主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文と同旨。 第2 事案の概要 1 本件は,厚生年金保険の被保険者であった夫と内縁関係にあった被控訴人が,夫の死亡後,厚生年金保険法(以下「法」という。)3条2項の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に当たり,法59条1項の「被保険者又は被保険者であった者(以下「被保険者等」という。)の配偶者」であって,夫の死亡当時その者によって生計を維持していたものであるとして,平成13年10月19日付けで,控訴人に対し,遺族厚生年金の裁定請求をしたところ,控訴人が,同月31日付けで,亡夫との内縁関係は民法734条1項の禁止する近親婚に当たり,法59条1項の配偶者とは認められないとして,不支給処分(以下「本件不支給処分」という。)をしたため,被控訴人が同処分を不服としてその取消しを求めた事案である。 被控訴人と亡夫とは三親等の傍系血族に当たるもの(叔父と姪の関係)であり,本件の主たる争点は,民法734条1項の禁止する近親婚に当たる内縁関係にある者は法3条2項の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に当たるといえるか否かである。 原審は,法3条2項の文言上当然に民法上禁止された近親婚の関係にある者が同項の規定に該当しないとは断定できないこと,遺族厚生年金制度は遺族の生活の安定のために支給されるもので,婚姻秩序の維持を目的とする民法734条等とはその目的を異にしていること,被保険者等が納付した保険料が財源の大部分を占めてい きないこと,遺族厚生年金制度は遺族の生活の安定のために支給されるもので,婚姻秩序の維持を目的とする民法734条等とはその目的を異にしていること,被保険者等が納付した保険料が財源の大部分を占めていること等から,近親婚の関係にある者はおよそ法3条2項所定の者に当たらないと解すべきではなく,内縁関係が形成されるに至った経緯,態様,社会一般の通念や当該地域社会等においてどの程度抵抗感のある関係として受け止められてきたか等の事情を総合考慮し,年金的保護の対象となり得るものであるかどうかを判断する必要があるとした上で,被控訴人については,民法734条1項で禁止される近親婚の中では最も親等が離れた関係にあること,被控訴人がこのような関係に至った経緯によればやむを得ざる内縁であって,その動機・態様において不当と見られる点はないこと,被控訴人と亡夫との関係はその職場・地域社会の中で抵抗なく受け入れられていたこと等の事情に照らして,被控訴人の遺族厚生年金受給権を否定しなければならないほど公益性に反するということは困難であり,むしろ法的な婚姻関係に等しい実質を持ったものであって,法3条2項所定の者に該当するとして,被控訴人の請求を認容して本件不支給処分を取り消した。このため,控訴人が,これを不服として控訴した。 2 前提となる事実並びに争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁2行目の「昭和55年通達」を「昭和35年通達」に改める。 (1) 当審における控訴人の補充的主張法は,遺族厚生年金を受給する配偶者に含まれる「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者(法3条2項)」を,被保 。 (1) 当審における控訴人の補充的主張法は,遺族厚生年金を受給する配偶者に含まれる「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者(法3条2項)」を,被保険者等との間に,厚い公的保護を受けるにふさわしい親族関係を有すると社会一般に認められる者で,かつ,行政庁による画一公平な処理に適する一義的ないし明確な概念として定めているのであり,民法734条1項により被保険者等との間で婚姻関係を成立存続させること自体を禁じられている者は,法3条2項所定の者に含まれないと解すべきである。我が国には親族関係について定めた一般法は民法をおいてほかになく,法の立法者も民法の規定を念頭に置いていたものと考えられるから,婚姻関係の成否を解釈するに当たっては,基本的に民法の規定及び趣旨を尊重すべきである。行政庁が遺族厚生年金の受給権者として親族関係の成否を判断するに当たり,画一公平に処理するためにも,被保険者等と民法734条1項所定の近親婚の関係にある者は,一律に,配偶者には含まれないと解すべきである。 (2) 当審における被控訴人の補充的主張法は,民法と異なり,労働者及びその遺族の生活の安定に寄与することを目的とするものであり,遺族厚生年金は,憲法25条の理念に基づき,社会保障の観点から,被保険者等によって生計を維持してきた受給権者自身の生活を保障することを目的として,国が経済的に一部を負担して年金を支給する制度である。遺族厚生年金は,このような意味で公的給付なのであるから,公的給付であることは遺族の範囲を限定する根拠とはなり得ないし,民法の規定の適用を貫くことがこれらの制度趣旨を没却させるような場合には,民法の規定を修正して適用すべきである。遺族厚生年金の制度趣旨に照らし,配偶者に当たるか否 範囲を限定する根拠とはなり得ないし,民法の規定の適用を貫くことがこれらの制度趣旨を没却させるような場合には,民法の規定を修正して適用すべきである。遺族厚生年金の制度趣旨に照らし,配偶者に当たるか否かは,被保険者等と遺族との間にどのような生活実態があったかなど個別具体的に判断すべきものである。控訴人の裁定は,各請求者ごとに個別具体的な実情を踏まえて判断することを意味しており,画一的処理とは相容れないものである。不適法婚である重婚的内縁の関係にある者の請求に当たっては,昭和55年通達により,個別具体的に事実関係を調査して裁定しているのであるから,同じく不適法婚である近親婚について一律に配偶者に当たらないと解すべき理由はない。控訴人は,遺族厚生年金の場合は,受給権者が保険料を拠出しておらず,給付との牽連性が間接的である旨主張するが,もともと被保険者等と生計を同一にしていた夫婦の場合には,夫婦共同財産の観点から,被保険者等との共同の出損ということができ,被保険者等が保険料を納付してきたことを重視しなくてよいわけではない。 第3 当裁判所の判断 1 被控訴人の行政手続法8条違反の主張について当裁判所も,本件不支給処分に行政手続法8条の理由提示の要件を満たしていない違法があるとの被控訴人の主張は理由がないものと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」1記載のとおりであるから,これを引用する。 2 被控訴人とAとの関係(事実関係)について被控訴人とAとの関係(事実関係)については,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」2(1)記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決15頁1行目の「5ないし12の4」を「5ないし10,11の1ないし4,12の1ないし4 び理由」の「第3 当裁判所の判断」2(1)記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決15頁1行目の「5ないし12の4」を「5ないし10,11の1ないし4,12の1ないし4」に,同行目から2行目の「21ないし23」を「21,22の1・2,23,乙1」に,同4行目の「茨城県北相馬郡○○」を「茨城県真壁郡○○」に,18頁16,17行目の「本件裁定請求」を「遺族厚生年金の裁定請求」にそれぞれ改める。 3 被控訴人の法3条2項該当性について上記2の認定事実によれば,被控訴人は,叔父であるAと,約42年間にわたり夫婦として平穏な生活を送ってきたものであり,被控訴人がAを被保険者とする遺族厚生年金の受給を必要とする経済的事情もうかがえるところであるが,当裁判所は,原審の判断と異なり,厚生年金保険の被保険者であったAと民法734条1項がその婚姻を禁止する三親等傍系血族の関係にある被控訴人は,Aと内縁関係にあったとしても,法3条2項所定の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に当たらないというべきであるから,本件不支給処分は適法であると判断する。その理由は,次のとおりである。 (1)ア厚生年金保険制度は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とした(法1条),政府が管掌する(法2条)公的年金制度である。したがって,その受給要件,保険給付の手続,給付内容等は法律によって規定され(遺族厚生年金につき,法58条以下),その運営は,被保険者等及び事業主の意思にかかわりなく強制的に徴収される保険料(法82条)に,国庫負担部分(法80条1項)を加えた財源によって賄われ,厚生年金保険事業の事務の執行に要する費用はすべて その運営は,被保険者等及び事業主の意思にかかわりなく強制的に徴収される保険料(法82条)に,国庫負担部分(法80条1項)を加えた財源によって賄われ,厚生年金保険事業の事務の執行に要する費用はすべて国庫が負担する(法80条2項)こととされている。 遺族厚生年金の受給権者については,被保険者である労働者の遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法1条の目的を踏まえ,国の社会政策的見地から,厚生年金保険の被保険者等と一定の親族関係にある者,すなわち,①配偶者,子,②父母,③孫,④祖父母であって,被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた者に限定されている(法59条1項)。 そして,公的年金制度は,現役世代の強制加入により安定的な保険集団を確保し,年金の実質的価値を維持するための財源を後の世代の負担に求めるという世代間扶養の仕組みに支えられており,このように保険料を負担する現役の世代から年金を受給する世代への所得の再分配的機能を有することから,拠出と給付について,私的年金のような厳格な対価関係にはなく,特に,遺族厚生年金の場合は,受給権者自身が保険料を拠出していないから,給付と保険料との対価的牽連性は間接的であるといわざるを得ず,したがって,遺族厚生年金は,社会保障的な性格が強い給付であると解されている(遺族厚生年金の性格につき,最高裁判所平成12年11月14日第三小法廷判決・民集54巻9号2683頁参照)。 イところで,法59条は,上記のとおり配偶者を遺族厚生年金の受給権者としているが,他方で,法3条2項は,配偶者について,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むものとしている。 上記の法の規定振りからすると,法自体は,配偶者については,婚姻関 で,法3条2項は,配偶者について,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むものとしている。 上記の法の規定振りからすると,法自体は,配偶者については,婚姻関係にある夫婦,すなわち民法739条に基づく婚姻の届出をした夫婦を前提とした上で,「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を,婚姻の届出をした夫婦に準じて遺族厚生年金の受給権者とすることにより保護しようとするものと解される。 ウそこで,法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の意味・内容について検討すると,上記アで説示したように,遺族厚生年金制度が社会保障的性格の強いものであり,被保険者等及び事業主から強制的に徴収される保険料並びに国庫負担という公的財源によって賄われていることを考慮するとき,その受給権者としての「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の判断に当たっては,民法上の婚姻の届出をした配偶者に準じて,公的保護の対象にふさわしい内縁関係にある者であるかどうかという観点からの判断が求められ,その判断において,その意味での公益的要請を無視することはできないというべきである。そして,法は,婚姻関係について,別段の定めをしておらず,婚姻関係の一般法である民法の定める婚姻法秩序を当然の前提としていると解されるから,上記のような判断においては,民法の規定及びその趣旨が尊重されるべきであり,法は,民法の婚姻法秩序を前提とした婚姻関係と同様の事情にある者を遺族厚生年金の受給権者として保護する趣旨であって,婚姻法秩序に反する内縁関係にある者をも保護する趣旨ではないと解するのが相当である。 エ民法734条1項は,三親等内の傍系血族の近親婚を禁止してい 金の受給権者として保護する趣旨であって,婚姻法秩序に反する内縁関係にある者をも保護する趣旨ではないと解するのが相当である。 エ民法734条1項は,三親等内の傍系血族の近親婚を禁止しているが,その趣旨は,優生学的な配慮及び社会倫理的な配慮という公益的要請に基づくものであり,同法740条は,734条に違反する婚姻の届出は受理してはならないものと規定し,同法744条1項本文は,上記届出を誤って受理したとしても,公益の代表者である検察官がその取消しを家庭裁判所に請求することができるものと規定している。そして,上記のような公益的要請により上記の近親婚を禁止することには合理性があるというべきである。 このように,三親等内の傍系血族間の婚姻関係は,我が国の婚姻法秩序において,反倫理的で公益を害するものとされている。その上,民法が定める婚姻障害事由の中でも近親婚の場合は,その公益的な取消原因が時の経過によっても治癒されることのあり得ない性質のものである。 これに対し,被控訴人は,叔父姪・叔母甥の近親婚については,現代社会においては優生学的にも社会倫理的にもこれを禁止すべき合理性は失われている旨主張する。 しかしながら,三親等内の傍系血族の関係にあることを婚姻障害事由とすることは,上記のような強い公益的要請に基づくものであって,我が国において,国民一般に,三親等の傍系血族の関係にある者の婚姻に対する優生学的配慮及び社会倫理的配慮を不合理とするような認識が定着していることを肯認し得るような事情を認めるに足りる証拠はないから,被控訴人の上記主張は採用することができない。 オ以上によれば,民法734条1項で禁止される三親等内の傍系血族間の婚姻関係は,我が国の婚姻法秩序において を認めるに足りる証拠はないから,被控訴人の上記主張は採用することができない。 オ以上によれば,民法734条1項で禁止される三親等内の傍系血族間の婚姻関係は,我が国の婚姻法秩序において公益を害するものとされ,しかも,三親等内の自然血縁関係の存在という公益的な取消原因が時の経過によって治癒される余地はなく,被保険者等と三親等内の傍系血族の関係にある者が内縁関係にあったとしても,将来にわたって被保険者等との間に法律上有効な婚姻関係を生じさせることができないものであるから,法は,このような関係にある者を遺族厚生年金という公的給付を受け得るものとして保護することを予定していないというべきである。 なお,被控訴人は,民法734条1項に反する近親婚であっても,誤って届出が受理された場合,当事者の一方の死亡後は,検察官の取消権が消滅すること(民法744条1項ただし書)から,公益を害する事実も失われる旨主張するが,これは,取消しの対象となる反社会的ないし反倫理的な婚姻関係自体が,当事者の一方の死亡により消滅し,取消しを請求すべき対象が消滅したことによるものであって,死亡当時の婚姻関係を適法なものとして認める趣旨ではないし,遺族厚生年金の支給に関する面では,正に,民法734条1項に反する近親婚を前提として国が年金給付をすること自体が公益を害するということであるから,当事者の一方が死亡したからといって,そのような公益的要請が消失するものではない。 したがって,被保険者等と三親等内の傍系血族の関係にある者は,仮に被保険者等と内縁関係にあったとしても,法3条2項における「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には含まれず,法59条1項にいう被保険者等の「配偶者」に当たらないと解すべきであ 険者等と内縁関係にあったとしても,法3条2項における「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には含まれず,法59条1項にいう被保険者等の「配偶者」に当たらないと解すべきであるから,被保険者であったAと三親等の傍系血族の関係にある被控訴人は,上記「配偶者」に当たる余地はないものといわざるを得ない。 (2)ア被控訴人は,遺族厚生年金は被保険者等によって生計を維持していた遺族の生活の安定のために給付されるものであり(法59条1項),婚姻法秩序の維持を目的とする民法734条等とはその目的を異にしているのであるから,法59条1項にいう配偶者について,民法上の配偶者と同一に解すべき理由はなく,民法の定める婚姻障害事由を形式的に適用してこれに該当する者を排除すべきでないとし,法3条2項が事実婚保護を明文化し,また,昭和55年通達において重婚的内縁の場合であっても個別具体的に内縁関係にある者を保護する扱いであることに照らして,近親婚の関係にある者を一律に法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に含まれないとすることは,重婚的内縁の関係にある者に関する処理との権衡からも明らかに不当である旨主張する。 しかしながら,社会保障制度として国が公的給付をするに当たり,民法の予定する婚姻法秩序を前提とすべきことは前記説示のとおりであり,事実婚保護を認める法3条2項は,民法の法律婚主義を緩和したものであって,それ以上に不適法婚をも容認する趣旨の民法の修正緩和を意味するものではない。また,重婚的内縁関係にある者については,昭和55年通達のように,法3条2項の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当するものと判断すべき場合があるが,そのような判断を た,重婚的内縁関係にある者については,昭和55年通達のように,法3条2項の「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当するものと判断すべき場合があるが,そのような判断をするには,まず,法律上の婚姻関係が実体を失って修復の余地がないまでに形がい化しているなど,法律上の婚姻関係にある夫婦が事実上の離婚状態にあると認定されることが必要であり(最高裁判所平成17年4月21日第一小法廷判決・裁判所時報1386号6頁参照),このような認定がされた上で,当該内縁関係にある者が「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当するか否かを判断すべきものである。したがって,重婚的内縁関係にある者については,法律上の婚姻関係が実体上も形がい化していると認められ,その婚姻障害事由(公益的取消原因)が事実上治癒されたと評価される結果,事実婚としての保護を受け得る立場になるのであって,単に被保険者等と法律上の婚姻関係にある者と重婚的内縁関係にある者とを比較して,内縁関係にある者についてその生活の保障の必要性の有無を判断しているものではない。これに対し,三親等内の傍系血族間の近親婚の場合は,時の経過によって治癒されることがあり得ない婚姻障害事由であり,将来にわたって有効な婚姻届が受理される可能性が皆無なのであるから,重婚的内縁関係にある者の場合とは不適法婚としての性質が全く異なるものであって,両者を同列に論じることはできず,したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。 なお,被控訴人は,昭和35年通達が近親婚であっても一定の条件が備わっていれば給付を認めるとしていることをも上記主張の論拠とするが,この通達の趣旨は,民法上,近親婚の規定に反する婚姻届が誤って受理された場合には,取り消 35年通達が近親婚であっても一定の条件が備わっていれば給付を認めるとしていることをも上記主張の論拠とするが,この通達の趣旨は,民法上,近親婚の規定に反する婚姻届が誤って受理された場合には,取り消されるまで当該婚姻が有効として扱われることによる当然の帰結であって,積極的に近親婚の場合に年金給付を認める趣旨のものではないと考えるのが自然であり,近親婚の関係にある者を法3条2項所定の者から除外することと矛盾するものでないことは明らかというべきである。 そして,以上のとおり,遺族厚生年金の社会保障制度としての趣旨に照らし,民法の定める婚姻法秩序を前提に公的給付の受給資格の判断をすることには合理性があるというべきであるから,これが憲法25条や14条の規定の趣旨に反するものといえないことも明らかである。 イ被控訴人は,遺族厚生年金が被保険者の遺族の生活保障を目的とする制度であり,三親等の傍系血族の関係にある者についての近親婚禁止の規定の合理性が既に失われていることからも,上記のような近親婚に当たる内縁関係にある者については,近親婚関係に至った経緯,態様,当該地域社会においてどの程度抵抗感のある関係として受け止められているか,その他生活保障の必要性等の諸事情を個別具体的に考慮して受給資格を判断すべきである旨主張する。 しかしながら,遺族厚生年金制度の趣旨に照らして,法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」の判断をするに当たって公益的要請を無視し得ないこと並びに民法734条1項が優生学的配慮及び社会倫理的配慮により同項所定の近親婚を禁止することには合理性があり,そのような配慮をすることについて国民一般にこれを不合理とするような認識が定着しているとは認められないこ 条1項が優生学的配慮及び社会倫理的配慮により同項所定の近親婚を禁止することには合理性があり,そのような配慮をすることについて国民一般にこれを不合理とするような認識が定着しているとは認められないことは,前記説示のとおりである。そして,民法734条1項が近親婚を禁止する理由が上記のような各配慮という公益的要請に基づくものであることからすると,近親婚に当たる内縁関係にある者の当該近親婚に至った経緯,態様や内縁関係を築いてきた特定の地域における近親婚に対する抵抗感ないし違和感の有無といった事情は,近親婚が抱える問題性を何ら解消するものではないというべきである。上記の地域性の点について付言すれば,当該地域の住民の中で三親等の傍系血族間の近親婚に対する抵抗感や違和感が少ないといった事情は,当該地域について上記近親婚に対する社会倫理的配慮を不要とするような性質のものではない。 また,遺族厚生年金制度は,受給権者の生活困窮を要件としておらず(法58条,59条),個別の要保護性を詳細に調査して判断することが求められる公的扶助制度である生活保護制度とは性質が異なるというべきであり,個別の生活保障の必要性から受給資格を判断するものではない。 したがって,被控訴人が掲げる上記のような諸事情によって,法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」についての判断が左右されるべきものとは到底いえないから,被控訴人の上記主張は採用することができない。 ウ被控訴人は,遺族厚生年金の財源の大部分は被保険者等の保険料であり,納付した保険料と給付とのバランスという面で民間の保険と類似している上,夫婦の場合は共同財産の形成という観点からみても被保険者の保険料納付の事実を重視しなくてよいとは 分は被保険者等の保険料であり,納付した保険料と給付とのバランスという面で民間の保険と類似している上,夫婦の場合は共同財産の形成という観点からみても被保険者の保険料納付の事実を重視しなくてよいとはいえず,また,被保険者は遺族に年金が支給されることを期待して保険料を納付し続けるものである旨主張する。 しかしながら,遺族厚生年金は,前記説示のとおり,勤労者であるすべての被保険者等及び事業主から強制的に徴収する保険料と国庫負担を財源として,世代間扶養の仕組みによって支えられており,特に,遺族厚生年金は当該受給権者について再婚等の一定の事由(法63条)が生じない限り,その死亡まで支給されることに照らすと,後の世代の負担に財源を求める部分が多いこと(乙12),遺族厚生年金の受給権者自身が保険料の負担をしていないこと等の事情の下では,拠出と給付の対価関係は相当薄れているといわざるを得ないのであって,保険料を納付した被保険者等が受取人として指定した親族に保険金が給付されるという民間の保険契約とは全く性質を異にするというべきである。したがって,被保険者等の保険料納付の事実を殊更に重視するのは相当でない。 エまた,最高裁昭和60年判決は,厚生年金保険の被保険者と直系姻族の関係にある者は仮に被保険者と内縁関係にあったとしても法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」には当たらない旨の判断を示しているところ,被控訴人は,同判決は一般論を述べたものではないし,直系姻族という親子の問題であり,三親等の近親婚の場合とは事例が異なる旨主張する。 しかしながら,上記判決は,当該内縁関係の実情等について触れることなく,被保険者と直系姻族の関係にある者は仮に被保険者と内縁関係にあったと 親婚の場合とは事例が異なる旨主張する。 しかしながら,上記判決は,当該内縁関係の実情等について触れることなく,被保険者と直系姻族の関係にある者は仮に被保険者と内縁関係にあったとしても法3条2項所定の者には当たらない旨判示していること,民法734条1項に反する近親婚に当たる内縁関係は,およそ将来において法律上有効な婚姻関係に入り得る余地がないことは,上記判決の場合(民法735条に反する近親婚に当たる内縁関係の場合)と事情は同じであること,民法734条1項の近親婚の禁止は,社会倫理的配慮のみならず,優生学的配慮をもその根拠とするものであることを併せ考慮すると,被保険者等と三親等内の傍系血族の関係にある者は仮に被保険者等と内縁関係にあったとしても法3条2項所定の者には該当しないと解するのが,上記判決の趣旨にもよく合致するものというべきである。 (3) 以上の次第で,本件不支給処分は適法であるから,被控訴人の請求は理由がない。 4 結論よって,被控訴人の請求を認容した原判決は不当であり,本件控訴は理由があるから,原判決を取り消して,被控訴人の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第7民事部裁判長裁判官横山匡輝裁判官佐藤公美裁判官相澤眞木
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