な評価を含んでおり、被告人の言動等についてより具体的に記載することが望ましかったといえる。しかし、実際の被告人の言動や挙動について事実に反する記載がされているわけではなく、要するに、被告人の言動が意思疎通に支障を生じるような状態であることや、その挙動が異常であることを説明する趣旨であることは明らかであり、疎明資料として不十分とまではいえな 載がされているわけではなく、要するに、被告人の言動が意思疎通に支障を生じるような状態であることや、その挙動が異常であることを説明する趣旨であることは明らかであり、疎明資料として不十分とまではいえない。 「終始落ち着かない様子である」という記載のうち「終始」という表現は、弁護人が主張するとおり、被告人は、取調べの当初は平静な様子であったという意味で は、語弊があるが、被疑者調書を作成する旨伝えられた後、覚醒剤使用を疑わせる落ち着かない様子であったという趣旨で記載されたものと理解でき、事実を殊更ゆがめるものとまではいえない。 また、本件報告書の記載は、C警部とE警部補がそれぞれ見た被告人の様子を、あたかもE警部補1人が認識したかのように記載されており、観察条件の記載が不正確である。しかし、被告人の言動や挙動そのものは、C警部やE警部補がそれぞれ認識した内容が記載されており、裁判官の判断を誤らせるようなものではない。 以上のとおり、本件報告書の記載方法には改善の余地があるものの、いずれも深刻な問題点とまではいえない上、切迫した時間の制約の中で作成されたことが背景にあると理解でき、不当な意図をうかがわせるものではない。 そのほか、被告人の前科関係の疎明資料としては、犯罪経歴照会結果報告書が提出されている。 以上の事情からすれば、前記嫌疑を基礎づける被告人の言動等や前科についての疎明資料は提出されており、本件報告書において、強制採尿の必要性も疎明されている。これらの疎明資料に基づく本件採尿令状の請求手続に違法はない。 なお、別件道交法事件にかかる供述調書については、録取された被告人の供述内容が理路整然としていても、あくまで覚醒剤使用とは異なる別件に関する調書である上、取調官が整理して記載するという調書の作成方法に照らすと、覚 法事件にかかる供述調書については、録取された被告人の供述内容が理路整然としていても、あくまで覚醒剤使用とは異なる別件に関する調書である上、取調官が整理して記載するという調書の作成方法に照らすと、覚醒剤使用の嫌疑の判断に大きく影響するとはいい難く、疎明資料としての価値も高くない。 第4 本件鑑定書等の証拠能力について本件各証拠が、前記手続の違法によって排除されるかどうかについて検討する。 本件では、被告人が自力排尿し、本件採尿令状に基づき被告人の尿が差し押さえられ、その尿の鑑定書(甲3)を含む本件鑑定書等が収集されている。 本件採尿令状は、前記の電話連絡の制限の時点では、既に、それ以前に収集された資料に基づいて適法に発付されていた。その後に行われた電話連絡の制限の違法によって、適法に発付された本件採尿令状が違法となることはない。仮に、本件に おいて被告人がJ弁護士からの着信に応答することができ、強制採尿に対する対応等について相談していたとしても、被告人にとっては、本件採尿令状が執行された上で、病院で医療的に体内から尿を押収されるか、警察署で自力で排尿するかの選択肢があるだけであった。一時的に採尿を拒否したり、捜査車両からの下車を求めたりする姿勢に転じた可能性はあるとしても、適法な所在確保の捜査を経て、本件採尿令状に基づき、被告人の尿が差し押さえられるという帰結は変わらなかったと考えられる。以上の事情に照らすと、前記の電話連絡の制限と、本件採尿令状に基づく尿の差押手続とは、一連の流れの中にはあるものの、実質的な因果関係はなく、それぞれの適法性は区別して考えることができる。 前記検討のとおり、警察官らは、弁護士からの電話であると認識しながら、被告人に対し、電話への応答を制限しており、任意捜査の範囲を逸脱し、弁護人依頼権を侵害した 適法性は区別して考えることができる。 前記検討のとおり、警察官らは、弁護士からの電話であると認識しながら、被告人に対し、電話への応答を制限しており、任意捜査の範囲を逸脱し、弁護人依頼権を侵害した違法は、軽視できず、批判を受けるべきである。しかし、あくまで、適法に、本件採尿令状が発付され、被告人が任意同行に応じて捜査車両に乗車し、後は同令状の執行を待つだけの段階における出来事であり、将来における同様の違法行為を抑止するために尿の証拠能力を否定することが相当な場合であるとまではいえない。 第5 結論以上の検討のとおり、本件各証拠の証拠能力を肯定することができ、摘示した各証拠によって、判示のとおり認定した。 (累犯前科) 1 事実平成30年4月18日札幌地方裁判所宣告有印私文書偽造・同行使、詐欺、覚せい剤取締法違反の罪により懲役3年6月令和3年7月22日刑執行終了 2 証拠前科調書(乙3) (法令の適用)省略(量刑の理由)本件は、覚醒剤の自己使用というそれ自体悪質な事案である。被告人には、覚醒剤事犯を含む前科が複数あり、そのうちの最終刑で比較的長期間の矯正教育を受けたにもかかわらず、その刑の執行終了から2か月足らずで本件犯行に及んでいることからすると、覚醒剤の薬理効果に対する依存性は顕著である。 以上によれば、被告人の刑事責任は相応に重いというほかない。捜査手続に前記違法があることは考慮するが、なお、主文の刑は免れない。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑懲役3年6月)令和4年5月9日札幌地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官井下田英樹 裁判官後藤紺 裁判官山下智史は、転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官井 判所刑事第3部 裁判長裁判官井下田英樹 裁判官後藤紺 裁判官山下智史は、転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官井下田英樹

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