平成20(行コ)303 各不当労働行為救済命令取消請求控訴事件(通称 財団法人新国立劇場運営財団救済命令取消)

裁判年月日・裁判所
平成21年3月25日 東京高等裁判所
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判決文本文10,199 文字)

-- 主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 本件各控訴費用は各控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1当事者の申立て 控訴の趣旨(1) 控訴人ユニオンア原判決中控訴人ユニオンの請求を棄却した部分(主文2項)を取り消す。 イ中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第41号事件について平成18年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。 ウ訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 (2) 控訴人国ア原判決中控訴人国敗訴部分(主文1項)を取り消す。 イ被控訴人の請求を棄却する。 ウ訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 控訴の趣旨に対する被控訴人及び控訴人国の各答弁主文同旨第2事案の概要 事案の要旨(1) 本訴提起に至る経緯Aは,控訴人ユニオンの会員であり,被控訴人との間で平成11年8月から平成15年7月まで各年ごとに出演契約を締結しながら,新国立劇場合唱団のメンバーとして同劇場において開催された多数の公演に出演していたが,平成15年8月から平成16年7月までのシーズンに係る出演契約の締結に先立つ視聴会(歌唱技能についての審査)により契約メンバーとしては不合格である旨告知された(以下「本件不合格措置」という。)。そこで,控訴人ユニオン-- は,被控訴人に対し,この不合格告知に関する団体交渉の申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)をした。しかし,被控訴人がこれに応じなかったため,控訴人ユニオンは,東京都労働委員会に対し,被控訴人が本件不合格措置を採ったこと及び本件団交申入れに応じなかったことがいずれも不当労働行為に当たるとしてその救済を申し立てたところ,同委員会は,前者の点については不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し,後者の点については不当労働行為に該当 に応じなかったことがいずれも不当労働行為に当たるとしてその救済を申し立てたところ,同委員会は,前者の点については不当労働行為に該当しないとして申立てを棄却し,後者の点については不当労働行為に該当するとして,被控訴人に対し団体交渉に応じるべきこと及びこれに関する文書の交付等を命じた(以下「本件初審命令」という。)。そこで,控訴人ユニオンは本件初審命令のうち上記申立棄却部分について(平成17年(不再)第41号不当労働行為再審査申立事件),被控訴人は同命令のうち上記救済を命じた部分について(同年(不再)第42号不当労働行為再審査申立事件),中央労働委員会に対しそれぞれ再審査を申し立てたものの,同委員会はこれらの再審査申立てをいずれも棄却した。 (2) 本件事案の概要第1事案は,被控訴人が,中央労働委員会がした再審査申立棄却命令のうち被控訴人に控訴人ユニオンとの団体交渉に応じるべきこと及びそれに関する文書の交付等を命じた部分に対する不服申立てを棄却した部分の取消しを求めた事案であり,第2事案は,同控訴人が,上記命令のうち本件不合格措置に係る救済命令申立棄却に対する不服申立てを棄却した部分の取消しを求めた事案である。 (3) 原審の判断原審は,被控訴人とAとの間で締結された契約の内容及び契約の締結に至る過程を検討した上,Aが被控訴人との間でシーズンを通した基本的出演契約を締結したからといって,①Aは公演ごとに個別的な出演契約を締結しなければならない法的義務を負わないから,労務の提供につき諾否の自由がないわけではないこと,②Aが被控訴人の指揮監督を受けるものではないこと,③-- Aが被控訴人と個別公演出演契約を締結しない以上報酬は支払われないから,報酬の労務対償性があるとはいえないことなどから,Aの労働者性を否定し,その余の争点に を受けるものではないこと,③-- Aが被控訴人と個別公演出演契約を締結しない以上報酬は支払われないから,報酬の労務対償性があるとはいえないことなどから,Aの労働者性を否定し,その余の争点については判断するまでもないとして,被控訴人の第1事件に係る請求を認容するとともに,控訴人ユニオンの第2事件に係る請求を棄却した。 そこで,これを不服とする原審第1事件における被告である控訴人国及び原審第2事件の原告である同ユニオンが,それぞれ本件控訴を提起するに至った。 前提事実おおむね原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「1前提事実」(原判決3ページ14行目から6ページ6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決4ページ9行目の「まで,」の次に「被控訴人との間で,」を,同19行目の「受諾出来ない」の次に「,(中略)不合格となった特定人物を合格扱いにせよとの交渉に応ずることは出来ません。」をそれぞれ加える。 本件の争点及び当事者の主張(1) 次に付け加えるほかは,おおむね原判決「事実及び理由」の「第2事案の概要」の「2争点」及び「3争点に対する当事者の主張」(原判決6ページ7行目から14ページ1行目まで)及びに記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 控訴人ユニオンの補充的主張ア契約メンバーの労働者性に関する判断基準について労働組合法上の労働者に該当するかどうかの判断基準の要素として考慮されるべき指揮監督関係の有無は,労働の内容を指揮命令する権能の有無ではなく,労働力を事業目的に役立つように配置し利用するという意味での指揮命令の権能(労働力処分権)の有無をいうのであって,そのような考え方は判例(最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決・民集30巻4号437ページ)においても示さ に配置し利用するという意味での指揮命令の権能(労働力処分権)の有無をいうのであって,そのような考え方は判例(最高裁判所第一小法廷昭和51年5月6日判決・民集30巻4号437ページ)においても示されているところ,契約メンバーと被控訴人との契-- 約関係をみれば被控訴人は契約メンバーに対して労働力処分権を有しているというべきである。そして,そのほか労働者性判断に当たっては報酬の労務対価性を考慮すればよく,労務提供の諾否の自由の有無等その余の事情は補充的に考慮すれば足りるのであって,以上の判断基準に照らせばAは労働者というべきである。 イ基本契約の法的性質・効果について被控訴人と契約メンバーとの間で基本契約が締結される際,被控訴人の内部文書である稟議書には,契約メンバー予定者の氏名一覧及び各報酬が記載されているほか,シーズンを通じて各メンバーが新国立劇場に通うことを前提とした交通費の支払方法について記載されているのであり,このことからも契約メンバーについてはシーズンを通じた稼動が予定されていることが見て取れるのであって,かかる事情は基本契約の締結が実質的にみればシーズンを通じた雇用契約と等しい性質を有するものであることを示すもので,Aの労働者性を強く裏付けるというべきである。 (3) 控訴人国の補充的主張ア契約メンバーの労働者性に関する判断基準について被控訴人における契約メンバーの労働者性については,基本契約の内容及びこれにより導かれる法的効果という限定された事情のみによって判断されるべきではなく,契約メンバーに個別公演出演契約につき諾否の自由がない場合はもとより,そうでない場合についても,基本契約を踏まえて締結される個別公演出演契約をもこれと一体の契約規範として把握した上,労働組合法が制定された趣旨・目的を十分に斟酌しつつ 諾否の自由がない場合はもとより,そうでない場合についても,基本契約を踏まえて締結される個別公演出演契約をもこれと一体の契約規範として把握した上,労働組合法が制定された趣旨・目的を十分に斟酌しつつ,契約内容の一方的決定の有無,報酬の額・計算方法,拘束時間の多寡・長短及び歌唱技能の提供の対償として得られる収入への依存の程度など諸々の要素を総合的に考慮して,契約メンバーが被控訴人による労働条件の一方的決定を甘受せざるを得ない立場にあるかどうかという観点で判断されるべきである。 -- イ個別公演についての出演義務について被控訴人と契約メンバーとの合意内容が基本契約により包括的に定められていること,債務不履行があった場合の解除及び損害賠償に関する規定,後に追加された虚偽申告等の場合の解除条項等から,基本契約を合理的に解釈すると,契約メンバーに契約上のペナルティが課されるのは個別公演への出演をしなかったとき(この点に関する虚偽申告等をしたときも含まれる。)に限られるというべきであり,これらの契約に関する関係者の認識及び運用ないし実態(取り分け歌唱技能を換価し得る市場の乏しいという状況からしても,契約メンバーは自由に個別公演への出演を辞退することは困難であった。)をも併せ考えると,契約メンバーが個別公演に出演することを自由に辞退し得るということはできないから,基本契約により個別公演への出演が法的義務とされていたものというべきである。 (4) 被控訴人の反論ア控訴人ユニオンの主張について(ア) 控訴人ユニオンは労務提供の諾否の自由の有無が労働者性を判断する基準の要素ではない旨主張するが,労務の提供につき諾否の自由を有しながら労務提供の指示に応じる義務を負わないという場合はおよそあり得ず,それ自体矛盾した主張であるし,同控訴人指摘の最高 性を判断する基準の要素ではない旨主張するが,労務の提供につき諾否の自由を有しながら労務提供の指示に応じる義務を負わないという場合はおよそあり得ず,それ自体矛盾した主張であるし,同控訴人指摘の最高裁判例においても,労務提供の諾否の自由に関する議論は当該使用者の指揮命令の権能ないし当該労働者の従属性の有無の問題として論じられているのであって,上記の点は判示の趣旨を誤解した主張である。 (イ) 控訴人ユニオンは被控訴人の稟議書を根拠に基本契約の法的性質ないし被控訴人の基本契約締結に対する意図ないし目的の存在を基礎づけようとするが,そもそも稟議書は契約メンバーとなる予定者及び一公演当たりの出演報酬額等に関する内部決済の文書にすぎず,同控訴人の上記主張は単なる憶測にすぎない。 -- イ控訴人国の主張について(ア) 個別公演出演契約について併せて検討しても,個別公演ごとに出演契約を締結する外部芸術家の場合との比較等から,契約メンバーにつきその労働者性は認められないというべきである。 (イ) 基本契約に規定された義務は,個別公演出演契約を締結することにより当該契約の内容を構成して初めて意味を持つものであって,個別公演出演契約が締結されない段階においては,基本契約そのものから生じる義務を論じること自体が無意味である。また,控訴人国は,基本契約の契約書における一部の条項を取り上げて法的な個別公演への出演義務を根拠づけようとするが,契約メンバーの「個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及び出演条件等を定めるため,個別公演出演契約を締結する」という契約書上の基本的な条項に反する表層的解釈であって,失当というべきである。 第3当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人らの当審における主張を改めて検討してみても,Aの労働者性はこれを否 する」という契約書上の基本的な条項に反する表層的解釈であって,失当というべきである。 第3当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人らの当審における主張を改めて検討してみても,Aの労働者性はこれを否定するのが相当であって,第1事件における被控訴人の請求は理由があり,第2事件における控訴人ユニオンの請求は失当であると判断する。その理由は,次に付け加えるほかは,おおむね原判決「第3争点に対する判断」(原判決14ページ2行目から17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決14ページ18行目の「この出演契約書」の次に「のうちオペラ公演「蝶々婦人」に係る契約書」を加え,同24行目の「本件公演」を「本公演」に改める。 (2) 同23ページ8行目の「明らかでないし,」の次に「前記ア,イで検討したとおり,少なくとも基本契約についての当事者間の合理的意思解釈としては個別公演出演契約の締結が法的な義務として合意されたものとみることはできな-- い上,」を加える。 (3) 同24ページ8行目の「理由にはならず,」の次に「また,契約メンバーと被控訴人との法律関係は,後に個別公演出演契約が締結される場合を念頭に,基本契約において個々の個別公演出演契約に共通する合意の基本的部分がほぼ網羅的に定められており,個別公演出演契約を締結する際には当該公演に係る日程その他の付加的事項が確認的に合意される程度であるから,むしろ当面は契約メンバーとしては被控訴人に対し当該公演に参加するかどうかの意思を表示しておけばよく,早急に個別公演出演契約に係る契約書面を作成しておかなければならない必要性は決して大きくないのであって,追って正式な個別公演出演契約に関する書面を取り交わすことを予定しつつ,練習参加等の事実行為が先行することは何ら不自然なことで 書面を作成しておかなければならない必要性は決して大きくないのであって,追って正式な個別公演出演契約に関する書面を取り交わすことを予定しつつ,練習参加等の事実行為が先行することは何ら不自然なことでないと考えられることをも併せれば」を加える。 (4) 同25ページ13行目の「集団的舞台芸術であることから生じるもの」を「集団的舞台芸術であるということによって各契約メンバーの債務の本旨及びその履行も自ずと規定されることに起因する不可避の事柄である」に改め,同ページ15行目の末尾の次に行を改め「このように,契約メンバーは,業務の遂行ないし債務の履行に際し,集団的舞台芸術に参加することに由来する制約以外の指揮監督を受けること以外に,場面を問わず被控訴人の指揮監督を受けるということはできない。」を加える。 (5) 同26ページ7行目の「契約の内容が」を「契約の内容を」に改め,同12行目の「(前記(1)キ)が,」の次に「これはAが個別の公演への参加を自ら選択した結果,前述したオペラ公演としての芸術性に由来する制約を受けることになったものであって,」を加える。 控訴人らの補充的主張に対する判断(1) 契約メンバーの労働者性に関する判断基準についてアまず,控訴人ユニオンは,労働者性を判断するに当たり考慮すべき要素と-- しての指揮監督関係というのは,労働力処分権すなわち労働力の配置・利用という意味での指揮命令権能であり,労務提供の諾否の自由等は判断要素として重視されるべきではない旨主張する。使用者と労働者との間の指揮監督関係は,同控訴人の主張するような意味においてもさることながら,労働力の配置がされている状態を前提とした業務遂行上の指揮命令ないし支配監督関係という意味においても用いられるほか,業務従事ないし労務提供の指示等に対する諾否の自 うな意味においてもさることながら,労働力の配置がされている状態を前提とした業務遂行上の指揮命令ないし支配監督関係という意味においても用いられるほか,業務従事ないし労務提供の指示等に対する諾否の自由という趣旨をも包含する多義的な概念であり,労働組合法上の労働者に該当するかどうかの判断に当たり,これらの多義的な要素の一部分だけを取り出して論ずることは相当ではないというべきである。ところで,同控訴人の主張する意味において検討してみても,契約メンバーの歌唱技能という債務の提供はオペラ公演における各メンバーの持ち場(合唱団におけるパート等)が自ずと決まっており,被控訴人が契約メンバーの労働力を事業目的の下に配置利用する裁量の余地があるとは考えられないところである。そして,既に説示のとおり,契約メンバーが個別公演出演契約を締結してひとたび当該オペラ公演に参加することとした場合においては,オペラ公演のもつ集団的舞台芸術性に由来する諸制約が課せられるということ以外には,法的な指揮命令ないし支配監督関係の成立を差し挟む余地はない上,契約メンバーには個別公演出演契約を締結するかどうかの自由すなわち公演ごとの労務提供の諾否の自由があること(後記(2)参照)をも併せ考えれば,契約メンバーが労働組合法上の労働者であるとはいい難いというべきである。 イ次に,控訴人国は,基本契約の内容及び効果のみならず個別公演出演契約を締結した場合の被控訴人と契約メンバーとの間の契約関係を基にして,契約内容の一方的決定の有無,報酬の額・計算方法,拘束時間の多寡・長短及び歌唱技能の提供の対償として得られる収入への依存の程度といった諸要素を総合的に考慮して労働者性の有無を判断すべきものと主張する。しかしな-- がら,既に述べたとおり,契約メンバーが個別公演出演契約を締結す 供の対償として得られる収入への依存の程度といった諸要素を総合的に考慮して労働者性の有無を判断すべきものと主張する。しかしな-- がら,既に述べたとおり,契約メンバーが個別公演出演契約を締結するかどうかの自由を有している本件においては,個別公演出演契約を締結した後に初めて受けることとなる契約上の制約ないし拘束に比して,そのような一つの公演を区切りとした具体的契約関係に入るか否かの判断を契約メンバーが留保していることは格段に大きい要素というべきである(確かに個別の公演における報酬等の条件については被控訴人が一方的に決定しているところではあるが,契約メンバーには被控訴人によって提示されたそのような一義的な条件と被控訴人以外の者が提示する別の条件又は自らソリストとしての音楽活動をすること若しくは教師等としてオペラ公演とは趣の全く異なる職業活動をすることとのいずれを選択するかを判断し得る自由の大きさに比べたとき,いわば契約メンバーに選択肢の一つとして提示するメニューの内容を決定することは相対的に小さな要素であるといわざるを得ない。)上,個別公演出演契約を締結した結果契約メンバーが受けることとなる種々の拘束はいずれも先述したオペラ公演の本質に由来する性質のものであること,契約メンバーの被控訴人からの報酬等に対する収入の依存度といった経済的な側面についてみても,上述のとおり各契約メンバーがその自由な意思で個別公演出演契約の締結を判断する過程で考慮される一要素にすぎないということができることなどを総体的に考慮すれば,基本契約のみならずこれを踏まえて締結される個別公演出演契約によって規律される法律関係を前提とし,労働組合法の制定目的等に照らして被控訴人と契約メンバーとの間の諸々の関係を広く考察してみても,控訴人国が主張するような結論に至るもの 締結される個別公演出演契約によって規律される法律関係を前提とし,労働組合法の制定目的等に照らして被控訴人と契約メンバーとの間の諸々の関係を広く考察してみても,控訴人国が主張するような結論に至るものではない。 (2) 労務提供の諾否の自由についてア既に説示したとおり,契約メンバーが被控訴人との間で基本契約を締結したからといって個々の公演について出演を法的に義務付けられるわけではないのであるが,控訴人国は,基本契約に係る契約書の規定の仕方と関係者の-- 認識及び運用等から個別公演への出演義務が導かれる旨主張するので,改めてこの点につき検討を加える。 控訴人国は,契約メンバーが基本契約を履行しなかった場合(虚偽の申告等を行った場合を含む。)がいかなるケースを想定しているかについて,他の規定及び個別公演出演契約に係る契約書との整合性を図りつつ合理的に解釈すると,契約メンバーが個別公演に出演しなかった場合(個別公演への出演に関する虚偽の申告等を行った場合を含む。)以外には想定できないとすることから,基本契約の締結は個別公演への法的出演義務を包含するというのである。しかしながら,上記の債務不履行に関する条項をみると,いずれのシーズンの契約書においても「法律上の不可抗力によりこの契約又は個別公演出演契約の履行が不可能となった場合には,両当事者は,この契約又は個別公演出演契約上の義務を負わない。」と共通して規定されているところ,まず,このような規定の体裁からは,これがそもそも基本契約の不履行ということに力点を置いて設けられた条項であるかについて疑念が残る(むしろ同規定の力点は個別公演出演契約の不履行の場合に関する規律にあったとみるのが自然ということもできる。)上,個別公演への出演以外に係る事項について,被控訴人においてはスケジュール提示 念が残る(むしろ同規定の力点は個別公演出演契約の不履行の場合に関する規律にあったとみるのが自然ということもできる。)上,個別公演への出演以外に係る事項について,被控訴人においてはスケジュール提示義務・傷害保険契約締結義務等の付随的義務を負担しており,他方,契約メンバーにおいては資料提供義務・稽古欠席等に関する連絡義務等の付随的義務をそれぞれ負担しているため,これらの付随的義務違反も一応債務不履行として問題となり得ることを念頭に置きつつ,個別公演出演契約における固有の不履行のほかに基本契約自体につい不履行についても念のため言及したものと解することも十分可能である。さらに,基本契約によって個別公演への出演義務を謳い込む必要があるのであれば,端的にそのための明示的な義務付条項を設ければ足りるのであるから,控訴人国の上記解釈は,その余の事項に周到な規定を設けている上記契約書全体の構成に照らしても不合理なものといわざるを得ない。し-- かも,控訴人国のような解釈を採ったときには,これらの契約書には共通して「乙(契約メンバー)が「個別公演に出演するに当たり,両当事者は,乙の個別公演への出演を確定し,当該個別公演の出演業務の内容及び出演条件等を定めるために,「個別公演出演契約」を締結する。」と規定されていること,しかも契約書の体裁からして同規定が基本契約全体において枢要な地位を占めている基本的な事項であることと明らかに矛盾することとなってしまう。 以上に加えて,前記認定のとおり,基本契約を締結した契約メンバーが自己都合により個別公演に出演しなかったからといってこれまで法的責任の追及を受けたことはないし,また事実上の不利益を被ったこともない(もっとも,契約メンバーであることは原則としてシーズンを通じて被控訴人の公演に参加することが期待さ ったからといってこれまで法的責任の追及を受けたことはないし,また事実上の不利益を被ったこともない(もっとも,契約メンバーであることは原則としてシーズンを通じて被控訴人の公演に参加することが期待される地位にあるから,次年度以降における基本契約の締結において当該シーズンで個別公演に参加しなかったことが考慮される事情となり得ることはこれを否定することはできないが,それはシーズンを通じて一定水準以上の合唱団員を安定的に確保したい被控訴人が新たなシーズンにおける契約に臨む際に判断要素とするかどうかの問題であって,基本契約から個別公演への出演が法的に義務付けられるかどうかとは別次元の問題というべきである。)という契約関係の運用ないし実態に照らしても,控訴人国の解釈は失当といわざるを得ない。 イなお,控訴人ユニオンは,基本契約締結に当たり被控訴人が作成する稟議書の記載内容から,被控訴人は基本契約の締結により既に契約メンバーがシーズンを通じて稼動することを予定しているのであって,そのことは個別公演への出演義務を基礎づけるゆえんでもある旨主張するが,同文書は,その記載内容及び存在意義からして,これだけの契約メンバーと基本契約を締結することとなれば当該シーズン全体でどれだけの予算が必要かといった観点から作成された文書にすぎないものとみるのが相当であって,上記文書の記-- 載から基本契約の法的性質を直ちにうかがい知ることができるものではない。 同控訴人の上記主張は失当である。 以上によれば,Aは労働組合法上の労働者に該当するものとは認められないというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく控訴人ユニオン及び同国の各主張は失当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所 べきであるから,その余の点について判断するまでもなく控訴人ユニオン及び同国の各主張は失当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第15民事部藤村啓裁判長裁判官岸日出夫裁判官大濱寿美裁判官

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