主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,117万円及び平成21年5月1日から厚生労働大臣が原告に対し原爆症の認定を行った日まで1か月当たり1万円の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)11条1項の認定(以下「原爆症認定」という。)を求める申請を行った原告が,同申請から約1年8か月間にわたり厚生労働大臣が原爆症認定をしなかった不作為が国家賠償法上違法であると主張して,被告に対し,同法1条1項に基づき,精神的苦痛に係る慰謝料の支払を求めている事案である。 2 法令の定め(1) 被爆者援護法の趣旨目的被爆者援護法は,その前文において,以下のとおり同法の趣旨目的を記している。 「昭和20年8月,広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安の中での生活をもたらした。 このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため,原子爆弾被爆者の医療等に関する法律及び原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を制定し,医療の給付, 医療特別手当等の支給をはじめとする各般の施策を講じてきた。また,我らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被 らは,再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの固い決意の下,世界唯一の原子爆弾の被爆国として,核兵器の究極的廃絶と世界の恒久平和の確立を全世界に訴え続けてきた。 ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,我らは,核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし,原子爆弾の惨禍が繰り返されることのないよう,恒久の平和を念願するとともに,国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため,この法律を制定する。」(2) 被爆者の定義被爆者援護法において,「被爆者」とは,次の各号のいずれかに該当する者であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(1条。なお,以下,特に断らない限り,「被爆者」とは同条所定の者を指すものとする。)。 ア原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者(同条1号)イ原子爆弾が投下された時から起算して政令で定める期間(広島市に投下された原子爆弾については昭和20年8月20日まで,長崎市に投下された原子爆弾については同月23日まで(原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行令(以下「被爆者援護法施行令」という。)1条2項))内に前号に規定する区域のうちで政令で定める区域内(おおむね爆心地から2キロメートル以内の区域。被爆者援護法施行令1条3項,別表第二参照)に在った者(被爆者援護法1条2号)ウ前2号に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆 2キロメートル以内の区域。被爆者援護法施行令1条3項,別表第二参照)に在った者(被爆者援護法1条2号)ウ前2号に掲げる者のほか,原子爆弾が投下された際又はその後において,身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者(同条 3号)エ前3号に掲げる者が当該各号に規定する事由に該当した当時その者の胎児であった者(同条4号)(3) 被爆者健康手帳被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は,その居住地(居住地を有しないときは,その現在地)の都道府県知事に申請しなければならず(被爆者援護法2条1項),都道府県知事は,同申請に基づいて審査し,申請者が被爆者に該当すると認めるときは,その者に被爆者健康手帳を交付する(同条3項)。 (4) 被爆者に対する援護ア健康管理都道府県知事は,被爆者に対し,毎年,厚生労働省令で定めるところにより,健康診断を行い(被爆者援護法7条),同健康診断の結果必要があると認めるときは,当該健康診断を受けた者に対し,必要な指導を行う(同法9条)。 イ医療の給付厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態にある被爆者に対し,必要な医療の給付を行う。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは,その者の治癒能力が原子爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る(同法10条1項)。 上記医療の給付の範囲は,①診察,②薬剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移 剤又は治療材料の支給,③医学的処置,手術及びその他の治療並びに施術,④居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護,⑤病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護,⑥移送,であり(同条2項),これら医療の給付は,厚生労働大臣が同法12条1項の規定により指定する医療機 関に委託して行われる(同条3項)。 上記医療の給付を受けようとする者は,あらかじめ,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けなければならない(同法11条1項)。 ウ一般疾病医療費の支給厚生労働大臣は,被爆者が,負傷又は疾病(被爆者援護法10条1項に規定する医療の給付を受けることができる負傷又は疾病,遺伝性疾病,先天性疾病及び厚生労働大臣の定めるその他の負傷又は疾病を除く。)につき,都道府県知事が同法19条1項の規定により指定する医療機関から同法10条2項各号に掲げる医療を受け,又は緊急その他やむを得ない理由により上記医療機関以外の者からこれらの医療を受けたときは,その者に対し,当該医療に要した費用の額を限度として,一般疾病医療費を支給することができる(同法18条1項)。 エ医療特別手当の支給都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受けた者であって,当該認定に係る負傷又は疾病の状態にあるものに対し,医療特別手当を支給する(同法24条1項)。同法24条1項に規定する者は,医療特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき13万5400円である(同条3項)。医療特 要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。医療特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき13万5400円である(同条3項)。医療特別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 オ特別手当の支給都道府県知事は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を受け た者に対し,特別手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当の支給を受けているときは,この限りでない(同法25条1項)。同法25条1項に規定する者は,特別手当の支給を受けようとするときは,同項に規定する要件に該当することについて,都道府県知事の認定を受けなければならない(同条2項)。特別手当は,月を単位として支給するものとし,その額は,1か月につき5万円である(同条3項)。特別手当の支給は,同条2項の認定を受けた者が同認定の申請をした日の属する月の翌月から始め,同条1項に規定する要件に該当しなくなった日の属する月で終わる(同条4項)。 カ健康管理手当の支給都道府県知事は,被爆者であって,造血機能障害,肝臓機能障害その他の厚生労働省令で定める障害を伴う疾病(原子爆弾の放射能の影響によるものでないことが明らかであるものを除く。)にかかっているものに対し,健康管理手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法27条1項)。 キ保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち 者が医療特別手当,特別手当又は原子爆弾小頭症手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法27条1項)。 キ保健手当の支給都道府県知事は,被爆者のうち,原子爆弾が投下された際爆心地から2キロメートルの区域内に在った者又はその当時その者の胎児であった者に対し,保健手当を支給する。ただし,その者が医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当又は健康管理手当の支給を受けている場合は,この限りでない(被爆者援護法28条1項)。 クその他の手当等の支給都道府県知事は,一定の要件を満たす被爆者に対し,上記各手当以外にも,原子爆弾小頭症手当(被爆者援護法26条),介護手当(同法31条)等を支給する。 ケ手当額の自動改定医療特別手当,特別手当,原子爆弾小頭症手当,健康管理手当及び保健手当については,総務省において作成する年平均の全国消費者物価指数が平成5年(手当の額の改定の措置が講じられたときは,直近の当該措置が講じられた年の前年)の物価指数を超え,又は下るに至った場合においては,その上昇し,又は低下した比率を基準として,その翌年の4月以降の当該手当の額を改定する(被爆者援護法29条1項)。なお,平成23年4月以降の月分の医療特別手当の金額は,13万4590円である(被爆者援護法施行令17条1項)。 (5) 原爆症認定の申請手続被爆者援護法11条1項の規定による厚生労働大臣の認定(原爆症認定)を受けようとする者は,厚生労働省令で定めるところにより,その居住地の都道府県知事(あるいは広島市長又は長崎市長。以下,併せて「経由県市」という。)を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。 り,その居住地の都道府県知事(あるいは広島市長又は長崎市長。以下,併せて「経由県市」という。)を経由して,厚生労働大臣に申請書を提出しなければならない(被爆者援護法施行令8条1項)。 この規定を受けて,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律施行規則(平成20年厚生労働省令第33号による改正前のもの。以下「被爆者援護法施行規則」という。)12条は,上記申請書は,①被爆者の氏名,性別,生年月日及び居住地並びに被爆者健康手帳の番号,②負傷又は疾病の名称,③被爆時以降における健康状態の概要及び原子爆弾に起因すると思われる負傷若しくは疾病について医療を受け,又は原子爆弾に起因すると思われる自覚症状があったときは,その医療又は自覚症状の概要,等を記載した認定申請書(様式第5号)によらなければならず(同条1項),また,同申請書には,医師の意見書(様式第6号,以下「医師意見書」という。)及び当該負傷又は疾病に係る検査成績を記載した書類(以下「検査成績書類」という。)を添えなければならない(同条2項)旨規定している。そして,医師意見書に は,①負傷又は疾病の名称,②被爆者健康手帳の番号,③被爆者の氏名及び生年月日,④既往症,⑤現症所見,⑥当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因する旨,原子爆弾の傷害作用に起因するも放射能に起因するものでない場合においては,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けている旨の医師の意見,⑦必要な医療の内容及び期間,を記載すべきものとされている(被爆者援護法施行規則様式第6号)。 (6) 審議会等の意見聴取ア厚生労働大臣は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を行うに当たっては,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない 見聴取ア厚生労働大臣は,被爆者援護法11条1項の認定(原爆症認定)を行うに当たっては,審議会等(国家行政組織法8条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない。ただし,当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかであるときは,この限りでない(被爆者援護法11条2項)。同法11条2項の審議会等で政令で定めるものは,疾病・障害認定審査会(以下「審査会」という。)とされている(同法23条の2,被爆者援護法施行令9条)。 イ厚生労働省組織令(平成12年政令第252号)132条は,厚生労働省に審査会を置く旨規定し,同令133条1項は,同審査会は,被爆者援護法等の規定に基づきその権限に属させられた事項を処理する旨規定している。そして,審査会に関し必要な事項については,疾病・認定審査会令(平成12年政令第287号)の定めるところによるものとされている(厚生労働省組織令133条2項)。 そして,疾病・認定審査会令によれば,審査会は,委員30人以内で組織し(1条1項),審査会には,特別の事項を審査させるため必要があるときは,臨時委員を置くことができ(同条2項),これら委員及び臨時委員は,学識経験のある者のうちから,厚生労働大臣が任命し(2条1項),審査会には,被爆者援護法の規定に基づき審査会の権限に属させられた事 項を処理する分科会として,原子爆弾被爆者医療分科会(以下「医療分科会」という。)を置き(疾病・認定審査会令5条1項),医療分科会に属すべき委員及び臨時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされている(同条2項)。 ウなお,平成20年4月からは,疾病・障害認定審査会運営規程7条に基づき,医療分科会に第一審査部会から第四審査部会まで4つ 時委員等は,厚生労働大臣が指名するものとされている(同条2項)。 ウなお,平成20年4月からは,疾病・障害認定審査会運営規程7条に基づき,医療分科会に第一審査部会から第四審査部会まで4つの審査部会(以下「審査部会」という。)が置かれ,各部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととなった(乙A3)。 3 審査に当たって標準的に必要となる書類等(1) 厚生労働省は,認定審査の迅速化及び効率化の観点から,平成13年9月7日健総第57号「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第11条の規定による認定の審査に必要となる書類等について」(乙A1。以下「平成13年通知」という。)を定め,審査会における認定審査に当たって標準的に必要となる医師意見書への記載事項及び検査成績書類を参考として明示している。 平成13年通知は,標準的に必要となる書類等につき,概要,以下のとおり定めている。 ア各種疾病等に共通して必要となる書類等(ア) 医師意見書への記載関係a 「当該負傷又は疾病が原子爆弾の放射能に起因する旨,原子爆弾の障害作用に起因するも放射能に起因するものでない場合においては,その者の治ゆ能力が原子爆弾の放射能の影響を受けている旨の医師の意見」の記入欄関係申請に係る疾病等の原因として,通常の医学的な知見において想定される原爆放射線以外の他の危険因子(例:喫煙歴,飲酒歴,職業歴,家族歴,ウイルス感染等)が存在すると考えられる場合にあっては, 当該危険因子の存在及びその具体的な内容b 「必要な医療の内容及び期間」の記入欄関係(a) 申請に係る疾病等に対する手術を既に行っている場合にあっては,当該手術の施行年月日及び術式名 びその具体的な内容b 「必要な医療の内容及び期間」の記入欄関係(a) 申請に係る疾病等に対する手術を既に行っている場合にあっては,当該手術の施行年月日及び術式名(b) 申請時点においては,手術を実施していない場合であっても,将来的に手術を予定し,又は検討している場合にあっては,当該手術の予定時期及び術式名(イ) 書類の添付関係認定審査に当たって,標準的に添付が必要となる書類は,以下のものである。ただし,個々の申請内容に応じて書類の追加が必要であると判断した場合には,別途,書類の提出を求めることがある。 a 申請に係る疾病等について,当該疾病等の診断の根拠となった検査,画像診断又は病理診断その他の検査結果に関する報告書等の写しb 申請に係る疾病等に対する手術を既に行っている場合(上記(ア)のbの(a)に該当する場合)にあっては,当該手術の所見に関する報告書(病理所見を含む)等の写しイ疾病群ごとに添付が必要となる書類等(視覚系の疾病の場合)申請に係る疾病が放射線白内障である場合にあっては,以下の書類等が標準的に必要となる。 (ア) 視力検査(現在の裸眼視力及び矯正視力)(イ) 細隙灯顕微鏡検査による水晶体等の所見が確認できる写真又はスライド(ウ) 眼底検査を実施している場合にあっては,眼底所見に関する検査報告書の写し(エ) 糖尿病,副甲状腺機能亢進症等の罹患率,ステロイドの長期投与等の治療歴その他白内障の発生に影響を及ぼす可能性のある危険因子の存在 が認められる場合にあっては,当該罹患歴,治療歴等の内容,状況等に関する医師の所見を明らかにすることができる書類(た 等の治療歴その他白内障の発生に影響を及ぼす可能性のある危険因子の存在 が認められる場合にあっては,当該罹患歴,治療歴等の内容,状況等に関する医師の所見を明らかにすることができる書類(ただし,当該内容について,医師意見書の記載が十分にできなかった場合に限る。)(2) また,厚生労働省健康局総務課原爆医療係長は,経由県市に対し,平成13年8月3日付け事務連絡「原爆症認定申請の進達上の留意点について」(乙A2)を発し,①被爆者健康手帳の写し及び被爆者健康手帳の申請書類のうち被爆状況について記載した部分の添付,②申請書の疾病等の名称と医師意見書の疾病等の名称が一致しているかの確認,③複数の疾病等が申請されている場合に,全ての申請疾病等について医師意見書及び検査成績書類が添付されているかの確認などの協力を求めている。 4 審査の方針(1) 「原爆症認定に関する審査の方針」(乙A5)医療分科会は,平成13年5月25日付けで「原爆症認定に関する審査の方針」(以下「旧審査の方針」という。)を作成し,原爆症認定に係る審査に当たっては,これに定める方針を目安として行うものとしていた。その概要は,次のとおりである。 ア原爆放射線起因性の判断(ア) 判断に当たっての基本的な考え方申請に係る疾病等における原爆放射線起因性の判断に当たっては,原因確率(疾病等の発生が原爆放射線の影響を受けている蓋然性があると考えられる確率をいう。)及びしきい値(一定の被曝線量以上の放射線を曝露しなければ疾病等が発生しない値をいう。)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が, 生しない値をいう。)を目安として,当該申請に係る疾病等の原爆放射線起因性に係る「高度の蓋然性」の有無を判断する。 この場合にあっては,当該申請に係る疾病等に関する原因確率が,a おおむね50パーセント以上である場合には,当該申請に係る疾病 の発生に関して原爆放射線による一定の健康影響の可能性があることを推定し,b おおむね10パーセント未満である場合には,当該可能性が低いものと推定する。 ただし,当該判断に当たっては,これらを機械的に適用して判断するものではなく,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も総合的に勘案した上で,判断を行うものとする。 また,原因確率が設けられていない疾病等に係る審査に当たっては,当該疾病等には,原爆放射線起因性に係る肯定的な科学的知見が立証されていないことに留意しつつ,当該申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を判断するものとする。 (イ) 原因確率の算定原因確率は,次の表(省略)の申請に係る疾病等,申請者の性別の区分に応じ,それぞれ定める別表(省略)に定める率とする。 (ウ) しきい値放射線白内障のしきい値は,1.75シーベルトとする。 (エ) 原爆放射線の被曝線量の算定申請者の被曝線量の算定は,初期放射線による被曝線量の値に,残留放射線による被曝線量及び放射性降下物による被曝線量の値を加えて得た値とする。 初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9(省略)に定めるとおりとする。 残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆 初期放射線による被曝線量は,申請者の被爆地及び爆心地からの距離の区分に応じて定めるものとし,その値は別表9(省略)に定めるとおりとする。 残留放射線による被曝線量は,申請者の被爆地,爆心地からの距離及び爆発後の経過時間の区分に応じて定めるものとし,その値は別表10 (省略)に定めるとおりとする。 放射性降下物による被曝線量は,原爆投下の直後に次の特定の地域に滞在し,又はその後,長期間に渡って当該特定の地域に居住していた場合について定めることとし,その値は次のとおりとする。 A又はB(広島) 0.6~2センチグレイC3,4丁目又はD(長崎) 12~24センチグレイ(オ) その他前記(イ)の「その他の悪性新生物」に係る別表(省略)については,疫学調査では放射線起因性がある旨の明確な証拠はないが,その関係が完全には否定できないものであることに鑑み,放射線被曝線量との原因確率が最も低い悪性新生物に係る別表2-1(省略)を準用したものである。 前記(ウ)の放射線白内障のしきい値は,95パーセント信頼区間が1. 31~2.21シーベルトである。 イ要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するものとする。 ウ方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて必要な見直しを行うものとする。 (2) 「新しい審査の方針」(乙A7)ア医療分科会は,平成20年3月17日付けで「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を作成し,原爆症認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被害者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実 0年3月17日付けで「新しい審査の方針」(以下「新審査の方針」という。)を作成し,原爆症認定に係る審査に当たっては,被爆者援護法の精神に則り,より被害者救済の立場に立ち,原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするため,次に定める方針を目安として,これを行うものとしている。その概要は,次のとおりである。 (ア) 放射線起因性の判断a 積極的に認定する範囲① 被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者② 原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者③ 原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病について申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定するものとする。 ① 悪性腫瘍(固形がんなど)② 白血病③ 副甲状腺機能亢進症④ 放射線白内障(加齢性白内障を除く。)⑤ 放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料が無い場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 baに該当する場合以外の申請についてaに該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。 (イ) 要 いてaに該当する場合以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。 (イ) 要医療性の判断要医療性については,当該疾病等の状況に基づき,個別に判断するも のとする。 (ウ) 方針の見直しこの方針は,新しい科学的知見の集積等の状況を踏まえて随時必要な見直しを行うものとする。 イ医療分科会は,平成21年6月22日付けで新審査の方針を改訂し,新審査の方針の放射線起因性が推認される疾病に,次の疾病を追加した。 ⑥ 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症⑦ 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変 5 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)(1) 本件訴訟に至る経緯(乙B1,14,弁論の全趣旨)ア原告は,平成19年8月6日,厚生労働大臣に対し,申請疾病を白内障として,原爆症認定申請(以下「本件申請」という)をした。 イ原告は,平成20年12月9日,厚生労働大臣に対し,行政不服審査法7条に基づき,本件申請に係る不作為についての異議申立てを行った。 これに対し,厚生労働大臣は,原告に対し,同月22日,同法50条2項に基づく不作為の理由を示す書面を送付した。同書面には,「平成19年8月6日に貴殿から提出のあった法第11条1項に基づく認定申請については,平成20年12月15日現在,審査の順番を待っているところです。審査の結論が得られ次第,速やかに当該審査の結論を踏まえ決定をします。」と記載されていた。 ウ厚生労働大臣は, 請については,平成20年12月15日現在,審査の順番を待っているところです。審査の結論が得られ次第,速やかに当該審査の結論を踏まえ決定をします。」と記載されていた。 ウ厚生労働大臣は,平成21年4月14日,原告の本件申請に対し原爆症認定(以下「本件認定」という。)をした。なお,本件申請から本件認定までの期間は,約1年8か月(617日)である(以下,本件申請から本件認定に至るまでの厚生労働大臣の不作為を「本件不作為」という。)。 本件認定の結果,原告に対しては,被爆者援護法24条4項により,本 件申請をした日の属する月の翌月分(平成19年7月分)から医療特別手当が支給されることになった。 (2) 本件訴訟提起等(顕著な事実)ア原告は,平成21年4月15日,本件訴えを提起した。 イ原告は,同月14日に本件認定がされたことを受けて,平成22年1月8日,本件訴えのうち,行政事件訴訟法3条5項の不作為の違法確認請求及び同条6項の原爆症認定の義務付け請求に係る部分を取り下げた。 第3 主たる争点及びこれに関する当事者の主張の概要 1 本件不作為の国家賠償法上の違法性(原告の主張)(1) 原告の精神的苦痛について原告は平成19年8月6日に本件申請をしたが,その認定がされる前の平成20年4月,新審査の方針が公表された。新審査の方針によると,原告の本件申請は容易に認定されるはずであるのに,厚生労働大臣は認定をするどころか原告に対し何の連絡もしなかった。そこで,原告は,同年12月9日,厚生労働大臣に対し,不作為についての異議申立てをしたが,同大臣は,「審査の順番待ち」と回答しただけで,原爆症に苦しむ原告を真面目に救済しようとしなかった。 原告は既に相当の高齢で 9日,厚生労働大臣に対し,不作為についての異議申立てをしたが,同大臣は,「審査の順番待ち」と回答しただけで,原爆症に苦しむ原告を真面目に救済しようとしなかった。 原告は既に相当の高齢であるのに,厚生労働大臣はいつ原爆症認定をするのか明らかにせず,原告の死亡を待っているかのごとくであって,極めて不誠実であり,原爆症認定義務の懈怠は明らかである。高齢の原告は死ぬまでに原爆症認定を得られないのではないかと不安な毎日を送り,多大な精神的苦痛を受けたので,慰謝料として賠償金の支払が命じられるべきである。 (2) 法律上保護された利益についてア原爆症認定申請者は,申請疾病等が原爆症として認定されることを求める権利だけでなく,申請後「迅速に」認定されることを求める手続的権利 も有している。このため,原爆症認定が迅速に行われない場合,そのこと自体が,当該申請者の手続的権利を侵害していることになる。 そして,①原爆症の被害が重篤であり,申請者の人生において深刻なものであること,②被爆者援護法は,被爆者の高齢化に着目した上で,国家補償的措置として原爆症認定制度を定めていること,③多くの被爆者が原爆症認定を待ちながら亡くなっていく現実があることからすれば,申請後迅速に原爆症認定されることの権利性は,より強く認められるべきである。 イ水俣病認定申請に対する処分の遅延が不法行為に該当するかどうかが問題となった事案において,最判平成3年4月26日(民集45巻4号653頁。以下「平成3年最判」という。)は,「認定申請者としての,早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待,その期待の背後にある申請者の焦燥,不安の気持を抱かされないという利益は,内心の静 認定申請者としての,早期の処分により水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から早期に解放されたいという期待,その期待の背後にある申請者の焦燥,不安の気持を抱かされないという利益は,内心の静穏な感情を害されない利益として,これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと解するのが相当である。」と判示している。 これを原爆症認定申請についてみると,被爆者は,被爆直後から様々な急性症状を発症し,その後も原因不明の倦怠感等に悩まされ,今後も常にがん等の重篤な疾病の発症を恐れながら生き続けなければならない。また,他の爆弾による被害とは異なり,放射線被害は被害部位が全身であり,被害も非固定的であるという特徴を有し,どのような機序で原爆症が発症するか科学的に解明されておらず,他者から理解されにくい。これらの事情に鑑みれば,被爆者は単なる疾病の発症以上の苦しみを被っており,原爆症認定申請を行った被爆者がその処分を待つ間の不安感等は,法律上保護された利益に当たるというべきである。 (3) 厚生労働大臣の職務上の義務違反についてア厚生労働大臣は,被爆者援護法11条1項に基づく処分をするに当たり, 行政庁としての権限と責任を有する。そして,厚生労働大臣は,その権限を行使するにあたって,原爆症認定申請後相当の期間内に迅速に処分をする義務を負うのであり,同申請から相当の期間内に処分をしなかった場合には,厚生労働大臣の職務上の義務違反が認められ,その不作為は国家賠償法上違法となるというべきである。 原爆症認定申請に係る相当の期間,すなわち,厚生労働大臣が原爆症認定申請に対する処分をするのに通常必要とする期間は,3か月である。具体的には,原爆症認定申請後処分までの所要時間を積算 。 原爆症認定申請に係る相当の期間,すなわち,厚生労働大臣が原爆症認定申請に対する処分をするのに通常必要とする期間は,3か月である。具体的には,原爆症認定申請後処分までの所要時間を積算すると,①申請後,必要な添付書類を追完するまでに1か月,②実質的審理に1か月,③事務的手続に1か月であり,3か月あれば原爆症認定申請に対する処分は可能である。したがって,厚生労働大臣が,原爆症認定申請後3か月を経過したにもかかわらず何らの処分をしない場合には,職務上の義務違反が認められ,国家賠償法上違法となる。 イ仮に,平成3年最判を前提として,国家賠償法上の作為義務に違反したといえるためには,相当の期間が経過していることだけではなく,相当の期間経過後長期間にわたり遅延していること,及び,処分庁として遅延解消のために通常期待される努力を尽くさなかったことが必要であると解されるとしても,本件においては,そのような作為義務の違反が認められる。 すなわち,本件においては,本件申請から本件認定に至るまでに,相当の期間である3か月を大幅に超える約1年8か月を要しているのであるから,相当の期間経過後長期間にわたり遅延していることが明らかである。 また,厚生労働大臣は,原爆症認定申請者数の増加を見通し,標準処理期間(行政手続法6条)を設定し,これに必要な審査体制を整備することが必要であった。にもかかわらず,厚生労働大臣は,そもそも標準処理期間を設定しておらず,また,事務局の人員及び医療分科会の委員を増員して遅延を解消できたにもかかわらず,その努力も尽くしていない。したがっ て,厚生労働大臣は,通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するための努力を尽くしていない。 (被告の主張)(1) 法律上保護 力も尽くしていない。したがっ て,厚生労働大臣は,通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するための努力を尽くしていない。 (被告の主張)(1) 法律上保護された利益についてア原告は,いつ原爆症認定されるか分からないという不安感を損害であるとして,国家賠償請求をしているものと解される。 しかし,原爆症認定処分がされた場合に受給する医療特別手当は,原爆症認定がされれば,申請時にさかのぼって受給できる(被爆者援護法24条4項)ことからすると,原爆症認定申請に対する処分の遅延により原告が被る不利益なるものは,いずれにせよ,処分庁からの処分がされることにより解消される性質のものである。したがって,原爆症認定申請の応答処分が遅延したことそれ自体により申請者が被る不利益を,法律上保護された利益の侵害であると見ることはできない。 平成3年最判は,難病として特殊な病像を持つ水俣病にかかっているという疑いのあるまま不安定な地位にあることに注目して,「内心の静穏な感情に対する侵害」につき,不法行為が成立する余地があるとしたものにすぎず,疾病自体は水俣病のような特殊な病像を持つものではなく,ただ放射線に起因するものかどうかが不確定な状態にある原爆症の認定申請に妥当するものではない。 イ原告は,原爆症の認定が迅速に行われない場合には,原爆症認定申請後迅速に認定されることを求める手続的権利が侵害されると主張する。 しかし,このような手続的権利なるものを国家賠償請求における法律上保護された利益とする原告の上記主張は,独自の見解というほかはない。 また,仮にこのような手続的権利が認められるとしても,そのような権利侵害なるものにより被る具体的な不利益の内実は,不安感 ける法律上保護された利益とする原告の上記主張は,独自の見解というほかはない。 また,仮にこのような手続的権利が認められるとしても,そのような権利侵害なるものにより被る具体的な不利益の内実は,不安感にとどまるのであり,このような不利益をもって法律上保護された利益と解することがで きないことは上記ア記載のとおりである。 (2) 厚生労働大臣の職務上の義務違反についてア平成3年最判は,「一般に,処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり,これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には,早期の処分を期待していた申請者が不安感,焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから,処分庁には,こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。」とした上で,「処分庁が右の意味における作為義務に違反したといえるためには,客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に処分できなかったことだけでは足りず,その期間に比して更に長期間にわたり遅延が続き,かつ,その間,処分庁として通常期待される努力によって遅延を解消できたのに,これを回避するための努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである。」と判示した。 ところで,厚生労働大臣の行う原爆症認定は,個々の申請者の被爆距離,被爆状況,被曝線量を個別的に確定した上で,申請疾病と放射線との関連性につき高度の科学的,医学的知見に基づく判断を経て行われるものである。そのため,被爆者援護法上も,個々の申請者の認定について,審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならないとされている。原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性について明確な根拠を求めている被爆者援護法の趣旨や 法上も,個々の申請者の認定について,審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならないとされている。原爆症認定の要件である放射線起因性及び要医療性について明確な根拠を求めている被爆者援護法の趣旨や,原爆症認定制度も国民全体の負担の下において運営されていることに照らしても,個々の申請ごとに十分な検討を必要とするものである。このような原爆症認定制度の性格上,その審査にはおのずと相当程度の期間を要し,また,個々の申請者の個別的な事情によって審査期間も大きく左右されるものである。その上,原告が本件申請をした平成19年になり,認定者の大幅な拡大を企図して旧審査の方針の見直しが検討されることになったため,それまでは認定されないとされてきた申請 者の審査を保留とする扱いがされ,その一方で,原爆症認定申請者の数は,こうした経緯を踏まえて急増するに至っている。こうした状況の下,厚生労働大臣は,原爆症認定の審査の迅速化を図るために様々な施策を講じつつ,限られた人員を最大限に活用して順次審査を進めてきたところである。 以上に鑑みると,厚生労働大臣は,本件申請について,その処分のために手続上必要と考えられる期間が経過する前に本件認定をしたものというべきである。また,この点をおくとしても,本件において,上記期間に比して更に長期間にわたり遅延が続いたということはないし,厚生労働大臣としても,申請件数が急増する中で原爆症認定の審査の迅速化を図るための様々な施策を講じつつ,限られた人員を最大限に活用して順次審査を進めていたところであり,遅延を避けるための努力を尽くしているということができる。したがって,原告に対し本件申請から約1年8か月間処分がされなかったこと(本件不作為)をもって,厚生労働大臣に職務上の義務違反を認めることはできない。 の努力を尽くしているということができる。したがって,原告に対し本件申請から約1年8か月間処分がされなかったこと(本件不作為)をもって,厚生労働大臣に職務上の義務違反を認めることはできない。 イ原告は,原爆症認定申請の審査に通常必要とされる期間は3か月であるとして,厚生労働大臣が3か月を経過してもなお処分(本件認定)を行わなかったことは,その職務上の義務違反に該当すると主張する。 しかし,上記のような原爆症認定制度の性格上,その審査にはおのずと相当程度の期間を要し,また,個々の申請者の個別的な事情によって審査期間も大きく左右されるものであって,3か月を経過しても処分を行わなかったことが職務上の義務違反を構成するとする原告の上記主張は誤りである。 2 損害額(原告の主張)原告が本件不作為により被った精神的損害に対する慰謝料は,認定すべきものを認定せずに放置したことについて100万円,本件申請から3か月を経過 した日の翌月から原爆症認定がされるまでの遅延について毎月1万円が相当である。 (被告の主張)争う。 第4 当裁判所の判断 1 国家賠償法上の違法性の判断枠組み国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであり,厚生労働大臣がその応答処分のために客観的に手続上必要と考えられる期間内に処分をしなかったからといって,そのことから直ちに国家賠償法上1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,厚生労働大臣が放射線起因性及び要医療性を認定,判断するに当たり,職務上通常尽くすべき注意義務 ったからといって,そのことから直ちに国家賠償法上1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,厚生労働大臣が放射線起因性及び要医療性を認定,判断するに当たり,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延せしめたと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 そこで,以下,厚生労働大臣が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を遅延せしめたと認め得るような事情があるかどうかにつき,検討する。 2 判断の基礎となる事実前記第2の3(審査の方針)及び第3(前提となる事実)並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) 新しい審査の方針策定の経緯(乙A7~12,26,27)ア P1元内閣総理大臣(以下「P1元総理」という。)は,平成19年8月5日,広島県内の被爆者団体と面談した際,原爆症認定の在り方につい て,「専門家の判断をもとに改めて見直すことを検討させたい」旨表明した。 医療分科会は,P1元総理の上記発言を踏まえ,平成19年7月分から,旧審査の方針によれば本来却下相当と答申すべき事例について,新審査の方針の策定まで判断を保留し,再検討することとした。なお,このような理由で保留とされた件数は,約300件(異議申立ての審査分を含む。)である。 イ厚生労働省は,P1元総理の指示を踏まえ,同年9月28日,同省健康局長の下,「原爆症認定の在り方について,科学的知見に照らして検討し,その結果に応じて見直しを行うこと」を目的として,医療分科会の委員と 生労働省は,P1元総理の指示を踏まえ,同年9月28日,同省健康局長の下,「原爆症認定の在り方について,科学的知見に照らして検討し,その結果に応じて見直しを行うこと」を目的として,医療分科会の委員とは別の医学,放射線学の専門家及び法律家を構成員とする原爆症認定の在り方に関する検討会(以下「検討会」という。)を発足させた。 検討会は,同年12月17日,旧審査の方針の考え方をおおむね是認する内容の「原爆症認定の在り方に関する検討会報告」(乙A9。以下「検討会報告」という。)を発表した。 ウ一方,与党の原爆被爆者対策に関するプロジェクトチーム(以下「与党PT」という。)は,同月19日,がん等の一定の疾病について,「一定区域内(約3.5㎞前後を目安とする)の被爆者及び一定の入市した被爆者(爆心地付近(約2㎞以内)に約100時間以内に入市した被爆者及び約100時間程度経過後,比較的直ちに約1週間程度滞留したもの)については,格段の反対すべき事由がなければ合理的推定により積極的かつ迅速に認定を行うものとする」といった内容の提言(乙A10)を取りまとめた。 エこれらの報告等を受けた厚生労働省は,被爆者の救済を可及的に行うとの行政上の政策判断から,与党PTの上記提言を基本的に受け入れ,「新しい審査のイメージ」(乙A11)を作成し,これを医療分科会に示した。 オ医療分科会は,厚生労働省が示した「新しい審査のイメージ」をもとに意見交換を行い,平成20年3月17日,新審査の方針を策定した。そして,同年4月から,新審査の方針に基づく審査を開始した。 カ甲状腺機能低下症及び肝機能障害は,当初の新審査の方針においていわゆる積極認定の対象疾病とはされていなかったが,新審査の方針策定2か月後の同年5月30 審査の方針に基づく審査を開始した。 カ甲状腺機能低下症及び肝機能障害は,当初の新審査の方針においていわゆる積極認定の対象疾病とはされていなかったが,新審査の方針策定2か月後の同年5月30日,大阪高等裁判所が甲状腺機能低下症につき放射線起因性を肯定する判断を行ったこと,同年8月22日,与党PTから,肝機能障害を積極認定の対象とすべきとする提言(乙A26)がされたことなどから,厚生労働省は,このような司法判断や与党PTの提言を踏まえ,甲状腺機能低下症及び肝機能障害についての見直しを検討することとした。 そして,医療分科会においても,個別案件の審査を行う傍らで,甲状腺機能低下症と肝機能障害を積極認定の対象とする疾病として追加することの可否について,8回にわたり審議が行われた。 キ医療分科会は,平成21年6月22日付けで新審査の方針を改訂し,新審査の方針の放射線起因性が推認される疾病に,「放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を追加した。 (2) 本件認定に至る経緯等(乙B1~17)ア原告は,平成19年8月6日,厚生労働大臣に対し,申請疾病を白内障とする本件申請をした。 原告の本件申請は,平成19年度における原爆症認定申請のうち281番目前後にされたものであった(本件申請には「190281」の整理番号が付されており,その意味は,平成19年度の281番目に申請書類を厚生労働省健康局総務課において受領したということである。)。そして,平成18年度末に処分未了であった原爆症認定申請の件数(待機件数)は,1036件前後であり,原告が本件申請をした時点の待機件数は,131 6件前後である。 イ健康局総務課は,平成 平成18年度末に処分未了であった原爆症認定申請の件数(待機件数)は,1036件前後であり,原告が本件申請をした時点の待機件数は,131 6件前後である。 イ健康局総務課は,平成19年8月16日,経由県市である兵庫県知事から,認定申請書(乙B1),被爆者健康手帳交付台帳(乙B4),被爆者健康手帳交付申請書一式(乙B5),医師意見書(乙B6),診療情報提供書(乙B7の1),細隙灯写真(乙B7の2)及び健康診断個人票(乙B8~10)を受理した。 ウ原爆症認定申請に係る事務を行う健康局総務課内の事務局(以下「事務局」という。)は,平成20年4月から,新しい審査の方針に基づく審査が開始されたので,処分の見直しや比較的古い案件の処理等を優先しつつ,原告の申請書類の審査にも着手した。 エ原告は,被爆者健康手帳交付申請時においては被爆地を「E商業学校(F町)」としていたが,本件申請における認定申請書では「G兵器(H町)」としていた。そこで,事務局は,同年8月1日,経由県市の担当者宛てに,被爆状況の確認を求めるとともに,認定申請書の記載に誤りがあるときは併せて記載事項の変更申請を行うよう求めた。 オこれに対し,経由県市の担当課(兵庫県健康福祉部健康局疾病対策課)は,同月12日付けで,事務局に対し,認定申請書の被爆地点をF町に訂正する旨の原告作成の厚生労働大臣宛ての書面(乙B12)を送付した。 カ事務局は,原告の申請書類を精査したところ,医師意見書の作成者であるP2医師が眼科医でなかったこと,P3眼科の診療情報提供書には,「左眼後嚢白内障を認めます」との記載しかないことから,現時点で医療分科会に諮問しても追加資料の指示を求められる可能性が高いと判断した。そこで,事務局は,同年11月21日,①術前の 情報提供書には,「左眼後嚢白内障を認めます」との記載しかないことから,現時点で医療分科会に諮問しても追加資料の指示を求められる可能性が高いと判断した。そこで,事務局は,同年11月21日,①術前の視力検査結果が明らかになる資料,②術前の細隙灯顕微鏡検査の写真,③術前の眼底所見が明らかになる資料,④白内障の危険因子(糖尿病,副甲状腺機能亢進症等の罹患歴,ステロイド治療歴その他)の有無について主治医の意見書,危険因子が存 在する場合の当該罹患歴,治療歴等の内容,状況等に関する医師の意見書,⑤初診時のカルテの写し,⑥申請時のカルテの写しの提出を兵庫県を通じて医療機関に求めるとともに,兵庫県に対して,①申請時の直近の定期健康診断個人票の写し,②(定期健診後の精密検査を施行していれば)その際の眼底検査の所見が明らかになる資料の提出を求めた。 キ原告は,平成20年12月9日,厚生労働大臣に対して不作為の異議申立てを行った。 これに対し,厚生労働大臣は,同月22日,審査の順番待ちの状態である旨の通知をした。 ク平成21年1月7日,経由県市の担当課から健康局総務課あてに前記カの照会に対する回答が到着し,①P3医師作成に係る上記の照会事項に対する回答文(乙B15の2),②診療録の写し(乙B15の3),③細隙灯写真(乙B15の4),④眼底写真(乙B15の5)が提出された。 ケ事務局は,同年4月6日,原告の申請疾病につき,第四審査部会に諮問したところ,同審査部会は認定の答申をした。なお,同日の同審査部会は午後1時30分から午後5時まで開催され,審査件数13件のうち5件が認定,8件が保留となった。 コ厚生労働大臣は,第四審査部会の答申意見に基づき,同月14日,原告の本件申請に対し,原爆症認定(本件認 0分から午後5時まで開催され,審査件数13件のうち5件が認定,8件が保留となった。 コ厚生労働大臣は,第四審査部会の答申意見に基づき,同月14日,原告の本件申請に対し,原爆症認定(本件認定)をした。 (3) 事務局の行う業務内容等ア原爆症認定申請に係る事務は,厚生労働省健康局総務課の所掌事務である(厚生労働省設置法4条1項22号,厚生労働省組織令(ただし,平成23年政令第302号による改正前のもの)5条8号,41条7号)。そして,同局総務課には,原爆症認定申請に係る事務をつかさどる事務局が置かれている。 事務局の通常の業務内容は,概要,以下のとおりである。 イ審査に関する業務(ア) 申請資料の確認経由県市から申請書類が進達されると,事務官において,基本情報(申請者氏名,被爆状況,申請疾病等)の受付入力作業(台帳入力作業),被爆状況と原爆投下当時の地図,戦災誌をはじめとする資料との照合等が行われる。また,医師免許を有する医系技官において,医学的知見を踏まえて申請疾病の罹患状況等の把握,資料徴求,収集が行われる。 (イ) 照会文書の作成事務局において資料が不足すると考える場合においては,適宜,追加資料の徴求,収集が行われる。その場合,事務局の事務官又は医系技官が照会文書を作成し,経由県市を経由して申請者等に対し照会が行われる。また,当該照会が行われた場合には,その都度,申請者ごとに台帳入力が行われ,当該案件は別途照会案件がまとめられたファイルに整理・編綴される。なお,平成20年度申請分についてみると,6000件以上について照会が行われ,さらに500件以上について再度の照会が行われている。 (ウ) 返送された照会回答 ファイルに整理・編綴される。なお,平成20年度申請分についてみると,6000件以上について照会が行われ,さらに500件以上について再度の照会が行われている。 (ウ) 返送された照会回答に対する確認作業照会に対する回答が経由県市から返送されると,その確認作業が行われる。この作業では,事務官において台帳入力を行った上,事務官及び医系技官において,別途照会案件のみがまとめられたファイルから該当の回答案件を取り出して照合し,回答内容の確認を行う。そして,その確認の結果,なお資料が不足すると思料される場合には,更なる照会が行われる。 (エ) 医療分科会・審査部会諮問案件の事前確認作業以上の手続を経て,審査資料が一応そろったと思料された案件については,審査会開催前において,複数の医系技官及び事務官が一堂に会し た場において,事前確認作業が行われる。 (オ) 諮問書の作成事務官は,審査会に諮問する案件について,内部決裁を経た上で,諮問書を作成する。なお,この諮問書に添付される個々の申請者情報は,事務官において個々の申請者の台帳データから手作業で転記される。 (カ) 審査会の資料作成,審査会の会場設営事前確認を終えた諮問案件については,審査会に先立ち,審査会のための資料の作成が行われるとともに,審査会の会場設営が行われる。 なお,審査会においても,判断を行うために更なる資料提出を求められる案件があり,このような案件については,審査終了後に,事務局が適宜委員に個別に連絡を取り,必要な資料の再確認を行った上,照会文書の作成を行う。 (キ) 答申書の作成審査会の審査終了後,申請者ごとに答申内容を整理した上で 後に,事務局が適宜委員に個別に連絡を取り,必要な資料の再確認を行った上,照会文書の作成を行う。 (キ) 答申書の作成審査会の審査終了後,申請者ごとに答申内容を整理した上で決裁書類を作成し,決裁を経た後,答申書を作成する。 (ク) 認定・却下通知の作成答申書作成後,各申請者宛に,認定書又は却下通知書を作成する作業が行われる。なお,医療分科会においては,答申件数が多い上,却下理由が申請者ごとに異なる場合も多いため,事務官及び医系技官による複数回の確認作業を経た上で,通知書類が作成される。 (ケ) 審査に付随する業務事務局は,以上の審査に関する業務に加え,これに付随する業務として医療分科会か審査部会の委員の日程調整,会場の確保,開催通知等の起案,議事要旨等を公開するためのホームページの更新作業も併せて行っている。また,個々の申請者からの電話照会に対する応対も事務局において行われる。 ウそのほかの業務(ア) 以上の原爆症認定に係る業務のほか,事務局では,医療分科会委員の選任準備作業,毎年8月に行われる原爆記念式典の準備作業も併せて行われる。また,原爆症認定業務にかかわる訴訟や不作為に関する異議申立て等の不服申立てについては,事務局が中心となってその対応を行う。 また,訴訟の争点が科学的知見に関わる場合,医系技官がその訴訟対応を行うこととなる。 (イ) また,原爆症認定業務に係る国会開会中における国会質問や質問主意書に関する業務や,情報公開請求に対する対応も,事務局において事務作業が行われる。 (ウ) さらに,平成19年度においては,旧審査の方針の見直し及び新審査の方針策定が行われており,これに関する種々の事務作業も, 報公開請求に対する対応も,事務局において事務作業が行われる。 (ウ) さらに,平成19年度においては,旧審査の方針の見直し及び新審査の方針策定が行われており,これに関する種々の事務作業も,事務局が行った。具体的には,当時,検討会の委員に対する委嘱手続や日程調整,資料作成のほか,過去の審査データ等の分析作業等の準備作業,審査の方針のイメージの作成作業,医療分科会における意見交換のための検討資料の作成準備や,審査部会を増設するに当たっての準備作業,線量評価方法をDS86からDS02へ移行するための準備作業等の事務作業があった。 (4) 旧審査の方針下における審査体制及び審査期間等ア事務局の人員体制の実情等(ア) 旧審査の方針の下における審査に従事する事務局の係員(医系技官を含む。)は,平成18年度及び平成19年度についてみると,5名が配置されており,うち事務官が2名,医系技官が3名という構成となっていた。このうち2名の医系技官らは,審査に関する業務として医学的資料の確認,徴求等を行う傍ら,当時,全国の地裁に係属していた300名以上の原爆症認定集団訴訟の訴訟対応事務等を兼務していた。 (イ) また,事務官のうち専任で資料確認作業等の審査業務を行っていた者は1名であり,この1名の事務官は,1か月に1回開催される医療分科会の準備,例えば,各委員に対する日程調整,医療分科会の会場確保,会場設営準備,開催通知起案,医療分科会当日の資料作成,コピー作業,議事要旨等のホームページ更新作業に加え,処分に関する文書の起案をも併せて行っており,これらの業務の傍らで認定審査に関する業務を行っていた。その余の2人は,そのほかの業務を行っていた。 なお,平成19年8月5日以降の旧審査の方 分に関する文書の起案をも併せて行っており,これらの業務の傍らで認定審査に関する業務を行っていた。その余の2人は,そのほかの業務を行っていた。 なお,平成19年8月5日以降の旧審査の方針見直し作業に伴い,事務局(特に医系技官)の事務量の負担が増大することとなったため,同年11月頃,1名の医系技官が検討会の補助等のため,他の部署との併任という扱いで事務局に配置されることとなった。 イ医療分科会への諮問及び答申状況(乙A6,13,14,23)(ア) 平成18年度及び平成19年度においては,おおむね1か月に1回の割合で医療分科会が開催されていた。 医療分科会における答申件数(異議申立て事案を含む。)は,平成17年度は約890件,平成18年度は約700件である。旧審査の方針下における医療分科会では,1回当たり60~75件程度の答申がされていた。これに対し,平成19年度は約270件(保留分を除く。)であるが,これは,前述のとおり,同年7月から,旧審査の方針によれば却下相当の事案につき保留扱いとされたためである。 (イ) 医療分科会への諮問件数(異議申立て事案を除く。)は,平成18年度は約570件,平成19年度は約530件である(なお,保留分を含む答申件数も上記と同数である。)。 (ウ) 平成10年度から平成19年度までの申請件数,新規認定数,却下件数は,次のとおりである。 申請件数新規認定数却下件数平成10年度356件117件208件平成11年度414件187件173件平成12年度455件120件102件平成13年度515件 356件117件208件平成11年度414件187件173件平成12年度455件120件102件平成13年度515件173件484件平成14年度1180件199件725件平成15年度626件198件544件平成16年度540件164件454件平成17年度564件230件527件平成18年度1325件124件414件 平成19年度1601件128件134件(エ) 平成18年度(処分件数538件)の平均審査期間は約224日であり,平成19年度(処分件数262件)の平均審査期間は約350日である(なお,平均審査期間とは,原爆症認定申請書を経由県市が受理した日から最終答申がされた日までの期間の合計日数を,各当該年度の最終答申に係る合計申請数で除したものである。)。 (5) 新審査の方針下における審査迅速化のための取組み新審査の方針の策定を踏まえ,迅速に原爆症認定申請に対する審査を行うべく,以下の方策が講じられた。 ア審査部会の設置及び審査(乙A3,15,23)(ア) 平成20年4月から,疾病・障害認定審査会運営規程7条に基づき,医療分科会に一定の疾病に係る審査を行う4つの審査部会が置かれた。 すなわち,①主として消化器系以外の悪性腫瘍の申請に係る審査を行う第一審査部会,②主として消化器系の悪性腫瘍の申請に係る審査を行う第二審査部会,③甲状腺の悪性腫瘍,白血病及び副甲状腺機能亢進症の申請に係る審査を行う第三審査部会,④白内障及び心筋梗塞の申請に係 一審査部会,②主として消化器系の悪性腫瘍の申請に係る審査を行う第二審査部会,③甲状腺の悪性腫瘍,白血病及び副甲状腺機能亢進症の申請に係る審査を行う第三審査部会,④白内障及び心筋梗塞の申請に係 る審査を行う第四審査部会が置かれ,各部会の議決をもって医療分科会の議決とみなすこととなった。 これにより,従前,1か月に1回開催される医療分科会によって行われていた審査が,おおむね1か月合計5回開催される医療分科会又は審査部会による審査により行われることとされた。 (イ) 平成20年度及び平成21年度の年度ごとの医療分科会及び各審査部会における答申件数合計(保留分含む。)は,次表のとおりである。 平成20年度平成21年度合計第一審査部会1057件1260件2317件第二審査部会1313件1223件2536件第三審査部会268件351件619件第四審査部会101件637件738件医療分科会282件2643件2925件 合計3021件6114件9135件(ウ) また,悪性腫瘍の審査を扱う第一審査部会及び第二審査部会における認定状況は,次表のとおりである。 平成20年度平成21年度合計第一審査部会1018件983件2001件第二審査部会1229件904件2133件 上記合計2247件1887件4134件 総認定件数2697件2620件5317件イいわゆる事務局認定の開始 2133件 上記合計2247件1887件4134件 総認定件数2697件2620件5317件イいわゆる事務局認定の開始平成20年4月から,確率的影響の範ちゅうに属する悪性腫瘍のうち,旧審査の方針に基づき審査をしても認定相当と考えられる案件については,当該負傷又は疾病が「原子爆弾の傷害作用に起因すること」が「明らか」(被爆者援護法11条2項ただし書)であるとして,医療分科会や審査部 会による答申を経るまでもなく,認定が行われることとなった。 ウ医療分科会委員及び事務局員の増員(乙A24)(ア) 医療分科会委員は,新審査の方針の策定前である平成20年3月現在においては,19名にすぎなかったが,新審査の方針策定直後には,新たに審査部会が増設されたことも踏まえ,26名に増員された。そして,その後も委員の増員が試みられ,平成21年2月までに,任期満了によって退任する医療分科会委員の後任者の確保に併せ,31名に増員され,さらに,同年6月までに33名に増員された。 (イ) 審査に従事する事務局の係員は,平成19年度にあっては5名(事務官3名,うち専任の事務官1名,医系技官2名)であったが,平成20年度からは10名に増員された。 特に,専任の事務官が1名から6名に増員され,医系技官も2名から3名に増員され,うち1名の医系技官は認定審査業務に専任し得る体制とされた(ただし,事務局の人員を増員するに当たって,健康局総務課内において配置換えされた事務官が元々行っていた毒ガス障害者対策業務を,事務局が一部引き継ぐこととされた。)。 また,平成21年4月に新型インフルエンザが発生したことから,事務局の医系技官 おいて配置換えされた事務官が元々行っていた毒ガス障害者対策業務を,事務局が一部引き継ぐこととされた。)。 また,平成21年4月に新型インフルエンザが発生したことから,事務局の医系技官1名及び事務官1名が,新型インフルエンザ対策の応援のため併任扱いとされ,同対策の業務を専ら行う事態となり,他の事務官も,休日を含むコールセンター対応,ワクチン接種体制構築に関わる自治体との連絡調整等の応援といった業務を適宜行っていた。 (6) 新審査の方針下における処分件数,審査期間等(乙A16,23)ア新審査の方針策定後の新規進達件数,処分件数及び待機件数の内訳は,次表のとおりである(ただし,処分件数には,取消訴訟係属中の原告らに対する処分件数167件及び異議申立て分が含まれる。)。 新規進達件数処分件数待機件数平成20年 4月374件149件約2600件平成20年 5月931件125件約3500件平成20年 6月1103件154件約4500件平成20年 7月1188件181件約5500件平成20年 8月1100件177件約6400件平成20年 9月1227件235件約7400件平成20年10月662件366件約7700件平成20年11月629件237件約8100件平成20年12月503件229件約8400件平成21年 1月339件359件約8400件平成21年 2月209件435件約8200件平成21年 3月315件 約8400件平成21年 1月339件359件約8400件平成21年 2月209件435件約8200件平成21年 3月315件384件約8100件平成21年 4月250件345件約8000件平成21年 5月287件330件約7900件平成21年 6月267件305件約7800件平成21年 7月417件193件約8000件平成21年 8月447件298件約8100件平成21年 9月343件300件約8100件平成21年10月500件321件約8300件 平成21年11月268件432件約8100件平成21年12月406件552件約7900件平成22年 1月301件485件約7700件 平成22年 2月284件720件約7300件 平成22年 3月194件722件約6700件イ新審査の方針策定後の平成20年11月頃(当時の待機件数は約810 0件)から,原爆症認定申請に対する応答処分が遅延しているとして,原爆症認定申請中の多数の被爆者が,厚生労働大臣に対し,行政不服審査法7条に基づく不作為の異議申立てを行った。その件数の推移は,次のとおりである。 平成20年11月 1件12月 52件(うち1件が原告によるもの)平成21年 1月 139件 平成20年11月 1件12月 52件(うち1件が原告によるもの)平成21年 1月 139件2月 29件3月 45件4月 18件5月 2件6月 3件7月 14件8月 7件ウ新審査の方針策定後である平成20年度(処分件数3031件)の平均審査期間は約322日であり,平成21年度(処分件数5003件)の平均審査期間は約520日である。 新審査の方針策定前後(平成18年~平成21年)の申請件数,処分件数,内認定件数,平均審査期間は次表のとおりである。 年度申請件数処分件数内認定件数平均審査期間 1325 224日 1601 350日 858030312969322日 396450032814520日 合計1547088346035 エ事務局は,新審査の方針による審査が始まった平成20年4月以降,申 請の時期が古い案件に対する審査,殊に集団訴訟における原告らの見直しを速やかに行うとともに,待機期間が長期に及ぶ案件の中 事務局は,新審査の方針による審査が始まった平成20年4月以降,申 請の時期が古い案件に対する審査,殊に集団訴訟における原告らの見直しを速やかに行うとともに,待機期間が長期に及ぶ案件の中でも,新しい方針の下で,特に形式的要件を満たしさえすれば,原則として放射線起因性が認められることとなったがん疾患など,被爆状況やその申請疾病等に照らし,原爆症認定がなされる可能性が特に高いと思われる案件をまず洗い出し,これを優先的に処理することとした。 また,「放射線白内障(加齢性白内障を除く。)」及び「放射線起因性が認められる心筋梗塞」については,新審査の方針策定後においても,その放射線起因性の見極めの在り方は個別事例の判断によるほかない状態であり,これを審査する第四審査部会においても,どのようなものについて放射線起因性を肯定すべきかについて委員間にコンセンサスが得られていなかった。そのため,事務局は,平成20年度当時,これらの疾病につき,追加資料を要求するかどうか,どのような資料の追加を求めるかについて,個別の事案ごとに検討しており,また,第四審査部会に諮問するに当たっても,事務官や医系技官が確認する限りにおいて,認定の可能性が高いと思われる案件を先に審査部会に諮問していた。 3 国家賠償法上の違法性の検討(1) 被爆者援護法は,平成6年12月に制定されたものであるが,その前文において,「ここに,被爆後50年のときを迎えるに当たり,…国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」るとしていることからすれば,同法は,その制定時点において,被爆者も 被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ,高齢化の進行している被爆者に対する保健,医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ」るとしていることからすれば,同法は,その制定時点において,被爆者も相当に高齢化しており,被爆者に対する援護が急がれることを自覚して制定されたものと理解することができる。そして,現在においては,原爆投下から66年以上の年月が経過しており,被爆者は例外なく高齢者である上(原告の 主張によれば,平成21年3月末時点の被爆者の平均年齢は,75.92歳である。),原爆症認定申請の申請疾病は,悪性腫瘍(がん)などの重篤な疾病の場合が多く,厚生労働大臣の応答処分が長期間遅延すると,処分の時点では既に当該申請者が亡くなっているという事態にもなりかねない。このような被爆者援護法の制定趣旨や被爆者の現状等に照らすと,原爆症認定申請に対しては,できる限り早期の応答処分が求められているということができる。 もっとも,他方で,厚生労働大臣は,原爆症認定申請に対して適正に判断すべき行政手続上の義務も負っているところ,厚生労働大臣の行う原爆症認定処分は,個々の申請者の被爆距離,被爆状況,被曝線量を個別的に確定した上で,既往歴,生活環境等の個別事情も考慮し,申請疾病等と放射線との関連性につき高度の科学的,医学的知見に基づく判断を経て行われるものである。しかも,被爆者援護法上,原爆症認定をするに当たっては,原則として,合議制の機関である審査会(医療分科会)の意見を聴かなければならず(同法11条2項),合議体による実質的な議論を行うためには相当の事前準備が必要となる上,審査会の委員には,原爆症認定申請の審査をするにふさわしい学識経験を有する者を任命しなければならない(国家行政組織法8条参照)から,医療分科会の委員やその 行うためには相当の事前準備が必要となる上,審査会の委員には,原爆症認定申請の審査をするにふさわしい学識経験を有する者を任命しなければならない(国家行政組織法8条参照)から,医療分科会の委員やその開催回数を増やすにも一定の限度があることは当然である。このような原爆症認定制度の性格上,厚生労働大臣が原爆症認定申請に対して適正に判断するためには,その審査に相当程度の期間を要することもやむを得ない面がある。 以上のとおり,原爆症認定申請に対してはできる限り迅速に応答処分をすべきことが求められているとはいえ,その適正な判断のためにはその審査に相当程度の期間を要することもやむを得ない面があることに加えて,前記認定のとおり平成18年度の平均審査期間が224日,平成19年度の平均審査期間が350日であることも考慮すると,原爆症認定申請からこれに対す る応答処分までの通常要すべき期間は,その審査の難易度等においてごく平均的な事案を想定すれば,1年程度を一応の目安とするのが相当であると考えられる。 (2) ところで,原告は,平成19年8月6日に本件申請を行っており,厚生労働大臣は,平成21年4月14日に本件認定をしたものであるから,本件申請から本件認定までの期間は約1年8か月(617日)である。そして,前記判断の基礎となる事実によれば,本件申請については,事務局から経由県市を通じて原告に対し被爆状況の確認が行われ,さらに,カルテ等の追加資料の徴求が行われており,これらの回答には約2か月(前者につき11日間,後者につき47日間)を要しているが,これを上記約1年8か月から差し引いても,平均的な事案における一応の目安というべき1年を超えているということができる。 しかし,本件申請がされた当時の状況をみると,平成10年度 しているが,これを上記約1年8か月から差し引いても,平均的な事案における一応の目安というべき1年を超えているということができる。 しかし,本件申請がされた当時の状況をみると,平成10年度から平成17年度までの申請件数は,平成14年度の1180件を除き,概ね500件程度で推移していたところ,平成18年度には1325件,本件申請がされた平成19年度には1601件と急激に増加しており,こういった申請件数の増加に伴い,本件申請がされた時点で,既に約1300件の待機件数があったというのである。しかも,新審査の方針が公表された平成20年4月以降,申請件数は正に激増し,同年6月から9月までの4か月間は毎月1000件を超え,平成20年度の申請件数は8580件にも上り,待機件数は平成20年4月時点で約2600件であったものが,同年12月時点で約8400件まで増加している。しかも,事務局には,これらの新規申請に係る事務処理の増加に加えて,同年11月以降,不作為の異議申立てが急増し,同月から本件認定がされた平成21年4月までの間に,284件の不作為の異議申立てがされ,これらの事務と並行して,新審査の方針策定や審査体制の整備に向けた各種事務や,全国の地裁に係属していた数百名に上る原爆症認 定集団訴訟の訴訟対応事務等もあったというのである。こういった急激な申請数の増加等の当時の状況を踏まえると,事務局における原爆症認定に係る事務が滞留し,通常よりも申請書類の確認作業等に時間を要することもある程度やむを得ないというべきである。 また,旧審査の方針の見直し作業が進められている間,医療分科会においては,従前であれば認定されない事案であってもこれを保留扱いとしており,その件数は約300件に上っていたところ,新審査の方針による審査が開始 査の方針の見直し作業が進められている間,医療分科会においては,従前であれば認定されない事案であってもこれを保留扱いとしており,その件数は約300件に上っていたところ,新審査の方針による審査が開始された後,こういった保留案件や,全国に係属する300名以上の原爆症認定集団訴訟の原告らの処分の見直しを優先して行う必要があったというのである。しかも,白内障については,新審査の方針の積極認定の対象疾病として「放射線白内障(加齢性白内障を除く。)」が盛り込まれたものの,申請疾病である白内障が放射線白内障であるかどうか(すなわち,放射線起因性があるかどうか)は,個別事情の総合判断によるほかはなく,これを審査する第四審査部会においても,どのようなものについて放射線起因性を肯定すべきかについて委員間にコンセンサスが得られていなかったというのであり,また,こういった状況を踏まえ,事務局は,追加資料の徴求等についても個別に検討する必要があったというのである。こういった事情からすると,新審査の方針策定前あるいは策定後直ちに本件申請につき諮問,答申がされなかったことについても,やむを得ない事情があったということができる。 さらに,新規申請数の増加等を踏まえた遅延を回避するための努力についてみると,まず,平成20年4月から,疾病・障害認定審査会運営規程7条に基づき,医療分科会に一定の疾病に係る審査を行う4つの審査部会が置かれ,各部会の議決をもって分科会の議決とみなすこととなり,従前,1か月に1回開催される医療分科会により審査が行われていたものが,おおむね1か月合計5回開催される医療分科会又は審査部会による審査により行われることとされ,医療分科会委員の人数についても,新審査の方針の策定前(平 成20年3月現在)は19名であったが,新審 ね1か月合計5回開催される医療分科会又は審査部会による審査により行われることとされ,医療分科会委員の人数についても,新審査の方針の策定前(平 成20年3月現在)は19名であったが,新審査の方針策定直後には,新たに審査部会が増設されたことも踏まえ,26名に増員され,平成21年2月までに31名に増員されたというのである。さらに,審査に従事する事務局の係員についても,平成19年度にあっては5名(事務官3名,うち専任の事務官1名,医系技官2名)であったが,平成20年度からは10名に増員され,専任の事務官も1名から6名に増員され,医系技官も2名から3名に増員され,うち1名の医系技官は認定審査業務に専任し得る体制とされたというのである。しかも,新審査の方針策定後の処分件数は,平成20年度は3031件,平成21年度は5003件となっており,かつての10倍近いペースで処分が行われている。これらの事情に加え,医療分科会委員は,相応の知識経験を有している者である必要があり,また,事務局の係員についても,公務員予算や定員の問題があるため,その人材確保や増員は必ずしも容易ではないと考えられることも考慮すると,新審査の方針策定後,応答処分の遅延を回避するための努力が相当に尽くされていると評価することができるのであって,厚生労働大臣が従前の処理体制を漫然と放置していたとはいえない。 以上の諸事情を踏まえれば,本件申請につき,厚生労働大臣が,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と相当の期間を超えて応答処分を長期間遅延せしめたとは認められず,本件不作為が国家賠償法上違法であるとは認められない。 (3) 原告の主張についてア原告は,原爆症認定申請に対する応答処分のために通常必要となる期間は3か月であると主 は認められず,本件不作為が国家賠償法上違法であるとは認められない。 (3) 原告の主張についてア原告は,原爆症認定申請に対する応答処分のために通常必要となる期間は3か月であると主張し,その根拠として,①申請書の添付書類は,平成13年通知により標準的に必要なものが定められており,申請後遅滞なく書類の追完が求められれば,1か月もあれば申請者において書類を追完することができる,②医療分科会における判断は,新審査の方針の下では, 被爆状況と対象疾病により形式的に判断することができ,医療分科会は1か月に1回の割合で開催されているから,最大1か月あれば医療分科会の答申は可能である,③申請後の送付事務等については,最大でも1か月あれば足りる,などと主張する。 しかし,①については,事務局に配置されている限られた人員の中で処理せざるを得ない以上,申請後直ちに追加資料の徴求等の必要性を検討できるとは限らない。また,平成13年通知により標準的に必要となる資料等が明示されているとしても,これが全て揃っているかどうかをチェックするだけでも相当の手間を要すると考えられるし,あくまでも平成13年通知は「標準的」に必要となる資料であって,これで常に必要十分という訳ではなく,これ以上に資料が必要となる場合も当然あり得ると考えられる。また,医療分科会に諮問しても,資料が足りないとして保留となればかえって判断に時間がかかることにもなりかねないのであるから,事務局における追加資料の徴求等の必要性の審査が形式的なチェックで足り,わずかの時間をもって可能であるかのごとき原告の主張は現実的でなく,採用することができない。また,②については,確かに,悪性腫瘍や白血病等に関しては,新審査の方針の下では,形式的な基準をもって判断することが可 をもって可能であるかのごとき原告の主張は現実的でなく,採用することができない。また,②については,確かに,悪性腫瘍や白血病等に関しては,新審査の方針の下では,形式的な基準をもって判断することが可能であるが(なお,悪性腫瘍について審査する第一審査部会及び第二審査部会において,平成20年度及び平成21年度において,合計5317件にも上る認定相当の意見が出されていることは前記判断の基礎となる事実のとおりである。),白内障,心筋梗塞,甲状腺機能低下症及び慢性肝炎・肝硬変については,その判断の目安としての意味や当否はともかく,放射線起因性が認められるかどうかは個別に判断せざるを得ないのであり,また,積極認定の対象疾病でない申請疾病については,放射線被曝との関連性を認める科学的知見があるかどうかといった点も含めて,総合的に検討しなければならないのであるから,ごく短時間の形式的な審査に より審査可能であるかのような原告の主張は,採用することができない。 以上に加え,これまでに述べたとおり,厚生労働大臣の行う原爆症認定処分は,個々の申請者の被爆距離,被爆状況,被曝線量を個別的に確定した上で,既往歴,生活環境等の個別事情も考慮し,申請疾病等と放射線との関連性につき高度の科学的,医学的知見に基づく判断を経て行われるものであることも考慮すると,応答処分までに通常必要となる期間が3か月であるとする原告の主張は,現実的でないといわざるを得ず,採用することができない。 イ原告は,申請件数が増加していたのであれば,人員を増やし認定方法を見直すなどして,申請件数の増加に対応すべきであり,厚生労働大臣が迅速化のために講じた方策として主張する体制は,不十分極まりなく,このような審査体制の不備による不利益を申請者に負担させるべきで 法を見直すなどして,申請件数の増加に対応すべきであり,厚生労働大臣が迅速化のために講じた方策として主張する体制は,不十分極まりなく,このような審査体制の不備による不利益を申請者に負担させるべきではないと主張する。 しかし,新審査の方針策定後,審査部会の設置,医療分科会委員や事務局係員の増員など,応答処分の遅延を回避するための努力が相当に尽くされていると評価することができることは前述のとおりである。もちろん,委員や係員のさらなる増員など,遅延を回避するための努力の余地がない訳ではないと思われるが,人員や予算にも一定の限度がある以上,さらなる増員などの努力がされなかったからといって,これにより国家賠償法上の違法性が基礎付けられるものではない。 ウまた,原告は,事務局が本件申請の申請書類を審査して被爆状況の確認等を行うまでに約1年間を要しており,カルテ等の資料の徴求に至ってはさらにその約3か月も後であるとして,遅きに失すると主張する。 しかし,審査の方針が変われば,それに伴って必要となる書類等も異なってくる可能性があるのであって,新審査の方針が策定されるまで,事務局が徴求すべき資料等の確認作業を一時中断していたとしても,一概に不 合理であるということはできない。また,前記判断の基礎となる事実に係る,旧審査の方針の見直しや申請件数の急激な増加など当時の特殊な状況を前提とすれば,本件処分までの約1年8か月という期間は,長期に失するとまでは言い難いというべきである。原告の上記主張は採用することができない。 その他,原告は,新審査の方針によれば,本件申請に対しては容易に原爆症認定ができるはずであったとか,目標とする審査期間を設定し,そのための審査体制を築く必要があったなどと主張するが,これま その他,原告は,新審査の方針によれば,本件申請に対しては容易に原爆症認定ができるはずであったとか,目標とする審査期間を設定し,そのための審査体制を築く必要があったなどと主張するが,これまでに述べたところに照らし,いずれも採用することができない。 4 結論以上によれば,本件不作為に国家賠償法上の違法性を認めることはできず,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官藤根桃世
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