主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、6443万4741円及びこれに対する平成27年9月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、略称は、別途定めるほかは、原判決の例による。) 1 本件は、ペルー共和国の国籍を有する外国人であるAが埼玉県熊谷市内にお いて連続して敢行した強盗殺人等事件のうち、控訴人の妻及び娘2人を殺害した事件(本件事件)について、控訴人が、被控訴人の管理運営する埼玉県警察において、Aを不審人物と把握し、先行して発生した強盗殺人等事件の犯人もAであるとの嫌疑を有していたにもかかわらず、適時にこれらに関する情報を地域住民に提供すべき義務を怠った結果、本件事件の発生を防ぐことができな かったと主張して、被控訴人に対し、国賠法1条1項による損害賠償請求権に基づき、控訴人の妻及び娘の死亡による損害額の一部である6443万4741円及びこれに対する本件事件発生の日である平成27年9月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、これを不服として控訴をした。 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主張の要旨を加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1から3まで(2頁24行目から19頁 24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 当審における控訴人の主張の要旨を加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1から3まで(2頁24行目から19頁 24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決3頁17行目の「A」を「ペルー共和国の国籍を有する外国人であるA(▲年▲月▲日生。甲36)」に改める。 原判決4頁2行目末尾に「(甲3の5〔1-1から1-5まで〕、3の6〔1-1から1-8まで〕)」を加える。 原判決5頁6行目の「さいたま地方裁判所で、」の後に「B事件、C事件 及び本件事件(以下、併せて「本件各殺人等事件」という。)について、」を加え、同頁8行目の「東京高等裁判所が、Aを心神耗弱者であった」を「東京高等裁判所は、Aが統合失調症の影響により心神耗弱の状態にあった」に改め、同頁10行目の「〔12〕、」の後に「乙13、」を加える。 原判決7頁16行目から17行目にかけての「警察庁刑事局企画課長が各 都道府県警察本部長宛に」を「警察庁生活安全局生活安全企画課長等が警視庁総務部長、各道府県警察(方面)本部長等に宛てて」に改める。 原判決11頁19行目の「警察庁刑事局長が各都道府県警察本部長に」を「警察庁刑事局長等が各都道府県警察の長に」に改める。 3 当審における控訴人の主張の要旨(原審における主張と重複する内容を含 む。) B事件後、逃走したAによる更なる凶悪事件が発生する危険の切迫性は、現場周辺の地域住民に対して発生するものではあるが、その地域には控訴人方も含まれるのであるから、現場周辺の地域で同種の凶悪犯罪が発生する危険が存在していれば、その危険は控訴人やその家族との関係でも存在してい たということができる。 埼玉県警は、Aが9月13日に熊谷署か るから、現場周辺の地域で同種の凶悪犯罪が発生する危険が存在していれば、その危険は控訴人やその家族との関係でも存在してい たということができる。 埼玉県警は、Aが9月13日に熊谷署から逃走したことについて、検証報告書(乙9)で報告しているとおり、財布、パスポート、携帯電話等の所持品を放置したまま突然立ち去るという不審な行動から、Aにおいて何らかのトラブルを引き起こすおそれがあると判断したため、捜査員を増員し、警察 犬を出動させてまでAの捜索活動を行ったのである。各侵入事件は、Aが熊 谷署から逃走してからいずれも約2時間以内に発生しており、時間的近接性が認められるほか、このうち第1侵入事件は熊谷署から約500m、第2侵入事件はその場所から約270mの地点で発生したものであって、場所的近接性も認められるところ、その通報内容から、侵入者は、いずれも外国人であって、その際、金銭を要求していたとされているが、Aは財布を置いたま ま逃走したため金銭に困窮していたことからすれば、各侵入事件に及んだ人物がAである可能性が高いことは、埼玉県警においても把握していたといえる。 そうした中で、翌14日には、第2侵入事件の現場から約1700mしか離れていないB方においてB夫妻が殺害されるという事件(B事件)が発生 したところ、B事件の現場にはアルファベットのような血文字が残されていたこと、犯人はB方敷地内から車両に乗って逃走したとみられるが、B方敷地から出てくる車両を中東系外国人が運転していたという目撃情報が寄せられたことから(中東系と南米系の顔は区別がつきにくいといえる。)、B事件の犯人がAである嫌疑がかなり高まっていた。また、凶器が見つからなか ったことから、犯人は、凶器を所持したまま逃走している可能性が高 ら(中東系と南米系の顔は区別がつきにくいといえる。)、B事件の犯人がAである嫌疑がかなり高まっていた。また、凶器が見つからなか ったことから、犯人は、凶器を所持したまま逃走している可能性が高かったところ、厳重な配備の中でも発見に至らなかったことなどを考えると、凶器を持ったまま付近に潜んでいる可能性が高く、非常に危険な状況であった。 そこで、埼玉県警は、緊急にAから事情を聴取する必要があったため、翌15日午前1時39分頃、AをB事件の参考人として手配した。また、同日 午前中には、第1侵入事件の通報者に対する写真面割捜査を実施した結果、Aが同事件の犯人であることが確定したことから、同日午後にはこの件による逮捕状を請求し、その発付を受けた。 こうした一連の出来事について、全体的な流れを総合的に評価すれば、遅くとも同日正午の時点で、控訴人方を含む周辺地域において再びAによる同種 の凶悪犯罪が発生する具体的な危険性が切迫していたところ、埼玉県警は、 これを認識していたというべきであり、少なくとも認識可能性があったことは明らかである。 埼玉県警は、防犯対策情報の提供措置として、報道機関に対してB事件の発生に関する広報を行ったにすぎないところ、地域住民に対し、警察署から逃走した上で住居侵入に及ぶなど不審な行動を繰り返している外国人がいる こと、その外国人がB事件にも関わっている可能性があり、未だ付近に潜んでいる可能性が高いこと等についても情報提供をしていれば、地域住民の警戒心は遥かに高まったといえる。その方法についても、防災無線を利用するとともに、パトカーで巡回しながらアナウンスをすれば、地域住民も危険な事態が身に迫っていることを覚知することができたのである。したがって、 このような内容及び方法によ ても、防災無線を利用するとともに、パトカーで巡回しながらアナウンスをすれば、地域住民も危険な事態が身に迫っていることを覚知することができたのである。したがって、 このような内容及び方法による情報提供が行われていれば、その後に発生した本件事件を未然に防ぐことができた可能性が高いということができる。 そして、埼玉県警が地域住民に上記の情報提供をしなかったのは、安全確保措置の懈怠に当たるところ、その場合、いわゆる規制権限の不行使とは異なり、権限を行使した場合における被規制者の権利利益についての配慮は不 要であるから、違法性は緩やかに判断されるべきである。他方、防犯対策情報は、全て警察が独占しており、地域住民が自らの力で入手する方法がなく、完全に警察に頼らざるを得ないこと(情報の非対称性)から、埼玉県警が地域住民に対し、こうした情報提供をすべき要請は高いものであった。それにもかかわらず、埼玉県警が上記のとおりAに関する情報を提供しなかったの は、Aの逃走を許してしまったという自らの失態を隠す意図があったからにほかならない。 以上によれば、埼玉県警は、上記の内容及び方法による情報提供をすべき職務上の注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったものであるから、こうした本件不作為は、国賠法上違法であるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実争点に対する判断に当たり認定した事実は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1(19頁26行目から38頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決20頁6行目の「下車すると、」を「下車した(なお、Aは、本件 に係る刑事被告事件において、同駅で下車した理由について、かね 頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 原判決20頁6行目の「下車すると、」を「下車した(なお、Aは、本件 に係る刑事被告事件において、同駅で下車した理由について、かねてから黒いスーツを着た男たちから追われていると感じていたところ、電車内でもこの男たちが自分を探しているため、逃げようと思ったなどと説明した。)。 その後、Aは、」に改め、21頁6行目の「2-10〕」の後に「、乙13」を加える。 原判決21頁26行目の「走り去った」の後に「(なお、Aは、本件に係る刑事被告事件において、その理由について、警察署で、いろいろ調べられるうちに、警察官たちも黒いスーツの男たちとぐるであるかと思い、逃げ出したなどと説明した。)」を、22頁2行目の「2-3まで〕」の後に「、乙13」をそれぞれ加える。 原判決22頁11行目の「見つけてパスポートを返還するよう」を「見つけるよう」に改め、同行目の「〔3〕」の後に「。なお、控訴人は、本件事件に至る経緯に関する同証人の証言には信用性がない旨主張するが、他の証拠及び事実関係との整合性等に鑑み、少なくとも本判決の認定に係る限度において信用性を有すると認められる。」を加え、同頁13行目から14行目にか けての「警察官2名にAのパスポート等を持たせて、」を「警察官2名を」に改める。 原判決23頁16行目の「、伊勢原市」から同頁17行目の「拒まれたこと」までを削り、同頁19行目の「注意し、」から同頁20行目の「返還するよう」までを「注意するよう」に改める。 原判決24頁9行目の「自動車」から同頁10行目の「応答がないため、」 までを「B夫妻保有の自動車(以下「B車両」という。)の運転席に男性が座っているのを見かけたものの、Dであろうと思 原判決24頁9行目の「自動車」から同頁10行目の「応答がないため、」 までを「B夫妻保有の自動車(以下「B車両」という。)の運転席に男性が座っているのを見かけたものの、Dであろうと思い、特に気に留めることもなく、玄関前でEを呼んだが、応答がなかった。そこで、同人は、」に改め、同頁12行目の「ところ」の後に「(その時には敷地内にB車両はなくなっていた。)」を、同頁15行目の「甲2の2、」の後に「3の7、」をそれ ぞれ加える。 原判決25頁11行目の「B夫妻」から同頁12行目の「という。)」までを「B車両」に改める。 原判決26頁22行目の「B方付近」から同頁23行目の「寄せられた(」までを「B方敷地から車道に出てきた車両を外国人風の男性が運転していた との目撃情報が寄せられた(甲2の5、」に改める。 原判決30頁15行目の「請求した。」を「請求し、その発付を受けた。」に改める。 原判決30頁23行目末尾に「なお、Aが上記の際に所持していた金銭は、B事件の際に奪ったものであるとみられる(乙13)。」を加える。 原判決32頁21行目の「などが報じられた。」を「などを報じた。」に改める。 原判決33頁19行目の「その際、」から同頁21行目の「漏らしていた。」までを削る。 原判決38頁4行目末尾に、改行して、次のとおり加える。 「刑事裁判における認定事実本件各殺人等事件は、いずれもAが民家に侵入した上で被害者を包丁で突き刺すなどして殺害したというものであったところ、Aは、取調べや鑑定人面接の際、いずれの犯行についても覚えていない旨述べていたが、第一審においては、趣旨不明の供述が大半であったものの、殺害を認めつつ責 任を否定することをほのめかす供述もしていた。しかし 鑑定人面接の際、いずれの犯行についても覚えていない旨述べていたが、第一審においては、趣旨不明の供述が大半であったものの、殺害を認めつつ責 任を否定することをほのめかす供述もしていた。しかしながら、その控訴審 において、Aは、熊谷署に所持金や携帯電話等を置いたまま逃走したため、着の身着のままとなったが、統合失調症による妄想から警察に保護を求められず、見知らぬ土地で連絡手段を失うなど、行き詰った状態となったところ、B事件において、現金、包丁、自動車等を奪い、これらをその後の逃走や犯行に使用していたことなどからすると、本件各殺人等事件におい て民家への侵入を繰り返した目的は、逃走継続に必要な金品を入手することにあったと認定された(乙13)。」 2 争点1(埼玉県警の義務違反)について 犯罪情報の提供の不作為の違法性に関する判断枠組みについては、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の2(38頁6行目から 39頁22行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 前記認定事実のとおり、埼玉県警は、B事件について、その発生当日である9月14日の深夜には、事件の概要について報道発表をするとともに、緊急配備をしたものの被疑者を確保することができなかったことから、犯人がまだ現場周辺の地域に潜んでいる可能性があると考え、翌15日には、熊谷 市教育委員会に対し、近隣の学校における登下校時の見守りや保護者に対する通知など児童の安全確保のための方策を実施するよう要請したほか、機動隊を動員して現場周辺での凶器や遺留品の探索、地域住民への聞き込み等を行う一方、報道機関に対し、被疑者は不明であって凶器も未発見であることなどを発表する措置を講じたものである。 しかるに、本件では、埼玉県 周辺での凶器や遺留品の探索、地域住民への聞き込み等を行う一方、報道機関に対し、被疑者は不明であって凶器も未発見であることなどを発表する措置を講じたものである。 しかるに、本件では、埼玉県警において、B事件の犯人によって現場周辺の地域において同種の犯罪が繰り返されることによる被害を防止するために、上記の措置では足りず、更に進んで、地域住民に対し、①㋐B事件発生の前日に熊谷署に同行した外国人が同署から逃走し、その直後に付近で住居侵入事件を繰り返していたところ、当該外国人がB事件の犯人である可能性が高 いこと、又はB事件について事情を知っていると思われる外国人がその前 日に同署から逃走し、その後に当該外国人による住居侵入事件が発生していること等について情報提供をするとともに(㋐は主位的主張に係るもの、は予備的主張に係るものである。)、未だその犯人が周辺地域に潜んでいる可能性があるため、戸締りの確認をするとともに不要不急の外出を控えるよう呼びかけるべき義務があったか否か、また、②その方法として、熊谷市に 対して防災無線によるアナウンスをするよう要請するとともに、パトカーの巡回によるアナウンスをするなどして、繰り返しこうした広報活動をすべき義務があったか否かが争われている。 そこで、以下、上記の判断枠組みに従って、この点について検討する。 まず、加害行為の危険の切迫性についてみると、前記認定に係る本件の経 過によれば、Aは、9月13日、前橋駅から乗車した電車内で、スーツを着た男たちに追われているとの妄想から、予定していなかった籠原駅で下車し、警察による保護を求めていたところ、その後、消防署員の通報により臨場した警察官によって熊谷署に連れられたものの、警察官もぐるであるという妄想から、突然同署から逃走し 定していなかった籠原駅で下車し、警察による保護を求めていたところ、その後、消防署員の通報により臨場した警察官によって熊谷署に連れられたものの、警察官もぐるであるという妄想から、突然同署から逃走したものと認められ、財布、携帯電話等の所持品 を置いたまま逃走したため、金銭に窮するとともに、見知らぬ土地で連絡手段を失うなど、行き詰った状態となっていたとみられる。実際、Aは、その直後に及んだ各侵入事件の際には、金銭を要求するような言動がみられたところ、翌14日には、金品奪取の目的で、B方に侵入した上で、B夫妻を殺害するとともに、現金9000円等を強奪したものである。その後、Aは、 B方で奪った刃物を所持したまま逃走し、警察による緊急配備の網にも掛からず、翌15日未明には周辺地域にあるコンビニエンスストアにおいて、B方で奪った現金で買物をしようとしていたことが後に確認されており、そのまま周辺地域に潜伏していたものとみられる。そうした状況の下、Aは、同日から翌16日にかけて立て続けにC事件及び本件事件に及んだところ、そ の手口は、B事件と同様、逃走を継続するための金品を奪取する目的で民家 に侵入した上、居住者を刃物で殺害するというものであった。 以上の事実関係によると、B事件発生後の9月15日正午の時点で、Aが再び現場周辺の地域において、B事件と同種の凶悪犯罪に及ぶ危険性が切迫していたものということができる。そして、ここでいう危険の切迫性は、埼玉県警が控訴人(家族であるFらを含む趣旨である。)に対して負う法的な 義務を認める前提として必要となる事実であるから、控訴人との関係で当該危険の切迫性があったか否かを判断すべきことになるが、上記の危険性が認められる現場周辺の地域は限られるところ、Aの一連の犯行は、当該地域内 める前提として必要となる事実であるから、控訴人との関係で当該危険の切迫性があったか否かを判断すべきことになるが、上記の危険性が認められる現場周辺の地域は限られるところ、Aの一連の犯行は、当該地域内で無差別に敢行されたというべきことからすると、当該地域内において上記危険の切迫性が存在したことをもって、その危険の切迫性は当該地域に居住 する控訴人との関係でも存在していたということができる。 次に、9月15日正午の時点で、上記のとおり認められる危険の切迫性について、埼玉県警が、これを認識し、又は認識し得たということができるかどうかについて、以下検討する。 ア AがB事件の犯人であることについての認識又は認識可能性についてみ ると、前記認定に係る本件の経過によれば、埼玉県警は、検証報告書(乙9)で報告しているとおり、9月13日にAを熊谷署に同行した際、Aが財布や携帯電話、パスポート等の所持品を置いたまま同署から突然立ち去ったのは、不審な行為であって、何らかのトラブルを引き起こすおそれがあると判断したことから、捜査員を動員し、警察犬も出動させるなどして Aの捜索活動を行ったものと認められる。また、それから間もなく同署の付近で起きた各侵入事件についても、その時間的及び場所的近接性や侵入者が外国人である等の通報内容から、Aがこれらを敢行したものであると疑わせるものであったところ、G署長も、各侵入事件の報告を受けた際、その可能性を疑っていたのである。 こうした状況の下、埼玉県警は、翌14日にB事件の通報を受けたので あるが、G署長がB方の現場に残された血文字用の血痕を見た際、Aの母国語であるスペイン語の可能性を考え、スペイン語等の分かる警察官による解読作業が行われたほか、当日夜に行われた捜 たので あるが、G署長がB方の現場に残された血文字用の血痕を見た際、Aの母国語であるスペイン語の可能性を考え、スペイン語等の分かる警察官による解読作業が行われたほか、当日夜に行われた捜査会議でも、Aが話題に上がり、翌15日午前1時39分にはAをB事件の参考人として全国手配しただけでなく、第1侵入事件について、同日午前中には通報者に対する 写真面割捜査を実施した結果、当該外国人がAであると特定されたことから、同日午後にはこの件による逮捕状を請求し、その発付を受けている。 このように、埼玉県警においては、当初からAがB事件の被疑者となる可能性も念頭に置いて、軽微である第1侵入事件について逮捕状の発付を受けてでもAの身柄を確保し、事情聴取を行う必要性があると考えていたの であって、B事件の捜査において、Aに対し、強い関心を有していたことを否定することはできない。 もっとも、埼玉県警は、B事件について、その認知直後から緊急配備を行ったものの、被疑者を確保することはできなかったところ、9月15日正午の時点で判明していた犯行と被疑者とを結びつける手掛かりとして は、①上記のとおりB方現場に外国語のようにも読める血痕が残されていたため、解読作業が行われたものの、結局、言語の判別には至らなったこと、②事件直後にB方から持ち去られたB車両がB方付近で発見されたが、その車内からは血液の付着したティッシュペーパーが発見されたのみで、犯人のものと思われる遺留品は見つからなかったこと、③B事件の発生時 刻の前後にB方敷地から出てきた車両を外国人が運転しているという目撃情報があったものの、その内容は当該外国人を直ちに特定できるものではなかったこと(甲2の5)などであり、このような断片的な捜査情報をもって被疑者を特定の人 てきた車両を外国人が運転しているという目撃情報があったものの、その内容は当該外国人を直ちに特定できるものではなかったこと(甲2の5)などであり、このような断片的な捜査情報をもって被疑者を特定の人物に絞ることは困難であったといわざるを得ない。 これに対し、控訴人は、上記血文字及び目撃情報に加え、Aが9月13 日に熊谷署から逃走し、その直後に付近でAによるものとみられる各侵入 事件が立て続けに発生していたことからすれば、B事件の犯人がAであると想定することができた旨主張する。しかし、Aが熊谷署から逃走したことから何らかのトラブルを引き起こすおそれがあったとしても、各侵入事件がいずれも敷地内や物置に立ち入ったにとどまる軽微なものであったことに照らせば、そのおそれは具体的なものではなく、上記のような捜査情報 のみから、これらを直ちにB事件のような重大な凶悪犯罪と結び付けて一連のものと評価することは困難であり、その段階で、これを前提とした捜査を全面的に進めることができる状況にはなかったというべきである。 そうすると、埼玉県警が、上記のとおりAに対して強い関心を有していたのは、G署長らが説明するように、この時点までに入手していた情報の 中で、唯一捜査線上に浮かんでいた外国人が、事件の前日に熊谷署を立ち去ったAであり、B事件の発生直後に、B夫妻の息子の所在確認をして関与の可能性を排除したのと同様に、Aについても、その足取りを確認することで、B事件との関わりの有無を判定しようとしたからにとどまるのであり、この段階において、Aに具体的な嫌疑をかけることができる状況には なかったものとみるのが相当である。 以上によれば、埼玉県警は、9月15日正午の時点で、B事件の犯人がAであると認識していたとはいえず、また、これを認 体的な嫌疑をかけることができる状況には なかったものとみるのが相当である。 以上によれば、埼玉県警は、9月15日正午の時点で、B事件の犯人がAであると認識していたとはいえず、また、これを認識することができたということはできない。 イ他方、B事件と同様の凶悪事件が連続発生することの認識又は認識可能 性があったか否かについてみると、B事件のように民家に侵入した上で居住者を殺害するという犯行は、屋外における無差別的な犯行と異なり、通常、周辺地域において連続発生する蓋然性の高い類型の犯罪といえないところ、B事件について、上記のとおり9月15日正午の時点では未だ被疑者を特定の人物に絞り、それを中心とした捜査を進めることができる状況 にはなかったことも踏まえると、埼玉県警において、同種犯罪が連続発生 することを具体的に認識し、又は認識し得たということはできない。 これに対し、控訴人は、平成27年10月通達において、重要凶悪事件が発生した場合には連続発生の可能性を常に考慮すべきであるとされているところ、これは本件においても変わるところはないから、埼玉県警において、上記時点で同種犯罪が連続して発生する可能性を認識することがで きたと主張する。しかし、この通達の趣旨は、重要凶悪事件が発生した場合には、連続発生の可能性を排除せずに予断なく捜査に臨むべきであるという基本姿勢を訓示したものであって、常に同種犯罪が連続して発生する可能性を考慮して、地域住民に対し、それを前提とした情報提供をすべき旨を定めたものと解することはできない。 また、控訴人は、埼玉県警が連続発生の可能性を認識していたからこそ、近隣の小学校での見守り活動等を要請したものであると主張するが、この点については、犯人が凶器を持ったまま逃 はできない。 また、控訴人は、埼玉県警が連続発生の可能性を認識していたからこそ、近隣の小学校での見守り活動等を要請したものであると主張するが、この点については、犯人が凶器を持ったまま逃走している可能性があることから、万が一、登下校中の児童が凶器を持って逃走中の犯人と遭遇した場合を想定して、このような要請がされたと認められ(証人G〔53〕)、B 事件と同種犯罪、すなわち逃走中の犯人がなおも民家に侵入した上で居住者を殺害するという犯罪が繰り返される具体的な危険を認識していたことを示す事情であるとはいえない。 以上検討したとおり、本件の経過を客観的、事後的にみると、B事件発生後の9月15日正午の時点において、Aが周辺地域で同種の凶悪犯罪に及ぶ 危険性が切迫していたとしても、埼玉県警において、その時点で把握していた捜査情報からは、AがB事件の犯人であって、かつ周辺地域で同種の凶悪犯罪が繰り返されるおそれがあることを具体的に認識し、又は認識し得たということはできない以上、地域住民に対し、これを前提とした情報提供や注意の呼びかけをすることについて、結果回避の可能性や権限行使の容易性を 判断するまでもなく、このような措置を講ずべき法的な義務があったという ことはできない。控訴人において埼玉県警が提供すべきであったと主張する情報のうち、主位的主張に係るものは、9月13日に熊谷警察署から逃走した外国人、すなわちAがB事件の犯人であることを内容とするものであり、予備的主張に係るものも、情報の受け手に当該外国人がB事件の犯人であると理解させるものであって、上記の点からすると、いずれもこのような情報 を提供すべき職務上の注意義務があったということはできないし、同種犯罪の連続発生のおそれに関する注意事項と 事件の犯人であると理解させるものであって、上記の点からすると、いずれもこのような情報 を提供すべき職務上の注意義務があったということはできないし、同種犯罪の連続発生のおそれに関する注意事項として戸締りの確認や不要不急の外出の自粛を呼びかけるべき職務上の注意義務があったということもできない。 アこれに対し、控訴人は、当審において、本件のような安全確保措置の懈怠の場合は、規制権限不行使のように権限を行使した場合における被規制 者の権利利益についての配慮は不要であることから、違法性の判断は緩やかにすべきであり、また、防犯対策情報は警察が独占しており、こうした情報の非対称性から、警察が地域住民に対し情報を提供すべき要請は高い旨主張するところ、その趣旨は、上記のとおり埼玉県警においてB事件とAを直接結び付ける情報が得られていない段階であっても、その前日にお けるAの不審な行動に加え、外国人による犯罪を疑わせる現場の痕跡や目撃情報等から、その犯人がAである可能性が存在する以上、地域住民に対し、これらに関する情報を提供すべき義務があった旨主張するものと解される。 イしかし、重大凶悪事件が発生した場合、警察は、その犯罪捜査のみなら ず、当該犯人による同種の犯罪が繰り返されることによる被害の発生を未然に防止する責務があるとしても、ある人物について未だ参考人となる程度の疑いしか存在しない段階で、当該人物に関する情報を地域住民に提供することについては、本来密行性が求められる捜査の遂行に及ぼす影響を考慮しなければならないことはもとより、当該人物の人権上の問題にも配 慮を要するのであり(たとえ氏名等の個人情報を伏せたとしても、当該人物 の特徴を公開する場合には同様の問題が生じ得ることに変わりはない。) とはもとより、当該人物の人権上の問題にも配 慮を要するのであり(たとえ氏名等の個人情報を伏せたとしても、当該人物 の特徴を公開する場合には同様の問題が生じ得ることに変わりはない。)、他方、本件のように前日に警察署から逃走した外国人が犯人である可能性が高い旨の情報を地域住民に提供することについては、当該外国人の人権に配慮して本人であると特定されない方法で公表したとしても、当該地域に居住し、又は滞在する他の外国人に対して及ぼす影響も懸念されるとこ ろである。また、犯人が凶器を持ったまま逃走した可能性があるとしても、当該地域で同種犯罪が連続して発生するおそれがあるか明らかでない状況の下で、地域住民に対し、そのおそれがあることを前提とした注意の呼びかけをすることは、地域住民の社会生活に少なからぬ影響を及ぼすことにもなりかねない。 ウそうすると、控訴人の主張する点を踏まえても、重大事件発生初期の段階において、警察が時々刻々と変化する捜査の状況に応じて、上記のような諸事情を考慮しながら、地域住民の防犯等のため、どの時点でどの程度の情報を提供するかについては、基本的にその裁量に委ねられているといわざるを得ない。本件においても、上記のとおり、埼玉県警は、B事件発 生後、Aが参考人として捜査線上に浮かんでいたとはいえ、未だ事件と結び付けるだけの情報が得られていなかったことから、地域住民に対し、Aに関する情報は提供していなかったものの、犯人が凶器を持ったまま逃走しているとみられ、周辺地域に潜んでいる可能性も否定し得なかったことから、熊谷市教育委員会に対し、近隣の学校における児童の安全確保のた めの方策を実施するよう要請したほか、機動隊を動員して現場周辺での警戒や探索に当たるとともに、報道機関を通じて、事件の ことから、熊谷市教育委員会に対し、近隣の学校における児童の安全確保のた めの方策を実施するよう要請したほか、機動隊を動員して現場周辺での警戒や探索に当たるとともに、報道機関を通じて、事件の概要のほか、被疑者が不明であって凶器も未発見であること、周辺の警戒や探索に当たっていることなどを発表していたのであり、これらの情報に接した地域住民においても、当該事件が必ずしも身内や知人間で発生したものではなく、警 戒を要する状況にあることを理解することができるものであったというこ とができる。 エこの点について、控訴人は、埼玉県警がAに関する情報を提供しなかったのは、事件発生の前日、熊谷署に同行したAについて同署からの逃走を許してしまったという自らの失態を隠す意図があったからにほかならないと主張する。 しかし、前記認定事実によれば、当初交番勤務の警察官が熊谷署までAを同行したのは、日本語に通じないAが警察の保護を求めていたからであって、H方の玄関前で立っていたことについて住居侵入として通報されていたわけではなく、その時点で具体的な犯罪の嫌疑もなかったことから、その際にAが所持品を置いたまま突然立ち去ることを予見することはできな かったと認められるのであり、それ自体を警察の失態というのは事後的な評価にすぎないといえるのであって、埼玉県警が専らこれを隠蔽するためにAに関する情報提供をしなかったという控訴人の上記主張は、前提を欠くものといわざるを得ない。 オ以上によれば、埼玉県警が、地域住民に対し、控訴人が主張するような 情報提供や注意の呼びかけをしなかったことについて、直ちに裁量権の逸脱、濫用があったということはできず、この点について職務上の注意義務違反がなかったという上記判断が左右されるものではな うな 情報提供や注意の呼びかけをしなかったことについて、直ちに裁量権の逸脱、濫用があったということはできず、この点について職務上の注意義務違反がなかったという上記判断が左右されるものではない。 さらに、控訴人は、埼玉県警の地域住民に対する情報提供の方法として、報道発表のみならず、熊谷市に対して防災無線によるアナウンスをするよう 要請するとともに、パトカーの巡回によるアナウンスをするなどの広報活動をすべき義務があった旨主張する。 しかし、埼玉県警において、控訴人が主張するような内容の情報提供をすべき職務上の注意義務があったと認められないことは上記判断のとおりであるから、その方法を問わず、この点について不作為による違法の問題は生じ ない。 また、控訴人の上記主張が、埼玉県警が報道機関に対して発表した内容について、上記の方法によっても繰り返し情報提供をすべき義務があったという趣旨を含むと解するとしても、このうち防災無線によるアナウンスについては、本件事件を受けて作成された検証報告書においてその使用について言及されているものの、当時、殺人事件に関する情報提供の方法として使用さ れた実績はなかったものとうかがわれ、また、パトカーの巡回によるアナウンスについても、大規模な捜査活動が行われる中で、その使用台数や人員が限られていることからすると、新聞やテレビ番組等の報道機関を通じた情報提供に加えて、このような方法による広報活動を行うべき法的な義務があったということはできない。 加えて、前記認定事実によると、そもそもFは、娘であるI及びJから、B事件について、通学先の小学校が熊谷署から教育委員会を通じて提供を受けた情報を基に作成した注意喚起の文書を受け取り、同文書や報道内容から、B事 定事実によると、そもそもFは、娘であるI及びJから、B事件について、通学先の小学校が熊谷署から教育委員会を通じて提供を受けた情報を基に作成した注意喚起の文書を受け取り、同文書や報道内容から、B事件の犯人が未だ検挙されておらず、警戒を要する状況にあることを認識していたものと認められるのであって、重ねて上記のような方法による広報 活動が行われたとしても、直ちに本件事件の発生という結果を左右するものであったとはいい難い。 以上によれば、埼玉県警において、控訴人が主張するような方法によりB事件に関する広報活動を行うべき義務があったということはできない。 原判決も指摘するとおり、本件事件によって突如として最愛の家族を奪わ れた控訴人の無念さは察するに余りあるところ、埼玉県警は、本件事件の対応について、市民から強い批判を受けたことを踏まえ、これを検証した結果を検証報告書にまとめ、反省点や改善すべき点を公表しているが、そうした経過に照らしても、控訴人が本件に関する埼玉県警の対応に疑問と不信感を抱いたことには無理からぬものがある。しかしながら、以上検討したとおり、 埼玉県警において、B事件の情報提供について、その当時の捜査状況等に照 らし、裁量権を逸脱、濫用する不作為として法的義務違反があったとまで認めるのは困難であるから、この点について国賠法上の違法があったということはできない。 3 以上によれば、控訴人の請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であり、 本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官森英明 本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 主文 東京高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官 森英明 裁判官 井出弘隆 裁判官 西村真人は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 森英明
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